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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】浮体式植物養生基盤
(51)【国際特許分類】
   A01G 31/00 20180101AFI20240829BHJP
【FI】
A01G31/00 604
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021146494
(22)【出願日】2021-08-04
(65)【公開番号】P2023024212
(43)【公開日】2023-02-16
【審査請求日】2024-02-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519258437
【氏名又は名称】AGBIOTECH株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100178331
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 宏二
(72)【発明者】
【氏名】武田 実
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-223448(JP,A)
【文献】特開2000-300095(JP,A)
【文献】特開2016-131562(JP,A)
【文献】特開平08-252025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00-31/02
A01G 22/30
A01G 24/00-24/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水または養液ある水域に浮かべられた浮体と、
上記水域の表面水位より上方で上記浮体に設けられ、コケ植物の群を保持した養生領域と、
上記水域の表面水位と上記養生領域との間に介在する空間領域と、
毛細管を有し、上記養生領域から上記空間領域を通過して上記水域に達する輸送体と
を備え、
上記輸送体は、その一端が上記コケ植物の群の一部に接触し、
上記輸送体の毛細管現象によって、上記水域中の水あるいは養液が上記養生領域に供給され、上記養生領域内のコケ植物が養生されることを特徴とする
浮体植生基盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コケ植物の養生を行うことを主要な目的とする浮体植生基盤に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
近年、植物養生基盤として、水あるいは養液のある水域から、これらを毛細管現象によって植物養生領域へ輸送する構造物(「輸送体」、「揚水体」または「浸潤体」ともいう)を介し、植物を養生する基盤および手法が開発されている。この原理をもとに開発された基盤技術として、輸送体の素材には生物系のミズゴケおよびその乾燥体が、非生物系素材としては石質やプラスチックを加工した薄層系の揚水体および浸潤体が開発された。これにより、ミズゴケあるいは乾燥させたミズゴケを介してコケ植物およびその他植物の栽培・増殖、さらには絶滅危惧植物であるミズゴケ属に属する種を含むその他希少種が安定かつ容易に大量栽培することが可能になった。この発明をもとに、現在、ダムや湖水でのフロー栽培ならびに自然環境に生息する環境修復など屋外条件下を前提としたフィールドだけでなく屋上緑化、さらには壁面緑化におけるミズゴケ、ミズゴケ以外のコケ植物、またはシダ植物を含む維管束植物の生育基盤とし大きく貢献している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記基盤には、地面に固定された固定式基盤と、水面に浮上する浮き式基盤(「浮体式」、「フロート式」または「いかだ式」基盤ともいう)の2つの型に大別される。前者は、地面や屋上といった固体の場に、基盤を固定して植物の養生を行うものであり、田畑での植物の栽培、緑化では「人工地盤」として古来あるいは従来より実施されている方法に基づいた栽培方法を応用して開発された基盤あるいは技法である。