(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】雑音埋蔽方法、雑音埋蔽装置、雑音埋蔽音波生成プログラム及び雑音埋蔽音波生成プログラムを格納した記録媒体
(51)【国際特許分類】
G10K 15/04 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
G10K15/04 302Z
(21)【出願番号】P 2021082335
(22)【出願日】2021-05-14
【審査請求日】2023-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】506095744
【氏名又は名称】株式会社アスア
(74)【代理人】
【識別番号】100094156
【氏名又は名称】稲葉 民安
(74)【代理人】
【識別番号】100102783
【氏名又は名称】山崎 高明
(72)【発明者】
【氏名】吉田 次郎
【審査官】佐久 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-514265(JP,A)
【文献】特開2019-045811(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0356982(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 15/00-15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象空間にある雑音を解析し、周波数分解及び周期性の検出を行い、
上記周波数分解された周波数成分を含む和音を決定し、
検出された上記周期性に同調する律動を決定し、
上記決定された和音を上記決定された律動で発生させる
ことを特徴とする雑音埋蔽方法。
【請求項2】
雑音が入力され、この雑音を解析し、周波数分解及び周期性の検出を行う解析部と、
上記解析部により周波数分解された周波数成分を含む和音及び検出された周期性に同調する律動を決定する演算部と、
上記演算部により決定された和音を上記決定された律動で発生させて出力する生成部と
を備えたことを特徴とする雑音埋蔽装置。
【請求項3】
対象空間にある雑音が入力され、この雑音を解析し、周波数分解及び周期性の検出を行い、
上記周波数分解された周波数成分を含む和音を決定し、
検出された上記周期性に同調する律動を決定し、
上記決定された和音を上記決定された律動で発生させる
ことを特徴とする
雑音埋蔽音波生成プログラム。
【請求項4】
請求項3記載の雑音埋蔽音波
生成プログラムが格納された
ことを特徴とする記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人が不快と感じる雑音からの不快感を軽減することができる雑音埋蔽方法、雑音埋蔽装置、雑音埋蔽音波、雑音埋蔽音波を格納した記録媒体、雑音埋蔽音波生成プログラム及び雑音埋蔽音波生成プログラムを格納した記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日常生活において、人が不快と感じる雑音を耳にすることがある。こうした不快な音を避けたい場合、その場を去るか、耳を塞ぐなど対処を試みることはできる。しかしながら、音源の近くに留まらなければならない場合もあり、また、両手で耳を塞ぐことは行動が大きく制限される。したがって、異音による不快な状態(環境)に遭遇した場合には、その状態を受忍しなければならない場合が少なくない。
【0003】
また、こうした不快な音を聞き続けることは精神衛生上不健康な状態に陥る可能性は否定できないし、該不快な音が商業施設において発生している場合には、多くの人が来店を敬遠し、集客に影響が出ることは間違いない。他方、製品が雑音を発している場合、機能面で優れていたとしても、その使用を敬遠し購買行動に悪影響を及ぼすリスクは極めて高い。
【0004】
ところで、従来、こうした不快な音を解消する方法として、いわゆるノイズキャンセル(雑音相殺)方法及び装置が提案されている。このノイズキャンセル方法は、特許文献1に記載されているように、雑音に対して逆位相であって雑音に等しい周波数の音を発生し、この音を雑音に重ねることによって、雑音を相殺するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
