(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】フリップフロップと制御素子とを含む回路
(51)【国際特許分類】
G09G 3/20 20060101AFI20240829BHJP
H03K 3/286 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
G09G3/20 670E
H03K3/286 B
G09G3/20 622E
(21)【出願番号】P 2020026537
(22)【出願日】2020-02-19
【審査請求日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】P 2019104367
(32)【優先日】2019-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】303018827
【氏名又は名称】Tianma Japan株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520272868
【氏名又は名称】武漢天馬微電子有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 慈郎
(72)【発明者】
【氏名】下田 雅通
(72)【発明者】
【氏名】野中 義弘
【審査官】武田 悟
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/150443(WO,A1)
【文献】特開2009-205706(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0210890(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09G 3/00 - 3/38
H03K 3/286
G11C 19/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数段のシフトレジスタに含まれるフリップフロップと、
制御素子と、
前記制御素子と前記フリップフロップとの間の、電流を開閉するスイッチ回路と、
を含み、
前記フリップフロップは、
出力電界効果トランジスタと、
前記出力電界効果トランジスタのゲートに高電位と低電位との一方を与えるように動作する第1電界効果トランジスタと、
前記出力電界効果トランジスタのゲートに前記高電位と前記低電位との他方を与えるように動作する第2電界効果トランジスタと、
を含み、
前記制御素子は、前記第1電界効果トランジスタ及び前記第2電界効果トランジスタがオフの期間において、前記第1電界効果トランジスタ及び前記第2電界効果トランジスタの少なくとも一方におけるオフリーク電流と前記ゲートに対して逆の方向に、前記ゲートと電源との間において電流を流すように動作して前記ゲートの電荷の変化を抑制
し、
前記スイッチ回路は、前記フリップフロップを制御するクロック信号によって制御される、回路。
【請求項2】
請求項1に記載の回路であって、
前記制御素子は、オフ状態の一つの第3電界効果トランジスタで構成されている、
回路。
【請求項3】
請求項2に記載の回路であって、
前記第1電界効果トランジスタ、前記第2電界効果トランジスタ及び前記出力電界効果トランジスタの導電型は共通である、
回路。
【請求項4】
請求項2に記載の回路であって、
前記一つの第3電界効果トランジスタのサイズは、前記第1電界効果トランジスタ及び前記第2電界効果トランジスタのサイズの和以上である、
回路。
【請求項5】
請求項1に記載の回路であって、
前記制御素子は、前記ゲートと前記電源との間において並列接続されているオフ状態の複数の第3電界効果トランジスタを含む、
回路。
【請求項6】
請求項5に記載の回路であって、
前記複数の第3電界効果トランジスタのサイズの和は、前記第1電界効果トランジスタ及び前記第2電界効果トランジスタのサイズの和以上である、
回路。
【請求項7】
請求項1に記載の回路であって、
前記出力電界効果トランジスタは、転送されるデータの電位に対するベース電位を出力する、
回路。
【請求項8】
請求項1に記載の回路であって、
前記第1電界効果トランジスタは、
第1の期間においてオンして前記一方の電位を前記出力電界効果トランジスタの前記ゲートに与え、
前記第1の期間に続く第2の期間においてオフであり、前記第1の期間と前記第2の期間とを交互に繰り返し、
前記第2電界効果トランジスタは、前記第2の期間に含まれ前記第2の期間より短い第3の期間においてオンして前記他方の電位を前記出力電界効果トランジスタの前記ゲートに与え、
前記制御素子は、前記第1の期間及び前記第2の期間において、前記逆の方向に、前記ゲートと電源との間において電流を流すように動作する、
回路。
【請求項9】
請求項1に記載の回路であって、
前記出力電界効果トランジスタは、転送されるデータの電位を出力する、
回路。
【請求項10】
請求項1に記載の回路であって、
前記第1電界効果トランジスタは、
第4の期間においてオフであり、
前記第4の期間に続く第5の期間においてオンして前記一方の電位を前記出力電界効果トランジスタの前記ゲートに与え、前記第4の期間と前記第5の期間とを交互に繰り返し、
前記第2電界効果トランジスタは、前記第4の期間に含まれ前記第4の期間より短い第6の期間においてオンして前記他方の電位を前記出力電界効果トランジスタの前記ゲートに与え、
前記制御素子は、前記第4の期間及び前記第5の期間において、前記逆の方向に、前記ゲートと電源との間において電流を流すように動作する、
回路。
【請求項11】
請求項1に記載の回路であって、
前記第1電界効果トランジスタと前記ゲートの間であり、前記第2電界効果トランジスタと前記ゲートの間であり、前記制御素子と前記ゲートの間の位置に、リミッタ電界効果トランジスタをさらに含み、
前記出力電界効果トランジスタは、前記高電位より高い電位と前記低電位より低い電位との一方が前記ゲートに与えられている出力期間において、データの電位を出力し、
前記リミッタ電界効果トランジスタは、
前記出力期間においてオフであり、
前記第1電界効果トランジスタが、前記ゲートに前記高電位と前記低電位との前記一方を与えている期間においてオンであり、
前記第2電界効果トランジスタが、前記ゲートに前記高電位と前記低電位との前記他方を与えている期間においてオンである、
回路。
【請求項12】
請求項1に記載の回路であって、
前記制御素子は、電流値を調整可能な電流源回路である、
回路。
【請求項13】
請求項1に記載の回路であって、
前記フリップフロップは、表示装置の走査ドライバに含まれる、
回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フリップフロップと制御素子とを含む回路に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやタブレット端末などで搭載されるモバイル表示装置に対して、消費電力を抑えるため、低周波駆動が提案されている。表示装置のフレーム周波数が低くなるにつれて、表示装置の消費電力は低下する。
【0003】
モバイル表示装置としては、液晶表示装置(LCD)やOLED(Organic Light-Emitting Diode)表示装置が広く利用されている。これら表示装置は、走査線を駆動(選択)するためのシフトレジスタを含む。また、表示装置の素子(駆動TFTやOLED)の特性を測定し、その測定結果に基づきデータ信号を補正する、OLED表示装置が知られている。このようなデータ信号の外部補償を行うOLED表示装置は、測定用の制御信号を出力するシフトレジスタを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-351503号公報
【文献】特開2009-141396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シフトレジスタにデータが入力されてから出力するまで間に、出力トランジタのゲートが接続されるノードを高電位(もしくは低電位)に変更する。このとき常に、高電位電源もしくは低電位電源のいずれかに電気的接続するためには、Nチャネル型トランジスタとPチャネル型トランジスタの両方を使用するCMOS(Complementary metal-oxide-semiconductor)により、相補的に電源と接続する必要がある。
【0006】
