(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】半導体熱処理部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/26 20060101AFI20240829BHJP
H01L 21/316 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
H01L21/26 Q
H01L21/316 S
(21)【出願番号】P 2021125049
(22)【出願日】2021-07-30
【審査請求日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2020217457
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】冨樫 明香
(72)【発明者】
【氏名】宗片 伸之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健司
【審査官】平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-152900(JP,A)
【文献】特開2005-203648(JP,A)
【文献】特開2008-277619(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0129761(US,A1)
【文献】特開2000-119079(JP,A)
【文献】特開平10-273339(JP,A)
【文献】特開2016-211066(JP,A)
【文献】特開2006-303158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/26
H01L 21/316
H01L 21/324
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素からなる基材の表面が酸化膜で被覆され、半導体ウェーハを保持する半導体熱処理部材であって、
前記半導体ウェーハに接するウェーハ保持部の表面の算術平均粗さRaが0.3μm以下であって、且つ要素の平均長さRSmが40μm以下であることを特徴とする半導体熱処理部材。
【請求項2】
前記ウェーハ保持部の表面の算術平均粗さRaの最大値と最小値の差ΔRaが0.15μm以下であることを特徴とする請求項1に記載された半導体熱処理部材。
【請求項3】
前記ウェーハ保持部の厚さは、1mm以下に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された半導体熱処理部材。
【請求項4】
前記ウェーハ保持部の表面に形成された酸化膜の膜厚は、0.3μm以上3μm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載された半導体熱処理部材。
【請求項5】
前記請求項1乃至請求項4のいずれかに記載された半導体熱処理部材の製造方法であって、
リング状の炭化珪素の基材を得る工程と、
前記基材の表面をダイヤモンド砥石により算術平均粗さRaが0.3μm以下、要素の平均長さRSmが40μm以下となるように加工する工程と、
前記基材を酸化雰囲気下で加熱し、基材の表面に膜厚0.3μm以上3μm以下の酸化膜を形成する工程とを備えることを特徴とする半導体熱処理部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体熱処理部材に関し、例えばRTP装置(急速加熱処理装置)において好適に用いられ、半導体ウェーハを保持するリングに適用可能な半導体熱処理部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造工程において、加熱処理装置を用いて半導体ウェーハを熱処理する技術としてRTP装置が用いられる。RTP(Rapid Thermal Process)は、急速加熱処理を意味し、このRTP装置によって厚さ10nm以下の超薄型シリコン酸化膜を作ることができる。
