(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】新規足場に基づくポリペプチド
(51)【国際特許分類】
C07K 14/00 20060101AFI20240829BHJP
C40B 40/10 20060101ALI20240829BHJP
C40B 40/06 20060101ALI20240829BHJP
C07K 1/14 20060101ALI20240829BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20240829BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240829BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240829BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALN20240829BHJP
【FI】
C07K14/00 ZNA
C40B40/10
C40B40/06
C07K1/14
C12N15/10 Z
C12P21/02 C
C12N15/13
C12Q1/6869 Z
(21)【出願番号】P 2020547066
(86)(22)【出願日】2019-03-12
(86)【国際出願番号】 EP2019056167
(87)【国際公開番号】W WO2019175176
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-03-08
(32)【優先日】2018-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516368254
【氏名又は名称】アフィボディ アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(72)【発明者】
【氏名】カロリーネ エクブラード
(72)【発明者】
【氏名】イェリン グンネリウソン
(72)【発明者】
【氏名】ソフィア ホーバー
(72)【発明者】
【氏名】サラ リンドボ
【審査官】植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-522864(JP,A)
【文献】特表2013-534421(JP,A)
【文献】Johan Nilvebrant and Sophia Hober,The albumin-binding domain as a scaffold for protein engineering.,Comput. Struct. Biotechnol. J.,2013年09月01日,Vol.6, No.7,e201303009,doi: 10.5936/csbj.201303009
【文献】Johan Nilvebrant et al.,Engineering Bispecificity into a Single Albumin-Binding Domain.,PLoS One,2011年10月03日,Vol.6, No.10,e25791,doi: 10.1371/journal.pone.0025791
【文献】Andreas Jonsson et al.,Engineering of a femtomolar affinity binding protein to human serum albumin.,Protein Eng. Des. Sel.,2008年05月22日,Vol.21, No.8,p.515-527,doi: 10.1093/protein/gzn028
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C40B 40/00
C07K 14/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の足場に基づくポリペプチド変異体の集団であって、集団内の各ポリペプチドが、以下の足場アミノ酸配列:
X
sc1AELDX
sc2X
sc3GVG AXXIKXIX
sc4XA XXVEXVQXXK QXILAX(配列番号165)
(配列中、互いに独立して、
- X
sc1が、I及びLから選択された足場アミノ酸残基であり;
- X
sc2が、C及びSから選択された足場アミノ酸残基であり;
- X
sc3が、K及びYから選択された足場アミノ酸残基であり;
- X
sc4が、E及びQから選択された足場アミノ酸残基であり;及び
- 各Xが、個々に、何れかのアミノ酸残基に対応する結合アミノ酸残基である)
を含む、集団。
【請求項2】
各ポリペプチドが、以下の足場アミノ酸配列を含む:
LAEAKEAAX
sc1A ELDX
sc2X
sc3GVGAX XIKXIX
sc4XAXX VEXVQXXKQX ILAXLP(配列番号166)
(配列中、
X
sc1、X
sc2、X
sc3、X
sc4及び個々の各Xは、請求項1で定義されている通りである)、
請求項1に記載の集団。
【請求項3】
少なくとも1×10
4個の固有のポリペプチド分子を含む、請求項1又は2に記載の集団。
【請求項4】
ポリヌクレオチドの集団であって、その各メンバーが、請求項1~3の何れか1項に記載のポリペプチドの集団のメンバーをコードすることを特徴とする、ポリヌクレオチドの集団。
【請求項5】
請求項1~3の何れか1項に記載のポリペプチドの集団と請求項4に記載のポリヌクレオチドの集団の組み合わせであって、ポリペプチドの前記集団の各メンバーが、遺伝子型-表現型カップリングのための手段を介して、そのメンバーをコードするポリヌクレオチドと物理的又は空間的に関連する、組み合わせ。
【請求項6】
ポリペプチドの集団から所定の標的に対する親和性を有する所望のポリペプチドを選択するための方法であって、以下の工程:
(a)請求項1~3の何れか1項に記載のポリペプチドの集団を提供すること;
(b)標的と標的に対する親和性を有する少なくとも1つの所望のポリペプチドとの間の特異的相互作用を可能にする条件下で、ポリペプチドの集団を所定の標的と接触させること;及び
(c)前記特異的相互作用に基づいて、前記ポリペプチドの残りの集団から少なくとも1つの所望のポリペプチドを選択すること、
を含む方法。
【請求項7】
工程(a)が、請求項4に記載のポリヌクレオチドの集団を提供し、前記ポリヌクレオチドの集団を発現して、前記ポリペプチドの集団を産生する準備工程を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ポリペプチドの前記集団の各メンバーが、遺伝子型-表現型カップリングのための手段を介して、そのメンバーをコードするポリヌクレオチドと物理的又は空間的に関連する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
所定の標的に対する親和性を有する所望のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを単離するための方法であって、以下の工程:
- 請求項6に記載の方法を使用して、ポリペプチドの集団から前記所望のポリペプチド及びそれをコードするポリヌクレオチドを選択すること;及び
- 前記所望のポリペプチドをコードするこのように分離されたポリヌクレオチドを単離すること、
を含む方法。
【請求項10】
所定の標的に対して親和性を有する所望のポリペプチドを同定するための方法であって、以下の工程:
- 請求項9に記載の方法を使用して、前記所望のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを単離すること;及び
- 前記ポリヌクレオチドをシーケンシングし、前記所望のポリペプチドのアミノ酸配列を推定することによって確立すること、
を含む方法。
【請求項11】
ポリペプチドの集団から所定の標的に対する親和性を有する所望のポリペプチドを選択及び同定するための方法であって、以下の工程:
(a)別個の担体又はビーズ上で請求項1~3の何れか1項に記載のポリペプチドの集団の各メンバーを合成すること;
(b)前記ポリペプチドと前記所定の標的との相互作用に基づいて、前記担体又はビーズを選択又は富化すること;及び
(c)タンパク質特性評価法により前記ポリペプチドを同定すること、
を含む方法。
【請求項12】
所定の標的に対する親和性を有する所望のポリペプチドを産生するための方法であって、以下の工程:
- 請求項10に記載の方法を使用して所望のポリペプチドを単離及び同定する、又は請求項11に記載の方法を使用して所望のポリペプチドを選択及び同定すること;及び
- 前記所望のポリペプチドを産生すること、
を含む方法。
【請求項13】
所定の標的に対する親和性を有する所望のポリペプチドを産生するための方法であって、以下の工程:
(a1)請求項9に記載の方法を使用して、前記所望のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを単離すること;又は
(a2)請求項11に記載の選択及び同定方法を使用して同定されたポリペプチドを逆翻訳すること;及び
(b)(a1)又は(a2)の何れかに続いて、このように単離されたポリヌクレオチドを発現し、前記所望のポリペプチドを産生すること、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本開示は、共通の足場配列に基づくポリペプチド変異体の新規集団を対象とする。これらの集団は、例えば、治療、診断又はバイオテクノロジーの用途で使用するための新規結合ポリペプチドの供給源として使用され得る。
【背景技術】
【0002】
背景
足場タンパク質
癌、感染症、免疫疾患及び炎症性疾患等の疾患の分子病理学に関する知見の増加により、目的の分子をより効率的に阻害又は結合しながら、オフターゲットの副作用を低減できる、所望の特異性を有する分子を開発するという道が開けている。抗体は、医学研究とバイオテクノロジー研究の両方で最も広く使用されている親和性リガンドであるが、その大きなサイズと組成に関する欠点に悩まされている。複数鎖抗体複合体の安定性及び機能は、正しいジスルフィド結合の形成及びグリコシル化パターンに依存するため、真核生物の発現システムでは、製造費用が高額になる。従って、抗体断片の使用並びに抗体に基づかない足場の開発は、魅力的な代替手段として挙げられている。多数の標的に対する高親和性リガンドの精製に用いられてきたより高度な足場タンパク質は、フィブロネクチン(タイプIII)ドメイン、クニッツドメイン、SH3ドメイン、ブドウ球菌プロテインAのZドメイン、アンキリンリピート及びリポカインを含む。これらの足場に基づく候補ポリペプチドは、臨床研究に進んでおり、規制当局により認可された抗体に基づかない第1の分子は、遺伝性血管性浮腫の治療のためのクニッツドメインDX-88(エカランチド)であった(Vazquez-Lombardi et al, Drug Discov Today, 2015, 20(10):1271-83にてレビューされた)。
【0003】
これらの比較的小さい足場タンパク質の利点は、原核生物の発現システムにおいて高い安定性と高い生産収量であることを含む。それら堅牢なフレームワークにより、特定の表面領域を調整し、足場の元の折り畳みを損なうことなく、新規結合機能を導入することが可能である。一方、サイズが小さいと、腎クリアランスが原因で血清半減期が短くなることが示唆されており、治療用途に半減期を延長する技術の使用が必要になる場合がある(Gebauer and Skerra (2009) Curr Opin Chem Biol 13(3):245-55)。
【0004】
特定の足場に基づいて新規リガンドを生成する強力なツールは、コンビナトリアルプロテインエンジニアリング(combinatorial protein engineering)である。ここでは、複合体ライブラリーが設計され、構築され、続いてスクリーニングされ、所望の特性を有するリガンドが同定される。折り畳みと溶解性が維持された多数の多様なリガンドを含む多目的なタンパク質ライブラリーの作成における課題は、ランダム化する位置、ランダム化の程度、ランダム化した位置で許可されるアミノ酸、並びに特定の位置で選択するためのアミノ酸を開始点として適切なタンパク質又はタンパク質ドメインを選択することを含む。
【0005】
組換えGA3ドメイン変異体
連鎖球菌のタンパク質G(SpG)株G148(G148-GA3;配列番号158)の~5kDa GA3ドメインは、その天然の標的アルブミンに対する親和性を改善するか、又は新規の結合特異性を導入するように設計される。G148-GA3の構造が決定され、3ヘリックスバンドルフォールド(three-helix bundle fold)が示され、GA3ドメイン内の46アミノ酸モチーフがABD(アルブミン結合ドメイン)として定義される(Kraulis et al, FEBS Lett 378:190, 1996; Johansson et al, J. Biol. Chem. 277:8114-20, 2002)。ABD内のアルブミン結合基は、位置18~位置44に伸びる領域に位置しており、これは主にヘリックス2及び3、並びにそれらの接続ループが含まれる(Lejon et al, J Biol Chem., 2004, 279(41):42924-8)。
【0006】
Rozak達は、異なる種の特異性及び安定性に関して選択及び研究されたG148-GA3の人工変異体の作成を報告したが(Rozak et al, Biochemistry, 2006, 45:3263-3271)、Jonsson達は、ヒト血清アルブミンに対する親和性が非常によく改善されたG148-GA3人工変異体を開発した(Jonsson et al, Prot Eng Des Sel, 2008, 21:515-27; WO2009/016043)。Jacobs達は、G148-GA3をテンプレートとして使用するコンセンサス配列法に基づいて、非天然のアルブミン結合変異体を設計した。得られた変異体は、異なる種からのアルブミンに対して高い安定性及び高い親和性を示すことが報告された(Jacobs et al, Protein Eng Des Sel., 2015, 28(10):385-93; WO2013/177398)。
【0007】
いくつかのT細胞及びB細胞エピトープが、SpG株G148のアルブミン結合領域内で実験的に同定されており(Goetsch et al, Clin Diagn Lab Immunol, 2003, 10:125-32)、G148-GA3は、ヒト投与用の医薬組成物での使用にはあまり適していない。免疫刺激特性を低下させるために、潜在的なB細胞及びT細胞エピトープが少ないが、高いアルブミン結合能が保持されている新しいABD変異体が、たとえばWO2012/004384に記載されているように開発された。
【0008】
新規特異性を有する分子を開発する際の足場としてのG148-GA3の使用は、Maly達のグループによって報告されている。彼らは、ABDのアミノ酸20~44の領域で、アルブミン結合に関与することが知られている11の位置をランダム化し、リボソームディスプレイによるインターフェロンガンマ(Ahmad et al, Proteins, 2012, 80(3):774-89; WO2014/079399)、インターロイキン23(IL-23)レセプター(Kuchar et al, Proteins, 2014 82(6):975-89)及びIL-23のp19(Krizova et al, Autoimmunity, 2017, 50(2):102-113)を標的とする新規リガンドを選択した。
【0009】
G148-GA3は、二重特異性を持つリガンドを開発するためのフレームワークとしても使用されている。ヘリックス2の必須のアルブミン結合残基を保持しながら、主にヘリックス1と3に位置する位置を変えることにより、新規特異性及び保持された(しかし同時ではない)アルブミン結合能力を持つリガンドが生成された(Nilvebrant and Hober, Comput Struct Biotechnol J, 2013, 6:e201303009; WO2014/076177 and WO2014/076179)。
【0010】
構造安定性
ペプチド及びタンパク質医薬品の成功の重要な要因の1つは、ペプチド又はタンパク質の安定性である。高い構造安定性を示すタンパク質は、製造中及び人体内の両方で、化学修飾及びタンパク質分解に耐え、機能を保持している可能性がある。さらに、安定性は、ペプチド又はタンパク質医薬品の有効寿命、並びに人体内のペプチド又はタンパク質医薬品の有効寿命に影響を与える。
【0011】
溶解性
ほとんどの用途において、ペプチド及びタンパク質は、溶解性が高く、凝集する傾向が低いことが望ましい。このような特性は、タンパク質及びペプチド医薬品にとって特に重要である。一方では、タンパク質表面の疎水性と、他方では低い溶解度及び凝集傾向の増加との間に強い正の相関関係がある。
