(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池用正極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240829BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240829BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240829BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/139
(21)【出願番号】P 2020163581
(22)【出願日】2020-09-29
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】出口 祥太郎
(72)【発明者】
【氏名】坂井 遼太郎
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-097961(JP,A)
【文献】特開2006-127823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さの異なる少なくとも2種類以上の繊維状炭素材料を含むリチウムイオン二次電池用正極であって、
バインダーを含み、
前記正極の集電体側に第1の繊維状炭素材料を含み、
前記正極の表層側に第2の繊維状炭素材料を含み、
前記第2の繊維状炭素材料が、前記第1の繊維状炭素材料よりも短く、前記集電体に対して垂直方向を向くように配置され、
前記正極の断面を
前記正極の厚さ方向に2
等分した場合における(前記表層側のバインダー量)/(前記集電体側のバインダー量)で算出される前記バインダーのマイグレーション指数が、2以上である、
リチウムイオン二次電池用正極。
【請求項2】
前記第2の繊維状炭素材料の長さが、0.3~1.2μmである、
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項3】
前記第1の繊維状炭素材料の長さが、0.6μm以上である、
請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項4】
前記第1及び第2の繊維状炭素材料の太さが、1~20nmである、
請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項5】
前記第1の繊維状炭素材料は、正極活物質、溶媒及び前記バインダーを含む正極ペースト100質量部に対して添加量が1~10質量部である、
請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項6】
前記第2の繊維状炭素材料は、正極活物質、溶媒及び前記バインダーを含む正極ペースト100質量部に対して添加量が2質量部以下である、
請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項7】
前記第1の繊維状炭素材料の添加量に対する前記第2の繊維状炭素材料の添加量の比が0.2~0.3である、
請求項5または6に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極を有するリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
長さの異なる少なくとも2種類以上の繊維状炭素材料を含むリチウムイオン二次電池用正極の製造方法であって、
第1の繊維状炭素材料と、正極活物質、溶媒及びバインダーを含む正極ペーストを混錬する第1の混錬工程と、
前記第1の繊維状炭素材料よりも短い第2の繊維状炭素材料を前記正極ペーストに加えて混錬する第2の混錬工程と、
前記第2の混錬工程後の正極ペーストを集電体上に塗工する塗工工程と、
前記塗工工程後の正極ペーストに磁場をかける磁場工程と、
前記磁場工程後の正極ペーストを乾燥させる乾燥工程と、
を備え、
前記乾燥工程の乾燥温度が100~250℃である、リチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【請求項10】
前記磁場工程の磁場が0.1T以上である、
請求項9に記載のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【請求項11】
前記第1の混錬工程における前記正極ペーストの粘度が50,000mPa・s以上である、
請求項9または10に記載のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【請求項12】
前記第2の混錬工程における前記正極ペーストの粘度が30,000mPa・s以下である、
請求項9~11のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池用正極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池は、電気自動車やハイブリッド自動車などの電源として広く利用されている。リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出する正極及び負極の間を、電解液中のリチウムイオンが移動することで充放電可能な二次電池である。
