(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】車両の加温装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/659 20140101AFI20240829BHJP
H01M 10/615 20140101ALI20240829BHJP
H01M 10/651 20140101ALI20240829BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20240829BHJP
H01M 10/633 20140101ALI20240829BHJP
H01M 10/6571 20140101ALI20240829BHJP
B60K 1/00 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
H01M10/659
H01M10/615
H01M10/651
H01M10/625
H01M10/633
H01M10/6571
B60K1/00
(21)【出願番号】P 2020161562
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】牧野 和輝
(72)【発明者】
【氏名】瀬田 至
(72)【発明者】
【氏名】大伴 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 広行
(72)【発明者】
【氏名】小室 正樹
(72)【発明者】
【氏名】河野 孝史
(72)【発明者】
【氏名】佐川 晋也
(72)【発明者】
【氏名】吉野 雅和
【審査官】鈴木 智之
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-027084(JP,A)
【文献】特開2019-081427(JP,A)
【文献】特開2017-216099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/659
H01M 10/615
H01M 10/651
H01M 10/625
H01M 10/633
H01M 10/6571
B60K 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の機器に電力を供給する機器用バッテリと、加温対象機器とを有する車両に搭載される車両の加温装置であって、
発熱後の状態から発熱可能な状態へ初期化可能であり、前記加温対象機器を加温するために発熱する蓄熱器と、
前記蓄熱器の状態を管理する蓄熱管理部と、
を備え、
前記蓄熱管理部は、前記車両の休止操作時に、前記蓄熱器が発熱後の状態であり、かつ、前記機器用バッテリの充電残量が第1充電残量と第2充電残量との合計以上である場合に、前記機器用バッテリの電力を用いて前記蓄熱器を初期化し、
前記第1充電残量は、前記機器用バッテリが前記休止操作時よりも低温になったときに、前記車両の次の起動を可能とする電力を供給可能な充電残量であり、
前記第2充電残量は、前記蓄熱器の初期化で消費される電力量を示す充電残量であることを特徴とする車両の加温装置。
【請求項2】
前記蓄熱管理部は、前記機器用バッテリの予想最低温度と、温度と充電残量と前記機器用バッテリの最大出力電力との関係を示す温度出力マップとに基づいて、前記第1充電残量を計算することを特徴とする請求項1記載の車両の加温装置。
【請求項3】
前記蓄熱管理部は、外部から供給される天気予報情報に基づいて前記予想最低温度を決定することを特徴とする請求項2に記載の車両の加温装置。
【請求項4】
走行モータに電力を供給する走行用バッテリを更に備え、
前記蓄熱管理部は、前記車両の起動中、初期化条件が満たされた場合に、前記走行用バッテリの電力を用いて前記蓄熱器を初期化し、
前記初期化条件は、前記走行用バッテリの放電可能電力が第1閾値以上であるという条件を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車両の加温装置。
【請求項5】
走行モータに電力を供給する走行用バッテリを更に備え、
前記蓄熱管理部は、前記車両の起動中、初期化条件が満たされた場合に、前記走行用バッテリの電力を用いて前記蓄熱器を初期化し、
