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特許7545963改善されたシャフトシールを有する排気タービン過給機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】改善されたシャフトシールを有する排気タービン過給機
(51)【国際特許分類】
   F02B 39/00 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
F02B39/00 N
F02B39/00 K
F02B39/00 H
F02B39/00 R
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2021521200
(86)(22)【出願日】2019-10-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(86)【国際出願番号】 EP2019078178
(87)【国際公開番号】W WO2020079128
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-10-03
(31)【優先権主張番号】18201214.6
(32)【優先日】2018-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】522056149
【氏名又は名称】ターボ システムズ スウィッツァーランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Turbo Systems Switzerland Ltd
【住所又は居所原語表記】Bruggerstrasse 71a, 5400 Baden, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クライエンカンプ,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】マウラー,フローリアン
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-065829(JP,A)
【文献】特開平09-310620(JP,A)
【文献】国際公開第2010/135135(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2015/0337721(US,A1)
【文献】国際公開第2017/026292(WO,A1)
【文献】特開2004-068820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 33/00-41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンプレッサ(2)とタービン(4)との間に配置され、シャフト(6)を支持するために形成された軸受装置(7)を含み、前記軸受装置が軸受ハウジング(8)を有し、前記軸受ハウジング内に、前記シャフトを支持するための油潤滑された軸受(9)が配置されている、排気タービン過給機(1)であって、
- 前記シャフトは、潤滑油を放出するための周方向に延在する噴射要素(10)を有し、
- 前記軸受ハウジングは、前記軸受ハウジング(8)から前記潤滑油を排出するための油流出通路(11)を有し、
- 前記軸受ハウジングの内部領域は、前記シャフトと前記軸受ハウジングとの間に配置されたシール(13、24)により密封された油区画室(12)を形成し、
- 前記油区画室が偏向手段(14)を有し、前記偏向手段は、前記排気タービン過給機の運転中に前記噴射要素によって放出される前記潤滑油が前記偏向手段によって偏向され、かつ前記シールとは逆の方向に導かれるように成形され、
- 前記油区画室は、前記排気タービン過給機の運転中に前記噴射要素によって放出される前記潤滑油が前記噴射要素から前記偏向手段へ直接移送され得るように前記噴射要素の周辺に形成され、
- 前記噴射要素(10)は、前記噴射要素によって噴射される前記潤滑油が径方向成分と軸方向成分とを有するように成形され、前記軸方向成分が前記シールとは逆の方向に向けられる、排気タービン過給機。
【請求項2】
前記油区画室は、軸方向で前記噴射要素(10)の隣に配置された前記シャフト(6)の区分において、前記軸受ハウジング(8)と接続された軸受フランジ(15)によって前記シャフトに向けて画定される、請求項1に記載の排気タービン過給機。
