(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】ガラス材料及びその製造方法並びにその製品
(51)【国際特許分類】
C03C 10/04 20060101AFI20240829BHJP
C03C 10/12 20060101ALI20240829BHJP
C03C 3/097 20060101ALI20240829BHJP
C03C 21/00 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C03C10/04
C03C10/12
C03C3/097
C03C21/00 101
(21)【出願番号】P 2023557347
(86)(22)【出願日】2021-04-21
(86)【国際出願番号】 CN2021088560
(87)【国際公開番号】W WO2022193400
(87)【国際公開日】2022-09-22
【審査請求日】2023-10-02
(31)【優先権主張番号】202110278335.X
(32)【優先日】2021-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523353889
【氏名又は名称】常熟佳合▲顕▼示科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】周▲衛▼▲衛▼
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼福▲軍▼
(72)【発明者】
【氏名】田▲啓▼航
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼▲継▼▲紅▼
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-522620(JP,A)
【文献】特開2019-064912(JP,A)
【文献】国際公開第2020/161949(WO,A1)
【文献】特表2021-531229(JP,A)
【文献】特表2023-548242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00,
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス材料であって、
質量比が、68~74%のSiO
2、4~10%のAl
2O
3、8~12%のLi
2O、0.1~3%のNa
2O、0.1~1%のK
2O、4.5~9%のP
2O
5、および1~6%のZrO
2である原料により製造され、リチウム塩結晶相及びリン酸塩結晶相を含有し
、ここで、リチウム塩結晶相はケイ酸リチウム、二ケイ酸リチウム、ペタライトのうちの1種又は1種以上であり、ここで、リン酸塩結晶相はリン酸アルミニウムとメタリン酸アルミニウムのいずれか一方もしくは両方であることを特徴とするガラス材料。
【請求項2】
1-5wt%のジルコニアを含有することを特徴とする請求項1に記載のガラス材料。
【請求項3】
着色剤をさらに含有することを特徴とする請求項2に記載のガラス材料。
【請求項4】
前記着色剤はCoO、CuO、MnO
2、Cr
2O
3、NiO、CeO
2及びTiO
2の混合物、CdS及びZnOの混合物であることを特徴とする請求項3に記載のガラス材料。
【請求項5】
請求項1に記載のガラス材料を製造する方法であって、
質量比が、68~74%のSiO
2、4~10%のAl
2O
3、8~12%のLi
2O、0.1~3%のNa
2O、0.1~1%のK
2O、4.5~9%のP
2O
5、
1~6%のZrO
2
の原料を均一に混合し、混合物を白金又はアルミナ坩堝に入れるステップ1と、
電気炉において1250~1450℃の温度範囲内で、10~30時間加熱し、均一に溶融させ、インゴット切断法又は圧延法により厚さが0.2-2mmのベースガラスプレートを形成するステップ2と、
得られたベースガラスプレートに対して、核形成及び結晶成長を行うために、熱処理を施すことにより、前記ガラス材料を製造することができるステップ3と、を含む請求項1に記載のガラス材料を製造する方法。