前記初期化条件には、前記走行用バッテリの充電残量が第2閾値以上であるという条件を含み、前記第2閾値以上の範囲には回生制動が制限される前記走行用バッテリの充電残量の範囲が包含されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の車両の加温装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の加温装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発熱誘導操作を行うことで一定量の熱を発することができ、さらに、発熱した後に再度熱を加えることで、再び発熱可能な状態に初期化できる蓄熱器がある。このような蓄熱器としては、相変化に伴って潜熱を放出する潜熱蓄熱材を用いた蓄熱器、あるいは、物質の可逆的な化学反応により熱を放出する化学蓄熱材を用いた蓄熱器がある。
【0003】
従来、上記のような蓄熱器を車両に利用して低温時の二次電池を加温することが提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような蓄熱器を利用し、車両の加温対象機器に加温することで、加温時に大きな電力を消費しないという利点が得られる。しかし、蓄熱器を何度も利用する場合には、適宜なタイミングで蓄熱器を初期化する必要がある。初期化には比較的に大きな電力が必要なので、初期化を行う条件によっては、その後の車両の動作に支障を来す場合がある。
【0006】
本発明は、車両の動作に悪影響が及ぼされることを抑制しつつ、蓄熱器を初期化できる車両の加温装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、
車両の機器に電力を供給する機器用バッテリと、加温対象機器とを有する車両に搭載される車両の加温装置であって、
発熱後の状態から発熱可能な状態へ初期化可能であり、前記加温対象機器を加温するために発熱する蓄熱器と、
前記蓄熱器の状態を管理する蓄熱管理部と、
を備え、
前記蓄熱管理部は、前記車両の休止操作時に、前記蓄熱器が発熱後の状態であり、かつ、前記機器用バッテリの充電残量が第1充電残量と第2充電残量との合計以上である場合に、前記機器用バッテリの電力を用いて前記蓄熱器を初期化し、
前記第1充電残量は、前記機器用バッテリが前記休止操作時よりも低温になったときに、前記車両の次の起動を可能とする電力を供給可能な充電残量であり、
前記第2充電残量は、前記蓄熱器の初期化で消費される電力量を示す充電残量であることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の車両の加温装置において、
前記蓄熱管理部は、前記機器用バッテリの予想最低温度と、温度と充電残量と前記機器用バッテリの最大出力電力との関係を示す温度出力マップとに基づいて、前記第1充電残量を計算することを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2記載の車両の加温装置において、
前記蓄熱管理部は、外部から供給される天気予報情報に基づいて前記予想最低温度を決定することを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車両の加温装置において、
走行モータに電力を供給する走行用バッテリを更に備え、
前記蓄熱管理部は、前記車両の起動中、初期化条件が満たされた場合に、前記走行用バッテリの電力を用いて前記蓄熱器を初期化し、
前記初期化条件は、前記走行用バッテリの放電可能電力が第1閾値以上であるという条件を含むことを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の車両の加温装置において、
走行モータに電力を供給する走行用バッテリを更に備え、
前記蓄熱管理部は、前記車両の起動中、初期化条件が満たされた場合に、前記走行用バッテリの電力を用いて前記蓄熱器を初期化し、
前記初期化条件には、前記走行用バッテリの充電残量が第2閾値以上であるという条件を含み、前記第2閾値以上の範囲には回生制動が制限される前記走行用バッテリの充電残量の範囲が包含されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
蓄熱器が使用された後、初期化されることなく、車両の休止操作がなされる場合がある。本発明によれば、このような場合に、蓄熱管理部は、機器用バッテリの充電残量が、蓄熱器の初期化で消費される電力量に相当する充電残量と、車両の次の起動を可能とする電力を供給可能な充電残量との合計以上である場合に、機器用バッテリの電力を用いて蓄熱器を初期化する。したがって、車両の次の起動時から蓄熱器を発熱させることが可能となり、さらに、蓄熱器の初期化で消費される電力により、車両の次の起動が不可となることを抑制できる。
