(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】A重油組成物
(51)【国際特許分類】
C10L 1/04 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
C10L1/04
(21)【出願番号】P 2020214626
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2023-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 史弥
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-147435(JP,A)
【文献】特開2012-246357(JP,A)
【文献】特開2017-119780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ガスクロマトグラフ法蒸留試験方法における0.5容量%留出温度が185℃以上254℃未満、
(b)ガスクロマトグラフ法蒸留試験方法における90.0容量%留出温度が315℃以上347℃未満、
(c)芳香族炭化水素含有割合が90.0容量%以上、
(d)硫黄分含有割合が0.0100質量%以下、
(e)引火点が100.0~146.0℃
である芳香族炭化水素系基材を2容量%~25容量%含有すること
を特徴とするA重油組成物。
【請求項2】
(i)15℃における密度が0.8700g/cm
3~0.8900g/cm
3、
(ii)50℃における動粘度が3.5mm
2/秒~4.0mm
2/秒、
(iii)硫黄分含有割合が0.65質量%以下、
(iv)10%残油の残留炭素分が1.10質量%以下、
(v)セタン指数が40.0以上
である請求項1に記載のA重油組成物。
【請求項3】
接触分解軽油の含有割合が5容量%以下である請求項1または請求項2に記載のA重油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、A重油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、重油組成物は、各種産業分野において種々の用途に使用されており、JIS K2205において、動粘度により、1種(A重油)、2種(B重油)及び3種(C重油)の3種類に分類されている。
これらの重油組成物のうち、A重油は、一般にハウス加温栽培用暖房機の燃料油や、ビル等の暖房機の燃料油や、漁船の燃料油等として用いられている。
【0003】
ところで、A重油は、JIS K 2205(重油)にその品質が規定されており、残留炭素分が4質量%以下であることが規定されている。
一方、軽油組成物との製品区分を明確化し、軽油取引税の課税対象になることを避けるため、一般にA重油には、10%残油の残留炭素分が0.2質量%以上になるように、常圧残渣油、減圧残渣油、直脱残渣油、エキストラクト油(潤滑油の溶剤抽出副生油)などの残渣油等が残炭調整材として添加されている。
【0004】
ところが、従前より、上記残炭調整材に起因するスラッジにより夾雑物阻止用に設けられるろ過器中のフィルターが閉塞し、燃料供給が困難になることが知られている。近年では、夾雑物阻止用に設けられるろ過器中のフィルターの目開きが微細化されつつあることから、スラッジによるフィルターの閉塞や、フィルター通油性の低下が一層生じ易い状況になっている。
【0005】
A重油のスラッジの発生を抑制するために、例えば、スラッジ分散剤として、分子中に>C=N+<結合を有する重合体と、長鎖アルキルリン酸エステルおよび/またはアルキルスルホこはく酸エステルとの混合物が添加された重油組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、スラッジ分散剤を添加したA重油は、必要以上の製造コストの増加を招き経済性に劣る。
【0006】
上記スラッジの発生を抑制するために、主として軽油組成物の構成基材として使用されている、流動接触分解装置から得られる接触分解軽油(LCO)を、A重油組成物の構成基材として配合することも考えられる。
【0007】
一方、近年の社会情勢として、エネルギー供給構造高度化法(正式名称:「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」)の制定に代表されるように、石油資源の有効活用が着目されるようになっており、かかる観点から、重質な基材を有効活用することが望まれるようになっている。
【0008】
