(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】ホウ素中性子捕捉療法において使用するためのボリル化されたアミノ酸組成物およびその方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/69 20060101AFI20240829BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240829BHJP
A61K 41/00 20200101ALI20240829BHJP
C07F 5/02 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
A61K31/69
A61P35/00
A61K41/00
C07F5/02 C
(21)【出願番号】P 2021552589
(86)(22)【出願日】2020-03-04
(86)【国際出願番号】 US2020000007
(87)【国際公開番号】W WO2020180390
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-03-03
(32)【優先日】2019-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521034351
【氏名又は名称】ティーエーイー ライフ サイエンシーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】トルゴフ, マイケル ワイ.
(72)【発明者】
【氏名】マーティン, タイオガ ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ライタノ, アーサー ビー.
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-529471(JP,A)
【文献】国際公開第2017/175827(WO,A1)
【文献】A. V. Prikaznov et al.,Synthesis of boron-containing tyrosine derivatives based on the closo-decaborate and closo-dodecaborate anions,Russian Chemical Bulletin, International Edition, Vol. 60, No. 12, pp. 2550-2554, December, 2011,2011年12月01日,60(12),2550-2554,https://www.researchgate.net/profile/Igor-Sivaev/publication/257660303_Synthesis_of_boronontaining_tyrosine_derivatives_based_on_the_closodecaborate_and_closododecaborate_anions/links/57541e3608ae10d933790d62/Synthesis-of-boron-containing-tyrosine-derivatives-based-on-the-closo-decaborate-and-closo-dodecaborate-anions.pdf
【文献】Yukio Hitotsuyanagi et al.,Isolation, Structure Determination, and Synthesis of Allo-RA-V and Neo-RA-V, RA-Series Bicyclic Peptides from Rubia cordifolia L.,Chem. Eur. J. 2012, 18, 2839-2846,2012年03月05日,18,2839-2846,https://chemistry-europe.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/chem.201103185
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
A61K 41/00
C07F 5/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の化学構造:
【化32】
を含む、組成物。
【請求項2】
請求項
1に記載の組成物を含むキット。
【請求項3】
請求項
1に記載の組成物を含む投薬単位形態。
【請求項4】
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において使用される、請求項
1に記載の
組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年3月4日に出願された米国仮特許出願第62/919,156号の優先権を主張し、その内容は参照により本明細書に完全に組み込まれる。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究の下でなされた発明に対する権利の陳述
該当せず。
【0003】
発明の分野
本明細書に記載されている発明は、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の分野に関する。具体的には、本発明は、ヒトにおける中性子捕捉療法のための媒体として使用することができるボリル化されたアミノ酸(「BAA」)または(「BAAs」)組成物に関する。本発明はさらに、がんならびにその他の免疫障害および疾患の処置に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
がんは、世界中で冠動脈疾患に次いで2番目に多い死因である。毎年、何百万人もの人々ががんにより死亡し、米国だけでも毎年50万人をはるかに超える人々ががんにより死亡しており、2017年には、1,688,780人の新たながん症例が診断された(American Cancer Society)。心疾患による死亡は大幅に減少しているが、がんに起因する死亡は一般に増加している。来世紀の初頭には、医学の発展が現在の傾向を変えない限り、がんが主な死因になると予測されている。
【0005】
いくつかのがんは、高い死亡率を有するとして注目されている。特に、肺(すべてのがんによる死亡の18.4%)、乳房(すべてのがんによる死亡の6.6%)、結腸直腸(すべてのがんによる死亡の9.2%)、肝臓(すべてのがんによる死亡の8.2%)および胃(すべてのがんによる死亡の8.2%)の癌腫は、世界中のすべての年齢で、男女いずれにおいてもがんによる死亡の主な原因となっている(GLOBOCAN 2018)。これらの癌腫および実質的にすべての他の癌腫は、原発腫瘍から離れた部位に転移するという共通の致死的特徴を共有しており、ごくわずかな例外を除けば、転移性疾患は致死的である。さらに、当初、原発がんを生存したがん患者であっても、一般的な経験は、彼らの生活が劇的に変化することを示している。多くのがん患者は、再発または処置失敗の可能性を意識することによって強い不安を経験する。多くのがん患者は、処置後に身体的な衰弱も経験する。さらに、多くのがん患者は、疾患の再発を経験する。
【0006】
がん治療は過去数十年にわたって改善され、生存率は増加しているが、がんの不均一性のため、複数の処置様式を利用する新しい治療戦略が依然として必要とされている。このことは、標準的な放射線療法および/または化学療法に限定されることがある解剖学的に重要な部位(例えば、神経膠芽腫、頭頸部の扁平上皮癌腫および肺腺がん)の固形腫瘍の処置について特に当てはまる。それにもかかわらず、これらの療法の有害な作用は化学療法抵抗性および放射線抵抗性であり、患者の生活の質を低下させる重度の副作用に加えて、局所領域での再発、遠隔転移および別の原発腫瘍を促進する。
【0007】
中性子捕捉療法(NCT)は、放射線療法の有望な形態である。NCTは、正常細胞には危害を加えず、ホウ素化合物を用いて腫瘍細胞を選択的に死滅させる技術である。BNCTは、0.5keV<En<30keVの低エネルギー範囲に入る熱外中性子を吸収する非放射性の10B同位体の傾向に依存する。中性子捕捉後に、ホウ素原子は、以下のようにα粒子および反跳リチウム核(7Li)を生じさせる核分裂反応を受ける。
10B+n→7Li+4He
【0008】
α粒子は、二本鎖DNA切断とそれに続くアポトーシスによるがん細胞死をもたらす高いエネルギー、すなわち150keV/μmを、単一細胞の直径に本質的に限定されたその短い行程に沿って蓄積する。したがって、BNCTは、化学療法、標的療法および伝統的な放射線療法の肉眼的解剖学的局在化の両方の概念を統合する。
【0009】
NCT、具体的にはホウ素中性子捕捉療法(BNCT)という概念的技術は周知であるが、この種の処置に伴う技術的限界により進歩は鈍化している。1960年にMITの研究用反応炉を使用した初期の調査中に、数十人(several dosens)の患者がデカヒドロデカホウ酸二ナトリウムを使用して処置され、デカヒドロデカホウ酸二ナトリウムは、以前に使用されていた単純なホウ素化合物よりも毒性が低いが、より多くのホウ素を細胞に送達することができると考えられていた。残念なことに、BNCTを受けている患者での重度の脳壊死および反応炉を使用することの潜在的な有害性のために、BNCT研究は、米国では中止された。
【0010】
1968年に、Hiroshi Hatanakaは、外科的に露出させた頭蓋内腫瘍に光線を向けることによってボロカプテイトナトリウム(BSH)を使用して、日本でBNCTの臨床応用を再調査し、58%の5年生存率を達成したと報告した。1987年に、日本の臨床医は、ホウ素化合物としてボロノフェニルアラニン(BPA)を使用して、悪性黒色腫の処置に対してBNCTを適用した。このように、熱外中性子線を送達することができる研究用反応炉設備を利用できる国に限定されるが、BNCTの緩やかな復活が起こった。現在、(i)好ましくは腫瘍内に集まる捕捉化合物の注入および送達、ならびに(ii)サイクロトロンを使用した中性子線へのより多くの、より容易なアクセスの両方での技術的改善によって、NCT処置方法が復活している。
【0011】
陽子ホウ素融合反応は、BNCTのために必要とされる10Bではなく、天然に豊富に存在する11B同位体に依存する。BNCTとは異なり、陽子(1H)とホウ素(11B)核の間での融合反応後には、3つのα粒子が放出される:p+11B->3α。陽子線は、正常な組織の損傷を軽減するブラッグピーク特性という利点を有しており、陽子捕捉と組み合わされると、陽子治療単独の有効性を改善し得る。
