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特許7545699ダンパー、ダンパー改良方法および自動車
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】ダンパー、ダンパー改良方法および自動車
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/32 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
F16F9/32 K
F16F9/32 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024100216
(22)【出願日】2024-06-21
【審査請求日】2024-06-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔展示による公開〕 展示会名:TOKYO AUTO SALON 2024 展示日:2024年1月12日から1月14日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔ウェブサイトによる公開〕 (ウェブサイト1) ウェブサイト名:共栄タイヤサービス株式会社の自社ウェブサイト 掲載アドレス:https://www.k-one.to/ 掲載年月日:2024年1月15日 (ウェブサイト2) ウェブサイト名:ドライバーWeb 掲載アドレス:https://driver-web.jp/articles/detail/40905 掲載年月日:2024年4月16日 (ウェブサイト3) ウェブサイト名:AMW AUTO MESSE WEB 掲載アドレス:https://www.automesseweb.jp/2024/04/17/1541617 掲載年月日:2024年4月17日 (ウェブサイト4) ウェブサイト名:Yahoo!JANANニュース 掲載アドレス: https://news.yahoo.co.jp/articles/0d076b0a24d91490346cb605f9bd31647f481c0e 掲載年月日:2024年4月17日 (ウェブサイト5) ウェブサイト名:carview! 掲載アドレス: https://carview.yahoo.co.jp/news/detail/893233db456e7bffc2f59379da36aa93ee266808/ 掲載年月日:2024年4月18日 (ウェブサイト6) ウェブサイト名:共栄タイヤサービス株式会社の自社ウェブサイト 掲載アドレス:https://www.k-one1966.com/konedamperreplace 掲載年月日:2024年5月16日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔刊行物による公開〕 (刊行物1) 発行者名:株式会社交通タイムス社 刊行物名:XaCAR(ザッカー)86&BRZ Magazine 043(’24) 発行年月日:2024年3月8日 (刊行物2) 発行者名:株式会社八重洲出版 刊行物名:Driver(ドライバー) 2024年5月号 発行年月日:2024年3月19日 (刊行物3) 発行者名:株式会社交通タイムス社 刊行物名:GR YARIS magazine Vol.02 Xacar特別編集 発行年月日:2024年3月28日 (刊行物4) 発行者名:共栄タイヤサービス株式会社 刊行物名:自社製品リーフレット 発行年月日:2024年4月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512059475
【氏名又は名称】共栄タイヤサービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143111
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 秀夫
(74)【代理人】
【識別番号】100189876
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 将晴
(72)【発明者】
【氏名】小菅 英久
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-175266(JP,A)
【文献】実開昭63-035835(JP,U)
【文献】特開2017-057888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
減衰機構を格納させているアウターチューブを有するダンパーにおいて、
前記アウターチューブは、頂部又は底部のいずれかの端部に前記アウターチューブを開放可能とさせる開放端部を備え、
前記開放端部が、筒体とキャップとからなり、
前記筒体の内周面が、第1螺旋溝を備え、
前記筒体の周囲が、前記筒体と前記端部の周囲とを一体化させる溶接部を有し、
前記キャップの外周面が、第1螺旋溝に適合される第2螺旋溝を備え、
前記減衰機構が、2つのオイル室の間をつなぐオイル流出孔を覆う流量調整弁を備え、
前記流量調整弁が、リニア減衰型と漸増減衰型と初期減衰型とがなす群の中のいずれかの流量調整弁とされ、
前記流量調整弁がなす減衰機構が、前記アウターチューブに格納された状態で、
前記第1螺旋溝に前記第2螺旋溝が螺合した状態で、前記開放端部が閉鎖されている、
ことを特徴とするダンパー。
【請求項2】
前記減衰機構をなす伸び側の流量調整弁が、前記初期減衰型とされている、
ことを特徴とする請求項1に記載のダンパー。
【請求項3】
前記減衰機構をなす縮み側の流量調整弁が、前記漸増減衰型とされている、
ことを特徴とする請求項1に記載のダンパー。
【請求項4】
前記減衰機構をなす縮み側の流量調整弁が、前記初期減衰型とされている、
ことを特徴とする請求項1に記載のダンパー。
【請求項5】
減衰機構を格納させているアウターチューブを有するダンパーのダンパー改良方法であって、