【0003】
リチウムイオン二次電池の電極板に繊維状炭素材料を用いることで出力が高まることが知られており、例えば、特許文献1は、長短2種類のカーボンナノチューブを使用し、正極合剤層の抵抗の低減化を図ることによって出力を向上させたリチウムイオン二次電池を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、リチウムイオン二次電池の捲回工程及び積層工程においては、電極とセパレータとがずれることで短絡や製品不良などが生じる場合があった。これに対し、電極とセパレータとの間に接着層を導入することも考えられるが、接着層は抵抗体となりうるため、リチウムイオン二次電池の出力が低下するという問題がある。
【0006】
上記課題に鑑み本発明の目的は、正極とセパレータとのずれを抑制しつつ、出力を向上させたリチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池用正極の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るリチウムイオン二次電池用正極は、
長さの異なる少なくとも2種類以上の繊維状炭素材料を含むリチウムイオン二次電池用正極であって、
前記正極の集電体側に第1の繊維状炭素材料を含み、
前記正極の表層側に第2の繊維状炭素材料を含み、
前記第2の繊維状炭素材料が、前記第1の繊維状炭素材料よりも短い。
【0008】
本発明の一態様に係るリチウムイオン二次電池は、上述のリチウムイオン二次電池用正極を有するリチウムイオン二次電池である。
【0009】
本発明の一態様にかかるリチウムイオン二次電池用正極の製造方法は、長さの異なる少なくとも2種類以上の繊維状炭素材料を含むリチウムイオン二次電池用正極の製造方法であって、第1の繊維状炭素材料と、正極活物質、溶媒及びバインダーを含む正極ペーストを混錬する第1の混錬工程と、前記第1の繊維状炭素材料よりも短い第2の繊維状炭素材料を前記正極ペーストに加えて混錬する第2の混錬工程と、前記第2の混錬工程後の正極ペーストを集電体上に塗工する塗工工程と、前記塗工工程後の正極ペーストに磁場をかける磁場工程と、前記磁場工程後の正極ペーストを乾燥させる乾燥工程と、を備える、
【発明の効果】
【0010】
本発明により、正極とセパレータとのずれを抑制しつつ、出力を向上させたリチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池用正極の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極の模式断面図である。
【
図2】第1の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極の製造方法のフローを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明が以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0013】
図1は、第1の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極10の模式断面図である。正極10は、正極活物質1、繊維状炭素材料2a及び2b、集電体3を備える。正極10は、集電体3上に正極活物質1、繊維状炭素材料2a及び2bを含む正極層が積層されて形成されている。
【0014】
正極活物質1は、リチウムを吸蔵・放出可能な材料であり、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、アルミ酸リチウム(LiAlO2)などを用いることができる。例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、アルミ酸リチウム(LiAlO2)を任意の割合で混合したNCA系の材料を用いてもよい。一例を挙げると、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2を用いることができる。また、LiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2を任意の割合で混合した材料を用いてもよい。例えば、これらの材料を等しい割合で混合したニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)を用いてもよい。
【0015】
正極活物質1の粒径は、例えば3~15μmである。なお、本発明において各々の材料の粒径はメジアン径D50であり、レーザー回折・散乱法を用いて測定した値である。また、正極活物質はこれらの材料に限定されることはなく、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料であればどのような材料であってもよい。
【0016】
第1の実施形態においては、長さの異なる2種類の繊維状炭素材料2a及び2bの例を説明する。ただし、長さの違いは2種類に限られず、長さの異なる少なくとも2種類以上の繊維状炭素材を用いてもよい。
【0017】
