(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】積層型電子部品
(51)【国際特許分類】
H03H 7/01 20060101AFI20240829BHJP
H03H 7/46 20060101ALI20240829BHJP
H01F 17/00 20060101ALI20240829BHJP
H01F 27/00 20060101ALI20240829BHJP
H01F 27/36 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
H03H7/01 Z
H03H7/46 A
H03H7/46 C
H03H7/01 A
H01F17/00 D
H01F27/00 S
H01F27/36 101
(21)【出願番号】P 2021000522
(22)【出願日】2021-01-05
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 直之
(72)【発明者】
【氏名】中堤 純
【審査官】福田 正悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-129001(JP,A)
【文献】国際公開第2014/192431(WO,A1)
【文献】特開2004-266361(JP,A)
【文献】特開2002-043883(JP,A)
【文献】特開2006-093996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 7/01
H03H 7/46
H01F 17/00
H01F 27/00
H01F 27/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通ポートと、
第1の通過帯域内の周波数の第1の信号を選択的に通過させる第1の信号ポートと、
前記第1の通過帯域よりも高い第2の通過帯域内の周波数の第2の信号を選択的に通過させる第2の信号ポートと、
回路構成上前記共通ポートと前記第1の信号ポートとの間に設けられた第1の共振器と、
回路構成上前記共通ポートと前記第2の信号ポートとの間に設けられた第2の共振器と、
積層された複数の誘電体層と複数の導体層とを含み、前記共通ポート、前記第1の信号ポート、前記第2の信号ポート、前記第1の共振器および前記第2の共振器を一体化するための積層体と、
導体よりなり前記積層体の表面の一部を覆うシールドとを備え、
前記第1および第2の共振器は、前記複数の導体層を用いて構成され、
前記積層体は、前記複数の誘電体層の積層方向の両端に位置する底面および上面と、前記底面と前記上面を接続する4つの側面とを有し、
前記シールドは、前記第1の共振器と前記第2の共振器の両方に対向する特定の部分を含み、
前記第2の共振器と前記特定の部分との間隔は、前記第1の共振器と前記特定の部分との間隔よりも大
きく、
前記第1の共振器は、前記第2の共振器と前記特定の部分との間に介在していないことを特徴とする積層型電子部品。
【請求項2】
前記シールドは、前記特定の部分の少なくとも一部として、前記4つの側面のうちの1つを覆う側面被覆部分を含み、
前記第2の共振器と前記側面被覆部分との間隔は、前記第1の共振器と前記側面被覆部分との間隔よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の積層型電子部品。
【請求項3】
前記シールドは、前記特定の部分の少なくとも一部として、前記上面を覆う上面被覆部分を含み、
前記第2の共振器と前記上面被覆部分との間隔は、前記第1の共振器と前記上面被覆部分との間隔よりも大きいことを特徴とする請求項1または2記載の積層型電子部品。
【請求項4】
前記第1の共振器は、少なくとも1つの第1のインダクタを含み、
前記第2の共振器は、少なくとも1つの第2のインダクタを含み、
前記少なくとも1つの第2のインダクタと前記特定の部分との間隔は、前記少なくとも1つの第1のインダクタと前記特定の部分との間隔よりも大きいことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の積層型電子部品。
【請求項5】
前記第1の共振器は、少なくとも1つの第1のキャパシタを含み、
前記第2の共振器は、少なくとも1つの第2のキャパシタを含み、
前記少なくとも1つの第2のキャパシタと前記特定の部分との間隔は、前記少なくとも1つの第1のキャパシタと前記特定の部分との間隔よりも大きいことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の積層型電子部品。
【請求項6】
共通ポートと、
第1の通過帯域内の周波数の第1の信号を選択的に通過させる第1の信号ポートと、
前記第1の通過帯域よりも高い第2の通過帯域内の周波数の第2の信号を選択的に通過させる第2の信号ポートと、
回路構成上前記共通ポートと前記第1の信号ポートとの間に設けられた第1の共振器と、
回路構成上前記共通ポートと前記第2の信号ポートとの間に設けられた第2の共振器と、
積層された複数の誘電体層と複数の導体層とを含み、前記共通ポート、前記第1の信号ポート、前記第2の信号ポート、前記第1の共振器および前記第2の共振器を一体化するための積層体と、
導体よりなり前記積層体の表面の一部を覆うシールドと、
回路構成上前記共通ポートと前記第1の共振器との間に設けられ、前記複数の導体層を用いて構成された少なくとも1つの素子を含む回路を
と備え、
前記第1および第2の共振器は、前記複数の導体層を用いて構成され、
前記積層体は、前記複数の誘電体層の積層方向の両端に位置する底面および上面と、前記底面と前記上面を接続する4つの側面とを有し、
前記シールドは、前記第1の共振器と前記第2の共振器の両方に対向する特定の部分を含み、
前記第2の共振器と前記特定の部分との間隔は、前記第1の共振器と前記特定の部分との間隔よりも大きく、
前記特定の部分は、前記回路に対向し、
前記回路と前記特定の部分との間隔は、前記第1の共振器と前記特定の部分との間隔よりも大きいことを特徴
とする積層型電子部品。
【請求項7】
前記素子は、インダクタであることを特徴とする請求項6記載の積層型電子部品。
【請求項8】
前記共通ポート、前記第1の信号ポートおよび前記第2の信号ポートは、前記積層体の前記底面に設けられ、
前記シールドは、前記上面および前記4つの側面の全体を覆っていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の積層型電子部品。
【請求項9】
更に、前記第1の通過帯域よりも高く前記第2の通過帯域よりも低い第3の通過帯域内の周波数の第3の信号を選択的に通過させる第3の信号ポートと、
回路構成上前記共通ポートと前記第3の信号ポートとの間に設けられた第3の共振器とを備え、
前記第3の共振器は、前記複数の導体層を用いて構成されていることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の積層型電子部品。
【請求項10】
共通ポートと、
第1の通過帯域内の周波数の第1の信号を選択的に通過させる第1の信号ポートと、
前記第1の通過帯域よりも高い第2の通過帯域内の周波数の第2の信号を選択的に通過させる第2の信号ポートと、
前記第1の通過帯域よりも高く前記第2の通過帯域よりも低い第3の通過帯域内の周波数の第3の信号を選択的に通過させる第3の信号ポートと、