【0012】
ホウ素の担体は、1950年以来進化しており、NEDUNCHEZHIANら、J.Clin.Diag.Res.,vol.10(12)(Dec.2016)に概説されている。簡潔には、ホウ酸およびその誘導体によって代表されるホウ素化合物の第1世代は、毒性であるか、または低い腫瘍蓄積/保持という難点があった。BPAおよびBSHはいずれも、1960年代に登場した第2世代化合物と考えられている。これらは、有意により低い毒性ならびにより良好なPKおよび体内分布を有していた。BPA-フルクトース複合体は、1994年以来、BNCTを使用して頭頸部(H&N)、神経膠芽腫および黒色腫の患者を処置するために使用されている第3世代化合物と考えられている。BPA-フルクトースおよびBSHは、今日までにホウ素担体として臨床で使用されている唯一の化合物であるが、ヌクレオシド、ポルフィリン、リポソーム、ナノ粒子およびmAbなどの低分子量および高分子量生体分子の両方が前臨床モデルにおいて腫瘍標的化について評価されている。BPA-フルクトースの主な欠陥は、比較的溶解度が低いことに加えて、その排泄が速いことであり、排泄の速さが、腫瘍取り込みに影響を及ぼす要因の1つである高い血中Cmaxの達成を妨げる。
【0013】
上記の記述から、がんおよび免疫疾患の処置において新しい処置パラダイムが必要とされていることは、当業者であれば容易に分かるであろう。現代の化学合成を使用し、天然アミノ酸をホウ素で修飾することによって、より効果的な処置、副作用の低減および製造コストの低減を全体的な目標として、新しい疾患処置を達成することができる。
NCTに伴う現在の欠陥に鑑みて、ボリル化されたアミノ酸およびNCTを利用して、がん、免疫障害、およびその他の疾患を処置する新規で改善された方法を提供することが本発明の目的である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【文献】NEDUNCHEZHIANら、J.Clin.Diag.Res.,vol.10(12)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の概要
本発明は、がん、免疫障害(関節リウマチ、強直性脊椎炎を含むがこれらに限定されない)、および他の細胞性疾患(アルツハイマー病を含むがこれに限定されない)などのヒト疾患を処置するための送達様式として使用するための、化学合成を介してボリル化された天然アミノ酸を含む組成物を提供する。特定の実施形態では、ボリル化されたアミノ酸は、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、ヒスチジンおよび表Iに記載されている任意の他の天然に存在するアミノ酸などの天然に存在するアミノ酸から構成される。
【0016】
さらなる実施形態では、本発明は、細胞中のホウ素を濃縮する方法であって、(i)ボリル化されたアミノ酸(「BAA」)を合成することと、(ii)前記BAAを患者に投与することと、(iii)前記細胞に中性子を照射することと、を含む方法を含む。
【0017】
別の実施形態では、本開示は、BAAを合成する方法を教示する。
【0018】
別の実施形態では、本開示は、ヒトにおけるがん、免疫障害およびその他の疾患を処置する方法を教示する。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
以下の化学構造:
【化31】
式中、E=CO
2
H、CONHB
12
H
11
、B(OH)
2
;および
X=H、B(OH)
2
、Bpin、(-O-CH
2
CH
2
)
2
-O-B
12
H
11
を含む組成物。
(項目2)
前記組成物が、
【化32】
を含む、項目1に記載の組成物。
(項目3)
以下の化学構造:
【化33】
式中、E=CO
2
H、CONHB
12
H
11
、B(OH)
2
;および
X=H、B(OH)
2
、Bpin、(-O-CH
2
CH
2
)
2
-O-B
12
H
11
を含む組成物。
(項目4)
前記組成物が、
【化34】
を含む、項目3に記載の組成物。
(項目5)
以下の化学構造:
【化35】
式中、E=CO
2
H、CONHB
12
H
11
、B(OH)
2
;および
X=H、B(OH)
2
、Bpin、(-O-CH
2
CH
2
)
2
-O-B
12
H
11
を含む組成物。
(項目6)
前記組成物が、
【化36】
を含む、項目5に記載の組成物。
(項目7)
項目1に記載の組成物を含むキット。
(項目8)
項目2に記載の組成物を含むキット。
(項目9)
項目3に記載の組成物を含むキット。
(項目10)
項目4に記載の組成物を含むキット。
(項目11)
項目5に記載の組成物を含むキット。
(項目12)
項目6に記載の組成物を含むキット。
(項目13)
項目1に記載の組成物を含む投薬単位形態。
(項目14)
項目2に記載の組成物を含む投薬単位形態。
(項目15)
項目3に記載の組成物を含む投薬単位形態。
(項目16)
項目4に記載の組成物を含む投薬単位形態。
(項目17)
項目5に記載の組成物を含む投薬単位形態。
(項目18)
項目6に記載の組成物を含む投薬単位形態。
(項目19)
前記ヒト単位形態がホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において使用される、項目13に記載のヒト単位形態。
(項目20)
前記ヒト単位形態がホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において使用される、項目14に記載のヒト単位形態。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【
図6】TLS00192のLCMS純度および質量確認。
【0025】
【
図7】TLS00178のLCMS純度および質量確認。
【0026】
【
図8】TLS00190のLCMS純度および質量確認。
【0027】
【0028】
【
図10】TLS00192およびBPA-フルクトースの速度論的パラメータ。
【0029】
【
図11】FaDu細胞におけるTLS00192およびBPA-フルクトースの細胞保持。
【0030】
【
図12】TLS00192についてのLAT-1媒介競合研究。
【0031】
【
図13】FaDu細胞におけるTLS00190およびTLS00178のホウ素取り込み。
【0032】
【
図14】FaDu細胞におけるTLS00190、TLS00178およびBPA-フルクトースの細胞保持。
【発明を実施するための形態】
【0033】
発明の詳細な説明
セクションの概要
I.)定義
II.)BPA
III.)BSH
IV.)ホウ素
a.ホウ素一般
V.)天然に存在するアミノ酸
VI.)ボリル化されたアミノ酸(BAA)
a.BPA-BS
b.BPA-BN
c.アミノ酸組成物
d.フェニルアラニンを含むBAA
e.トリプトファンを含むBAA
f.チロシンを含むBAA
g.ヒスチジンを含むBAA
VII.)BAAを用いたホウ素中性子捕捉療法
VIII.)BAAを用いた陽子ホウ素融合療法
IX.)細胞にBAAを送達する方法
X.)キット/製造品
【0034】
I.)定義:
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語、表記およびその他の科学用語または術語は、文脈が明らかにそうでないことを示さなければ、当業者によって一般的に理解される意味を有することを意図している。一部の事例では、明確にするためにおよび/または容易な参照のために、一般的に理解されている意味を有する用語が本明細書において定義されており、そのような定義を本明細書に含めることは、当技術分野で一般に理解されているものとの実質的な相違を表すと必ずしも解釈されるべきではない。
【0035】
本明細書において商品名が使用される場合、商品名への言及は、文脈によって別に指示されない限り、その商品名の製品の製品製剤(product formulation)、ジェネリック医薬品および薬学的有効成分も指す。
【0036】
「進行がん」、「局所進行がん」、「進行疾患」および「局所進行疾患」という用語は、関連する組織皮膜を通って拡大したがんを意味し、米国泌尿器科学会(AUA)系の下でのステージC疾患、Whitmore-Jewett系の下でのステージC1~C2疾患、ならびにTNM(腫瘍、結節、転移)系の下でのステージT3~T4およびN+疾患を含むことを意味する。一般に、局所進行疾患を有する患者に対しては手術は推奨されず、これらの患者は、臨床的に限局性(臓器限局性)のがんを有する患者と比較して実質的に予後が不良である。
【0037】
「アミノ酸」は、カルボキシル(-COOH)およびアミノ(-NH2)基の両方を含有する単純な有機化合物を意味する。
【0038】
「ボリル化」とは、脂肪族および芳香族のC-H結合の官能基化を通じて有機ホウ素化合物を生成する反応を意味する。
【0039】
「ボリル化されたアミノ酸」(BAA)は、ボリル化反応を受けた、表Iに示されているものなどの天然に存在するアミノ酸を含む化合物を意味する。BAAは、使用されている基礎となるアミノ酸に応じて複数の方式で合成することができる。
【0040】
「化合物」という用語は、化学的化合物(例えば、BAA)そのものを指し、包含するのみならず、明示的に述べられているか否かにかかわらず、文脈が以下のものを除外すべきことを明確にしない限り、以下のものを指し、包含する:化合物の非晶質形態および結晶形態、多形形態を含み、これらの形態は、混合物の一部であり得、または単離された状態であり得る;化合物の遊離酸および遊離塩基形態、典型的には、本明細書中に提供される構造に示される形態である;化合物の異性体(光学異性体および互変異性体を指し、光学異性体には、エナンチオマーおよびジアステレオマー、キラル異性体および非キラル異性体が含まれ、そして光学異性体には、単離された光学異性体、ならびにラセミ混合物および非ラセミ混合物を含む光学異性体の混合物が含まれ;異性体は、単離された形態であり得、または1もしくはそれを超える他の異性体との混合物であり得る;化合物の同位体、ジュウテリウム含有化合物およびトリチウム含有化合物を含み、放射性同位元素を含有する化合物を含み、治療におよび診断に有効な放射性同位体を含む;二量体、三量体などの形態を含む化合物の多量体形態;化合物の塩、好ましくは、薬学的に許容され得る塩、酸付加塩および塩基付加塩を含み、有機対イオンおよび無機対イオンを有する塩を含み、双性イオン形態を含み、ここで化合物が2またはそれを超える対イオンを伴う場合には、2またはそれを超える対イオンは同一であり得、または異なり得る;ならびに化合物の溶媒和物、半溶媒和物、一溶媒和物、二溶媒和物などを含み、有機溶媒和物および無機溶媒和物を含み、前記無機溶媒和物は水和物を含み;ここで化合物が2またはそれを超える溶媒分子を伴う場合には、2またはそれを超える分子は、同一であり得、または異なり得る。いくつかの例では、本発明の化合物に対する本明細書での言及は、上記形態の1つまたは、例えば塩および/または溶媒和物に対する明示的な言及を含むであろう。しかしながら、この言及は、強調のためのものにすぎず、上記で特定された上記形態の他のものを除外すると解釈されるべきではない。