しかし、CMOSは製造工程が多く、製造コストが高い。Nチャネル型トランジスタ、Pチャネル型トランジスタのいずれか、一方のチャネルのトランジスタで構成するシフトレジスタ回路は、製造コストが低いものの、出力トランジスタのゲートが接続されるノードが、電源電位が供給されないフローティング状態となる期間が存在する。フローティング状態のノードの電位は変化し得るため、シフトレジスタの動作が不安定になり、誤動作に至り得る。特に、上述のような低周波駆動において、フローティング期間が長くなり、誤動作の蓋然性が増加する。すなわち、従来の技術では、“低製造コスト”と“全期間に渡る回路の動作安定化”を両立できない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様の回路は、複数段のシフトレジスタに含まれるフリップフロップと、
制御素子と、を含む。前記フリップフロップは、出力電界効果トランジスタと、前記出力電界効果トランジスタのゲートに高電位と低電位との一方を与えるように動作する第1電界効果トランジスタと、前記出力電界効果トランジスタのゲートに前記高電位と前記低電位との他方を与えるように動作する第2電界効果トランジスタと、を含む。前記制御素子は、前記第1電界効果トランジスタ及び前記第2電界効果トランジスタがオフの期間において、前記第1電界効果トランジスタ及び前記第2電界効果トランジスタの少なくとも一方におけるオフリーク電流と前記ゲートに対して逆の方向に、前記ゲートと電源との間において電流を流すように動作する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、シフトレジスタにおける誤動作の蓋然性を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】比較例のフリップフロップの回路構成を模式的に示している。
【
図4】
図3に示す回路のタイミングチャートを示す。
【
図6】実施形態1の回路のタイミングチャートと示す。
【
図7】制御素子がトランジスタで構成されている回路構成を示す。
【
図8】所定の導電性の関係を満たすトランジスタのパターンの例を示す。
【
図9】実施形態1における制御素子の他の構成例を示す。
【
図10】所定の導電性の関係を満たすトランジスタのパターンの例を示す。
【
図11】制御素子及びフリップフロップを含む回路のシミュレーション結果を示す。
【
図12】
図3に示す比較例の回路構成において起こりえる出力信号の変化及びその原因となるノードの電位変化を示している。
【
図13】実施形態2の制御素子及びフリップフロップを含むの回路の構成例を示す。
【
図14】実施形態2の制御素子がトランジスタで構成されている回路構成を示す。
【
図19】実施形態4の制御素子である電流源回路の構成例を示す。
【
図20】シフトレジスタ内の4段のフリップフロップ及びそれらに対応する実施形態4の制御素子を示す。
【
図21】
図20に示すフリップフロップの信号のタイミングチャートを示す。
【
図22】制御素子とフリップフロップとの間に挿入される、実施形態5のスイッチ回路の構成例を示す。
【
図23】実施形態5の、シフトレジスタ、スイッチ回路、及び制御素子を接続した回路構成例を示す。
【
図24】実施形態6の、有機ELパネルのブロック図を示す。
【
図25】画素回路の制御信号S1、S2、Emのタイムチャートを示す。
【
図26】Overlap Scan VSRからの制御信号波形を示す。
【
図27】Emit VSRからの制御信号波形を示す。
【
図28】VSRの一段の回路図(10T3C構成)の例を示す。
【
図29】10T3CVSR回路に入力されるクロック信号、ノードN1、N2を含むタイミングチャートを示す。
【
図31】7T1C回路における信号のタイミングチャートを示す。
【
図32】複数行における7T1C画素回路のデータ書き込み及び閾値検出期間を示す。
【
図34】6T2C画素回路における信号のタイミングチャートを示す。
【
図35】複数行における6T2C画素回路のデータ書き込み及び閾値検出期間を示す。
【
図36A】6T2C画素回路の初期化期間(Ini.)における動作を模式的に示す。
【
図36B】6T2C画素回路の閾値検出期間(Detect.)における動作を模式的に示す。
【
図36C】6T2C画素回路のデータ書き込み期間(Prog.)における動作を模式的に示す。
【
図36D】6T2C画素回路の発光期間(Emit.)における動作を模式的に示す。
【
図37】6T2C画素回路の動作のシミュレーション結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。本実施形態は本発明を実現するための一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではないことに注意すべきである。
【0011】
<概要>
以下において、液晶表示装置(LCD)やOLED(Organic Light-Emitting Diode)表示装置等の表示装置に適用することができるシフトレジスタの回路構成を説明する。以下に開示するシフトレジスタは、表示装置と異なる装置に適用することができる。
【0012】
以下に説明するシフトレジスタを含む回路構成において、出力トランジスタのゲートに対して、オン状態のトランジスタを介して高電位及び低電位が供給されない期間が存在する。以下においてより具体的に説明するように、上記期間において、出力トランジスタのゲートに高電位又は低電位を与えるトランジスタにおけるオフリーク電流が、出力トランジスタのゲートの電位を変化させ、誤動作を引き起こし得る。
【0013】
以下に説明する回路は、このオフリーク電流による出力トランジスタのゲート電位変化を低減するように、ゲートと特定の電源との間において電流を制御する。これにより、シフトレジスタの誤動作の蓋然性を低減できる。
【0014】
基板上に形成されているシフトレジスタは、チャネルサイズを小さくして高集積を実現するために、一般に低温ポリシリコンTFT(Thin Film Transistor)で構成されている。低温ポリシリコンTFTは、オフリーク電流が大きい。また、低周波駆動において上記期間は長くなる。したがって、このような表示装置において、以下に開示の回路構成は特に効果的である。
【0015】
以下において、図面を参照して実施形態を具体的に説明する。各図において共通の構成については同一の参照符号が付されている。説明をわかりやすくするため、図示した物の寸法、形状については、誇張して記載している場合もある。
【0016】
<実施形態1>
[全体構成]
図1は、OLED表示装置10の構成例を模式的に示す。以下において、本開示の回路構成を適用する装置の例として、OLED表示装置を説明するが、他の表示装置又は表示装置と異なる装置に、適用することができる。OLED表示装置10は、OLED素子が形成されるTFT(Thin Film Transistor)基板100と、OLED素子を封止する封止構造部200と、を含む。
【0017】
TFT基板100の表示領域125の外側のカソード電極形成領域114の周囲に、走査ドライバ131、素子測定用回路132、ドライバIC134、デマルチプレクサ136が配置されている。走査ドライバ131はTFT基板100の走査線を駆動する。素子測定用回路132は、有機発光素子やTFT等の素子特性を測定するために、測定制御線を駆動する。
【0018】
ドライバIC134は、FPC(Flexible Printed Circuit)135を介して外部の機器と接続される。ドライバIC134は、例えば、異方性導電フィルム(ACF:Anisotropic Conductive Film)を用いて実装される。
【0019】
ドライバIC134は、走査ドライバ131及び素子測定用回路132に電源及びタイミング信号(制御信号)を与える。さらに、ドライバIC134は、デマルチプレクサ136に、電源及びデータ信号を与える。デマルチプレクサ136は、ドライバIC134の一つのピンの出力を、d本(dは2以上の整数)のデータ線に順次出力する。デマルチプレクサ136は、ドライバIC134からのデータ信号の出力先データ線を、走査期間内にd回切り替えることで、ドライバIC134の出力ピン数のd倍のデータ線を駆動する。
【0020】
[画素回路構成]
基板100上には、複数の副画素のアノード電極にそれぞれ供給する電流を制御する複数の画素回路が形成されている。
図2は、画素回路の構成例を示す。各画素回路は、駆動トランジスタ21と、選択トランジスタ22と、測定用トランジスタ24と、保持容量(素子)C1とを含む。画素回路は、OLED素子E1の発光を制御する。トランジスタは、電界効果トランジスタであり、より具体的にはTFTである。
