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  • 特許-オーディオ信号処理回路 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】オーディオ信号処理回路
(51)【国際特許分類】
   H03M 3/02 20060101AFI20240829BHJP
   H03H 17/06 20060101ALI20240829BHJP
   H03H 17/00 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
H03M3/02
H03H17/06 635D
H03H17/00 621Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021567211
(86)(22)【出願日】2020-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2020046077
(87)【国際公開番号】W WO2021131747
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2019239619
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】山上 真司
【審査官】北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第09748929(US,B1)
【文献】特開2005-005766(JP,A)
【文献】特開平08-186498(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2001/0033650(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M 3/02
H03H 17/06
H03H 17/00
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタルオーディオ信号をオーバーサンプリングするオーバーサンプリングフィルタと、
前記オーバーサンプリングフィルタの出力をΔΣ変調するΔΣ変調器と、
前記ΔΣ変調器の出力をアナログオーディオ信号に変換するD/Aコンバータと、
を備え、
前記オーバーサンプリングフィルタは、ファームウェアを実行可能なプロセッサを含み、演算アルゴリズムがプログラム可能に構成され
前記オーバーサンプリングフィルタの係数群を、複数、ロード可能に構成され、レジスタ設定に応じて、使用する前記係数群が選択可能であり、
前記係数群は、暗号化された状態でロードされ、
暗号化された前記係数群を復号するデコーダをさらに備えることを特徴とするオーディオ信号処理回路。
【請求項2】
デジタルオーディオ信号をオーバーサンプリングするオーバーサンプリングフィルタと、
前記オーバーサンプリングフィルタの係数群を暗号化した状態で受信するインタフェース回路と、
前記インタフェース回路が受信した前記係数群を復号し、前記オーバーサンプリングフィルタにセットするデコーダと、
を備えることを特徴とするオーディオ信号処理回路。
【請求項3】
ひとつの半導体基板上に一体集積化されることを特徴とする請求項1または2に記載のオーディオ信号処理回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、オーディオ信号処理回路に関する。
【背景技術】
【0002】
オーディオ信号処理では、音質改善のために、D/Aコンバータの前段に、オーバーサンプリングフィルタが挿入される場合がある。オーバーサンプリングフィルタは、インターポレータやインターポレーションフィルタなどと称され、ナイキスト周波数よりも大幅に高い周波数で入力信号をサンプリングする。オーバーサンプリングによって、S/N比と分解能が改善されるとともに、D/Aコンバータの後段に挿入するアンチエイリアシングフィルタの要件を緩和することができる。
【0003】
図1は、オーバーサンプリング処理を説明する図である。K倍のオーバーサンプリングでは、入力信号SINのサンプルの間に、K-1個のゼロ点が挿入される(アップサンプリング)。図1はK=4の例が示される。そして、アップサンプリング後のオーディオ信号を、直線位相(線形位相)デジタルフィルタを通過させることにより、オーバーサンプリングした信号を生成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-39398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、デジタルフィルタは、FIR(有限インパルス応答)フィルタあるいはIIR(無限インパルス応答)フィルタが用いられ、その特性が音質に大きな影響を与える。従来のオーディオ信号処理ICには、FIRフィルタの係数群が選択可能なものや、セットの設計者が生成したものをロード可能なものがあった。これにより、セットの設計者は、係数群をパラメータとして、オーディオ信号の音質を、希望するそれに近づける必要があった。
【0006】
オーディオ信号の音質は、デジタルフィルタの係数群のみでなく、演算アルゴリズムにも大きな影響を受けるところ、従来のオーディオ信号処理ICは、デジタルフィルタの演算アルゴリズムが固定されており、セットの設計者が演算アルゴリズムを変更する余地はなく、音質設計の自由度に制約があった。なお、こうした課題は、本発明者らが独自に認識したものである。
【0007】
本開示は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、セットの設計者が、より自由に音質を決定することが可能なオーディオ信号処理回路の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のある態様はオーディオ信号処理回路に関する。オーディオ信号処理回路は、デジタルオーディオ信号をオーバーサンプリングするオーバーサンプリングフィルタと、オーバーサンプリングフィルタの出力をΔΣ変調するΔΣ変調器と、ΔΣ変調器の出力をアナログオーディオ信号に変換するD/Aコンバータと、を備える。オーバーサンプリングフィルタは、ファームウェアを実行可能なプロセッサを含み、演算アルゴリズムがプログラム可能に構成される。
【0009】
ファームウェア(ソフトウェア)を書き換えることにより、デジタルフィルタの演算アルゴリズムを変更でき、セットの設計者が希望する音質に近づけることが可能となる。
【0010】
オーバーサンプリングフィルタの係数群が、複数、ロード可能に構成され、レジスタ設定に応じて、使用する係数群が選択可能であってもよい。
【0011】
係数群は、暗号化された状態でロードされてもよい。オーディオ信号処理回路は、暗号化された係数群を復号するデコーダをさらに備えてもよい。セットの設計者にとって、係数群はノウハウが詰まった機密情報であるところ、それを暗号化することで、悪意の第三者が覗き見することができなくなる。
【0012】
