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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】緊急仮設橋の架設方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 15/133 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
E01D15/133
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021040876
(22)【出願日】2021-03-13
(65)【公開番号】P2022140705
(43)【公開日】2022-09-27
【審査請求日】2023-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000204192
【氏名又は名称】太陽工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098246
【弁理士】
【氏名又は名称】砂場 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】岡部 禎之
(72)【発明者】
【氏名】石田 正利
(72)【発明者】
【氏名】珠玖 義樹
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-033318(JP,A)
【文献】特開2014-024502(JP,A)
【文献】特開2007-107369(JP,A)
【文献】特開2003-055906(JP,A)
【文献】特開平04-124303(JP,A)
【文献】特開平02-074705(JP,A)
【文献】米国特許第06586062(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第101041975(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0126070(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 15/133
E01D 15/20
E01D 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
起点側岸と到達側岸との間に緊急仮設橋を構築する緊急仮設橋の架設方法であって、
前記緊急仮設橋の床版となる、連結部が橋軸直角方向に折り曲げ可能に複数枚が橋軸方向に連結された床版パネルを、渦巻き状に巻いて前記起点側岸に設置し、巻かれた状態の前記床版パネルを、順次巻き解くように回動することで前記起点側岸から展開、伸長して前記起点側岸と前記到達側岸との間に架設し、
前記起点側岸と前記到達側岸との間に形成された前記床版の両端を支点部材で支持するとともに、前記床版の下方に張設された閉合引張部材に緊張力を導入し、アーチ形状の床版を有する緊急仮設橋を構築することを特徴とする緊急仮設橋の架設方法
【請求項2】
前記床版パネルは、上面にエアチューブが橋軸方向に沿って取り付けられ、該エアチューブに送気された圧縮空気による前記エアチューブの膨張、展開に伴って前記起点側岸から順次巻き解かれるように回動することで展開、伸長し、前記到達側岸まで架設され請求項1に記載の緊急仮設橋の架設方法
【請求項3】
前記床版パネルは、橋軸方向に長いシートが上面に取り付けられ、該シートによって連結され、前記連結部が橋軸直角方向に折り曲げられる請求項1または請求項2に記載の緊急仮設橋の架設方法
【請求項4】
前記床版パネルは、前記起点側岸と前記到達側岸との間にあらかじめ架設された桁部材上に、平板状をなして順次敷設され請求項1または請求項2に記載の緊急仮設橋の架設方法
【請求項5】
前記床版パネルは、展張引張部材が前記巻かれた状態を囲むように掛け渡され、前記展張引張部材の一端が前記起点側岸の固定部に定着され、他端が前記起点側岸の引張部材巻取り手段に保持され、
前記展張引張部材によって姿勢保持されながら、前記引張部材巻取り手段による前記展張引張部材の巻き解き動作に伴って順次巻き解かれて回動することで前記起点側岸から展開、伸長し、前記到達側岸まで架設され請求項1または請求項2に記載の緊急仮設橋の架設方法
【請求項6】
前記閉合引張部材は、前記支点部材に両端が定着されるようにして緊張力が導入され請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の緊急仮設橋の架設方法