これに対して後者の浮体式は浮体物を用いて水面上にある領域で植物を養生する技法であり、「浮き島」や「人工浮島」として主に水辺の植物を中心に「人工湿原」構築の技法として開発されてきた経緯をもつ。また、近年では植物工場の養液栽培にも利用され、具体的には発泡スチロール等を加工した浮き式の基盤を用い、浮体の上部に植物の地上部にあたる器官(主に葉)を、浮体の下部にあたる水域では植物の地下部にあたる器官(主に根)を養生し、いわゆる「水耕栽培」形式として浮き式基盤が利用されている。しかしながら、浮き式基盤では、湿性植物や水耕栽培など植物の地下組織や器官が直接、水や養液に接触するか、あるいは水分を多く含んだ養生基盤となるため、現行の植物工場においても葉物野菜にしか適用されていないのが現状である。また、これまでの浮体型基盤の開発は薄層構造として水分を供給できるよう開発されたものである。すなわち、現状の浮体式基盤では、1)湿性環境での栽培となるため、エアレーションで好気的条件をつくる等、特別な装置を導入しない限り、一部の植物にしか適応できていない、2)薄層構造では深根性の植物の養生は極めて難しいという問題がある。すなわち、樹木や根菜類などの土中領域が十分に必要な植物グループや乾燥地を好む植物、あるいは水耕栽培や湿生域では育たない植物など、これら植物の養生は実質的に不可能であり、今後、これら植物の養生に適した浮体基盤の開発が待たれている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者はこの課題の解決に向けて鋭意検討を重ねた。その結果、1)浮体式の基盤養生領域に、水または養液が直接侵入することを遮断する空間領域を設け、かつ2)この空間領域の空間配置が浮体状態で水面に対し同じ状態に保たれて傾かないための、空間配置維持機能としてはたらく開放系部を設け、さらに3)水あるいは養液に接触させた輸送体を介して植物養生領域に水を供給させることで、基盤内の養生領域の湿潤状態を一定の含水率に保たせることに成功した。これを浮体植生基盤として提供することにより、上記の課題を解決できる本発明を完成した。
【0005】
すなわち本発明は、浮体によって液面から浮上させた基盤部分をもたせ、その基盤内部にある浮体の水面より上に位置する場所に空間領域を設け、水域と養生領域との接触を遮断し、かつこの基盤内部の空領域を閉鎖系空間にしない構造(すなわち「外部の水面上の気体空間とつながりをもたせ、開放系の状態にする構造」のこと)をもたせることで、浮体基盤の水上部の安定化と養生領域の含水率をコントロールできるようになった
【0006】
なお、養液とは、特に断らない限り、任意生物を生存、生長あるいは増殖可能な全ての溶液である。また、蒸留水や培養液を含め、前記の生長可能な養生液に殺菌・消毒処理を施したものも範疇に含み(市販品も可)、さらに、前記の養生液に微生物などの生物が加えられても、自然増殖してもよい。いずれにしても、「養液」とは、主に、水あるいは生物を生存あるいは成長・増殖させるための培養液であるものを意味するもので、生物の種類のいかんに問わず、水と同様に循環するものであれば問題とならない。
【0007】
なお、輸送体(「揚水体」または「浸潤体」)とは、毛細管現象による水の移動を含め、紙、布、綿、パルプなどの天然の植物性繊維素材、およびスポンジなどの化学合成系のプラスチック素材、発泡性のセラミック・陶磁、グリーンビズ、モルタル、コンクリート二次製品、レンガ、タイル、など、養液を水位よりも上部に引き上げることが可能な構造体であればよく、その材質およびその組み合わせは特に限定されるものではない。またミズゴケ、砂岩・泥岩などの砕屑性、凝灰岩などの火砕性、氷河堆積岩などの破砕性といった堆積岩、溶岩・火山噴出物・マグマなどから形成される火成岩、あるいは生物の堆積物でできる石灰岩、人工的につくられるコンクリート材や、これら粉砕物を単独あるいは複合して形状化したものも輸送体の範疇に含める。例えば、薄層表面加工して、粒形を一律にした砂や溶岩の粉末粒子を接着剤等で固着するものなども、これに該当する。
【0008】
「輸送体」は、養液を養生領域に移動させるものであればよく、上部が開放された水路状の構造(水路ともいう)や、流入および流出部を主な開放部とするパイプ状の構造、あるいは水を溜めることが可能な袋状構造など、形状やその役割・用途は限定されない。また輸送体は、吸水性素材としてのミズゴケや石質素材もこれに該当し、本発明においてはこのような単独素材での利用や素材自体が限定されなくても利用できる点であり、例えば、非吸水性や疎水性の素材表面あるいは内部に吸水性素材を付着・充填させたり、あるいはそれらを粒にしたものを混合して形状化した物体で、輸送体から養生領域に養液を浸潤させての植物養生も可能である。
