(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】貼合プラスチックレンズの製造方法、光硬化性樹脂組成物、貼合プラスチックレンズ及び光学装置
(51)【国際特許分類】
B29D 11/00 20060101AFI20240829BHJP
B29C 65/48 20060101ALI20240829BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20240829BHJP
G02B 3/00 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
B29D11/00
B29C65/48
C09J201/00
G02B3/00 Z
(21)【出願番号】P 2021159148
(22)【出願日】2021-09-29
【審査請求日】2023-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000162434
【氏名又は名称】協立化学産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151367
【氏名又は名称】柴 大介
(72)【発明者】
【氏名】岩田 知剛
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-230076(JP,A)
【文献】特開平06-270285(JP,A)
【文献】特開平05-100102(JP,A)
【文献】国際公開第2019/131572(WO,A1)
【文献】特開2011-148948(JP,A)
【文献】特開2013-040244(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0166860(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 11/00
B29C 65/00-65/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックレンズ1、光硬化性樹脂組成物の光硬化体及びプラスチックレンズ2が積層してなる貼合プラスチックレンズの製造方法であって、
前記製造方法は、
前記プラスチックレンズ1及び前記プラスチックレンズ2を前記光硬化性樹脂組成物を介して貼り合せる工程1と、
前記光硬化性樹脂組成物を光硬化させて前記光硬化性樹脂組成物の光硬化体を形成する工程2とを有し、
前記工程2で形成された前記光硬化性樹脂組成物の光硬化体が、
25℃における、引張弾性率が0.1MPa以上、1000MPa以下であり、
25℃における、HAZE値が1.0%以下であり、
25℃における、屈折率が1.50以上であ
り、
前記光硬化性樹脂組成物が、(メタ)アクリレートモノマー及び(メタ)アクリレートオリゴマーを含む、(メタ)アクリレート系光硬化性樹脂組成物である、
貼合プラスチックレンズの製造方法。
【請求項2】
前記プラスチックレンズの口径が30mm以上である請求項1記載の貼合プラスチックレンズの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の貼合プラスチックレンズの製造方法で使用するための請求項1記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1又は2記載の貼合プラスチックレンズの製造方法で製造された貼合プラスチックレンズ。
【請求項5】
請求項4記載の貼合プラスチックレンズを備える光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数のプラスチックレンズを貼り合せた貼合プラスチックレンズの製造方法、前記製造方法で使用するための光硬化性樹脂組成物、前記製造方法で得られた貼合プラスチックレンズ及び当該貼合プラスチックレンズを備える光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズはガラスレンズに比べて軽量で生産性が高いことから、従前より眼鏡用途やズームカメラ等の光学機器用途で広く使用されてきた(例えば、特許文献1及び2)。
【0003】
貼合レンズは、複数のレンズを貼り合せて1枚のレンズにすることで、球面単レンズよりも色収差と球面収差を小さくするために開発され、非球面レンズ同士の貼合レンズも開発されている(例えば、引用文献2及び3)。
【0004】
貼合レンズを構成する各レンズを貼り合せるための接着剤として、従前より光硬化性樹脂組成物が使用されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平05-281497号公報
【文献】特開2002-148517号公報
【文献】特開2003-140037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従前の貼合プラスチックレンズは、口径の小さな用途で使用され、
小口径プラスチックレンズが、相対的に変形し難く、小口径プラスチックレンズを貼り合せるための光硬化性樹脂組成物の硬化物性に大きな影響を受けないため、光硬化したときの光学物性が貼合プラスチックの光学物性を阻害しないような光硬化性樹脂組成物を選択すれば足りていた。
【0007】
一方、貼合プラスチックレンズが、例えばVRレンズのような口径の大きな用途で使用される場合、大口径プラスチックレンズは、小口径プラスチックレンズと同じレンズ材質であっても変形し易いことに由来して、複屈折が発生し易くなるという課題が顕在化した。
【0008】
大口径プラスチックレンズが変形し易いことから、プラスチックレンズを貼合する光硬化性樹脂組成物には、光硬化する過程でプラスチックレンズの変形を助長するような硬化物性を制御する必要がある。
