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特許7546015発現強化座位の使用に基づく抗体を作製するための組成物および方法
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  • 特許-発現強化座位の使用に基づく抗体を作製するための組成物および方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】発現強化座位の使用に基づく抗体を作製するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20240829BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240829BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20240829BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20240829BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20240829BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N15/13 ZNA
C12N15/85 Z
C07K16/46
C12P21/08
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2022137796
(22)【出願日】2022-08-31
(62)【分割の表示】P 2018552822の分割
【原出願日】2017-04-20
(65)【公開番号】P2022164824
(43)【公開日】2022-10-27
【審査請求日】2022-08-31
(31)【優先権主張番号】62/325,385
(32)【優先日】2016-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ロバート バブ
(72)【発明者】
【氏名】ダリャ ブラコフ
(72)【発明者】
【氏名】ガン チェン
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ ピー. ファンデル
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-507525(JP,A)
【文献】特表2012-531439(JP,A)
【文献】特表2009-539349(JP,A)
【文献】国際公開第2008/151219(WO,A1)
【文献】Biotechnol. Prog.,2015年,Vol.31, No.6,pp.1645-1656
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C12N 5/00
C12P 21/00
C07K 16/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発現強化座位内で統合された外因性核酸備えた哺乳類細胞であって、
前記発現強化座位が、配列番号2または配列番号3と少なくとも90%同一のヌクレオチド配列を含み、
前記外因性核酸二特異性抗体またはその抗原結合断片をコードしており、
前記外因性核酸、第一の軽鎖断片(LCF)をコードするヌクレオチド配列を備える第一の外因性核酸第一の重鎖断片(HCF)をコードするヌクレオチド配列を備える第二の外因性核酸および第二のHCFをコードするヌクレオチド配列を備える第三の外因性核酸備え、
前記二特異性抗体またはその抗原結合断片が、前記第一のHCF、前記第二のHCFおよび前記第一のLCFを備える、前記哺乳類細胞。
【請求項2】
前記第一のHCFをコードする前記ヌクレオチド配列は、第一のCH2ドメインおよび第一のCH3ドメインをコードし、前記第二のHCFをコードする前記ヌクレオチド配列は、第二のCH2ドメインおよび第二のCH3ドメインをコードする、請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
前記第一および第二のCH3ドメインが、少なくとも1つのアミノ酸位置で異なっている、請求項2に記載の細胞。
【請求項4】
前記第一および第二のCH3ドメインが、ヒトIgGのCH3ドメインであり、前記2つのCH3ドメインのうちの1つが、少なくとも1つのアミノ酸位置で改変され、それにより非改変CH3ドメインとは異なるプロテインA結合特性が生じる、請求項2に記載の細胞。
【請求項5】
前記第一および第二のCH3ドメインをコードする前記ヌクレオチド配列が、前記ヌクレオチド配列のうちの1つがコドン改変されているという点で互いに異なっている、請求項2に記載の細胞。
【請求項6】
前記外因性核酸、第二のLCFをコードするヌクレオチド配列を備える追加の外因性核酸をさらに備える、請求項1に記載の細胞。
【請求項7】
前記第一の外因性核酸は、前記第一のLCFをコードする前記ヌクレオチド配列に動作可能に連結された第一のプロモーターをさらに備え、前記第二の外因性核酸は、前記第一のHCFをコードする前記ヌクレオチド配列に動作可能に連結された第二のプロモーターをさらに備え、第三の外因性核酸は、前記第二のHCFをコードする前記ヌクレオチド配列に動作可能に連結された第三のプロモーターを備え、前記第一、第二、および第三のプロモーターは、同一、または異なるプロモーターである、請求項1に記載の細胞。
【請求項8】
前記第一の外因性核酸は、前記第二および第三の外因性核酸に対し、上流に配置される、請求項1に記載の細胞。
【請求項9】
前記第一の外因性核酸に対し5’に位置付けられた第一のリコンビナーゼ認識部位(RRS)、ならびに前記第二および第三の外因性核酸の両方に対し3’に位置付けられた第二のリコンビナーゼ認識部位(RRS)をさらに備え、前記第一および第二のRRSは異なる、請求項8に記載の細胞。
【請求項10】
前記第一の外因性核酸に対し3’に、ならびに前記第二および第三の外因性核酸の1つ、または両方に対し5’に位置付けられる第三のRRSをさらに備え、前記第三のRRSは、前記第一および第二のRRSとは異なる、請求項8に記載の細胞。
【請求項11】
選択マーカー遺伝子を備える第四の外因性核酸をさらに備える、請求項9に記載の細胞。
【請求項12】
前記第四の外因性核酸が、第三のRRSをさらに備え、前記第一の外因性核酸に対し3’に位置付けられる、請求項11に記載の細胞。
【請求項13】
前記第二の外因性核酸は、前記第一および第三の外因性核酸に対し、上流に配置される、請求項1に記載の細胞。
【請求項14】
前記座位での前記外因性核酸の順序が、5’から3’の方向に、前記第一の外因性核酸、前記第四の外因性核酸、前記第二の外因性核酸、および前記第三の外因性核酸であり、前記第二の外因性核酸は、ヒトIgGの改変型CH3ドメインをコードするヌクレオチド配列を備え、前記第三の外因性核酸は、前記ヒトIgGの天然型CH3ドメインをコードするヌクレオチド配列を備える、請求項11に記載の細胞。
【請求項15】
前記座位での前記外因性核酸の順序が、5’から3’の方向に、前記第一の外因性核酸、前記第二の外因性核酸、前記第四の外因性核酸、および前記第三の外因性核酸であり、前記第二の外因性核酸は、ヒトIgGの前記天然型CH3ドメインをコードするヌクレオチド配列を備え、前記第三の外因性核酸は、前記ヒトIgGの改変型CH3ドメインをコードするヌクレオチド配列を備える、請求項12に記載の細胞。
【請求項16】
前記第一、第二、および第三のプロモーターが同一のプロモーターであり、前記選択マーカー遺伝子が動作可能に連結される前記プロモーターとは異なる、請求項14または15に記載の細胞。
【請求項17】
前記二特異性抗体は、T細胞抗原および腫瘍細胞抗原に特異的に結合する、請求項1に記載の細胞。
【請求項18】
前記強化発現座位は、配列番号2または配列番号3のヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の細胞。
【請求項19】
前記細胞が、CHO細胞である、請求項1~18のいずれかに記載の細胞。
【請求項20】
二特異性抗体またはその抗原結合断片を作製する方法であって、
(i)請求項1~19のいずれか1項に記載の細胞を提供すること、
(ii)前記外因性核酸ら、前記二特異性抗体またはその抗原結合断片を発現させること、および
(iii)前記細胞から、前記二特異性抗体またはその抗原結合断片を取得すること、を含む、方法。
【請求項21】
発現強化座位内で統合された、
第一のRRS、
第一の核酸、
第三のRRSを備えるイントロンを備える選択マーカー遺伝子、
第二の核酸、および
第二のRRS
を、5’から3’の方向に含む哺乳類細胞であって、
前記第一の核酸および前記第二の核酸の一方は、第一のLCFをコードするヌクレオチド配列を備え、前記第一の核酸および前記第二の核酸の他方は第一のHCFをコードするヌクレオチド配列を備え、
前記第一または前記第二の核酸の一方は、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列を備え、
前記第一のHCF、前記第二のHCF、および前記第一のLCFが、抗原結合タンパク質の断片であり、
前記発現強化座位が、配列番号2または配列番号3と少なくとも90%同一のヌクレオチド配列を含む、哺乳類細胞。
【請求項22】
前記第一の核酸が前記第一のLCFをコードするヌクレオチド配列を備え、前記第二の核酸が前記第一のHCFをコードするヌクレオチド配列を備える、請求項21に記載の細胞。
【請求項23】
前記第一の核酸が前記第一のHCFをコードするヌクレオチド配列を備え、前記第二の核酸が前記第一のLCFをコードするヌクレオチド配列を備える、請求項21に記載の細胞。
【請求項24】
前記選択マーカー遺伝子が抗生物質に対する抵抗性を与える、請求項21~23のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項25】
前記抗生物質がハイグロマイシン、ネオマイシンまたはカナマイシンである、請求項24に記載の細胞。
【請求項26】
前記第一のHCF、前記第一のLCFおよび前記第二のHCFのそれぞれが可変ドメインを備える、請求項21~25のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項27】