【0041】
本明細書で使用される「阻害する」または「の阻害」という用語は、測定可能な量で減少すること、または完全に抑制することを意味する。
【0042】
「哺乳動物」という用語は、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマおよびヒトを含む、哺乳動物として分類される任意の生物を指す。本発明の一実施形態では、哺乳動物はマウスである。本発明の別の実施形態では、哺乳動物はヒトである。
【0043】
「転移性がん」および「転移性疾患」という用語は、所属リンパ節または遠隔部位に転移したがんを意味し、AUA系でステージDの疾患およびTNM系でステージT×N×M+を含むことを意味する。
【0044】
「分子認識」は、ホスト分子が第2の分子(すなわち、ゲスト)と複合体を形成することができる化学的事象を意味する。この過程は、水素結合、疎水性相互作用、イオン性相互作用を含むがこれらに限定されない非共有結合化学結合を通じて起こる。
【0045】
「薬学的に許容され得る」は、ヒトまたは他の哺乳動物と生理学的に適合性である非毒性、不活性および/または組成物を指す。
【0046】
「中性子捕捉剤」という用語は、中性子によって活性化されるとα粒子を生成する安定な非反応性化学同位体を意味する。
【0047】
「中性子捕捉療法」という用語は、中性子捕捉剤に中性子を照射することによって、原発性脳腫瘍および再発性頭頸部がんなどの局所侵襲性悪性腫瘍ならびに他の免疫障害および疾患を処置するための非侵襲性治療様式を意味する。
【0048】
本明細書で使用される場合、「処置する」または「治療的」および文法的に関連する用語は、生存期間の延長、罹患率の低下、および/または代替治療様式の副産物である副作用の軽減など、疾患の任意の結果の任意の改善を指し、当技術分野おいて容易に理解されるように、疾患の完全な根絶は好ましいが、処置行為の要件ではない。
【0049】
II.)BPA
【0050】
参考として、(
10B)-BPA、L-BPAまたは4-ボロノ-L-フェニルアラニン(Sigma Aldrich、St.Louis、MO)は、化学式C
9H
12BNO
4を有する合成化合物である。構造は、以下:
【化1】
に示されており、BNCTによるがんの処置において有用な重要なボロナート化された化合物である。これは、多くの合成が開発されてきた広く知られている化合物である(米国特許第8,765,997号、Taiwan Biotech Co,Ltd.,Taoyuan Hsein,Taiwan,および米国特許出願公開第2017/0015684号、Stella Pharma Corp.,Osaka Prefecture Univ.,Osaka,Japanを参照)。
【0051】
III.)BSH
さらに、BSH、またはボロカプテイトナトリウム、またはBSHボロカプテイトナトリウム、またはボロカプテイトナトリウム
10B、またはウンデカヒドロドデカボランチオールは、化学式Na
2B
12H
11SHを有する合成化学化合物である。構造は、以下:
【化2】
に示されており、ホウ素原子は、正二十面体の頂点のドットによって表されている。BSHは、BNCTにおける捕捉剤として使用される。一般的に言えば、BSHは静脈に注射され、腫瘍細胞中に濃縮される。次いで、患者は、中性子と呼ばれる原子粒子による放射線処置を受ける。中性子はBSH中のホウ素核と融合し、腫瘍細胞を死滅させる高エネルギーα粒子を生成する。
【0052】
IV.)ホウ素
(a.)ホウ素一般
一般的に言えば、本開示の目的において、ホウ素は、記号Bおよび原子番号5を有する化学元素である。主に化学化合物中で使用される天然のホウ素は、2つの安定同位体から構成され、そのうちの一方はホウ素-10であり、他方はホウ素-11である。ホウ素-10同位体は、熱外中性子を捕捉するのに有用であり、ホウ素中性子捕捉療法を使用する治療状況において有望なツールとなる。生物学的には、本明細書に開示されるボリル化された化合物は、ヒトおよび動物に対して非毒性である。上記に基づいて、高濃度のホウ素をがん細胞中に与えるための改善された様式が有利であることが、当業者には自明であろう。本開示の目的は、その利点を提供することである。
【0053】
V.)天然に存在するアミノ酸
一般的に言えば、本開示の目的において、天然に存在するアミノ酸は、各アミノ酸に特異的な側鎖(R基)とともに、アミン(-NH2)およびカルボキシル(-COOH)官能基を含有する有機化合物である。アミノ酸の重要な元素は炭素(C)、水素(H)、酸素(O)および窒素(N)であるが、特定のアミノ酸の側鎖中には他の元素が見られる。(遺伝暗号には、20個しか現れないが(表I))約500個の天然に存在するアミノ酸が知られており、多くの方法で分類することができる。それらは、アルファ-(α-)、ベータ-(β-)、ガンマ-(γ-)またはデルタ-(δ-)アミノ酸として、コア構造官能基の位置に従って分類することができ、他のカテゴリーは、極性、pHレベルおよび側鎖基の種類(脂肪族、非環式、芳香族、ヒドロキシル含有または硫黄含有など)に関する。タンパク質の形態で、アミノ酸残基は、ヒトの筋肉およびその他の組織の2番目に多い構成要素(水が最も多い)を形成する。タンパク質中での残基としての役割を超えて、アミノ酸は、神経伝達物質輸送および生合成などの多くの過程に関与する。
【0054】
遺伝暗号(表I参照)によって直接コードされる二十(20)個のアミノ酸は、それらの特性に基づいていくつかの群に分けることができる。重要な因子は、電荷、親水性または疎水性、サイズおよび官能基である。これらの特性は、タンパク質構造およびタンパク質-タンパク質相互作用にとって重要である。水溶性タンパク質は、その疎水性残基(Leu、Ile、Val、PheおよびTrp)がタンパク質の中央に埋もれている傾向があり、一方、親水性側鎖は水性溶媒に曝露される。
【0055】
膜内在性タンパク質は、これを脂質二重層に固定する露出した疎水性アミノ酸の外環を有する傾向がある。これらの2つの両極端の間にある中間の場合、いくつかの表在性膜タンパク質は、膜上に固定する疎水性アミノ酸のパッチをその表面上に有する。同様に、正に帯電した分子に結合しなければならないタンパク質は、グルタミン酸およびアスパラギン酸のような負に帯電したアミノ酸が豊富な表面を有するが、負に帯電した分子に結合するタンパク質は、リジンおよびアルギニンのような正に帯電した鎖が豊富な表面を有する。アミノ酸残基の異なる疎水性スケールが存在する。
【0056】
いくつかのアミノ酸は、他のシステイン残基への共有ジスルフィド結合を形成することができるシステイン、ポリペプチド骨格への環を形成するプロリン、および他のアミノ酸より柔軟なグリシンなどの特別な特性を有する。
【0057】
VI.)ボリル化されたアミノ酸(BAA)
簡単な紹介として、および本開示の本発明の努力の背景をよりよく理解するために、大きな中性アミノ酸輸送体1(LAT-1、SLC7a5)は、必須アミノ酸(例えば、ロイシン、フェニルアラニン)を細胞に供給するナトリウム非依存およびpH非依存性輸送体である。機能性輸送体は、多重膜貫通サブユニットSLC7a5および単一膜貫通サブユニットSLC3a2(CD98)から構成されるヘテロ二量体ジスルフィド結合複合体である。LAT-1は、胎盤または血液脳関門などのそのような区画を横切って必須アミノ酸をチャネルするための主要な輸送体である。さらに、LAT-1は、甲状腺ホルモンT3およびT4(FRIESEMAら、Endocrinology,142(10):4339-4348(2001)を参照)、ドーパミン前駆体L-DOPA、ならびに薬物メルファランおよびガバペンチンなどのアミノ酸関連外因性化合物(UCHINOら、Mol.Pharmacol 61:729-737(2002)を参照)も輸送する。さらに、その発現は、代謝および成長のためのアミノ酸に対する強い要求を特徴とする様々なタイプのヒトがんにおいて高度に上方制御されている(SINGHら、Int.J.Mol.Sci.2018,19,1278を参照)。さらに、アミノ酸側鎖の性質は、輸送速度の増加に関して以下の順序で、様々なアミノ酸に対するLAT-1の選択性に影響を及ぼすことが報告されている:Phe>Trp>Leu>Ile>Met>His>Tyr>Val(KANAIら、J.Biol.Chem.,vol.273,No.37,pp.23629-23632(1998)を参照)。しかしながら、アミノ酸へのホウ素付加修飾の影響は当技術分野では知られておらず、本開示は画期的な進歩を示す。
【0058】
有効ながん処置としてのBNCTの治療可能性は、がん細胞内への十分な量の10Bの選択的蓄積に基づいている。
【0059】
上記に基づいて、当業者は、LAT1などの必須アミノ酸輸送体タンパク質が特定の天然アミノ酸の取り込みを担うことを示した。SCALISEら、Frontiers in Chem.Vol.6,Art.243(June 2018)を参照されたい。この原理を念頭に置いて、本開示は、ホウ素中性子捕捉療法(「BNCT」)および/または陽子ホウ素融合療法(「PBFT」)として一般に知られるホウ素陽子捕捉療法において中性子捕捉剤として使用するための腫瘍探索および腫瘍局在化特性を有するボリル化されたアミノ酸(「BAA」)を作製するための、ボリル化反応を通じた天然アミノ酸の合成を企図している。例えば、HATTORIら、J.Med.Chem.,55,6980-6984(2012)を参照されたい。
【0060】
(a)BPA-チオウンデカヒドロ-ドデカボラン、すなわちBPA-BS
一実施形態では、以下の式を有する前駆体組成物が本開示の範囲に属する。
【化3】
【0061】
上記組成物が、フェニルアラニン、トリプトファン(trypophan)、チロシンおよび/またはヒスチジンなどの追加の天然アミノ酸を使用する、より複雑な分枝状BAAの前駆体であることは、当業者には理解されよう。
