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特許7545907繊維強化樹脂成形品の繊維配向状態予測方法、装置、プログラム及び記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂成形品の繊維配向状態予測方法、装置、プログラム及び記録媒体
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/10 20060101AFI20240829BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20240829BHJP
   B29C 45/76 20060101ALI20240829BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20240829BHJP
   G06F 30/23 20200101ALI20240829BHJP
   G01N 25/02 20060101ALN20240829BHJP
   B29K 105/10 20060101ALN20240829BHJP
【FI】
B29C70/10
B29C70/42
B29C45/76
G06F30/10
G06F30/23
G01N25/02 Z
B29K105:10
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021015125
(22)【出願日】2021-02-02
(65)【公開番号】P2022118541
(43)【公開日】2022-08-15
【審査請求日】2023-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】520167645
【氏名又は名称】東レエンジニアリングDソリューションズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390026538
【氏名又は名称】ダイキョーニシカワ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 有司
(72)【発明者】
【氏名】末吉 耕平
(72)【発明者】
【氏名】石田 元伸
(72)【発明者】
【氏名】黒川 大輔
(72)【発明者】
【氏名】古川 智司
(72)【発明者】
【氏名】田中 宣隆
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 広之
(72)【発明者】
【氏名】田中 慶和
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-226871(JP,A)
【文献】特開2020-064450(JP,A)
【文献】特開2020-126023(JP,A)
【文献】特開2005-283539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 41/00-41/36
B29C 41/46-41/52
B29C 45/00-45/24
B29C 45/46-45/63
B29C 45/70-45/72
B29C 45/74-45/84
B29C 70/00-70/88
G01N 25/00-25/72
G06F 30/00-30/398
G06F 111/00-119/22
B29K 105/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化樹脂の射出成形品に含まれる繊維の配向状態をコンピュータシミュレーションにより予測する方法であって、
鋳型のキャビティの形状データを複数の微小要素に分割して解析モデルを作成する解析モデル作成工程と、
前記キャビティに前記繊維強化樹脂を射出したときの、該繊維強化樹脂に含まれる樹脂の流速を算出する流動解析工程と、
前記樹脂の前記流速に基づき、前記繊維の配向状態を示す繊維配向テンソルを算出する繊維配向テンソル算出工程と、を備え、
前記繊維配向テンソル算出工程で、前記樹脂における前記キャビティに接触する表面から所定深さまでの領域を最表層部、該最表層部よりも深い領域を内側部としたときに、前記内側部の繊維配向テンソルに基づいて、前記最表層部の繊維配向テンソルを算出する
ことを特徴とする繊維強化樹脂成形品の繊維配向状態予測方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記繊維配向テンソル算出工程で、前記最表層部の繊維配向テンソルは、前記内側部のフローフロント部位における繊維配向テンソルの平均値として算出される
ことを特徴とする繊維強化樹脂成形品の繊維配向状態予測方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記内側部は、前記最表層部に接する表層部と、該表層部の内側の中心部と、を備え、
前記平均値は、少なくとも前記表層部の繊維配向テンソルと前記中心部の繊維配向テンソルとの平均値である
ことを特徴とする繊維強化樹脂成形品の繊維配向状態予測方法。
【請求項4】
請求項2又は請求項3において、
前記平均値は、前記内側部を深さ方向に7以上18以下の層に分割し、該層の各々について得られた繊維配向テンソルの平均値である
ことを特徴とする繊維強化樹脂成形品の繊維配向状態予測方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一において、
前記最表層部における前記所定深さは、0.2mm以下である