【0021】
選択トランジスタ22は副画素を選択するスイッチである。選択トランジスタ22はpチャネル型TFTであり、ゲート端子は、走査線106に接続されている。ソース端子は、データ線105に接続されている。ドレイン端子は、駆動トランジスタ21のゲート端子に接続されている。
【0022】
駆動トランジスタ21はOLED素子E1の駆動用のトランジスタ(駆動TFT)である。駆動トランジスタ21はpチャネル型TFTであり、そのゲート端子は選択トランジスタ22のドレイン端子に接続されている。駆動トランジスタ21のソース端子は電源線108(Vdd)に接続されている。ドレイン端子は、OLED素子E1のアノードに接続されている。駆動トランジスタ21のゲート端子とソース端子との間に保持容量C1が形成されている。
【0023】
測定用トランジスタ24は、pチャネル型TFTであり、基準電圧供給線110とOLED素子E1のアノードとの電気的接続を制御する。測定用トランジスタ24のゲートに測定制御線109から制御信号が供給されることによりこの制御が行われる。測定用トランジスタ24は、駆動トランジスタ21やOLED素子E1の特性を測定する目的で使用される。
【0024】
次に、画素回路の動作を説明する。走査ドライバ131が走査線106に選択パルスを出力し、選択トランジスタ22をオン状態にする。データ線105を介してドライバIC134から供給されたデータ電圧は、保持容量C1に格納される。保持容量C1は、格納された電圧を、1フレーム期間を通じて保持する。保持電圧によって、駆動トランジスタ21のコンダクタンスがアナログ的に変化し、駆動トランジスタ21は、発光階調に対応した順バイアス電流をOLED素子E1に供給する。
【0025】
測定用トランジスタ24は、駆動トランジスタ21の特性を測定する目的で使用できる。例えば、駆動トランジスタ21を飽和領域、測定用トランジスタ24を線形領域で動作するようにバイアス条件を選んで、電源線108(Vdd)から基準電圧供給線110(Vref)に流れる電流を測定すれば、駆動トランジスタ21の電圧・電流変換特性を正確に測定することができる。副画素間の駆動トランジスタ21の電圧・電流変換特性の違いを補償するデータ信号を外部回路で生成すれば、均一性の高い表示画像を実現できる。
【0026】
または、駆動トランジスタ21をオフ状態にして測定用トランジスタ24をリニア領域で動作させ、OLED素子E1を発光させる電圧を基準電圧供給線110から印加すれば、OLED素子E1の電圧・電流特性を正確に測定することができる。例えば、長時間の使用によってOLED素子E1が劣化した場合にも、その劣化量を補償するデータ信号を外部回路で生成すれば、長寿命化を実現できる。
【0027】
図2の画素回路は例であって、画素回路は他の回路構成を有してよい。
図2の画素回路はpチャネル型TFTを使用しているが、画素回路はnチャネル型TFTを使用してもよい。
【0028】
走査ドライバ131及び素子測定用回路132は、それぞれ、走査線106及び測定制御線109を順次選択するためのシフトレジスタを含む。以下に説明するシフトレジスタは、走査ドライバ131及び素子測定用回路132の一方又は双方に適用することができる。
【0029】
[シフトレジスタ回路構成]
図3は、複数段のシフトレジスタに含まれる比較例の1段のシフトレジスタ(フリップフロップ)の回路構成を模式的に示している。フリップフロップは、電界効果トランジスタ(以下単にトランジスタと呼ぶ)TR2、TR3、TR4、TR5、TR8、TR9を含み、これらはpチャネル型TFTである。フリップフロップにおけるトランジスタは、オン/オフするスイッチとして動作する。
【0030】
フリップフロップに対する入力は、高電源電位(高電位)VGH、前段フリップフロップからの入力信号IN、及びクロック信号CLK1、CLK2、CLK3である。入力信号IN、及びクロック信号CLK1、CLK2、CLK3は、高電源電位VGHと等しい高電位(ハイレベル)H及び低電位(ローレベル)Lの間で切り替わる。シフトレジスタにおける高電位と低電位は一定の電位である。
【0031】
出力トランジスタTR8のドレインとトランジスタTR9のソースとの間のノードOUTが、順次転送されるデータを出力する。出力トランジスタTR8のソースは、高電源電位VGHを与える電源線に接続されている。出力トランジスタTR9のドレインには、クロック信号CLK2が与えられる。出力トランジスタTR8がONの期間において、ノードOUTは高電位Hを出力し、出力トランジスタTR9がONの期間において、ノードOUTはクロック信号CLK2を出力する。出力トランジスタTR9がONの期間において、クロック信号CLK2は低電位Lである。
【0032】
トランジスタTR5(第1電界効果トランジスタの例)は、高電源電位VGH(高電位H)を与える電源線と出力トランジスタTR8のゲートとの間に接続されている。
図3の例において、トランジスタTR5のドレインはノードN1に接続されている。トランジスタTR5のゲートには、前段フリップフロップからの入力信号INが与えられる。トランジスタTR5は、入力信号INに従ってオン/オフし、オンの期間において出力トランジスタTR8のゲートに高電源電位VGH(高電位H)を与えて、出力トランジスタTR8をオフにする。
【0033】
トランジスタTR4(第2電界効果トランジスタの例)は、出力トランジスタTR8のゲートにクロック信号CLK3を与える。
図3の例において、トランジスタTR4の一方のソース/ドレインとゲートが接続されている。トランジスタTR4のもう一方のソース/ドレインはノードN1に接続されている。トランジスタTR4のソース/ドレイン(ゲート)には、クロック信号CLK3が与えられる。トランジスタTR4は、低電位Lのクロック信号CLK3を、出力トランジスタTR8のゲート(ノードN1)に与えてオンにする。クロック信号CLK3が高電位Hの場合にトランジスタTR4はオフであり、クロック信号CLK3が低電位Lの場合にトランジスタTR4はオンである。
【0034】
トランジスタTR3は、高電源電位VGH(高電位H)を与える電源線と出力トランジスタTR9のゲートとの間に接続されている。
図3の例において、トランジスタTR3のドレインはノードN2に接続されている。トランジスタTR3のゲートには、ノードN1(出力トランジスタTR8のゲート)と同じ電位が与えられる。
【0035】
トランジスタTR3は、出力トランジスタTR8と同様にオン/オフし、オンの期間において出力トランジスタTR9のゲートに高電位Hを与えて、出力トランジスタTR9をオフにする。
【0036】
トランジスタTR2は、出力トランジスタTR9のゲートに前段フリップフロップからの入力信号INを与える。
図3の例において、一方のトランジスタTR2のソース/ドレインはノードN2に接続されている。もう一方のトランジスタTR2のドレイン/ドレインには、入力信号INが与えられる。
【0037】
トランジスタTR2は、クロック信号CLK1に従ってオン/オフし、オンの期間において出力トランジスタTR9のゲートに、入力信号INを与える。トランジスタTR2がオンの期間において、入力信号INにおける前段のフリップフロップからのデータ(低電位)を出力トランジスタTR9に与える。
【0038】
図4は、
図3に示す回路のタイミングチャートを示す。まず、時刻T1における構成要素の動作を説明する。入力信号INが高電位Hから低電位Lに変化する。入力信号IN及びノードOUTにおける出力信号(以下出力信号OUTとする)において、低電位Lが、転送されるデータの電位(「1」データ)であり、高電位Hはデータに対するベース電位(「0」データ)である。時刻T1から時刻T2の間において、前段のフリップフロップからデータ(入力信号INにおける低電位L)が入力される。
【0039】
入力信号INの上記変化に応答して、トランジスタTR5がオンになる。ノードN1の電位が、LからHに変化する。出力トランジスタTR8はオフになる。クロック信号CLK3は低電位Lから高電位Hに変化し、トランジスタTR4はオフになる。
【0040】
ノードN1が低電位Lから高電位Hに変化するため、トランジスタTR3はオフになる。クロック信号CLK1が高電位Hから低電位Lに変化し、トランジスタTR2はオンになる。入力信号INが高電位Hから低電位Lに変化し、ノードN2の電位は、高電位Hから低電位Lに変化する。クロック信号CLK2は高電位Hである。出力トランジスタTR9はオンになる。出力信号OUTは、高電位Hを維持する。
【0041】