前記第一のHCFが、前記第二のHCFの前記可変ドメインとは異なる可変ドメインを備え、前記第一のHCF、前記第二のHCFおよび前記第一のLCFが、二特異性抗体の断片である、請求項26に記載の細胞。
【請求項28】
前記第一および第二の核酸が一緒になって全長抗体をコードする、請求項21~25のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項29】
前記全長抗体が二特異性抗体である、請求項28に記載の細胞。
【請求項30】
前記細胞がCHO細胞である、請求項21~29のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項31】
抗原結合タンパク質を産生する方法であって、
請求項21~30のいずれか1項に記載の哺乳類細胞を培養すること;および
前記細胞からそれぞれ、請求項21~30のいずれか1項に記載の前記抗原結合タンパク質を産生させること
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年4月20日に出願された米国仮特許出願第62/325,385号の優先権の利益を主張するものであり、当該仮特許出願の全内容が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、真核細胞における組み換えタンパク質の部位特異的統合および発現に関するものである。特に本開示は、発現強化部位を利用することによる、真核細胞、特にチャイニーズハムスター(Cricetulus griseus)の細胞株における、たとえば二特異性抗体などの抗原結合タンパク質の発現改善のための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
細胞発現システムは、研究用途および治療用途を問わず、所与のタンパク質製造のための信頼できる、効率的な供給源を提供することを目的としている。例えば、哺乳類の発現系は組み換え型タンパク質を翻訳後に適切に修飾できる能力があり、それゆえに、治療用タンパク質製造の目的に対し、哺乳類細胞中で組み換え型タンパク質を発現させることは、好ましい方法である。
【0004】
様々な発現系が利用可能な状態であるにもかかわらず、組換え型タンパク質発現のための効率的な遺伝子移入および統合遺伝子の安定性といった課題が未だ存在する。標的導入遺伝子を長期的に発現させるにあたっての懸念事項の1つは、その細胞株の表現型が変化しないよう、細胞遺伝子の破壊を最小限とすることである。
【0005】
安定細胞株を操作して、たとえば多特異性抗体にあるような複合的な抗体鎖などの複合的な遺伝子の発現に適合させることは特に困難である。統合遺伝子の発現レベルに幅広いバリエーションが発生する可能性がある。追加遺伝子の統合は、局所的な遺伝子環境(すなわち位置効果(position effects))が原因でさらに大きな発現バリエーションと不安定性を生じさせる可能性がある。多特異性抗原結合タンパク質作製のための発現システムは多くの場合、特有の多量体形式としてのペア形成が意図された2個以上の異なるイムノグロブリン鎖の発現が必要であり、そしてしばしば、所望されるヘテロ二量体や多量体の組み合わせよりも、ホモ二量体の産生が優勢となってしまう場合がある。したがって、当技術分野には、哺乳類発現システムの改善に対するニーズが存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの態様において、発現強化座位内の特定の部位で統合された外因性核酸を含有する細胞が提供され、当該外因性核酸配列は二特異性抗原結合タンパク質をコードしている。
【0007】
一部の実施形態では、外因性核酸配列は、第一の軽鎖断片(LCF:light chain fragment)をコードするヌクレオチド配列を含有する第一の外因性核酸、第一の重鎖断片(HCF:heavy chain fragment)をコードするヌクレオチド配列を含有する第二の外因性核酸、および第二のHCF(または第二のHCFが第一のHCFとは異なる場合には、HCF*と表される)をコードするヌクレオチド配列を含有する第三の外因性核酸を含み、この場合において当該第一および第二のHCF、ならびに第一のLCFは、二特異性抗原結合タンパク質を形成する。ある実施形態では、第一および第二のHCF、ならびに第一のLCFは、二特異性抗原結合タンパク質の少なくとも2個の可変領域と2個のCH3定常ドメインを含有する。一部の実施形態では、当該2個の可変領域は異なっている。一部の実施形態では、当該2個のCH3領域は異なっている。一部の実施形態では、各外因性核酸配列は、強化発現座位内の特定の部位に同時に統合される。
【0008】
一部の実施形態では、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第一の定常領域由来のアミノ酸をコードし(たとえば、CH1、CH2、ヒンジまたはCH3ドメインの内の1つ以上をコードし)、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第二の定常領域由来のアミノ酸をコードする。第一の定常領域由来のアミノ酸は、第二の定常領域由来のアミノ酸と同一、または異なってもよい。特定の実施形態では、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第一のCH3ドメインをコードし、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第二のCH3ドメインをコードし、この場合において当該第一および第二のCH3ドメインは、同一、または異なってもよい。一部の実施形態では、第一および第二のCH3ドメインは、少なくとも1つのアミノ酸位置で異なっている。たとえば、2つのCH3ドメインの内の1つは、ヒトのIgG CH3ドメインであり、他方は、改変ヒトIgG CH3ドメインであり、それら2つのCH3ドメインは、異なるプロテインA結合特性を有している。他の実施形態では、第一および第二のCH3ドメインをコードするヌクレオチド配列は、そのヌクレオチド配列のうちの1つがコドン改変されているという点で、互いに異なっている。
【0009】
他の特定の実施形態では、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第一の重鎖可変(VH:heavy chain variable)領域をコードし、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第二のVH領域をコードし、この場合において当該第一および第二の重鎖は、同一、または異なるVH領域を有してもよい。別の実施形態では、第一および第二のVHは、同一または異なる定常領域に連結されている。
【0010】
一部の実施形態では、第一のLCFをコードするヌクレオチド配列は、第一の軽鎖可変(VL:light chain variable)領域をコードする。
【0011】
一部の実施形態では、外因性核酸配列は、たとえば第二の軽鎖可変(VL)領域などの第二のLCFをコードするヌクレオチド配列を含む追加の外因性核酸を含有する。一部の実施形態では、第二のVL領域をコードするヌクレオチド配列は、第二の軽鎖定常領域をコードする。
【0012】
複数の外因性核酸の座位での相対的な位置は、変化し得る。一部の実施形態では、LCFをコードする核酸は、HCFをコードする両方の核酸に対し、上流または下流に位置付けられる。
【0013】
一部の実施形態では、HCFまたはLCFをコードする配列の各々は、独立して、転写制御配列に連結される。特定の実施形態では、第一の外因性核酸は、第一のLCFをコードするヌクレオチドに動作可能に連結された第一のプロモーターをさらに含み、第二の外因性核酸は、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列に動作可能に連結された第二のプロモーターをさらに備え、そして第三の外因性核酸は、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列に動作可能に連結された第三のプロモーターを備えており、この場合において当該第一、第二、および第三のプロモーターは、同一であっても、または異なっていてもよく、および/または当該プロモーターは、第四の外因性核酸が動作可能に連結される第四のプロモーターと同一であるか、または異なっている。一部の実施形態では、第一、第二、および第三のプロモーターは、同一である。
【0014】
一部の実施形態では、外因性核酸配列は統合部位でリコンビナーゼ認識部位をさらに含み、当該リコンビナーゼ認識部位はたとえば第一の外因性核酸に対し5’に位置付けられた第一のリコンビナーゼ認識部位(RRS:recombinase recognition site)と、第二および第三の外因性核酸の両方に対し3’に位置付けられた第二のリコンビナーゼ認識部位(RRS)であり、この場合において当該第一および第二のRRSは異なっている。一部の実施形態では、第三のRRSも含まれ、第三のRRSは、第一の外因性核酸に対し3’に、ならびに第二および第三の外因性核酸の1つ、または両方に対し5’に位置付けられ、この場合において第三のRRSは、第一および第二のRRSとは異なっている。
【0015】
一部の実施形態では、外因性核酸配列は、選択マーカー遺伝子を含有する第四の外因性核酸を含んでもよい。特定の実施形態では、第四の外因性核酸は、第一の外因性核酸に対し3’に位置付けられる。ある実施形態では、第四の外因性核酸は、分割遺伝子(split gene)として統合される。他の実施形態では、第四の外因性核酸、すなわち選択マーカーは、第三のRRSの3’に位置付けられ、これは、第四の外因性核酸に動作可能に連結される第四のプロモーターの3’である。一部の実施形態では、選択マーカー遺伝子は、挿入される第三のRRSを備えており、当該第三のRRSは任意で、選択マーカー遺伝子のイントロン内に挿入され、この場合において当該第三のRRSは、第一および第二のRRSとは異なっている。
【0016】
