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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】膜蒸留脱塩技術のための膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/34 20060101AFI20240829BHJP
   B01D 61/36 20060101ALI20240829BHJP
   C08J 9/26 20060101ALI20240829BHJP
   C01B 32/168 20170101ALI20240829BHJP
   C01B 32/174 20170101ALI20240829BHJP
【FI】
B01D71/34
B01D61/36
C08J9/26 102
C08J9/26 CEW
C01B32/168
C01B32/174
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021517961
(86)(22)【出願日】2019-10-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 ZA2019050063
(87)【国際公開番号】W WO2020073064
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-08-16
(31)【優先権主張番号】2018/06582
(32)【優先日】2018-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ZA
(73)【特許権者】
【識別番号】517395677
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ サウス アフリカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マプンダ、エドガー
(72)【発明者】
【氏名】ムサガティ、ティトゥス
(72)【発明者】
【氏名】マムバ、ベヘキエ
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-504946(JP,A)
【文献】特表2014-521808(JP,A)
【文献】Edgar C. Mapunda et.al,Carbon nanotube embedded PVDF membranes: Effect of solvent composition on the structural morphology for membrane distillation,Physics and Chemistry of the Earth, Parts A/B/C,Elsevier,2017年08月31日,vol.100,135-142
【文献】Qian Li et.al,Preparation and characterization of PVDF microporous membrane with highy hydrophobic surface,polymers for advanced technologies,John Wiley &Sons,2009年09月14日,vol.22, issue 5,520-531
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
C08J 9/26
C01B 32/168
C01B 32/174
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非溶媒誘導相分離(NIPS)を使用した塩水の膜蒸留(MD)処理のための多層カーボンナノチューブ配合ポリフッ化ビニリデン(MWCNT/PVDF)膜を生成する方法であって、
当該方法は、溶解度パラメータが異なる2つの溶媒であるリン酸トリエチル(TEP)とN,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)とを混合すること、及び、膜細孔構造の形成を制御し、表面疎水性を高めるために、TEP、DMAC及び水の混合物を含む第一の浴と、その後、非溶媒として純水を含む第二の浴とを備える二重凝固浴系を使用することを含み、それによってブレンドMWCNT/PVDF膜がMDプロセスにおける適用のために生成され、
使用される細孔形成剤はエチレングリコール(EG)である、当該方法。
【請求項2】
