IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧

<>
  • 特許-粗紡機のフライヤ 図1
  • 特許-粗紡機のフライヤ 図2
  • 特許-粗紡機のフライヤ 図3
  • 特許-粗紡機のフライヤ 図4
  • 特許-粗紡機のフライヤ 図5
  • 特許-粗紡機のフライヤ 図6
  • 特許-粗紡機のフライヤ 図7
  • 特許-粗紡機のフライヤ 図8
  • 特許-粗紡機のフライヤ 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】粗紡機のフライヤ
(51)【国際特許分類】
   D01H 7/32 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
D01H7/32
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018217912
(22)【出願日】2018-11-21
(65)【公開番号】P2020084351
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-02-16
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100221729
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭介
(72)【発明者】
【氏名】荻原 誠司
(72)【発明者】
【氏名】新原 正己
【合議体】
【審判長】筑波 茂樹
【審判官】金丸 治之
【審判官】西堀 宏之
(56)【参考文献】
【文献】実公昭35-16729(JP,Y1)
【文献】特表昭56-500857(JP,A)
【文献】実開昭57-158780(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第107227522(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01H 1/00 -17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のフライヤレッグを有するフライヤ本体と、
前記フライヤレッグの内部に設けられる導糸管と、
前記一対のフライヤレッグを連結するように、前記一対のフライヤレッグの下端部に固定された補強リングと、
前記一対のフライヤレッグのうち一方のフライヤレッグの下端部と対向する位置において前記補強リングの下側で前記補強リングを貫通して、前記フライヤレッグの下端部及び前記補強リングよりも下方に突出する前記導糸管の下端部に回転可能に設けられたフライヤプレッサと、
前記一方のフライヤレッグとは異なる他方のフライヤレッグの下端部と対向する位置において前記補強リングの下側に配置されたバランスウェイトと
を備えており、
前記一対のフライヤレッグは、ほぼ同じ太さに形成されている粗紡機のフライヤ。
【請求項2】
前記フライヤプレッサは引っ掛け部を有し、前記引っ掛け部を前記補強リングに引っ掛けた状態で支持されている
請求項1に記載の粗紡機のフライヤ。
【請求項3】
前記引っ掛け部は、少なくとも前記補強リングに接触する部分が樹脂により形成されている
請求項2に記載の粗紡機のフライヤ。
【請求項4】
前記バランスウェイトには雄ネジが一体に設けられ、
前記補強リングは、前記バランスウェイトの前記雄ネジによって前記他方のフライヤレッグの下端部に固定されている
請求項1~3のいずれか一項に記載の粗紡機のフライヤ。
【請求項5】
前記一対のフライヤレッグを連結するように、前記補強リングよりも上側で前記一対のフライヤレッグに固定された中間リングを備える
請求項1~4のいずれか一項に記載の粗紡機のフライヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗紡機のフライヤに関する。
【背景技術】
【0002】
粗糸をボビンに巻き取る粗紡機にはフライヤが設けられている。粗紡機のフライヤは、一対のフライヤレッグを有するフライヤ本体と、フライヤプレッサとを備える。この粗紡機において、ボビンに粗糸を巻き取る場合は、フライヤ本体が高速で回転し、この回転に従ってフライヤプレッサがボビンの周りを回転する。その際、フライヤプレッサのパドル部分は、ボビンの外周面、または、ボビンに巻かれた粗糸の表面に押し付けられる。