ある実施形態では、座位での外因性核酸の順序は以下であってもよい:5’から3’の方向に、第一の外因性核酸(LCFをコードする)、第四の外因性核酸(選択マーカーをコードする)、第二の外因性核酸(第一のHCFをコードする)、そして第三の外因性核酸(第二のHCFをコードする)。一部の特定の実施形態では。第二の外因性核酸は、ヒトIgGの改変型CH3ドメインをコードするヌクレオチド配列を含有し、第三の外因性核酸は、ヒトIgGの天然型CH3ドメインをコードするヌクレオチド配列を備えている。
【0017】
ある実施形態では、座位での外因性核酸の順序は以下である:5’から3’の方向に、第一の外因性核酸(LCFをコードする)、第二の外因性核酸(第一のHCFをコードする)、第四の外因性核酸(選択マーカーをコードする)、そして第三の外因性核酸(第二のHCFをコードする)。この場合において第二の外因性核酸は、ヒトIgGの天然型CH3ドメインをコードするヌクレオチド配列を備え、第三の外因性核酸は、ヒトIgGの改変型CH3ドメインをコードするヌクレオチド配列を備えている。
【0018】
一部の実施形態では、HCFまたはLCFをコードする配列に連結されるプロモーターは同一であり、選択マーカー遺伝子が動作可能に連結されるプロモーターとは異なっている。
【0019】
一部の実施形態では、二特異定抗原結合タンパク質は、T細胞抗原および腫瘍細胞抗原に特異的に結合する。その他の適した二重抗原特異性も提供される。
【0020】
一部の実施形態では、強化発現座位は、配列番号1に対し少なくとも90%同一なヌクレオチド配列を備えた座位、または配列番号2に対し少なくとも90%同一なヌクレオチド配列を備えた座位から選択される。
【0021】
様々な実施形態では、細胞は、CHO細胞である。
【0022】
別の態様では、複数の外因性核酸の部位特異的統合用に設計されたベクターが提供される。
【0023】
一部の実施形態では、本開示はベクターセットを提供するものであり、当該セットは、5’から3’に向かって、第一のRRS、第一のLCFをコードするヌクレオチド配列を含有する第一の核酸、および第三のRRSを含有する第一のベクター;5’から3’に向かって、第三のRRS、第一のVH領域をコードするヌクレオチド配列を含有する第二の核酸、および第二のRRSを含有する第二のベクターを含む。この場合において、第一または第二の核酸のいずれかは、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列をさらに備え、およびこの場合において第一および第二のHCF、ならびに第一のLCFは、二特異定抗原結合タンパク質を形成する。
【0024】
一部の実施形態では、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第一の核酸中に含有され、第一のLCFをコードするヌクレオチド配列の下流に任意で位置付けられる。他の実施形態では、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第二の核酸中に含有される。
【0025】
一部の実施形態では、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第一のキメラ定常領域をコードし(たとえば、任意のアイソタイプ由来のCH1、ヒンジ、CH2もしくはCH3ドメイン、またはそれらの断片の内の1つ以上をコードし)、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第二のキメラ定常領域をコードする。キメラ定常領域の例は、2014年8月7日に公開されたPCT国際出願公開WO2014/121087A1に記載され、当該出願は参照により本明細書に援用される。第一の定常領域由来のアミノ酸は、第二のキメラ定常領域由来のアミノ酸と同一であっても、異なっていてもよい。特定の実施形態では、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第一のCH3ドメインをコードし、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第二のCH3ドメインをコードし、この場合において当該第一および第二のCH3ドメインは、同一、または異なってもよい。一部の実施形態では、第一および第二のCH3ドメインは、少なくとも1つのアミノ酸位置で異なっている。たとえば、2つのCH3ドメインの内の1つは、ヒトのIgG CH3ドメインであり、他方は、改変ヒトIgG CH3ドメインであり、それら2つのCH3ドメインは、異なるプロテインA結合特性を有している。他の実施形態では、第一および第二のCH3ドメインをコードするヌクレオチド配列は、そのヌクレオチド配列のうちの1つがコドン改変されているという点で、互いに異なっている。
【0026】
他の特定の実施形態では、第一のVH領域をコードするヌクレオチド配列は、第一の重鎖をコードし、第二のVH領域をコードするヌクレオチド配列は、第二の重鎖をコードし、この場合において当該第一および第二の重鎖は、同一または異なる定常領域を有してもよい。
【0027】
一部の実施形態では、第一のLCFをコードするヌクレオチド配列は、第一の軽鎖可変領域(VL)をコードする。
【0028】
一部の実施形態では、LCFまたはHCFをコードする配列の各々は、独立して、たとえばプロモーターなどの転写制御配列に連結される。特定の実施形態では、第一のHCFをコードする配列に連結されたプロモーターと、第二のHCFをコードする配列に連結されたプロモーターは、同一のプロモーターである。特定の実施形態では、LCFおよびHCFに連結されるプロモーターはすべて同一のプロモーターである。
【0029】
一部の実施形態では、第一のベクター中の第一の核酸は、第一のベクター中の第三のRRSに対し5’に位置付けられる、選択マーカー遺伝子の5’部分をさらに含む。第二の核酸は、第二のベクター中の第三のRRSに対し3’に位置付けられる、選択マーカー遺伝子の残りの3’部分をさらに含む。すなわち、選択マーカー遺伝子は、2つのベクターに分割される。他の実施形態では、選択マーカーと、選択マーカーが動作可能に連結されるプロモーターは、2つのベクターの間で分割される。言い換えると、プロモーターと選択マーカー遺伝子は、異なるベクター上に配置される。ある実施形態では、マーカー遺伝子に動作可能に連結されるプロモーターは、第一のベクター中、第三のRRSに対し5’に配置され、マーカー遺伝子は、第二のベクター中、第三のRRSの3’に位置付けられ、ならびに第二の核酸に動作可能に連結される第二のプロモーター、および第三の核酸に動作可能に連結される第三のプロモーターの5’に位置付けられる。一部の実施形態では、第一のベクター中の第三のRRSは、選択マーカー遺伝子のイントロンの5’部分内に存在する。第二のベクター中の第三のRRSは、選択マーカー遺伝子のイントロンの3’部分内に存在する。
【0030】
特定の実施形態では、第一のベクターは、5’から3’の方向に、第一のRRS、第一の核酸、および第三のRRSを含む。第二のベクターは、5’から3’の方向に、第三のRRS、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列と第二のHCFをコードするヌクレオチド配列を含有する第二の核酸、および第二のRRSを含む。他の特定の実施形態では、第一のベクターは、5’から3’の方向に、第一のRRS、第一の核酸、および第三のRRSを備え、当該第一の核酸は、第一のHCF領域をコードするヌクレオチド配列と第二のHCF領域をコードするヌクレオチド配列を備える。第二のベクターは、5’から3’の方向に、第三のRRS、第二の核酸、および第二のRRSを含み、当該第二の核酸は、第一のHCF領域をコードするヌクレオチド配列を備える。これら特定の実施形態のいずれかにおいて、第一の核酸は、第一のベクター中の第三のRRSに対し5’に位置付けられる、選択マーカー遺伝子の5’部分をさらに含んでもよい。そして第二の核酸は、第二のベクター中の第三のRRSに対し3’に位置付けられる、選択マーカー遺伝子の残りの3’部分をさらに備える。この場合において、任意で、第一のベクター中の第三のRRSは、選択マーカー遺伝子のイントロンの5’部分内に存在し、第二のベクター中の第三のRRSは、選択マーカー遺伝子のイントロンの3’部分内に存在する。
【0031】
一部の実施形態では、ベクターセットは、追加のベクターを含んでもよい。追加のベクターは、たとえば、1つ以上のRRSと第二のLCFをコードするヌクレオチド配列を含有するベクター、またはRRSを認識する1つ以上のリコンビナーゼをコードするベクターなどである。
【0032】
他の実施形態では、本開示は、相同アームに基づく相同組み換えを介した、複数の外因性核酸の部位特異的統合を達成するために設計されたベクターを提供する。一部の実施形態では、ベクターは、二特異性抗原結合タンパク質をコードし、細胞の発現強化座位内への統合用の5’相同アームと3’相同アームに隣接される外因性核酸配列を含有する。
【0033】
さらなる態様において、本開示は、細胞と1つ以上のベクターの組み合わせを含み、発現強化座位内に外因性核酸が統合された細胞の作製に利用可能なシステムを提供するものであり、当該外因性核酸はともに二特異性抗原結合タンパク質をコードする。
【0034】
ある実施形態では、細胞とベクターセットを含むシステムが提供され、この場合において当該細胞は、そのゲノムの発現強化座位内に統合されたRRSセットを含有し、当該RRSは互いに異なっており、およびベクターセット中の対象遺伝子との組み換え交換のための1つ以上の外因性核酸、たとえば選択マーカーなどの間で分けられている。ならびにこの場合において当該ベクターセット中のRRSは、細胞中のRRSと同じ配置を備えている。
【0035】
一部の実施形態では、細胞とベクターセットを含むシステムが提供され、この場合において当該細胞は、5’から3’の方向に、そのゲノムの発現強化座位内に統合された以下を含有する:第一のRRS、第一の外因性核酸、第二のRRS、第二の外因性核酸、および第三のRRS。この場合においてその3つのRRSは互いに異なっている。この場合においてベクターセットは、5’から3’の方向に第一のRRS、第一のイムノグロブリン鎖またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含有する第一の核酸、そして第二のRRSを含有する第一のベクターと、第二のRRS、第二のイムノグロブリン鎖またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含有する第二の核酸、そして第三のRRSを含有する第二のベクターを含み、この場合において第一の核酸または第二の核酸のいずれかは第三のイムノグロブリン鎖又はその断片をコードするヌクレオチド配列をさらに含む。ベクターが細胞内に導入されると、ベクター中の第一および第二の核酸が、第一、第二および第三のRRSにより介在される組み換えを介して発現強化座位内に統合する。
