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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】セルソーターおよびフローセル
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/08 20060101AFI20240829BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20240829BHJP
   C12M 1/00 20060101ALN20240829BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N35/08 E
G01N37/00 101
C12M1/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021006672
(22)【出願日】2021-01-19
(65)【公開番号】P2021117229
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2023-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2020008712
(32)【優先日】2020-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517110494
【氏名又は名称】シンクサイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】河村 踊子
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-163914(JP,A)
【文献】特表2005-524831(JP,A)
【文献】特開2004-093558(JP,A)
【文献】特表2016-527502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/08
G01N 37/00
C12M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を含むサンプル流体が流れるサンプル流路と、
対向する一対の壁部の間に設けられ、前記サンプル流路に連通し、内部に変流用流体を有する変流用流体収容部と、
前記変流用流体収容部よりも前記サンプル流体の流通方向における下流側に配置され、前記サンプル流路に連通する分取用流路と、
前記変流用流体収容部の内部の液圧を変化させ、前記サンプル流体流通方向と交差する方向に前記変流用流体を流通させる変圧部と、
を備え、
前記変流用流体収容部は、一対の前記壁部を、前記サンプル流体の流通方向と前記変流用流体の流通方向とに交差する方向に接続するとともに、前記変流用流体の流通方向に延びる支持板を有し、
前記支持板により、前記変流用流体が流通する複数の平行部流路が形成され、
複数の前記平行部流路は、前記変流用流体の流れに対する流路抵抗がそれぞれ等しいことを特徴とするセルソーター。
【請求項2】
複数の前記平行部流路は、前記変流用流体の流通方向に並行に延びていることを特徴とする請求項1記載のセルソーター。
【請求項3】
複数の前記平行部流路は、それぞれの長さ、高さおよび幅が略等しいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセルソーター。
【請求項4】
前記変圧部が配置されるチャンバーを備え、
前記支持板は、前記チャンバー側の末端において前記チャンバーの外形に沿う位置まで延びていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のセルソーター。
【請求項5】
前記変流用流体収容部は、前記サンプル流路に連通する先端部を有し、
前記支持板の前記変圧部とは反対側の先端と、前記先端部の側壁との間に形成される先端部流路において、高さに対する幅の比が10を超えないように前記支持板が設置されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のセルソーター。
【請求項6】
前記平行部流路の幅の寸法が、前記支持板の厚さの寸法よりも長いことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のセルソーター。