【請求項3】
前記偏向手段(14)は、軸受ハウジング壁(18)の構成要素である、請求項1又は請求項2に記載の排気タービン過給機。
【請求項4】
前記偏向手段(14)は、前記油区画室(12)に挿入されるリングである、請求項1又は請求項2に記載の排気タービン過給機。
【請求項5】
前記偏向手段(14)は、円錐形に形成されている、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の排気タービン過給機。
【請求項6】
前記偏向手段(14)は、弓形に形成されている、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の排気タービン過給機。
【請求項7】
前記噴射要素(10)は、シャフト肩部(19)である、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の排気タービン過給機。
【請求項8】
前記噴射要素(10)は、自由端をなす遠心ディスク(20)である、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の排気タービン過給機。
【請求項9】
前記油区画室(12)の横断面は、前記噴射要素(10)と前記偏向手段(14)との間の領域において、前記シャフト(6)からの距離が増加するに伴い拡大し、前記噴射要素(10)と前記偏向手段(14)との間の領域における前記油区画室(12)の前記横断面の拡大は、少なくとも部分的に軸受フランジ(15)における切欠き(21)によって生成されている、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の排気タービン過給機。
【請求項10】
前記油区画室(12)の横断面は、前記噴射要素(10)と前記偏向手段(14)との間の前記領域において、前記シャフト(6)からの距離が増加するに伴い段階的に拡大する、請求項9に記載の排気タービン過給機。
【請求項11】
前記油流出通路(11)は、前記軸受ハウジング(8)の油流出オリフィス(22)の領域において円筒状に形成され、前記円筒状に形成された領域と前記シャフト(6)との間に、前記シャフトの方向に斜めに延びる油流出ランプ(23)を有し、前記油流出ランプによって前記油流出通路(11)が前記シャフト(6)の方向に拡張されている、請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の排気タービン過給機。
【請求項12】
前記油流出ランプは、前記円筒状に形成された領域に続く第1ランプ領域において前記シャフトに相対して45°~80°の範囲の第1角度をなす、請求項11に記載の排気タービン過給機。
【請求項13】
前記油流出ランプは、前記第1ランプ領域に続く第2ランプ領域において前記シャフトに相対して30°~45°の範囲の第2角度をなす、請求項12に記載の排気タービン過給機。
【請求項14】
噴射される前記潤滑油に対して前記シールを遮蔽するために前記シャフト(6)の下方の領域に配置されている遮蔽体(24)を有する、請求項1~請求項13のいずれか1項に記載の排気タービン過給機。
【請求項15】
前記排気タービン過給機の前記シャフト(6)の直径に相対する前記油流出通路(11)の前記円筒状に形成された領域の直径が次の関係で表され、
F/D>0.7、
但し、Fは、前記油流出通路の前記円筒状に形成された領域の直径であり、Dは、前記排気タービン過給機の前記シャフトの直径である、請求項11~請求項14のいずれか1項に記載の排気タービン過給機。
【請求項16】
次の関係で表され、
(A+C)/D>2.7、
但し、Aは、前記油流出オリフィスから離れたところにある前記油流出ランプの端と前記シャフトとの距離であり、Cは、前記油流出オリフィスに近いところにある前記油流出ランプの端と前記シャフトとの距離であり、Dは、前記シャフトの直径である、請求項11~請求項15のいずれか1項に記載の排気タービン過給機。
【請求項17】
次の関係で表され、
G/H<1、
但し、Gは、スクイズオイルダンパ隙間の遮蔽であり、Hは、前記排気タービン過給機のラジアル軸受の外径である、請求項11~請求項16のいずれか1項に記載の排気タービン過給機。
【請求項18】
次の関係で表され、
H/D<1、