【0036】
一部の実施形態では、細胞中の第一の外因性核酸は、第一の選択マーカー遺伝子を含有し、細胞中の第二の外因性核酸は、第二の選択マーカー遺伝子を含有し、この場合において当該第一および第二の選択マーカー遺伝子は異なっている。選択マーカーは、細胞において統合される外因性核酸を交換する。
【0037】
一部の実施形態では、第一のベクターは、5’から3’の方向に、第一のRRS、第一のLCFをコードするヌクレオチド配列を含有する第一の核酸、および第三のRRSを含有する。第二のベクターは、5’から3’の方向に、第三のRRS、第二の核酸、および第二のRRSを含有し、この場合において当該第二の核酸は第一のHCFをコードするヌクレオチド配列と第二のHCをコードするヌクレオチド配列の両方を含有する。他の実施形態では、第一のベクターは、5’から3’の方向に、第一のRRS、第一のLCFをコードするヌクレオチド配列と第二のHCFをコードするヌクレオチド配列を含有する第一の核酸、および第三のRRSを含有する。第二のベクターは、5’から3’の方向に、第三のRRS、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列を含有する第二の核酸、および第二のRRSを含有する。
【0038】
一部の実施形態では、第一のベクターは、5’から3’の方向に、第一のRRS、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列を含有する第一の核酸、および第三のRRSを含む。第二のベクターは、5’から3’の方向に、第三のRRS、第二の核酸、および第二のRRSを含有し、この場合において第二の核酸は第一のLCFをコードするヌクレオチド配列と第二のHCFをコードするヌクレオチド配列の両方を含有する。他の実施形態では、第一のベクターは、5’から3’の方向に、第一のRRS、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列と第二のHCFをコードするヌクレオチド配列を含有する第一の核酸、および第三のRRSを含有する。第二のベクターは、5’から3’の方向に、第三のRRS、第一のLCFをコードするヌクレオチド配列を含有する第二の核酸、および第二のRRSを含有する。これらの実施形態のいずれかでは、第一のベクター中の第一の核酸は、第三のRRSに対し5’に位置付けられたプロモーターをさらに含んでもよく、第二のベクター中の第二の核酸は、プロモーターが動作可能に連結され、第三のRRSに対し3’に位置付けられる選択マーカー遺伝子をさらに含む。他の実施形態では、第一のベクター中の第一の核酸は、第三のRRSに対し5’に位置付けられる、選択マーカー遺伝子の5’部分をさらに含んでもよい。そして第二のベクター中の第二の核酸は、第三のRRSに対し3’に位置付けられる、選択マーカー遺伝子の残りの3’部分をさらに含む。この場合において、任意で、第一のベクター中の第三のRRSは、選択マーカー遺伝子のイントロンの5’部分内に存在し、第二のベクター中の第三のRRSは、選択マーカー遺伝子のイントロンの3’部分内に存在する。
【0039】
一部の実施形態では、LCFをコードするヌクレオチド配列は、第一のプロモーターに動作可能に連結され、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第二のプロモーターに動作可能に連結され、そして第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第三のプロモーターに動作可能に連結される。この場合において第一、第二、および第三のプロモーターは同一のプロモーターであり、選択マーカー遺伝子がベクターの内の1つに存在する場合、選択マーカー遺伝子が動作可能に連結されるプロモーターとは異なっている。
【0040】
一部の実施形態では、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第一のCH3ドメインをコードし、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第二のCH3ドメインをコードし、この場合において当該第一および第二のCH3ドメインは、同一であっても、異なっていてもよい。一部の実施形態では、その2つのCH3ドメインの内の1つは、ヒトIgGの天然型CH3ドメインであり、他方のCH3ドメインは、ヒトIgGの改変型CH3ドメインである。特定の実施形態では、改変型CH3ドメインをコードするヌクレオチド配列は、第一のベクター(すなわち第一のLCFをコードするベクター)中にあり、任意で、第一のLCFをコードするヌクレオチド配列の下流にある。他の特定の実施形態では、改変型CH3ドメインをコードするヌクレオチド配列は、第二のベクター中にあり、非改変型CH3ドメインをコードするヌクレオチド配列の上流にある。
【0041】
他の態様では、本開示は、二特異性抗原結合タンパク質の作製方法を提供する。
【0042】
一部の実施形態では、当該方法は、RRSを有する細胞と、複数の外因性核酸を含有するベクターセットを含有する、本明細書に記載されるシステムを提供すること、トランスフェクションにより細胞内にベクターを導入すること、RRSにより介在される組み換えを介してベクター中の外因性核酸が発現強化座位内に統合されたトランスフェクト細胞を選択すること、形質転換細胞中の核酸によりコードされるポリペプチドを発現させること、およびトランスフェクト細胞から二特異性抗原結合タンパク質を取得すること、を含み、この場合において当該複数の外因性核酸はともに二特異性抗原結合タンパク質と、細胞中のRRSと合致するRRSをコードする。
【0043】
一部の実施形態では、当該方法は、発現強化座位内に統合された二特異性抗原結合タンパク質をコードする外因性核酸配列を含有する細胞、当該外因性核酸から二特異性抗原結合タンパク質を発現させること、および細胞から二特異性抗原結合タンパク質を取得することを含んでもよい。
特定の実施形態では、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
発現強化座位内の特定の部位で統合される外因性核酸を備えた細胞であって、前記外因性核酸配列は二特異性抗原結合タンパク質をコードしている、前記細胞。
(項目2)
前記外因性核酸配列は、第一のLCFをコードするヌクレオチド配列を備えた第一の外因性核酸、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列を備えた第二の外因性核酸、および第二のHCFをコードするヌクレオチド配列を備えた第三の外因性核酸を備える、項目1に記載の細胞。
(項目3)
前記第一のHCFをコードする前記ヌクレオチド配列は、第一のCH2ドメインおよび第一のCH3ドメインをコードし、前記第二のHCFをコードする前記ヌクレオチド配列は、第二のCH2ドメインおよび第二のCH3ドメインをコードする、項目2に記載の細胞。
(項目4)
前記第一および第二のCH3ドメインが、少なくとも1つのアミノ酸位置で異なっている、項目3に記載の細胞。
(項目5)
前記第一および第二のCH3ドメインが、ヒトIgGのCH3ドメインであり、前記2つのCH3ドメインの内の1つが、少なくとも1つのアミノ酸位置で改変され、それにより非改変CH3ドメインとは異なるプロテインA結合特性が生じる、項目3に記載の細胞。
(項目6)
前記第一および第二のCHドメインをコードする前記ヌクレオチド配列が、前記ヌクレオチド配列のうちの1つがコドン改変されているという点で互いに異なっている、項目3に記載の細胞。
(項目7)
前記第一のHCFをコードする前記ヌクレオチド配列は、第一のVHをコードし、前記第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第二のVHをコードする、項目2に記載の細胞。
(項目8)
前記第一のLCFをコードする前記ヌクレオチド配列は、第一のVLをコードする、項目2に記載の細胞。
(項目9)
前記外因性核酸配列が、第二のLCFをコードするヌクレオチド配列を備える追加の外因性核酸をさらに備える、項目1に記載の細胞。
(項目10)
前記第二のLCFをコードする前記ヌクレオチド配列は、第二のVLをコードする、項目9に記載の細胞。
(項目11)
前記第一の外因性核酸は、第一のLCFをコードする前記ヌクレオチド配列に動作可能に連結された第一のプロモーターをさらに備え、前記第二の外因性核酸は、第一のHCFをコードする前記ヌクレオチド配列に動作可能に連結された第二のプロモーターをさらに備え、第三の外因性核酸は、第二のHCFをコードする前記ヌクレオチド配列に動作可能に連結された第三のプロモーターを備え、前記第一、第二、および第三のプロモーターは、同一、または異なるプロモーターである、項目2に記載の細胞。
(項目12)
前記第一の外因性核酸は、前記第二および第三の外因性核酸に対し、上流に配置される、項目2に記載の細胞。
(項目13)
前記第一の外因性核酸に対し5’に位置付けられた第一のリコンビナーゼ認識部位(RRS)、ならびに前記第二および第三の外因性核酸の両方に対し3’に位置付けられた第二のリコンビナーゼ認識部位(RRS)をさらに備え、前記第一および第二のRRSは異なる、項目12に記載の細胞。
(項目14)
前記第一の外因性核酸に対し3’に、ならびに前記第二および第三の外因性核酸の1つ、または両方に対し5’に位置付けられる第三のRRSをさらに備え、前記第三のRRSは、前記第一および第二のRRSとは異なる、項目12に記載の細胞。
(項目15)
選択マーカー遺伝子を備える第四の外因性核酸をさらに備える、項目13に記載の細胞。
(項目16)
前記第四の外因性核酸が、第三のRRSをさらに備え、前記第一の外因性核酸に対し3’に位置付けられる、項目15に記載の細胞。
(項目17)
前記第二の外因性核酸は、前記第一および第三の外因性核酸に対し、上流に配置される、項目2に記載の細胞。
(項目18)
