(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】プレス装置
(51)【国際特許分類】
B30B 15/06 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
B30B15/06 G
(21)【出願番号】P 2020091759
(22)【出願日】2020-04-21
【審査請求日】2023-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】392017222
【氏名又は名称】太陽工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 信彦
【審査官】齋藤 健児
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-246464(JP,A)
【文献】特開2011-092946(JP,A)
【文献】特表2012-532760(JP,A)
【文献】特開2014-205175(JP,A)
【文献】特公昭54-041682(JP,B1)
【文献】国際公開第2014/162350(WO,A1)
【文献】特開2014-237164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライドの上下動を利用してプレス成形するプレス装置において、スライドが
上部スライドと下部スライドとに分離可能に形成されており、
前記両スライドは伸縮自在な手段により連結されていて、ロック機構により前記両スライドが分離および一体化可能となるよう構成され、前記下部スライドは前記ロック機構が解除された際に前記下部スライド自体の自重による自由落下により増速することを特徴とするプレス装置。
【請求項2】
前記スライド下降時
、上死点をクランク軸角度0度と定めた時のクランク軸角度90度付近において前記ロック機構が解除されて前記下部スライドが前記上部スライドから分離・増速され、前記下部スライドに取り付けられた上型がボルスタ上の下型に衝突した後、下死点付近において
前記ロック機構が作動して前記下部スライドが前記上部スライドと一体化されることを特徴とする請求項
1記載のプレス装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス速度を高めることのできるプレス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板を成形するためにプレス装置が使用される。一般的なプレス装置では、クランクや偏心軸等の回転力を直線的な力に変換してスライドを上下に駆動し、スライドに固定した上型とボルスタ上の定位置に固定された下型とを結合させることにより被加工物を成形する。このようなプレス装置においては、スライドは上下の往復運動を行ない、上死点と下死点との間を往復する。従って、スライドの速度は上死点と下死点の中間点付近において最も早く、上死点及び下死点においてはゼロとなる。一方、下型はスライドの下死点付近に設置されるため、上型と下型が結合する際の相対的速度はゼロに近くなる。
【0003】
近年では種々の金属材料に対する成形の需要が高まっており、種類によっては高速で成形することにより特別の特性を得られる場合がある。このような高速のプレス成形に関して、例えば特許文献1においては、下部衝撃受台に液圧シリンダーを接続し、上部衝撃ハンマーの下降と同時に下部衝撃受台を急上昇させてプレス成形の速度を高速化する方法が示されている。この技術の場合、成形速度はハンマーのみによる場合に比べて高くなるが、重力に反してシリンダーにより受台を上昇させる速度は限定的である。
【0004】
また特許文献2には、上下動するすべりこに自由落下可能なスライドヘッドを連結し、すべりこ下降時にスライドヘッドが自由落下する打撃装置が開示されている。この方法では、スライドヘッドのガイド機構が不十分なため横方向の位置精度を確保することができず、上下金型によるプレス装置にはできない。
【文献】
【0005】
【文献】特開昭59-137143号公報
【文献】特開平8-33939号公報
【0006】
これとは別に、「衝撃塑性加工」(2017年コロナ社刊)には、衝撃加工の例として圧縮空気によりハンマーを加速し、これで密閉器内の水を打撃して衝撃圧力を発生させる衝撃液圧成形装置が紹介されている。この装置の場合、液圧を通して成形することになるため構造や制御が複雑となることが考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述の問題点に鑑みて、構造が単純でプレス成形速度を高めることができ、しかも量産に適したプレス装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明によるプレス装置は、スライドが上部スライドと下部スライドとに分離可能に形成されており、前記両スライドは伸縮自在な手段により連結されていて、ロック機構により前記両スライドが分離および一体化可能となるよう構成され、前記下部スライドは前記ロック機構が解除された際に前記下部スライド自体の自重による自然落下により増速することを特徴とする。
【0009】
前記ロック機構は、前記スライド下降時にクランク軸角度90度付近において解除されて前記下部スライドが前記上部スライドから分離・増速され、前記下部スライドに取り付けられた上型がボルスタ上の下型に衝突した後、下死点付近において前記ロック機構が作動して前記下部スライドが前記上部スライドと一体化されることが好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるプレス装置では、電磁石等のロック機構によりシリンダを用いて前記上部スライドと下部スライドが分離および一体化可能となるよう構成することにより、スライド下降時に下部スライドを分離・加速することができ、これによりプレス成形速度を高速化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例】