図1に示すように、繊維状炭素材料2a(第1の繊維状炭素材料に相当)は、正極10の集電体3側に含まれている。繊維状炭素材料2b(第2の繊維状炭素材料に相当)は、正極10の表層側に含まれている。また、繊維状炭素材料2bは、集電体3に対して垂直方向を向くように配置されている。
【0018】
繊維状炭素材料2bは、繊維状炭素材料2aよりも短い繊維状炭素材料である。繊維状炭素材料2aの長さは、正極活物質1と繊維状炭素材料2aとの間で良好な導電パスを形成する観点から0.6μm以上が好ましく、特に1~3μmが好ましい。
【0019】
繊維状炭素材料2bの長さは、磁場工程における垂直方向への配置を可能とし、乾燥工程における表層側への移動性を確保するため、0.3~1.2μmであることが好ましく、0.3~0.8μmがさらに好ましい。
繊維状炭素材料2aは、繊維状炭素材料2bに比べて長く、正極層中において正極活物質1と繊維状炭素材料2aとの間で良好な導電パスを形成することができる。これにより、正極10の導電性を向上でき、リチウムイオン二次電池の出力を向上させることができる。
【0020】
繊維状炭素材料2a及び2bの太さは、導電性の観点から1~20nmであることが好ましい。ここで、太さとは繊維状炭素材料2a、2bの長手方向に対する垂直方向の厚さである。
【0021】
繊維状炭素材料2a及び2bには、例えばカーボンナノチューブを用いることができる。
繊維状炭素材料2a及び2bは、化学気相成長法(CVD)、アーク放電法、レーザー蒸発法などの一般的な製法によって調製することができる。また、市販品を使用してもよい。なお、所定範囲の長さを有する繊維状炭素材料2a及び2bは、密度勾配遠心法などを用いて得ることができるが、特にこれに限られない。
【0022】
繊維状炭素材料2aは、導電パスを形成する観点から、正極活物質1、溶媒(図示しない)及びバインダー(図示しない)を含む正極ペースト100質量部に対して添加量が1~10質量部であることが好ましく、1~5質量部であることがさらに好ましい。
繊維状炭素材料2bは、表層側への移動性の観点から、正極活物質1、溶媒及びバインダーを含む正極ペースト100質量部に対して添加量が2質量部以下であることが好ましく、0.1~1質量部であることがさらに好ましい。
【0023】
繊維状炭素材料2aの添加量に対する繊維状炭素材料2bの添加量の比は、繊維状炭素材料2bでセパレータとのずれを抑制しつつ、繊維状炭素材料2aで十分な導電パスを確保するために、0.2~0.3であることが好ましい。
【0024】
集電体3は、金属箔や金属板で構成されている。集電体3には、例えば、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金を用いることができる。
集電体3の厚さは、正極の加工を容易にするために5μm以上30μm以下に設定することが好ましい。
【0025】
溶媒には、例えばイソプロピルアルコール、N-メチルピロリドン(NMP)、水などを用いることができる。
【0026】
バインダーには、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、ポリアクリレートなどを用いることができる。
【0027】
正極層はさらに、分散材を含んでいてもよい。分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリアルキレンポリアミン、ベンゾイミダゾールなどが挙げられる。
【0028】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極10は、繊維状炭素材料2bが正極10の表層側の表面に、集電体3に対して垂直方向に配置されている。これにより、セパレータと正極10との摩擦係数が増大し、セパレータの巻きずれ、積層のずれを抑制できる。
【0029】
また、自由方向に配置された繊維状炭素材料に比べて、表層側の表面で繊維状炭素材料2bが垂直に配置されていることによって、リチウムイオンの移動が阻害されることを抑制でき、リチウムイオンの供給を円滑に行うことができる。また、繊維状炭素材料2bの有する空洞部もリチウムイオンの移動経路となるため、さらにリチウムイオンの供給が円滑に行われる。これにより、リチウムイオンの受け入れ性が向上し、リチウムイオン二次電池の出力を向上させることができる。
【0030】
集電体3側には、繊維状炭素材料2aが正極活物質1と良好な導電パスを形成しており、正極層の抵抗を低減している。これにより、リチウムイオン二次電池の出力を向上させることができる。
【0031】
以上のことから、本実施形態に係る発明により、正極とセパレータとのずれを抑制しつつ、出力を向上させたリチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池を提供できる。
【0032】
第1の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極の製造方法について説明する。
なお、数値範囲を示す「~」は特に断りがない限り、その下限値及び上限値を含むものとする。
【0033】
図2は、第1の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極の製造方法のフローを示した図である。
