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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】ガラスセラミック物品
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/34 20060101AFI20240829BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20240829BHJP
   C23C 14/58 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C03C17/34 Z
C23C14/06 A
C23C14/58 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021556997
(86)(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-24
(86)【国際出願番号】 EP2020057564
(87)【国際公開番号】W WO2020193349
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-17
(31)【優先権主張番号】1903012
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】504374919
【氏名又は名称】ユーロケラ ソシエテ オン ノーム コレクティフ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100193404
【弁理士】
【氏名又は名称】倉田 佳貴
(72)【発明者】
【氏名】テオ ジェゴレル
(72)【発明者】
【氏名】エルワン リュエ
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-199662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C17/00-17/44
F24C15/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスセラミック製の少なくとも1つの基材、例えばプレートを含み、前記基材が、少なくとも1つの領域において、以下で作られている少なくとも1つのスタックでコーティングされている、ガラスセラミック物品:
1)金属窒化物又は半金属窒化物の少なくとも1つの層1、ここで、前記層1は、少なくとも200nm、好ましくは少なくとも700nm、特に少なくとも1μmの厚さ、及び少なくとも14GPaの硬さを示す、並びに
2)金属酸化物又は半金属窒化物の少なくとも1つの層2、ここで、前記層2は、14nm未満、好ましくは1~10nmの厚さ、及び0.25未満の摩擦係数を示す、
ここで、前記層1及び2は互いに接触しており、前記層2は前記層1よりも基材から遠い。
【請求項2】
前記層1が、140GPa超、特に150GPa超の弾性率Eを示すことを特徴とする請求項1に記載のガラスセラミック物品。
【請求項3】
前記スタックを含むコーティングが、前記層1及び前記層2のスタックを1つのみを含み、特に前記スタックのみを含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のガラスセラミック物品。
【請求項4】
前記基材が、前記スタックの上又は下で、エナメル又は塗料の少なくとも1つの層でコーティングされていることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のガラスセラミック物品。
【請求項5】
前記スタックが、他の下にあるコーティング層なしで、ガラスセラミック製の前記基材と直接接触していることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のガラスセラミック物品。
【請求項6】
前記スタックが周囲雰囲気と接触していることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のガラスセラミック物品。
【請求項7】
1つ又は複数の加熱要素を更に含む調理装置であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のガラスセラミック物品。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のガラスセラミック製の物品の製造方法であって、前記物品が、ガラスセラミック製の少なくとも1つの基材、例えばプレートを含み、前記基材の少なくとも1つの領域に以下を堆積させる、方法:
1)金属窒化物又は半金属窒化物の少なくとも1つの層1、ここで、前記層1は、少なくとも200nm、好ましくは少なくとも700nm、特に少なくとも1μmの厚さ、及び少なくとも14GPaの硬さを示す、次いで
2)金属酸化物又は半金属窒化物の少なくとも1つの層2、ここで、前記層2は、14nm未満、好ましくは1~10nmの厚さ、及び0.25未満の摩擦係数を示す、
ここで、前記層1及び2を、互いに接触させる。
【請求項9】
前記層1の堆積後又はスタックの堆積後に、前記基材に750℃~900℃の温度で強化処理又は徐冷処理を施すことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記層1の堆積を、カソードスパッタリング、特にマグネトロン強化カソードスパッタリングによって実施し、前記カソードスパッタリングが、好ましくはパルスDCタイプであり、かつ前記層2の堆積を、カソードスパッタリング又は液体経路によって実施することを特徴とする、請求項8又は9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスセラミックの分野に関する。より具体的には、本発明は、ガラスセラミック、特に家具表面として及び/又は調理表面として作用することを意図したガラスセラミックプレートで作られた物品又は製品に関する。用語「ガラスセラミック物品」又は「ガラスセラミック製の物品」は、ガラスセラミック材料製の基材(プレートなど)をベースとする物品を意味すると理解され、この基材には適切な場合には、その最終用途に必要とされる装飾的又は機能的な追加の付属品又は要素を備えることが可能であり、物品は、基材のみを示すことも、追加の取付具(例えば、制御パネルを備えたクックトップ、その加熱要素など)を備える基材を示すことも可能である。