【0012】
異なる足場は、標的分子の所望の結合エピトープでのアミノ酸のトポロジー及び特性に応じて、標的表面と相互作用する異なる能力を有し得る。安定性及び免疫原性の傾向は、異なる足場間及び同じ足場ファミリー内で異なり、これらの特性は、結合界面のアミノ酸配列に部分的に依存するためである。そのような区別は、特定の足場タイプが、特定の用途に特に適していることをさらに示唆する可能性がある。このような背景に対して、例えば、治療及び診断の新しい、効率的かつ、安全な様式の基礎を形成することが可能な新規足場の開発に対する継続的なニーズが存在する。
【発明の概要】
【0013】
開示の説明
本開示の目的は、一般的な新規の足場に基づいてポリペプチド変異体の集団を提供することである。
【0014】
新規の足場は、既知の足場と比較して利点を示す。さらに言うと、利点はまた、新規の足場に基づいて、本明細書に開示される集団から選択される個々の変異体ポリペプチドにも適用される。これらの利点については以下で詳細に説明するが、いくつかの例において、小さいサイズ; 単量体構造; 高い折り畳み安定性; ユニークなシステイン残基を組み込む可能性; 原核生物の宿主細胞での発現時の翻訳語修飾の欠如である。
【0015】
本開示の他の目的は、開示されたポリペプチド変異体集団をコードするポリヌクレオチドの集団を提供することである。
【0016】
本開示の他の目的は、ポリペプチド集団とポリヌクレオチド集団との組み合わせを提供することである。
【0017】
本開示のさらなる目的は、ポリペプチドの集団から、所定の標的に対して親和性を有する所望のポリペプチドを選択及び/又は同定するための方法を提供することである。関連する目的は、そのような所定の標的に対して親和性を有する所望のポリペプチドの産生のための方法を提供することである。
【0018】
他の目的は、所定の標的に対して親和性を有する所望のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを単離するための方法を提供することである。
【0019】
本開示のさらなる目的は、ポリペプチドに新規の足場を提供することであり、このポリペプチドは、現在利用可能な抗体、抗体フラグメント、並びに代替の非抗体足場ポリペプチドの上記及び他の欠点を軽減する。
【0020】
他の目的は、新規の足場に基づいて、そのようなポリペプチドを生成するための方法を提供することである。
【0021】
開示された集団、方法及びポリペプチドは、所定の標的への特異的結合を特徴とするポリペプチドの提供を通じて、所定の標的に対する親和性を有する薬剤の提供(産生及び評価を含む)を可能にする。
【0022】
開示された態様を通して、非特異的結合をほとんど又は全く示さない所定の標的に対する親和性をポリペプチドに提供することが可能である。
【0023】
融合ポリペプチドの部分として容易に使用することができる、所定の標的に対する親和性を有するポリペプチドを提供することも可能である。
【0024】
さらに、既存の抗体産物で発生することが知られている1つ以上の問題を解決する、所定の標的に対する親和性をポリペプチドに提供することが可能である。
【0025】
さらに、治療及び/又は診断用途での使用に適した、所定の標的に対する親和性を有するポリペプチドを提供することが可能である。
【0026】
化学ペプチド合成によって容易に作製される所定の標的に対する親和性を有するポリペプチドを提供することも可能である。
【0027】
これらの目的及び他の目的は、本開示の異なる態様、及び添付のリストに項目化され、添付の特許請求の範囲で請求される対応する発明の概念によって充足される。
【0028】
開示の第1の態様において、共通の足場に基づくポリペプチド変異体の集団であって、集団内の各ポリペプチドは足場アミノ酸配列
Xsc1AELDXsc2Xsc3GVG AXXIKXIXsc4XA XXVEXVQXXK QXILAX
(配列番号165)
(配列中、互いに独立して、
- Xsc1が、I及びLから選択された足場アミノ酸残基であり;
- Xsc2が、C及びSから選択された足場アミノ酸残基であり;
- Xsc3が、K及びYから選択された足場アミノ酸残基であり;
- Xsc4が、E及びQから選択された足場アミノ酸残基であり;及び
- 各Xが、個々に、何れかのアミノ酸残基に対応する結合アミノ酸残基である)
を含むポリペプチドの集団が提供される。
【0029】
一実施形態において、集団内の各ポリペプチドは、足場アミノ酸配列
LAEAKEAAXsc1A ELDXsc2Xsc3GVGAX XIKXIXsc4XAXX VEXVQXXKQX ILAXLP
(配列番号166)
(配列中、Xsc1、Xsc2、Xsc3、Xsc4及び各個々のXが、上記で定義された通りである)
を含む。
【0030】
上記のように、アミノ酸残基Xsc1、Xsc2、Xsc3及びXsc4は、「足場アミノ酸残基」であり、固定アミノ酸残基と同じように、集団内の各変異体ポリペプチドの基本構造の一部を形成する。通常、これらは、新規標的結合特性を生成する目的、又は新規結合変異体を選択する目的でのランダム化には関与しない。本開示のこの態様による集団の一実施形態において、集団内の全ての変異体は、足場位置Xsc1、Xsc2、Xsc3及びXsc4の少なくとも1つ、例えば少なくとも2つ、例えば少なくとも3つ、例えば4つの全てに同じアミノ酸残基を有する。
【0031】
一実施形態において、Xsc1は、Iである。他の実施形態において、Xsc1は、Lである。
【0032】
一実施形態において、Xsc2は、Sである。他の実施形態において、Xsc2は、Cである。
【0033】
一実施形態において、Xsc3は、Kである。他の実施形態において、Xsc3は、Yである。
【0034】
一実施形態において、Xsc4は、Qである。他の実施形態において、Xsc4は、Eである。
【0035】
反対に、全て単に「X」で示される「結合アミノ酸残基」は、通常、集団内で自由に変化することが許されている、すなわち、それらは大体ランダム化されている。それらは、ポリペプチドの結合能力に望ましい変化を提供することに役立ち、新しい結合能力を備えた新しい組み合わせを見つけるために配列空間の探索を可能にする。集団内のポリペプチド変異体は、主にこれらのXの位置に違いがあるために異なる。従って、各Xは、様々なアミノ酸残基に個々に対応する。すなわち、各Xは、配列中の他の何れかの残基の同一性に依存しない何れかのアミノ酸であり得る。開示されたアミノ酸配列の一実施形態において、異なる多様なアミノ酸Xは、これら20個の天然に存在するアミノ酸残基の何れかが何れかの所定の変異体に対応するX位置に存在し得るように、20個全ての天然に存在するアミノ酸残基から選択され得る。集団のメンバーがde novo合成されたペプチドである実施形態において、天然に存在しないアミノ酸残基をランダム又は疑似ランダムな様式で配列に含めることも可能であり、従って、さらなるバリエーションを提供することが可能である。
【0036】
各位置のアミノ酸残基の選択は、多かれ少なかれランダム化され得る。従って、異なる多様なアミノ酸残基が選択されるグループを、可能な天然及び/又は非天然に存在するアミノ酸残基のサブグループに限定することが可能である。
【0037】
一実施形態において、1つ以上の結合アミノ酸残基「X」は、システインを除くすべての天然に存在するアミノ酸残基からなる群から選択される。利用可能なランダムプールからシステインを除外する理由の1つは、そうすることで、ラベル付けの目的で、後でシステイン残基をアミノ酸配列に直接導入できるようになるためである(以下を参照)。それはまた、ポリペプチド内に形成される破壊的なジスルフィド結合のリスクを低減すると予想する。
【0038】
一実施形態において、1つ以上の結合アミノ酸残基「X」は、プロリンを除く天然に存在する全てのアミノ酸残基からなる群から選択される。
【0039】
一実施形態において、αヘリックス領域に対応する位置にある1つ以上の結合アミノ酸残基「X」は、プロリンを除く天然に存在する全てのアミノ酸残基からなる群から選択される。これらの領域で、利用可能なランダムプールからプロリンを除外する理由の1つは、プロリンが通常、α-ヘリックス構造を破壊するためである。
【0040】
一実施形態において、配列番号165の位置12、13、16、25、28、29、32及び36に対応する位置の1つ以上の結合アミノ酸残基「X」は、プロリンを除く天然に存在する全てのアミノ酸残基からなる群から選択される。
【0041】
一実施形態において、1つ以上の結合アミノ酸残基「X」は、システイン及びプロリンを除く天然に存在する全てのアミノ酸残基からなる群から選択される。
【0042】
一実施形態において、配列番号165の位置12、13、16、25、28、29、32及び36に対応する位置の1つ以上の結合アミノ酸残基「X」は、システイン及びプロリンを除く天然に存在する全てのアミノ酸残基からなる群から選択される。
【0043】
一実施形態において、1つ以上の結合アミノ酸残基「X」は、システインを除く天然に存在する全てのアミノ酸残基からなる群から選択され、配列番号165の位置12、13、16、25、28、29、32及び36に対応する位置の1つ以上の結合アミノ酸残基「X」は、プロリンを除く天然に存在する全てのアミノ酸残基からなる群から選択される。この実施形態の例において、配列番号165の位置12、13、16、25、28、29、32及び36に対応する位置の全ての結合アミノ酸残基「X」は、システイン及びプロリンを除く天然に存在する全てのアミノ酸残基からなる群から選択され、一方、配列番号165の位置19、21及び22に対応する位置の結合アミノ酸残基「X」は、システインを除く天然に存在する全てのアミノ酸残基からなる群から選択される。
【0044】
一実施形態において、1つ以上の結合アミノ酸残基「X」は、メチオニンを除く天然に存在する全てのアミノ酸残基からなる群から選択される。
【0045】
言い換えると、異なる結合位置の変動性は、20アミノ酸全てまで、ランダム化なしを意味する、1つの間で個々に調整可能である。アミノ酸のより小さなサブセットのランダムな導入は、導入されたヌクレオチド塩基の設計によって得られ得る。例えば、コドンT(A/C)Cを導入して、ポリペプチド鎖の所定の位置にセリン又はチロシンの何れかをランダムに導入することができる。同様に、コドン(T/C/A/G)CCを導入して、ポリペプチド鎖の所定の位置にセリン、プロリン、スレオニン、及びアラニンをランダムに導入することができる。当業者には、ポリペプチド鎖の所定のX位置でアミノ酸の異なる組み合わせを得るのに有用な塩基の組み合わせの多くの選択肢は、周知である。ポリペプチド鎖の所定のX位置に現れる可能性のあるアミノ酸のセットは、一度に1つのデオキシリボヌクレオチド塩基の代わりに、オリゴヌクレオチド合成中にトリヌクレオチドを導入することによって決定することも可能である。
【0046】
集団は、開示された足場アミノ酸配列を含むポリペプチド分子の多数のユニークな変異体からなる。対照的に、少なくとも1×104のユニークポリペプチド分子、又は少なくとも1×106、又は少なくとも1×108、又は少なくとも1×1010、又は少なくとも1×1012、又は少なくとも1×1014、又は少なくとも1×1015のユニークポリペプチド分子を含む集団を意味する。多くの場合、本開示で使用される集団は、所望のサイズ、複雑さ、及び変動を提供するのに十分な大きさのグループである。本明細書に記載の「集団」は、「ライブラリー」と呼ばれることもある。本明細書で使用される場合、「ユニークポリペプチド分子」は、アミノ酸残基の特定の配列を示し、ここで、Xsc1、Xsc2、Xsc3、Xsc4及びX残基の全てが特定のアミノ酸残基を表す。従って、開示された集団が、例えば、「少なくとも1×104のユニークポリペプチド分子」を含むと述べられる場合、これは、定義された配列の少なくとも1×104の異なる変異体が集団に存在することを意味する。
【0047】
上記の足場アミノ酸配列を含むポリペプチドは、ストレプトコッカスプロテインG由来のG148-GA3のアルブミン結合ドメインの変異体であると見なすことができる。このように、それらはストレプトコッカスプロテインGに由来する。これに関連して「由来する」とは、ポリペプチド自体が、必ずしもプロテインGに直接由来することを意味するものではない。代わりに、それは、足場が、3ヘリックスバンドルタンパク質の疎水性コアのアミノ酸が保存されているアルブミン結合ドメインに配列及び構造的に類似していることを意味する。
【0048】
本開示の範囲から逸脱することなく、意図された特定の用途にポリペプチドを合わせるために、第1の態様による集団を構成するポリペプチドの異なる修飾、及び/又は付加を行うことが可能である。そのような修飾及び付加は、以下により詳細に記載され、同じポリペプチド鎖に含まれる追加のアミノ酸、又は集団を構成するポリペプチドに化学的に結合又は他の方法で結合される標識及び/又は治療薬を含み得る。いくつかの実施形態において、C末端のアミノ酸残基付加が、好ましい。いくつかの実施形態において、N末端のアミノ酸残基付加が、好ましい。いくつかの実施形態において、ポリペプチド鎖の両端での付加が、好ましい。
【0049】
これらのアミノ酸残基付加は、ポリペプチドの結合において役割を果たす可能性があるが、例えば、ポリペプチドの生成、精製、安定化、カップリング又は検出のうちの1つ以上に関連する他の目的にも同様に役立つ可能性がある。そのようなアミノ酸残基付加は、化学的カップリングの目的で追加された1つ以上のアミノ酸残基を含み得る。この例は、例えば配列内の、配列の最初の位置又は配列の最後の位置でのシステイン残基の付加である。化学的カップリングに使用されるシステイン残基は、例えば、タンパク質ドメインの表面、好ましくは標的結合に関与しない表面の部分上の別のアミノ酸の置換によって導入され得る。
【0050】
一実施形態において、システイン残基は、配列番号165の位置Xsc2に対応する位置に存在する。理論に拘束されることを望まず、祖先のABDドメインで利用可能な構造情報に基づいて、この位置は、アルブミン結合に関与しない、ABDの3ヘリックスバンドルの最初のヘリックスの終わりにある表面に露出した位置と見なされる。ABDの改変されたアルブミン結合誘導体において、Sはこの位置で十分に許容されることが見出されており、相同のCも本開示との関連において十分に機能すると考えられる。この位置でのシステインの導入は、例えば、WO2012/004384でアルブミン結合ABD変異体について以前に開示された。
【0051】
アミノ酸残基付加はまた、ポリペプチドの精製又は検出のための「タグ」、例えばヘキサヒスチジル(His6)タグ、又はタグに特異的な抗体との相互作用のための「myc」タグ又は「FLAG」タグを含み得る。当業者にとって他の選択肢は周知である。
【0052】
「アミノ酸残基付加」はまた、他の結合機能、又は金属イオンキレート機能、又は蛍光機能、又は毒性機能、又はそれらの混合等の何れかの所望の機能を有する1つ以上のポリペプチドドメインを構成し得る。例えば、そのようなポリペプチドドメインは、アルブミンに対して結合親和性を有し得る。一実施形態において、アルブミンに対する結合親和性を有する追加のドメインは、連鎖球菌プロテインGからの天然に存在するABD又はG148-GA3アルブミン結合ドメイン、又は保持若しくは改善されたアルブミン結合親和性を有するその改変された変異体である。企図された改変ABD変異体の例は、以下(Rozak et al, supra; Jonsson et al, supra; WO2009/016043; Jacobs et al, supra; WO2013/177398; WO2012/004384; and WO2012/162068)に開示されている。
【0053】
第2の態様において、本開示は、ポリヌクレオチドの集団を提供する。この集団の各ポリヌクレオチドは、上記のポリペプチドの集団のメンバーをコードする。
【0054】
第3の態様において、本開示は、第1の態様によるポリペプチド集団と第2の態様によるポリヌクレオチド集団との組み合わせを提供し、ここで、ポリペプチド集団の各メンバーは、遺伝子型-表現型カップリングの手段を介して、そのメンバーをコードするポリヌクレオチドと物理的又は空間的に関連する。この物理的又は空間的な関連付けは、使用するシステムに応じて、多かれ少なかれ厳密である。以下は、全て当業者に周知である、遺伝子型-表現型カップリングを達成するために考えられる可能な方法の詳細な説明に続く。重要なことは、全てのシステムが、直接的な物理的相互作用の工程を含む必要がなく、代わりに、遺伝子に対応する核酸(すなわち、遺伝子型)と前記遺伝子によってコードされるポリペプチド(すなわち表現型)との間の空間に間接的な関連があり得る。この内容における「空間的」関連は、対応するものの同定を通じて対の何れかのメンバーの同定を可能にする遺伝子とポリペプチドの間の何れかの対応を指す。言い換えれば、関連付けはランダムではなく、具体的で方向性を有する。物理的又は空間的関連を通じて、ヌクレオチド配列又はアミノ酸配列の何れかの知見は、特異的に対応するポリペプチド又は遺伝子の同定を可能にする。