回路構成上前記共通ポートと前記第1の信号ポートとの間に設けられた第1の共振器と、
回路構成上前記共通ポートと前記第2の信号ポートとの間に設けられた第2の共振器と、
回路構成上前記共通ポートと前記第3の信号ポートとの間に設けられた第3の共振器と、
積層された複数の誘電体層と複数の導体層とを含み、前記共通ポート、前記第1の信号ポート、前記第2の信号ポート、前記第3の信号ポート、前記第1の共振器、前記第2の共振器および前記第3の共振器を一体化するための積層体と、
導体よりなり前記積層体の表面の一部を覆うシールドとを備え、
前記第1ないし第3の共振器は、前記複数の導体層を用いて構成され、
前記積層体は、前記複数の誘電体層の積層方向の両端に位置する底面および上面と、前記底面と前記上面を接続する4つの側面とを有し、
前記シールドは、前記第1の共振器と前記第2の共振器の両方に対向する特定の部分を含み、
前記第2の共振器と前記特定の部分との間隔は、前記第1の共振器と前記特定の部分との間隔よりも大きく、
前記特定の部分は、前記第3の共振器に対向し、
前記第2の共振器と前記特定の部分との間隔は、前記第3の共振器と前記特定の部分との間隔よりも大きいことを特徴
とする積層型電子部品。
【請求項11】
前記特定の部分は、前記第3の共振器に対向し、
前記第3の共振器と前記特定の部分との間隔は、前記第1の共振器と前記特定の部分との間隔よりも大きいことを特徴とする請求項9または10記載の積層型電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体と積層体の表面の一部を覆うシールドとを備えた積層型電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機やスマートフォンに代表される小型移動体通信機器では、多機能化、小型化が進み、それに伴い、電子部品の実装の高密度化が進んでいる。その結果、小型移動体通信機器では、実装基板に実装される複数の電子部品の間隔や、複数の電子部品を覆うシールドケースと電子部品との距離が小さくなってきている。
【0003】
複数の電子部品の間隔が小さくなると、複数の電子部品間における電磁干渉が生じやすくなる。また、シールドケースと電子部品との距離が小さくなると、電子部品内の導体とシールドケースとによって形成される容量に起因して、実装時の電子部品の特性が設計時の特性とは異なったものになりやすくなる。
【0004】
複数の電子部品間における電磁干渉や、シールドケースに起因する電子部品の特性の変動を抑制するために、特許文献1および特許文献2に記載されているような電子部品が知られている。特許文献1には、積層体の側面にシールド電極が形成されたローパスフィルタが記載されている。特許文献2には、積層体の上面および側面にシールド電極が配置されたローパスフィルタが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-19316号公報
【文献】国際公開第2018/047488号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
小型移動体通信機器では、システムおよび使用周波数帯域が異なる複数のアプリケーションで共通に使用されるアンテナを設け、このアンテナが送受信する複数の信号を、分波器を用いて分離する構成が広く用いられている。
【0007】
一般的に、第1の周波数帯域内の周波数の第1の信号と、第1の周波数帯域よりも高い第2の周波数帯域内の周波数の第2の信号を分離する分波器は、共通ポートと、第1の信号ポートと、第2の信号ポートと、共通ポートから第1の信号ポートに至る第1の信号経路に設けられた第1のフィルタと、共通ポートから第2の信号ポートに至る第2の信号経路に設けられた第2のフィルタとを備えている。
【0008】
ここで、分波器の表面にシールドを形成することを考える。分波器の表面にシールドが設けられていると、フィルタの構成要素とシールドとが容量結合し得る。この容量結合によって容量が形成されると、フィルタのインピーダンスが設計時とは異なったものになるため、インピーダンス整合を取りにくくなる。また、フィルタの通過帯域が高いほど、フィルタの構成要素とシールドとが容量結合しやすくなる。そのため、上述の第1および第2のフィルタを備えた分波器の表面にシールドを形成した場合には、第2のフィルタは、第1のフィルタに比べて、容量結合の影響を受けやすく、インピーダンス整合を取りにくい。これにより、所望の特性を実現しにくいという問題点があった。
【0009】
上記の問題は、分波器に限らず、複数の共振器を備えた積層型電子部品であって、周波数が互いに異なる複数の信号を扱う積層型電子部品全般に当てはまる。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、実装の高密度化に伴う電磁気的な不具合の発生を抑制しながら、所望の特性を実現できるようにした積層型電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の積層型電子部品は、共通ポートと、第1の通過帯域内の周波数の第1の信号を選択的に通過させる第1の信号ポートと、第1の通過帯域よりも高い第2の通過帯域内の周波数の第2の信号を選択的に通過させる第2の信号ポートと、回路構成上共通ポートと第1の信号ポートとの間に設けられた第1の共振器と、回路構成上共通ポートと第2の信号ポートとの間に設けられた第2の共振器と、積層された複数の誘電体層と複数の導体層とを含み、共通ポート、第1の信号ポート、第2の信号ポート、第1の共振器および第2の共振器を一体化するための積層体と、導体よりなり積層体の表面の一部を覆うシールドとを備えている。
【0012】
第1および第2の共振器は、複数の導体層を用いて構成されている。積層体は、複数の誘電体層の積層方向の両端に位置する底面および上面と、底面と上面を接続する4つの側面とを有している。シールドは、第1の共振器と第2の共振器の両方に対向する特定の部分を含んでいる。第2の共振器と特定の部分との間隔は、第1の共振器と特定の部分との間隔よりも大きい。
【0013】
本発明の積層型電子部品において、シールドは、特定の部分の少なくとも一部として、4つの側面のうちの1つを覆う側面被覆部分を含んでいてもよい。この場合、第2の共振器と側面被覆部分との間隔は、第1の共振器と側面被覆部分との間隔よりも大きくてもよい。
【0014】
また、本発明の積層型電子部品において、シールドは、特定の部分の少なくとも一部として、上面を覆う上面被覆部分を含んでいてもよい。この場合、第2の共振器と上面被覆部分との間隔は、第1の共振器と上面被覆部分との間隔よりも大きくてもよい。
【0015】
また、本発明の積層型電子部品において、第1の共振器は、少なくとも1つの第1のインダクタを含んでいてもよく、第2の共振器は、少なくとも1つの第2のインダクタを含んでいてもよい。この場合、少なくとも1つの第2のインダクタと特定の部分との間隔は、少なくとも1つの第1のインダクタと特定の部分との間隔よりも大きくてもよい。
【0016】
また、本発明の積層型電子部品において、第1の共振器は、少なくとも1つの第1のキャパシタを含んでいてもよく、第2の共振器は、少なくとも1つの第2のキャパシタを含んでいてもよい。この場合、少なくとも1つの第2のキャパシタと特定の部分との間隔は、少なくとも1つの第1のキャパシタと特定の部分との間隔よりも大きくてもよい。
【0017】
