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特許7545871時計用部品とその製造方法、ムーブメントおよび時計
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】時計用部品とその製造方法、ムーブメントおよび時計
(51)【国際特許分類】
   G04B 15/14 20060101AFI20240829BHJP
   G04B 13/02 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
G04B15/14
G04B13/02 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020196739
(22)【出願日】2020-11-27
(65)【公開番号】P2021144024
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2020041663
(32)【優先日】2020-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502366745
【氏名又は名称】セイコーウオッチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】中村 敬彦
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-010888(JP,A)
【文献】特開2017-193604(JP,A)
【文献】特開2003-096301(JP,A)
【文献】特開2018-025699(JP,A)
【文献】特開平10-301497(JP,A)
【文献】特開2001-240846(JP,A)
【文献】特開2001-112517(JP,A)
【文献】特開2007-275548(JP,A)
【文献】中国実用新案第211207078(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんぎ歯車部、アンクル体、香箱車、二番車、三番車および四番車から選ばれる少なくとも1種であり、厚さが100~200μmである時計用部品であって、
無機元素(Me)と酸素(O)とを含む無機高分子材からなる、時計用部品。
【請求項2】
前記無機元素(Me)と前記酸素(O)とのモル比(Me:O)が1:2~1:1である、請求項1に記載の時計用部品。
【請求項3】
前記無機高分子材がアルキル基をさらに含む、請求項1または2に記載の時計用部品。
【請求項4】
前記無機高分子材がフッ素樹脂をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の時計用部品。
【請求項5】
前記無機高分子材が無機粉末をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の時計用部品。
【請求項6】
前記無機粉末が前記無機高分子材中で等間隔に分散している、請求項5に記載の時計用部品。
【請求項7】
前記無機高分子材が着色剤をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の時計用部品。
【請求項8】
前記無機高分子材が無色透明である、請求項1~5のいずれか一項に記載の時計用部品。
【請求項9】
インサート成形品である、請求項1~8のいずれか一項に記載の時計用部品。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の時計用部品を備えた、ムーブメント。
【請求項11】
請求項10に記載のムーブメントを備えた、時計。
【請求項12】
がんぎ歯車部、アンクル体、香箱車、二番車、三番車および四番車から選ばれる少なくとも1種であり、厚さが100~200μmである時計用部品を製造する方法であって、
無機元素(Me)およびアルコキシ基を含む化合物と、水と、触媒とを含む混合物を加熱してゾルを得た後に、得られたゾルを加熱して硬化する、時計用部品の製造方法。
【請求項13】
前記混合物がフッ素樹脂をさらに含む、請求項12に記載の時計用部品の製造方法。
【請求項14】
前記混合物が無機粉末をさらに含む、請求項12または13に記載の時計用部品の製造方法。
【請求項15】
前記無機粉末を前記混合物中に等間隔に分散させる、請求項14に記載の時計用部品の製造方法。
【請求項16】
前記混合物が着色剤をさらに含む、請求項12~15のいずれか一項に記載の時計用部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計用部品とその製造方法、ムーブメントおよび時計に関する。
【背景技術】
【0002】
腕時計を構成する部品は、一般的に炭素鋼や真鍮等の金属材料を加工したものである。時計の精度を向上させる方法として、部品の軽量化や非磁性化が有効であることが知られている。
例えば特許文献1には、母体が軽量非金属素材である単結晶シリコンで構成され、その表面全体を金属とシリコンとの合金膜、または酸化膜と合金層との積層膜で被覆した部品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-79234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、シリコンは脆性材料であることから、シリコンを時計用部品として用いる場合には、特許文献1に記載されているように、シリコンからなる母体の表面を合金膜、または酸化膜と合金膜との積層膜で被覆する必要があり、手間がかかる。
そのため、シリコン部品に代わる、軽量化および非磁性化が可能な時計用部品が求められている。
【0005】
本発明の一態様は、軽量化および非磁性化が可能な時計用部品、ムーブメントおよび時計を提供することを目的とする。
本発明の一態様は、軽量化および非磁性化が可能な時計用部品を簡易に製造できる時計用部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、無機元素(Me)と酸素(O)とを含む無機高分子材からなる、時計用部品を提供する。