自動車から離脱させたダンパーをなす前記アウターチューブの頂部又は底部のいずれかの端部を切断させてアウターチューブを開放させる第1工程と、
前記減衰機構を前記アウターチューブから引き抜く第2工程と、
内周面に第1螺旋溝を有する筒体の周囲を、切断させた前記端部の周囲に溶接させる第3工程と、
前記減衰機構をなす2つのオイル室の間をつなぐオイル流出孔を覆う流量調整弁を、リニア減衰型と漸増減衰型と初期減衰型とがなす群の中から、ユーザのニーズに応じて選択した流量調整弁に交換させる第4工程と、
前記交換させた流量調整弁がなす減衰機構を、開放させたアウターチューブに挿入して格納させる第5工程と、
前記第1螺旋溝に適合させた第2螺旋溝を外周に有するキャップを前記筒体に螺合させ、前記筒体を閉鎖させる第6工程と、を含んでいる、
ことを特徴とするダンパー改良方法。
【請求項6】
自動車であって、
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の前記ダンパーが備えられている、
ことを特徴とする自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のサスペンションをなしているダンパーが、ユーザ所望の減衰性能を備えたダンパーに改良されてから、サスペンションの元の位置に復帰される改良後のダンパーおよび自動車に関する。具体的には、ダンパーの減衰機構をなすピストンとピストンロッド(以下、ピストンということもある。)、アウターチューブ等がそのまま利用された改良後のダンパー、ダンパー改良方法および改良後のダンパーを備えた自動車に関する。
【0002】
より具体的には、取外された改良前のダンパーをなすアウターチューブの軸方向の端部が切断されて、アウターチューブに内蔵されているピストンが引き抜かれ、ピストンのオイル流出孔を覆うオイル流量調整弁(以下、流量調整弁という。)をなす薄板が、ユーザ所望の減衰性能を発揮するように交換されてから、サスペンションの元の位置に復帰される改良後のダンパー、ダンパー製造方法および改良後のダンパーを備えた自動車に関する。
【背景技術】
【0003】
自動車は、道路の凸凹による突上げ振動を吸収する弾性手段と、発生した突上げ振動を収束させるための減衰手段とがなすサスペンションにより支えられ、夫々の自動車、例えばスポーツカー、大型ミニバン、貨物自動車等の自動車の特性に応じた走行特性が発揮されるようにされている。
【0004】
乗用車は、ユーザの趣向の多様化がすすみ、外観、内装だけのニーズにとどまらず、走行特性についてのニーズも多様化し、自動車メーカが設定した市販の乗用車の走行特性とは異なる走行特性を求めるユーザもいる。また、貨物自動車についても、積荷を運搬する態様により、例えば、常時重量物しか運搬しない貨物自動車の場合には、純正の貨物自動車の走行特性とは異なる走行特性を求めるユーザもいる。
【0005】
一方、使用年数と走行距離に応じて、ダンパーは本来の減衰性能を発揮できなくなり、自動車の走行性能が不安定になり、ダンパーの減衰性能の復帰が必要になることもある。従来は、走行性能が不安定になったということも、自動車の買い換えの動機の一つとされていた。ユーザによっては、ダンパーの減衰性能を向上・復帰させるために、ダンパーを廃棄して、適用可能な新しいダンパーに取り換えることもあった。
【0006】
気候温暖化に対応し、持続可能な社会を実現するために、安易な買い替え、廃棄ではなく、限りある資源の有効活用がどの分野でも求められる社会になっている。そこで、ダンパーの大部分を利用しつつ、ユーザの趣向の多様化に応えられるように、自動車の走行性能を向上させることが必要になってきている。
【0007】
一般的には、自動車メーカは、予め消耗品として交換対象としている部品以外は、市販自動車に装着させた部品を分解困難とし、事故防止のため自動車の安易な改造を抑制している。ダンパーも例外ではなく、使用年数が長くなり減衰性能が低下したダンパーであっても、その減衰性能の復帰・改良は困難とされてきた。
【0008】
特許文献1には、対象車両のサスペンションの部品を利用して、車高調整をする技術が開示されている。特許文献1に記載の技術によれば、サスペンションのアッパーマウントの上面に、ねじ孔を形成した適宜厚のベースプレートを重ね合わせ、適宜長さのボルト等によってアッパーマウントとベースプレートを一体化して車体に装着させ、車高調整をするとされている。
【0009】
また特許文献2には、車両に元々備えられているサスペンションの部品を利用した車高設定装置の技術が開示されている。車体に設けられるサスペンションのコイルスプリングと車体との間に、ボルトとナットとによりスペーサを挟んで備えさせ、自動車の車高を設定するとされている。この技術によれば、純正のコイルスプリングを交換して車高を設定する方法等に比べて、車両の乗り心地を悪化させないとされている。
【0010】
しかし自動車メーカが製造したダンパーを使っていても、特許文献1又は特許文献2に記載の技術のように、車高が変更された場合には、自動車の高さ検知機構、傾斜検知機構、衝突防止機構をなすセンサーが誤動作しやすく、運転支援機構に影響するという新たな課題が発生する可能性がある。
【0011】
特許文献3には、ダンパーのアウターシェルと、キャップ取付用の筒体をなすカラーとを溶接したとしても、ダストブーツを引っ掛けることができる爪を備えさせるとする技術が開示されている。この技術によれば、チューニング又はメンテナンス等のためキャップを着脱式にしても、キャップの爪にダストブーツの下端を引っ掛けることができるとされている。
【0012】
しかし特許文献3に記載の技術は、ダンパーを取外す前からダストブーツを引っ掛ける爪を備えたアウターシェルに係る技術にすぎず、このような技術は多様な車種に適用できず、ユーザの多様な走行性能のニーズに対応できる技術ではなかった。
【0013】
本願の発明者は、カーレースに参加するユーザのニーズに応じて、多様な対応により自動車の走行性能を向上させた豊富な実績を有する専門業者として、より適用性の高い技術を鋭意研究して、本願発明を想到するに至った。
【0014】