図1に示されているBPA-BSの合成は、Fmoc保護された(pretected)BPAを使用したペプチドカップリング条件、続いて標的物質を出現させるための脱保護によって達成することができる。
【0062】
(b)BPA-アミノウンデカヒドロドデカボラン、すなわちBPA-BN
一実施形態では、以下の式を有する第2の前駆体組成物が本開示の範囲に属する。
【化4】
【0063】
BPA-BN前駆体がBPA-BSの改変であり、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシンおよび/またはヒスチジンなどの追加の天然アミノ酸を使用する、より複雑な分枝状BAAのさらなる前駆体であることは、当業者には理解されよう。合成は、
図2に示されているように行われる。さらなる参照については、KIRIHATAら、18
th International BNCT Conference,Taipei(October 2018)参照。これらの化合物の合成は、Fmoc保護された(pretected)BPAとウンデカヒドロドデカホウ酸アンモニアの間でのペプチドカップリングと、これに続く、標的物質を出現させるための脱保護によって達成することができる。
【0064】
本開示の前駆体を利用して、BNCTおよび/または他のがん処置様式において使用するためにがんまたはその他の疾患細胞に濃縮された量のホウ素を送達するために、特定の複合体において機能的取り込みを有するBAAを合成することができる。本開示において、一実施形態では、アミノ酸は、バリン、ロイシン、イソロイシン、ヒスチジン、トリプトファン(trypophan)、チロシン、および表Iに記載されている任意のアミノ酸の組を含む。
【0065】
この原理は、側鎖操作、ペプチドカップリングおよび脱炭酸-ボロレーション(borolation)によって達成することができる。LIら、Science 356、1045(2017);Synlett 1996(02):167~168;および米国特許出願公開第2018/0155368号(Neuboron Medtech(Nanjing,China)を参照されたい。クロスカップリング、酸化、アミノ化および同族体化などのボロン酸に特有である有用な反応性の広範な多様性は、逆合成解析を導くことが示されている。酸の代わりにボロン酸エステルを使用することを通じた溶解性および親油性の操作も、本開示において企図される。本明細書に開示される修飾に続いて、追加の抗原複合体および輸送体のそれぞれの分子基質の選択的ボロレーションを通じて、追加の抗原複合体および輸送体が関係し得る。
【0066】
(c)アミノ酸組成物
一実施形態では、以下の式を有するBAAは、本開示の範囲に属する(「フェニルアラニン誘導体」):
【化5】
式中、E=CO
2H、CONHB
12H
11、B(OH)
2;および
X=H、B(OH)
2、Bpin、(-O-CH
2CH
2)
2-O-B
12H
11。
【0067】
さらなる実施形態では、以下の式を有するBAAは、本開示の範囲に属する(「ヒスチジン誘導体」):
【化6】
式中、E=CO
2H、CONHB
12H
11、B(OH)
2;および
X=H、B(OH)
2、Bpin、(-O-CH
2CH
2)
2-O-B
12H
11。
【0068】
さらなる実施形態では、以下の式を有するBAAは、本開示の範囲に属する(「チロシン誘導体」):
【化7】
式中、E=CO
2H、CONHB
12H
11、B(OH)
2;および
X=H、B(OH)
2、Bpin、(-O-CH
2CH
2)
2-O-B
12H
11。
【0069】
さらなる実施形態では、以下の式を有するBAAは、本開示の範囲に属する。
【化8】
【0070】
(d)フェニルアラニンを含むBAA
フェニルアラニンは、以下の化学式:
【化9】
を有する必須アミノ酸であり、アミノ酸チロシンの前駆体である。フェニルアラニンは、ヒトの脳および血漿中に高度に濃縮されている。フェニルアラニンの高い血漿濃度は、大型中性アミノ酸の血液脳関門輸送に影響を及ぼす。高い血漿フェニルアラニン濃度は、脳内へのフェニルアラニンの流入を増加させ、他の大型中性アミノ酸の流入を制約する。フェニルアラニンは、様々な脳酵素系を妨害することが見出されている。フェニルアラニンはチロシンよりも良好に吸収され、頭痛を引き起こすことが少ないことが知られている。特定のがんは、他のタイプのがんより多くのフェニルアラニンを使用することが知られている。例えば、黒色腫は、より高濃度のフェニルアラニンを利用することが示されている。
【0071】
したがって、特定のがんにおける中性子捕捉剤としてのボリル化されたフェニルアラニンの利用が本開示によって企図される。
【0072】
本開示の一実施形態では、フェリルアラニンを含むBAAは、以下の化学式を有する。
【化10】
なお、構造IV中のドットはBHを表す。1つの頂点の黒いドットはBを表す。B12H11クラスタは、-2の正味電荷を有する。
【0073】
(e)トリプトファンを含むBAA
トリプトファンは、以下の化学式:
【化11】
を有する必須アミノ酸であり、セロトニンおよびメラトニンの両方の前駆体である。メラトニンは、哺乳動物の松果体によって産生されるホルモンであり、睡眠および覚醒を調節する。セロトニンは、脳の神経伝達物質、血小板凝固因子、および全身の器官に見られる神経ホルモンである。トリプトファン欠乏を特徴とする多くの症状または疾患が存在する。
【0074】
例えば、フルクトース吸収不良は、腸内のトリプトファンの不適切な吸収を引き起こし、血中のトリプトファンのレベルを低下させ、うつ病をもたらす。高トウモロコシまたは他のトリプトファン欠乏食は、皮膚炎、下痢および認知症の症候を伴うナイアシン-トリプトファン欠乏疾患であるペラグラを引き起こす可能性がある。ハートナップ病は、トリプトファンおよび他のアミノ酸が適切に吸収されない障害である。ハートナップ病の症候としては、皮疹、協調運動困難(小脳性運動失調)、および精神症候(うつ病または精神病など)が挙げられる。トリプトファンは、「食事によって誘発される」眠気において役割を果たす。炭水化物に富む食事の摂取は、インスリンの放出を引き起こす。次に、インスリンは、大型中性分枝鎖アミノ酸(BCAA)の筋肉内への取り込みを刺激し、血流中でのBCAAに対するトリプトファンの比を増加させる。トリプトファン比の増加は、(BCAAとトリプトファンの両方を輸送する)大型中性アミノ酸輸送体での競合を減少させ、血液脳関門を通過して脳脊髄液(CSF)中へのトリプトファンのより大きな取り込みをもたらす。CSFに入ると、トリプトファンはセロトニンに変換され、生じたセロトニンは松果体によってメラトニンへとさらに代謝され、メラトニンが睡眠を促進する。
【0075】
したがって、特定のがんにおける中性子捕捉剤としてのボリル化されたトリプトファンの利用が本開示によって企図される。
【0076】
本開示の一実施形態では、トリプトファンを含むBAAは、以下の化学式を有する。
【化12】
【0077】
(f)チロシンを含むBAA
チロシンは、以下の化学式:
【化13】
を有する必須アミノ酸であり、血液脳関門を容易に通過することが知られている。脳内に入ると、チロシンは神経伝達物質ドーパミン、ノルエピネフリンおよびエピネフリン(アドレナリンとしてよく知られている)の前駆体である。これらの神経伝達物質は、身体の交感神経系の重要な一部であり、身体および脳におけるそれらの濃度は、食事性チロシンに直接依存する。チロシンは急速に代謝される。葉酸、銅およびビタミンCは、これらの反応の補因子栄養素である。チロシンは、ホルモン、甲状腺、カテコールエストロゲンおよび主要なヒト色素、メラニンの前駆体でもある。チロシンは、多くのタンパク質、ペプチド、さらには身体の天然の鎮痛物質であるエンケファリンにおいて重要なアミノ酸である。バリンおよび他の分枝アミノ酸、ならびにおそらくトリプトファンおよびフェニルアラニンは、チロシン吸収を減少させ得る。ホーキンシン尿症およびチロシン血症I型など、多くのチロシン代謝の遺伝的誤りが生じる。最も一般的なのは早産児の血液中のチロシン量の増加であり、これは運動活動の減少、嗜眠および摂食不良を特徴とする。感染症および知的障害が起こり得る。一部の成人にも、血中チロシン上昇が発生する。これは、より多くのビタミンCが必要であることを示している。一般的に言えば、チロシンはストレス下において必要とされ、チロシンサプリメントは、ノルエピネフリンのストレス誘発性枯渇を抑制し、生化学的うつ病を治癒し得る。
【0078】
したがって、特定のがんにおける中性子捕捉剤としてのボリル化されたチロシンの利用が本開示によって企図される。
【0079】
本開示の一実施形態では、チロシンを含むBAAは、以下の化学式を有する。
【化14】
【0080】
(g)ヒスチジンを含むBAA
ヒスチジンは、以下の化学式:
【化15】
を有するイミダゾール官能基を有するα-アミノ酸である。ヒスチジンは、タンパク質を構成する二十二(22)個のアミノ酸のうちの一つである。ヒスチジンは、ヒトおよび他の哺乳動物における必須アミノ酸である。ヒスチジンは、ヒスタミンおよびカルノシン生合成のための前駆体である。ヒスチジン血症、メープルシロップ尿症、プロピオン酸血症およびチロシン血症I型を含む先天性のヒスチジン代謝異常が存在し、血中のヒスチジンレベルの増加によって特徴付けられる。血中ヒスチジンの上昇は、精神および身体の遅滞から知的機能の低下、情動不安定、振戦、運動失調および精神病までの広範囲の症候を伴う。ヒスチジンおよび他のイミダゾール化合物は、抗酸化特性、抗炎症特性および抗分泌特性を有する。炎症組織の保護におけるL-ヒスチジンの有効性は、急性炎症応答中に細胞によって生成される活性酸素種(ROS)を捕捉するイミダゾール環の能力に起因する。ヒスチジンは、治療量で投与されると、細胞および組織の損傷に関与するサイトカインおよび成長因子を阻害することができる(米国特許第6,150,392号、THOMESらを参照)。医学的治療におけるヒスチジンは、関節リウマチにおいてその最も有望な試験を有しており、重度の罹患患者において1日に最大4.5gが有効に使用されている。関節炎患者は、明らかに血液からのヒスチジンの非常に迅速な除去のために、低い血清ヒスチジンレベルを有することが見出されている。血清ヒスチジンが低いことが明らかになっている関節炎患者以外の他の患者は、慢性腎不全患者である。ヒスチジンの尿中レベルは、肺炎の小児患者において低下する。喘息患者は、正常対照よりも増加したヒスチジンの血清レベルを示す。血清ヒスチジンレベルはより低く、肥満女性における炎症および酸化ストレスと負の関連がある。ヒスチジン補充は、メタボリックシンドロームを有する肥満女性において、インスリン抵抗性を低下させ、BMIおよび脂肪量を減少させ、炎症および酸化ストレスを抑制することが示されている。ヒスチジンは、おそらくNF-κB経路を介して、脂肪細胞における炎症促進性サイトカイン発現を抑制するようである。低血漿中濃度のヒスチジンは、慢性腎臓疾患患者におけるタンパク質エネルギー消耗、炎症、酸化ストレス、およびより大きな死亡率に関連する。ヒスチジンは、遍在性の神経ホルモン-神経伝達物質であるヒスタミンの前駆体であるため、多くの他の可能な機能を有し得る。ヒスチジンは、血液中および潜在的に脳中のヒスタミンを増加させる。低血清ヒスチジンを伴う低血中ヒスタミンは、関節リウマチ患者において生じる。低血中ヒスタミンは、精神病患者の一部の躁病、統合失調症、高い銅および過活動群においても生じる。