【0003】
上述のようにフライヤ本体が高速で回転すると、これにともなう遠心力を受けて一対のフライヤレッグが外側に拡がるように撓む。そこで、一対のフライヤレッグの拡がりを抑制するために、フライヤプレッサのカウンタウェイトを長尺状に形成し、このカウンタウェイトを一方のフライヤレッグに沿わせて上下に長く分布させるとともに、一対のフライヤレッグに補強リングを取り付けた構成のフライヤが特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表昭56-500857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のフライヤには、次のような課題があった。
特許文献1に記載のフライヤでは、一方のフライヤレッグ側でフライヤプレッサが補強リングよりも上側に設けられている。このため、一方のフライヤレッグにフライヤプレッサのカウンタウェイトを沿わせるために、フライヤレッグの断面形状を自由に決めることができなかった。また、フライヤ本体を回転させたときに、一方のフライヤレッグの近傍にフライヤプレッサのカウンタウェイトが存在するため、それらの断面形状がフライヤレッグ単体の場合に比べて複雑になり、このことが空気の乱れを大きくする要因になっていた。その結果、フライヤ本体を高速回転させたときに、フライヤの回転抵抗が大きくなり、風切り音も大きくなってしまうという不都合があった。
【0006】
また、特許文献1に記載のフライヤでは、フライヤの重心位置をフライヤの回転中心に合わせるために、フライヤプレッサが設けられる一方のフライヤレッグに対し、他方のフライヤレッグの重量を、フライヤプレッサの重量分だけ重くする必要がある。このため、一方のフライヤレッグに比べて、他方のフライヤレッグを太く形成する必要がある。ただし、その場合は、太く形成したフライヤレッグの曲げ剛性が相対的に高くなるため、フライヤ本体を高速回転させたときに、一対のフライヤレッグの拡がり量に差が生じ、これによってフライヤの重心位置がフライヤの回転中心からずれてしまう。その結果、フライヤ本体を高速回転させたときの振動が大きくなり、粗紡機の運転に支障を来すおそれがある。
【0007】
また、特許文献1に記載のフライヤでは、フライヤプレッサのカウンタウェイトを一方のフライヤレッグに沿わせて上下に長く分布させるために、カウンタウェイトの上端部にピンを設け、このピンを中心にフライヤプレッサを回動自在に支持している。その場合、一方のフライヤレッグにカウンタウェイトを沿わせるには、一方のフライヤレッグの内部に入り込んだ位置に上記のピンを配置する必要がある。また、一方のフライヤレッグの内部には、粗糸をフライヤプレッサへと導く導糸管が上記のピンと共に配置される。この場合、導糸管とピンとの干渉を避けるには、ピンの近傍で導糸管を曲げる必要がある。そうすると、一方のフライヤレッグの内部にピンを配置しない場合に比べて、導糸管を曲げる箇所が増えるとともに、導糸管の曲げ半径が小さくなる。その結果、導糸管の内部に風綿や糸カスなどの汚れが溜まり、粗糸切れが生じやすくなる。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、フライヤ本体を高速回転させた際に、フライヤレッグの拡がり、空気の乱れ、および、振動の発生を抑制することができるとともに、導糸管内に汚れが溜まりにくい、粗紡機のフライヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る粗紡機のフライヤは、一対のフライヤレッグを有するフライヤ本体と、
フライヤレッグの内部に設けられる導糸管と、一対のフライヤレッグを連結するように、一対のフライヤレッグの下端部に固定された補強リングと一対のフライヤレッグのうち一方のフライヤレッグの下端部と、対向する位置において補強リングの下側で補強リングを貫通して、フライヤレッグの下端部及び補強リングよりも下方に突出する導糸管の下端部に回転可能に設けられたフライヤプレッサと、一方のフライヤレッグとは異なる他方のフライヤレッグの下端部と対向する位置において補強リングの下側に配置されたバランスウェイトとを備えており、一対のフライヤレッグは、ほぼ同じ太さに形成されている。
