(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】中分子溶液の濃縮回収装置及び運転方法
(51)【国際特許分類】
B01D 61/00 20060101AFI20240829BHJP
B01D 61/18 20060101ALI20240829BHJP
B01D 61/36 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
B01D61/00 500
B01D61/18
B01D61/36
(21)【出願番号】P 2020094807
(22)【出願日】2020-05-29
【審査請求日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2019102675
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】井上 文善
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/200538(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/098390(WO,A1)
【文献】特開2016-155078(JP,A)
【文献】特開2015-188786(JP,A)
【文献】特開2017-035667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C02F1/44
A23L2/00-2/84
C12G1/00-1/14
C12H6/00-6/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒含有液の濃縮回収装置であって、
前記有機溶媒含有液が、水を含み、且つ、アセトニトリル、メタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、ヘキサン、トルエン、及びジメチルスルホキシドから成る群より選択される少なくとも1種の溶媒を含み、
前記濃縮回収装置が、
正浸透膜による1つ以上の濃縮機構、及び
前記有機溶媒含有液に水を添加する溶媒添加機構、
を備える、濃縮回収装置。
【請求項2】
有機溶媒含有液中の溶媒組成を観測するための測定機構を有する、請求項
1に記載の濃縮回収装置。
【請求項3】
前記測定機構が、赤外分光法(IR)、屈折率計による測定法、密度計による測定法、及び液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)、ガスクロマトグラフィー/質量分析による計測法(GC/MS)、紫外可視分光(UV-vis)、核磁気共鳴装置(NMR)による分析法から成る群より選択される少なくとも1種を用いるものである、請求項
2に記載の濃縮回収装置。
【請求項4】
有機溶媒含有液が分子量200以上30000以下の中分子を含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載の濃縮回収装置。
【請求項5】
アミノ酸、ペプチド、核酸、および糖類から成る群より選択される少なくとも1つの化学種を有機溶媒含有液中に含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の濃縮回収装置。
【請求項6】
前記正浸透膜を構成する化学種が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリケトン、再生セルロース、ポリアミド、ポリウレア、ゼオライト、及び有機金属構造体から成る群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載の濃縮回収装置。
【請求項7】
前記正浸透膜による濃縮で使用する駆動液が、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化カリウム、塩化リチウム、臭化リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸、リン酸ナトリウム、リン酸、及びポリエチレングリコールから成る群より選択される少なくとも1種を含む水溶液である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の濃縮回収装置。
【請求項8】
正浸透膜による濃縮機構の前段に、1つ以上の限外ろ過膜による分画機構を備える、請求項1~
7のいずれか一項に記載の濃縮回収装置。
【請求項9】
駆動液の濃縮再生機構を備える、請求項1~
8のいずれか一項に記載の濃縮回収装置。
【請求項10】
前記濃縮再生機構が減圧蒸留、膜蒸留、蒸発缶を用いた蒸発濃縮のいずれかである、請求項
9に記載の濃縮回収装置。
【請求項11】
有機溶媒含有液の有機溶媒濃度が、使用する正浸透膜の上限濃度を超えない、濃縮回収装置の運転方法であって、
前記有機溶媒含有液が水を含み、
前記濃縮回収装置が、
正浸透膜による1つ以上の濃縮機構、及び
有機溶媒含有液に水を添加する溶媒添加機構、
を備え、
前記上限濃度が、ある濃度の有機溶媒水溶液に前記正浸透膜を2時間浸漬し、正浸透膜を純水で洗浄したのちに、被処理液を純水、駆動液を3.5質量%の塩化ナトリウム水溶液として正浸透膜を運転したときの、透水速度(Jw)と塩の逆拡散速度(Js)の比率、Js/Jwが0.50となる濃度である、濃縮回収装置の運転方法。
【請求項12】
前記濃縮回収装置が、請求項1~
10のいずれか一項に記載の濃縮回収装置である、請求項
11に記載の濃縮回収装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶媒を含んだ溶液を濃縮するための濃縮回収装置及びその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
正浸透膜は浸透圧差を利用した分離・濃縮膜である。正浸透膜による濃縮は、濃縮対象となる被処理液が、膜を介してより高い浸透圧を有する駆動液に接触したとき、浸透圧差を駆動力として被処理液の溶媒が駆動液側に移動することで進行する。正浸透膜技術は、逆浸透膜同様の極めて高い阻止性を有しながら、熱又は圧といったエネルギーをかけずに溶液を高い濃度まで濃縮することができるため、浸透圧発電、食品等の分野での利用が期待される技術である。さらに、正浸透膜技術は、熱で変性しやすい成分を含む医薬品原料の濃縮技術としての利用が期待できる。医薬品原料の濃縮を考える際に特徴となるのは、被処理液が有機溶媒を含む点である。一般に正浸透膜は高分子材料で作製されるため、有機溶媒によって正浸透膜が劣化するおそれがある。正浸透膜が劣化すると、被処理液中の溶質が駆動液中へ流出したり、駆動液中の溶質が被処理液中へ流入する可能性がある。