第1の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極の製造方法は、繊維状炭素材料2aと、正極活物質1、溶媒及びバインダーを含む正極ペーストとを混錬する第1の混錬工程(ステップS1)と、繊維状炭素材料2bを正極ペーストに加えて混錬する第2の混錬工程(ステップS2)と、第2の混錬工程後の正極ペーストを集電体上に塗工する塗工工程(ステップS3)と、塗工工程後の正極ペーストに磁場をかける磁場工程(ステップS4)と、磁場工程後の正極ペーストを乾燥させる乾燥工程(ステップS5)を備える。
【0034】
第1の混錬工程(ステップS1)は、正極活物質1と繊維状炭素材料2aを十分に絡ませるため高粘度で混錬することが好ましい。例えば、粘度は50,000mPa・s以上とすることが好ましく、80,000mPa・s以上とすることがさらに好ましく、200,000mPa・s以下で混錬することが好ましい。
または、第1の混錬工程(ステップS1)における正極ペーストの固形分濃度NV(Non Volatile)を50wt%以上、好ましくは60wt%以上としてもよい。正極活物質1と繊維状炭素材料2aを十分に絡めることで、正極層の導電パスを良好に形成することができる。
【0035】
正極ペーストの正極活物質1、溶媒及びバインダーには上述した材料を用いることができる。正極ペーストには更に、分散剤を含めてもよい。分散剤は上述した材料を用いることができる。
【0036】
第2の混錬工程(ステップS2)における正極ペーストの粘度は500~30,000mPa・sが好ましく、500~10,000mPa・sに調整することがさらに好ましい。正極ペーストの粘度が低すぎると、塗工工程(ステップS3)において正極ペーストを集電体3上に塗工する際に塗工しづらくなる場合がある。また、正極ペーストの粘度が高すぎると、塗工工程(ステップS3)において正極ペーストを集電体3上に塗工した際に、正極ペースト中における繊維状炭素材料2aの流動性が悪くなり、繊維状炭素材料2aによる導電パスの形成が妨げられる場合がある。
【0037】
磁場工程(ステップS4)において、繊維状炭素材料2bが集電体に対して垂直を向くように0.1T以上の磁場を加えることが好ましく、0.3T以上がさらに好ましい。
【0038】
乾燥工程(ステップS5)における乾燥温度は、繊維状炭素材料2bは2aに比べて短いため軽く、溶媒が揮発するときに溶媒と共に表層側に移動する。乾燥温度を高くすることで溶媒の揮発性も向上するため、乾燥温度は100℃以上が好ましく、150℃以上がさらに好ましい。溶媒が揮発するまでの間に、繊維状炭素材料2bが表層側に移動できるように、温度は250℃以下であることが好ましい。
【0039】
乾燥工程(ステップS5)による繊維状炭素材料2a及び2bの移動度合いを示す指標としてバインダーのマイグレーション指数(以下、マイグレ指数)が挙げられる。マイグレ指数は、電極断面を正極10の厚さ方向に2等分した場合における(集電体3から遠い(表層側)のバインダー量)/(集電体3側のバインダー量)で算出される。適切な温度で乾燥することによって、繊維状炭素材料2bを、蒸発する溶媒とともに表層側に移動させることができる。マイグレ指数は、値が大きいほど、繊維状炭素材料2b及びバインダーが表層側に移動していることを示す。マイグレ指数は、繊維状炭素材料2bを表層側に移動させる観点から、2以上であることが好ましい。
【0040】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用正極は、プレス工程を省略することが望ましい。乾燥工程(ステップS5)の後にプレス工程を行うと、磁場工程(ステップS4)にて垂直に配置された繊維状炭素材料2bの配置が乱れる場合があるためである。プレス工程を省略しても、繊維状炭素材料2aを用いていることから、正極層の導電パスは良好に形成される。
【0041】
以上のことから、本実施形態に係る発明により、正極とセパレータとのずれを抑制しつつ、出力を向上させたリチウムイオン二次電池用正極を製造することができる。
【0042】
次に、本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池について説明する。
以下では一例として、捲回電極体を備えるリチウムイオン二次電池について説明する。捲回電極体は、長尺状の正極シート(正極)と長尺状の負極シート(負極)とを長尺状のセパレータを介して積層し、この積層体を捲回し、得られた捲回体を側面方向から押しつぶすことで形成する。正極シートには、上述したリチウムイオン二次電池用正極10を用いることができる。負極シートも正極シートと同様に、箔状の集電体の両面に負極活物質を含む負極層が形成された負極を用いることができる。
【0043】
リチウムイオン二次電池の容器は、上端が開放された扁平な直方体状の容器本体と、その開口部を塞ぐ蓋体とを備える。容器を構成する材料としては、アルミニウム、スチールなどの金属材料が好ましい。または、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリイミド樹脂などの樹脂材料を成形した容器であってもよい。容器の上面(つまり、蓋体)には、捲回電極体の正極と電気的に接続される正極端子および捲回電極体の負極と電気的に接続される負極端子が設けられている。