次に、時刻T2における構成要素の動作を説明する。入力信号INが低電位Lから高電位Hに変化する。トランジスタTR5がオフになる。クロック信号CLK3は高電位Hを維持し、トランジスタTR4はオフのままである。ノードN1は、高電位Hであり、そしてフローティング状態である。クロック信号CLK1は低電位Lから高電位Hに変化し、トランジスタTR2はオフになる。
【0042】
トランジスタTR3はオフのままであり、ノードN2は低電位Lであり、そしてフローティング状態である。クロック信号CLK2が高電位Hから低電位Lに変化する。ノードN2はフローティング状態であるので、その電位は低電位Lよりさらに低い電位(極低電位)LLとなる(ブートストラップ回路)。出力トランジスタTR9はオンのままである。出力信号OUTはクロック信号CLK2と同様に、高電位Hから低電位Lに変化する。時刻T2からT3の期間において、当該フリップフロップは、転送するデータを表示領域125の信号線及び次段のフリップフロップに出力する。
【0043】
次に、時刻T3における構成要素の動作を説明する。入力信号INは高電位Hを維持し、トランジスタTR5はオフのままである。クロック信号CLK1は高電位Hを維持し、トランジスタTR2はオフのままである。
【0044】
クロック信号CLK3は、高電位Hから低電位Lに変化する。トランジスタTR4はオンとなり、ノードN1は、高電位Hから低電位Lに変化する。出力トランジスタTR8はオンとなり、出力信号OUTは低電位Lから高電位Hへ変化する。時刻T2から時刻T3が、データを出力する出力期間である。
【0045】
クロック信号CLK3の変化に応答して、トランジスタTR3はオンとなり、ノードN2の電位は、極低電位LLから高電位Hへ変化する。クロック信号CLK2は低電位Lから高電位Hへ変化する。出力トランジスタTR9はオフとなる。
【0046】
次に、時刻T4における構成要素の動作を説明する。入力信号INは高電位Hを維持し、トランジスタTR5はオフのままである。クロック信号CLK3は低電位Lから高電位Hへ変化し、トランジスタTR4はオフとなる。ノードN1は低電位Lであり、フローティング状態である。出力トランジスタTR8及びトランジスタTR3は、オンのままである。
【0047】
クロック信号CLK1は高電位Hから低電位Lへ変化し、トランジスタTR2はオンとなる。入力信号INは高電位Hのままであり、ノードN2の電位は高電位Hのままである。出力トランジスタTR9は、オフのままである。一方、時刻T1では入力信号INは低電位Lであり、ノードN2を高電位Hから低電位Lに変化するために、クロック信号CLK1の入力が必須であるものの、この時刻T4ではクロック信号CLK1を入力しても、ノードN2を高電位Hに維持するため、シフトレジスタの動作に支障が無い。
【0048】
時刻T4から時刻T6の期間において、入力信号IN及びクロック信号CLK3は高電位Hを維持する。そのため、トランジスタTR5及びTR4はオフのままであり、ノードN1はフローティング状態にある。また、時刻T4において、ノードN1の電位は低電位Lである。
【0049】
そのため、トランジスタTR5及びトランジスタTR4の双方又は一方のオフリーク電流が、ノードN1に流入し得る。オフリーク電流により、ノードN1に結合されている出力トランジスタTR8の容量が蓄積している電荷を放電し、ノードN1の電位は低電位Lから上昇する。これにより、出力トランジスタTR8がオンからオフに誤動作し、出力信号OUTが変化し得る。
【0050】
一般に、表示装置のシフトレジスタのトランジスタは、低温ポリシリコン(LTPS)を使用して形成されており、LTPSのオフリーク電流は、サブピコアンペアレベルと高い。チャネル領域のポリシリコンが欠陥を含むなど膜質が良くない場合、さらにオフリーク電流は高くなる。また、オフリーク電流は温度上昇と共に増加し、高温環境で動作するシフトレジスタの動作不安定性要因となり得る。
【0051】
図5は、本実施形態の回路構成例を示す。本実施形態の回路は、
図3に示す比較例のフリップフロップの構成要素に加え、制御素子210を含み、オフリーク電流によるトランジスタTR8のゲートの電荷の変化を抑制する。
【0052】
制御素子210は、ノードN1(トランジスタTR8のゲート)に対して、オフリーク電流と逆の方向に、ノードN1(トランジスタTR8のゲート)と低電源電位VGLを与える低電位電源(線)との間において電流を流すように動作する。低電源電位VGLは、クロック信号の低電位Lと同じかそれ以下の電位である。制御素子210は、オフリーク電流よるトランジスタTR8のゲートの保持電荷の変化を低減するように、ノードN1(トランジスタTR8のゲート)と低電位電源との間を流れる電流を制御する。制御素子210は、例えば、走査ドライバ131、素子測定用回路132又はドライバIC134に含まれている。
【0053】
図6は、本実施形態の回路のタイミングチャートと示す。制御素子210以外の構成要素の動作は、
図3及び4を参照して説明した比較例と同様である。上述のように、制御素子210は、オフリーク電流によるトランジスタTR8のゲートの電荷の変化を抑制する。これにより、所定のフローティング電位をより長期間維持し、出力トランジスタTR8及びシフトレジスタの誤動作の蓋然性を低くすることができる。
【0054】
図7は、制御素子210がトランジスタTR10(第3電界効果トランジスタの例)で構成されている回路構成を示す。本例において、トランジスタTR10は、他のトランジスタと同様に、pチャネル型TFTである。したがって、当該回路の全てのトランジスタの導電型は同一である。トランジスタTR10のソースはノードN1と接続され、ドレインは低電位電源に接続されている。トランジスタTR10のゲートには、高電源電位VGHが与えられている。
【0055】
トランジスタTR10のドレインに低電源電位VGLが与えられ、ソースにはノードN1と同じ電位が与えられる。低電源電位VGLは、クロック信号の低電位Lと同じかそれ未満の電位である。ノードN1の電位は、クロック信号の低電位Lと高電位Hとの間で変化する。したがって、トランジスタTR10は、常にオフである。
【0056】
ノードN1(出力トランジスタTR8のゲート)がフローティング状態期間の開始時刻T4において、ノードN1の電位はLである。トランジスタTR4及び/又はTR5のオフリーク電流によってノードN1の電位が上昇すると、トランジスタTR10においてオフリーク電流が流れる。このように、トランジスタTR10によって出力トランジスタTR8のゲートに流れる電流が低減し、ゲートに結合された容量の電荷を保持できる。
【0057】
上述のように、トランジスタTR5(第1電界効果トランジスタの例)は、時刻T1から時刻T2の第1の期間においてオンして、高電位を出力トランジスタTR8のゲートに与える。トランジスタTR5は、第1の期間に続く第2の期間(時刻T2から時刻T7)においてオフであり、第1の期間と第2の期間とを交互に繰り返す。トランジスタTR4(第2電界効果トランジスタの例)は、第2の期間に含まれ、第2の期間より短い第3の期間(時刻T3から時刻T4、時刻T6から時刻T7)においてオンして、低電位を出力トランジスタTR8のゲートに与える。トランジスタTR10は、第1の期間及び第2の期間において、低電位電源に電流を流すように動作する。
【0058】
図6に示すように、時刻T1から時刻T3の期間において、ノードN1の電位は高電位Hである。トランジスタTR10に対して印加される電圧が、他の期間における電圧より高くなる。しかし、トランジスタTR10において、ドレイン電圧Vdsに対するドレイン電流Idsは略一定(飽和特性)であるため、ドレインとソースの間の電圧が高くなっても、電流は一定と増えることは無く、消費電力増加を抑制することができる。
【0059】
上述のように、温度上昇に伴い、トランジスタTR4及びTR5のオフリーク電流は増加し得る。本例において、制御素子210はトランジスタTR10で構成されている。トランジスタTR10におけるオフリーク電流は、温度に対してトランジスタTR4及びTR5と同様に変化する。すわなち、オフリーク電流の増加(変動)の影響が相殺される。したがって、温度上昇に伴う、シフトレジスタの誤動作を効果的に抑制することができる。
【0060】
上述のように、トランジスタTR10は、トランジスタTR4及び/又はTR5からノードN1に流れる電流を、低電位電源に向けて流すことで、出力トランジスタTR8のゲートに保持されている電荷の変化を抑制する。一例において、トランジスタTR10の導電性は、トランジスタTR4の導電性とトランジスタTR5の導電性の和以上である。
【0061】
