(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】塗布装置用ノズル
(51)【国際特許分類】
B05C 5/00 20060101AFI20240829BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
B05C5/00 101
B41J2/14 501
(21)【出願番号】P 2020198869
(22)【出願日】2020-11-30
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】内山 典子
(72)【発明者】
【氏名】上原 義貴
(72)【発明者】
【氏名】三輪 紘敬
(72)【発明者】
【氏名】弓削 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】長山 森
【審査官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-000584(JP,A)
【文献】特開2013-141667(JP,A)
【文献】特開2009-269000(JP,A)
【文献】中国実用新案第209985694(CN,U)
【文献】米国特許出願公開第2003/0189114(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 5/00
B41J 2/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を被塗布体に塗布するための塗布装置用ノズルであって、ダイヤモンド結晶粒を含む層が少なくとも前記流体と接する吐出孔表面に形成されて
おり、
前記ダイヤモンド結晶粒を含む層は、外部からの電気エネルギーによって発熱する導電性ダイヤモンド結晶粒を含む層であることを特徴とする、塗布装置用ノズル。
【請求項2】
前記導電性ダイヤモンド結晶粒を含む層は、前記導電性ダイヤモンド結晶粒同士を結びつける導電性の結合材を含有する、請求項
1に記載の塗布装置用ノズル。
【請求項3】
前記導電性ダイヤモンド結晶粒を含む層は、比抵抗が0.1~100Ω・cmである、請求項
1または2に記載の塗布装置用ノズル。
【請求項4】
前記ダイヤモンド結晶粒を含む層における前記ダイヤモンド結晶粒の体積比率が50体積%以上である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の塗布装置用ノズル。
【請求項5】
流体を被塗布体に塗布するための塗布装置用ノズルであって、ダイヤモンド結晶粒を含む層が少なくとも前記流体と接する吐出孔表面に形成されており、
前記ダイヤモンド結晶粒の体積比率が、前記流体と接する表面のうち、上流の部位から下流の部位に向かって増加している
、塗布装置用ノズル。
【請求項6】
前記ダイヤモンド結晶粒を含む層の表面粗さRaは、0.3μm以下である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の塗布装置用ノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布装置用ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
塗布装置として、インクを吐出して被記録媒体に画像を記録するインクジェット塗布装置が知られている。インクジェット塗布装置には、一般的に、インクを吐出するための塗布装置用ノズルを備えた液体吐出ヘッドが搭載されている。
【0003】
