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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】排水処理方法および凝集剤供給用治具
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/52 20230101AFI20240829BHJP
   C02F 1/40 20230101ALI20240829BHJP
【FI】
C02F1/52 F
C02F1/40 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020130208
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022026644
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊田 光宏
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-058973(JP,A)
【文献】特開2016-168579(JP,A)
【文献】特開2016-150315(JP,A)
【文献】特開昭52-123557(JP,A)
【文献】特開2007-038173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/00、40、52-56
B01D21/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水である排水を油分および水分に分離する油水分離室と、当該油水分離室へ前記排水を供給するための排水取込室とを有する、APIオイルセパレーター、PPIオイルセパレーターまたはCPIオイルセパレーターからなる油水分離槽を備えた排水処理装置において、
前記排水取込室内に取り込んだ排水に対し排水面下の水中であって前記排水取込室の底面から排水取込室の全高の30%以内の高さにおいて凝集剤を供給することを特徴とする排水処理方法
【請求項2】
開閉自在に設けられた蓋部を有する容器と当該容器に長手方向の一端が固定された柄とを有する凝集剤供給用治具を用い、前記容器内に凝集剤を収容し前記蓋部を閉じた状態で前記油水分離槽内に取り込んだ排水中に前記凝集剤供給用治具の容器を移動させた後、前記蓋部を開いて凝集剤を供給する請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項3】
前記凝集剤供給用治具が、前記蓋部を開放する線条部材をさらに有する請求項に記載の排水処理方法。
【請求項4】
前記凝集剤供給用治具の柄が、軸方向の長さを可変とする伸縮機構を有する請求項2または請求項3に記載の排水処理方法。
【請求項5】
請求項1記載の排水処理方法に使用される凝集剤供給用治具であって、
開閉自在に設けられた蓋部を有する容器と当該容器に長手方向の一端が固定された柄とを有することを特徴とする凝集剤供給用治具。
【請求項6】
前記蓋部を開放する線条部材をさらに有する請求項に記載の凝集剤供給用治具。
【請求項7】
前記柄が、軸方向の長さを可変とする伸縮機構を有する請求項または請求項に記載の凝集剤供給用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理方法および凝集剤供給用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種産業において、有機物を含む工業排水が活性汚泥法により処理されるようになっている(例えば、特許文献1(特開2002-210486号公報)参照)。
活性汚泥法は有機排水を好気的に生物処理する方法であり、例えば、標準活性汚泥法においては、活性汚泥処理槽のBOD-SS負荷(曝気槽内の単位MLSS量(kg)あたり1日に加えられる汚水中のBOD量)が0.2~0.4kgBOD/(kgMLSS・日)程度になるようにプロセス設計されている。
【0003】