【請求項7】
細胞を含むサンプル流体が流れるサンプル流路と、
対向する一対の壁部の間に設けられ、前記サンプル流路に連通し、内部に変流用流体を有する変流用流体収容部と、
前記変流用流体収容部よりも前記サンプル流体の流通方向における下流側に配置され、前記サンプル流路に連通する分取用流路と、
を備え、
前記変流用流体収容部は、一対の前記壁部を、前記サンプル流体の流通方向と前記変流用流体の流通方向とに交差する方向に接続するとともに、前記変流用流体の流通方向に延びる支持板を有し、
前記支持板により、前記変流用流体が流通する複数の平行部流路が形成され、
複数の前記平行部流路は、前記変流用流体の流れに対する流路抵抗がそれぞれ等しいことを特徴とするフローセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルソーターおよびフローセルに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞を分取するセルソーターが知られている(例えば特許文献1)。セルソーターは、流体中に分散させた一つ一つの細胞を蛍光標識技術や散乱光等を利用して分析し、さらにその情報を元に目的細胞を分取する装置である。セルソーターにおける細胞分取の機構としていくつかの方式が報告されているが、例えば特許文献1に記載のセルソーターは、細胞を含む流体を供給する供給口と流体を排出する排出口とを結ぶ第1の流路と、第1の流路と交差し結合する1本以上の第2の流路と、第2の流路の一方からパルス状の噴流を供給し、第1の流路と第2の流路との交差点上に到達した細胞を第2の流路の他方側へ押し出す噴流発生手段と、を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平1-170853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
セルソーターにおける細胞分取の機構としては、これまでに、目的細胞にパルス状の噴流を供給することで目的細胞の分取を行う機構が知られている。また、セルソーターにおけるフローセルの形成法として、PDMS(PolyDiMethylSiloxane)等の柔らかい樹脂材料を用いて微細流路を形成するソフトリソグラフィ技術が使用されることがある。このような柔らかい樹脂を使用したフローセルの形成においては、流路(特に細胞分取機構に関わる部分)やチャンバーにおける変形や陥落を防ぎ十分な強度を維持するために、当該流路や当該チャンバーを形成する壁面を支持する支柱(円柱や四角柱)を複数設ける構造が採用されることがある。しかしながら、そうした複数の支柱は、液充填時に、流路内を流れる流体の障害物となり、これにより、流路内の流体の流れが乱れ、流路内に気泡を発生させる恐れがある。特に、細胞分取に関わる細胞分取部において、細胞分取のためにパルス状の噴流を供給する流路やチャンバーに支柱を設けた場合、混入した気泡により、噴流の圧力が不安定となり、細胞を分取する精度が低下する。したがって、流路の変形と陥落を抑制して流路の形態を安定化しつつ、細胞を分取する精度を向上するという点で改善の余地がある。PDMS等の柔軟な樹脂材料を用いたソフトリソグラフィ法は、安価で成形が容易であるという利点があるが、横幅の広い(幅が広く高さが低い)流路やチャンバー構造を有するフローセルを作製する際には、支柱等のスペーサーを設置して流路やチャンバーのPDMS上面の陥落を防ぐ必要がとりわけ高く、支柱を有する構造には液充填の際に、支柱設置個所に気体が残留しやすく、混入した気泡のために安定的にソーティングを行うことが困難になるという課題があった。
【0005】
本発明は、流路の変形と陥落を抑制し、流通する変流用流体の流れを安定化することで、細胞を分取する精度を向上できるセルソーターおよびフローセルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を達成するために、本発明に係るセルソーターは、細胞を含むサンプル流体が流れるサンプル流路と、対向する一対の壁部の間に設けられ、前記サンプル流路に連通し、内部に変流用流体を有する変流用流体収容部と、前記変流用流体収容部よりも前記サンプル流体の流通方向における下流側に配置され、前記サンプル流路に連通する分取用流路と、前記変流用流体収容部の内部の液圧を変化させ、前記サンプル流体流通方向と交差する方向に前記変流用流体を流通させる変圧部と、を備え、前記変流用流体収容部は、一対の前記壁部を、前記サンプル流体の流通方向と前記変流用流体の流通方向とに交差する方向に接続するとともに、前記変流用流体の流通方向に延びる支持板を有し、前記支持板により、前記変流用流体が流通する複数の平行部流路が形成され、複数の前記平行部流路は、前記変流用流体の流れに対する流路抵抗がそれぞれ等しい。