【0009】
例えば、光硬化性樹脂組成物として、小口径貼合プラスチックレンズでは問題のない、光硬化体が相対的に硬く弾性率の大きなエポキシ樹脂を選択すると、プラスチックレンズの変形が助長され貼合プラスチックレンズに複屈折が発生し易くなってしまうことが課題となる。
【0010】
また、光硬化性樹脂組成物として、小口径貼合プラスチックレンズでは問題のない、光硬化体が相対的に柔らかく弾性率の小さな樹脂を選択すると、貼合プラスチックレンズが組み込まれた光学装置の作動環境温度及び/又は湿度が高くなるとプラスチックレンズが歪み易くなること、又は、
貼合プラスチックレンズの周囲を補強剤で塗布硬化させると、その硬化収縮により、プラスチックレンズを貼合する光硬化性樹脂組成物光硬化体に応力が加わり、光硬化性樹脂組成物光硬化体が歪み易くなることで、
貼合プラスチックレンズの低複屈折性が損なわれることが課題となる。
【0011】
本発明の課題は、大口径の貼合プラスチックレンズでも、貼合プラスチックレンズや光硬化性樹脂組成物光硬化体の歪の発生を抑制でき、かつ、貼合プラスチックレンズの低複屈折性を維持できる、貼合プラスチックレンズの製造方法、当該製造方法で使用するための光硬化性樹脂組成物、当該製造方法で製造された貼合プラスチックレンズ及び当該貼合プラスチックレンズを備える光学装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、
〔1〕プラスチックレンズ1、光硬化性樹脂組成物の光硬化体及びプラスチックレンズ2が積層してなる貼合プラスチックレンズの製造方法であって、
前記製造方法は、
前記プラスチックレンズ1及び前記プラスチックレンズ2を前記光硬化性樹脂組成物を介して貼り合せる工程1と、
前記光硬化性樹脂組成物を光硬化させて前記光硬化性樹脂組成物の光硬化体を形成する工程2とを有し、
前記工程2で形成された前記光硬化性樹脂組成物の光硬化体が、
25℃における、引張弾性率が0.1MPa以上、1000MPa以下であり、
25℃における、HAZE値が1.0%以下であり、
25℃における、屈折率が1.50以上である、
貼合プラスチックレンズの製造方法(以下「本発明1」ともいう);
〔2〕前項〔1〕記載の貼合プラスチックレンズの製造方法で使用するための前項〔1〕記載の光硬化性樹脂組成物(以下「本発明2」ともいう);
〔3〕前項〔1〕記載の貼合プラスチックレンズの製造方法で製造された貼合プラスチックレンズ(以下「本発明3」ともいう);及び
〔4〕前項〔2〕記載の貼合プラスチックレンズを備える光学装置(以下「本発明4」ともいう)に関する。
【0013】
なお、以下では、本発明1~4をまとめて「本発明」ともいう。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、大口径の貼合プラスチックレンズでも、貼合プラスチックレンズや光硬化性樹脂組成物光硬化体の歪の発生を抑制でき、かつ、貼合プラスチックレンズの低複屈折性を維持できる、貼合プラスチックレンズの製造方法、当該製造方法で使用するための光硬化性樹脂組成物、当該製造方法で製造された貼合プラスチックレンズ及び当該貼合プラスチックレンズを備える光学装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明における硬化性樹脂組成物の光硬化体の複屈折の測定方法の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
《本発明1及び本発明2》
本発明1は、
プラスチックレンズ1、光硬化性樹脂組成物の光硬化体及びプラスチックレンズ2が積層してなる貼合プラスチックレンズの製造方法であって、
前記製造方法は、
前記プラスチックレンズ1及び前記プラスチックレンズ2を前記光硬化性樹脂組成物を介して貼り合せる工程と、
前記工程2で形成された前記光硬化性樹脂組成物を光硬化させて前記光硬化性樹脂組成物の光硬化体を形成する工程とを有し、
前記光硬化性樹脂組成物の光硬化体が、
25℃における、引張弾性率が0.1MPa以上、1000MPa以下であり、
25℃における、HAZE値が1.0以下であり、
25℃における、屈折率が1.50以上である、
貼合プラスチックレンズの製造方法である。
【0017】
本発明2は、当該貼合プラスチックレンズの製造方法で使用するための光硬化性樹脂組成物である。
【0018】
なお、本発明1における貼合プラスチックレンズは、少なくとも、プラスチックレンズ1、光硬化性樹脂組成物の光硬化体及びプラスチックレンズ2の積層体を含むが、さらに他のプラスチックレンズが光硬化性樹脂組成物を介してプラスチックレンズ1又はプラスチックレンズ2と貼合されていてよく、このような複数のプラスチックレンズが光硬化性樹脂組成物の光硬化体を介して積層体を構成していてよく、複数のプラスチックレンズの形態が全て異なっていても、一部又は全部が同じであってもよい。
【0019】
〔プラスチックレンズ〕
本発明において、プラスチックレンズは透明で高屈折率であることが好ましく、
例えば、
プラスチックレンズのHAZE値は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.1%以下であり、
プラスチックレンズの屈折率は、好ましくは1.50以上、より好ましくは1.60以上、更に好ましくは1.70以上、更に好ましくは1.80以上である。
【0020】
プラスチックレンズのHAZE値は、JISK7136に基づいて測定する。
【0021】
プラスチックレンズの屈折率は、25℃における波長589nmの光に対する屈折率をプリズムカプラ(Metricon社製、2010/M)で測定する。
【0022】