質量比1:1のTEPとDMACの混合物中に前記MWCNT 0.2重量%を分散させ、それによって81重量%のドープ溶液を作製することを含み、残りの19重量%はPVDF粉末とエチレングリコールに由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
MWCNTの分散が、前記ドープ溶液を少なくとも1時間超音波処理することによって行われる、請求項に記載の方法。
【請求項4】
細孔形成剤を前記混合物に添加し、続いて15重量%のPVDFを添加する、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記細孔形成剤がEGであり、4重量%の割合で使用される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記混合物を60~70°Cで最大24時間機械的に撹拌する、請求項~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ドープ溶液を室温で最大24時間冷却したままにする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
調製された、前記ドープ溶液を、キャスティングナイフを使用して100μm~600μmの厚さでガラスプレート上の薄いMWCNT/PVDF膜フィルム上にキャストする、請求項2~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記厚さが300μmである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
上部にキャストされたMWCNT/PVDF膜を有する前記ガラスプレートを、最初に、40%の水及び60%のTEPとDMACとの混合物(2:3)を含む凝固浴に最大30秒間浸漬する、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記キャストされたMWCNT/PVDF膜を有する前記ガラスプレートを、次に、純水を含む第二の凝固浴に浸漬して、沈殿プロセスを完了させる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
沈殿したMWCNT/PVDF膜を脱イオン水に最大24時間浸漬して、前記溶媒を完全に除去する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記MWCNT/PVDF膜を、特性評価及び適用の準備ができた状態で、室温にて空気中で乾燥させる、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜蒸留脱塩技術のための膜に関する。特に、本発明は、高度に疎水性の多層カーボンナノチューブ配合ポリフッ化ビニリデン(MWCNT/PVDF)膜に関する。本発明はまた、MWCNT/PVDF膜の調製プロセス及びそれらの産業用途にも及ぶ。本発明の膜は、相互接続された結晶性ノジュールを有する高度に疎水性の表面及びスポンジ状の内部構造を有する。
【背景技術】
【0002】
膜蒸留(Membrane distillation:MD)は、微孔性疎水性膜を介した水蒸気の輸送を含む分離技術であり、駆動力は、膜側面間の温度差によって生成される蒸気分圧勾配である。圧力勾配は、より温かい供給溶液から来る水蒸気が疎水性膜細孔を通ってより冷たい透過側に移動し、不揮発性の溶解した溶質を残すことを可能にする。
【0003】
膜蒸留は、逆浸透(RO)、多段フラッシュ蒸留(MSF)及び多重効用蒸留(MED)などの脱塩のための従来の技術が現在直面している課題に対処する能力に対して多くの魅力的な特徴を示している。しかしながら、脱塩のための現在までのMD技術は、大規模な商業用途には利用できない。主な理由の1つは、MD用途のために特別に設計された膜がないことである。現在、MD研究作業及びパイロットプラントは、限外濾過及び精密濾過分離技術から採用された膜を利用しており、これは低い水流束を生じ、汚損/スケーリングを起こしやすい。MDプロセスでの適用のために新しい膜が設計及びそれ専用に製作される必要があることは、科学界において十分に合意されている。
【0004】
膜科学とナノテクノロジーを組み合わせることを含む膜開発アプローチは、MD膜の謎を解決することへの実行可能な方向として科学者の間で注目を集めている。様々なナノ材料の中でも、カーボンナノチューブは、膜ポリマーマトリックス内にブレンドされた場合に独自の膜を生成する可能性がより高い。
【0005】