【0013】
一方、蓄熱器が使用される状況は、環境温度が低い状況であり、車両が次に起動されるときには、機器用バッテリの温度が低下していることが想定される。機器用バッテリの温度が低下すると、放電可能電力が低下する。そこで、本発明によれば、蓄熱管理部は、車両の次の起動を可能とする電力を供給可能な充電残量として、休止操作時よりも機器用バッテリが低温になったときに車両の起動を可能とする電力を出力可能な充電残量が適用される。したがって、本発明によれば、蓄熱器を使用するような低温な環境において、蓄熱器の初期化に起因して車両の次の起動が不可となるという不都合を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態の加温装置が搭載された車両を示すブロック図である。
【
図2】走行用バッテリの出力制限マップの一例を示す図である。
【
図3】機器用バッテリの温度出力マップの一例を示す図である。
【
図4】蓄熱管理部が実行する蓄熱管理処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態の加温装置が搭載された車両を示すブロック図である。本実施形態に係る車両1は、走行モータ12の動力により走行するEV(Electric Vehicle)である。車両1は、駆動輪11と、駆動輪11に動力を出力する走行モータ12と、走行モータ12を駆動するインバータ13と、走行モータ12に走行用の電力を供給する走行用バッテリ14と、走行モータ以外の機器に電力を供給する機器用バッテリ21と、走行用バッテリ14及び機器用バッテリ21の管理部15、22と、運転者の操作を受ける運転操作部25と、車両1の制御を行う制御部30とを備える。機器用バッテリ21は、機器用の電圧(例えば12V)を供給する例えば鉛蓄電池である。走行用バッテリ14は、例えばリチウムイオン二次電池、ニッケル水素二次電池などの二次電池であり、機器用バッテリ21よりも高い電圧を出力する。
【0016】
車両1は、さらに、機器用の電源電圧が供給される電源ラインL1と、走行用バッテリ14の電力を電源ラインL1に供給するDC/DCコンバータ17と、車両1の走行動力の一部を受けて電源ラインL1に電力を供給する発電機23と、電源ラインL1の電圧を制御系の電源電圧に変換して制御部30へ供給する制御系レギュレータ28とを備える。車両1の走行中には発電機23の発電によって機器用バッテリ21を充電でき、システムの起動中には走行用バッテリ14の充電残量に余裕があればDC/DCコンバータ17が動作することで、走行用バッテリ14が機器用の電力を補うことができる。
【0017】
車両1は、さらに、低温時に走行用バッテリ14を加温する蓄熱器51と、蓄熱器51を発熱させる発熱誘導器52と、蓄熱器51を加熱するヒータ53と、蓄熱器51の温度を計測する温度センサ54と、無線通信を介して外部のデータサービスセンタから気象予報情報を受信する気象情報通信部24とを備える。走行用バッテリ14は、本発明に係る加温対象機器の一例に相当する。
【0018】
制御部30は、1つのECU(Electronic Control Unit)又は通信を介して連携して動作する複数のECUから構成される。ECUは、CPU(Central Processing Unit)と制御ブログラムを記憶した記憶部とを備え、CPUが制御プログラムを実行することで所定の機能が実現される。制御部30は、蓄熱器51の管理を行う蓄熱管理部31と、車両1のシステムを制御するシステム制御部32と、車両1の走行制御を行う走行制御部33とを有する。
【0019】
管理部22は、機器用バッテリ21の温度、電流、電圧及びSOC(State of Charge:充電残量)等を計測及び管理する。管理部15は、走行用バッテリ14の温度、電流、電圧及びSOC等を計測及び管理する。管理部15は、走行用バッテリ14の温度及びSOC等から走行用バッテリ14の放電と充電を制限する充放電制限管理も行う。
【0020】