【背景技術】
【0002】
ガラスセラミックは、前駆体ガラス又は母材ガラス又はグリーンガラスと呼ばれるガラスとして出発し、その特定の化学組成は、セラミック化処理と呼ばれる適切な熱処理によって、制御された結晶化を生じさせることを可能にする。この特定の部分的な結晶構造は、ガラスセラミックに固有の特性を付与する。
【0003】
現在、種々のタイプのガラスセラミックプレートが存在し、所望の特性に好ましくない影響を及ぼす危険性なしにこれらのプレート及び/又はこれらのプレートの製造方法を修正することが大きな問題であることを考慮すると、各々の変形態様は、主要な研究及び多数の試験の結果である。特に、クックトップとして使用できるようにするためには、ガラスセラミックプレートは、一般に、下にある加熱要素の少なくとも一部をオフにしたときに隠すのに十分に低く、かつ状況(放射加熱、誘導加熱など)に応じ、利用者が安全のために動作状態で加熱要素を視覚的に検出することができるのに十分に高い可視領域の波長の透過率を示さなければならない。また、ガラスセラミックプレートは、特に放射加熱要素を有するプレートの場合には、赤外線領域の波長の高い透過率を示さなければならない。ガラスセラミックプレートはまた、それらの使用分野において必要とされるような十分な機械的強度を示さなければならない。特に、家庭用電化製品分野のクックトップとして、又は家具の表面として使用するためには、ガラスセラミックプレートが圧力、衝撃(器具の支持及び落下など)などに対して良好な耐性を示さなければならない。
【0004】
従来、ガラスセラミックプレートは、クックトップとして使用されるか、又はガラスセラミックプレートは、例えば暖炉インサートを形成するために、他の用途において加熱要素と関連付けることもできる。最近、それらの使用は、日常生活の他の領域にまで拡張されており、ガラスセラミックプレートは、家具表面として、特に、ワークトップ、セントラルアイランド、コンソールなどを形成するために使用することができ、これらの新しい用途においてガラスセラミックプレートが占める表面積は、過去よりも大きい。
【0005】
それらの表面での器具(クックトップのためのソースパン又は加工面のための様々な家庭用品など)の繰り返しの使用により、ガラスセラミックプレートは、使用に伴って、これらの器具との摩擦の影響下で擦過されることがあり、実際に、金属との摩擦の影響下で着色されることもある。食品がそのプレートの表面に付着することがあり、又はこれらのプレートが指紋の問題を示すことがあるので、より研磨性のある研磨スポンジなどの洗浄製品の使用もまた、擦過のさらなる原因となり得る。
【0006】
プレートは更に、機能的及び/又は装飾的な目的を有する異なるコーティングを示すことができ、最も一般的なものは、ガラスフリット及び顔料をベースとするエナメル、並びに高温に耐性のある特定の塗料、例えばシリコーン樹脂をベースとする塗料である。他のコーティングもまた存在し、特に、コントラスト効果を得るために、反射層などの層又は層のスタックをベースとする層が存在するが、これらのコーティングは一般に、より高価であり、それらの製造はしばしば、より問題となる。コーティングを追加することは、プレートのメンテナンスを複雑にする可能性もある。なぜならば、コーティングが洗浄中に有害に変化するか、又はガラスセラミックの光学的若しくは機械的物性を有害に変化させる可能性があるためである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ガラスセラミックがコーティングされているか否かにかかわらず、ガラスセラミックの分野において現在も続いている関心事は、メンテナンスが容易であり、その外観及びその特性を長期間保持する製品を提供することができることに残っている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、器具の摩擦(擦過、金属摩擦による着色)に関連する損傷に関して、ガラスセラミックプレートの上記の欠点を克服することを試みている。この欠点の克服は、改善されたガラスセラミックプレート、特に、クックトップなどの1つ又は複数の加熱要素と共に使用されることを意図された、又は家具表面として作用することを意図された、新しいガラスセラミックプレートを提供することによるものである。このプレートは、その使用に望まれる他の特性を損なうことなく、又はその美的外観を損なうことなく、その日常的使用におけるその表面での擦過傷の出現を抑制することを可能にし、また、金属器具との摩擦による着色の出現を抑制することを可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0009】
この目的は、本発明に従って開発されたガラスセラミック製品によって達成される。この製品では、特定のコーティングの適用によって擦過傷又は着色の出現が抑制される、このコーティングは、所望の効果を得るために正確な基準に従って選択される。これは、硬質材料(例えば、窒化ケイ素及び/又は窒化アルミニウムタイプの材料)の厚い層と、低い摩擦係数を示す薄い被覆層とを組み合わせた層のスタックの堆積が、ガラスセラミックの表面(特に、器具と接触するように意図された面、一般に、プレートの上面)において、擦過傷の低減及び金属との摩擦作用による着色効果の低減に非常に好ましい効果を有することを、本発明者らが実証したためである。