【請求項6】
製造されたガラス材料に対してイオン強化を行うステップ4をさらに含み、具体的には、温度が420℃~460℃の溶融NaNO
3の塩浴に5~16時間浸漬してイオン交換を行う
第1のステップと、温度が400℃~460℃の溶融KNO
3の塩浴に2~16時間浸漬してイオン交換を行う
第2のステップと、を含むことを特徴とする請求項5に記載のガラス材料を製造する方法。
【請求項7】
質量比
が0~2%のCaO、0~1%のBaO、0~2%のSb
2O
3、0~3%のMgO、0~6%のZnO、0~5%のY
2O
3、0~5%のLa
2O
3、0~2%のEu
2O
3、0~2%のGd
2O
3、0~4%のTiO
2を前記ステップ1の原料にさらに添加することを特徴とする請求項5に記載のガラス材料を製造する方法。
【請求項8】
前記ステップ3における熱処理のプロセスは、まず600~650℃で2~6時間保持し、次に690~770℃で2~10時間保持することを特徴とする請求項5に記載のガラス材料を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は結晶化ガラスの技術分野に属し、特に優れた機械的特性を有する結晶化ガラス及びその製造方法並びにその製品に関する。
【背景技術】
【0002】
情報相互接続の今日では、5G通信が業界の主流となっている。5G通信技術は伝送信号をより高い周波数に向上させ、従来の金属製のリアカバーを用いると深刻な誘電損失が発生するため信号の伝送に影響を与える。また、無線充電技術の発展により、モバイル端末カバープレートにも高い要求が課されている。現在、主な携帯電話のカバープレートには、リアカバー材料として高アルミガラス材料が用いられる。
【0003】
モバイル端末電子機器では、一般的にガラス材料をスクリーン及びリアカバー材料として用い、対応する電子機器に対する保護作用を果たす。しかし、モバイル端末の表示画面の大画面化に伴い、表面のガラスが割れやすくなり傷が付きやすくなっている。既存の高アルミニウムガラスの機械的特性は、モバイル端末の開発の要求を満たすことができず、その結果、電子製品のガラス保護層の機械的特性をさらに向上させる必要がある。また、高アルミニウムガラスはアルミニウム含有量が高いため、溶製温度が高く、エネルギー消費が大きく、製品コストが高い。
【0004】
20世紀50年代の米国コーニング社が結晶化ガラスに対する制御可能な準備を実現してから、結晶化ガラスは関連研究者らの重視を引き起こし始める。結晶化ガラスは、ガラスとセラミックの特性を併せ持つ。結晶相の存在は表面又は内部マイクロクラックのさらなる拡張を阻止し又はマイクロクラックを屈曲させて拡散しにくくすることができるため、それにより結晶化ガラスの強度及び力学的性能を大幅に改善する。結晶化ガラスは、オリジナルのガラスに比べて、機械的強度、耐熱衝撃性、化学的安定性を顕著に向上させるとともに、熱膨張係数が調整できるなどの利点を有する。結晶化ガラスは、工業生産及び日常生活において重要な役割を担っている重要な構造及び機能材料である。結晶化ガラスのガラス相と結晶相が共存する構造は、高性能のアルミニウムガラスよりも優れた特性を有させる。
【0005】
中国特許出願CN106242299Aには、結晶化ガラス及び当該結晶化ガラスを基材とする基板が開示されている。イオン交換プロセスによって十分な圧縮応力値を得ることができるが、依然として深い応力層を形成することができず、落下中に破損しやすく、携帯電話のフロントカバーやリアカバーとして使用できない。
【0006】
中国特許出願CN107845078Aは、二ケイ酸リチウムを含有する結晶化ガラス及び基板を提供するが、その組成はAl2O3、Na2O含有量が高すぎ、イオン強化により表面高強度を実現できるが、結晶化プロセスで均一に析出した結晶化ガラスが得られず、それによりガラス透過率と強度を低下させる。
【0007】
中国特許出願CN107001120Aは、ペタライト及び二ケイ酸リチウムを主結晶相として含有する透明な結晶化ガラスを提供するが、その組成中のリチウムの含有量が高すぎるため、製造されたガラスプロセスのウィンドウが狭くなり、操作中に乳濁で不透明化しやすい。