また、A重油組成物としては、接触分解軽油(LCO)を構成基材として用いた場合よりもさらにスラッジの発生が抑制されたものが望まれるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、石油資源を有効活用しつつ、スラッジ分散剤を使用しなくてもスラッジの発生が好適に抑制されたA重油組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記技術課題を解決するために本発明者等が鋭意検討したところ、エチレン製造装置や接触改質装置などの石油化学装置から副生するラフィネートをさらに精密蒸留塔で分留した際に得られる特定の重質留分ないし残渣留分、より具体的には、ラフィネートを原料として芳香族系溶剤を製造する際に副生する特定の留分に着目するに至った。
【0012】
そして、本発明者等は、(a)ガスクロマトグラフ法蒸留試験方法における0.5容量%留出温度が185℃以上254℃未満、(b)ガスクロマトグラフ法蒸留試験方法における90.0容量%留出温度が315℃以上347℃未満、 (c)芳香族炭化水素含有割合が90.0容量%以上、(d)硫黄分含有割合が0.0100質量%以下、(e)引火点が100.0~146.0℃である芳香族炭化水素系基材を2容量%~25容量%含有するA重油組成物により、上記技術課題を解決し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至ったものである。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1)(a)ガスクロマトグラフ法蒸留試験方法における0.5容量%留出温度が185℃以上254℃未満、
(b)ガスクロマトグラフ法蒸留試験方法における90.0容量%留出温度が315℃以上347℃未満、
(c)芳香族炭化水素含有割合が90.0容量%以上、
(d)硫黄分含有割合が0.0100質量%以下、
(e)引火点が100.0~146.0℃
である芳香族炭化水素系基材を2容量%~25容量%含有すること
を特徴とするA重油組成物、
(2)(i)15℃における密度が0.8700g/cm3~0.8900g/cm3、
(ii)50℃における動粘度が3.5mm2/秒~4.0mm2/秒、
(iii)硫黄分含有割合が0.65質量%以下、
(iv)10%残油の残留炭素分が1.10質量%以下、
(v)セタン指数が40.0以上
である上記(1)記載のA重油組成物、
(3)接触分解軽油の含有割合が5容量%以下である上記(1)または(2)に記載のA重油組成物
を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、石油資源を有効活用しつつ、スラッジ分散剤を使用しなくてもスラッジの発生が好適に抑制されたA重油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
なお、本明細書中、数値範囲を現す「~」は、その上限及び下限としてそれぞれ記載されている数値を含む範囲を表す。また、「~」で表される数値範囲において上限値のみ単位が記載されている場合は、下限値も同じ単位であることを意味する。
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率又は含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本明細書において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0016】
本明細書において、下記項目の値は、特に断らない限り、各々以下の試験方法及び計算を用いて求めた値を意味する。
・「ガスクロマトグラフ法蒸留試験方法における蒸留性状(留出温度)」
ASTM D 2887に規定されている方法。
・「常圧蒸留における蒸留性状(留出温度)」;
JIS K 2254:1998「石油製品-蒸留試験方法」に規定されている「常圧法蒸留試験方法」に規定されている方法。
・「飽和炭化水素の含有割合」;
JPI-5S-49-07「石油製品-炭化水素タイプ試験方法-高速液体クロマトグラフ法」に規定されている方法。
・「芳香族炭化水素の含有割合」;
JPI-5S-49-07「石油製品-炭化水素タイプ試験方法-高速液体クロマトグラフ法」に規定されている方法。
・「オレフィン分の含有割合」;
JPI-5S-49-07「石油製品-炭化水素タイプ試験方法-高速液体クロマトグラフ法」に規定されている方法。
・「硫黄分含有割合」;