但し、Hは、前記排気タービン過給機のラジアル軸受の外径であり、Dは前記シャフトの直径である、請求項11~請求項17のいずれか1項に記載の排気タービン過給機。
【請求項19】
次の関係で表され、
B/D>0.2、
但し、Bは、捕捉チャンバの高さであり、Dは、前記シャフトの直径である、請求項11~請求項18のいずれか1項に記載の排気タービン過給機。
【請求項20】
前記偏向手段は偏向コーンを有し、次の関係で表され、
X/Z<1、
但し、Xは、前記シャフトと前記偏向コーンとの間の角度であり、Zは、前記シャフトから前記偏向コーンの方向への前記潤滑油の噴射角度である、請求項11~請求項19のいずれか1項に記載の排気タービン過給機。
【請求項21】
前記偏向手段は偏向コーンを有し、次の関係で表され、
(J+sin(X)・E)/D>0.5、
但し、Jは、前記シャフトの近くにある前記偏向コーンの端の距離であり、Xは、前記シャフトと前記偏向コーンとの間の角度であり、Eは、前記偏向コーンの軸方向長さであり、Dは前記シャフトの直径である、請求項11~請求項20のいずれか1項に記載の排気タービン過給機。
【請求項22】
前記偏向手段は弓形または円錐形を有し、前記シールから離れる軸方向において前記排気タービン過給器の運転中に前記噴射要素によって放出された前記潤滑油を偏向する、請求項1~請求項21のいずれか1項に記載の排気タービン過給機。
【請求項23】
前記軸受は前記軸受ハウジングと接続され、前記偏向手段から前記偏向された潤滑油を捕捉する寸法の捕捉溝を規定する軸受フランジを有し、前記シール側の前記捕捉溝の端領域は前記軸受フランジから延びる壁要素によって規定され、前記壁要素は前記噴射要素から離れて位置決めされて前記捕捉溝に捕捉された潤滑油が噴射通路に戻ることを防止するように構成される、請求項1~請求項22のいずれか1項に記載の排気タービン過給機。
【請求項24】
前記軸受は軸受フランジを有し、前記軸受フランジおよび前記軸受ハウジングは前記油区画室を規定し、壁要素は前記軸受フランジから延び、前記壁要素は前記噴射要素から離れて位置決めされ前記潤滑油が流れて噴射通路に戻ることを阻止するように構成される、請求項1~請求項23のいずれか1項に記載の排気タービン過給機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、改善されたシャフトシールを有する排気タービン過給機に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
排気タービン過給機は、大抵の場合に2つの要素からなるシャフトシールを備えている。これらの要素のうちの1つは、外部への油漏れに対してそれぞれの排気タービン過給機の軸受ハウジングの内部領域を密封するために設けられているオイルシールである。この種のオイルシールは、ラビリンスシールの形式で形成され得る。もう1つの要素は、外気の侵入に対して軸受ハウジングの内部領域を密封するために設けられているガスシールである。この種のガスシールは、例えばピストンリングシールの形式で形成され得る。
【0003】
軸流タービンを有する排気タービン過給機の場合、タービン側から軸受ハウジングへの高温ガスの流入を防止するために、シール空気と組み合わせたラビリンス・スロットルシール(Labyrinth-Drosseldichtung)もガスシールとして用いられることが多い。必要なオイルシールは、しばしば捕捉チャンバラビリンス(Fangkammerlabyrinth)として設計される。
【0004】
ラジアルタービンを有する排気タービン過給機の場合、スペース上の理由、複雑さ/コストの理由、及び性能上の理由から、シール空気なしのピストンリングシールがガスシールとして用いられることが多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明の概要
