(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】圧縮点火内燃エンジンにおける堆積物低減のための使用および方法
(51)【国際特許分類】
C10L 1/23 20060101AFI20240829BHJP
C10L 1/18 20060101ALI20240829BHJP
C10L 1/08 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C10L1/23
C10L1/18
C10L1/08
(21)【出願番号】P 2021533433
(86)(22)【出願日】2019-12-09
(86)【国際出願番号】 EP2019084283
(87)【国際公開番号】W WO2020120416
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-12-02
(32)【優先日】2018-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390023685
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【氏名又は名称】新井 規之
(74)【代理人】
【識別番号】100220098
【氏名又は名称】宮脇 薫
(72)【発明者】
【氏名】クレイトン,クリストファー・ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ギー,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアムズ,ロドニー・グリン
(72)【発明者】
【氏名】ワイアット,エマ
(72)【発明者】
【氏名】ロス,アラン・ノーマン
(72)【発明者】
【氏名】ウッダール,キース
(72)【発明者】
【氏名】リード,ジャクリーン・グレン
(72)【発明者】
【氏名】マルクィーン,サイモン・クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】クック,スティーブン・レナード
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-536284(JP,A)
【文献】国際公開第2017/203003(WO,A1)
【文献】特開昭60-215094(JP,A)
【文献】特開平08-259967(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0099979(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02907866(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0238230(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/23
C10L 1/18
C10L 1/192
C10L 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮点火内燃エンジンの排気ガス再循環(EGR)システムにおいて堆積物の蓄積を低減するための、硝酸アルキル、または硝酸アルキルと過酸化アルキルとの混合物から選択される添加剤のディーゼル燃料組成物における使用であって、添加剤が、前記ディーゼル燃料組成物の総重量に基づいて、20~2000ppmの濃度で使用され、
前記硝酸アルキがR
1
-ONO
2
で表される化合物から選択され、R
1
は任意選択で置換されたC
2
~C
20
アルキル基であり、
前記過酸化アルキルがR
2
-O-O-R
3
で表される化合物から選択され、R
2
およびR
3
は3~5個の炭素原子を有する分岐アルキル基であり、
前記圧縮点火内燃エンジンが、定格動作圧力が1300バールを超える燃料システムを含む、使用。
【請求項2】
前記硝酸アルキルが硝酸2-エチルヘキシルである、請求項
1に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮点火エンジンにおける排気ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation:EGR)システムにおいて特定の利点を提供するための添加剤の使用に関する。本発明は、特に、圧縮点火エンジンにおける排気ガス再循環システムにおいて堆積物の蓄積を低減するための添加剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
排気ガス再循環(EGR)は、小型用、中型用、および大型用などの広範囲のディーゼルエンジンに適用可能なNOx排出制御技術である。EGRシステムの構成は、必要とされるEGR率やその他の特定用途の要求によって異なる。ほとんどのEGRシステムには、以下の主要なハードウェア構成部品、すなわち1つまたは複数のEGR制御バルブ、1つまたは複数のEGRクーラ、配管、フランジ、およびガスケットが含まれる。
【0003】
EGRシステムは、様々なEGRハードウェア構成部品上に堆積する堆積物によって汚染される傾向があることがわかっている。これは、高圧で短ループのEGRシステムでは特に問題である。システム内に堆積物が形成されると、NOx排出量と燃料消費量が増加し、深刻な場合にはEGRバルブが詰まってシステムが故障するおそれがある。酸化触媒および/または微粒子フィルタをEGRシステムの前に取り付けて、EGR汚染の原因となる排気ガスからの炭化水素および微粒子を低減することができるが、これによってコストおよび複雑さが増すため、製造業者に広く採用されてはいない。低圧EGRの場合は、エンジンと低圧EGRシステムとの間にディーゼル微粒子フィルタ(Diesel Particulate Filter:DPF)が配置されているため、この構成において堆積物はそれほど問題ではない。
【0004】
したがって、まず第一に堆積物の蓄積を低減または防止するとともに、製造業者が採用している機器に関わらず、全てのEGRシステムに適用し得る燃料ベースの溶液を提供することが望ましいであろう。
【0005】
そして、驚くべきことに、ディーゼル燃料組成物において選択された添加剤を使用することにより、驚くべきかつこれまで認められなかったEGR堆積物の低減を達成できることを見出した。