【0003】
特許文献1では、ポリケトンを膜素材に用いることで正浸透膜の耐有機溶剤性が向上することが記載されている。
【0004】
特許文献2では、無機材料であるゼオライトを膜素材に用い、ゼオライトの環構造を制御することで、耐有機溶剤性が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/024573号
【文献】特開2014-039915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で得られる正浸透膜は、有機溶媒を含む液を高濃度に濃縮することは考えられていない。特許文献1の実施例では、被処理液中に含まれる有機溶媒がごく微量である例が記載されているに過ぎない。一般に水と有機溶媒とでは正浸透膜を透過する速度に差があるため、濃縮工程によって被処理液中の有機溶媒濃度は上昇していくことが多い。したがって、正浸透膜が低濃度の有機溶媒含有液に対して耐性を有するのみでは、当該正浸透膜を有機溶媒含有液の濃縮用途へ適用することは難しい。
特許文献2による正浸透膜は、透過水量が極めて低いために濃縮手段として非実用的である。
また、高分子或いは無機素材を用いた正浸透膜による有機溶媒含有液の濃縮装置で、装置の機構によって、濃縮後に被処理液中の溶質の駆動液中への流出を防ぐと同時に、駆動液中の溶質の被処理液への混入を防ぐ工夫をしたものはない。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、有機溶媒を含む被処理液を正浸透膜で濃縮する際に正浸透膜を劣化させずに当該被処理液の所望の濃縮を実現できるような、濃縮回収装置及び濃縮回収方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、正浸透膜での濃縮における有機溶媒含有液中の有機溶媒濃度の変動に着目し、濃縮回収装置に溶媒添加機構を加えることを着想した。濃縮中又は濃縮前に適切な量の溶媒を被処理液に添加して当該被処理液の有機溶媒濃度を制御することで、正浸透膜の膨潤又は溶解を防ぐことができると見出した。有機溶媒濃度の制御によって被処理液中の溶質の駆動液中への流出、及び/又は駆動液中の溶質の被処理液への流入を防ぐことが期待できる。
【0009】
すなわち、本発明を実施する形態の一例は以下に示すとおりである。
【0010】
[1] 有機溶媒含有液の濃縮回収装置であって、
正浸透膜による1つ以上の濃縮機構、及び
前記有機溶媒含有液に溶媒を添加する溶媒添加機構、
を備える、濃縮回収装置。
[2] 有機溶媒含有液が分子量200以上30000以下の中分子を含む、上記態様1に記載の濃縮回収装置。
[3] アミノ酸、ペプチド、核酸、および糖類から成る群より選択される少なくとも1つの化学種を有機溶媒含有液中に含む、上記態様1または2に記載の濃縮回収装置。
[4] 前記有機溶媒含有液が、水、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、ヘキサン、トルエン、ジメチルスルホキシドから成る群より選択される少なくとも1種の溶媒を含む、上記態様1~3のいずれかに記載の濃縮回収装置。
[5] 前記正浸透膜を構成する化学種が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリケトン、再生セルロース、ポリアミド、ポリウレア、ゼオライト、及び有機金属構造体から成る群より選択される少なくとも1種を含む、上記態様1~4のいずれかに記載の濃縮回収装置。
[6] 前記正浸透膜による濃縮で使用する駆動液が、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化カリウム、塩化リチウム、臭化リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸、リン酸ナトリウム、リン酸、及びポリエチレングリコールから成る群より選択される少なくとも1種を含む水溶液である、上記態様1~5のいずれかに記載の濃縮回収装置。
[7] 正浸透膜による濃縮機構の前段に、1つ以上の限外ろ過膜による分画機構を備える、上記態様1~6のいずれかに記載の濃縮回収装置。
[8] 有機溶媒含有液中の溶媒組成を観測するための測定機構を有する、上記態様1~7のいずれかに記載の濃縮回収装置。
[9] 前記測定機構が、赤外分光法(IR)、屈折率計による測定法、密度計による測定法、及び液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)、ガスクロマトグラフィー/質量分析による計測法(GC/MS)、紫外可視分光(UV-vis)、核磁気共鳴装置(NMR)による分析法から成る群より選択される少なくとも1種を用いるものである、上記態様8に記載の濃縮回収装置。
[10] 有機溶媒含有液の有機溶媒濃度が、使用する前記正浸透膜の上限濃度を超えない、上記態様1~9のいずれかに記載の濃縮回収装置の運転方法。ただし、前記上限濃度は、次のように定義する:ある濃度の有機溶媒水溶液に前記正浸透膜を2時間浸漬し、正浸透膜を純水で洗浄したのちに、被処理液を純水、駆動液を3.5質量%の塩化ナトリウム水溶液として正浸透膜を運転したときの、透水速度(Jw)と塩の逆拡散速度(Js)の比率、Js/Jwが0.50となる濃度。
[11] 駆動液の濃縮再生機構を備える、上記態様1~10のいずれかに記載の濃縮回収装置。
[12] 前記濃縮再生機構が減圧蒸留、膜蒸留、蒸発缶を用いた蒸発濃縮のいずれかである、上記態様1~11のいずれかに記載の濃縮回収装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、有機溶媒を含む被処理液を正浸透膜で濃縮するとき、濃縮後に、被処理液中の溶質の駆動液中への流出を防ぐとともに駆動液中の溶質の被処理液への混入を防ぐことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一態様に係る濃縮回収装置を示す模式図である。