【0003】
前記RTP装置は、ランプ加熱を用いた熱処理技術であり、この技術の特徴は、ウェーハを急速に加熱(数十秒で約1000℃)させると共に、等配列に配置された赤外線ランプをウェーハ表面温度からのフィードバックにより個々に制御する。それにより、ウェーハ表面温度の温度差を高精度に制御することが可能となる。
【0004】
一般的なRTP装置は、光源ランプとしてタングステン・ハロゲンランプ等を用いる。
そして、ウェーハ保持リング上に載置・保持された半導体ウェーハに光源ランプのエネルギーを直接吸収させるものである。半導体ウェーハを処理する環境としてはN2ガス等のクリーンなガス雰囲気が必要なため、処理室本体をハロゲン光の透過効率が良く熱的に安定した材料である石英からなる石英窓で密閉する構造としている。ウェーハは、光の照射バランスが良い処理室中央付近で、ウェーハ保持リング上に載置される。このRTP装置を用いる方式では、熱媒体を介さずにウェーハを加熱できることから、装置の熱応答を決定づける熱容量を最低限に抑えることが可能となる。その結果、瞬時加熱が実現できるため、ウェーハの構造を破壊する可能性が小さく、ウェーハのアニールに特に有効とされている。
【0005】
このRTP装置において、ウェーハを載置するウェーハ保持リングは、一般に炭化珪素質セラミックスから形成されている。これは、炭化珪素質材料が高い耐熱性、熱伝導率を有することから、半導体ウェーハを均一に加熱でき、かつ破損し難いからである(特許文献1参照)。また、カーボン等の基材の表面にCVD法によって炭化珪素膜を施したものも多用されている(特許文献2参照)。
【0006】
特に、RTP装置のような短時間に大きな熱が印加される場合には、装置の熱応答を決定づける熱容量を最低限に抑えるために、ウェーハ保持リングの厚みを低減することが試みられている。
しかしながら、従来のウェーハ保持リングは、その厚みが薄いほど熱的特性が向上するが、ウェーハ保持リングを形成する炭化珪素質材料は、靱性が低いため、薄くすることで機械的強度が下がり、構造的及び熱的に破損をする可能性が高かった。
【0007】
特に、熱伝達方向の肉厚を1.2mm以下とするためには、ダイヤモンド砥石や遊離砥粒等を用いた機械加工を行う必要があるが、ウェーハ保持リングの被加工面に微細な研磨傷(ツールマーク)が残るために、炭化珪素本来の強度に比べ大幅に強度が低下する。すなわち、被加工面の微細な研磨傷が起点となってウェーハ保持リングが破損することが多い。
【0008】
また、ウェーハ保持リングを形成する炭化珪素質材料は、その純度を99.5%以上、理論密度97%以上の緻密質であり、純度が低く密度の低い炭化珪素質材料は、熱伝導率が低くなり、RTP装置では製品全体の熱分布差が大きくなり、発生する熱応力が増加し、使用時に破壊に至る可能性がある。
また、ウェーハ保持リングの表面の算術平均粗さRaが1.6μmを越えると、肉厚1mm以下の場合、ハンドリングや搬送など物理的なダメージによる破損や熱収縮の繰り返しにより、ウェーハ保持リングが破損する可能性が非常に高い。
【0009】
このような課題に対し特許文献3では、基材が炭化珪素質セラミックスからなり、表面に厚み0.05μm以上5μm以下の酸化珪素膜を形成したウェーハ保持リングを開示している。このウェーハ保持リングにおいては、表面の算術平均粗さRaが1.6μm以下であり、被加工面の微細な研磨傷などによる機械的強度の低下や熱応力による破損を防止し、RTP装置等の急速加熱処理装置に用いるのに適していると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2000-315720号公報
【文献】特開2002-231713号公報
【文献】特開2004-152900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献3に開示されたウェーハ保持リングにあっては、算術平均粗さRaが1.6μm以下であっても、半導体ウェーハへの伝熱性を制御して膜厚均一性が良好な酸化膜をウェーハ表面に成膜するには不十分であった。