【発明の概要】
【0006】
本発明によれば、圧縮点火内燃エンジンの排気ガス再循環(EGR)システムにおいて堆積物の蓄積を低減するために、硝酸エステル化合物、過酸化化合物、亜硝酸エステル化合物、ポリエーテル化合物、およびそれらの混合物から選択される添加剤のディーゼル燃料組成物における使用が提供される。
【0007】
本発明の別の態様によれば、圧縮点火内燃エンジンの排気ガス再循環(EGR)システムにおいて堆積物の蓄積を低減するための方法が提供され、この方法は、硝酸エステル化合物、過酸化化合物、亜硝酸エステル化合物、ポリエーテル化合物、およびそれらの混合物から選択される添加剤を含むディーゼル燃料組成物を前記エンジンに導入するステップを含む。
【0008】
硝酸エステル化合物、過酸化化合物、亜硝酸エステル化合物、および/またはポリエーテル化合物から選択される添加剤をディーゼル燃料組成物に使用することにより、圧縮点火内燃エンジンのEGRシステムにおいて堆積物の蓄積を低減できることが見出された。
【0009】
また、硝酸エステル化合物、過酸化化合物、亜硝酸エステル化合物、ポリエーテル化合物、およびそれらの混合物から選択される添加剤をディーゼル燃料組成物に使用することにより、まず上記のEGRシステムにおいて堆積物の形成を防止できることが見出され、そして、製造業者が採用している機器に関わらず、全てのEGRシステムに適用可能であることも見出された。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施例2、3、4、および5(表2,表3、表4、および表5)の結果をグラフ形式で示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書では、圧縮点火エンジンのEGRシステムにおいて堆積物の蓄積を低減する目的で、硝酸エステル化合物、過酸化化合物、亜硝酸エステル化合物、ポリエーテル化合物、およびそれらの混合物から選択される添加剤のディーゼル燃料組成物における使用が提供される。したがって、この添加剤を、本明細書では「EGR堆積物制御添加剤」と呼ぶ。
【0012】
本発明の文脈において、「堆積物の蓄積を低減する」という用語は、堆積物の蓄積について任意の程度で低減することを包含する。堆積物の蓄積についての低減は、EGR堆積物制御添加剤を含有しない類似の燃料配合によって生じるEGRシステムにおける堆積物の蓄積と比較して、およそ10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは50%以上、特に70%以上であり得る。また、本明細書で用いられる「蓄積を低減する」という用語は、まずEGR堆積物の形成を防止することも包含する。
【0013】
高圧の短ループEGRシステムは低圧EGRシステムよりも堆積物蓄積の影響を受けやすいため、本発明は、高圧の短ループEGRシステムの場合に特に有用であることが見出された。
【0014】
とりわけ、本発明は、圧縮点火内燃エンジンが、1300バールを超える定格動作圧力を有する燃料システムを含む場合に特に有用であることが見出された。
また、本発明は、従来のディーゼル燃料で形成された既存のEGR堆積物を洗浄する目的で使用され得ることも想定される。
【0015】
通常のEGRシステムは、吸気管、バルブ、ハウジング、クーラ、および出口管で構成される。堆積物は、EGRシステムの全ての部分の内面、特にクーラに蓄積する傾向がある。
【0016】
本発明は、EGRシステムの全ての部分におけるEGR堆積物の蓄積を低減するために使用することができる。
EGRシステムのEGRバルブへの堆積物の蓄積を防止することは特に重要である。
【0017】
本明細書において第一に必須である成分は、硝酸エステル化合物、過酸化化合物、亜硝酸エステル化合物、ポリエーテル化合物、およびそれらの混合物から選択される添加剤である。
【0018】
本明細書で使用するための硝酸エステル化合物は、好ましくは硝酸ヒドロカルビルである。適切な硝酸ヒドロカルビルには式R1-ONO2を有する化合物が含まれ、式中、R1は、任意選択で置換されたヒドロカルビル基である。R1は、直鎖状、分岐状、または環状のアルキル基または他のヒドロカルビル基であってもよい。好ましくは、R1は、任意選択で置換されたC1~C36アルキル基、好ましくは任意選択で置換されたC2~C30アルキル基、より好ましくは任意選択で置換されたC2~C24アルキル基、さらに好ましくは任意選択で置換されたC2~C20アルキル基、特に任意選択で置換されたC4~C16アルキル基、より具体的には任意選択で置換されたC4~C12アルキル基、例えば、任意選択で置換されたC6~C12アルキル基、任意選択で置換されたC6~C10アルキル基、または任意選択で置換されたC8~C10アルキル基である。
【0019】
好ましくは、R1は非置換アルキル基である。好ましくは、R1は、非置換C1~C36アルキル基、好ましくは非置換C2~C30アルキル基、より好ましくは非置換C2~C24アルキル基、さらに好ましくは非置換C2~C20アルキル基、特に非置換C4~C16アルキル基、より具体的には非置換C4~C12アルキル基、さらに具体的には非置換C6~C12アルキル基、例えば非置換C6~C10アルキル基である。特に好ましい実施形態において、R1は、非置換のC8~C10アルキル基である。
【0020】
一実施形態において、R1は分岐鎖C4~C16アルキル基、好ましくは分岐鎖C4~C12アルキル基、より好ましくは分岐鎖C6~C12アルキル基、特に分岐鎖C6~C10アルキル基、例えば分枝鎖C8~C10アルキル基である。R1が分岐鎖アルキル基である場合、それは好ましくは非置換である。
【0021】
本明細書での使用に適切な硝酸アルキル化合物の例としては、硝酸2-n-プロピルヘプチル、硝酸2-イソプロピルヘプチル、硝酸2-n-プロピル-4-メチルヘキシル、硝酸2-イソプロピル-4-メチルヘキシル、硝酸2-n-プロピル-5-メチルヘキシル、硝酸2-イソプロピル-5-メチルヘキシル、硝酸2-n-プロピル-4,4-ジメチルペンチル、硝酸2-イソプロピル-4,4-ジメチルペンチル、硝酸2-エチルヘキシル、硝酸デシル、硝酸ドデシル、硝酸シクロヘキシル、硝酸イソプロピル、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0022】
