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特許7545681赤潮防除剤、赤潮防除剤の製造装置、赤潮防除剤の製造方法及び赤潮防除方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】赤潮防除剤、赤潮防除剤の製造装置、赤潮防除剤の製造方法及び赤潮防除方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/04 20060101AFI20240829BHJP
   A01N 59/06 20060101ALI20240829BHJP
   A01N 61/00 20060101ALI20240829BHJP
   A01N 25/04 20060101ALI20240829BHJP
   A01N 25/16 20060101ALI20240829BHJP
   A01P 13/00 20060101ALI20240829BHJP
   C02F 1/00 20230101ALI20240829BHJP
【FI】
A01N59/04
A01N59/06 Z
A01N61/00 B
A01N25/04 102
A01N25/16
A01P13/00
C02F1/00 U
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020092851
(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公開番号】P2021187764
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591155242
【氏名又は名称】鹿児島県
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【弁理士】
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】五島 崇
(72)【発明者】
【氏名】吉満 敏
(72)【発明者】
【氏名】高杉 朋孝
(72)【発明者】
【氏名】宮田 翔也
(72)【発明者】
【氏名】森島 義明
(72)【発明者】
【氏名】西 広海
【審査官】石田 傑
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-197393(JP,U)
【文献】国際公開第1991/011392(WO,A1)
【文献】特開2007-238551(JP,A)
【文献】特開2016-120445(JP,A)
【文献】赤潮被害を防ぐために!,うしお,Vol.352,鹿児島県水産技術開発センター,2017年,pp.1-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過飽和の二酸化炭素を含有する液体と、
前記液体に含まれるプランクトン除去剤と、
前記プランクトン除去剤の凝集を抑制し、前記プランクトン除去剤とプランクトンとのフロックを形成させる、前記液体中のファインバブルと、
を含む、赤潮防除剤。
【請求項2】
前記ファインバブルは、
二酸化炭素を含
請求項1に記載の赤潮防除剤。
【請求項3】
前記プランクトン除去剤は、
モンモリロナイト系粘土と、硫酸カリウムアルミニウムの無水物と、を含む、
請求項1又は2に記載の赤潮防除剤。
【請求項4】
前記液体中の前記モンモリロナイト系粘土と前記硫酸カリウムアルミニウムの無水物との濃度比は、
10:1である、
請求項3に記載の赤潮防除剤。
【請求項5】
プランクトン除去剤を含む液体に二酸化炭素を含むファインバブルを生成し、前記液体に過飽和の二酸化炭素を含有させる気泡生成部を備える、
赤潮防除剤の製造装置。
【請求項6】
プランクトン除去剤を含む液体に二酸化炭素を含むファインバブルを生成し、前記液体に過飽和の二酸化炭素を含有させる気泡生成ステップを含む、
赤潮防除剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか一項に記載の赤潮防除剤を、海面又は海中に散布する散布ステップを含む、
赤潮防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤潮防除剤、赤潮防除剤の製造装置、赤潮防除剤の製造方法及び赤潮防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
養殖海域では赤潮の原因となるシャットネラ等のプランクトンが異常に増殖することがある。プランクトンの異常増殖によって、海水の溶存酸素濃度が低下するうえ、プランクトンがエラに詰まることで魚が物理的に窒息することがある。プランクトンの異常増殖がもたらす魚介類への影響は大きく、漁業、特に養殖現場で大きな被害が出る。
【0003】