【0010】
これによれば、本発明は、ガラスセラミック製の少なくとも1つの基材、例えばプレートを含み、前記基材が、少なくとも1つの領域において、以下で作られている少なくとも1つのスタックでコーティングされている、新規なガラスセラミック物品に関する:
-1)金属窒化物又は半金属窒化物の少なくとも1つの層1、ここで、前記層1は、少なくとも200nm、好ましくは少なくとも700nm、特に少なくとも1μmの厚さ、及び少なくとも14GPaの硬さを示す、並びに
-2)金属酸化物又は半金属窒化物の少なくとも1つの層2、ここで、前記層2は、14nm未満、好ましくは1~10nmの厚さ、及び0.25未満の摩擦係数を示す、
ここで、前記層1及び2は互いに接触しており、前記層2は前記層1よりも基材から遠い。
【0011】
好ましくは、層1はまた、140GPa超、特に150GPa超の弾性率を示す。
【0012】
検討中の層の硬さH及び弾性係数Eは、CSM Instruments社によって販売されているDCMII-400タイプのナノインデンターを用い、標準規格NF EN ISO 14577による3面Berkovichタイプのピラミッドタイプダイヤモンドチップを用いて、ガラスセラミック上に濃淡のない色合い(100%の被覆度を有する)として堆積された層で測定する。
【0013】
摩擦係数は、CSM Instruments社が販売しているCSMマイクロスクラッチ装置を用いて測定される。この装置では、直径1Nの一定の力を、一定速度で2cmの距離を移動する直径1cmのステンレス鋼球に印加し、合計30回のパス(15回の往復運動)を実施する。摩擦係数は、センサーによって測定された法線力に対する接線力の割合である。
【0014】
本発明は、実施される層の選択により、所望の特性を得るための、スタックを規定する前記層間の相乗効果が可能となることを実証した。特に、いわゆる「硬い」層(例えば、7.5GPa程度のガラスセラミックよりも硬さが高い)を単独で適用すると、擦過は抑制されるが、金属製の器具の下面を摩耗させ、場合によっては金属の痕跡を生じさせることがあり、一方、単純な潤滑層の適用は、金属の堆積を抑制するが、この層は擦過可能であり、擦過傷の深さが層の厚さを超えると、これらの擦過傷が視認可能となる。本発明により与えられる選択パラメータと組み合わせて、本発明におけるこれらの2つのタイプの層は、擦過及び金属の堆積を抑制し、特に、選択された硬質層と組み合わせて選択された非常に薄い潤滑層の表面に作られる擦過が肉眼では視認できないことが判明した。これによれば、本発明に従って堆積されたスタックは、擦過の出現を大幅に減少させること、及び金属器具(ソースパンなど)の摩擦作用による着色の出現を制限することの両方を可能にすることによって、プレートの耐久性を増大させる。
【0015】
本発明による製品はまた、ガラスセラミック基材、又は基材上に存在する可能性のある任意の隣接する層への、上記のスタックの良好な接着性(支持体の前処理及び/又は接着促進剤、結合層又はプライマーの使用を必要としない)を示す。このスタックは特に、熱衝撃(例えば、600℃近傍)後に層間剥離を示さず、高温に耐える。コーティングされた基材は、良好な熱安定性を示し、異なる加熱源(誘導熱源、放射熱源など)と共に使用することができる。更に、このスタックは、ガラスセラミック基材を機械的に弱くしない。
【0016】
好ましくは、スタックの層1は、ケイ素及び/若しくはアルミニウム及び/若しくはジルコニウム及び/若しくはチタンの窒化物(すなわち、窒化ケイ素又は窒化アルミニウム又は窒化ジルコニウム又は窒化チタン又は窒化ケイ素アルミニウム又は窒化ケイ素ジルコニウム、又はアルミニウムがドープされた窒化ケイ素ジルコニウムなど)の層又はそれをベースとする層である。
【0017】
上に定義した層2は、有利には潤滑特性を示し、スタックの擦過及び着色に対する受けやすさの特に有意な低下に寄与する。好ましくは、この層2は、酸化チタン若しくは酸化チタンジルコニウム、若しくは窒化ホウ素、若しくは酸化ジルコニウムの層であるか、又はそれらをベースとする層であり、これらの層の一方又は他方もドープされることが可能である。
【0018】
上述した金属窒化物若しくは金属酸化物又は半金属窒化物の各層は、有利には、窒素(窒化物の場合)又は酸素(酸化物の場合)、及び上記の金属窒化物若しくは金属酸化物又は半金属窒化物の名称において言及されている金属又は半金属で本質的に(少なくとも85重量%まで)作られており、実際にはこれらのみから作られている(存在する可能性がある不純物を除いて、この場合、層の5%を超えない)。「金属又は半金属窒化物」又は「金属酸化物」という名称は、適切な場合には、当該窒化物又は酸化物の名称において言及されているもの以外の他の化学元素の存在を排除するものではなく、層の実際の化学量論を予断するものでもない。各層は特に、それらの電子伝導性を増加させ、それによってマグネトロンカソードスパッタリング技術による堆積を容易にする目的で、使用されるターゲット中にドーパントとして添加される、少量の1つ又は複数の化学元素がドープされていてもよく、又は含むことができる。しかしながら、ドーパント(複数可)又は関連する層に記載されたもの以外の他の化学成分又は元素の含有率は、(ターゲット及び層中で)15重量%未満、好ましくは10重量%未満、実際にはゼロでさえある。
【0019】
上述のスタックの層1は、厚い層であり、特に、マグネトロンによって通常堆積される薄い層(その(物理的)厚さは、100nm程度を超えない)よりも厚く、前記層の(物理的)厚さは、少なくとも200nm、好ましくは少なくとも700nm、特に有利には少なくとも1000nm(1μm)であり、特に5000nmまで、好ましくは2500nmを超えず、実際には2000nmを超えず、特に1000nmと1500nmとの間である。反対に、層2は、14nm未満、特に10nm以下、及び1nm以上、好ましくは2~10nm、特に4~8nm程度の薄い厚さを示す。