ことを特徴とする繊維強化樹脂成形品の繊維配向状態予測方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一において、
前記解析モデルの前記微小要素は、2.5次元薄肉シェル要素である
ことを特徴とする繊維強化樹脂成形品の繊維配向状態予測方法。
【請求項7】
繊維強化樹脂の射出成形品に含まれる繊維の配向状態をコンピュータシミュレーションにより予測する装置であって、
鋳型のキャビティの形状データを複数の微小要素に分割して解析モデルを作成する解析モデル作成手段と、
前記キャビティに前記繊維強化樹脂を射出したときの、該繊維強化樹脂に含まれる樹脂の流速を算出する流動解析手段と、
前記樹脂の前記流速に基づき、前記繊維の配向状態を示す繊維配向テンソルを算出する繊維配向テンソル算出手段と、を備え、
前記繊維配向テンソル算出手段は、前記樹脂における前記キャビティに接触する表面から所定深さまでの領域を最表層部、該最表層部よりも深い領域を内側部としたときに、前記内側部の繊維配向テンソルに基づいて、前記最表層部の繊維配向テンソルを算出する
ことを特徴とする繊維強化樹脂成形品の繊維配向状態予測装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記最表層部の繊維配向テンソルは、前記内側部のフローフロント部位における繊維配向テンソルの平均値として算出される
ことを特徴とする繊維強化樹脂成形品の繊維配向状態予測装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記内側部は、前記最表層部に接する表層部と、該表層部の内側の中心部と、を備え、
前記平均値は、少なくとも前記表層部の繊維配向テンソルと前記中心部の繊維配向テンソルとの平均値である
ことを特徴とする繊維強化樹脂成形品の繊維配向状態予測装置。
【請求項10】
請求項8又は請求項9において、
前記平均値は、前記内側部を深さ方向に分割してなる7以上18以下の層の各々について得られた繊維配向テンソルの平均値である
ことを特徴とする繊維強化樹脂成形品の繊維配向状態予測装置。
【請求項11】
請求項7~10のいずれか一において、
前記最表層部における前記所定深さは、0.2mm以下である
ことを特徴とする繊維強化樹脂の繊維配向状態予測装置。
【請求項12】
請求項7~11のいずれか一において、
前記解析モデルの前記微小要素は、2.5次元薄肉シェル要素である
ことを特徴とする繊維強化樹脂成形品の繊維配向状態予測装置。
【請求項13】
請求項1~6のいずれか一に記載された繊維強化樹脂成形品の繊維配向状態予測方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項14】
請求項13に記載されたプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、繊維強化樹脂成形品の繊維配向状態予測方法及びその装置、該方法をコンピュータに実行させるためのプログラム、並びに該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維強化樹脂の射出成形品における製品設計等の容易化を目的として、鋳型内の繊維強化樹脂の流動固化挙動をCAE(Computer-Aided-Engineering)を用いて解析することが行われている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
繊維強化樹脂では、繊維の配向状態に異方性が生じると、成形品の収縮量、弾性率等にも異方性が生じ、延いては成形品の寸法精度、強度等に影響する。従って、流動樹脂中の繊維配向を精度よく予測することは、射出成形品の寸法精度、強度等を予測する上で重要である(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-241443号公報
【文献】特開2015-189117号公報
【文献】特開2014-226871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来のCAE解析では、流動樹脂中の繊維配向挙動、すなわち繊維の向き及びその分布度合いは、流動解析により得られる樹脂の流速に基づいて算出している。
【0006】
一方、射出成形品の繊維配向の実測結果では、最表層部は流動部に比べ異方性が低下する傾向にある。しかし、従来式により計算した場合、最表層部ではせん断流の影響が大きくなり、樹脂の流動方向に繊維が強く配列するという結果が得られ、繊維配向の予測精度が低下する。
【0007】
そこで本開示では、簡単な方法で繊維配向の予測精度を向上できる繊維強化樹脂成形品の繊維配向状態予測方法及びその装置、該方法をコンピュータに実行させるためのプログラム、並びに該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、ここに開示する繊維強化樹脂成形品の繊維配向状態予測方法は、繊維強化樹脂の射出成形品に含まれる繊維の配向状態をコンピュータシミュレーションにより予測する方法であって、鋳型のキャビティの形状データを複数の微小要素に分割して解析モデルを作成する解析モデル作成工程と、前記キャビティに前記繊維強化樹脂を射出したときの、該繊維強化樹脂に含まれる樹脂の流速を算出する流動解析工程と、前記樹脂の前記流速に基づき、前記繊維の配向状態を示す繊維配向テンソルを算出する繊維配向テンソル算出工程と、を備え、前記繊維配向テンソル算出工程で、前記樹脂における前記キャビティに接触する表面から所定深さまでの領域を最表層部、該最表層部よりも深い領域を内側部としたときに、前記内側部の繊維配向テンソルに基づいて、前記最表層部の繊維配向テンソルを算出することを特徴とする。