上記活性汚泥法による排水処理方法としては、例えば、各種工場から排出される工業排水を一旦バッファタンクに集合した後、このバッファタンク中の工業排水に対し、油水分離槽による油水分離処理、加圧浮上槽による加圧浮上処理、凝集沈殿槽による凝集沈殿処理等の一次処理を行い、次いで生物処理槽による活性汚泥処理等の二次処理を行って、工業排水中のフェノール、ベンゼン等の有機物や、窒素、リン等が排出基準以下になるように生物処理を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-210486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記一次処理を行う油水分離槽は、後段の生物処理槽に負荷がかかり過ぎないようにその前段階として排水中の油分を分離するものであり、分離された油分はタンクに回収されている。
しかしながら、台風や大雨等で排水処理量が急激に増大した場合、油水分離槽での処理時における排水の流通速度を上げざるを得なくなり、槽内での滞留時間が十分に取れないために、油分が十分に分離されない状態で下流へ流出する場合が考えられる。
【0006】
このため、大型の油水分離槽に置き換えたり、油水分離槽を改修して大型化する対応も考えられるが、多額の設備投資負担が生じる他、用地の新規確保が必要になることから油水分離槽自体の変更は容易に行い難かった。
【0007】
従って、本発明は、油水分離槽の改修等を必要とすることなく、油水分離槽における油水分離を簡便かつ低コストに行い得る排水処理方法を提供するとともに、凝集剤供給用治具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような状況下、本発明者は、排水処理量が急激に増大した際に、油水分離槽に凝集剤を投入することを着想した。
従来より、排水処理装置においては、上記加圧浮上槽や凝集沈殿槽で凝集剤を投入することが行われていたが、加圧浮上槽や凝集沈殿槽を有さない排水処理装置においては凝集剤を投入することは考慮されておらず、油水分離槽で凝集剤を投入することも当然ながら考えられていなかった。
これに対して、本発明者は、油水分離槽に凝集剤を投入し油滴を凝集させ浮上速度を上げることにより、油水分離槽における油分の回収量を増加させ得ると考えた。
【0009】
しかしながら、本発明者の検討によれば、特に凝集剤が非水溶性のものである場合には、油水分離槽の排水面に対して上部から凝集剤を投入しても、上記凝集沈殿槽等と異なり油水分離槽には攪拌用の機材がない等の構造上の相違もあって、排水面近傍に凝集剤が滞留するなどして槽内に十分に分散させることができず、所期の効果を発揮し難いことが判明した。
【0010】
このような状況下、本発明者が鋭意検討したところ、油水分離槽を備えた排水処理装置において、油水分離槽に取り込んだ排水に対し排水面下の水中から凝集剤を供給する排水処理方法により、上記技術課題を解決し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)油水分離槽を備えた排水処理装置において、油水分離槽内に取り込んだ排水に対し排水面下の水中から凝集剤を供給することを特徴とする排水処理方法、
(2)被処理水である排水を油分および水分に分離する油水分離室と、当該油水分離室へ前記排水を供給するための排水取込室とを有する油水分離槽を備えた排水処理装置において、前記排水取込室内に取り込んだ排水に対し前記排水取込室の底部近傍から凝集剤を供給する上記(1)に記載の排水処理方法、
(3)前記油水分離槽が、APIオイルセパレーター、PPIオイルセパレーターまたはCPIオイルセパレーターである上記(1)または(2)に記載の排水処理方法、
(4)開閉自在に設けられた蓋部を有する容器と当該容器に長手方向の一端が固定された柄とを有する凝集剤供給用治具を用い、前記容器内に凝集剤を収容し前記蓋部を閉じた状態で前記油水分離槽内に取り込んだ排水中に前記凝集剤供給用治具の容器を移動させた後、前記蓋部を開いて凝集剤を供給する上記(1)~(3)のいずれかに記載の排水処理方法、
(5)前記凝集剤供給用治具が、前記蓋部を開放する線条部材をさらに有する上記(4)に記載の排水処理方法、
(6)前記凝集剤供給用治具の柄が、軸方向の長さを可変とする伸縮機構を有する上記(3)~(5)のいずれかに記載の排水処理方法、
(7)開閉自在に設けられた蓋部を有する容器と当該容器に長手方向の一端が固定された柄とを有することを特徴とする凝集剤供給用治具、
(8)前記蓋部を開放する線条部材をさらに有する上記(7)に記載の凝集剤供給用治具、