また、本発明の積層型電子部品は、更に、回路構成上共通ポートと第1の共振器との間に設けられ、複数の導体層を用いて構成された少なくとも1つの素子を含む回路を備えていてもよい。この場合、特定の部分は、回路に対向していてもよい。回路と特定の部分との間隔は、第1の共振器と特定の部分との間隔よりも大きくてもよい。また、素子は、インダクタであってもよい。
【0018】
また、本発明の積層型電子部品において、共通ポート、第1の信号ポートおよび第2の信号ポートは、積層体の底面に設けられていてもよい。この場合、シールドは、上面および4つの側面の全体を覆っていてもよい。
【0019】
また、本発明の積層型電子部品は、更に、第1の通過帯域よりも高く第2の通過帯域よりも低い第3の通過帯域内の周波数の第3の信号を選択的に通過させる第3の信号ポートと、回路構成上共通ポートと第3の信号ポートとの間に設けられた第3の共振器とを備えていてもよい。第3の共振器は、複数の導体層を用いて構成されていてもよい。この場合、特定の部分は、第3の共振器に対向していてもよい。第2の共振器と特定の部分との間隔は、第3の共振器と特定の部分との間隔よりも大きくてもよい。また、第3の共振器と特定の部分との間隔は、第1の共振器と特定の部分との間隔よりも大きくてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の積層型電子部品では、第1の共振器と第2の共振器は、積層体に一体化されている。シールドは、積層体の表面の一部を覆っている。また、シールドは、第1の共振器と第2の共振器の両方に対向する特定の部分を含んでいる。第2の共振器と特定の部分との間隔は、第1の共振器と特定の部分との間隔よりも大きい。これにより、本発明によれば、実装の高密度化に伴う電磁気的な不具合の発生を抑制しながら、所望の特性を実現できる積層型電子部品を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の回路構成を示す回路図である。
【
図2】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の外観を示す斜視図である。
【
図3】
図2に示した積層型電子部品の断面図である。
【
図4】
図2に示した積層型電子部品の積層体の内部を示す斜視図である。
【
図5】
図2に示した積層型電子部品の積層体の内部を示す平面図である。
【
図6】
図4および
図5に示した積層体における1層目ないし3層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
【
図7】
図4および
図5に示した積層体における4層目ないし6層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
【
図8】
図4および
図5に示した積層体における7層目ないし9層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
【
図9】
図4および
図5に示した積層体における10層目ないし12層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
【
図10】
図4および
図5に示した積層体における13層目ないし15層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
【
図11】
図4および
図5に示した積層体における16層目ないし18層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
【
図12】
図4および
図5に示した積層体における19層目ないし21層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
【
図13】
図4および
図5に示した積層体における22層目ないし24層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
【
図14】
図4および
図5に示した積層体における25層目ないし29層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
【
図15】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の通過減衰特性の一例を示す特性図である。
【
図16】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の反射減衰特性の一例を示す特性図である。
【
図17】シミュレーションによって求めたミドルバンドフィルタの挿入損失を示す特性図である。
【
図18】シミュレーションによって求めたミドルバンドフィルタの反射損失を示す特性図である。
【
図19】シミュレーションによって求めたハイバンドフィルタの挿入損失を示す特性図である。
【
図20】シミュレーションによって求めたハイバンドフィルタの反射損失を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。始めに、
図1を参照して、本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品(以下、単に電子部品と記す。)の構成の概略について説明する。本実施の形態に係る電子部品1は、第1の通過帯域内の周波数の第1の信号を選択的に通過させる第1のフィルタと、第1の通過帯域よりも高い第2の通過帯域内の周波数の第2の信号を選択的に通過させる第2のフィルタと、第1の通過帯域よりも高く第2の通過帯域よりも低い第3の通過帯域内の周波数の第3の信号を選択的に通過させる第3のフィルタとを備えた分波器(トリプレクサ)である。
【0023】
図1に示したように、電子部品1は、共通ポート2と、信号ポート3,4,5と、共振器10,20,30と、LC回路40とを備えている。
【0024】
信号ポート3は、第1の通過帯域内の周波数の第1の信号を選択的に通過させる。共振器10は、回路構成上共通ポート2と信号ポート3との間に設けられている。共振器10は、第1のフィルタを構成する。
【0025】
信号ポート5は、第2の通過帯域内の周波数の第2の信号を選択的に通過させる。共振器30は、回路構成上共通ポート2と信号ポート5との間に設けられている。共振器30は、第2のフィルタを構成する。
【0026】
信号ポート4は、第3の通過帯域内の周波数の第3の信号を選択的に通過させる。共振器20は、回路構成上共通ポート2と信号ポート4との間に設けられている。共振器20は、第3のフィルタを構成する。
【0027】
LC回路40は、回路構成上共通ポート2と共振器10,20との間に設けられている。なお、本出願において、「回路構成上」という表現は、物理的な構成における配置ではなく、回路図上での配置を指すために用いている。
【0028】
共振器10は、本発明における「第1の共振器」に対応する。共振器20は、本発明における「第3の共振器」に対応する。共振器30は、本発明における「第2の共振器」に対応する。信号ポート3は、本発明における「第1の信号ポート」に対応する。信号ポート4は、本発明における「第3の信号ポート」に対応する。信号ポート5は、本発明における「第2の信号ポート」に対応する。
【0029】
次に、
図1を参照して、共振器10,20,30およびLC回路40の構成の一例について説明する。共振器10,20,30は、それぞれ、少なくとも1つのインダクタと、少なくとも1つのキャパシタとを含んでいる。