【
図2】本発明の一態様に係る濃縮回収装置を示す模式図である。
【
図3】本発明の一態様に係る濃縮回収装置を示す模式図である。
【
図4】本発明の一態様に係る濃縮回収装置を示す模式図である。
【
図5】本発明の一態様に係る濃縮回収装置を示す模式図である。
【
図6】本発明の一態様に係る濃縮回収装置を示す模式図である。
【
図7】濃縮回収装置の性能評価装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と称する)について説明する。本発明者らは、被処理液の有機溶媒濃度が十分に低い場合は正浸透膜の性能劣化は無視できる程度であること、及び、有機溶媒が正浸透膜をある程度透過するという性質に着目した。本発明の一態様は、被処理液中に溶媒を添加しながら正浸透膜によって濃縮を行う加溶媒濃縮方式、及びそれを実現するための装置を提供する。
【0014】
≪濃縮回収装置≫
本発明の一態様が提供する濃縮回収装置は、1つ以上の正浸透膜と、1つ以上の溶媒添加機構とを備え、典型的には、1つ以上の被処理液タンクと、1つ以上の駆動液タンクと、1つ以上の送液ポンプとを更に備える。
【0015】
図1~6は、本発明の一態様に係る濃縮回収装置を示す模式図である。
図1~6を参照し、濃縮回収装置100,200,300,400,500,600は、正浸透膜4による1つ以上の濃縮機構、及び、有機溶媒含有液に溶媒を添加する溶媒添加機構2を備える。典型的な態様において、濃縮回収装置は、被処理液タンク1、溶媒添加機構2、ポンプ3、正浸透膜4、駆動液タンク5、及び測定機構6を備える。被処理液タンクには、有機溶媒含有液が収容される。駆動液タンクには、駆動液が収容される。一態様において、濃縮回収装置は、正浸透膜の一方の面側に供給される有機溶媒含有液と、正浸透膜の他方の面側に供給される駆動液とを更に備える。
【0016】
特定の態様に係る濃縮回収装置は、
図6に示すように、限外ろ過膜7による分画機構、及び前処理タンク8を更に備えてよい。限外ろ過膜7は、正浸透膜4による濃縮機構の前段(すなわち液流の上流側)に設けられることが好ましい。濃縮回収装置において、被処理液は、被処理液タンク1に貯蔵され、任意に限外ろ過膜7を経て、正浸透膜4に供給される。好ましい一態様においては、
図6に示すように、限外ろ過膜7による分画機構と、正浸透膜4による濃縮機構との間に、被処理液タンク1を設ける。
【0017】
正浸透膜4の搭載本数に制限はない。一般的な限外ろ過膜と正浸透膜とでは脱溶媒速度が10倍近く違う場合があるため、濃縮回収装置内で、限外ろ過膜よりも正浸透膜を多く設けるか、
図6のように、限外ろ過膜7と正浸透膜4の間に、被処理液タンク1を設けることが好ましい。。正浸透膜が複数配置される場合、当該複数の正浸透膜は、並列(
図4参照)或いは直列(
図5参照)に接続されてよい。複数用いる場合の正浸透膜に対しては、同一の駆動液を通液しても、異なる種類及び/又は異なる濃度の駆動液を通液してもかまわない。
【0018】
駆動液は、駆動液タンク5に蓄えられている。駆動液は、ポンプ3により正浸透膜4に送られ、正浸透膜4において被処理液から溶媒を抜き取る。駆動液は運転を進めるにつれて溶質濃度が低下していき、浸透圧が下がっていく。そのため、好ましい態様においては、希釈された駆動液から溶媒を抜き取る駆動液の濃縮再生機構(図示せず)が濃縮回収装置に含まれていることが好ましい。濃縮再生機構は、減圧蒸留機構、膜蒸留機構、及び蒸発缶を用いた蒸発濃縮機構から成る群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0019】
被処理液としての有機溶媒含有液に含まれる有機溶媒は、正浸透膜の脱溶媒速度及び塩の逆拡散に影響を与え、溶質の損失又は品質低下を招く可能性があるため、被処理液中の有機溶媒濃度は十分に低く制御される必要がある。本実施形態では、濃縮回収装置が溶媒添加機構2を備えることにより、被処理液に溶媒(例えば水)が添加されて被処理液の有機溶媒濃度が所定以下に維持される。この溶媒添加機構は、限外ろ過膜7(用いる場合)による分画機構よりも後段(すなわち液流下流側)、かつ、正浸透膜4よりも前段(すなわち液流上流側)に設けられていることが好ましい。
【0020】
一態様において、被処理液中の有機溶媒濃度を測定する測定機構6としての有機溶媒濃度モニターが、濃縮回収装置内、特に、限外ろ過膜7と正浸透膜4との間に備わっていることが好ましい。
図1~6では、測定機構6が、被処理液タンク1内に設けられている例を示している。
【0021】
<被処理液>
被処理液とは、正浸透膜に送液され、濃縮される液を指す。被処理液は、溶質と溶媒から構成される。なお本開示では、溶媒添加又は濃縮がされた液も、被処理液と呼称する。被処理液は、限外ろ過膜によって分画処理されていてもよい。この場合、限外ろ過膜に送液される液を前処理液、限外ろ過膜を透過した液を透過液、限外ろ過膜で阻止された液を阻止液と呼称する。
【0022】
[溶媒]
本開示において、溶媒とは水並びに有機溶媒を指す。有機溶媒は、炭素原子を1つ以上有する有機化合物であり、一態様においては、常圧で0℃超50℃未満で液体で存在する化合物である。有機溶媒としては、例えばアセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、酢酸エチル、ペンタン、ヘキサン、トルエン、キシレン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)、クロロホルム、塩化メチレン、アセトン、及びジオキサンから成る群より選択される1種以上を用いることができる。より好ましくは、正浸透膜を透過する速度が大きく、濃縮時間を短くできるという観点から、溶媒は、水、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、ブタノール、ヘキサン、トルエン、ジメチルスルホキシド、NMP、クロロホルム、塩化メチレン、及びアセトンから成る群より選択される少なくとも1種、さらに好ましくは水、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、ヘキサン、トルエン、及びジメチルスルホキシドから成る群より選択される少なくとも1種である。本開示の有機溶媒含有液は、水と有機溶媒と溶質とを少なくとも含む液である。水と有機溶媒との比率は任意であるが、有機溶媒は正浸透膜を膨潤或いは溶解させ得、したがって正浸透膜の性能を劣化させ得るため、有機溶媒含有液中の有機溶媒の濃度は、後述する、正浸透膜が許容する有機溶媒の上限濃度(本開示で、許容上限濃度、又は単に上限濃度ともいう。)以下であることが好ましい。