このような塗布装置用ノズルとして、特許文献1にはプリント用インクジェットノズルにおいて、金属製のインクノズルの先端面およびインクノズルの噴出孔の内面の内の少なくともインクノズルの先端面にカーボン被膜が被覆されているノズルが記載されている。これにより、インクの漏れが低減され、吐出されるインクの直進性が向上してプリントされるインクの点着位置、点着寸法の精度が向上しうるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、車両のデザイン性の向上を目的に、インクジェットプリンタなどの塗布装置を用いて車両を塗装する技術が求められている。しかしながら、インクジェットプリンタを用いて車両を塗装する場合は、紙などに印刷する場合に比べ、インクジェットのノズルと印刷対象である車両までの距離が離れていることや、インクの液だれ防止のためにインクを高粘度で使用する場合があることから、高圧でのインクの吐出が要求される。さらに、塗装の精度の点から、一般に車両の塗装に使用されているスプレーガンよりも小さい径のノズルが要求されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されるようなノズルを用いた場合、径の小さいノズルから高圧でインクを吐出する条件では、インクに含まれる顔料やメタリック塗料に用いられる光輝材などの無機成分によりノズルが摩耗劣化してしまうという問題があることが明らかになった。
【0007】
そこで本発明は、耐摩耗性に優れた塗布装置用ノズルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を積み重ねた。その結果、ノズルの少なくとも吐出孔表面にダイヤモンド結晶粒を含む層を設けることで、ノズルの摩耗量を低減できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明は、流体を被塗布体に塗布するための塗布装置用ノズルであって、ダイヤモンド結晶粒を含む層が少なくとも前記流体と接する吐出孔表面に形成されていることを特徴とする、塗布装置用ノズルである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の塗布装置用ノズルによれば、高粘度インクに含まれる成分よりも硬度の高いダイヤモンド結晶粒の層が少なくともインクなどの流体と接する吐出孔表面に設けられる。これにより、耐摩耗性に優れた塗布装置用ノズルが得られうる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るノズルを備えたインク吐出ヘッドを示す概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るノズルを示す概略図である。
【
図3】ダイヤモンド結晶粒を含む層において、導電性ダイヤモンド結晶粒が導電性の結合材により結合されている形態を模式的に示す図である。
【
図5】比抵抗および表面温度の測定装置を示す概略図である。
【
図6】ダイヤモンド結晶粒の平均粒径とダイヤモンド結晶粒を含む焼結成形体の表面粗さとの関係を示す図である。
【
図7】ダイヤモンド結晶粒を含む焼結成形体の表面粗さと液体シュミュレーションで求めた圧力損失との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、流体を被塗布体に塗布するための塗布装置用ノズルであって、ダイヤモンド結晶粒を含む層が少なくとも前記流体と接する吐出孔表面に形成されていることを特徴とする、塗布装置用ノズルである。
【0013】
上述の特許文献1に記載の技術では、OA機器のプリント用インクジェットノズルにおいて、ステンレス鋼などの金属製のノズルが用いられている。しかしながら、車両を塗装する場合は、ノズルから塗布対象の車両までの距離が離れていることに加え、塗料として液だれ防止のため高粘度インクを用いる必要がある。そのため、OA機器のプリント用インクジェットノズルにおける塗布条件ではノズルの耐摩耗性に問題はないものの、高粘度インクを高圧条件で塗布する車両用の塗布装置の塗布条件では耐摩耗性が不十分であることがわかった。
【0014】
これに対して、本発明の塗布装置用ノズルは、ダイヤモンド結晶粒を含む層が少なくとも流体と接する吐出孔表面に形成されている。ダイヤモンド結晶粒は、車両塗装用のインクのような高粘度インクに含まれる顔料や光輝材などの無機成分よりも硬度が高い。また、ダイヤモンド結晶粒は、ステンレス鋼やWCなどの超硬合金よりも硬度が高い。そのため、ダイヤモンド結晶粒を含む層をノズルの吐出孔表面に形成することで、ノズルの耐摩耗性を高めることができる。
【0015】