500質量ppm以下の硫黄分:JIS K 2541-6:2003「原油及び石油製品-硫黄分試験方法-第6部:紫外蛍光法」に規定されている方法。
500質量ppmを超える硫黄分:JIS K 2541-4:2003「原油及び石油製品-硫黄分試験方法-第4部:放射線式励起法」に規定されている方法。
・「引火点」
JIS K 2265-3:2007「引火点の求め方―第3部:ペンスキーマルテンス密閉法」に規定されている方法(ただし、後述する常圧蒸留残渣油については、JIS K 2265-1に規定されている方法。)
・「15℃における密度(密度(15℃))」;
JIS K 2249-1:2011「原油及び石油製品-密度の求め方―(振動法)」に規定されている方法。
・「50℃における動粘度(動粘度(50℃))」;
JIS K 2283:2000「原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に規定されている方法。
・「残留炭素分」:
JIS K 2270-2:2009「原油及び石油製品―残留炭素分の求め方―第2部:ミクロ法」に規定されている方法。
・「10%残油の残留炭素分」;
JIS K 2270-2:2009「原油及び石油製品―残留炭素分の求め方―第2部:ミクロ法」に規定されている方法。
・「スラッジ量」;
全漁連A重油ドライスラッジ測定法 Z・G・ST-100に規定されている方法。
・「セタン指数」;
JIS K 2204-92に規定されている方法。
・「曇り点」
JIS K 2269:1987「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」に規定されている方法。
・「目詰まり点(CFPP)」;
JIS K 2288:2000「石油製品-軽油-目詰まり点試験方法」に規定されている方法。
・「流動点(PP)」
JIS K 2269:1987「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」に規定されている方法。
【0017】
本発明に係るA重油組成物は、
(a)ガスクロマトグラフ法蒸留試験方法における0.5容量%留出温度が185℃以上254℃未満、
(b)ガスクロマトグラフ法蒸留試験方法における90.0容量%留出温度が315℃以上347℃未満、
(c)芳香族炭化水素含有割合が90.0容量%以上、
(d)硫黄分含有割合が0.0100質量%以下、
(e)引火点が100.0℃~146.0℃
である芳香族炭化水素系基材を2容量%~25容量%含有すること
を特徴とするものである。
【0018】
先ず、本発明に係るA重油組成物を構成する芳香族炭化水素系基材について説明する。
【0019】
本発明に係るA重油組成物を構成する芳香族炭化水素系基材において、(a)ガスクロマトグラフ法蒸留試験方法における0.5容量%留出温度は、185℃以上254℃未満であり、190℃~240℃であることが好ましく、195℃~230℃であることがより好ましい。
【0020】
本発明に係るA重油組成物を構成する芳香族炭化水素系基材の(a)ガスクロマトグラフ法蒸留試験方法における0.5容量%留出温度が上記範囲内にあることにより、本発明に係るA重油組成物において、スラッジの発生を好適に抑制しつつ引火点を高く維持することができる。
【0021】
本発明に係るA重油組成物を構成する芳香族炭化水素系基材において、ガスクロマトグラフ法蒸留試験方法における50.0容量%留出温度は、260℃~310℃であることが好ましく、265℃~290℃であることがより好ましく、270℃~280℃であることがさらに好ましい。
【0022】
本発明に係るA重油組成物を構成する芳香族炭化水素系基材において、(b)ガスクロマトグラフ法蒸留試験方法における90.0容量%留出温度は、315℃以上347℃未満であり、320℃~345℃であることが好ましく、330℃~340℃であることがより好ましい。
【0023】
本発明に係るA重油組成物を構成する芳香族炭化水素系基材の(b)ガスクロマトグラフ法蒸留試験方法における90.0容量%留出温度が上記範囲内にあることにより、本発明に係るA重油組成物において、スラッジの発生を好適に抑制しつつ安定した燃焼性を容易に発揮することができる。
【0024】
本発明に係るA重油組成物を構成する芳香族炭化水素系基材において、(c)芳香族炭化水素含有割合は、90.0容量%以上(90.0~100.0容量%)であり、95.0容量%~100.0容量%であることが好ましく、98.0容量%~100.0容量%であることがより好ましい。
【0025】