【0007】
上記構成において、複数の前記平行部流路は、前記変流用流体の流通方向に並行に延びていてもよい。
【0008】
上記構成において、複数の前記平行部流路は、それぞれの長さ、高さおよび幅が略等しくてもよい。
【0009】
上記構成において、前記変圧部が配置されるチャンバーを備え、前記支持板は、前記チャンバー側の末端において前記チャンバーの外形に沿う位置まで延びていてもよい。
【0010】
上記構成において、前記変流用流体収容部は、前記サンプル流路に連通する先端部を有し、前記支持板の前記変圧部とは反対側の先端と、前記先端部の側壁との間に形成される先端部流路において、高さに対する幅の比が10を超えないように前記支持板が設置されていてもよい。
【0011】
上記構成において、前記平行部流路の幅の寸法が、前記支持板の厚さの寸法よりも長くてもよい。
【0012】
上記の課題を達成するために、本発明に係るフローセルは、細胞を含むサンプル流体が流れるサンプル流路と、対向する一対の壁部の間に設けられ、前記サンプル流路に連通し、内部に変流用流体を有する変流用流体収容部と、前記変流用流体収容部よりも前記サンプル流体の流通方向における下流側に配置され、前記サンプル流路に連通する分取用流路と、を備え、前記変流用流体収容部は、一対の前記壁部を、前記サンプル流体の流通方向と前記変流用流体の流通方向とに交差する方向に接続するとともに、前記変流用流体の流通方向に延びる支持板を有し、前記支持板により、前記変流用流体が流通する複数の平行部流路が形成され、複数の前記平行部流路は、前記変流用流体の流れに対する流路抵抗がそれぞれ等しいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、流路の変形と陥落を抑制し、流通する変流用流体の流れを安定化することで、細胞を分取する精度を向上できるセルソーターおよびフローセルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係るセルソーターの斜視図である。
図2】一実施形態に係るセルソーターの平面図である。
図3】一実施形態に係る変流用流体収容部の本体部付近の拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(セルソーター)
以下、本発明の実施形態に係るセルソーターについて図面を参照して説明する。
図1は、一実施形態に係るセルソーター1の斜視図である。
本実施形態のセルソーター1は、複数種の細胞を含むサンプル流体Aから目的細胞を分取するために使用される。目的細胞は、サンプル流体Aに含まれる複数種の細胞に、例えばレーザー光を照射して得られる散乱光や蛍光のデータを元に判別される。目的細胞の判別には、機械学習を用いることができ、その場合、例えば事前に測定した学習用細胞から得た教師情報から判別モデルを作成し、その判別モデルを元に目的細胞の判別が行われる。
図1に示すように、セルソーター1は、フローセル10と、細胞情報取得装置2と、圧電素子3(請求項の変圧部に相当)と、を備えている。
【0016】
(フローセル)
フローセル10は、一方向に延びる矩形板状の部材である。フローセル10は、例えば矩形板状の第1部材4と、矩形板状の第2部材5とを張り合わせて形成されている。
第1部材4は、例えば、ガラスやPDMS(PolyDiMethylSiloxane)により形成されている。
第2部材5は、第1部材4と同じであっても良いが、異なっていても良く、例えばPDMS(PolyDiMethylSiloxane)等の透明で柔軟な樹脂材料によって形成されている。第2部材5における第1部材4側には、サンプル流路11と、サンプル流体供給部20と、シース流路12と、シース液供給部13と、変流用流体収容部14と、分取用流路15とが形成されている。サンプル流路11と、サンプル流体供給部20と、シース流路12と、シース液供給部13と、変流用流体収容部14と、分取用流路15とは、第1部材4によって覆われている。
【0017】