本開示の別の態様もまた、オーディオ信号処理回路である。このオーディオ信号処理回路は、デジタルオーディオ信号をオーバーサンプリングするオーバーサンプリングフィルタと、オーバーサンプリングフィルタの係数群を暗号化した状態で受信するインタフェース回路と、インタフェース回路が受信した係数群を復号し、オーバーサンプリングフィルタにセットするデコーダと、を備える。
【0013】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0014】
本開示に係るオーディオ信号処理回路によれば、セットの設計者に対して、音質を決定について、より多くの自由度を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】オーバーサンプリング処理を説明する図である。
図2】実施の形態に係るオーディオ信号処理回路のブロック図である。
図3】変形例に係るオーディオ信号処理回路のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、好適な実施の形態について図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0017】
本明細書において、「部材Aが、部材Bに接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合や、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0018】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0019】
図2は、実施の形態に係るオーディオ信号処理回路100のブロック図である。オーディオ信号処理回路100は、主として、オーバーサンプリングフィルタ110、ΔΣ変調器120、D/Aコンバータ130を備え、ひとつの半導体基板に集積化された機能ICである。オーディオ信号処理回路100は、たとえばDACチップであってもよいし、より高度なDSP(Digital Signal Processor)であってもよい。
【0020】
オーバーサンプリングフィルタ110は、デジタルオーディオ信号Sをオーバーサンプリングする。ΔΣ変調器120は、オーバーサンプリングフィルタ110の出力SをΔΣ変調する。D/Aコンバータ130は、ΔΣ変調器120の出力Sをアナログオーディオ信号Sに変換する。
【0021】
オーバーサンプリングフィルタ110は、プロセッサ112およびメモリ114を備える。プロセッサ112は、メモリ114に格納されるファームウェア(ソフトウェアプログラム)を実行可能に構成される。ファームウェアには、オーバーサンプリングフィルタ110の機能を実現するための処理が記述されている。すなわち、オーバーサンプリングフィルタ110における演算アルゴリズムはプログラム可能となっている。ファームウェアを保存するROM(Read Only Memory)は、オーディオ信号処理回路100に内蔵されてもよいし、外付けされてもよいし、あるいは外部のホストプロセッサ(マイクロコントローラ)を経由して、ROMからロードするようにしてもよい。
【0022】
以上がオーディオ信号処理回路100の構成である。このオーディオ信号処理回路100によれば、ファームウェア(ソフトウェア)を書き換えることにより、デジタルフィルタの演算アルゴリズムを変更でき、セットの設計者が希望する音質に近づけることが可能となる。
【0023】
デジタルフィルタの重要なパラメータとして、フィルタの係数群COEFFがある。デジタルフィルタはFIRフィルタであり、係数群COEFFは、インパルス応答の波形と把握される。一実施例において、オーディオ信号処理回路100は、フィルタの係数群が、外部からロード可能に構成される。なお、ファームウェアは、フィルタの係数群COEFFのデフォルト値を含んでもよく、デフォルト値と、ロードした値を選択的に使用できるようにしてもよい。
【0024】
オーディオ信号処理回路100は、IC(Inter IC)などのインタフェース回路140およびメモリ150をさらに備える。インタフェース回路140は、外部のホストプロセッサ200と接続されており、ホストプロセッサ200から、係数群COEFFを受信し、メモリ150に格納する。メモリ150は、レジスタであってもよいし、タップ数が多い場合には、RAM(Random Access Memory)であってもよい。これにより演算アルゴリズムに加えて、係数群COEFFを変更することが可能となり、より自由度の高い音質決定が可能となる。
【0025】
オーディオ信号処理回路100は、複数の係数群COEFF~COEFF(N≧2)をロード可能である。たとえばオーディオ信号処理回路100の起動時に、ホストプロセッサ200からオーディオ信号処理回路100に、複数の係数群COEFF~COEFFをロードし、メモリ150に格納する。ホストプロセッサ200は、実際に使用する係数群COIFF(1≦i≦N)を指定する選択データSELを、インタフェース回路140に送信し、メモリ150に書き込む。オーバーサンプリングフィルタ110には、複数の係数群COEFF~COEFFのうち、メモリ150に書き込まれた選択データSELに応じたひとつがセットされる。
【0026】
係数群が1つのみロード可能である場合、係数群を変更する際に、係数群を新たにロードし直す必要があるため、遅延が大きくなる。これに対して、図2のオーディオ信号処理回路100では、選択信号SELの送信のみで、係数を切り替えることが可能となり、応答性が高まる。
【0027】
図3は、変形例に係るオーディオ信号処理回路100Aのブロック図である。オーディオ信号処理回路100Aは、デコーダ160をさらに備える。
【0028】
係数群COEFFは、セットの設計者にとって、ノウハウが詰まった機密情報である。係数群COEFFをロード可能とした場合、悪意の第三者がオーディオ信号処理回路100とホストプロセッサ200の間の通信を盗み見ることにより、係数COEFFが漏洩するおそれがある。
【0029】
ホストプロセッサ200からインタフェース回路140には、係数群COEFFが暗号化された状態で送信される。オーディオ信号処理回路100Aは、暗号化された係数群COEFFを復号するデコーダ160を備える。オーバーサンプリングフィルタ110のデジタルフィルタには、復号された係数群COEFFがセットされる。
【0030】
この変形例によれば、ホストプロセッサ200とインタフェース回路140の間の通信を盗み見たとしても、暗号化のプロトコルあるいは秘密鍵が漏れない限りは、係数群COEFFの漏洩を防止できる。
【0031】
実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本開示は、オーディオ信号処理回路に関する。
【符号の説明】
【0033】
100 オーディオ信号処理回路
110 オーバーサンプリングフィルタ
112 プロセッサ
114 メモリ
120 ΔΣ変調器
130 D/Aコンバータ
140 インタフェース回路
150 メモリ
160 デコーダ
200 ホストプロセッサ
図1
図2
図3