前記座位での前記外因性核酸の順序が、5’から3’の方向に、前記第一の外因性核酸、前記第四の外因性核酸、前記第二の外因性核酸、および前記第三の外因性核酸であり、前記第二の外因性核酸は、ヒトIgGの改変型CH3ドメインをコードするヌクレオチド配列を備え、前記第三の外因性核酸は、前記ヒトIgGの天然型CH3ドメインをコードするヌクレオチド配列を備える、項目16に記載の細胞。
(項目19)
前記座位での前記外因性核酸の順序が、5’から3’の方向に、前記第一の外因性核酸、前記第二の外因性核酸、前記第四の外因性核酸、および前記第三の外因性核酸であり、前記第二の外因性核酸は、ヒトIgGの前記天然型CH3ドメインをコードするヌクレオチド配列を備え、前記第三の外因性核酸は、前記ヒトIgGの改変型CH3ドメインをコードするヌクレオチド配列を備える、項目16に記載の細胞。
(項目20)
前記第一、第二、および第三のプロモーターが同一のプロモーターであり、前記選択マーカー遺伝子が動作可能に連結される前記プロモーターとは異なる、項目18または19に記載の細胞。
(項目21)
前記二特異性抗原結合タンパク質は、T細胞抗原および腫瘍細胞抗原に特異的に結合する、項目1に記載の細胞。
(項目22)
前記強化発現座位は、配列番号1に対し少なくとも90%同一なヌクレオチド配列を備えた座位、および配列番号2に対し少なくとも90%同一なヌクレオチド配列を備えた座位からなる群から選択される、項目1に記載の細胞。
(項目23)
前記細胞が、CHO細胞である、項目1~22のいずれかに記載の細胞。
(項目24)
5’から3’の方向に、第一のRRS、第一のLCFをコードするヌクレオチド配列を備えた第一の核酸、および第三のRRSを備えた第一のベクター、
5’から3’の方向に、前記第三のRRS、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列を備えた第二の核酸、および第二のRRSを備えた第二のベクター、を備えたベクターセットであって、
前記第一または前記第二の核酸は、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列をさらに備え、ならびに、
前記第一および第二のHCF、ならびに前記第一のLCFが、二特異性抗原結合タンパク質をコードする、ベクターセット。
(項目25)
前記第二のHCFをコードする前記ヌクレオチド配列が、前記第一の核酸中に含まれる、項目24に記載のベクターセット。
(項目26)
前記第二のHCFをコードする前記ヌクレオチド配列は、前記第一のLCFをコードする前記ヌクレオチド配列の上流または下流に配置される、項目25に記載のベクターセット。
(項目27)
前記第二のHCFをコードする前記ヌクレオチド配列が、前記第二の核酸中に含まれる、項目24に記載のベクターセット。
(項目28)
前記第一のHCFをコードする前記ヌクレオチド配列は、第一のCH3ドメインをコードし、前記第二のHCFをコードする前記ヌクレオチド配列は、前記第二のCH3ドメインをコードする、項目24に記載のベクターセット。
(項目29)
前記第一および第二のCH3ドメインが、少なくとも1つのアミノ酸位置で異なっている、項目28に記載のベクターセット。
(項目30)
前記第一および第二のCH3ドメインが、ヒトIgGのCH3ドメインであり、前記2つのCH3ドメインの内の1つが、少なくとも1つのアミノ酸位置で改変され、それにより前記非改変CH3ドメインとは異なるプロテインA結合特性が生じる、項目28に記載のベクターセット。
(項目31)
前記第一および第二のCHドメインをコードする前記ヌクレオチド配列が、前記ヌクレオチド配列のうちの1つがコドン改変されているという点で互いに異なっている、項目28に記載のベクターセット。
(項目32)
前記第一のHCFをコードする前記ヌクレオチド配列は、第一のVHをコードし、前記第二のHCFをコードする前記ヌクレオチド配列は、第二の重鎖VHをコードする、項目24に記載のベクターセット。
(項目33)
前記第一のLCFをコードする前記ヌクレオチド配列は、第一のVLをコードする、項目24に記載のベクターセット。
(項目34)
第一の軽鎖LCFをコードする前記ヌクレオチド配列は、第一のプロモーターに動作可能に連結され、第一のHCFをコードする前記ヌクレオチド配列は、第二のプロモーターに動作可能に連結され、第二のHCFをコードする前記ヌクレオチド配列は、第三のプロモーターに動作可能に連結される、項目24に記載のベクターセット。
(項目35)
前記第一、第二、および第三のプロモーターは、同一または異なるプロモーターである、項目34に記載のベクターセット。
(項目36)
前記第一の核酸は、前記第一のベクター中の前記第三のRRSに対し5’に位置付けられる第二のプロモーターをさらに備え、前記第二の核酸は、前記第二のベクター中の前記第三のRRSに対し3’に位置付けられる前記選択マーカー遺伝子をさらに備える、項目24に記載のベクターセット。
(項目37)
前記第一の核酸は、選択マーカー遺伝子の5’部分に対し5’に位置付けられる、前記第一のベクター中の第二のプロモーターをさらに備え、前記第二のベクター中の前記選択マーカーの3’部分は、前記選択マーカー遺伝子の前記5’部分の相同アームに対し3’に存在する、項目24に記載のベクターセット。
(項目38)
前記第一のベクターが、5’から3’の方向に、前記第一のRRS、前記第一の核酸、および前記第三のRRSを備え、
前記第二のベクターが、5’から3’の方向に、前記第三のRRS、前記第二の核酸を備え、前記第二の核酸は、第一の重鎖またはその断片をコードする前記ヌクレオチド配列、および第二の重鎖またはその断片をコードする前記ヌクレオチド配列を備える、項目24に記載のベクターセット。
(項目39)
前記第一のベクターが、5’から3’の方向に、前記第一のRRS、前記第一の核酸であって、第一のLCFをコードする前記ヌクレオチド配列と第二のHCFをコードする前記ヌクレオチド配列を備える第一の核酸、および前記第三のRRSを備え、
前記第二のベクターが、5’から3’の方向に、前記第三のRRS、前記第二の核酸を備え、前記第二の核酸は、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列を備える、項目24に記載のベクターセット。
(項目40)
前記第一の核酸は、前記第一のベクター中の前記第三のRRSに対し5’に位置付けられる、選択マーカー遺伝子の5’部分をさらに備え、前記第二の核酸は、前記第二のベクター中の前記第三のRRSに対し3’に位置付けられる、前記選択マーカー遺伝子の残りの3’部分をさらに備え、任意で、前記第一のベクター中の前記第三のRRSは、前記選択マーカー遺伝子のイントロンの5’部分内に存在し、前記第二のベクター中の前記第三のRRSは、前記選択マーカー遺伝子のイントロンの3’部分内に存在する、項目38または39に記載のベクターセット。
(項目41)
1つ以上のRRS、および第二のLCFをコードするヌクレオチドを備える第三のベクターをさらに備える、項目24に記載のベクターセット。
(項目42)
前記RRSを認識するリコンビナーゼを1つ以上コードする第三のベクターをさらに備える、項目24に記載のベクターセット。
(項目43)
二特異性抗原結合タンパク質をコードし、細胞の発現強化座位内への統合用の5’相同アームと3’相同アームに隣接される外因性核酸を備えるベクター。
(項目44)
細胞およびベクターセットを備えるシステムであって、
前記細胞は、5’から3’の方向に、そのゲノムの発現強化座位内に統合された、第一のRRS、第一の外因性核酸、第三のRRS、第二の外因性核酸、および第二のRRSを備え、前記3つのRRSは互いに異なり、
前記ベクターセットが、
5’から3’の方向に、前記第一のRRS、第一のLCFをコードするヌクレオチド配列を備えた第一の核酸、および前記第三のRRSを備えた第一ベクターと、
前記第三のRRS、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列を備えた第二の核酸、および前記第二のRRSを備えた第二のベクターと、を備え、
前記第一の核酸または前記第二の核酸のいずれかは、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列をさらに備え、
前記ベクターが前記細胞内に導入されると、前記ベクター中の前記第一および第二の核酸が、前記第一、第二および第三のRRSにより介在される組み換えを介して前記発現強化座位内に統合する、システム。
(項目45)
前記第一の外因性核酸が、第一の選択マーカー遺伝子を備え、前記第二の外因性核酸が、第二の選択マーカー遺伝子を備え、前記第一と第二の選択マーカー遺伝子は異なる、項目44に記載のシステム。
(項目46)
前記第一のベクターが、5’から3’の方向に、前記第一のRRS、前記第一のLCFを備える前記第一の核酸、および前記第三のRRSを備え、および
前記第二のベクターが、5’から3’の方向に、前記第三のRRS、前記第二の核酸であって、前記第一のHCFをコードする前記ヌクレオチド配列、および前記第二のHCFをコードする前記ヌクレオチド配列の両方を備える第二の核酸、および第二のRRSを備える、項目44に記載のシステム。
(項目47)
前記第一のベクターが、5’から3’の方向に、前記第一のRRS、前記第一のLCFをコードする前記ヌクレオチド配列と前記第二のHCFをコードする前記ヌクレオチド配列を備える前記第一の核酸、および前記第三のRRSを備え、
前記第二のベクターが、5’から3’の方向に、前記第三のRRS、前記第一のHCFをコードする前記ヌクレオチド配列を備えた前記第二の核酸、および前記第二のRRSを備える、項目44に記載のシステム。
(項目48)
前記第一のベクター中の前記第一の核酸は、前記第三のRRSに対し5’に位置付けられる、選択マーカー遺伝子の5’部分をさらに備え、前記第二のベクター中の前記第二の核酸は、前記第三のRRSに対し3’に位置付けられる、前記選択マーカー遺伝子の残りの3’部分をさらに備える、項目46または47に記載のシステム。
(項目49)
前記第一のベクター中の前記第三のRRSは、前記選択マーカー遺伝子のイントロンの5’部分内に存在し、前記第二のベクター中の前記第三のRRSは、前記選択マーカー遺伝子のイントロンの3’部分内に存在する、項目48に記載のシステム。
(項目50)