(9)前記柄が、軸方向の長さを可変とする伸縮機構を有する上記(7)または(8)に記載の凝集剤供給用治具、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、油水分離槽の改修等を必要とすることなく、油水分離槽における油水分離を簡便かつ低コストに行い得る排水処理方法を提供するとともに、凝集剤供給用治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る排水処理方法が適用される排水処理装置例を説明するための図である。
図2】PPIオイルセパレーターの構造を説明するための槽端面の概略図である。
図3】APIオイルセパレーターの構造を説明するための槽上面((a))および断面(b)の概略図である。
図4】CPIオイルセパレーターの構造を説明するための槽端面の概略図である。
図5】本発明に係る凝集剤供給用治具の形態例を示すものである。
図6】本発明に係る凝集剤供給用治具の形態例を示すものである。
図7図6に示す凝集剤供給用治具の蓋部の閉鎖状態((a))および開放状態((b))を各々模式的に示す側面図である。
図8】軸方向の長さを可変とする伸縮機構を有する柄を備えた凝集剤供給用治具の形態例を示す図である。
図9】軸方向の長さを可変とする伸縮機構を有する柄を備えた凝集剤供給用治具の形態例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
先ず、本発明に係る排水処理方法について説明する。
本発明に係る排水処理方法は、油水分離槽を備えた排水処理装置において、油水分離槽内に取り込んだ排水に対し排水面下の水中から凝集剤を供給することを特徴とするものである。
【0015】
以下、本発明に係る排水処理方法について、適宜図面を参照しつつ説明するものとする。
【0016】
本発明に係る排水処理方法において、処理対象となる被処理水(排水)は、有機物含有排水であれば特に制限されない。
例えば、各種石油留分、潤滑油、有機溶剤、油脂、糖液、発酵液等の有機物を含有する工業排水、生活排水等の排水から選ばれる一種以上であってもよい。
【0017】
図1は、本発明に係る排水処理方法が適用される排水処理装置を例示するものである。
図1に示す排水処理装置は、排水11を一時的に受け入れ貯留するバッファタンク12と、バッファタンク12からの流出水11aを一次処理する一次処理手段13とを備え、図1に示すように、上記一次処理手段13は、油水分離槽13Aとともに、例えば加圧浮上槽13B、貯留タンク13Cを備え、係る一次処理手段により油水分離や固形分の除去等の工業排水11の一次処理が行われる。
【0018】
図1に示す排水処理装置例において、加圧浮上槽13Bや貯留タンク13Cは必ずしも必要なく、油水分離槽13Aや加圧浮上槽13Bから直接一次処理水を(以下に説明する)活性汚泥処理槽14Aに導入してもよい。
【0019】
図1に示す排水処理装置においては、一次処理手段13で処理された一次処理水11bを二次処理する二次処理手段14を備え、図1に示すように、上記二次処理手段14は、例えば活性汚泥処理槽14Aおよび沈降槽14Bを含み、係る二次処理手段により活性汚泥処理等の排水11の二次処理が行われる。
沈降漕14Bにおいては、活性汚泥処理装置14Aから流出する活性汚泥処理水11cを受け入れ、処理水11dおよび活性汚泥を含むスラリー11eに固液分離して、処理水11dを排出するとともにスラリー11eを活性汚泥処理装置14Aに返送する。
【0020】
本発明に係る排水処理方法においては、油水分離槽内に取り込んだ排水に対し排水面下の水中から凝集剤を供給する。
【0021】
本発明に係る排水処理方法において、油水分離槽としては、特に制限されないが、被処理水である排水を油分および水分に分離する油水分離室と、当該油水分離室へ前記排水を供給するための排水取込室とを有するものが好ましい。
このような油水分離槽としては、APIオイルセパレーター(API oil-water separator、 American Petroleum Institute基準により設計されたオイルセパレーター)や、APIオイルセパレーターに基づいてシェル社が開発した、PPIオイルセパレーター(Parallel Plate Interceptor oil-water separator)またはCPIオイルセパレーター(Corrugated Plate Interceptor oil-water separator)等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0022】