【0030】
共振器10は、LC回路40に接続されるポート11と、信号ポート3に接続されるポート12と、ポート11とポート12を接続する経路13と、インダクタL11,L12と、キャパシタC11,C12,C13とを含んでいる。インダクタL11,L12は、ポート11側からこの順に、経路13に直列に設けられている。キャパシタC11は、インダクタL11とインダクタL12の接続点とグランドとの間に設けられている。キャパシタC12は、インダクタL12に対して並列に接続されている。キャパシタC13は、インダクタL12とポート12との間において経路13とグランドとの間に設けられている。
【0031】
共振器20は、LC回路40に接続されるポート21と、信号ポート4に接続されるポート22と、ポート21とポート22を接続する経路23と、インダクタL21と、キャパシタC21,C22,C23とを含んでいる。キャパシタC21,C22は、ポート21側からこの順に、経路23に直列に設けられている。キャパシタC23は、キャパシタC21,C22に対して並列に接続されている。インダクタL21は、キャパシタC21とキャパシタC22の接続点とグランドとの間に設けられている。
【0032】
共振器30は、共通ポート2に接続されるポート31と、信号ポート5に接続されるポート32と、ポート31とポート32を接続する経路33と、インダクタL31,L32,L33,L34と、キャパシタC31,C32,C33,C34,C35,C36,C37とを含んでいる。キャパシタC31,C32およびインダクタL32,L34は、ポート31側からこの順に、経路33に直列に設けられている。キャパシタC33は、キャパシタC31,C32に対して並列に接続されている。インダクタL31は、キャパシタC31とキャパシタC32の接続点とグランドとの間に設けられている。キャパシタC34は、インダクタL32に対して並列に接続されている。インダクタL33は、インダクタL32とインダクタL34の接続点に接続されている。キャパシタC35は、インダクタL33とグランドとの間に設けられている。キャパシタC36は、インダクタL34に対して並列に接続されている。キャパシタC37は、インダクタL34とポート32との間において経路33とグランドとの間に設けられている。
【0033】
LC回路40は、共通ポート2に接続されるポート41と、共振器10のポート11と共振器20のポート21に接続されるポート42と、ポート41とポート42を接続する経路43と、インダクタL41,L42と、キャパシタC41,C42とを含んでいる。インダクタL41,L42は、ポート41側からこの順に、経路43に直列に設けられている。キャパシタC41は、インダクタL41とインダクタL42の接続点とグランドとの間に設けられている。キャパシタC42は、インダクタL42に対して並列に接続されている。
【0034】
第1の通過帯域内の周波数の第1の信号は、LC回路40の経路43と共振器10の経路13を選択的に通過する。第2の通過帯域内の周波数の第2の信号は、共振器30の経路33を選択的に通過する。第3の通過帯域内の周波数の第3の信号は、LC回路40の経路43と共振器20の経路23を選択的に通過する。このようにして、電子部品1は、第1の信号と第2の信号と第3の信号を分離する。
【0035】
次に、
図2ないし
図5を参照して、電子部品1のその他の構成について説明する。
図2は、電子部品1の外観を示す斜視図である。
図3は、電子部品1の断面図である。
図4は、電子部品1の積層体の内部を示す斜視図である。
図5は、電子部品1の積層体の内部を示す平面図である。
【0036】
電子部品1は、更に、積層された複数の誘電体層と複数の導体層とを含む積層体50と、導体よりなり積層体50の表面の一部を覆うシールド80を備えている。積層体50は、共通ポート2、信号ポート3~5、共振器10,20,30およびLC回路40を一体化するためのものである。共振器10,20,30およびLC回路40は、複数の導体層を用いて構成されている。
【0037】
積層体50は、複数の誘電体層の積層方向Tの両端に位置する底面50Aおよび上面50Bと、底面50Aと上面50Bを接続する4つの側面50C~50Fとを有している。側面50C,50Dは互いに反対側を向き、側面50E,50Fも互いに反対側を向いている。側面50C~50Fは、上面50Bおよび底面50Aに対して垂直になっている。
【0038】
電子部品1は、更に、積層体50の底面50Aに設けられた端子111,112,113,114,115,116,117,118,119を備えている。端子111は、底面50Aの中央に配置されている。端子112は、底面50Aと側面50Cと側面50Fが交差する位置に存在する角部の近傍に配置されている。端子113は、底面50Aと側面50Cと側面50Eが交差する位置に存在する角部の近傍に配置されている。端子114は、底面50Aと側面50Dと側面50Eが交差する位置に存在する角部の近傍に配置されている。端子115は、底面50Aと側面50Dと側面50Fが交差する位置に存在する角部の近傍に配置されている。端子116は、端子112と端子113の間に配置されている。端子117は、端子113と端子114の間に配置されている。端子118は、端子114と端子115の間に配置されている。端子119は、端子112と端子115の間に配置されている。
【0039】
端子112は共通ポート2に対応し、端子113は信号ポート3に対応し、端子114は信号ポート4に対応し、端子115は信号ポート5に対応している。従って、共通ポート2および信号ポート3~5は、積層体50の底面50Aに設けられている。端子111,116~119の各々は、グランドに接続される。シールド80は、端子111,116~119に電気的に接続されている。
【0040】
シールド80は、積層体50の上面50Bおよび4つの側面50C~50Fの全体を覆っている。シールド80は、それぞれ積層体50の上面50Bと4つの側面50C~50Fを覆う5つの部分を含んでいる。以下、シールド80のうち積層体50の上面50Bを覆う部分を上面被覆部分80Bと言い、シールド80のうち積層体50の側面50C~50Fを覆う4つの部分を、それぞれ側面被覆部分80C~80Fと言う。シールド80は、積層された複数の金属層を含んでいてもよい。
【0041】
次に、
図6ないし
図14を参照して、積層体50を構成する複数の誘電体層と、この複数の誘電体層に形成された複数の導体層および複数のスルーホールの構成の一例について説明する。この例では、積層体50は、積層された29層の誘電体層を有している。以下、この29層の誘電体層を、下から順に1層目ないし29層目の誘電体層と呼ぶ。また、1層目ないし29層目の誘電体層を符号51~79で表す。
【0042】
図6ないし
図13において、複数の円は複数のスルーホールを表している。誘電体層51~74の各々には、複数のスルーホールが形成されている。複数のスルーホールの各々は、導体層または他のスルーホールに接続されている。
【0043】
図6(a)は、1層目の誘電体層51のパターン形成面を示している。誘電体層51のパターン形成面には、端子111~119が形成されている。
【0044】
図6(b)は、2層目の誘電体層52のパターン形成面を示している。誘電体層52のパターン形成面には、導体層521,522,523,524,525,526が形成されている。導体層523は、導体層521に接続されている。導体層525は、導体層524に接続されている。導体層526は、導体層525に接続されている。