運転操作部25は、アクセル操作部、制動操作部、操舵操作部、シフト操作部、及び、システムの起動休止操作部を有する。アクセル操作部及び制動操作部からの運転操作信号は、走行制御部33に送られ、運転操作信号に応じて走行制御部33がインバータ13を制御することで、運転操作に応じた車両1の走行が実現される。走行制御部33には、管理部15から走行用バッテリ14の放電可能電力Wout及び充電可能電力Winに関する指令が送られ、走行制御部33は、走行モータ12の力行運転時、走行モータ12に出力される電力を放電可能電力Wout以下に制限する。また、走行制御部33は、走行モータ12の回転運転時、走行モータ12から回生されて走行用バッテリ14に充電される電力を、充電可能電力Win以下に制限する。
【0021】
運転操作部25の信号のうち、システムの起動操作信号と休止操作信号は、システム制御部32に送られる。システムの起動中、休止操作信号を受けると、システム制御部32は、システムメインリレー16を切断状態に切り替え、制御部30を休止モードに移行する。システム休止中、起動操作信号を受けると、システム制御部32は、システムメインリレー16を接続状態に切り替え、制御部30を起動する。システムの起動中とは、運転者による走行の運転操作を受け付けるシステム状態を意味し、システムの休止中とは、走行の運転操作を受け付けないシステム状態を意味する。
【0022】
蓄熱器51は、例えば潜熱蓄熱材を含み、初期化された状態において発熱誘導がなされることで一定量の熱を発し、発熱後の状態において、再度加熱されることで発熱可能な状態に初期化される。蓄熱器51は、発熱することで走行用バッテリ14を加温可能に配置される。蓄熱器51は、走行用バッテリ14を直接的に加温してもよいし、冷却液等を介して走行用バッテリ14を加温してもよい。
【0023】
発熱誘導器52は、初期化された蓄熱器51に作用し、蓄熱器51の発熱を誘導する。詳細には、特に限定されないが、発熱誘導器52はアクチュエータを有し、アクチュエータの駆動により蓄熱器51に物理的な刺激を与えて、蓄熱器51の発熱を誘導する。発熱誘導器52は、蓄熱管理部31からの発熱誘導指令に基づいて動作する。
【0024】
ヒータ53は、電気ヒータであり、電源ラインL1の電力で動作し、発熱後の状態の蓄熱器51を加熱し、蓄熱器51を初期化する。ヒータ53は、蓄熱管理部31からのヒータ駆動指令に基づいて動作する。
【0025】
蓄熱管理部31は、温度センサ54から蓄熱器51の温度を示すセンサ信号と、気象情報通信部24から気象予測情報と、管理部15、22から機器用バッテリ21の温度及びSOCの情報と、走行用バッテリ14の放電制限の情報とSOCの情報とを受ける。蓄熱管理部31、上記のセンサ信号及び情報に基づき、蓄熱器51の管理を行う。
【0026】
蓄熱管理部31、蓄熱器51、発熱誘導器52、ヒータ53、温度センサ54及び気象情報通信部24が、車両1の加温対象機器(走行用バッテリ14)を加温する加温装置50に相当する。
【0027】
<走行用バッテリの制限管理>
図2は、走行用バッテリの出力制限マップの一例を示す図である。前述したように、走行用バッテリ14の管理部15は、走行用バッテリ14の充電可能電力Win及び放電可能電力Woutの管理を行う。充電可能電力Win及び放電可能電力Woutは、走行用バッテリ14が過放電並びに過充電されないよう、あるいは、非良好な条件下での充放電により走行用バッテリ14が大きく劣化しないように制限された充電電力の最大値、並びに、制限された放電電力の最大値を意味する。放電可能電力Woutは、
図2に示すように、走行用バッテリ14のSOCと温度によって決定される。
図2の出力制限マップにおいては、放電可能電力Woutが、制限無しのときを100%とする割合で示している。走行用バッテリ14のSOCが低いとき、並びに、温度が高温又は低温のときに、放電可能電力Woutは100%よりも低い値に制限される。
【0028】
充電可能電力Winは、例えば、過充電を防止するため、SOCが充電禁止閾値(85%等)以上の場合に、0%に制限される。充電可能電力Winの0%の制限は、回生制動の禁止を意味する。
【0029】
管理部15は、
図2のような出力制限マップを有しており、走行用バッテリ14の温度及びSOCから放電可能電力Wout及び充電可能電力Winを決定する。管理部15は、問い合わせに応じて走行制御部33又は蓄熱管理部31へ放電可能電力Wout及び充電可能電力Winを通知する。
【0030】
<機器用バッテリの温度出力特性>
図3は、機器用バッテリの温度出力マップの一例を示す図である。機器用バッテリ21は、機器用バッテリ21のSOCが低下したとき、並びに、温度が低下したときに、出力可能な電力(すなわち最大出力電力)が低下するという特性を有する。この特性を示したものが温度出力マップである。温度出力マップには、機器用バッテリ21の温度、SOC、並びに、出力可能な電力の関係が示される。なお、機器用バッテリ21は、劣化度合(内部抵抗等)によっても出力可能な電力が低下するため、温度出力マップには、劣化度合と、温度と、SOCと、出力可能な電力との関係が示されていてもよい。