赤潮を防除するために、種々の赤潮防除剤が開発されている。例えば、特許文献1には、アルカリ土類金属の珪酸塩を有効成分とする赤潮防除剤が開示されている。また、非特許文献1には、モンモリロナイト系粘土に焼きミョウバンを添加することで、粘土あたりのシャットネラに対する防除効果が向上することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-187807号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】矢野、“赤潮被害を防ぐために!”、うしお、鹿児島県水産技術開発センター、2017年3月、第352号、p1-2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載されたように、赤潮防除剤は改良されてきているものの、現状では、漁業の被害を抑制するために大量の赤潮防除剤が必要となる。赤潮抑制のコストを軽減するためにもプランクトンを効率よく除去できる赤潮防除剤が求められている。
【0007】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、プランクトンを効率よく除去できる赤潮防除剤、赤潮防除剤の製造装置、赤潮防除剤の製造方法及び赤潮防除方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、従来の赤潮防除剤が海水中で凝集する傾向があることに着目し、鋭意研究を重ねた。本発明者は、ファインバブルを応用することでプランクトン除去剤によるプランクトン防除能が飛躍的に向上することを見いだし、本発明を完成させた。
【0009】
本発明の第1の観点に係る赤潮防除剤は、
過飽和の二酸化炭素を含有する液体と、
前記液体に含まれるプランクトン除去剤と、
前記プランクトン除去剤の凝集を抑制し、前記プランクトン除去剤とプランクトンとのフロックを形成させる、前記液体中のファインバブルと、
を含む。
【0010】
この場合、前記ファインバブルは、
二酸化炭素を含
こととしてもよい。
【0011】
また、前記プランクトン除去剤は、
モンモリロナイト系粘土と、硫酸カリウムアルミニウムの無水物と、を含む、
こととしてもよい。
【0012】
また、前記液体中の前記モンモリロナイト系粘土と前記硫酸カリウムアルミニウムの無水物との濃度比は、
10:1である、
こととしてもよい。
【0013】
本発明の第2の観点に係る赤潮防除剤の製造装置は、
プランクトン除去剤を含む液体に二酸化炭素を含むファインバブルを生成し、前記液体に過飽和の二酸化炭素を含有させる気泡生成部を備える。
【0014】
本発明の第3の観点に係る赤潮防除剤の製造方法は、
プランクトン除去剤を含む液体に二酸化炭素を含むファインバブルを生成し、前記液体に過飽和の二酸化炭素を含有させる気泡生成ステップを含む。
【0015】
本発明の第4の観点に係る赤潮防除方法は、
上記本発明の第1の観点に係る赤潮防除剤を、海面又は海中に散布する散布ステップを含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、プランクトンを効率よく除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態に係る赤潮防除剤製造装置の構成を示す模式図である。
図2】絞り部及びその前後を示す模式図である。
図3】気泡生成部の構成と気泡生成部から排出されるファインバブルの様子を示す図である。
図4】プランクトン除去剤を溶いた滅菌海水を示す図である。
図5】プランクトン除去剤を溶き、ファインバブルを発生させた滅菌海水を示す図である。
図6】実施例1で観察されたシャットネラの外観を示す図である。
図7】比較例で観察されたシャットネラの外観を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本発明は下記の実施の形態及び図面によって限定されるものではない。
【0019】
(実施の形態)
本実施の形態に係る赤潮防除剤は、液体に含まれるプランクトン除去剤と、当該液体中のファインバブルと、を含む。液体は、プランクトン除去剤の効果に影響がないものであれば特に限定されない。当該赤潮防除剤は主に海に散布されるため、環境への影響を考慮すると、液体としては水又は海水が好ましい。
【0020】
プランクトン除去剤としては、赤潮の原因となるプランクトンに対して成長阻害、増殖抑制及び死滅等の効果を有する公知のものが利用できる。例えば、プランクトン除去剤はアルミニウム(Al)を含有する粘土を含む。粘土を海水に散布すると、海水のpHが下がり、粘土からAlイオンが溶出する。Alイオンによって、プランクトンの細胞が破壊される。粘土は、例えば、モンモリロナイト系粘土、活性白土、酸性白土、ベントナイトA及びベントナイトB等である。粘土としては、モンモリロナイト系粘土が特に好ましい。モンモリロナイト系粘土は、珪酸アルミニウムを主成分とする。より具体的には、モンモリロナイト系粘土は、鹿児島県薩摩川内市入来町で産出されるモンモリロナイトである。当該モンモリロナイトは、SiO、Al、Fe、CaO、MgO、KO及びNaO等を含む。