【0045】
図6(c)は、3層目の誘電体層53のパターン形成面を示している。誘電体層53のパターン形成面には、導体層531,532,533,534,535,536,537,538が形成されている。導体層532は、導体層531に接続されている。
【0046】
図7(a)は、4層目の誘電体層54のパターン形成面を示している。誘電体層54のパターン形成面には、導体層541,542,543,544,545,546,547,548,549が形成されている。導体層545は、導体層542に接続されている。導体層544は、導体層543に接続されている。導体層547は、導体層546に接続されている。
【0047】
図7(b)は、5層目の誘電体層55のパターン形成面を示している。誘電体層55のパターン形成面には、導体層551,552,553,554,555が形成されている。導体層552は、導体層551に接続されている。
【0048】
図7(c)は、6層目の誘電体層56のパターン形成面を示している。誘電体層56のパターン形成面には、導体層561,562,563,564,565,566が形成されている。導体層566は、導体層565に接続されている。
【0049】
図8(a)は、7層目の誘電体層57のパターン形成面を示している。誘電体層57のパターン形成面には、導体層571,572,573,574,575が形成されている。導体層572は、導体層571に接続されている。
【0050】
図8(b)は、8層目の誘電体層58のパターン形成面を示している。誘電体層58のパターン形成面には、導体層581,582,583が形成されている。
【0051】
図8(c)は、9層目の誘電体層59のパターン形成面を示している。誘電体層59のパターン形成面には、導体層591,592,593,594,595が形成されている。導体層593は、シールド80の側面被覆部分80Eに接続されている。導体層594は、シールド80の側面被覆部分80Cに接続されている。導体層595は、シールド80の側面被覆部分80Fに接続されている。
【0052】
図9(a)は、10層目の誘電体層60のパターン形成面を示している。誘電体層60のパターン形成面には、導体層601,602が形成されている。導体層602は、シールド80の側面被覆部分80Dに接続されている。
【0053】
図9(b)は、11層目の誘電体層61のパターン形成面を示している。誘電体層61のパターン形成面には、導体層611,612が形成されている。
【0054】
図9(c)は、12層目の誘電体層62のパターン形成面を示している。誘電体層62のパターン形成面には、導体層621,622,623が形成されている。
【0055】
図10(a)は、13層目の誘電体層63のパターン形成面を示している。誘電体層63のパターン形成面には、導体層631が形成されている。
【0056】
図10(b)は、14層目の誘電体層64のパターン形成面を示している。誘電体層64のパターン形成面には、導体層641,642,643,644が形成されている。
【0057】
図10(c)は、15層目の誘電体層65のパターン形成面を示している。誘電体層65のパターン形成面には、導体層651,652,653,654が形成されている。
【0058】
図11(a)は、16層目の誘電体層66のパターン形成面を示している。誘電体層66のパターン形成面には、導体層661,662,663,664,665が形成されている。
【0059】
図11(b)は、17層目の誘電体層67のパターン形成面を示している。誘電体層67のパターン形成面には、導体層671,672,673,674,675が形成されている。
【0060】
図11(c)は、18層目の誘電体層68のパターン形成面を示している。誘電体層68のパターン形成面には、導体層681,682,683,684,685,686が形成されている。
【0061】
図12(a)は、19層目の誘電体層69のパターン形成面を示している。誘電体層69のパターン形成面には、導体層691,692,693,694,695,696が形成されている。
【0062】
図12(b)は、20層目の誘電体層70のパターン形成面を示している。誘電体層70のパターン形成面には、導体層701,702,703,704,705,706,707が形成されている。
【0063】
図12(c)は、21層目の誘電体層71のパターン形成面を示している。誘電体層71のパターン形成面には、導体層711,712,713,714,715,716,717が形成されている。
【0064】
図13(a)は、22層目の誘電体層72のパターン形成面を示している。誘電体層72のパターン形成面には、導体層721,722,723,724,725,726,727が形成されている。導体層727は、導体層726に接続されている。
【0065】
図13(b)は、23層目の誘電体層73のパターン形成面を示している。誘電体層73のパターン形成面には、導体層731,732,733,734,735,736,737が形成されている。導体層737は、導体層736に接続されている。
【0066】
図13(c)は、24層目の誘電体層74のパターン形成面を示している。誘電体層74のパターン形成面には、導体層741,742が形成されている。
【0067】
図14(a)は、25層目の誘電体層75のパターン形成面を示している。誘電体層75のパターン形成面には、導体層751,752が形成されている。
【0068】
図14(b)は、26層目ないし28層目の誘電体層76~78のパターン形成面を示している。誘電体層76~78には、導体層およびスルーホールは形成されていない。
【0069】
図14(c)は、29層目の誘電体層79のパターン形成面を示している。誘電体層79のパターン形成面とは反対側のマーク形成面には、導体層よりなるマーク791が形成されている。
【0070】
図2ないし
図5に示した積層体50は、1層目の誘電体層51のパターン形成面が積層体50の底面50Aになり、29層目の誘電体層79のマーク形成面およびマーク791の上面が積層体50の上面50Bになるように、1層目ないし29層目の誘電体層51~79が積層されて構成される。
【0071】
図6ないし
図13に示した複数のスルーホールの各々は、1層目ないし29層目の誘電体層51~79を積層したときに、積層方向Tにおいて重なる導体層または積層方向Tにおいて重なる他のスルーホールに接続されている。また、
図6ないし
図13に示した複数のスルーホールのうち、端子内または導体層内に位置するスルーホールは、その端子またはその導体層に接続されている。
【0072】
以下、
図1に示した電子部品1の回路の構成要素と、
図6ないし
図14に示した積層体50の内部の構成要素との対応関係について説明する。始めに、共振器10の構成要素について説明する。インダクタL11は、
図10(b)ないし
図14(a)に示した導体層641,651,661,671,681,691,701,711,721,731,741,751と、これらの導体層に接続された複数のスルーホールとによって構成されている。
【0073】
インダクタL12は、
図11(c)ないし
図13(b)に示した導体層683,693,703,713,723,733と、これらの導体層に接続された複数のスルーホールとによって構成されている。
【0074】
キャパシタC11は、
図6(b)ないし