この構成によれば、軽量化および非磁性化が可能となる。
【0007】
前記無機元素(Me)と前記酸素(O)とのモル比(Me:O)が1:2~1:1であることが好ましい。
この構成によれば、無機高分子材が適度な硬さとなる。よって、本発明の時計用部品をある程度の硬さが求められる部品、例えばがんぎ歯車部やアンクル体として最適に使用できる。
【0008】
前記無機高分子材がアルキル基をさらに含むことが好ましい。
【0009】
前記無機高分子材がフッ素樹脂をさらに含むことが好ましい。
この構成によれば、摺動時にフッ素樹脂が時計用部品の表面に露出しやすくなり、耐摩耗性が向上する。
【0010】
前記無機高分子材が無機粉末をさらに含むことが好ましい。
前記無機粉末が前記無機高分子材中で等間隔に分散していることが好ましい。
この構成によれば、ゾルゲル反応領域を減らすことができるので成形時(ゾルの硬化時)の収縮量を低減でき、ヒケを抑制できる。特に、無機粉末が無機高分子材中で等間隔に分散していれば、ブラッグの法則により光の特定波長が反射し、時計用部品が着色しているように見え、外観が向上する。
【0011】
前記無機高分子材が着色剤をさらに含むことが好ましい。
この構成によれば、時計用部品が着色するので、外観が向上する。
【0012】
前記無機高分子材が無色透明であることが好ましい。
前記時計用部品は、インサート成形品であってもよい。
無機高分子材が無色透明であれば、本発明の時計用部品を例えばミステリーウォッチ用の部品としても適用できる。
【0013】
本発明の一態様は、前記時計用部品を備えたムーブメントを提供する。
この構成によれば、前記時計用部品を備えているため、軽量である。
【0014】
本発明の一態様は、前記ムーブメントを備えた時計を提供する。
この構成によれば、前記時計用部品を備えているため、軽量である。
【0015】
本発明の一態様は、無機元素(Me)およびアルコキシ基を含む化合物と、水と、触媒とを含む混合物を加熱してゾルを得た後に、得られたゾルを加熱して硬化する、時計用部品の製造方法を提供する。
この構成によれば、軽量化および非磁性化が可能な時計用部品を簡易に製造できる。
【0016】
前記混合物がフッ素樹脂をさらに含むことが好ましい。
この構成によれば、摺動時にフッ素樹脂が時計用部品の表面に露出しやすくなり、耐摩耗性が向上する。
【0017】
前記混合物が無機粉末をさらに含むことが好ましい。
前記無機粉末を前記混合物中に等間隔に分散させることが好ましい。
この構成によれば、ゾルゲル反応領域を減らすことができるので成形時(ゾルの硬化時)の収縮量を低減でき、ヒケを抑制できる。特に、無機粉末を混合物中に等間隔に分散させれば、ブラッグの法則により光の特定波長が反射し、時計用部品が着色しているように見え、外観が向上する。
【0018】
前記混合物が着色剤をさらに含むことが好ましい。
この構成によれば、時計用部品が着色するので、外観が向上する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、軽量化および非磁性化が可能な時計用部品、ムーブメントおよび時計を提供できる。
本発明の一態様によれば、軽量化および非磁性化が可能な時計用部品を簡易に製造できる時計用部品の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る時計用部品の一例であるがんぎ歯車部の一形態を示す斜視図である。
図2】本発明に係る時計用部品の他の例であるアンクル体の一形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[時計用部品]
本発明の一態様の時計用部品は、無機元素(Me)と酸素(O)とを含む無機高分子材からなる。時計用部品が前記無機高分子材からなることにより、軽量化および非磁性化が可能となる。加えて、プラスチック等の有機材料からなる時計用部品と比べて耐候性にも優れる。
なお、本発明において「高分子」とは、質量平均分子量が5000以上であることを意味する。無機高分子材の質量平均分子量は1万以上が好ましく、10万以上がより好ましい。
【0022】
無機高分子材における無機元素(Me)と酸素(O)とのモル比(Me:O)は1:2~2:1が好ましい。前記モル比が上記範囲内であれば、無機高分子材が適度な硬さとなる。よって、本発明の時計用部品をある程度の硬さが求められる部品、例えばがんぎ歯車部やアンクル体として最適に使用できる。
【0023】
無機高分子材における無機元素(Me)としては、例えばケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)などが挙げられる。これらの中でも、無機高分子材が無色透明となる観点では、ケイ素、アルミニウムが好ましい。
無機高分子材が無色透明であれば、時計用部品を例えばミステリーウォッチ用の部品としても適用できる。
ここで、「無色透明」とは、無色であり、かつ可視光領域の光のうちの少なくとも一部の波長域の光に対して透過性を有することを意味する。
【0024】
無機高分子材は、アルキル基をさらに含んでいてもよい。
アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基などが挙げられる。
【0025】
無機高分子材としては、下記分子式(1)で表される構造単位(1)、下記分子式(2)で表される構造単位(2)、下記分子式(3)で表される構造単位(3)、下記分子式(4)で表される構造単位(4)および下記分子式(5)で表される構造単位(5)からなる群より選ばれる1種以上の構造単位からなる化合物が挙げられる。
-(MeO)- ・・・(1)
-(Me )- ・・・(2)
-(Me )- ・・・(3)
-(Me (2n-2))- ・・・(4)
-(MeR O)- ・・・(5)
【0026】
分子式(1)~(5)中、Meは無機元素であり、Oは酸素元素である。
分子式(2)中、Rは一価の炭化水素基である。分子式(2)において、2つのRは同じであってもよいし、異なっていてもよい。
分子式(3)中、Rは一価の炭化水素基であり、Rは二価の連結基である。分子式(3)において、6つのRは同じであってもよいし、異なっていてもよい。