【0021】
プランクトン除去剤は、粘土からのAlイオンの溶出を促進させる物質を含有してもよい。当該物質として硫酸カリウムアルミニウム、特にその無水物が挙げられる。好ましくは、プランクトン除去剤は、モンモリロナイト系粘土と、硫酸カリウムアルミニウムの無水物と、を含む。硫酸カリウムアルミニウムは、カリウムイオン、水和アルミニウムイオン及び硫酸イオンを含む複塩である。硫酸カリウムアルミニウムはカリミョウバンとも言われる。硫酸カリウムアルミニウムの無水物は、強酸性であって、焼きミョウバンとも言われる。
【0022】
本実施の形態に係る赤潮防除剤におけるプランクトン除去剤の濃度は、特に限定されない。例えば液体中のプランクトン除去剤の濃度は、10~10000mg/L、100~5000mg/L、150~3000mg/L、200~2000mg/L又は250~1500mg/Lである。プランクトン除去剤がモンモリロナイト系粘土と、硫酸カリウムアルミニウムの無水物と、を含む場合、液体におけるモンモリロナイト系粘土の濃度は、例えば、100~2000mg/L、150~1500mg/L、200~1200mg/L又は250~1000mg/Lである。一方、液体における硫酸カリウムアルミニウムの無水物の濃度は、例えば、10~200mg/L、15~150mg/L、20~120mg/L又は25~100mg/Lである。
【0023】
本実施の形態に係る赤潮防除剤が、プランクトン除去剤としてモンモリロナイト系粘土及び硫酸カリウムアルミニウムの無水物を含む場合、液体中のモンモリロナイト系粘土と硫酸カリウムアルミニウムの無水物との濃度比は、適宜調整されるが例えば、1~100:1、2~80:1、3~60:1、4~40:1又は5~20:1である。モンモリロナイト系粘土と硫酸カリウムアルミニウムの無水物との濃度比は、好ましくは8~12:1、特に好ましくは10:1である。
【0024】
本実施の形態に係る赤潮防除剤の使用量は、特に限定されない。赤潮防除剤を海面又は海中に散布する場合、赤潮防除剤を散布する海面の面積等に応じて適宜設定される。
【0025】
ファインバブルは、上述のプランクトン除去剤の凝集を抑制する。ファインバブルは、直径100μm以下の微細な気泡である。ファインバブルは、直径1μm未満の気泡であるウルトラファインバブルを含んでもよい。ファインバブルの生成方法は限定されず、任意の生成方法が利用できる。ファインバブルの生成方法としては、気体を多孔質膜に通してファインバブルを生成させる方法及び超音波を介してファインバブルを生成させる方法に加え、せん断流を用いる方法及び加圧溶解を用いる方法等がある。
【0026】
本実施の形態に係る赤潮防除剤の製造に好適な赤潮防除剤製造装置(以下、単に“製造装置”ともいう)1について説明する。図1は製造装置1の構成を示す。製造装置1は、プランクトン除去剤2を含む海水3が入れられた水槽4内にファインバブル5を発生させる装置である。製造装置1は、配管6と、ポンプ7と、気泡生成部8と、を備える。
【0027】
配管6の一端は、水槽4の海水3中に配置されている。配管6は、水槽4の内部から外部に延びて、再び水槽4内に戻る循環構造となっている。水槽4の外部において、配管6には、ポンプ7が挿入されている。ポンプ7は液体ポンプである。ポンプ7の駆動により、水槽4内の海水3は、配管6内部に吸引され、ポンプ7を経て再び水槽4内に戻るようになっている。ポンプ7としては市販のものを用いることができる。配管6におけるポンプ7の1次側には、配管6内に空気を取り込むためのガス導入口9が設けられている。
【0028】
ポンプ7のポンプ圧は、特に限定されないが、1.0MPa未満のポンプ圧、例えば、0.2~0.8MPa、0.3~0.6MPa又は0.3~0.5MPaであってもよい。プランクトン除去剤2を含む海水3がポンプ7に吸引される際に、その吸引力(ポンプ7の1次側に生じる負圧)により、外部から気体がガス導入口9を介して入り込んで海水3と混合するようになる。したがって、ポンプ7から配管6に流れる海水3(ポンプ7の2次側の海水3)には気体成分が含まれるようになる。
【0029】
気泡生成部8は、海水3にファインバブル5を生成する。気泡生成部8は、配管6の他端、すなわち海水3の排出部に取り付けられており、水槽4中にファインバブル5及びプランクトン除去剤2を含む海水3を吐出する。気泡生成部8は、複数の金属細管10が並列に束ねられた構造を有する。金属細管10同士の間は、各金属細管10の両端を開放した状態で、バインダー部材11により封止されている。配管6の他端を出た海水3は、気泡生成部8の金属細管10のいずれかの内部を通って水槽4に吐出される。
