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特許7545852スタッドレスタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤ
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  • 特許-スタッドレスタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】スタッドレスタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20240829BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240829BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20240829BHJP
   C08L 23/20 20060101ALI20240829BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K3/04
C08K3/36
C08L23/20
B60C1/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020167686
(22)【出願日】2020-10-02
(65)【公開番号】P2022059837
(43)【公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】進藤 涼平
(72)【発明者】
【氏名】市野 光太郎
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110713646(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0115108(US,A1)
【文献】国際公開第2015/122495(WO,A1)
【文献】特開平08-188673(JP,A)
【文献】特開2018-188601(JP,A)
【文献】国際公開第2012/023607(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,B60C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ジエン系ゴム100質量部に対し、
(B)カーボンブラックおよび/または白色充填剤を30~100質量部、および
(C)エチレン(a)とプロピレン(b)と5-ビニル-2-ノルボルネン(VNB)(c)とに由来する構成単位を有し、
下記要件(i)~(viii)を満たすエチレン・プロピレン・VNB共重合体を1~50質量部配合してなることを特徴とするスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
(i)エチレン/プロピレンのモル比が60/40~80/20である;
(ii)極限粘度[η]が2~4dL/gである。
(iii)VNB(c)に由来する構成単位の重量分率が、エチレン・プロピレン・VNB共重合体100重量%中、1重量%~2重量%である;
(iv)エチレン・プロピレン・VNB共重合体の重量平均分子量(Mw)と、VNB(c)に由来する構成単位の重量分率((c)の重量分率(重量%))と、VNB(c)の分子量((c)の分子量)とが、下記式(1)を満たす;
4.5≦Mw×(c)の重量分率/100/(c)の分子量≦40 … 式(1)
(v)レオメーターを用いて線形粘弾性測定(190℃)により得られた、周波数ω=0.1rad/sでの複素粘度η* (ω=0.1)(Pa・sec)と、周波数ω=100rad/sでの複素粘度η* (ω=100)(Pa・sec)との比P(η* (ω=0.1)/η* (ω=100))と、極限粘度[η]と、VNB(c)に由来する構成単位の重量分率((c)の重量分率)とが、下記式(2)を満たす;
P/([η]2.9)≦(c)の重量分率×6 … 式(2)
(vi)ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との割合(分子量分布;Mw/Mn)が8~30の範囲にある;
(vii)前記数平均分子量(Mn)が30,000以下である;
(viii)GPC測定によって得られるチャートが2つ以上のピークを示し、最も分子量が小さい側に現れるピークの面積が、全体のピーク面積の1~20%の範囲である。
【請求項2】
前記白色充填剤が、シリカであることを特徴とする請求項1に記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記(A)ジエン系ゴムのガラス転移温度(Tg)が、-50℃以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物を使用したスタッドレスタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタッドレスタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤに関するものであり、詳しくは、従来技術よりもさらに氷上性能を向上させ得るスタッドレスタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