サンプル流路11は、フローセル10の長手方向に延びている。サンプル流路11には、細胞を含むサンプル流体Aがフローセル10の長手方向に沿って流通する。サンプル流路11の一端部はサンプル流体供給部20と連通している。サンプル流路11の他端部は分取用流路15と連通している。サンプル流体Aは、サンプル流体供給部20から供給されてサンプル流路11の一端部から他端部に向かって流通する。
以下、サンプル流体Aの流通方向を流通方向D1とする。
サンプル流路11は、流通方向D1における上流端11aと、流通方向D1に沿って延びる絞り流路11bと、絞り流路11bの下流端に設けられた合流部11cと、合流部11cから流通方向D1に沿って下流側に延びる整列流路11dと、整列流路11dの下流端に設けられた細胞分取部11eと、細胞分取部11eから流通方向D1に沿って下流側に延びる排出流路11fと、を有している。
【0018】
上流端11aには、サンプル流体Aが供給される。
絞り流路11bの下流側端部には、絞り部11gが設けられている。絞り流路11bにおいて、上流端11aから絞り部11gまでの区間は流路幅が同じである。絞り部11gは、下流側に向かうにつれて流路幅が狭くなっている。
合流部11cは、サンプル流路11とシース流路12とを連通させている。
整列流路11dは、サンプル流体A内の細胞を流通方向D1に沿って一列に整列させる。
細胞分取部11eは、整列流路11dで1列に整列された細胞のうち、分取したい目的細胞を分取する。
排出流路11fは、細胞分取部11eを通過したサンプル流体Aが流通する。排出流路11fを通過したサンプル流体Aは、排出流路11fの下流端よりも下流側に配置された試験管(不図示)等に排出される。
【0019】
サンプル流体供給部20は、サンプル流路11における流通方向D1の上流端11aに連通している。サンプル流体供給部20は、サンプル流体Aをサンプル流路11に供給する。図1に記載されているサンプル流体供給部20は、2個のサンプル用開口部21と、2個のサンプル用開口部21と上流端11aとを連通させる連通路22と、を備えている。
2個のサンプル用開口部21のうち、流通方向D1における上流側に配置されたものを第1サンプル用開口部21aとする。2個のサンプル用開口部21のうち、流通方向D1における下流側に配置されたものを第2サンプル用開口部21bとし、第1サンプル用開口部21aには第1チューブ23aが、第2サンプル用開口部21bには第2チューブ23bがそれぞれ接続されている。サンプル流体Aは、第1チューブ23aまたは第2チューブ23bを通じてサンプル流体供給部20に供給される。
連通路22は、流通方向D1に沿って延びている。第1サンプル用開口部21aは、連通路22の流通方向D1における上流側の端部に設けられている。第2サンプル用開口部21bは、連通路22の流通方向D1における下流側の端部に設けられている。
【0020】
シース流路12は、サンプル流路11に並んで形成されている。図1ではシース流路12は、2本形成されている例が記載されているが、2本に限定されない。図1で2本のシース流路12は、サンプル流路11を挟んで対称に形成されている。シース流路12には、シース液Bが流通する。シース液Bは、整列流路11dで細胞を1列に整列させて連続的に流通させる。
シース液Bは、サンプル流体Aの流通方向D1の上流側から下流側に向かって、サンプル流体Aと同じ方向にシース流路12を流通する。
2本のシース流路12は、シース液Bの流通方向における上流端12a同士および下流端12b同士で連通している。
2本のシース流路12の下流端12bは、サンプル流路11の合流部11cに連通している。
シース液供給部13は、2本のシース流路12の上流端12aに設けられている。シース液供給部13は、2本のシース流路12の上流端12aに連通している。シース液供給部13は、2本のシース流路12にシース液Bを供給する。
【0021】
図2は、一実施形態に係るセルソーター1の平面図である。
図3は、一実施形態に係る変流用流体収容部14の本体部30付近の拡大斜視図である。
図2に示すように、変流用流体収容部14は、サンプル流路11を挟んで一対配置されている。変流用流体収容部14は、サンプル流路11を挟んで対称に形成されている。変流用流体収容部14は、フローセル10を構成する第1部材4の壁部4aと、フローセル10を構成する第2部材5の壁部5aとの間に設けられている(図3参照)。すなわち、変流用流体収容部14は、対向する一対の壁部4aと壁部5aとの間に設けられている。変流用流体収容部14は、サンプル流路11の細胞分取部11eに連通している。変流用流体収容部14の内部には、変流用流体Eが収容されている。変流用流体Eは、目的細胞の分取のために流通される流体である。
