(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】電源装置
(51)【国際特許分類】
H01M 50/583 20210101AFI20240829BHJP
H01M 50/204 20210101ALI20240829BHJP
【FI】
H01M50/583
H01M50/204 401Z
(21)【出願番号】P 2021501858
(86)(22)【出願日】2020-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2020004772
(87)【国際公開番号】W WO2020175099
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2019033003
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322003798
【氏名又は名称】パナソニックエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市座 智之
(72)【発明者】
【氏名】大橋 修
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-352666(JP,A)
【文献】特表2012-527716(JP,A)
【文献】特開2002-095157(JP,A)
【文献】特開2015-035924(JP,A)
【文献】特開2013-226042(JP,A)
【文献】特開2010-183679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/583
H01M 50/204
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池と直列に接続してなるヒューズを備える複数の電池モジュールが直列に接続されてなる電源装置であって、
複数の前記電池モジュールが装備する前記ヒューズが、定格電流の10倍の電流が流れる状態における溶断時間が30msec以下である速断型のヒューズであり、
前記速断型のヒューズの定格電圧が、前記電池モジュールの出力電圧よりも高く、複数の前記電池モジュールを直列に接続してなるトータル電圧よりも低く、
前記複数の電池モジュールに流れる過大電流により前記複数の電池モジュールの
全ての前記速断型のヒューズを溶断させることを特徴とする電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒューズを備える複数の電池モジュールを直列に接続している電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大出力の電源装置は、複数の電池モジュールを直列に接続して出力電圧を高くしている。この種の電源装置は、ショート電流等の過大電流による弊害を防止するために、保護素子として電池モジュールにヒューズを設けている。複数の電池モジュールを直列に接続してトータル電圧を高くしている電源装置は、各々の電池モジュールのヒューズに、装置全体のトータル電圧よりも高い耐圧のヒューズを使用する必要がある。外部ショート等で過大な電流が流れて、何れかの電池モジュールのヒューズが溶断されると、溶断されたヒューズに、トータル電圧を越える高電圧が印加されるからである。大電流を遮断するヒューズは、溶断された状態で、負荷のインダクタンスに蓄えるエネルギーを消費するために極めて高い電圧が発生する。インダクタンスに蓄えられるエネルギーは、電流の二乗とインダクタンスの積に比例して大きくなるので、大電流を遮断すると、大きなエネルギーを消費するために、溶断したヒューズに高電圧が発生する。とくに、電流の二乗に比例して溶断時に負荷に蓄えられるエネルギーが大きくなるので、負荷のインダクタンスが小さくても、大電流を遮断すると誘導電圧は高くなる。電源装置の負荷インダクタンスは、負荷自体のインダクタンスのみでなく、線路のインダクタンスも加算されるので、たとえ負荷のインダクタンスが小さくても、大電流を遮断すると、線路のインダクタンスによって誘導電圧が発生する。溶断されたヒューズに誘導される電圧がヒューズの耐圧を越えると、溶断したヒューズにアークが発生して、発火する等の弊害がある。定格電圧の高いヒューズは大型で部品コストも高く、各々の電池モジュールに定格電圧の高いヒューズを使用する電源装置は、全体が大きく、高価になる欠点がある。
【0003】
この欠点を解消するために、電池モジュールをヒューズを介して直列に接続すると共に、このヒューズに、高耐圧のヒューズを使用する電源装置が開発されている。(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の電源装置は、