加えて、ダイヤモンド結晶粒は酸化劣化しにくく、熱伝導性に優れることから、ダイヤモンド結晶粒を含む層を設けることでノズルの酸化劣化が防止されうる。また、インクの熱容量を抑制することができるため、インクの色素劣化を防止できる。
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は以下の形態のみに制限されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0017】
[塗布装置用ノズル]
本発明は、流体を被塗布体に塗布するための塗布装置用ノズルであって、ダイヤモンド結晶粒を含む層が少なくとも前記流体と接する吐出孔表面に形成されているものである。
【0018】
塗布装置としては、例えば、インクジェット塗布装置が用いられうる。インクジェット塗布装置には、一般的に、インクを吐出するためのインク吐出ヘッドが搭載されている。
【0019】
図1に、一実施形態によるインク吐出ヘッド1の概略を示す。インク吐出ヘッド1がインクを吐出する機構としては、圧電素子2によって変形可能なインク室3を用いる機構が用いられうる。インク室3には、流体としてのインクが流れる液供給路4と、インクを吐出するインク吐出孔8を備えたノズル(ノズルプレート)5が設けられる。図中の矢印は、流体としてのインクの流れの方向を示す。インク室3の容積収縮時にはインク吐出孔8からインクが液滴6として吐出され、インク室の容積膨張時には液供給路4からインク室3にインクが導入される。
【0020】
図2は、本実施形態のノズル(ノズルプレート)5におけるインク吐出孔8を通る断面図を示す。
図2に示すように、ノズル(ノズルプレート)5は、インクの流れを最適化するためにインク吐出孔8の上流に円錐型の吐出孔上流部8aと、下流に円筒状の吐出孔下流部8bとを有していてもよい。なお、ノズルプレートは貫通孔であるインク吐出孔を複数有していてもよく、これらの貫通孔は、例えば、ノズルプレートに等間隔でマトリクス状に配置されうる(図示せず)。
【0021】
本実施形態のノズルは、ダイヤモンド結晶粒を含む層が少なくとも流体と接する吐出孔表面に形成されている。ダイヤモンド結晶粒を含む層は、少なくともノズルの吐出孔の表面に形成されていればよく、例えば
図2(a)のように、ノズルプレート5の全体がダイヤモンド結晶粒を含む層7aであってもよい。また、
図2(b)のように、吐出孔上流部8aの表面と、吐出孔下流部8bの表面とにダイヤモンド結晶粒を含む層7bが形成されていてもよい。また、
図2(c)のように、吐出孔下流部8bの表面にダイヤモンド結晶粒を含む層7cが形成されていてもよい。好ましい一実施形態としては、吐出孔下流部8bにおいて最下流の部分にダイヤモンド結晶粒を含む層を有する形態が挙げられる。
【0022】
本発明のノズルにおいて、インク吐出孔は、好ましくは、上記吐出孔下流部8bに示されるような円筒状の形状の構造を含む。上記円筒状の構造は、好ましくは内径が0.03~1.0mmであり、より好ましくは0.05~0.1mmである。また、上記円筒状の構造は、好ましくは長さ(高さ)が10μm~1mmである。
【0023】
ダイヤモンド結晶粒を含む層は、特に制限されないが、多結晶ダイヤモンド(PCD)を含む層でありうる。多結晶ダイヤモンドは、例えばダイヤモンド結晶粒が88体積%以上、好ましくは90体積%以上含まれる合成多結晶ダイヤモンド材料であってもよい。上記合成多結晶ダイヤモンド材料は従来公知の方法で調製することができる。多結晶ダイヤモンドの具体的な形態については、例えば、特開2012-528780号公報を参照することができる。上記多結晶ダイヤモンドとしては、例えば、導電性(EC)-PCD-合成ダイヤモンドパウダーなどが用いられうる。
【0024】
ダイヤモンド結晶粒の平均粒径は特に制限されないが、好ましくは0.01~100μmであり、より好ましくは0.1~60μmである。なお、後述するように、ダイヤモンド結晶粒の平均粒径を調節することでダイヤモンド結晶粒を含む層の表面粗さを制御することができる。一実施形態によれば、ダイヤモンド結晶粒の平均粒径が10μm以下であると表面粗さが小さくなり圧力損失がより小さくなるため好ましい。