【0031】
蓄熱管理部31は、制御データとして、機器用バッテリ21の温度出力マップを保持し、蓄熱器51の初期化の判断に使用する。
【0032】
<蓄熱管理処理>
図4は、蓄熱管理部が実行する蓄熱管理処理のフローチャートである。蓄熱管理部31は、車両1のシステム起動時に蓄熱管理処理を開始する。蓄熱管理処理が開始されると、まず、蓄熱管理部31は、蓄熱器51が使用上限温度以下であるか判別する(ステップS1)。使用上限温度には、液相の蓄熱材を固相に相遷移可能な温度(蓄熱材の融点より低い温度)が設定される。ステップS1の判別の結果、使用上限温度以下でなければ、蓄熱管理部31は、ステップS1の判別を繰り返す。初期化された直後などは、ステップS1でNOと判別される。
【0033】
一方、蓄熱器51が使用上限温度以下でステップS1でYESと判別されたら、蓄熱管理部31は、初期化フラグが“1”か否かを判別する(ステップS2)。初期化フラグは蓄熱器51が初期化されたら“1”にセットされ、蓄熱器51が発熱誘導されたら“0”にセットされる。蓄熱管理部31は、車両1のシステムが休止したときにも、初期化フラグの値を保存している。したがって、システム起動直後のステップS2では、システム起動時に蓄熱器51が初期化されていたか否かが判別される。
【0034】
ステップS2の判別の結果、初期化フラグが”1であれば、蓄熱管理部31は、システム制御部32から走行用バッテリ14の加温要求が有るか判別し(ステップS3)、加温要求が有るまでステップS3の判別を繰り返す。そして、加温要求が有ったら、蓄熱管理部31は、発熱誘導器52を動作させる(ステップS4)。この動作により、蓄熱器51が発熱し、走行用バッテリ14が加温される。そして、蓄熱器51は、発熱後の状態となるので、蓄熱管理部31は、初期化フラグを“0”にする(ステップS5)。
【0035】
ステップS2の判別の結果が否の場合、あるいは、ステップS5の後、蓄熱管理部31は、蓄熱器51を初期化する条件判別のループ処理(ステップS6、S7、S10)へ処理を移行する。すなわち、蓄熱管理部31は、まず、走行用バッテリ14が出力制限中であるか無いかを判別し(ステップS6)、出力制限がなければ走行用バッテリ14のSOCが閾値(本発明に係る第2閾値に相当)以上であるか判別する(ステップS7)。
【0036】
ステップS6の出力制限の判別において、まず、蓄熱管理部31は、走行用バッテリ14の管理部15に放電可能電力Woutを問い合わせる。そして、管理部15は、走行用バッテリ14のSOCと、温度と、
図2の温度出力マップとから、現在の放電可能電力Woutを決定し、それを蓄熱管理部31へ提示する。提示があると、蓄熱管理部31は、放電可能電力Woutが99%以下であれば、出力制限有りと判別する一方、放電可能電力Woutが100%であれば出力制限無しと判別する。なお、ステップS6の判別は、出力制限の有無ではなく、放電可能電力Woutが閾値(本発明に係る第1閾値に相当)以上か否かの判別に変更されてもよい。ここで、閾値は、蓄熱器51の初期化で電力を使用しても、走行に影響が及びにくい値が設定されるとよい。
【0037】
ステップS7のSOCの閾値は、回生制動が禁止される走行用バッテリ14のSOC下限値(例えば85%)よりも低い値(例えば80%)に設定されている。すなわち、回生制動が禁止されるほど走行用バッテリ14のSOCが高いときには、ステップS7の判別結果はYESとなるように閾値が設定されている。
【0038】
ステップS6で、走行用バッテリ14の出力制限が無い(あるいは出力制限が小さい)と判別された場合、蓄熱器51の初期化に大きな電力が消費されても、走行に使用できる電力が低下することはなく、走行性能に悪影響が及ぼされる可能性が低いことが想定される。さらに、ステップS7で、SOCが閾値以上であると判別された場合、車両1の制動時に回生制動が利用できずに、制動エネルギーが無駄になる可能性があることが想定される。したがって、出力制限が無しでかつSOCが閾値以上であれば、走行用バッテリ14の電力を用いて蓄熱器51が初期化されても、走行パワーが制限されるといった不都合が生じる可能性は低く、逆に、初期化を行うことで、無駄に捨てられる制動エネルギーを電力として回収できる可能性が高くなる。したがって、このような条件が成立した場合に、蓄熱管理部31は、蓄熱器51の初期化条件を満たすと判断する。