【0010】
本発明に係る粗紡機のフライヤにおいて、フライヤプレッサは引っ掛け部を有し、引っ掛け部を補強リングに引っ掛けた状態で支持されていてもよい。
【0011】
本発明に係る粗紡機のフライヤにおいて、引っ掛け部は、少なくとも補強リングに接触する部分が樹脂により形成されていてもよい。
【0012】
本発明に係る粗紡機のフライヤにおいて、バランスウェイトには雄ネジが一体に設けられ、補強リングは、バランスウェイトの雄ネジによって他方のフライヤレッグの下端部に固定されていてもよい。
【0013】
本発明に係る粗紡機のフライヤは、一対のフライヤレッグを連結するように、補強リングよりも上側で一対のフライヤレッグに固定された中間リングを備えるものであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、フライヤ本体を高速回転させた際に、フライヤレッグの拡がり、空気の乱れ、および、振動の発生を抑制することができるとともに、導糸管内に汚れが溜まりにくい、粗紡機のフライヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係る粗紡機のフライヤを示す一部破断正面図である。
図2図1のIII-III位置において、一対のフライヤレッグおよびフライヤスピンドルの断面形状を示す図である。
図3図1に示すA1方向からフライヤプレッサを見た図である。
図4】参考形態における導糸管の曲げ形状を説明する斜視図である。
図5】第1実施形態における導糸管の曲げ形状を説明する正面図である。
図6】第2実施形態に係る粗紡機のフライヤを示す一部破断正面図である。
図7図6に示すA2方向からフライヤプレッサを見た図である。
図8】第3実施形態に係る粗紡機のフライヤを示す一部破断正面図である。
図9】第4実施形態に係る粗紡機のフライヤを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1実施形態>
図1は、本第1実施形態に係る粗紡機のフライヤを示す一部破断正面図である。
本第1実施形態に係る粗紡機のフライヤ1は、図示しないボビンに粗糸を巻き取る際に用いられるものであって、図1に示すように、フライヤ本体10と、補強リング12と、フライヤプレッサ14と、バランスウェイト16とを備えている。
【0017】
フライヤ本体10は、図示しないフライヤ駆動装置により、フライヤ1の回転中心となる軸線J1を中心に回転可能に設けられている。軸線J1は、粗紡機の設置状態において、鉛直方向に沿って設定される。本明細書においては、粗紡機の設置状態において、鉛直方向の上側を上方、鉛直方向の下側を下方として、各部の配置や位置関係を特定する。
【0018】
フライヤ本体10は、アーバ部18と、ボス部20と、一対のフライヤレッグ21,22とを有している。フライヤ本体10は、たとえば、アルミニウム合金製の一体鋳造品によって構成される。アーバ部18は、フライヤ本体10の上部に設けられている。ボス部20は、アーバ部18と一対のフライヤレッグ21,22との間に設けられている。ボス部20にはフライヤスピンドル25が取り付けられている。フライヤスピンドル25は、軸線J1に沿ってボス部20から下方に延出している。フライヤスピンドル25は、一対のフライヤレッグ21,22の間に配置されている。
【0019】
一対のフライヤレッグ21,22は、ボス部20から一方と他方に分岐して下方に延出している。一対のフライヤレッグ21,22は、フライヤ本体10が回転したときに、軸線J1の周りを旋回するものである。一対のフライヤレッグ21,22のうち、一方のフライヤレッグ21の内部には、細長いパイプ状の導糸管26が設けられている。図2は、図1のIII-III位置において、一対のフライヤレッグ21,22およびフライヤスピンドル25の断面形状を示す図である。一対のフライヤレッグ21,22は、いずれも流線型の断面形状となっており、フライヤスピンドル25は、円形の断面形状になっている。導糸管26の一部は、一方のフライヤレッグ21の内部に配置されている。導糸管26は、図示しない鋳型を用いてフライヤ本体10を製造する際に、鋳型に導糸管26を配置して溶融金属を流し込むことにより、アーバ部18、ボス部20およびフライヤレッグ21の中に鋳込まれる。
【0020】