日常生活において発生し、人が不快と感じる雑音について、音源付近にいることで感じる雑音からの不快感を軽減する必要がある。機械そのものが構造上発生させざるを得ない雑音や、環境由来の避けることができない雑音について、その不快感を和らげることで、その製品の使用時の快適性を高めることや、その環境にいても不快と感じずに過ごすことができる状態を作るべきである。
【0007】
この点、上述したノイズキャンセル方法においては、装置が発生した音によって雑音を相殺するので、外界の音はほとんど聞こえない状態となってしまう。つまり、自動車や電車が接近する音や、機械の動作音など、危険を感知させる音も聞こえない状態となり、危険を回避する行動がとれなくなる虞がある。
【0008】
そこで、本発明は、上述したノイズキャンセル方法及び装置が有する課題を解決するために提案されたものであって、人が不快と感じる雑音からの不快感を軽減でき、危険を感知させる音が聞こえなくなることのない雑音埋蔽方法、雑音埋蔽装置、雑音埋蔽音波生成プログラム及び雑音埋蔽音波生成プログラムを格納した記録媒体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであって、第1の発明(請求項1記載の発明)は、雑音埋蔽方法に係るものであって、対象空間にある雑音を解析し周波数分解及び周期性の検出を行い、上記周波数分解された周波数成分を含む和音を決定し、検出された上記周期性に同調する律動を決定し、上記決定された和音を上記決定された律動で発生させることを特徴とするものである。
【0010】
この第1の発明に係る雑音埋蔽方法では、雑音を解析して得られた周波数成分及び周期性に基づき、これら周波数成分を含む和音及び周期性に同調する律動を決定し、発生させるので、人が不快と感じる雑音からの不快感を軽減できる。
【0011】
また、第2の発明(請求項2記載の発明)は、雑音埋蔽装置に係るものであって、雑音が入力されこの雑音を解析し周波数分解及び周期性の検出を行う解析部と、上記解析部により周波数分解された周波数成分を含む和音及び検出された周期性に同調する律動を決定する演算部と、上記演算部により決定された和音を上記決定された律動で発生させて出力する生成部とを備えたことを特徴とするものである。
【0012】
この第2の発明に係る雑音埋蔽装置では、雑音を解析して得られた周波数成分及び周期性に基づき、これら周波数成分を含む和音及び周期性に同調する律動を決定し、発生させて出力するので、人が不快と感じる雑音からの不快感を軽減できる。
【0017】
第3の発明(請求項3記載の発明)は、雑音埋蔽音波生成プログラムに係るものであって、対象空間にある雑音が入力されこの雑音を解析し、周波数分解及び周期性の検出を行い、上記周波数分解された周波数成分を含む和音を決定し、検出された上記周期性に同調する律動を決定し、上記決定された和音を上記決定された律動で発生させることを特徴とするものである。
【0018】
この第3の発明に係る雑音埋蔽音波生成プログラムでは、雑音を解析して得られた周波数成分及び周期性に基づき、これら周波数成分を含む和音及び周期性に同調する律動を決定し、発生させるので、人が不快と感じる雑音からの不快感を軽減できる。
【0019】
第4の発明(請求項4記載の発明)は、記録媒体に係るものであって、第3の発明(請求項3記載の発明)に係る雑音埋蔽音波生成プログラムが格納されたことを特徴とするものである。
【0020】
この第4の発明に係る記録媒体では、雑音を解析して得られた周波数成分及び周期性に基づき、これら周波数成分を含む和音及び周期性に同調する律動を決定し、発生させるプログラムが格納され実行することができるので、人が不快と感じる雑音からの不快感を軽減できる。
【発明の効果】
【0021】
第1の発明(請求項1記載の発明)に係る雑音埋蔽方法によれば、人が不快と感じる雑音からの不快感を軽減でき、危険を感知させる音が聞こえなくなることがない。
【0022】
また、第2の発明(請求項2記載の発明)に係る雑音埋蔽装置によれば、人が不快と感じる雑音からの不快感を軽減でき、危険を感知させる音が聞こえなくなることがない。
【0025】
第3の発明(請求項3記載の発明)に係る雑音埋蔽音波生成プログラムによれば、人が不快と感じる雑音からの不快感を軽減でき、危険を感知させる音が聞こえなくなることがない。