【0023】
[溶質]
溶質は、一態様において、塩並びに分子量50以上の化合物から選択される。塩は無機塩でも有機塩でもよい。溶質は、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化カリウム、塩化リチウム、臭化リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸、リン酸ナトリウム、及びリン酸から成る群より選択される1種以上の化合物であってよい。分子量50以上の化合物に制限はないが、例えばアミノ酸、ペプチド、糖類、核酸、タンパク質、ヌクレオチド、ポリケチド、エチレングリコール類、アルデヒド類、カルボン酸、スルホン酸化合物、アミン、テルペン類、芳香族化合物、ヘテロ環芳香族化合物、アルカロイド、アルコール化合物、エステル化合物、等が挙げられる。
【0024】
(中分子)
中分子は、上記の溶質の例であって、分子量200以上30000以下の分子を指す。被処理液中の溶質は、好ましくは、水又は有機溶媒に対する溶解性と、正浸透膜に詰まりにくい点で中分子である。中分子が分子量500以上10000未満、500以上7000未満、500以上3500未満、500以上2900未満、又は1000以上2900未満であることは、幅広い濃度の有機溶媒を含む水溶液に溶解することが期待される点で、特に好ましい。上記分子量は、構造式から計算される分子量であり、但し分子量500を超える場合には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィを用い、ポリエチレンオキシド換算で求められる数平均分子量であってよい。
【0025】
一態様においては、アミノ酸、ペプチド、核酸、及び糖類から成る群より選択される少なくとも1種の溶質が好ましい。これらの溶質は、分子内に、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基等の親水性官能基を多数有しており、水溶性が他の化合物、例えば炭化水素化合物に比べて高いため、有機溶媒含有液の濃縮工程での析出が起こりにくく好ましい。
【0026】
アミノ酸は、カルボキシ基とアミノ基とを同一分子内に有する化合物を表し、天然及び非天然アミノ酸を包含する。
ペプチドは、アミド結合を1つ以上有する有機化合物であり、制限はないが、例えば:アラニルグルタミン、カルノシン、アンセリン、アスパルテームのようなジペプチド;グルタチオンのようなオリゴペプチド;インスリンのようなホルモンペプチド;シクロスポリンAやバシトラシンのような環状ペプチド;などが挙げられる。
核酸は、5単糖、核酸塩基、及びリン酸から成る分子であってよい。
糖類は、6単糖骨格、5単糖骨格、及びグルコサミン骨格のいずれか1種以上を1つ以上含む有機化合物であってよく、制限はないが、例えばオリゴ糖、オリゴ糖ペプチド、オリゴサッカリドのような糖鎖が挙げられる。
【0027】
有機溶媒含有液は、酸、緩衝剤、上記中分子よりも大きな分子量の不純物等のうち1種以上を含んでもよいが、これらを含まなくてもよい。酸は、酢酸、フルオロ酢酸、ジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸、塩酸、硫酸、クエン酸、及びシュウ酸から成る群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。緩衝剤は、酢酸、シュウ酸、クエン酸、リン酸、ホウ酸、酒石酸及びそれらのアルカリ金属塩(例えばナトリウム塩)、並びにトリス緩衝剤から成る群より選択される少なくとも1種であってよい。
【0028】
<駆動液>
駆動液は被処理液よりも高い浸透圧を有する水溶液である。正浸透膜には駆動液が通液される。駆動液は、好ましくは、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化カリウム、塩化リチウム、臭化リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸、リン酸ナトリウム、リン酸、及びポリエチレングリコールから成る群より選択される少なくとも1種を含む水溶液である。また、駆動液は有機溶媒を含んでよい。駆動液中の水と有機溶媒との比率は任意であるが、正浸透膜が許容する有機溶媒の上限濃度より低い。また、被処理液に含まれる有機溶媒の種類と駆動液に含まれる有機溶媒の種類とは同一であっても異なっていても良い。
【0029】
<正浸透膜>
正浸透膜は、一態様において、緻密層と基材膜層とを有してよい。緻密層は、孔径2.0nm以下の層であってよく、基材膜層は、孔径2.0nm超の層であってよい。緻密層は、水分子を透過させて、被処理液の溶質及び駆動液の溶質を阻止する役割を担う。基材膜層は、水分子、被処理液の溶質、及び駆動液の溶質のいずれも透過させる層であり、緻密層を機械的に支持する役割を担う。緻密層と基材膜層とは同じ又は異なる化学種で構成されていてよい。
【0030】
正浸透膜は、複数の正浸透膜が装填されてモジュール(以下、正浸透膜モジュールともいう。)を構成してよい。正浸透膜モジュールの脱溶媒速度は、Jw(kg/m2/h)であらわされる。ここで、Jwは下記式(1)から算出される。
Jw=L/(M×H)・・・(1)
Lは被処理液の減少量(kg)、Mは正浸透膜の緻密層部分の表面積(m2)、Hは運転時間(h)である。
【0031】
正浸透膜モジュールの運転中に、駆動液の溶質が被処理液へ移動することがある。これを塩の逆拡散とよび、その速度はJs(g/m2/h)であらわされる。Jsは下記式(2)から算出される。
Js=G/(M×H)・・・(2)
Gは塩の増加量(g)、Mは正浸透膜の緻密層部分の表面積(m2)、Hは運転時間(h)である。
【0032】
一態様において、正浸透膜は、水が単位時間あたりに正浸透膜を透過する質量と、有機溶媒が単位時間あたりに正浸透膜を透過する質量とが、下記関係:
0 < (有機溶媒が単位時間あたりに正浸透膜を透過する質量)/(水が単位時間あたりに正浸透膜を透過する質量)×100 ≦ 100
を満たす。すなわち、一態様に係る正浸透膜は、水分子も有機溶媒分子も透過させるが、水分子よりも有機溶媒分子の透過量が小さい。
【0033】
正浸透膜の緻密層の厚みに制限はないが、正浸透膜の機械強度と脱溶媒速度とを大きく保つ観点から、好ましくは0.010μm以上3.0μm以下、より好ましくは0.10μm以上1.0μm以下である。
【0034】
基材膜層の厚みに制限はないが、機械強度と脱溶媒速度とを大きく保つ観点から、好ましくは10μm以上1000μm以下、より好ましくは15μm以上500μm以下、更に好ましくは20μm以上350μm以下である。
【0035】
正浸透膜の形状に制限はなく、平膜状でも中空糸膜状でも構わない。平膜状の場合、基材膜層は例えば不織布を含んでよい。
【0036】
正浸透膜を構成する化学種は、好ましくは、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリケトン、再生セルロース、ポリアミド、ポリウレア、ゼオライト、及び金属有機構造体(ZIF-8、UiO-66など)から成る群より選択される少なくとも1種を含む。脱溶媒速度(溶媒が水の場合には脱水速度)と、被処理液の溶質及び駆動液の溶質の透過の阻止性との両立の観点から、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリケトン、再生セルロース、ポリアミド、及びポリウレアから成る群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0037】
正浸透膜は、高濃度の有機溶媒に接触すると、膨潤或いは溶解することがある。正浸透膜が膨潤すると、緻密層の孔径が大きくなるために当該緻密層によって阻止し得る物質の径が増大し、被処理液及び駆動液の溶質が正浸透膜を透過しやすくなる。或いは、緻密層と基材膜層との間での膨潤率に差がある場合、緻密層と基材膜層との間に欠陥が生じ、被処理液及び駆動液の溶質が正浸透膜を透過しやすくなることがある。また、有機溶媒の種類によっては緻密層或いは基材膜層が有機溶媒によって溶解して欠陥が生じる可能性がある。そのため、正浸透膜による濃縮は、膜が膨潤或いは溶解しないように、被処理液及び駆動液の有機溶媒濃度は正浸透膜が許容する上限濃度以下となることが好ましい。特に、被処理液の有機溶媒濃度は、濃縮回収工程の進行に伴って増大していくことから、濃縮回収工程を通じて、被処理液中の有機溶媒濃度を下記の上限濃度以下に維持することが望ましい。
【0038】
上限濃度は、後述する上限濃度測定試験に基づいて算出されるJs/Jwが0.50以下となる最大濃度を指す。正浸透膜の長期運転の観点から、上限濃度は、より好ましくは、Js/Jwが0.40以下となる濃度、より好ましくはJs/Jwが0.35以下となる濃度である。有機溶媒濃度が上記上限濃度を超えないようにする場合、正浸透膜の膨潤劣化が短時間で進行することがなく好ましい。
【0039】
<溶媒添加機構>
溶媒添加機構は、被処理液に溶媒を加え、被処理液の有機溶媒濃度を調節する役割を持つ。本実施形態の濃縮回収装置は、溶媒添加機構を備えることで、正浸透膜に接する被処理液の有機溶媒濃度を所望以下に保持できる。正浸透膜は、高濃度の有機溶媒に曝されると膨潤、溶解等により劣化し得るところ、溶媒添加機構は、過度に高有機溶媒濃度の被処理液が正浸透膜に接触することを防止し、したがって正浸透膜の劣化を抑制する。溶媒添加機構によって被処理液に添加される溶媒としては、水等を例示できる。典型的な態様において、溶媒は水である。溶媒の添加の形式に制限はなく、被処理液に対し、正浸透膜による濃縮を行う前に溶媒を添加しても、正浸透膜による濃縮中に溶媒を添加してもよい。溶媒添加機構は、被処理液タンクに接続されていてもよいし、被処理液が正浸透膜へ送られるライン中に接続されていてもよいし、正浸透膜を出た被処理液が被処理液タンクへ戻るライン中に接続されていてもよい。
【0040】
<限外ろ過膜>
本実施形態の濃縮回収装置は、正浸透膜の前段(すなわち液流上流側)に、1つ以上の限外ろ過膜による分画機構を設けることができる。有機溶媒含有液に含まれる溶質のサイズが十分大きい場合は、限外ろ過膜である程度分画精製することができる。また、有機溶媒含有液が、濃縮対象となる分子以外の不純物を含むとき、分画機構によって不純物と濃縮対象の分子とを分離できる場合がある。限外ろ過膜の分画分子量及び膜形状に制限はない。分画分子量は好ましくは、1kDa以上1000kDa以下、又は3kDa以上500kDa以下、又は3kDa以上100kDa以下、又は3kDa以上50kDa以下、又は3kDa以上10kDa以下、又は5kDa以上10kDa以下である。また、分画機構として複数の限外ろ過膜を用いてよい。
限外ろ過膜の運転方式は任意である。一般に、遠心力などを利用して膜に対して垂直方向に液を送液するデッドエンド方式と、膜に対して平行方向に液を送液するクロスフロー方式がある。好ましくは、溶質が堆積し難いクロスフロー式である。
【0041】
限外ろ過膜は、被処理液タンクと正浸透膜との間に設けてもよいし、被処理液タンクとは別に前処理タンク8を設け、前処理タンク8と被処理液タンク1との間に限外ろ過膜7を設けてもよい。一態様においては、限外ろ過膜による分画機構と正浸透膜による濃縮機構との間に被処理液タンクが配置される。
【0042】
限外ろ過膜は、例えば、高分子膜、又はセラミック膜であってよい。
【0043】
<測定機構>
本実施形態の濃縮回収装置は、被処理液である有機溶媒含有液中の溶媒組成(特に有機溶媒濃度)を測定する測定機構を備えてよい。測定機構は、装置ライン内に組み込まれていても、ライン外に併設されていてもよい。測定機構としては、屈折率計、密度計、液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)装置、ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)装置、赤外分光(IR)光度計、紫外可視分光(UV-vis)光度計、及び核磁気共鳴(NMR)装置から成る群より選択される1つ以上を用いてよい。溶媒及び溶質の種類及び/又は濃度によってこれらの分析方法を使い分けることができる。なかでも、測定の簡便さの点で、屈折率計、密度計、赤外分光(IR)光度計、及び紫外可視分光(UV-vis)光度計から成る群より選択される1種以上が好ましく、赤外分光(IR)光度計、及び屈折率計がより好ましい。複数種の有機溶媒を含む混合系でも、検量線を事前作成することで、測定機構6による濃度測定が可能である。