図2に示すように、電池モジュール90のヒューズ92には定格電圧の高いヒューズを使用する必要はないが、電池モジュール90を直列に接続するために高耐圧のヒューズ93を必要とする。高耐圧のヒューズ93は電池モジュール90のヒューズ92よりも部品コストが高いので、この電源装置は、部品コストの高いヒューズを余分に使用する必要があって製造コストが高くなる。
【0006】
さらに、この電源装置は、電池モジュール90のヒューズ92を溶断することなく、高耐圧のヒューズ93を溶断する必要があるので、高耐圧のヒューズ93には、電池モジュール90のヒューズよりも先に溶断する特性が要求される。高耐圧のヒューズ93よりも電池モジュール90のヒューズ92が先に溶断されると、溶断した低耐圧のヒューズ92にアークが発生し、発火する等の弊害が発生するからである。電池モジュール90を直列に接続する高耐圧のヒューズ93を先に溶断するために、
図2の電源装置は、高耐圧のヒューズ93が溶断する電流を、電池モジュール90のヒューズ92よりも小さくして、電池モジュール90のヒューズ92よりも先に溶断するようにしている。
【0007】
選定する高耐圧のヒューズと電池モジュールのヒューズの溶断特性の差が小さい電源装置は、常に高耐圧のヒューズが電池モジュールのヒューズよりも先に溶断するとは限らないので、高耐圧のヒューズを確実に電池モジュールのヒューズよりも先に溶断させるためには、高耐圧のヒューズと電池モジュールのヒューズとの溶断特性の差を大きくする必要がある。この電源装置は、高耐圧のヒューズの溶断特性を、電池モジュールのヒューズよりも相当に早く、言い換えると、電池モジュールのヒューズの溶断特性を、高耐圧のヒューズよりも相当に遅くする必要がある。電池モジュールのヒューズは、電池モジュールの保護素子であって、電池モジュールを外部ショートから保護し、電池モジュールを直列に接続する高耐圧のヒューズは、電源装置を外部ショートから保護することからすれば、高耐圧のヒューズの溶断特性を、電池モジュールのヒューズよりも早くするのが理想である。しかしながら、高耐圧のヒューズを先に溶断するために、電池モジュールのヒューズの溶断特性を遅いものにした場合、溶断するタイミングがずれ、先に溶断したヒューズに高電圧が印加され、電池モジュールの外部ショートでヒューズを速やかに溶断することが難しく、電池モジュールのヒューズを、高い安全性を確保する保護素子として利用するのが難しい。
【0008】
本発明は、以上のような従来の電源装置の問題点を解消することを目的に開発されたもので、本発明の目的の一は、部品コストを低減しながら、電池モジュールを理想的な状態で保護して高い安全性を確保できる電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様にかかる電源装置は、電池と直列に接続してなるヒューズを備える複数の電池モジュールを直列に接続している電源装置であって、複数の電池モジュールが装備するヒューズを定格電流の10倍の電流が流れる状態における溶断時間が30msec以下である速断型のヒューズとしている。速断型のヒューズの定格電圧は、電池モジュールの出力電圧よりも高く、複数の電池モジュールを直列に接続してなるトータル電圧よりも低くしており、複数の電池モジュールに流れる過大電流により複数の電池モジュールの速断型のヒューズを溶断させるようにしている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電源装置は、部品コストを低減しながら、電池モジュールを理想的な状態で保護して高い安全性を確保できる特徴がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる電源装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、及びそれらの用語を含む別の用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が制限されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は同一もしくは同等の部分又は部材を示す。
さらに以下に示す実施形態は、本発明の技術思想の具体例を示すものであって、本発明を以下に限定するものではない。また、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図したものである。また、一の実施の形態、実施例において説明する内容は、他の実施の形態、実施例にも適用可能である。また、図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張していることがある。