【請求項7】
前記床版パネルは、発泡スチロール樹脂板である請求項1または請求項2に記載の緊急仮設橋の架設方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は緊急仮設橋の架設方法に係り、台風等による水害発生時に、人命救助、物資搬送等に供するために緊急に架設することができる緊急仮設橋の架設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
台風等による風水害により既存橋梁が損壊、流失したような場合に、応急的に既存橋梁の機能を維持させるための仮設橋が種々実用化されている。これらの仮設橋は比較的供用期間が長く、既存橋梁の仕様、構造に近い規模の橋梁が求められるため、分割された橋梁部材をヤードで組み立てたり、大型クレーンによる架橋が行われている。
【0003】
また、河川の氾濫に限らず、台風等による増水により道路等が冠水して寸断された状況において、たとえば人命救助、緊急物資の供給等、人の通行、人力による物資等の搬送が可能な程度の耐荷重を有した、緊急に架設する仮設橋も必要とされている(非特許文献1)。
【0004】
このような緊急に架設が必要な橋梁(緊急仮設橋と称す。)では、橋梁部材を、ほぼ完成した状態で架設現場に搬入できること、対岸へのアクセスの困難性を考慮し、仮設橋を片側の岸から架設できること、仮設橋の桁端を支持する基台(橋台)の構築が容易であることが必要である。
【0005】
このような要求に適合する橋梁部材として、非特許文献1にはアルミニウム部材や木材等の軽量部材を用いたトラス橋の開発例が紹介されている。非特許文献1に開示された緊急仮設橋としてのトラス橋は、アルミニウム合金製のX字形の部材の頂点がピン接合により連続してパンタグラフ状に連結されたシザース構造からなり、起点側の岸でX字形を折り畳んだ状態で組まれたトラス部材を油圧駆動システムによって対岸に向けて水平方向に伸長して所定あるいは規定の橋長の仮設橋を架設することができる。
【0006】
また、非特許文献1には、軽量なエアビームをケーブルで補強したエアブリッジも提案されている(非特許文献2)。エアビームを桁材としたエアーブリッジは、エアビーム上に床版としての薄肉板を載せ、エアビームの長手方向の両端を定着端とする複数本の鋼線ケーブルをエアビーム外面に沿って螺旋をなすようにたすき掛けに巻き付けることで、エアビームを補強した構造からなる。エアビームの空気圧を利用してケーブルに引張力を与えるとともに、床版となる薄肉板にプレストレスを導入した超軽量の橋梁となっている。なお、特許文献1には、非特許文献2のエアブリッジに用いられる、エアビーム外面にケーブルを螺旋をなして巻回した構造体の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第3906079号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】小野修一、“招待論文 急速架設を実現するための構造を有する緊急仮設橋”、[online]、2016年3月、土木学会、構造工学論文集vol.62A、[令和2年11月5日検索]、インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/structcivil/62A/0/62A_1272/_article/-char/ja/>
【文献】鈴木圭、「超軽量エアービームの災害復旧への活用」、橋梁と基礎、株式会社建設図書、2012年8月、p.111-114
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1に開示されたシザース構造の緊急仮設橋は、X字形を構成する比較的重量のある多数枚のプレート部材からなり、両岸に接地するまで徐々に伸びるシザース構造の梁が片持ち梁構造となるため、片持ち梁の支点(支持)側において十分な質量のカウンターウエイトを準備する必要がある。また、シザース構造のトラス部材を伸長させるための油圧駆動システムの設備も大がかりなものとなる。
【0010】
これに対して非特許文献2に開示されたエアビームを用いたエアブリッジでは、構造体であるエアビームを伸長させるための設備は圧縮空気送気手段のみでよい。しかし、このエアブリッジでは、エアビームを仮設橋の桁部材として確実に機能させるために、供用時にエアビーム外面にたすき掛けに巻回されたケーブルの引張緊張力及びエアビームのエア圧を常時管理する必要がある。