【0081】
したがって、特定のがんにおける中性子捕捉剤としてのボリル化されたヒスチジンの利用が本開示によって企図される。
【0082】
本開示の一実施形態では、ヒスチジンを含むBAAは、以下の化学式を有する。
【化16】
【0083】
VII.)BAAを用いたホウ素中性子捕捉療法
本開示の一態様は、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)および/またはホウ素陽子捕捉療法(「BPCT」)のための様式としてのBAAの使用である。簡単に言えば、BNCTは、いずれの成分も単独では腫瘍に対して致死的または毒性ではない二構成要素処置様式である。2つの構成要素は、(i)優先的に腫瘍中で濃縮される捕捉化合物の注入または送達、および(ii)中性子によるまたは陽子による腫瘍部位の照射を含む。BNCTでは、10Bとの熱中性子相互作用の大きな断面積に鑑みると、その結果、ホウ素核が4He2+と7Li+に分裂する可能性が高い。He2+およびLi+のイオン化能力が高く、移動した距離が短いことを考えると、ホウ素によって好ましく濃縮された細胞は死滅し、高濃度のホウ素が欠如するために、健康な細胞は、はるかに少ない損傷を受ける。このことに鑑みると、BNCTの利点は、高度に外傷性の外科的処置なしに腫瘍細胞を破壊することである。しかしながら、当業者によって理解されるように、成功は、腫瘍細胞における10Bの高濃度で選択的な局在化に基礎を置く。
【0084】
一実施形態では、10BはBAA上に濃縮される。次いで、BAAは患者に投与され、BAAは腫瘍細胞中に局在化される。10Bを含むBAAが腫瘍内に濃縮され、熱外中性子を用いて腫瘍を照射する。腫瘍細胞は破壊される。
【0085】
VIII.BAAを用いた陽子ホウ素融合療法
本開示の別の態様は、陽子ホウ素融合療法(PBFT)のための様式としてのBAAの使用である。手短に言えば、陽子ホウ素融合反応は1960年代に導入された。陽子(1H)とホウ素粒子(11B)の間での反応後に、3つのα粒子が放出される。これらの3つのα粒子は、BNCTにおけるα粒子の場合と同様に、腫瘍細胞に損傷を与える。理論的には、PBFTの場合、入射粒子あたりの治療有効性は、BNCTの治療有効性の3倍(3×)大きい。さらに、陽子線はブラッグピーク特性という利点を有するため、正常な組織損傷を低減することができる。一般的に言えば、α粒子を用いた腫瘍処置のための多くの研究が行われてきた。線量送達のためにα粒子を利用するためには、2つの重要な点が考慮されるべきである。第1に、ホウ素取り込みは、標的細胞に対して正確に標識されるべきである。前述のように、α粒子は、ボロナート化合物が蓄積される場所で生成される。これが腫瘍領域付近の正常組織中で起こる場合、α粒子は腫瘍細胞のみならず正常組織も損傷する。第2に、生成されたα粒子の数も、効果的な治療にとって重要な要素である。PBFTを使用することにより、BNCTまたは従来の陽子療法単独と比較して、より効果的な治療を実現することができる。
【0086】
一実施形態では、10Bおよび/または11BはBAA上に濃縮される。次いで、BAAは患者に投与され、BAAは腫瘍細胞中に局在化される。10Bおよび/または11Bを含むBAAが腫瘍内に濃縮され、熱外中性子を用いて腫瘍を照射する。腫瘍細胞は破壊される。
【0087】
IX.細胞にBAAを送達する方法
当業者には理解されるように、高濃度のホウ素を細胞に効率的に送達できることが、本発明の利点である。
【0088】
本開示のBAAは、哺乳動物においてより多量のホウ素を安全に細胞に投与することを可能にすることが示されている。簡潔には、本開示のBAAは、本開示に記載されるように調製される。得られたBAAは、上方制御されたLAT-1輸送体タンパク質により腫瘍細胞によって取り込まれる。
【0089】
X.)キット/製造品
本明細書に記載されている実験室、予後、予防、診断および治療用途での使用のために、キットは本発明の範囲内である。そのようなキットは、バイアル、チューブなどの1またはそれを超える容器を受容するように区画化されたキャリア、パッケージまたは容器を含むことができ、容器のそれぞれは、本明細書に記載されている使用などの使用説明を含むラベルまたは挿入物とともに、前記方法において使用されるべき別個の要素の1つを含む。例えば、容器は、本開示の1つのBAAまたはいくつかのBAAを含むことができる。キットは、薬物単位を含む容器を含むことができる。キットは、BAAの全部もしくは一部ならびに/またはがんおよび/もしくは他の免疫障害を検出するための診断アッセイを含むことができる。
【0090】
本発明のキットは、上記容器および緩衝液、希釈剤、フィルタ、針、シリンジなどの商業的観点および使用者の観点から望ましい用具を備えた上記容器に付随する1またはそれを超える他の容器と、内容物および/または使用説明を列挙するキャリア、パッケージ、容器、バイアルおよび/またはチューブのラベルと、使用説明を含む添付文書とを典型的に含む。
【0091】
ラベルは、組成物が特定の治療または非治療的用途、例えば予後、予防、診断または実験室用途に使用されることを示すために容器上にまたは容器とともに存在することができ、本明細書に記載されるものなどのインビボまたはインビトロのいずれかでの使用のための指示を示すこともできる。指示およびまたは他の情報は、キットとともにまたはキット上に含まれる挿入物またはラベル上に含めることもできる。ラベルは、容器上に存在することができ、または容器と関連付けることができる。ラベルを形成する文字、数字またはその他の記号(characters)が容器自体に成形または食刻される場合、ラベルは容器上に存在することができ、容器も保持する入れ物またはキャリア内に、例えば添付文書としてラベルが存在する場合、ラベルは容器に関連付けることができる。ラベルは、組成物が、がんまたは他の免疫障害などの症状を診断、処置、予防または予後診断するために使用されることを示すことができる。
【0092】
「キット」および「製造品」という用語は、同義語として使用することができる。
【0093】
本発明の別の実施形態では、本開示のBAAなどの組成物を含有する1または複数の製造品。製造品は、典型的には、少なくとも1つの容器および少なくとも1つのラベルを含む。適切な容器としては、例えば、瓶、バイアル、シリンジおよび試験管が挙げられる。容器は、ガラス、金属またはプラスチックなどの様々な材料から形成することができる。容器は、1つもしくは複数のBAAおよび/または1もしくはそれを超える治療用量のBAAを保持することができる。
【0094】
あるいは、容器は、症状を処置、診断、予後診断または予防するために有効な組成物を保持することができ、滅菌アクセスポートを有することができる(例えば、容器は、静脈内溶液バッグまたは皮下注射針によって穿刺可能な栓を有するバイアルであり得る)。組成物中の活性剤は、本開示のBAAであり得る。
【0095】
製造品は、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液および/またはデキストロース溶液などの薬学的に許容され得る緩衝液を含む第2の容器をさらに含むことができる。製造品は、他の緩衝液、希釈剤、フィルタ、撹拌器、針、シリンジならびに/または使用のための指示および/もしくは説明を伴う添付文書を含む、商業的観点および使用者の観点から望ましい他の用具をさらに含むことができる。
【0096】
本明細書の開示のさらなる実施形態には、以下の項に記載される実施形態が含まれる。
項1は、以下の化学構造を含む組成物の実施形態である:
【化17】
式中、E=CO
2H、CONHB
12H
11、B(OH)
2;およびX=H、B(OH)
2、Bpin、(-O-CH
2CH
2)
2-O-B
12H
11。
【0097】
項2は、前記組成物が、
【化18】
を含む、組成物の実施形態(ambodiment)である。
【0098】
項3は、以下の化学構造を含む組成物の実施形態である:
【化19】
式中、E=CO
2H、CONHB
12H
11、B(OH)
2;およびX=H、B(OH)
2、Bpin、(-O-CH
2CH
2)
2-O-B
12H
11。
【0099】
項4は、前記組成物が、
【化20】
を含む、組成物の実施形態である。
【0100】
項4は、以下の化学構造を含む組成物の実施形態である:
【化21】
式中、E=CO
2H、CONHB
12H
11、B(OH)
2;およびX=H、B(OH)
2、Bpin、(-O-CH
2CH
2)
2-O-B
12H
11。
【0101】
項5は、前記組成物が、
【化22】
を含む、組成物の実施形態である。
【0102】
項6は、項1の組成物を含むキットの実施形態である。
【0103】
項7は、項2の組成物を含むキットの実施形態である。
【0104】
項8は、項3の組成物を含むキットの実施形態である。
【0105】
項9は、項4の組成物を含むキットの実施形態である。
【0106】
項10は、項5の組成物を含むキットの実施形態である。
【0107】
項11は、項6の組成物を含むキットの実施形態である。
【0108】
項12は、項1の組成物を含む投薬単位形態の実施形態である。
【0109】
項13は、項2の組成物を含む投薬単位形態の実施形態である。
【0110】
項14は、項3の組成物を含む投薬単位形態の実施形態である。
【0111】
項15は、項4の組成物を含む投薬単位形態の実施形態である。
【0112】
項16は、項5の組成物を含む投薬単位形態の実施形態である。
【0113】
項17は、項6の組成物を含む投薬単位形態の実施形態である。