図8(a)に示した導体層521,531,541,551,561,571と、これらの導体層の間の誘電体層52~56とによって構成されている。
【0075】
キャパシタC12は、
図6(b)ないし
図8(b)に示した導体層522,532,542,552,562,572,581と、これらの導体層の間の誘電体層52~57とによって構成されている。
【0076】
キャパシタC13は、
図6(b)および
図7(a)に示した導体層523,545と、これらの導体層の間の誘電体層52,53とによって構成されている。
【0077】
次に、共振器20の構成要素について説明する。インダクタL21は、
図10(b)ないし
図14(a)に示した導体層642,652,662,672,682,692,702,712,722,732,742,752と、これらの導体層に接続された複数のスルーホールとによって構成されている。
【0078】
キャパシタC21は、
図7(a)および
図7(b)に示した導体層544,554と、これらの導体層の間の誘電体層54とによって構成されている。
【0079】
キャパシタC22は、
図7(b)ないし
図8(b)に示した導体層553,563,573,582と、これらの導体層の間の誘電体層55~57とによって構成されている。
【0080】
キャパシタC23は、
図6(c)および
図7(a)に示した導体層533,543と、これらの導体層の間の誘電体層53とによって構成されている。
【0081】
次に、共振器30の構成要素について説明する。インダクタL31は、
図11(a)ないし
図13(b)に示した導体層664,674,684,694,704,714,724,734と、これらの導体層に接続された複数のスルーホールとによって構成されている。
【0082】
インダクタL32は、
図8(c)ないし
図9(c)に示した導体層591,601,611,621と、これらの導体層に接続された複数のスルーホールとによって構成されている。
【0083】
インダクタL33は、
図10(b)ないし
図13(b)に示した導体層644,654,665,675,685,695,705,715,725,735と、これらの導体層に接続された複数のスルーホールとによって構成されている。
【0084】
インダクタL34は、
図7(c)ないし
図8(c)に示した導体層564,574,583,592と、これらの導体層に接続された複数のスルーホールとによって構成されている。
【0085】
キャパシタC31は、
図7(b)および
図7(c)に示した導体層555,565と、これらの導体層の間の誘電体層55とによって構成されている。
【0086】
キャパシタC32は、
図7(a)および
図7(c)に示した導体層546,566と、これらの導体層の間の誘電体層54,55とによって構成されている。
【0087】
キャパシタC33は、
図6(c)ないし
図7(b)に示した導体層535,547,555と、これらの導体層の間の誘電体層53,54とによって構成されている。
【0088】
キャパシタC34は、
図6(c)および
図7(a)に示した導体層536,546と、これらの導体層の間の誘電体層53とによって構成されている。
【0089】
キャパシタC35は、
図6(b)ないし
図7(a)に示した導体層525,537,548と、これらの導体層の間の誘電体層52,53とによって構成されている。
【0090】
キャパシタC36は、
図6(c)および
図7(a)に示した導体層538,549と、これらの導体層の間の誘電体層53とによって構成されている。
【0091】
キャパシタC37は、
図6(b)および
図6(c)に示した導体層526,538と、これらの導体層の間の誘電体層52とによって構成されている。
【0092】
次に、LC回路40の構成要素について説明する。インダクタL41は、
図10(b)ないし
図13(b)に示した導体層643,653,663,673,686,696,706,716,726,736と、これらの導体層に接続された複数のスルーホールとによって構成されている。
【0093】
インダクタL42は、
図12(b)ないし
図13(b)に示した導体層707,717,727,737と、これらの導体層に接続された複数のスルーホールとによって構成されている。
【0094】
キャパシタC41は、
図6(b)および
図6(c)に示した導体層524,534と、これらの導体層の間の誘電体層52とによって構成されている。
【0095】
キャパシタC42は、
図6(c)および
図7(a)に示した導体層534,544と、これらの導体層の間の誘電体層53とによって構成されている。
【0096】
次に、シールド80と積層体50の内部の構成要素との接続関係について説明する。シールド80の側面被覆部分80Cは、
図6(a)ないし
図8(c)に示した導体層521,523,594と複数のスルーホールを介して、端子116,117に接続されている。シールド80の側面被覆部分80Dは、
図6(a)ないし
図9(a)に示した導体層524,525,602と複数のスルーホールを介して、端子111,118,119に接続されている。シールド80の側面被覆部分80Eは、
図6(a)ないし
図8(c)に示した導体層521,523,561,593と複数のスルーホールを介して、端子116,117に接続されている。シールド80の側面被覆部分80Fは、
図6(a)ないし
図8(c)に示した導体層524,525,595と複数のスルーホールを介して、端子111,118,119に接続されている。
【0097】
次に、
図3ないし
図5を参照して、本実施の形態に係る電子部品1の構造上の特徴について説明する。シールド80は、共振器10と共振器30の両方に対向する特定の部分を含んでいる。共振器30と上記特定の部分との間隔は、共振器10と上記特定の部分の間隔よりも大きい。
【0098】
以下、上記特定の部分について具体的に説明する。シールド80の側面被覆部分80Cは、上記特定の部分に対応する。共振器10のインダクタL12とキャパシタC12は、側面被覆部分80Cに対向している。本実施の形態では特に、インダクタL12を構成する導体層683,693,703,713,723,733と側面被覆部分80Cとの間隔と、キャパシタC12を構成する導体層522,542,562,581と側面被覆部分80Cとの間隔は、互いに等しい。また、共振器30のインダクタL31とキャパシタC33は、側面被覆部分80Cに対向している。インダクタL31を構成する導体層664,674,704,714と側面被覆部分80Cとの間隔は、キャパシタC33を構成する導体層535と側面被覆部分80Cとの間隔よりも大きい。
【0099】
図5に示したように、共振器30のインダクタL31(導体層714)と側面被覆部分80Cとの間隔は、共振器10のインダクタL12(導体層733)と側面被覆部分80Cとの間隔よりも大きい。従って、共振器30と側面被覆部分80Cとの間隔は、共振器10と側面被覆部分80Cとの間隔よりも大きい。また、
図6(b)ないし
図8(b)に示したように、共振器30のキャパシタC33(導体層535)と側面被覆部分80Cとの間隔は、共振器10のキャパシタC12(導体層522,542,562,581)と側面被覆部分80Cとの間隔よりも大きい。
【0100】
また、シールド80の上面被覆部分80Bも、上記特定の部分に対応する。共振器10のインダクタL11を構成する導体層751は、上面被覆部分80Bに対向している。共振器30のインダクタL31を構成する導体層734と共振器30のインダクタL33を構成する導体層735は、上面被覆部分80Bに対向している。