【0030】
金属細管10には、図2に示す扁平となった部分である絞り部12が、複数の場所に設けられている。絞り部12において、海水3の流れ方向に直交する面で金属細管10を切断した断面が扁平な形状(矩形状)となっている。絞り部12はプレスによって金属細管10に形成される。
【0031】
ファインバブル5は、以下に示す4つの作用により、絞り部12で発生する。
【0032】
(1)圧送による加圧溶解
ポンプ7のポンプ圧による圧送により絞り部12の上流を流れる水圧が、金属細管10の断面の面積(以下、単に「断面積」ともいう)の減少によって高くなり、海水3に含まれる空気成分を海水3中に溶解させる。この時点で、海水3中の大きな気泡は消滅する。気泡が消滅した海水3が絞り部12に入ると、海水3の流速が上がって、その圧力が低下する。この圧力の低下により小さな気泡が析出する。
【0033】
(2)負圧による気泡核生成
絞り部12では、海水3の流速が早くなるので、大気圧よりも低い負圧が発生する。これにより、上述した加圧溶解した気体の気泡が析出する現象に加え、水流中に微細な気泡核が生成される。この気泡核が生成される現象をキャビテーションという。
【0034】
(3)せん断流による気泡の粉砕
金属細管10内における絞り部12以外の部分では、レイノルズ数が例えば3.5×10程度であるのに対して、絞り部12内では、レイノルズ数が例えば2.9×10程度となり、非常に高くなる。これにより、絞り部12内が完全発達乱流域となる。この乱流により、気泡がせん断力を受け、破壊される。さらに、このせん断力によって凝集体を形成しているプランクトン除去剤2が解砕される。
【0035】
(4)衝撃波による気泡の粉砕
金属細管10内における絞り部12以外の部分では、海水3の流れのマッハ数は例えば0.007の亜音速になっている。これに対して、絞り部12内では、マッハ数は例えば0.7以上で遷音速流となる。遷音速流の一部の流域では、音速を超えて衝撃波を発生させる。この衝撃波が気泡をさらに微細化する。また、この衝撃波で、凝集体を形成しているプランクトン除去剤2が解砕される。
【0036】
絞り部12の流れ方向の長さが長ければ長いほど、絞り部12におけるポンプ圧の圧力損失が大きくなるので、ポンプ7のポンプ圧を大きくする必要がある。よって、金属細管10では、絞り部12における海水3の流れ方向の長さを、(2)の圧力の低下による気泡の析出と、(3)乱流のせん断力による気泡の粉砕とが発生する最小の長さとしている。
【0037】
図3に示すように、金属細管10では、絞り部12が間隔を置いて直列に複数設けられている。各絞り部12では、上記(1)~(4)の現象が発生し、これにより微細な気泡が繰り返し発生する。発生する気泡の径は、絞り部12を経るにつれて段々小さくなり、最終的にはファインバブル5となる。各絞り部12では、プランクトン除去剤2が1次粒子にまで解砕されるとともに、ファインバブル5によって、プランクトン除去剤2の凝集が抑制される。
【0038】
1本の金属細管10において、隣接する絞り部12の間隔D1は、絞り部12を出た海水3の流速が、金属細管10に入力された海水3の流速に復帰するのに十分に長い間隔となっている。このようにすれば、各絞り部12において、上記(1)~(4)までの現象を確実に発生させることができる。
【0039】
また、図3に示すように、気泡生成部8では、金属細管10が、海水3の流路中に並列に複数設けられてもよい。このようにすれば、各金属細管10で同時にファインバブル5を生成することができるので、ファインバブル5の生成量を容易に増やすことができる。
【0040】
気泡生成部8において、金属細管10同士の間隔D2を確保して、バインダー部材11が封入されている。このようにすれば、各金属細管10から排出されたファインバブル5が互いに干渉することなく、バブル同士が付着して一体化するのを防止することができる。
【0041】
ガス導入口9から導入される気体は、空気、酸素又は二酸化炭素、あるいは、これらを混合した気体でもよい。ガス導入口9から導入される気体は、好ましくは二酸化炭素である。ファインバブル5が二酸化炭素を含むことで、海水3には飽和溶解度以上に二酸化炭素が溶解する。これにより、海水3は過飽和の二酸化炭素を含有することになる。
【0042】
水槽4内のプランクトン除去剤2を含む海水3を、配管6及び気泡生成部8を介して循環させることで、本実施の形態に係る赤潮防除剤が得られる。
【0043】