これにより、より効果的にトランジスタTR4及び/又はTR5からノードN1に流れる電流を、低電位電源に流すことができる。トランジスタTR4及びTR5を流れる高電位電源からノードN1へのリーク電流の総和と、トランジスタTR10を流れるノードN1から低電位電源への電流が吊りあうことで、出力トランジスタTR8のゲートに流れる電流がゼロに近づき、ゲートにおける電荷の保持性が向上する。
【0062】
図8は、上記導電性の関係を満たすトランジスタTR4、TR5及びTR10のパターンの例を示す。トランジスタTR4のドレイン電極D4はゲート電極G4と接続されており、クロック信号CLK3が与えられる。ソース電極S4は、トランジスタTR5のドレイン電極D5と接続されている。ここで、ゲート電極がポリシリコン膜(活性層)の下層側に位置するボトムゲート型トランジスタを例に記載しているが、ゲート電極が活性層の上層側に位置するトップゲート型トランジスタとしてもよい。
【0063】
トランジスタTR5のソース電極S5には、高電源電位VGHが与えられている。トランジスタTR5のゲート電極G5には、入力信号INが与えられている。トランジスタTR10のソース電極S10は、トランジスタTR4のソース電極S4及びトランジスタTR5のドレイン電極D5と接続されている。トランジスタTR10のドレイン電極D10には、低電源電位VGLが与えられている。トランジスタTR10のゲート電極G10には、高電源電位VGHが与えられている。
【0064】
トランジスタTR4は、チャネル長L4及びチャネル幅W4を有する。チャネル長L4及びチャネル幅W4は、ゲート電極G4とポリシリコン膜P4とが重なる領域で決まる。トランジスタTR5は、チャネル長L5及びチャネル幅W5を有する。チャネル長L5及びチャネル幅W5は、ゲート電極G5とポリシリコン膜P5とが重なる領域で決まる。
【0065】
トランジスタTR10は、チャネル長L10及びチャネル幅W10を有する。チャネル長L10及びチャネル幅W10は、ゲート電極G10とポリシリコン膜P10とが重なる領域で決まる。トランジスタの導電性は、チャネル幅/チャネル長で表わすことができる。したがって、W10/L10≧W4/L4+W5/L5が成立する。
【0066】
図9は、制御素子210の他の構成例を示す。制御素子210は、並列接続された複数のトランジスタで構成することができる。
図9の例において、制御素子210は、ノードN1と低電位電源の間において並列に接続された二つのトランジスタTR10及びTR11で構成されている。トランジスタの数が増加することで、制御素子210の導電性を高めることができる。
【0067】
一例において、トランジスタTR10及びTR11の導電性の和は、トランジスタTR4の導電性とトランジスタTR5の導電性の和以上である。
図10は、この導電性の関係を満たすトランジスタTR4、TR5、TR10及びTR11のパターンの例を示す。以下において、
図8の構成例との差異を主に説明する。
【0068】
トランジスタTR11(第3電界効果トランジスタの例)のゲート電極G11、ソース電極S11及びドレイン電極D11は、それぞれ、トランジスタTR10のゲート電極G10、ソース電極S10及びドレイン電極D10と接続されている。トランジスタTR11は、チャネル長L11及びチャネル幅W11を有する。チャネル長L11及びチャネル幅W11は、ゲート電極G11とポリシリコン膜P11とが重なる領域で決まる。したがって、W10/L10+W11/L11≧W4/L4+W5/L5が成立する。
【0069】
図11は、制御素子210及びフリップフロップを含む回路のシミュレーション結果を示す。
図11のグラフにおいて、縦軸はノードN1の電位を示し、横軸は時刻を示す。複数の線171から174は、それぞれ、ノードN1がフローティング状態である時刻T4から時刻T6において、制御素子210が流す異なる電流における、ノードN1の電位を示す。
【0070】
線171から174は、それぞれ、制御素子210が流す電流が0pA、0.3pA、0.6pA、1.0pAであるときの、ノードN1の電位を示す。電流0pAは、制御素子210が存在しない比較例である。
図11のグラフから理解できるように、制御素子210が電流を流すことで、フローティング状態におけるノードN1の電に上昇を抑制することができる。
【0071】
上記例において、制御素子210は1又は複数のトランジスタで構成されているが、制御素子210は他の回路要素、例えば、ポリシリコン膜などの抵抗素子で構成されていてもよい。トランジスタのリーク電流と同等の抵抗を有する抵抗素子が好ましい。
上述のように、全てのトランジスタが同一導電型であることで、効率的に基板上にトランジスタを形成することができる。
【0072】
<実施形態2>
以下において、本実施形態のフリップフロップと制御素子とを含む回路の構成例を示す。本実施形態の回路は、データを出力している期間(出力信号OUTがLの期間)における、フリップフロップの誤動作の蓋然性を低減する。これにより、制御線を選択する期間においてシフトレジスタの動作が安定し、選択期間を長くすることができる。
【0073】
図12は、
図3に示す比較例の回路構成において起こりえる出力信号OUTの変化及びその原因となるノードN2の電位変化を示している。時刻T2から時刻T3の期間(出力期間)において、ノードN2はフローティング状態である。また、時刻T2において、ノードN2の電には極低電位LLである。オフであるトランジスタTR3(第1電界効果トランジスタの例)のソース電位は高電位H(高電源電位VGH)である。また、オフであるトランジスタTR2(第2電界効果トランジスタの例)のソース電位は、入力信号INの電位であり、高電位Hである。
【0074】
したがって、トランジスタTR3及びTR2において、オフリーク電流が流れ得る。実施形態1において説明したように、オフリーク電流により、ノードN2に結合されている出力トランジスタTR9の容量が保持している電荷を放電し、ノードN2の電位は極低電位LLから上昇する。これにより、出力トランジスタTR9がオンからオフに誤動作し、出力信号OUTが変化し得る。
【0075】
図13は、本実施形態の制御素子220及びフリップフロップを含む回路構成例を示す。制御素子220は、ノードN2に流れ込んだオフリーク電流を低電位電源に流すことで、トランジスタTR9のゲートに保持されている電荷量の変化を抑制する。制御素子220の動作は、実施形態1における制御素子210の動作と略同様である。
【0076】
図14は、制御素子220がトランジスタTR12(第3電界効果トランジスタの例)で構成されている回路構成を示す。本例において、トランジスタTR12は、他のトランジスタと同様に、pチャネル型TFTである。したがって、本回路の全てのトランジスタの導電型は同一である。トランジスタTR12のソースはノードN2と接続され、ドレインは極低電位LL以下の極低電源電位VGLLを与える極低電位電源に接続されている。トランジスタTR12のゲートには、高電源電位VGHが与えられている。
【0077】
トランジスタTR12は、実施形態におけるトランジスタTR10の動作と同様に、常にオフ状態に制御され、オフリーク電流を流すことで、トランジスタTR2及びTR3を介してノードN2に流れる電流が、出力トランジスタTR9のゲートに保持されている電荷量を変化させることを抑制する。
【0078】
上述のように、トランジスタTR3(第1電界効果トランジスタの例)は、時刻T1から時刻T3の期間(第4の期間)においてオフであり、その続く時刻T3から時刻T7(第5の期間)においてオンして高電位を出力トランジスタTR9のゲートに与え、第4の期間と第5の期間とを交互に繰り返す。
【0079】
トランジスタTR2(第2電界効果トランジスタの例)は、第4の期間に含まれ第4の期間より短い第6の期間(時刻T1から時刻T2)、及び、第5の期間に含まれ第5の期間より短い期間(時刻T4から時刻T5)においてオンし、第6の期間において低電位を出力トランジスタTR9のゲートに与える。トランジスタTR12は、第4の期間及び第5の期間において、極低電流源に電流を流すように動作する。
【0080】
上述のように、フローティング状態である時刻T2からT3の期間において、ノードN2の電位は、クロック信号の低電位Lより低い、極低電位LLまで低下する。このとき、トランジスタTR2及びTR3のソースとドレインとの間には、大きな電圧が印加されるため、オフリーク電流は高くなる。
【0081】
このような大電圧はトランジスタTR2及びTR3の寿命を縮めることになる。また、制御素子220によってノードN2から電源に電流を流すために、極低電位LL以下の電源電位を与える電源を用意することが必要となる。