導糸管26は、フライヤ本体10のアーバ部18内に導入される粗糸(図示せず)を、ボス部20およびフライヤレッグ21の内部を通してフライヤプレッサ14へと導くものである。導糸管26は、フライヤレッグ21の形状に沿うように曲げられている。導糸管26の下端部26aは、フライヤレッグ21の下端部21aよりも下方に突出して配置されている。
【0021】
補強リング12は、フライヤ本体10を高速回転させたときに、一対のフライヤレッグ21,22の拡がりを抑制するために設けられたものである。補強リング12は、一対のフライヤレッグ21,22を連結するように、一対のフライヤレッグ21,22の下端部21a,22aに固定されている。一方のフライヤレッグ21の下端部21aにおいては、フライヤレッグ21と補強リング12とが、たとえば、フライヤレッグ21の下端部21aに設けられた突出部(図示せず)を補強リング12に設けられた孔(図示せず)に嵌め込み、その嵌め込み部分を接着することにより、互いに固定されている。他方のフライヤレッグ22の下端部22aにおいては、フライヤレッグ22と補強リング12とが、ボルト27によって互いに固定されている。これにより、一対のフライヤレッグ21,22の下端部21a,22aは、補強リング12によって連結されている。
【0022】
フライヤプレッサ14は、一方のフライヤレッグ21の下端部と対向する位置において補強リング12の下側に配置されている。また、フライヤプレッサ14は、フライヤレッグ21の下端部21aよりも下方に配置されている。図3は、図1に示すA1方向からフライヤプレッサを見た図である。フライヤプレッサ14は、ブッシュ28により回動可能に設けられている。ブッシュ28は、補強リング21を貫通して下方に突出する導糸管26の下端部26aに圧入等によって固定されている。ブッシュ28は、たとえば、すべり軸受によって構成される。また、フライヤプレッサ14は、プレッサの回動中心となる軸線J2を中心に回動可能に設けられている。フライヤプレッサ14は、プレッサ本体31と、プレッサアーム32と、プレッサパドル33と、カウンタウェイト34(図3参照)とを備えている。フライヤプレッサ14が配置される部分には、プレッサ自身の脱落を防止するために、ストッパ36とナット37が設けられている。ストッパ36は、導糸管26に固定されている。ストッパ36は、導糸管26の外周面よりも径方向外側に突出して配置されている。ナット37は、図示しないボルトを用いてプレッサ本体31に固定されている。フライヤプレッサ14は、ストッパ36の上面にナット37を引っ掛けることにより、自重で脱落しないようになっている。
【0023】
プレッサ本体31は、ブッシュ28によって回動自在に支持されている。プレッサアーム32は、プレッサ本体31からプレッサパドル33へと延出している。プレッサアーム32には、導糸管26の下端部26aから導出される粗糸(図示せず)がプレッサパドル33に向けて巻き掛けられる。プレッサパドル33は、軸線J1を中心にフライヤ本体10が回転した際に、図示しないボビンの外周面またはボビンに巻かれた粗糸の表面に所定の力で押し付けられるものである。
【0024】
カウンタウェイト34は、フライヤ本体10が回転した際に、プレッサパドル33に押し付け力を付与するものである。カウンタウェイト34は、プレッサ本体31と一体に形成されている。このため、カウンタウェイト34は、一方のフライヤレッグ21に沿って長く分布することなく、プレッサ本体31とほぼ同じ高さ寸法で形成されている。ここで、フライヤプレッサ14全体の重心位置は、上下方向からフライヤ1を見た場合、カウンタウェイト34の存在によって軸線J2からずれた位置に存在している。このため、フライヤ本体10を回転させると、これにともなう遠心力がフライヤプレッサ14の重心位置に加わって、フライヤプレッサ14が軸線J2を中心に一方向に回転する。その結果、プレッサパドル33がボビンの外周面または粗糸の表面に押し付けられる。
【0025】
バランスウェイト16は、他方のフライヤレッグ22の下端部と対向する位置において補強リング12の下側に配置されている。また、バランスウェイト16は、フライヤレッグ22の下端部22aよりも下方に配置されている。バランスウェイト16は、軸線J1を中心としたフライヤ1の重量バランスが、一方のフライヤレッグ21側と他方のフライヤレッグ22側で互いにほぼ均等となるように、フライヤプレッサ14と同等の重量を有している。また、バランスウェイト16は、2つのボルト38,39によって補強リング12の下面に固定されている。