【0009】
繊維強化樹脂の射出成形品に含まれる繊維の配向は、射出成形時の樹脂の流速の影響を受ける。射出成形時、内側部の樹脂の流速は、キャビティに接触する表面からの深さが深いほど速くなる。従って、内側部のうち、最表層部に近い部分では、流速が低下することから、内側部に生じる速度勾配により、最表層部に近くなるほど、繊維は樹脂の流れ方向に平行な方向に配向する。このような速度勾配を反映した従来式では、最表層部の繊維は、樹脂の流れ方向に平行に強く配向する算出結果となる。
【0010】
しかしながら、最表層部の繊維配向を実測すると、繊維配向の異方性は従来式による算出結果よりも低下する。すなわち、従来式では最表層部の繊維配向の予測精度が低くなる。
【0011】
射出成形時、樹脂のフローフロント部位では、内側部の中心部からキャビティ表面側に向かってファウンテンフロー(以下、「FF」ともいう。)と呼ばれる噴水状の樹脂の流れが生じる。そして、内側部の中心部の樹脂がFFによりキャビティ表面に押し付けられて鋳型と樹脂との温度差により固化し、最表層部を形成する。そうすると、フローフロント部位の内側部の繊維が、その繊維配向を保持したまま、FFの流れに案内されて、キャビティ表面に流れ着き、樹脂とともに固化して最表層部を形成していると考えられる。実際、本願発明者らは、最表層部の繊維配向状態は内側部の繊維配向状態と相関関係があることを見出した。一方、フローフロント部位におけるFFを計算で表現するためには、流れ方向、および、深さ(厚さ)方向に詳細なメッシュ分割が必要となり、非常に複雑な計算が必要となる。従って、本構成によれば、内側部の繊維配向テンソルに基づいて、最表層部の繊維配向テンソルを算出することにより、最表層部の繊維配向状態を高い精度で予測できる。また、成形品の繊維配向状態を簡単な方法で精度よく予測できる。
【0012】
好ましくは、前記繊維配向テンソル算出工程で、前記最表層部の繊維配向テンソルは、前記内側部のフローフロント部位における繊維配向テンソルの平均値として算出される。
【0013】
内側部の樹脂の流速は、キャビティの表面からの深さに依存して変化することから、繊維の配向も当該深さに依存して変化する。フローフロント部位の内側部における複数方向に配向した繊維がその配向状態を保持したままキャビティ表面に流れ着くと仮定すると、最表層部には、上記複数種類の配向の繊維がその配向状態を保持したまま含まれると考えられる。実際、本願発明者らは、最表層部の繊維配向テンソルが内側部の繊維配向テンソルの平均値と等価であることを見出した。従って、本構成によれば、最表層部の繊維配向テンソルが内側部の繊維配向テンソルの平均値として算出されることから、簡単な方法で、最表層部、延いては成形品の繊維配向状態を精度よく予測できる。
【0014】
好ましくは、前記内側部は、前記最表層部に接する表層部と、該表層部の内側の中心部と、を備え、前記平均値は、少なくとも前記表層部の繊維配向テンソルと前記中心部の繊維配向テンソルとの平均値である。
【0015】
表層部と中心部とでは繊維配向状態が異なり得る。少なくとも表層部及び中心部の繊維配向テンソルの平均値を用いることにより、最表層部、延いては成形品の繊維配向状態の予測精度を向上できる。
【0016】
好ましくは、前記平均値は、前記内側部を深さ方向に7以上18以下の層に分割し、該層の各々について得られた繊維配向テンソルの平均値である。
【0017】
本構成によれば、計算量を抑えつつ、最表層部、延いては成形品の繊維配向状態の予測精度を向上できる。
【0018】
好ましくは、前記最表層部における前記所定深さは、0.2mm以下である。
【0019】
本構成によれば、最表層部、延いては成形品の繊維配向状態の予測精度を向上できる。
【0020】
好ましくは、前記解析モデルの前記微小要素は、2.5次元薄肉シェル要素である。
【0021】
本構成によれば、キャビティ形状を薄い板状のシェル要素に分割することで、計算量を抑え、簡単且つ短時間で成形品の繊維配向状態の予測を精度よく行うことができる。
【0022】
ここに開示する繊維強化樹脂成形品の繊維配向状態予測装置は、繊維強化樹脂の射出成形品に含まれる繊維の配向状態をコンピュータシミュレーションにより予測する装置であって、鋳型のキャビティの形状データを複数の微小要素に分割して解析モデルを作成する解析モデル作成手段と、前記キャビティに前記繊維強化樹脂を射出したときの、該繊維強化樹脂に含まれる樹脂の流速を算出する流動解析手段と、前記樹脂の前記流速に基づき、前記繊維の配向状態を示す繊維配向テンソルを算出する繊維配向テンソル算出手段と、を備え、前記繊維配向テンソル算出手段は、前記樹脂における前記キャビティに接触する表面から所定深さまでの領域を最表層部、該最表層部よりも深い領域を内側部としたときに、前記内側部の繊維配向テンソルに基づいて、前記最表層部の繊維配向テンソルを算出することを特徴とする。
【0023】
本構成によれば、内側部の繊維配向テンソルに基づいて、最表層部の繊維配向テンソルを算出することから、最表層部の繊維配向状態を高い精度で予測できる。そうして、成形品の繊維配向状態を簡単な方法で精度よく予測できる。
【0024】
好ましくは、前記最表層部の繊維配向テンソルは、前記内側部のフローフロント部位における繊維配向テンソルの平均値として算出される。
【0025】
本構成によれば、最表層部の繊維配向テンソルが内側部の繊維配向テンソルの平均値として算出されることから、簡単な方法で、最表層部、延いては成形品の繊維配向状態を精度よく予測できる。
【0026】