前記LCFをコードする前記ヌクレオチド配列は、第一のプロモーターに動作可能に連結され、前記第一のHCFをコードする前記ヌクレオチド配列は、第二のプロモーターに動作可能に連結され、および前記第二のHCFをコードする前記ヌクレオチド配列は、第三のプロモーターに動作可能に連結され、前記第一、第二、および第三のプロモーターは同一または異なるプロモーターであり、ならびに/または前記プロモーターは、前記選択マーカー遺伝子が動作可能に連結されるプロモーターと同一または異なる、項目48に記載のシステム。
(項目51)
前記第一のHCFをコードする前記ヌクレオチド配列は、第一のCH3ドメインをコードし、前記第二のHCFをコードする前記ヌクレオチド配列は、第二のCH3ドメインをコードする、項目44に記載のシステム。
(項目52)
前記第一および第二のCH3ドメインの内の1つは、ヒトIgGの前記CH3ドメインであり、他方は、少なくとも1つのアミノ酸位置の改変を備える前記ヒトIgGの改変型CH3ドメインである、項目51に記載のシステム。
(項目53)
前記改変型CH3ドメインをコードする前記ヌクレオチド配列は、前記第一のベクター中にある、項目52に記載のシステム。
(項目54)
前記改変型CH3ドメインをコードする前記ヌクレオチド配列は、前記第二のベクター中にあり、前記非改変型CH3ドメインをコードする前記ヌクレオチド配列の上流にある、項目52に記載のシステム。
(項目55)
方法であって、
(i)項目44~54のいずれか1項に記載のシステムを提供すること、
(ii)前記細胞内に、前記ベクターを、トランスフェクションにより同時に導入すること、および、
(iii)前記ベクター中の前記第一および第二の核酸が、前記第一、第二、および第三のRRSにより介在される組み換えを介して前記細胞の前記発現強化座位内に統合されたトランスフェクト細胞を選択すること、を含む、方法。
(項目56)
(iv)前記選択されたトランスフェクト細胞中の前記第一のLCF、前記第一のHCF、および前記第二のHCFを発現させること、および、
(v)前記選択されたトランスフェクト細胞から、前記第一のLCF、前記第一のHCF、および前記第二のHCFを備えた前記二特異性抗原結合タンパク質を取得すること、をさらに含む項目55に記載の方法。
(項目57)
二特異性抗原結合タンパク質を作製する方法であって、
(i)項目1~23のいずれか1項に記載の細胞を提供すること、
(ii)前記外因性核酸配列から、前記二特異性抗原結合タンパク質を発現させること、および
(iii)前記細胞から、前記二特異性抗原結合タンパク質を取得すること、を含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1図1 発現強化座位内への統合を目的とした二特異性クローニング戦略の例。たとえば共通軽鎖などの軽鎖(LC)ベクターと、二重重鎖(HC)ベクター(「*」がある場合、その2つのHCは異なっていることを示しており、たとえばHC*は、CH3ドメイン中に改変を含み、および/またはコドン改変されている)は、対象抗体の可変領域を適切なベクター内にクローニングすることにより作製される。LCベクターの3’RRS部位と、二重HCベクターの5’RRS部位は同一であり、ハイグロマイシン抵抗性遺伝子の分割イントロン中に含まれる。ハイグロマイシン抵抗性遺伝子の分割イントロンは、効率的な組換え体の選択のために、結合し、イントロンを除去して、ハイグロマイシン抵抗性遺伝子にコードされるタンパク質が発現されるように操作されている。矢印はプロモーターを表している。
【0045】
図2図2 発現強化座位内への統合を目的とした二特異性クローニング戦略の例。5’RRS(RRS1)を有するユニバーサル軽鎖(たとえば、WO2013022782に記載されているヒト化ユニバーサル軽鎖(ULC:Universal Light Chain)VelocImmune(登録商標)マウス由来の軽鎖を参照)を利用することで、ユニバーサル軽鎖用の発現カセットを含有する既存のプラスミド内に、第三のRRS(RRS3)に隣接される1つの重鎖(HC*)を挿入することによる新規二特異性抗体の効率的な構築が可能となる。第二の重鎖(HC)は、RRS2部位とRRS3部位を有する第二のプラスミド内にクローニングされる。
【0046】
図3図3 発現強化座位内への統合を目的とした二特異性クローニング戦略の例。二特異性抗体の3つの別個の抗体鎖(AbC1、AbC2、およびAbC3)はまずはじめに個々のベクターにクローニングされる。AbC1ベクターとAbC3ベクターは各々、抗体発現カセットに隣接するRRS部位を有している。AbC2用の発現カセットは、AbC2プラスミドから切り出され、次いで、AbC3発現プラスミド内にサブクローニングされる。それにより、5’から3’の方向に、RRS3部位、AbC2発現カセット、AbC3発現カセット、およびRRS2部位を含有するプラスミドが生じる。このプラスミドが、AbC1プラスミドおよびリコンビナーゼとともに、発現強化座位中にRRS1とRRS2を担持する宿主細胞内に導入される。二特異性抗体発現細胞株は、リコンビナーゼ介在カセット交換の後に単離される。
【0047】
図4図4 発現強化座位内への統合を目的とした二特異性クローニング戦略の例。二特異性抗体の3つの別個の抗体鎖(AbC1、AbC2、およびAbC3)はまずはじめに個々のベクターにクローニングされる。AbC1ベクターとAbC3ベクターは各々、抗体発現カセットに隣接するRRS部位を有している。AbC2用の発現カセットは、AbC2プラスミドから切り出され、次いで、AbC1発現プラスミド内にサブクローニングされる。それにより、5’から3’の方向に、RRS1部位、AbC1発現カセット、AbC2発現カセット、およびRRS3部位を含有するプラスミドが生じる。このプラスミドが、AbC3プラスミドおよびリコンビナーゼとともに、発現強化座位中にRRS1とRRS2を担持する宿主細胞内に導入される。二特異性抗体発現細胞株は、リコンビナーゼ介在カセット交換の後に単離される。
【0048】
図5図5 1つのゲノム部位(EESYR(登録商標))に統合された発現カセットからの二特異性抗体の発現。CHO細胞株のRSX4189-1、RSX4187-1、RSX4191-1、RSX4188-1は、EESYR(登録商標)座位でのリコンビナーゼ介在カセット交換により作製された。EESYR(登録商標)座位での、二特異性Abのこの3つの別個の抗体鎖(AbC1、AbC2、およびAbC3)用の発現カセットの配置を左に示す。4日間の振とうフラスコ培養の馴化培地中の各二特異性抗体の力価は、HPLCにより決定され、右の棒グラフに示されている。
【発明を実施するための形態】
【0049】
用語の定義
「抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、4つのポリペプチド鎖、すなわちジスルフィド結合によって相互結合した2つの重(H)鎖と2つの軽(L)鎖から構成されるイムノグロブリン分子を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本発明においてHCVRまたはVHと省略される)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、CH1、CH2、およびCH3の3つのドメインを含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本発明においてLCVRまたはVLと省略される)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL)を含む。VH領域およびVL領域はさらに、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の領域にさらに細分化することができ、フレームワーク領域(FR)と称されるより保存的な領域に割り込まれている。各VHおよびVLは、3つのCDRおよび4つのFRによって構成され、アミノ末端からカルボキシ末端まで、以下の順序で配列される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4(重鎖CDRは、HCDR1、HCDR2、およびHCDR3として省略されてもよく、軽鎖CDRは、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3として省略されてもよい)。
【0050】
「抗原結合タンパク質」という文言は、少なくとも1つのCDRを有するタンパク質を含み、抗原を選択的に認識することができる。すなわち、少なくともマイクロモル単位のKで抗原に結合することができる。治療用抗原結合タンパク質(たとえば治療用抗体)はしばしば、ナノモルまたはピコモル単位のKを必要とする。典型的には、抗原結合タンパク質は2個以上のCDR、たとえば2個、3個、4個、5個、または6個のCDRを含む。抗原結合タンパク質の例としては、抗体、たとえば抗体の重鎖と軽鎖の可変領域を含有するポリペプチドなどの抗体の抗原結合断片(たとえば、Fab断片(F(ab’)断片)、抗体の重鎖と軽鎖の可変領域と、重鎖および/または軽鎖の定常領域由来の追加アミノ酸(たとえば1個以上の定常ドメイン、すなわち、CL、CH1、CH2、およびCH3ドメインのうちの1つ以上)を含有するタンパク質が挙げられる。
【0051】
「二特異性抗原結合タンパク質」という文言は、2個の異なる分子(たとえば抗原)上、または同じ分子上(たとえば同じ抗原上)のいずれかの2個以上のエピトープに対して、選択的に結合することができる、または異なる特異性を有する抗原結合タンパク質を含む。かかるタンパク質の抗原結合部分、または抗原結合断片部分(Fab)は、特定の抗原に対する特異性をもたらし、典型的にはイムノグロブリンの重鎖可変領域と軽鎖可変領域から構成される。一部の環境下では、重鎖可変領域と軽鎖可変領域は、同系ペアではない場合があり、言い換えれば異なる結合特異性を有する場合がある。
【0052】