【0020】
有利には、層1は、14GPa超、特に20GPa超、実際には30GPa超の硬さHを示す。この層はまた、140GPa超、特に150GPa超、実際には200GPa以上の弾性率Eを示す。
【0021】
本発明において、層1及び2のスタック1つは特に、本発明による改善を得るのに十分である。「層」という用語は、前記層が、例えば1種の同じターゲットから出発する複数の経路で得られたとしても、1つの同じ材料の均一な層を意味すると理解される。これによれば、本発明に従って選択されたスタックを含むコーティングは、有利には上記のスタックを1つのみ含有することができ、実際には前記スタックのみを含有することさえできる。
【0022】
しかしながら、上述のスタック、及びスタックの片側の1つ又は複数の他の層(又は言い換えれば、上述のスタックの上若しくは下の1つ若しくは複数の他の層)を含む層のスタックを使用することを排除するものではなく、これらの層によって作られているコーティング(又はスタック全体)は、本発明によるスタックの存在によってプレートの耐久性を増大させる。
【0023】
本発明による少なくとも上記のスタックを含むコーティングは例えば、基材と上述のスタックとの間に、少なくとも1つの層、又は層のスタックを含むことができる。これらの層又は層のスタックは例えば、プレートの反射の外観に影響を及ぼすか、又は可能性のあるイオンの移動を遮断するために使用することができ、又は接着層として作用することなどができる。このコーティングは、例えば、酸窒化ケイ素若しくは窒化ケイ素の層、又はシリカ又はSiOからなる接着層などを含むことができ、この層又はこれらの層の(物理的である)厚さは、好ましくは1~30nmに及ぶ範囲内にある。
【0024】
有利な実施形態では、本発明によるスタックは、下にある他のコーティング層なしに、その面の少なくとも1つ(好ましくは使用位置でユーザーに向けられるように意図されたその面、又は上面若しくは外面であり、他の面(下面又は内面)は使用位置で一般に隠されている)において、ガラスセラミックで作られた基材と直接接触して堆積されている(又は換言すれば、製品において、前記ガラスセラミックと(直接)接触している)。
有利な実施形態では本発明によるスタックがガラスセラミック製の基材と直接接触して(すなわち、言い換えれば、製品において)、その面の少なくとも1つ(好ましくは使用位置でユーザに向けられるように意図された面、又は上面もしくは外面、他の(下面又は内部)は他の下にあるコーティング層なしで、一般に使用位置で隠されている)に堆積される。
【0025】
別の代替的又は累積的な実施形態では、本発明によるスタックは、周囲雰囲気と接触している(換言すれば、上に他の層又はコーティングが存在せず、このスタックは雰囲気側に見えるか、又は他の層が存在する場合にはガラスセラミックから最も遠くにある)。
【0026】
コーティング(スタック及び任意選択の他の層を含む)の合計厚さは、好ましくは5000nmを超えない。
【0027】
スタックは、基材の一部のみ、又は全面(特に主面)、例えば使用位置の上面を覆うことができ、この面は、特に洗浄を受けやすい。特に、ガラスセラミック製の基材には、その上面又は外面に、単独で、又は他の層を含むコーティングの一部を形成して、本発明による前記スタックが設けられる。
【0028】
本発明によるガラスセラミック物品(又は製品)は特に、クックトップ、又は調理装置若しくは設備、又はガラスセラミック(材料)で作られた少なくとも1つの基材を組み込む(又はこれを含む、又はこれから作られている)任意の家具物品であり(基材は、最も一般的にはプレートの形態であり、家具の一部に組み込まれるか、又は組み立てられることになり、及び/又は家具の一部を形成するために他の要素と組み合わされることになる)、前記基材は、適切な場合には、表示特性を有する領域(例えば、発光源と組み合わせて)若しくは装飾領域を有する領域を示すこと、又は加熱要素と組み合わせることが可能である。その最も一般的な用途において、本発明による物品は、クックトップとして作用することが意図されており、このプレートは一般に、加熱要素、例えば、放射熱源若しくはハロゲン熱源又は誘導加熱要素も含むキッチンレンジ又は調理表面に組み込まれることが意図される。別の有利な用途では、本発明による物品は、ガラスセラミックで作られたワークトップ、又はセントラルアイランドであり、適切な場合には、異なる表示装置を有し、必ずしも調理領域を有さず、実際にはコンソールタイプの家具(基材は、例えば、上部を形成している)などでさえある。
【0029】
基材(又は本発明による物品自体が基材のみから形成されている場合は、この物品自体)は、一般にプレート(の形態)であり、特に、少なくとも1つの光源及び/若しくは1つの加熱要素とともに、特にこれを覆うか、若しくは受け入れるために使用されることが意図されており、又は家具表面として作用することが意図されている。この基材(又はこのプレートのそれぞれ)は一般に、幾何学的形状、特に長方形、実際には正方形、実際には円形又は楕円形などの形状であり、一般に、使用位置でユーザーに向けられた面(又は可視面若しくは外面、一般に使用位置における上面)、使用位置で、例えば家具の枠組み又はケーシング内に一般に隠れている別の面(又は内面、一般に使用位置における下面)、及び縁面(又はエッジ若しくは厚さ)を示す。上面又は外面は、概して平坦かつ滑らかであるが、少なくとも1つの突出領域及び/又は少なくとも1つの凹部領域及び/又は少なくとも1つの開口部及び/又は傾斜縁などを局所的に示してもよく、これらの形状の変化は、特にプレートの連続的な変化を構成する。下面又は内面はまた、平坦かつ滑らかであってもよく、又はピンを備えていてもよい。
【0030】
ガラスセラミック基材の厚さは、一般に少なくとも2mm、特に少なくとも2.5mm、有利には15mm未満、特に3~15mm程度、特に3~8mm程度、又は3~6mm程度である。基材は、好ましくは平坦な又は実質的に平坦なプレートである(特に、プレートの対角線から0.1%未満、好ましくはゼロの程度の撓みを有する)。