【0114】
項18は、ヒト単位形態がホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において使用される、項12のヒト単位形態の実施形態である。
【0115】
項19は、ヒト単位形態がホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において使用される、項13のヒト単位形態の実施形態である。
【0116】
項20は、ヒト単位形態がホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において使用される、項14のヒト単位形態の実施形態である。
【0117】
項21は、ヒト単位形態がホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において使用される、項15のヒト単位形態の実施形態である。
【0118】
項22は、ヒト単位形態がホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において使用される、項16のヒト単位形態の実施形態である。
【0119】
項23は、ヒト単位形態がホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において使用される、項17のヒト単位形態の実施形態である。
【0120】
項24は、項1の組成物を製造する方法の実施形態である。
【0121】
項25は、項2の組成物を製造する方法の実施形態である。
【0122】
項26は、項3の組成物を製造する方法の実施形態である。
【0123】
項27は、項4の組成物を製造する方法の実施形態である。
【0124】
項28は、項5の組成物を製造する方法の実施形態である。
【0125】
項29は、項6の組成物を製造する方法の実施形態である。
【0126】
項30は、以下の式:
【化23】
を有するボリル化されたアミノ酸(「BAA」)を含む実施形態である。
【0127】
項31は、項30の組成物を製造する方法の実施形態である。
【0128】
項32は、哺乳動物に対してホウ素中性子捕捉療法(「BNCT」)を実施する方法であって、細胞中のBAAを濃縮することを含み、(i)BAAを対象に投与することと、(iii)前記細胞に中性子を照射することと、を含む方法の実施形態である。
【0129】
項33は、哺乳動物に対してホウ素中性子捕捉療法(「BNCT」)を実施する方法であって、細胞中のBAAを濃縮することを含み、(i)BAAを対象に投与することと、(iii)前記細胞に中性子を照射することと、を含み、前記BAAが項1の組成物を含む、方法の実施形態である。
【0130】
項34は、哺乳動物に対してホウ素中性子捕捉療法(「BNCT」)を実施する方法であって、細胞中のBAAを濃縮することを含み、(i)BAAを対象に投与することと、(iii)前記細胞に中性子を照射することと、を含み、前記BAAが項2の組成物を含む、方法の実施形態である。
【0131】
項35は、哺乳動物に対してホウ素中性子捕捉療法(「BNCT」)を実施する方法であって、細胞中のBAAを濃縮することを含み、(i)BAAを対象に投与することと、(iii)前記細胞に中性子を照射することと、を含み、前記BAAが項3の組成物を含む、方法の実施形態である。
【0132】
項36は、哺乳動物に対してホウ素中性子捕捉療法(「BNCT」)を実施する方法であって、細胞中のBAAを濃縮することを含み、(i)BAAを対象に投与することと、(iii)前記細胞に中性子を照射することと、を含み、前記BAAが項4の組成物を含む、方法の実施形態である。
【0133】
項37は、哺乳動物に対してホウ素中性子捕捉療法(「BNCT」)を実施する方法であって、細胞中のBAAを濃縮することを含み、(i)BAAを対象に投与することと、(iii)前記細胞に中性子を照射することと、を含み、前記BAAが項5の組成物を含む、方法の実施形態である。
【0134】
項38は、哺乳動物に対してホウ素中性子捕捉療法(「BNCT」)を実施する方法であって、細胞中のBAAを濃縮することを含み、(i)BAAを対象に投与することと、(iii)前記細胞に中性子を照射することと、を含み、前記BAAが項6の組成物を含む、方法の実施形態である。
【0135】
項39は、哺乳動物に対してホウ素中性子捕捉療法(「BNCT」)を実施する方法であって、細胞中のBAAを濃縮することを含み、(i)BAAを対象に投与することと、(iii)前記細胞に中性子を照射することと、を含み、前記BAAが項30の組成物を含む、方法の実施形態である。
【0136】
項40は、ヒトがんの処置において中性子捕捉療法を実施する方法であって、(a)ヒト単位用量のボリル化された(borolyated)アミノ酸(BAA)組成物を合成することと、(b)前記BAAを腫瘍内に注射し、それによって前記BAAが細胞内に蓄積することと、(c)前記BAAに中性子を照射することと、を含む方法の実施形態である。
【0137】
項41は、ヒトがんの処置において中性子捕捉療法を実施する方法であって、(a)ヒト単位用量のボリル化されたアミノ酸(BAA)組成物を合成することと、(b)前記BAAを腫瘍内に注射し、それによって前記BAAが細胞内に蓄積することと、(c)前記BAAに中性子を照射することと、を含み、前記BAAが項1の組成物である、方法の実施形態である。
【0138】
項42は、ヒトがんの処置において中性子捕捉療法を実施する方法であって、(a)ヒト単位用量のボリル化されたアミノ酸(BAA)組成物を合成することと、(b)前記BAAを腫瘍内に注射し、それによって前記BAAが細胞内に蓄積することと、(c)前記BAAに中性子を照射することと、を含み、前記BAAが項2の組成物である、方法の実施形態である。
【0139】
項43は、ヒトがんの処置において中性子捕捉療法を実施する方法であって、(a)ヒト単位用量のボリル化されたアミノ酸(BAA)組成物を合成することと、(b)前記BAAを腫瘍内に注射し、それによって前記BAAが細胞内に蓄積することと、(c)前記BAAに中性子を照射することと、を含み、前記BAAが項3の組成物である、方法の実施形態である。
【0140】
項44は、ヒトがんの処置において中性子捕捉療法を実施する方法であって、(a)ヒト単位用量のボリル化されたアミノ酸(BAA)組成物を合成することと、(b)前記BAAを腫瘍内に注射し、それによって前記BAAが細胞内に蓄積することと、(c)前記BAAに中性子を照射することと、を含み、前記BAAが項4の組成物である、方法の実施形態である。
【0141】
項45は、ヒトがんの処置において中性子捕捉療法を実施する方法であって、(a)ヒト単位用量のボリル化されたアミノ酸(BAA)組成物を合成することと、(b)前記BAAを腫瘍内に注射し、それによって前記BAAが細胞内に蓄積することと、(c)前記BAAに中性子を照射することと、を含み、前記BAAが項5の組成物である、方法の実施形態である。
【0142】
項46は、ヒトがんの処置において中性子捕捉療法を実施する方法であって、(a)ヒト単位用量のボリル化されたアミノ酸(BAA)組成物を合成することと、(b)前記BAAを腫瘍内に注射し、それによって前記BAAが細胞内に蓄積することと、(c)前記BAAに中性子を照射することと、を含み、前記BAAが項6の組成物である、方法の実施形態である
【0143】
項47は、ヒトがんの処置において中性子捕捉療法を実施する方法であって、(a)ヒト単位用量のボリル化されたアミノ酸(BAA)組成物を合成することと、(b)前記BAAを腫瘍内に注射し、それによって前記BAAが細胞内に蓄積することと、(c)前記BAAに中性子を照射することと、を含み、前記BAAが項30の組成物である、方法の実施形態である。
【0144】
項48は、中性子捕捉療法がホウ素中性子捕捉療法である、項40~項47のいずれか一項に記載の中性子捕捉療法を実施する方法の実施形態である。
【0145】
項49は、前記照射が熱外中性子を含む、項40~項47のいずれか一項に記載の中性子捕捉療法を実施する方法の実施形態である。
【0146】
項50は、ヒトがんの処置において陽子ホウ素融合療法を実施する方法であって、(a)ヒト単位用量のボリル化された(borolyated)アミノ酸(BAA)組成物を合成することと、(b)前記BAAを腫瘍内に注射し、それによって前記BAAが細胞内に蓄積することと、(c)前記BAAに陽子を照射することと、を含む方法の実施形態である。
【0147】
項51は、ヒトがんの処置において陽子ホウ素融合療法を実施する方法であって、(a)ヒト単位用量のボリル化されたアミノ酸(BAA)組成物を合成することと、(b)前記BAAを腫瘍内に注射し、それによって前記BAAが細胞内に蓄積することと、(c)前記BAAに陽子を照射することと、を含み、前記BAAが項1の組成物を含む、方法の実施形態である。
【0148】
項52は、ヒトがんの処置において陽子ホウ素融合療法を実施する方法であって、(a)ヒト単位用量のボリル化されたアミノ酸(BAA)組成物を合成することと、(b)前記BAAを腫瘍内に注射し、それによって前記BAAが細胞内に蓄積することと、(c)前記BAAに陽子を照射することと、を含み、前記BAAが項2の組成物を含む、方法の実施形態である。
【0149】
項53は、ヒトがんの処置において陽子ホウ素融合療法を実施する方法であって、(a)ヒト単位用量のボリル化されたアミノ酸(BAA)組成物を合成することと、(b)前記BAAを腫瘍内に注射し、それによって前記BAAが細胞内に蓄積することと、(c)前記BAAに陽子を照射することと、を含み、前記BAAが項3の組成物を含む、方法の実施形態である。
【0150】
項54は、ヒトがんの処置において陽子ホウ素融合療法を実施する方法であって、(a)ヒト単位用量のボリル化されたアミノ酸(BAA)組成物を合成することと、(b)前記BAAを腫瘍内に注射し、それによって前記BAAが細胞内に蓄積することと、(c)前記BAAに陽子を照射することと、を含み、前記BAAが項4の組成物を含む、方法の実施形態である。
【0151】
項55は、ヒトがんの処置において陽子ホウ素融合療法を実施する方法であって、(a)ヒト単位用量のボリル化されたアミノ酸(BAA)組成物を合成することと、(b)前記BAAを腫瘍内に注射し、それによって前記BAAが細胞内に蓄積することと、(c)前記BAAに陽子を照射することと、を含み、前記BAAが項5の組成物を含む、方法の実施形態である。
【0152】