氷雪路面では、一般路面に比べて摩擦係数が低下し、滑りやすくなる。そこで従来、スタッドレスタイヤの氷上性能(氷上での制動性)を向上させるために数多くの手法が提案されている。例えば、ゴムに硬質異物や中空ポリマーを配合し、これによりゴム表面にミクロな凹凸を形成することによって氷の表面に発生する水膜を除去し、氷上摩擦を向上させる手法が知られている(例えば特許文献1参照)。一方で、低温柔軟性を有するゴムを使用する等の手法もある。
【0003】
しかし、さらなる氷上性能の向上が当業界で要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-35736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の目的は、従来技術に比べ氷上性能をさらに向上させ得るスタッドレスタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ジエン系ゴムに、カーボンブラックおよび/または白色充填剤を配合するとともに、エチレン・プロピレン・VNB共重合体を特定量でもって配合したゴム組成物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
【0007】
本発明は、(A)ジエン系ゴム100質量部に対し、
(B)カーボンブラックおよび/または白色充填剤を30~100質量部、および
(C)エチレン(a)とプロピレン(b)と5-ビニル-2-ノルボルネン(VNB)(c)とに由来する構成単位を有し、
下記要件(i)~(viii)を満たすエチレン・プロピレン・VNB共重合体を1~50質量部配合してなることを特徴とするスタッドレスタイヤ用ゴム組成物を提供するものである。
(i)エチレン/プロピレンのモル比が60/40~80/20である;
(ii)極限粘度[η]が2~4dL/gである。
(iii)VNB(c)に由来する構成単位の重量分率が、エチレン・プロピレン・VNB共重合体100重量%中、1重量%~2重量%である;
(iv)エチレン・プロピレン・VNB共重合体の重量平均分子量(Mw)と、VNB(c)に由来する構成単位の重量分率((c)の重量分率(重量%))と、VNB(c)の分子量((c)の分子量)とが、下記式(1)を満たす;
4.5≦Mw×(c)の重量分率/100/(c)の分子量≦40 … 式(1)
(v)レオメーターを用いて線形粘弾性測定(190℃)により得られた、周波数ω=0.1rad/sでの複素粘度η* (ω=0.1)(Pa・sec)と、周波数ω=100rad/sでの複素粘度η* (ω=100)(Pa・sec)との比P(η* (ω=0.1)/η* (ω=100))と、極限粘度[η]と、VNB(c)に由来する構成単位の重量分率((c)の重量分率)とが、下記式(2)を満たす;
P/([η]2.9)≦(c)の重量分率×6 … 式(2)
(vi)ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との割合(分子量分布;Mw/Mn)が8~30の範囲にある;
(vii)前記数平均分子量(Mn)が30,000以下である;
(viii)GPC測定によって得られるチャートが2つ以上のピークを示し、最も分子量が小さい側に現れるピークの面積が、全体のピーク面積の1~20%の範囲である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物は、(A)ジエン系ゴム100質量部に対し、(B)カーボンブラックおよび/または白色充填剤を30~100質量部、および(C)エチレン・プロピレン・VNB共重合体を1~50質量部配合してなることを特徴としているので、従来技術よりもさらに氷上性能を向上させ得るゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤを提供することができる。
本発明における上記効果の作用機序としては、例えば前記(C)成分のエチレン・プロピレン・VNB共重合体が末端にビニル基を有し、その末端ビニル基が硫黄架橋に関与しないことから加硫ゴム中に未加硫部分として存在し、ゴムの低温柔軟性を向上させている可能性が推察される。一方で、前記(C)成分の末端ビニル基は例えばシランカップリング剤とは反応し、ゴム中でのシリカのような白色充填剤の分散性を高めることができ、これにより氷上性能が向上するものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例で用いた連続重合装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
(A)ジエン系ゴム
本発明で使用されるジエン系ゴムは、ゴム組成物に配合することができる任意のジエン系ゴムを用いることができ、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、その分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。
なお、本発明で言う(A)ジエン系ゴムは、下記で説明する(C)エチレン・プロピレン・VNB共重合体を含まないものとする。
また、(A)ジエン系ゴムは、ガラス転移温度(Tg)が-50℃以下であることが好ましい。このようにTgを規定することにより、氷上性能が向上する。
