IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人名古屋大学の特許一覧

<>
  • 特許-薄膜形成方法 図1
  • 特許-薄膜形成方法 図2
  • 特許-薄膜形成方法 図3
  • 特許-薄膜形成方法 図4
  • 特許-薄膜形成方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】薄膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/00 20060101AFI20240829BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20240829BHJP
   C01B 32/159 20170101ALI20240829BHJP
   C01B 32/168 20170101ALI20240829BHJP
【FI】
B05D3/00 A
B05D1/36 Z
C01B32/159
C01B32/168
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020009995
(22)【出願日】2020-01-24
(65)【公開番号】P2021116201
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】廣谷 潤
(72)【発明者】
【氏名】大町 遼
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-145027(JP,A)
【文献】特開2009-084083(JP,A)
【文献】特開2013-033962(JP,A)
【文献】特開2003-109933(JP,A)
【文献】特開2017-200871(JP,A)
【文献】特開2004-142097(JP,A)
【文献】特表2010-517900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00-7/26
C01B32/00-32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面にカーボンナノチューブが分散された分散液を与える工程と、
前記基板の表面が濡れた状態を維持しながら、前記基板の表面上の前記分散液を液体に置換する工程と、
前記基板の表面上の前記液体を超臨界流体を用いて乾燥させ、前記基板の表面にカーボンナノチューブの薄膜を形成する工程と、を備えることを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項2】
前記置換する工程において、前記基板の表面に吸着していない余分なカーボンナノチューブが除去されることを特徴とする請求項1に記載の薄膜形成方法。
【請求項3】
前記液体は、アルコールであり、前記超臨界流体は、二酸化炭素であることを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜形成方法。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブの薄膜の厚さは、5nm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の薄膜形成方法。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブは、半導体型であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の薄膜形成方法。
【請求項6】
前記基板の表面に前記カーボンナノチューブを吸着する吸着基を形成する工程をさらに備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の薄膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カーボンナノチューブの薄膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンナノチューブの半導体特性を利用した薄膜トランジスタの開発が進められている。カーボンナノチューブには金属型と半導体型の2種類があり、一般的なカーボンナノチューブの製造方法では金属型と半導体型が混在した状態となる。一方、薄膜トランジスタに使用するカーボンナノチューブには半導体型のみが含まれることが好ましい。そこで、金属型と半導体型のカーボンナノチューブを液相で分離し、得られたカーボンナノチューブ溶液を用いて薄膜を形成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-168018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トランジスタのチャネル層を構成するカーボンナノチューブが束状に凝集して厚さ方向に重なると、トランジスタのオンオフ比が低下する現象が知られている。厚さ方向の重なりが少ないカーボンナノチューブ薄膜を形成できることが好ましい。
【0005】
本開示はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的の一つは、厚さ方向の重なりが少ないカーボンナノチューブ薄膜を形成する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある態様の薄膜形成方法は、基板の表面にカーボンナノチューブおよび液体を与える工程と、液体を超臨界流体を用いて乾燥させ、基板の表面にカーボンナノチューブの薄膜を形成する工程と、を備える。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本開示の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、厚さ方向の重なりが少ないカーボンナノチューブ薄膜を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(a)~(e)は、実施の形態に係る薄膜形成方法の流れを概略的に示す図である。