【0055】
一実施形態において、遺伝子型-表現型カップリングのための手段は、ファージディスプレイシステムを含む。ファージディスプレイシステムは当業者によく知られており、例えば、以下の文献(Smith GP (1985) Science 228:1315-1317 and Barbas CF et al (1991) Proc Natl Acad Sci U S A 88:7978-7982)記載されている。
【0056】
一実施形態において、遺伝子型-表現型カップリングの手段は、細胞表面ディスプレイシステムを含む。細胞表面ディスプレイシステムは、Gram+細胞又はGram-細胞等の真核細胞、又は酵母細胞若しくは哺乳動物細胞等の真核細胞を含み得る。原核生物システムは、例えば、以下の文献に記載される(Francisco JA et al (1993) Proc Natl Acad Sci U S A 90:10444-10448 and Lee SY et al (2003) Trends Biotechnol 21:45-52)。真核生物システムは、例えば、以下の文献に記載される(Boder ET et al (1997) Nat Biotechnol 15:553-557 and Gai SA et al (2007) Curr Opin Struct Biol 17:467-473)。
【0057】
一実施形態において、遺伝子型-表現型カップリングのための手段は、無細胞ディスプレイシステムを含む。無細胞ディスプレイシステムは、リボソームディスプレイシステム、インビトロ区画化ディスプレイシステム、シスディスプレイ用のシステム、又はマイクロビーズディスプレイシステムを含み得る。リボソームディスプレイシステムは、例えば、以下の文献に記載される(Mattheakis LC et al (1994) Proc Natl Acad Sci U S A 91:9022-9026 and Zahnd C et al (2007) Nat Methods 4:269-279)。インビトロ区画化ディスプレイシステムは、例えば、以下の文献に記載される(Sepp A et al (2002) FEBS Lett 532:455-458)。シスディスプレイシステムは、例えば、以下の文献に記載される(Odegrip R et al (2004) Proc Natl Acad Sci U S A 101:2806-2810)。マイクロビーズディスプレイシステムは、例えば、以下の文献に記載される(Nord O et al (2003) J Biotechnol 106:1-13)。
【0058】
さらに、遺伝子型-表現型カップリングの手段は、タンパク質フラグメント補完アッセイ(PCA)等の非ディスプレイシステムを含み得る。PCAシステムは、例えば、以下の文献に記載される(Koch H et al (2006) J Mol Biol 357:427-441)。
【0059】
第4の態様において、本開示は、ポリペプチドの集団から所定の標的に対して親和性を有する所望のポリペプチドを選択するための方法を提供し、当該方法は、以下の工程を含む:
(a)第1の態様に従ってポリペプチドの集団を提供すること;
(b)標的と標的に対する親和性を有する少なくとも1つの所望のポリペプチドの間の特異的相互作用を可能にする条件下で、ポリペプチドの集団を所定の標的と接触させること;及び
(c)前記特異的相互作用に基づいて、ポリペプチドの残りの集団から少なくとも1つの所望のポリペプチドを選択すること。
【0060】
この方法は、本開示によれば、「選択方法」と称される場合がある。
【0061】
工程(a)は、第2の態様に従ってポリヌクレオチドの集団を提供し、ポリヌクレオチドの前記集団を発現させてポリペプチドの前記集団を生成する準備工程を含み得る。ポリペプチドの集団を生成するための手段は、使用されるディスプレイシステムによって異なり、そのような手段の例は、上記の遺伝子型-表現型の参考文献に見出され得る。第4の態様による選択方法で使用されるポリペプチドの前記集団の各メンバーは、遺伝子型-表現型カップリングのための手段を介して、そのメンバーをコードするポリヌクレオチドと物理的に付随し得る。遺伝子型-表現型カップリングの手段は、上記のうちの1つである可能性がある。
【0062】
工程(b)は、標的と、標的に対して親和性を有する少なくとも1つの所望のポリペプチドとの間の特異的相互作用を可能にする条件下で、ポリペプチドの集団を所定の標的と接触させる工程を含む。適用可能な条件の範囲は、標的の堅牢性、ディスプレイシステムの堅牢性、及び標的との相互作用の望ましい特性によって決定される。例えば、相互作用を分離する特異的な方法、例えば、所定のpHへの酸性化が有用であり得る。当業者にとって、適切な条件を決定するためにどのような実験が必要であるか周知である。
【0063】
工程(c)は、少なくとも1つのポリペプチドの選択を含む。所定の標的と標的に対する親和性を有する少なくとも1つの所望のポリペプチドとの間の特異的相互作用に基づいて、残りの集団からの所望のポリペプチドを選択する手段は、使用されるディスプレイシステムによって異なり、上記の遺伝子型-表現型の引用文献に見出され得る。例えば、ファージディスプレイシステム及びタンパク質フラグメント区画化アッセイ等のシステムとは対照的に、インビトロディスプレイ選択システムは、無細胞である。
【0064】
第5の態様において、本開示は、所望の標的に対して親和性を有する所望のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを単離するための方法を提供し、当該方法は、以下を含む:
- 第4の態様による選択方法を使用して、ポリペプチドの集団から前記所望のポリペプチド及びそれをコードするポリヌクレオチドを選択すること;及び
- 前記所望のポリペプチドをコードするこのように分離されたヌクレオチドを単離すること。
【0065】
この方法は、本開示によれば「分離方法」と称される場合がある。
【0066】
ポリペプチドからのポリヌクレオチドの分離は、選択に使用されるディスプレイシステムに応じて別様に行われ得る。例えば、シスディスプレイやリボソームディスプレイ等の無細胞ディスプレイシステムにおいて、ポリヌクレオチド又は対応するmRNAは、上記の遺伝子型-表現型の参考文献に記載されている手段を使用して、ポリペプチドから効率的に溶出することによって回収される。
【0067】
ポリヌクレオチドの単離は、選択に使用されるディスプレイシステムに応じて異なる方法によって行われ得る。上記の選択システムのほとんどにおいて、ポリヌクレオチドは、適切なオリゴヌクレオチドを使用する特異的PCR増幅によって直接単離され得る。例外的に、リボソームディスプレイの場合のように、ポリヌクレオチドは、逆転写を使用して対応するmRNAから単離され得る。ポリヌクレオチドを単離するための様々な手段は、上記の遺伝子型-表現型の参考文献に見出され得る。
【0068】
第6の態様において、本開示は、所定の標的に対して親和性を有する所望のポリペプチドを同定するための方法を提供し、当該方法は、以下を含む:
- 第5の態様による単離方法を使用して、前記所望のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを単離すること;及び
- 前記所望のポリペプチドのアミノ酸配列を推定するためにポリヌクレオチドの配列を決定すること。
【0069】
ポリヌクレオチドの配列決定は、当業者に周知の標準的な手順に従って行われ得る。
【0070】
第7の態様において、本開示は、ポリペプチドの集団から所定の標的に対して親和性を有する所望のポリペプチドを選択及び同定するための方法を提供し、当該方法は、以下を含む:
(a)別個の担体又はビーズ上で第1の態様に従ってポリペプチドの集団の各メンバーを合成すること;
(b)ポリペプチドと所定の標的との相互作用に基づいて、担体又はビーズを選択又は富化すること;及び
(c)タンパク質特性評価法によりポリペプチドを同定すること。
【0071】
工程(c)において、例えば、質量分析を使用することが可能である。
【0072】
この方法は、本開示によれば、「選択及び同定方法」と称される場合がある。
【0073】
第8の態様において、本開示は、所定の標的に対して親和性を有する所望のポリペプチドを産生するための方法を提供し、当該方法は、以下を含む:
- 第4の態様による選択方法又は第7の態様による選択及び同定方法を使用して、所望のポリペプチドを選択及び同定すること;及び
- 前記所望のポリペプチドを産生すること。
【0074】
この方法は、本開示によれば、「産生方法」と称される場合がある。
【0075】
この態様による産生方法において、産生は、所望のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの組換え発現を使用して実施され得る。産生はまた、de novoでの所望のポリペプチドの化学合成を用いて実行され得る。
【0076】
第9の態様において、本開示は、所定の標的に対して親和性を有する所望のポリペプチドを産生するための方法を提供し、当該方法は、以下を含む:
(a1)第5の代用による単離方法を使用して、前記所望のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを単離すること;又は
(a2)第7の態様による選択及び同定方法を使用して同定されたポリペプチドを逆翻訳すること;及び
(b)このように単離されたポリヌクレオチドを発現し、前記所望のポリペプチドを産生すること;
ここで、工程(b)は、必要に応じて、工程(a1)又は(a2)の後に実行される。
【0077】
ポリヌクレオチドの発現は、限定されないが、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞又は哺乳動物細胞等の何れかの適切な発現宿主において行われ得る。
【0078】
容易に理解されるように、開示された集団又はライブラリーから選択された任意のポリペプチドは、集団内の全ての変異体又はメンバーに共通の配列定義を充足すると考えられる。それは通常、所定の標的に対して親和性を有するポリペプチドであり、その標的への結合が利用され得る何れかの用途において有用である。
【0079】
従って、本開示の第10の態様において、
X1AELDX6X7GVG AX12X13IKX16IX18X19A X21X22VEX25VQX28X29K QX32ILAX36
(配列番号165)
(配列中、互いに独立して、
- X1が、I及びLから選択され;
- X6が、C及びSから選択され;
- X7が、K及びYから選択され;
- X18が、E及びQから選択され;及び
- X12、X13、X16、X19、X21、X22、X25、X28、X29、X32及びX36の各々が、何れかのアミノ酸残基である)
に対し少なくとも97%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドが提供される。
【0080】
この態様の一実施形態において、ポリペプチドは、
LAEAKEAA X1AELDX6X7GVG AX12X13IKX16IX18X19A X21X22VEX25VQX28X29K QX32ILAX36 LP(配列番号166)
(配列中、「Xn」で示される全ての残基は、上記で定義された通りである)
に対し少なくとも97%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0081】
一実施形態において、X1は、Iである。他の実施形態においてX1は、Lである。
【0082】
一実施形態において、X6は、Sである。他の実施形態においてX6は、Cである。
【0083】
一実施形態において、X7は、Kである。他の実施形態においてX7は、Yである。
【0084】
一実施形態において、X18は、Eである。他の実施形態においてX18は、Qである。
【0085】
一実施形態において、11位のアミノ酸は、Aである。
【0086】
当業者に理解されるように、本開示のこの第10の態様のポリペプチド等の何れかのポリペプチドの機能は、その三次構造に依存する。従って、一般的な折り畳みと全体的な構造が実質的に変化しない限り、ポリペプチドの機能に影響を与えることなく、ポリペプチドのアミノ酸配列に小さな変更を加えることが可能である。本開示は、所定の標的に対する安定性及び/又は結合親和性に対する何れかの実質的な影響等、ポリペプチドの機能的特性を変化させないようなポリペプチドの修飾を包含する。
【0087】
このように、本開示には、配列番号165又は配列番号166に対し、97%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドも包含される。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、配列番号165又は166に対し、少なくとも98%、例えば少なくとも99%、例えば100%同一である配列を含み得る。
【0088】
いくつかの実施形態において、配列番号165又は配列番号166におけるそのような変異は、本明細書に記載されるようなポリペプチドの配列の何れかの置換に見出され得る。他の実施形態において、差異は、足場アミノ酸残基にのみ見出され得る。他の実施形態において、差異は、標的結合特異性を与えるアミノ酸残基にのみ見出され得る。例えば、アミノ酸残基の特定の官能基(例えば、疎水性、親水性、極性等)に属するアミノ酸残基を、同じ官能基からの別のアミノ酸残基に交換することが可能である。
【0089】
明細書全体で使用される「%同一性」という用語は、例えば以下のように計算される。クエリ配列は、CLUSTAL Wアルゴリズム(Thompson et al, Nucleic Acids Research, 22: 4673-4680 (1994))を使用して標的配列に対し、アライメントされる。アライメントされたシーケンスの1つ、例えば、最短のシーケンスに対応するウィンドウ(window)で比較が行われる。ウィンドウは、場合によって、標的配列によって定義され得る。他の例において、ウィンドウは、クエリ配列によって定義され得る。各位置のアミノ酸残基が比較され、標的配列内で同一の対応を持つクエリ配列内の位置のパーセンテージが%同一性として報告される。
【0090】
本開示による集団を構成するポリペプチドについて上記利点及び修飾はまた、本開示によるポリペプチド又は開示された方法の何れかによって得られたポリペプチドにも適用可能である。従って、第1の態様による集団に関する上記開示と同様に、この第10の態様によるポリペプチドの修飾及び/又は付加は、本開示の範囲から逸脱することなく、採用することができる。
【0091】
特に、第10の態様によるポリペプチドはまた、第2の(及び任意にさらに)ポリペプチド部分を含み得、その結果、ポリペプチドは、第10の態様によるポリペプチドの定義を満たす部分と、所望の機能を提供する少なくとも1つのさらなる部分(任意にそれ以上)との融合ポリペプチドである。この所望の機能は、第10の態様によるポリペプチドによって提供される機能と同じであっても異なっていてもよく、これは通常、常にではないが、所定の標的に対する親和性に基づく結合機能である。この点に関する代替案及びその他の考慮事項は、第1の態様に関連して上記に示され、この第10の態様にも同様に適用される。
【0092】
また、第11の態様として、第10の態様によるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも開示される。本開示はまた、第12の態様として、第11の態様によるポリヌクレオチドを発現する工程を含む、第10の態様によるポリペプチドを産生する方法を提供する。
【0093】
本開示において、「所定の標的に対する結合親和性」、「所定の標的への結合」等の表現は、親和性定数、すなわち、所定の抗原濃度で会合及び会合するポリペプチドの量を決定することによって直接測定され得るポリペプチドの特性を指す。親和性定数又は他の類似のパラメータを決定するために、異なる方法を使用することができ、限定されないが、例えば、競合分析、平衡分析及びマイクロカロリメトリクス分析、及び例えば表面プラズモン共鳴相互作用(SPR)に基づくリアルタイム相互作用分析等が挙げられる。
【0094】