本明細書での使用に好ましい硝酸アルキル化合物は、硝酸デシル、硝酸ドデシル、硝酸イソプロピル、硝酸2-エチルヘキシル、およびそれらの混合物から選択される。
本明細書での使用に特に好ましい硝酸アルキル化合物は、硝酸2-エチルヘキシルである。
【0023】
本明細書で使用するための過酸化化合物には、少なくとも1つの酸素-酸素結合を有する任意の化合物が含まれる。
適切な過酸化化合物には、米国特許出願公開第2014/150333号明細書および米国特許出願公開第2011/099979号明細書に開示されているものが含まれる。
【0024】
本明細書での使用に好ましい過酸化化合物は、過酸化アルキル、好ましくは過酸化ジアルキルである。
好ましくは、過酸化化合物は、式R2-O-O-R3を有する化合物から選択され、式中、R2は、任意選択で置換されたアルキル基、アリール基、アルカリル基、アラルキル基またはアシル基であり、R3は、水素、または任意に置換されたアルキル基、アリール基、アルカリル基、アラルキル基、もしくはアシル基である。
【0025】
R2とR3とは同じでも異なっていてもよい。好ましくは、R2はR3と同じである。R2およびR3は、直鎖状、分岐鎖状、または環状であってもよい。
好ましい実施形態において、R2およびR3は、1~36個の炭素原子、好ましくは1~24個の炭素原子、より好ましくは1~16個の炭素原子、さらに好ましくは2~10個の炭素原子、特に2~6個の炭素原子を有する任意選択で置換されたアルキル基、アリール基、アルカリル基、アラルキル基、またはアシル基、好ましくは任意選択で置換されたアルキル基またはアシル基、さらに好ましくは任意選択で置換されたアルキル基から独立して選択される。
【0026】
R2およびR3は、好ましくは1~36個の炭素原子、好ましくは1~24個の炭素原子、より好ましくは1~18個の炭素原子、さらに好ましくは1~12個の炭素原子、特に2~10個の炭素原子、より具体的には2~8個の炭素原子、さらに具体的には2~6個の炭素原子、例えば3~6個の炭素原子を有する非置換アルキル基である。
【0027】
R2およびR3は、好ましくは分岐アルキル基であり、好ましくは3~12個の炭素原子、好ましくは3~8個の炭素原子、より好ましくは3~5個の炭素原子を有する。
好ましくは、R2およびR3は、tert-ブチルである。
【0028】
本明細書での使用に適切な他の過酸化化合物には、2つ以上の酸素-酸素結合が含まれる。例えば、前記過酸化化合物は、式R4-O-O-[R5-O-O]n-R6を有する化合物を含んでいてもよく、式中、R4およびR6のそれぞれは、独立して、任意選択で置換されたアルキル基、アリール基、アルカリル基、アラルキル基、またはアシル基であり、各R5は、独立して、任意選択で置換されたアルキレン基、アリーレン基、アルカリレン基、またはアラルキレン基であり、nは少なくとも1である。好ましくは、nは1または2であり、より好ましくは1である。
【0029】
好ましくは、R4およびR6は、それぞれ独立して、1~36個の炭素原子、好ましくは1~24個の炭素原子、好ましくは1~16個の炭素原子、より好ましくは2~10個の炭素原子、例えば2~6個の炭素原子を有する任意選択で置換されたアルキル基、アリール基、アルカリル基、アラルキル基、またはアシル基から選択される。好ましくは、R5は、1~36個の炭素原子、好ましくは1~24個の炭素原子、好ましくは1~16個の炭素原子、より好ましくは2~10個の炭素原子、例えば2~6個の炭素原子を有する任意選択で置換されたアルキレン基、アリーレン基、アルカリレン基、またはアラルキレン基である。この種類の化合物の一例としては、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサンがある。
【0030】
前記過酸化化合物はまた、2つ以上の酸素-酸素結合を含む環状化合物、例えば、3,6,9-トリエチル-3,6,9-トリメチル-1,4,7-トリペロキソナンとすることができる。
【0031】
本明細書での使用に適切な過酸化化合物には、アルキルペルオキシド、アリールペルオキシド、アルキルアリールペルオキシド、アシルペルオキシド、ペルオキシエステル、ペルオキシケトン、過酸、ヒドロペルオキシド、およびそれらの混合物が含まれる。
【0032】
本明細書での使用に適切な過酸化化合物の例としては、ジ-tert-ブチルペルオキシド、クミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、tert-ブチルクミルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、tert-ブチル過酢酸、3,6,9-トリエチル-3,9-トリメチル-1,4,7-トリペロキソナン、ペルオキシ酢酸、およびtert-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、シクロヘキシルヒドロペルオキシド、およびジシクロヘキシルヒドロペルオキシドが挙げられる。
【0033】
本明細書での使用に特に好ましい過酸化化合物は、ジ-tert-ブチルペルオキシドである。
本明細書で使用するための亜硝酸エステル化合物は、好ましくは亜硝酸ヒドロカルビルである。適切な亜硝酸ヒドロカルビルには、式R7-ONOを有する化合物が含まれ、式中、R7は、任意選択で置換されたヒドロカルビル基である。R7は、直鎖状、分岐状、または環状のアルキル基または他のヒドロカルビル基であってもよい。好ましくは、R7は、任意選択で置換されたC1~C36アルキル基、好ましくは任意選択で置換されたC2~C30アルキル基、より好ましくは任意選択で置換されたC2~C24アルキル基、さらに好ましくは任意選択で置換されたC2~C20アルキル基、特に任意選択で置換されたC4~C16アルキル基、より具体的には任意選択で置換されたC4~C12アルキル基、例えば任意選択で置換されたC4~C8アルキル基、または任意選択で置換されたC4~C6アルキルである。
【0034】