分子式(4)中、Rは一価の炭化水素基であり、Rは二価の連結基である。nは2~100の数である。分子式(4)において、(2n-2)個のRは同じであってもよいし、異なっていてもよい。
分子式(5)中、Rは一価の炭化水素基である。分子式(5)において、2つのRは同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0027】
、R、RおよびRの炭化水素基としては、それぞれアルキル基、アリール基などが挙げられる。
アルキル基の炭素数は1~18が好ましく、1~14がより好ましく、1~10がさらに好ましく、1~8が特に好ましい。
アリール基の炭素数は6~10が好ましく、6~8がより好ましい。
、R、RおよびRの炭化水素基の炭素数が増えるほど、無機高分子材が柔らかくなり、割れにくくなる傾向にある。
【0028】
およびRの連結基としては、それぞれ二価の炭化水素基などが挙げられる。
二価の炭化水素基としては、アルキレン基、アリーレン基などが挙げられる。
アルキレン基の炭素数は2~18が好ましく、2~14がより好ましく、2~10がさらに好ましく、2~8が特に好ましい。
アリーレン基の炭素数は6~10が好ましく、6~8がより好ましい。
【0029】
無機高分子材は、構造単位(1)~(5)のうちのいずれか1つの構造単位のみからなる化合物でもよいし、構造単位(1)~(5)のうちの2つ以上の構造単位からなる化合物でもよい。また、無機高分子材は、構造単位(1)~(5)のうちの1つ以上の構造単位からなる化合物の混合物でもよい。
【0030】
無機高分子材は、フッ素樹脂をさらに含んでいてもよい。
無機高分子材がフッ素樹脂をさらに含んでいれば、摺動時にフッ素樹脂が時計用部品の表面に露出しやすくなり、耐摩耗性が向上する。
【0031】
フッ素樹脂としては、例えばテトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、フッ化ビニリデン(VDF)、フッ化ビニル、パーフルオロアルキルビニルエーテル等のフッ素系モノマーの単独重合体または共重合体、これらフッ素系モノマーとオレフィン類との共重合体などが挙げられる。これらの中でも、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)が好ましい。
これらフッ素樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
フッ素樹脂は粉末状でもよいし、液状でもよいが、均一に分散しやすい観点から粉末状が好ましい。
フッ素樹脂が粉末状の場合、フッ素樹脂の平均粒子径は0.1~1μmが好ましく、0.2~0.3μmがより好ましい。
【0033】
フッ素樹脂の含有量は、無機高分子材の総質量に対して1~50質量%が好ましく、20~30質量%がより好ましい。フッ素樹脂の含有量が上記下限値以上であれば、耐摩耗性がより向上する。フッ素樹脂の含有量が上記上限値以下であれば、硬化時の反応がスムーズに進み、フッ素樹脂が分散した状態の時計用部品が得られやすくなる。
【0034】
無機高分子材は、無機粉末をさらに含んでいてもよい。
詳しくは後述するが、時計用部品はゾルゲル法により製造できる。無機高分子材が無機粉末をさらに含んでいれば、ゾルゲル反応領域を減らすことができるので、成形時(ゾルの硬化時)の収縮量を低減できる。その結果、ヒケ、すなわち成形品の表面が収縮することで生じる凹みや窪みを抑制できる。
【0035】
無機粉末は、無機高分子材中、すなわち時計用部品中で等間隔に分散していることが好ましい。
無機粉末が等間隔に分散していれば、ブラッグの法則により光の特定波長が反射し、時計用部品が着色しているように見え、外観が向上する。
ここで、「等間隔に分散している」とは、時計用部品を任意の断面で観察したときに、その断面上で無機粉末が等間隔に存在していることを意味する。
【0036】
無機粉末としては、例えばガラス粉末;アルミナ、マグネシア、カルシア、コーディエライト、シリカ、ムライト、ジルコン、ジルコニア、チタニア等のセラミック粉末;金、銀、銅、アルミニウム、ケイ素等の反磁性体等の金属粉末などが挙げられる。これらの中でも、ガラス粉末、セラミック粉末が好ましく、シリカがより好ましい。
これら無機粉末は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
無機粉末は球状であってもよいし、他の形状であってもよいが、均一に分散しやすい観点から球状が好ましい。
無機粉末の平均粒子径は0.01~20μmが好ましく、0.2~0.5μmがより好ましい。
【0038】
成形時の収縮量の低減の観点では、無機粉末の含有量は、無機高分子材の総質量に対して1~50質量%が好ましく、20~30質量%がより好ましい。無機粉末の含有量が上記下限値以上であれば、成形時の収縮量を充分に低減できる。無機粉末の含有量が上記上限値以下であれば、詳しくは後述するが混合物(M)が硬くなりにくく、混合物(M)を加熱して得られるゾルを成形型に容易に充填できる。
無機粉末を等間隔に分散させる観点では、無機粉末の含有量は、無機高分子材の総質量に対して0.1~50質量%が好ましく、20~40質量%がより好ましい。無機粉末の含有量が上記下限値以上であれば、時計用部品の少なくとも一部に光の反射が認められ、着色による外観が向上する。無機粉末の含有量が上記上限値以下であれば、混合物(M)が硬くなりにくく、混合物(M)を加熱して得られるゾルを成形型に容易に充填できる。
【0039】
無機高分子材は、着色剤をさらに含んでいてもよい。
無機高分子材が着色剤さらに含んでいれば、時計用部品が着色するので、外観が向上する。着色剤の種類やその組み合わせに応じて、時計用部品を様々な色に着色できる。また、着色剤の含有量により、色合いを制御することもできる。
【0040】
着色剤としては、上述した無機粉末以外の顔料や染料などが挙げられる。これら着色剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