自動車のサスペンション構造には、独立懸架方式、固定車軸方式等があり、サスペンション構造が前輪と後輪とで異なっている場合もある。反面、振動減衰機構の構造は、流量調整弁によるダンパーオイル(以下、オイルという。)の流量調整機能により減衰性能を変化させる点においては、サスペンション構造の違いに拘わらず、共通している。
【0015】
そこで本発明者は、自動車のサスペンションの部品のうち、流量調整弁のみを改良させることにより、サスペンション構造の違いに拘わらず、ユーザの多様なニーズに応えられるようにした。また、持続可能な社会を実現しなければならないという社会背景のもと、自動車の運転支援機構にも影響を与えないで、純正部品の廃棄を抑えてユーザのニーズを解決させるようにした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】登実3144072号
【文献】登実3236645号
【文献】特開2017-057888号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、持続可能な社会の実現のために、ダンパーの大部分の部品が廃棄されないで再利用され、運転支援機構を誤動作させないように、ユーザ所望の減衰性能が備えられ、サスペンションの元の位置に復帰されるダンパーを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第1の発明は、減衰機構を格納させているアウターチューブを有するダンパーにおいて、前記アウターチューブは、頂部又は底部のいずれかの端部に前記アウターチューブを開放可能とさせる開放端部を備え、前記開放端部が、筒体とキャップとからなり、前記筒体の内周面が、第1螺旋溝を備え、前記筒体の周囲が、前記筒体と前記端部の周囲とを一体化させる溶接部を有し、前記キャップの外周面が、第1螺旋溝に適合される第2螺旋溝を備え、前記減衰機構が、2つのオイル室の間をつなぐオイル流出孔を覆う流量調整弁を備え、前記流量調整弁が、リニア減衰型と漸増減衰型と初期減衰型とがなす群の中のいずれかの流量調整弁とされ、前記流量調整弁がなす減衰機構が、前記アウターチューブに格納された状態で、前記第1螺旋溝に前記第2螺旋溝が螺合した状態で、前記開放端部が閉鎖されていることを特徴としている。
【0019】
アウターチューブを切断した端部に溶接される筒体の内径は、アウターチューブに格納されている全ての部品の外径よりも大径とされていると好適であるが、全ての流量調整弁が引き抜き可能であれば、筒体の内径は限定されない。筒体は開放端部からオイルが流出しないように溶接されていればよい。アウターチューブは、ダンパーが単筒型である場合には、ピストンが摺動する外筒であればよく、ダンパーが複筒型である場合には、ピストンが摺動する内筒を内蔵する外筒であればよい。
【0020】
ダンパーをなすオイル流出孔は、オイルの流出入により減衰作用を発生させる2つのオイル室、例えば単筒型であればピストンの上油室と下油室の境界の位置に設けられればよく、複筒型であれば上油室と下油室の境界の位置、又は、内筒と外筒との間の油量調整室と下油室との境界の位置に設けられていればよい。
【0021】
流量調整弁の形態は、リング形状の薄板(以下、シム板ともいう。)を重ね合わせた形態であると減衰力の調整が容易であり好適であるが限定されず、例えば、電子制御により流量調整弁のオイル流通孔の大きさを変化させる形態であってもよい。第1の発明によれば、サスペンションをなすダンパーの減衰機構だけを改良の対象としているため、サスペンションの大部分の部品が廃棄されないで再利用でき、車高を変えず運転支援機構に影響を及ぼさないで、持続可能な社会の実現に寄与しつつ、ユーザのニーズに応えられるという有利な効果を奏する。
【0022】
本発明の第2の発明は、第1の発明のダンパーであって、改良後の流量調整弁が、複数の薄板が重ねられてなり、前記薄板が、ダンパー中心軸を囲むリング形状とされ、前記オイル流出孔を覆うように配され、前記薄板の枚数が改良前の流量調整弁をなす薄板の枚数よりも多く、減衰力の応答変化が、改良前のダンパーよりも滑らかとされていることを特徴としている。
【0023】
改良後の流量調整弁は、少なくともオイル流出孔の一部を覆い、薄板の反りによりオイル流出孔の大きさを変化させるものであればよい。薄板の厚さは約0.1mmから約0.5mmであり、直径は約16mmから38mmであり、第3の発明から第5の発明と同様に、改良前の流量調整弁をなす薄板とほぼ同等であればよい。改良後の流量調整弁は、走行路の凹部の上をタイヤが走行し、ピストンロッドがアウターチューブから外に伸長するとき(以下、「伸び側」という)、又は、ピストンロッドがアウターチューブの内に縮退するとき(以下、「縮み側」という)のいずれであっても、オイルが流出するオイル流出孔を覆うように適用されればよい。
【0024】
第2の発明では、改良後の流量調整弁をなす薄板はリング形状をなし、ダンパー中心軸の周りに装着されており、改良前の流量調整弁の枚数よりも多くされている。第2の発明が適用された「伸び側」又は「縮み側」の改良後の流量調整弁によれば、重ねられたシム板が滑らかに反り、減衰力の応答変化を改良前のダンパーよりも滑らかにし、減衰力を改良前のダンパーよりも滑らかに変化させるという効果を奏する。
【0025】
本発明の第3の発明は、第1の発明のダンパーであって、改良後の流量調整弁が、複数の薄板が重ねられてなり、前記薄板が、ダンパー中心軸を囲むリング形状とされ、前記オイル流出孔を覆うように配され、前記薄板が、前記オイル流出孔からオイル下流に向けて順に重ねられ、第1薄板が、前記オイル流出孔に接して配され、少なくとも、第2薄板と第3薄板とが、第1薄板よりも小径且つ同径とされ、減衰力が、ピストンの低速域から高速域への移動速度に応じて、改良前のダンパーよりも漸増されることを特徴としている。
【0026】
