(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】プランジャポンプ、及びプランジャポンプ用プランジャ
(51)【国際特許分類】
F04B 53/14 20060101AFI20240829BHJP
F04B 53/00 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
F04B53/14 Z
F04B53/00 F
(21)【出願番号】P 2021008765
(22)【出願日】2021-01-22
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000117009
【氏名又は名称】旭サナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】洞戸 翔太
【審査官】森 秀太
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-187121(JP,A)
【文献】特開昭51-089201(JP,A)
【文献】国際公開第2019/220550(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 53/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力を発生するモータ部と、
前記モータ部によって駆動されて直線方向へ往復移動可能なプランジャと、
前記プランジャを移動可能に収容するとともに、外部から塗布液を吸引する吸引口及び前記吸引口から吸引した塗布液を外部へ吐出する吐出口を有するポンプケースと、
前記プランジャの外周面と前記ポンプケースの内周面との間に設けられ前記プランジャの外周面と前記ポンプケースの内周面との間の隙間を埋めて前記ポンプケース内の空間を前記吸引口から前記吐出口へ流れる塗料が通る内部空間と前記吸引口から吸引された塗料が通らない外部空間とに仕切る第1シール部材と、
前記プランジャの外周面と前記ポンプケースの内周面との間に設けられ前記プランジャの外周面と前記ポンプケースの内周面との間の隙間を埋めて前記内部空間を前記吸引口側の上流側空間と前記吐出口側の下流側空間とに更に仕切る第2シール部材と、を備え、
前記プランジャは、前記プランジャ内に設けられ、前記上流側空間と前記下流側空間とを連通し前記上流側空間の塗布液を前記下流側空間に流す連通経路を有し、
前記連通経路は、前記上流側空間と前記下流側空間とを繋ぐ部分であって、前記プランジャの中心軸に対して直角方向に延びる平面で切断した切断面を見た場合に前記プランジャの中心軸
に対して前後方向又は左右方向に延びる仮想線
とは重ならない位置に設けられた出口部を有している、
プランジャポンプ。
【請求項2】
前記出口部は、複数設けられている、
請求項1に記載のプランジャポンプ。
【請求項3】
前記複数の出口部は、各出口部における塗布液の吐出方向と同一方向に延びる前記仮想線に対して前記プランジャの周方向において同一側にずれて配置されている、
請求項2に記載のプランジャポンプ。
【請求項4】
駆動力を発生するモータ部と、
プランジャを移動可能に収容するとともに、外部から塗布液を吸引する吸引口及び前記吸引口から吸引した塗布液を外部へ吐出する吐出口を有するポンプケースと、
前記プランジャの外周面と前記ポンプケースの内周面との間に設けられ前記プランジャの外周面と前記ポンプケースの内周面との間の隙間を埋めて前記ポンプケース内の空間を前記吸引口から前記吐出口へ流れる塗料が通る内部空間と前記吸引口から吸引された塗料が通らない外部空間とに仕切る第1シール部材と、
前記プランジャの外周面と前記ポンプケースの内周面との間に設けられ前記プランジャの外周面と前記ポンプケースの内周面との間の隙間を埋めて前記内部空間を前記吸引口側の上流側空間と前記吐出口側の下流側空間とに更に仕切る第2シール部材と、を備えるプランジャポンプに用いられるプランジャであって、
前記プランジャは、前記モータ部によって駆動されて直線方向へ往復移動可能であり、前記プランジャ内に設けられ、前記上流側空間と前記下流側空間とを連通し前記上流側空間の塗布液を前記下流側空間に流す連通経路を有し、
前記連通経路は、前記上流側空間と前記下流側空間とを繋ぐ部分であって、前記プランジャの中心軸に対して直角方向に延びる平面で切断した切断面を見た場合に前記プランジャの中心軸
に対して前後方向又は左右方向に延びる仮想線
とは重ならない位置に設けられた出口部を有している、