SPRの場合において、結合親和性は、所定の標的又はその断片が効きのセンサーチップに固定され、試験されるポリペプチド含むサンプルがチップを通過する実験で試験され得る。あるいは、試験されるポリペプチドは、機器のセンサーチップに固定化され、所定の標的又はその断片を含むサンプルがチップ上を通過する。次に、当業者は、そのような実験によって得られた結果を解釈して、所定の標的に対するポリペプチドの結合親和性の少なくとも定性的な尺度を確立することができる。定量的な測定が必要な場合、例えば、相互作用のKD値を決定する場合は、表面プラズモン共鳴法を使用することもできる。結合値は、例えば、Biacore(GE Healthcare)又はProteOn XPR36(Bio-Rad)機器で定義することができる。所定の標的は、機器のセンサーチップ上に適切に固定化され、及び親和性が決定されるポリペプチドのサンプルは、段階希釈によって調製され、ランダムな順序で注入される。次にKD値は、例えば、機器製造業者によって提供されるBIAevaluation 4.1ソフトウェアの1:1ラングミュア結合モデル、又は他の適切なソフトウェアを使用して結果から計算される。
【0095】
本明細書で使用される「所定の標的に対する結合親和性」という用語はまた、例えばELISAによって試験され得るポリペプチドの特性を指し得る。例えば、
結合親和性は、ポリペプチドのサンプルが抗体でコーティングされたELISAプレートに捕捉され、ビオチン化された所定の標的又はその断片が加えられ、続いてストレプトアビジンコンジュゲート結合HRPが加えられる実験で試験され得る。TMB基質を加え、Victor3(Perkin Elmer)等のマルチウェルプレートリーダーを使用して、450nmでの吸光度を測定する。次に、当業者は、そのような実験によって得られた結果を解釈して、所定の標的に対する複合体の結合親和性の少なくとも定性的な尺度を確立することができる。定量的測定が必要な場合、例えば相互作用のEC50値(最大有効濃度の半分)を決定する場合は、ELISAを使用することも可能である。所定の標的の希釈系列又はそのフラグメントに対するポリペプチドの応答は、上記のようにELISAを使用して測定される。次に、当業者は、そのような実験によって得られた結果を解釈することができ、EC50値は、例えば、GraphPad Prism 5及び非線形回帰を使用して、結果から計算することができる。
【0096】
上記のような方法は、当業者に周知であり、例えば以下(Neri D et al (1996) Tibtech 14:465-470及びJansson M et al (1997) J Biol Chem 272:8189-8197)にさらに記載される。
【0097】
本開示によるポリペプチド、集団及び方法は、所定の標的への特異的結合を特徴とするポリペプチドの提供を通じて、所定の標的に対する親和性を有する薬剤の提供を可能にする。
【0098】
非特異的結合をほとんど又は全く示さない所定の標的に結合するポリペプチドを提供することも可能である。
【0099】
融合ポリペプチドの部分として容易に使用することができる所定の標的に結合するポリペプチドを提供することも可能である。
【0100】
さらに、特にサイズが小さいために、既存の抗体試薬で発生する既知の問題の1つ以上、特にサイズが小さいことに起因する問題を解決する所定の標的に結合するポリペプチドを提供することが可能です。例えば、本開示によるポリペプチドは、好ましい組織浸透を示し、代替の投与経路及び単位重量当たりのより高いモル用量の使用を可能にすることが期待される。
【0101】
本開示による小さいサイズのポリペプチドはまた、例えば、結合していないポリペプチドが迅速に除去されるため、インビボイメージング用途において親和性試薬としてそれらを使用する場合に利益を提供すると予想される。これにより、高コントラストの画像が得られることが期待される。
【0102】
さらに、治療及び/又は診断用途での使用に適した所定の標的に結合するポリペプチドを提供することが可能である。
【0103】
化学ペプチド合成によって容易に作製される所定の標的に結合するポリペプチドを提供することも可能である。例えば、サイズが小さいことに加えて、アスパラギン、アルギニン、アスパラギン酸、メチオニン等、一般に合成で問題を引き起こすアミノ酸残基が比較的少ない。一般に、本明細書で定義されるポリペプチドは、メチオニン、アスパラギン及びジペプチドアスパラギン-プロリン等のポリペプチド安定性の問題に関連する足場アミノ酸残基を含まない。
【0104】
新規結合親和性を有する既知のABD変異体とは対照的に、本開示によるポリペプチドは、出発点として脱免疫化変異体PP013(配列番号159)を使用して設計される。従って、例えば、開示された集団から開示された方法による選択から生じる開示されたポリペプチドは、例えば、G148-GA3野生型配列(配列番号158)に基づく同等のABD変異体よりも少ない免疫原性エピトープを有すると予想される。
【0105】
また、新規の結合親和性を有する特定の既知のABD変異体は、アルブミンに結合する能力を保持する。様々な用途において、これは新規の親和性を妨害する可能性があり、本明細書に開示されるポリペプチドの実施形態はこの特徴を示さないと予想される。むしろ、アルブミン結合能力は、開示されたポリペプチドにおいて完全に無効にされ、及び所定の標的に対する新しい親和性によって置き換えられることが意図されている。
【0106】
本開示によるポリペプチドは、検出試薬、捕捉試薬、分離試薬、インビボ又はインビトロでの診断のための診断薬として、それ自体で治療薬として、又は他の治療薬及び/又は診断薬を所定の標的に標的化するための手段として使用することができる。インビトロでポリペプチドを使用する方法は、マイクロタイタープレート、タンパク質アレイ、バイオセンサー表面、組織切片等、異なるフォーマットで実施され得る。
【0107】
本開示によるポリペプチドは、細菌細胞、酵母細胞、植物細胞、昆虫細胞、全植物及びトランスジェニック動物を含む、異なる原核生物又は真核生物の宿主における化学合成又は発現を含む、何れかの既知の手段によって産生され得る。
【0108】
本明細書に開示されるポリペプチド、ポリペプチドの集団、及び同定、選択、単離及び産生のための方法は、様々な例示的な態様及び実施形態を参照して説明されてきたが、本開示の範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができ、その要素の代わりに同等物を使用することができることが当業者によって理解されるであろう。加えて、特定の状況又は分子を、その本質的な範囲から逸脱することなく、本開示の教示に適合させるために、多くの修正を行うことができる。従って、本開示は、企図される特定の実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲に含まれる全ての実施形態を含むことが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【
図1A-B】
図1は、予備ライブラリーYlib001Naive.Iから選択され、ELISAによってそれぞれの標的分子と相互作用することが確認されたY変異体内の各位置のそれぞれのアミノ酸の頻度を視覚化するシーケンスロゴを示す。(A)C4に結合することが確認された18のY変異体に基づくロゴ;(B)IL-6に結合することが確認された106のY変異体に基づくロゴ;(C)インスリンに結合することが確認された21のYバリアントに基づくロゴ;及び(D)(A)~(C)を含む複合シーケンスロゴ、すなわち、C4、IL-6又はインスリンに結合することが確認されたY変異体。
【
図1C-D】
図1は、予備ライブラリーYlib001Naive.Iから選択され、ELISAによってそれぞれの標的分子と相互作用することが確認されたY変異体内の各位置のそれぞれのアミノ酸の頻度を視覚化するシーケンスロゴを示す。(A)C4に結合することが確認された18のY変異体に基づくロゴ;(B)IL-6に結合することが確認された106のY変異体に基づくロゴ;(C)インスリンに結合することが確認された21のYバリアントに基づくロゴ;及び(D)(A)~(C)を含む複合シーケンスロゴ、すなわち、C4、IL-6又はインスリンに結合することが確認されたY変異体。
【
図2】
図2は、Ylib001Naive.Iから選択したC4、IL-6及びインスリン結合Y変異体の20℃で回収された円二色性(CD)スペクトルを示す。
【
図3A-B】
図3は、インスリン結合Y変異体Y00274(A)及びY00275(B)の可変温度測定(VTM)の前(黒)及び後(灰色)に20℃で回収されたCDスペクトルを示す。
【
図4A-B】
図4は、C4結合変異体Y00792(A~B)、インスリン結合Y変異体Y00301(C~D)及びIL-6結合変異体Y02444(E~G)について回収されたVTM及びCDスペクトルを示す。VTMを、
図4A、C及びEに示し、VTMの前(黒)及び後(灰色)に20℃で回収されたCDスペクトルを
図B、D及びFに示す。
図4Gは、IL-6結合変異体Y02444の部分構造が、90℃まで観察されることを示す。
【
図4C-D】
図4は、C4結合変異体Y00792(A~B)、インスリン結合Y変異体Y00301(C~D)及びIL-6結合変異体Y02444(E~G)について回収されたVTM及びCDスペクトルを示す。VTMを、
図4A、C及びEに示し、VTMの前(黒)及び後(灰色)に20℃で回収されたCDスペクトルを
図B、D及びFに示す。
図4Gは、IL-6結合変異体Y02444の部分構造が、90℃まで観察されることを示す。
【
図4E-F】
図4は、C4結合変異体Y00792(A~B)、インスリン結合Y変異体Y00301(C~D)及びIL-6結合変異体Y02444(E~G)について回収されたVTM及びCDスペクトルを示す。VTMを、
図4A、C及びEに示し、VTMの前(黒)及び後(灰色)に20℃で回収されたCDスペクトルを
図B、D及びFに示す。
図4Gは、IL-6結合変異体Y02444の部分構造が、90℃まで観察されることを示す。
【
図4G】
図4は、C4結合変異体Y00792(A~B)、インスリン結合Y変異体Y00301(C~D)及びIL-6結合変異体Y02444(E~G)について回収されたVTM及びCDスペクトルを示す。VTMを、
図4A、C及びEに示し、VTMの前(黒)及び後(灰色)に20℃で回収されたCDスペクトルを
図B、D及びFに示す。
図4Gは、IL-6結合変異体Y02444の部分構造が、90℃まで観察されることを示す。
【実施例】
【0110】
実施例
以下の実施例は、アルブミン結合ドメインPP013(配列番号159)に触発され、次にG148-GA3(配列番号158)のABDに由来する足場配列に基づくタンパク質ライブラリーの設計及び構築物を開示する。実施例は、高い安定性と溶解性を維持しながら、複雑度の高いライブラリーのアセンブリが成功したことを示しています。設計されたライブラリーを使用して、3つの異なる標的分子の新規リガンドを選択することに成功したことも示される。
【0111】
アプローチの重要な部分は、どの残基をランダム化し、どの残基を固定しておくかに関する決定、並びに固定された残基の同一性に関する決定であった。これに関し、分子内安定化に重要な位置でのランダム化は避ける必要があるが、同時に、最適なカバレッジと可能な代替配列の評価を提供するライブラリーの可能性は、表面に露出した残基の次善の選択によって制限される可能性がある。ランダム化を行うために適した位置を特定する過程で、ドメインG148-GA3(Kraulis et al, supra; Johansson et al、上記)及びそのアルブミン結合活性に関連する情報(Lejon et al、上記)を含む、足場タンパク質の包括的な知見が適用された。新しい足場の設計において、天然の相互作用に関与する表面積がランダム化の主な焦点であることがよくある。しかしながら、祖先ポリペプチドに結合親和性を提供するものとまったく同じ残基をランダム化することは、異なるサイズと構造を持つ様々な標的に対する新規結合物を見つけるために使用できる幅広いライブラリーを設計することを目的とする場合、最適ではない可能性がある。さらに、天然結合の結合面は、標的の中心であるだけでなく、足場のフレームワーク及び構造的安定性を維持するためにも重要である可能性がある。従って、ランダム化に最適な領域を特定するために、天然の相互作用に直接関与していない領域に焦点を当てることも同様に重要である。簡単に説明すると、以下の手順が適用された:
1)新しい結合能力を提供するためにどの位置を変えることができるかを確立し、足場の位置に柔軟性と改善を組み込むことを目的とした第1のライブラリーの設計。
2)「Ylib001 Naive.I」で示される第1のライブラリーの作成。
3)第1の標的セットに対する選択。
4)主に結合と安定性の観点から選択されたリガンドの評価。
5)さらなる改善のための配列変異プログラム;変異リガンドの生成、産生及び評価を含む。
6)工程3)~5)の結果に基づいて、新しい結合能力を生成するためにどの結合位置を変更するか、どの足場残基を固定しておくべきか、どのアミノ酸残基に固定するかを決定する、第2のライブラリーの設計。
7)「Ylib002 Naive.I」で示される第2のライブラリーの作成。
8)標的の第2のセットに対する選択。
9)ライブラリー及び選択された変異体の品質を検証するための、結合、安定性、生産性及び溶解性の観点から選択されたリガンドの評価。
10)ライブラリーの微調整のための配列変異プログラム。
11)前述の手順全体に基づく開示に従った足場の設計。
【0112】
本明細書に記載の足場配列及び集団又はライブラリーは、それぞれ「Y足場」及び「Y集団」又は「Yライブラリー」と呼ばれ、それに由来する結合変異体は「Y変異体」と示される。
【0113】
実施例1
一般的な手順の説明
【0114】
概要
この実施例は、クローニング、産生及び分析の一般的な手順を説明する。これらの一般的な手順は、それぞれの実施例で特に定めが無い限り、実施例2~8全体で使用される。
【0115】
材料及び方法
標的タンパク質のビオチン化:製造元の推奨に従って、No-Weigh EZ-Link Sulfo-NHS-LC-Biotin(Thermo Scentific)を10倍モル過剰で使用して標的タンパク質をビオチン化した。反応は、室温(RT)で30分間行った。リン酸緩衝生理食塩水(10mMリン酸、137mM NaCl、2.68nM KCl、pH7.4)への緩衝液置換は、透析カセット(Pierce、Slide-a-lyzer(3500 MWCO))又はilustra NAP-5脱塩カラム(GE Healthcare)の何れかを使用して、製造元の指示に従って、ビオチン化後に実施した。
【0116】
Y変異体のクローニング:クローニングは、当該技術分野で周知の方法を使用して実施された。簡単に説明すると、以下の手順が適用された:
1)目的のY変異体をコードするDNAは、標準のPCRプロトコル及びAmpliTaq Goldポリメラーゼ(Life Technologies)を使用して、ライブラリーベクターpAY03686から増幅された。断片は、酵素SalI-HF及びBamHI-HF(New England Biolabs)を使用して切断され、供給元の推奨に従ってQIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)を使用して精製された。N末端His6タグを提供する発現ベクター(T7プロモーター付き)を調製し、同じ制限酵素で消化した。ベクターは、分取用1%アガロース(BioNordika AB)ゲル電気泳動で泳動し、QIAGEN Gel Extraction Kit(QIAGEN)を使用して、供給元の推奨に従って精製した。遺伝子断片とベクターを、リガーゼ緩衝液中のT4DNAリガーゼ(Thermo Scientific)を使用してライゲーションし、エレクトロコンピテント大腸菌(E.coli)TOP10細胞にエレクトロポレーションした。形質転換された細胞は、50μg/mlのカナマイシンを添加したTBABプレート(30g/lトリプトース血液寒天ベース)に塗布し、37℃で一晩インキュベートした。
【0117】
2)目的のY変異体をコードするDNAは、GeneArt(Life Technologies)又はTwist Bioscienceに断片遺伝子として注文し、酵素BamHI-HF及びNgoMIV(New England Biolabs)を使用して切断された。N末端His6タグを提供する発現ベクター(T7プロモーター付き)を調製し、同じ制限酵素で消化した。ライゲーション及び形質転換は、上記のように実施された。
【0118】
3)目的のY変異体をコードするDNAを、カスタムベクター(N末端His6タグを提供する発現ベクター(T7プロモーター付き))で全長をクローンした遺伝子としてGeneArtに注文した。形質転換は、上記のように実施された。
【0119】