本実施の形態に係る赤潮防除剤による防除対象となるプランクトンは、海又は河川等に発生し得るものであって、特には藻類である。防除対象となるプランクトンとしては、シャットネラ属(Chattonella spp.)、シャットネラ・アンティカ(Chattonella antiqua)、シャットネラ・マリナ(Chattonella marina)、ヘテロシグマ・アカシオ(Heterosigma akashiwo)、アレキサンドリウム属(Alexandrium spp.)、ギムノディニウム属(Gymnodinium spp.)、ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ(Heterocapsa circularisquama)、カレニア属(Karenia spp.)、カレニア・ブレビス(Karenia brevis)、カレニア・ミキモトイ(Karenia mikimotoi)、プロロセントラム属(Prorocentrum spp.)、プロロセントラム・ミカンス(Prorocentrum micans)、シュードシャットネラ・ベルキュローサ(Pseudochattonella verruculosa)、コクロディニウム・ポリクリコイデス(Cochlodinium polykrikoides)及びアカシオウズムシ(Mesodinium rubrum)等が挙げられる。
【0044】
本実施の形態に係る赤潮防除剤は、海、河又は川等に散布される。散布の方法は、特に限定されない。海での赤潮防除方法は、本実施の形態に係る赤潮防除剤を、海面又は海中に散布する散布ステップを含む。
【0045】
下記実施例に示されたように、ファインバブル5は、プランクトン除去剤2とプランクトンとのフロックを形成させる。ファインバブル5がフロックの形成場となることで、プランクトン除去剤2をプランクトンに直接吸着させてプランクトン除去剤2による化学的作用と物理的作用を生じさせることができる。これにより、プランクトンを効率よく除去できる。
【0046】
また、上記の赤潮防除剤では、ファインバブル5が二酸化炭素を含み、海水3が過飽和の二酸化炭素を含有してもよいこととした。過飽和の二酸化炭素を含有する海水3のpHは、過飽和の二酸化炭素を含有しない海水のpHより低下する。プランクトン除去剤2が粘土を含む場合、pHが低下することで粘土からのAlイオンの溶出がさらに促進する。また、海水3における二酸化炭素の溶存濃度が高まることで、プランクトンに対する防除効果が向上する。この結果、赤潮防除剤によるプランクトンの除去能を飛躍的に高めることができる。
【0047】
また、上記の赤潮防除剤におけるプランクトン除去剤2は、モンモリロナイト系粘土と、硫酸カリウムアルミニウムの無水物と、を含んでもよいこととした。プランクトン除去剤2とファインバブル5を併用することで、下記実施例1、4、5に示すように、プランクトンを効率よく死滅させることができる。
【0048】
また、製造装置1によれば、金属細管10の内側に、水の流れ方向の前後よりも水の通り道が狭くなっている絞り部12が設けられている。このため、ポンプ7により金属細管10内に気体成分を含む海水3を流すと、(1)圧送による加圧溶解、(2)負圧による気泡核生成、(3)せん断流による気泡の粉砕及び(4)衝撃波による気泡の粉砕の複合的な作用により、ウルトラファインバブルを含むファインバブル5を生成することができる。
【0049】
すなわち、絞り部12を有する簡単な構成の金属細管10に海水3を通すだけで上述した様々な原理での複合的な作用でファインバブル5を生成することができるので、高いポンプ吐出圧(1.0MPa)を必要とせずに、例えば0.3MPa程度で、径の一層小さなファインバブル5を短時間かつ高密度に大量に生成することができる。
【0050】
なお、絞り部12の断面の形状は、円形、楕円形、星形及び三角形等の多角形状であってもよい。また、絞り部12の間隔は一定であっても一定でなくてもよい。また、各金属細管10における絞り部12の数は任意である。
【0051】
なお、海水3として公知の方法で海水を滅菌又は殺菌した滅菌海水を用いてもよい。また、水槽4内の液体は、海水3に限らず、水でもよいし、粘性の高い液体であってもよい。
【0052】
なお、絞り部12は、金属細管10の1箇所に形成されているだけでもよい。1本の金属細管10における絞り部12の大きさ、長さ、数及び間隔等は、ポンプ7のポンプ圧等によって決まり、それら絞り部12の設計情報は、流体解析シミュレーションソフトウエアによって容易に決定することができる。
【0053】
また、上記実施の形態では、プレス加工により絞り部12を形成したが、他の方法で絞り部12を形成してもかまわない。
【0054】
別の実施の形態に係る赤潮防除剤製造装置は、プランクトン除去剤を含む液体が内部を通る管状部材と、管状部材内に気体成分を含む液体を圧送するポンプと、を備える。管状部材の内側に、液体の流れ方向の前後よりも液体の通り道が狭くなっている絞り部が設けられている。当該赤潮防除剤の製造装置は、絞り部への液体の圧送により液体に含まれる気体成分を液体中に溶解させた後、絞り部での圧力の低下により気泡を析出させ、絞り部において大気圧よりも低い負圧を発生させて気泡核を生成し、絞り部で液体に乱流を発生させ、そのせん断力で液体中の気泡を粉砕し、プランクトン除去剤を解砕し、絞り部から出た液体に生じる遷音速流による衝撃波で、気泡を粉砕し、プランクトン除去剤を解砕する。絞り部を通ることで気泡が生成された、プランクトン除去剤を含む液体が管状部材から吐出される。好ましくは、絞り部における流れ方向に直交する断面形状が扁平な形状、特には矩形状である。