【0009】
本基盤において養生される植物は特に限定されず、維管束植物全般の養生が可能である。またコケ・シダ類全般やキノコ・菌類全般の養生も可能である。
【0010】
ここで、生長した植物は、「収穫物」として、また本基盤で作付けされる植物全般の苗床として、また種子の発芽育成に用いることができる。花や果実をつけさせる場合には、交配や育種として利用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】浮体式植物養生基盤を水溜め器に設置した姿図である。
図2】浮体式植物養生基盤の養生領域が格子体である場合の格子体の拡大分解図である。
図3】水溜め器およびこれに設置した浮体式植物養生基盤の断面図である。
図4】植物地下養生領域を設けた浮体式植物養生基盤の姿図である。
図5】植物地下養生領域を複数設けた浮体式植物養生基盤の姿図である。
図6】植物地下養生領域を設けた浮体式植物養生基盤の断面図である。
図7】植物地下養生領域を設けた浮体式植物養生基盤で植物を養生した際の姿図である。
図8】植物の地下養生領域を覆うカバーを取り付けた浮体式植物養生基盤で植物を養生した際の姿図である。
図9】植物の地下養生領域を覆うカバーを取り付けた浮体式植物養生基盤で植物を養生した際の断面図である。
図10】浮体式植物養生基盤に格子体と植物地下養生領域を組み合わせた断面図である。
図11】浮体式植物養生基盤に、別途、植物地下養生体を組み込む様式を示した断面図である。
図12】浮体式植物養生基盤を連結した姿図である。
図13】浮体式植物養生基盤を連結した断面図である。
図14】浮体式植物養生基盤に輸送体を設けることなく植物を養生する姿図である。
図15】浮体式植物養生基盤に輸送体を設けることなく植物を養生する断面図である。
図16】浮体式植物養生基盤で植物を養生した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は浮体式植物養生基盤の姿図である。浮体1には、板状の物体(平面体あるいは平面部材ともいう)を格子状に組み合わせた構造体(格子体2)を組み込むことも可能である。水あるいは養液は水溜め器3に入れてもよい。浮体式基盤の養生領域は水位4より常に上部にあり、この水位4から養生領域の上部までの距離は浮体素材や構造の浮力によって調整することが可能である。格子体2の上部である養生領域に網状体5を設置し、植物を養生してもよい。浮体の形状は特に限定されず、曲線形状や円形など、水面に養生領域が浮上すれば形状は特に限定されない。また、格子体の形状は特に限定されず、水を輸送し植物を水上で育成できる構造体であればよく、その形状は特に限定されない。浮体の厚さは特に限定されないが、0.1mm~100mm程度、通常は2mm~50mmが好適である。また、その素材は発泡スチロール、断熱材全般(スタイロホームなど)、プラスチック、木材、ビニール、樹脂、ゴム、コンクリート、石材、金属等、特に限定されない。また、ビニールやガラス製容器に空気を入れるなど液に浮くものであれば、素材や形は特に限定されない。浮体は加工が容易で、かつ浮力のある素材が好適であるため、このような点から、発泡プラスチック(発泡スチロール)、ポリスチレン樹脂(スタイロホーム)、軽量プラスチック等が、好適な素材として例示される。
【0013】
図2は格子体2の拡大分解図である。平面体上6にある溝上7は溝下8に差し込み平面体下9と連結させて、格子構造をつくる。尚、溝の切れ込みは1mm~500mm程度、通常は20mm~200mmが好適である。
【0014】