変流用流体収容部14は、本体部30と、支持板33と、を有している。
【0022】
本体部30は、サンプル流体Aの流通方向D1に直交する方向に延びている。本体部30は、サンプル流路11の細胞分取部11eに連通している。本体部30は、細胞分取部11eに連通する先端部30aと、先端部30aから流通方向D1に直交する方向に延びる平行部30bとを有している。
先端部30aは、サンプル流体Aの流通方向D1に直交する方向に沿って、細胞分取部11eから離間するにつれて幅広となっている。平行部30bは、流通方向D1に直交する方向に幅が一定のまま延びている。平行部30bの幅は、例えば5.8mmである。
チャンバー31は、本体部30よりも細胞分取部11eから離間した位置に設けられている。チャンバー31は、第2部材5を厚さ方向に貫通している。チャンバー31は、平面視で円形状に形成されている。チャンバー31の直径は、例えば8mmである。一対のチャンバー31のうち一方のチャンバー31の第1部材4とは反対側の貫通面は、圧電素子3により蓋をされている。したがって、チャンバー31の直径は、圧電素子3の直径よりも小さくなるように形成されている。一対のチャンバー31のうち他方のチャンバー31は、例えば透明なガラス板6によって蓋をされている。なお、図では一対のチャンバー31の片側に圧電素子3が設置されている例が記載されているが、一対のチャンバー31の両方に圧電素子3が設置されていてもよい。
【0023】
変流用流体排泄路32は、チャンバー31から流通方向D1の上流側に向かって延びている。変流用流体排泄路32は、チャンバー31とは反対側の端部に変流用流体排泄部(不図示)を有している。変流用流体Eは、シース液供給部13より供給され、サンプル流路11を流通し、細胞分取部11eから後述する平行部流路34を通過してチャンバー31を充填し、変流用流体排泄路32から排出される(液充填時)。液充填時以外は、変流用流体排泄路32は閉じられている。変流用流体Eは、本体部30において、圧電素子3側からサンプル流路11側に向かって、サンプル流体Aの流通方向D1に直交するように流通する。
以下、本体部30における、変流用流体Eの流通方向を流通方向D2とする。
【0024】
図1から図3の例では、支持板33は、本体部30の内部に5枚設けられている。支持板33は、矩形板状の部材である。5枚の支持板33は、第1部材4および第2部材5の厚さ方向の断面がそれぞれ同形状に形成されている。支持板33は、変流用流体Eの流通方向D2に並行して延びている。支持板33の高さ方向は、第1部材4および第2部材5の厚さ方向に沿っている。支持板33の厚さdは、例えば200μmである。支持板33は、第1部材4の壁部4aと第2部材5の壁部5aとを接続している。従って、平行部流路34の高さは支持板33の高さと等しくなり、これら図の例では平行部流路34の高さは200μmである。支持板33は、圧電素子3が配置されているチャンバー31側の末端においてチャンバー31の外形に沿う位置まで延びている。支持板33は、サンプル流体Aの流通方向D1に並んで等間隔で配置されている。5枚の支持板33に沿って、変流用流体Eが流通する複数の平行部流路34が6本形成されている。具体的には、平行部流路34は、隣り合う支持板33間に4本形成され、支持板33と平行部30bの側壁との間に2本形成されている。
6本の平行部流路34は、変流用流体Eの流通方向D2に並行に延びている。6本の平行部流路34は、変流用流体Eの流れに対する流路抵抗(Hydrodynamic resistance)がそれぞれ等しくなるように形成されている。流路抵抗はそれぞれの流路の長さ、高さおよび幅により決まり、図1から図3の例では6本の平行部流路34の長さ、高さおよび幅が略等しく形成されているため、6本の平行部流路34は、変流用流体Eの流れに対する流路抵抗がそれぞれ等しい。