【0011】
以下、実施例に基づいて本発明の好適な実施態様について説明する。
図1に本発明によるプレス装置実施例の主要部を示した。この図は、クランク軸2の0度の位置(上死点)を示す。フレーム1上部に回転可能に取り付けられたクランク軸2に対して、コンロッド3を通じてスライドが連結されている。このスライドは、上部スライド11と下部スライド12とに上下に分割されており、2基のシリンダ13の伸縮により下部スライド12が上部スライド11から下方に分離可能とされている。上部スライド11と下部スライド12とは、電磁石等のロック機構により分離している場合以外はロックされていることが望ましい。下部スライド12下面には上型21が取り付けられている。一方、フレーム1下部に設置されたボルスタ4上には下型22が取り付けられており、上型21と結合可能に設定されている。上型21と下型22との間には、被加工部材の搬入・搬出が容易となるよう所定の間隔が設けてある。
【0012】
図2は、上記実施例におけるクランク軸2角度90度付近の場合を示す。0度から90度付近までは上部スライド11と下部スライド12は一体に動作する。上部スライド11の速度は、この90度付近の位置において最大となり、以降下死点に向けては減速する。
【0013】
図3は、上記実施例におけるクランク軸2角度120度付近の場合を示す。
図2のクランク軸2角度90度付近において、ロック機構が解除されてシリンダ13が伸長し、下部スライド12自体の自重による落下も加わって下部スライド12は加速する。その加速した速度のまま、クランク軸2の下死点手前において下部スライド12に取り付けられた上型21がボルスタ4上に取り付けられた下型22に接触・結合する。この際に被加工部材の成形が行なわれる。下型22との接触により下部スライド12の速度は急激に低下する。
【0014】
図4は、上記実施例におけるクランク軸2角度180度の場合(下死点)を示す。下死点において、急減速した下部スライド12は、90度付近の位置から徐々に減速してきた上部スライド11と一体となり、この時点において再度ロックが作動する。下死点手前において上部スライド11と下部スライド12との距離は短縮されるため、それにつれてシリンダ13も収縮する。下死点以降は、一体となった上部スライド11および下部スライド12はクランク軸2の回転に伴って上死点まで移動する。
【0015】
上記実施例においては、上型21は下部スライド12に取り付けられているが、下部スライド12とは別に設けることも可能である。その場合は、下部スライド12下面に上型21を打撃するプレートを設置する。また、回転軸としてクランク軸2を使用したが、偏心軸を用いることもできる。さらに、上記実施例では下死点において上部スライドと下部スライドを一体化する構成であるが、下部スライド12は上部スライド11から分離された後、シリンダ13の推力と自由落下の重力が負荷されるため、上部スライド11が下死点に達するより早く下型22に接触する。従って、上部スライド11が下死点に達する前にシリンダ13を収縮させて下部スライドと一体化することもできる。このように上部スライド11と下部スライド12の一体化は下死点付近において行なうことが好適である。上下スライドを連結する伸縮手段として上記実施例ではシリンダを用いた。このシリンダとしては、空気圧、ガス圧、油圧などが利用できる。また、既存の技術によりシリンダ以外の伸縮手段を利用することができることももちろんである。
【0016】
前にも述べたように、一般的なプレス装置においては、スライドの速度はクランク軸(偏心軸)が90度付近のときに最大となり、実際に被加工部材を成形する際は速度が低下している。しかしながら本発明によるプレス装置では、スライド速度が最大(クランク軸90度付近)の時に下部スライドを分離しさらに加速するため、高速での成形が可能となる。
【0017】
上記実施例における下部スライド12の速度をクランク軸90度付近においてA、下部スライド12分離から下型接触までの自由落下による終端速度をB、さらに上部スライド11と下部スライド12を連結しているシリンダ13による増速分をCとすると、下部スライド12の最終速度S=A+B+C>>Aとなり、通常のプレスにおける速度よりも高速とすることができる。下部スライド12には自由落下の速度が付加されるため、スライド自体の重量を重くした方が衝撃力が高くなる。上記実施例では、クランク軸による駆動方式について説明したが、サーボモーター或いはリンク機構による駆動を用いた場合、スライドの速度をより早く最高速にすることも可能である。その場合、下部スライドの分離をより早く行なうことができ、それにより下部スライドの落下距離を長くして下型への衝突速度を上げることも可能である。このように、本発明はクランク軸以外の駆動によるプレス装置にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0018】
以上述べたように、本発明によるプレス装置では、スライドを上下に分割し下部スライド11を加速することにより、高速でのプレス成形が可能となる。いわゆる衝撃成形と呼ばれる加工方法が複雑でない機構により実現できるため、プレス成形の分野において大いに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明によるプレス装置の実施例主要部を示す断面図である。クランク軸角度0度の場合を示す。
【
図2】
図1に示した実施例におけるクランク軸角度90度付近の場合である。
【
図3】
図1に示した実施例におけるクランク軸角度120度付近の場合である。
【
図4】
図1に示した実施例におけるクランク軸角度180度の場合である。
【符号の説明】
【0020】
1: フレーム
2: クランク軸
3: コンロッド
4: ボルスタ
11: 上部スライド
12: 下部スライド
13: シリンダ
14: スライドガイド
21: 上型
22: 下型