シーケンシング:目的のプラスミドを含む細菌クローンをシーケンシングのために選択した。PCR断片は、標準的なPCRプログラムと相補的なプライマーペアを使用して単一コロニーから増幅された。増幅断片のシーケンスは、ビオチン化オリゴヌクレオチドとBigDye(登録商標)Terminatorv3.1Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を使用して、製造元のプロトコルに従って実行された。シーケンシング反応は、Magnatrix 8000(Magnetic Biosolutions)機器を使用して磁気ストレプトアビジンコーティングビーズ(Detach Streptavidin Beads、Nordiag)に結合させることによって精製し、ABIPRISM(登録商標)3130xlGeneticAnalyzer(PE Applied Biosystems)で分析した。
【0120】
タンパク質発現:大腸菌T7E2細胞は、それぞれのY変異体の遺伝子断片を含むプラスミドで形質転換された。得られた組換え株は、通常、EnPressoプロトコル(Enpresso GmbH)を使用して、50μg/mlカナマイシンを添加した培地で30~37℃、50mlスケールで培養された。タンパク質の発現を誘導するために、イソプロピル-β-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)を、600nmでの光学密度(OD600)が約10で、最終濃度が0.5mMになるように添加した。誘導後、培養物を16時間インキュベートした。 遠心分離により細胞を回収した。あるいは、培養を、50μg/mlのカナマイシンを添加した980mlのTSB-YE培地(酵母エキス5g/lを添加したトリプシン大豆ブロス30g/l)、37℃で行い、タンパク質発現をOD600=2で0.2mMのIPTGを用い誘導し、続いて5時間インキュベートした後、遠心分離により細胞を回収した。SDS-PAGE分析に基づいて、それぞれのY変異体の総収量並びに可溶性及び不溶性産物の割合を推定した。
【0121】
N末端His6タグによるY変異体の精製:細胞を、Benzonase(登録商標)(Merck)を添加した結合緩衝液(20 mMリン酸ナトリウム、0.5M NaCl、20mMイミダゾール、pH7.4)に再懸濁した。細胞破壊後、遠心分離により細胞破片を除去し、各上清を1mlのHisGraviTrap IMACカラム(GE Healthcare)にアプライした。洗浄緩衝液(20mMリン酸ナトリウム、0.5M NaCl、60mMイミダゾール、pH7.4)で洗浄して汚染物質を除去し、続いて、Y変異体を溶出バッファー(20mMリン酸ナトリウム、0.5M NaCl、500mMイミダゾール、pH7.4)で溶出した。PBSへの緩衝液交換は、PD-10脱塩カラム(GE Healthcare)を使用して、製造元の指示に従って実施された。
【0122】
タンパク質分析及び検証:NanoDrop(登録商標)ND-1000分光光度計(Saveen Werner AB)を使用して、280nmでの吸光度とそれぞれのタンパク質の吸光係数を測定することにより、タンパク質濃度を決定した。純度はクーマシーブルーで染色されたSDS-PAGEによって分析され、各精製されたY変異体の同一性はLC/MS分析を使用して確認された。
【0123】
円二色性(CD)分光分析:それぞれのY変異体をPBSで0.5mg/mlに希釈した。250~195nmのCDスペクトルが20℃で得られた。さらに、可変温度測定(VTM)を実行して、融解温度(Tm)を決定した。VTMでは、5℃/分の温度勾配で温度を20℃から90℃に上げながら、221nmで吸光度を測定した。Y変異体のリフォールディング能力を研究するために、加熱手順後20℃で新しいCDスペクトルを取得した。CD測定は、Jasco J-810分光偏光計(Jasco Scandinavia AB)で、光路長1mmのセルを使用して実施された。
【0124】
表面プラズモン共鳴を使用した速度論的分析:速度定数(ka及びkd)及び親和性(KD)は、Biacore T200機器(GE Healthcare)を使用してHis6タグ付きY変異体について決定された。標的タンパク質C4、IL-6、及びインスリンは、それぞれ、異なるCM5チップ表面(GE Healthcare)のカルボキシル化デキストラン層上の別々のフローセルに固定化された。固定化は、製造元のプロトコルに従ってアミンカップリングケミストリーを使用し、ランニング緩衝液として0.1%Tween20(PBST 0.1%)を添加したPBS pH7.4を使用して実行された。表面のリガンド固定化レベルは、C4では3280-8830RU、IL-6では495-1184RU、インスリンでは270-282RUであった。各チップの1つのフローセル表面は、分析対象物の注入中にブランクとして使用するために活性化及び脱活性化された。速度論的実験では、PBST 0.1%を30μl/分の流速でランニング緩衝液として使用した。分析対象物、すなわちY変異体は、それぞれ1000、500、100、50、及び10nMの濃度のPBST0.1%緩衝液で希釈し、5分間注入した後、ランニング緩衝液で3分間解離させた。解離後、30μlの10mMHClを1回注入して表面を再生した。速度定数は、Biacore T200評価ソフトウェア2.0(GE Healthcare)のLangmuir 1:1モデルを使用してセンサーグラムから計算された。
【0125】
実施例2
ABD変異体足場に基づくライブラリーの設計及び構築
【0126】
概要
この実施例において、以下の実施例3で説明する第1の選択に使用される第1のライブラリーの設計と構築物について説明する。目的は、新規結合機能を実現するためにどの位置を変更するかを決定し、足場に柔軟性と改善を組み込むことであった。
【0127】
材料及び方法
ライブラリー設計:ライブラリーは、アルブミン結合ドメインPP013(配列番号159)及びG148-GA3ドメインの構造に関する情報に基づいて設計された。アルブミンへの自然な結合に関与する表面に露出したアミノ酸の位置、結合表面のごく近くの位置、並びにヘリックス1及びヘリックス1とヘリックス2の間のループの追加の位置を、斑入り(variegation)の標的とした。ランダム化のために選択されたPP013のアミノ酸位置は次の通りである:N9、Y15、V17、S18、D19、F20、Y21、K22、R23、L24、K27、A28、K29、T30、G33、A36、L37、A40、A43、及びA44。各位置はランダム化され、アミノ酸残基の異なる組成を可能にした(アミノ酸C、M、及びPを全て除く)。ライブラリーの理論上のサイズが、実際に可能なサイズを大幅に超えるため、これらの20の位置のそれぞれで完全なランダム化は不可能であった。従って、結合に関与しないと考えられる位置(すなわち「足場位置」)はより限定的にランダム化されたが、結合に関与する可能性のある位置(すなわち「結合位置」)のランダム化の程度は、11~17の許容されたアミノ酸残基の範囲であった。適用される制限は、G148-GA3ドメインの構造内の位置の性質(ヘリックス位置とループ位置)及び結合機能との予想される関連性によって異なる。いくつかの位置において、相同残基が除外された、例えば、Kは許容するがRは許容しない、又はL及びVは許容するがIは許容しない。「Ylib001Naive.I」で示される、得られたライブラリーにおけるそれぞれの位置でのアミノ酸の選択及びそれらの理論的分布を表1に示す。
【0128】
スプリットプール合成を使用して、部分的にランダム化されたアミノ酸配列をコードする、177bpの次のDNAオリゴが生成された:5’- AA ATA AAT GGA TCC AGC CTG GCT GAG GCG AAA GAA GCC GCG NNN GCC GAG CTG GAT AGC NNN GGT NNN NNN NNN NNN NNN NNN NNN NNN ATC GAG NNN NNN NNN NNN GTT GAG NNN GTT GAA NNN NNN AAA GAA NNN ATT CTG NNN NNN CTG CCG GCG AGC GGT AGC GTC GAC ATT ATT TA-3’(配列番号163;ランダム化されたコドンは、NNNとして示される)制限酵素サイトSalI及びBamHIが隣接する。オリゴヌクレオチドは、Atum(以前のDNA2.0)から注文された。 結果として得られる理論上のライブラリサイズは、7.8x1016変異体である。
【0129】
【0130】
ライブラリー構築物:pAY03686で示されるファージミドベクターは、pUC119(Vieira and Messing Meth. Enzymol. 1987, 153:3-11)から始まり、標準的な分子生物学的手法を使用して翻訳カセットに必須部分を導入する段階的な方法で構築された。従って、得られたライブラリーベクターpAY03686は、大腸菌lacプロモーターの制御下で、可変Yライブラリーとインフレームで大腸菌OmpAリーダーペプチド、58アミノ酸残基のTaqポリメラーゼ結合ドメイン(Z03639、配列番号160)及びM13糸状ファージコートタンパク質IIIの残基249~406(Lowman et al, Biochemistry, 1991, 30:10832-10838)をコードし、その後に、アンバーストップコドンが存在する。
【0131】
ライブラリーオリゴは、12サイクルのPCRでAmpliTaq Goldポリメラーゼを使用して増幅され、プールされた産物は、供給元の推奨に従ってQIAquick PCR PurificationKitで精製された。ランダム化された断片の精製プールを制限酵素SalI-HF及びBamHI-HFで消化し、QIAquick PCR PurificationKitを使用して濃縮した。続いて、産物を分取用2.5%アガロース(NuSieve(登録商標)GTG(登録商標) Agarose、Lonza)ゲル電気泳動で泳動し、QIAGEN Gel Extraction Kit(QIAGEN)を使用して供給元の推奨に従って精製した。
【0132】
ファージミドベクターpAY03686は同じ酵素で切断され、フェノール/クロロホルム抽出及びエタノール沈殿を使用して精製された。切断された断片と切断されたベクターを、モル比5:1でT4 DNAリガーゼとRTで2時間ライゲーションした後、4℃で一晩インキュベートした。ライゲーションしたDNAは、フェノール/クロロホルム抽出とエタノール沈殿、続いて10 mM Tris-HCl、pH8.5に溶解して回収した。従って、ベクターpAY03686で得られたライブラリーは、それぞれTaqポリメラーゼ結合ドメイン(Z03639)に融合したY変異体をコードしていた。
【0133】
ライゲーション反応(約160 ng DNA/形質転換)をエレクトロコンピテント大腸菌ER2738細胞(Lucigen)にエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの直後に、約1mlの回収培地(大腸菌ER2738細胞に付属)を加えた。形質転換した細胞を37℃で60分間インキュベートした。力価測定及び形質転換体の数の決定のためにサンプルを採取した。その後、細胞をプールし、10μg/mlのテトラサイクリンと100μg/mlのアンピシリンを添加した3lのTSB-YE培地で、37℃で一晩培養した。細胞を4,000gで15分間ペレット化し、40%グリセロール溶液に再懸濁した。細胞を分注し、80℃で保存した。内容を検証し、構築されたライブラリーの結果をライブラリー設計と比較して評価するために、Y変異体のライブラリーからのクローンをシーケンスした。実施例1に記載のようにシーケンスを行い、アミノ酸分布を検証した。
【0134】
結果
ライブラリー設計:Ylib001Naive.Iと示されるライブラリーは、トリプルアルファヘリックスタンパク質のヘリックス2からヘリックス3に配置されたアルブミン結合表面を持つG148-GA3変異体PP013に基づいて設計された。結合表面の近くの位置と一緒にアルブミン結合に関与するアミノ酸位置を使用して、結合機能を再定義する可能性を探るためのコンビナトリアルライブラリーを作成した。加えて、ヘリックス1とヘリックス2に先行するループ内の表面露出残基のセットを変化させ、結果として、ランダム化のために標的とされた合計20のアミノ酸位置を得た(表1)。理論的に可能な全ての組み合わせを考慮に入れると、設計されたライブラリーの理論的なサイズは7.8×1016個のユニークなY変異体であった。
【0135】
ライブラリー構築物:pAY03686で示される新しいファージミドベクターは、M13糸状ファージコートタンパク質IIIを使用して一価ディスプレイ用に構築された。Ylib001Naive.Iライブラリーは、pAY03686を使用して構築された。大腸菌ER2738細胞への形質転換後の力価測定によって決定されたライブラリーの実際のサイズは、1.0x1010の形質転換体であった。ライブラリーの品質は、192の形質転換体の配列決定と、それらの実際の配列を理論設計と比較することによって試験された。個々のライブラリーメンバーの配列分析により、理論設計に従ったコドンの分布が確認された。従って、新規の足場配列における潜在的なバインダーのライブラリーが、首尾よく構築された。
【0136】
実施例3
第1のライブラリーからのファージディスプレイの選択とスクリーニング
【0137】
概要
この実施例において、補体成分4(C4)、インターロイキン6(IL-6)及びインスリンが、Y変異体のファージライブラリーを使用するファージディスプレイ選択における標的として使用された。選択されたクローンは、DNAシーケンスされ、可溶性画分として大腸菌で生成され、ELISA及びSPRを使用してそれぞれの標的に対してアッセイされた。これらの選択されたY変異体のシーケンス観察と、この実施例で説明されている結果に基づいて、実施例5及び6でさらに記載するように位置20、21、24、27、29、30、33、36、37、40及び44を第2のライブラリーの「結合位置」としてランダム化に供することが結論付けられた。
【0138】
材料及び方法
ライブラリーファージストックの産生:ファージストックの産生は、以下のように行った。大腸菌細胞ER2738にファージミドライブラリーYlib001Naive.Iを含むグリセロールストックを、25μg/mlカルベニシリン、5ml/lの1.217MMgSO4及び19mlの微量元素溶液(129mM FeCl3;37mM ZnSO4;10.6mM CuSO4;78mM MnSO4;94mM CaCl2、1.2M HClに溶解)を添加した19lの培養培地(2.5g/l(NH4)2SO4;5.0g/l酵母抽出物;30g/lトリプトン;2g/lK2HPO4;3g/lKH2PO4;1.25g/lNa3C6H5O7・2H2O;0.1ml/lBreox FMT30消泡剤)に接種した。25%NH4OHの自動添加により、pHを7に維持し、空気を補充し(19l/分)、溶存酸素レベルを30%以上に保つようにスターラーを設定した。細胞が0.50のOD600に達したとき、培養物に5倍モル過剰のM13K07ヘルパーファージ(New England Biolabs)を使用して感染させた。細胞を30分間インキュベートした後、IPTGを100μMの濃度で添加して発現を誘導させた。誘導の1時間後、培養物に25μg/mlカナマイシンを補充し、グルコース制限流加培養が開始され、600g/lのグルコース溶液が反応器に供給された(最初の20時間は30g/h、次に培養が終了するまで90g/h)。ヘルパーファージの添加の24時間後に培養物を回収した。 培養物中の細胞を、遠心分離(15,900g、50分)により除去した。
【0139】
上清中のファージ粒子を、標準的な手順を使用して、PEG/NaCl(20%ポリエチレングリコール/2.5MNaCl塩化ナトリウム)中で2回沈殿させた。ファージストックは0.45μmフィルターを使用してろ過し、PBS及びグリセロールに溶解し、使用まで-80℃で保存した。
【0140】
C4、IL-6及びインスリン結合Y変異体のファージディスプレイ選択:C4(Complement Technology Inc、カタログ番号A105)、IL-6(R&D Systems、カタログ番号206-IL-200/CF)、及びインスリン(Roche、カタログ番号1376497)は、実施例1に記載されているようにビオチン化された。バクテリオファージのYlib001Naive.I定義に従ってタンパク質Yのランダムな変異体を表示する、この実施例に記載のファージストックを使用して、C4、IL-6、及びインスリン結合ポリペプチドを選択した。ストレプトアビジンでコーティングされた常磁性ビーズ(SAビーズ)(Dynabeads(登録商標)M-280ストレプトアビジン;Life Technology)を固体支持体として使用した。各ラウンドの前に、第1のラウンドを除いて、SA又はビーズに対する非特異的バインダーを除去するためにネガティブセレクションが実行された。ファージ粒子をビーズと共にRTで30分間インキュベートし、上清を選択ラウンドのインプットとして使用した。非特異的結合を避けるために、全てのチューブ及びビーズを、PBSTB(0.1%Tween20及び3%BSA(ウシ血清アルブミン)を添加したPBS)でブロックした。
