(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】締結構造体
(51)【国際特許分類】
F16B 39/30 20060101AFI20240829BHJP
F16B 39/18 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
F16B39/30 C
F16B39/18
(21)【出願番号】P 2020095785
(22)【出願日】2020-06-01
(62)【分割の表示】P 2019235775の分割
【原出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-12-23
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】391006636
【氏名又は名称】ハードロック工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107593
【氏名又は名称】村上 太郎
(72)【発明者】
【氏名】若林 克彦
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-512807(JP,A)
【文献】特開2018-100765(JP,A)
【文献】特開昭51-121651(JP,A)
【文献】特開2016-038083(JP,A)
【文献】米国特許第01369156(US,A)
【文献】特開平07-197924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 39/30
F16B 39/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄ねじが外周面に形成されたねじ軸を有するボルトと、前記雄ねじに螺合する雌ねじが内周面に形成されたねじ孔を有する第1のナットと
、前記雄ねじに螺合する雌ねじが内周面に形成されたねじ孔を有する第2のナットとを備え
、第1のナットは、第2のナットに向かって軸方向に突出する凸部を有し、該凸部は、所定のテーパー角を有するテーパー状外周面を有しており、第1のナットの前記ねじ孔は前記凸部を軸方向に沿って貫通しており、第2のナットは、前記凸部が嵌合する凹部を有し、該凹部は、所定のテーパー角を有するテーパー状内周面を有しており、
前記凸部のテーパー状外周面が第1のナットのねじ孔に対して偏心されているか、若しくは、前記凹部のテーパー状内周面が第2のナットのねじ孔に対して偏心されており、前記凸部のテーパー状外周面部分が第1のナットのねじ孔に対して偏心されている場合には前記凹部のテーパー状内周面部分が第2のナットのねじ孔に対して同心状であり、前記凹部のテーパー状内周面部分が第2のナットのねじ孔に対して偏心されている場合には、前記凸部のテーパー状外周面部分が第1のナットのねじ孔に対して同心状であり、
前記ねじ軸に螺着された第1のナットの前記凸部と前記ねじ軸に螺着された第2のナットの前記凹部とが偏心嵌合した状態で、第1及び第2のナットに前記偏心方向に沿う押圧力が生じるように周方向一部において前記テーパー状外周面と前記テーパー状内周面とが干渉するとともに、前記凸部の前記凹部に対する嵌合深さが大きい程前記押圧力が大きくなるように構成されており、
前記雄ねじの圧縮側フランク面及び遊び側フランク面はいずれも、軸心に沿う断面において直線状に形成されている締結構造体において、
第1のナットの前記雌ねじの圧縮側フランク面及び
第1のナットの前記雌ねじの遊び側フランク面のうち少なくとも一つは、軸方向に沿う断面において凸円弧形状を有する
とともに、第2のナットの前記雌ねじの圧縮側フランク面及び第2のナットの前記雌ねじの遊び側フランク面のうち少なくとも一つは、軸方向に沿う断面において凸円弧形状を有する、締結構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナット及びボルトを締結してなる締結構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