【0026】
第4の発明(請求項4記載の発明)に係る記録媒体によれば、人が不快と感じる雑音からの不快感を軽減でき、危険を感知させる音が聞こえなくなることがない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明に係る雑音埋蔽方法を説明する手順である。
【
図2】雑音を解析して得られた周波数成分及び周期性の例を示すグラフである。
【
図3】雑音の成分を周期分析した結果を示す図である。
【
図4】雑音の成分をイコライジングして分析した結果を示す図である。
【
図5】雑音の成分を分解した素材で作曲した結果を示す図である。
【
図6】作曲した音楽の調整した結果を示す図である。
【
図7】作曲した音楽を譜面として生成した結果を示す図である。
【
図8】本発明に係る雑音埋蔽方法を実行する本発明に係る雑音埋蔽装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係る雑音埋蔽方法、雑音埋蔽装置、雑音埋蔽音波生成プログラム及び雑音埋蔽音波生成プログラムを格納した記録媒体について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
雑音であってもなくても、音というのは構成要素としてみた場合複数の音階に分解することができる。また、多くの場合雑音そのものには一定の周期がある。また人間が不快と感じる理由として、音階が不協に組み合わさっていたり、普段耳慣れない音であったりすることが挙げられる。本発明は、雑音の構成要素を物理的に分解し、得られた音階、周期を用いて音楽として再構成し、その雑音が発生している空間に流すことで、人が不快と感じる要素を低減させる仕組みの提供サービスである。
【0030】
〔雑音埋蔽方法〕
図1は、本発明に係る雑音埋蔽方法を説明する手順である。
【0031】
(1)異音を取得し、解析して周期と周波数とを分析する。
この雑音埋蔽方法は、
図1に示すように、まず、対象空間にある雑音を解析し、周期性の検出及び周波数分解を行う(手順1)。周波数分解は、スペクトルアナライザを用いて、フーリエ変換により行うことができる。
【0032】
図2は、雑音を解析して得られた周波数成分及び周期性の例を示すグラフである。また、
図3は、雑音の成分を周期分析した結果を示す図である。
【0033】
例えばモータの場合、
図2及び
図3に示すように、モータの回転数が生み出す「うねり」(周期性)があり、その「うねり」(周期性)(例えば、25BPM)を音楽的なテンポ(BPM)の律動(リズム)とみなす(
図2の下図)。
【0034】
図4は、雑音の成分をイコライジングして分析した結果を示す図である。
【0035】
また、モータ音の波形(
図2の上図)を解析し、
図4に示すように、その中に存在する周波数に分解し、これを、例えば、レ(D)、ファ♯(F♯)、ソ(G)、シ(B)の音階に割り当てる(
図2の下図)。雑音として耳に聞こえる音も、波形を解析することにより複数の周波数(音階)の組み合わせに分けることができる。
【0036】
(2)検出された周期性(テンポ(BPM))に同調する新しい律動を作成(作曲)する。
図1に示すように、周波数分解された周波数成分(音階)を含む和音を決定し、検出された周期性に同調する律動を決定(作曲)する(手順2)。
【0037】
図5は、雑音の成分を分解した素材で作曲した結果を示す図である。
【0038】
図5に示すように、雑音の波形に近いアンビエント(AMBIENT)音を、様々な楽器のサンプル音より作成し、検出した周波数(音階)の中の音と組み合わせ、数種類の和音(ハーモニ)を作成する。
【0039】
(3)検出したテンポ(BPM)の律動(リズム)に基づいて、そのテンポに同調する新しい律動(リズム)を作成する。
【0040】
また、この新しい律動(リズム)に基づいて、音楽ソフト上(pro tools)でLOOP(ループ)を作成する。
【0041】
モータの場合は、その回転数と同調する律動(リズム)のループを、雑音の成分に近い波形と音質のものを楽器や自然音のサンプルから選んで組合せる。また、コンプレッサであれば、その雑音の波形に近い音を様々な楽器の音を組み合わせて作成し、また、コンプレッサの雑音の周期とタイミングがランダムにマッチするようにプログラムしてもよい。