本発明に係るA重油組成物を構成する芳香族炭化水素系基材の(c)芳香族炭化水素含有割合が上記範囲内にあることにより、本発明に係るA重油組成物において、スラッジの生成を容易に抑制することができる。
【0026】
本発明に係るA重油組成物を構成する芳香族炭化水素系基材において、(d)硫黄分含有割合は、0.0100質量%以下であり、0.0050質量%以下であることが好ましく、0.0010質量%以下であることがより好ましい。
本発明に係るA重油組成物において、芳香族炭化水素系基材における硫黄分含有割合が0.0100質量%以下であることにより、本発明に係るA重油組成物において、硫黄分の含有量を適正な範囲に容易に制御することができ、燃焼時における硫黄化合物の生成を容易に抑制することができる。
【0027】
本発明に係るA重油組成物を構成する芳香族炭化水素系基材において、(e)引火点は、100.0℃~146.0℃であり、100.0℃~120.0℃であることが好ましく、100.0℃~110.0℃であることがより好ましい。
【0028】
本発明に係るA重油組成物を構成する芳香族炭化水素系基材は、15℃における密度が、0.8500g/cm3~1.1000g/cm3であることが好ましく、0.9000g/cm3~1.0500g/cm3であることがより好ましく、0.9500g/cm3~1.0000g/cm3であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物において、芳香族炭化水素系基材の密度が上記範囲にあることにより、本発明に係るA重油組成物において、スラッジの生成を容易に抑制することができる。
【0029】
本発明に係るA重油組成物において、芳香族炭化水素系基材の含有割合は、2容量%~25容量%であり、3容量%~23容量%であることが好ましく、5容量%~20容量%であることがより好ましい。
本発明に係るA重油組成物において、芳香族炭化水素系基材の含有割合が上記範囲内にあることにより、本発明に係るA重油組成物において、スラッジの生成を容易に抑制することができる。
【0030】
本発明に係るA重油組成物において、芳香族炭化水素系基材としては、芳香族を主原料として、精密蒸留塔で分留したときに生成する残渣留分を挙げることができる。
本発明に係るA重油組成物において、芳香族炭化水素系基材としては、エチレン製造装置や接触改質装置などの石油化学装置から副生するラフィネートをさらに精密蒸留塔で1回ないし複数回分留した際に生成する重質留分ないし残渣留分が好ましい。
芳香族炭化水素系基材として、具体的には、ラフィネートを原料として上記手法により芳香族系溶剤を製造する際に副生する残渣留分を挙げることができる。
【0031】
本発明に係るA重油組成物において、上述した芳香族炭化水素系基材とともに使用し得る構成基材としては、A重油組成物の構成基材として通常使用されているものであれば特に制限されず、例えば、直留軽油、減圧軽油、減圧軽油、直接脱硫軽質軽油、直接脱硫重質軽油、水素化脱硫軽油、間接脱硫軽油、熱分解軽油、重質接触分解軽油、脱硫減圧軽油、接触分解軽油、常圧蒸留残渣油、減圧蒸留残渣油、エキストラクト油等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0032】
本発明に係るA重油組成物は、接触分解軽油(LCO)の含有割合が、5容量%以下(0容量%~5容量%)であることが適当であり、3容量%以下(0容量%~3容量%)であることがより適当であり、0容量%であることがさらに適当である。
【0033】
本発明に係るA重油組成物は、接触分解軽油の含有割合が低減されていたり、接触分解軽油を含まないものであっても、石油資源を有効活用して、スラッジの発生を好適に抑制することができる。
【0034】
本発明に係るA重油組成物は、上述した各種基材とともに、各種の添加剤が配合されたものであってもよい。
上記添加剤としては、A重油組成物に通常添加されるものであれば特に制限されず、低温流動性向上剤、流動点降下剤、スラッジ分散剤、防錆剤、酸化防止剤、防食剤、防カビ剤、静電気防止剤、セタン価向上剤、金属不活性化剤等から選ばれる一種以上を挙げることができる。また、本発明に係るA重油組成物は、軽油引取税の観点よりクマリンが配合されたものであってもよい。
【0035】
本発明に係るA重油組成物において、スラッジ分散剤の含有割合は、0質量ppm~500質量ppmであることが適当であり、0質量ppm~200質量ppmであることがより適当であり、0質量ppmであることがさらに適当である。
【0036】
本発明に係るA重油組成物は、スラッジ分散剤の含有割合が低減されていたり、スラッジ分散剤を含まないものであっても、石油資源を有効活用して、スラッジの発生を好適に抑制することができる。