【0013】
本発明の第1の発明の電源装置は、電池と直列に接続してなるヒューズを備える複数の電池モジュールが直列に接続されてなる電源装置であって、複数の電池モジュールが装備するヒューズを速断型のヒューズとしている。
【0014】
以上の電源装置は、電池モジュールのヒューズに速断型のヒューズを使用するので、電源装置が外部ショートして過大電流が流れると、各々の電池モジュールの速断型のヒューズが溶断される。速断型のヒューズは、溶断時間が短く、極めて短い時間帯で溶断されるので、電源装置の外部ショートなどで大きなショート電流が流れると、各々の電池モジュールのヒューズに過大電流が流れてジュール熱で発熱し、温度上昇して瞬間的に溶断される。外部ショート等の大電流で複数の電池モジュールのヒューズが溶断される電源装置は、電流遮断時に発生する高電圧が、溶断された複数の電池モジュールのヒューズに分圧して誘導される。したがって、以上の電源装置は、従来の装置のように、ひとつの電池モジュールのヒューズのみが溶断して、溶断されたヒューズに高電圧が誘導されることがなく、複数のヒューズが溶断されて、溶断されたヒューズに分圧して誘導される。したがって、溶断されたヒューズに高電圧が誘導されてアーク放電する等して、火花が発生する弊害を防止できる。
【0015】
さらに、以上の電源装置は、従来の特許文献1に示される電源装置のように、電池モジュールを高耐圧のヒューズで直列に接続することなく、溶断されたヒューズのアーク放電による火花の発生などを防止できるので、高価な高耐圧のヒューズを使用することなく、すなわち部品コストを低減してアーク放電による弊害を防止できる特徴がある。
【0016】
さらにまた、以上の電源装置は、特許文献1の装置のように、電池モジュールにヒューズを設けて、さらに電池モジュールを高耐圧のヒューズで直列に接続する必要がないので、電池モジュールのヒューズの溶断電流を、電池モジュールの外部ショートで確実に溶断できる設定電流にでき、電池モジュール単体を外部ショートから安全に保護しながら、電源装置全体を外部ショートなどの過大電流から安全に保護できる特徴がある。
【0017】
本発明の第2の発明の電源装置は、速断型のヒューズの定格電圧を、電池モジュールの出力電圧よりも高くし、複数の電池モジュールを直列に接続してなるトータル電圧よりも低くしている。
【0018】
本発明の第3の発明の電源装置は、全ての電池モジュールのヒューズを、速断型のヒューズとしている。
【0019】
以上の電源装置は、外部ショートなどの過大電流で、全ての電池モジュールのヒューズを溶断できるので、ヒューズが溶断された状態で、各々のヒューズに印加される電圧を極めて低くできる特徴がある。
【0020】
本発明の第4の発明の電源装置は、2組以上の電池モジュールのヒューズを、速断型のヒューズとしている。
【0021】
以上の電源装置は、外部ショートなどの過大電流で、複数の電池モジュールのヒューズを同時に溶断できるので、溶断後に単一ヒューズに過大電圧が印加されることを防ぐことができる。例えば、3組の電池モジュールのヒューズを速断型のヒューズとすることで、同時に溶断された一番上のヒューズから一番下のヒューズの端にトータル電圧が印加される、直列に接続された3組分のヒューズの耐圧は3組分の和の耐圧能力を有しており、アーク放電などによる弊害を防止できる。この電源装置は、溶断された個数のヒューズでアーク放電を防止できる装置において、速断型のヒューズの個数を少なくして、全ての電池モジュールのヒューズを速断型のヒューズとする装置に比較して、部品コストをより低減できる特徴がある。
【0022】
(実施の形態1)
図1のブロック図に示す電源装置100は、複数の電池モジュール10を直列に接続している。電池モジュール10は、複数の電池1を直列に接続して、保護素子のヒューズ2を電池1と直列に接続している。この電源装置100は、複数の電池モジュール10を直列に接続して、トータル電圧を高くしている。電源装置100のトータル電圧は、各々の電池モジュール10の出力電圧を加算した電圧となる。したがって、電源装置100は、用途に適した出力電圧とするように、直列に接続する電池モジュール10の個数を調整する。たとえば、n個の電池モジュール10を直列に接続して、トータル電圧を電池モジュール10の電圧のn倍にできる。
【0023】
電池モジュール10も、直列に接続する電池1の個数で出力電圧が特定できる。したがって、電源装置100は、たとえば、定格電圧を3.7Vとするリチウムイオン二次電池を27個、直列に接続して、電池モジュール10の出力電圧を約100Vとし、この電池モジュール10を8個、直列に接続してトータル電圧を800Vにできる。