なおジエン系ゴムが複数種類含まれる場合において、本明細書で言うTgは、各ゴムのガラス転移温度に、各ゴムの重量分率を乗じた積の合計、すなわち加重平均に基づき算出される値とする。なお計算時には各成分の重量分率の合計を1.0とする。本発明で言うガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC)により20℃/分の昇温速度条件によりサーモグラムを測定し、転移域の中点の温度を指すものとする。
さらに好ましい前記平均Tgは、-60℃以下である。
【0011】
(B)カーボンブラックおよび/または白色充填剤
本発明に使用されるカーボンブラックとしては、具体的には、例えば、SAF、ISAF、HAF、FEF、GPE、SRF等のファーネスカーボンブラックが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、カーボンブラックは、氷上性能向上の観点から、窒素吸着比表面積(NSA)が10~300m/gであるのが好ましく、50~150m/gであるのがさらに好ましい。
なお窒素吸着比表面積(NSA)は、JIS K 6217-2:2001「第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」にしたがって測定した値である。
【0012】
本発明に使用される白色充填剤としては、具体的には、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸カルシウム等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、氷上性能がより良好となる理由から、シリカが好ましい。
【0013】
シリカとしては、具体的には、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
シリカは、氷上性能向上の観点から、CTAB吸着比表面積が50~300m/gであるのが好ましく、90~200m/gであるのがさらに好ましい。
なお、CTAB吸着比表面積は、シリカ表面への臭化n-ヘキサデシルトリメチルアンモニウムの吸着量をJIS K6217-3:2001「第3部:比表面積の求め方-CTAB吸着法」にしたがって測定した値である。
【0015】
(C)エチレン・プロピレン・VNB共重合体
本発明に使用されるエチレン・プロピレン・VNB共重合体は、エチレン(a)とプロピレン(b)と5-ビニル-2-ノルボルネン(VNB)(c)とに由来する構成単位を有し、下記要件(i)~(viii)を満たすことを特徴とする。
【0016】
(i)エチレン/プロピレンのモル比が60/40~80/20である。この要件(i)を満たすことにより、耐熱性、耐寒性および耐摩耗性に優れる。なお、該モル比は、13C-NMRにより求めることができる。
【0017】
(ii)極限粘度[η]が2~4dL/gである。この要件(ii)を満たすことにより、機械特性に優れる。
【0018】
(iii)VNB(c)に由来する構成単位の重量分率が、エチレン・プロピレン・VNB共重合体100重量%中、1重量%~2重量%である。この要件(iii)を満たすことにより、充分な硬度を有し、機械特性に優れたものとなる。
【0019】
(iv)エチレン・プロピレン・VNB共重合体の重量平均分子量(Mw)と、VNB(c)に由来する構成単位の重量分率((c)の重量分率(重量%))と、VNB(c)の分子量((c)の分子量)とが、下記式(1)を満たす。
4.5≦Mw×(c)の重量分率/100/(c)の分子量≦40 … 式(1)
この要件(iv)を満たすことにより、機械特性に優れたものとなる。
【0020】
(v)レオメーターを用いて線形粘弾性測定(190℃)により得られた、周波数ω=0.1rad/sでの複素粘度η* (ω=0.1)(Pa・sec)と、周波数ω=100rad/sでの複素粘度η* (ω=100)(Pa・sec)との比P(η* (ω=0.1)/η* (ω=100))と、極限粘度[η]と、VNB(c)に由来する構成単位の重量分率((c)の重量分率)とが、下記式(2)を満たす;
P/([η]2.9)≦(c)の重量分率×6 … 式(2)
本発明において、P値は、粘弾性測定装置Ares(Rheometric Scientific社製)を用い、190℃、歪み1.0%、周波数を変えた条件で測定を行って求めた、0.1rad/sでの複素粘度と、100rad/sでの複素粘度とから、比(η*比)を求めたものである。なお、極限粘度[η]は、135℃のデカリン中で測定された値を意味する。
【0021】
(vi)ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との割合(分子量分布;Mw/Mn)が8~30の範囲にある。この要件(vi)を満たすことにより、加工性に優れたものとなる。
【0022】
(vii)前記数平均分子量(Mn)が30,000以下であり、好ましくは3,000~26,000である。この要件(vii)を満たすことにより、加工性に優れたものとなる。
【0023】
(viii)GPC測定によって得られるチャートが2つ以上のピークを示し、最も分子量が小さい側に現れるピークの面積が、全体のピーク面積の1~20%の範囲であり、好ましくは2~18%である。この要件(viii)を満たすことにより、加工性に優れたものとなる。
【0024】
エチレン・プロピレン・VNB共重合体の製造方法