格子体2の構成部材となる平面体上6および平面体下9(単に平面部材ともいう)は、特に断らない限り、厚みをもった面上構造を形づくる全ての素材で、表面の凹凸や、湾曲、1平面体における厚みの違いがあっても、平面に穴や切れ込みがあってもよい。平面体の素材としては、木材、ポリプレート、化学合成系のプラスチック素材、発泡樹脂、アルミやステンレスを含む金属、石、セラミック、陶器、瓦、グリーンビズ、モルタル、コンクリート二次製品、レンガ、タイル、コンクリート、ガラスなど、その種類は特に限定されるものではない。平面体の厚さは特に限定されないが、0.1mm~100mm程度、通常は2mm~50mmが好適である。また、その素材は、上記に挙げたとおり特に限定されないが、折り曲げが容易で、かつ、経時的な耐久性に優れた素材であることが好適である。このような点から、ポリプレート、ビニール、プラスチック等の耐錆性に優れたものが好適な素材として例示される。
【0015】
平面部材を組み合わせて植生基盤を作製する場合には、特に格子状(格子体2)が好適である。ただし、平面体の固定角度は、通常は5度~175度程度、通常は、45度から135度が好適であり、必ずしも垂直(90度)に限定されるものではない。また、平面体のサイズは特に限定されないが、施工面に対し縦(高さ)2mm~500mm、横(幅または長さ)10mm~10000mm程度、通常は縦20mm~200mm、横100mm~1000mmが好適である。平面体どうしの配置は、図1のように格子状の集合物である格子体が好適であるが、単独、平行あるいは不定配置など、施工表面に固定できればよく、必ずしも配置や配勾を限定するものではない。
【0016】
平面部材は、組み合わせた部材を固定できるものであればよく、例えば、くぎ、留めネジ、ホッチキス針などで固定できるが、特にタッカー針が好適である。また、平面部材の素材も、木質、鉄やステンレスなどの金属など特に限定されない。
【0017】
水溜め器3の部材としては、厚さは特に限定されないが、0.1mm~100mm程度、通常は2mm~50mmが好適である。また、その素材は、プラスチック、木材、ビニール、樹脂、ゴム、コンクリート、石材、金属等、特に限定されないが、折り曲げが容易で、かつ、経時的な耐久性に優れた素材であることが好適である。このような点から、ビニール、プラスチック(防水ゴム)等の耐錆性に優れたものが、好適な素材として例示される。水溜め器7の形状については、箱型、円筒型、円錐型、円柱型、楕円形、ドーム型、コンベックス(蒲鉾状)およびこれ以外の形あるいは不定形でもよく、水を溜めることが可能な形状であれば特に限定されるものではない。また水溜め体7を複数の素材から構成してもよく、例えば、底部を木や防水樹脂にしたり、シリコンを接着するなどして、水溜めができる状態にしてもよい。
【0018】
網状体5の素材は、プラスチック、木材、ビニール、樹脂、ゴム、コンクリート、石材材、金属等、特に限定されないが、折り曲げが容易で、かつ、経時的な耐久性に優れた素材であることが好適である。このような点から、ビニール、プラスチック(防水ゴム)等の耐錆性に優れたもの、特にバードネット等が好適な素材として例示される。被覆網状体9のネットの厚みは0.1mm~50mm程度、通常は2mm~50mmが好適である。またメッシュのサイズは1mm~100mm程度、通常は2mm~50mmが好適である。本被覆網状体9は平面立て構造体の上部に設けなくてもよいが、植物を定着後に被覆網状体9で被覆するのが好適である。また、格子体の取り付けはタッカーか結束バンドでとめてもよい。
【0019】
図3は格子体を組み込んだ浮体式植物養生基盤で、植物を養生した場合の断面図である。浮体式植物養生基盤は、基盤体積を拡張するための浮体拡幅体1’をつけてもよく、格子体2’は水位4’より上部に位置し、水位4’から水または養液を輸送体10を介して格子体2’まで引き上げ植物体11に水または養液を供給する。また底面浮体13を固定部材12で固定することにより、基盤の浮力を強化し、また水位4’と格子体上の養生領域までの距離を調整することもできる。固定部材は、平面体と平面体を連結固定できるものであればよく、例えば、くぎ、留めネジ、ホッチキス針などで固定できるが、特にタッカー針が好適である。また、当該部材の素材も、木質、鉄やステンレスなどの金属など特に限定されない。
【0020】
図4は植物地下養生領域を設けた浮体式植物養生基盤の姿図である。植物地下養生領域を設けた浮体16は、地下成長の媒体物を受けるための受け壁14と底部に穴15を設け、輸送体を介して水域から穴15を通じて植物の地下成長部あるいは媒体に水または養液を供給する。また図5のように、媒体受け17を複数にすることもできる。穴のサイズは0.1mm~100mm程度、通常は3mm~50mmが好適である。穴の数は、1~1000個程度、通常は1~50個が好適である。