好ましくは、R7は非置換アルキル基である。好ましくは、R7は、非置換C1~C36アルキル基、好ましくは非置換C2~C30アルキル基、より好ましくは非置換C2~C24アルキル基、さらに好ましくは非置換C2~C20アルキル基であり、特に、非置換C4~C16アルキル基、より具体的には非置換C4~C12アルキル基、さらに具体的には非置換C4~C8アルキル基、例えば非置換C4~C6アルキル基である。
【0035】
一実施形態において、R7は、分岐鎖C4~C16アルキル基、好ましくは分岐鎖C4~C12アルキル基、より好ましくは分岐鎖C4~C8アルキル基であり、特に、分岐鎖C4~C6アルキル基、例えば分枝鎖C4~C5アルキル基である。
【0036】
本明細書での使用に適切な亜硝酸アルキル化合物の例としては、亜硝酸アミル、亜硝酸イソアミル、亜硝酸ブチル、亜硝酸イソブチル、およびそれらの混合物が挙げられる。
本明細書での使用に適切なポリエーテル化合物には、ヒドロキシル基、ヒドロカルビルオキシ基、またはエステル基によって、またはこれらの基の混合物によって終結されているかどうかに関わらず、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、およびブチレンオキシドのオリゴマーおよびポリマーが含まれる。そのようなポリエーテルが、2つ以上のそのようなヒドロカルビルオキシド(エポキシド)から生成される場合、そのようなオリゴマーまたはポリマーは、ブロックコポリマーまたはランダムコポリマーであってもよい。
【0037】
本発明の好ましい実施形態では、添加剤は、硝酸アルキル、過酸化アルキル、およびそれらの混合物から選択される。
本明細書での使用に特に好ましい添加剤は、硝酸2-エチルヘキシルである。
【0038】
EGR堆積物制御添加剤は、本明細書において、1~10000ppm、好ましくは10~5000ppm、より好ましくは20~2000ppm、さらに好ましくは50~1000ppm、特に50~700ppm、さらに具体的には50~500ppm、例えば50~350ppmの範囲の濃度で好ましく使用される。本明細書の一実施形態では、EGR堆積物制御添加剤は、ディーゼル燃料組成物の総重量に基づいて、50~300ppmの濃度で使用される。
【0039】
本発明で使用するために調製されたディーゼル燃料組成物は、一般に、圧縮点火(ディーゼル)エンジンでの使用に適切な任意の種類のディーゼル燃料組成物であってもよい。上記のEGR堆積物制御添加剤に加えて、他の標準的なディーゼル燃料成分を含有してもよい。例えば、下記の種類のディーゼルベース燃料を主な割合で含んでもよい。また、「主な割合」とは、通常、全組成に基づいて85%w/w以上、より適切には90または95%w/w以上、最も好ましくは98または99または99.5%w/w以上を意味する。
【0040】
このように、本発明で使用するために調製されたディーゼル燃料組成物は、EGR堆積物制御添加剤に加えて、従来の種類の1つまたは複数のディーゼル燃料構成成分を含んでもよい。このような成分は、通常、液体炭化水素中間留出燃料油、例えば石油由来の軽油を含む。一般に、そのような燃料成分は、有機的または合成的に誘導されてもよく、原油から所望の範囲の留分を蒸留することによって適切に得られる。前記燃料成分は、通常、グレードおよび用途に応じて、150~410℃または170~370℃の一般的なディーゼル燃料の範囲内の沸点を有する。通常、燃料組成物は、重炭化水素を分割することによって得られる1つまたは複数の分解生成物を含む。
【0041】
石油由来の軽油は、例えば、原油源を精製し、任意選択で(水素化)処理することによって得てもよい。それは、そのような精製プロセスから得られる単一の軽油流であってもよく、または異なる処理経路を介した精製プロセスで得られるいくつかの軽油留分のブレンド物であってもよい。そのような軽油留分の例としては、直留軽油、真空軽油、熱分解プロセスで得られる軽油、流動接触分解装置で得られる軽質循環油および重質循環油、ならびに水素化分解装置で得られる軽油がある。任意選択で、石油由来の軽油は、石油由来の灯油留分をある程度含んでもよい。
【0042】
そのような軽油は、ディーゼル燃料組成物の含有物としてその硫黄含有量を適切な濃度まで低減するために、水素化脱硫(hydrodesulphurisation:HDS)装置で処理されてもよい。
【0043】
ディーゼルベース燃料は、フィッシャー・トロプシュ由来のディーゼル燃料成分、通常はフィッシャー・トロプシュ由来の軽油であるか、またはそれを含んでもよい。本発明の文脈において、「フィッシャー・トロプシュ由来」という用語は、材料がフィッシャー・トロプシュ縮合プロセスの合成生成物であるか、またはそれに由来することを意味する。それに応じて、「非フィッシャー・トロプシュ由来」という用語が解釈されてもよい。したがって、フィッシャー・トロプシュ由来の燃料または燃料成分は、添加された水素を除き、実質的な部分が、フィッシャー・トロプシュ凝縮プロセスから直接的または間接的に得られる炭化水素流である。
【0044】
フィッシャー・トロプシュ反応は、一酸化炭素および水素を、適当な触媒の存在下、通常は高温(例えば、125~300℃、好ましくは175~250℃)および/または高圧力(例えば0.5~10MPa、好ましくは1.2~5MPa)で、長鎖の、一般的にはパラフィン系の炭化水素に変換する。
【0045】
n(CO+2H2)=(-CH2-)n+nH2O+熱、
所望に応じて、2:1以外の水素:一酸化炭素の比率が採用されてもよい。
一酸化炭素および水素は、それら自体が、有機源、無機源、天然源、または合成源から誘導されてもよく、通常は、天然ガスまたは有機的に誘導されたメタンのいずれかから誘導されてもよい。
【0046】
本発明で使用されるフィッシャー・トロプシュ由来のディーゼル燃料成分を、精製またはフィッシャー・トロプシュ反応から直接得てもよく、または、例えば分留または水素化処理された生成物を得るための、精製物または合成生成物の分留または水素化処理によって間接的に得てもよい。水素化処理には、沸点範囲を調整するための水素化分解(例えば、英国特許第2077289号明細書および欧州特許出願公開第0147873号明細書を参照されたい)、および/または分岐パラフィンの割合を増やすことによってコールドフロー特性を改善することができる水素化異性化を含めることができる。欧州特許出願公開第0583836号明細書には2段階の水素化処理プロセスが記載されており、その中では、フィッシャー・トロプシュ合成生成物が、最初に、異性化または水素化分解を実質的に受けない条件下で水素変換に供され(これにより、オレフィンおよび酸素含有成分を水素化する)、次に、得られた生成物の少なくとも一部が、水素化分解および異性化が起こってパラフィン系の炭化水素燃料を実質的に生成する条件下で、水素変換される。続いて、所望の留分、通常は軽油留分が、例えば蒸留によって分離されてもよい。