透明で高屈折率であるプラスチックレンズを構成する樹脂としては、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレンテレフタレート系樹脂、ポリオキシアルキレン系樹脂等が改良され続けているが、透明性と高屈折性の観点から、好ましくは(メタ)アクリル系樹脂樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂であり、より好ましくは(メタ)アクリル系樹脂である。
【0023】
プラスチックレンズの口径(プラスチックレンズの上面視の面積の円の直径)は、
車載リア/フロントカメラ、監視カメラ等の用途で、小口径(好ましくは2mm超30mm未満、より好ましくは3~20mm、更に好ましくは5~10mm)が多く、
【0024】
光学カメラ用レンズ、VR、AR用レンズ、プロジェクター等の用途で、大口径(好ましくは30~150mm、より好ましくは40~100mm、更に好ましくは50~80mm)が多く使用される。
【0025】
〔VR装置とVRレンズ〕
VR(Virtual Reality)装置とは、専用のゴーグルで人間の視界を覆い、当該ゴーグル内で、当該人間が見渡す全方位に空間映像を映すことで、当該人間が実際にその空間にいるような(仮想現実)感覚を得られる装置をいう。
【0026】
VR装置は、ゲームやアトラクションの分野で使用され始めたが、ビジネス、医療の分野での活用も進みつつある。
【0027】
VR装置のゴーグル内のディスプレイに空間映像を映すためのマルチレンズシステムを構成するレンズをVRレンズといい、VRレンズの視野角および結像品質を向上させ、VRレンズの光路系の長さを制御するために、貼合プラスチックレンズが使用されている。
【0028】
VRレンズに使用されるプラスチックレンズにおいて、
プラスチックレンズは透明で高屈折率であることが好ましく、例えば、
プラスチックレンズのHAZE値は、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.1%以下であり、
プラスチックレンズの屈折率は、好ましくは1.48以上、より好ましくは1.49以上、更に好ましくは1.50以上である。
【0029】
VRレンズに使用されるプラスチックレンズを構成する樹脂は、透明性と高屈折性の観点から、好ましくは(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂であり、より好ましくは(メタ)アクリル系樹脂である。
【0030】
VRレンズの口径は、好ましくは30~150mm、より好ましくは40~100mm、更に好ましくは50~80mm)である。
【0031】
VRレンズとして使用される貼合プラスチックレンズにおいて、プラスチックレンズ1とプラスチックレンズ2は、視野角および結像品質の観点から、光学透明性が高く、複屈折や光学特性の変化及び変形率が小さいレンズを適宜組合せる。
【0032】
〔AR装置とARレンズ〕
AR(Augmented Reality)装置とは、(ディスプレイ等の)表示デバイス上に、
(例えば目の前の風景のような)実在空間と、
当該実在空間には存在しない(物語上のキャラクターなどの)文字や映像などの視覚情報とを重ねて表示して、
当該視覚情報が付加された実在空間が存在するような(拡張現実)感覚を得られる装置をいう。
【0033】
AR装置としては、例えば、眼鏡のレンズをディスプレイにして、
眼鏡を通して見える実在空間に非実在の視覚情報を表示する態様や、
スマートフォンのディスプレイ上に、カメラレンズ経由の実在空間とOS上の操作で創作した実在しない視覚情報を重ねて表示する態様がある。
【0034】
AR装置は、複数のレンズで構成される光学系を備えており、レンズの視野角および結像品質を向上させ、光路系の長さを制御するために、貼合プラスチックレンズが使用されている。
【0035】
AR装置で使用されるプラスチックレンズ(以下「ARレンズ」ともいう)において、
ARレンズは透明で高屈折率であることが好ましく、例えば、
ARレンズのHAZE値は、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.1%以下であり、
ARレンズの屈折率は、好ましくは1.48以上、より好ましくは1.49以上、更に好ましくは1.50以上である。
【0036】
ARレンズを構成する樹脂は、透明性と高屈折性の観点から、好ましくは(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂であり、より好ましくは(メタ)アクリル系樹脂である。
【0037】
ARレンズの口径は、好ましくは30~150mm、より好ましくは40~100mm、更に好ましくは50~80mm)である。
【0038】
ARレンズにおいて、プラスチックレンズ1とプラスチックレンズ2は、視野角および結像品質の観点から、光学透明性が高く、複屈折や光学特性の変化及び変形率が小さいレンズを適宜組合せる。
【0039】
〔光硬化性樹脂組成物〕
本発明1で使用される本発明2である光硬化性樹脂組成物は、工程1では、流動性を有し、工程1でプラスチックレンズ1又はプラスチックレンズ2の表面に塗工され、塗工された光硬化性樹脂組成物を介してプラスチックレンズ1及びプラスチックレンズ2が接着される。
【0040】
本発明2の光硬化性樹脂組成物は、工程2では、プラスチックレンズ1及びプラスチック光硬化性樹脂組成物を介して接着された状態で光照射されて光硬化体となる。
【0041】
(粘度)
工程1における硬化前の光硬化性樹脂組成物の流動性は、粘度で評価され、プラスチックレンズ表面上の塗工性の観点から、光硬化性樹脂組成物の粘度は、
好ましくは10~10000mPa・s、より好ましくは20~5000mPa・s、更に好ましくは50~4000mPa・sに調整される。
【0042】