図3に示したように、共振器30のインダクタL31,L33(導体層734,735)と上面被覆部分80Bとの間隔は、共振器10のインダクタL11(導体層751)と上面被覆部分80Bとの間隔よりも大きい。従って、共振器30と上面被覆部分80Bとの間隔は、共振器10と上面被覆部分80Bとの間隔よりも大きい。
【0101】
また、シールド80の上面被覆部分80Bは、共振器20にも対向している。共振器20のインダクタL21を構成する導体層752は、上面被覆部分80Bに対向している。
図3に示したように、共振器30のインダクタL31,L33(導体層734,735)と上面被覆部分80Bとの間隔は、共振器20のインダクタL21(導体層751)と上面被覆部分80Bとの間隔よりも大きい。従って、共振器30と上面被覆部分80Bとの間隔は、共振器20と上面被覆部分80Bとの間隔よりも大きい。
【0102】
また、シールド80の側面被覆部分80Eは、共振器10と共振器20の両方に対向している。共振器10のインダクタL12とキャパシタC11,C12は、側面被覆部分80Eに対向している。本実施の形態では特に、インダクタL12を構成する導体層683,693,703,713,723,733と側面被覆部分80Eとの間隔と、キャパシタC11を構成する導体層531,551,571と側面被覆部分80Eとの間隔と、キャパシタC12を構成する導体層522,542,562,581と側面被覆部分80Eとの間隔は、互いに等しい。また、共振器20のインダクタL21とキャパシタC22,C23は、側面被覆部分80Eに対向している。インダクタL21を構成する導体層642,652,662,672,682,692,722,732,742,752と側面被覆部分80Eとの間隔は、キャパシタC22,C23を構成する導体層533,553と側面被覆部分80Eとの間隔よりも大きい。
【0103】
図5に示したように、共振器20のインダクタL21(導体層752)と側面被覆部分80Eとの間隔は、共振器10のインダクタL12(導体層733)と側面被覆部分80Eとの間隔よりも大きい。また、
図6(b)ないし
図8(b)に示したように、共振器20のキャパシタC22,C23(導体層533,553)と側面被覆部分80Eとの間隔は、共振器10のキャパシタC11,C12(導体層522,531,542,551,562,571,581)と側面被覆部分80Cとの間隔よりも大きい。従って、共振器20と側面被覆部分80Eとの間隔は、共振器10と側面被覆部分80Eとの間隔よりも大きい。
【0104】
また、シールド80の側面被覆部分80Cと上面被覆部分80Bは、LC回路40にも対向している。LC回路40のインダクタL41を構成する導体層643,653,686,696,726,736は、側面被覆部分80Cに対向している。
図5に示したように、LC回路40のインダクタL41(導体層736)と側面被覆部分80Cとの間隔は、共振器10のインダクタL12(導体層733)と側面被覆部分80Cとの間隔よりも大きい。従って、LC回路40と側面被覆部分80Cとの間隔は、共振器10と側面被覆部分80Cとの間隔よりも大きい。
【0105】
LC回路40のインダクタL41を構成する導体層736とLC回路40のインダクタL42を構成する導体層737は、上面被覆部分80Bに対向している。
図3に示したように、LC回路40のインダクタL41,L42(導体層736,737)と上面被覆部分80Bとの間隔は、共振器10のインダクタL11(導体層751)と上面被覆部分80Bとの間隔よりも大きい。従って、LC回路40と上面被覆部分80Bとの間隔は、共振器10と上面被覆部分80Bとの間隔よりも大きい。
【0106】
なお、特定の部分は、上記の例に限られない。例えば、上面被覆部分80Bの一部または側面被覆部分の一部を特定の部分としてもよいし、複数の側面被覆部分を1つの特定の部分としてもよい。
【0107】
次に、本実施の形態に係る電子部品1の特性の一例を示す。
図15は、電子部品1の通過減衰特性の一例を示す特性図である。
図16は、電子部品1の反射減衰特性の一例を示す特性図である。
図15および
図16において、横軸は周波数を示し、縦軸は減衰量を示している。
図15において、符号81を付した曲線は、共通ポート2と信号ポート3との間に設けられた共振器10によって構成される第1のフィルタの通過減衰特性を示している。また、符号82を付した曲線は、共通ポート2と信号ポート4との間に設けられた共振器20によって構成される第3のフィルタの通過減衰特性を示している。また、符号83を付した曲線は、共通ポート2と信号ポート5との間に設けられた共振器30によって構成される第2のフィルタの通過減衰特性を示している。
【0108】
次に、本実施の形態に係る電子部品1の作用および効果について説明する。本実施の形態では、シールド80は、積層体50の表面の一部を覆っている。本実施の形態では特に、シールド80は、積層体50の上面50Bと4つの側面50C~50Fを覆っている。これにより、本実施の形態によれば、複数の電子部品間における電磁干渉や、シールドケースに起因する電子部品の特性の変動を抑制することができる。
【0109】
また、本実施の形態では、共振器10,20,30は、積層体50に一体化されている。共振器10,20,30は、積層体50に含まれる複数の導体層を用いて構成されている。共振器10は、第1の通過帯域内の周波数の第1の信号が通過する信号経路に設けられている。共振器20は、第3の通過帯域内の周波数の第3の信号が通過する信号経路に設けられている。共振器30は、第2の通過帯域内の周波数の第2の信号が通過する信号経路に設けられている。
【0110】
本実施の形態では、積層体50の表面にシールド80が設けられている。そのため、共振器10,20,30の各々の構成要素とシールド80とが容量結合し得る。共振器10と共振器30を比較すると、共振器30は、共振器10に比べて通過帯域が高い信号経路に設けられている。そのため、共振器30は、共振器10に比べて、容量結合の影響を受けやすく、インピーダンス整合を取りにくい。
【0111】
これに対し、本実施の形態では、前述のように、共振器30とシールド80の特定の部分との間隔を、共振器10とシールド80の特定の部分の間隔よりも大きくしている。これにより、本実施の形態によれば、共振器30が受けるシールド80との容量結合の影響を抑制して、インピーダンス整合を取りやすくすることができる。
【0112】
同様に、共振器20は、共振器10に比べて通過帯域が高い信号経路に設けられている。本実施の形態では、前述のように、共振器20とシールド80の特定の部分との間隔を、共振器10とシールド80の特定の部分の間隔よりも大きくしている。これにより、本実施の形態によれば、共振器20が受けるシールド80との容量結合の影響を抑制して、インピーダンス整合を取りやすくすることができる。
【0113】
なお、共振器20と共振器30を比較すると、共振器30は、共振器20に比べて通過帯域が高い信号経路に設けられている。本実施の形態では、前述のように、共振器30とシールド80の特定の部分との間隔を、共振器20とシールド80の特定の部分の間隔よりも大きくしている。
【0114】