【0026】
本第1実施形態においては、一対のフライヤレッグ21,22の下端部21a,22aに補強リング12を固定するとともに、補強リング12の下側にフライヤプレッサ14とバランスウェイト16とを配置した構成を採用している。これにより、補強リング12よりも上側にフライヤプレッサ14が存在しなくなるため、一対のフライヤレッグ21,22の断面形状を自由に決めることができる。また、一対のフライヤレッグ21,22をほぼ同じ太さで形成することができるため、各々のフライヤレッグ21,22の曲げ剛性を同等に設定することができる。したがって、フライヤ本体10を高速回転させたときに、一対のフライヤレッグ21,22の拡がり量の差を低減し、フライヤ1の重心位置とフライヤ1の回転中心とのずれにともなう振動の発生を小さく抑えることができる。さらに、一対のフライヤレッグ21,22の下端部21a,22aに補強リング12を固定し、この補強リング12によって一対のフライヤレッグ21,22を連結しているため、一対のフライヤレッグ21,22の拡がりを抑制することができる。また、一方のフライヤレッグ21とフライヤプレッサ14のカウンタウェイト34とは、補強リング12を境に上側と下側に分けて配置されるため、フライヤレッグ21とフライヤプレッサ14との干渉が起こらない。このため、フライヤレッグ21とフライヤプレッサ14との干渉を避けるために導糸管26の曲げ箇所を増やしたり曲げ半径を小さくしたりする必要がなくなる。これにより、導糸管26の内部に汚れが溜まりにくくなるため、粗糸切れの発生を抑制することができる。
【0027】
以下に、導糸管の曲げ形状について、本第1実施形態との比較のための参考形態を挙げて説明する。参考形態としては、特許文献1に記載したようにフライヤプレッサのカウンタウェイトを長尺状に形成し、このカウンタウェイトを一方のフライヤレッグに沿わせて上下に長く分布させた形態を想定している。
図4は、参考形態における導糸管の曲げ形状を説明する斜視図であり、図5は、本第1実施形態における導糸管の曲げ形状を説明する正面図である。
まず、図4においては、フライヤプレッサ40が長尺状のカウンタウェイト41を有している。カウンタウェイト41は、フライヤプレッサ40のプレッサ本体42にボルト43で固定されている。カウンタウェイト41の一端部にはピン44が設けられている。ピン44は、フライヤプレッサ40の回転支点としてカウンタウェイト41の上端部に配置される。また、ピン44は、導糸管46と共に、図示しないフライヤレッグの内部に配置される。これに対して、導糸管46には4つの曲げ部R11,R12,R13,R14が設けられている。4つの曲げ部R11,R12,R13,R14は、フライヤレッグの内部で導糸管26とカウンタウェイト41のピン44との干渉を避けるために設けられたものである。
【0028】
一方、本第1実施形態においては、上述したとおりフライヤレッグ21とフライヤプレッサ14との干渉が起こらない。このため、本第1実施形態の場合は、図5に示すように、導糸管26をフライヤレッグ21の形状に沿わせるために最低限必要とされる数の曲げ箇所、すなわち2つの曲げ部R1,R2を導糸管26に設けるだけ済む。また、参考形態においては、カウンタウェイト41のピン44の位置を避けるために、各々の曲げ部R11,R12,R13,R14の曲げ半径を小さく設定する必要があるが、本第1実施形態においては、そのような必要がないため、各々の曲げ部R1,R2の曲げ半径を参考形態の場合よりも大きく設定することができる。よって、導糸管26の内部に汚れが溜まりにくくなる。
【0029】
<第2実施形態>
図6は、本第2実施形態に係る粗紡機のフライヤを示す一部破断正面図であり、図7は、図6に示すA2方向からフライヤプレッサを見た図である。
本第2実施形態においては、上記第1実施形態で挙げた各々の構成部分と同様の部分または対応する部分に同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
本第2実施形態に係る粗紡機のフライヤ1では、図6に示すように、フライヤプレッサ14に引っ掛け部48が設けられている。フライヤプレッサ14は、引っ掛け部48を補強リング12に引っ掛けた状態で支持されている。引っ掛け部48は、補強リング12に引っ掛けられることにより、フライヤプレッサ14の脱落を防止する。引っ掛け部48には溝49が形成されている。溝49の幅は、補強リング12の厚み寸法よりも大きく設定されている。