【0025】
前記ダイヤモンド結晶粒を含む層における前記ダイヤモンド結晶粒の体積比率は、50体積%以上であることが好ましく、70体積%以上であることがより好ましい。上記範囲であれば、耐摩耗性がより向上しうる。
【0026】
例えば、本実施形態のノズルは、上記
図2(a)のように、ノズルプレート5の全体がダイヤモンド結晶粒を含む層7aでありうる。ノズルプレート5の全体がダイヤモンド結晶粒を含む層である場合、本実施形態のノズルにおいて、ダイヤモンド結晶粒の体積比率は50体積%以上であることが好ましい。上記範囲であれば、耐摩耗性がより向上しうる。上記
図2(b)、(c)のように、ノズルプレート5の流体と接する表面にダイヤモンド結晶粒を含む層7b、7cを有する場合も、ダイヤモンド結晶粒を含む層7b、7cにおけるダイヤモンド結晶粒の体積比率は50体積%以上であると、耐摩耗性がより向上しうる。
【0027】
また、本実施形態のノズルは、ダイヤモンド結晶粒の体積比率が、前記流体と接する表面のうち、上流の部位から下流の部位に向かって増加していることが好ましい。
図2(a)~(c)に示すようなノズルを例にとると、ノズル(ノズルプレート)5の吐出孔8に導入された流体としてのインクの流速は、上流の部位である吐出孔上流部8aよりも下流の部位である吐出孔下流部8bで相対的に高くなる。したがって、下流である吐出孔下流部8bの表面においてダイヤモンド結晶粒の体積比率を高くして硬度を高めることにより、高い流速で流体が表面に接した場合であっても、十分な耐摩耗性がより効果的に確保できる。また、ノズルの酸化劣化防止の効果により優れる。好ましい一実施形態として、
図2(c)のように、吐出孔上流部8aの表面にはダイヤモンド結晶粒を有する層を設けず、吐出孔下流部8bの表面にダイヤモンド結晶粒を有する層7cを設ける構造が挙げられる。
【0028】
ダイヤモンド結晶粒を含む層の表面粗さは特に制限されないが、流体と接する吐出孔の表面(ノズルのインク吐出孔の内表面)の表面粗さが0.3μm以下であることが好ましい。流体と接する吐出孔の表面の表面粗さが小さいほど、流体であるインクを吐出する際の圧力損失を抑制することができる。本実施形態のノズルにおいては、表面粗さが0.3μm以下であると、流体として高粘度インクを用いた場合であってもノズルのインク吐出孔の入口と出口との間の圧力損失を十分に低減することができる。その結果、インクの流れがよくなり、高粘度インクの塗布に好適に使用できる。ダイヤモンド結晶粒を含む層の表面粗さRaは、
図3のように、ダイヤモンド結晶粒を含む層を構成するダイヤモンド結晶粒(または導電性ダイヤモンド結晶粒)の平均粒径により調節することができ、平均粒径が小さいほど表面粗さが小さくなる傾向にある。一実施形態において、ダイヤモンド結晶粒の平均粒径が10μm以下であると、上記範囲の表面粗さが容易に得られうるため好ましい。ダイヤモンド結晶粒を含む層の表面粗さの下限値は特に制限されないが、実質的に、0.1μm以上であり、好ましくは0.16μm以上である。ダイヤモンド結晶粒を含む層の表面粗さは、例えば、走査型電子顕微鏡写真を画像解析することにより求めることができる。
【0029】
ダイヤモンド結晶粒を含む層は、外部からの電気エネルギーによって発熱する導電性ダイヤモンド結晶粒を含む層であることが好ましい。ダイヤモンド結晶粒を含む層が外部からの電気エネルギーによって発熱すると、ダイヤモンド結晶粒を含む層を発熱体として流体を加熱し、流体を低粘度化することができる。これにより、高粘度インクをノズルつまりなく吐出することが可能になる。また、液滴の熱容量を小さくすることができる。そして、吐出後速やかにインクが冷却されて高粘度に戻ることから、垂直面に塗布したときの液だれを防止することができ、平滑な塗布面が得られうる。
【0030】
導電性ダイヤモンド結晶粒としては、例えば、ボロンドープダイヤモンドが挙げられる。ボロンドープダイヤモンドの具体的な形態は特に制限されず、従来公知の知見が適宜採用されうる。
【0031】