プランジャポンプ用プランジャ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、プランジャポンプ、及びプランジャポンプ用プランジャに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば塗装装置等に用いられるプランジャポンプは、駆動源となるモータ部と、モータ部によって駆動されるポンプ部と、を備えている。ポンプ部は、筒状に形成されたポンプケースと、モータ部によってポンプケース内を直線往復移動するプランジャと、を有しており、プランジャの往復移動に伴って塗料等の塗布液を吸引及び吐出する。このようなプランジャポンプにおいて、ポンプ部は、シール部材を有している。シール部材は、ポンプケースとプランジャとの間に設けられてプランジャを摺動可能に支持するとともにプランジャに密着してポンプケースの内部を区画する機能を有する。
【0003】
このような構成のプランジャポンプは、プランジャの往復移動が繰り返されるとポンプケース内の塗布液がプランジャの移動に巻き込まれてシール部材とプランジャとの間に入り込むことがある。この場合、塗布液には顔料等の硬い粒子が含まれていることがある。そのため、シール部材とプランジャとの間に局所的に顔料等の硬い粒子が入り込んで堆積すると、プランジャの往復移動によってその粒子が研磨剤の働きをしてしまい、プランジャの外周面の一部に深い縦傷等の局所的な摩耗を発生させてしまう場合がある。そして、局所的な摩耗が発生した部分からポンプ部の内部に供給された塗布液が外部に漏れ出してしまうおそれがある。その結果、プランジャ自体の交換が必要となり、通常のプランジャの交換時期よりも早期に交換時期がきてしまうという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐久性を向上するとともにメンテナンス性を向上したプランジャポンプ、及びプランジャポンプ用プランジャを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態のプランジャポンプは、駆動力を発生するモータ部と、前記モータ部によって駆動されて直線方向へ往復移動可能なプランジャと、前記プランジャを移動可能に収容するとともに、外部から塗布液を吸引する吸引口及び前記吸引口から吸引した塗布液を外部へ吐出する吐出口を有するポンプケースと、前記プランジャの外周面と前記ポンプケースの内周面との間に設けられ前記プランジャの外周面と前記ポンプケースの内周面との間の隙間を埋めて前記ポンプケース内の空間を前記吸引口から前記吐出口へ流れる塗料が通る内部空間と前記吸引口から吸引された塗料が通らない外部空間とに仕切る第1シール部材と、前記プランジャの外周面と前記ポンプケースの内周面との間に設けられ前記プランジャの外周面と前記ポンプケースの内周面との間の隙間を埋めて前記内部空間を前記吸引口側の上流側空間と前記吐出口側の下流側空間とに更に仕切る第2シール部材と、を備え、前記プランジャは、前記プランジャ内に設けられ、前記上流側空間と前記下流側空間とを連通し前記上流側空間の塗布液を前記下流側空間に流す連通経路を有し、前記連通経路は、前記上流側空間と前記下流側空間とを繋ぐ部分であって、前記プランジャの中心軸に対して直角方向に延びる平面で切断した切断面を見た場合に前記プランジャの中心軸を通る仮想線の向きとは異なる方向へ向いた出口部を有している。
【0007】
実施形態のプランジャポンプ用プランジャは、駆動力を発生するモータ部と、プランジャを移動可能に収容するとともに、外部から塗布液を吸引する吸引口及び前記吸引口から吸引した塗布液を外部へ吐出する吐出口を有するポンプケースと、前記プランジャの外周面と前記ポンプケースの内周面との間に設けられ前記プランジャの外周面と前記ポンプケースの内周面との間の隙間を埋めて前記ポンプケース内の空間を前記吸引口から前記吐出口へ流れる塗料が通る内部空間と前記吸引口から吸引された塗料が通らない外部空間とに仕切る第1シール部材と、前記プランジャの外周面と前記ポンプケースの内周面との間に設けられ前記プランジャの外周面と前記ポンプケースの内周面との間の隙間を埋めて前記内部空間を前記吸引口側の上流側空間と前記吐出口側の下流側空間とに更に仕切る第2シール部材と、を備えるプランジャポンプに用いられるプランジャであって、前記プランジャは、前記モータ部によって駆動されて直線方向へ往復移動可能であり、前記プランジャ内に設けられ、前記上流側空間と前記下流側空間とを連通し前記上流側空間の塗布液を前記下流側空間に流す連通経路を有し、前記連通経路は、前記上流側空間と前記下流側空間とを繋ぐ部分であって、前記プランジャの中心軸に対して直角方向に延びる平面で切断した切断面を見た場合に前記プランジャの中心軸を通る仮想線の向きとは異なる方向へ向いた出口部を有している。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態によるプランジャポンプを適用した塗装装置の一例を示す斜視図