項56は、ヒトがんの処置において陽子ホウ素融合療法を実施する方法であって、(a)ヒト単位用量のボリル化されたアミノ酸(BAA)組成物を合成することと、(b)前記BAAを腫瘍内に注射し、それによって前記BAAが細胞内に蓄積することと、(c)前記BAAに陽子を照射することと、を含み、前記BAAが項6の組成物を含む、方法の実施形態である。
【0153】
項57は、ヒトがんの処置において陽子ホウ素融合療法を実施する方法であって、(a)ヒト単位用量のボリル化されたアミノ酸(BAA)組成物を合成することと、(b)前記BAAを腫瘍内に注射し、それによって前記BAAが細胞内に蓄積することと、(c)前記BAAに陽子を照射することと、を含み、前記BAAが項30の組成物を含む、方法の実施形態である。
【実施例】
【0154】
実施例:
本発明の様々な態様は、以下のいくつかの実施例によってさらに説明および例示されるが、それらはいずれも本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0155】
実施例1:フェニルアラニンを含むBAA番号1の合成。
フェニルアラニンを含むBAA番号1は、以下のようにして合成される。保護されたBPAは、脱炭酸-ボリル化に供された後に、脱保護されて標的物質を出現させる。
【0156】
フェニルアラニンを含むBAA番号1は、以下の化学構造を有する。
【化24】
【0157】
実施例2:ヒスチジンを含むBAA番号2の合成。
ヒスチジンを含むBAA番号2は、以下の様式で合成される。保護されたヒスチジンは、脱炭酸-ボリル化に供された後に、脱保護されて標的物質を出現(reviel)させる。
【0158】
ヒスチジンを含むBAA番号2は、以下の化学構造を有する。
【化25】
【0159】
実施例3:ヒスチジンを含むBAA番号3の合成。
ヒスチジンを含むBAA番号3は、以下の様式で合成される。保護されたヒスチジンスクシナートは、BNHによる求核付加に供された後に、脱保護されて標的物質を出現(reviel)させる。
【0160】
ヒスチジンを含むBAA番号3は、以下の化学構造を有する。
【化26】
【0161】
実施例4:ヒスチジンを含むBAA番号4の合成。
ヒスチジンを含むBAA番号4は、以下の様式で合成される。保護されたヒスチジンは有機リチウム化に供された後、ホウ酸トリメチルに添加され、次いで、脱保護されて標的物質を出現(reviel)させる。
【0162】
ヒスチジンを含むBAA番号4は、以下の化学構造を有する。
【化27】
【0163】
実施例5:TLS00192の合成。
以下のプロトコルを用いて、TLS00192として知られるBAA化合物を合成した(
図3参照)。最初に、ジクロロメタン中のチロシンメチルエステルの溶液にトリエチルアミンを添加し、続いて二炭酸ジ-tert-ブチルを添加する。反応の完了後、未反応の出発物質を酸性洗浄液中で除去し、次いで溶媒を減圧下で除去する。
【0164】
次いで、単離されたboc-チロシンメチルエステルをDMFおよび炭酸カリウムの溶液に加えた後、ヨウ化メチルを加えた。反応が完了したら、これを水で希釈し、酢酸エチル中に抽出し、有機層を飽和NaCl水溶液で洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させた。
【0165】
次いで、メタノール中のヨウ素および硫酸銀の混合物に、保護されたチロシン化合物を添加した。反応が完了したら、沈殿物を濾過によって除去した。10%亜硫酸水素ナトリウム水溶液、次いで水で濾液を洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧下で除去した。シリカゲルでのカラムクロマトグラフィーによって生成物を単離した。
【0166】
次いで、DMSO中に、触媒Pd(dppf)Cl2、ビス(ピナコラト)ジボロンおよび酢酸カリウムを添加し、次いで、系に窒素を流した。次いで、ヨード-チロシンのDMSO溶液を反応物に添加し、温度を80℃にした。水洗浄しながら酢酸エチル中に生成物を抽出し、硫酸マグネシウム上で乾燥させ、濾過後、溶媒を減圧下で除去した。
【0167】
次いで、ピナコールボロナート化されたチロシンをアセトン中に可溶化し、これにNaIO4を添加した。反応混合物を15分間撹拌した後、1M HClを添加し、反応物を4時間撹拌した。得られた混合物をEtOAcで抽出し、脱イオン水で洗浄し、最後に塩水で洗浄した。有機層をMgSO4で乾燥した。濾過後、有機溶媒を真空下で除去した。
【0168】
次いで、上記で合成したボロン酸メチルエーテルチロシンのDCM中溶液を-78℃にし、窒素を流した。この混合物に三臭化ホウ素を滴加し、12時間反応させた。反応物を水に注ぎ、抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、その後、真空下で溶媒を除去した。
【0169】
最後に、ボロン酸チロシンメチルエステルをTHF:水の3:1溶液に入れた。これにLiOHを加え、標的物質のみが観察されるまで反応させた。この溶液をHClで中和し、減圧下で溶媒を除去した。
【0170】
TLS00192は、以下の化学構造を有する。
【化28】
【0171】
実施例6:TLS00178の合成。
以下のプロトコルを用いて、TLS00178として知られるBAA化合物を合成した(
図4参照)。まず、0℃で、DMF溶液に1-アンミン-ウンデカヒドロドデカボラートを添加し、次いで、水素化ナトリウムを分割して添加する。気体発生が停止したら、boc保護されたヒスチジンのスクシンイミドエステルを添加する。濃縮後、この材料をテレスコープする(telescoped forward)。ジオキサン中の4モル濃度HClを材料に添加し、さらに12体積%の水を添加する。LCMSによってモニターした場合に、反応が完全に変換されたら、溶媒を減圧下で除去する。標的材料は、エタノールでのトリチュレーションすることによって得られる。
【0172】
TLS00178は、以下の化学構造を有する。
【化29】
【0173】
実施例7:TLS00190の合成。
以下のプロトコルを用いて、TLS00190として知られるBAA化合物を合成した(
図5参照)。まず、50℃で、アセトニトリル/水,20%v/vの溶液に、チロシンのboc保護されたメチルエステルを添加する。次いで、この溶液に炭酸カリウムを添加し、15分間反応させる。1-(1,4-ジオキサン)-ウンデカヒドロドデカボラート。反応を一晩進行させる。溶媒をMeOH/水,20%v/vに交換する。水酸化リチウムを添加し、溶液を還流させる。メチルエステルが観察されなくなったら、反応物をHClで中和し、溶媒を除去する。この物質をジオキサン中4モル濃度HClに溶かし、これに20%v/vの水を加える。分取液体クロマトグラフィーによって標的物質が得られる。
【0174】
TLS00190は、以下の化学構造を有する。
【化30】
【0175】
実施例8:TLS00192、TLS00178およびTLS00190のLCMS純度および質量確認。
TLS00192、TLS00178およびTLS00190のLS/MS純度確認をLCMSによって行った。簡潔には、Acquity BEH C18カラム(50×2.1mm、1.7μm)またはC18ペプチドCSHカラム(100×2.1mm、1.7μm)のいずれかを備えたAcquity H-classシステム(Waters、Miford、MA)を使用するLCMSを、0.1%ギ酸を含有するアセトニトリル移動相の勾配中で40℃または60℃に維持した。検出は、QDA ESI質量分析計を使用して行った。
【0176】
図6~
図8の結果は、TLS00192(
図6)、TLS00178(
図7)およびTLS00190(
図8)の純度および質量確認を示すHPLC UVトレースを示す。全化合物が90%に合致するまたはそれを超える純度で製造され、各化合物についてMSイオン化モードを最適化した。さらに、TLS00192、TLS00178およびTLS00190の純度および質量確認の概要を
図9に示す。
【0177】
実施例9:TLS00192およびBPA-フルクトースの速度論的パラメータ。
FaDu鼻咽頭扁平上皮癌腫細胞にホウ素を送達するTLS00192の能力を調べるために、本発明者らは、BNCT臨床診療において現在最も広く研究されているホウ素薬物であるボロノフェニルアラニン(BPA)について生理学的に妥当な量であると仮定される(hypothsized)濃度を取り囲む濃度の範囲を調べた。
【0178】
FaDu細胞系は、ヒト鼻咽頭癌腫細胞系である。細胞系は、2019年に10801 University Boulevard Manassas,VA 20110-2209 USAに位置するAmerican Type Culture Collection(「ATCC」)から入手した。この細胞系は、HTB-43(商標)のATCC指定およびロット番号70014320を有する。トリプシン処理および再播種による日常的な継代をしながら、10%ウシ胎児血清が補充されたDMEM培養培地中でFaDu細胞を増殖させる。細胞系を液体窒素中で凍結保存する。
【0179】
さらに、ホウ素測定は、Agilent 5110 ICP-OES上でICP OES.によって行った。AgilentのICP Expert Software、バージョン7.4.2.10790を使用してデータを分析した。波長249.772nmで軸方向にホウ素を測定し、内部標準ベリリウムを波長313.042nmで軸方向に測定した。Tコネクタを介してスプレーチャンバーに導入する前に、ベリリウム内部標準を流量1:5で溶液に添加した。最後に、1000、100、10、1および0ppbのホウ素を使用した標準曲線を使用して、各試料中のホウ素の濃度を計算した。
【0180】
TLS00192の動態パラメータを決定するために、HBSS中2.5mMの最終濃度でFaDu細胞にホウ素化合物を添加し、細胞を37℃、加湿5%CO2雰囲気下で振盪しながら2時間インキュベートした。2時間のインキュベーション後、細胞を回収し、氷冷PBSに懸濁し、RIPA緩衝液に溶解し、タンパク質含有量をBCAアッセイによって決定した。一部は、ICP-OESを用いたホウ素測定にも供した。結果は、ngホウ素/mg細胞タンパク質/分として表した。動態パラメータ、速度およびKmは、Prism(GraphPad)ソフトウェアを使用して、Michaelis-Menton非線形回帰によって決定した。
【0181】