第3の発明では、第1薄板よりも小径且つ同径とされた、第2薄板と第3薄板とが重ねられて、剛性が高められた一組の薄板とされ、一組の薄板が第1薄板の反りを抑えている。これにより、一組をなす第2薄板と第3薄板とが、第1薄板の反りを抑えつつ反ることになるため、高速域にかけて次第に固い乗り心地になる。一組とした下流側のシム板を同様に、順次、一組とした上流側のシム板よりも、小径にしておくと、更に、高速域にかけて次第に固い乗り心地になる。第4薄板より下流の薄板を組にする枚数は限定されない。オイル流の下流側の一組をなす薄板の外径を上流側の一組をなす薄板に対して小さくする割合は、ユーザの求める走行特性に応じて決定させればよい。
【0027】
第3の発明では、低速域から高速域にかけて、流量調整弁をなすシム板の反りの漸増に応じて、オイルの流量を漸増させている。これにより、乗り心地を、低速域では柔らかくさせ、高速域にかけては次第に固くさせるように、減衰力を変化させている。第3の発明が適用された「伸び側」又は「縮み側」の改良後の流量調整弁によれば、減衰力の増加を、最初は小さく、次第に大きくさせ、ピストンロッドの振幅の大きさに拘わらず、減衰力を徐々に増加させるという効果を奏する。
【0028】
本発明の第4の発明は、第1の発明のダンパーであって、改良後の流量調整弁が、複数の薄板が重ねられてなり、前記薄板が、ダンパー中心軸を囲むリング形状とされ、前記オイル流出孔を覆うように配され、前記薄板が、前記オイル流出孔からオイル下流に向けて順に重ねられ、第1薄板が、前記オイル流出孔に接して配され、複数の前記薄板が、全て同形状とされ、減衰力が、ピストンの移動発生初期の段階から高いことを特徴としている。
【0029】
第4の発明が適用された「伸び側」又は「縮み側」の改良後の流量調整弁によれば、オイル流出孔を覆う複数のシム板が同径とされているため、下流側シム板が、接する上流シム板を接しながら滑らせて、上流側シム板を反らせることになる。これにより各シム板が反りにくくなり、オイル流出量がピストンの移動発生初期の段階から抑制され、固い乗り心地になる。第4の発明が適用された「伸び側」又は「縮み側」の改良後の流量調整弁によれば、減衰力を振動発生初期から大きくさせるという効果を奏する。
【0030】
本発明の第5の発明は、第2から第4の発明のダンパーであって、前記複数の薄板の枚数が、少なくとも4枚以上とされていることを特徴としている。第5の発明が適用された「伸び側」又は「縮み側」の改良後の流量調整弁によれば、薄板の枚数が4枚以上とされているため、薄板の反りを滑らかに変化させることができ、減衰力を滑らかに増加させるという効果を奏する。
【0031】
本発明の第6の発明は、減衰機構を格納させているアウターチューブを有するダンパーのダンパー改良方法であって、自動車から離脱させたダンパーをなす前記アウターチューブの頂部又は底部のいずれかの端部を切断させてアウターチューブを開放させる第1工程と、前記減衰機構を前記アウターチューブから引き抜く第2工程と、内周面に第1螺旋溝を有する筒体の周囲を、切断させた前記端部の周囲に溶接させる第3工程と、前記減衰機構をなす2つのオイル室の間をつなぐオイル流出孔を覆う流量調整弁を、リニア減衰型と漸増減衰型と初期減衰型とがなす群の中から、ユーザのニーズに応じて選択した流量調整弁に交換させる第4工程と、前記交換させた流量調整弁がなす減衰機構を、開放させたアウターチューブに挿入して格納させる第5工程と、前記第1螺旋溝に適合させた第2螺旋溝を外周に有するキャップを前記筒体に螺合させ、前記筒体を閉鎖させる第6工程と、を含んでいることを特徴としている。
【0032】
第6の発明によれば、ダンパーの大部分の部品が廃棄されないで再利用され、運転支援機構を誤動作させないように、ユーザ所望の減衰性能が備えられるダンパーに改良することができるという効果を奏する。
【0033】
本発明の第7の発明は、自動車であって、第1から第4の発明の前記ダンパーが備えられていることを特徴としている。第7の発明によれば、自動車が開放可能な開放端部を備えたダンパーを備えているため、ダンパーの経年変化等により減衰力が劣化した場合でも、薄板を交換して元の減衰性能に戻しやすい。また、ユーザの趣向の変化に応じた減衰特性とされた自動車とさせることができるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0034】
・本発明の第1の発明によれば、サスペンションをなすダンパーの減衰機構だけを改良の対象としているため、サスペンションの大部分の部品が廃棄されないで再利用され、車高を変えず運転支援機構に影響を及ぼさないで、持続可能な社会の実現に寄与しつつ、ユーザのニーズに応えられるという有利な効果を奏する。
・第2の発明が適用された「伸び側」又は「縮み側」の改良後の流量調整弁によれば、重ねられたシム板が滑らかに反り、減衰力の応答変化を改良前のダンパーよりも滑らかにし、減衰力を改良前のダンパーよりも滑らかに変化させるという効果を奏する。
・第3の発明が適用された「伸び側」又は「縮み側」の改良後の流量調整弁によれば、減衰力の増加を、最初は小さく、次第に大きくさせ、ピストンロッドの振幅の大きさに拘わらず、減衰力を徐々に増加させるという効果を奏する。
・第4の発明が適用された「伸び側」又は「縮み側」の改良後の流量調整弁によれば、減衰力を振動発生初期から大きくさせるという効果を奏する。
・第5の発明が適用された「伸び側」又は「縮み側」の改良後の流量調整弁によれば、薄板の反りを滑らかに変化させることができ、減衰力を滑らかに増加させるという効果を奏する。
・第6の発明によれば、ダンパーの大部分の部品が廃棄されないで再利用され、運転支援機構を誤動作させないように、ユーザ所望の減衰性能が備えられるダンパーに改良することができるという効果を奏する。
・第7の発明によれば、ダンパーの経年変化等により減衰力が劣化した場合でも、薄板を交換して元の減衰性能に戻しやすく、ユーザの趣向の変化に応じた減衰特性とされた自動車とさせることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】サスペンション構造の説明図である(実施例1)。
図2】改良後の単筒型ダンパーの説明図である(実施例1)。
図3】改良後の複筒型ダンパーの説明図である(実施例1)。