【0042】
これらの方法を用いて、主成分を雑音の分解音で構成した10-20種類のループを作成する。
【0043】
(4)決定された和音を決定された律動で発生させる(演奏する)(手順3)。
図6は、作曲した音楽の調整した結果を示す図である。
【0044】
図6に示すように、雑音の成分に基づいて作成したループと、実際に鳴っているモータやコンプレッサの雑音を録音したものを、音楽ソフト上のチャンネルにそれぞれ振り分けて雑音に重ね合わせながら、雑音を低減できるループの組み合わせを検証することができる。振り分けたチャネルごとにイコライザやリバーブなどのエフェクト処理を施して編集し、それぞれのチャネルごとに音量調節を行うことが好ましい。
【0045】
(5)各トラックを楽曲に見立てて構成する。
図7は、作曲した音楽を譜面として生成した結果を示す図である。
【0046】
図7に示すように、雑音の成分を利用して作成した各トラックを楽曲に見立てて構成することにより、雑音を音楽的に変換して取り込んで作曲された音源は、雑音としての不快感を消滅させることができる。
【0047】
〔雑音埋蔽音波生成プログラム〕
本発明に係る雑音埋蔽方法は、上述した解析及び決定が、コンピュータ装置によってプログラムに従って行われるようにして、雑音埋蔽装置において実行されるようにしてもよい。また、上述した和音の発生(演奏)は、自動演奏装置によって行われるようにしてもよい。
【0048】
すなわち、本発明に係る雑音埋蔽音波生成プログラムは、対象空間にある雑音が入力され、この雑音を解析し、周波数分解及び周期性の検出を行い、周波数分解された周波数成分を含む和音を決定し、検出された周期性に同調する律動を決定し、決定された和音を決定された律動で発生させるものである。
【0049】
〔雑音埋蔽音波生成プログラムを格納した記録媒体〕
本発明に係る記録媒体は、上述した雑音埋蔽音波生成プログラムが格納された記録媒体である。
【0050】
この記録媒体から雑音埋蔽音波生成プログラムをロードして実行することにより、本発明に係る雑音埋蔽方法が実施される。
【0051】
〔雑音埋蔽装置〕
図8は、本発明に係る雑音埋蔽方法を実行する本発明に係る雑音埋蔽装置の構成を示すブロック図である。
【0052】
この雑音埋蔽装置は、
図8に示すように、雑音が入力され、この雑音を解析し、周波数分解及び周期性の検出を行う解析部1を備えている。また、この雑音埋蔽装置は、解析部1により周波数分解された周波数成分を含む和音及び検出された周期性に同調する律動を決定する演算部2を備えている。さらに、この雑音埋蔽装置は、演算部2により決定された和音を決定された律動で発生させて出力する生成部3を備えている。
【0053】
この雑音埋蔽装置においては、本発明に係る雑音埋蔽音波生成プログラムが実行される。
【0054】
〔雑音埋蔽音波〕
上述のようにして周波数成分及び周期性が解析された特定雑音のある空間に発生されて、特定雑音を埋蔽する雑音埋蔽音波である。
【0055】
この雑音埋蔽音波は、上述のように、
図2の手順3により発生(演奏)された音波である。この雑音埋蔽音波は、特定雑音の周波数成分を含む和音により、特定雑音の周期性に同調する律動を構成しているので、特定雑音の不快感を消滅させることができる。
【0058】
上述のように、本発明によれば、雑音を構成する要素を用いて、その空間の雰囲気に合う音楽を作曲して重ねることにより、雑音が持つ成分が音楽に溶け込み、耳にする側が雑音として感じるのではなく「音楽」として感じることができる。とりわけ、雑音が発生する空間に初めからその音楽が重なっている状態においては、雑音を雑音として認識することも少なくなるため、雑音によるストレスを大きく軽減することができる。
【0059】
本発明によれば、雑音を調査・分析し、その構成要素を用いた音楽を作曲し提供することができる。また、雑音を調査・分析し、得られた構成要素から、既存の音楽において近しい要素をもつものを選定し、インターネットや有線放送などの音楽配信サービスで、かつ利用者側が流す音楽を選定するタイプに対し、雑音を軽減できる音楽を自動で選定することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 手順1:解析部
2 手順2:演算部
3 手順3:生成部