二特異性抗原結合タンパク質の例は、「二特異性抗体」であり、これには2個以上のエピトープに選択的に結合することができる抗体が含まれる。二特異性抗体は、多くの場合、2個の異なる重鎖を備え、各重鎖は2個の異なる分子(例えば抗原)上、または同じ分子上(例えば同じ抗原上)のいずれかの異なるエピトープに特異的に結合する。二特異性抗原結合タンパク質が、2つの異なるエピトープ(第一のエピトープと第二のエピトープ)に選択的に結合することができる場合、第一のエピトープに対する第一重鎖の可変領域のアフィニティは概して、第二のエピトープに対する第一重鎖の可変領域のアフィニティよりも少なくとも1~2桁、または3桁もしくは4桁低く、その逆もまた然りである。二特異性抗原結合タンパク質、たとえば二特異性抗体は、同じ抗原の異なるエピトープを認識する重鎖可変領域を含んでもよい。典型的な二特異性抗体は、2つの重鎖を有しており、その重鎖は各々、3つの重鎖CDRを有し、それに続けて(N末端からC末端方向に)CH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを有している。また典型的な二特異性抗体は、イムノグロブリン軽鎖を有しており、そのイムノグロブリン軽鎖は、抗原結合特異性を付与しないが、各重鎖と会合可能であるか、または各重鎖と会合可能でありかつ重鎖抗原結合領域に結合するエピトープの1つ以上を結合させることができるか、または各重鎖と会合可能でありかつ重鎖の一方もしくは両方をエピトープの一方もしくは両方に結合させることができる。1つの実施形態では、Fcドメインは少なくともCH2とCH3を含む。Fcドメインは、ヒンジ、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含んでもよい。
【0053】
ある具現化された二特異性形式は、第一重鎖(HC)、改変CH3(HC*)を有する第二重鎖、および共通軽鎖(LC)(2コピーの同一軽鎖)を含む。別の実施形態では、第一重鎖(HC)、共通LC、およびHC-ScFv融合ポリペプチドを含む(この場合、第二HCは、ScFvのN末端に融合されている)。別の実施形態では、第一重鎖(HC)、同系LC、HC-ScFv融合ポリペプチドを含む(この場合、第二HCは、ScFvのN末端に融合されている)。別の実施形態では、第一重鎖(HC)、LCおよびFcドメインを含む。別の実施形態では、第一HC、LC、ScFv-Fc融合ポリペプチドを含む(この場合、Fcは、ScFvのC末端に融合されている)。別の実施形態では、第一HC、共通LC、およびFc-ScFv融合ポリペプチドを含む(この場合、Fcは、ScFvのN末端に融合されている)。別の実施形態では、第一HC、LC、およびScFv-HCを含む(この場合、第二HCは、ScFvのC末端に融合されている)。
【0054】
ある実施形態では、1つの重鎖(HC)は、天然型または「野生型」の配列であってもよく、第二重鎖は、Fcドメインが改変されていてもよい。他の実施形態では、1つの重鎖(HC)は、天然型または「野生型」の配列であってもよく、第二重鎖は、コドン改変されていてもよい。
【0055】
「細胞」という用語は、組み換え型核酸配列の発現に適しており、外因性核酸の安定した統合および強化された発現を可能とする座位を有する任意の細胞を含む。細胞としては、たとえば非ヒト動物細胞、ヒト細胞、または細胞融合、例えば、ハイブリドーマまたはクアドローマなどの哺乳類細胞が挙げられる。一部の実施形態では、細胞はヒト、サル、類人猿、ハムスター、ラット、またはマウス細胞である。一部の実施形態では、細胞は、以下の細胞から選択される哺乳類細胞である:CHO(例えば、CHO K1、DXB-11 CHO、Veggie-CHO)、COS(例えば、COS-7)、網膜細胞、Vero、CV1、腎臓(例えば、HEK293、293 EBNA、MSR 293、MDCK、HaK、BHK)、HeLa、HepG2、WI38、MRC 5、Colo205、HB 8065、HL-60、(例えば、BHK21)、Jurkat、Daudi、A431(表皮)、CV-1、U937、3T3、L細胞、C127細胞、SP2/0、NS-0、MMT 060562、セルトリ細胞、BRL 3A細胞、HT1080細胞、骨髄腫細胞、腫瘍細胞、および前述細胞から派生する細胞株。一部の実施形態では、細胞は、一つ以上のウイルス遺伝子、例えば、ウイルス遺伝子を発現する網膜細胞(例えば、PER.C6TM細胞)を備えている。
【0056】
「細胞密度」とは、サンプル体積当たりの細胞数を指し、たとえば1mL当たりの細胞総数(生細胞および死細胞)である。細胞数は、手作業で、またはたとえばフローサイトメーターを用いて自動で計数されてもよい。自動細胞カウンターは、トリパンブルー取り込み標準法などを使用して、生細胞または死細胞または生/死細胞の両方を計数するよう適合されている。「生細胞密度」または「生細胞濃度」という文言は、サンプル体積当たりの生細胞数を指す(「生細胞数」とも呼称される)。多くの公知の手を用いた技術または自動化された技術を使用して細胞密度を決定してもよい。培養物のオンラインバイオマス測定が計測されてもよく、キャパシタンスまたは光学的密度が体積当たりの細胞数と相関している。たとえば製造培養などの細胞培養中の最終細胞密度は、開始細胞株に応じて、たとえば約1.0~10x10細胞/mLの範囲で変化する。一部の実施形態では、最終細胞密度は、製造細胞培養から対象タンパク質を採取する前に1.0~10x10細胞/mLに達する。他の実施形態では、最終細胞密度は、少なくとも5.0x10細胞/mL、少なくとも6x10細胞/mL、少なくとも7x10細胞/mL、少なくとも8x10細胞/mL、少なくとも9x10細胞/mL、または少なくとも10x10細胞/mLに達する。
【0057】
「コドン改変された」という用語は、タンパク質コードヌクレオチド配列が、1つ以上のヌクレオチド、すなわち1つ以上のコドンで、そのコドンにコードされるアミノ酸を変化させることなく改変され、当該ヌクレオチド配列のコドン改変型を生じさせることを意味する。ヌクレオチド配列のコドン改変は、核酸系アッセイ(たとえばとくにハイブリダイゼーション系アッセイ、PCRなど)において、そのコドン改変型からヌクレオチド配列を識別する簡便な基盤を提供することができる。一部の例では、当分野に公知のコドン最適化技術を使用することにより、コードされたタンパク質の宿主細胞中の発現が改善または最適化されるようにヌクレオチド配列のコドンが改変される(Gustafsson,C.,et al.,2004,Trends in Biotechnology,22:346-353;Chung,B.K.-S.,et al.,2013,Journal of Biotechnology,167:326-333;Gustafsson,C.,et al.,2012,Protein Expr Purif,83(1):37-46)。かかる技術を使用した配列設計ソフトウェアツールも当分野に公知であり、限定されないが、とくにCodon optimizer(Fuglsang A.2003,Protein Expr Purif,31:247-249)、Gene Designer(Villalobos A,et al.,2006,BMC Bioinforma,7:285)、およびOPTIMIZER(Puigbo
P,et al.2007,Nucleic Acids Research,35:W126-W131)が挙げられる。
【0058】
「相補性決定領域」という文言または「CDR」という用語には、生物体のイムノグロブリン遺伝子の核酸配列にコードされるアミノ酸配列が含まれ、該アミノ酸配列は通常(すなわち、野生型動物では)、イムノグロブリン分子(例えば、抗体またはT細胞受容体)の軽鎖または重鎖の可変領域中の2つのフレームワーク領域の間に存在する。CDRは、例えば生殖細胞系の配列または再構成配列もしくは非再構成配列によってコードされ、例えば、ナイーヴB細胞もしくは成熟B細胞またはT細胞によってコードされ得る。一部の環境下(例えば、CDR3に関して)では、CDRは2つ以上の配列(例えば、生殖細胞系配列)によりコードすることができ、その2つ以上の配列は(例えば、非再構成核酸配列においては)連続していないが、配列のスプライシングまたは連結(例えば、重鎖CDR3を形成するためのV-D-J再構成)の結果として、B細胞核酸配列では連続している。
【0059】
「発現強化座位」という用語は、細胞ゲノム中の座位を指し、当該座位は、配列を含有し、当該配列中に、または当該配列の近くに適切な遺伝子または構築物が外生的に加えられた(すなわち統合された)場合に、または当該配列に「動作可能に連結された」場合に、ゲノム中の他の領域または配列と比較して高い発現レベルを示す。
【0060】
発現強化を記載するために使用される場合、「強化された」という用語は、ゲノム中に外因性配列が無作為に統合されたことにより、または別の座位に統合されたことにより通常観察される発現よりも、たとえば同じ発現構築物の単一コピーのさまざまな無作為統合物と比較して、少なくとも約1.5倍~少なくとも約3倍の発現強化を含む。本発明配列を使用して観察された倍数発現強化は、同じ遺伝子の発現レベルとの比較であり、本発明配列が非存在下で、実質的に同じ条件下で測定され、たとえば同種ゲノム内に別の座位で統合された場合と比較している。強化組み換え効率は、座位の組み換え能力(例えば、リコンビナーゼ認識部位(RRS)の利用)の強化を含む。強化とは、無作為組み換えを越える組み換え効率を指し、たとえばリコンビナーゼ認識部位または同種物を利用しない場合は通常、0.1%である。好ましい強化組み換え効率は、無作為の約10倍であり、または約1%である。特定されない限り、特許請求される発明は特定の組み換え効率に限定されない。発現強化座位は多くの場合、宿主細胞による対象タンパク質の高い生産性を支持する。ゆえに強化発現には、単純に培養中の細胞のコピー数が多いことによって高い力価を得ることよりも、細胞当たりの対象タンパク質の産生が高いことを含む(タンパク質1グラム当たりの力価が高い)。特異的生産性Qp(pg/細胞/日、すなわちpcd)は、持続可能な生産性の測定とみなされる。5pcdよりも高い、10pcdよりも高い、または15pcdよりも高い、または20pcdよりも高い、または25pcdよりも高い、またはさらに30pcdよりも高いQpを示す組み換え宿主細胞が望ましい。発現強化座位または「ホットスポット」に対象遺伝子が挿入された宿主細胞は、高い特異的生産性を示す。
【0061】
「外生的に加えられた遺伝子」、「外生的に加えられた核酸」、または単純に「外因性核酸」という文言が、対象座位に関連して使用された場合、当該文言は、当該座位が自然界に存在する場合には対象座位内に存在しない任意のDNA配列または遺伝子を指す。たとえば、CHO座位(たとえば、配列番号1または配列番号2の配列を備えた座位)内の「外因性核酸」は、自然界の特定のCHO座位内には存在しないハムスターの遺伝子(すなわち、ハムスターゲノムの別の座位に由来するハムスター遺伝子)、任意の他の種に由来する遺伝子(たとえば、ヒトの遺伝子)、キメラ遺伝子(たとえば、ヒト/マウス)、または自然界でCHO座位内に存在することが判明していない任意の他の遺伝子であってもよい。