図2は、PPIオイルセパレーターの構造を説明するための槽端面の概略図である。
図2に示すように、PPIオイルセパレーターは、油水分離槽内に流入した排水を除塵柵F1で除塵し、インレットパイプPで(後述する)油水分離室Bへ供給するための、除塵柵F1および分離壁Wにより区画され、内部にインレットパイプを備えた排水取込室Aを有している。
図2に示すPPIオイルセパレーターにおいては、上記排水取込室Aから排水取込室Aの直下に設けられたガイドプレートGを経て、長手方向に延びる複数の平行傾斜板PLが配置された油水分離室Bに排水が供給される。
【0023】
図3は、APIオイルセパレーターの構造を説明するための槽上面の概略図(図3(a))および槽断面の概略図(図3(b))である。
図3に示すように、APIオイルセパレーターは、油水分離槽内に流入した排水を除塵柵F1で除塵し、整流柵F2を経て後述する油水分離室B(主水槽)へ供給するための、除塵柵F1、整流柵F2および分離壁Wにより区画された排水取込室Aを有している。
図3に示すAPIオイルセパレーターにおいては、上記排水取込室Aから上記整流柵F2を経て、長手方向に延びる油水分離室B(主水槽)に排水が供給される。
【0024】
図4は、CPIオイルセパレーターの構造を説明するための槽端面の概略図である。
図4に示すように、CPIオイルセパレーターは、油水分離槽内に流入した排水を入口堰上部の入口INから取込み、整流柵F2を経て後述する油水分離室Bへ供給するための、浮蓋FL、整流柵F2および分離壁Wにより区画された排水取込室Aを有している。
図4に示すCPIオイルセパレーターにおいては、上記排水取込室Aから流路方向に延びる複数の平行傾斜板PL(プレートパック)が配置された油水分離室Bに排水が供給される。
【0025】
本発明に係る排水処理方法において、油水分離槽の内容量は、1m~1,000mであることが好ましく、1m~500mであることがより好ましく、5m~200mであることがさらに好ましい。
本発明に係る排水処理方法において、油水分離槽の内容量とは、排水取込室の内容量および油水分離室(主水槽)の内容量の和を意味する。排水取込室の内容量は油水分離室(主水槽)の内容量と比較して極端に小さいことから、油水分離槽の内容量は、通常はほぼ油水分離室(主水槽)の内容量に相当する。
【0026】
本発明に係る排水処理方法において、油水分離槽における被処理水(排水)の流速は、
5ton/時間~1000ton/時間であることが適当であり、5ton/時間~300ton/時間であることがより適当であり、10ton/時間~150ton/時間であることがさらに適当である。
また、本発明に係る排水処理方法において、油水分離槽における被処理水(排水)の液空間速度は、0.1時間-1~50時間-1であることが適当であり、0.3時間-1~20時間-1であることがより適当であり、0.5時間-1~10時間-1であることがさらに適当である。
【0027】
本発明に係る排水処理方法においては、油水分離槽における被処理水の流速が上記範囲内にある場合においても、槽内における油水分離を好適に行うことができる。
【0028】
本発明に係る排水処理方法においては、油水分離槽内に取り込んだ排水に対し排水面下の水中から凝集剤を供給する。
本発明に係る排水処理方法において、凝集剤の供給位置は特に制限されないが、上述した油水分離室へ排水を供給するための排水取込室とを有する油水分離槽を用いる場合は、排水取込室内の排水に対し、排水取込室の底部近傍(図2図4に例示する油水分離槽において×印を付した位置)から凝集剤を供給することが好ましい。
本出願書類において、排水取込室の底部近傍とは、排水取込室の底面から排水取込室の全高の30%以内の高さを意味する。
【0029】
本発明に係る排水処理方法において、上述した油水分離室へ排水を供給するための排水取込室とを有する油水分離槽を用いる場合、凝集剤は、排水取込室の底面から排水取込室の全高の30%以内の高さから供給し、排水取込室の底面から排水取込室の全高の20%以内の高さから供給することがより好ましく、排水取込室の底面から排水取込室の全高の10%以内の高さから供給することがさらに好ましい。
上記位置から凝集剤を供給することにより、槽内に好適に凝集剤を分散させつつ、油分の凝集および水分との分離を好適に推進することができる。