顔料としては、例えば黄土、バリウム黄、紺青、カドミウムレッド、硫酸バリウム、弁柄、鉄黒、カーボンブラック等の無機顔料;銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン、アントラキノン、キナクリドン、インジゴイド、ベンジジンイエロー、ナフトールレッド等の有機顔料;亜鉛、カドミウム、カルシウム、アルミニウム、イットリウム等の金属の酸化物または硫化物等を主成分とし、これに微量のマンガン、銀、銅、鉛等の活性化剤を添加し、高温で焼成した無機蛍光顔料(具体的にはCaS:Bi、CaO:Zn、ZnS:Cu、ZnS:Mn、ZnS:Ag等);アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂等の樹脂マトリックス中に蛍光染料を固溶体化した有機蛍光顔料などが挙げられる。これらの中でも、無機蛍光顔料、有機蛍光顔料が好ましい。
これら顔料は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
染料としては、カロチン、フラボン、フラボノール、カルコン、ナフトキノン、アントラキノン、タンニン、インジゴ、ベンゾビラン、カラメル色素、クチナシ色素、アントシアニン色素、アナトー色素、パプリカ色素、紅花色素、紅麹色素、フラボノイド色素、コチニール色素等の天然染料;アニリン黒、ナフトキノン染料、インジゴ染料、ニグロシン染料、フタロシアニン染料、ポリメチン染料、タール色素(例えばアマランス、エリスロシン、アルラレッドAC、ニューコクシン、フロキシン、ローズベンガル、アシッドレッド、タートラジン、サンセットイエローFCF、ファストグリーンFCF、ブリリアントブルーFCF、インジゴカルミンなど)等の合成染料;メロシアニン、ペリレン、アクリジン、ルシフェリン、ピラニン、スチルベン、ローダミン、クマリン、ピロメテン、フルオレセイン、ウンベリフェロン等の蛍光染料などが挙げられる。これらの中でも、蛍光染料が好ましい。
これら染料は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
着色剤の含有量は、無機高分子材の総質量に対して0.1~10000質量ppmが好ましく、100~300質量ppmがより好ましい。着色剤の含有量が上記下限値以上であれば、着色による外観がより向上する。着色剤の含有量が上記上限値以下であれば、透明性が損なわれにくい。
【0043】
上述した無機高分子材からなる時計用部品の具体例としては、例えばがんぎ車を構成するがんぎ歯車部、アンクルを構成するアンクル体などが挙げられる。
図1に示すがんぎ歯車部10は、環状のリム部11と、リム部11の内側に配置されたハブ部12と、これらリム部11およびハブ部12を連結する複数のスポーク部13とを有している。ハブ部12は円板形状である。各スポーク部13は、ハブ部12の外周縁からリム部11の内周縁に向かって放射状に延在している。リム部11の外周面には、特殊な鉤型状に形成された複数の歯部14が径方向の外側に向けて突設されている。
なお、がんぎ車は、がんぎ歯車部10と、がんぎ歯車部10に同軸で固定される軸部材(図示略)とを備えるものである。
【0044】
図2に示すアンクル体20は、3つのアンクルビーム21によってT字状に形成されている。
なお、アンクルは、アンクル体20と、アンクル体20に固定されるアンクル真(図示略)と、3つのアンクルビーム21のうちの2つのアンクルビーム21の先端に設けられる爪石(図示略)と、残り1つのアンクルビーム21の先端に取り付けられるアンクルハコ(図示略)とを備えるものである。
【0045】
また、時計用部品は、例えば香箱車、二番車、三番車、四番車などの部品としても好適に使用できる。
時計用部品の厚さは特に制限されないが、軽量化の観点から100~200μmが好ましい。
【0046】
[時計用部品の製造方法]
時計用部品は、例えばゾルゲル法により製造できる。具体的には、無機元素(Me)およびアルコキシ基を含む化合物(X)と、水と、触媒とを含む混合物(M)を加熱してゾルを得た後に、得られたゾルを加熱して所望の形状に硬化することで、ゾルの硬化物である無機高分子材からなる時計用部品を製造する。
混合物(M)は、必要に応じて、上述したフッ素樹脂、無機粉末および着色剤の1つ以上をさらに含んでいてもよい。
混合物(M)は、化合物(X)、水および触媒と、必要に応じてフッ素樹脂、無機粉末および着色剤の1つ以上とを混合することで得られる。各成分の混合には、スターラー、ミックスローター、ミキサー、超音波分散装置等の装置を用いればよい。特に、混合物(M)中に無機粉末等を等間隔に分散させるには、超音波分散装置を用いることが好ましい。超音波分散装置としてはホモジナイザーなどが挙げられる。
【0047】
化合物(X)は、無機高分子材の原料である。
化合物(X)としては、アルコキシシラン、アルミニウムアルコキシド、チタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドなどが挙げられる。
アルコキシシランとしては、例えばトリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン等のモノアルコキシシラン;ジメトキシジメチルシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエトキシメチルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン等のジアルコキシシラン;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシランなどが挙げられる。
アルミニウムアルコキシドとしては、例えばアルミニウムエトキシドなどが挙げられる。
チタンアルコキシドとしては、例えばテトラエトキシチタンなどが挙げられる。
ジルコニウムアルコキシドとしては、例えばジルコニウムエトキシドなどが挙げられる。
これらの中でも、無機高分子材が無色透明な時計用部品が得られる観点では、アルコキシシラン、アルミニウムアルコキシドが好ましい。
これら化合物(X)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