【
図2】一実施形態によるプランジャポンプの構成の一例を示す正面図
【
図3】一実施形態によるプランジャポンプの一例について、ポンプ部の構成を示す断面図
【
図4】一実施形態によるプランジャポンプの一例について、
図3のX4-X4線に沿って示すもので、吸引弁の規制部材の構成を示す図
【
図5】一実施形態によるプランジャポンプの一例について、
図3のX5-X5線に沿って示すもので、連通弁の規制部材の構成を示す図
【
図6】一実施形態によるプランジャポンプの一例について、
図3のX6-X6線に沿って示すもので、プランジャの中心軸を通る仮想線と出口部との位置関係を示す図
【
図7】一実施形態によるプランジャポンプの一例について、プランジャを上方向に移動させた状態の断面図
【
図8】一実施形態によるプランジャポンプの一例について、プランジャを下方向に移動させた状態の断面図
【
図9】従来構成におけるプランジャの外周面に局所的な摩耗が生じた状態の一例を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態において、構成要素等に付された「第1」、「第2」との語句は、類似した構成要素を単に区別するためのものであり、構成要素間の優劣や時間的要素を意味するものではない。
【0010】
本実施形態のプランジャポンプ10は、
図1に示すように、例えば塗装装置1に適用することができる。すなわち、本実施形態のプランジャポンプ10は、塗装装置用のプランジャポンプである。塗装装置1は、台車2を備えている。台車2は、例えば鋼製パイプ等でフレーム状に形成されており、プランジャポンプ10を固定することができる。台車2は、下端部に所定の間隔で離して設けられた複数の車輪3を有しており、作業者は台車2を操作することによって工場等の作業現場内において塗装装置1を移動させることができる。
【0011】
また、台車2はストッパ4を有している。塗装装置1は、ストッパ4と床面との接触面に働く摩擦力によって移動が規制され自立可能となる。なお、本実施形態では、プランジャポンプ10の重力方向を、プランジャポンプ10の上下方向とする。また、プランジャポンプ10に対して台車2側をプランジャポンプ10の後側とし、後側とは反対側すなわちプランジャポンプ10に対して台車2とは反対側をプランジャポンプ10の前側とする。そして、プランジャポンプ10を前側から見た場合における左右方向を、プランジャポンプ10の左右方向とする。また、塗装装置1は、台車2を備えず、鋼製のフレームや壁等にプランジャポンプ10を取付けている構成であっても良い。
【0012】
プランジャポンプ10は、例えば塗料や洗浄液等の比較的高粘度の塗布液を加圧して霧化させるエアレス塗装等に用いることができる。プランジャポンプ10は、
図1に示すように、モータ部20、ポンプ部30、及び連結部40を有している。モータ部20は、プランジャポンプ10の駆動源としての機能つまり駆動力を発生する機能を有する。モータ部20は、例えばエアモータで構成されている。この場合、モータ部20は、図示しないコンプレッサと接続されており、コンプレッサで圧縮された空気によって駆動力を発生させる。なお、モータ部20は、エアモータに限らず、電動モータや油圧モータ等によって構成されても良い。
【0013】
モータ部20は、モータケース21及びモータロッド22を備えている。モータケース21は、例えば鋼製で円筒形状に形成されている。本実施形態の場合、モータケース21は、内部に図示しないピストン及びモータロッド22の一部を収容している。ピストンは、例えば円盤状で構成されており、ピストンの上下の空間に対して圧縮空気の供給及び排気が交互に行われることによってモータケース21内を上下方向に往復移動する。
【0014】
モータロッド22は、ピストンの下方に設けられ、ピストンと一体的に上下方向に往復移動可能に構成されている。モータロッド22の上端部は例えばモータケース21内においてピストンに固定され、モータロッド22の下端部はモータケース21から下方へ突出している。なお、モータケース21は、図示しない消音体を有しており、ピストン等が駆動する際に発生する音を消音する機能を有していても良い。また、モータケース21は、2つ以上に分割したものを組み合わせた構成でも良い。