本願発明者は、鋭意研究の結果、ウェーハへの伝熱性を制御して良好な酸化膜をウェーハ表面に成膜するには、ウェーハ搭載面において、高さ方向の指標である算術平均粗さRaと平面方向の指標である平均長さRSmとの両方を制御することが重要であることを知見した。
本願発明者は、高さ方向の指標である算術平均粗さRaと平面方向の指標である平均長さRSmとの両方を制御することを前提に本発明をするに至った。
【0012】
本発明は、上記事情の下になされたものであり、半導体ウェーハを保持するリングに適用可能な半導体熱処理部材において、前記半導体ウェーハに対し加熱処理により酸化膜を成膜する際、半導体ウェーハへの伝熱性が均一となり、ウェーハ表面に成膜された酸化膜の膜厚のばらつきを小さくすることのできる半導体熱処理部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するためになされた本発明に係る半導体熱処理部材は、炭化珪素からなる基材の表面が酸化膜で被覆され、半導体ウェーハを保持する半導体熱処理部材であって、前記半導体ウェーハに接するウェーハ保持部の表面の算術平均粗さRaが0.3μm以下であって、且つ要素の平均長さRSmが40μm以下であることに特徴を有する。
尚、前記ウェーハ保持部の表面の算術平均粗さRaの最大値と最小値の差ΔRaが0.15μm以下であることが望ましい。
また、前記ウェーハ保持部の厚さは、1mm以下に形成されていることが望ましい。
また、前記ウェーハ保持部の表面に形成された酸化膜の膜厚は、0.3μm以上3μm以下であることが望ましい。
【0014】
このように構成された半導体熱処理部材によれば、半導体ウェーハに接する面は、算術平均粗さRaが0.3μm以下であり、且つ粗さ要素の平均長さRSmが40μm以下に形成されている。これにより、保持した半導体ウェーハへの伝熱性が均一となり、半導体ウェーハに対し加熱処理により酸化膜を成膜する際、ウェーハ表面に成膜された酸化膜の膜厚のばらつきを小さくすることができる。
【0015】
また、前記課題を解決するためになされた本発明に係る半導体熱処理部材の製造方法は、前記した半導体熱処理部材の製造方法であって、リング状の炭化珪素の基材を得る工程と、前記基材の表面をダイヤモンド砥石により算術平均粗さRaが0.3μm以下、要素の平均長さRSmが40μm以下となるように加工する工程と、前記基材を酸化雰囲気下で加熱し、基材の表面に膜厚0.3μm以上3μm以下の酸化膜を形成する工程とを備えることに特徴を有する。
このような方法によれば、前記した特徴を有する半導体熱処理部材を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、半導体ウェーハを保持するリングに適用可能な半導体熱処理部材において、前記半導体ウェーハに対し加熱処理により酸化膜を成膜する際、半導体ウェーハへの伝熱性が均一となり、ウェーハ表面に成膜された酸化膜の膜厚のばらつきを小さくすることのできる半導体熱処理部材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明に係る半導体熱処理部材の断面図である。
【
図3】
図3は、
図1の半導体熱処理部材を用いるRTP装置を模式的に示した断面 図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明にかかる半導体熱処理部材の一実施形態について、
図1及び
図2に基づいて説明する。
図1は、本発明の半導体熱処理部材としてのリングの平面図であり、
図2は、
図1のA-A矢視断面図である。尚、図は模式的または概念的なものであり、各部位の厚みと幅との関係、部位間の大きさの比率等は、正確に図示されていない。
また、本実施の形態においては、本発明の半導体熱処理部材として、RTP装置において用いられ、半導体ウェーハの表面に酸化膜の成膜処理等を行うために半導体ウェーハを保持するリングを適用した例について説明する。