【0047】
重合、アルキル化、蒸留、分解-脱炭酸、異性化、および水素化改質などの他の合成後処理を採用して、例えば米国特許出願公開第4125566号明細書および米国特許出願公開第4478955号明細書に記載されるように、フィッシャー・トロプシュ縮合生成物の特性を変更してもよい。
【0048】
パラフィン系炭化水素のフィッシャー・トロプシュ合成のための通常の触媒は、触媒活性成分として、元素の周期表の第VIII族からの金属、特に、ルテニウム、鉄、コバルト、またはニッケルを含む。このような適切な触媒は、例えば欧州特許出願公開第0583836号明細書に記載されている。
【0049】
フィッシャー・トロプシュ系プロセスの例としては、Shell(商標)の「Gas-to-liquids」または「GtL」テクノロジーがある(以前はShell中間留出油合成(Shell Middle Distillate Synthesis:SMDS)として知られており、1985年11月にワシントンDCで開催された第5回Synfuels Worldwide Symposiumで発表された論文、van der Burgtらによる「The Shell Middle Distillate Synthesis Process」、および1989年11月に英国ロンドンのShell International Petroleum Company Ltdからの同タイトルの刊行物に記載されている)。後者の場合、水素変換プロセスの好ましい特徴は、そこに開示されている通りであってもよい。このプロセスでは、天然ガスを重質長鎖炭化水素(パラフィン)ワックスに変換し、次に水素変換し分留することにより、中間留出範囲の製品を製造する。
【0050】
本明細書で使用する場合、フィッシャー・トロプシュ由来の燃料成分は、好ましくは、ガスから液体への合成に由来する任意の適切な成分(以下、GtL成分)、または、例えばガス、バイオマス、または石炭を液体に変換する類似のフィッシャー・トロプシュ合成に由来する成分(以下、XtL成分)である。フィッシャー・トロプシュ由来の成分は、好ましくはGtL成分である。フィッシャー・トロプシュ由来の成分は、BtL(バイオマスから液体)成分であってもよい。一般に、適切なXtL成分は、例えば、当技術分野で知られている灯油、ディーゼル油、および軽油の留分から選択される中間留出燃料成分であってもよい。このような成分は、一般的に、合成プロセス燃料または合成プロセスオイルとして分類され得る。好ましくは、ディーゼル燃料成分として使用するためのXtL成分は、軽油である。
【0051】
本発明で使用するために調製された組成物に含有されるディーゼル燃料成分は、通常、15℃での密度が750~900kg/m3、好ましくは800~860kg/m3(ASTM D-4052またはEN ISO 3675)であり、かつ/または、VK 40が1.5~6.0mm2/s(ASTM D-445またはEN ISO 3104)である。
【0052】
本発明で使用するために調製されたディーゼル燃料組成物において、ベース燃料自体は、上記の種類の2種以上のディーゼル燃料成分の混合物を含んでもよい。ベース燃料は、植物油、水素化植物油、もしくは植物油誘導体(例えば脂肪酸エステル、特に脂肪酸メチルエステル)、または酸、ケトン、もしくはエステルなどの別の酸素化物などの、いわゆる「バイオディーゼル」燃料成分であるか、またはそれを含有してもよい。そのような成分は、必ずしもバイオ由来である必要はない。
【0053】
本発明で使用するために調製された自動車用ディーゼル燃料組成物は、例えばEN 590(欧州用)またはASTM D-975(米国用)などの、適用可能な現在の標準仕様に適切に準拠する。例として、燃料組成物全体は、15℃での密度が820~845kg/m3(ASTM D-4052またはEN ISO 3675)、T95沸点(ASTM D-86またはEN ISO 3405)が360℃以下、測定セタン価(ASTM D-613)が51以上、VK 40(ASTM D-445またはEN ISO 3104)が2~4.5mm2/s、硫黄含有量(ASTM D-2622またはEN ISO 20846)が50mg/kg以下、かつ/または多環芳香族炭化水素(PAH)含有量(IP 391(mod))が11%w/w未満であってもよい。ただし、関連する仕様は、国ごと、および年ごとに異なる場合があり、燃料組成物の使用目的によって異なる場合がある。
【0054】
本明細書で使用するためのディーゼル燃料組成物は、硫黄を、5000ppmw(重量百万分率)以下、通常2000~5000ppmw、または1000~2000ppmw、あるいは最大1000ppmwで適切に含有する。前記組成物は、硫黄を、例えば最大で500ppmw、好ましくは350ppmw以下、最も好ましくは100または50さらには10ppmw以下で含有する、例えば低硫黄もしくは超低硫黄の燃料、または硫黄を含まない燃料であってもよい。
【0055】
本発明で使用するために調製された自動車用燃料組成物、またはそのような組成物で使用されるベース燃料は、添加剤が加えられてもよいし(添加剤含有)、加えられなくてもよい(添加剤非含有)。例えば精製所で添加される場合、前記組成物またはベース燃料は、例えば、帯電防止剤、パイプライン抗力低減剤、流動性向上剤(例えば、エチレン/酢酸ビニル共重合体またはアクリル酸/無水マレイン酸共重合体)、潤滑性添加剤、粘度指数(VI)向上剤、抗酸化剤、およびワックス沈降防止剤から選択される1つまたは複数の少量の添加剤を含有する。このように、前記組成物は、EGR堆積物制御添加剤に加えて、少量(好ましくは1%w/w以下、より好ましくは0.5%w/w(5000ppmw)以下、最も好ましくは0.2%w/w(2000ppmw)以下)の1つまたは複数の燃料添加剤を含有してもよい。
【0056】