【0044】
<溶媒の添加方法>
溶媒の添加方法は、下記不等式を満たすことが望ましい:
(A+B)>C かつ、
E/(D+E)>(E-Bt)/(D+E-At-Bt+Ct)
すなわち、
A-B×(D/E)<C<A+B
ここで、
Aは、正浸透膜を水が透過する速度(kg/h)であり、Bは、正浸透膜を有機溶媒が透過する速度(kg/h)であり、Cは、被処理液へ溶媒(水)を添加する速度(kg/h)であり、Dは、被処理液中の水の初期質量(kg)であり、Eは、被処理液中の有機溶媒の初期質量(kg)であり、Atは、濃縮開始後、時間tの間に正浸透膜を透過した水の質量(kg)であり、Btは、濃縮開始後、時間tの間に正浸透膜を透過した有機溶媒の質量(kg)であり、Ctは、濃縮開始後、時間tの間に被処理液に添加された溶媒(水)の質量(kg)である。
【0045】
上記不等式を満たす観点から、溶媒の添加方法は、好ましくは下記(i)~(iii)のいずれかである。
(i)正浸透膜の脱溶媒速度に合わせて、ある一定の速度で溶媒(例えば水)を加える方法
(ii)被処理液中の有機溶媒濃度を適宜測定し、有機溶媒濃度に応じて、溶媒(例えば水)を加える方法
(iii)事前に十分量の溶媒(例えば水)を被処理液に加えてから、濃縮回収装置によって被処理液を濃縮する方法
(i)、(ii)、(iii)のいずれの方法でも、有機溶媒濃度が正浸透膜の上限濃度を超えることなく、被処理液を濃縮することが可能である。総運転時間を短縮する観点からは、上記(ii)の方法が好ましい。
【0046】
<駆動液の濃縮再生機構>
駆動液の濃縮再生機構は、希釈された駆動液から溶媒を除き、浸透圧を上昇させる機構である。本実施形態の濃縮回収装置において、濃縮再生機構は必ずしも必須ではないが、当該濃縮再生機構を用いることは、濃縮回収装置の長期運転の観点から好ましい。濃縮再生機構は、減圧蒸留機構、膜蒸留機構、及び蒸発缶を用いた蒸発濃縮機構から成る群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0047】
<濃縮回収装置の運転操作>
濃縮回収装置は、一態様において、液温0℃超50℃以下の範囲の運転温度で運転することができる。溶質の溶解度が高く当該溶質が液中で安定に存在できる観点から、運転温度は、好ましくは4℃以上40℃以下、より好ましくは10℃以上30℃以下である。被処理液と駆動液との間に温度差があってもよい。
【0048】
正浸透膜にかかる圧力は、被処理液中及び駆動液中の溶質を正浸透膜に固着させずに被処理液を濃縮しやすく、かつ正浸透膜が圧密化しにくいという観点から、被処理液側、駆動液側ともに100kPa以下であることが好ましい。ここでの圧力とは、正浸透膜の各液の入口に圧力計を設置し、運転時の所定量で液を送液した際に圧力計が示す値を指し、浸透圧は加味しない。被処理液側と駆動液側との圧力差は、正浸透膜をより長期的に使用できるようにする観点から、好ましくは50kPa以下、より好ましくは20kPa以下である。被処理液側と駆動液側とのいずれの圧力が高くなっても構わない。
【0049】
限外ろ過膜による分画機構を設ける場合、限外ろ過膜の運転温度は、被処理液の液温と同じであってよい。また、運転圧力は限外ろ過膜への溶質の固着を低減できる観点で、好ましくは300kPa以下、より好ましくは200kPa以下、更に好ましくは100kPa以下である。
【0050】
<上限濃度の決定>
正浸透膜の有機溶媒含有液に対する許容上限濃度は、既定濃度の有機溶媒水溶液に正浸透膜を2時間浸漬し、正浸透膜を純水で洗浄したのちに、被処理液を純水、駆動液を3.5質量%の塩化ナトリウム水溶液として、液温25℃で正浸透膜を運転したときの、脱溶媒速度(Jw)と塩の逆拡散速度(Js)の比率、Js/Jwが0.50となる濃度である。以下、当該上限濃度の決定方法について述べる。
図7は、濃縮回収装置の性能評価装置を示す模式図である。性能評価装置700は、駆動液タンク15、駆動液用の送液ポンプ16、純水タンク17、電子天秤18、純水用の送液ポンプ19、正浸透膜モジュール20を備える。
正浸透膜モジュールを
図7に示すような性能評価装置に接続し、一方の面側(一態様において緻密層側)に純水(被処理液として)を、他方の面側(一態様において基材膜層側)に3.5質量%の塩化ナトリウム水溶液(駆動液として)を25℃で30分間通液し、30分間の平均脱水速度並びに塩の逆拡散速度を前述の式(1)、(2)に従って算出する。このとき、純水と塩化ナトリウム水溶液とによって通液時に正浸透膜にかかる圧力がそれぞれ20kPa以下となるように各液の流速を調節する。測定後、正浸透膜は純水で十分に洗浄する。なお、評価後の被処理液中に含まれる塩化ナトリウムは導電率計を用いて検出することができる。
【0051】
所定濃度の有機溶媒水溶液を調製し、正浸透膜に液が十分に接触するように、正浸透膜モジュールを当該有機溶媒水溶液中に2時間浸漬する。その後、正浸透膜モジュールを回収し、十分に純水で洗浄する。
図7に示すような性能評価装置にて、正浸透膜を再度25℃で性能評価し、脱溶媒速度と塩の逆拡散速度を算出する。ここで、Js/Jwが0.50以下であれば許容とし、0.50より大きければ正浸透膜が劣化したとみなす。用いる被処理液の有機溶媒濃度を5質量%、10質量%、15質量%のように5質量%ずつ大きくして評価を行い、Js/Jwが0.50以下となる最大点を上限濃度として設定する。
【0052】
<中分子溶液の濃縮回収>
以下、有機溶媒を含んだ中分子溶液の濃縮回収の方法の例について述べる。
所定の有機溶媒濃度及び溶質濃度の中分子溶液を調製する。ここで、有機溶媒濃度及び溶質濃度は、
有機溶媒濃度(質量%)=(有機溶媒の質量(g))/(溶液全体の質量(g))×100
溶質濃度(質量%)=(溶質の質量(g))/(溶液全体の質量(g))×100
で表される。