光硬化性樹脂組成物の粘度はE型粘度計(東機産業社製RE-105U)を用いて25℃で測定する。
【0043】
(引張弾性率)
工程2にで得られる光硬化性樹脂組成物の光硬化体は、プラスチックレンズが大口径の場合でも、複屈折率を抑制する観点から、光硬化体の引張弾性率は、0.1MPa以上であり、好ましくは0.5MPa以上であり、より好ましくは1.0MPa以上であり、更に好ましくは2.0MPa以上であり、更に好ましくは5.0MPa以上であり、更に好ましくは10MPa以上であり、更に好ましくは20MPa以上であり、更に好ましくは30MPa以上であり、更に好ましくは50MPa以上であり、更に好ましくは100MPa以上であり、
光硬化性樹脂の硬化収縮応力によるレンズの歪を抑制する観点から、光硬化体の引張弾性率は、1000MPa以下であり、好ましくは500MPa以下であり、より好ましくは100MPa以下であり、更に好ましくは50MPa以下である。
【0044】
工程2で得られる光硬化性樹脂組成物の光硬化体は、プラスチックレンズが大口径の場合でも、貼合プラスチックレンズの歪を抑制する観点から、光硬化体の引張弾性率が、1000MPa以下であり、好ましくは800MPa以下であり、より好ましくは500MPa以下であり、更に好ましくは400MPa以下である。
【0045】
光硬化性樹脂組成物の光硬化体の引張弾性率は、以下の手順で測定する。
【0046】
光硬化性樹脂組成物をダンベルの型に流し込み、メタルハライドランプ(アイグラフィックス社製、コンベアタイプ)にて、450mW/cm2(照度計:ウシオ社製、UIT-250)、9000mJ/cm2で硬化性樹脂を硬化させ、厚み0.5mmのダンベル試験片を作製する。ダンベル試験片を引張試験機(ミネベア社製テクノグラフ、TG-2kN)にて10mm/min.の引張り速度で引張り、測定結果から弾性率(応力-ひずみ線図の弾性域の傾き)を読み取る。
【0047】
光硬化性樹脂組成物の光硬化体の引張弾性率は、光硬化性樹脂組成物の配合組成と光照射条件で調整できる。
【0048】
(HAZE値)
光硬化性樹脂組成物の光硬化体の透明性は、HAZE値で評価され、貼合プラスチックの透明性を維持又は向上する観点から、光硬化性樹脂組成物の光硬化体のHAZE値は、
好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.7%以下、更に好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.3%以下、更に好ましくは0.2%、更に好ましくは0.1%以下である。
【0049】
光硬化性樹脂組成物の光硬化体のHAZE値は、以下の手順で測定する。
【0050】
2.5cm×3.8cm×1mmtのガラスの両端に厚さ0.2mm(200μm)のスペーサーを貼り、光硬化性樹脂組成物を挟んでメタルハライドランプ(アイグラフィックス社製、コンベアタイプ)にて、450mW/cm2(照度計:ウシオ社製、UIT-250)、4500mJ/cm2で硬化性樹脂組成物を硬化させた。25℃において、ヘイズメーター(日本電食工業社製、NDH5000)にて測定し、全光透過率と拡散透過率の比を求める。
【0051】
(透過率)
光硬化性樹脂組成物の光硬化体の透過率は、以下の手順で測定する。
【0052】
2.5cm×3.8cm×1mmtのガラスの両端に厚さ0.2mm(200μm)のスペーサーを貼り、光硬化性樹脂組成物を挟んでメタルハライドランプ(アイグラフィックス社製、コンベアタイプ)にて、450mW/cm2(照度計:ウシオ社製、UIT-250)、4500mJ/cm2で硬化性樹脂組成物を硬化させた。25℃において、紫外可視分光光度計(日本分光、V-570)で波長400nmの透過率を測定する。
【0053】
(屈折率)
光硬化性樹脂組成物の光硬化体の屈折率は、貼合プラスチックの高屈折率性を維持又は向上する観点から、好ましくは1.50以上、より好ましくは1.60以上、更に好ましくは1.70以上、更に好ましくは1.80以上である。
【0054】
光硬化性樹脂組成物の光硬化体の屈折率は、プリズムカプラ(Metricon社製、2010/M)で測定する。25℃における400/632.8/825nmの屈折率を測定し、これらの屈折率の値からコーシーの分散式より物質固有のA,B,Cを特定し、589nmにおける屈折率を算出した。
【0055】
〔(メタ)アクリレート系光硬化性樹脂組成物〕
光硬化性樹脂組成物は、所定の引張弾性率を調整する観点から、好ましくは、
光硬化成分として、(メタ)アクリレートモノマー及び(メタ)アクリレートオリゴマーを配合し、光硬化成分に適した光重合開始剤を配合する。
【0056】
光硬化成分の光硬化時の引張弾性率を調整する方法としては、
(1)光硬化性樹脂組成物に可塑成分を配合する方法と、
(2)Tgの異なる(メタ)アクリレートモノマーを配合する方法とがある。
【0057】
Tgの異なる(メタ)アクリレートモノマーとしては、好ましくは、
Tg=-100~100℃の(メタ)アクリレートモノマーと、
Tg=100℃超300℃以下の(メタ)アクリレートモノマーの組合せ、
より好ましくは、
Tg=-90~90℃の(メタ)アクリレートモノマーと、
Tg=90℃超270℃以下の(メタ)アクリレートモノマーの組合せ、更に好ましくは、
Tg=-80~80℃の(メタ)アクリレートモノマーと、
Tg=80℃超240℃以下の(メタ)アクリレートモノマーの組合せが挙げられる。
【0058】
Tg=-80~80℃の(メタ)アクリレートモノマーとしては、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられ、
Tg=80℃超240℃以下の(メタ)アクリレートモノマーとしては、イソボニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0059】