【0082】
図15は、本実施形態の他の回路構成例を示す。
図15の回路構成は、
図14の回路構成に加えて、リミッタトランジスタTR7(リミッタ電界効果トランジスタの例)を含む。以下において、
図14の構成例との相違点を主に説明する。リミッタトランジスタTR7は、出力トランジスタTR9のゲートと、トランジスタTR3のドレイン及びトランジスタ
TR2のソースと、の間に配置されている。リミッタトランジスタTR7のゲートには、低電源電位VGLが与えられている。本例において、低電源電位VGLは、クロック信号の低電位Lと等しい。
【0083】
リミッタトランジスタTR7は、時刻T2から時刻T3の期間(出力期間)においてオフであり、他の期間においてオンである。他の期間において、トランジスタTR3又はTR2から高電位又は低電位がノードN3に与えられている。
【0084】
図15において、出力トランジスタTR9のゲートとリミッタトランジスタTR7のソース/ドレインとが、ノードN2に接続されている。トランジスタTR3のドレイン、トランジスタTR2のソース、トランジスタTR12のソース、及びトランジスタTR7の他方のソース/ドレインが、ノード
N3に接続されている。
【0085】
図16は、
図15が示す回路のタイミングチャートを示す。
図6又は
図12が示す、リミッタトランジスタTR7が存在しない回路のタイミングチャートと比較して、ノードN3が追加されており、他の点の電位変化は同様である。ノードN3の電位は、時刻T1から時刻T3の期間において低電位Lであり、他の期間において高電位Hである。
【0086】
時刻T2において、ノードN2(出力トランジスタTR9のゲート)の電位は、極低電位LLに低下する。リミッタトランジスタTR7のゲートには低電位L(低電源電位VGL)が与えられており、オフである。そのため、ノードN3の電位は低電位Lに維持される。
【0087】
上述のように、時刻T2から時刻T3の期間において、トランジスタTR2又はTR3におけるオフリーク電流によって、ノードN3の電位は上昇し得る。電流を制御するトランジスタTR12が存在しない場合、リミッタトランジスタTR7がオンとなり、出力トランジスタTR9のゲートの電荷(電位)を変化させ得る。上述のように、トランジスタTR12は、ノードN3に流れ込むオフリーク電流(の少なくとも一部)を極低電位電源に向けて流すことで、出力トランジスタTR9の誤動作の蓋然性を低減できる。
【0088】
また、トランジスタTR2及びTR3のソースとドレインとの間に印加される電圧は、VGH-VGLであり、
図14に示す構成におけるVGH-VGLLよりも小さい。このため、トランジスタTR2及びTR3におけるオフリーク電流が減少し、ノードN3における電位変化が小さくなる。また、トランジスタTR2及びTR3の寿命が延びるとともに、極低電源電位VGLLを与える極低電位電源を用意することが不要となる。
【0089】
なお、
図9に示す例のように、制御素子220は、並列接続された複数のトランジスタを含むことができる。また、実施形態1において
図8又は10を参照した説明は、本実施形態に適用できる。
【0090】
<実施形態3>
以下において、本実施形態のフリップフロップと制御素子とを含む回路の構成例を示す。本実施形態の回路は、nチャネル型のTFTで構成されている。
図17は本実施形態の回路構成例を示し、実施形態1における
図7の回路構成に対応する。本回路構成は、
図7の回路構成におけるpチャネル型トランジスタをnチャネル型トランジスタに入れ替えることで得られる。
図7及び
図17において、チャネル型のみ異なる二つのトランジスタには、同一符号が与えられている。
【0091】
以下において、実施形態1との相違を主に説明する。フリップフロップに対する入力は、低電源電位(低電位)VGL、前段フリップフロップからの入力信号IN、及びクロック信号CLK1、CLK2、CLK3である。入力信号IN、及びクロック信号CLK1、CLK2、CLK3は、高電位H及び低電源電位VGLと等しい低電位Lの間で切り替わる。
【0092】
出力トランジスタTR8のソースは、低電源電位VGLを与える電源線に接続されている。出力トランジスタTR8がONの期間において、ノードOUTは低電位Lを出力し、出力トランジスタTR9がONの期間において、ノードOUTはクロック信号CLK2を出力する。出力トランジスタTR9がONの期間において、クロック信号CLK2は高電位Hである。
【0093】
トランジスタTR5(第1電界効果トランジスタの例)は、低電源電位VGLを与える電源線と出力トランジスタTR8のゲートとの間に接続されている。トランジスタTR5は、入力信号INに従ってオン/オフし、オンの期間において出力トランジスタTR8のゲートに低電源電位VGL(低電位L)を与えて、出力トランジスタTR8をオフにする。
【0094】
トランジスタTR4(第2電界効果トランジスタの例)は、高電位Hのクロック信号CLK3を、出力トランジスタTR8のゲート(ノードN1)に与えてオンにする。クロック信号CLK3が低電位Lの場合にトランジスタTR4はオフであり、クロック信号CLK3が高電位Hの場合にトランジスタTR4はオンである。
【0095】
トランジスタTR3は、低電源電位VGL(低電位L)を与える電源線と出力トランジスタTR9のゲートとの間に接続されている。トランジスタTR3は、出力トランジスタTR8と同様にオン/オフし、オンの期間において出力トランジスタTR9のゲートに低電位Lを与えて、出力トランジスタTR9をオフにする。
【0096】
トランジスタTR2は、クロック信号CLK1に従ってオン/オフし、オンの期間において出力トランジスタTR9のゲートに、入力信号INを与える。トランジスタTR2がオンの期間において、入力信号INにおける前段のフリップフロップからのデータ(高電位)を出力トランジスタTR9に与える。
【0097】
図18は、
図17に示す回路のタイミングチャートである。
図6のタイミングチャートと比較して、各点における高電位Hと低電位Lが逆になっている。他の点は同様であり、時刻T4から時刻T6の期間において、ノードN1はフローティング状態である。
【0098】
図17に戻って、トランジスタTR4及びTR5におけるオフリーク電流の向きは、実施形態1における
図7の回路構成と逆であり、ノードN1から流れ出る。オフリーク電流による出力トランジスタTR8のゲートの電荷(電位)の変化を低減するため、電流制御素子としてのトランジスタTR10(第3電界効果トランジスタの例)は、電源からノードN1に対して電流を与える。
【0099】
図17に示すように、トランジスタTR10のドレインは、高電源電位VGHを与える電源(線)に接続されている。高電源電位VGHは、クロック信号の高電位H以上である。トランジスタTR10のゲートには、低電源電位VGL(低電位L)が与えられており、オフである。ノードN1の電位が、トランジスタTR4及び/又はTR5のオフリーク電流により高電位Hから低下すると、トランジスタTR10のオフリーク電流が、ノードN1に流入する。これにより、出力トランジスタTR8のゲートに保持されている電荷の変化を低減できる。
【0100】
実施形態1において説明した他の点について、nチャネル型トランジスタで構成された回路に適用できる。また、実施形態2で説明した回路を、nチャネル型トランジスタで構成することが可能である。実施形態2のp型チャネルトランジスタの回路に対して、与えられる高電位と低電位が逆となる。この点は、他の実施形態において同様である。
【0101】
<実施形態4>
本実施形態のフリップフロップと制御素子とを含む回路を説明する。本実施形態のフリップフロップの回路構成例は、
図5に示す構成例と同様である。本実施形態の制御素子は、電流源回路を構成する。
図5に示すように、電流源回路である制御素子210がフリップフロップのノードN1と接続される。電流源回路は、例えば、ドライバIC134に内蔵されて、電界効果トランジスタ(MOSFET)などを使用して構成される。
【0102】
図19は、本実施形態の制御素子210である電流源回路の構成例を示す。オペアンプOP1の非反転増幅端子(+)がグランドに接続され、仮想接地(イマジナリショート)により、反転増幅端子(-)もグランド電位となる。抵抗R1に直流電圧V1が印加されて、抵抗R1に電流I2=(直流電圧V1の電圧値)/(抵抗R1の抵抗値)が流れる。
【0103】