【0008】
従来のモバイル端末に適用されるガラス材料は、単一の種類であり、ユーザのパーソナライズ発展の要求に応えることが困難であった。工業的に製造する着色方法としては、ガラス表面に有機材料の着色層をスプレーにより塗布する方法があるが、塗膜が経時的に劣化し、ひいては剥がれてしまい、着色効果がそれに応じて低下する。社会経済の発展に伴い、人々のパーソナライズ製品に対する興味がますます高まっている。ガラス基体着色に基づく色ガラスは着色が均一で安定し、製造フローが簡単であるという利点を有する。
【0009】
結論として、現在のモバイル端末用のガラス材料への適用には、一般に、以下の問題が存在する。
1.性能において、高アルミニウムガラスは、力学的性能が低く、硬度が低く、傷に弱く、且つ、溶製の難易度が高く、コストが高く、モバイル端末の大画面化、軽量化のニーズに応えることができず、従来の結晶化ガラス材料も、脆性が大きく、応力層の深さを大きく取ることが困難であり、晶析が不均一で、乳濁しやすいなどの問題があった。
【0010】
2.外観において、従来の高強度のカバーパネルは色が単一であり、現代のパーソナライズのニーズに応えるには不十分である。
【発明の概要】
【0011】
従来技術の欠点を解決するために、本発明が解決しようとする技術的問題は、ガラス材料及びその製造方法並びに当該ガラス材料から製造されたガラスカバープレートを提供することである。本発明の技術的問題を解決する技術的解決手段は次のとおりであり、
ガラス材料であって、リチウム塩結晶相及びリン酸塩結晶相を含有し、且つ材料全体の結晶化度が40-95%であり、リチウム塩結晶相は40-90wt%を占め、リン酸塩結晶相は2-15wt%を占め、ここで、リチウム塩結晶相はケイ酸リチウム、二ケイ酸リチウム、ペタライトのうちの1種又は1種以上であり、ここで、リン酸塩結晶相はリン酸アルミニウム又は/及びメタリン酸アルミニウムである。
【0012】
さらに、ガラス材料に含まれる結晶相の組み合わせタイプは質量百分率で、ケイ酸リチウム5~15%、二ケイ酸リチウム20~50%、ペタライト20~45%、リン酸アルミニウム3-10%、リン酸アルミニウム5~15%、二ケイ酸リチウム10~40%、又はケイ酸リチウム5~15%、リン酸アルミニウム10~15%、二ケイ酸リチウム20~50%、又はペタライト30~45%、二ケイ酸リチウム25~45%、メタリン酸アルミニウム2~5%、又はペタライト20~45%、二ケイ酸リチウム20~40%、メタリン酸アルミニウム3~15%、又はペタライト25~45%、二ケイ酸リチウム20~45%、又はペタライト25~45%、メタリン酸アルミニウム2~5%を含む。
【0013】
前記ガラス材料は1-5wt%のジルコニアをさらに含み、
前記ガラス材料に着色剤がさらに添加され、
前記着色剤は、CoO、CuO、MnO2、Cr2O3、NiO、CeO2及びTiO2の混合物、CdS及びZnOの混合物である。
【0014】
3%以下の含有量で青色結晶化ガラスを製造するために用いられるCoOを着色剤として用い、含有量が3%を超える場合、ガラス性能に大きな影響を与え、0.5%未満である場合、フレーク状ガラスの色が目立たず、好ましくはCoOの含有量が0.5-3wt%である。
【0015】
4%以下の含有量で緑色結晶化ガラスを製造するために用いられるCuOを着色剤として用い、含有量が4%を超える場合、ガラス特性が低下するとともに、不均一な色分布を示し、0.5%未満である場合、フレーク状ガラスの色が目立たず、好ましくはCuOの含有量が0.5-4wt%である。
【0016】
6%以下の含有量で黄褐色の結晶化ガラスを製造するために用いられるMnO2を着色剤として用い、含有量が6%を超える場合、ガラス特性が低下し、1%未満である場合、フレーク状ガラスの色が目立たず、好ましくはMnO2の含有量が1-6wt%である。
【0017】
3%以下の含有量で緑色結晶化ガラスを製造するために用いられるCr2O3を着色剤として用い、含有量が3%を超える場合、ガラス特性が低下するとともに、不均一な色分布を示し、0.1%未満である場合、フレーク状ガラスの色が目立たず、好ましくはCr2O3の含有量が0.1-3wt%である。