((メタ)アクリレートモノマー)
(メタ)アクリレートモノマーとしては、速硬性及び低硬化収縮性を両立する観点から、官能数の異なる(メタ)アクリレートを含むことが好ましく、単官能の(メタ)アクリレートと多官能の(メタ)アクリレートとを含むことがより好ましい。
【0060】
単官能(メタ)アクリレートとしては、
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-メチルブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-ヘプチル(メタ)アクリレート、2-メチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-ブチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、モルホリン-4-イル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリルアルコール アクリル酸多量体エステル骨格の(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1-アダマンチル(メタ)クリレート等が挙げられる。
【0061】
二官能(メタ)アクリレートとしては、ビスフェノールF-EO変性ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA-EO変性ジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0062】
三官能(メタ)アクリレートとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンPO変性(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性トリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0063】
四官能以上の(メタ)アクリレートとしては、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、多官能のポリウレタンを骨格に含む(メタ)アクリレート(以下、多官能ウレタン(メタ)アクリレートともいう)等が挙げられる。
【0064】
((メタ)アクリレートオリゴマー)
(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、速硬性及び低硬化収縮性を両立する観点から、好ましくはポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリウレタン及びポリカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種を骨格に含む(メタ)アクリレートオリゴマーの少なくとも1種を含む。
(メタ)アクリレートオリゴマーは1種単独でも2種以上を組合せて使用できる。
【0065】
ポリイソプレンを骨格に含む(メタ)アクリレートオリゴマーは、(メタ)アクリル変性ポリイソプレンとも呼ばれる。ポリイソプレンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマーの重量平均分子量は、好ましくは1000~100000であり、より好ましくは10000~60000である。
【0066】
ポリイソプレンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマーの市販品として、例えば、クラレ社製の「UC-1」(数平均分子量Mn=36000)が挙げられる。
【0067】
ポリブタジエンを骨格に含む(メタ)アクリレートオリゴマーは、(メタ)アクリル変性ポリブタジエンとも呼ばれる。ポリブタジエンを骨格に含む(メタ)アクリレートオリゴマーの重量平均分子量は、好ましくは500~100000であり、より好ましくは1000~60000である。
【0068】
ポリブタジエンを骨格に含む(メタ)アクリレートオリゴマーの市販品として、例えば、日本曹達社製の「TE-2000」(重量平均分子量2000)が挙げられる。
【0069】
ポリウレタンを骨格に含む(メタ)アクリレートオリゴマーは、(メタ)アクリル変性ポリウレタンとも呼ばれる。ポリウレタンを骨格に含む(メタ)アクリレートオリゴマーの重量平均分子量は、好ましくは1000~100000であり、より好ましくは10000~60000である。
【0070】
ポリウレタンを骨格に含む(メタ)アクリレートオリゴマーの市販品として、例えば、根上工業社製の「UN-7700」、ダイセル・オルネクス社製の「EBECRYL 270」が挙げられる。
【0071】
ポリカーボネートを骨格に含む(メタ)アクリレートオリゴマーは、市販品として、例えば、根上工業社製の「UN-9000PEP」が挙げられる。ポリカーボネートを骨格に含む(メタ)アクリレートオリゴマーの重量平均分子量は、好ましくは1000~100000であり、より好ましくは2000~50000、更に好ましくは3000~10000である。
【0072】
なお、重量平均分子量は、GPCに基づいて測定されたものであり、好ましくは、以下の条件で測定される:
測定装置:島津製作所社製GPCシステム;
カラムの種類:有機溶媒系SECカラム(東ソー社製);
溶剤の種類:テトラヒドロフラン(THF)。
【0073】
多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、多価アルコール、有機ポリイソシアネート及びヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物を反応させることによって得られる。