オペアンプOP1の反転増幅端子(-)が、抵抗R1及びトランジスタTR13のソース/ドレインに接続され、オペアンプOP1の出力端子が、トランジスタTR13のゲートに接続されている。反転増幅端子(-)と非反転増幅端子(+)間には電流が流れないので、抵抗R1に流れる全ての電流がトランジスタTR13のソースとドレインとの間に流れる。
【0104】
直流電圧V1の電圧値と抵抗R1の抵抗値で計算される電流I2を維持するように、トランジスタTR13のゲート電圧が自動で調整される。すなわち、電流I2は、直流電圧V1の電圧値と抵抗R1の抵抗値によって任意の電流に設定可能である。
【0105】
図20に、シフトレジスタ内の4段のフリップフロップ及びそれらに対応する本実施形態の制御素子を示す。ドライバIC134は、制御素子210A~210Dを含む。制御素子210A~210Dは、それぞれ、
図19に示すような電流源回路を構成する。
図21にフリップフロップFF1~FF4の信号のタイミングチャートを示す。
初段のフリップフロップFF1のスタートパルスSTが入力されて、信号が次段に転送される。1水平期間ずつ信号がシフトして順次OUT1~OUT4に出力される。フリップフロップ(シフトレジスタの一段)それぞれにドライバIC134から制御素子210A~210Dが結線されており、フリップフロップ毎に電流を注入可能である。
【0106】
フリップフロップを構成するトランジスタのリーク電流(
図5参照)の大きさに応じて、電流源回路で電流値(第2の電流I2)を調整し、高精度にリーク電流を相殺できる。すなわち、パネル毎にリーク電流のばらつき影響を低減し、安定動作するシフトレジスタを有する高品質なパネルを提供可能である。
【0107】
<実施形態5>
図22は、制御素子210とフリップフロップとの間に挿入される、本実施形態のスイッチ回路310の構成例を示す。本実施形態のフリップフロップは、
図4に示すタイミングチャートに従って動作する。
図4に示すように、期間T4~T6で、ノードN1の電位がフローティング状態となる。
【0108】
図22に示すように、スイッチ回路310は、ノードN1と制御素子210の間に、並列接続されている、CLK1で制御されるスイッチ(トランジスタ)TR14とCLK2で制御されるスイッチ(トランジスタ)TR15とを含む。CLK1又はCLK2がロウとなる期間T4~T6で、スイッチTR14及びTR15が相補的にアクティブになり、ノードN1と制御素子210の間が電気的に導通されて、ノードN1を介して第2の電流が流れる。本実施形態は、第2の電流が不要な期間においては、スイッチ回路310で電流を遮断し、ノードN1がフローティング状態となる期間のみ、第2の電流を注入する。
【0109】
このように、本実施形態は、制御素子210を追加することによって新たに生じる不要な消費電力を、抑制可能である。なお、本実形態は必ずしもフレーム毎でなくてもいい。また、シフトレジスタの全段のフリップフロップに接続する必要はない。段によっては間引いても、シフトレジスタ回路は正常動作し、適用したシフトレジスタ段数に応じて消費電力が変化するのみである。
【0110】
図23は、本実施形態の、シフトレジスタ、スイッチ回路、及び制御素子を接続した回路構成例を示す。
図23は、シフトレジスタ内の4段のフリップフロップFF1~FF4、それらに対応する制御素子210A~210D、及びフリップフロップと制御素子との間の導通を切り替えるスイッチ回路310A~310Dを含む。
図23はシフトレジスタの4段のフリップフロップFF1~FF4を示す。各フリップフロップにクロック信号CLK1~CLK3が入力される。
【0111】
制御素子210A~210Dは、本例において、ドライバIC134内の構成されている。制御素子210A~210Dは、それぞれ、スイッチ回路310A~310Dを介して、フリップフロップFF1~FF4に接続される。スイッチ回路310A~310Dは、フリップフロップFF1~FF4を制御するクロック信号によって制御され、フリップフロップFF1~FF4のフローティング期間のみ、制御素子210AとフリップフロップFF1~FF4との間の電流が流れるように、動作する。これにより、
不要な消費電力を抑制することができる。
【0112】
<実施形態6>
図24は有機ELパネルのブロック図を示す。副画素毎に画素回路6T2Cの繰り返しで画素アレイ400が構成される。画素回路410は、トランジスタPT1~PT6と、容量C1及びC2で構成される。制御信号S1(n)、S2(n)、Em(n)により、駆動される。制御信号S2(n)は、
図24におけるパネルの左側のScan VSR(Vertical Shift
Register)420から供給され、画像データを書き込むトランジスタを制御する。ここで、VSRは、縦方向にデータを転送するシフトレジスタを示し、表示装置のゲートドライバがその一例である。制御信号S1(n)はパネルの右側のOverlap Scan VSR422から供給される。
【0113】
ここで、
図26のOverlap Scan VSRは、データを転送する周期が1水平期間、パルス幅が6水平期間である。オーバラップは、アクティブなパルスが、隣接ライン間でオーバラップする事を特徴とし、データを転送する周期よりパルス幅が長い。一方、一般的なシフトレジスタは、データ転送周期とパルス幅が等しい。
【0114】
また、制御信号Em(n)はパネルの右側のEmit VSR424から供給される。Emit(エミッション)VSRが制御するスイッチ(トランジスタ)は、OLED素子と正電源の間に直列に配置される。本スイッチが開のときOLED素子が発光し、閉の時に発光しない。99%以上のデューティ比で発光するので、ほとんどの期間でエミッションVSRはアクティブな信号を出力するのを特徴とし、スキャンVSRとエミッションVSRはアクティブなパルスの極性が逆極性である。
【0115】
図25は、画素回路の制御信号S1、S2、Emのタイムチャートを示す。
図26は、Overlap Scan VSR422からの制御信号波形を示す。
図26に示すように、制御信号ST、S1(n)の信号波形は、ロウアクティブである。
図27は、Emit VSR424からの制御信号波形を示す。
図27に示すように、制御信号Em(n)の信号波形は、ハイアクティブである。いずれの制御信号も、アクティブとなる期間が6水平期間と長いパルスを有する。
【0116】
図28は、VSRの一段の回路図(10T3C構成)の例を示す。10T3C回路は、P型電界効果トランジスタPT1~
PT10及び容量素子C1~C3を含む。10T3C回路は、入力パルスがロウアクティブの場合、出力もロウアクティブとなり、Overlap Scan VSR422に適用できる。また、入力パルスがハイアクティブの場合、出力もハイアクティブとなり、Emit VSR424に適用できる。10T3CVSR回路のノードN1に、制御素子230が接続される。制御素子230は、上記実施形態で説明したように動作する。
【0117】
図29に、10T3CVSR回路に入力されるクロック信号、ノードN1、N2を含むタイミングチャートを示す。ノードN1がフローティング状態となる期間で時間経過と共に電位上昇する課題が生じる。本実施形態の制御素子230を接続するとこで電位上昇を抑制可能である。ck1、xck1の2クロック信号が与えられ、これらの周期は2水平期間である。入力信号INに対して、ck1が立ち下がるときに、Out1がロウに立ち下がる。xck1、ck1は偶奇数段のVSRにおいて接続を入れ替える。すなわち、xck1が立ち下がる際に、第2段のVSRの出力Out2(図示せず)がロウに立ち下がる。
【0118】
OLED素子を駆動する駆動トランジスタのしきい値電圧のばらつきを補正して階調を設定することにより、しきい値電圧のばらつきによる発光輝度のばらつきを防止し、低温ポリシリコントランジスタを使用する場合でも、高い画質を確保する手法が知られている。この種の表示装置に適用されるトランジスタは、ソースドレイン電流Idsを次式により表すことができる。
Ids=β/2・(Vgs-Vth)2
β=μ・W/L・Cox (1)
【0119】
なおVgsは、このトランジスタのゲートソース間電圧である。またμは移動度、Wはチャンネル幅、Lはチャンネル長、Coxは単位面積当りのゲート絶縁膜の容量、Vthはしきい値電圧である。従ってトランジスタのゲートソース間電圧Vgsを設定してソースドレイン電流IdsによりOLED素子を駆動する場合、ソースドレイン電流Idsはトランジスタのしきい値電圧Vthのばらつきの影響を受けてばらつく。その結果、OLED素子の発光輝度もばらつくことになる。ここでソースドレイン電流Ids及びゲートソース間電圧VgsをIref及びVrefとおき、(1)式を変形すれば、次式の関係式を得ることができる。