【0024】
複数の電池モジュール10を直列に接続している電源装置100は、外部ショート等で過大なショート電流が流れると、電池モジュール10のヒューズ2が溶断する。この状態で、何れかひとつの電池モジュール10のヒューズ2のみが溶断されて、他の電池モジュール10のヒューズ2が溶断されないと、溶断されたヒューズ2には、トータル電圧を越える相当に高い電圧が誘導される。ヒューズ2が溶断して発生する誘導電圧は、電源装置100に接続している負荷のインダクタンスが蓄える電流のエネルギーに比例して高くなる。インダクタンスが蓄える電流のエネルギーは、遮断される電流の二乗とインダクタンスの積に比例して大きくなる。出力電圧の高い電源装置100は、大出力な用途に使用されることから、ヒューズ2が遮断されるときの電流も大きく、とくに外部ショートして流れるショート電流は極めて大きいので、インダクタンスのエネルギーも相当に大きくなる。このことから、多数の電池モジュール10を直列に接続している電源装置100は、ひとつのヒューズ2が溶断されるときに、ヒューズ2に相当に高電圧が誘導される。高い誘導電圧は、溶断されたヒューズ2をアーク放電させて火花などが発生する原因となる。
【0025】
電池モジュール10は、過大電流で溶断したヒューズに発生する誘導電圧よりも高耐圧のヒューズを使用して解消できる。しかしながら、複数の電池モジュール10を直列に接続している電源装置100は、ひとつのヒューズ2が溶断してヒューズ2に誘導される電圧は、トータル電圧の数倍と極めて高くなることがあるので、たとえばトータル電圧を800Vとする高電圧の電源装置100においては、ヒューズ溶断時に発生する誘導電圧が1000Vを越える高電圧となることがあるので、極めて高耐圧のヒューズを使用する必要がある。高耐圧のヒューズは大型で部品コストも高く、装置が大きくなってコストアップする欠点がある。
【0026】
本発明の実施形態1の電源装置100は、以上の弊害を防止するために、直列に接続している全ての電池モジュール10の内蔵ヒューズを速断型のヒューズ2Xとしている。速断型のヒューズ2Xには、たとえば、定格電流の10倍の電流が流れる状態における溶断時間を30msec以下、好ましくは20msec以下とする。このヒューズ2は、定格電流の10倍の電流が流れて、わずか2/100秒~3/100秒以下で溶断されるので、過大なショート電流が流れて溶断される時間幅が極めて狭く、ほとんど瞬時に溶断される。また、速断型のヒューズの構造は、消弧材入りで可溶体に狭小部がある構造である。したがって、各々の電池モジュール10に設けている速断型のヒューズ2Xが瞬間的に溶断される。電源装置100は、好ましくは、全ての電池モジュール10のヒューズ2を速断型のヒューズ2Xとする。この電源装置100は、外部ショートなどで大きなショート電流が流れると、全ての電池モジュール10のヒューズ2が溶断される。全ての電池モジュール10のヒューズ2が溶断される電源装置100は、直列に接続されたヒューズ2の一番上から一番下の間でトータル電圧を受けることが可能となる。したがって、電池モジュール10のヒューズ2の定格電圧は、電池モジュール10の出力電圧に耐える、たとえば電池モジュール10の出力電圧を100Vとする電源装置100にあっては、速断型のヒューズ2Xの定格電圧を、100Vの電池モジュール10を溶断して発生する誘導電圧に耐える電圧、たとえば、定格電圧を250Vとする速断型のヒューズ2Xが使用できる。
【0027】
電源装置は、外部短絡に対して必ずしも全ての電池モジュールにヒューズを備える必要はない。たとえば、100Vの出力電圧の電池モジュール10を8個、直列に接続する電源装置にあっては、4個の電池モジュールのヒューズを定格電圧250Vの速断型のヒューズとして、残りの電池モジュールにはヒューズを備えないとすることができる。この電源装置は、外部ショート等のショート電流で、4個の速断型のヒューズが溶断されて、4個のヒューズの一番上から一番下に800Vが印加されるが、250V耐圧4個分の耐圧能力により、アーク放電などによる弊害を防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、複数の電池モジュールを直列に接続してなる電源装置において、高い安全性を確保できる電源装置として好適に使用できる。
【符号の説明】
【0029】
100…電源装置
1…電池
2…ヒューズ
2X…速断型のヒューズ
10…電池モジュール
90…電池モジュール
92…ヒューズ
93…高耐圧のヒューズ