図4】改良後の流量調整弁の説明図である(実施例1)。
図5】改良後の流量調整弁による減衰力の変化の説明図である(実施例1)。
図6】複筒型ダンパーの改良工程の説明図である(実施例1)。
図7】複筒型ダンパーの改良工程の説明図である(実施例1)。
図8】スポーツカー用の改良後のダンパーの減衰特性の説明図である(実施例1)。
図9】貨物自動車用の改良後のダンパーの減衰特性の説明図である(実施例2)。
図10】大型ミニバン用の改良後のダンパーの減衰特性の説明図である(実施例3)。
【発明を実施するための形態】
【0036】
減衰機構の構造も多様であり、ユーザが自動車の減衰機構に求める減衰特性も多様であるため、複数の改良後の減衰機構の例を示しつつ、夫々により得られる減衰特性の変化を、以下順に説明する。
【実施例1】
【0037】
実施例1ではスポーツカー用の改良後のダンパーの構造とその減衰特性を、図1から図8を参照して説明する。図1(A)図はサスペンション構造1の概要を示し、図1(B)図は改良前の単筒型ダンパー200の説明図を示し、図1(C)図は改良前の複筒型ダンパー300の説明図を示している。図2は改良後の単筒型ダンパー210,220を示し、図3は改良後の複筒ダンパー310、320を示している。図4図5は改良後の減衰機構をなす異なるシム板の構成と、それに応じた減衰特性の変化を示している。図6図7は改良後のダンパーの改良工程を示し、図8はスポーツカー用の減衰特性を示している。
【0038】
自動車の車体2は、サスペンション1を介してタイヤ3に支持されている。サスペンション1は、螺旋バネ4とばね受板5、図示していない板バネ等がなす弾性手段、ダンパー200がなす減衰手段、ダンパー200から伸長するピストンロッドを保護するカバー6、タイヤ3に繋がるブラケット7等からなっている(図1(A)図参照)。ダンパー200はアウターチューブ10とピストン11とピストンロッド12とを含んでいる。
【0039】
ピストン11には、ダンパー内に封入されたオイル13が上油室14から下油室15へ、及び、下油室15から上油室14へ流出するオイル流出孔16が設けられている。オイル流出孔16は流量調整弁17により覆われている。オイル流出孔16を通って2つの油室14,15の間をオイル13が流出する流出抵抗が流量調整弁17の形態により制御され、改良前の単筒型ダンパー200の減衰特性が決定される(図1(A)図参照)。
【0040】
ここで、対比容易なように、改良前の単筒型ダンパー200を図1(B)図に示し、改良前の複筒型ダンパー300を図1(C)図に示し、従来の単筒型と複筒型の減衰機構を説明する。ピストン11に固定されているピストンロッド12がアウターチューブ10から外に出る側を「伸び側」(図1(B)図、図1(C)図の白抜き矢印参照)と称し、ピストンロッド12がアウターチューブ10の中に入る側「縮み側」(図1(B)図、図1(C)図の黒矢印参照)と称して説明する。
【0041】
改良前の単筒型ダンパー200はアウターチューブ10の内壁に沿ってピストン11が上下動する。ピストンには上油室から下油室へ、及び、下油室から上油室へ、双方向にオイルを流出させるオイル流出孔16が設けられている。シム板18が重ねられて、可撓式とされた流量調整弁17が、オイル流出孔16のオイル流出側を覆い、オイル流出孔16のオイル流入側はオイルが流入可能に開放されている(図1(B)図、図4各図参照)。
【0042】
タイヤが道路の凹部を走行し、タイヤが下方に移動し、車体に装着されているピストンロッド12が道路に対して相対的に上方に移動し、換言すればピストン11が「伸び側」に移動する場合には(白抜き矢印参照)、オイル流出孔を覆うシム板18が撓んで、オイル流出孔16を開いてオイルを上油室から下油室に移動させる。アウターチューブ10からピストンロット12が出た体積に相当するアウターチューブ内のオイル13が減少しているため、下方のフリーピストン19が上昇し、フリーピストンの下方の気体20の気積を前記体積分だけ増加させる。流量調整弁17を流出するオイルの流出抵抗によりダンパーの減衰抵抗が決定される。「縮み側」についても作用は同様で、反対方向に作用するだけであるため、図1(B)図に黒色矢印を示し説明を省略している。
【0043】
改良前の複筒型ダンパー300はアウターチューブ10の中に、インナーチューブ21が格納され、インナーチューブの内壁に沿ってピストン11が上下動する(図1(C)図参照)。複筒型の「伸び側」においては、単筒型と同様に重ねられた可撓式のシム板18が撓んで、オイル流出孔16を開いてオイルを上油室から下油室に移動させ、且つ、インナーチューブの下方を覆うベースピストン22の下方の油量調整室23から下油室15にオイルを流出させる(図1(C)図の白抜き矢印参照)。一方、「縮み側」については、図1(C)図の黒矢印に示したように、下油室15から上油室14にオイルを移動させ、下油室15から油量調整室23にオイルを移動可能にさせるように、流量調整弁をなすシム板を撓ませて、オイル流出孔を開いてオイルを流出させる。
【0044】
アウターチューブ10とインナーチューブ21の間には気体20が封入されており、油量調整室内のオイルの増減に応じて、気体の気積が増減する。図1(C)図に示した複筒型においては、「伸び側」においては、ピストンの流出孔を覆う流量調整弁が減衰力を発生させ(同図の白抜き矢印参照)、「縮み側」においては、ベースピストンの流出孔を覆う流量調整弁が減衰力を発生させる(同図の黒矢印参照)。図1(B)図、図1(C)図では、単筒型と複筒型において、減衰力を発生させる流量調整弁17の一例を説明したが、この例に限定されないのは勿論のことである。
【0045】
ここで図2を参照して、改良後のダンパーの構成を説明する。ダンパーの自動車への装着状態は自動車によりそれぞれ異なり、自動車によりダンパーのアウターチューブの上方又は下方のいずれかを切断して開放端部としたほうが好適な場合と、いずれを開放端部としてもよい場合とが分かれる。まず、図2は単筒型の改良後のダンパーの構成を示している。
【0046】