【0018】
4%以下の含有量で茶色又は緑色結晶化ガラスを製造するために用いられるNiOを着色剤として用い、含有量が4%を超える場合、ガラス特性が低下するとともに、不均一な色分布を示し、0.3%未満である場合、フレーク状ガラスの色が目立たず、好ましくはNiOの含有量が0.1-3wt%である。
【0019】
CeO2とTiO2を混合した着色剤を用いて黄色ガラス組成物を製造し、CeO2の使用量は6%以内、最低使用量は0.8%より多い。その混合着色剤は、合計で2-8wt%である。
【0020】
CdSとZnOを混合した着色剤を用いて熱処理によってガラスを乳濁させ、CdSの含有量が4%を超えず、最低使用量は0.6%より多い。混合着色剤は、合計で2.5-9wt%である。
【0021】
Nd2O3を着色剤として用い、赤紫色ガラス組成物を製造し、希土類元素であるNd2O3は着色が弱いため、使用量が6%を超えてもガラスの色をこれ以上濃くすることができず、ガラスのコストが逆に上昇し、その含有量の下限は2%であり、2%未満である場合、フレーク状ガラスの色が薄く、好ましくはNd2O3の含有量が2-6wt%である。
【0022】
ガラス材料を製造する方法であって、
質量比が、68~74%のSiO2、4~10%のAl2O3、8~12%のLi2O、0.1~3%のNa2O、0.1~1%のK2O、3~9%のP2O5、1~6%のZrO2の原料を均一に混合し、均一な混合物を白金又はアルミナ坩堝に入れるステップ1と、
電気炉において1250~1450℃の温度範囲内で、10~30時間加熱し、均一に溶融させ、インゴット切断法又は圧延法により厚さが0.2-2mmのベースガラスプレートを形成するステップ2と、
得られたベースガラスプレートに対して、核形成及び結晶成長を行うために、熱処理を施すことにより、前記ガラス材料を製造することができるステップ3と、を含む。
【0023】
質量比が、0~2%のCaO、0~1%のBaO、0~2%のSb2O3、0~3%のMgO、0~6%のZnO、0~5%のY2O3、0~5%のLa2O3、0~2%のEu2O3、0~2%のGd2O3、0~4%のTiO2、0.5-3wt%のCoO、0.5-4wt%のCuO、1-6wt%のMnO2、0.1-3wt%のCr2O3、0.1-3wt%のNiO、2-8wt%のCeO2及びTiO2、2.5-9wt%のCdS及びZnOを前記ステップ1の原料にさらに添加する。
【0024】
前記ステップ3における熱処理のプロセスは、まず600~650℃で2~6時間(h)保持し、次に690~770℃で2~10時間保持することである。
【0025】
製造されたガラス材料に対してイオン強化を行うステップ4をさらに含み、具体的には、温度が約420℃~460℃の溶融NaNO3の塩浴に約5~16時間浸漬してイオン交換を行う第1のステップと、温度が約400℃~460℃の溶融KNO3の塩浴に約2~16時間浸漬してイオン交換を行う第2のステップと、を含む。
【0026】
さらに、ステップ2における溶製温度が1450℃であり、好ましくは1400℃であり、最も好ましくは1340℃である。
【0027】
さらに、熱処理の後、ガラス体内に生成された結晶全体の寸法が60nm未満であり、好ましくは50nm未満であり、最も好ましくは40nm未満である。
【0028】
ガラスカバープレート製品であって、上記方法で製造されたガラス材料から切断、エッジング及び研磨プロセスを経て、目標の厚さ及び寸法のカバープレートを製造する。
【0029】
さらに、前記ガラスカバープレート製品はビッカース硬度Hvが900kgf/mm2以上であり、より好ましくは1000kgf/mm2である。
【0030】
さらに、前記ガラスカバープレート製品は、102gのスチールボールを介して300mmから前記ガラスに落下して破断することがなく、好ましくは高さが400mmであり、より好ましくは高さが450mm以上である。
【0031】
さらに、前記ガラスカバープレート製品は、可視光領域における透過率が85%以上であり、好ましくは90%以上である。
【0032】