【0030】
また、引っ掛け部48は、プレッサ本体31とは別体となっている。引っ掛け部48は、たとえば、図示しないボルトを用いてプレッサ本体31に固定されている。プレッサ本体31は金属によって構成され、引っ掛け部48は樹脂によって構成されている。引っ掛け部48を構成する樹脂には、滑り性の高い樹脂であるフッ素樹脂を用いることが好ましい。
【0031】
また、本第2実施形態においては、フライヤレッグ22に補強リング12を固定するためのボルトがリーマボルト29で構成されている。リーマボルト29は、ボルト頭部29aとネジ部29cとの間に、高い寸法精度で仕上げられた円柱状の軸部29bを有するボルトである。補強リング12には、リーマボルト29の軸部29bの外径に対応して高精度に仕上げられた内径を有する軸孔12aが設けられている。
【0032】
本第2実施形態に係る粗紡機のフライヤ1においては、フライヤプレッサ14に設けられた引っ掛け部48の溝49を補強リング12の外周縁に嵌め込むことにより、引っ掛け部48が補強リング12に引っ掛けられる。このとき、溝49の上面49aは、補強リング12の上面に接触し載置される。これにより、フライヤプレッサ14は、引っ掛け部48を補強リング12に引っ掛けた状態で回動自在に支持される。また、フライヤプレッサ14の脱落は、補強リング12に引っ掛け部48を引っ掛けることで防止される。その結果、上記第1実施形態で用いたストッパ36やナット37が不要になるため、プレッサ脱落防止構造の簡素化を図ることができる。
【0033】
また、本第2実施形態において、引っ掛け部48は、プレッサ本体31とは別体で且つ樹脂により形成されている。このため、軸線J2を中心にフライヤプレッサ14が回動する際に、補強リング12と引っ掛け部48との接触部分に生じる摩擦抵抗を樹脂の滑り性を利用して低減することができる。これにより、フライヤプレッサ14をスムーズに回動させることができる。また、補強リング12と引っ掛け部48との接触による摩耗を抑制することができる。
【0034】
また、本第2実施形態においては、フライヤレッグ22と補強リング12とが、リーマボルト29によって固定されている。これにより、フライヤレッグ22と補強リング12との位置決めを容易に行うことができる。
【0035】
<第3実施形態>
図8は、本第3実施形態に係る粗紡機のフライヤを示す一部破断正面図である。
本第3実施形態においては、上記第1実施形態または上記第2実施形態で挙げた各々の構成部分と同様の部分または対応する部分に同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
本第3実施形態に係る粗紡機のフライヤ1では、上記第2実施形態の構成と比較して、バランスウェイト50aに雄ネジ50bが一体に設けられ、この雄ネジ50bによって補強リング12がフライヤレッグ22の下端部22aに固定された点が異なる。バランスウェイト50aと雄ネジ50bとは一体構造をなし、これらバランスウェイト50aと雄ネジ50bとによってウェイト一体型ボルト50が構成されている。このウェイト一体型ボルト50において、バランスウェイト50aはボルトの頭部に相当し、雄ネジ50bはボルトのネジ部に相当する。バランスウェイト50aには、雄ネジ50bと反対側に位置して孔50cが形成されている。孔50cは、たとえば図示しない六角レンチを用いてウェイト一体型ボルト50を回すことができるように、六角形に形成されている。補強リング12には、雄ネジ50bを通すための貫通孔12bが設けられ、フライヤレッグ22には、雄ネジ50bと噛み合うネジ孔22bが設けられている。
【0036】
ウェイト一体型ボルト50を用いて補強リング12をフライヤレッグ22に固定する場合は、ウェイト一体型ボルト50の雄ネジ50bを補強リング12の貫通孔12bを通してフライヤレッグ22のネジ孔22bに噛み合わせる。また、バランスウェイト50aの孔50cに六角レンチ(図示せず)を嵌め込み、六角レンチによってウェイト一体型ボルト50を回す。これにより、ウェイト一体型ボルト50の雄ネジ50bが補強リング12の貫通孔12bにねじ込まれる。このため、ウェイト一体型ボルト50を適度な力で締め付けることにより、フライヤレッグ22に対して、補強リング12とバランスウェイト50aを同時に固定することができる。