【0039】
初期化条件(ステップS6でNO、ステップS7でYES)を満たすと判別したら、蓄熱管理部31は、蓄熱器51の初期化処理を実行する(ステップS8)。初期化処理では、蓄熱管理部31は、ヒータ53を駆動し、蓄熱器51を加熱することで、蓄熱材を液相に遷移させる。システムメインリレー16が接続状態にあることで、ヒータ53で消費される電力は、DC/DCコンバータ17を介して走行用バッテリ14から供給される。初期化が完了したら、蓄熱管理部31は、初期化フラグを“1”にセットし(ステップS9)、処理をステップS1に戻す。
【0040】
一方、ステップS6の判別結果がYES、あるいは、ステップS7の判別結果がNOであれば、蓄熱管理部31は、蓄熱器51の初期化条件を満たさないと判断する。そして、次に、蓄熱管理部31は、システム制御部32からの通知に基づき、車両1のシステムを休止する操作が有ったか否かを判別する(ステップS10)。そして、休止の操作があれば、蓄熱管理部31は、処理を次に進めるが、休止の操作がなければ、処理をステップS6に戻して、再び、蓄熱器51の初期化条件を通知がなければ、蓄熱管理部31は、処理をステップS6に戻し、初期化の条件判別の処理を繰り返す。
【0041】
車両1のシステムを休止する操作があって、ステップS10の判別の結果がYESとなると、蓄熱管理部31は、機器用バッテリ21の電力を用いて蓄熱器51を初期化可能であるか条件判別するための処理を行う。すなわち、まず、蓄熱管理部31は、気象情報通信部24が受信していた気象情報に基づき、現在から数日間の最低気温を予測する(ステップS11)。次に、蓄熱管理部31は、最低気温まで機器用バッテリ21が冷えたときに、機器用バッテリ21から、次のシステム起動を可能とする電力が供給可能な充電残量E1(本発明に係る第1充電残量に相当)を、温度出力マップから抽出する(ステップS12)。システム起動に必要な電力とは、
図1の例では、制御部30を起動し、かつ、システムメインリレー16を接続状態に切替える電力に相当する。
【0042】
さらに、蓄熱管理部31は、蓄熱器51の初期化で消費される電力量に相当する充電残量E2(本発明に係る第2充電残量に相当)を計算し(ステップS13)する。そして、蓄熱管理部31は、現在の機器用バッテリ21のSOCが、充電残量E1+E2以上か判別し(ステップS14)、以上であれば、システムの休止移行時に、ヒータ53を駆動して蓄熱器51を初期化する(ステップS15)。このとき、システムの休止操作に基づきシステムメインリレー16がオフ状態にされることで、ヒータ53には機器用バッテリ21から電力が供給される。続いて、蓄熱管理部31は、初期化フラグを“1”にセットして(ステップS16)、システムの休止に伴って蓄熱管理処理を終了する。
【0043】
一方、ステップS14の判別の結果がNOであれば、蓄熱管理部31は、蓄熱器51を初期化せずに、システムの休止に伴って蓄熱管理処理を終了する。このような蓄熱管理処理により、加温対象機器の加温要求に応じて、蓄熱器51を発熱させることができ、また、発熱済みの蓄熱器51を適切な条件で初期化することができる。
【0044】
以上のように、本実施形態の加温装置50によれば、システムの休止操作があって蓄熱器51が初期化されていない場合、蓄熱管理部31は、車両1の次の起動で電力が不足しないという条件を満たせば、機器用バッテリ21の電力を用いて蓄熱器51を初期化する。この初期化により、車両1の次の起動時に、走行用バッテリ14が低温になっていても、走行用バッテリ14を蓄熱器51の発熱で加温することで、走行用バッテリ14を速やかに使用することが可能となる。
【0045】
さらに、休止操作の際に蓄熱器51を初期化するか否かを判別するための指標の一つとして、蓄熱管理部31は、充電残量E1を計算する。すなわち、現在よりも機器用バッテリ21の温度が低温になっているときでも、車両1の起動に必要な電力が得られる機器用バッテリ21のSOC(充電残量E1)が指標の一つとして計算される。蓄熱器51が使用される低温な環境においては、車両1の次の起動時に、機器用バッテリ21が低温になっていることが想定される。そこで、上記のような指標を用いることで、車両の次の起動時に機器用バッテリ21が低温になっていても、車両1の起動が困難となるという不都合を抑制できる。
【0046】