【0015】
ポンプ部30は、モータ部20の下方に設けられている。ポンプ部30は、連結部40に対して引き抜き及び差し込み可能に構成されている。連結部40は、モータ部20に固定されてポンプ部30とは着脱可能に連結しており、モータ部20とポンプ部30とを一体的に支持する機能を有する。
図2に示すように、連結部40は、ベース部41と、支柱部42と、を有している。ベース部41は、モータ部20の下方に離して設けられている。また、ベース部41は、平面視において前側が開放されたC字状又はU字状に形成されている。
【0016】
支柱部42は、例えば鋼製で円柱状に構成され、モータ部20とベース部41との間に鉛直方向に伸びてモータ部20とベース部41とを一体的に固定する機能を有する。具体的には、支柱部42の一方の端部はモータ部20の底面に固定され、他方の端部はベース部41の上面に固定されている。支柱部42は、例えば2本設けられている。この場合、モータ部20とポンプ部30とが接続した状態においてポンプ部30の左右方向における中心軸に対して左右対称となるように1本ずつ設けられている。支柱部42の本数は、これに限らず、ポンプ部30の重量等に応じて任意に設定されれば良い。
【0017】
そして、ポンプ部30は、ベース部41に対して前側へ向かって移動させることでベース部41つまり連結部40から引き抜かれる。また、ポンプ部30は、ベース部41に対して前側から後側へ移動させることでベース部41つまり連結部40に差し込まれる。したがって、本実施形態では、連結部40に対してポンプ部30の引き抜き及び差し込み方向は、ポンプ部30の前後方向に一致している。
【0018】
ポンプ部30は、図示しないタンクに貯留された塗布液を吸引し、その吸引した塗布液を所定の吐出圧で吐出する機能を有する。ここで、所定の吐出圧とは、例えば5~15МPa程度の高圧を意味する。ポンプ部30は、
図2及び
図3に示すように、ポンプケース31、プランジャ32、第1シール部材33、及び第2シール部材34を有している。ポンプケース31は、例えば鋼製で円筒形状に形成されている。ポンプケース31は、ポンプ部30の外殻を構成している。
【0019】
ポンプケース31は、
図2に示すように、第1ポンプケース311と、第2ポンプケース312と、を有している。すなわち、ポンプケース31は、複数この場合2つの部材を組み合わせた構成となっている。本実施形態では、
図2に示すように、第1ポンプケース311と第2ポンプケース312とが、例えばボルト等で構成された固定部材35を介して固定されることによって、第1ポンプケース311と第2ポンプケース312とが一体化されている。この場合、第1ポンプケース311と第2ポンプケース312とには、固定部材35が取付けられる部分に対応した位置に共通の形状で構成された図示しない被固定部が設けられている。なお、ポンプケース31は、2つ以上に分割した部材を組み合わせた構成に限らず、1つの部材で構成されても良い。
【0020】
第1ポンプケース311は、吸引口51及び吸引弁52を有している。吸引口51は、図示しないタンクに貯留された塗布液を第1ポンプケース311内に吸引するつまり外部から塗布液を吸引する機能を有する。吸引口51は、
図1に示すように、第1ポンプケース311の下端部に設けられており、例えば可撓性を有するサクションホース71を介してタンクに接続されている。
【0021】
吸引弁52は、
図3に示すように、第1ポンプケース311の内部で吸引口51の上部に設けられている。吸引弁52は、第1ポンプケース311の外部つまり吸引口51から第1ポンプケース311の内部へ向かう塗布液は通すが、第1ポンプケース311の内部から第1ポンプケース311の外部へ向かう塗布液は遮断する逆止機能を有している。
【0022】
吸引弁52は、
図3に示すように、弁体521、弁座522、及び規制部材523を有している。弁体521は、例えば球状に構成されている。弁座522は、例えば環状に形成され、弁体521を載置可能に構成されている。また、弁座522は、穴524を有している。穴524は、ポンプケース31の内部と外部とを連通しており、弁体521が弁座522に着座した場合に閉塞され、弁体521が弁座522から離れた場合に開放される。
【0023】