導電性ダイヤモンド結晶粒を含む層に外部から電気エネルギーを与える手段は特に限定されず、導電性ダイヤモンド結晶粒を含む層に端子を取り付けて直流電源に接続して電圧を印加し、電流を流すことができる。電流の大きさは、導電性ダイヤモンド結晶粒を含む層が発熱し、インクを加熱して低粘度化させることができる範囲であることが好ましく、ノズルの形状、導電性ダイヤモンド結晶粒を含む層の比抵抗、インクの組成などに応じて調整されうる。
【0032】
この際、導電性ダイヤモンド結晶粒を含む層は、比抵抗が0.1~100Ω・cmであることが好ましく、5~90Ω・cmであることがより好ましい。導電性ダイヤモンド結晶粒を含む層の比抵抗が0.1Ω・cm以上であると、導電性ダイヤモンド結晶粒を含む層に電流を流したときに発熱し、インクの粘度を低下させる効果に優れる。一方、導電性ダイヤモンド結晶粒を含む層の比抵抗が100Ω・cm以下であると、発熱温度が大きくなりすぎないため、インクの色素劣化が生じにくいため好ましい。導電性ダイヤモンド結晶粒を含む層の比抵抗は、導電性ダイヤモンドのドーパントの種類や量、導電性ダイヤモンド結晶粒を含む層における導電性ダイヤモンド結晶粒の体積比率、後述の導電性の結合材を用いる場合は、その種類や量を変化させることにより上記比抵抗を調節することもできる。また、導電性ダイヤモンド結晶粒の平均粒径を変化させることにより上記比抵抗を調節することもできる。導電性ダイヤモンド結晶粒の平均粒径が小さくなるほど、ダイヤモンド粒子と導電性の結合材との接触界面の面積が増加するため、比抵抗が大きくなる。導電性ダイヤモンド結晶粒を含む層の比抵抗は実施例に記載の方法で測定することができる。
【0033】
(導電性の結合材)
導電性ダイヤモンド結晶粒を含む層は、導電性ダイヤモンド結晶粒同士を結びつける導電性の結合材を含有することが好ましい。
図3に示すように、本発明の一実施形態において、導電性の結合材12は、導電性ダイヤモンド結晶粒11の粒子間に存在し、導電性ダイヤモンド結晶粒11同士を結着させる。導電性の結合材12を用いることで、導電性ダイヤモンド結晶粒を含む層の導電性を適切に調節することができる。これにより、電流により導電性ダイヤモンド結晶粒を含む層を加熱する際の温度調節が容易になり、インクの粘度の調節がより効果的に行われうる。
【0034】
導電性の結合材としては、特に制限されないが、例えば、Co、Si、Ni、Cr、Mo、Ti、B、WC、Cu、Snの粒子が用いられうる。2種類以上の結合材を用いてもよい。導電性の結合材の種類を適切に選択することで導電性ダイヤモンド結晶粒を含む層の比抵抗を調節することができ、導電性を調節することができる。導電性の結合材の平均粒径は特に制限されないが、導電性ダイヤモンド結晶粒の平均粒径よりも小さいことが好ましく、例えば、0.01~30μmであり、好ましくは0.1~10μmである。
【0035】
導電性ダイヤモンド結晶粒を含む層において、導電性ダイヤモンド結晶粒と導電性の結合材との体積比率は特に制限されない。例えば、導電性ダイヤモンド結晶粒と導電性の結合材との合計量に対して、導電性ダイヤモンド結晶粒の体積比率が30~100体積%であり、好ましくは50体積%以上であり、さらに好ましくは50~90体積%である。導電性ダイヤモンド結晶粒の体積比率が30体積%以上、特には50体積%以上であれば、耐摩耗性に優れる。また、導電性ダイヤモンド結晶粒の体積比率が大きいほど比抵抗が大きくなり、小さい電流で発熱して流体を加熱できることから、導電性ダイヤモンド結晶粒の体積比率が30体積%以上であることが好ましく、50体積%以上であることがより好ましい。2種類以上の導電性の結合材を用いるときはその合計量が上記範囲であることが好ましい。
【0036】
なお、導電性ダイヤモンド結晶粒を含む層が導電性ダイヤモンド結晶粒および導電性の結合材を含む場合、導電性ダイヤモンド結晶粒および導電性の結合材の合計量は、ダイヤモンド結晶粒を含む層の総体積に対して90体積%以上であることが好ましく、95体積%以上であることがより好ましく、99体積%以上であることがさらに好ましい。
【0037】
(ダイヤモンド結晶粒を有する層を含むノズルの作製方法)