図2(A)図は単筒型のアウターチューブのピストンロッド突出側をなす上方端部を切断して改良後の単筒型ダンパー210とした図を示し、図2(B)図は単筒型のアウターチューブの閉鎖側をなす下方端部を切断して改良後の単筒型ダンパー220とした図を示しているが、いずれかの形態が改良後のダンパーの形態とされればよい。
【0047】
単筒型又は複筒型においても、上方端部211,311又は下方端部217,317のいずれの端部を切断して開放端部とした場合でも、改良後のダンパーの内部の構造は改良前のダンパーと共通しているため、改良後のダンパーの構造の要部を、単筒型のピストンロッド突出側をなすアウターチューブ10の上方端部を切断した例で説明する(図2(A)図参照)。アウターチューブ10の上方端部211(図2(A)図の一点鎖線参照)は、切削工具を使用して、アウターチューブ上端から所定の長さを切断して開放端部とすればよい。
【0048】
筒体212は、アウターチューブ10の外径よりも僅かに大きな内径とし、その上方内周面に螺合用の第1螺旋溝213を形成させている。開放端部を塞ぐキャップ214は、ピストンロッド12を摺動させるピストンロッド貫通孔215がダンパー中心軸に貫通されると共に、その外周面には筒体と螺合させる第2螺旋溝216を形成させている。ピストンロッド貫通孔215とピストンロッド12の隙間は、図示していないオーリングによりオイル流出が防止されている。
【0049】
図2(A)図の改良後の単筒型ダンパー210においては、筒体212の内部に、アウターチューブ10の上方端部を嵌めて、アウターチューブ10の外周面に筒体212を全周溶接させている。筒体をアウターチューブに部分溶接し、隙間にオイル止めシールをしてもよいことは勿論のことである。また、改良後の単筒型ダンパーの外径を改良前のダンパーの外径と変えないように、改良前のダンパーと同径、同厚のパイプを筒体として、筒体とアウターチューブを突き合せ溶接してもよい。
【0050】
キャップ214には、外端面に筒体212との螺合を補助する、螺合工具を係止させる複数の係止孔218が形成されている。螺合工具を使用して、筒体212の開放端部にキャップ214を螺合させ閉塞させる。図2(A)図の改良後の単筒型ダンパー210においては、螺合工具を使って筒体の中にキャップを螺合させているが、筒体とキャップとが分離可能且つ分離容易に螺合されればよく、螺合の形態が限定されないのは勿論のことである。
【0051】
図2(B)図に示した、改良前の単筒型ダンパーの下方端部217を切断した改良後の単筒型ダンパー220の場合には、キャップ214の中央部にピストンロッド貫通孔が備えられていない点を除き、上方端部211を切断した改良後の単筒型ダンパーと同様であるため、図に共通の符号を示し、詳細な説明は省略している。
【0052】
複筒型の改良後のダンパーについても、改良後のダンパーの内部の構造は改良前のダンパーと共通している。図3(A)に示した複筒型のピストンロッド突出側をなすアウターチューブの上方端部311を切断した改良後の複筒ダンパー310は、単筒型を示す図2(A)図に、また、図3(B)に示した複筒型の下方端部317を切断した改良後の複筒ダンパー320は、単筒型を示す図2(B)図に、筒体212とキャップ214の構造は共通しているため、夫々の図に同一の符号を付して、詳細な説明は省略している。係る改良後のダンパーが、改良前のダンパーが装着されていた元の位置に復帰されればよい。
【0053】
改良後の流量調整弁の構造と作用を、図4図5に示した流量調整弁の断面図を参照して説明する。図4は改良後の流量調整弁の構造を示し、図5の枝番を付した各図は、図4において枝番を付した各図に対応した、ピストンの移動速度と減衰力の関係のグラフを示している。図5各図の縦軸は減衰力の大きさを示し、横軸はピストンの移動速度を示している。図4の各図は、図2に示した単筒型、図3に示した複筒型において、「縮み側」(各図黒矢印参照)の方向にオイルが流出する図を示している。理解を容易にするために、各図において「伸び側」のシム板は破線でシム板の位置のみを示し、説明を省略している。
【0054】
図4(A)図に示した「縮み側」の改良後の流量調整弁30は、改良前の流量調整弁をなすリング形状のシム板(図1(C)図参照)よりも多く、6枚のシム板が重ねられた改良後の流量調整弁30とされている。6枚のシム板の各々の外径は、ピストンに接するオイル上流側のシム板よりも下流側のシム板の方が小さいリング形状とされている。
【0055】
オイル流出孔31を覆う上流側のシム板は、下流側のシム板よりも僅かに外径が大きくされ、各々のシム板の外縁が、夫々一枚ずつ反るようにされている(図4(A)図参照)。まず、ダンパーをなすピストンの移動速度に応じて、オイル流出孔31からオイルを流出させるように、オイル流出孔を覆っている改良後の流量調整弁のうち、ピストンに接する第1シム板32の外縁が反る。
【0056】
第1シム板の外縁が反ると、第1シム板に圧されて第2シム板33の外縁が反り、第2シム板が反ると、第2シム板に圧されて第3シム板34の外縁が反るというように、重ねられたシム板が順に反り、オイルの流出抵抗が発生され、減衰力がピストンの移動速度に比例して大きくなる(以下、リニア減衰型という)(図5(A)図実線A参照)。リニア減衰型のシム板構成によれば、オイルが一定の割合で流出しやすいため、ピストン移動速度が低速域から高速域まで一定の乗り心地になるという走行特性が示される。
【0057】
図4(B)図に示した改良後の流量調整弁をなす6枚のシム板は、ピストンに接するオイル上流側の第1シム板35が一枚のリング形状とされ、下流の第2シム板36と第3シム板37が、第1シム板よりも小径且つ同径とされている。また、より下流の第4シム板38と第5シム板39が、第3シム板よりも小径且つ同径とされている。第6シム板40は、第5シム板39よりも小径とされて、第5シム板の反りを抑えている。
【0058】
ダンパーをなすピストンが移動すると、それに応じてオイル流出孔31から流出されるオイルにより、ピストンに接する第1シム板35の外縁を反らせる。第1シム板の外縁が反ると、第1シム板に圧されて、重ねられた第2シム板36と第3シム板37の外縁が反る。第2シム板と第3シム板とは同径で重ねられているため外縁は反りにくいが、第2シム板と第3シム板とを合わせた厚さの一枚のシム板に比して、滑りながら反るため反りが滑らかである。