【0141】
選択緩衝液は、1.5μMのヒト血清アルブミン(Albucult、Novozymes)を添加したPBSTBで構成され、選択は4ラウンドで行われた。ラウンド1~3において、各ビオチン化標的へのバインダーは、別々に並びに同量の標的との混合から選択された。第1のラウンドにおいて、100nMのそれぞれの標的を使用し、RTで回転させながらファージ粒子と2時間インキュベートした。ラウンド2及び3において、標的濃度が、それぞれ50nMと25nMに減少し、インキュベーション時間が、それぞれ90分と60分に短縮された。ラウンド4では、25及び12.5nMの2つの別々の標的濃度を使用し、ファージ粒子をRTで回転させながら標的タンパク質と60分間インキュベートした。ラウンド4において、ラウンド3の混合トラックからのアウトプットを分割し、25nMで各標的と別個にインキュベートした。ファージ-標的複合体を補足するために、ブロック済のSAビーズを加え、15分間インキュベートした。ビーズを、PBST0.1%で洗浄し、各ラウンドのストリンジェンシー(stringency)を高めた(ラウンド1において1回、ラウンド2において4回、ラウンド3において6回及びラウンド4において8回)。
【0142】
ビーズで捕捉したファージ粒子を500μlの0.1Mグリシン-HCl、pH2.2で10分間溶出した後、50μlのTris-HCl、pH8.0及び450μlのPBSで直ちに中和した。選択されたファージ粒子は以下に記載されるように増幅され、新しいファージストックが各サイクルの間に調製された。ファージストック、すなわち選択サイクルに入るファージ、及び溶出されたファージ粒子は、各選択サイクルの後に力価測定された。
【0143】
ラウンド間のファージ粒子の増幅:テトラサイクリン10μg/mlを添加したTSBで対数増殖期まで培養した大腸菌XL1-Blue細胞(Agilent Technologies)を、選択の各サイクル後、37°Cで30分間溶出ファージ粒子に感染させた。感染後にTSB培地を添加して培養量を2倍にし、アンピシリンを最終濃度100μg/mlになるように加えた。感染した細菌を1時間インキュベートした後、使用した溶出ファージ粒子の数と比較して10倍の過剰量でヘルパーファージを加えた。細菌が遠心分離機でペレット化される前に、1.5時間の間に重複感染を起こさせた。細菌を100μg/mlアンピシリン、25μg/mlカナマイシン、0.1mMIPTGを添加したTSB+YEに再懸濁し、30℃で一晩増殖させた。感染に使用された細菌の量は、溶出されたファージ粒子の数と比較して100倍過剰であった。一晩の培養を、ラウンド1については100mlで、ラウンド2及び3のそれぞれについて50mlで行った。一晩培養した培養物を遠心分離によりペレット化し、上清中のファージ粒子をPEG/NaCl緩衝液で2回沈殿させた。最後に、次のラウンドに移行する前に、ファージを選択緩衝液に再懸濁した。最終選択サイクルにおいて、ELISAスクリーニングで使用する単一コロニーを形成するために、ER2738細菌を感染に使用し、細菌を200μg/mlアンピシリンを添加したTBABプレートに塗布した。
【0144】
可溶性Y変異体の産生:Y変異体は、選択した単一コロニーを、ディープウェルプレート(Nunc)で100μg/mlアンピシリンと1mMIPTGを添加した1.2mlTSB-YE培地に接種することによって産生された。プレートを回転させながら37℃で24時間インキュベートした。細胞を3300gでの遠心分離によりペレット化し、150μlのPBST0.05%(0.05%Tween20を添加したPBS)に再懸濁した。細菌懸濁液を20分間82℃に加熱して細胞を溶解した。Y変異体の可溶性画分を、フィルタープレート(EMDミリポア)を使用した濾過により96ウェルプレートで単離した。最終的な上清は、GSS-[Y#####]-ASGS-[Z03639]-YVPG(配列番号173)として表される、Z03639への融合としてY変異体を含んでいた。Y#####は、個々の46アミノ酸残基のY変異体を指す。
【0145】
シーケンシング:ELISAスクリーニングと並行して、全てのクローンを実施例1に記載されるようにシーケンスした。
【0146】
配列分析:選択からのユニークな配列は、平均リンク階層的クラスタリング方法を用いて分析された。これは、各標的に対する選択からの配列、及びグループ化された異なる標的に対する選択からの配列に対して行われた。
【0147】
Y変異体のELISAスクリーニング:Y変異体のそれぞれの標的への結合をELISAアッセイで分析した。ハーフエリア96ウェルELISAプレート(Greiner)を、コーティング緩衝液(50mM炭酸ナトリウム、pH9.6; Sigma)で希釈した2μg/mlの抗Z03639ヤギ抗体(社内生産)で、4℃で一晩コーティングした。抗体溶液を注ぎ出し、ウェルを水で洗浄し、PBSC(0.5%カゼインを添加したPBS;Sigma)、RTで30分間ブロックした。ブロッキング溶液を廃棄し、次に加熱及び濾過したYタンパク質溶液をPBST0.05%で8倍に希釈し、ウェルに添加し、RTで1.5~2.25時間インキュベートした。ネガティブコントロールとして、上記のように培養し、熱処理し、濾過したER2738大腸菌上清を加えた。上清を注ぎ出し、ウェルをPBST0.05%で4回洗浄した。次いで、PBSC中のビオチン化標的(50nMの濃度のC4、100nMの濃度のIL-6、又は300nMの濃度のインスリン)を、各ウェルに加えた。プレートを室温で1時間~1.25時間インキュベートした後、上記のように洗浄した。PBSCで1:30,000に希釈したストレプトアビジン結合HRP(Thermo Scientific)をウェルに添加し、プレートを45分間インキュベートした。上記のように洗浄した後、1ステップUltra TMB基質(Thermo Scientific)をウェルに加え、プレートを製造元の推奨に従って処理した。EnSpireマルチウェルプレートリーダー(Perkin Elmer)を使用して、450nmでの吸光度を測定した。
【0148】
His6-タグを有するY変異体のサブセットのサブクローニング及びタンパク質産生:実施例1に記載されるように、単量体Y変異体分子を構築するために、サブクローニング戦略をELISA陽性変異体のサブセットに適用した。タンパク質は、実施例1に記載の方法に従いN末端His6タグを使用して発現及び精製された。Y変異体遺伝子断片を発現ベクターにクローニングし、コードされた配列MGSSHHHHHHGSS-[Y#####]-ASGSVD(配列番号167)を得た。
【0149】
精製されたY変異体のCD及びSPR分析:産生されたY変異体は、実施例1に記載された方法に従い、CD及びSPR分析に供された。
【0150】
結果
C4、IL-6及びインスリン結合Y変異体のファージディスプレイ選択:ファージディスプレイの選択は、新しく設計されたライブラリー(実施例2)並びに標的タンパク質C4、IL-6及びインスリンを使用して実施された。ラウンド1~3において、ライブラリーを各標的と個別に、又は3つ全ての標的を含む混合物とインキュベートした。第4のラウンドにおいて、混合標的トラックからファージストックを分割し、各標的と別々にインキュベートした。ファージディスプレイ選択の3及び4サイクル後に個々のクローンが得られた。
【0151】
シーケンシング:選択の3及び4サイクル後に得られたクローンについてシーケンシングを行った。各変異体には、ユニークな識別番号#####が割り当てられ、個々の変異体は、Y#####と称される。46個のアミノ酸残基の長いY変異体のアミノ酸配列の例は、それぞれ標的C4、IL-6及びインスリンについて、
図1及び配列リストに配列番号1~17、配列番号49~69及び配列番号90~109として記載される。
【0152】
配列分析:全ての変異体間の配列の類似性、並びに標的特異的な類似性を特定するために、選択から得られたクローンの配列に対してクラスタリング及びコンセンサス分析を実施した。それぞれの標的へのELISAでの結合が確認されたY変異体に対して実施されたコンセンサス分析を
図1A~Dに示す。最もランダム化された12の位置において、全ての結合Y変異体は、標的に関係なく、位置30、33、36、37、及び40でコンセンサスを示したが、好ましいアミノ酸は標的によって異なった。C4結合Y変異体は、位置24、27及び44で特定のアミノ酸に対してコンセンサスを示したが、インスリン結合Y変異体は、位置24及び44でコンセンサスを示したが、位置27では示さなかった。
【0153】
ABDの位置18、20、及び21は、アルブミンへの自然な結合に重要であることが知られているが、これらの位置は、この研究で使用された3つの標的に対する選択で特定されたY変異体で強いコンセンサスを示しませんでした。しかしながら、C4及びインスリン結合Y変異体の場合、Y変異体の3分の1が位置20及び21に同じ残基を有していた。これは、これらの位置がそれぞれの標的との相互作用に関与しているが、ヘリックス3の残基と同程度ではないことを示す。より限定的にランダム化された足場位置において、標的に関係なく、位置17ではVが優先され、位置43ではAが優先された。位置28において、C4及びインスリン結合Y変異体でAに対する強い優先度が観察されたのに対し、IL-6結合Y変異体ではGが許容された。位置9において、Iが、Nよりも頻繁に観察された。位置15、19、22及び23において、明確なコンセンサスが観察されなかった。これは、これらの位置が、変動に対してより耐性を有することを示す。
【0154】
Y変異体のELISAスクリーニング: 3又は4サイクルの選択後に得られたクローンを、96ウェルプレートで産生し、ELISAでb-C4、b-IL-6又はb-インスリン結合活性についてスクリーニングした。いくつかのユニークなY変異体は、50nMの濃度のb-C4又は100nMの濃度のb-IL-6に対してそれぞれ0.15AU以上(ネガティブコントロールの少なくとも2倍に相当)の応答を示すことがわかった。ネガティブコントロールの平均応答は、b-C4及びb-IL-6のそれぞれにおいて0.059AU及び0.067AUであった。b-インスリンに対するネガティブコントロールの平均応答は、0.057AUであったが、選択したY変異体の応答は、300nMの濃度で0.093AU~0.945AUの間(ネガティブコントロールの約2倍以上に相当)に及んだ。
【0155】
精製されたY変異体のCD及びSPR分析:産生されたY変異体をCD及びSPR分析に供した。個々の融点及び親和性の値(KD)を表2に示す。全ての変異体は、熱変性後にリフォールディングすることが可能であったが、α-ヘリックス含有量の程度は異なった。全体として、C4結合Y変異体は高いα-ヘリックス含有量を示したが、分析された両方のIL-6結合Y変異体はより少ないα-ヘリックス含有量を示した。インスリン結合Y変異体Y00032及びY00125の比較は、位置9にてY00032のI及びY00125のNが異なるだけであり、Y00125と比較してY00032のα-ヘリックス含有量がかなり高いことを示した。これにより、安定性のための9位の重要性及びNよりもIが好ましいことを確認した。これは、IL-6結合Y変異体Y00035及びY00076の限られた能力を少なくとも部分的に説明している可能性があり、両方とも9位にNがあり、α-ヘリックス構造内に折りたたまれている。同じ標的に結合するY変異体を比較すると、融解温度が高いほど結合親和性が高くなる。
【0156】
【0157】
実施例4
C4、IL-6及びインスリン結合Y変異体の突然変異研究
【0158】
概要
本実施例は、実施例3に記載の結果に従って結合のためにランダム化されるように決定された位置に照らして、足場の特性を最適化するために実行された一連の逐次突然変異研究を記載する。
【0159】
材料及び方法
突然変異したY変異体のクローニング:第1の突然変異研究において、安定性及び結合能力に対するこれら突然変異の影響を評価するために、Y変異体の結合が変化しない配列位置(すなわち、「足場位置」)に異なる突然変異が導入された。これは、テンプレートとして、それぞれC4及びインスリンに結合するY変異体Y00001(配列番号1)及びY00032(配列番号4)を使用して実施された。Y00032は、α-ヘリックス構造に折りたたむ優れた能力を示したものの、47℃という適度なTmにより改善が見込めるため、適切なモデル分子と見なされた。単一又は二重の突然変異は、表面に露出した足場の位置13、15、17、18、19、22、23、26、28、32、35、39及び43に導入された。全ての変異体は、N末端His6タグでクローン化され、構築物は、MGSSHHHHHHGSS-[Y#####](配列番号168)のフォーマットでポリペプチドをコードした。
【0160】
第2の突然変異研究において、第1の突然変異研究の結果に基づいて変異体にさらに突然変異を導入し、これらの突然変異が、主に安定性に与える影響を評価し、並びに様々な変異体での第1の研究の結果を検証した。Y変異体Y00262(配列番号18;C4結合)及びY00032及びY00270(それぞれ配列番号90及び配列番号117;インスリン結合)をテンプレートとして使用した。単一、二重又は三重の突然変異は、表面に露出した足場の位置17、18、19、22、23、26、35、39及び43に導入された。全ての変異体は、N末端His6タグでクローン化され、MGSSHHHHHHGSS-[Y#####](配列番号168)の形式でコードされたポリペプチドを構築する。
【0161】
第3の突然変異研究において、足場位置26の突然変異が、C4及びインスリンに結合するY変異体Y00289(配列番号26)及びY000293(配列番号125)にそれぞれ導入された。加えて、異なるN末端及びC末端の伸長は、それらが安定性及び結合能力並びに発現レベルにどのように影響を及ぼしたのかに関し評価された。全ての変異体をN末端His6タグでクローン化し、以下のフォーマット;MGSSHHHHHHGSS-[Y#####](配列番号168)、MGSSHHHHHHGSS-[Y#####]-ASYGS(配列番号169)、MGSSHHHHHHGSS-[Y#####]-GYS(配列番号:170)又はMGSSHHHHHHTIDEWL-[Y#####](配列番号171)のうちの1つでポリペプチドをコードする構築物を得た。実施例1に記載の方法に従ってクローニングを行った。
【0162】
突然変異したY変異体の産生及び特性評価:Y変異体は、実施例1に記載されている一般的な方法に従ってクローン化され、産生され、特徴付けられた。点突然変異及び/又はN末端又はC末端伸長を有する産生されたY変異体を、実施例1に記載されるように、CD及びSPR分析に供した。
【0163】
結果
突然変異したY変異体のクローニング、産生及び特性評価:突然変異研究1、2及び3のそれぞれにおいて産生されたY変異体は、CD及びSPR分析に供され、Y変異体の安定性及び結合能力に対する点突然変異及び/又は追加のN末端又はC末端アミノ酸の影響を評価された。個々の融点及び親和性の値(KD)を表3~5に示す。
【0164】
突然変異研究1において、5つの突然変異が、1~5℃の融解温度の上昇で安定性を改善した。Y00032の35位と39位に非荷電残基Qを導入すると、Tm及びα-ヘリックス含有量が増加した(
図3)。位置22のI及び位置23のKの組み合わせは、位置28のAと同様に、熱安定性に有益であることが確認された。全ての突然変異した変異体は、らせん構造を有し、90℃に加熱した後に可逆的にリフォールディングすることが示された。さらに、インスリンを標的とする全ての突然変異したY変異体は、程度は異なるものの、インスリンと相互作用する能力をある程度保持していた。親和性の変化は、一般的に、安定性の変化と相関していた。
【0165】
突然変異研究2において、研究1からの有望な突然変異は、C4結合Y変異体Y00262の突然変異によって確認された。35位と39位のQは、単一の突然変異としても組み合わせとしてもTmを増加させることが示された。35位のQ及び39位のQの組み合わせは、インスリン結合変異体でもTmを増加させることが確認された。さらに、位置19のAは、熱安定性にプラスの影響を与えることが確認された。全ての突然変異した変異体は、らせん構造を有していることが示され、90℃に加熱した後に可逆的にリフォールディングした。結果を、表4に示す。
【0166】
【0167】
【0168】
突然変異研究3において、異なるN末端及びC末端伸長は、熱安定性にわずかに正の効果を及ぼすことが示され、C末端伸長を伴うY変異体は、発現レベルの増加を示した。結果を、表5に示す。
【0169】
【0170】