ダイヤモンド結晶粒を有する層を含むノズルの作製方法は特に制限されない。例えば、ダイヤモンド結晶粒の粉体を準備し、必要に応じて導電性の結合材と混合する。これを適当な型に入れて超高圧高温発生装置で焼成することでノズルを作製することができる。焼成条件は特に制限されないが、例えば、1300~1500℃に加熱保持し、圧力5~6GPa下で15~50分保持する条件が採用されうる。
【0038】
ダイヤモンド結晶粒を含む層をノズルのインク吐出孔の表面に形成する場合は、例えば、CVDコーティングによる方法が採用されうる。例えば、超硬合金のノズルプレートを準備し、ノズルのインク吐出孔の表面に、熱フィラメント型CVD装置を用いてダイヤモンド結晶粒を含む層をコーティングすることができる。この際の温度、圧力などの条件は特に制限されない。一例としては、母材温度を650~800℃ ガス圧力500Pa、ガス流量比 H2:CH4=100:1にて、24時間保持する条件が挙げられる。導電性ダイヤモンド結晶粒を含む層として、ボロンドープダイヤモンドを含む層を形成する場合は、原料ガスとしてトリメチルボロンなどのホウ素化合物をさらに用いることができる。ダイヤモンド結晶粒を含む層の厚さも特に制限されない。この際、ガスの組成や各成分の流量比を変更することで、ダイヤモンド結晶粒を含む層におけるダイヤモンド結晶粒の体積比率を所望の値に調整することができる。
【0039】
(インク)
本実施形態のノズルを有する塗布装置を用いて塗布される流体としてのインクとは、被塗布体に塗布可能なものであれば特に制限されない。水性インク、油性インク、エマルションインク等の公知のインクを使用することができる。
【0040】
インクとしては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂および溶剤を含むものが用いられうる。必要に応じて、着色剤;光輝材;界面活性剤、中和剤、安定剤、増粘剤、消泡剤、表面調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の添加剤;シリカ等の無機充填剤等をさらに配合することができる。着色剤としては、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、酸化クロム、紺青等の無機顔料;アゾ系顔料、アントラセン系顔料、ペリレン系顔料、キナクリドン系顔料、インジゴ系顔料、フタロシアニン系顔料等の有機顔料;染料などが挙げられる。光輝材としては、アルミフレーク、マイカなどが用いられうる。光輝材は、特に制限されないが、平均粒径が10μm~1mm程度、平均厚さが0.1~15μm程度のフレーク状の粒子であることが好ましく、インク全量に対して20~40質量%の含有量で用いられうる。
【0041】
インクの粘度は特に制限されないが、25℃での粘度が例えば70mPa・s以上、好ましくは90mPa・s以上である高粘度インクであると、本発明の効果がより顕著に得られうる。
【0042】
本発明のノズルは、特に制限されないが、例えば、自動車、オートバイ等の自動車車両またはその部品、トラック、バス、建機もしくは鉄道車両等の大型車両またはその部品;などの被塗布体の塗装のための塗布装置に好適に用いられうる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」または「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」または「質量%」を表す。
【0044】
(実施例1)
導電性ダイヤモンド結晶粒として、平均粒経5μmのEC-PCD-合成ダイヤモンドパウダー(ボロンドープダイヤモンド)を準備した。導電性の結合材としてCo粉末(平均粒径1.5μm)を用い、EC-PCD-合成ダイヤモンドパウダー50体積%、Co粉末50体積%の体積比率で、高温・高圧下で焼結して結合させ、φ30mm×1mmtの焼結体を得た。具体的には、EC-PCD-合成ダイヤモンドパウダーと導電性の結合材とを混合して型内に挿入し、超高圧高温発生装置で1300~1500℃、圧力5~6GPa下で15~50分間加熱保持した。
【0045】
(実施例2~6、8、9、11)