【0055】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例
【0056】
八代海で採取し、継代培養したシャットネラ・アンティカを5000~10000細胞/mLで含む滅菌海水に、薩摩川内市入来町で産出されるモンモリロナイト(入来モンモリ、入来カオリン社製)と焼きミョウバンとを含むプランクトン除去剤を33重量%又は10重量%で溶いた。当該滅菌海水を、ガスを自吸させた上記の製造装置1と同様の構成の製造装置に10分間循環させることで滅菌海水にファインバブルを発生させて調製液を得た。
【0057】
なお、本実施例で使用した製造装置において、気泡生成部8における金属細管10の本数を1本とし、金属細管10の絞り部12以外の部分の断面積の直径を24mmとした。1本の金属細管10における絞り部12の個数を1個とした。また、絞り部12の断面形状及び大きさを32mm×2mmの矩形状とし、絞り部12の長さを1mmとした。また、ポンプ4のポンプ圧を0.3MPaとし、液流量を20L/分とし、滅菌海水の温度が25℃以下となるように制御した。
【0058】
所定量の調製液をシャットネラ含有滅菌海水へ供給して10分間静置した。プランクトン計数板と顕微鏡とを用いて処理前後のシャットネラの減少率を求めた。また、プランクトン除去剤のシャットネラへの作用を観察した。
【0059】
(結果)
比較例及び実施例1~5の条件とシャットネラの減少率とを表1に示す。ファインバブル発生させていない比較例では、シャットネラがほとんど除去されず、効果が得られなかった。一方、ファインバブルを発生させた実施例1では、顕微鏡下で視認できるシャットネラが無く、除去率が100%であった。プランクトン除去剤を含まないものの、ガスを二酸化炭素としてファインバブルを発生させた実施例2が30%の減少率を示したのに対し、ガスを空気又は酸素とした実施例3では、顕微鏡下でシャットネラの死滅挙動が観察されたが減少率は0%であった。プランクトン除去剤の濃度を実施例1の1/3~1/4とした実施例4でも90%以上の減少率であった。プランクトン除去剤の使用量を10重量%とした実施例5での減少率は30%であった。
【0060】
【表1】
【0061】
図4に示すように、プランクトン除去剤を溶いた滅菌海水では、プランクトン除去剤が凝集体を形成したのに対して、実施例1、4、5では、図5に示すように、ファインバブルによってプランクトン除去剤は1次粒子まで解砕された。
【0062】
実施例1で観察されたシャットネラを図6に示す。実施例1では、解砕されたプランクトン除去剤によってシャットネラがコーティングされ、シャットネラの動きが止まり、シャットネラの死滅が進行した。ファインバブルがプランクトン除去剤とシャットネラとのフロックの形成場となることで、プランクトン除去剤2がプランクトンに直接吸着し、プランクトン除去剤2によるAlイオンの化学的作用と物理的作用とを生じさせると考えられる。図7は、比較例で観察されたシャットネラを示す。ファインバブルを使用しない場合には、シャットネラにプランクトン除去剤が吸着せず、プランクトンは自由に泳いでいた。
【0063】
ガスを二酸化炭素とした場合、調製液には飽和溶解度以上に二酸化炭素が溶解しているため、調製液のpHも低下している。プランクトン除去剤を含まない実施例2と実施例3とを比較すると、ガスに空気又は酸素を用いた実施例3でシャットネラが減少しなかったのに対し、ガスに二酸化炭素を用いた実施例2ではシャットネラの減少が見られた。このことは、ファインバブルによってシャットネラ近傍の溶存気体濃度及びpHを調整することでもシャットネラの除去能が高まることを示している。
【0064】
以上により、ファインバブルを使用することでプランクトン除去剤のプランクトン防除能が飛躍的に向上することが示された。また、ファインバブルを使用することでプランクトン除去剤の使用量を低減できた。
【0065】
上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、養殖等の漁業で使用される赤潮防除剤に好適である。
【符号の説明】
【0067】
1 赤潮防除剤製造装置、2 プランクトン除去剤、3 海水、4 水槽、5 ファインバブル、6 配管、7 ポンプ、8 気泡生成部、9 ガス導入口、10 金属細管、11 バインダー部材、12 絞り部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7