【0011】
そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、水害発生時等に仮設橋を、架設現場に搬入が容易な軽量の橋梁部材で構成し、簡易な施工手順で、緊急かつ安全に架設することができる緊急仮設橋を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、起点側岸と到達側岸との間に緊急仮設橋を構築する緊急仮設橋の架設方法であって、前記緊急仮設橋の床版となる、連結部が橋軸直角方向に折り曲げ可能に複数枚が橋軸方向に連結された床版パネルを、渦巻き状に巻いて前記起点側岸に設置し、巻かれた状態の前記床版パネルを、順次巻き解くように回動することで前記起点側岸から展開、伸長して前記起点側岸と前記到達側岸との間に架設し、前記起点側岸と前記到達側岸との間に形成された前記床版の両端を支点部材で支持するとともに、前記床版の下方に張設された閉合引張部材に緊張力を導入し、アーチ形状の床版を有する緊急仮設橋を構築することを特徴とする
【0013】
前記床版パネルは、上面にエアチューブが橋軸方向に沿って取り付けられ、該エアチューブに送気された圧縮空気による前記エアチューブの膨張、展開に伴って前記起点岸側から順次巻き解かれるように回動することで展開、伸長し、前記到達側岸まで架設されることが好ましい。
【0014】
前記床版パネルは、橋軸方向に長いシートが上面に取り付けられ、該シートによって連結され、前記連結部が橋軸直角方向に折り曲げられることが好ましい。
【0015】
前記床版パネルは、前記起点側岸と前記到達側岸との間にあらかじめ架設された桁部材上に、平板状をなして順次敷設されることが好ましい。
【0016】
前記床版パネルは、展張引張部材が前記巻かれた状態を囲むように掛け渡され、前記展張引張部材の一端が前記起点側岸の固定部に定着され、他端が前記起点側岸の引張部材巻取り手段に保持され、前記展張引張部材によって姿勢保持されながら、前記引張部材巻取り手段による前記展張引張部材の巻き解き動作に伴って順次巻き解かれて回動することで前記起点側岸から展開、伸長し、前記到達側岸まで架設されることが好ましい。
【0017】
前記閉合引張部材は、前記支点部材に両端が定着されるようにして緊張力が導入されることが好ましい。
【0018】
前記床版パネルは、発泡スチロール樹脂板であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
以上に述べたように、本発明によれば、台風等による水害発生時に、人命救助、物資搬送等に供する緊急仮設橋の橋梁部材の搬入及び仮設橋の架設を迅速、安全に行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の緊急仮設橋の架設方法の第1実施形態の架設状態を示した斜視図。
図2図1に示した緊急仮設橋の架設状態を側方から見た側面図。
図3】完成した緊急仮設橋の全体を示した斜視図。
図4図3に示した緊急仮設橋を側方から見た側面図。
図5図1に示した緊急仮設橋を構成する橋梁部材を、巻き取った状態(巻取り体)を模式的に示した説明図。
図6】連結床版の床版パネルと床面シートとを貼着する状態および床版パネル間の連結状態を示した説明図。
図7】支点ブロックの構成例を模式的に示した側面図。
図8】床版パネル間の連結部の補強部材の構成例を示した部分側面図。
図9図8(b)に示したエアバッグの膨張動作を模式的に示した説明図。
図10】床版パネル内に軸方向圧縮力を導入するための構成を示した説明図。
図11】第1実施形態の緊急仮設橋の架設方法における架設起点位置から橋梁部材を展開して対岸まで架設する過程を模式的に示した説明図。
図12】本発明の第2実施形態の緊急仮設橋の架設完了状態を示した全体斜視図。
図13図12に示した緊急仮設橋の架設完了状態を側方から見た側面図。
図14】第2実施形態の緊急仮設橋の架設方法における架設起点位置から橋梁部材を展開して対岸まで架設する過程を模式的に示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態の架設方法によって構築された緊急仮設橋の構成及び橋梁部材の展開、架設状態の一例について、添付図面を参照して説明する。
【0022】
図1図2は、緊急仮設橋(以下、単に仮設橋10と記す。)の架設作業において、巻かれた状態の橋梁部材としての複数枚の床版パネル21を、エアビームの膨張伸長に伴って展開し、あらかじめ対岸まで架設された先行仮設桁5(構成は後述する。)上に載置するようにして平板状の床版を途中段階まで敷設した状態を示している。