前記組成物は、例えば洗浄剤を含有してもよい。洗浄剤含有ディーゼル燃料添加剤は知られており、市販されている。本目的に適切な洗浄剤の例としては、ポリオレフィン置換スクシンイミドまたはポリアミンのスクシンアミド、例えばポリイソブチレンスクシンイミドまたはポリイソブチレンアミンスクシンアミド、脂肪族アミン、マンニッヒ塩基またはアミン、およびポリオレフィン(例えばポリイソブチレン)無水マレイン酸が挙げられる。スクシンイミド分散剤添加剤は、例えば、英国特許出願公開第960493号明細書、欧州特許出願公開第0147240号明細書、同0482253号明細書、同0613938号明細書、同0557516号明細書、および国際公開第98/42808号に記載されている。特に、ポリイソブチレンスクシンイミドなどのポリオレフィン置換スクシンイミドが好ましい。
【0057】
本発明に従って調製された燃料組成物で使用可能な燃料添加剤混合物は、洗浄剤に加えて他の成分を含有してもよい。例としては、潤滑性向上剤;曇り除去剤、例えばアルコキシル化フェノールホルムアルデヒドポリマー;消泡剤(例えばポリエーテル修飾ポリシロキサン);着火性向上剤(セタン価向上剤);防錆剤(例えば、テトラプロペニルコハク酸のプロパン-1,2-ジオールセミエステル、またはコハク酸誘導体の多価アルコールエステル、20~500個の炭素原子を含有する非置換または置換の脂肪族炭化水素基を、アルファ炭素原子のうちの少なくとも1つの上に有するコハク酸の誘導体、例えば、ポリイソブチレン置換コハク酸のペンタエリスリトールジエステル);腐食防止剤;付香剤;耐摩耗性添加剤;抗酸化剤(例えば、2,6-ジ-tert-ブチルフェノールなどのフェノール類、またはN,N’-ジ-sec-ブチル-p-フェニレンジアミンなどのフェニレンジアミン類);金属不活性化剤;助燃剤;静電気消散剤;低温流動性向上剤;およびワックス沈降防止剤が挙げられる。
【0058】
特に明記しない限り、添加剤が加えられた燃料組成物中のこのような各添加剤成分の(活性物質)濃度は、好ましくは最大10000ppmwであり、より好ましくは0.1~1000ppmw、有利には0.1~300ppmw、例えば、0.1~150ppmwの範囲である。
【0059】
必要に応じて、1つまたは複数の上に挙げた添加剤などの添加剤成分は、(好ましくは適切な希釈剤と一緒に)添加剤濃縮物中で共混合されてもよく、次いで、ベース燃料または燃料組成物中に分散されてもよい。EGR堆積物制御添加剤は、本発明によれば、そのような添加剤配合物に組み込まれてもよい。
【0060】
ディーゼル燃料組成物の場合、例えば、燃料添加剤混合物は、通常、上記のような他の成分と任意選択的に一緒に洗浄剤を含有し、かつ鉱油であってもよいディーゼル燃料適合希釈剤、「SHELLSOL」という商標でShell companiesから販売されているような溶媒、エステルなどの極性溶媒、ならびに特にアルコール、例えば、ヘキサノール、2-エチルヘキサノール、デカノール、イソトリデカノール、および「LINEVOL」という商標でShell companiesから販売されているようなアルコール混合物、特に、C7~9第一級アルコールの混合物であるLINEVOL 79アルコール、または市販されているC12~14アルコール混合物を含有する。
【0061】
燃料組成物中の添加剤の総含有量は、適切には0~10000ppmwの間、好ましくは5000ppmw未満であってもよい。
本明細書において、成分の量(濃度、%v/v、ppmw、%w/w)は活性物質の量であり、すなわち揮発性溶媒/希釈剤は除く。
【0062】
本発明の文脈において、燃料組成物におけるEGR堆積物制御添加剤の「使用」は、通常、1つまたは複数の燃料成分(通常はディーゼルベース燃料)と、任意選択で1つまたは複数の燃料添加剤とのブレンド物(すなわち物理的混合物)として、EGR堆積物制御添加剤を前記組成物に組み込むことを意味する。EGR堆積物制御添加剤は、前記組成物がその組成物で作動するエンジンに導入される前に好都合に組み込まれる。代替的または付加的に、EGR堆積物制御添加剤の使用は、通常、EGR堆積物制御添加剤を含有する燃料組成物をエンジンの燃焼室に導入することによって、その組成物でエンジンを作動させることを含んでもよい。
【0063】
本発明によると、EGR堆積物制御添加剤の「使用」はまた、1つまたは複数の上記の目的を達成するために、特に、前記組成物が導入されるか、導入されることが意図される圧縮点火エンジンのEGRシステムにおいて堆積物の蓄積を低減するために、自動車用燃料組成物におけるEGR堆積物制御添加剤の使用に関する指示とともに、そのような添加剤の供給を包含してもよい。
【0064】
EGR堆積物制御添加剤は、それ自体、燃料添加剤、特にディーゼル燃料添加剤としての使用に適切な、かつ/または使用を意図した配合物の成分として供給されてもよく、その場合、EGR堆積物制御添加剤は、燃料組成物が導入される、または導入されることが意図される圧縮点火エンジンのEGRシステムにおいて、堆積物の蓄積を低減することを目的として、そのような配合物に含まれてもよい。
【0065】
このように、EGR堆積物制御添加剤は、1つまたは複数の他の燃料添加剤と一緒に、添加剤の配合物またはパッケージに組み込まれてもよい。例えば、添加剤配合物において、洗浄剤、防錆添加剤、エステル、ポリアルファオレフィン、長鎖有機酸、アミンまたはアミドの活性中心を含有する成分、およびそれらの混合物から選択される1つまたは複数の燃料添加剤と組み合わせてもよい。特に、EGR堆積物制御添加剤は、1つまたは複数のいわゆる性能添加剤と組み合わせてもよく、これには通常、少なくとも洗浄剤が含まれる。
【0066】
EGR堆積物制御添加剤は、例えば精製所で、燃料成分または燃料組成物に直接投与されてもよい。EGR堆積物制御添加剤は、自動車用燃料全組成物の一部となる適切な燃料成分で予め希釈されてもよい。
【0067】
本発明によれば、2つ以上のEGR堆積物制御添加剤が、上記の目的のために自動車用燃料組成物中に使用されてもよい。
本発明は、前記燃料組成物が、例えば、ロータリーポンプ、インラインポンプ、ユニットポンプ、電子ユニットインジェクタ、もしくはコモンレール式の直接噴射式ディーゼルエンジンにおいて、または副室式ディーゼルエンジンにおいて使用されるか、使用されることが意図される場合に、特に適用可能であり得る。前記燃料組成物は、大型および/または小型のディーゼルエンジン、ならびに路上使用、オフロード使用、船舶用途、および鉄道用途向けに設計されたエンジンでの使用に適切であり得る。