好ましくは、前記内側部は、前記最表層部に接する表層部と、該表層部の内側の中心部と、を備え、前記平均値は、少なくとも前記表層部の繊維配向テンソルと前記中心部の繊維配向テンソルとの平均値である。
【0027】
表層部と中心部とでは繊維配向状態が異なり得る。少なくとも表層部及び中心部の繊維配向テンソルの平均値を用いることにより、最表層部、延いては成形品の繊維配向状態の予測精度を向上できる。
【0028】
好ましくは、前記平均値は、前記内側部を深さ方向に分割してなる7以上18以下の層の各々について得られた繊維配向テンソルの平均値である。
【0029】
本構成によれば、計算量を抑えつつ、最表層部、延いては成形品の繊維配向状態の予測精度を向上できる。
【0030】
好ましくは、前記最表層部における前記所定深さは、0.2mm以下である。
【0031】
本構成によれば、最表層部、延いては成形品の繊維配向状態の予測精度を向上できる。
【0032】
好ましくは、前記解析モデルの前記微小要素は、2.5次元薄肉シェル要素である。
【0033】
本構成によれば、キャビティ形状を薄い板状のシェル要素に分割することで、計算量を抑え、簡単且つ短時間で成形品の繊維配向状態の予測を精度よく行うことができる。
【0034】
ここに開示するプログラムは、上述の繊維強化樹脂成形品の繊維配向状態予測方法をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0035】
また、ここに開示する記録媒体は、上述のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【発明の効果】
【0036】
以上述べたように、本開示によると、内側部の繊維配向テンソルに基づいて、最表層部の繊維配向テンソルを算出することから、最表層部の繊維配向状態を高い精度で予測できる。そうして、成形品の繊維配向状態を簡単な方法で精度よく予測できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本開示に係る繊維配向状態予測装置の構成例を示す図。
図2】本開示に係る繊維配向状態予測方法を説明するためのフローチャート。
図3】樹脂の2種類の流れと繊維の配向との関係を説明するための図。
図4】フローフロント部位を含む先端領域における樹脂の流れと繊維の配向との関係を説明するための図。
図5】試験片を厚さ方向に9層に分割した様子を示す図。
図6図5の層L2(表層部)及び層L5(中心部)のX線-CT画像。
図7】繊維配向テンソルの定義を説明するための図。
図8図5の層L2(表層部)における角度毎の相対繊維量のヒストグラム。
図9図5の層L5(中心部)における角度毎の相対繊維量のヒストグラム。
図10図5の各層における繊維配向テンソルの実測値を示すグラフ。
図11】実現象のメカニズムと、従来のCAEによる繊維配向予測方法のメカニズムとの比較を示す図。
図12】最表層部の繊維配向テンソルの実測値と流動部の繊維配向テンソルの平均値との関係を示すグラフ。
図13】試験片の解析モデルを示す図。
図14】厚さ1.5mmの試験片における繊維配向テンソルの実測値並びに実施例及び比較例の予測値を示すグラフ。
図15】厚さ2.0mmの試験片における繊維配向テンソルの実測値並びに実施例及び比較例の予測値を示すグラフ。
図16】厚さ2.5mmの試験片における繊維配向テンソルの実測値並びに実施例及び比較例の予測値を示すグラフ。
図17】厚さ3.0mmの試験片における繊維配向テンソルの実測値並びに実施例及び比較例の予測値を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0039】
<繊維配向状態予測装置>
図1に、本開示の繊維強化樹脂成形品の繊維配向状態予測装置100(以下、「予測装置100」ともいう。)の構成例を示す。予測装置100は、繊維強化樹脂の射出成形品に含まれる繊維の配向状態をコンピュータシミュレーションにより予測する装置であり、コンピュータ110を基本構成とするCAE(Computer Aided Engineering)システムである。
【0040】
予測装置100は、記憶部120と、プロセッサ130と、を備える。また、予測装置100は、例えばディスプレイ等からなる表示部140、キーボード等からなる入力部150、及び各種記録媒体170に保存された情報を取得するための読取部160等を備える。記憶部120及び/又は記録媒体170には、演算処理用のプログラム及び各種解析用データ等の情報が格納される。プロセッサ130は、記憶部120に格納された上記情報、入力部150を介して入力された情報、及び読取部160を介して記録媒体170から取得した情報等に基づいて、各種演算処理を行う。
【0041】
予測装置100は、解析モデル作成手段131により、繊維強化樹脂の流路となる鋳型のキャビティを定義した3D CADデータ等の形状データを複数の微小要素に分割して解析モデルを作成する。微小要素を作成する解析モデル作成手段131としては、例えば東レエンジニアリングDソリューションズ株式会社製の3D TIMON(登録商標)-Pre/Post、株式会社エヌ・エス・ティ製のFEMAP(登録商標)、エムエスシーソフトウェア株式会社製のPatran(登録商標)、Altair社製のHyeper mesh(登録商標)等のCAEプリプロセッサを使用できる。
【0042】
樹脂及び繊維等の種類、配合等に関する材料特性データ、射出速度及び樹脂温度等の成形条件が記載された境界条件データ等に基づき、解析条件設定手段132で解析条件を設定する。そして、流動解析手段133で、キャビティに材料を射出したときの樹脂の挙動を解析する流動解析を実行する。流動解析により、微小要素ごとの樹脂の流速の情報を含む各種データが得られる。なお、本明細書において、「流速」の語は、「流れの速度」と同義であり、流れの速さ及び方向の両者を含む概念として使用している。解析条件設定手段132及び流動解析手段133としては、例えば東レエンジニアリングDソリューションズ株式会社製の3D TIMON(登録商標)等の射出成形CAEソフトウェアを使用できる。