本願出願人は、従来より、高い緩み止め機能を発揮する緩み止めナットであるハードロックナット(「ハードロック」及び「HARDLOCK」は本願出願人の商標)の開発を行っており、例えば後述の特許文献1に開示している。
【0003】
このハードロックナットは、特許文献1の
図5に示されるように、ボルトのねじ軸(1)に螺合するねじ孔(21)を有する第1のナット(2)と、ねじ軸(1)に螺合するねじ孔(31)を有する第2のナット(3)とから構成される。
【0004】
第1のナット(2)は、第2のナット(3)に向かって軸方向に突出する円錐台形状の凸部(22)を有する凸ナットである。凸部(22)は、先端側に至るにしたがって徐々に小径となる所定のテーパー角を有するテーパー状外周面を有する。ナット(2)のねじ孔(21)は凸部(22)を軸方向に沿って貫通している。
【0005】
第2のナット(3)は、凸ナット(2)の凸部(22)が嵌合する凹部(32)を有する凹ナットである。凹部(32)は、凸部(22)の外周面のテーパー角に適合するテーパー角、好ましくは同じテーパー角を有するテーパー状内周面を有する。ナット(3)のねじ孔(31)は凹部(32)の底面に開口している。
【0006】
ハードロックナットでは、凸ナット(2)の凸部(22)と凹ナット(3)の凹部(32)とを偏心嵌合させることによって、恰もねじ軸(1)とナット(2,3)との間にクサビを打ち込んだような応力状態を生じさせ、かかるクサビ作用により強力な緩み止め効果を発揮させている。
【0007】
なお、凸ナット(2)及び凹ナット(3)のいずれか一方を下ナットとしてねじ軸(1)に締結し、他方を上ナットとしてねじ軸(1)に締結してもよいが、特許文献1の
図5に示される構造では、凸ナット(2)が下ナットとして用いられ、凹ナット(3)が上ナットとして用いられている。
【0008】
凸部(22)と凹部(32)との偏心嵌合は、凸ナット(2)の凸部(22)の外周面をねじ孔(21)に対して偏心させて形成するか、或いは、凹ナット(3)の凹部(32)の内周面をねじ孔(31)に対して偏心させて形成することによって実現される。凸部(22)の外周面をねじ孔(21)に対して偏心させた場合は、凹部(32)の内周面とねじ孔(31)とを同心状とする。一方、凹部(32)の内周面をねじ孔(31)に対して偏心させた場合は、凸部(22)の外周面とねじ孔(21)とを同心状とする。
【0009】
ハードロックナットでは、凸部(22)と凹部(32)との偏心嵌合によって強力なクサビ作用を生じさせるように、ねじ軸(1)に螺合された凸ナット(2)の凸部(21)と凹ナット(3)の凹部(32)とが偏心嵌合した状態で、これらナット(2,3)に前記偏心方向に沿う押圧力が生じるように凸部(21)の外周面と凹部(32)の内周面とが周方向一部において干渉する。さらに、凸部(21)の凹部(32)に対する嵌合深さが大きい程、上記の偏心方向に沿う押圧力が大きくなる。
【0010】
一方、ねじ軸(1)の雄ねじ、並びに、各ナット(2,3)の雌ねじは、ISO規格等
の要求される規格に沿った寸法公差の範囲内の寸法精度で形成される。雄ねじ及び雌ねじの寸法公差は、ボルトのねじ軸に対してナットを螺着可能なように定められる。一般的なメートルねじにおいては、雄ねじの寸法公差は例えばJIS B0209-2:2001(ISO 965-2:1998)
6g の公差域クラスであり、雌ねじの寸法公差は例えばJIS B0209-2:2001(ISO 965-2:1998) 6H の公差域クラスである。その結果、雄ねじと雌ねじとの間には遊びが生じる。
【0011】
雄ねじと雌ねじとの間に遊びが存在すると、振動によって下ナット(2)の座面圧が断続的に消失する状況では、特許文献1に言及されているように、周方向一部における凸部(22)と凹部(32)との干渉による押圧力が、下ナット(2)の水平方向の微小移動によって消失し、その結果、凹凸偏心嵌合による緩み止め作用も消失してしまうことがある。
【0012】