触媒としては、酢酸、塩酸、硝酸等の酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリなどが挙げられる。
これら触媒は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
混合物(M)中の水の割合は、化合物(X)中のアルコキシ基の全てが加水分解できる量であれば特に制限されないが、例えば化合物(X)と水とのモル比(X:水)は、10:5~10:40が好ましく、10:10~10:20がより好ましい。
【0050】
混合物(M)中の触媒の割合は、触媒量であれば特に制限されないが、例えば化合物(X)と触媒とのモル比(X:触媒)は、10:0.1~10:10が好ましく、10:1~10:2がより好ましい。
【0051】
混合物(M)がフッ素樹脂を含む場合、混合物(M)中のフッ素樹脂の割合は、水および触媒を除いた混合物(M)の総質量に対して1~50質量%が好ましく、20~30質量%がより好ましい。フッ素樹脂の含有量が上記下限値以上であれば、耐摩耗性がより向上する。フッ素樹脂の含有量が上記上限値以下であれば、硬化時の反応がスムーズに進み、フッ素樹脂が分散した状態の時計用部品が得られやすくなる。
【0052】
混合物(M)が無機粉末を含む場合、成形時の収縮量の低減の観点では、混合物(M)中の無機粉末の割合は、水および触媒を除いた混合物(M)の総質量に対して1~50質量%が好ましく、20~30質量%がより好ましい。無機粉末の含有量が上記下限値以上であれば、成形時の収縮量を充分に低減できる。無機粉末の含有量が上記上限値以下であれば、混合物(M)が硬くなりにくく、混合物(M)を加熱して得られるゾルを成形型に容易に充填できる。
無機粉末を等間隔に分散させる観点では、混合物(M)中の無機粉末の割合は、水および触媒を除いた混合物(M)の総質量に対して0.1~50質量%が好ましく、20~40質量%がより好ましい。無機粉末の含有量が上記下限値以上であれば、時計用部品の少なくとも一部に光の反射が認められ、着色による外観が向上する。無機粉末の含有量が上記上限値以下であれば、混合物(M)が硬くなりにくく、混合物(M)を加熱して得られるゾルを成形型に容易に充填できる。
【0053】
混合物(M)が着色剤を含む場合、混合物(M)中の着色剤の割合は、水および触媒を除いた混合物(M)の総質量に対して0.1~10000質量ppmが好ましく、100~300質量ppmがより好ましい。着色剤の含有量が上記下限値以上であれば、着色による外観がより向上する。着色剤の含有量が上記上限値以下であれば、透明性が損なわれにくい。
【0054】
混合物(M)の加熱は、化合物(X)中のアルコキシ基の全てが加水分解するまでの間は、水の蒸発を防ぐ目的で、密閉系で行われることが好ましい。化合物(X)中のアルコキシ基が加水分解されると、アルコールが生成する。このアルコールは、硬化時のクラックの原因となることがあるため、硬化前に除去しておくことが好ましい。よって、密閉系での加熱(第一の加熱工程)の後に、開放系にてさらに加熱処理(第二の加熱工程)することが好ましい。
第一の加熱工程において、加熱温度は50~100℃が好ましく、加熱時間は30分~24時間が好ましい。
第二の加熱工程において、加熱温度は80~120℃が好ましく、加熱時間は1~24時間が好ましい。
【0055】
混合物(M)を加熱することで化合物(X)中のアルコキシ基の全てが加水分解し、ゾルが得られる。
得られたゾルの質量平均分子量は5000以上が好ましく、1万以上がより好ましく、10万以上がさらに好ましい。
ゾルの質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によって測定される標準ポリスチレン換算の値である。
なお、ゾルの硬化物である無機高分子材の質量平均分子量は、硬化前のゾルの質量平均分子量よりも大きい。よって、硬化前のゾルの質量平均分子量が5000以上であれば、無機高分子材の質量平均分子量も5000以上であるとみなす。
【0056】
得られたゾルは例えば任意の成形型に充填される。
成形型としては、時計用部品の用途に応じた型を用いればよい。
成形型は、例えば以下のようにして製造できる。
まず、シリコンウェハ等の基板上に蒸着法やスパッタ法により金属の皮膜を形成した後、皮膜上にレジストを塗布し、乾燥させてレジスト層を形成する。レジスト層の厚さは時計用部品(例えば、がんぎ歯車部やアンクル体等)の厚さと同等とする。
次いで、レジスト層に対して紫外線等を所望のパターン状に照射してレジスト層を露光する。レジスト層を露光すると、紫外線の照射によりレジスト層が硬化した領域(硬化部)と、紫外線が照射されずにレジスト層が硬化しない領域(非硬化部)とが形成される。
次いで、レジスト層を現像し、レジスト層の非硬化部を除去することで成形型が得られる。
【0057】
ゾルを成形型に充填する際には、必要に応じて硬化促進剤をゾルに添加してもよい。
硬化促進剤としては、ジブチル錫ジアセテート、Karstedt触媒などが挙げられる。
ゾルと硬化促進剤とのモル比(ゾル:硬化促進剤)は、10:0.01~10:1が好ましく、10:0.1~10:0.2がより好ましい。
【0058】
また、上述したフッ素樹脂、無機粉末および着色剤の1つ以上を、混合物(M)に配合せずに、ゾルに添加してもよい。
フッ素樹脂の添加量は、得られる無機高分子材の総質量に対するフッ素樹脂の含有量が上述した範囲内となる量が好ましい。
無機粉末の添加量は、得られる無機高分子材の総質量に対する無機粉末の含有量が上述した範囲内となる量が好ましい。
着色剤の添加量は、得られる無機高分子材の総質量に対する着色剤の含有量が上述した範囲内となる量が好ましい。
【0059】
成形型に充填したゾルを加熱して硬化することでゾルがゲル化する。
次いで、成形型からゾルの硬化物を取り出して、ゾルの硬化物である無機高分子材からなる時計用部品が得られる。
ゾルの加熱温度は100~200℃が好ましく、加熱時間は30分~48時間が好ましい。
成形型からゾルの硬化物を取り出す方法は特に限定されず、例えばレジスト層の硬化部を除去した後、皮膜を除去すればよい。
【0060】