【0043】
繊維配向テンソル算出手段134は、流動解析手段133により算出された樹脂の流速に基づき、繊維の配向状態を示す繊維配向テンソルを算出する。繊維配向テンソル算出手段134としては、例えば東レエンジニアリングDソリューションズ株式会社製の3D TIMON(登録商標)-FIBER等の繊維配向解析ソルバーを活用できる。
【0044】
<射出成形品>
解析対象の射出成形品としては、特に限定する意図ではないが、例えば自動車用部品、ロケット、航空機等の部品、スポーツ用品等が挙げられる。好ましくは、車両の内外装部材等の板状の射出成形品が挙げられる。
【0045】
樹脂としては、特に限定されるものではなく、周知の樹脂を対象とすることができるが、具体的には例えばポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド(PA)樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は1種又は2種以上が混合されて用いられ得る。繊維としては、特に限定されるものではなく、周知の繊維を用いることができるが、具体的には例えばガラス繊維、炭素繊維、セルロースナノ繊維等が挙げられる。これらの繊維は1種又は2種以上が混合されて用いられ得る。繊維径、繊維長等は、特に限定されるものではなく、一般的に用いられる条件とすることができる。成形品中における繊維の含有量は、特に限定されるものではなく、一般的な含有量とすることができるが、例えば1質量%以上50質量%以下、好ましくは5質量%以上30質量%以下である。また、成形品は、成形性、強度、意匠性、機能性等の向上の観点から、5質量%程度のフィラー、顔料、染料、耐衝撃性改良剤、UV吸収剤等の添加材等を含有してもよい。これらの添加材は単独で又は複数種添加され得る。
【0046】
なお、上述の解析モデルの微小要素としては、特に限定されるものではなく、ソリッド要素、シェル要素等の周知の要素を採用できるが、板状の射出成形品を解析対象とする場合には、2.5次元薄肉シェル要素を採用することが望ましい。形状データを薄い板状のシェル要素に分割することで、計算量を抑え、簡単且つ短時間で繊維配向の予測を精度よく行うことができる。
【0047】
<繊維配向状態予測方法>
図2は、本開示に係る繊維強化樹脂成形品の繊維配向状態予測方法(以下、「予測方法」ともいう。)の実施の手順を示すフローチャートである。予測方法は、解析モデル作成工程S1と、解析条件設定工程S2と、流動解析工程S3と、繊維配向テンソル算出工程S4と、を備える。
【0048】
まず、解析モデル作成工程S1において、上述のごとく、解析モデル作成手段131により、3次元CAD等を用いて作成した鋳型のキャビティの形状データ等を数値解析用の微小要素に分割し、解析モデルを作成する。
【0049】
続いて、解析条件設定工程S2において、材料特性データ、境界条件データ等の解析条件を設定する。そして、流動解析工程S3において、流動解析を行い、樹脂の流速を算出する。
【0050】
次に、繊維配向テンソル算出工程S4において、流動解析の結果得られた樹脂の流速に基づき、繊維配向テンソルを算出する。そして、繊維強化樹脂の充填が完了するまで流動解析S3及び繊維配向テンソル算出工程S4の工程が繰り返される(工程S5)。
【0051】
繊維配向テンソル算出工程S4では、例えば下記式(1)で示されるAdvani-Tuckerの式を用いて繊維の配向状態が予測される(特許文献3参照)。
【0052】
【数1】
【0053】
式(1)中、繊維配向テンソルは添え字付きのaで示される。
【0054】
[繊維配向テンソル算出工程]
以下、図2図11を参照して、繊維配向テンソル算出工程S4の詳細について説明する。なお、以下の説明では、射出成形品として板状の成形品、微小要素として2.5次元薄肉シェル要素を採用する場合を例に挙げて説明するが、本開示に係る予測方法は、板状以外の成形品、他の微小要素を用いて解析モデルを作成する場合にも適用できる。
【0055】
図3は、キャビティ内の樹脂の2種類の主要な流れである平行流及びせん断流と、それらにより生じる繊維G1の配向を示す。
【0056】
平行流は、繊維G1の両端に作用する樹脂流速V,Vに速度差・速度勾配がなく、流速が繊維全体に亘って均一であるため、繊維G1が回転することなく流れる。すなわち、繊維G1の配向は上流と同じ方向となる。
【0057】
一方、せん断流は、繊維G1の両端に作用する樹脂流速V,Vに速度差・速度勾配がある場合の流れである。この場合、繊維G1の両端のうち作用する流速の絶対値が大きい方(Vが作用する一端)が小さい方(Vが作用する他端)に比べて流動樹脂中における進み方が速くなるから、繊維G1が回転し、やがて樹脂の流れ方向に平行な状態となって流れる。すなわち、繊維G1の配向は樹脂の流れに平行な方向となる。
【0058】
次に、図4は、鋳型MのキャビティC内を流動する樹脂200のフローフロント部位211を含む先端領域210を模式的に示した図であり、上側から斜視図、斜視図のA-A線断面図、及び斜視図のB-B線断面図(B-B線は、斜視図中一点鎖線でも示している。)である。樹脂200は全体として符号200Aで示す方向(以下、「流動方向200A」ともいう。)に流動しているとする。
【0059】