実施例5
第2のライブラリーの設計及び構築
【0171】
概要
この実施例において、改変された足場を有する新規ライブラリーが、設計及び作成された。実施例2に記載されたライブラリーYlib001Naiv.Iからの実施例3に記載された選択の結果は、実施例4で実施された突然変異研究とともに、新しいライブラリーの設計の基礎として使用された。ライブラリーには、約3.1 x1010の個別のクローンが含まれていた。
【0172】
材料及び方法
ライブラリーの設計:第2のライブラリーは、実施例3及び4に記載した結果に基づいて設計された。ライブラリーにおいて、Y変異体分子の11個のアミノ酸位置がランダム化された(例えば、配列番号159を参照して、位置20、21、24、27、29、30、33、36、37、40及び44)。TRIMテクノロジーを使用して、4つのオリゴヌクレオチド(2つの順方向と2つの逆方向の相補的、両方のペアが相補的な3’末端を持つ)を生成した。これらのオリゴを、Ella Biotech GmbH(Martinsried、Germany)に注文した。
【0173】
4つの別々のオリゴヌクレオチドによって生成されたDNAは、117bpの長さのオリゴであり、配列:5’- GAT AGC AAA GGT GTT GGT GCA 001 001 ATT AAA 001 ATT CAG 002 GCA 002 002 GTT GAG 003 GTT CAA 001 001 AAA CAG 004 ATT CTG GCG 001 CTG CCG GCG AGC GGT AGC GTC-3’ (配列番号164)ここで、ランダム化されたコドンは、001~004として示される、を有するABDのヘリックス2からヘリックス3に部分的にランダム化されたアミノ酸配列をコードする。様々なランダム化戦略が対応する:001)C及びPを除く18個の可能性のあるアミノ酸が、均等に分布する(各5.6%);002)Cを除く19個全ての可能性のあるアミノ酸が均等に分布する(各5.3%);003)19個の可能性のあるアミノ酸、全てCを除く、アミノ酸Gの50%及び残りは、均等に分布する(各2.6%);004)19個のアミノ酸、全てCを除く、アミノ酸Aの50%及び残りは均等に分布する(各2.6%)。TRIMオリゴヌクレオチド合成中の技術的な課題により、通常、長いオリゴでは多数のエラーが発生する。従って、オリゴのオーバーラップ戦略が使用され、ランダム化された位置003及び004は、それぞれアミノ酸G及びAの50%を含んでいた。このようにして、ライブラリーは、エラーの数が少なく、必要な全ての可変位置を含む2つの別々のオリゴペアを使用して組み立てることが可能である。
【0174】
オリゴをPCR増幅して、隣接する制限部位SacI及びSalIを導入した。結果として得られた理論上のライブラリーのサイズは、7.6x1013変異体であった。
【0175】
ライブラリー構築:ファージミドベクターpAY03686は、ヘリックス1のアミノ酸残基1~11をコードする最初の部分と、それに続くSacIエンドヌクレアーゼ切断部位を含むように改変された。改変されたベクターは、pAY04260と表示した。
【0176】
ライブラリーは、制限エンドヌクレアーゼSacI-HF及びSalI-HF(New England Biolabs)を使用して断片及び対応するpAY04260ベクターを切断することを除いて、本質的に実施例2に記載されているように構築及び検証された。ライゲーション反応(約200ngDNA/形質転換)をエレクトロポレーションして、エレクトロコンピテント大腸菌XL1-Blue細胞(Lucigen)に導入した。
【0177】
結果
ライブラリー設計:第2のライブラリーは、実施例3及び4に記載した調査結果に基づいて設計された。配列の足場位置で使用されるアミノ酸及び結合位置での可変アミノ酸残基の分布が定義された。合計11個のアミノ酸位置、すなわち、配列番号159の位置20、21、24、27、29、30、33、36、37、40及び44に対応するものをランダム化の対象とした。設計されたライブラリーの理論上のサイズは、7.6x1013の異なるユニークなY変異体であった。
【0178】
ライブラリー構築:pAY04260と示される新規ファージミドベクターは、M13糸状ファージコートタンパク質IIIを使用して一価ディスプレイ用に構築された。新しく構築されたベクターは、Y変異体の最初の11個のアミノ酸をコードするDNAを含み、ライブラリーの構築に使用された。ライブラリー又は集団は、「Ylib002Naive.I」と表記された。大腸菌XL1-Blue細胞への形質転換後の力価測定によって決定されたライブラリーの実際のサイズは、3.1×1010形質転換体であった。ライブラリーの品質は、192の形質転換体のシーケンシングと、それらの実際の配列を理論設計と比較することによって試験された。個々のライブラリーメンバーの配列分析により、理論設計に従ったコドンの分布が検証された。従って、新規足場における潜在的なバインダーのライブラリーが、首尾よく構築された。
【0179】
実施例6
第2のライブラリーからのファージディスプレイの選択及びスクリーニング
【0180】
概要
この実施例において、C4、IL-6及びインスリンが、Y変異体の第2のファージライブラリーを使用するファージディスプレイ選択における標的として使用された。選択されたクローンは、DNA配列決定され、可溶性タンパク質画分として大腸菌で生成され、ELISA及びSPRを使用してそれぞれの標的に対してアッセイされた。
【0181】
材料及び方法
ファージストックの産生:ファージストックの産生は、以下のように行われた。大腸菌細胞XL1BlueにファージミドライブラリーYlib002Naive.Iを含むグリセロールストックを20lの発酵槽培養培地(30g/lトリプシンソイブロス;5g/l酵母抽出物;10g/lグルコース;100μg/mlカルベニシリン;10μg/ml塩酸テトラサイクリン)に接種した。培養物を37°Cでインキュベートし、空気を補充し(10l/分)、溶存酸素レベルを30%以上に保つようにスターラーを設定した。OD600が0.5に達したとき、16リットルの培養液を廃棄した。残りの4リットルの培養物は、10倍モル過剰のM13K07ヘルパーファージを使用して感染させた。100μg/ml カルベニシリン、3.2ml/l 1.217M MgSO4、0.9ml/l 25%NH4OH、及び1μl/ml 微量元素溶液(194mM FeCl3;55mM ZnSO4;10.6mM CuSO4;62mM MnSO4;47mM CaCl2、1.2M HClに溶解)、0.2mMチアミン、及び0.65μl/mlビタミン溶液(2.1mM パントテン酸;3.6mM塩化コリン;1.1mM葉酸;5.5mMミオイノシトール;4.1mM ナイアシンアミド;0.13mMリボフラビン;1.5mMチアミン)を補充した16リットルの新しい培養培地(3.05g/l (NH4)2SO4;6.1g/l 酵母抽出物;3.66g/lK2HPO4;5.48g/l KH2PO4;2.29g/l Na3C6H5O7・2H2O)を追加した。60分間のインキュベーション後、カナマイシンを50μg/mlの濃度で添加し、IPTGを100μMの濃度で添加することにより発現を誘導した。培養温度を30℃に下げ、0.15ml/lの消泡剤(BreoxFMT30)を加えた。25%NH4OHの自動添加により、pHを7に維持し、グルコース制限流加培養を開始し、600g/lのグルコース溶液を反応器に供給した(最初の20時間は15g/h、次に75g/h培養収量まで)。ヘルパーファージ粒子の添加の22時間後に培養物を回収した。培養物中の細胞を遠心分離(15,900g、50分)により除去した。上清中のファージ粒子は、標準的な手順を使用してPEG/NaClで2回沈殿させた。ファージストックは0.45μmフィルターを使用してろ過し、PBSとグリセロールに溶解し、使用前まで-80℃で保存した。
【0182】
Ylib002Naive.IからのC4、IL-6及びインスリン結合Y変異体のファージディスプレイ選択:C4(Lee Biosolutions Inc,カタログ番号194-41)、IL-6(R&D Systems、カタログ番号206-IL-200/CF)及びインスリン(Roche、カタログ番号1376497)を実施例1に記載したようにビオチン化した。バクテリオファージ上のライブラリー配列のランダムな変異体を表示する、この実施例に記載のファージストックを使用して、C4、IL-6、及びインスリン結合ポリペプチドを選択した。以下の例外を除いて、選択は基本的に実施例3に記載されているように実施された。選択は、標的のみを使用して個別に実施された(混合なし)。インスリンに対し4ラウンドを使用し、C4及びIL-6のそれぞれに対し5ラウンドを使用した。表6に従って、標的濃度及び洗浄工程を実施した。
【0183】
選択及び溶出されたファージ粒子が、以下に記載されるように増幅され、新規ファージストックが各サイクルの間に調製された。ファージストック、すなわち、選択サイクルに入るファージ粒子、及び溶出されたファージ粒子は、各選択サイクルの後に力価測定された。
【0184】
【0185】
ラウンド間のファージ粒子の増幅:培養中にアンピシリンの代わりにカルベニシリンを100μg/mlの濃度で使用したことを除いて、ラウンド間のファージ粒子の増幅を実施例3に記載したように実施した。感染に使用された細菌の量は、溶出されたファージ粒子の数と比較して約100~200倍過剰であった。選択サイクル4(全ての標的)及び選択サイクル5(C4及びIL-6)において、ER2738細菌(C4)又はXL1-Blue(IL-6及びインスリン)を感染に使用し、ELISAスクリーニングで使用する単一コロニーを形成するために、200μg/mlのアンピシリンを加えたTBABプレートに細菌を塗布した。
【0186】
可溶性Y変異体の上清の産生及びシーケンシング:Y変異体は、実施例3に記載されるように可溶性タンパク質として産生された。ELISAスクリーニングと並行して、全てのクローンを実施例1に記載されているように配列決定した。
【0187】
ELISA及びSPRを使用したY変異体のスクリーニング:Y変異体のIL-6及びインスリンへの結合は、それぞれ、実施例3に記載されているように、300nMのIL-6又はインスリンを使用して、ELISAアッセイで分析された。
【0188】
C4及びインスリンから産生されたY変異体は、Biacore 8K機器(GE Healthcare)を使用して標的結合についてスクリーニングされた。抗Z03639ヤギ抗体は、アミンカップリングによってCM-5チップの表面のカルボキシル化デキストラン層に14500~17500RUのレベルで固定化された。調製した上清をHBS-EP+で10倍に希釈し、10μl/分の流速で5分間注入した後、単一濃度の標的タンパク質(50nMのC4及び300nMのインスリン)を5分間で注入した。標的の解離を7分間モニターし、その後、30μlのグリシン-HCL pH2.5を2回注入して表面を再生した。速度論的分析を実行する前に、ヤギ抗Zを含むがYサンプルを含まない参照表面上に注入されたターゲットからの信号を、標的に結合するY####-Z03639のセンサーグラムから差し引いた。標的結合分析は、Biacore8K評価ソフトウェアを使用して実行された。最も遅いオフレートを示す結合クローンを、さらなる分析のために選択した。
【0189】
His6-タグを有するY変異体のサブセットのサブクローニング及びタンパク質産生:サブクローニング戦略を、実施例1に記載の方法に従って単量体Y変異体分子を構築するためのELISA及び/又はSPR陽性変異体のサブセットに適用した。タンパク質は、実施例1に記載の方法に従って、N末端His6-タグを使用して発現及び精製された。Y変異遺伝子断片を発現ベクターにサブクローニングし、コードされた配列MGSSHHHHHHGSS-[Y#####]-A(配列番号172)を得た。
【0190】
クローン化及び精製されたY変異体のCD及びSPR分析:産生されたY変異体は、実施例1に記載された方法に従って、CD及びSPR分析に供された。加えて、選択されたIL-6結合変異体のCDスペクトルも、60、70、80及び90℃で記録された。
【0191】
結果
Ylib002Naive.IからのC4、IL-6及びインスリン結合Y変異体のファージディスプレイ選択:ファージディスプレイの選択は、標的タンパク質C4、IL-6、及びインスリンに対して新しく設計されたライブラリー(実施例5)を使用して実施された。個々のクローンは、ファージディスプレイ選択4及び5サイクル後に得られた。
【0192】
シーケンシング:選択の4及び5サイクル後に得られたクローンについてシーケンシングを行った。各変異体には、ユニークな識別番号#####が割り当てられ、個々の変異体は、Y#####と称される。Y変異体のアミノ酸配列は、
図1にリスト化されており、配列リストには、標的C4、IL-6及びインスリンについてそれぞれ、配列番号32~39、配列番号70~80及び配列番号132~145としてリストされている。
【0193】
ELISA及びSPRを使用したY変異体のスクリーニング:選択の4又は5サイクル後に得られたクローンは、可溶性タンパク質として96ウェルプレートで産生された。Y変異体は、ELISAでb-IL-6又はb-インスリン結合活性についてスクリーニングされた。いくつかのユニークなY変異体は、それぞれ300nMの濃度のb-IL-6又はb-インスリンに対して約2倍以上の陰性コントロールに対する応答を与えることが見出された。陰性対照の平均反応は、b-IL-6及びインスリンでそれぞれ0.083AUと0.054AUであった。
【0194】
C4及びインスリン結合Y変異体の選択は、実施例1に記載されているように、Biacore 8Kを使用する速度論的スクリーニングに提示された。単一濃度のC4(50nM)又はインスリン(300nM)を、抗Z03639抗体を含むセンサーチップ表面の可溶性抽出物から捕捉した各Y#####-Z03639に注入した。ELISAで陽性反応を示すか、SPR分析で最も遅いオフレート曲線を示すY変異体をサブクローニングのために選択した。
【0195】
精製されたY変異体のCD及びSPR分析:産生されたY変異体は、CD及びSPR分析に供された。計算された速度論的パラメータ、親和性、Tm値、及び可溶性産物として表されるタンパク質の推定パーセンテージを表7に示す。VTMの前後に記録されたCDスペクトルと同様に融解曲線の例は、C4結合Y変異体Y00792(
図4A~B)、インスリン結合変異体Y00301(
図4C~D)及びIL-6結合変異体Y02444(
図4E~F)のための
図4に示されている。IL-6結合変異体の場合、これらの変異体は、
図4GのY02444に示されるように、完全に展開していないように見えるが、90℃までの温度においても部分的な安定な構造を示したため、信頼できるTmを決定することができなかった。
【0196】
【0197】
実施例7
第2のライブラリーからのC4、IL-6及びインスリン結合Y変異体の突然変異研究
【0198】
概要
この実施例は、Y変異体の広範な範囲にわたり高い熱耐性及び結合能力を維持しながら、主に高い生産収率及び高い溶解性の観点から、集団の配列の特性をされに最適化するために実施された2つの追加の配列突然変異研究のセットを記載する。
【0199】
材料及び方法
突然変異したY変異体のクローニング:第4の突然変異研究において、タンパク質発現に対するこれら突然変異の影響を評価するために、Y変異体に様々な変異が導入された。これは、インスリン結合Y変異体Y00356(配列番号140)をテンプレートとして使用して実施された。突然変異は、足場の位置9(Xsc1)、15(Xsc3)、及び26(Xsc4)、より正確には、突然変異I9L、K15Y、及びQ26Eに導入された。全ての変異体は、N末端His6タグでクローン化され、遺伝子構築物は、MGSSHHHHHHGSS-[Y#####](配列番号168)のフォーマットでコードされたポリペプチドを得た。実施例1に記載の方法に従ってクローニングを行った。
【0200】
第5の突然変異研究において、突然変異I9L、K15Y、及びQ26Eを、さらなるY変異体を使用してタンパク質の発現及び安定性に対する潜在的な影響に関してさらに評価した。突然変異K15Y及びQ26Eも組み合わせて評価された。位置15にチロシンを保持すると、芳香族残基の存在を保証することができ、これは、標的結合位置に芳香族残基が欠如している選択された結合ポリペプチドの分析に便利である。当該研究は、C4結合Y変異体Y00792(配列番号32)、Y02309(配列番号35)及びY02330(配列番号37)、IL-6結合Y変異体Y02374(配列番号72)、Y02415(配列番号74)及びY002444(配列番号75)及びインスリン結合Y変異体Y00301(配列番号133)、Y00310(配列番号135)及びY00358(配列番号142)をテンプレートとして使用し実施された。全ての変異体は、N末端His6-タグでクローン化され、遺伝子構築物は、MGSSHHHHHHGSS-[Y#####]-A(配列番号172)のフォーマットでコードされたポリペプチドを得た。実施例1に記載の方法に従ってクローニングを行った。