EC-PCD-合成ダイヤモンドパウダーおよび導電性の結合材を下記表1のように変更したことを除いては、実施例1と同様にφ30mm×1mmtの焼結体を得た。なお、実施例5では、導電性の結合材としてCoパウダー(平均粒径1.5μm)およびSiパウダー(平均粒径1.5μm)をCo:Si=9:1(体積比)で混合して用いた。
【0046】
(実施例7)
基材にCo5%の超硬合金(WC)φ30mm×1mmtを用い、CVD法により20μm厚さのボロンドープ多結晶ダイヤモンド膜を成膜した。CVDコーティングは、超硬基材を使用し、熱フィラメント型CVD装置で母材温度を650~800℃、ガス圧力500Pa、ガス流量比 H2:CH4=100:1にて、24時間保持することで行った。ダイヤモンド中へのホウ素の添加は、水素で1000ppmに希釈したトリメチルボロンB(CH3)3をメタン供給量に対し6000ppmを供給して行った。
【0047】
得られたボロンドープ多結晶ダイヤモンド膜は、ダイヤモンド結晶粒の体積比率が100体積%であった。
【0048】
(実施例10)
基材にCo5%の超硬合金(WC)φ30mm×1mmtを用い、CVD法により20μm厚さのボロンドープ多結晶ダイヤモンド膜を成膜した。CVDコーティングは、超硬基材を使用し、熱フィラメント型CVD装置で母材温度を650~800℃、ガス圧力500Pa、ガス流量比 H2:CH4=100:5にて、24時間保持することで行った。ダイヤモンド中へのホウ素の添加は、水素で1000ppmに希釈したトリメチルボロンB(CH3)3をメタン供給量に対し6000ppmを供給して行った。
【0049】
得られたボロンドープ多結晶ダイヤモンド膜は、ダイヤモンド結晶粒の体積比率が50体積%であった。残部の50体積%の成分は、完全にダイヤモンド結晶(SP3)化していないグラファイト(SP2)を含むダイヤモンド状の炭素膜成分である。
【0050】
(比較例1)
SUS304板材からφ30mm×1mmtの試料を切り出した。
【0051】
(比較例2)
超硬合金(WC)φ30mm丸棒からφ30mm×1mmtの試料を切り出した。
【0052】
(耐摩耗性試験)
耐摩耗性試験は、ボールオンディスク方式にて行った。ボールとしては、銅製のφ3/8インチ、表面粗さRaは0.1μmのものを用いた。ディスクとしては、上記の実施例および比較例で作製した試料を用いた。
図4のようにボールに荷重をかけてディスクを回転させ、ディスクの比摩耗量を測定した。試験条件、評価方法は以下の通りである:
試験条件
荷重:10N
回転数:1000rpm
温度:30℃
試験時間:300min
評価方法:比摩耗量。
【0053】
耐摩耗性試験の評価結果を下記表1に示す。表1に示すように、ダイヤモンド結晶粒を含む層を有する実施例1~11は、いずれも、比較例1のステンレス鋼および比較例2の超硬合金に比較して、摩耗量を大幅に低減できることがわかった。また、実施例1、3、4、5の比較から、ダイヤモンド結晶粒の平均粒径が同等であればダイヤモンド結晶粒の体積比率が大きいほど耐摩耗性が高くなる傾向にあり、ダイヤモンド結晶粒の体積比率が50体積%以上であると好適であることがわかった。
【0054】
【0055】
(比抵抗および表面温度の測定)
ダイヤモンド結晶粒を含む層の比抵抗および表面温度をディスク加熱試験により測定した。ディスクとしては、上記の実施例で作製した試料を用いた。
図5のように、ディスクの表面に、ポリエステル樹脂に平均粒径が平均30μm、平均厚さが平均2.0μmのアルミニウムフレークを塗料の全量に対して30質量%程度加えたポリエステル樹脂有機溶剤系塗料を塗布量2μLで塗布した。
【0056】
(比抵抗の測定)
ディスク試料の表面の1cm間に2Aの電流を流した際の接触抵抗を測定し、下記式に従って比抵抗を求めた:
比抵抗ρ=(接触抵抗R×断面積S)/長さL
ここで、接触抵抗Rは四端子法により測定した電気抵抗であり、断面積Sはディスクの断面積であり、長さLはディスクの長さである。
【0057】
(加熱温度の測定)
電流を2A、4A、および6A流した際の5秒後のディスクの表面温度を熱電対を用いて測定した。ここで、初期のディスクの表面温度は10℃であり、塗料の粘度は135mPa・sであった。
【0058】