【0023】
仮設橋10は、既存橋梁が流失した河川あるいは増水による冠水で道路が寸断された地域等に、一方の岸側から他方の岸に向けて架設されることを想定している。そのため、仮設橋10となる橋梁部材として、渦巻き状に巻かれた複数枚の床版パネル21(図5,以下、図5に示した状態の複数枚の床版パネル21を「巻取り体W」と呼ぶ。)が用いられている。この巻取り体Wは、架設起点側1の岸に載置され、扁平なエアチューブ17が膨張して形成された円筒状のエアビーム11の展開に追従して橋軸方向に沿って先行仮設桁5上で順次展開され、先行仮設桁5上に到達側2の岸に到達する平板状の連結された床版20(以下、連結床版20と呼ぶ。)が敷設される。
【0024】
図3図4は、図1図2に示した平板状の連結床版20が敷設された状態から橋軸方向の中央部が高いアーチ形状の仮設橋10を完成させた状態を示している。仮設橋10は、先行仮設桁5上に平板状の連結床版20が敷設された後、膨張伸長したエアビーム11が撤去され、連結床版20の下側に閉合ケーブル12が張設され、閉合ケーブル12に所定の張力が導入される。これにより、仮設橋10は、平板状の連結床版20の中央部がせり上がり、床版延長10m、ライズが約1mの安定したタイドアーチ橋となる。その後、架設時に床版パネル21を支持していた先行仮設桁5が撤去され、仮設橋10は両岸に設置された支点ブロック14に支持される。この仮設橋10において、アーチ形状の外方へのスラスト力は閉合ケーブル12に導入された初期張力により打ち消され、支点ブロック14はアーチ橋の鉛直反力のみを負担する構造になっている。
【0025】
以下、仮設橋10を構成する各部材について図1図3図5図10参照してを説明する。
【0026】
[床版パネル]
床版パネル21の構成について、図1,3,5を参照して説明する。本実施形態の床版パネル21は、架設前の運搬、設置時(図5)、架設時(図1)、仮設橋完成時(図3)に示したように、1枚の寸法が橋軸方向長さ約1.0m、橋軸直角方向長さ(幅)2.0m、厚さ0.1mであって、複数枚(たとえば本実施形態では10枚)が後述する補強シート22(図6(a))で接合された発泡スチロール樹脂板(以下、EPS板と記す。)からなる。側面視した断面形状は、上辺寸法が下辺寸法よりわずかに小さい台形からなり、仮設橋10の下面側に張設された閉合ケーブル12に導入された初期張力によってアーチ形状をなした完成時に、図3図4に示したように、連結された端面が密着する形状である。個々の床版パネル21の台形寸法の上辺、下辺の長さは、仮設橋10のアーチ形状において設定されたスパンとライズ、床版パネル21のサイズ、枚数から割り出して設定される。また、個々の床版パネル21の橋軸方向長さ、橋軸直角方向長さ(幅)、厚さは、仮設橋10の目的用途、架設箇所に合わせて設計することが好ましい。また、使用するEPS板の許容圧縮応力度は仮設人道橋として用いる場合には20kN/m2以上とすることが好ましく、さらに物資搬送等の用途が想定される場合には50kN/m2以上とすることが好ましい。
【0027】
[巻取り体の構成]
巻取り体Wの構成について、図5を参照して説明する。図5は、10枚の床版パネル21の上面が、後述する補強シート22で連結され、各床版パネル21の接合箇所を谷折り位置として渦巻き状に巻き取られた状態を示している。この状態において、補強シート22の上面にはさらに、連結された床版パネル21のほぼ全長にわたり、膨張前の扁平な細長袋状のエアチューブ17(構成は後述する。)が取り付けられている。このように、仮設橋10の主構成となる橋梁部材としての床版パネル21は、EPS板からなる軽量の橋梁部材であるため、巻取り体Wは軽量でコンパクトな形状にすることができ、運搬や架設作業における作業効率を図ることできる。
【0028】
[補強シート]
補強シート22の構成について、図6各図を参照して説明する。図6各図は、各床版パネル21の上面に補強シート22を一体的に貼り付け、各床版パネル21を連結させるようにした状態を示している。補強シート22を各床版パネル21の上面に一体的に貼着させることにより、各床版パネル21が上面側でヒンジを形成するように連結されるため、上述した巻取り体Wを構成したり、架設完了時にアーチ状を形成する際に、床版パネル21間が山、谷のいずれにも折れ曲がるように機能することができる(図6(b)、(c))。また、アーチ形状の連続床版の下方位置に張設された閉合ケーブル12(図3)のテンションが過大になった場合に、連結床版20の上面側に発生する引張力に抵抗する引張抵抗材としても機能する。補強シート22の素材としては、ポリエステル(たとえばポリエチレンテレフタレート:PET)織布、塩化ビニル樹脂コーティングPET織布(たとえばターポリン)、ポリプロピレン(PP)織布、ポリエチレン(PE)織布等の各種織布を用いることができる。なお、補強シート22は上述したように引張抵抗材として機能させるため、いずれの素材を織布を採用する場合も伸び剛性が高いものが望ましく、例えば伸び率が20%以下であることが好ましい。