本発明の課題は、改善されたシャフトシールを有する排気タービン過給機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、請求項1に記載の特徴を有する排気タービン過給機によって解決される。この排気タービン過給機は、コンプレッサとタービンとの間に配置され、シャフトを支持するために形成された軸受装置を含み、軸受装置が軸受ハウジングを有し、軸受ハウジング内に、シャフトを支持するための油潤滑された軸受が配置され、シャフトは、潤滑油を放出する(wegschleudern)ための周方向に延在する噴射要素を有し、軸受ハウジングは、軸受ハウジングから潤滑油を排出するための油流出通路を有し、軸受ハウジングの内部領域は、シャフトと軸受ハウジングとの間に配置されたシールにより密封された油区画室を形成し、油区画室が偏向手段を有し、偏向手段は、排気タービン過給機の運転中に噴射要素によって放出される潤滑油が偏向手段によって偏向され、かつシールとは逆の方向に導かれるように成形され、油区画室は、排気タービン過給機の運転中に噴射要素によって放出される潤滑油が噴射要素から偏向手段へ直接移送され得るように噴射要素の周辺に形成され、噴射要素は、噴射要素によって噴射される潤滑油が径方向成分と軸方向成分とを有するように成形され、軸方向成分はシールとは逆の方向に向けられている。
【0007】
本発明の一実施形態では、油区画室は、軸方向で噴射要素の隣に配置されたシャフトの区分において、軸受ハウジングと接続された軸受フランジによってシャフトに向けて画定されている。一実施形態では、油区画室は、偏向手段から来る潤滑油を捕捉するための捕捉溝を有し得る。捕捉溝は、例えば軸受フランジの一部として形成され得る。捕捉溝は、偏向手段によって偏向される潤滑油がシールの方向へ戻ることを阻止するための少なくとも1つの壁要素を有する。壁要素は、軸受フランジの、特にタービン又はシールの方を向いた端に配置され得る。捕捉溝は、排気タービン過給機の運転中に潤滑油を捕捉溝から油流出通路へ導くように成形され得る。
【0008】
一実施形態では、軸受フランジが軸受ハウジングに着脱可能に設置される軸受モジュールの一部として形成され、軸受モジュールはシャフトのための軸受を有する。一実施形態では、軸受フランジは、シャフトの周りの円周に従い軸方向区分に沿って配置されている。
【0009】
一実施形態では、軸受フランジが油区画室の少なくとも一部分を画定する。特に、油区画室の径方向内側に位置する境界は、少なくとも部分的に軸受フランジによって形成され得る。殊に、油区画室の径方向内側に位置する境界の軸方向延在の50%より多く、又はそれどころか75%より多くが軸受フランジ(場合によっては捕捉溝を含めて)によって形成される。油区画室の径方向外側の境界が軸受ハウジングによって形成され、かつ特に偏向手段を、例えば軸受ハウジングの傾斜壁区分として備え得る。
【0010】
本発明の一実施形態では、偏向手段は、軸受ハウジングの壁の一体化された構成要素である。
【0011】
本発明の一実施形態では、偏向手段は油区画室に挿入されるリングである。
本発明の一実施形態では、偏向手段は円錐形に形成されている。
【0012】
本発明の一実施形態では、偏向手段は弓形に形成されている。
本発明の一実施形態では、偏向手段は、少なくとも部分的にシャフトの上方に配置され(すなわち、タービン過給機軸を含む水平方向の平面の上方に位置する半空間と重なる)、かつ特にシャフトの上方の、タービン過給機軸を含む垂直方向の断面平面に配置され得る。
【0013】
本発明の一実施形態では、噴射要素はシャフト肩部である。
本発明の一実施形態では、噴射要素は、自由端をなす(freistehend)遠心ディスクである。
【0014】
本発明の一実施形態では、油区画室の横断面は、噴射要素と偏向手段との間の領域において、シャフトからの距離が増加するに伴い拡大する。
【0015】
本発明の一実施形態では、油区画室の横断面は、噴射要素と偏向手段との間の領域において、シャフトからの距離が増加するに伴い段階的に拡大する。
【0016】
本発明による一実施形態では、噴射要素と偏向手段との間の領域における油区画室の横断面の拡大は、少なくとも部分的に軸受フランジにおける切欠きによって生成されている。
【0017】
本発明の一実施形態では、油流出通路は、軸受ハウジングの油流出オリフィスの領域において円筒状に形成され、この円筒状に形成された領域とシャフトとの間に、シャフトの方向に斜めに延びる油流出ランプを有し、油流出ランプによって油流出通路がシャフトの方向に拡張されている。
【0018】
本発明の一実施形態では、油流出ランプは、円筒状に形成された領域に続く第1ランプ領域においてシャフトに相対して45°~80°の範囲の第1角度をなす。
【0019】
本発明の一実施形態では、油流出ランプは、第1ランプ領域に続く第2ランプ領域においてシャフトに相対して30°~45°の範囲の第2角度をなす。
【0020】