カーボンナノチューブ(CNT)は、グラファイトの円筒状シートからなる同素体形態の炭素である。それらの外観は、フェンシングワイヤの巻き上げチューブのようである。CNTには、単層(SWCNT)と多層(MWCNT)の2種類がある。SWCNTは、1つのグラフェンシェルでできた円筒形状からなる。これに対し、MWCNTは、グラフェンシートの複数の円筒状の層で作製されている。図1は、単層カーボンナノチューブと多層カーボンナノチューブとの違いを示す(出典:https://www.quora.com/What-is-the-difference-between-single-walled-and-multi-walled-carbon-nanotubes、2017年10月5日にアクセス)。
【0006】
CNTは過去数十年間にわたって広く研究されてきたが、膜水処理、特に脱塩におけるその適用は依然として概念である。CNTは、水処理、特に膜技術においてそれらを魅力的にするいくつかの固有の特性を有する。それらの中空管の外側及び内側コアの滑らかで疎水性の表面は、高い流量での水分子の無摩擦運動を可能にする。CNTは、それらが有する固有の微生物活性のために膜表面上の微生物増殖を防止する能力を有し、したがって、膜脱塩活性におけるバイオファウリングを有意に防止することができる。CNTはまた、膜にブレンドされた場合、機械的強度を改善することが報告されている。
【0007】
膜脱塩用途におけるCNTの有望な可能性にもかかわらず、膜の薄い表面層上でCNTを適切に整列させることの困難さは、依然として課題である。水処理のための膜にCNTを組み込むことに関するかなりの量の研究が、逆浸透、限外濾過(UF)、ナノ濾過(NF)及び精密濾過(MF)などの他の膜技術についての文献で利用可能である。MD用途のための膜におけるCNTの適用に関しては、利用可能な情報はより少ない。Dumee et al.,J.Memb.Sci.351(2010)36-43は、直接接触膜蒸留(DCMD)脱塩のための、113°という高い表面接触角、高い多孔度、及び比較的低い熱伝導率(2.7kW/mh)を有するCNT嵩高紙膜を調製した。しかしながら、嵩高紙膜は、DCMD脱塩に適用された場合、層間剥離及びクラッキングを受けることが報告された。CNTは、接着材料としてPVDF溶液を使用して、ポリプロピレン中空糸膜の細孔内に固定化されることも報告されている(Gethard et al.,ACS Appl.Mater.Interfaces 3,(2011)110-114)。これらの膜は、それらの対応物と比較して、MD用途において優れた性能を有することが報告された。しかしながら、接着剤溶液としてPVDFを使用すると、CNT固定化膜の膜細孔径及び多孔度の減少をもたらす。Silva et al.,Desalination,357,(2015)233-245は、MD用途のために転相法を介してMWCNTブレンドPVDF膜を調製した。彼らは、0.2%のプリスティン(pristine)MWCNTとブレンドしたPVDF膜が、官能化されたMWCNT又は市販の膜とブレンドしたものよりも、DCMD脱塩においてより良好に機能することを見出した。DCMDで観察された高い膜性能にもかかわらず、MWCNTブレンド膜は、報告された市販の膜(接触角119°)と比較して表面疎水性がより低かった(<95°)。CNTがMD用途のための膜の分野で提供できる可能性を明らかにするために、さらに多くの作業が行われる必要がある。
【発明の概要】
【0008】
本発明では、混合溶媒及び二重凝固浴を使用して導入される利点に加えて、カーボンナノチューブによって提供される潜在的な利益を用いて、先に製造されたCNT複合膜の欠点に対処する、MDプロセスにおける適用に適した独特の特性を有する複合PVDF膜を調製した。
【0009】
本発明によれば、塩水のMD処理のための多層カーボンナノチューブ配合ポリフッ化ビニリデン(MWCNT/PVDF)膜は、非溶媒誘導相分離(non-solvent induced phase separation:NIPS)法を用いて調製される。合成手順は、異なる溶解度パラメータを有する2つの溶媒を混合し、二重凝固浴系を使用して膜細孔構造の形成を制御し、表面疎水性を高めることを含む。MWCNTの存在下で2つの合成アプローチを組み合わせることによって、ブレンドPVDF膜がMDプロセスにおける適用のために生成される。
【0010】
この方法は、1:1の質量比のリン酸トリエチル(TEP)とN,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)の最適化された混合物中にプリスティン(pristine)MWCNT(0.2重量%)を分散させ、それによって81重量%の最終ドープ溶液を生成することを含んでもよい。
【0011】