【0037】
本第3実施形態においては、フライヤレッグ22の下端部22aにウェイト一体型ボルト50によって補強リング12が固定されるため、上述した第1実施形態および第2実施形態に比較して、固定用部品であるボルトの数を減らすことができる。また、上述した第1実施形態および第2実施形態においては、フライヤレッグ22にボルト27を用いて補強リング12を取り付ける作業と、補強リング12にボルト38,39を用いてバランスウェイト16を取り付ける作業とを、別々に行う必要がある。これに対し、本第3実施形態においては、バランスウェイト50aと雄ネジ50bとを一体構造としたウェイト一体型ボルト50を用いてフライヤレッグ22に補強リング12を取り付ける作業だけで済む。このため、部品の組み付け工程を簡素化することができるとともに、組み付けの所要時間を短縮することができる。
【0038】
<第4実施形態>
図9は、本第4実施形態に係る粗紡機のフライヤを示す斜視図である。
本第4実施形態においては、上記第1実施形態、第2実施形態および第3実施形態で挙げた各々の構成部分と同様の部分または対応する部分に同じ符号を付し、重複する説明は省略する。なお、図9においては、フライヤスピンドルとバランスウェイトの表示が省略されている。
【0039】
本第4実施形態に係る粗紡機のフライヤにおいては、図9に示すように、一対のフライヤレッグ21,22の下端部21a,22aに固定された補強リング12とは別に、中間リング52が設けられている。中間リング52は、補強リング12と同様に、一対のフライヤレッグ21,22の拡がりを抑制するために設けられたものである。中間リング52は、一対のフライヤレッグ21,22を連結するように、補強リング12よりも上側で一対のフライヤレッグ21,22に固定されている。
【0040】
本第4実施形態においては、フライヤ本体10を高速回転させたときに、一対のフライヤレッグ21,22の拡がりが、補強リング12と中間リング52の両方で抑制される。これにより、補強リング12のみを設ける場合に比べて、一対のフライヤレッグ21,22の拡がりを、より効果的に抑制することができる。また、補強リング12よりも上側に中間リング52を配置したことにより、各々のフライヤレッグ21,22の中間部の拡がりを確実に抑制することができる。
【0041】
<変形例等>
本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0042】
たとえば、上述した第2実施形態においては、プレッサ本体31とは別体で引っ掛け部48を形成したが、本発明はこれに限らず、プレッサ本体31と一体に引っ掛け部48を形成してもよい。
【0043】
また、上述した第2実施形態においては、引っ掛け部48をプレッサ本体31と別体とし、かつ引っ掛け部48を樹脂により形成するとしたが、本発明はこれに限らない。すなわち、引っ掛け部48がプレッサ本体31と一体であるか別体であるかにかかわらず、引っ掛け部48は、少なくとも補強リング12に接触する部分、すなわち溝49の表面部分、あるいは溝49の上面49aの部分だけが樹脂によって形成されていてもよい。
【0044】
また、上述した第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態および第4実施形態の各構成を適宜組み合わせてもよい。たとえば、リーマボルト29を備えた構成を、第1実施形態に適用してもよい。また、ウェイト一体型ボルト50を備えた構成を、第1実施形態または第2実施形態に適用してもよい。また、中間リング52を備えた構成を、第1実施形態、第2実施形態または第3実施形態に適用してもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 フライヤ、10 フライヤ本体、12 補強リング、14 フライヤプレッサ、16,50a バランスウェイト、21 フライヤレッグ(一方のフライヤレッグ)、22 フライヤレッグ(他方のフライヤレッグ)、29 リーマボルト、48 引っ掛け部、50b 雄ネジ、52 中間リング。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9