一般に、溶融した樹脂(例えば約200℃)が板状のキャビティC内を流れる場合、厚さ方向の中央の樹脂の流れは、フローフロント部位211でキャビティCの表面方向へ向きを変えるファウンテンフロー(FF)と呼ばれる噴出し流れの形態を示す。FFによりキャビティCの表面に接触した樹脂200は鋳型M(例えば約40℃)に急冷されて、固化が進展する。そうして、樹脂200におけるキャビティCに接触した表面から所定厚さ(所定深さ)までの領域において、固化した最表層部217が形成される。そして、最表層部217よりも深い領域における流動部212(内側部)では樹脂200の流動が続く。なお、最表層部217の厚さは、特に限定されるものではないが、予測精度を向上させる観点から、例えば、0.2mm以下であることが好ましい。
【0060】
次に、流動部212における繊維の配向を考える。A-A線断面図に示すように、流動部212は、最表層部217に接する表層部215と、該表層部215の内側の中心部213と、を備える。中心部213の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば、中心部213は、樹脂200の厚さ方向中心(図4では、B-B線に相当)から好ましくは±0.3mm以内(厚さは0.6mm以下)、より好ましくは±0.2mm以内(厚さは0.4mm以下)の領域であることが好ましい。また、表層部215は、中心部213と最表層部217との間の領域とすることができる。
【0061】
流動中の樹脂200は鋳型Mや大気へ熱が奪われるため、中心部213側に比べて表層部215側で温度が低下し、粘度が上昇する結果、中心部213側において流速が速く、表層部215側において遅くなる傾向となる。そうして、中心部213側から表層部215側に向かって流速が低下する厚さ方向のせん断流が発生する。このせん断流の影響がより強くなる表層部215では、繊維G11は樹脂200の流れ方向と平行になるように回転する。一方、中心部213の繊維G12は、厚さ方向のせん断流の影響をほとんど受けない。
【0062】
次に、B-B線断面図は、中心部213の厚さ方向に直交する方向の断面を示す。ゲート(不図示)から放射状に樹脂200が流れた場合、ゲート側からフローフロント部位211側に向かって樹脂200の面積が大きくなる。また、上述のごとく、鋳型Mや大気へ熱が奪われることにより、樹脂温度が低下して粘度が上昇する。そうして、ゲート側からフローフロント部位211側に向かって、樹脂200の流速は低下し、その流速差が速度勾配となって、流動方向200Aのせん断流が生じる。中心部213の繊維G12は、流動方向200Aのせん断流の影響を受け、ゲート側からフローフロント部位211側に向かって回転する。そうして、フローフロント部位211に近づくにつれて、繊維G12の両端に作用する樹脂の流速が同じになり、繊維G12は、中心部213の樹脂200の流れに直交するように配向する。
【0063】
このように、樹脂200中の繊維は、厚さ方向及び流動方向200Aのせん断流の影響を受けて、3次元での複雑な動きをしながら回転する。そうして、表層部215では樹脂200の流れ方向に平行に配向する繊維が多くなり、中心部213では樹脂200の流れ方向に直交するように配向する繊維が多くなる。
【0064】
図5に示すように、後述する参考例の試験片TPと同一条件及び材料で製造した試験片TPを厚さ方向に9分割し、図5中符号L1~L9で示す各層毎の繊維配向の状態をX線-CT装置((株)島津製作所製SMX-1000 Plus、分解能5μm)により観察した。図6に、層L2(表層部215)及び層L5(中心部213)のX線-CT画像を示す。図6に示すように、層L2では、樹脂の流れ方向と平行に配向する繊維が多く、層L5では樹脂の流れ方向と直交するように配向する繊維が多いことが判る。
【0065】
繊維の配向状態をCAE解析により予測するためには、繊維の配向状態を数値化する必要がある。図7に、繊維の配向状態を示す繊維配向テンソルの定義を示す。繊維配向テンソルでは、全ての繊維が樹脂の流れ方向に平行に配向した状態を1、全ての繊維が樹脂の流れ方向に直交するように配向した状態を0としている。
【0066】
層L1~層L9の各層について、以下の手順により繊維配向テンソルを算出した。
【0067】
まず、各層について撮影したX線-CT画像の画像解析により、樹脂の流れ方向を基準とする繊維の角度が0°から180°まで10°毎に繊維の本数を数え、角度に対する相対繊維量(%)のヒストグラムを作成した。なお、図6に示すように、繊維の角度は、樹脂の流れ方向に平行な方向を90°、直交する方向を0°(180°)としている。図8及び図9に、それぞれ層L2及び層L5のヒストグラムを示す。なお、図8及び図9では、0°(=180°)の割合の図示を省略している。図8に示すように、層L2では、樹脂の流れ方向に平行な繊維が多くなっている。また、図9に示すように、層L5では、樹脂の流れ方向に直交する繊維が多くなっている。
【0068】
次に、各層について作成したヒストグラムに基づいて、各層の繊維配向テンソルを算出した。結果を図10に示す。図10に示すように、表層部215の層L2~層L4及び層L6~層L8では、樹脂の流れ方向に平行に配向した繊維が支配的となり、繊維配向テンソルは1に近くなる。また、層L2~層L4及び層L6~層L8の各層の繊維配向テンソルを互いに比較すると、特に、最表層部217に近づくにつれて、繊維配向テンソルは1に近づく。一方、中心部213の層L5では、樹脂の流れ方向に直交するように配向した繊維が支配的となり、繊維配向テンソルは0に近くなる。そして、最表層部217の繊維配向テンソルは、表層部215(層L2~層L4及び層L6~層L8)の繊維配向テンソルと、中心部213(層L5)の繊維配向テンソルとの中間となる傾向にある。すなわち、表層部215では、最表層部217に近づくにつれて、樹脂の流れ方向に平行に配向した繊維が増加し、異方性が高くなるにも拘わらず、最表層部217では、繊維配向の異方性が低下し、ランダム配向に近くなることが判る。