【0037】
本発明に係るA重油組成物は、(i)15℃における密度が、0.8700g/cm3~0.8900g/cm3であることが好ましく、0.8700g/cm3~0.8800g/cm3であることがより好ましく、0.8700g/cm3~0.8750g/cm3であることがさらに好ましい。
A重油組成物の15℃における密度が上記範囲にあることにより、A重油組成物を燃焼させる際に良好な燃焼状態を容易に達成することができる。
【0038】
本発明に係るA重油組成物は、(ii)50℃における動粘度が、3.5mm2/秒~4.0mm2/秒であることが好ましく、3.7mm2/秒~4.0mm2/秒であることがより好ましく、3.8mm2/秒~4.0mm2/秒であることがさらに好ましい。
本発明に係わるA重油組成物の50℃における動粘度が上記範囲内にあることにより、燃焼の不均一性及び失火を抑制することが可能となり、A重油組成物を安定して供給することが可能となる。
【0039】
本発明に係るA重油組成物は、(iii)硫黄分含有割合が、0.65質量%以下(0質量%~0.65質量%)であることが好ましく、0.10質量%~0.65質量%であることがより好ましく、0.50質量%~0.65質量%であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物の硫黄分含有割合が上記範囲内にあることにより、本発明に係るA重油組成物において、硫黄分の含有量を適正な範囲に容易に制御して、燃焼時における硫黄化合物の生成を容易に抑制することができる。
【0040】
本発明に係るA重油組成物は、(iv)10%残油の残留炭素分が、1.10質量%以下(0.00質量%~1.10質量%)であり、0.70質量%~1.10質量%であることが好ましく、0.75質量%~1.10質量%であることがより好ましく、0.80質量%~1.10質量%であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物の10%残油の残留炭素分が上記範囲にあることにより、税法上の規定を満たしつつ、スラッジの生成を好適に抑制することができる。
【0041】
本発明に係るA重油組成物は、セタン指数が、40.0以上であり、42.0以上であることが好ましく、45.0以上であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物のセタン指数が40.0以上あることにより、A重油組成物を燃焼させる際に良好な燃焼状態を得ることができる。
【0042】
本発明に係るA重油組成物は、常圧蒸留における10.0容量%留出温度が、230℃~270℃であることが好ましく、240℃~260℃であることがより好ましく、245℃~255℃であることがさらに好ましい。
【0043】
本発明に係るA重油組成物は、常圧蒸留における50.0容量%留出温度が、290℃~325℃であることが好ましく、295℃~320℃であることがより好ましく、300℃~315℃であることがさらに好ましい。
【0044】
本発明に係るA重油組成物は、常圧蒸留における90.0容量%留出温度が、350℃~390℃であることが好ましく、360℃~385℃であることがより好ましく、370℃~380℃であることがさらに好ましい。
【0045】
本発明に係るA重油組成物は、目詰まり点が、-5℃以下であることが好ましく、-10℃以下であることがより好ましく、-15℃以下であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物の目詰まり点が-5℃以下であることにより、冬季の寒冷地においてもA重油組成物の流動性を好適に確保することができる。
本発明に係るA重油組成物の目詰まり点の下限値については、特に制限されないが、本発明に係るA重油組成物の目詰まり点は、通常は-49℃以上である。
【0046】
本発明に係るA重油組成物は、流動点が、-10.0℃以下であることが好ましく、-15.0℃以下であることがより好ましく、-20.0℃以下であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物の流動点が-10.0℃以下であることにより、冬季の寒冷地においてもA重油組成物の流動性を好適に確保することができる。
本発明に係るA重油組成物の流動点の下限値については、特に制限されないが、本発明に係るA重油組成物の流動点は、通常は-60.0℃以上である。
【0047】