MWCNT分散は、溶液を1時間以上超音波処理することによって行ってもよい。
【0012】
細孔形成剤である4重量%のエチレングリコール(EG)を混合物に添加し、続いて15重量%のPVDFを添加してもよい。
【0013】
混合物を、60~70°Cで最大24時間機械的に撹拌してもよい。
【0014】
ドープ溶液は、室温で最大24時間冷却したままにしてもよい。
【0015】
調製されたドープ溶液は、キャスティングナイフを使用して100μm~600μm、典型的には300μmの厚さでガラスプレート上の薄膜フィルム上にキャスト(cast)してもよい。
【0016】
上部に新生膜(nascent membrane)を有するガラスプレートを、最初に、40%の水及び60%のTEPとDMACとの混合物(2:3)を含む凝固浴に最大30秒間浸漬してもよい。
【0017】
次いで、その膜を有するガラスプレートを、純水を含む第二の凝固浴に浸漬して、沈殿プロセスを完了してもよい。
【0018】
沈殿した膜を脱イオン水に最大24時間浸漬して、溶媒を完全に除去してもよい。
【0019】
次いで、特性評価及び適用の準備ができた状態(ready for)で、膜を室温にて空気中で乾燥させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】単層カーボンナノチューブと多層カーボンナノチューブの違いを示す。
図2】本発明の膜、表面(A)および断面(B)のSEM画像を示す。
図3】製造したDCMDモジュールの概略図を示す。
図4】内部にポリエステルメッシュスペーサを備えたDCMD膜セルの写真を示す。
図5】異なる温度での膜の透過流束(A)および脱塩(B)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
上記のように本発明の膜を一般的に特性評価し、海水のDCMD脱塩における性能について試験した。本発明のMWCNT/PVDF膜は、以下の固有の特性を有することが分かった:形態学的に、本発明の膜は、繊維のネットワークによって相互接続された球状の口蓋様ノジュール(palate like nodules)で構成される粗い膜表面を有する微孔性であった(図2A)。図2Bは、本発明のMWCNT/PVDF膜が対称であり、内部断面構造がスポンジ状構造からなることを示した。これらの特徴は独特であり、MDプロセスで適用された場合に有益である。本発明の膜の表面は、135±1.1°の平均水滴接触角を有する高度に疎水性であった。膜は、1.16±0.01μmの平均孔径及び66.0±1.5μmの平均多孔度を有していた。膜の液体侵入圧力は250kPaであることが分かった。
【0022】
図2A及び図2Bは、本発明の膜、表面(A)及び断面(B)の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【0023】
本発明のMWCNT/PVDF膜を、自己設計し、製造した実験室DCMDユニットを使用して海水脱塩における性能について試験し、結果を、市販のPVDF膜及びMWCNTなしで合成したPVDF膜について同様の方法で得られた結果と比較した。結果は、本発明のMWCNT/PVDF膜が最も高い平均水流束(34.0±2.6L/m時)を有し、MWCNTなしで合成したPVDF膜(27.9±0.3L/m時)がこれに続くことを示した。同じDCMD操作条件下で、市販のPVDF膜は、平均透過流束が最も低かった(26.6±0.2L/m時)。すべての膜について脱塩は海水に関して高かった(99.99%超)。MWCNT/PVDF膜から得られた高水流束には、追加の経路を提供し、その壁の摩擦力を低減することによって膜を横切る水蒸気流を増強するMWCNTの存在が寄与した。
【0024】
本発明のMWCNT/PVDF膜は、カーボンナノチューブを含まないPVDF膜と比較して、MD用途における水流束に関してより効率的であることが証明された。MWCNT/PVDF膜を合成する修正された方法は、商業的に得られる膜に比べてより良好に機能する膜をもたらした。
【0025】
本発明のMWCNT/PVDF膜の独特の特徴は、組成、形態及び膜が合成された方法にある。本発明の膜は、プリスティン(pristine)MWCNTとブレンドされたPVDFポリマーから構成される。PVDF膜マトリックス中のMWCNTの存在は、水分子のための追加の経路を提供するが、MWCNTの壁が水分子に対して摩擦のない流れを提供するので、より少ない流れ抵抗(より少ない摩擦力)も提供する。
【0026】