図2図2(a),(b)は、カーボンナノチューブ薄膜のAFM画像である。
図3】カーボンナノチューブ薄膜の厚さの分布を示すグラフである。
図4】実施の形態に係るトランジスタの構造を概略的に示す断面図である。
図5図5(a),(b)は、トランジスタの動作特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、本開示の概要を説明する。本開示は、基板の表面にカーボンナノチューブの薄膜を形成する方法に関する。本開示では、カーボンナノチューブが分散された分散液を基板の表面に塗布してカーボンナノチューブ薄膜を形成する。分散液に含まれるカーボンナノチューブは、基板表面にあらかじめ形成されるアミノ基などの吸着基に吸着して基板の表面に堆積する。その後、基板表面を洗浄および乾燥することで余分なカーボンナノチューブなどが除去され、基板の表面にカーボンナノチューブ薄膜が形成される。
【0011】
本開示では、トランジスタのチャネル層に適用可能な半導体型のカーボンナノチューブ薄膜の形成を目的とする。従来の課題として、チャネル層を構成するカーボンナノチューブが凝集して束状になる(バンドル化する)と、トランジスタのオンオフ比が低下する現象が知られている。また、トランジスタを集積化する場合にカーボンナノチューブ薄膜の面内均一性が乏しいと、トランジスタの動作特性にばらつきが生じてしまう。本開示では、これらの課題に対し、基板表面を超臨界流体を用いて乾燥させることにより、厚さ方向の重なりが少ないカーボンナノチューブ薄膜が面内に均一に形成されるようにする。
【0012】
以下、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態について詳細に説明する。なお、説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0013】
図1(a)~(e)は、実施の形態に係る薄膜形成方法の流れを概略的に示す図である。まず、図1(a)に示すように、基板10の表面12にカーボンナノチューブを吸着する性質を有する吸着基14を形成する。吸着基14の一例は、窒素原子を含む官能基であり、例えば、アミノ基(-NH、-NHRまたは-NRR)、シアノ基(-CN)、イミノ基(-C=NHまたは-C=NR)である。吸着基14として、カーボンナノチューブを吸着しうる他の官能基を用いてもよく、カーボンナノチューブのπ電子と相互作用する芳香族性の官能基を用いてもよいし、他の金属原子を用いてもよい。
【0014】
基板10は、シリコンなどの無機材料や樹脂などの有機材料で構成される。基板10が無機材料の場合、基板10の表面12を酸化させ、酸化した表面12に吸着基14を有するシランカップリング剤を反応させることで、基板10の表面12に吸着基14を形成できる。基板10が有機材料の場合、基板10の表面12に吸着基14を有する樹脂層を形成してもよい。
【0015】
次に、図1(b)に示すように、容器30の内側に吸着基14を形成した基板10を配置する。つづいて、図1(c)に示すように、容器30の内側にカーボンナノチューブ20が分散された分散液22を入れる。これにより、基板10の表面12にカーボンナノチューブ20が分散された分散液22が与えられる。分散液22に含まれるカーボンナノチューブ20の少なくとも一部は、基板10の表面12に形成される吸着基14に吸着して基板10の表面12に堆積する。
【0016】
分散液22の溶媒の種類は特に問わないが、例えば水である。したがって、分散液22の一例は、カーボンナノチューブ20が分散された水溶液である。分散液22は、例えば、半導体型の単層カーボンナノチューブ(SWCNT)のみを含み、多層カーボンナノチューブや金属型の単層カーボンナノチューブが実質的に含まないように構成される。分散液22に含まれる半導体型の単層カーボンナノチューブの含有率は、例えば90%以上であり、95%以上または99%以上であることが好ましい。
【0017】
次に、図1(d)に示すように、容器30の内側の分散液22を有機溶媒24に置換する。分散液22を有機溶媒24に置換することで、基板10の表面12にカーボンナノチューブ20および有機溶媒24が与えられる。有機溶媒24は、二酸化炭素の超臨界流体を用いた乾燥工程に適した液体であり、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコールである。分散液22を有機溶媒24に置換する工程では、基板10の表面12が洗浄され、吸着基14に吸着していない余分なカーボンナノチューブ20が除去される。分散液22を有機溶媒24に置換する工程は、基板10の表面12に液体が接触した状態、つまり、基板10の表面12の全体が濡れている状態が維持されることが好ましい。
【0018】
次に、図1(e)に示すように、基板10および有機溶媒24が入った容器30を圧力チャンバ32の内部に配置し、圧力チャンバ32の内部に超臨界流体26を供給する。超臨界流体26は、例えば、二酸化炭素(CO)である。二酸化炭素は、約31℃の臨界温度および約7.4MPaの臨界圧力を超える領域において超臨界状態となる。圧力チャンバ32の内部に超臨界流体26を供給し、有機溶媒24を超臨界流体26に置換することで基板10の表面12から有機溶媒24を除去し、基板10の表面12を乾燥させることができる。これにより、基板10の表面12が乾燥したカーボンナノチューブ薄膜を形成できる。
【0019】
本実施の形態によれば、超臨界流体を用いて基板10の表面12を乾燥させることで、カーボンナノチューブ20と有機溶媒24の間で作用する表面張力によって表面12に吸着するカーボンナノチューブ20が乾燥工程において凝集する影響を低減できる。また、超臨界流体を用いることで、有機溶媒24に残存する余分なカーボンナノチューブを除去することができる。その結果、基板10の表面12においてカーボンナノチューブが束状に凝集(バンドル化)して厚さ方向に重なる影響を軽減できる。