【0068】
本発明を、以下の非限定的な実施例により説明する。
【実施例】
【0069】
エンジン試験方法A
任意選択で1つまたは複数のEGR堆積物低減添加剤を含み、EN590に準拠したB7ディーゼル燃料組成物を、排気ガス再循環(EGR)システム(PSAグループ、フランス)を備えたターボ過給インタークーラ付き直接噴射コモンレール1.6リットルエンジンで燃焼させた。上記で使用したベースエンジンは、プジョー・パートナーのテピー車から選択した。
【0070】
エンジンの仕様は以下の通りである。
エンジン形式:DV6C E5
シリンダー数:4
バルブ数:8
30ストローク:88.3mm
ボア:75mm
排気量:1560cm3
燃料噴射システム:直接噴射コモンレール
ターボ:可変ジオメトリ
パワー:82kW@3600rpm
トルク:270Nm@1750rpm
試験方法は以下の通りである。
【0071】
洗浄および乾燥を行ったEGRシステム構成部品、つまり吸気プラスチック菅、EGR出口管、EGRバルブ、EGRクーラ、およびEGRハウジングの重量を個別に測定した。次に、それらのEGR構成部品をエンジンに組み込んだ。
【0072】
7リットルの試験燃料でシステムをパージし、燃料フィルタを交換することにより、燃料を試験燃料に変えた。
エンジン試験を開始した。
【0073】
ウォームアップサイクルを実行した(アイドル状態で2分間、次に10kWで1500rpmを5分間、次に20kWで2500rpmを5分間)。
「バーンオフ」サイクルを実行して、EGRシステムの外部にあるエンジンシステム構成部品内の堆積物を除去/安定化させた(40kWで3500rpmを2時間)。
【0074】
1時間目と2時間目のセグメントの平均エンジンパラメータデータを記録した。
エンジンを、冷却水温度設定値37℃で24時間(2500rpmおよび5kW)稼動させた。測定された全てのエンジンパラメータの平均ログを10分間ごとに取得した。
【0075】
エンジン試験の一環として、試験の開始時、中間時、および終了時にガス排出量を測定した。
エンジンを停止し、15分間冷却した。その後、EGRシステムをすぐに取り除いた。EGR構成部品を取り除き、分解した。上記のEGRシステム構成部品の重量を個別に測定した(湿性堆積物の重量を提供)。上記のEGRシステム構成部品を50℃のオーブン内で乾燥させた後、重量を個別に測定した(乾燥堆積物の重量を提供)。
【0076】
堆積物を、EGRクーラの熱交換器チューブ内からこすり落とした。このサンプルを、さらなる分析のために保管した。
上記のEGRシステム構成部品を、高温洗浄剤浴で洗浄し、次にヘプタンで完全にすすぎ、50℃で2時間オーブン内で乾燥した。
【0077】
その後、次の実験のために、上記のようにEGRシステム構成部品の重量を測定し、再び組み立てた。
エンジン試験方法B
方法Bは、方法Bにおけるディーゼル燃料組成物が、窒素含有洗浄剤、他の少量成分、および溶媒を含む市販の添加剤パッケージをさらに含むこと以外は、全ての点で方法Aと同じである。
【0078】
以下の実施例では、時間経過に伴うエンジンの性能の自然変動を考慮し、また長期研究のためにB7ベース燃料の複数バッチを使用する(各加速試験は約100Lの燃料を必要とする)必要性などの他の要因を説明するために、制御エンジン試験を各試験エンジンの試験の前および/または後に行った。
【0079】
同じ理由で、比較および/または発明のエンジン試験の総乾燥堆積物質量(g)の平均値は、研究データセット全体から長期平均を計算するのではなく、エンジン試験のより小さなグループから計算する。これらのグループでは、同じベース燃料バッチを使用し、実験を約1週間の間に実行した。
【0080】
実施例1
上に示した方法Aに従って、一連のエンジン試験を行った。B7ベース燃料を硝酸2-エチルヘキシル(2-ethylhexyl nitrate:2-EHN)(600ppm)で処理した実施例1bを除いて、EGR堆積物低減添加剤を用いずに全ての作動を行った。結果を表1に示す。
【0081】
【0082】
実施例1aおよび1cから、2-EHNがない場合の平均の総乾燥堆積物の質量は、14.06gと計算された。
方法Aの試験条件下での2-EHN(600ppm)の適用によるEGR堆積物の低減率は、28.8%と計算された。
【0083】
実施例2
上に示した方法Bに従って、一連のエンジン試験を行った。実施例2aでは、B7ベース燃料(市販の洗浄剤パッケージも含まれる)を2-EHN(600ppm)で処理した。実施例2の結果を、以下の表2に示す。
【0084】
【0085】
方法Bの試験条件下での2-EHN(600ppm)の適用によるEGR堆積物の低減率は、27.3%と計算された。
実施例3
上に示した方法Bに従って、一連のエンジン試験を行った。実施例3bでは、B7ベース燃料(市販の添加剤パッケージも含まれる)を2-EHN(300ppm)で処理した。実施例3の結果を、以下の表3に示す。
【0086】
【0087】
方法Bの試験条件下での2-EHN(300ppm)の適用によるEGR堆積物の低減率は、24.1%と計算された。
実施例4
上に示した方法Bに従って、一連のエンジン試験を行った。実施例4bおよび4cでは、B7ベース燃料(市販の洗浄剤パッケージも含まれる)を2-EHN(150ppm)で処理した。実施例5の結果を、以下の表4に示す。
【0088】
【0089】
実施例4aおよび4dから、2-EHNがない場合の平均の総乾燥堆積物の質量は、15.64gと計算された。
実施例4bおよび4cから、燃料に2-EHN(150ppm)を添加したときの平均の総乾燥堆積物の質量は、12.61gと計算された。
【0090】
方法Aの試験条件下での2-EHN(150ppm)の適用によるEGR堆積物の低減率は、19.4%と計算された。
実施例5
上に示した方法Bに従って、一連のエンジン試験を行った。実施例5bおよび5cでは、B7ベース燃料(市販の洗浄剤パッケージも含まれる)を2-EHN(75ppm)で処理した。実施例5の結果を、以下の表5に示す。
【0091】
【0092】
実施例5aおよび5dから、2-EHNがない場合の平均の総乾燥堆積物の質量は、14.65gと計算された。
実施例5bおよび5cから、燃料に2-EHNを添加したときの平均の総乾燥堆積物の質量は、12.63gと計算された。