【0069】
次に、図11を参照して、図10の実現象のメカニズム及び従来のCAE解析による繊維配向予測方法のメカニズムについて説明する。図11は、図4のA-A線断面図の相当図であり、上側半分は実現象のメカニズム、下側半分は従来のCAE解析による繊維配向予測方法のメカニズムを示している。
【0070】
図11の下側半分に示すように、従来のCAE解析によれば、繊維の配向は、流動樹脂中に生じるせん断流の速度勾配に基づいて算出される。この速度勾配を前提とした予測方法では、繊維の配向は、中心部213から表層部215側に向かって、樹脂の流れ方向に直交する方向から、樹脂の流れ方向に平行な方向へ変化する。そして、最表層部217においても、表層部215よりもさらに強く樹脂の流れ方向に平行な方向へ配向するように、すなわち異方性が高くなるように算出される(後述する図14図17の比較例(CAE改善前)参照)。
【0071】
しかしながら、図10に示すように、実現象では、最表層部217の繊維配向テンソルは、中心部213及び表層部215の繊維配向テンソルの中間の値となり、最表層部217における繊維の配向は弱い、すなわち異方性が低下する。
【0072】
このことは、図11の上側半分に示すように、実現象では、流動部212、すなわち中心部213及び表層部215を流れてきた繊維が、フローフロント部位211に到達した後、FFに案内されてキャビティCの表面まで流れ込むことが原因と考えられる。FFに案内された繊維は、流動部212における配向状態を保持したまま、キャビティCの表面に堆積して最表層部217に取り込まれた状態で固着される。
【0073】
図11の下側半分に示す従来のCAE解析では、FFによる繊維の流れ込みについては考慮されていないため、最表層部217の繊維配向の予測精度が低下する原因となる。また、実現象を忠実に再現するとなると、FFを再現することになるが、計算が複雑化するという問題点がある。
【0074】
ここに、CAE解析による繊維配向の予測精度を簡単な構成で向上させることを目的として検討を行った結果、本願発明者らは、最表層部217の繊維配向状態は流動部212の繊維配向状態と相関関係があることを見出した。すなわち、本願発明者らは、図10の層L1及び層L9(最表層部217)の繊維配向テンソルは、層L2~層L8(流動部212)の繊維配向テンソルの平均値と相関関係があることを見出した。
【0075】
具体的に、後述する参考例と同一形状の試験片TPであって、厚さ及び樹脂中に含まれる繊維の含有量等が異なる16種類の試験片TPについて、図5図10を参照して説明した上述の方法と同一の方法で、X線-CT画像を撮影し、各層の繊維配向テンソルを算出した。図12は、各試験片TPのX線-CT画像から得られた、最表層部217の繊維配向テンソルの実測値と、中心部213及び表層部215の繊維配向テンソルの平均値との関係を示すグラフである。図12に示すように、両者の間には、十分な相関関係があり、最表層部217の繊維配向テンソルは流動部212の繊維配向テンソルの平均値と等価であることが判った。
【0076】
図12の結果から、本開示に係る予測方法では、繊維配向テンソル算出工程S4で、流動部212の繊維配向テンソルに基づいて、最表層部217の繊維配向テンソルを算出するようにした。具体的には例えば、下記式(2)に示すように、最表層部217の繊維配向テンソルを、流動部212の繊維配向テンソルの平均値又は当該平均値を反映させた値として算出するようにした。
【0077】
最表層部の繊維配向テンソル
=1/n(Σ[k=1→n]流動部の繊維配向テンソル(k))×b
+最表層部従来計算配向テンソル×(1-b) ・・・(2)
但し、式(2)中、nは流動部の厚さ方向の分割数(=“キャビティの厚さ方向の分割数”-2)、bは重み付け係数(ユーザー設定0超1以下、デフォルトは1)である。
【0078】
上記構成により、簡単な構成でFFを再現できることから、最表層部217の繊維配向の予測精度が向上し、延いては成形品の繊維配向状態を簡単且つ高い精度で予測できる。
【0079】
なお、流動部212の繊維配向テンソルの平均値は、少なくとも表層部215の繊維配向テンソルと中心部213の繊維配向テンソルとの平均値であることが好ましい。平均値として、上述のごとく繊維配向状態が異なる表層部215及び中心部213の繊維配向テンソルの平均値を採用することにより、最表層部217、延いては成形品の繊維配向の予測精度をさらに向上できる。
【0080】
また、図5図12に示す試験では、キャビティC内を厚さ方向に9分割し、層L2~層L8の7つの層における繊維配向テンソルの平均値と最表層部217の繊維配向テンソルの実測値とを比較した。本開示に係る予測方法では、キャビティC内を厚さ方向に好ましくは5以上30以下、より好ましくは9以上20以下の層に分割し、計算を行うことが望ましい。詳細には、キャビティC内を、厚さ方向に、最表層部217に相当する最も外側の2層と、流動部212を好ましくは3以上28以下、より好ましくは7以上18以下の層に分割する。言い換えると、上記式(2)において、nは好ましくは3≦n≦28、より好ましくは7≦n≦18である。そうして、流動部212の各層について得られた繊維配向テンソルの平均値を、最表層部217の繊維配向テンソルとすればよい。これにより、計算量を抑えつつ繊維配向の予測精度を向上できる。
【0081】