また、凸ナットを下ナットとしてねじ軸に締結した後、凹ナットを上ナットとして締結していくと、上記遊びの範囲内で上ナットが傾き、実際の締結状態においては特許文献2の第1図に示されるように上ナットがねじ軸及び下ナットに対して傾いた状態となる。このように上ナットが傾いた状態で締結されると、凸部の外周面と凹部の内周面との接触圧が凸部の先端部近傍に集中してしまい、上記クサビ作用を生じさせるための押圧力を軸方向の広い範囲に分散させて下ナットに作用させることが困難となる。さらに、傾いた状態で締結された上ナットにおいても、その雌ねじとねじ軸の雄ねじとの接触状態が軸方向位置によって不均一となり、クサビ作用を生じさせるための押圧力が上ナットの軸方向にそって不均一に作用することとなる。
【0013】
雄ねじと雌ねじとの間の遊び量を可能な限り小さくすれば上ナットの傾きは抑制されるが、呼び径M4以上のサイズのナットにおいて、JIS B0209-2:2001(ISO 965-2:1998) 6H/6gの公差域クラスより厳しい寸法許容差で一般的なねじ山形状の雄ねじ及び雌ねじを製作すると、ねじ軸にナットを締結できなくなる可能性がある。
【0014】
特許文献3~9には、フランク面に凸曲面乃至凸部が設けられたねじ形状が開示されている。
【0015】
より詳細には、特許文献3には、一方のフランク面に「こぶ16」を設けることによって雄ねじと雌ねじとの間の遊びを無くし、これにより緩み止めを行うことが開示されている。
【0016】
特許文献4には、ボルト軸の雄ねじのフランク面を、雌ねじよりも緩い傾斜の頂側フランク面(13)と、雌ねじよりも急傾斜の谷側フランク面(12)とから構成し、これらを円弧面(15)で接続して、この円弧面部分を雌ねじに干渉させることで緩み止めを行う技術が開示されている。
【0017】
特許文献5には、ナットの雌ねじの端部において圧縮側フランクに凸部(9)を設け、締結完了時に雌ねじの端部を変形させることによって、雌ねじの遊び側フランクを雄ねじの遊び側フランクに押圧させ、これにより緩みを防止する技術が開示されている。
【0018】
特許文献6には、ナットに締結した状態でナットとの接触面積を高め、ナットとの締結部に流れる電流量を増大させるためのアース用ボルトが開示されている。このアース用ボルトは、ねじ山の頭部側フランク面(15a)に形成された凸条部(18)を有している。
【0019】
特許文献7には、雄ねじ又は雌ねじの圧縮フランクに凸曲面を設けることにより緩み止めをする技術が開示されている。
【0020】
特許文献8には、雄ねじのフランク面を凸曲面により構成する一方、雌ねじのフランク面は雄ねじの凸曲面に適合する凹曲面により構成し、これによりねじ接合の強度を高める技術が開示されている。
【0021】
特許文献9には、ねじ山を傾いた形状に形成しておき、締結完了時にねじ山が変形することで圧縮側フランク面同士のみならず遊び側フランク面同士も接触させ、これにより緩み止めを行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【文献】特開2016-125622号公報
【文献】特開昭61-244912号公報
【文献】特表2001-512807号公報
【文献】特開2019-113156号公報
【文献】特開2018-100765号公報
【文献】特開2015-137700号公報
【文献】特表2013-543962号公報
【文献】特開2008-151346号公報
【文献】特開2014-206234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は、凸曲面からなるフランク面の形状の最適化、特に本願出願人が製造販売するハードロックナットにおけるねじ山形状の最適化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明による締結構造体は、雄ねじが外周面に形成されたねじ軸を有するボルトと、前記雄ねじに螺合する雌ねじが内周面に形成されたねじ孔を有する第1のナットとを備える。前記雄ねじの圧縮側フランク面、前記雄ねじの遊び側フランク面、前記雌ねじの圧縮側フランク面及び前記雌ねじの遊び側フランク面のうち少なくとも一つは、軸方向に沿う断面において凸円弧形状を有する。締結構造体は、前記雄ねじに螺合する雌ねじが内周面に形成されたねじ孔を有する第2のナットをさらに備えることができる。