本発明の一実施形態では、排気タービン過給機は、噴射される潤滑油に対してシールを遮蔽するためにシャフトの下方の領域に配置されている遮蔽体を有する。
【0021】
本発明の一実施形態では、排気タービン過給機のシャフトの直径に相対する油流出通路の円筒状に形成された領域の直径は次の関係で表され、
F/D>0.7、
但し、Fは、油流出通路の円筒状に形成された領域の直径であり、Dは、排気タービン過給機のシャフトの直径である。
【0022】
本発明の一実施形態では、次の関係で表され、
(A+C)/D>2.7、
但し、Aは、油流出オリフィスから離れたところにある油流出ランプの端とシャフトとの距離であり、Cは、油流出オリフィスに近いところにある油流出ランプの端とシャフトとの距離であり、Dは、シャフトの直径である。
【0023】
本発明の一実施形態では、次の関係で表され、
G/H<1、
但し、Gは、スクイズオイルダンパ隙間の遮蔽であり、Hは、排気タービン過給機のラジアル軸受の外径である。
【0024】
本発明の一実施形態では、次の関係で表され、
H/D<1、
但し、Hは、排気タービン過給機のラジアル軸受の外径であり、Dは、シャフトの直径である。
【0025】
本発明の一実施形態では、次の関係で表され、
B/D>0.2、
但し、Bは、捕捉チャンバの高さであり、Dは、シャフトの直径である。
【0026】
本発明の一実施形態では、次の関係で表され、
X/Z<1、
但し、Xは、シャフトと偏向コーンとの間の角度であり、Zは、シャフトから偏向コーンの方向への潤滑油の噴射角度である。
【0027】
本発明の一実施形態では、次の関係で表され、
(J+sin(X)・E)/D>0.5、
但し、Jは、シャフトの近くにある偏向コーンの端の距離であり、Xは、シャフトと偏向コーンとの間の角度であり、Eは、偏向コーンの軸方向長さであり、Dは、シャフトの直径である。
【0028】
上記の特徴は、軸受ハウジングから油を排出するためにシャフトの下方の利用可能なハウジング容積を拡大し、かつ排気タービン過給機の運転中にシャフトから噴出する潤滑油を軸受ハウジングのシールから離れる方向に確実に移送、又は的確に偏向せしめることから、軸受ハウジングのシールの負担軽減のために用いられる。これに加えて、すでに放出された潤滑油がシール領域に戻り得ることが阻止される。
【0029】
図面の簡単な説明
以下、本発明を、図面をもとに詳しく説明される実施例を用いて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】排気タービン過給機の本発明によるコンポーネントが配置された排気タービン過給機の一部分領域の横断面図を示す。
図2図1の部分領域の拡大図を示す。
図3】シャフトに設けられ自由端をなす遠心ディスクを例示するための概略図を示す。
図4】排気タービン過給機の本発明によるコンポーネントが配置された排気タービン過給機の一部分領域の別の横断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図面の詳細な説明
図1は、排気タービン過給機の本発明によるコンポーネントが配置された排気タービン過給機の一部分領域の横断面図を示す。この排気タービン過給機1は、コンプレッサ2とタービン4との間に配置された、シャフト6を支持するように形成された軸受装置7を含む。この軸受装置7は軸受ハウジング8を有し、この軸受ハウジング内に、シャフトを支持するための油潤滑された軸受9が配置されている。図示される実施例では、この軸受9はラジアル軸受である。コンプレッサ2は、シャフト6と固定接続されたコンプレッサホイール3を有する。シャフト6と固定接続されたタービンホイール5はタービン4に属する。
【0032】
シャフト6は、図示される実施例ではシャフト肩部19である噴射要素10を有する。このシャフト肩部19はシャフト6の段部であり、シャフト径は、この段部によってこの箇所で拡大する。
【0033】
排気タービン過給機1の運転中、ラジアル軸受9とシャフト6との間の隙間を通って潤滑油が送られ、潤滑油は、噴射要素10において径方向外方に、及びシャフト肩部の形状付与によって軸方向に軸受ハウジング中心の方向にも容易に放出される。放出されるこの潤滑油は、軸受ハウジング8の内部領域に形成された油区画室12に導かれる。油区画室12は、この油区画室12が噴射通路26を形成する噴射要素10の周辺において、排気タービン過給機1の運転中に噴射要素10によって放出される潤滑油が噴射要素10から偏向手段14へ直接移送されるように形成されている。その際、油区画室12の横断面は、噴射要素10と偏向手段14との間の領域、すなわち噴射通路26において、シャフト6からの距離が増加するに伴い拡大する。