結果を下記表2に示す。表2中、6A流した際の塗料粘度は、あらかじめ塗料の温度に対する粘度の変化を測定し、上記で測定したディスクの表面温度に基づいて求めた。6A流した際の塗料粘度の評価基準は下記の通りである:
〇:安定的な温度上昇により粘度低下
△:温度が不安定で粘度が下がりにくい、または温度上昇が大きすぎてインクの色素劣化のおそれがある。
【0059】
【0060】
上記表2に示されるように、実施例1~11において、ダイヤモンド結晶粒を含む層は、ボロンドープダイヤモンドを含み、外部からの電気エネルギーによって発熱する導電性ダイヤモンド結晶粒を含む層である。このような導電性ダイヤモンド結晶粒を含む層は、電気エネルギーにより発熱し、塗料が加熱されて塗料の粘度が低下することが確認された。
【0061】
導電性ダイヤモンド結晶粒を含む層は、実施例1~6、8、9、11のように導電性ダイヤモンド結晶粒が導電性の結合材により結合しているものであっても電気エネルギーにより発熱し、塗料が加熱されて塗料の粘度が低下する効果が得られた。実施例7、10のように、導電性ダイヤモンド結晶粒を含む層が基材の表面にコーティングされているものであっても、電気エネルギーにより発熱し、塗料が加熱されて塗料の粘度が低下する効果が得られた。
【0062】
特に、実施例1~8のように、導電性ダイヤモンド結晶粒を含む層の比抵抗が0.1~100Ω・cmである実施例1~9では、安定的な温度上昇により十分な粘度低下が生じることがわかった。また、過度な温度上昇による色素の劣化が生じにくいことがわかった。これに対して、比抵抗が100Ω・cmを超える実施例10では安定的な温度上昇が難しく、塗料の粘度が下がりにくい。また、比抵抗が0.1Ω・cmを下回る実施例11では温度上昇が大きすぎてインクの色素の劣化の可能性がある。
【0063】
また、実施例1~8のようにダイヤモンド結晶粒を含む層のダイヤモンド結晶粒の体積比率が50体積%以上であると導電性に優れ、塗料の粘度を低下させる効果が高い。
【0064】
(ダイヤモンド結晶粒の平均粒径、表面粗さおよび圧力損失)
ダイヤモンド結晶粒の平均粒径を変化させて、上記の各実施例と同様に導電性の結合材を用いて焼結成形体を作製した。作製した焼結成形体の表面粗さRaを測定し、ダイヤモンド結晶粒の平均粒径と表面粗さRaの関係を求めた。表面粗さは、走査型電子顕微鏡写真を画像解析することにより求めた。
図6に、平均粒径に対する表面粗さの上限、下限の範囲を示す。
図6から、例えば、平均粒径が10μmでは、表面粗さRaは0.16~0.3μmの範囲にあるといえる。
【0065】
高粘度インクの粘度100mPa・s、円筒状のインク吐出孔の長さ300μm、インク吐出孔の直径(内径)30μm、入口圧力100kPa、摩擦係数を表面粗さRaとし、摩擦係数が変化した場合の入口出口間の圧力損失を流体シミュレーションから求めた。シーメンス社製の流れ解析ソフトstar-ccm+を使用し、ノズル形状モデルを作成し、インク吐出孔の表面粗さ(摩擦係数)を変化させて、インク吐出孔の入口と出口との間の圧力損失を求めた。結果を
図7に示す。圧力損失80kPa以下であれば、圧力損失が十分に小さく、インクの流れがより良好になるといえる。圧力損失80kPa以下を満足する表面粗さRaは、0.3μm以下であった。表3に、各実施例で作製した試料のダイヤモンド結晶粒を含む層の表面粗さと、流体シミュレーションから求めた圧力損失の結果を示す。表3中、圧力損失の評価基準は以下の通りである:
〇:圧力損失が80kPa以下である、
△:圧力損失が80kPaを超える。
【0066】
【0067】
表3、
図6、7のように、ダイヤモンド結晶粒を含む層の表面粗さRaを0.3μm以下に制御することで、高粘度インクを用いたときのノズルの圧力損失を低減できることがわかった。
【符号の説明】
【0068】
1 インク吐出ヘッド、
2 圧電素子、
3 インク室、
4 液供給路、
5 塗布装置用ノズル(ノズルプレート)、
6 液滴、
7a、7b、7c ダイヤモンド結晶粒を含む層、
8 インク吐出孔(吐出孔)、
8a 吐出孔上流部、
8b 吐出孔下流部、
11 導電性ダイヤモンド結晶粒、
12 導電性の結合材、
Ra 表面粗さ。