【0025】
本発明の一態様において、第1のナットは、第2のナットに向かって軸方向に突出する凸部を有していてよい。該凸部は、所定のテーパー角を有するテーパー状外周面を有していてよい。第1のナットの前記ねじ孔は前記凸部を軸方向に沿って貫通していてもよい。第2のナットは、前記凸部が嵌合する凹部を有していてよい。該凹部は、所定のテーパー角を有するテーパー状内周面を有していてよい。第2のナットの前記ねじ孔は前記凹部の底面に開口していてよい。
【0026】
前記凸部のテーパー状外周面が第1のナットのねじ孔に対して偏心されているか、若しくは、前記凹部のテーパー状内周面が第2のナットのねじ孔に対して偏心されていてよい。前記凸部のテーパー状外周面が第1のナットのねじ孔に対して同心状であるか、若しくは、前記凹部のテーパー状内周面が第2のナットのねじ孔に対して同心状であってよい。すなわち、前記凸部のテーパー状外周面部分が第1のナットのねじ孔に対して偏心されている場合には、前記凹部のテーパー状内周面部分が第2のナットのねじ孔に対して同心状とすることができる。一方、前記凹部のテーパー状内周面部分が第2のナットのねじ孔に対して偏心されている場合には、前記凸部のテーパー状外周面部分が第1のナットのねじ孔に対して同心状であってよい。
【0027】
そして、第1の態様による締結構造体は、前記ねじ軸に螺着された第1のナットの前記凸部と前記ねじ軸に螺着された第2ナットの前記凹部とが偏心嵌合した状態で、第1及び第2のナットに前記偏心方向に沿う押圧力が生じるように周方向一部において前記テーパー状外周面と前記テーパー状内周面とが干渉するとともに、前記凸部の前記凹部に対する嵌合深さが大きい程前記押圧力が大きくなるように構成されていることが好ましい。
【0028】
本発明の別の態様において、第2のナットは、第1のナットに向かって軸方向に突出する凸部を有していてよい。該凸部は、所定のテーパー角を有するテーパー状外周面を有していてよい。第2のナットの前記ねじ孔は前記凸部を軸方向に沿って貫通していてよい。第1のナットは、前記凸部が嵌合する凹部を有していてよい。該凹部は、所定のテーパー角を有するテーパー状内周面を有していてよい。第1のナットの前記ねじ孔は前記凹部の底面に開口していてよい。
【0029】
前記凸部のテーパー状外周面が第2のナットのねじ孔に対して偏心されているか、若しくは、前記凹部のテーパー状内周面が第1のナットのねじ孔に対して偏心されていてよい。前記凸部のテーパー状外周面が第2のナットのねじ孔に対して同心状であるか、若しくは、前記凹部のテーパー状内周面が第1のナットのねじ孔に対して同心状であってよい。すなわち、前記凸部のテーパー状外周面部分が第2のナットのねじ孔に対して偏心されている場合には、前記凹部のテーパー状内周面部分が第1のナットのねじ孔に対して同心状とすることができる。一方、前記凹部のテーパー状内周面部分が第1のナットのねじ孔に対して偏心されている場合には、前記凸部のテーパー状外周面部分が第2のナットのねじ孔に対して同心状であってよい。
【0030】
そして、第2の態様による締結構造体は、前記ねじ軸に螺着された第2のナットの前記凸部と前記ねじ軸に螺着された第1ナットの前記凹部とが偏心嵌合した状態で、第1及び第2のナットに前記偏心方向に沿う押圧力が生じるように周方向一部において前記テーパー状外周面と前記テーパー状内周面とが干渉するとともに、前記凸部の前記凹部に対する嵌合深さが大きい程前記押圧力が大きくなるように構成することができる。
【0031】