【0034】
図1に示される実施例では、この噴射通路26に段部25が設けられ、それにより噴射通路の横断面は、噴射要素10と偏向手段14との間の領域においてシャフト6からの距離が増加するに伴い段階的に拡大する。図1に示された実施例に代えて、複数の段部の使用によって、噴射通路26の横断面は、噴射要素10と偏向手段14との間の領域において、シャフト6からの距離が増加するに伴い次第に拡大することもでき、又は段部なしで連続的に拡大することもできる。
【0035】
図1に示される段部25は軸受フランジ15に設けられていて、この軸受フランジは排気タービン過給機1の軸受ハウジング8と固定接続されているか、又は軸受ハウジング8の構成要素であり、それにより噴射要素10と偏向手段14との間の領域における油区画室12の横断面の拡大が部分的に軸受フランジ15における切欠き21によって生成されている。
【0036】
図1から見て取れるように、噴射通路26において軸受フランジ15の向かい側に位置し、同様に軸受ハウジング8の構成要素である壁は、径方向に略直線的に延びるので、噴射通路26の上記の拡張が非対称になる。噴射通路26のこの種の非対称の拡張の利点は、排気タービン過給機1を構造的にコンパクトに形成できるということである。したがって、放出される潤滑油は、径方向の方向成分のみならず、噴射要素の形状付与によって定義される軸方向の方向成分をも有する。
【0037】
偏向手段14によって、噴射要素10から放出される潤滑油が偏向され、シール13及び24とは逆の方向に導かれ、その際、シール13は、ガスシールのために設けられたピストンリングであり、シール24は、オイルシールとして用いられる壁である。図1において、これを達成するために偏向手段14が円錐形に形成されている。一代替形態は、偏向手段14を弓形に形成することである。さらに別の代替形態は、偏向手段14が、図1に示されているような軸受ハウジング壁18の一体化された構成要素ではなく、したがって軸受ハウジング壁の形状付与によってではなく、油区画室12に挿入されるリングの形式で実現されている。このリングの、噴射要素10の方向に向いた内面も弓形又は円錐形に成形することができ、それにより排気タービン過給機1の運転中に噴射要素10から放出される潤滑油がリングによって偏向され、所望のようにシールとは逆の方向に導かれる。
【0038】
図1において、噴射要素10はシャフト肩部19である。代替実施形態は、図3に例示されているように、自由端をなす遠心ディスク20として噴射要素を実現することである。自由端をなすこの遠心ディスクも同様にシャフト6に設けられている。シャフト6は、軸方向で遠心ディスク20の前後に、殊に同じ直径を有している。
【0039】
偏向手段14によって偏向され、かつシールとは逆の方向に導かれた潤滑油は、偏向手段14による偏向後に上側の軸受ハウジング壁18に沿って流れ、大部分が油区画室の周囲を流れてオイル流出部へ、一部が軸受フランジの周囲を流れて油流出部へ、かつわずかな部分が軸受フランジの端まで流れ、軸受フランジ15に形成された捕捉溝16に入る。捕捉溝16のシール側の端領域は壁要素17によってなり、この壁要素は、捕捉溝16に収集された潤滑油が噴射通路26へ戻ることを阻止する。
【0040】
噴射要素10から偏向手段14へ直接噴射された潤滑油をシールとは逆の方向に偏向し、かつ偏向された潤滑油が噴射通路26に戻ることを阻止することによって、噴射通路26に潤滑油の滞留が発生しないこと、すなわち噴射要素10によって放出された潤滑油が噴射通路26に戻る潤滑油によって妨害されないことが有利に達成される。
【0041】
捕捉溝16に収集された潤滑油の流出は、シャフトの6の下方に配置された油流出通路11によって行われる。この油流出通路は軸受ハウジング8の油流出オリフィス22まで達し、油流出通路11を通って流出する潤滑油が、この油流出オリフィスを通って軸受ハウジング8から排出される。油流出通路11は、軸受ハウジング8の油流出オリフィス22の領域において円筒状に形成され、かつこの円筒状に形成された領域とシャフト6との間にシャフト6の方向に斜めに延びる油流出ランプ23を有し、油流出通路11は、この油流出ランプによってシャフト6の方向に拡張されている。このことには、油流出オリフィス22の方向に流出する潤滑油流の流出を容易にし、かつ油流出通路11の潤滑油収容能力が大きく、それによりシール13の領域にまで達する潤滑油の滞留が発生する確率が低減されるという利点がある。