本発明のMWCNT/PVDF膜の形態学的特性は独特であり、膜の用途に合わせて調整される。本発明の膜の表面形態は、繊維のネットワークで相互接続された球状の口蓋(palates)で構成され、これにより表面が粗く見えている(図2A)。膜表面のこの粗さは、これらの膜について記録された膜表面と水滴との間の高い接触角(平均135°)の原因である。一方、膜断面全体はスポンジ状構造で作製されている。膜のスポンジ状構造は、適度な膜多孔度の原因であり、MD適用中の湿潤に対する耐性を高める。
【0027】
本発明のMWCNT/PVDF膜の合成方法もまた、いくつかの合成アプローチを1つに組み合わせたため、独特であった。膜は、一般的な非溶媒誘導相分離技術を使用して調製したが、純粋な溶媒の代わりに溶媒の混合物(リン酸トリエチル(TEP)及びN,N-ジメチルアセトアミド(DMAC))(1:1)を使用した。また、TEP、DMAC及び水の混合物を含む浴に新生膜(nascent membrane)を浸漬することによって膜の沈殿速度を制御する二重凝固浴系を使用した。その後、非溶媒として純水を含む浴に前処理した新生膜を浸漬することによって、完全な膜沈殿を達成した。この合成工程の組合せは、MWCNTを含むPVDF膜について以前には報告されておらず、したがって本発明に独特のものである。
【0028】
本発明の膜は、膜蒸留脱塩及び関連産業における用途に適しており、現在入手可能な市販のPVDF膜よりも高い水流束を提供することが示されている。さらに、本発明の膜は汚損/スケーリングに対してより耐性であることが証明されており、したがって非常に高濃度の溶解溶質の塩水を処理するために使用することができる。結果として、本発明の膜は、市販のPVDF膜を使用して得られるよりも高い水回収率を提供することができる。一方で、本発明の膜によって提供される脱塩は、供給源/給水中の非常に高濃度の溶解溶質であっても高い。
【0029】
本発明のMWCNT/PVDF膜の潜在的な用途は、膜蒸留技術を使用することによって純粋な飲料水を得るための塩水源の処理である。膜はまた、不揮発性薬物の濃縮のために製薬において使用することができる。MWCNT/PVDF膜は、製品の濃縮物を作製するために果汁及び乳製品産業においてさらなる適用可能性を有する。
【0030】
実験では、多層カーボンナノチューブ-ポリフッ化ビニリデン膜の膜蒸留による脱塩の性能を試験した。以下に記載するDCMDユニットを使用して、合成した膜の脱塩性能の膜蒸留検査を実施した。
【0031】
<膜の調製>
多層カーボンナノチューブが埋め込まれたPVDF膜を、1:1の組成比のDMAC及びTEP溶媒混合物を使用する非溶媒誘導相分離(NIPS)法によって調製した。MWCNTの最適なローディングを使用し、0.2重量%のプリスティン(pristine)MWCNTを適切な量のDMACに分散させ、1時間超音波処理した。次に、適切な量のTEPを分散したMWCNTに添加し、さらに30分間超音波処理した。15重量%のPVDFポリマー及び4重量%の細孔形成剤(エチレングリコール)を上記混合物に溶解し、24時間機械的に撹拌して完全な溶解を確実にした。ドープ溶液を室温で24時間冷却して、気泡を除去した。ドープ溶液を、キャスティングナイフ(Elcometer 3580/7)を使用して300μmの厚さでなめらかなガラスプレート上の薄膜フィルムにキャスト(cast)した。新生薄膜フィルム付きのガラスプレートを、最初に、40%の水及び60%のTEP/DMAC混合物(2:3)からなる凝固浴に最大30秒間浸漬した。その後、新生膜(nascent membrane)を、純水を含む第二の凝固浴に移して、沈殿プロセスを完了させた。完全に沈殿した膜を脱イオン水に24時間浸漬して、すべての溶媒が完全に除去されることを確実にした。次いで、膜を室温にて空気で乾燥させ、特性評価し、MDでの脱塩性能について試験した。MWCNTを含まないPVDF(ニートPVDF)を含む膜の別のセットも、比較目的のために合成した。
【0032】
<膜特性の決定>
乾燥して合成した膜を、一連の特性評価技術を用いて分析して、物理化学的特性を決定した。膜の表面及び断面の形態の分析のために、分析走査型電子顕微鏡(SEM)、JOEL JSM-6010PLUS/LAを使用した。膜試料をコーティングするために金スパッタリングを使用し、適切な加速電圧及び倍率で走査を実施した。
【0033】
膜表面と水との間の接触角(CA)を、ビデオ撮像システムを備えたKruss DSA 30E装置を使用して測定した。液滴法を使用し、脱イオン水の2μLの液滴を自動シリンジを使用して膜試料の表面上に配置し、装置を制御するために使用されるコンピュータの高度なソフトウェアを使用して水滴と膜表面との間の接触角を計算した。各膜試料上の最小10個の異なる切片を分析し、平均値をそれぞれの膜の接触角とした。すべての測定は室温で行った。