エチレン・プロピレン・VNB共重合体は、上記要件(i)~(viii)を満たす限りにおいて、どのような製法で調製されてもよいが、エチレン・プロピレン・VNB共重合体の製造方法としては、例えば特開2020-63381号公報等に開示され公知である。すなわち、下記一般式[A1]で表される化合物から選ばれる少なくとも1種のメタロセン化合物を含有する重合触媒系の存在下に、モノマーを共重合する方法が挙げられる。モノマーの共重合を、このようなメタロセン化合物を含む重合触媒系を用いて行うと、得られる共重合体中に含有される長鎖分岐が抑制され、上記要件を満たすエチレン・プロピレン・VNB共重合体を容易に調製することができる。
【0025】
【化1】
【0026】
式[A1]中、R1、R2、R3、R4、R5、R8、R9およびR12はそれぞれ独立に水素原子、炭化水素基、ケイ素含有基またはケイ素含有基以外のヘテロ原子含有基を示し、R1~R4のうち隣接する二つの基同士は互いに結合して環を形成していてもよい。R6およびR11は水素原子、炭化水素基、ケイ素含有基およびケイ素含有基以外のヘテロ原子含有基から選ばれる同一の原子または同一の基であり、R7およびR10は水素原子、炭化水素基、ケイ素含有基およびケイ素含有基以外のヘテロ原子含有基から選ばれる同一の原子または同一の基であり、R6およびR7は互いに結合して環を形成していてもよく、R10およびR11は互いに結合して環を形成していてもよい。ただし、R6、R7、R10およびR11が全て水素原子であることはない。R13およびR14はそれぞれ独立にアリール基を示す。M1はジルコニウム原子を示す。Y1は炭素原子またはケイ素原子を示す。Qはハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、炭素原子数4~20の中性の共役もしくは非共役ジエン、アニオン配位子または孤立電子対で配位可能な中性配位子を示し、jは1~4の整数を示し、jが2以上の整数の場合は複数あるQはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0027】
上記式[A1]で表されるメタロセン化合物は、特に限定されることなく任意の方法で製造することができる。例えば、J.Organomet.Chem.,63,509(1996)、WO2005/100410号公報、WO2006/123759号公報、WO01/27124号公報、特開2004-168744号公報、特開2004-175759号公報、特開2000-212194号公報などに記載の方法等に準拠して製造することができる。
【0028】
エチレン・プロピレン・VNB共重合体の製造に好適に用いることのできる重合触媒としては、前述のメタロセン化合物[A1]を含み、モノマーを共重合できるものが挙げられる。例えば、(a)前記一般式[A1]で表されるメタロセン化合物と、(b)(b-1)有機金属化合物、(b-2)有機アルミニウムオキシ化合物、および(b-3)該メタロセン化合物(a)と反応してイオン対を形成する化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物と、さらに必要に応じて、(c)粒子状担体とから構成される重合触媒が挙げられる。エチレン・プロピレン・VNB共重合体を製造する方法は、溶液(溶解)重合、懸濁重合などの液相重合法または気相重合法のいずれにおいても実施可能であり、上記各成分および重合条件についても、例えば特開2020-63381号公報等に開示され公知である。
【0029】
(シランカップリング剤)
本発明のゴム組成物は、シランカップリング剤を含むことができる。シランカップリング剤としては、とくに制限されないが、含硫黄シランカップリング剤が好ましく、例えばビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等を例示することができる。シランカップリング剤は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0030】
(熱膨張性マイクロカプセル)
本発明のゴム組成物は、熱膨張性マイクロカプセルを含むことができる。熱膨張性マイクロカプセルは、熱可塑性樹脂で形成された殻材中に、熱膨張性物質を内包した構成からなる。熱膨張性マイクロカプセルの殻材はニトリル系重合体により形成することができる。
またマイクロカプセルの殻材中に内包する熱膨張性物質は、熱によって気化または膨張する特性をもち、例えば、イソアルカン、ノルマルアルカン等の炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種類が例示される。イソアルカンとしては、イソブタン、イソペンタン、2-メチルペンタン、2-メチルヘキサン、2,2,4-トリメチルペンタン等を挙げることができ、ノルマルアルカンとしては、n-ブタン、n-プロパン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン等を挙げることができる。これらの炭化水素は、それぞれ単独で使用しても複数を組み合わせて使用してもよい。熱膨張性物質の好ましい形態としては、常温で液体の炭化水素に、常温で気体の炭化水素を溶解させたものがよい。このような炭化水素の混合物を使用することにより、未加硫タイヤの加硫成形温度域(150℃~190℃)において、低温領域から高温領域にかけて十分な膨張力を得ることができる。
このような熱膨張性マイクロカプセルとしては、例えばスェーデン国エクスパンセル社製の商品名「EXPANCEL 091DU-80」または「EXPANCEL 092DU-120」等、或いは松本油脂製薬社製の商品名「マツモトマイクロスフェアー F-85D」または「マツモトマイクロスフェアー F-100D」等を使用することができる。