【0042】
図2は、図1の部分領域の拡大図を示す。この図において、ラジアル軸受9とシャフト6との間の隙間から出る潤滑油の移送路が矢印P1~P5で例示されている。ラジアル軸受9とシャフト6との間の隙間から出る潤滑油は、矢印P1で示されるように、噴射要素10において径方向外方に放出され、図示される実施例では、軸受ハウジング8の円錐形に形成された構成要素である偏向手段14に直接当たる。潤滑油がこの偏向手段14で偏向され、矢印P2で例示されるように、油区画室12内をシール13、24とは逆の方向に導かれる。このように偏向された潤滑油は、大部分が軸受ハウジング内部空間及び軸受フランジの周囲を流れて油流出部へ流れる。残りの部分は、矢印P3で例示されるように、捕捉溝16に収集される。この捕捉溝16は、シールの方を向いた側に壁要素17を有し、この壁要素は捕捉溝16に収集された潤滑油が噴射通路26へ戻り得ることを阻止する。それにより、噴射要素10によって、矢印P1の方向に噴射通路26を通って偏向手段14に向けて直接放出される潤滑油が噴射通路26へ戻る潤滑油によって妨害されず、かつ噴射通路26に潤滑油の滞留が発生しないことが確保されている。シャフトから下へ放出された潤滑油は、矢印P4で例示されるように、流出ランプ23へ直接導かれ、この流出ランプに沿って、矢印P5で例示されるように、下へ軸受ハウジング8の油流出オリフィス22の方向に流出し、かつこの油流出オリフィス22を通って軸受ハウジング8から排出される。オイルシール24によって、油流出通路11に導かれた潤滑油がガスシール13の領域に到達する確率を小さく抑えられる。
【0043】
図3は、シャフト6に設けられ、シャフト肩部19に代えて噴射要素10として使用することができる、自由端をなす遠心ディスク20を例示するための概略図を示す。シャフト6は、軸方向でこの噴射突起の前後に同じ直径を有する。
【0044】
図4は、排気タービン過給機の本発明によるコンポーネントが配置された排気タービン過給機の一部分領域の別の横断面を示す。
【0045】
上記の発明は、与えられた設計自由度を有効に使い、同じ幾何学的境界条件での公知のシャフトシールと比較して格段に改善された、油漏れに対するロバスト性を有するシャフトシールを提供する。本発明によるシャフトシールの特別な利点は、排気タービン過給機からの格段に改善された油搬出、シャフトシールの下方の大きく拡大されたハウジング容積、及びシャフトから噴射する潤滑油のシールが配置された領域から離れる方向への確実な移送又は的確な偏向である。
【0046】
図4に示される別の横断面図に、本発明の上記の利点を達成できるようにするためのパラメータが例示されている。
【0047】
図4において、パラメータFは、油流出オリフィスの領域における油流出通路の横断面を示し、この領域において油流出通路が円筒状に形成されている。油流出通路のこの円筒状に形成された領域にはシャフト6の方向に、シャフトに相対して45°~80°の範囲の第1角度をなす第1ランプ領域が続く。したがって、油流出ランプ23のこの領域は急峻に形成されている。この領域における油流出ランプ23の急峻性は、とりわけ軸受ハウジングにおける冷却用に企図される水通路27を配置することによるものである。
【0048】
油流出ランプ23のこの急峻な領域には、シャフト6の方向にいくらか平坦な油流出ランプ23の領域が続く。いくらか平坦なこの領域は、シャフト6に相対して30°~45°の範囲の角度をなす。図4に示されたパラメータYは、油流出ランプ23のそれぞれの領域の急峻性を表す。
【0049】
図4に示されたパラメータAは、シャフト6と、流出ランプ23のシャフトに最も近い地点との間の距離である。
【0050】
図4に示されたパラメータCは、シャフト6と、流出ランプ23のシャフト6から最も遠い地点との距離である。この地点は、流出ランプ23から油流出通路11の円筒状に形成された領域への移行箇所をなす。
【0051】
上記のパラメータF、Y、A、Cは、潤滑油の液位がシャフト6まで上昇することなく、運転中に可能な限り多くの潤滑油を収容できるようにするために、潤滑油の流出の改善、特に加速、及びシャフトの下方のハウジング容積の拡大に役立つ(diesen)。