ねじ形状の一態様において、前記第1のナットの雌ねじの圧縮側フランク面が軸方向に沿う断面において前記凸円弧形状を有し、前記凸円弧形状の両端を通る直線が、ISO 965-2:1998(JIS B0209-2:2001) 6H の公差域クラスを満たしていてよい。この場合、好ましくは前記雄ねじの圧縮側フランク面が、軸方向に沿う断面において直線状であって、且つ、ISO 965-2:1998(JIS B0209-2:2001) 6g の公差域クラスを満たすことができる。さらに好ましくは、前記直線と前記凸円弧形状との最大距離が、前記雄ねじの圧縮側フランク面についてのISO 965-2:1998(JIS B0209-2:2001) 6g の公差域クラスにおける寸法許容差の最小値以下かつ最小値の1/2以上であってよい。これによれば、第1のナットの雌ねじの圧縮側フランク面が一般的な6Hの公差域クラスを満たす平坦面である場合に比較して、雄ねじと雌ねじとの間の遊び量を狭小化することができる。
【0032】
さらに、前記第1のナットの雌ねじの遊び側フランク面が軸方向に沿う断面において前記凸円弧形状を有し、前記凸円弧形状の両端を通る直線が、ISO 965-2:1998(JIS B0209-2:2001) 6H の公差域クラスを満たしていてよい。この場合、好ましくは前記雄ねじの遊び側フランク面が、軸方向に沿う断面において直線状であって、且つ、ISO 965-2:1998(JIS
B0209-2:2001) 6g の公差域クラスを満たすことができる。さらに好ましくは、前記直線と前記凸円弧形状との最大距離が、前記雄ねじの遊び側フランク面についてのISO 965-2:1998(JIS B0209-2:2001) 6g の公差域クラスにおける寸法許容差の最小値以下かつ最小値
の1/2以上であってよい。これによれば、前記第1のナットの雌ねじの遊び側フランク面が一般的な6Hの公差域クラスを満たす平坦面である場合に比較して、雄ねじと雌ねじとの間の遊び量を更に狭小化することができる。
【0033】
ねじ形状の別の態様において、前記第1のナットの雌ねじの圧縮側フランク面が軸方向に沿う断面において前記凸円弧形状を有し、前記凸円弧形状の中心部がISO 965-2:1998(JIS B0209-2:2001) 6H の公差域クラスを満たしていてよい。この場合、前記雄ねじの圧縮側フランク面が、軸方向に沿う断面において直線状であって、且つ、ISO 965-2:1998(JIS
B0209-2:2001) 6h の公差域クラスを満たしていてよい。これによれば、第1のナットの雌ねじの圧縮側フランク面とボルトの雄ねじの圧縮側フランク面とが、一般的な6H/6gの公差域クラスを満たす平坦面である場合に比較して、雄ねじと雌ねじとの間の遊び量を狭小化することができる。
【0034】
さらに、前記第1のナットの雌ねじの遊び側フランク面が軸方向に沿う断面において前記凸円弧形状を有し、前記凸円弧形状の中心部がISO 965-2:1998(JIS B0209-2:2001) 6H の公差域クラスを満たしていてよい。この場合、前記雄ねじの遊び側フランク面が、軸方向に沿う断面において直線状であって、且つ、ISO 965-2:1998(JIS B0209-2:2001) 6h の公差域クラスを満たすことが好ましい。これによれば、第1のナットの雌ねじの遊び側フランク面とボルトの雄ねじの遊び側フランク面とが、一般的な6H/6gの公差域クラスを満たす平坦面である場合に比較して、雄ねじと雌ねじとの間の遊び量を狭小化することができる。
【0035】
なお、凸円弧形状の中心部が所定の公差域クラスを満たすとは、その公差域クラスで許容されている範囲内に凸円弧形状の中心部が位置することを意味する。
【0036】
また、第2のナットのねじ孔の雌ねじの各フランク面も、第1のナットの雌ねじと同様の凸円弧形状を有することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、凸曲面からなるフランク面の形状の最適化、特に本願出願人が製造販売するハードロックナットにおけるねじ山形状の最適化を図ることができ、これによりさらなる緩み止め効果の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】
図1は、第1実施例に係る締結構造体の断面図である。
【
図2】
図2は、第2実施例に係る締結構造体の断面図である。