【0031】
(ゴム組成物の配合割合)
本発明のゴム組成物は、(A)ジエン系ゴム100質量部に対し、(B)カーボンブラックおよび/または白色充填剤を30~100質量部、および(C)エチレン・プロピレン・VNB共重合体を1~50質量部配合してなることを特徴とする。
(A)ジエン系ゴム100質量部に対し、カーボンブラックおよび/または白色充填剤の前記配合量が30質量部未満では、ゴム組成物の機械的特性や耐摩耗性が悪化し、逆に100質量部を超えるとゴム組成物の低温柔軟性が低下して氷上性能が悪化する。
(A)ジエン系ゴム100質量部に対し、エチレン・プロピレン・VNB共重合体の配合量が1質量部未満では、添加量が少な過ぎて本発明の効果を奏することができず、逆に50質量部を超えると機械的特性や加工性が低下する。
【0032】
前記カーボンブラックの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、5~80質量部が好ましい。
前記白色充填剤の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、15~80質量部が好ましい。
前記エチレン・プロピレン・VNB共重合体の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、5~30質量部が好ましい。
【0033】
また、シランカップリング剤を配合する場合、その配合量は、シリカに対し、3~20質量%が好ましく、3~15質量%がさらに好ましい。
また、熱膨張性マイクロカプセルを配合する場合、その配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、2~15質量部が好ましい。
【0034】
(その他成分)
本発明におけるゴム組成物には、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤;加硫又は架橋促進剤;酸化亜鉛;老化防止剤;可塑剤などのゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
加硫剤として硫黄を配合する場合、その配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、0.5~5質量部が好ましい。
【0035】
また本発明のゴム組成物は従来の空気入りタイヤの製造方法に従って空気入りタイヤを製造するのに適しており、トレッド、とくにキャップトレッドに適用し、スタッドレスタイヤとするのがよい。
【実施例
【0036】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。なお、下記例中、「部」とあるのは「質量部」を意味する。
【0037】
(調製例1:エチレン・プロピレン・VNB共重合体の調製)
<エチレン・プロピレン・VNB共重合体の組成>
エチレン・プロピレン・VNB共重合体の、各構成単位の重量分率(重量%)は、13C-NMRによる測定値により求めた。測定値は、ECX400P型核磁気共鳴装置(日本電子製)を用いて、測定温度:120℃、測定溶媒:オルトジクロロベンゼン/重水素化ベンゼン=4/1、積算回数:8000回にて、共重合体の13C-NMRのスペクトルを測定して得た。
【0038】
<極限粘度>
極限粘度[η]は、(株)離合社製 全自動極限粘度計を用いて、温度:135℃、測定溶媒:デカリンにて測定した。
【0039】
<重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)>
重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数値である。測定装置および条件は、以下のとおりである。また、分子量は、市販の単分散ポリスチレンを用いて検量線を作成し、換算法に基づいて算出した。
【0040】
装置:ゲル透過クロマトグラフ Alliance GP2000型(Waters社製)、
解析装置:Empower2(Waters社製)、
カラム:TSKgel GMH6-HT×2+TSKgel GMH6-HTL×2(7.5mmI.D.×30cm、東ソー社製)、
カラム温度:140℃、
移動相:o-ジクロロベンゼン(0.025%BHT含有)、
検出器:示差屈折計(RI)、流速:1.0mL/min、
注入量:400μL、
サンプリング時間間隔:1s、
カラム較正:単分散ポリスチレン(東ソー社製)、
分子量換算:旧法EPR換算/粘度を考慮した較正法。
【0041】
上記のGPC測定によって得られたチャートから、ピークの数を測定し、2つ以上のピークを示した場合、全体のピーク面積に対する、最も分子量が小さい側に現れたピークの面積の割合(%)を調べた。
【0042】
<複素粘度η*
レオメーターとして、粘弾性測定装置Ares(Rheometric Scientific社製)を用い、190℃、歪み1.0%の条件で、周波数ω=0.01rad/sでの複素粘度η* (ω=0.01)、周波数ω=0.1rad/sでの複素粘度η* (ω=0.1)、周波数ω=10rad/sでの複素粘度η* (ω=10)および周波数ω=100rad/sでの複素粘度η* (ω=100)(いずれも単位はPa・sec)を測定した。また、得られた結果よりη* (ω=0.1)とη* (ω=100)との複素粘度の比(η*比)であるP値(η* (ω=0.1)/η* (ω=100))を算出した。