平行部流路34とそれを形成する支持板33は、細胞分取部11e側の先端において十分に細胞分取部11eに接近するように形成されている。支持板33の圧電素子3とは反対側の先端と、変流用流体収容部14における細胞分取部11e側の先端部30aの側壁30a1とで挟まれる部分に形成される先端部流路35では、先端部流路35の高さh(変流用流体収容部の高さh)に対する先端部流路35の幅w2の比は10を超えないように形成されている。また、先端部流路35において、高さhに対する幅w2の比は1よりも大きい。平行部流路34の幅w1は、平行部30bの部分では、例えば0.8mmである。平行部流路34の高さ(変流用流体収容部14の高さ)をhとしたとき、平行部流路34は、w1/h<10を満たすように形成されている。こうした構造により、第1部材4と第2部材5がたわむことによる流路の陥落を抑制することができる。
平行部流路34の幅w1の寸法が、支持板33の厚さdの寸法よりも長い。
【0025】
図2に示すように、分取用流路15は、変流用流体収容部14よりも、サンプル流体Aの流通方向D1における下流側に配置されている。分取用流路15は、サンプル流路11の細胞分取部11eに連通している。分取用流路15は、サンプル流路11を挟んで一対設けられている。分取用流路15は、サンプル流路11を挟んで対称に形成されている。分取用流路15は、サンプル流路11の排出流路11fに沿って、流通方向D1に延びている。分取用流路15の下流端よりも下流側には、分取された目的細胞を収集するための試験管(不図示)等が配置されている。
【0026】
(細胞情報取得装置)
図1に示すように、細胞情報取得装置2は、サンプル流路11の整列流路11dに接続されている。細胞情報取得装置2は、例えばレーザー光源(不図示)や検出器(不図示)、制御部(不図示)等を備えている。細胞情報取得装置2は、サンプル流体Aに含まれる細胞にレーザー光を照射する。細胞情報取得装置2は、レーザー光の照射によって細胞から生じた散乱光や蛍光を検出器により検出して、細胞の形態や核、顆粒等の細胞内部構造に関する情報を取得する。細胞情報取得装置2は、取得した情報に基づき、サンプル流体Aに含まれる複数の細胞から分取したい目的細胞を制御部で判別する。なお、本実施形態に係る細胞情報取得装置2は、機械学習によって目的の細胞の特徴を学習する機能を有していても良い。
【0027】
(圧電素子)
圧電素子3は、円盤(ディスク)型に形成されている。圧電素子3は、圧電素子3の中心がチャンバー31の中心と一致するように配置され、チャンバー31の第1部材4とは反対側の貫通面に蓋をする形で取り付けられている。したがって、チャンバー31の外周は、圧電素子3の外周よりも小さい。圧電素子3は、第2部材5と接触していない面側に、平面視で圧電素子3と第2部材5をまたがるように、接着剤等を塗布することにより固定される。したがって、圧電素子3を固定している接着剤等は、チャンバー31内に入り込むことはない。5枚の支持板33のチャンバー31側の端部は、平面視でチャンバー31の外形に沿うように設けられている。
圧電素子3は、変流用流体収容部14の内部の液圧を変化させ、サンプル流体Aの流通方向D1と交差する方向(流通方向D2)に変流用流体Eを流通させる。圧電素子3は、細胞情報取得装置2と電気的に接続している。圧電素子3には、細胞情報取得装置2から例えばパルス状の電圧が印加される。圧電素子3は、印加された電圧に応じて変形する。変流用流体収容部14内の液圧は、圧電素子3の変形によって変化する。変流用流体Eは、圧電素子3による変流用流体収容部14内の液圧の変化によって、流通方向D2に流通される。
【0028】
(セルソーターの使用方法)
以下、図1に基づいてセルソーター1の使用方法の一例を説明する。
セルソーター1の使用方法は、機器調整工程と、学習工程と、分取工程とを備えている。セルソーター1の使用において、複数のサンプルを含むサンプル流体Aが、フローセル10を流通する。前記のサンプル流体Aには、機器調整工程で流通される標準ビーズを含む機器調整用サンプル流体A1と、学習工程で流通される学習用サンプルを含む学習用サンプル流体A2と、分取工程で流通される分取用サンプルを含む分取用サンプルA3とが含まれている。
(機器調整工程)
機器調整工程では、サンプル流体供給部20の第1サンプル用開口部21aから機器調整用サンプルを含む機器調整用サンプル流体A1を供給する。機器調整工程は、使用するセルソーター1が測定に適した状態にあるかを確認し、必要な場合には事前に調整するための工程で、機器調整用サンプル流体A1には、例えば、粒子特性が予め分かっている標準ビーズが含まれている。機器調整用サンプル流体A1は、サンプル流体供給部20およびサンプル流路11を流通する。機器調整用サンプル流体A1に含まれる粒子は、サンプル流路11の整列流路11dで1列に整列して流通する。次いで、整列流路11dを流通する個々の粒子に関する情報が細胞情報取得装置2により取得され、セルソーター1の動作状態を確認することができる。