【
図3】
図3は、第3実施例に係る締結構造体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0040】
(第1実施形態)
【0041】
図1は本発明の第1実施形態に係る締結構造体1を示している。この締結構造体1は、ねじ軸1を有するボルトと、ねじ軸1に螺合するねじ孔31を有する下ナット2と、ねじ軸1に螺合するねじ孔31を有する上ナット3とから構成される。本実施形態のねじ軸1の雄ねじの圧縮側フランク面1p及び遊び側フランク面1cはいずれも、軸心に沿う断面において直線状に形成されている。
【0042】
下ナット2は、上ナット3に向かって軸方向に突出する円錐台形状の凸部22を有する
。凸部22は、ナット本体23の上面から突設されている。ナット本体23は、典型的には六角ナットの形態であるが、適宜の外周面形状を有することができる。
【0043】
凸部22の外周面は、先端側に至るにしたがって徐々に小径となる所定のテーパー角を有するテーパー状に形成されている。なお、凸部22の外周面のテーパー角は、好ましくは10°以上30°以下であり、より好ましくは15°以上25°以下であり、さらに好ましくは18°以上22°以下である。
【0044】
下ナット2のねじ孔21は、ナット本体23及び凸部22に亘って設けられている。すなわち、ねじ孔21は、凸部22及びナット本体23を軸方向に沿って貫通している。また、ねじ孔21は、凸部22の外周面よりも径方向内側に設けられている。
【0045】
下ナット2の凸部22のテーパー状外周面は、下ナット2のねじ孔21に対して微少量aだけ偏心されている。すなわち、テーパー状外周面の軸心O1は、ねじ孔21の軸心O2と平行であり、軸心O1と軸心O2との間の距離がaである。なお、図示例では、下ナット2のねじ孔21、上ナット3のねじ孔31及びねじ軸1の軸心がいずれも一致しており、これら軸心を共通の符号O2で示している。
【0046】
上ナット3は、凸部22が嵌合する凹部32を有する。凹部32は、凸部22の突出高さと同程度、若しくは、凸部22の突出高さよりも所定量大きい深さを有する。なお、上ナット3は、典型的には六角ナットの形態であるが、適宜の外周面形状を有することができる。また、好ましくは上ナット3の下端外周部にフランジを設けることができる。
【0047】
凹部32の内周面は、凸部22の外周面のテーパー角に適合するテーパー角、好ましくは同じテーパー角を有するテーパー状に形成されている。すなわち、凹部32の内周面は、開口端側(図面において下側)に至るにしたがって徐々に大径となるテーパー面である。上ナット3のねじ孔31は凹部32の底面に開口している。
【0048】
本実施形態に係る締結構造体では、ねじ軸1に螺着された下ナット2の凸部22と、ねじ軸1に螺着された上ナット3の凹部32とが偏心嵌合することによって、恰もねじ軸1とナット2,3のねじ孔21,31のそれぞれとの間にクサビを打ち込んだような応力状態を生じさせ、かかるクサビ作用により強力な緩み止め効果を発揮する。
【0049】
本実施形態では、凸部22と凹部32との偏心嵌合を実現するために、下ナット2の凸部22のテーパー状外周面をねじ孔21に対して偏心させているとともに、凹部32のテーパー状内周面とねじ孔31とを同心状に設けている。これにより、ねじ軸Sに螺着された下ナット2の凸部22と上ナット3の凹部32とが偏心嵌合した状態で、上下ナット2,3に前記偏心方向に沿う反撥力が生じるように凸部22の外周面と凹部32の内周面とが周方向一部において干渉する。なお、凸部22のテーパー状外周面の最大径部位は、凹部32のテーパー状内周面の最大径部位と実質的に同じ径を有しており、これにより凸部22の凹部32に対する嵌合深さが大きくなる程、上記の偏心方向に沿う反撥力が大きくなるようにしている。
【0050】
次に、本実施形態の締結構造体の特徴について説明する。
【0051】