【0043】
エチレン・プロピレン・VNB共重合体の調製
図1に示す連続重合装置を用いて、以下のようにしてエチレン・プロピレン・VNB共重合体の製造を行った。
【0044】
容積300リットルの重合反応器Cに、管6より脱水精製したヘキサン溶媒を58.3L/hr、管7よりトリイソブチルアルミニウム(TiBA)を4.5mmol/hr、(C65)3CB(C65)4を0.150mmol/hr、ジ(p-トリル)メチレン(シクロペンタジエニル)(オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリドを0.030mmol/hrで連続的に供給した。同時に重合反応器C内に、エチレンを6.6kg/hr、プロピレンを9.3kg/hr、水素を18リットル/hr、VNBを340g/hrで、各々管2、3、4、5より連続供給し、重合温度87℃、全圧1.6MPaG、滞留時間1.0時間の条件下で共重合を行なった。
【0045】
重合反応器Cで生成したエチレン・プロピレン・VNB共重合体の溶液を、管8を介して流量88.0リットル/hrで連続的に排出して温度170℃に昇温(圧力は4.1MPaGに上昇)して相分離器Dに供給した。このとき、管8には重合禁止剤であるエタノールを、重合反応器Cから抜き出した液体成分中のTiBAに対して0.1mol倍の量で連続的に導入した。
【0046】
相分離器Dにおいて、エチレン・プロピレン・VNB共重合体の溶液を、大部分のエチレン・プロピレン・VNB共重合体を含む濃厚相(下相部)と少量のポリマーを含む希薄相(上相部)とに分離した。
【0047】
分離された濃厚相を85.4リットル/hrで、管11を介して熱交換器Kに導き、さらにホッパーE内に導いて、ここで溶媒を蒸発分離し、エチレン・プロピレン・VNB共重合体を7.8kg/hrの量で得た。
【0048】
得られたエチレン・プロピレン・VNB共重合体の物性を上記の通り評価した。結果を下記に示す。なお、得られた共重合体の分子量分布は二峰性を示した。
【0049】
(i)エチレン/プロピレンのモル比=64/36。
(ii)極限粘度[η]=2.6dL/g。
(iii)VNB(c)に由来する構成単位の重量分率は、エチレン・プロピレン・VNB共重合体100重量%中、1.5質量%であった。
(iv)Mw×(c)の重量分率/100/(c)の分子量=37.3
(v)P/([η]2.9)=5.3であり、(c)の重量分率×6=8.9であった。
(vi)Mw/Mn=22.9
(vii)Mn=13300
(viii)GPC測定によって得られるチャートが2つ以上のピークを示し、最も分子量が小さい側に現れるピークの面積が、全体のピーク面積の10%の範囲であった。
【0050】
標準例、実施例1~2、比較例1~2
表1に示す配合(質量部)において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練した後、加硫促進剤および硫黄を加えてさらに混練し、ゴム組成物を得た。次に得られた未加硫のゴム組成物を所定の金型中で160℃、20分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を得、以下に示す試験法で加硫ゴム試験片の物性を測定した。
【0051】
氷上性能:得られた加硫ゴム試験片を偏平円柱状の台ゴムに貼り付け、インサイドドラム型氷上摩擦試験機を用いて、測定温度-3.0℃、荷重5.5kg/cm、ドラム回転速度25km/hの条件で氷上摩擦係数を測定した。得られた氷上摩擦係数を、標準例の値を100として指数で示した。指数が大きいほど氷上摩擦力が大きく氷上性能に優れることを意味する。
結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
*1:NR(RSS#3)
*2:BR(日本ゼオン株式会社製Nipol BR1220)
*3:カーボンブラック(東海カーボン株式会社製シーストKHA)
*4:シリカ(ローディア社製Zeosil 1165MP、CTAB比表面積=159m/g)
*5:シランカップリング剤(エボニックデグッサ社製Si69、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
*6:オイル(昭和シェル石油株式会社製エキストラクト4号S)
*7:EPDM(三井化学社製商品名三井EPT4070)
*8:エチレン・プロピレン・VNB共重合体(上記のようにして調製されたエチレン・プロピレン・VNB共重合体)
*9:硫黄(鶴見化学工業株式会社製金華印油入微粉硫黄)
*10:加硫促進剤CZ(大内新興化学工業(株)製ノクセラーCZ-G)
【0054】
表1の結果から、各実施例のゴム組成物は、(A)ジエン系ゴム100質量部に対し、(B)カーボンブラックおよび/または白色充填剤を30~100質量部、および(C)エチレン・プロピレン・VNB共重合体を1~50質量部配合してなるものであるので、標準例に比べて、氷上性能が向上している。
これに対し、比較例1、2は、エチレン・プロピレン・VNB共重合体の代わりにEPDMを配合した例であるので、氷上性能の改善の度合いが乏しい結果となった。
【符号の説明】
【0055】
C 重合反応器
D 相分離器
E ホッパー
F ポンプ
G 熱交換器
H 熱交換器
I 熱交換器
J 熱交換器
K 熱交換器
図1