規制部材523は、塗布液が通過可能に構成され、弁体521が弁座522から離れる方向つまり上方への所定以上の移動を規制するためのものである。また、規制部材523は、通し穴525を有している。通し穴525は、
図4に示すように、例えば複数この場合4つ設けられており、弁体521が規制部材523に接触した場合でも閉塞されないように構成されている。
【0024】
この構成において、弁体521が弁座522に着座すると、弁体521によって穴524が閉塞されるため、吸引弁52が閉じた状態つまり吸引口51からポンプケース31内に塗布液を吸引されない状態となる。一方、弁体521が弁座522から離れる方向へ移動すると、弁体521によって閉塞されていた穴524が開放されるため、吸引弁52が開いた状態つまり吸引口51からポンプケース31内に塗布液を吸引可能な状態となる。
【0025】
第2ポンプケース312は、吐出口53を有している。吐出口53は、ポンプケース31内に供給された塗布液をポンプケース31外へ吐出する機能を有する。つまり、吐出口53は、吸引口51からポンプケース31内に吸引した塗布液を外部へ吐出するためのものである。
【0026】
吐出口53は、
図1に示すように、第2ポンプケース312の側面に設けられており、例えば耐圧性を有する塗料ホース72を介してスプレーガン73に接続されている。作業者は、スプレーガン73を操作してポンプケース31内に供給された塗布液を被塗物に対して塗布する。また、本実施形態の場合、吐出口53と塗料ホース72との間にはフィルタ部74が設置されている。フィルタ部74は、フィルタ部74を通過する塗布液に含まれる不純物を捕集する。
【0027】
プランジャ32は、下側部分がポンプケース31内に収容され、上側部分がポンプケース31内から突出しており、直線方向つまり上下方向に往復移動可能に構成されている。つまり、プランジャ32は、ポンプ部30に移動可能に収容されている。プランジャ32の上端部分は、接合部材80を介してモータロッド22の下端部に着脱可能に接続されている。接合部材80は、例えばナット等で構成される。この場合、プランジャ32の上端部分及びモータロッド22の下端部には、例えば右ねじの雄ねじ加工が施されている。
【0028】
このようにして、プランジャ32は、モータ部20によって駆動つまりモータロッド22の往復移動に連動して上下方向に往復移動する。そして、プランジャポンプ10のメンテナンス時には、接合部材80の接続を解除することによって、モータロッド22とプランジャ32との固定を解除して、例えばプランジャ32の交換作業等が行われる。
【0029】
第1シール部材33は、
図3に示すように、第2ポンプケース312の内周面とプランジャ32の外周面との間に設けられている。第1シール部材33は、例えばVパッキンやUパッキン等のいわゆるリップパッキンによって構成され、プランジャ32の周囲に環状に設けられている。第1シール部材33は、第2ポンプケース312の内周面とプランジャ32の外周面との間の隙間を埋めるためのものである。
【0030】
第1シール部材33は、吐出口53の下流側この場合吐出口53の上方に設けられている。そして、第1シール部材33は、ポンプケース31内の空間を吸引口51から吐出口53へ流れる塗布液が通る内部空間91と吸引口51から吸引された塗布液が通らない外部空間92とに仕切る機能を有する。つまり、第1シール部材33は、ポンプケース31内において、吸引口51からポンプケース31内に供給された塗布液が第1シール部材33より外部空間92側に移動するのを防止している。
【0031】
第2シール部材34は、
図3に示すように、第1ポンプケース311の内周面とプランジャ32の外周面との間に設けられている。第2シール部材34は、例えばVパッキンやUパッキン等のいわゆるリップパッキンによって構成され、プランジャ32の周囲に環状に設けられている。第2シール部材34は、第1ポンプケース311の内周面とプランジャ32の外周面との間の隙間を埋めるためのものである。
【0032】
第2シール部材34は、吐出口53の上流側この場合吐出口53の下方に設けられている。そして、第2シール部材34は、内部空間91を吸引口51側の上流側空間S1と吐出口53側の下流側空間S2とに仕切る機能を有する。この場合、上流側空間S1は、内部空間91のうち吸引口51と第2シール部材34との間の空間によって形成される。一方、下流側空間S2は、内部空間91のうち第1シール部材33と第2シール部材34との間の空間によって形成される。
【0033】
本実施形態では、