【0019】
図1に示すように、リング1(半導体熱処理部材)は、リング状の枠部2と、この枠部2の内側下方に形成された、半導体ウェーハを載置するためのウェーハ保持部3とから構成されている。
前記枠部2とウェーハ保持部3とは、炭化珪素からなる基材4の表面に酸化膜5が形成されたものからなり、前記酸化膜5の膜厚は、0.3μm以上3μm以下程度、好ましくは0.8μm以上1.2μm以下に形成されている。この酸化膜5が形成されていることによって、基材4方向への圧縮応力がかかり、耐性を持たせ、基材4が薄く形成されていても、ウェーハが搭載されたときなどの機械的な負荷や熱サイクルによる負荷からリング1の破損を防止することができる。
【0020】
尚、酸化膜5の膜厚が0.3μmより薄いと、基材4を薄く形成した場合に、機械的な負荷や熱サイクルによる負荷に対する耐性が低くなり、リング1が破損する虞がある。一方、酸化膜5の膜厚が3μmより厚いと、リング1の熱伝導性が低下し、熱処理結果に斑が生じる虞がある。また、酸化膜が剥離してパーティクルによるウェーハ汚染の原因になる虞もある。
【0021】
また、ウェーハ保持部3の厚さt(基材4と酸化膜5とを合わせた厚さ)は、1mm以下、より好ましくは0.5mm以下に形成されている。このようにウェーハ保持部3を薄く形成することによって、基材4の熱容量が小さくなり、熱応答性が向上する。厚さtは、強度を確保するために好ましくは0.20mm以上に形成されている。
尚、ウェーハ保持部3の厚さが1mmより大きいと、基材4の熱容量が大きくなるため、熱応答性が低下し、好ましくない。
【0022】
また、リング1に形成されるリング状の枠部2の内径としては、半導体ウェーハを嵌め込むことができる限りは特に限定されるものではなく、加熱処理を行う半導体ウェーハの外径により任意の大きさのものを使用することができる。
また、前記枠部2の内周側下部に設けられたウェーハ保持部3としては、その上面に半導体ウェーハ4を載置した際に、該半導体ウェーハ4の表面が半導体熱処理部材1の上面と略平行な平面を形成するのが好ましく、これにより、RTP装置等による加熱処理の際に半導体ウェーハ全体を均一に加熱して処理することができる。
【0023】
また、ウェーハ保持部3の内径としては、半導体ウェーハを載置することができる限り特に限定されるものではないが、載置する半導体ウェーハの外径より少しだけ小さい値であるのが好ましい。これにより、ウェーハ保持部3と半導体ウェーハとの接触部位が小さくなり、半導体ウェーハに加えた熱がウェーハ保持部3から拡散するのを防ぎ、熱分布のムラを少なくして均一に半導体ウェーハを加熱することができる。
【0024】
また、ウェーハ保持部3の表面は、高さ方向の指標である算術平均粗さRaは、0.3μm以下に形成され、粗さ曲線の要素の平均長さRSmは、40μm以下に形成されている。
算術平均粗さRaが0.3μmよりも大きいと半導体ウェーハとウェーハ保持部3の表面(搭載面)との間に隙間が生じ、伝熱性が低下するため、半導体ウェーハに熱を均一に伝えることが難しくなる。
また、粗さ曲線の要素の平均長さRSmが40μmを超える場合、半導体ウェーハとウェーハ保持部3とが接する面積が少なくなるため、伝熱による熱の伝わりが悪化する虞があるため好ましくない。
尚、粗さ曲線の要素の平均長さRSmは、熱処理時にウェーハがウェーハ保持部3に貼りつくことを防止するため、15μm以上であることが好ましい。
【0025】
また、ウェーハ搭載面の算術平均粗さRaのばらつきは少ないほうがよく、Raの最大値と最小値との差分ΔRaは0.15μm以下がよい。より好ましくは、ΔRaは0.1μm以下であることにより、良好な熱伝達を示し、半導体ウェーハへの酸化膜成膜処理において、酸化膜の膜厚均一性がより良好なウェーハを得ることができる。このようなウェーハ保持部3(ウェーハ搭載面)を持ったリング1を用いて半導体ウェーハを処理することにより、ウェーハ面内の酸化膜厚のばらつきを0.10nm以下とすることが可能である。
【0026】