【0031】
基材は任意のガラスセラミックをベースとしていてもよいが、この基材は、有利には、ゼロ又は実質的にゼロのCTE、特に20~700℃の間で30・10-7-1未満(絶対値)、特に15・10-7-1未満、実際には20~700℃の間で5・10-7-1未満のCTEを有利に示す。
【0032】
本発明は、擦過がより容易に見られる暗い外観の基材に特に有利であり、これらの基材は、低い透過率及び弱い散乱を有し、特に、本質的に、厚さ6mmまでのガラスセラミックについて40%未満、特に5%未満、特に0.2%~2%の光透過率TL、及び可視領域内の625nmの波長について0.5%~3%の光学透過率(所与の波長での入射光強度に対する透過光強度の割合をとることによって既知の方法で決定される)を有する任意のガラスセラミックをベースとする。用語「本質的に」は、基材が任意の1つのコーティングの存在なしに、それ自体でそのような透過率を有することを意味すると理解される。光学的測定は、標準規格EN 410に従って行われる。特に、光透過率TLは、標準規格EN 410に従って、光源D65を使用して測定され、全透過率(特に、可視領域にわたって積分され、人間の目の感度曲線によって重み付けされる)であり、直接透過率及び可能な拡散透過率の両方を考慮に入れ、測定は例えば、積分球(特に、Perkin-Elmerによって参照番号Lambda 950で販売されている分光光度計)を装備した分光光度計を使用して行われる。
【0033】
特に、基材は、黒色又は褐色の外観の基材であり、下に配置された光源と組み合わせて、光領域又は装飾を表示しつつ、下にある可能性のある要素をマスキングすることを可能にする。基材は、特に、残留ガラス相内にβ-石英構造の結晶を含む黒色ガラスセラミックをベースとすることができ、その膨張係数の絶対値は、有利には15・10-7-1以下、実際には5・10-7-1以下でさえある。この基材は、例えば、ユーロケラ(Eurokera)によりKeraBlack+の名称で販売されているプレートのガラスセラミックである。それは特に、欧州特許出願公開第0437228号明細書又は米国特許第5070045号明細書又は仏国特許出願公開第2657079号明細書に記載されているような組成を有するガラスセラミック、又は例えば、国際公開第2012/156444号パンフレットに記載されているように、優先的に0.1%未満のヒ素酸化物の含有率を示すスズで精製されたガラスセラミック、又は国際公開第2008/053110号パンフレットに記載されているように、硫化物で精製されたガラスセラミックなどであってもよい。
【0034】
本発明は、基材がより軽い場合、例えば、透明な基材の場合にも適用することができ、適切な場合には、EurokeraによってKeralite(登録商標)の名称で販売されているプレートのように、その下側に、一般に塗料で作られた不透明化コーティングでコーティングされている基材の場合にも適用することができる。
【0035】
本発明によれば、検討中のガラスセラミック基材は、1つ又は複数の領域でコーティングされており(又は前記基材の少なくとも1つの領域がコーティングされており)、より詳細には表面で、面の少なくとも一部に、有利には使用位置でユーザーに向けられた面及び/又は擦過傷及び着色の視認性の低減を必要とする面の少なくとも一部にコーティングされており、一般に、使用位置での上面又は外面にコーティングされており、特に、前記面の全体にわたってコーティングされている。ガラスセラミック基材は、少なくとも本発明に従って定義されたスタック、又は前記スタックを含むコーティングでコーティングされている。
【0036】
本発明による基材は、適切な場合には、機能的効果及び/若しくは装飾的効果を有する他のコーティング若しくは層(溢流防止層、不透明化層など)、特に局所化されているコーティング若しくは層、例えばエナメルをベースとする通常のパターン(例えば、ロゴ又は単純なパターンを形成するために上面に)、又は基材の下面の不透明化塗料の層などでコーティングすることができる。特に、基材は、本発明によりスタックの上(特に大気側)又は下(特に基材と接触している)の少なくとも一部に又は全体を、局所化されているか又はされていない、特に光沢タイプの、エナメル及び/又は塗料の少なくとも1つの層でコーティングすることができ、エナメル又は塗料/光沢の前記層が本発明によるスタックと接触することが可能である。用語「光沢タイプの塗料」は特に、金属酸化物から作られており、顔料を含まない塗料を意味すると理解され、この塗料又は光沢は、特に、1.54超の屈折率を示す。このような塗料層の厚さは、特に10~100nmであることができる。
【0037】
本発明による物品は、一般に基材の下面に配置されている、1つ若しくは複数の光源及び/又は1つ若しくは複数の加熱要素(1つ若しくは複数の放射要素若しくはハロゲン要素及び/又は1つ若しくは複数の大気ガスバーナー及び/又は1つ若しくは複数の誘導加熱手段など)を、基材に関連して、又は基材と組み合わせて更に含むことができる。1つ又は複数の光源は、1つ又は複数のディスプレイタイプの構造、タッチ感受性デジタルディスプレイ電子制御パネルなどに組み込むか、又は結合することができる。1つ又は複数の光源は、有利には、任意選択で1つ又は複数の光ガイドに関連付けられて、多少広がっている発光ダイオードによって作られている。
【0038】
物品は、追加の機能要素(枠、コネクタ、ケーブル、制御要素など)を備える(又は関連付ける)こともできる。
【0039】