【0021】
図6は植物地下養生領域を設けた浮体式植物養生基盤の断面図である。植物地下養生領域を設けた基盤の浮力調整のため、地下養生用浮体固定部材12’により底面浮体13’をとりつけてもよい。受け壁14’を設けた浮体16’には、その下部に気体域18があり、本浮体基盤には、媒体を受ける領域を支える底部支え体19の構造をもつ。受け壁14’には植物地下養生領域の深度を増加させるため、あるいは媒体の量を増やすために、かさ上げ壁20を設置してもよい。輸送体21は絶対空間22の内部にとりつけ、水域から底部23まで水または養液を移動させる。これにより植物の地下部あるいは媒体に水または養液を供給することができる。また輸送体21は必ずしも絶対空間内に配置させる必要はなく、植物の養生領域にまで水域の液体を供給することができれば、浮体内あるいは基盤縁部を通して水または養液を移動させてもよい。さらに、基盤に支柱を立てて、植物を支えることもできる。これにより、つる性植物や樹木植物および草丈の高い草本植物の養生を補助することができる。尚、植物の地下部(地下養生部または地下成長部ともいう)とは、通常の生育状態で、地表部分を含めた地面の下にある植物組織あるいは器官を意味し、一般的には根、地下茎、肥大根または肥大茎、胚軸、発芽実生、地表に接する仮根、茎基部などもこの範疇に入る。また、植物によっては、葉、花、果実、種子などをこの領域内で形成させることもあり、本植物養生基盤における当該領域で養生される植物の全ての組織および器官がこれに該当する。
【0022】
図7は植物地下養生領域を設けた浮体式植物養生基盤で植物24を養生した際の姿図である。植物の地下部を養生あるいは植物を基盤に固定する媒体25は、基盤上に紐やネットで補強してもよい。
【0023】
媒体25の素材は、土壌全般(黒土や畑土、赤玉土、鹿沼土、桐生砂、ぼら土、肥料含有土、パーライトやバーミキュライトなどの人工発泡石、粘土、シルトおよびこの乾燥粉末、栽培土)、砂岩・泥岩などの砕屑性、凝灰岩などの火砕性、氷河堆積岩などの破砕性といった堆積岩、溶岩・火山噴出物・マグマなどから形成される火成岩、あるいは生物の堆積物でできる石灰岩、人工的につくられるコンクリート材等が上げられるが、保水性があり団粒構造をもつ、いわゆる植物を栽培するための土壌が適している。また、毛細管現象による水の移動を含め、紙、布、綿、パルプなどの天然の植物性繊維素材、およびスポンジなどの化学合成系のプラスチック素材、発泡性のセラミック・陶磁、グリーンビズ、モルタル、コンクリート二次製品、レンガ、タイル、など、養生液を水位よりも上部に引き上げることが可能な構造体であればよく、その材質およびその組み合わせは特に限定されるものではない。なお、パルプの形状は「おがくず」のようなものをミキサーで粒子化や微小化してもよい。またミズゴケ、ピートモス、お茶の葉(使用済みのものを含む)および植物全般の葉およびこれを微細化したものでもよい。さらに、これら上記に挙げた物質の粉砕物を単独あるいは複合して形状化したものも揚水体の範疇に含める。例えば、薄層揚水体表面加工として、粒形を一律にした砂や溶岩の粉末粒子を接着剤等で固着するものなどである。接着剤は、塩ゴム系、ウレタン系、アクリル系などを使用する。
【0024】
図8は、浮体式植物養生基盤に植物26の地下部を覆うため、地上部が基盤上に出るための開口部27を設けたカバー28を浮体基盤に取り付けた姿図である。このカバーは断熱性のある素材にすることで、地下部の温度変化を緩和することができ、結果として植物の生長を助長する効果がある。カバー27の厚さは特に限定されないが、1mm~100mm程度、通常は2mm~50mmが好適である。また、その素材は発泡スチロール、断熱材全般(スタイロホームなど)、プラスチック、木材、ビニール、樹脂、ゴム、コンクリート、石材、金属等、特に限定されないが、加工が容易で、かつ、断熱性に優れた素材であることが好適である。このような点から、発泡プラスチック(発泡スチロール)、ポリスチレン樹脂(スタイロホーム)、プラスチック等が、好適な素材として例示される。
【0025】