【0044】
そして、捲回電極体の両端部の正極シートおよび負極シートが露出した部分(正極材層および負極層がない部分)に、正極リード端子および負極リード端子をそれぞれ設け、上述の正極端子および負極端子とそれぞれ電気的に接続する。このようにして作製した捲回電極体を容器本体に収容し、蓋体を用いて容器本体の開口部を封止する。その後、蓋体に設けられた注液孔から電解液を注液し、注液孔を封止キャップで閉塞することにより、リチウムイオン二次電池を作製することができる。
【実施例】
【0045】
次に、本発明の実施例について説明する。
下記の方法を用いて、実施例および比較例にかかるサンプルを作製した。サンプルの作製条件及び測定結果は、以下の表1の通りである。
【0046】
【0047】
(実施例1)
図2に示したフローを用いて、実施例に係るサンプルを作製した。まず、正極活物質としてLiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2を、繊維状炭素材料としてカーボンナノチューブ(CNT)を、バインダーとしてPVdFを、溶媒としてNMPをそれぞれ準備した。このとき使用した正極活物質の粒径(D50)は5~10μmであった。また、カーボンナノチューブは2種類の異なる長さのものとした。実施例1においては、太さ10~20nmで長さ0.8μmの短いCNT(CNT1)と、太さ10~20nmで長さ1.2μmの長いCNT(CNT2)を準備した。また、各々の原料の混合比は、正極活物質を55~60質量%、CNT1を0.1~1質量%、CNT2を0.1~3質量%、バインダーを0.3~2質量%、及び溶媒を30~45質量%とした。
【0048】
まず、正極活物質、バインダー、CNT2、及び溶媒を混錬した(混錬1)。第1の混錬工程における粘度は、95,300mPa・sとした。なお、正極ペーストの粘度は、レオメータ(アントンパール社MCR-302、コーンプレートCP-50-1)を使用し、25℃、せん断速度10-2s-1~103s-1の条件で測定した。
【0049】
次に、混錬した正極ペーストに対し、CNT1を添加し混錬した(混錬2)。第2の混錬工程における粘度は6,400mPa・sとした。CNT1及びCNT2の添加量は、CNT1/CNT2が0.2になるように調整した。
【0050】
第2の混錬工程において混錬した正極ペーストを集電体であるアルミニウム箔に塗工した。塗工後の正極ペーストに磁場を0.3T加えた。その後、乾燥温度150℃の条件で120秒間乾燥し、集電体上に正極層を形成した。このときの正極層の厚さは40~50μmであった。
【0051】
(実施例2)
実施例2は、CNT1の長さを0.5μmとし、第1の混錬工程における粘度を81,000mPa・s、第2の混錬工程における粘度を4,520mPa・sとした以外は、実施例1と同様の処理を行った。
【0052】
(比較例1)
比較例1~3は、CNT2を用いず、1種類のCNTを用いる例である。CNT1のみを用いるため、第2の混錬工程は省略している。
比較例1は、0.5μmのCNT1を用い、第1の混錬工程において粘度7,620mPa・sで混錬した(混錬1)。その後は、実施例1と同様の条件で磁場工程、乾燥工程の処理を行った。
【0053】
(比較例2)
比較例2は、1.2μmのCNT1を用い、第1の混錬工程における粘度は11,700mPa・sとした。その後、実施例1と同様の条件で磁場工程、乾燥工程の処理を行った。
【0054】
(比較例3)
比較例3は、0.8μmのCNT1を用い、第1の混錬工程における粘度は6,490mPa・sとした。その後、実施例1と同様の条件で磁場工程、乾燥工程の処理を行った。
【0055】
<サンプルの評価>
作製したサンプルに対し、セパレータとの摩擦係数及び抵抗値を測定した。セパレータとの摩擦係数は、摩擦係数試験JIS K7125にしたがって、測定した。
抵抗値は、日東精工アナリテック社製(旧三菱ケミカルアナリテック)MCP-T610の抵抗計を用いて測定した。
【0056】
表1より、実施例1(セパレータとの摩擦係数0.60、抵抗値498mΩ)、実施例2(セパレータとの摩擦係数0.62、抵抗値497mΩ)であり、実施例1、2の方が比較例1~3よりも、セパレータとの摩擦係数が高く、抵抗値が低いことが分かる。実施例1,2のように表層側に、CNT1を集電体に対して垂直に配置することによって、電極板とセパレータとの摩擦係数を高くすることができた。さらに、実施例1、2においては、表層側にCNT1を配置することに加え、集電体側にCNT2を配置することで、良好な電導パスを形成し抵抗値も低減することができた。
【0057】
以上のことから、本発明によれば、正極とセパレータとのずれを抑制しつつ、出力を向上させたリチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池、及びリチウムイオン二次電池用正極の製造方法を提供できる。
【0058】
以上、本発明を上記実施の形態に即して説明したが、本発明は上記実施の形態の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0059】
1 正極活物質
2a、2b 繊維状炭素材料
3 集電体
10 正極