また、本実施の形態では、共通ポート2と共振器10,20との間にLC回路40が設けられている。LC回路40は、積層体50に含まれる複数の導体層を用いて構成された少なくとも1つの素子を含んでいる。LC回路40の少なくとも1つの素子も、シールド80と容量結合し得る。また、LC回路40は、共振器10,20に比べて、インピーダンスの変動によって共振器30に与える影響が大きい。これに対し、本実施の形態では、前述のように、LC回路40とシールド80の特定の部分との間隔を、共振器10とシールド80の特定の部分との間隔よりも大きくしている。これにより、本実施の形態によれば、LC回路40のインピーダンスの変動によって共振器30が受ける影響を抑制することができる。
【0115】
以上のことから、本実施の形態によれば、実装の高密度化に伴う電磁気的な不具合の発生を抑制しながら、所望の特性を実現することができる。
【0116】
なお、本実施の形態では、共振器30のインダクタL31またはインダクタL33とシールド80の特定の部分(上面被覆部分80Bまたは側面被覆部分80C)との間隔が、共振器30とシールド80の特定の部分との間隔となる。しかし、インダクタおよびキャパシタのみならず、共振器30の経路33を構成する導体層およびスルーホールも、シールド80と容量結合し得る。従って、インダクタL31,L33等の共振器30に含まれる素子よりも、共振器30の経路33の一部を構成する導体層およびスルーホールがシールド80の特定の部分に近い場合には、この導体層およびスルーホールとシールド80の特定の部分との間隔を大きくすることにより、共振器30が受けるシールド80との容量結合の影響を抑制することができる。
【0117】
上記の共振器30の経路33についての説明は、共振器20の経路23およびLC回路40の経路43にも当てはまる。
【0118】
また、本実施の形態では、共振器10とシールド80との間隔を大きくすることなく、共振器30とシールド80との間隔を大きくしている。これにより、本実施の形態によれば、共振器10とシールド80との間隔が、共振器30とシールド80との間隔と同じである場合に比べて、電子部品1を小型化することができる。
【0119】
次に、シールド80が電子部品1の特性に与える影響について調べたシミュレーションの結果について説明する。シミュレーションでは、本実施の形態に係る電子部品1に対応する実施例のモデルと、比較例の電子部品に対応する比較例のモデルを用いた。シミュレーションでは、電子部品1において、共振器30のインダクタL32,L33,L34およびLC回路40のインダクタL41,L42の各々とシールド80の上面被覆部分80Bとの間隔が、150~220μmの範囲内になるように、実施例のモデルを作成した。
【0120】
比較例の電子部品の構成は、基本的には、本実施の形態に係る電子部品1の構成と同じである。シミュレーションでは、比較例の電子部品において、共振器30のインダクタL32,L33,L34およびLC回路40のインダクタL41,L42の各々とシールド80の上面被覆部分80Bとの間隔が、30μmになるように、比較例のモデルを作成した。
【0121】
また、シミュレーションでは、共振器30によって構成される第2のフィルタの通過帯域を、3300MH以上5000MHz以下とした。また、共振器20によって構成される第3のフィルタの通過帯域を、1428MHz以上2690MHz以下とした。以下、第2のフィルタをハイバンドフィルタとも言い、第3のフィルタをミドルバンドフィルタとも言う。
【0122】
図17は、ミドルバンドフィルタ(第3のフィルタ)の挿入損失を示す特性図である。
図18は、ミドルバンドフィルタ(第3のフィルタ)の反射損失を示す特性図である。
図19は、ハイバンドフィルタ(第2のフィルタ)の挿入損失を示す特性図である。
図20は、ハイバンドフィルタ(第2のフィルタ)の反射損失を示す特性図である。
図17ないし
図20の各々において、横軸は周波数を示している。
図17および
図19の各々において、縦軸は挿入損失を示している。
図18および
図20の各々において、縦軸は反射損失を示している。
【0123】
また、
図17において、符号84を付した曲線は、実施例のモデルにおけるミドルバンドフィルタの挿入損失を示し、符号85を付した曲線は、比較例のモデルにおけるミドルバンドフィルタの挿入損失を示している。
図18において、符号86を付した曲線は、実施例のモデルにおけるミドルバンドフィルタの反射損失を示し、符号87を付した曲線は、比較例のモデルにおけるミドルバンドフィルタの反射損失を示している。
図19において、符号88を付した曲線は、実施例のモデルにおけるハイバンドフィルタの挿入損失を示し、符号89を付した曲線は、比較例のモデルにおけるハイバンドフィルタの挿入損失を示している。
図20において、符号90を付した曲線は、実施例のモデルにおけるハイバンドフィルタの反射損失を示し、符号91を付した曲線は、比較例のモデルにおけるハイバンドフィルタの反射損失を示している。
【0124】
図17および
図19に示したように、比較例のモデルでは、ミドルバンドフィルタとハイバンドフィルタのいずれにおいても、実施例のモデルに比べて、通過帯域における挿入損失が大きかった。また、
図18および
図20に示したように、比較例のモデルでは、ミドルバンドフィルタとハイバンドフィルタのいずれにおいても、実施例のモデルに比べて、通過帯域における反射損失が小さかった。上述のように比較例のモデルにおいて反射損失が小さくなるのは、フィルタの通過帯域においてフィルタのインピーダンスが低下して、インピーダンス整合が取れなくなるからである。その結果、比較例のモデルでは、挿入損失が大きくなる。
【0125】
シミュレーションの結果から、共振器30のインダクタL32,L33,L34を、シールド80の上面被覆部分80Bから遠ざけることにより、ハイバンドフィルタ(第2のフィルタ)の特性が悪化することを防止できることが分かる。同様に、シミュレーションの結果から、LC回路40のインダクタL41,L42を、シールド80の上面被覆部分80Bから遠ざけることにより、ミドルバンドフィルタ(第3のフィルタ)の特性が悪化することを防止できることが分かる。
【0126】
なお、シミュレーションでは、共振器30およびLC回路40の各々とシールド80の上面被覆部分80Bとの間隔を変化させた。しかし、シミュレーションの結果は、シールド80の上面被覆部分80Bに限らず、シールド80の他の部分にも当てはまる。すなわち、共振器30を、シールド80の上面被覆部分80B以外の部分から遠ざけることによっても、ハイバンドフィルタ(第2のフィルタ)の特性が悪化することを防止できる。同様に、LC回路40を、シールド80の上面被覆部分80B以外の部分から遠ざけることによっても、ミドルバンドフィルタ(第3のフィルタ)の特性が悪化することを防止できる。
【0127】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、本発明の電子部品は、周波数帯域の異なる2つの信号を分離するダイプレクサであってもよいし、周波数が異なる複数の信号を扱う分波器以外の電子部品であってもよい。
【0128】
また、電子部品1は、LC回路40の代わりに、1つ以上のインダクタを含む回路を備えていてもよい。
【符号の説明】
【0129】
1…電子部品、2…共通ポート、3,4,5…信号ポート、10,20,30…共振器、40…LC回路、50…積層体、50A…底面、50B…上面、50C~50F…側面、51~79…誘電体層、80…シールド、80B…上面被覆部分、80C~80F…側面被覆部分。