本発明に係るA重油組成物は、スラッジ量が、6.3mg/100ml以下であることが好ましく、6.0mg/100ml以下であることがより好ましく、5.7mg/100ml以下であることがさらに好ましい。
【0048】
本発明に係るA重油組成物のスラッジ量が6.3mg/100ml以下であることにより、夾雑物阻止用に設けられるろ過器中のフィルターの閉塞を抑制し、フィルター通油性の高いA重油組成物を容易に提供することができる。
【0049】
本発明に係るA重油組成物は、引火点が、60.0℃以上であることが好ましく、70.0℃以上であることがより好ましく、80.0℃以上であることがさらに好ましい。
本発明に係るA重油組成物の引火点が60.0℃以上であることにより、より容易に取り扱うことが可能となる。
【0050】
本発明に係るA重油組成物は、上述した芳香族炭化水素系基材を含む各種の基材を、必要に応じて各種添加剤とともに混合することにより調製することができる。
この場合、上記各基材および添加剤の混合順序や混合方法は特に制限されない。
【0051】
本発明によれば、石油資源を有効活用しつつ、スラッジ分散剤を使用しなくてもスラッジの発生が好適に抑制されたA重油組成物を提供することができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を参照して本発明を更に詳しく説明するが、これらの実施例は本発明を実施した場合の代表的な例を示すもので、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。
表中の分析値は上記各測定方法に基づいて測定した値である。また、「―」となっている項目は未測定ないし含有しないことを示す。
【0053】
以下の実施例および比較例においては、以下の構成基材を採用した。各構成基材の物性を表1に示す。
【0054】
(構成基材)
・芳香族炭化水素系基材1(Ar1)
ラフィネートに由来する炭素数10の芳香族を主成分とする原料を精密蒸留塔によって分留した残渣留分からなる、芳香族炭化水素系基材。
・芳香族炭化水素系基材2(Ar2)
ラフィネートに由来する炭素数10の芳香族を主成分とする原料を精密蒸留塔によって分留した残渣留分からなる、芳香族炭化水素系基材。
・比較用芳香族炭化水素系基材3(Ar3)
ラフィネートに由来する炭素数10の芳香族を主成分とする原料を精密蒸留塔によって分留した残渣留分からなる、比較用芳香族炭化水素系基材。
・直留軽油
・間接脱硫軽油
・水素化脱硫軽油
・減圧軽油
・接触分解軽油
・常圧蒸留残渣油
【0055】
【0056】
(実施例1~実施例2、比較例1~比較例4)
実施例1~実施例2および比較例1~比較例4に係るA重油組成物として、上記芳香族炭化水素系基材1(Ar1)、芳香族炭化水素系基材(Ar2)比較用芳香族炭化水素系基材(Ar3)、直留軽油、間接脱硫軽油、水素化脱硫軽油、減圧軽油、接触分解軽油および常圧蒸留残渣油を、各々、表2に示す配合割合になるように各A重油組成物を調製した。
実施例1~実施例3および比較例1~比較例4で得られたA重油組成物の性状を表3に示す。
【0057】
【0058】
【0059】
表1~表3より、実施例1~実施例3で得られた本発明に係るA重油組成物は、特定の芳香族炭化水素系基材を特定割合で含有するものであることから、スラッジ分散剤を使用しなくても、スラッジ量を3.60mg/100ml~5.60mg/100mlに抑制し得るものであることが分かる。
また、表1~表3より、実施例1と比較例2とを対比することにより、実施例1で得られた本発明に係るA重油組成物は、特定の芳香族炭化水素系基材を含有することにより、接触分解軽油を含有するものに比較して、スラッジ量を好適に抑制し得るものであることが分かる。
【0060】
これに対して、表1~表3より、比較例1および比較例2で得られたA重油組成物は、特定の芳香族炭化水素系基材を特定割合で含有するものでないことから、スラッジの生成量を十分に抑制し得ないものであることが分かる。
また、表1~表3より、比較例3で得られたA重油組成物は、芳香族炭化水素系基材の含有割合が所定範囲内にないものであることから、セタン指数が37.5と低く、燃焼性に劣るものであることが分かる。
さらに、表1~表3より、比較例4で得られたA重油組成物は、0.5容量%留出温度および90.0容量%留出温度が特定範囲内にない比較用芳香族炭化水素系基材を用いていることから、スラッジの生成量を十分に抑制し得ないものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、石油資源を有効活用しつつ、スラッジ分散剤を使用することなく、スラッジの発生が抑制されたA重油組成物を提供することができる。