【0059】
ピストンの移動初期においては、第1シム板35が反りやすく、オイルが流出しやすいため減衰力が小さい。しかし第2シム板と第3シム板とが反るときには、第2シム板36が第3シム板37を滑らせながら反ることになるため、重なったシム板は反りにくく、オイルの流出抵抗が大きくなり、減衰力が大きくなる。
【0060】
第3シム板37が反って、第4シム板38と第5シム板39とを反らせるときも同様であり、ピストンの移動速度に応じてオイルの流出抵抗が2次曲線的に大きくなり、減衰力も2次曲線的に大きくなる(以下、漸増減衰型という)(図5(B)図実線B参照)。漸増減衰型のシム板構成によれば、ピストンの移動速度が低速域ではオイルが流出しやすく柔らかい乗り心地になり、高速域になるにつれてオイルが流出しにくくなり固い乗り心地になるという走行特性が示される。
【0061】
図4(C)図に示した改良後の流量調整弁30をなす6枚のシム板41は、全て同径のシム板とされている。オイル流出孔31を覆う全てのシム板41が同径とされているため、各々の上流側シム板が、夫々接している下流側シム板を反らせながら反り、各々のシム板が反りにくくなる。これにより、ピストンの移動発生初期の段階から、オイルの流出抵抗が大きくなり、減衰力が大きくなる(以下、初期減衰型という)(図5(C)図実線C参照)。初期減衰型のシム板構成によれば、ピストン移動速度が低速域の振動初期から、オイルが流出しにくく、固い乗り心地になるという走行特性が示される。
【0062】
ここで図6図7を参照して、改良前の複筒型ダンパーの下方端部(図1(C)図参照)を切断して改良後の複筒ダンパーとする例をもとに、改良前のダンパーを改良後のダンパーにする工程を簡単に説明する。まず第1工程として、改良前のダンパーの内部に格納されている減衰機構を傷めないように、切断工具を使ってアウターチューブ10の下方端部217(図6(A)図の一点鎖線位置参照)を切断して、油量調整室23の中のオイル13を抜いて端部を開放させる。
【0063】
開放させた端部から、ベースピストン22により閉鎖された状態のインナーチューブ21を取出す。インナーチューブ21からベースピストン22を外し、下油室15の中のオイルを抜く。インナーチューブ21からピストン11を取出し、上油室14のオイルを抜いて、アウターチューブ10とインナーチューブ21とベースピストン22とピストン11を分離した状態にする(図6(B)図参照)。
【0064】
減衰機構を分離させた状態で、アウターチューブ10の外周面に、内周面に螺旋溝が形成された開放端部をなす筒体212を装着させて、アウターチューブと筒体を溶接して一体にする。あわせて開放端部をなす、筒体に螺合可能に外周面に螺旋溝が形成されたキャップ214を製作する。またベースピストン及びピストンの改良前の流量調整弁を、ユーザのニーズに適合する形態の改良後の流量調整弁42,43に交換する(図7(C)図参照)。
【0065】
実施例1の改良前の流量調整弁は、「伸び側」をなすベースピストン22の流量調整弁がリニア減衰型の3枚のシム板構成とされ、「縮み側」をなすピストン11の流量調整弁がリニア減衰型の3枚のシム板構成とされている(図1(C)図参照)。これに対して、改良後の流量調整弁ではユーザのニーズに対応させるために、スポーツカー用の減衰特性に変更するために、「伸び側」をなすベースピストン22の流量調整弁が6枚の初期減衰型のシム板構成42、「縮み側」をなすピストン側を6枚の漸増減衰型のシム板構成43に変更している。
【0066】
組立ては、改良後のダンパーをなすインナーチューブ21の中に、上油室となる位置にオイルを注入しながら、ピストンロッド12と改良後の流量調整弁43を装着させたピストン11とを一体にして挿し込む。更に、下油室をなす位置にオイルを注入しながらインナーチューブ21にベースピストン22を装着させて一体化させる。そしてアウターチューブ10の中に、一体化させたインナーチューブ21を格納し、オイルと気体とを封入しながら、筒体212にキャップ214を装着させて、開放端部を閉鎖して改良後のダンパーとする(図7(D)図参照)。
【0067】
スポーツカーのユーザからは、サーキット走行、ジムカーナ競技、ダートトライアル競技、ラリー競技等でのタイムアップを図るためコーナリング性能を向上させたいというニーズがある。具体的には、曲率の小さな低速コーナに進入するときには、車体の前方を早く沈みこませるように、車体の前側に重心を移動させやすくすればよい。これを実現するための減衰特性の変更について、図8を参照して説明する。図8(A)図は「縮み側」の減衰特性を示し、図8(B)図は「伸び側」の減衰特性を示している。
【0068】
全ての車輪のダンパーの「縮み側(図8(A)図参照)」を、改良前のダンパー(図8(A)図破線A参照))に対して漸増減衰型の減衰特性(図8(A)図実線B参照)にする。また、低速コーナに進入してからは、車体の前側に重心をかけた姿勢を維持させるために、ダンパーの「伸び側(図8(B)図参照)」を、改良前のダンパー(図8(B)図破線C参照))に対して初期減衰型の減衰特性(図8(B)図実線D参照)にすればよい。
【0069】
換言すれば、スポーツカー用の減衰特性は、ユーザの求める姿勢に至るまでの時間を短くし、求めた姿勢となってからは長時間姿勢が維持できるように、ダンパーの「縮み側」を漸増減衰型の減衰特性、ダンパーの「伸び側」を初期減衰型の減衰特性とし、コーナリング時タイムアップを図ることができる減衰特性に変更している。
【実施例2】
【0070】
実施例2として、貨物自動車の減衰特性の変更について、図9を参照して説明する。図9(A)図は、前輪と後輪の改良前のダンパーの減衰特性を示し(図9(A)図実線A参照)、図9(B)図は後輪(図9(B)図実線B参照)と前輪(図9(B)図破線C参照)の変更後の減衰特性をそれぞれ示している。各図の縦軸が減衰力を示し、横軸がピストンの移動速度を示している。