さらに、前記ガラスカバープレート製品の表面の圧縮応力層の圧縮応力値CSは、200MPa以上であり、好ましくは300MPa以上であり、より好ましくは400MPa以上である。
【0033】
さらに、前記ガラスカバープレート製品の圧縮応力層のカリウムイオン交換層深さDOLは、2μm以上であり、好ましくは5μmであり、より好ましくは7μm以上である。
【0034】
さらに、前記ガラスカバープレート製品の圧縮応力層のナトリウムイオン交換層の深さDOCは、70μm以上であり、好ましくは80μmであり、より好ましくは90μm以上である。
【0035】
SiO2はガラス網目構造を形成する必須成分であり、オリジナルガラスの熱処理により結晶相を構成する必須成分である。その量が68%未満である場合、得られたガラスは、対応する結晶相及び結晶化度を得ることができない。従って、SiO2の含有量の下限は、好ましくは68%であり、一方、SiO2の含有量を74%以下とすることで、過度の粘度上昇と溶融性低下を抑制することができる。従って、SiO2の含有量の上限は、好ましくは74%以下である。
【0036】
Al2O3は、ガラス網目構造の成分を形成してもよい。ガラスネットワーク中間体として、ガラス構造の安定化、化学的耐久性の向上に寄与する重要な成分であり、ガラスの熱伝導率をさらに向上させることも可能であり、オリジナルガラスの熱処理により結晶相を構成する必須成分でもある。しかし、その含有量が4%未満である場合、好適な効果が得られない。従って、Al2O3の含有量の下限は4%である。一方、Al2O3は融点が高いため、含有量が10%を超える場合、溶融性と耐失透性が相応しくない。従って、Al2O3の含有量の上限は10%である。
【0037】
Na2Oはフラックス作用が顕著であり、イオン交換による化学強化を行う場合、結晶化ガラスにおけるNa2Oは、結晶化ガラスにおけるイオン交換を生じさせて圧縮応力層を形成でき、高強度の結晶化ガラスを形成するために必要な組成であり、それによりNa2Oの含有量は少なくとも0.1%以上である。しかし多すぎる導入はガラスの膨張係数を大きくしやすく、ガラスの熱安定性、化学的安定性及び機械的強度を低下させる。本発明の結晶化ガラスの組成における酸化ナトリウムの含有量の増加は、ガラス基体中に所望の結晶相を析出させる上で不利となるため、酸化ナトリウムの含有量は、好ましくは3%である。したがって、イオン交換による化学強化を行う場合、Na2Oの含有量は下限0.1%、上限3%とする。
【0038】
K2Oはガラスの熔融性や成形性の向上に寄与する任意の成分であり、作用がNa2Oと同様に、ガラスの白色度や光沢を向上させることができる。本発明の結晶化ガラスの組成における酸化カリウムの含有量の増加は、ガラス基体中に所望の結晶相を析出させる上で不利となるため、酸化カリウムの含有量は、好ましくは1%以下である。イオン交換による化学強化を行う場合、ガラス中に含まれるカリウムは、表面圧縮応力及び応力層深さを向上させる作用を有する。従って、K2Oの含有量は、下限が0.1%で、上限が好ましくは1%である。
【0039】
ZrO2は、結晶化ガラスにおいて核剤としての役割を有し、オリジナルガラスに対する熱処理によって結晶相を構成する必須成分となり得るものである。ガラスの屈折率や化学的安定性を向上させ、ガラスの紫外線透過能を低下させることに寄与する。しかし、ZrO2を過剰に含有させると、ガラスの溶製が困難となり、失透しやすくなる。ZrO2含有量の下限は、好ましくは1%で、上限は、好ましくは6%である。
【0040】
TiO2は、結晶化ガラスの溶融温度を低下させ、ガラスの屈折率や化学的安定性を向上させ、紫外線吸収能を増大させるのに寄与する任意の成分である。TiO2は結晶核剤の役割を有し、熱処理時の晶析に寄与する。TiO2含有量の下限は、好ましくは0より大きい。一方、TiO2の含有量を4%以下にすることで、ガラスの溶融温度を低下させ、晶析の程度を制御することができる。従って、TiO2の含有量の上限は、好ましくは4%である。
【0041】