図3に示すように、プランジャ32は、連通口61、連通弁62、及び連通経路63を有している。連通口61は、プランジャ32の下端部に設けられている。連通口61は、ポンプケース31内に供給された塗布液をプランジャ32内に移動させるためのものである。すなわち、吸引口51からポンプケース31内に供給された塗布液の一部は、内部空間91において連通口61を介してプランジャ32内に導入される。
【0034】
連通弁62は、
図3に示すように、プランジャ32の内部で連通口61の上部つまり下流側に設けられている。連通弁62は、上流側空間S1から下流側空間S2へ向かう塗布液は通すが、下流側空間S2から上流側空間S1へ向かう塗布液は遮断する逆止機能を有している。この場合、連通弁62は、プランジャ32が下降すると開放されて、一方プランジャ32が上昇すると閉鎖される。
【0035】
連通弁62は、
図3に示すように、弁体621、弁座622、及び規制部材623を有している。弁体621は、例えば球状に構成されている。弁座622は、例えば環状に形成され、弁体621を載置可能に構成されている。また、弁座622は、穴624を有している。穴624は、弁体621が弁座622に着座した場合に閉塞され、弁体621が弁座622から離れた場合に開放される。
【0036】
規制部材623は、塗布液が通過可能に構成され、弁体621が弁座622から離れる方向つまり上方への移動を規制するためのものである。また、規制部材623は、通し穴625を有している。通し穴625は、
図5に示すように、例えば複数この場合3つ設けられており、弁体621が規制部材623に接触した場合でも閉塞されないように構成されている。
【0037】
この構成において、弁体621が弁座622に着座すると、弁体621によって穴624が閉塞されるため、連通弁62が閉じた状態つまりプランジャ32内の連通弁62の上部空間へ塗布液が供給されない状態となる。一方、弁体621が弁座622から離れる方向へ移動すると、弁体621によって閉塞されていた穴624が開放されるため、連通弁62が開いた状態つまりプランジャ32内の連通弁62の上部空間へ塗布液が供給可能な状態となる
【0038】
連通経路63は、
図3に示すように、連通口61を介してプランジャ32内に供給された塗布液が連通弁62を通ってプランジャ32の外部に至る経路である。すなわち、連通経路63は、上流側空間S1と下流側空間S2とを連通し、上流側空間S1の塗布液を下流側空間S2に流す経路である。また、連通経路63は、出口部631を有している。出口部631は、連通経路63の下流側に設けられており、上流側空間S1と下流側空間S2とを繋いでいる。
【0039】
出口部631は、
図3及び
図6に示すように、プランジャ32の径方向に延びる筒状、例えば円筒状に形成されている。更に、出口部631は、
図6に示すように、プランジャ32の中心軸Oに対して直角方向に延びる平面で切断した切断面を見た場合に、プランジャ32の中心軸Oを通る仮想線Lの向きとは異なる方向へ向いている。つまり、平面視において出口部631の中心αは、仮想線Lとは一致していない。ここで、本実施形態では、プランジャ32の中心軸Oを通る前後方向の仮想線を仮想線L1と称し、プランジャ32の中心軸Oを通る左右方向の仮想線つまり仮想線L1に直交する仮想線を仮想線L2と称する。なお、仮想線Lは、プランジャ32の中心軸Oを中心に任意の角度で回転させたものとすることができる。
【0040】
出口部631は、
図6に示すように、複数この場合4つ設けられている。この場合、出口部631aと出口部631cとは、プランジャ32の中心軸Oに対して直角方向に延びる平面で切断した切断面を見た場合に、仮想線L1に重ならない位置でかつ平行になるように配置されている。そして、出口部631bと出口部631dとは、プランジャ32の中心軸Oに対して直角方向に延びる平面で切断した切断面を見た場合に、仮想線L2に重ならない位置でかつ平行になるように配置されている。
【0041】
また、隣接する各出口部631a、631b、631c、631dの塗布液の吐出方向は、プランジャ32の周方向に90度ずれるように設けられている。この場合、出口部631aと出口部631cとは、プランジャ32の中心軸Oに対して点対称となるように設けられている。また、出口部631bと出口部631dとは、プランジャ32の中心軸Oに対して点対称となるように設けられている。
【0042】