これによれば、本発明は、製品が様々な用途(特に、クックトップとしての使用のために)に必要とされる機械的強度を保持すると同時に、所望の位置(例えば、面の全体にわたって、又はほんの少数の領域、例えば、加熱領域などの取扱い作業又は擦過にさらされる領域)で擦過及び着色に対してより耐性のある表面を有するガラスセラミック製品の開発を可能にした。これによれば、本発明による解決策は、簡単かつ経済的な方法で、複雑な操作なしに(後述するように、カソードスパッタリングなどの減圧下での堆積技術によって層を堆積させることが可能である)、耐久性のある方法で、かつ高い順応性をもって、製品の任意の所望の領域における擦過及び着色に対してより大きな耐性の領域を得ることを可能にし、これは、これらの領域が高温にさらされることが意図される場合であっても当てはまる。本発明による物品は特に、様々な種類の加熱手順の使用に適合する良好な耐熱性を示し、メンテナンス上の問題を示さない。本発明による製品は特に、特にクックトップとしての使用などの用途において達成され得る400℃超の温度で熱分解を受けない。
【0040】
本発明はまた、ガラスセラミック製の基材から出発して、前記基材の少なくとも1つの領域に以下を堆積(又は適用)させる、本発明によるガラスセラミック物品の製造方法にも関する:
1)金属窒化物又は半金属窒化物の少なくとも1つの層1であって、ここで、前記層1は、少なくとも200nm、好ましくは少なくとも700nm、特に少なくとも1μmの厚さ、及び少なくとも14GPaの硬さを示す層、次いで
2)金属酸化物又は半金属窒化物の少なくとも1つの層2であって、ここで、前記層2は、14nm未満、好ましくは1~10nmの厚さ、及び0.25未満の摩擦係数を示す、
前記層1及び2は、互いに接触している。
【0041】
本発明によるスタックの各層の適用又は堆積は特に、特に層1について、実際には層2についてさえ、このタイプの層の均一な層又は濃淡のない色合いを生成することを可能にする任意の適切かつ迅速な技法によって、例えばカソードスパッタリング、特にマグネトロン強化カソードスパッタリング、又は化学気相成長(CVD)、適切な場合にはプラズマ強化(PECVD)などの減圧下での堆積のための方法によって実施することができる。特に層1の適用は、好ましくはカソードスパッタリング、特にマグネトロン強化カソードスパッタリングによって実施される。この堆積は、良好な収率及び良好な堆積速度で実施される。層2は、カソードスパッタリングによって堆積させることもできるし、液体経路、例えばゾル-ゲル経路、スクリーン印刷、遠心コーティング(スピンコート)、ディッピング(ディープコーティング)などによって堆積させることもできる。同じコーティングの酸化物又は窒化物の他の可能な層も、適切な場合には、上記と同じ堆積方法(堆積は特に連続的である)によって堆積させることができ、基材上に任意に存在する他のタイプの層(エナメル、光沢)は任意の適切な通常の技術(エナメルのためのスクリーン印刷又はインクジェット印刷など)によって独立して堆積される。
【0042】
優先的に用いられるカソードスパッタリングは、カソードを分極させるために採用される発電機のタイプに従って、AC(交流)タイプ若しくはDC(直流)タイプ、又は特に好ましい方法においてはパルスDCタイプである。ターゲットは例えば、平面状又は管状(回転管の形態)である。
【0043】
カソードスパッタリングによる堆積は特に、プラズマ生成用ガス(一般にアルゴン)及び窒素(窒化物の場合)及び/又は酸素(酸化物の場合)からなる雰囲気中で、適切なターゲットを使用して行われる。このターゲットは、適切な場合には、その電子伝導性を高めるためにドープされている(例えば、アルミニウム又はホウ素で)。プラズマの活性成分は、ターゲットに衝撃を与えることによって、基材上に堆積されて所望の層を形成する上記の元素を剥ぎ取り、及び/又は前記層を形成するためにプラズマ中に含まれるガスと反応する。有利には、窒化物をベースとする層については、問題となっている堆積が行われているチャンバー内の堆積中の雰囲気(プラズマ生成用ガスから作られている)は、1体積%未満の酸素(チャンバー内に残留していてもよく、又は任意選択で供給されてもよい)を含み、実際には酸素を含まない。好ましくは、窒化物をベースとする層については、層の堆積中の酸素流量はゼロであり、言い換えれば、前記ターゲットのスパッタリング雰囲気中に意図的に導入される酸素はない。
【0044】
カソードスパッタリングによる関係する各層の堆積(又は堆積中)の圧力は、特に最大で2.5μbarであり、好ましくは1.5μbar~2.3μbarの範囲内にある。用語「堆積圧力」は、この層の堆積が行われるチャンバー内に広がる圧力を意味すると理解される。関連する堆積チャンバー内で選択された圧力を印加することは、良好な機械的耐性及び耐摩耗性を示す層を得ることに寄与する。また、層の堆積の出力は、好ましくは前記層の堆積中、ターゲット1cm当たり2~10W/cmに及ぶ範囲内にあり、様々なターゲットの下方での基材の前進速度は、好ましくは0.1~3m/分に及ぶ範囲内にある。
【0045】
堆積は特に、プレセラミック化されておりかつ加熱されていない基材で行われる。特に好ましい実施形態によれば、基材には、基材は層1の堆積後(及び層2の堆積の前)、又はスタックの堆積後に、例えば750℃~900℃程度の温度で、約10分間、熱処理、特に強化処理又は徐冷を施す。この処理は、応力を緩和し、本発明によるスタックの層1の硬さを更に増大させることを可能にする。
【0046】
念のため、ガラスセラミックプレートの製造は、一般に次のように行われる。すなわち、ガラスセラミックを形成するために選択された組成を有するガラスを溶融炉で溶融し、次いで、圧延ロール間に溶融ガラスを通過させることにより、溶融ガラスを圧延して標準的なリボン又はシートを与え、そしてガラスリボンを所望の寸法に切断する。このように切断したプレートをその後、それ自体公知の方法でセラミック化させる。セラミック化は、ガラスを「ガラスセラミック」として知られている多結晶材料に変換するために選択された熱プロファイルに従ってプレートを焼成することからなる。ガラスセラミックの膨張係数は、ゼロ又は実質的にゼロであり、ガラスセラミックは、特に700℃までの範囲であり得る熱衝撃に耐える。セラミック化は一般に、温度を核形成範囲まで徐々に上昇させる段階、核形成間隔(例えば650℃~830℃)を数分間(例えば5~60分間)通過させる段階、結晶の成長を可能にするために温度を更に上昇させ、セラミック化固定相の温度を数分間(例えば5~30分間)維持する段階(例えば850℃~1000℃の範囲の間隔でセラミック化する)、及び次いで周囲温度まで急速に冷却する段階を含む。