【0020】
図2(a),(b)は、カーボンナノチューブ薄膜の原子間力顕微鏡(AFM)画像である。画像において白色で繊維状に見える部分がカーボンナノチューブである。図2(a)は、超臨界流体を用いて基板10の表面12を乾燥させた場合を示し、図2(b)は、超臨界流体を用いずに基板10の表面12を乾燥させた場合を示す。図示されるように、図2(a)では厚さ方向のカーボンナノチューブの重なりが相対的に少ないのに対し、図2(b)では厚さ方向のカーボンナノチューブの重なりが相対的に多いことが分かる。このように、超臨界流体を用いて基板10の表面12を乾燥させることにより、カーボンナノチューブがバンドル化を抑制できることが分かる。
【0021】
図3は、カーボンナノチューブ薄膜の厚さの分布を示すグラフである。図3は、カーボンナノチューブ薄膜の厚さを複数箇所で測定し、厚さを0.25nmごとに集計したものである。グラフAは、図2(a)の超臨界流体を用いて乾燥した場合を示し、グラフBは、図2(b)の超臨界流体を用いずに乾燥した場合を示す。図示されるように、グラフAの分布は、グラフBの分布に比べて左側に位置しており、グラフAの厚みの分布が全体的に小さいことが分かる。グラフAでは、分布の全体を5nm以下とすることができ、分布の大半を2nm以下または1.5nm以下の範囲に収めることができる。カーボンナノチューブの直径は1nm程度であるため、本実施の形態によれば、カーボンナノチューブのバンドル化を好適に抑制できる。
【0022】
図4は、実施の形態に係るトランジスタ40の構造を概略的に示す断面図である。トランジスタ40は、基板42と、絶縁層44と、カーボンナノチューブ薄膜46と、ゲート電極48と、ソース電極50と、ドレイン電極52と、を備える。
【0023】
基板42は、例えばp型のシリコン基板である。絶縁層44は、基板42の表面に形成される。絶縁層44は、例えば酸化シリコンであり、シリコン基板の表面を酸化させることで形成できる。カーボンナノチューブ薄膜46は、絶縁層44の表面に形成される。絶縁層44の表面にはアミノ基などの吸着基が形成される。カーボンナノチューブ薄膜46は、トランジスタ40のチャネル層として機能する半導体層である。カーボンナノチューブ薄膜46は、上述の方法を用いて絶縁層44の表面に形成することができる。ゲート電極48は、基板42の裏面に形成される。ソース電極50およびドレイン電極52は、カーボンナノチューブ薄膜46の上にチャネル長Lchに対応する間隔を空けて形成される。
【0024】
図5(a),(b)は、トランジスタ40の動作特性を示すグラフであり、同一基板上に形成した複数のトランジスタ40の動作特性を示している。グラフの横軸はゲート-ソース間の電圧VGSであり、グラフの縦軸はドレイン-ソース間を流れる電流IDSである。グラフは、ドレイン-ソース間の電圧VDSを-5Vとし、トランジスタ40のチャネル長Lchを100μmとしている。
【0025】
図5(a)は、トランジスタ40のカーボンナノチューブ薄膜46を超臨界流体を用いて乾燥させた場合を示し、図5(b)は、超臨界流体を用いずに乾燥させた場合を示す。図5(a)に示されるように、超臨界流体を用いてカーボンナノチューブ薄膜46を乾燥させた場合、動作特性のばらつきが図5(b)に比べて小さいことが分かる。トランジスタ40のオン電流のばらつき(標準偏差/平均値)は、図5(b)の場合には24.8%であるのに対し、図5(a)の場合には7.5%である。本実施の形態によれば、超臨界流体を用いてカーボンナノチューブ薄膜46を乾燥させることで、カーボンナノチューブ同士の重なりが小さいカーボンナノチューブ薄膜46を均一に形成することができ、トランジスタ40の動作特性のばらつきを低減できる。
【0026】
以上、本開示を実施の形態にもとづいて説明した。本開示は上記実施の形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0027】
上述の実施の形態では、カーボンナノチューブ20が分散された分散液22を有機溶媒24に置換してから超臨界流体26を用いた乾燥工程を実行する場合について示した。変形例においては、分散液22を有機溶媒24に置換することなく乾燥工程が実行されてもよい。つまり、基板10の表面12が分散液22で濡れている状態を生成し、基板10の表面12に存在する分散液22を超臨界流体を用いて乾燥させてもよい。変形例では、基板10の表面12にカーボンナノチューブ20と何らかの液体を与えた状態を生成し、基板10の表面12に接触する液体を超臨界流体を用いて乾燥させることで、カーボンナノチューブ薄膜が形成されてもよい。
【0028】
上述の実施の形態では、容器30の内側に基板10と分散液22を入れることで、基板10の表面12に分散液22を与える場合について示した。変形例においては、容器30を使用せずに基板10の表面12に分散液22を滴下してもよい。その他、圧力チャンバ32を容器30として使用してもよく、圧力チャンバ32の内部で図1(a)~(d)の少なくとも一部の工程が実行されてもよい。
【0029】
上述の実施の形態では、超臨界流体として二酸化炭素を使用する場合について示した。変形例においては、超臨界流体として、水やアルコール、炭化水素などの他の物質を用いてもよい。
【0030】
上述の実施の形態では、カーボンナノチューブ薄膜をトランジスタ40の半導体層(チャネル層)として用いる場合について示した。変形例においては、カーボンナノチューブ薄膜を任意の用途に用いてもよい。例えば、カーボンナノチューブ薄膜をセンサとして利用してもよい。また、カーボンナノチューブ薄膜は、金属型のカーボンナノチューブのみを実質的に含むように構成されてもよいし、金属型と半導体型が混在するように構成されてもよい。
【符号の説明】
【0031】
10…基板、12…表面、14…吸着基、20…カーボンナノチューブ、22…分散液、24…有機溶媒、26…超臨界流体。
図1
図2
図3
図4
図5