Vref=(Iref/(β/2))1/2+Vth (2)
【0120】
従ってOLED素子の発光輝度を示す電圧Vdataとこの(2)式により示す電圧Vrefとの差分電圧(Vdata-Vref)によりゲートソース間電圧Vgsを設定すれば、(1)式から次式の関係式を得ることができる。
Ids=β/2・(Vdata-Iref/(β/2))1/2)2 (3)
【0121】
ここでこの(3)式においては、しきい値電圧Vthの項が含まれていないことにより、しきい値電圧Vthのばらつきによる発光輝度のばらつきを防止できることが判る。従って(2)式により表されるOLED素子を駆動するトランジスタの特性による一定電圧Vref、一定電流Irefだけこのトランジスタのゲートソース間電圧Vgs、ソースドレイン電流Idsをバイアスさせれば、このトランジスタのしきい値電圧Vthのばらつきによる発光輝度のばらつきを防止できることが判る。
【0122】
ここでIref=0とおくと、(2)式からVref=Vthとなり、(3)式は、Ids=β/2・(Vdata)2となる。この場合も、しきい値電圧Vthのばらつきによる発光輝度のばらつきを防止できることが判る。この場合、単に、ゲートソース間電圧Vgsのバイアスによりトランジスタのしきい値電圧Vthのばらつきによる発光輝度のばらつきを補正できることが判る。駆動トランジスタのしきい値電圧のばらつき補正は、この補正原理によるものである。
【0123】
ただ、7T1C画素回路は閾値検出とデータ書き込みを同時に行う。
図30は、7T1C回路の構成例を示し、
図31は7T1C回路における信号のタイミングチャートを示す。
図30に示すように、7T1C画素回路は、OLED素子の発光を制御するための7つのトランジスタPT1~PT7及び一つの容量(保持容量)Cstで構成される。信号S1、S2及びEmは、初期化期間(Ini.)、閾値検出及びデータ書き込み期間(Detect.&Prog.)、発光期間(Emit.)に渡り、
図31示す値ように変化する。
【0124】
図32は、複数行における7T1C画素回路のデータ書き込み及び閾値検出期間を示す。表示装置は画像データを異なるライン間でシェアできないため、7T1C画素回路のような一般的な画素回路では、データ書き込み期間が一水平期間内に制限される。そのため、閾値検出も一水平期間内に制限される。さらに、高解像度になるにつれて一水平期間が短くなるため、閾値検出が十分には行われない可能性がある。
【0125】
一方、6T2C画素回路において、閾値検出とデータ書き込みが時分割される。
図33は、6T2C画素回路の構成例を示し、
図34は6T2C画素回路における信号のタイミングチャートを示す。
図33に示すように、6T2C画素回路は、OLED素子の発光を制御するための6つのトランジスタPT1~PT6及び二つの容量素子C1及びC2で構成される。信号S1、S2及びEmは、初期化期間(Ini.)、閾値検出期間(Detect.)、データ書き込み期間(Prog.)、発光期間(Emit.)に渡り、
図34示すように変化する。
【0126】
図35は、複数行における6T2C画素回路の閾値検出期間及びデータ書き込み期間を示す。閾値検出期間及びデータ書き込み期間は分離されている。データ書き込み期間は一水平期間に制限されるものの、閾値検出期間は任意の長さに設定可能である。すなわち、複数の水平走査期間で十分な時間を確保して閾値電圧Vthのばらつき補正処理を実行することができる。
図35に示すように、閾値検出期間は、1水平期間、2水平期間・・と、データ書き込み(映像サンプリング)期間の整数倍になる。
【0127】
図36Aから36Dは、
図34のタイミングチャートにおける、初期化期間(Ini.)、閾値検出期間(Detect.)、データ書き込み期間(Prog.)、発光期間(Emit.)の動作を模式的に示す。
図36Aから36Dは、閉のトランジスタ(スイッチ)を図示せず、模式的な等価回路を示す。
【0128】
図36Aに示す初期化期間(Ini.)、において、トランジスタPT2を除く全てのトランジスタがオンし、図中の矢印の通り電流が流れる。容量素子C1に保持された電圧が放電し、駆動トランジスタPT1のゲートの電圧が初期化(リセット)される。また、正電源VddからVrstに向けて貫通電流が流れ、OLEDのアノード電圧が初期化される。これらの両ノードともに電位が負電源Vee近くまで低下する。次の閾値検出期間のための準備と、発光期間以外の異常発光を防止する。
【0129】
次に、
図36Bに示す閾値検出期間(Detect.)において、駆動トランジスタPT1のドレインとゲートが接続されて、いわゆるダイオード接続となる。駆動トランジスタPT1のゲートに保持された電荷は放電していき、流れる駆動トランジスタPT1のドレイン電流も減少していく。十分に時間が経過すると、ドレイン電流が流れなくなり、駆動トランジスタPT1のゲートソース間電圧が閾値電圧まで低下する。ソース電圧はVddであるのでゲート電圧はVdd+Vthとなる。
【0130】
次に、
図36Cに示すデータ書き込み期間(Prog.)において、容量素子C2の左側にVdataが印加され、その電位VrefからVdataに遷移する。駆動トランジスタPT1のゲートの電位は電荷保存測に則り、図中の数式で示す電位となる。この数式は駆動トランジスタの閾値電圧Vthを含み、容量素子C1によって保持される。
【0131】
次に、
図36Dを参照して、発光期間(Emit.)説明する。Vg、Vsを駆動トランジスタPT1(OLED)の電流Ioledの数式に代入すると、Ioledの式にVthが含まれない。すなわち、IoledはVthに依存せず、データ電圧Vdata等によって制御できる。Vthがばらついても、電流のばらつきが無くなるので、ムラのない均一な発光が可能である。
【0132】
シミュレーション結果を
図37に示す。上から順番に、信号S1、信号S2、信号Emを示す。一番下は駆動トランジスタゲート電位を示す。初期化期間では、駆動トランジスタゲート電位は負電源付近まで低下する。閾値検出期間では、駆動トランジスタゲート電位は、時間経過するにつれて徐々に上昇し、Vdd+Vthに漸近する。データ書き込み期間では、駆動トランジスタゲート電位は、画像データ情報が書き込まれてVdataに応じて変化する。発光期間では、駆動トランジスタゲート電位は、発光するときの値に固定される。
【0133】
上述のように、画素回路は、当該行に割り当てられた水平走査期間において保持容量に画像データを書き込む動作を行う(データ書き込み期間)。画素回路は、当該行に先行する行に割り当てられた前の水平走査期間を利用して保持容量に閾値電圧をキャンセルするための電圧を書き込む補正動作を行う(閾値検出期間)。画素回路は、閾値検出期間とデータ書き込み期間を分離させる。閾値検出期間は、データ書き込み期間の整数倍である。
【0134】
本明細書の制御素子は、Overlap Scan VSRに適用可能である。オーバラップスキャンのように、パルス幅は一水平期間の整数倍になるような、パルス幅が長い信号を有する駆動にも、本実施形態を適用可能である。なお、オーバラップスキャンVSRはVSRの一形態であり、パルス幅の調整の回路構成は設計に依存する。
【0135】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示が上記の実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、上記の実施形態の各要素を、本開示の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。
【符号の説明】
【0136】
10 OLED表示装置、100 基板、105 データ線、106 走査線、108 電源線、109 測定制御線、110 基準電圧供給線、114 カソード電極形成領域、125 表示領域、131 走査ドライバ、132 素子測定用回路、136 デマルチプレクサ、200 封止構造部、210、220 制御素子、CLK1、CLK2、CLK3 クロック信号、134 ドライバIC、IN 入力信号、OUT 出力ノード、L4、L5、L10、L11 チャネル長、N1、N2、N3 ノード、G4、G5、G10、G11 ゲート電極、D4、D5、D10、D11 ドレイン電極、S4、S5、S10、S11 ソース電極、P4、P5、P10、P11 ポリシリコン膜、TR2~TR5、TR7 トランジスタ、TR8、TR9 出力トランジスタ、TR10、TR11、TR12 制御素子に含まれるトランジスタ、W4、W5、W10、W11 チャネル幅