【0030】
図2図4に例示するような油水分離槽には、油水分離室へ排水を供給するための排水取込室が設けられており、その構造上、排水取込み室の底部付近において排水の流速が大きく、排水面近傍に凝集剤が滞留することなく凝集剤を好適に分散し得ると考えられる。 このため、排水取込室内でまたは排水取込室から油水分離室へ至る過程で凝集剤が十分に分散された状態で、油水分離室に排水を供給し得ると考えられる。
【0031】
本発明に係る排水処理方法においては、油水分離槽に供給する凝集剤としては、排水性状に合わせて、硫酸バンド、PAC(ポリ塩化アルミニウム)、塩化第二鉄、硫酸第一鉄等の無機系の凝集剤や高分子凝集剤等の有機系凝集剤等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0032】
本発明に係る排水処理方法において、凝集剤は、排水中に連続的に供給してもよいし、間欠的に供給してもよい。
排水中への凝集剤の供給量は、処理対象となる排水に応じて適宜決定すればよい。
【0033】
本発明に係る排水処理方法においては、開閉自在に設けられた蓋部を有する容器と当該容器に長手方向の一端が固定された柄とを有する凝集剤供給用治具を用い、前記容器内に凝集剤を収容し前記蓋部を閉じた状態で前記油水分離槽内に取り込んだ排水中に前記凝集剤供給用治具の容器を移動させた後、前記蓋部を開いて凝集剤を供給することが好ましい。
【0034】
本発明に係る排水処理方法において、凝集剤の供給に使用される凝集剤供給用治具は開閉自在に設けられた蓋部を有する容器と当該容器に長手方向の一端が固定された柄とを有している。
【0035】
本発明に係る排水処理方法において、凝集剤供給用治具を構成する容器の内容量は、
0.5~200.0Lであることが好ましく、5.0~100.0Lであることがより好ましく、10.0~50.0Lであることがさらに好ましい。
【0036】
本発明に係る排水処理方法において、凝集剤供給用治具を構成する容器の形状は特に制限されず、(後述する図5に例示するように)断面が円形状または(後述する図6に示す四角形状断面のように)断面が多角形状の筒状物を挙げることができる。
容器本体の構成材も特に制限されず、各種金属または樹脂を挙げることができる。
【0037】
本発明に係る排水処理方法において、凝集剤供給用治具を構成する容器は蓋部を有し、上記蓋部は(後述する図5および図6に例示する蓋部Lのように)、容器本体と開閉可能な状態で(ヒンジ等により)固定されている。
【0038】
本発明に係る排水処理方法において、凝集剤供給用治具を構成する蓋部の構成材は、特に制限されず、各種金属または樹脂を挙げることができる。
【0039】
本発明に係る排水処理方法において、凝集剤供給用治具を構成する容器は、必要に応じて蓋部との境界にパッキン等のシール材を設けてもよい。
【0040】
本発明に係る排水処理方法において、上記凝集剤供給用治具は、容器の蓋部が開閉自在に設けられてなるものである。
本発明に係る排水処理方法において、凝集剤供給用治具を構成する容器の蓋部を開閉する機構は特に制限されない。
【0041】
本発明に係る排水処理方法において、凝集剤供給用治具は上記蓋部を開放する線条部材をさらに有するものが好ましい。
上記線条部材としては、各種ワイヤー、紐、ロープ等から適宜選択することができる。
【0042】
図5は、本発明に係る排水処理方法において使用される凝集剤供給用治具の形態例を示すものである。
図5に示す例において、凝集剤供給用治具1は、開閉自在に設けられた蓋部Lを有する容器Cと当該容器Cに長手方向の一端が固定された柄Hとを有するとともに、さらに線条部材Sを有している。
図5に例示する態様においては、容器内に凝集剤を収容した状態で蓋部が容易に開かないように、容器本体および蓋部間に磁石等の固定具を設けて両者を固定し閉鎖状態を維持する機構とすることが好ましい。
図5に示すように、上記線条部材Sの一端は蓋部Lに固定され、当該線条部材Lを他端側から牽引することにより、閉鎖状態にある蓋部Lを柄側に開くことができるようになっている。
【0043】
また、図6は、本発明に係る排水処理方法において使用される凝集剤供給用治具の他の形態例を示すものである。
図6に示す例において、凝集剤供給用治具1は、開閉自在に設けられた蓋部Lを有する容器Cと当該容器Cに長手方向の一端が固定された柄Hとを有するとともに、さらに線条部材Sを有している。