さらに、本実施形態の加温装置50によれば、蓄熱管理部31は、機器用バッテリ21の予想最低温度と、機器用バッテリ21の温度出力マップとを用いて、充電残量E1を求める。したがって、充電残量E1の精度が向上し、その分、車両1の休止操作時に蓄熱器51を初期化する条件のマージンを小さくできる。よって、車両1の次の起動を困難にすることなく、車両1の休止操作時に蓄熱器51を初期化できる状況をより多く作り出すことができる。
【0047】
さらに、本実施形態の加温装置50によれば、蓄熱管理部31は、天気予報情報に基づいて機器用バッテリ21の予想最低温度を求め、この予想最低温度を用いて充電残量E1を計算する。したがって、充電残量E1をより高い精度で求めることができ、その分、車両1の休止操作時に蓄熱器51を初期化する条件のマージンをより小さくできる。よって、車両1の次の起動を困難にすることなく、車両1の休止操作時に蓄熱器51を初期化できる状況をより多く作り出すことができる。
【0048】
さらに、本実施形態の加温装置50によれば、蓄熱管理部31は、車両1の起動中に、初期化条件を満したときに、蓄熱器51を走行用バッテリ14の電力を用いて初期化する。そして、車両1が起動しているときの初期化条件には、走行用バッテリ14の放電可能電力が100%(すなわち放電可能電力の制限無し)という条件が含まれる。蓄熱器51の初期化には、比較的に大きな電力を要するが、この条件により、初期化に伴って、車両1の走行パワーが低下してしまうといった不都合を抑制できる。なお、100%という条件の替わりに、90%以上など、車両1の走行に影響を及ぼさない閾値以上という条件が適用されてもよい。
【0049】
さらに、本実施形態の加温装置50によれば、上記の初期化条件に、走行用バッテリ14のSOCが閾値以上であるという条件が含まれる。さらに、上記の閾値以上の範囲には、回生制動が禁止されるSOCの範囲(例えば85%以上)が包含される。したがって、回生制動が禁止されて制動エネルギーが熱として捨てられるとき、あるいは、このような状況が生じそうなときに、走行用バッテリ14の電力を用いて蓄熱器51が初期化されることになる。したがって、蓄熱器51の初期化に伴って、制動エネルギーの有効化を促進できる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、蓄熱器51の初期化条件を判別する指標の一つである充電残量E1を計算する際に、機器用バッテリ21の予想最低温度と、温度出力マップとを用いて計算する例を示した。しかし、車両1の次の起動を可能とする電力が毎回同一であれば、温度出力マップを用いずに、上記の充電残量E1が計算されてもよい。すなわち、温度出力マップを、機器用バッテリ21の温度と所定の電力を出力可能なSOCとの関係を示すデータテーブルに代替して、上記の充電残量E1を計算できる。さらに、上記実施形態では、機器用バッテリ21の予想最低温度を、天気予報情報に基づいて決定した例を示したが、天気予報情報を用いずに、例えば季節から、あるいは、季節と位置情報とから予想最低温度を決定してもよい。あるいは、機械学習により、車両1の次の始動時の機器用バッテリ21の温度を学習及び予想し、予想された温度を予想最低温度とするように構成してもよいなど、予想最低温度の決定方法は様々に変更可能である。また、上記の充電残量E1を決定する機器用バッテリ21の温度として、例えば車両1の平均的な休止期間後の温度にマージンを付与した温度など、車両1の休止操作時よりも低温となる一定の温度が設定されていてもよい。
【0051】
また、上記実施形態においては、車両がEVである場合を説明したが、車両はエンジンを搭載していてもよい。この場合、車両の起動を可能とする電力には、エンジンを始動する電力が含まれてもよい。また、上記実施形態では、加温対象機器が走行用バッテリである構成を示したが、荷室、窓ガラスなどの様々な機器が加温対象機器であってもよい。その他、実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 車両
11 駆動輪
12 走行モータ
13 インバータ
14 走行用バッテリ(加温対象機器)
15 管理部
16 システムメインリレー
17 DC/DCコンバータ
21 機器用バッテリ
22 管理部
23 発電機
24 気象情報通信部
25 運転操作部
28 制御系レギュレータ
L1 電源ライン
30 制御部
31 蓄熱管理部
32 システム制御部
33 走行制御部
50 加温装置
51 蓄熱器
52 発熱誘導器
53 ヒータ
54 温度センサ