化合物(X)として、例えばジアルコキシシランを用いた場合、前記構造単位(3)、前記構造単位(4)および前記構造単位(5)の少なくとも一方を有する無機高分子材が得られる。
化合物(X)として、例えばトリアルコキシシランを用いた場合、前記構造単位(2)を有する無機高分子材が得られる。
化合物(X)として、例えばテトラアルコキシシランを用いた場合、前記構造単位(1)を有する無機高分子材が得られる。
【0061】
ゾルの硬化物である無機高分子材は、シリコンに比べて靭性に優れる。よって、上述した時計用部品の製造方法によれば、無機高分子材の表面を合金膜、または酸化膜と合金膜との積層膜で被覆する必要がないので、軽量化および非磁性化が可能な時計用部品を簡易に製造できる。
【0062】
なお、上述した時計用部品の製造方法では、ゲルを成形型に充填して硬化させているが、例えばゲルを板状に硬化した後に、切削、研削等の機械加工などにより所望の形状にゲルの硬化物を加工して、時計用部品を製造してもよい。
また、ゾルを射出成型して時計用部品を製造してもよい。
また、上述した成形型ではパターン形成にレジストを用いているが、例えば歯車を製造する場合にはレジスト層の代わりに歯形形状の金属箔を基板上に積層してもよい。
【0063】
また、インサート成形により時計用部品を製造してもよい。例えば時計用部品が歯車である場合は、歯車の中心にかなを取り付けるが、歯車用の成形型の中心部に金属製のリングを配置してゾルを充填し、硬化させれば、中心部にリングが取り付けられた無機高分子材からなる歯車を一体成形できる。歯車にリングが取り付けられていることで、このリングにかなを打ち込むことができる。また、歯車用の成形型の中心部にかなを配置してゾルを充填し、硬化させてもよい。これにより、中心部にかなが取り付けられた無機高分子材からなる歯車を一体成形できる。
なお、インサート成形により得られた時計用部品を「インサート成形品」ともいう。
【0064】
[ムーブメント、時計]
一般に、時計の駆動部分を含む機械体を「ムーブメント」と称する。
本発明の一態様のムーブメントは、本発明の時計用部品を備える。すなわち、ムーブメントを構成する部品の少なくとも一部が本発明の時計用部品からなる。具体的には、がんぎ歯車部、アンクル体、香箱車、二番車、三番車、四番車などの1つ以上が、本発明の時計用部品からなることが好ましい。残りのムーブメントを構成する部品については特に限定されず、公知のものを使用できる。
本発明の一態様の時計は、本発明のムーブメントを備え、具体的には、ムーブメントや文字板、各種指針等が時計ケース内に組み込まれて構成される。
これらムーブメントおよび時計は、本発明の時計用部品を備えているので、軽量である。
【実施例
【0065】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0066】
[成形型の作製]
シリコンウェハの表面にスタッパ法により銅膜を形成した後、乾燥後の膜厚が120μmとなるように銅膜上にレジストを塗布し、乾燥させてレジスト層を形成した。
次いで、図1に示すがんぎ歯車部10の形状となるように、紫外線をレジスト層に対してパターン状に照射してレジスト層を露光した。
次いで、レジスト層を現像し、レジスト層の非硬化部を除去することで成形型を得た。
【0067】
[評価]
がんぎ歯車部の硬さについて、がんぎ車に適した硬さの場合を「A」を評価し、がんぎ車には適さない硬さ(柔らかすぎる)場合を「B」と評価した。
【0068】
[実施例1]
テトラエトキシシラン(X-1)と、水と、酢酸とをモル比(X-1:水:酢酸)で10:15:1となるように混合し、得られた混合物を密閉系にて78℃で30分間撹拌した後(第一の加熱工程)、開放系にて100℃で1時間撹拌し(第二の加熱工程)、ゾルを得た。なお、第一の加熱工程の終了後、加水分解により水の分離がなくなったことを確認した。また、得られたゾルの質量平均分子量を測定したところ、10万以上であった。
次いで、得られたゾルを成形型に充填し、150℃で30分間加熱してゾルを架橋、硬化させた。
次いで、レジスト層の硬化部を除去した後、銅膜を除去して、ゾルの硬化物である無機高分子材からなるがんぎ歯車部を得た。
得られたがんぎ歯車部の硬さを評価した。結果を表1に示す。
なお、実施例1で得られた無機高分子材は、前記構造単位(1)に相当する-(SiO)-からなる。
【0069】
[実施例2]
テトラエトキシシラン(X-1)と、メチルトリエトキシシラン(X-2)と、水と、酢酸とをモル比(X-1:X-2:水:酢酸)で5:5:15:1となるように混合し、得られた混合物を密閉系にて78℃で30分間撹拌した後(第一の加熱工程)、開放系にて100℃で1時間撹拌し(第二の加熱工程)、ゾルを得た。なお、第一の加熱工程の終了後、加水分解により水の分離がなくなったことを確認した。また、得られたゾルの質量平均分子量を測定したところ、10万以上であった。
次いで、得られたゾルを成形型に充填し、150℃で30分間加熱してゾルを架橋、硬化させた。
次いで、レジスト層の硬化部を除去した後、銅膜を除去して、ゾルの硬化物である無機高分子材からなるがんぎ歯車部を得た。
得られたがんぎ歯車部の硬さを評価した。結果を表1に示す。
なお、実施例2で得られた無機高分子材は、前記構造単位(1)に相当する-(SiO)-からなる化合物と、前記構造単位(2)に相当する-(Si(CH)-からなる化合物の混合物である。-(Si(CH)-は、具体的には下記式(2-1)で表される。
【0070】
【化1】
【0071】
[実施例3]
メチルトリエトキシシラン(X-2)と、水と、酢酸とをモル比(X-2:水:酢酸)で10:15:1となるように混合し、得られた混合物を密閉系にて78℃で30分間撹拌した後(第一の加熱工程)、開放系にて100℃で1時間撹拌し(第二の加熱工程)、ゾルを得た。なお、第一の加熱工程の終了後、加水分解により水の分離がなくなったことを確認した。また、得られたゾルの質量平均分子量を測定したところ、10万以上であった。
次いで、得られたゾルを成形型に充填し、150℃で30分間加熱してゾルを架橋、硬化させた。
次いで、レジスト層の硬化部を除去した後、銅膜を除去して、ゾルの硬化物である無機高分子材からなるがんぎ歯車部を得た。
得られたがんぎ歯車部の硬さを評価した。結果を表1に示す。