【0047】
適切な場合には、方法はまた、切断操作(一般にセラミック化前)、例えば、水のジェットを使用すること、切断ホイールを使用する機械的マーキング等の切断操作を含み、その後、成形操作(研削、面取り等)が続く。
【0048】
以下の実施例は本発明を説明するものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例
【0049】
硬さH及び弾性係数Eは、言及した場合には、DCMII-400タイプのナノインデンターを用い、標準規格NF EN ISO 14577によるBerkovichタイプ(3面)のピラミッドダイヤモンドチップを用いて測定したものである。
【0050】
異なるサンプルの耐摩耗性は、Nortonが販売し、平均等価直径20μmの炭化ケイ素粒子を組み込んだP800タイプの研磨紙を用いて、ガラスセラミック(むき出し又はコーティングされている)の表面上に1分間に15回の往復運動及び5N/cmの印加圧力で、3.81cmの距離にわたって、紙を往復運動させることによって測定した。ライトボックス内の3色発光ダイオードを用いてサンプルを照射して撮影した写真から、擦過傷の数の測定を行いった。画像処理(白黒に2値化し、擦過傷を黒画素で、白画素の擦過されていない部分を白画素で見えるようにする)を行うことで、この撮影した写真の解析が可能となった。132000個の画素からなる画像に記録された黒画素の個数yを10000で割った値に対応する指数xを与える「擦過性指数」を評価した(x=y/10,000であり、指数xは、例えば10000個の黒画素がある場合には1であり、20000個の黒画素がある場合には2であるなど)。
【0051】
また、CSM Instrumentsが販売しているCSMマイクロスクラッチデバイスを用いて、摩擦係数を測定した。1Nの一定の力を、2cmの距離にわたって一定速度で移動する1cmの直径を有するステンレス鋼ボールに印加し、合計30回のパスを実施した。測定した摩擦係数は、印加された法線力に対する印加された接線力の割合であり、これらの力は、センサーによって測定される。
【0052】
また、サンプルを、平らなステンレススチールワイパーを備えた型番5750のリニア摩耗試験機(Taber社が販売)で金属摩擦試験を行った。この試験機のアームは、2MPaの力を印加して、1分間に60周期の速度で3.81cm走行する上記のワイパーを保持している。試験は、往復運動を行い、表面に金属の堆積物が観察された周期数を決定することにある。この試験は、ガラスセラミックの表面におけるソースパンの動き、ソースパンから生じる金属堆積物の形態の傷、及びガラスセラミックの塑性変形又は亀裂又は摩耗の2つのタイプの損傷を発生するソースパンの動きをシミュレーションすることを可能にする。
【0053】
これらの実施例では、ユーロケラ(Eurokera)によりKeraBlack+という呼称で販売されている、半透明の黒色ガラスセラミックから作られている同じ基材の小型20cm×20cmのプレートを使用した。これらの小型プレートは、滑らかな上面、及びピンを備えた下面を示し、厚さは4mmであった。
【0054】
むき出しの小さなガラスセラミックプレートは、7.5GPaの硬さを有し、4の擦過性指数及び0.3の摩擦係数(ガラスセラミック/金属の接触)を得た。更に、むき出しのガラスセラミック上では、型番5750のリニア摩耗試験機での摩擦試験に従ったワイパーは、約20周期未満で表面に擦過傷をつけた。
【0055】
これらの小さなプレート上に、以下のように異なる層を堆積させた。これらの層の各々は、パルスDCマグネトロン強化カソードスパッタリングによって、2μbar程度の低圧で堆積させ、ターゲットの単位面積当たりの電力密度は6W/cm未満であった:
【0056】
-厚さ1200nm、硬さ20GPa、弾性率200GPaの窒化ケイ素の厚い第1の層1、及び厚さ5nm、摩擦係数0.17のTiOの第2の層を含む、本発明によるスタックを、第1の一連の小さなプレート上に堆積させた。
【0057】
このようにコーティングされた小型プレートは、20GPaの硬さを有し、0.7未満の擦過性指数及び0.2の摩擦係数を得た。更に、このようにコーティングされたガラスセラミック上では、型番5750のリニア摩耗試験機での摩擦試験に従ったワイパーは、約100周期よりも非常に上回ったところで表面に擦過傷をつけた。
【0058】
-厚さ1200nm、硬さ20GPa、弾性率200GPaの窒化ケイ素の厚い第1の層1、及び厚さ5nm、摩擦係数0.15のTiZrOの第2の層を含む、本発明によるスタックを、第2の一連の小さなプレート上に堆積させた。
【0059】
このようにコーティングされた小型プレートは、20GPaの硬さを有し、0.4未満の擦過性指数及び0.18の摩擦係数を得た。更に、このようにコーティングされたガラスセラミック上では、型番5750のリニア摩耗試験機での摩擦試験に従ったワイパーが、約100周期よりも非常に上回ったところで表面に擦過傷をつけた。
【0060】
- 厚さが1200nm、硬さが14.5GPa、弾性率が140GPa、合計Si+Zrに対してZrの原子比y/(x+y)が32%であるSiZrの厚い第1の層1、厚さが5nmであり、それぞれ摩擦係数が0.17と0.15であるTiO又はTiZrOの第2の層を含む、本発明によるスタックを、第3の一連の小さなプレートに堆積させた。
【0061】
このようにコーティングされた小さなプレートは、20GPaの硬さを有し、1未満の擦過性指数及び0.15~0.18の摩擦係数を得た。更に、このようにコーティングされたガラスセラミック上では、型番5750のリニア摩耗試験機での摩擦試験に従ったワイパーは、約100周期よりもかなり非常に上回ったところで表面に擦過傷をつけた。