【0074】
多価アルコールとしては、例えば、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、トリシクロデカンジメチロール、ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン等、これら多価アルコールと多塩基酸(例えば、コハク酸、フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、テトラヒドロ無水フタル酸等)との反応によって得られるポリエステルポリオール、前記多価アルコールとε-カプロラクトンとの反応によって得られるカプロラクトンアルコール、ポリカーボネートポリオール(例えば、1,6- ヘキサンジオールとジフェニルカーボネートとの反応によって得られるポリカーボネートジオール等)又はポリエーテルポリオール(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレンオキシド変性ビスフェノールA 等)等が挙げられる。
【0075】
有機ポリイソシアネートとしては、例えばイソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート又はジシクロペンタニルイソシアネート等が挙げられる。
【0076】
ヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジメチロールシクロヘキシルモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシカプロラクトン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0077】
ウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、以下の反応により得られる。
即ち、多価アルコールにその水酸基1当量当りイソシアネート基が好ましくは1.1~2.0当量になるように有機ポリイソシアネートを混合し、反応温度を好ましくは70~90℃で反応させ、ウレタンオリゴマーを合成する。次いで得られたウレタンオリゴマーのイソシアネート基1当量当り、ヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物をその水酸基が好ましくは1~1.5当量となるように混合し、好ましくは70~90℃で反応させて目的とするウレタン(メタ)アクリレートが得られる。
【0078】
(光重合開始剤)
光重合開始剤は、紫外線重合開始剤や可視光重合開始剤等が挙げられる。
【0079】
紫外線重合開始剤としては、ベンゾイン系、ベンゾフェノン系、及びアセトフェノン系等が挙げられ、可視光重合開始剤にはアシルホスフィンオキサイド系、チオキサントン系、メタロセン系、及びキノン系等が挙げられる。
【0080】
紫外線重合開始剤としては、具体的には、
ベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、及びビスジエチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン系重合開始剤;
2,2-ジエトキシアセトフェノン等のアセトフェノン系重合開始剤;
ベンジル、ベンゾイン、及びベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾイン系重合開始剤;
ベンジルジメチルケタール等のアルキルフェノン系重合開始剤;
チオキサントン等のチオキサントン系重合開始剤;
1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、1-(4-イソプロピルフェニル)2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、及び2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン等のヒドロキシアルキルフェノン系重合開始剤が挙げられる。
【0081】
可視光重合開始剤としては、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド、及びビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド系光開始剤;
カンファーキノン、2-メチル-1-(4-(メチルチオ)フェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、及び2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン-1等のケトン系重合開始剤等が挙げられる。
【0082】
光重合開始剤として、好ましくは、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(BASF社製、IRGACURE(登録商標)184)及びビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド(BASF社製、IRGACURE(登録商標)819)である。
【0083】
(可塑成分)
可塑成分としては、
好ましくは、ジブチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジ(2-エチルヘキシル)フタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート等のフタル酸エステル;
アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル、セバシン酸ジオクチル、セバシン酸ジイソノニル、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニル等の多価カルボン酸エステル;