図9図8の断面図である。浮体式植物養生基盤に植物26’の地下部を覆うためのカバー28’をとりつけた状態で、植物の地下部は、地下養生領域内あるいは地下養生領域の底部から水域に人為的にあるいは自発的に接触させて、植物を養生することも可能である。尚、植物の地下部が直接水域にまで到達する場合は、特に輸送体を設けなくてもよい。
【0026】
図10は浮体式植物養生基盤に格子体と植物地下養生領域を組み合わせた断面図である。組み合わせ基盤の格子体32の上部と水域とを輸送体を介し、水または養液を植物の養生領域に供給する。
【0027】
図11は浮体式植物養生基盤に、別途、植物地下養生体33を組み込む様式を示した断面図である。植物地下養生体33には単独あるいは複数の穴を設け、輸送体を介して水域から養生領域に水または養液を供給する。穴のサイズは0.1mm~100mm程度、通常は3mm~50mmが好適である。穴の数は、1~1000個程度、通常は1~50個が好適である。
【0028】
図12は、浮体式植物養生基盤を連結した姿図である。連結する基盤は、同一の基盤の連結でもよく、格子体を組み込んだ浮体式基盤36、植物地下養生領域を設けた浮体式基盤37、草本性植物を養生した浮体式基盤38、根菜類を養生した浮体式基盤39、および輸送体をもたない浮体式基盤40など、異なる植物と構造をもつ浮体式基盤を連結してもよい。
【0029】
図13は、浮体基盤どうしを連結した断面図である。連結体41あるいは次の浮体基盤との連結体41’で連結して使用することができる。また、単独あるいは連結した浮体基盤に水中部位にプロペラなどの動力系を取り付けて、遠隔操作で水面を移動させてもよい。尚、遠隔操作にはリモコンやGPSおよびAI機能を組み込むことにより気象条件応じて、避難エリアに移動させてもよい。連結体の長さは1mm~5m程度、通常は1cm~50cmが好適である。連結体の厚さは0.1mm~100mm程度、通常は3mm~50mmが好適である。連結体の素材は、基盤と基盤を連結固定できるものであればよく、例えば、紐、ゴム、金属(針金)、木、プラスチック、フック、くぎ、留めネジ、ホッチキス針などで固定でき、これらを組み合わせて使用してもよい。特に紐や針金、あるいはこれらとフックとの組み合わせなどが好適である。
【0030】
図14は浮体式植物養生基盤に輸送体あるいは揚水体を設けることなく植物を養生する姿図である。植物によっては、揚水体を設けることなく直接養生することが可能である。浮体1”に設けた格子体2”は水溜め器3”に溜めた水の水位4”より上部に位置し、輸送体を介することなく格子体に固定あるいは置かれた植物体が、水あるいは養液と体の一部を接触させ養生できる。植物42および挿し木(挿し芽)43は、格子体上部面44あるいは格子体上部面44の被覆層45に定着、固定あるいは静置し、植物体の一部が直接水あるいは養液と接触させることができる。被覆層45の素材は、紙、プラスチック、木材、ビニール、樹脂、ゴム、コンクリート、石材材、金属、布等、特に限定されないが、折り曲げが容易で、かつ、経時的な耐久性に優れた素材であることが好適である。このような点から、ビニール、プラスチック(防水ゴム)等の耐錆性に優れたもの、特にバードネット等が好適な素材として例示される。被覆層45のネットの厚みは0.1mm~50mm程度、通常は2mm~50mmが好適である。また網目あるいはメッシュのサイズは1mm~100mm程度、通常は2mm~50mmが好適である。被覆層45は平面立て構造体の上部に設けなくてもよい。また、植物を定着後に被覆層45で被覆してもよい。挿し木などの茎径のある植物については、被覆層45の網目のサイズを変えることで固定の調整が可能である。本基盤による植物の養生によって育苗の管理等にも活用することができる。また、ミズゴケ類などの水を吸い上げる特徴をもった植物の養生もこれにより可能となる。
【0031】
図15は浮体式植物養生基盤に輸送体あるいは揚水体を設けることなく植物を養生する断面図である。コケ植物42”や木本性植物43”などを含め、養生可能な植物は、格子体上部面44あるいは被覆層45によって定着、固定あるいは静置された状態で、格子体可動域46を設けることで上下に移動させ、養生面である格子体上部面44”あるいは被覆層45”と水位までの距離を変化・調整させることで、植物の好適な養生をうながすことができる。尚、格子体は浮体に差し込み式にすることも可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16