すなわち、各出口部631a、631b、631c、631dは、各出口部631a、631b、631c、631dにおける塗布液の吐出方向と同一方向に延びる仮想線L1又は仮想線L2に対してプランジャ32の周方向において同一側にずれて配置されている。本実施形態では、各出口部631a、631b、631c、631dは、仮想線L1又はL2に対してプランジャ32の周方向において時計回りにずれて配置されている。なお、出口部631の中心αは、仮想線Lに対して平行になるように設けられる構成に限らず、仮想線Lに対して傾斜して設けられる構成であっても良い。
【0043】
また、各出口部631a、631b、631c、631dにおける対応する仮想線L1、L2からの距離が等しい位置に設けられる構成に限らず、それぞれの距離が異なる位置に設けられても良い。更に、各出口部631の外径は同じ寸法で構成されても良いし、互いに外径の異なる寸法で構成されても良いし、出口部631の数は複数の構成に限らず、単一で構成されても良い。
【0044】
このような構成において、プランジャ32が上昇すると、
図7に示すように、吸引口51及び吸引弁52を介して外部の塗布液が上流側空間S1に吸い込まれるとともに、下流側空間S2に充填されている塗布液が吐出口53から吐出される。これに対し、プランジャ32が下降すると、
図8に示すように、上流側空間S1内の塗布液が連通経路63を通過して各出口部631から下流側空間S2に移動するとともに、下流側空間S2に移動した塗布液の一部が吐出口53から吐出される。このように、プランジャポンプ10は、プランジャ32の上下方向の往復移動を行うことで、塗布液の吸引と吐出とを繰り返し連続して行うことができる。
【0045】
ここで、従来構成において、
図9に示すように、プランジャ95の周囲に配置されたシール部材96の一部に塗布液に含まれる顔料等が入り込んで堆積すると、プランジャ95の上下方向の往復移動に対して当該顔料等が研磨剤の働きをしてしまい、プランジャ95の外周面の一部に深い縦傷等の局所的な摩耗Dを発生させてしまう場合がある。そして、このような局所的な摩耗Dが発生した部分は、シール部材96によってシールすることが出来ないため、ポンプ部の内部に供給された塗布液の外部空間への漏えいを招いてしまうおそれがある。一旦、ポンプ部内部から外部空間への塗布液の漏えいが発生してしまうとプランジャポンプの修理を行わなければならず、作業者が予期しない時期に修理が必要となることで、塗装作業全体の遅延が発生する問題も生じてしまう。
【0046】
そこで、本実施形態では、連通経路63から下流側空間S2に至る部分に出口部631が設けられている。出口部631は、上述したように、プランジャ32の中心軸Oに対して直角方向に延びる平面で切断した切断面を見た場合に、プランジャ32の中心軸Oを通る仮想線Lの向きとは異なる方向へ向いている。そのため、プランジャ32の中心軸Oを通る仮想線Lから出口部631までの距離と出口部631から吐出される塗布液の吐出圧力とによってプランジャ32に対して周方向の回転力が発生する。
図7及び
図8に示すように、プランジャ32に対して回転運動を発生させることができる。
【0047】
このように、プランジャ32に対して上下方向の往復運動に加えて回転運動を発生させることによって、仮にシール部材33、34に塗布液に含まれる顔料等が入り込んで堆積してしまいプランジャ32の外周面に損傷が発生する場合であっても、プランジャ32の外周面の同一箇所に局所的な摩耗が生じることを防止することができる。
【0048】
この場合、プランジャ32が1往復する際に回転する量は僅かである。そのため、プランジャ32は、例えば数千から数万回往復運動した場合に、周方向に1回転する。このため、プランジャ32が往復運動を繰り返した際にプランジャ32の外周面全体で均等に摩耗を発生させることができる。これにより、プランジャ32の外周面が局所的に摩耗する場合に比べてプランジャ32の交換期間の延長を図ることが可能となり、結果として、プランジャポンプ10の耐久性及びメンテナンス性の向上を図ることができる。
【0049】
以上説明した実施形態によれば、プランジャポンプ10は、モータ部20、プランジャ32、ポンプケース31、第1シール部材33、及び第2シール部材34を備えている。モータ部20は、駆動力を発生する機能を有する。プランジャ32は、モータ部20によって駆動されて直線方向へ往復移動可能である。ポンプケース31は、プランジャ32を移動可能に収容する。また、ポンプケース31は、吸引口51と、吐出口53と、を有している。吸引口51は、外部から塗布液を吸引するためのものである。吐出口53は、吸引口51から吸引した塗布液を外部へ吐出するためのものである。第1シール部材33及び第2シール部材34は、ポンプケース31の内周面とプランジャ32の外周面との間に設けられポンプケース31の内周面とプランジャ32の外周面との間の隙間を埋める。