安息香酸アルキル;
トリクレジルホスフェート、トリブチルホスフェート等のリン酸エステル;
トリメリット酸エステル;
(水添)ポリイソプレン、水酸基含有(水添)ポリイソプレン、(水添)ポリブタジエン、水酸基含有(水添)ポリブタジエン、ポリブテン等のゴム系ポリマー;
熱可塑性エラストマー;
石油樹脂;
脂環族飽和炭化水素樹脂;
テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、変性テルペン樹脂、水添テルペン樹脂等のテルペン系樹脂;
ロジンフェノール等のロジン系樹脂;
不均化ロジンエステル系樹脂、重合ロジンエステル系樹脂、水添ロジンエステル系樹脂等のロジンエステル系樹脂;
キシレン樹脂;及び
アクリルポリマー、アクリルコポリマー等のアクリル系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物、
より好ましくは、多価カルボン酸エステル及びロジンエステル系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0084】
(任意成分)
本発明2の光硬化時の引張弾性率や光学物性の硬化を阻害しない範囲で、本発明2には、例えば、(メタ)アクリレートモノマー及び(メタ)アクリレートオリゴマー以外の光硬化性樹脂、酸化防止剤、濡れ剤、界面活性剤、イオン性液体、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤、無機・有機各種フィラー・微粒子、ポリマー等の添加剤を含めることができる。
【0085】
(配合組成)
(メタ)アクリレートモノマー(以下「成分A」ともいう)及び(メタ)アクリレートオリゴマー(以下「成分B」ともいう)が配合される光硬化性樹脂組成物(以下「(メタ)アクリレート系光硬化性樹脂組成物」という)では、引張弾性率を所定の範囲に調整する観点から、成分Aと成分Bの重量比(A/B)が、好ましくは40/60~80/20、より好ましくは50/50~70/30、更に好ましくは55/45~65/35である。
【0086】
(メタ)アクリレート系光硬化性樹脂組成物の場合、その光硬化体の引張弾性率を調整する観点から、可塑成分は、成分A及び成分Bの合計100重量部に対して、好ましくは0~20重量部、より好ましくは0~15重量部、更に好ましくは0~9重量部の範囲であるとよい。
【0087】
(光照射条件)
(メタ)アクリレート系光硬化性樹脂組成物の場合、その光硬化体の引張弾性率を調整する観点から、光照射条件をメタルハライドランプ又はキセノンランプ又はLEDランプを好ましくは1~1000mW/cm2、より好ましくは20~700mW/cm2、更に好ましくは50~500mW/cm2に調整とするとよい。
【0088】
《本発明3》
本発明3は、本発明1の貼合プラスチックレンズの製造方法で製造された貼合プラスチックレンズである。
【0089】
本発明1の貼合プラスチックレンズの製造方法で製造された貼合プラスチックレンズは、
プラスチックレンズ1及びプラスチックレンズ2を貼合する光硬化性樹脂組成物の光硬化体の引張弾性率が一定以上の大きさを有するために、貼合プラスチックレンズの口径が大きい場合でも歪が生じ難く、低複屈折率性を維持することができる。
【0090】
即ち、貼合プラスチックレンズの口径が大きくなると、
貼合プラスチックレンズが組み込まれた光学装置の作動環境温度及び/又は湿度が高くなるとプラスチックレンズが歪み易くなる等の外的要因により、プラスチックレンズを貼合する光硬化性樹脂組成物の光硬化体に応力が加わるが、
光硬化性樹脂組成物の光硬化体の引張弾性率が一定以上あると、
加わる応力に対して、光硬化性樹脂組成物の光硬化体が歪み難くなり、
貼合プラスチックレンズ全体として歪難くなり、複屈折が、光硬化性樹脂組成物の光硬化体からも、貼合プラスチックレンズを構成するプラスチックレンズからも発生し難くなるからである。
【0091】
光硬化性樹脂組成物の光硬化体の引張弾性率が一定以上あると、光硬化性樹脂組成物の光硬化体の複屈折が発生し難いことは以下のようにして検証できる。
【0092】
〔硬化性樹脂組成物の光硬化体の複屈折の測定〕
(測定サンプル)
25℃の環境で以下の手順で測定サンプルを作製した。
【0093】
(1)ガラスプレート(1-1)(幅2.5cm、長さ5.0cm、厚み1mmt)の長さ方向の2か所にスペーサー(2)(幅2.5cm、厚み0.2mmt、3M社製Scotchメンディングテープ4枚重ね)を40mm間隔を空けて設置する(
図1(1)参照)。
【0094】
(2)ガラスプレート(1-1)上のスペーサー(2)の間に、光硬化性樹脂組成物(3)20mgをスパチュラですくい上げて、一方のスペーサーに接触して半円状になるように付着させる(
図1(2)参照)。
【0095】
(3)同じ寸法のガラスプレート(1-2)を上記両端のスペーサー(2)に跨るように設置して、ガラスプレート上の光硬化性樹脂組成物(3)を2枚のガラスプレートで挟み込む(
図1(3)参照)。
【0096】
(4)ガラスプレート上方から照度450mW/cm
2(ウシオ社製照度計UIT-250)で、エネルギー量4500mJ/cm
2の紫外線(4)照射を行いガラスプレートに挟まれた光硬化性樹脂組成物を光硬化させて、測定サンプルとした(
図1(4)参照)。
【0097】
(測定条件)
25℃の環境で以下の手順で測定した。
【0098】
(1)測定サンプルにおける光硬化した光硬化性樹脂組成物硬化体の塗布面積を、マイクロスコープ(キーエンス社製VHX-500)で測定する。
【0099】