BaOは、ガラスの低温溶融性を向上させるのに寄与する任意の成分であり、少量でフラックスに寄与し、ガラスの屈折率、密度、化学的安定性を向上させ、放射線を吸収する能力が高いなどの作用を有し、多すぎると清澄が困難になったり、二次気泡が発生したりして、ガラスが失透しやすくなる。従って、BaO含有量の上限は、好ましくは1%である。
【0042】
MgOは、ガラスの粘度低減と成形時のオリジナルガラスの晶析抑制に寄与し、低温溶融性を向上させる効果もあり、任意の成分であるが、MgO含有量の下限は0より大きいことが好ましく、しかし、MgO含有量が多すぎると耐失透性が低下し、結晶化後に好ましくない結晶が得られ、結晶化ガラスの性能が低下するおそれがあるため、MgO含有量の上限は、好ましくは3%である。
【0043】
ZnOは、ガラスの溶融性を向上させ、ガラスの化学的安定性を改善する成分であり、任意の成分であり、ZnOの含有量の下限は、好ましくは0より大きいことが好ましく、一方、ZnOの含有量の上限を6%に制御することで、所望の乳濁効果が得られ、ガラスの力学的性能に大きな影響を与えない。
【0044】
Y2O3及びLa2O3は、ガラスの溶融性及び成形性の向上に寄与する任意の成分であり、いずれも結晶化ガラスの硬度、化学的安定性、及び熱伝導率を向上させる任意の成分であり、少量の添加でガラスの溶融温度を低下させ、液相温度をある程度低下させることができるが、Y2O3を過剰に含有させると、ガラスの失透を招く。したがって、Y2O3又はLa2O3の含有量は5%である。
【0045】
Eu2O3及びGd2O3は、ガラスの熔融性及び成形性の向上に寄与する任意の成分であり、いずれもガラスの溶製効果を著しく改善するために導入され、ガラスの成形に寄与する。より重要なことは、Li2O、Na2O、MgO、ZnOの存在下でEu2O3又はGd2O3を導入することにより、上記3つの成分と相乗的に作用し相互に機能的に支え合い、さらに、結晶化ガラスの常磁性を向上させ、磁気損失を低減し、結晶化ガラスの機械的特性を改善する作用を有し、モバイル端末保護材料として用いられるのに有利であり、Eu2O3又はGd2O3の導入量の上限は、好ましくは2%である。
【0046】
Sb2O3は、ガラスの清澄剤として、溶融ガラス中の気泡量を低減し、溶融ガラスの清澄効果を向上させるのに有利に導入されるものであり、モバイル端末用途に適合する結晶化ガラスを製造する上で重要であり、その導入量の上限は、好ましくは2%である。
【0047】
Li2Oは、ガラスの低温溶融性と成形性を向上させる成分であり、オリジナルガラスに対する熱処理によって結晶相を構成する必須成分となり得るものである。しかし、その含有量が8%未満である場合、晶析効果が乏しく、また溶製の困難性が増す。一方、Li2Oを過剰に含有させると、結晶が不安定になりやすく、結晶が大きくなりやすく、ガラスの化学的耐久性が低下したり、平均線膨張係数が上昇したりする。従って、Li2O含有量の上限は、好ましくは12%である。イオン交換による化学強化を行う場合、Li2O成分が系中に含有される場合、深い圧縮応力層を形成する上で高いリチウム含有量も非常に有効である。
【0048】
P2O5はガラス中で網目形成体及び核剤の役割を果たし、ガラスの溶製温度を低下させることにも寄与する。低濃度では、P2O5は、主に、晶析中の核剤であり、結晶サイズを制御する役割を果たす。P2O5の濃度が上昇すると、P2O5はガラスのネットワークの形成に参与する。P-O構造内に存在する孤立電子対によって生成される強い電場のために、ガラス網目構造内のシリコン-酸素四面体の構造変化が引き起こされる。本ガラス系においてもP2O5はリン酸塩結晶相を析出させる必須成分であり、またアッベ数、紫外線透過性、光透過性を向上させる。ベースガラス中にP2O5を含まないか又は含有量が低すぎる場合、ベースガラスは微結晶化プロセスにおいて全体が結晶化せず、表面に霧化が発生し、均一に晶析した結晶化ガラスを得ることが困難である。
【0049】