続いて、本発明にかかるリング1の製造方法を説明する。まず、炭化珪素からなる基材4を製造する際には、炭化珪素を所定のリング状の成形体に形成し、この成形体を焼結させて、高い熱伝導率を有するリング状の基材4を得る。もしくは、カーボン基材の表面にCVD法にて炭化珪素を成長させ、その後前記カーボン基材を除去して、高い熱伝導率を有するリング状の炭化珪素基材4を得る。
【0027】
次いで、このリング状の基材4の表面をダイヤモンド砥石により算術平均粗さRaが0.3μm以下、要素の平均長さRSmが40μm以下となるように研削や研磨などの加工をする。さらに、基材4を酸化雰囲気下1000℃以上1300℃以下で熱を印加して酸化処理することにより、基材4の全表面に膜厚0.3μm以上3μm以下程度、好ましくは0.8μm以上1.2μm以下の酸化膜5を形成し、リング1を得る。
【0028】
図3に本発明のリング1を備えたRTP装置の一形態を示す。
図3に示すようにRTP装置10は、雰囲気ガス導入口20a及び雰囲気ガス排出口20bを備えたチャンバ(反応管)20と、チャンバ20の上部に離間して配置された複数のランプ30と、チャンバ20内の反応空間25に半導体ウェーハWを支持する基板支持部40とを備える。また、図示しないが、半導体ウェーハWをその中心軸周りに所定速度で回転させる回転手段を備えている。
【0029】
基板支持部40は、半導体ウェーハWの外周部を支持する本発明のリング1と、リング1を支持するステージ40aとを備える。チャンバ20は、例えば、石英で構成されている。ランプ30は、例えば、ハロゲンランプで構成されている。ステージ40aは、例えば、石英で構成されている。このRTP装置は10℃~300℃/秒の昇温又は降温の温度勾配で半導体ウェーハWの全体を均一に加熱して処理することができる。
【0030】
尚、このRTP装置10における反応空間25内の温度制御は、基板支持部40のステージ40aに埋め込まれた複数の放射温度計50によってリング1の下部の基板径方向における基板面内多点(例えば9点)の平均温度を測定し、その測定された温度に基づいて複数のハロゲンランプ30の制御(各ランプの個別のON-OFF制御や、発光する光の発光強度の制御等)を行う。
【0031】
続いて、この実施形態にかかる半導体熱処理部材としてのリングを備えたRTP装置10による半導体ウェーハWの加熱処理方法を
図3に従って説明する。
まず、リング1に半導体ウェーハWを載置して固定する。半導体ウェーハWの周縁部下面がウェーハ保持部3に接することになる。このリング1を、酸化雰囲気下の反応空間25内に設置されたステージ40aの上部に半導体ウェーハWの上面が略平行になるように固定する。
【0032】
また、雰囲気ガス導入口20aよりプロセスガスを導入するとともに雰囲気ガス排出口20bから反応空間25内のガスを排気し、半導体ウェーハW上に所定の気流を形成する。
次いで、等配列に配置されたハロゲンランプ30を半導体ウェーハWの表面温度からのフィードバックにより個々に制御して半導体ウェーハWの表面温度を制御しながら急速に加熱(例えば数十秒で約1,000℃)して半導体ウェーハWの加熱処理を行う。これにより、半導体ウェーハWの表面に所望の酸化膜が形成される。
【0033】
以上のように本実施の形態に係るリング1(半導体熱処理部材)によれば、該リング1は、前記枠部2とウェーハ保持部3とにより構成され、それらは炭化珪素からなる基材4の表面に酸化膜5が形成されたものである。ここで、前記ウェーハ保持部3の表面は、算術平均粗さRaが0.3μm以下であり、且つ粗さ要素の平均長さRSmが40μm以下に形成されている。これにより、ウェーハ保持部3に保持した半導体ウェーハWへの伝熱性が均一となり、半導体ウェーハWに対し加熱処理により酸化膜を成膜する際、ウェーハ表面に成膜された酸化膜の膜厚のばらつきを小さくすることができる。
【0034】
尚、前記実施の形態においては、本発明に係る半導体熱処理部材としてリングを例に説明したが、本発明にあっては、その形態に限定されるものではなく、炭化珪素の基材の表面に酸化膜の被膜をした半導体熱処理部材に広く適用することができる。