【0052】
パラメータZは、潤滑油が噴射要素10によってシャフト6の領域から偏向手段14の方向に自由に噴出される潤滑油の噴射角度を示す。図4からも、噴射される潤滑油が軸方向でシールの方向にではなく、軸方向でシールとは逆方向に噴射される、又は導かれるように噴射要素10と偏向手段14とが成形されていることが見て取れる。噴射角度は、噴出した潤滑油をシールから可能な限り遠くに運ぶために可能な限り小さく選定されるべきである。
【0053】
パラメータX及びEは、シャフト6の領域から噴射角度Zで噴射される潤滑油を他の方向に導くため、かつシールとは逆方向に後方へ軸受ハウジングへ運ぶための軸受ハウジングにおける噴射コーンを定義する。このために、噴射角度Z、コーンXの角度、及び偏向コーンの長さE、ならびに取り囲むジオメトリは、潤滑油がシャフト6の領域から偏向コーンへ自由に噴射され得るように設計されなければならない。
【0054】
パラメータJは、シャフト6と偏向コーンのシャフトに最も近い地点との距離を示す。偏向コーンに当たった後に飛散する潤滑油がシールから可能な限り遠く離れるようにするためにこの距離を可能な限り大きくすべきである。
【0055】
さらに、図4には捕捉溝16が例示され、この捕捉溝によって、偏向コーン14から離れる方向に運ばれる潤滑油がシール領域に戻ることが阻止される。
【0056】
さらに、図4において、遮蔽体として用いられるシール24が示され、このシールは、シャフト6の下方に位置する領域におけるガスシール13の領域を噴射油に対して遮蔽する。
【0057】
パラメータGにより、ラジアル軸受のスクイズオイルダンパ隙間の遮蔽が例示され、Gは、ラジアル軸受の外径Hより小さく選定されている。これにより、シャフトシール径方向隙間にラジアル軸受外側潤滑隙間からの潤滑油が直接吹き付けられることが阻止される。
【0058】
パラメータBにより捕捉チャンバが示されている。捕捉チャンバは、可能な限り大きく寸法設定されるべきであるが、製造条件に基づいて、D/2より小さい大きさに制限され、ここでDはシャフト6の直径である。
【0059】
さらに、図4には直径の急激な変化が例示されている。パラメータGでのラジアル隙間からの潤滑油による、パラメータHでのラジアル隙間の直接の吹き付けを低減するために、GはHより格段に小さく選定されている。直径の増加により潤滑油がさらに妨げられないようにするため、かつDを前置された捕捉チャンバBへのシャフト上の出口側噴射エッジとして用いることができるようにするために、DもHより大きく選定される。
【0060】
以下の関係が有利である。
- F/D>0.7、但し、Fは、油流出通路11の円筒状に形成された領域の直径であり、Dは、シャフト6の直径であり、
- (A+C)/D>2.7、但し、Aは、油流出オリフィスから離れたところにある油流出ランプの端とシャフト6との距離であり、Cは、油流出オリフィスに近いところにある前記油流出ランプ23の端とシャフト6との距離であり、Dは、シャフトの直径であり、
- G/H<1、但し、Gは、スクイズオイルダンパ隙間の遮蔽であり、Hは、ラジアル軸受の外径であり、
- H/D<1、但し、Hは、ラジアル軸受の外径であり、Dは、シャフトの直径であり、
- B/D>0.2、但し、Bは、捕捉チャンバの高さであり、Dは、シャフト6の直径であり、
X/Z<1、但し、Xは、シャフト6と偏向コーンとの間の角度であり、Zは、シャフトから偏向コーンの方向への潤滑油の噴射角度であり、
- (J+sin(X)・E)/D>0.5、但し、Jは、シャフトの近くにある偏向コーンの端の距離であり、Xは、シャフトと偏向コーンとの間の角度であり、Eは、偏向コーンの軸方向長さであり、Dは、シャフトの直径である。
【符号の説明】
【0061】
参照符号一覧
1 排気タービン過給機
2 コンプレッサ
3 コンプレッサホイール
4 タービン
5 タービンホイール
6 シャフト
7 軸受装置
8 軸受ハウジング
9 ラジアル軸受
10 噴射要素
11 油流出通路
12 油区画室
13 ガスシール
14 偏向手段
15 軸受フランジ
16 捕捉溝
17 壁要素
18 軸受ハウジング壁
19 シャフト肩部
20 噴射突起
21 軸受フランジにおける切欠き
22 軸受ハウジングの油流出オリフィス
23 油流出ランプ
24 オイルシール
25 段部
26 噴射通路
27 水路
P1~P5 矢印
図1
図2
図3
図4