【0062】
比較例として、以下を作製した:
【0063】
-厚さ1200nm、硬さ20GPa、及び弾性率200GPaの、窒化ケイ素のただ1つの厚い層を、第4の一連の小型プレートに堆積させた。
【0064】
このようにコーティングされた小型プレートは、20GPaの硬さを有し、0.5未満の擦過性指数を得たが、摩擦係数は0.4であった(すなわち、むき出しのガラスセラミックよりも高かった)。更に、このようにコーティングされたガラスセラミック上では、型番5750のリニア摩耗試験機での摩擦試験に従ったワイパーは、窒化ケイ素層によって30周期で研磨された。
【0065】
-厚さが5nmであり、それぞれ摩擦係数が0.17及び0.15である、TiO又はTiZrOのただ1つの薄層を、第5の一連の小さなプレート上に堆積させた。
【0066】
このようにコーティングされたプレートは、7.5GPaの硬さを有し、3超の擦過性指数及び0.18の摩擦係数を得た;加えて、このように被覆されたガラスセラミック上では、型番5750のリニア摩耗試験機での摩擦試験に従ったワイパーは、約20周期未満で表面に擦過傷をつけた。
【0067】
-厚さが1200nm、硬さが20GPa、弾性率が200GPaの窒化ケイ素の厚い第1の層1、及び厚さが15nm(第2の層の限界厚さより大きい)、摩擦係数が0.15のTiZrOの第2の層を含むスタックを、第6の一連の小さなプレートに堆積させた。
【0068】
このようにコーティングされた小型プレートは、20GPaの硬さを有し、(本発明により規定された、擦過性指数が1を超えない先のスタックと比較して)再び上昇して、約2(すなわち、擦過に対する抵抗がはるかに低い)にまで達する擦過性指数、及び0.15の摩擦係数を得た。
【0069】
先の実施例は、本発明によるスタックが特に、目に見える擦過の大幅な減少を得ることを可能にし、金属器具の摩擦作用による着色の出現を大幅に制限することを示している。
【0070】
種々の家庭用製品(Reckitt BenckiserからのVitroClenブランド製品、又はKiravivからの誘導製品及びガラスセラミック洗浄製品など)を用いた、低温及び高温条件下で、コーヒー、ミルク、酢、燃焼トマトソースの痕跡を担持する表面上の種々の洗浄試験もまた、本発明に従って選択された層でコーティングされたガラスセラミックは、洗浄が容易であり、層が化学的に分解しないことを実証した。同様に、この層は、620℃での熱衝撃後に層間剥離せず、580℃で100時間後にも劣化を示さなかった。
【0071】
本発明による物品は特に、キッチンレンジ又は調理表面のための新規な範囲のクックトップ、又は新規な範囲のワークトップ、コンソール、クレデンザ、セントラルアイランドなどを製造するために有利に使用することができる。
本発明の実施態様の一部を以下の項目1~10に記載する。
〈項目1〉ガラスセラミック製の少なくとも1つの基材、例えばプレートを含み、前記基材が、少なくとも1つの領域において、以下で作られている少なくとも1つのスタックでコーティングされている、ガラスセラミック物品:
1)金属窒化物又は半金属窒化物の少なくとも1つの層1、ここで、前記層1は、少なくとも200nm、好ましくは少なくとも700nm、特に少なくとも1μmの厚さ、及び少なくとも14GPaの硬さを示す、並びに
2)金属酸化物又は半金属窒化物の少なくとも1つの層2、ここで、前記層2は、14nm未満、好ましくは1~10nmの厚さ、及び0.25未満の摩擦係数を示す、
ここで、前記層1及び2は互いに接触しており、前記層2は前記層1よりも基材から遠い。
〈項目2〉前記層1が、140GPa超、特に150GPa超の弾性率Eを示すことを特徴とする項目1に記載のガラスセラミック物品。
〈項目3〉前記スタックを含むコーティングが、前記層1及び前記層2のスタックを1つのみを含み、実際に前記スタックのみを含むことを特徴とする、項目1又は2に記載のガラスセラミック物品。
〈項目4〉前記基材が、前記スタックの上又は下で、エナメル又は塗料の少なくとも1つの層でコーティングされていることを特徴とする、項目1~3のいずれか一項に記載のガラスセラミック物品。
〈項目5〉前記スタックが、他の下にあるコーティング層なしで、ガラスセラミック製の前記基材と直接接触していることを特徴とする、項目1~4のいずれか一項に記載のガラスセラミック物品。
〈項目6〉前記スタックが周囲雰囲気と接触していることを特徴とする、項目1~5のいずれか一項に記載のガラスセラミック物品。
〈項目7〉1つ又は複数の加熱要素を更に含む調理装置であることを特徴とする、項目1~6のいずれか一項に記載のガラスセラミック物品。
〈項目8〉項目1~7のいずれか一項に記載のガラスセラミック製の物品の製造方法であって、前記物品が、ガラスセラミック製の少なくとも1つの基材、例えばプレートを含み、前記基材の少なくとも1つの領域に以下を堆積させる、方法:
1)金属窒化物又は半金属窒化物の少なくとも1つの層1、ここで、前記層1は、少なくとも200nm、好ましくは少なくとも700nm、特に少なくとも1μmの厚さ、及び少なくとも14GPaの硬さを示す、次いで
2)金属酸化物又は半金属窒化物の少なくとも1つの層2、ここで、前記層2は、14nm未満、好ましくは1~10nmの厚さ、及び0.25未満の摩擦係数を示す、
ここで、前記層1及び2を、互いに接触させる。
〈項目9〉前記層1の堆積後又はスタックの堆積後に、前記基材に750℃~900℃の温度で強化処理又は徐冷処理を施すことを特徴とする、項目8に記載の方法。
〈項目10〉前記層1の堆積を、カソードスパッタリング、特にマグネトロン強化カソードスパッタリングによって実施し、前記カソードスパッタリングが、好ましくはパルスDCタイプであり、かつ前記層2の堆積を、カソードスパッタリング又は液体経路によって実施することを特徴とする、項目8又は9に記載の方法。