【0050】
また、第1シール部材33は、ポンプケース31内の空間を吸引口51から吐出口53へ流れる塗布液が通る内部空間91と吸引口51から吸引された塗布液が通らない外部空間92とに仕切る。第2シール部材34は、内部空間91を吸引口51側の上流側空間S1と吐出口53側の下流側空間S2とに更に仕切る。
【0051】
更に、プランジャ32は、連通経路63を有する。連通経路63は、プランジャ32内に設けられ、上流側空間S1と下流側空間S2とを連通し上流側空間S1の塗布液を下流側空間S2に流すためのものである。そして、連通経路63は、出口部631を有している。出口部631は、上流側空間S1と下流側空間S2とを繋ぐ部分であって、プランジャ32の中心軸Oに対して直角方向に延びる平面で切断した切断面を見た場合にプランジャ32の中心軸Oを通る仮想線Lの向きとは異なる方向へ向いている。
【0052】
これによれば、出口部631から吐出される塗布液によってプランジャ32に対して周方向の回転力を作用させることができる。これにより、プランジャ32の直線方向の往復運動に加えて回転方向の移動を生じさせることができる。その結果、ポンプケース31内部においてプランジャ32の外周面と接触するシール部材33、34に入り込んだ塗布液に含まれる顔料等によってプランジャ32の外周面の同一箇所が局所的に摩耗することを抑制することができる。すなわち、プランジャ32の外周面全体にわたって均等に摩耗を発生させることができる。よって、プランジャポンプ10の耐久性の向上を図ることができる。
【0053】
更に、プランジャ32の外周面に局所的な摩耗を生じさせないことによって、仮にプランジャ32の外周面の損傷によってポンプケース31内部から外部空間92へ塗布液が漏えいした場合であっても、塗布液が一箇所から急激に漏れることを抑制することができる。そのため、プランジャポンプ10の突発的な故障の発生を防ぐことができるため、その結果、作業者が予期しない修理を要することがないため、作業遅延の発生を防ぐことができる。
【0054】
また、従来構成におけるプランジャ95を本実施形態におけるプランジャ32に交換することによって、既存のプランジャポンプの耐久性の向上を図ることができる。すなわち、従来構成における上下方向つまり直線方向の往復移動のみが行われるプランジャ95を、直線方向の往復移動に加えて回転方向の移動を伴うプランジャ32に交換することによって、プランジャ95の外周面の損傷に起因するプランジャポンプの早期メンテナンスを防ぐことができ、既存のプランジャポンプの耐久性の向上を図ることができる。これにより、既存のプランジャポンプに対しても、部分的な部材の交換つまりプランジャ32への交換を行うだけで、プランジャポンプの耐久性を向上させることができる。
【0055】
また、出口部631は、複数設けられている。これによれば、出口部631を複数設けることによって、出口部631から吐出される塗布液によって発生する回転力を効率的にプランジャ32に作用することができる。これにより、プランジャ32の回転移動を生じさせることでプランジャ32外周面の同一箇所が局所的に摩耗することをより効果的に抑制することができる。
【0056】
また、複数の出口部631a、631b、631c、631dは、各出口部631a、631b、631c、631dにおける塗布液の吐出方向と同一方向に延びる仮想線L1、L2に対してプランジャ32の周方向において同一側にずれて配置されている。これによれば、各出口部631a、631b、631c、631dから吐出される塗布液によるプランジャ32に与える回転力を同一方向に作用することができる。その結果、プランジャ32の回転方向の移動を円滑にすることができる。
【0057】
以上説明した、本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、上記し且つ図面に記載した各実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0058】
10…プランジャポンプ、20…モータ部、22…モータロッド、30…ポンプ部、31…ポンプケース、32…プランジャ、33…第1シール部材、34…第2シール部材、51…吸引口、53…吐出口、63…連通通路、631…出口部、91…内部空間、92…外部空間、S1…上流側空間、S2…下流側空間