【0093】
方法Bの試験条件下での2-EHN(75ppm)の適用によるEGR堆積物の低減率は、13.8%と計算された。
実施例2、3、4、および5の結果より、ディーゼル燃料に洗浄剤パッケージがさらに添加された場合、2-EHNがEGR堆積物の蓄積を低減するための有効なディーゼル燃料添加剤であることが示された。
【0094】
実施例2、3、4、および5の結果を
図1に示す。
実施例6
上に示した方法Bに従って、一連のエンジン試験を行った。実施例6bおよび6cでは、B7ベース燃料(市販の洗浄剤パッケージも含まる)を2-EHN(75ppm)で処理した。実施例6の結果を、以下の表6に示す。
【0095】
【0096】
実施例6aおよび6cから、EGR堆積物制御添加剤がない場合の平均の総乾燥堆積物の質量は、14.08gと計算された。
方法Bの試験条件下での2-EHN(75ppm)とジ-tert-ブチルペルオキシド(di-tert-butyl peroxide:DTBP)(75ppm)との同時適用によるEGR堆積物の低減率は、17.1%と計算された。
【0097】
実施例6の結果より、ディーゼル燃料に洗浄剤パッケージがさらに添加された場合、2-EHNとDTBPとの組み合わせが、EGR堆積物を低減するための有効なディーゼル燃料添加剤であることが示された。
【0098】
実施例7
上に示した方法Aに従って、一連のエンジン試験を行った。実施例7bでは、B7ベース燃料を2-EHN(5000ppm)で処理した。
【0099】
実施例7の結果を表7に示す。
【0100】
【0101】
実施例7aおよび7cから、EGR堆積物制御添加剤がない場合の平均の総乾燥堆積物の質量は、14.00gと計算された。
方法Aの試験条件下での2-EHN(5000ppm)の適用によるEGR堆積物の低減率は、44.21%と計算される。
【0102】
実施例8
上に示した方法Bに従って、一連のエンジン試験を行った。実施例8bでは、B7ベース燃料(市販の洗浄剤パッケージも含まれる)を硝酸デシル(600ppm)で処理した。
【0103】
実施例8の結果を表8に示す。
【0104】
【0105】
実施例8aおよび8cから、EGR堆積物制御添加剤がない場合の平均の総乾燥堆積物の質量は、13.54gと計算された。
方法Bの試験条件下での硝酸デシル(600ppm)の適用によるEGR堆積物の低減率は、12.63%と計算される。
【0106】
実施例9
上に示した方法Bに従って、一連のエンジン試験を行った。実施例9bでは、B7ベース燃料(市販の洗浄剤パッケージも含まれる)を硝酸ドデシル(600ppm)で処理した。
【0107】
実施例9の結果を表9に示す。
【0108】
【0109】
実施例9aおよび9cから、EGR堆積物制御添加剤がない場合の平均の総乾燥堆積物の質量は、13.54gと計算された。
硝酸ドデシル(600ppm)の適用による、方法Bの試験条件下でのEGR堆積物の低減率は、12.33%と計算される。
【0110】
実施例10
上に示した方法Bに従って、一連のエンジン試験を行った。実施例10bでは、B7ベース燃料(市販の洗浄剤パッケージも含まれる)を硝酸ドデシル(600ppm)で処理した。
【0111】
実施例10の結果を表10に示す。
【0112】
【0113】
実施例10aおよび10cから、EGR堆積物制御添加剤がない場合の平均の総乾燥堆積物の質量は、13.41gと計算された。
硝酸イソプロピル(600ppm)の適用による、方法Bの試験条件下でのEGR堆積物の低減率は、9.62%と計算される。
本明細書は以下の発明の態様を包含する。
[1]
圧縮点火内燃エンジンの排気ガス再循環(EGR)システムにおいて堆積物の蓄積を低減するための、硝酸エステル化合物、過酸化化合物、亜硝酸エステル化合物、ポリエーテル化合物、およびそれらの混合物から選択される添加剤のディーゼル燃料組成物における使用。
[2]
前記EGRのクーラにおいて堆積物の蓄積を低減するための、[1]に記載の使用。
[3]
前記EGRシステムが短ループEGRシステムである、[1]または[2]に記載の使用。
[4]
前記圧縮点火内燃エンジンが、定格動作圧力が1300バールを超える燃料システムを含む、[1]から[3]のいずれかに記載の使用。
[5]
前記添加剤が、硝酸アルキル、過酸化アルキル、およびそれらの混合物から選択される、[1]から[4]のいずれかに記載の使用。
[6]
前記硝酸アルキルが式R
1
-ONO
2
を有する化合物から選択され、
式中、R
1
は、任意選択で置換された直鎖C
2
~C
20
アルキル基、任意選択で置換された分岐鎖C
2
~C
20
アルキル基、または任意選択で置換されたC
3
~C
20
シクロアルキル基である、[5]に記載の使用。
[7]
R
1
が非置換のC
2
~C
20
アルキル基である、[6]に記載の使用。
[8]
前記添加剤が、硝酸2-エチルヘキシルである、[1]から[7]のいずれかに記載の使用。
[9]
前記過酸化アルキルが式R
2
-O-O-R
3
を有する化合物から選択され、式中、R
2
は任意選択で置換されたアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはアシル基であり、R
3
は、水素、または任意選択で置換されたアルキル基、アリール基、アラルキル基、もしくはアシル基である、[5]に記載の使用。
[10]
R
2
およびR
3
が、非置換のC
1
~C
10
のアルキル基またはアシル基から独立して選択される、[9]に記載の使用。
[11]
R
2
がR
3
と同じである、[9]または[10]に記載の使用。
[12]
前記添加剤がジ-tert-ブチルペルオキシドである、[1]から[11]のいずれかに記載の使用。
[13]
前記添加剤の濃度が、前記ディーゼル燃料組成物の総重量に基づいて、1~5000ppm、好ましくは20~2000ppm、より好ましくは50~500ppmの範囲にある、[1]から[12]のいずれかに記載の使用。
[14]
圧縮点火内燃エンジンの排気ガス再循環(EGR)システムにおいて堆積物の蓄積を低減するための方法であって、硝酸エステル化合物、過酸化化合物、亜硝酸エステル化合物、ポリエーテル化合物、およびそれらの混合物から選択される添加剤を含むディーゼル燃料組成物を前記エンジンに導入するステップを含む方法。