【0029】
[エアビームの構成]
エアビーム11の構成について、図1,2,5を参照して説明する。図1図2は、展開して、平板状の連結床版20となった各床版パネル21の上面に、細長円筒形状のエアビーム11が図示しない取付具を介して取り付けられた状態を示している。このエアビーム11は、膨張する前は、扁平な細長袋状のエアチューブ17として、図5に示したように、補強シート22の床版長手方向に沿って補強シート22の表面に、各床版パネル21間で折り曲げ可能に取り付けられた部材で、ブロア6等の空気圧源(たとえば図1)から送気された圧縮空気により膨張、伸長して所定の直径からなる細長い直円筒形状のエアビーム11となる。これにより、巻取り体W(図5)を構成する床版パネル21を、図1に示したように、先行仮設桁5上に順に巻き解くように展開させて平板状の連結床版20とすることができる。本実施形態のエアチューブ17には、ポリアミド繊維織物からなる基布に塩化ビニル樹脂コーティングされた、膨張時に所定直径の円筒形状のエアビーム17となる細長袋状のシートが使用されている。コーティング樹脂としてはシリコーン樹脂やウレタン樹脂等も好適である。
【0030】
[支点ブロック]
支点ブロック14の構成について、図7各図を参照して説明する。図7各図は、アーチ状の連結床版20の端部を支持する支点ブロックの構成を示している。図7(a)は、ガラス繊維強化プラスチック(FRP)パネルで組み立てられた箱状体内にコンクリートが充填された支点ブロック14を示している。この支点ブロック14は箱状体の端面で所定のアーチ状をなす連結床版20の端面を支持することができる。また箱状体の内の所定位置にシース管15が水平配管されており、このシース管15を利用して閉合ケーブル12の端部を支点ブロック14の背面側に定着することができる。図7(b)は、アルミニウム板で組み立てられた箱状体内に連結床版20の床版ブロック21の端部を収容することで連結床版20を支持するようにした支点ブロック14を示している。この支点ブロック14においても閉合ケーブル12を挿通可能なシース管15が配管されており、閉合ケーブル12の端部は支点ブロック14の背面側に定着される。
【0031】
[閉合ケーブル]
上述したように、本発明の仮設橋10では、連結床版20の下側に張設された閉合ケーブル12に所定の張力が導入されることで、平板状の連結床版20の中央部が1m程度せり上がって、閉合ケーブル12がアーチ形状のスラストを負担するようなタイドアーチが形成される。このため、閉合ケーブル12としては、圧縮部材としての連結床版20のEPS板の弾性係数より大きな弾性係数を有するワイヤーロープ等を用いることが好ましい。本実施形態では、図3に示したように、同期をとって巻き取り可能な2本のワイヤーロープを閉合ケーブル12として使用したが、ワイヤーロープ強度、使用本数は仮設橋10の規模等によって適宜設定することが好ましい。なお、弾性係数がEPS板の弾性係数より大きく、所定の引張強度を備えていればワイヤーロープに限らず、各種の合成繊維ロープを使用することも可能である。
【0032】
[先行仮設桁]
先行仮設桁5の構成について、図1図11(a)を参照して説明する。先行仮設桁5は、最大長が10m以上となる伸縮可能なアルミニウム製桁材で、仮設橋10の架設地点において、あらかじめ架設起点側から対岸に向けて架け渡される(図11(a))。この先行仮設桁5上を、膨張した円筒形状のエアビーム11が伸張するのに伴って床版パネル21が展開され、図1に示したように、平板状の連結床版20が形成される。先行仮設桁5としては、架設時の床版パネル21の自重を支持できる構造材であれば、伸縮梯子等も使用することができる。
【0033】
[床版の補強部材]