結果は、5mMを超える基質濃度で取り込み飽和に達し、約10mMでプラトーに達したことを示す。TLS00192およびBPA-フルクトース化合物はいずれも、典型的なミカエリス・メンテン速度論に従って、効率的で飽和性であった濃度依存的な細胞取り込みを示した。ミカエリス・メンテン非線形回帰曲線フィッティングは、TLS00192のKmがBPA-フルクトースのKmの約50%であることを示し(それぞれ1.97mM対0.84mM)、BPAが好ましいLAT-1基質であり得ることを示唆した。(
図10)。
【0182】
このデータは、ボリル化されていないアミノ酸について報告されたデータと一致することが注目される。KANAIら、J.Biol.Chem.1998,273,23629-23632を参照。しかしながら、TLS00192に対する見かけのVmaxはより高い(8.91対15.87ngホウ素mg-1min-1)。細胞系中へのホウ素蓄積の速度がTLS00192についてより高いことは、(i)より高い取り込み速度または(ii)より遅い流出(すなわち、BPA-フルクトースと比較してより良好なTLS00192の保持)のいずれかを示す。
【0183】
実施例10:FaDu細胞におけるTLS00192およびBPA-フルクトースの細胞保持。
続いて、FaDu細胞での細胞保持試験において、LAT1またはLAT2またはその他の輸送体のいずれかによって媒介される流出が、TLS00192と比較してBPA-フルクトースについて等しいかどうかを決定する。「時間0」試料は、化合物との最初の2時間のインキュベーション後に直ちに回収した。次いで、指示された時間に細胞を回収し、溶解、ホウ素測定およびタンパク質含有量に供した。データは、時間0量の残留ホウ素含有量の%として表される。
【0184】
図11の結果は、両方の時点で細胞からホウ素が徐々に除去されることを示している。しかしながら、TLS00192の除去は、BPA-フルクトースと比較してはるかに遅い。16時間までに、約10%の残存BPAと比較して、40%を超える残存TLS00192が存在することが注目される。これらの結果は、細胞に送達されるホウ素の量を改善する、BPAと比較したTLS00192の特有の特徴を示している。
【0185】
実施例11:TLS00192についてのLAT-1媒介競合研究。
システムL輸送体(LAT-1)は、細胞内へのL-アミノ酸の輸送を媒介し、BPAベースのBNCTにおけるBPAの取り込みにおいて主要な役割を果たすことが示されている(WONGTHAIら、Cancer Sci Vol.106,pg.279-286,2015)。TLS00192がLAT-1依存性機構を介して輸送されるかどうかを評価するために、本発明者らは、LAT1の基質であるL-Pheによって凌駕されるTLS00192の能力を調べた。増加する濃度の競合物質Pheの非存在下(サブセットA)もしくは存在下(サブセットB)、L-システムアンタゴニストBCHの存在下(サブセットC)またはLAT-1特異的阻害剤JPH203(サブセットD)の存在下で、0.5mMのTLS00192またはBPA-フルクトースのいずれかとともに、37℃で2時間、HBSS培地中でFaDu細胞をインキュベートした。細胞を回収し、ICP OESによって、各ホウ素化細胞関連化合物の量を決定した。各化合物に対するそれぞれの阻害剤のIC50も示されている。LAT-1媒介性取り込みの陽性対照としてBPAを使用した。
【0186】
図12Aの結果は、競合剤の非存在下での純粋な化合物の取り込みを示す。この研究およびその後の研究のために、TLS00192を0.5mMで維持した。0.01~20mMの範囲でのPheの濃度の増加は、BPAおよびTLS00192の両方について取り込みの減少を示した(
図12Bを参照)。TLS00192のLAT1媒介性輸送を阻害するためにおよそ1log高い濃度のL-Phe競合物質が必要であったという予想外の結果は注目に値する。IC50は、BPA-フルクトースおよびTLS00192の存在下で、L-Pheについてそれぞれ0.04および0.43mMであった。その結果、TLS00192は、内因性アミノ酸とよりうまく競合し、BPAと比較して細胞蓄積を得るためにLAT-1を効果的に利用することができることが示されている。
【0187】
次に、競合アッセイにおける汎LATアンタゴニストである2-アミノビシクロ-(2,2,1)-ヘプタン-2-カルボン酸(BCH)(
図12C)および特異的LAT-1阻害剤JPH203(
図12D)の評価を行った。
図12Bの結果と同様に、BCHは濃度依存的にホウ素取り込みを阻害した。BPAは、TLS00192と比較して、BCHによってより容易に競合された(それぞれ、BPAおよびTLS00192について0.14および0.80mM)。JPH203は、TLS00192およびBPAのLAT1媒介性取り込みの、BCHよりさらに強力な阻害剤であり、例えば、それぞれ0.19および0.78μMであった(
図12D)。結果は、(i)TLS00192取り込みがLAT-1媒介性であり、(ii)LAT-1結合ポケットからTLS00192を追い出すためにはより高い濃度の競合物質が必要であることを示す。
【0188】
実施例12:FaDu細胞におけるTLS00190およびTLS00178のホウ素取り込み。
FaDu細胞を用いて、TLS00190およびTLS00178のホウ素取り込み効率を決定した。2時間のインキュベーション後、細胞を回収し、氷冷PBSに懸濁し、一部をRIPA緩衝液に溶解し、タンパク質含有量をBCAアッセイによって決定した。残りの部分は、ICP-OESを用いて実施されたホウ素測定に供した。対照としてBPA-フルクトースを使用した。2時間のインキュベーション後、取り込まれた化合物の量をホウ素測定に基づいて決定した。
【0189】
タンパク質1mg当たりのngホウ素として表される結果を
図13に示す。TLS00190は、フェニルアラニン側鎖に連結されたB
12H
11
2-ホウ素クラスタを有する。TLS00178は、ヒスチジンのC末端に連結されたB
12H
11
2-ホウ素クラスタを有する。示されているように、それぞれの側鎖上またはC末端上において12ホウ素クラスタで修飾されたこれらの化合物の両方が、FaDuがん細胞中に輸送される能力を保持する。
【0190】
さらに、FaDu細胞において、BPA-フルクトースと比較した、最初の2時間の取り込み後のTLS00190およびTLS00178の保持も研究した。
図14に示されているように、BPA-フルクトースは、20時間で約8%のレベルまで細胞から除去され、前に見られたものと同様であるが、しかし、TLS00190およびTLS00178は43%および57%のレベルで保持された。注目すべきことに、TLS00190細胞レベルは2時間で14%のレベルに低下したが、20時間では43%まで再び上昇したことから、排泄後に細胞内に再蓄積する能力が示唆される。TLS00190およびTLS0078のこれらの特徴は、BPA-フルクトースと比較して、BNCT患者のがん細胞におけるより良好な蓄積および保持の可能性を示唆している。
【0191】
実施例13:BAAの使用を通じたヒト癌腫の処置のためのヒト臨床試験。
BAAは、本発明に従って合成され、腫瘍細胞中に特異的に蓄積し、特定の腫瘍ならびに他の免疫障害および/または他の疾患の処置に使用される。これらの適応症のそれぞれに関連して、2つの臨床アプローチが首尾よく遂行される。
【0192】
I.)補助療法:補助療法では、患者は、化学療法剤もしくは薬剤もしくは生物薬剤またはこれらの組み合わせと組み合わせてBAAで処置される。標準的なプロトコル下でBAAの添加によって、原発性がん標的を処置し、次いで照射する。プロトコルデザインは、原発性または転移性病変の腫瘍量の減少、無増悪生存期間の延長、全生存期間、患者の健康状態の改善、疾患安定化、ならびに標準化学療法およびその他の生物学的薬剤の通常用量を減少させる能力を含むがこれらに限定されない例によって評価される有効性に対処する。これらの投与量減少は、化学療法剤または生物学的薬剤の用量関連毒性を低減させることによって、追加のおよび/または長期の治療を可能にする。
【0193】
II.)単独療法:腫瘍の単独療法におけるBAAの使用に関連して、BAAは、化学療法剤または薬剤または生物薬剤なしで患者に投与される。一実施形態では、単独療法は、広範囲の転移性疾患を有する末期がん患者において臨床的に実施される。プロトコルデザインは、原発性または転移性病変の腫瘍量の減少、無増悪生存期間の延長、全生存期間、患者の健康状態の改善、疾患安定化、ならびに標準化学療法およびその他の生物学的薬剤の通常用量を減少させる能力を含むがこれらに限定されない例によって評価される有効性に対処する。
【0194】
投与量
投与レジメンは、最適な所望の応答を提供するように調整され得る。例えば、単回BAA注射を投与してもよく、いくつかの分割用量を経時的に投与してもよく、または治療状況の緊急性によって示されるように用量を比例的に減少または増加させてもよい。本明細書で使用される「投薬単位形態」は、処置されるべき哺乳動物対象のための単位投薬量として適した物理的に分離した単位を指し、各単位は、必要とされる薬学的担体と共同して所望の治療効果をもたらすように計算された所定量の活性化合物を含む。本発明の投薬単位形態の仕様は、(a)BAAの固有の特徴、照射機構(反応炉)の個別の仕組みおよび達成されるべき特定の治療効果または予防効果、ならびに(b)個体における感受性の処置のためにそのような化合物を配合する技術に固有の制限によって決定され、それらに直接依存する。
【0195】
臨床開発計画(CDP)
CDPは、次いで補助療法または単剤療法に関連して中性子捕捉療法を使用して照射される、本開示のBAAを使用するがんおよび/または免疫障害の処置を追跡および開発する。試験は、最初に安全性を実証し、その後、反復投与における有効性を確認する。試験は、非盲検であり、ホウ素中性子捕捉療法を使用してその後照射されるBAAを加えた標準的な治療と標準的な化学療法とを比較する。理解されるように、患者の登録に関連して利用することができる1つの非限定的な基準は、当技術分野で公知の標準的な検出方法によって決定される腫瘍中のBAAの濃度である。
【0196】
本発明は、本発明の個々の態様の単一の例示として意図される本明細書に開示された実施形態によって範囲が限定されるべきではなく、機能的に等価なものはいずれも本発明の範囲内である。本明細書に記載されているものに加えて、本発明のモデル、方法、およびライフサイクル方法論に対する様々な改変が、前述の説明および教示から当業者に自明となり、同様に本発明の範囲内に属することが意図される。そのような改変または他の実施形態は、本発明の真の範囲および趣旨から逸脱することなく実施することができる。
【表1】