なお、繊維配向テンソル算出工程S4の具体的な手順の一例を図2に示している。図2に示すように、まず、流動解析の結果から、先端領域210の樹脂の流速を取得する(工程S41)。また、中心部213及び表層部215において、例えばフローフロント部位211の直前、すなわちフローフロント部位211の直上流の要素における繊維の繊維配向テンソルを取得する(工程S42)。そして、直上流の要素における繊維配向テンソル、及び、周囲の要素における樹脂の流速等の情報に基づいて、フローフロント部位211における繊維の繊維配向テンソルを算出する(工程S43)。そうして、フローフロント部位211における繊維の繊維配向テンソルに基づき、最表層部217の繊維配向テンソルを算出する。こうして、最表層部217及び流動部212の繊維配向テンソルが算出される。
【0082】
<プログラム及びその記録媒体>
以上の繊維配向状態予測方法の各工程は、プログラム化されている。すなわち、本実施形態に係るプログラムは、コンピュータに、上記各工程の手順を実行させるためのプログラムである。このプログラムは、記憶部120に格納された状態で、プロセッサ130により実行され得る。また、当該プログラムは、記憶部120に格納された状態に限らず、例えば光ディスク媒体や磁気テープ媒体等、コンピュータ読み取り可能な種々の周知の記録媒体170に記録させておくことができる。そして、このような記録媒体を読取部160に装着して上記プログラムを読み出すことにより、当該プログラムを実行可能である。
【実施例
【0083】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。
【0084】
図13は、実施例及び比較例のCAE解析に用いた試験片TPの解析モデルを模式的に示している。なお、成形品は、375mm×120mmの板状であり、厚さtは1.5mm、2.0mm、2.5mm、及び3.0mmの4種類とした。上記形状の3D CADデータを厚さ方向に20層に分割するとともに、各層を四角形(5mm×5mm)の2.5次元薄肉シェル要素に分割して解析モデルを作成した。なお、図13に示す各要素は模式的に示したものであり、実際の要素サイズを正確に反映したものではない。
【0085】
解析条件は以下のとおりとした。すなわち、樹脂はプライムポリマー社製短繊維ガラス強化ポリプロピレン樹脂R-350G(成形品中における繊維含有量30質量%)を使用した。樹脂注入点(ゲート)P1から、射出時間2.5秒、樹脂温度240℃、鋳型温度50℃として、樹脂を射出したときの流動解析を行った。流動解析は、3D TIMON(東レエンジニアリングDソリューションズ株式会社製、登録商標)を用いた。
【0086】
次に、流動解析の結果得られた樹脂の流速の情報を用いて、符号P2に示す位置における各層の繊維配向テンソルを算出した。なお、比較例は、3D TIMON(登録商標)-FIBER(東レエンジニアリングDソリューションズ株式会社製)を用いて繊維配向テンソルを算出した。また、実施例は、上記3D TIMON(登録商標)-FIBERに、上述の式(2)のロジックを組み込んで最表層部217の繊維配向テンソルを算出するようにした、改良版の解析ソルバーを用いて、繊維配向テンソルを算出した。
【0087】
さらに、参考例として、CAE解析に用いた試験片TPと同一形状及び同一材料の試験片TPを、CAE解析と同一条件で実際に射出成形法により製造した。そして、参考例の試験片TPについて、厚さ方向に9層に分割し、X線-CT装置((株)島津製作所製SMX-1000 Plus)を用いて、符号P2で示す位置の画像を撮影した。得られたX線-CT画像から、図8及び図9のヒストグラムと同様のヒストグラムを作成した。そうして、各層の繊維配向テンソルを算出した。
【0088】
図14図17は、厚さtが、それぞれ1.5mm、2.0mm、2.5mm、及び3.0mmの試験片TPの繊維配向テンソルを示している。図14図17のいずれの厚さの試験片TPにおいても、比較例では、最表層部217の繊維は、表層部215の繊維に比べて、樹脂の流れに平行な方向により強く配向する計算結果となっている。一方、実施例の計算結果は、最表層部217の繊維は、表層部215の繊維に比べて、全方向、すなわちランダム配向の傾向が見られ、異方性が低下する計算結果となっており、参考例の実測値の傾向に近いものとなっている。また、試験片TPの厚さが変化しても、比較例に比べて実施例では計算結果の改善が見られ、本開示に係る予測方法の厚さに対する再現性を確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本開示は、簡単な方法で繊維配向の予測精度を向上できる繊維強化樹脂成形品の繊維配向状態予測方法及びその装置、該方法をコンピュータに実行させるためのプログラム、並びに該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供することができるので、極めて有用である。
【符号の説明】
【0090】
100 繊維配向状態予測装置、予測装置
120 記憶部
130 プロセッサ
131 解析モデル作成手段
132 解析条件設定手段
133 流動解析手段
134 繊維配向テンソル算出手段
170 記録媒体
200 樹脂
210 先端領域
211 フローフロント部位
212 流動部(内側部)
213 中心部
215 表層部
217 最表層部
C キャビティ
M 鋳型
S1 解析モデル作成工程
S2 解析条件設定工程
S3 流動解析工程
S4 繊維配向テンソル算出工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17