床版の補強部材としてのせん断抵抗部材の構成について、図8図10を参照して説明する。図8各図は、床版パネル21として用いられるEPS板の橋軸方向の端面に形成されたせん断抵抗部材の例を示している。複数枚の床版パネル21が連結されて構成されたアーチ状の連結床版20に荷重が作用した際の各連結面でのせん断抵抗性を高めるために、各連結面にせん断抵抗部材が設けられている。図8(a)は、連結されるEPS板の端面の一方の面の幅方向の全長にわたりせん断キー21aを形成し、他方の面にせん断キー21aと合致するせん断溝21bを形成した例を示している。このせん断キー21aを設けることにより、仮設橋10の供用時に作用する荷重に対するせん断抵抗性を維持することができる。
【0034】
図8(b)はEPS板(床版パネル21と同符号を付す。)の端面にエアバッグ製のダボの配置例、図8(c)は、その拡大図、図9各図は、エアバッグ製のダボ21dを設ける手段および手順について模式的に示した説明図である。図8(b)に示したせん断抵抗部材としてのエアバッグ製のダボ21dは、内部に充填されたエアによって略円筒形状に膨張する袋状体からなり、EPS板21を順次連結していく工程では、EPS板21の連結面の端面に形成された円孔内21cに折り畳まれた状態で収容されている。EPS板21が連結された後に、EPS板21の側面に添えられた送気チューブ22(図9(a))からのエア供給により図8(c)、図9(b)に示したように膨張し、床版パネル21の連結面におけるせん断抵抗部材として機能することができる。
【0035】
図10は、閉合ケーブル12に導入されたテンションにより連結床版20がアーチ形状となった状態において、さらにアーチの軸圧縮力を付加するために、連結床版20を構成する床版パネル(EPS板)21の橋軸方向に連続して形成された貫通孔内にテンションワイヤー23を挿通し、テンションワイヤー23に所定の張力を導入することによりアーチ橋の耐荷重を大きくした例を示している。この場合にも各床版パネル21の連結面での面接触圧を高め、せん断抵抗性を増大することができる。
【0036】
[仮設橋の架設作業]
図11各図は、仮設橋10の橋梁部材としての床版パネル21が巻取り体Wの状態から仮設橋10として完成するまでの架設作業の各過程を模式的に示している。図11(a)は、架設起点側1の岸から対岸に向けて先行仮設桁5が架設された状態を示している。この先行仮設桁5は全長が2段の伸縮桁からなり、架設起点側1の岸で桁端を支持して片持ち梁状に対岸へ向けて伸長、到達させることで、両岸に掛け渡される。次いで、先行仮設桁5の架設起点側1の端部に、床版パネル21の巻取り体Wを設置する(図11(b))。この巻取り体Wに取り付けられているエアチューブ17には圧縮空気を供給するブロア6が接続されている。図11(b)に示した状態から巻取り体Wのエアチューブ17に圧縮空気を送気する。エアチューブ17が膨張して伸長し、所定の剛性を有するエアビーム11となることにより、起点側1にあった巻取り体Wの床版パネル21が順に巻き解かれるように矢印方向に回動し、先行仮設桁5上に連結床版20が順次敷設されていく(図11(c)~(d))。以後、図11(c)~(d)と同様の動作が繰り返されることにより、巻取り体Wの床版パネル21は先行仮設桁5上にすべて敷き並べられ、連結床版20が対岸の到達側2まで敷設される(図11(e))。先端の床版パネル21が対岸に到達した段階では、先行仮設桁5上に敷設された連結床版20上には全長状態に膨張したエアビーム11が載っている。その後、支点ブロックを連結床版20の両端位置に設置し、支点ブロック14を定着端とする閉合ケーブル12を、連結床版20の両端部の下側に沿って張設する。閉合ケーブルには緊張ジャッキ(図示せず)が装着されており、緊張ジャッキを操作して閉合ケーブル12に緊張力を導入する。閉合ケーブル12に緊張力が導入されることにより閉合ケーブル12の定着端間のケーブル長さは短縮され、連結床版20は図11(f)に示したように、スパン中央が持ち上がるようにアーチ状を形成する。最終的にライズが1mになる段階まで閉合ケーブル12に緊張力を導入し、支点ブロックに閉合ケーブル12の両端を定着する。これにより、仮設橋10はタイドアーチ構造の橋梁として完成し、供用できる状態となる。
【0037】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態の架設方法によって構築された緊急仮設橋10の構成及び橋梁部材の展開、架設状態の一例について、添付図面を参照して説明する。第2実施形態に係る仮設橋10も、完成時においては図3図4に示した仮設橋10と同一の形状、構造となるが、その架設方法が第1実施形態と異なる。以下、第2実施形態の架設方法によって構築された仮設橋10の架設時の態様について、図12図13を参照して説明する。