【0034】
膜の機械的強度を、600 NロードセルのTS600引張ステージと連結されたAnton Paar SAXSpace装置で分析した。各膜からの3つの試料を2.0mm/分の速度で分析し、平均値を膜の強度とみなした。
【0035】
膜の孔径及び孔径分布を、Quantachrome Instruments Porometer 3Gzを使用するキャピラリフローポロメトリ法によって決定した。膜試料を必要なサイズに切断し、試料ホルダーチャンバに入れた。次いで、Porofil湿潤液を使用して試料を湿潤させ、試料チャンバを気密に閉じた。窒素ガスを膜全体にわたって加圧し、ガスが流れるように膜の細孔を開きながら、湿潤液を膜の反対側に押し出した。大きな膜細孔が最初に開き、小さな細孔が最後に開いた。膜全体のガス圧及び流量を装置ソフトウェア(3GWin V2 Porometerソフトウェア)によって検出及び記録し、膜試料の孔径分布を決定するために使用した。
【0036】
液体透過性付属品を備えたQuantachrome Instruments Porometer 3Gzを使用して、水液体侵入圧力(LEP)も決定した。膜試料を試料ホルダーに入れ、脱イオン水を加圧した。単圧点モードを使用し、目標圧力を設定し、10分間保持した。膜を横切る水流が検出される点まで、目標圧力を10kPaの間隔で上昇させた。水流が観察された圧力を膜のLEPとみなした。
【0037】
<DCMD脱塩ユニットの説明>
設計及び製造したDCMDモジュールの概略図を図3に示す。モジュールは、膜セル、加熱要素を備えた1Lの供給溶液リザーバ、チラーに接続された0.55Lの留出液リザーバ、ダブルヘッド蠕動ポンプ、温度センサ、導電率計、水流計及び接続管からなる。
【0038】
膜セルは長方形であり、環境への熱損失を低減するためにアクリルプラスチック(Perspex)で作製された。2つのアクリルブロックに流路を彫って、供給流路ハーフセル及び留出液流路ハーフセルの2つのハーフセルを作製した。2つのブロックは、セルに入る供給流と透過液流を分離する平坦なシート膜を間に保持しながら、ねじで接合され、締め付けられるように設計した。各チャネルは、深さ1.5mm、幅50mm、長さ70mmで、全膜活性表面積は0.0035mになった(図4は、内部にポリエステルメッシュスペーサを備えたDCMD膜セルの写真である)。ポリエステルメッシュスペーサを各膜ハーフセルに設置して、乱流を促進し、均一な流れ分布を確実にした。供給溶液を1Lリザーバから膜セルを通って循環させ、蠕動ポンプを用いてリザーバに戻した。供給リザーバを加熱要素上に配置した。冷却剤としての脱イオン水を蠕動ポンプによって留出液リザーバから膜セルに循環させ、リザーバに戻した。留出液リザーバは、2つの別個の水循環チャネルを備えた二重壁(ジャケット付き)シリンダで作製した。冷却効果を提供するために、外側循環をチラーに接続した。内側容器は、過剰な留出液を収集容器内にあふれさせるためにオーバーフローチャネルに接続された実際の留出液タンクであった。ポリプロピレンパイプを使用して、供給液及び透過液循環チャネルを接続した。周囲への熱損失を防ぐために、すべてのパイプを断熱発泡体で覆った。膜セルへの各循環チャネルの入口と出口に温度センサを設置した。ポンプと膜セルへの入口との間の供給液及び透過液循環ループに、それぞれ1つの水流量計を設置した。溶液の導電率のオフライン決定は、導電率計を使用して行った。しかしながら、互換性のある導電性電極が利用可能になったときのオンライン導電率測定のために、各循環ループを準備した。
【0039】
<DCMDモジュールの動作>
DCMDモジュールは、2つの独立した水循環ループ、原水(供給)ループ及び処理水(透過)ループで構成される。膜セル内で、2つの循環ループは、液体水が膜を一方の側から他方の側に横断することを防止するが、水蒸気の横断は許容する、微孔性疎水性膜によって分離されている。製造されたDCMDモジュールでは、最初に疎水性膜が膜セルに設置され、セルはそれぞれの循環ループに接続される。膜は、セル内に循環されるときに膜の活性側が原水に面するように設置される。原水は、供給リザーバに充填され、所望の高温に加熱される。脱イオン水(清浄水)は、冷却装置に接続された処理済み水のタンクに充填される。透過液タンク内の脱イオン水は、原水から抽出されると水蒸気の凝縮を引き起こすより低い温度に冷却される。供給タンク及び透過液タンク内で目的の温度に達すると、循環ポンプがオンに切り替えられ、ポンピング速度が必要な流量の速度に調整される。各循環ループに設置された水流計は、膜セル内の膜を横切って循環する水の流量を決定するのに役立つ。