下ナット2のねじ孔21の雌ねじの圧縮側フランク面21p及び遊び側フランク面21cは、軸心に沿う断面形状が一般的な直線形状ではなく、ねじ軸1とねじ孔21との間に実質的に遊びが存在しないように凸円弧形状に形成されている。なお、各フランク面21p,21cのねじ山頂部側端部からねじ谷底側端部までの全体が一定曲率の凸円弧形状であってもよく、途中で曲率が変化する凸円弧形状であってもよく、また、各フランク面2
1p,21cが部分的に凸円弧形状を有していてもよい。各フランク面21p,21cのフランク角θFは等しい。凸円弧形状を有する凸フランク面のフランク角は、凸円弧形状
のねじ山頂部側端部とねじ谷底側端部とを結ぶ直線が、軸心O2に直交する直線に対してなす角度とする。
【0052】
同様に、本実施形態では上ナット3のねじ孔31の雌ねじの圧縮側フランク面31p及び遊び側フランク面31cは、軸心に沿う断面形状が一般的な直線形状ではなく、ねじ軸1とねじ孔31との間に実質的に遊びが存在しないように凸円弧形状に形成されている。なお、各フランク面31p,31cのねじ山頂部側端部からねじ谷底側端部までの全体が一定曲率の凸円弧形状であってもよく、途中で曲率が変化する凸円弧形状であってもよく、また、各フランク面21p,21cが部分的に凸円弧形状を有していてもよい。
【0053】
各ねじ孔21,31とねじ軸1との間に実質的に遊びが存在しないようにするためには、雄ねじ及び雌ねじの加工上の寸法公差を適切に設定することが好ましい。
【0054】
例えば、凸円弧形状を有するナット2,3の各フランク面21p,21c,31p,31c、並びに、ねじ軸1の雄ねじの各フランク面1p,1cを、下記の第1又は第2の仕様にしたがって成形することができる。
【0055】
〔第1の仕様〕
【0056】
(1-1)凸円弧形状の両端を通る直線が、ISO 965-2:1998(JIS B0209-2:2001) 6H 又は6hの公差域クラスを満たすこと。
【0057】
(1-2)凸円弧形状を有する凸フランク面(
図1に示す実施形態では、下ナット2の圧縮側フランク面21p及び遊び側フランク面21c)に対向する平坦フランク面(
図1に示す実施形態では、ねじ軸1の雄ねじの圧縮フランク面1p及び遊び側フランク面1c)が、軸方向に沿う断面において直線状であって、且つ、ISO 965-2:1998(JIS B0209-2:2001) 6g 又は6Gの公差域クラスを満たすこと。
【0058】
(1-3)凸円弧形状の両端を通る直線と凸円弧形状との最大距離Dが、凸円弧形状を有する凸フランク面に対向する平坦フランク面についてのISO 965-2:1998(JIS B0209-2:2001) 6g 又は6Gの公差域クラスにおける寸法許容差の最小値以下かつ最小値の1/2以上であること。
【0059】
ここで、公差域クラスにおける寸法許容差とは、ねじ山基準線に対する寸法許容差である。6g又は6Gの公差域クラスにおける寸法許容差の最小値は0より大きい。したがって、6g又は6Gの公差域クラスにしたがう平坦フランク面は、ねじ山基準線からわずかにずれている。
【0060】
一方、6H又は6hの公差域クラスにおける寸法許容差の最小値は0であり、その最大値は6G又は6gの公差域クラスにおける寸法許容差の最大値よりも小さい。6H又は6hの公差域クラスにしたがうフランク面は、実質的にねじ山基準線と一致すると考えることができる。第1の仕様においては、凸円弧形状の両端を通る直線が6H又は6hの公差域クラスを満たす。したがって、凸円弧形状の頂部は、ねじ山基準線を越えて、対向する平坦フランク面に向けて湾曲する。
【0061】
しかし、上記(1-3)の規定にしたがうことにより、ねじ軸1に各ナット2,3を螺着することが可能である。
【0062】
〔第2の仕様〕
【0063】
(2-1)凸円弧形状の中心部がISO 965-2:1998(JIS B0209-2:2001) 6H 又は6hの公差域クラスを満たすこと。
【0064】
(2-2)凸円弧形状を有する凸フランク面に対向する平坦フランク面が、軸方向に沿う断面において直線状であって、且つ、ISO 965-2:1998(JIS B0209-2:2001) 6h 又は6Hの公差域クラスを満たすこと。
【0065】