【0038】
図12図13は、到達側2に到達した直後の仮設橋10の全体を示している。仮設橋10上には、各床版パネル21をアーチ状に順次展開、連結して連結床版20を形成するのに用いられた2本の膨張した細長円筒形状のエアビーム11が取り付けられた状態にある。また、展張ステー25が仮設橋10の架設状態を保持するために取り付けられている。展張ステー25は、一端が架設起点側の支点ブロック14に定着され、仮設橋10の下方を通って仮設橋10の先端側を経由してUターンして連結床版20の上面に沿って架設起点1側に戻り、架設起点1側に設置されたウインチ8に巻回されている。この展張ステー25は、後述するように、架設時における片持ちアーチ形状をした状態の連結床版20と巻取り体Wの構造上のバランスを保持するために、ウインチ8から巻き解かれ、橋軸方向に延びる床版パネル21に橋軸方向圧縮力を付与するとともに、片持ち状態にある仮設橋10の自重による支点ブロック14回りの倒れ込みへの抵抗モーメントを発生させる。このとき連続した床版パネル21の上面の全面を覆う補強シート22は、各床版パネル21間を橋軸方向に回動可能に連結する部材となるとともに、片持ちアーチ状をなす仮設橋10の連結床版20の上面側に発生する引張力に抵抗する引張抵抗材として機能している。
【0039】
[仮設橋の架設作業]
図14各図は、第2実施形態における橋梁部材としての床版パネル21が、巻取り体Wの状態から仮設橋10として架設完了するまでの架設作業の各過程を模式的に示している。図14(a)は、架設起点側の端部に、巻取り体Wの最外周の床版パネル21の一部が支点ブロック14に支持されるようにして設置された状態を示している。巻取り体Wは、展張ステー25が外周に巻き付けられた状態にあり、展張ステー25の一端は、支点ブロック14に定着され、他端は巻取り体Wの背後に設置されたウインチ8に巻き取られている。また、巻取り体Wに取り付けられているエアチューブ17(図5)には圧縮空気を供給するブロア6が接続されている。図14(a)に示した設置状態から巻取り体Wのエアチューブ17に圧縮空気を送気する。エアチューブ17が連続して膨張伸長し、所定の剛性を有するエアビーム11となることにより、起点側1にあった巻取り体Wの床版パネル21が順に巻き解かれるように矢印方向に回動しはじめる。この回動動作をコントロールするのが、展張ステー25である。巻取り体Wの床版パネル21が外側から巻き解かれる状態になるのに合わせて展張ステー25を巻き解く方向にウインチ8を駆動させる。この展張ステー25は、図14(b)~(c)に示したように、巻取り体Wの床版パネル21が順に連続したアーチ状をなす片持ち梁として展開されるのに合わせて繰り出され、片持ち状態にある仮設橋10の自重による支点ブロック14回りの倒れ込みへの抵抗モーメントを発生させ、架設状態における連結床版20の構造的な安定を保持する。以上のエアビーム11による床版パネル21の展開伸長が進行すると、最終的に巻取り体Wの床版パネル21はアーチ形状を保持して、先端が到達側2まで到達する(図14(d))。先端の床版パネル21が対岸に到達した段階では、連結床版20は最も長いスパンの片持ちアーチ状をなし、その上には全長にわたって膨張したエアビーム11が載っている。その後、第1実施形態と同様に、支点ブロックを連結床版20の両端位置に設置し、支点ブロックを定着端とする閉合ケーブル12を連結床版20の両端部の下側に沿って張設する。閉合ケーブル12には緊張ジャッキ(図示せず)が装着されており、緊張ジャッキを操作して閉合ケーブル12に緊張力を導入する。閉合ケーブル12に緊張力は、図14(e)に示したように、展張ステー25によって形成されているアーチ形状を保持可能な緊張力とする。閉合ケーブル12に張力が導入された時点で、展張ステー25の張力を解除してアーチに導入される張力を閉合ケーブル12に盛り替え、支点ブロック14に閉合ケーブル12の両端を定着する。これにより、仮設橋10はタイドアーチ構造橋梁として完成し、供用できる状態となる。
【0040】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0041】
5 先行仮設桁
6 ブロア
8 ウインチ
10 緊急仮設橋(仮設橋)
11 エアビーム
12 閉合ケーブル
14 支点ブロック
17 エアチューブ
20 連結床版
21 床版パネル(EPS板)
22 補強シート
25 展張ステー
W 巻取り体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14