前記中分子溶液を被処理液として濃縮回収装置で濃縮する。必要に応じて濃縮運転中の被処理液の有機溶媒濃度を測定機構で測定してよい。濃縮後の被処理液の有機溶媒濃度、溶質濃度、及び駆動液の溶質濃度を、測定機構と同じ分析方法、例えば核磁気共鳴法、又は誘導結合プラズマ-質量分析(ICP―MS)を用いて求める。また、使用後の正浸透膜モジュールを純水で十分に洗浄したのち、被処理液を純水、駆動液を3.5質量%塩化ナトリウム水溶液として、液温25℃、被処理液及び駆動液から正浸透膜にかかる圧力がそれぞれ20kPa以下になるように流量を調節して30分間運転し、Js/Jwによって性能評価できる。
【0053】
濃縮後の被処理液中の溶質の回収率は下式(3)から算出できる。
回収率={(濃縮後の被処理液の中分子濃度(質量%))×(濃縮後の被処理液の質量(g))×100}/{(濃縮前の被処理液の中分子濃度(質量%))×(濃縮前の被処理液の質量(g))×100}・・・(3)
【0054】
一態様において、有機溶媒含有液の回収率は、好ましくは80.0質量%以上、より好ましくは95.0質量%以上である。回収率は、理想的には100質量%であるが、濃縮回収装置の製造容易性の観点から、例えば、99.9質量%以下、又は99.5質量%以下であってよい。
【0055】
濃縮運転後の正浸透膜の性能評価の結果、Js/Jwが0.50以下のとき、正浸透膜は劣化していないとみなすことができるため、同じ正浸透膜を再度濃縮運転に用いてもよい。
【0056】
≪濃縮回収方法≫
本発明の一態様は、有機溶媒含有液の濃縮回収方法も提供する。当該方法は、正浸透膜を用いて有機溶媒含有液を濃縮する濃縮工程を含み、濃縮工程において、有機溶媒含有液に溶媒を添加する。一態様において、濃縮回収方法は、前述した濃縮回収装置を用いて実施してよい。したがって、当該方法で用いる正浸透膜(中空糸膜等)、限外ろ過膜、測定機構、濃縮再生機構、有機溶媒含有液、駆動液等の構成要素、及び濃縮運転の態様については、≪濃縮回収装置≫の項で例示したのと同様であってよい。
以下、濃縮回収方法の各工程の好適例について説明する。
【0057】
<濃縮工程>
本工程では、正浸透膜を用いて有機溶媒含有液を濃縮する。濃縮工程においては、有機溶媒含有液に溶媒を添加する。濃縮工程において、正浸透膜の一方の面側に有機溶媒含有液を供給し、正浸透膜の他方の面側に駆動液を供給する。溶媒の添加方法は限定されず、連続的又は間欠的な添加であってよい。有機溶媒含有液の有機溶媒濃度が、≪濃縮回収装置≫の項で前述した正浸透膜の許容上限濃度を超えない範囲に維持されるように、有機溶媒含有液に溶媒を添加することが望ましい。
【0058】
<分画工程>
本実施形態の方法は、濃縮工程の前に、1つ以上の限外ろ過膜によって有機溶媒含有液を分画する分画工程を更に含んでよい。分画工程で得た分画済の有機溶媒含有液を、被処理液タンクを介して前記濃縮工程に供してよい。
【0059】
<溶媒組成の測定>
本実施形態の方法は、有機溶媒含有液中の溶媒組成を観測することを更に含んでよい。観測には、≪濃縮回収装置≫の項で例示した測定機構を用いてよい。溶媒組成の観測は、濃縮工程において、例えば、予め設定した時間間隔で行ってよい。
【0060】
<駆動液濃縮再生工程>
本実施形態の方法は、濃縮工程において希釈された駆動液を濃縮再生する駆動液濃縮再生工程を更に含んでよい。当該濃縮再生には、≪濃縮回収装置≫の項で例示した濃縮再生機構を用いてよい。
【0061】
以上例示した工程によって、有機溶媒含有液を濃縮できる。一態様において、本実施形態の方法による、有機溶媒含有液の回収率、及び、有機溶媒含有液の濃縮により回収された濃縮液中の、駆動液に含まれていた溶質の含有濃度は、それぞれ、≪濃縮回収装置≫の項で例示した範囲であることが好ましい。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の実施形態の具体例を実施例並びに比較例として挙げるが、本発明はこの範囲に限定されるものではない。
【0063】
(製造例1)
ポリエーテルスルホン(BASF社製、Ultrason)の質量割合20%のN-メチルピロリドン(NMP)溶液を調製し、二重紡口を装備した湿式中空糸紡糸機に上記の原液を充填し、水をみたした凝固槽に押し出し、相分離により中空糸を形成した。中空糸は、外径1.0mm、内径0.70mmであった。内表面積が100cm2になるように、中空糸膜を束ねてプラスチックハウジングに充填し、ウレタン接着剤でハウジングと中空糸膜束とを接着して、ハウジングと中空糸膜束とを含む中空糸膜モジュールを形成した。
【0064】
中空糸膜の内表面側に、2.0質量%のm-フェニレンジアミン、及び0.10質量%のドデシル硫酸ナトリウムを含む水溶液を5分間通液したのち、5分間5.0L/minの窒素を通液し、さらに0.20質量%の1,3,5-ベンゼンカルボン酸トリクロリドのヘキサン溶液を3分間通液することで、正浸透膜モジュールに加工した。正浸透膜モジュールは使用前に純水で終夜水洗した。
【0065】
上記正浸透膜の脱溶媒速度Jw及び塩の逆拡散速度Jsを、純水と3.5質量%塩化ナトリウム水溶液を用いた脱水試験により測定した。このとき、純水と3.5質量%塩化ナトリウムの送液速度はそれぞれ120mL/min及び270mL/minとした。Jw=12.6(kg/m2/h)、Js=2.8(g/m2/h)であった。
【0066】
(実施例1)
製造例1に従って正浸透膜モジュールを得た。上記正浸透膜の脱溶媒速度Jw及び塩の逆拡散速度Jsを、純水と3.5質量%塩化ナトリウム水溶液を用いた脱水試験により測定した。このとき、純水と3.5質量%塩化ナトリウムの送液速度はそれぞれ120mL/min及び270mL/minとした。Jw=11.9(kg/m2/h)、Js=2.0(g/m2/h)であった。25℃のアセトニトリル10、15、20、25、30質量%水溶液の各々に2時間浸漬したのち、純水で十分正浸透膜モジュールを洗浄した。Js/Jwはそれぞれ0.22、0.19、0.33、0.45、0.97であった。そのため、正浸透膜が許容する有機溶媒の上限濃度は25質量%とした。
【0067】
アセトニトリル10質量%水溶液500gにアラニルグルタミン0.80gを溶解し、0.157質量%のアラニルグルタミン溶液を調製した。これを被処理液として、上記正浸透膜モジュールを搭載した濃縮回収装置で濃縮実験を行った。駆動液には35質量%塩化マグネシウム水溶液を用いた。被処理液と駆動液の送液速度はそれぞれ75mL/min及び130mL/minであった。運転中、毎分1.0g/minの速度で被処理液に水を添加した。115分後に被処理液の質量が100gとなったので運転を停止した。IR、及び屈折率計により、濃縮された被処理液のアセトニトリル濃度を測定したところ、19.2質量%であった。前述の式(3)にて回収率を算出したところ、92.8%であった。