【0071】
まず、重量物を積んで走行し、空荷で走行し戻る陸運業界や、日常的に重量物を運んでいる建設資材運搬業界等の多様の運搬形態に対応できるように、市販されている貨物自動車の改良前のダンパーはリニア減衰型とされている(図9(A)図実線A参照)。このため、重量物を積載した状態では、減衰力が不足しがちになり、自動車の走行が不安定になることがある。
【0072】
そのため日常的に重量物を積載し続ける貨物自動車のユーザからは、走行が不安定になりにくいようにしたいというニーズがある。このニーズに対応するために、例えば、コーナリング時や高速走行時の横風による走行の不安定を抑えつつ、係る姿勢が戻るときにも急激な姿勢変化を抑制させる減衰特性が求められる。
【0073】
重量物を積んだ貨物自動車の場合には、積載荷重が集中する後輪側(図9(B)図実線B参照)を前輪側(図9(B)図破線C参照)よりも高い減衰力とすることが必要である。そのため、「縮み側」及び「伸び側」共に初期減衰型(図9(B)図の破線A、実線B参照)とし、前後、左右共に車両が傾きにくいような減衰特性とすると共に、後輪側の減衰特性を前輪側よりも大きな減衰力となる減衰特性とすればよい(図9(B)図実線B参照)。
【実施例3】
【0074】
実施例3として、大型ミニバンの減衰特性の変更について、図10を参照して説明する。図10(A)図は、改良前のダンパーの減衰特性を示し、図10(B)図は改良後のダンパーの減衰特性を示している。各図の縦軸が減衰力を示し、横軸がピストンの移動速度を示している。
【0075】
大型ミニバンの改良前のダンパーは、中・低速域の走行領域では、乗り心地を柔らかくさせるように減衰力を小さくさせ、高速域の走行領域では走行不安定にならないように、減衰力が高めに設定されている。具体的には、「伸び側(図10(A)図実線A参照)」については低速域から高速域までリニア減衰型の減衰特性としつつ、「縮み側(図10(A)図破線B参照)」については漸増減衰型の減衰特性とされている。
【0076】
しかし、一般路を走行する際の、ふわふわした乗り心地を軽減させ、高速道路の道路継目等を乗り越える際の突上げ感を軽減したいというニーズがある。このニーズに対応するため、「縮み側(図10(B)図破線C参照)」を初期減衰型とし、低速走行時から中速走行時の減衰力を大きくさせ、高速走行時においては減衰力の変化を小さくさせると共に、「伸び側(図10(B)図実線D参照)」をリニア減衰型のまま、減衰力増加勾配を改良前のダンパーよりも大きくし、全速度域での減衰力を大きくさせればよい。
【0077】
「縮み側(図10(B)図破線C参照)」の低速から中速までの減衰力が大きく、「伸び側(図10(B)図実線D参照)」についても減衰力が大きくされているため、一般走行時の、ふわふわした乗り心地が改善され、高速走行時になってからの減衰力の変化を小さくし、突上げ感が軽減されるという減衰特性とされる(図10(B)図参照)。
(その他)
【0078】
・今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の技術的範囲は、上記した説明に限られず特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
・ユーザが自動車に求めるニーズは多様であり、その典型的な例をスポーツカー、貨物自動車、大型ミニバンを例に示したが、これに限定されないことは勿論のことである。
・減衰特性を改良させた改良後のダンパーは、前輪又は後輪のいずれかのみであってもよく、また改良の態様も限定されないことは、勿論のことである。
・上記の実施例では、6枚のシム板を使って改良後の流量調整弁を説明しているが、改良前の流量調整弁に対して、シム板の外径、枚数が決定されればよいことは勿論のことである。
・リング形状のシム板は、円形状に限定されず、楕円形状又は矩形形状であってもよく、ダンパー中心軸を囲み、オイル流出孔を覆う形状であればよい。
【符号の説明】
【0079】
1…サスペンション構造、2…車体、3…タイヤ、4…螺旋バネ、
5…ばね受板、6…カバー、7…ブラケット、
10…アウターチューブ、11…ピストン、12…ピストンロッド、13…オイル、
14…上油室、15…下油室、16…オイル流出孔、17…流量調整弁、
18…シム板、19…フリーピストン、20…気体、
21…インナーチューブ、22…ベースピストン、23…油量調整室、
30…改良後の流量調整弁、31…オイル流出孔、32…第1シム板、
33…第2シム板、34…第3シム板、
35…第1シム板、36…第2シム板、37…第3シム板、38…第4シム板、
39…第5シム板、40…第6シム板、41…シム板、
42…初期減衰型のシム板構成、43…漸増減衰型のシム板構成、
200…改良前の単筒型ダンパー、210,220…改良後の単筒型ダンパー、
300…改良前の複筒型ダンパー、310,320…改良後の複筒ダンパー、
211,311…上方端部、212…筒体、213…第1螺旋溝、
214…キャップ、215…ピストンロッド貫通孔、216…第2螺旋溝、
217,317…下方端部、218…係止孔
【要約】
【課題】ダンパーを利用して、運転支援機構を誤動作させないように、ユーザ所望の減衰性能が備えられ、サスペンションの元の位置に復帰される改良後のダンパーを提供する。
【解決手段】
ダンパーのアウターチューブ10の端部が切断され、その端部が筒体212とキャップ214とにより閉鎖可能な開放端部とされ、筒体212の周囲が開放端部に溶接されていると共に、筒体212の内周面に備えさせた第1螺旋溝に、キャップ214の外周面に備えさせた第2螺旋溝を螺合可能とさせ、開放端部から引き抜かれた減衰機構の2つのオイル室をつなぐオイル流出孔を覆う流量調整弁を交換させた減衰機構が、アウターチューブ10に挿入・格納されてから、第1螺旋溝に第2螺旋溝が螺合されて開放端部が閉鎖されてから、ダンパーが装着されていた元の位置に復帰されるダンパー、ダンパー改良方法および自動車とした。
【選択図】図7
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10