【0044】
図7は、図6に示す凝集剤供給用治具1の蓋部Lの閉鎖状態(図7(a))および開放状態(図7(b))を各々模式的に示す側面図である。
図7(a)に示すように、図6に例示する凝集剤供給用治具1は、フック状の係止具HKが止具STに係止されることにより容器Cの蓋部Lが閉鎖した状態となっている。
これに対し、上記係止具HKに一端が固定された線条部材Sを他端側から牽引することにより、係止具STの係止状態が解かれ、図7(b)に示すように閉鎖状態にあった蓋部Lが柄Hとは反対側に開くことができるようになっている。
【0045】
図5および図6に例示するように、本発明に係る排水処理方法において、容器および当該容器に長手方向の一端が固定された柄を有する、所謂柄杓状の凝集剤供給用治具を用い、油水分離槽の所望位置で上記容器に設けられた蓋部を開放することにより、容器内に収容した凝集剤を容易に供給することができる。
【0046】
本発明に係る排水処理方法において、凝集剤供給用治具を構成する柄は、図5図6に例示するように、長手方向の一端が上記容器に固定されたものである。
凝集剤供給用治具を構成する容器と柄との固定方法は特に制限されず、ボルト等の固定具により固定してもよいし、容器の一端に筒状の接続部を設け、係る筒状の接続部の内部に雌ネジ部を設けるとともに、柄の端部に雄ネジ部を設けて、両者を螺合させることにより固定してもよい。
【0047】
本発明に係る排水処理方法において、凝集剤供給用治具を構成する柄の長さは、油水分離槽の上部から、排水面下の所望位置凝集剤を供給し得る長さであれば特に制限されず、排水取込室の高さ(深さ)等に応じて適宜選定することができる。
【0048】
本発明に係る排水処理方法において、凝集剤供給用治具を構成する柄は、軸方向の長さを可変とする伸縮機構を有するものであることが好ましい。
【0049】
凝集剤供給用治具を構成する柄は、外管と、外管の内径と概略等しい外径を有する内管が同軸二重円筒状に配置されてなるものを挙げることができ、上記外管ないし内管のいずれか一方ないしは両者を長手方向(軸方向)に移動させることにより、その長さを調整し得るものを挙げることができる。
【0050】
この場合、外管および内管を所定位置で固定するために、上記柄としては、内管の外表面に設けた雄ネジ部が、外管の内表面に設けた雌ネジ部と螺合し得る構造を有するものが好ましい。
【0051】
図8および図9は、軸方向の長さを可変とする伸縮機構を有する柄を備えた凝集剤供給用治具の形態例を示す図である。
図8および図9に示す凝集剤供給用治具1は、外管H1と、外管の内径と概略等しい外径を有する内管H2が同軸二重円筒状に配置されてなる柄Hを有しており、外管H1に対して内管H2を移動させることにより、図8(a)および図9(a)に示すように、柄Hの軸方向の長さを容易に伸縮させ、軸方向の長さを調整することができる。
【0052】
図8(b)は図8(a)に例示する凝集剤供給用治具1を構成する柄Hの縮小状態における端面を示す模式図であり、図8(a)に例示するように凝集剤供給用治具1における柄Hの軸方向長さを短くする場合、図8(b)に示すように、外管H1の先端側内表面に設けた雌ネジFS1に対し内管H2の先端側外表面に設けた雄ネジMS1を螺合することにより、柄Hの軸方向長さを縮小した状態で外管H1と内管H2とを固定することができる。
【0053】
また、図9(b)は図9(a)に例示する凝集剤供給用治具1を構成する柄Hの伸長状態における端面を示す模式図であり、図9(a)に例示するように凝集剤供給用治具1における柄Hの軸方向長さを長くする場合、図9(b)に示すように、外管H1の後端側内表面に設けた雌ネジFS2に対し内管H2の本体部外表面に設けた雄ネジMS2を螺合することにより、柄Hの軸方向長さを伸張した状態で固定することができる。
【0054】
本発明に係る排水処理方法において、凝集剤供給用治具を構成する柄が、軸方向の長さを可変とする伸縮機構を有するものであることにより、凝集剤供給時に作業者が所望位置に容易に凝集剤を供給することができ、凝集剤供給用治具の取り扱い性(取り回し性)を向上し得るとともに、凝集剤供給用治具の不使用時における保管性を容易に向上させることができる。
【0055】
本発明に係る排水処理方法によれば、台風や大雨等により排水流量が急増した場合であっても、油水分離槽下部の被処理水の流入口近傍に凝集剤を供給し、油分の凝集物を形成することにより、容易に油水を分離することができる。