【0068】
(実施例2)
製造例1に従って正浸透膜モジュールを作製した。Jw=11.9、Js=1.9であった。実施例1と同様に被処理液を調製し、濃縮実験を行った。ただし、水の添加速度を1.5g/minとした。135分で運転を停止した。濃縮実験後の被処理液中のアセトニトリル濃度は18.0質量%であった。前述の式(3)にて回収率を算出したところ、91.3%であった。
【0069】
(実施例3)
製造例1に従って正浸透膜モジュールを作製した。Jw=13.0、Js=1.4であった。実施例1と同様に被処理液を調製し、濃縮実験を行った。ただし、水の添加速度を2.0g/minとした。159分で運転を停止した。濃縮実験後の被処理液中のアセトニトリル濃度は14.4質量%であった。前述の式(3)にて回収率を算出したところ、96.0%であった。
【0070】
(実施例4)
製造例1に従って正浸透膜モジュールを作製した。Jw=9.9、Js=2.2であった。実施例1と同様に被処理液を調製し、濃縮実験を行った。ただし、水の添加速度を1.6g/minとした。144分で運転を停止した。濃縮実験後の被処理液中のアセトニトリル濃度は16.8質量%であった。前述の式(3)にて回収率を算出したところ、91.9%であった。
【0071】
(実施例5)
製造例1に従って正浸透膜モジュールを作製した。Jw=12.6、Js=1.1であった。実施例1と同様に被処理液を調製し、濃縮実験を行った。ただし、運転開始後55分後まで水は添加しなかった。運転開始後56分から、水の添加速度を2.0g/minとした。106分で運転を停止した。濃縮実験後の被処理液中のアセトニトリル濃度は16.8質量%であった。前述の式(3)にて回収率を算出したところ、94.2%であった。
【0072】
(実施例6)
製造例1に従って正浸透膜モジュールを作製した。Jw=11.5、Js=2.4であった。アセトニトリル20質量%水溶液を溶媒とする以外は実施例1と同様に被処理液を調製したうえで濃縮実験を行った。ここで、濃縮時の正浸透膜の平均脱溶媒速度を測定したところ、4.1g/minであった。被処理液タンクの屈折率計によって1分毎に、IR測定により5分毎に被処理液中のアセトニトリル濃度を測定した。アセトニトリルの濃度が22質量%に達したときに、4.1g/minで水添を開始し、アセトニトリルの濃度が20質量%になったときに水添を止める方式で運転を行った。189分で運転を停止した。濃縮実験後の被処理液中のアセトニトリル濃度は21.9質量%であった。前述の式(3)にて回収率を算出したところ、91.6%であった。
【0073】
(実施例7)
製造例1に従って正浸透膜モジュールを作製した。Jw=13.3、Js=2.4であった。メタノールに関して上限濃度の測定を行ったところ、30、35、40、45質量%メタノール水溶液に浸漬した際に、Js/Jwはそれぞれ0.30、0.41、0.44、0.59となった。そのため、正浸透膜が許容する有機溶媒の上限濃度を40質量%とした。30質量%メタノール水溶液を溶媒として、実施例1と同様に被処理液を調製し濃縮実験を行った。ここで、濃縮時の正浸透膜の平均脱溶媒速度を測定したところ、4.5g/minであった。被処理液タンクの屈折率計によって1分毎に、IR測定により5分毎に被処理液中のメタノール濃度を測定した。メタノールの濃度が40質量%に達したときに、4.5g/minで水添を開始し、メタノールの濃度が35質量%になったときに水添を停止する方式で運転を行った。108分で運転を停止した。濃縮実験後の被処理液中のメタノール濃度は33.6質量%であった。前述の式(3)にて回収率を算出したところ、98.0%であった。
【0074】
(実施例8)
製造例1に従って正浸透膜モジュールを作製した。Jw=12.5、Js=1.4であった。アラニルグルタミンの代わりにマルトペンタオースを用いる以外は、実施例6と同様に実験を行った。185分で運転を停止した。濃縮実験後の被処理液中のアセトニトリル濃度は21.1質量%であった。前述の式(3)にて回収率を算出したところ、95.3%であった。
【0075】
(比較例1)
製造例1に従って正浸透膜モジュールを作製した。Jw=9.9、Js=1.2であった。実施例6と同様の被処理液を調製し、濃縮実験を行った。但し、水は添加しなかった。89分後に運転を停止した。濃縮実験後の被処理液中のアセトニトリル濃度は47.6質量%であった。前述の式(3)にて回収率を算出したところ、79.0%であった。
【0076】
(比較例2)
限外ろ過膜としてvivaflow50R(ザルトリウス社製、分画分子量5,000Da、膜面積50cm2)を用いて、実施例2と同様の被処理液を分画濃縮した。液温は25℃、運転圧力は50kPaとした。水は添加しなかった。83分後に運転を停止した。濃縮実験後の阻止液のアセトニトリル濃度は19.6質量%であった。前述の式(3)にて回収率を算出したところ、6.3%であった。
【0077】
【0078】
溶媒添加によって、正浸透膜の上限濃度を下回る有機溶媒濃度で運転を行うことができた。これにより、正浸透膜は有機溶媒によって劣化しにくくなると期待できる。
このため、運転中に被処理液の有機溶媒濃度を観測し、適宜水を添加することで、ある有機溶媒濃度範囲内で濃縮を実施することが有用であることがわかる。
【0079】
また、上限濃度を下回る有機溶媒濃度で運転を行うことで、同一の正浸透膜を繰り返し使用しても膜の劣化がないと期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は有機溶媒を含む溶液の濃縮プロセスに利用することができる。正浸透膜の膨潤、溶解による劣化を、溶媒の添加による被処理液の有機溶媒濃度制御によって抑制し、従来手法では回収が困難であった小さいサイズの分子を高い回収率で高濃度で回収することが可能である。
【符号の説明】
【0081】
100,200,300,400,500,600 濃縮回収装置
700 性能評価装置
1 被処理液タンク
2 溶媒添加機構
3 ポンプ
4 正浸透膜
5,15 駆動液タンク
6 測定機構
7 限外ろ過膜
8 前処理タンク
16 駆動液用の送液ポンプ
17 純水タンク
18 電子天秤
19 純水用の送液ポンプ
20 正浸透膜モジュール