気泡が膜セル内に閉じ込められないことを確実にするように注意する。水の循環が開始された後、透過液タンク内の水位はオーバーフローアームの下方に低下する。水がオーバーフローアームを通って流れ始めるレベルまで、追加の脱イオン水が透過液タンクに添加される。透過液タンク内の脱イオン水のオーバーフローは、システムが安定した後に停止する。次いで、使用される給水入口温度に応じて、プロセスは約20~60分間平衡化される。温度が高いほど、MD駆動力の増加によってシステム平衡が速くなる。この時間中、蒸留の結果である透過液の最初の液滴が透過液タンクのオーバーフローチャネル内で観察される。次いで、透過液は、オーバーフローチャネルから別の容器に収集される。分析者は、透過液収集の開始時点で記録を開始して、所与の期間におけるDCMD透過速度(透過流束)を決定する。フラックス透過は、操作ベース及び膜ベースの両方のいくつかの因子に依存する。異なる膜は、膜特性の違いのために、同様の運転条件で異なる透過液生成速度を有する。同様に、供給入口温度、供給溶液濃度、流量、及び膜全体の温度の全体的な変化などの異なる動作条件は、同じ膜に対して異なる透過流束をもたらす。
【0040】
DCMD脱塩プロセスにおける脱塩効率は、蒸留プロセスの開始前の原水の導電率の測定によって決定される。また、導電率は、プロセス開始前の脱イオン水及び実験後に収集された透過液について測定される。
【0041】
<DCMD脱塩における膜性能の決定>
膜蒸留プロセスにおける合成したMWCNT/PVDF膜の性能を、記載されている製造したDCMD設定を用いて異なる供給入口温度でDCMD実験を実施することによって評価した。供給入口温度を40から70°Cまで変化させ、24L/時の供給流量で循環させた。実験全体を通して透過液入口温度を20°C及び24L/時の流量に維持した。水蒸気流束及び脱塩測定を2時間ごとに行いながら、各実験を少なくとも6時間実行した。各実験を設定した後、データ記録を開始する前に実行し、平衡化させた。供給液及び透過液の初期及び最終導電率(EC)を、YSI Professional Plusフィールドメータを使用して決定し、収集した透過液の体積をメスシリンダによって決定した。水蒸気流束及び脱塩を後で式1及び2を使用して決定し、式中、Cfは供給液の濃度であり、Cpは透過液の濃度である。ニートPVDF合成膜及び市販のPVDF膜(HVHP 29325)について同様のMD性能実験を実施し、結果を比較した。
【0042】
式1
【数1】
【0043】
式2
【数2】
【0044】
膜の物理的特性
接触角、平均孔径、多孔度、厚さ及び液体侵入圧力についての膜特性評価実験の結果を表1に示す。MWCNTを含む及び含まない合成膜について、膜表面と水滴との間の平均接触角135°を記録した。これらの膜のより高い湿潤耐性は、使用される二重凝固浴系が果たす役割である、膜上の表面スキン層の除去に起因している。
【0045】
【表1】
【0046】
<膜の性能>
MD性能実験から得られた結果は、図5Aに示す通りである。MWCNT/PVDF膜は、検討したすべての供給入口温度でほぼ最高の透過流束を有することが分かった。例えば、70°Cの供給入口温度では、MWCNT/PVDF膜からの透過流束は、ニートPVDF膜及び市販のPVDF膜よりもそれぞれ22%及び27.8%高かった。ニートPVDF膜及び市販のPVDF膜と比較してMWCNT/PVDFの高い透過流束は、追加の経路を提供することによって、及び/又はカーボンナノチューブの表面上の流れ抵抗を低減することによって、水蒸気輸送を促進するMWCNTの存在に起因する(Gethard and Mitra,Analyst 136,(2011)2643-8)。供給入口温度を40°Cから70°Cに上昇させると、使用した3つの膜タイプすべてにおいて透過流束の増加が有意に誘導されることが分かった。供給入口温度を40から70°Cに上昇させた場合、MWCNT/PVDF膜について4.86倍の最大流束増分が記録された。70°Cで記録された最大透過流束は34.0L/m時であった。温度による透過流束の増加は、水蒸気駆動力の増加によるものであった。MDの駆動力である水蒸気圧は、供給入口温度が上昇すると上昇する。これは、より高い温度では水分子の運動エネルギーが高くなり、液膜界面での蒸発速度がより高くなるためである。
【0047】
一方、すべての膜は、検討した供給入口温度範囲全体にわたって99.98%より高い不揮発性溶解溶質の脱塩を有することが観察された(図5B)。これは、湿潤に対する膜耐性が供給液の温度変化によって有意に影響されなかったことを示す。

図1
図2
図3
図4
図5