なお、実施例3で得られた無機高分子材は、前記構造単位(2)に相当する-(Si(CH)-からなる。-(Si(CH)-は、具体的には前記式(2-1)で表される。
【0072】
[実施例4]
オクチルトリエトキシシラン(X-3)と、水と、酢酸とをモル比(X-3:水:酢酸)で10:15:1となるように混合し、得られた混合物を密閉系にて78℃で15時間撹拌した後(第一の加熱工程)、開放系にて100℃で1時間撹拌し(第二の加熱工程)、ゾルを得た。なお、第一の加熱工程の終了後、加水分解により水の分離がなくなったことを確認した。また、得られたゾルの質量平均分子量を測定したところ、10万以上であった。
次いで、得られたゾルとジブチル錫ジアセテートとをモル比(ゾル:ジブチル錫ジアセテート)で10:0.1となるように混合し、得られた混合物を成形型に充填し、150℃で30分間加熱してゾルを架橋、硬化させた。
次いで、レジスト層の硬化部を除去した後、銅膜を除去して、ゾルの硬化物である無機高分子材からなるがんぎ歯車部を得た。
得られたがんぎ歯車部の硬さを評価した。結果を表1に示す。
なお、実施例4で得られた無機高分子材は、前記構造単位(2)に相当する-(Si(C17)-からなる。-(Si(C17)-は、具体的には下記式(2-2)で表される。
【0073】
【化2】
【0074】
[実施例5]
メチルトリエトキシシラン(X-2)と、ジメチルジエトキシシラン(X-4)と、水と、酢酸とをモル比(X-2:X-3:水:酢酸)で5:5:15:1となるように混合し、得られた混合物を密閉系にて78℃で30分間撹拌した後(第一の加熱工程)、開放系にて100℃で1時間撹拌し(第二の加熱工程)、ゾルを得た。なお、第一の加熱工程の終了後、加水分解により水の分離がなくなったことを確認した。また、得られたゾルの質量平均分子量を測定したところ、10万以上であった。
次いで、得られたゾルを成形型に充填し、150℃で30分間加熱してゾルを架橋、硬化させた。
次いで、レジスト層の硬化部を除去した後、銅膜を除去して、ゾルの硬化物である無機高分子材からなるがんぎ歯車部を得た。
得られたがんぎ歯車部の硬さを評価した。結果を表1に示す。
なお、実施例5で得られた無機高分子材は、前記構造単位(2)に相当する-(Si(CH)-からなる化合物と、前記構造単位(5)に相当する-(Si(CHO)-からなる化合物の混合物である。-(Si(CH)-は、具体的には前記式(2-1)で表され、-(Si(CHO)-は、具体的には下記式(2-3)で表される。
【0075】
【化3】
【0076】
[実施例6]
ジメチルジエトキシシラン(X-4)と、ジエトキシメチルビニルシラン(X-5)と、ジエトキシメチルシラン(X-6)と、水と、酢酸とをモル比(X-4:X-5:X-6:水:酢酸)で5:2.5:2.5:10:1となるように混合し、得られた混合物を密閉系にて78℃で30分間撹拌した後(第一の加熱工程)、開放系にて100℃で1時間撹拌し(第二の加熱工程)、ゾルを得た。なお、第一の加熱工程の終了後、加水分解により水の分離がなくなったことを確認した。また、得られたゾルの質量平均分子量を測定したところ、10万以上であった。
次いで、得られたゾルを成形型に充填し、150℃で30分間加熱してゾルを架橋、硬化させた。
次いで、レジスト層の硬化部を除去した後、銅膜を除去して、ゾルの硬化物である無機高分子材からなるがんぎ歯車部を得た。
得られたがんぎ歯車部の硬さを評価した。結果を表1に示す。
なお、実施例6で得られた無機高分子材は、前記構造単位(3)に相当する-(Si(CH)-からなる。-(Si(CH)-は、具体的には下記式(2-4)で表される。
【0077】
【化4】
【0078】
[実施例7]
ジメチルジエトキシシラン(X-4)と、トリメチルエトキシシラン(X-7)と、水と、酢酸とをモル比(X-2:X-3:水:酢酸)で5:5:15:1となるように混合し、得られた混合物を密閉系にて78℃で30分間撹拌した後(第一の加熱工程)、開放系にて100℃で1時間撹拌し(第二の加熱工程)、ゾルを得た。なお、第一の加熱工程の終了後、加水分解により水の分離がなくなったことを確認した。また、得られたゾルの質量平均分子量を測定したところ、このゾルは分子量が5000以上の化合物を含むものであった。
次いで、得られたゾルを成形型に充填し、150℃で30分間加熱してゾルを架橋、硬化させた。
次いで、レジスト層の硬化部を除去した後、銅膜を除去して、ゾルの硬化物である無機高分子材からなるがんぎ歯車部を得た。
得られたがんぎ歯車部の硬さを評価した。結果を表1に示す。
なお、実施例7で得られた無機高分子材は、具体的には下記式(2-5)で表される化合物が複数種類混在した混合物の状態で得られた。式(2-5)中、mは0~100の数である。
【0079】
【化5】
【0080】
【表1】
【0081】
各実施例で得られたがんぎ歯車部にかなを配置し、ムーブメントに組み込んで時計を作製した。こうして得られた時計は、金属製のがんぎ歯車部を備えた時計と同等の精度で動作した。しかも、各実施例で得られたがんぎ歯車部は無機高分子材からなるので、非磁性であるとともに、金属製のがんぎ歯車部に比べて軽量であった。
このように、各実施例によれば、軽量化および非磁性化が可能ながんぎ歯車部を簡易に製造できた。特に無機高分子材におけるSiとOとのモル比(Si:O)が1:2~1:1である実施例1~6で得られたがんぎ歯車部は、がんぎ車に適した硬さを有していた。
【0082】
[実施例8]
テトラエトキシシラン(X-1)と、水と、酢酸とをモル比(X-1:水:酢酸)で10:15:1となるように混合した。さらにフッ素樹脂として平均粒子径が0.2~0.3μmであるPTFE粒子(テクノケミカル株式会社製、商品名「DispersEZ」)を、テトラエトキシシラン(X-1)およびPTFE粒子の総質量に対するPTFE粒子の割合が25質量%となるに添加し、ホモジナイザーで3時間超音波分散して混合物を得た。得られた混合物を密閉系にて78℃で30分間撹拌した後(第一の加熱工程)、開放系にて100℃で1時間撹拌し(第二の加熱工程)、ゾルを得た。なお、第一の加熱工程の終了後、加水分解により水の分離がなくなったことを確認した。また、得られたゾルの質量平均分子量を測定したところ、10万以上であった。