(学習工程)
学習工程では、まず、サンプル流体供給部20の第1サンプル用開口部21aから学習用サンプルを含む学習用サンプル流体A2を供給する。学習用サンプル流体A2には、例えば、分取したい目的細胞を含む複数種の細胞が含まれている。学習用サンプル流体A2に含まれる目的細胞は、サンプル流路11の整列流路11dで1列に整列して流通する。
次いで、細胞情報取得装置2は、整列流路11dを流通する個々の目的細胞から情報を読み取り、目的細胞を判別する基準を学習する。すなわち、細胞情報取得装置2は、整列流路11dを流通する個々の学習用サンプルA2の情報をもとに目的細胞を判別する判別モデルを作成する。
【0029】
(分取工程)
分取工程では、まず、サンプル流体供給部20の第2サンプル用開口部21bから分取用サンプル流体A3を供給する。分取用サンプル流体A3には、分取したい目的細胞を含む複数種の細胞が含まれている。分取用サンプル流体A3に含まれる複数の細胞は、サンプル流路11の整列流路11dで1列に整列して流通する。
次いで、細胞情報取得装置2は、学習工程で学習した目的細胞の判別基準により、整列流路11dを流通する多種の細胞から目的細胞を判別する。細胞情報取得装置2は、目的細胞を判別すると、例えば、パルス状の電圧を圧電素子3に印加する。
【0030】
圧電素子3は、細胞情報取得装置2から例えばパルス状の電圧を印加されると、変形する。圧電素子3が設置された一方の変流用流体収容部14は、圧電素子3の変形により減圧される。変流用流体Eは、変流用流体収容部14の液圧が減圧されると、流通方向D1と直交する流通方向D2に沿って流通する。
変流用流体Eは、細胞分取部11eからチャンバー31に向かって流通し、6本の平行部流路34内を通過する。変流用流体Eの流れは、細胞分取部11eに到達した目的細胞を、サンプル流路11を挟んで圧電素子3側の変流用流体収容部14側に引き込む。目的細胞は、流圧によって引き込まれて移動方向が流通方向D1から分取用流路15に沿う方向に変化する。目的細胞は、一対の分取用流路15のうち、サンプル流路11を挟んで圧電素子3側の分取用流路15に移動する。
【0031】
分取用流路15に移動した目的細胞は、分取用流路15の下流端に設置された試験管内に移動する。
以上の工程により、目的細胞は分取される。
本実施形態では、圧電素子3によって、変流用流体収容部14内の液圧を減圧したが、加圧してもよい。この場合、変流用流体Eは、圧電素子3によって減圧した場合と逆方向に流通し、目的細胞は、サンプル流路11を挟んで圧電素子3とは反対側の分取用流路15に移動される。
【0032】
(作用、効果)
上述の本実施形態によれば、以下の作用および効果が得られる。
変流用流体収容部14は、一対の第1部材4の壁部4aと第2部材5の壁部5aとを接続する支持板33を有している。これにより、支持板33が壁部5aの自重を受けているので、支持板33は、変流用流体収容部14の壁部5aを支持できる。すなわち、支持板33が壁部5aを支え、変流用流体収容部14の壁部5aの構造を維持する構成になっている。したがって、変流用流体Eが細胞分取の際に流通し流路となる変流用流体収容部14の変形と陥落を抑制し、そこに形成されている平行部流路34の形態を安定化できる。
複数の平行部流路34は、変流用流体Eの流れに対する流路抵抗がそれぞれ等しい。これにより、液充填の際に、細胞分取部11eから平行部流路34の端に到達した変流用流体Eは、複数の平行部流路34に均等に流れ込み、チャンバー31端に到達して再び合流する。これにより、変流用流体収容部14を流通する変流用流体Eの流速や進行方向等が不規則に変動することを抑制できるので、変流用流体収容部14内に気泡が発生することを抑制できる。したがって、細胞分取時に変流用流体Eの流圧を安定化できるので、変流用流体Eの流圧によってサンプル流体A内の細胞を分取用流路15に安定して移動できる。よって、細胞を分取する精度を向上できる。
平行部流路34を複数設置することにより、変流用流体収容部14の全体の流路抵抗を下げることができる。このため、細胞分取に十分な流量を細胞分取部11eに提供することができる。したがって、サンプル流体A内の細胞を分取用流路15に安定して移動できる。よって、細胞を分取する精度を向上できる。
したがって、変流用流体Eが細胞分取の際に流通し流路となる変流用流体収容部14の変形と陥落を抑制し、そこに形成されている平行部流路34の形態を安定化しつつ、細胞を分取する精度を向上できる。