(2)測定サンプルの上に設置したガラスプレートの、光硬化性樹脂組成物硬化体(5)が接触しているスペーサー(2)の側の端部を、テンションゲージ(中村製作所社製TK(II))で、光硬化性樹脂組成物硬化体への応力(F)が0.02MPaになるように押した(
図1(5)参照)。
【0100】
(3)この状態で、2次元複屈折評価システムWPA-100(フォトニックラティス社製)を使用して、光硬化性樹脂組成物硬化体の中央部の波長543nmの位相差を測定した。
【0101】
〔硬化性樹脂組成物の光硬化体の引張弾性率と複屈折の関係〕
光が光硬化性樹脂組成物の光硬化体を通過する際に、光の振動面の向きによって速度が異なることがあり、例えば、光の真空中の光の速さをc、X方向に振動する偏光LXの速度をVX、Y方向に振動する偏光LYの速度をVYとすると、VXとVYが異なれば、偏光LXの屈折率nX=c/VXは、偏光LYの屈折率nY=c/VYと異なり、その結果,光硬化性樹脂組成物の光硬化体を通過する光には位相差Δを生じる。
【0102】
一方、光硬化性樹脂組成物の光硬化体に外力を加えると、歪の大きさと向きに応じて、複屈折の大きさと向きが変化する場合があり、外力を加えた光硬化性樹脂組成物の光硬化体に直線偏光を当てて偏光器で観察すると、歪の大小によって複屈折した偏光に位相差Δが生じ、干渉縞となって現れる。
光硬化性樹脂組成物の光硬化体の厚さをt、光硬化性樹脂組成物の光硬化体に加わる外力が主応力σ1とσ2とで表されるとすると、Δは厚さtと主応力差に比例する(Δ∝(σ1-σ2))。
【0103】
以上の物理法則を利用して、光硬化性樹脂組成物の光硬化体の複屈折を位相差を測定することにより評価できる。
【0104】
《本発明4》
本発明4は、本発明1の貼合プラスチックレンズを備える光学装置である。
【0105】
本発明4は、
貼合プラスチックレンズが既に広く使用されている用途、例えば、
眼鏡、車載リアカメラ/フロントカメラ、監視カメラ、光学カメラ用レンズ、VR、AR用レンズ、プロジェクターで好適に使用できるだけでなく、
大口径の貼合プラスチックレンズの使用が期待される用途、例えば、光学カメラ用レンズ、VR,AR用レンズ、プロジェクターで好適に使用できる。
【0106】
《実施例》
(1)光硬化性樹脂組成物の化合物原料
(1-1)(メタ)アクリレートモノマー(化合物A)
化合物a1:ラウリルアクリレート(L-A、共栄社化学社製)
化合物a2:イソボルニルメタクリレート(IB、共栄社化学社製)
化合物a3:ベンジルアクリレート(A-BZ、新中村化学工業社製)
化合物a4:1-アダマンチルメタクリレート(ADMA、大阪有機化学工業社製)
化合物a5:4-ヒドロキシブチルアクリレート(4-HBA、大阪有機化学工業社製)
化合物a6:イソボルニルアクリレート(IBOA、日本触媒社製)
化合物a7:テトラヒドロフルフリルアルコール アクリル酸多量体エステル骨格のアクリレート(150D、大阪有機化学工業社製)
【0107】
(1-2)化合物B
化合物b1:ポリイソプレン(メタ)アクリレートオリゴマー(数平均分子量Mn=36000)(UC-1、クラレ社製)
化合物b2:ポリカーボネート骨格ウレタンアクリレート(重量分子量Mw=5000)(UN-9000PEP、根上工業社製)
化合物b3:ポリブタジエン骨格ウレタンメタクリレート(数分子量Mn=2500)(TE-2000、日本曹達社製)
化合物b4:脂肪族ウレタンアクリレート(重量分子量Mw=1500)(EBECRYL 270、ダイセル・オルネクス社製)
【0108】
(1-3)可塑剤
ジイソノニルシクロヘキシルジカルボキシレート(DINCH、BASF社製)
【0109】
(1-4)光重合開始剤
2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(Omnirad1173、IGM Resins B.V.社製)
【0110】
(2)光硬化性樹脂組成物
表1を参照して説明する。
【0111】
(2-1)実施例1~19及び比較例1及び2
化合物Aとして化合物a2を3g、化合物Bとして化合物b1を2g、光重合開始剤を0.1gを評量して、ポリプラスチック容器(低密度ポリエチレン、容量60ml)に充填し、60℃のオーブンに1時間投入後、大気圧下で、スパチュラで手混ぜし、実施例1の光硬化性樹脂組成物を得た。
【0112】
実施例2~19では、実施例1の化合物を表1記載の化合物に置き換えて、表1記載の重量部になるように配合して同様にして、光硬化性樹脂組成物を製造し、実施例2~19の光硬化性樹脂組成物を得た。
【0113】
比較例1~2では、実施例1の化合物を表1記載の化合物に置き換えて、表1記載の重量部になるように配合して同様にして、光硬化性樹脂組成物を製造し、比較例1及び2の光硬化性樹脂組成物を得た。
【0114】
(2-2)それぞれの実施例及び比較例に対して、以下の物性を測定した。
【0115】
(2-2-1)25℃における引張弾性率(MPa)
(2-2-2)25℃における応力0.02MPa下での位相差(nm)
(2-2-3)25℃における屈折率
(2-2-4)25℃におけるHAZE値(0.2mmt)
(2-2-5)25℃における透過率(400nm、0.2mmt)
【0116】
以上の実施例及び比較例の結果を表1にまとめた。
【0117】
【0118】
表1によれば、本発明2の光硬化体で貼合された大口径の本発明1の貼合プラスチックレンズで予想される、本発明2の光硬化体に加わる大きな応力下でも、位相差が生じ難く(複屈折が生じ難く)、貼合プラスチックレンズや光硬化性樹脂組成物光硬化体の歪の発生を抑制でき、かつ、貼合プラスチックレンズの低複屈折性を維持できることがわかる。
【符号の説明】
【0119】
1-1 ガラスプレート
1-2 ガラスプレート
2 スペーサー
3 光硬化性樹脂組成物
4 紫外線
5 光硬化性樹脂組成物硬化体
E 応力