次いで、得られたゾルを成形型に充填し、150℃で30分間加熱してゾルを架橋、硬化させた。
次いで、レジスト層の硬化部を除去した後、銅膜を除去して、ゾルの硬化物である無機高分子材からなるがんぎ歯車部を得た。
得られたがんぎ歯車部について、ボールオンディスク法に基づき摩擦摩耗試験を行ったところ、実施例1で得られたがんぎ歯車部に比べて摩耗量を約50%削減できた。
【0083】
[実施例9]
テトラエトキシシラン(X-1)と、水と、酢酸とをモル比(X-1:水:酢酸)で10:15:1となるように混合した。さらに無機粉末として平均粒子径が0.3μmであるシリカ球状微粒子(株式会社日本触媒製、商品名「KE-P30」)を、テトラエトキシシラン(X-1)およびシリカ球状微粒子の総質量に対するシリカ球状微粒子の割合が20質量%となるに添加し、混合物を得た。得られた混合物を密閉系にて78℃で30分間撹拌した後(第一の加熱工程)、開放系にて100℃で1時間撹拌し(第二の加熱工程)、ゾルを得た。なお、第一の加熱工程の終了後、加水分解により水の分離がなくなったことを確認した。また、得られたゾルの質量平均分子量を測定したところ、10万以上であった。
次いで、得られたゾルを成形型に充填し、150℃で30分間加熱してゾルを架橋、硬化させた。
次いで、レジスト層の硬化部を除去した後、銅膜を除去して、ゾルの硬化物である無機高分子材からなるがんぎ歯車部を得た。
得られたがんぎ歯車部は、成形時(ゾルの硬化時)の収縮量を低減でき、実施例1で得られたがんぎ歯車部に比べてヒケを抑制できた。
【0084】
[実施例10]
テトラエトキシシラン(X-1)と、水と、酢酸とをモル比(X-1:水:酢酸)で10:15:1となるように混合した。さらに無機粉末として平均粒子径が0.2μmであるシリカ球状微粒子(株式会社日本触媒製、商品名「KE-P20」)を、テトラエトキシシラン(X-1)およびシリカ球状微粒子の総質量に対するシリカ球状微粒子の割合が35質量%となるに添加し、ホモジナイザーで3時間超音波分散して混合物を得た。得られた混合物を密閉系にて78℃で30分間撹拌した後(第一の加熱工程)、開放系にて100℃で1時間撹拌し(第二の加熱工程)、ゾルを得た。なお、第一の加熱工程の終了後、加水分解により水の分離がなくなったことを確認した。また、得られたゾルの質量平均分子量を測定したところ、10万以上であった。
次いで、得られたゾルを成形型に充填し、150℃で30分間加熱してゾルを架橋、硬化させた。
次いで、レジスト層の硬化部を除去した後、銅膜を除去して、ゾルの硬化物である無機高分子材からなるがんぎ歯車部を得た。
得られたがんぎ歯車部は、反射時は青色に見え、透過時は赤色に見えた。
【0085】
[実施例11]
テトラエトキシシラン(X-1)と、水と、酢酸とをモル比(X-1:水:酢酸)で10:15:1となるように混合した。さらに顔料としてローダミンB(東京化成工業株式会社製、商品名「R0040」)を、テトラエトキシシラン(X-1)およびローダミンBの総質量に対するローダミンBの割合が100質量ppmとなるに添加し、ホモジナイザーで3時間超音波分散して混合物を得た。得られた混合物を密閉系にて78℃で30分間撹拌した後(第一の加熱工程)、開放系にて100℃で1時間撹拌し(第二の加熱工程)、ゾルを得た。なお、第一の加熱工程の終了後、加水分解により水の分離がなくなったことを確認した。また、得られたゾルの質量平均分子量を測定したところ、10万以上であった。
次いで、得られたゾルを成形型に充填し、150℃で30分間加熱してゾルを架橋、硬化させた。
次いで、レジスト層の硬化部を除去した後、銅膜を除去して、ゾルの硬化物である無機高分子材からなるがんぎ歯車部を得た。
得られたがんぎ歯車部は、赤色に着色していた。
【0086】
[実施例12]
テトラエトキシシラン(X-1)と、水と、酢酸とをモル比(X-1:水:酢酸)で10:15:1となるように混合した。さらに顔料としてフルオレセイン(東京化成工業株式会社製、商品名「F0095」)を、テトラエトキシシラン(X-1)およびフルオレセインの総質量に対するフルオレセインの割合が100質量ppmとなるに添加し、ホモジナイザーで3時間超音波分散して混合物を得た。得られた混合物を密閉系にて78℃で30分間撹拌した後(第一の加熱工程)、開放系にて100℃で1時間撹拌し(第二の加熱工程)、ゾルを得た。なお、第一の加熱工程の終了後、加水分解により水の分離がなくなったことを確認した。また、得られたゾルの質量平均分子量を測定したところ、10万以上であった。
次いで、得られたゾルを成形型に充填し、150℃で30分間加熱してゾルを架橋、硬化させた。
次いで、レジスト層の硬化部を除去した後、銅膜を除去して、ゾルの硬化物である無機高分子材からなるがんぎ歯車部を得た。
得られたがんぎ歯車部は、黄色に着色しており、紫外線を照射すると照射部が緑色に発光した。
【0087】
[実施例13]
テトラエトキシシラン(X-1)と、水と、酢酸とをモル比(X-1:水:酢酸)で10:15:1となるように混合した。さらに顔料としてウンベリフェロン(東京化成工業株式会社製、商品名「H0236」)を、テトラエトキシシラン(X-1)およびフルオレセインの総質量に対するフルオレセインの割合が100質量ppmとなるに添加し、ホモジナイザーで3時間超音波分散して混合物を得た。得られた混合物を密閉系にて78℃で30分間撹拌した後(第一の加熱工程)、開放系にて100℃で1時間撹拌し(第二の加熱工程)、ゾルを得た。なお、第一の加熱工程の終了後、加水分解により水の分離がなくなったことを確認した。また、得られたゾルの質量平均分子量を測定したところ、10万以上であった。
次いで、得られたゾルを成形型に充填し、150℃で30分間加熱してゾルを架橋、硬化させた。
次いで、レジスト層の硬化部を除去した後、銅膜を除去して、ゾルの硬化物である無機高分子材からなるがんぎ歯車部を得た。
得られたがんぎ歯車部は、紫外線を照射すると照射部が青色に発光した。
【符号の説明】
【0088】
10 がんぎ歯車部
11 リム部
12 ハブ部
13 スポーク部
14 歯部
20 アンクル体
21 アンクルビーム
図1
図2