【0033】
複数の平行部流路34は、変流用流体Eの流通方向D2に並行に延びているので、複数の平行部流路34は、変流用流体Eの流れに対する流路抵抗がそれぞれ等しくなる。これにより、液充填の際に、細胞分取部11eから平行部流路34の端に到達した変流用流体Eは、複数の平行部流路34に均等に流れ込み、チャンバー31端に到達して再び合流する。これにより、変流用流体収容部14を流通する変流用流体Eの流速や進行方向等が不規則に変動することを抑制できるので、変流用流体収容部14内に気泡が発生することを抑制できる。したがって、細胞分取時に変流用流体Eの流圧を安定化できるので、変流用流体Eの流圧によってサンプル流体A内の細胞を分取用流路15に安定して移動できる。よって、細胞を分取する精度を向上できる。
【0034】
支持板33は、変流用流体収容部14の内部に複数の流路構造が並列に形成されるように設けられている(平行部流路34)。平行部流路34の変流用流体Eの流れに対する流路抵抗は、平行部流路34の長さ、高さ、幅により調整できる。図1から図3の例では複数の平行部流路34は、それぞれの長さ、高さおよび幅が等しい。これにより、複数の平行部流路34の間で、変流用流体Eの流れに対する流路抵抗を均等にできるので、複数の平行部流路34の間で、変流用流体Eの流量を均等にできる。このため、液充填時に平行部流路34内の変流用流体Eの流速や進行方向が不規則に変動することを抑制できるので、平行部流路34内に気泡が発生することを抑制できる。したがって、変流用流体Eの流圧を安定化できるので、変流用流体Eの流圧によってサンプル流体A内の細胞を分取用流路15に安定して移動できる。よって、細胞を分取する精度を向上できる。
【0035】
支持板33は、チャンバー31側の末端においてチャンバー31の外形に沿う位置まで延びている。これにより、圧電素子3によって平行部流路34内に変流用流体Eの流れが発生する際、支持板33のチャンバー31側の末端で平行部流路34内の変流用流体Eの流速や進行方向が不規則に変動することを抑制できるので、平行部流路34内に気泡が発生することを抑制できる。したがって、変流用流体Eの流圧を安定化できるので、変流用流体Eの流圧によってサンプル流体A内の細胞を分取用流路15に安定して移動できる。よって、細胞を分取する精度を向上できる。
【0036】
上記構成において、支持板33の圧電素子3とは反対側の先端と、先端部30aの側壁30a1との間に形成される先端部流路35において、高さhに対する幅w2の比が10を超えないように支持板33が設置されている。これにより、先端部流路35に対応する位置の壁部5aが側壁30a1と支持板33によって支持されるので、先端部流路35において第1部材4と第2部材5がたわむことを抑制できる。したがって、先端部流路35の陥落を抑制することができる。
【0037】
先端部流路35において、高さhに対する幅w2の比は1よりも大きい。これにより、先端部流路35を介して複数の平行部流路34に、変流用流体Eを均等に流れ込ませることができる。
【0038】
平行部流路34の幅w1の寸法が、支持板33の厚さdの寸法よりも長い。これにより、支持板33が配置された平行部30bの強度を維持しつつ、平行部流路34を広く形成することができる。したがって、平行部流路34を含む変流用流体収容部14における変流用流体Eの流れを均等にしつつ、変流用流体収容部14全体の流路抵抗を軽減できる。
【0039】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。本発明は前述した説明によって限定されることはなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0040】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0041】
1…セルソーター、3…圧電素子(変圧部)、4a…壁部、5a…壁部、11…サンプル流路、14…変流用流体収容部、15…分取用流路、30a…先端部、30a1…側壁、31…チャンバー、33…支持板、34…平行部流路、35…先端部流路、A…サンプル流体、D1…サンプル流体の流通方向、D2…変流用流体の流通方向、E…変流用流体、d…支持板の厚さ、h…平行部流路および先端部流路の高さ、w1…平行部流路の幅、w2…先端部流路の幅
図1
図2
図3