【0201】
突然変異したY変異体の産生及び特性評価:Y変異体は、実施例1に記載されている一般的な方法に従ってクローン化され、産生され、特徴付けられた。点突然変異を伴う生成されたY変異体は、実施例1に記載されるように、CD及びSPR分析に供された。さらに、IL-6結合変異体のCDスペクトルも、60、70、80及び90℃で記録された。
【0202】
結果
突然変異したY変異体の産生及び特性評価:突然変異研究4及び5から生成されたY変異体は、Y変異体の安定性と結合能力に対するさまざまな点突然変異の影響を評価するためにSPR及び/又はCD分析に供された。さらに、タンパク質発現レベル及び可溶性産物の割合をモニターした。分析されたそれぞれのY変異体の発現レベル、溶解度、融点、速度論的パラメータ及び親和性値(KD)は、それぞれ第4及び第5の突然変異研究について表8及び9にまとめる。
【0203】
第4の突然変異研究において、突然変異K15Y及びQ26Eはそれぞれ、発現レベルをほぼ2倍にすることが示されたが、変異I9Lは、発現中の溶解度を増加させた。
【0204】
【0205】
第5の突然変異研究において、単一及び二重突然変異Y変異体が、可溶性タンパク質として正常に発現されたが、発現レベルは、変化した。全ての変異体は、90℃に加熱した後に可逆的にリフォールディングした。IL-6結合変異体は、90℃でも部分構造を示した。位置9のIは、Lよりも優先されることが示された。位置15のK対Y及び位置26のQ対Eの優先度は、Y変異体によって異なる。
【0206】
【0207】
実施例8
アルブミン結合ドメインに融合したY変異体の生成及び分析
【0208】
概要
この実施例は、Y変異体のインビボ半減期を延長するのに有利であるアルブミン結合ドメインと融合したY変異体のクローニング及び産生を説明する。
【0209】
材料及び方法
PP013と融合したY変異体のクローニング:クローニングは、当該技術分野で知られている方法を使用して実施された。簡単に説明すると、Y変異体及びABD変異体PP013をコードするDNAは、Twist Bioscienceに断片遺伝子として注文し、酵素NdeI及びNotI-HF(New England Biolabs)を使用して制限酵素処理された。発現ベクター(T7プロモーターを含む)を調製し、同じ制限酵素で消化した。ライゲーション、形質転換、及びシーケンシングは、実施例1に記載されているように実施された。発現ベクターによってコードされた構築物は、GSS-[Y#####]-G4S-PP013又はGSS-PP013-G4S-[Y#####]であった。各構築物の一例は、それぞれ配列番号161及び配列番号162として配列表に記載されている。
【0210】
PP013との融合におけるY変異体の産生:融合タンパク質の発現は、本質的に実施例1に記載されているように実施された。発現したタンパク質を含む細胞ペレットをTSTバッファー(25mM Tris-HCl、1mM EDTA、200mM NaCl、0.05%Tween20、pH 8.0)に再懸濁し、細胞を溶解する。清澄化した上清を、抗PP013リガンドで固定化したアガロースにアプライする(WO2014/064237に記載)。TSTバッファー及び5mM NH4Ac pH5.5バッファーで洗浄した後、PP013融合Y変異体を0.1M HAcで溶出する。RPC-HPLCを使用してさらに精製を行うことが可能である。それぞれの精製タンパク質の正しい同一性は、SDS-PAGE及びLC/MS分析を使用して確認される。
【0211】
結合分析:融合タンパク質のY変異体部分の標的タンパク質への結合、ならびにアルブミン結合部分によるアルブミンへの結合の検証は、本質的に実施例1に記載されているようにBiacore分析を実施することによって実施される。
【0212】
薬物動態分析:PP013融合Y変異体の血清半減期をマウスで調べた。それぞれの融合タンパク質は、NMRIマウス(チャールズリバー)に~100nmol/kg体重の用量で静脈内(i.v.)投与される。3匹のマウスの群からの血清は、投与後0.08、6、18、78、120、168及び240時間で得られる。それぞれの融合タンパク質の濃度は、ELISAによって決定される。
【0213】
結果
結合分析の結果は、Y変異体の標的及びアルブミンの両方への結合を示すと予想される。さらに、PP013及び他のアルブミン結合ドメイン変異体への融合は、インビボ半減期の延長をもたらすと予想される。
【0214】
実施形態の項目別リスト
1.共通の足場に基づくポリペプチド変異体の集団であって、集団内の各ポリペプチドが、以下の足場アミノ酸配列:
Xsc1AELDXsc2Xsc3GVG AXXIKXIXsc4XA XXVEXVQXXK QXILAX(配列番号165)
(配列中、互いに独立して、
- Xsc1が、I及びLから選択された足場アミノ酸残基であり;
- Xsc2が、C及びSから選択された足場アミノ酸残基であり;
- Xsc3が、K及びYから選択された足場アミノ酸残基であり;
- Xsc4が、E及びQから選択された足場アミノ酸残基であり;及び
- 各Xが、独立に、何れかのアミノ酸残基に対応する結合アミノ酸残基である)
を含む、ポリペプチドの集団。
【0215】
2.各ポリペプチドが、以下の足場アミノ酸配列を含む、項目1に記載の集団:
LAEAKEAAXsc1A ELDXsc2Xsc3GVGAX XIKXIXsc4XAXX VEXVQXXKQX ILAXLP(配列番号166)
(配列中、
Xsc1、Xsc2、Xsc3、Xsc4及び個々のXは、項目1で定義されている通りである)。
【0216】
3.Xsc1が、Iである上記何れかの項目に記載の集団。
【0217】
4.Xsc1が、Lである上記何れかの項目に記載の集団。
【0218】
5.Xsc2が、Sである上記何れかの項目に記載の集団。
【0219】
6.Xsc2が、Cである上記何れかの項目に記載の集団。
【0220】
7.Xsc3が、Kである上記何れかの項目に記載の集団。
【0221】
8.Xsc3が、Yである上記何れかの項目に記載の集団。
【0222】
9.Xsc4が、Qである上記何れかの項目に記載の集団。
【0223】
10.Xsc4が、Eである上記何れかの項目に記載の集団。
【0224】
11.少なくとも1×104個のユニークなポリペプチド分子を含む、上記何れかの項目に記載の集団。
【0225】
12.少なくとも1×106個のユニークなポリペプチド分子を含む、項目11に記載の集団。
【0226】
13.少なくとも1×108個のユニークなポリペプチド分子を含む、項目12に記載の集団。
【0227】
14.少なくとも1×1010個のユニークなポリペプチド分子を含む、項目13に記載の集団。
【0228】
15.少なくとも1×1012個のユニークなポリペプチド分子を含む、項目14に記載の集団。
【0229】
16.少なくとも1×1014個のユニークなポリペプチド分子を含む、項目15に記載の集団。
【0230】
17.少なくとも1×1015個のユニークなポリペプチド分子を含む、項目16に記載の集団。
【0231】
18.ポリヌクレオチドの集団であって、その各メンバーが、項目1~17の何れかに記載されるポリペプチドの集団のメンバーをコードすることを特徴とする、ポリヌクレオチドの集団。
【0232】
19.項目1~17の何れか1項目に記載のポリペプチドの集団と項目18に記載のポリヌクレオチドの集団の組み合わせであって、ポリペプチドの前記集団の各メンバーが、遺伝子型-表現型カップリングのための手段を介して、そのメンバーをコードするポリヌクレオチドと物理的又は空間的に関連する、組み合わせ。
【0233】
20.遺伝子型-表現型カップリングのための前記手段が、ファージディスプレイシステムを含む、項目19に記載の組み合わせ。
【0234】
21.遺伝子型-表現型カップリングのための前記手段が、細胞表面選択ディスプレイシステムを含む、項目19に記載の組み合わせ。
【0235】
22.前記細胞表面ディスプレイシステムが、原核細胞を含む、項目21に記載の組み合わせ。
【0236】
23.前記原核細胞が、グラム+細胞である、項目22に記載の組み合わせ。
【0237】
24.前記細胞表面ディスプレイシステムが、真核細胞を含む、項目21に記載の組み合わせ。
【0238】
25.前記真核細胞が、酵母細胞である、項目24に記載の組み合わせ。
【0239】
26.遺伝子型-表現型カップリングのための前記手段が、無細胞ディスプレイシステムを含む、項目19に記載の組み合わせ。
【0240】
27.前記無細胞ディスプレイシステムが、リボソームディスプレイシステムを含む、項目26に記載の組み合わせ。
【0241】
28.前記無細胞ディスプレイシステムが、インビトロ区画化ディスプレイシステムを含む、項目26に記載の組み合わせ。
【0242】
29.前記無細胞ディスプレイシステムが、シスディスプレイシステムを含む、項目26に記載の組み合わせ。
【0243】
30.前記無細胞ディスプレイシステムが、マイクロビーズディスプレイシステムを含む、項目26に記載の組み合わせ。
【0244】
31.遺伝子型-表現型カップリングのための前記手段が、非ディスプレイシステムを含む、項目19に記載の組み合わせ。
【0245】
32.前記非ディスプレイシステムが、タンパク質-断片補完アッセイである、項目31に記載の組み合わせ。
【0246】
33.ポリペプチドの集団から所定の標的に対する親和性を有する所望のポリペプチドを選択するための方法であって、以下の工程:
(a)項目1~17の何れか1項目に記載のポリペプチドの集団を提供すること;
(b)標的と標的に対する親和性を有する少なくとも1つの所望のポリペプチドの間の特異的相互作用を可能にする条件下で、ポリペプチドの集団を所定の標的と接触させること;及び
(c)前記特異的相互作用に基づいて、ポリペプチドの残りの集団から少なくとも1つの所望のポリペプチドを選択すること、
を含む方法。
【0247】
34.工程(a)が、項目18に記載のポリヌクレオチドの集団を提供し、前記ポリヌクレオチドの集団を発現して、前記ポリペプチドの集団を産生する準備工程を含む、項目33に記載の方法。
【0248】
35.ポリペプチドの前記集団の各メンバーが、遺伝子型-表現型カップリングのための手段を介して、そのメンバーをコードするポリヌクレオチドと物理的又は空間的に関連する、項目34に記載の方法。
【0249】
36.遺伝子型-表現型カップリングの前記手段が、項目20~32の何れか1項目に記載の1つで定義される通りである、項目35に記載の方法。
【0250】
37.所定の標的に対する親和性を有する所望のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを単離するための方法であって、以下の工程:
- 項目35に記載の方法を使用して、ポリペプチドの集団から前記所望のポリペプチド及びそれをコードするポリヌクレオチドを選択すること;及び
- 前記所望のポリペプチドをコードするこのように分離されたポリヌクレオチドを単離すること、
を含む方法。
【0251】
38.所定の標的に対して親和性を有する所望のポリペプチドを同定するための方法であって、以下の工程:
- 項目37に記載の方法を使用して、前記所望のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを単離すること;及び
- ポリヌクレオチドをシーケンシングし、前記所望のポリペプチドのアミノ酸配列を推定することによって確立すること、
を含む方法。
【0252】
39.ポリペプチドの集団から所定の標的に対する親和性を有する所望のポリペプチドを選択及び同定するための方法であって、以下の工程:
(a)別個の担体又はビーズ上で項目1~17の何れか1項目に記載のポリペプチドの集団の各メンバーを合成すること;
(b)ポリペプチドと所定の標的との相互作用に基づいて、担体又はビーズを選択又は富化すること;及び
(c)タンパク質特性評価法によりポリペプチドを同定すること、
を含む方法。
【0253】
40.工程(c)で使用されるタンパク質特性評価法が、質量分析である、項目39に記載の方法。
【0254】
41.所定の標的に対する親和性を有する所望のポリペプチドを産生するための方法であって、以下の工程:
- 項目38に記載の方法を使用して所望のポリペプチドを単離及び同定する、又は項目39若しくは40に記載の方法を使用して所望のポリペプチドを選択及び同定すること;及び
- 前記所望のポリペプチドを産生すること、
を含む方法。
【0255】
42.前記産生が、de novoでの所望のポリペプチドの化学合成を用いて実施される、項目41に記載の方法。
【0256】
43.前記産生が、所望のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの組換え発現を使用して実施される、項目41に記載の方法。
【0257】
44.所定の標的に対する親和性を有する所望のポリペプチドを産生するための方法であって、以下の工程:
(a1)項目37に記載の方法を使用して、前記所望のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを単離すること;又は
(a2)項目39又は40に記載の選択及び同定方法を使用して同定されたポリペプチドを逆翻訳すること;及び
(b)(a1)又は(a2)の何れかに続いて、このように単離されたポリヌクレオチドを発現し、前記所望のポリペプチドを産生すること、
を含む方法。
【0258】
45.以下の配列と少なくとも97%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド:
X1AELDX6X7GVG AX12X13IKX16IX18X19A X21X22VEX25VQX28X29K QX32ILAX36(配列番号165)
(配列中、互いに独立して、
- X1が、I及びLから選択され;
- X6が、C及びSから選択され;
- X7が、K及びYから選択され;
- X18が、E及びQから選択され;及び
- X12、X13、X16、X19、X21、X22、X25、X28、X29、X32及びX36の各々が、何れかのアミノ酸残基である)。
【0259】
46.以下の配列と少なくとも97%同一であるアミノ酸配列を含む、項目45に記載のポリペプチド:
LAEAKEAA X1AELDX6X7GVG AX12X13IKX16IX18X19A X21X22VEX25VQX28X29K QX32ILAX36 LP(配列番号166)
(配列中、
Xで示される全てのアミノ酸残基は、項目45で定義される通りである)。
【0260】
47.X1が、Iである、項目45~46の何れか1つに記載のポリペプチド。
【0261】
48.X1が、Lである、項目45~46の何れか1つに記載のポリペプチド。
【0262】
49.X6が、Sである、項目45~48の何れか1つに記載のポリペプチド。
【0263】
50.X6が、Cである、項目45~48の何れか1つに記載のポリペプチド。
【0264】
51.X7が、Kである、項目45~50の何れか1つに記載のポリペプチド。
【0265】
52.X7が、Yである、項目45~50の何れか1つに記載のポリペプチド。
【0266】
53.X18が、Eである、項目45~52の何れか1つに記載のポリペプチド。
【0267】
54.X18が、Qである、項目45~52の何れか1つに記載のポリペプチド。
【0268】
55.11位のアミノ酸残基がAである、項目45~54の何れか1つに記載のポリペプチド。
【0269】
56.第2のポリペプチド部分をさらに含む、項目45~55の何れか1つの項目に記載のポリペプチドであって、以下を含む融合ポリペプチドであるようなポリペプチド:
- 項目45~55の何れか1つの項目に記載の配列定義を満たす第1の部分、及び
- 所望の機能を有する第2の部分。
【0270】
57.前記第2の部分が、アルブミンに対して結合親和性を有するポリペプチドドメインである、項目56に記載のポリペプチド。
【0271】
58.アルブミンに対する結合親和性を有する前記ポリペプチドドメインが、連鎖球菌プロテインG由来の天然に存在するアルブミン結合ドメイン、又は保持又は改善されたアルブミン結合親和性を有するその改変された変異体である、項目57に記載のポリペプチド。
【0272】
59.項目45~58の何れか1つに記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0273】
60.項目59に記載のポリヌクレオチドを発現する工程を含む、項目45~58の何れか1つに記載のポリペプチドを産生するための方法。
【配列表】