本系では、一方で、P2O5含有量を増加させることによって、[SiO4]シロキサン四面体の一部が[SiO6]八面体構造に変換され、結晶化の過程では、ガラス中のLi+がシロキサン構造と結合してLiSiO3結晶を形成し、最終的にLi2Si2O5結晶相を形成する。結晶化が進行するにつれて、Li2SiO3又はLi2Si2O5はAl-O構造とさらに結合し、Li[AlSi4O10]ペタライト結晶相を形成する。一方、またガラス組成系中のリチウム含有量を低下させることにより、元々よりペタライトを形成し易いAl-O構造と、ガラス網目中のより弱いが、より多い量のP-O構造とをより多く形成し、一部のメタリン酸アルミニウム及びリン酸アルミニウム結晶相を形成することで、多結晶相が結晶化ガラスの機械的性能及び機械加工性能を改善する目的を達成する。しかし、系中のP2O5が多すぎると、分相によるガラスの耐失透性の低下や量産性が悪化しやすくなる。P2O5の含有量は、好ましくは3-9wt%である。
【発明の効果】
【0050】
本発明は、ガラス材料を製造する原料中のリチウム含有量の低減とリン含有量の向上を同時に行い、製造プロセスを組み合わせ、ガラス材料中のリチウム塩の結晶相とリン塩の結晶相の含有量を制御することで、二ケイ酸リチウムを主結晶相とする結晶化ガラスが有する脆性が大きく、靭性が悪いなどの問題を改善し、現在市場にある発明及び製品に対して、製品の機械的特性を向上させる。熱処理後のガラス材料は、様々な結晶型の組み合わせを形成することができ、それによって、実際の必要に応じて対応する結晶相を選択することができる。また、種々の着色剤を選択的に添加することにより、異なる個性的な色にすることができる。本発明は、実験と研究を繰り返すことにより、結晶化ガラス製品を構成する特定成分について、その含有量及び含有割合を特定の値に規定し、特定のいくつかの結晶相を析出させることにより、本発明の結晶化ガラス又はガラス製品を低コストで得る。本発明のガラス材料は、強化されたビッカース硬度(Hv)が900kgf/mm2以上である。本発明のガラス材料又は基板はモバイル端末機器や光学機器などの保護部材に適用され、高い硬度と強度を有する。また、本発明は携帯式電子機器の外枠部材などの他の装飾に用いられてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】実施例1を測定する示差走査熱量測定(DSC)曲線である。
【
図3】実施例1を測定するXRDクロマトグラムである。
【
図4】実施例2を測定するXRDクロマトグラムである。
【
図5】実施例3を測定するXRDクロマトグラムである。
【
図6】実施例4を測定するXRDクロマトグラムである。
【
図7】実施例3のHFによりエッチングされた結晶を測定するSEMのモフォロジーである。
【
図8】実施例3を測定する断面に対してカリウムナトリウム元素エネルギースペクトルの線走査を行う図である。
【
図9】実施例3を測定するFSM-6000の表示画像である。
【
図10】実施例3を測定する硬さ試験の圧痕である。
【
図11】落球実験に用いたガラスの寸法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
次に、本発明の結晶化ガラスの各成分の組成範囲について説明する。本明細書において、各成分の含有量は、特記しない限り、全て酸化物換算組成のガラス物質全量に対する重量百分率で表す。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明の結晶化ガラスの構成成分の原料として用いられる酸化物、複合塩などが溶融時に全て分解されて酸化物に変化した場合に、当該酸化物の物質総量を100%とするものである。
実施例
【0053】
(実施例1)
ステップ1、成分秤量、混合
表1の実施例1に記載の各成分及びその質量分率に従って、対応する原料を選択し、原料を均一に混合し、均一な混合物を白金又はアルミナ坩堝に入れた。
ステップ2、ベースガラスプレートの製造
ガラス組成物の溶製の難易度に応じて、電気炉において1450℃の温度範囲内で、20時間保温し、均一に溶融させ、インゴット切断法により厚さが1.0mmのベースガラスプレートを形成した。
【0054】
ステップ3、結晶化熱処理
得られたベースガラスプレートに対して結晶化熱処理を行い、具体的な方法は650℃で2時間保温して核生成を行い、760℃で8時間保温して行結晶成長を行い、続いて炉内で冷却して結晶化ガラスを製造した。その他の実施例のガラス結晶化熱処理のプロセス制度は表に記載の通りである。