ここで、凸円弧形状の中心部とは、言い換えれば凸円弧形状の頂部である。また、中心部が6H又は6hの公差域クラスを満たすとは、中心部が、6H又は6hの公差域クラスにおけるねじ山基準線に対する寸法許容差の最小値と最大値との範囲内に位置付けられていることを意味する。
【0066】
6H又は6hの公差域クラスを満たす位置は、実質的にねじ山基準線上にあると考えてよい。したがって、第2の仕様にしたがう締結構造体は、雄ねじと雌ねじとの間に実質的に遊びが存在しない。しかし、平坦フランク面に対向するフランク面を凸円弧形状に形成しているので、各ナット2,3を実質的にねじ軸1に螺着することができる。
【0067】
本実施形態によれば、上下ナット2,3のねじ孔21,31とねじ軸1との間に実質的に遊びが存在しないので、緩み止め効果を一層向上できる。さらに、上ナット3の凹部32に下ナット2の凸部22に偏心嵌合した場合でも、上ナット3のねじ孔31とねじ軸1との間に遊びが存在しないので、上ナット3が傾くことがなく、上ナット3を適正な姿勢で締結することができる。
【0068】
(第2実施形態)
【0069】
図2は本発明の第2実施形態に係る締結構造体を示しており、上記第1実施形態の締結構造体と同様の構成については同符号を付して詳細説明を省略し、異なる構成について説明する。
【0070】
本実施形態では、上下ナット2,3の雌ねじの圧縮側フランク面21p,31pのみが凸円弧形状を有する凸フランク面であり、遊び側フランク面21c,31cは平坦フランク面である。平坦フランク面21c,31c及びこれらに対向する雄ねじの平坦フランク面1cは、一般的な寸法公差、例えば、ISO 965-2:1998(JIS B0209-2:2001) 6H/6g(雌ねじが6H、雄ねじが6g)にしたがって形成することができる。
【0071】
本実施形態によっても、従前の締結構造に比して雄ねじと雌ねじとの間の遊び量を減少させることができ、これにより緩み止め効果の向上と、上ナット3の傾き防止とを図ることができる。
【0072】
(第3実施形態)
【0073】
図3は本発明の第3実施形態に係る締結構造体を示しており、上記第1実施形態の締結構造体と同様の構成については同符号を付して詳細説明を省略し、異なる構成について説明する。
【0074】
本実施形態では、上下ナット2,3の雌ねじの遊び側フランク面21c,31cのみが凸円弧形状を有する凸フランク面であり、圧縮側フランク面21p,31pは平坦フランク面である。平坦フランク面21p,31p及びこれらに対向する雄ねじの平坦フランク
面1pは、一般的な寸法公差、例えば、ISO 965-2:1998(JIS B0209-2:2001) 6H/6g(雌ねじが6H、雄ねじが6g)にしたがって形成することができる。
【0075】
本実施形態によっても、従前の締結構造に比して雄ねじと雌ねじとの間の遊び量を減少させることができ、これにより緩み止め効果の向上と、上ナット3の傾き防止とを図ることができる。
【0076】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、適宜設計変更できる。例えば、上記各実施形態ではナット2,3の雌ねじのフランク面を凸円弧形状としたが、ねじ軸1の雄ねじのフランク面1p,1cの一方又は両方を凸円弧形状を有する凸フランク面とし、雄ねじの凸フランク面に対向する雌ねじのフランク面を平坦フランク面とすることもできる。また、雄ねじのフランク面と雌ねじのフランク面のすべてを凸円弧形状を有する凸フランク面とすることもできる。また、上記各実施形態では本発明をハードロックナットに適用した例を示したが、シングルナットや、一般的なダブルナットなど、従来公知の適宜のナット及びボルトに本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0077】
1 ねじ軸
1p 圧縮側フランク面
1c 遊び側フランク面
2 凸ナット
21 ねじ孔
21p 圧縮側フランク面
21c 遊び側フランク面
22 凸部
3 凹ナット
31 ねじ孔
31p 圧縮側フランク面
31c 遊び側フランク面
32 凹部