【実施例】
【0035】
本発明に係る半導体熱処理部材及びその製造方法について、実施例に基づきさらに説明する。
[実験1]
実験1では、ウェーハ保持部(ウェーハ搭載面)の表面状態が異なるリングを複数作成し(実施例1~5、比較例1~3)、そのリングに保持した半導体ウェーハを熱処理し、ウェーハ表面に成膜された酸化膜の膜厚均一性について調べた。
前記リングの作成においては、基材の表面をダイヤモンド砥石により算術平均粗さRaが0.3μm以下、要素の平均長さRSmが40μm以下となるように研削加工した。その後、基材を酸化雰囲気下1000℃以上1300℃以下で熱を印加して酸化処理することにより、基材の全表面に膜厚1.0μmの酸化膜を形成し、ウェーハ保持リングを得た。この時のウェーハ保持部の表面の算術平均粗さRa、要素の平均長さRSm及び算術平均粗さRaの差ΔRaは表1のとおりであった。
【0036】
各リングのウェーハ保持部(ウェーハ搭載面)は、ダイヤモンド砥石の番手を変更して表面粗さを変化させた。また、表面粗さは非接触粗さ計を用いて計測した。表面粗さは90度間隔でウェーハ保持部の表面を4点測定し、その平均値をとった。高さ方向の指標である算術平均粗さRaの差ΔRaは、4点の最大値Raから最小値Raを差し引いた値とした。
また、要素の平均長さRSmは、90度間隔でウェーハ保持部の表面の4点を非接触粗さ計にて測定し、その平均値を算出した。
【0037】
また、半導体ウェーハに対する熱処理の条件としては、ドライ酸化雰囲気1000℃以上1150℃以下で60秒以上300秒以下とした。
表1に実施例及び比較例の条件、及び結果を示す。表1に示す評価は、半導体ウェーハに形成された酸化膜の膜厚の均一性として、面内ばらつきが0.06nm以下を◎とし、面内ばらつきが0.06nmより大きく0.08nm以下を○とし、面内ばらつきが0.08nmより大きく0.10nm以下を△とした。また、面内ばらつきが0.10nmを越えるものを×とした。
【0038】
【0039】
表1に示すように、ウェーハ保持部の算術平均粗さRaが0.3μm以下であって、且つ面方向の粗さ要素の平均長さRSmが40μm以下の場合、半導体ウェーハの表面に形成された酸化膜の面内ばらつきが0.10nm以下と小さくなり良好であった(実施例1~5)。
一方、ウェーハ保持部の算術平均粗さRaが0.3μmより大きく、又は面方向の粗さ要素の平均長さRSmが40μmより大きかった場合、ウェーハ酸化膜の面内ばらつきが大きくなった(比較例1~3)。
よって、本実験1の結果、ウェーハ保持部の算術平均粗さRaを0.3μm以下とし、且つ面方向の粗さ要素の平均長さRSmを40μm以下とすることにより、半導体ウェーハの表面に形成された酸化膜の面内ばらつきを0.10nm以下と小さくすることができることを確認した。
【0040】
[実験2]
実験2では、ウェーハ保持部(ウェーハ搭載面)に形成する酸化膜の膜厚が異なるリングを複数作成し(実施例6~11)、そのリングに保持した半導体ウェーハを熱処理し、ウェーハ表面に成膜された酸化膜の膜厚均一性およびパーティクルの発生について調べた。なお、リングの酸化膜の膜厚は、酸化雰囲気下での熱処理時間によって、調整した。実験2の条件及び評価結果を表2に示す。表2に示す評価のうち、半導体ウェーハに形成された酸化膜の膜厚の均一性は、面内ばらつきが0.06nm以下を◎とし、面内ばらつきが0.06nmより大きく0.08nm以下を○とし、面内ばらつきが0.08nmより大きく0.10nm以下を△とした。
また、リングにウェーハを搭載して、繰り返し100回使用したとときに、10回以上パーティクル異常となったものは△として、それ以外を〇とした。
【0041】
【0042】
以上の実験2の結果、基材に形成する酸化膜の膜厚は、0.3μm以上3μm以下程度、好ましくは0.8μm以上1.2μm以下に形成することが好ましいことを確認した。
【符号の説明】
【0043】
1 リング
2 枠部
3 ウェーハ保持部
4 基材
5 酸化膜
10 RTP装置
W 半導体ウェーハ