【0055】
ステップ4、結晶化ガラスの機械加工
製造されたガラスセラミックスシートに対して機械で切断、エッジング及び研磨などのプロセス処理を行い、指定寸法及び厚さが160×70×0.6mmのガラスシートを製造した。
【0056】
ステップ5、結晶化ガラスの化学強化
高温イオン交換法を用いてガラス表面に圧縮応力層を形成することにより、カバーガラスの強化を実現した。二段階の高温イオン交換法を一括して選択して強化し、具体的なステップは、ステップ1、NaNO3溶融塩で450℃-8時間、ステップ2、KNO3溶融塩で400℃-2時間であった。
【0057】
得られたガラス材料カバープレート製品に対して性能試験を行い、各性能データは表1に対応するデータに示された。
【0058】
(実施例2)
ステップ1、成分秤量、混合
表1の実施例2に記載の各成分及びその質量分率に従って、対応する原料を選択し、原料を均一に混合し、均一な混合物を白金坩堝に入れた。
ステップ2、ベースガラスプレートの製造
ガラス組成物の熔製の難易度に応じて、電気炉において1420℃の温度範囲内で、20時間保温し、均一に溶融させ、インゴット切断法により厚さが2.0mmのベースガラスプレートを形成した。
【0059】
ステップ3、結晶化熱処理
得られたベースガラスプレートに対して結晶化熱処理を行い、具体的な方法は630℃で4時間保温して核生成を行い、730℃で3時間保温して行結晶成長を行い、続いて炉内で冷却して結晶化ガラスを製造した。
【0060】
ステップ4、結晶化ガラスの機械加工
製造されたガラスセラミックスシートに対して機械で切断、エッジング及び研磨などのプロセス処理を行い、指定寸法及び厚さが160×70×0.6mmのガラスシートを製造した。
【0061】
得られたガラス材料カバープレート製品に対して性能試験を行い、各性能データは表1に対応するデータに示された。
【0062】
実施例1-14における高温イオン強化前の結晶化ガラスの結晶相は、X線回折計を利用し、比較標準PDFカード分析によって結晶化ガラスにおける対応する結晶相及びその算出によって対応する結晶化度を得た。
【0063】
平均結晶粒径:走査型電子顕微鏡で測定し、結晶化ガラスはHF酸で表面処理を行い、さらに結晶化ガラス表面に金めっきを行い、走査型電子顕微鏡で表面走査を行い、粒子の直径を観察し、且つ全結晶粒子の平均直径寸法を合計することにより、映像中の結晶粒子数を割った。
【0064】
透過率:紫外可視分光光度計を用いて試験した。
【0065】
ビッカース硬度:ビッカース硬度計で測定したところ、付勢力は200gであり、付勢時間は15Sであった。
【0066】
CS:すなわち、カリウムイオンによる表面圧縮応力層は、ガラス表面応力計FSM~6000を用いて測定した。
【0067】
DOC:すなわち、ナトリウムイオン強化層深さは、日本折原工業株式会社ガラス表面応力計SLP-1000を用いて試験した。
【0068】
DOL:すなわち、カリウムイオン強化層深さは、日本折原工業株式会社ガラス表面応力計FSM-6000を用いて測定した。
【0069】
落球高さ:縦横高さが160×70×0.8mmの強化結晶化ガラス板の両面を研磨してゴムホルダーに載せて固定し、102gのスチールボールを所定の高さから落下させ、ガラス板が破断せずに耐え得る衝撃の最大落球高さとした。具体的には、実施例では380~420mmの試験データが記録されており、400mmの高さからスチールボールを落下させてもガラスプレートが破断せずに受ける衝撃を示している。
【0070】
実施例中の色は、対応するガラスシートの色を目視で観察したものである。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
上記は本発明の実施例に過ぎず、本発明の特許範囲を限定するものではなく、本発明の明細書及び図面内容を利用して行われた等価構造又は等価フロー変換、又は他の関連する技術分野に直接又は間接的に運用ことは、いずれも同様に本発明の特許請求の範囲内に含まれる。