このため、本発明に係る排水処理方法によれば、油水分離槽の改修等を必要とすることなく、油水分離槽における油水分離を簡便かつ低コストに行うことができる。
【0056】
次に、本発明に係る凝集剤供給用治具について説明する。
本発明に係る凝集剤供給用治具は、開閉自在に設けられた蓋部を有する容器と当該容器に長手方向の一端が固定された柄とを有することを特徴とするものである。
【0057】
本発明に係る凝集剤供給用治具の詳細は、本発明に係る排水処理方法の説明で述べたとおりである。
【0058】
本発明に係る凝集剤供給用治具によれば、台風や大雨等により排水流量が急増した場合であっても、油水分離槽下部の被処理水の流入口近傍に凝集剤を容易に供給し、油分の凝集物を形成することにより、油水を容易に分離することができる。
このため、本発明に係る凝集剤供給治具によれば、油水分離槽の改修等を必要とすることなく、油水分離槽における油水分離を簡便かつ低コストに行うことができる。
【0059】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0060】
(実施例1)
油水分離槽として、図2に示す装置構成を有するPPIオイルセパレーター(排水取込室Aの内寸が、縦1.25m、横1.30m、深さ1.23mであり、油水分離室Bの内寸が縦8.63m、横1.30m、深さ1.90mであるもの)を用いて油水分離処理を行った。
上記PPIオイルセパレーターに対し、大雨想定時の流速である50ton/時間の流速(液空間速度2.4時間-1)で、3質量ppmのn-ヘキサンを含有するモデル排水を通水しつつ、図5に示すような凝集剤供給用治具(容器の内容量7.1L、柄の長さ5.0m)を用いて、排水取込室Aの底面上(排水面から1.13mの深さ)に、1分間毎に90gづつ硫酸バンド(硫酸アルミニウム)を主成分とする凝集剤を供給して、油水分離処理を行った。
このとき、油水分離槽出口における処理水中のヘキサン濃度は、1質量ppm未満であった。
また、上記油水分離処理を60分間継続した後、油水分離槽入口における被処理水および油水分離槽出口における処理水中の油分の粒度分布を粒度分布測定装置((株)島津製作所製SALD-7500nano)により測定し、各々のモード径(粒径最頻値)を求めた。
結果を表1に示す。
【0061】
(比較例1)
凝集剤を供給しなかった以外は、実施例1と同様にして油水分離処理を行った。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示すように、実施例1においては、油水分離槽内に取り込んだ排水に対し排水面下の水中から凝集剤を供給していることから、ヘキサン濃度を3質量ppmから1質量ppm未満に低減し得るとともに、油分のモード径を44μmから5μmに低減して(モード径の差39μm)、広範囲の粒径に亘る油分を除去し得ることが分かる。
【0064】
一方、表1に示すように、比較例1においては、油水分離槽へ凝集剤を供給していないことから、ヘキサン濃度を3質量ppmから1質量ppmにしか低減することができず、また、油分のモード径も44μmから9μmにしか低減し得ず(モード径の差35μm)、排水中の油分を十分に除去し得ないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、油水分離槽の改修等を必要とすることなく、油水分離槽における油水分離を簡便かつ低コストに行い得る排水処理方法を提供するとともに、凝集剤供給用治具を提供することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 凝集剤供給用治具
11 排水
11a バッファタンク12からの流出水
11b 一次処理水
11c 活性汚泥処理水
11d 処理水
11e 固体沈殿物を含むスラリー
12 バッファタンク
13 一次処理手段
13A 油水分離装置
13B 凝集加圧装置
13C 貯留タンク
A 排水取込室
B 油水分離室
F1 除塵柵
F2 整流柵
P インレットパイプ
W 分離壁
G ガイドプレート
PL 平行傾斜板
FL 浮蓋
C 容器
L 蓋部
H 柄
H1 外管
H2 内管
S 線条
HK 係止具
ST 止具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9