【0062】
「重鎖」または「イムノグロブリン重鎖」という文言には、任意の生物体由来のイムノグロブリン重鎖定常領域配列が含まれ、特別の規定がない限り、重鎖可変ドメインが含まれる。特別の規定がない限り、重鎖可変ドメインには、3つの重鎖CDRと4つのFR領域とが含まれる。典型的な重鎖は、可変ドメインに続いて(N末端からC末端方向に)、CH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを備える。「重鎖の断片」または「重鎖断片」(本明細書において「HCF」とも呼称される)という用語は、重鎖の少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、100またはそれ以上のアミノ酸のペプチドを含み、1つ以上のCDR、1つ以上のFRと組み合わされた1つ以上のCDR、CH1、ヒンジ、CH2もしくはCH3、可変領域、定常領域、定常領域の断片(たとえば、CH1、CH2、CH3)またはそれらの組み合わせのうちの1つ以上を含んでもよい。HCFの例としては、VHs、およびFc領域のすべて、または一部が挙げられる。「HCFをコードするヌクレオチド配列」という文言は、HCFからなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列と、HCFを含有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、たとえば、特定のHCFに加えて追加アミノ酸を含有し得るポリペプチドを含む。たとえば、HCFをコードするヌクレオチド配列はとくに、VHからなるポリペプチド、CH3に連結されたVHからなるポリペプチド、全長重鎖からなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0063】
核酸配列に関する文脈において「相同配列」とは、参照核酸配列に対し、実質的に相同な配列を指す。一部の実施形態では、二つの配列は、残基の関連する区間に渡って、その対応ヌクレオチドの少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上が同一の場合、実質的に相同であるとみなされる。一部の実施形態では、関連する区間は完全(すなわち、全長)配列である。
【0064】
「軽鎖」という文言には、任意の生物体由来のイムノグロブリン軽鎖定常領域配列が含まれ、別段の規定がない限り、ヒトカッパ軽鎖およびヒトラムダ軽鎖が含まれる。軽鎖可変(VL)ドメインには、特別の規定がない限り、3つの軽鎖CDRと4つのフレームワーク(FR)領域が含まれるのが典型的である。一般に、完全長軽鎖には、アミノ末端からカルボキシル末端の方向に、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4を含むVLドメインと、軽鎖定常ドメインとが含まれる。本発明で使用可能な軽鎖には、例えば、二特異性抗体に選択的に結合される第一エピトープまたは第二エピトープのいずれにも選択的に結合しない軽鎖が含まれる。また、適切な軽鎖として、抗体の抗原結合領域に結合される1つまたは両方のエピトープに結合することができる、または結合に寄与することができる軽鎖が挙げられる。「軽鎖の断片」または「軽鎖断片」(または「LCF」)という文言は、軽鎖の少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、100またはそれ以上のアミノ酸のペプチドを含み、1つ以上のCDR、1つ以上のFR、可変領域、定常領域、定常領域の断片またはそれらの組み合わせと組み合わされた1つ以上のCDRを含んでもよい。LCFの例としては、VLsおよび軽鎖定常領域(CLs)の全部または一部が挙げられる。「LCFをコードするヌクレオチド配列」という文言は、LCFからなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列と、LCFを含有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、たとえば、特定のLCFに加えて追加アミノ酸を含有し得るポリペプチドを含む。たとえば、LCFをコードするヌクレオチド配列はとくに、VLからなるポリペプチド、または全長軽鎖からなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0065】
「動作可能に連結された」という文言は、連結された分子が意図されるように機能する様式での、核酸またはタンパク質の連結を指す。相互に機能的に関係しているとき、DNA領域は動作可能に連結される。例えば、プロモーターが配列の転写に参画する能力を有す場合、プロモーターはコード配列に動作可能に連結し;リボソーム結合部位は、翻訳を許容するように位置する場合、コード配列に動作可能に連結する。一般的に、動作可能に連結しているとは、連続性を含むことができるが、連続性を必要としない。分泌リーダーなどの配列の場合には、連続性およびリーディングフレーム内での適正な配置は典型的な特徴である。対象座位の発現強化配列は、対象遺伝子(GOI)と機能的に関連付けられている場合、例えば、その存在が結果としてGOIの発現の強化をもたらす場合、GOIに動作可能に連結されている。
【0066】
「同一性割合」とは、対象座位、たとえば配列番号1または配列番号2またはそれらの断片を記載する場合、連続相同領域に沿って同一性の列挙を示す相同性配列を含むことを意味するが、比較配列中の相同性が無いギャップ、欠失、または挿入は、同一性割合の算出に考慮されない。
【0067】
本明細書に使用される場合、たとえば配列番号1またはその断片と種ホモログの間の「同一性割合」の決定は、その種ホモログが、アライメントにおいて比較を行うための相同配列を有していない配列の比較は含まない(すなわち、配列番号1またはその断片が、その点で挿入を有しているか、または場合によっては種ホモログがギャップまたは欠失を有している配列の比較は含まない)。ゆえに「同一性割合」は、ギャップ、欠失および挿入のペナルティを含まない。
【0068】
「認識部位」または「認識配列」は、ヌクレアーゼに認識される特定のDNA配列、またはDNA骨格に結合し、部位特異的切断を指示する他の酵素により認識される特定のDNA配列である。エンドヌクレアーゼは、DNA分子内でDNAを切断する。認識部位は当分野において、認識標的部位とも呼称される。
【0069】
「リコンビナーゼ認識部位」(「RRS」)は、たとえばCreリコンビナーゼ(Cre)またはフリッパーゼ(flp)などのリコンビナーゼにより認識される特定のDNA配列である。部位特異的リコンビナーゼは、その標的認識配列のうちの1つ以上が生物ゲノム内に戦略的に配置された場合、欠失、転位、および転座を含むDNA再構成を実行することができる。1つの例では、Creは、そのDNA標的認識部位であり、8bpのスペーサーにより分離される2個の13bpの逆位リピートから構成されるloxPで、組み換え事象を特異的に介在する。2つ以上のリコンビナーゼ認識部位を使用して、たとえば組み換え介在性のDNA交換を促進することができる。リコンビナーゼ認識部位、たとえばlox部位などの多様体または変異体を使用してもよい(Araki,N.et al,2002,Nucleic Acids Research,30:19,e103)。
【0070】
「リコンビナーゼ介在性カセット交換」または「RMCE(Recombinase-mediated cassette exchange)」は、ゲノム標的カセットを、ドナーカセットと正確に置換させるプロセスに関する。このプロセスを実行するために通常提供される分子構成は、1)特定のリコンビナーゼに対し特異的な認識標的部位により、5’と3’の両方に隣接されたゲノム標的カセット、2)認識標的部位を合致させることにより隣接されたドナーカセット、および3)部位特異的リコンビナーゼ、を含む。リコンビナーゼタンパク質は当分野に公知であり(Turan,S.and Bode J.,2011,FASEB J.,25,pp.4088-4107)、ヌクレオチドを付加または欠失させることなく、特定の認識標的部位(DNA配列)内で、DNAを正確に切断することが可能である。普遍的なリコンビナーゼ/部位の組み合わせとしては、限定されないが、Cre/loxおよびFlp/frtが挙げられる。RMCE用の、R4-attP 部位を含有するベクターと、phiC31インテグラーゼをコードするベクターは、市販のキットでも提供される。(たとえば、米国特許出願公開第US20130004946号も参照のこと)
【0071】
「部位特異的統合」または「標的挿入」とは、ゲノム中の特定の位置への遺伝子もしくは核酸配列の挿入または統合を指示する、すなわち、連続ポリヌクレオチド鎖中の2つのヌクレオチド間の特定の部位へDNAを移動させるために使用される遺伝子標的化方法を指す。部位特異的な統合または標的挿入は、複数の発現単位またはカセット、たとえば各々自身の制御因子(たとえばプロモーター、エンハンサー、および/または転写終結配列など)を有する複数の遺伝子を含む特定の核酸に対し行われてもよい。「挿入」と「統合」は相互交換可能に使用される。遺伝子または核酸配列(たとえば発現カセットを備えた核酸配列)の挿入は、使用された遺伝子編集技術に応じて1つ以上の核酸の置換または欠失が生じ得る(またはそのように操作され得る)と理解されている。
【0072】
「安定した統合」とは、宿主細胞ゲノム中に統合された外因性核酸が、細胞培養において、たとえば少なくとも7日、少なくとも10日、少なくとも15日、少なくとも20日、少なくとも25日、少なくとも30日、少なくとも35日、少なくとも40日、少なくとも45日、少なくとも50日、少なくとも55日、少なくとも60日、またはそれ以上の長期間、統合状態を維持することを意味する。大規模な製造および精製を目的とした、二特異性抗原結合タンパク質の製造は難題であると理解されている。安定性およびクローン性は、任意の生物分子、とくに治療用に使用される生物分子の再現性にとって必須である。本開示方法により作製される、二特異性抗体を発現する安定クローンは、治療用生物分子生成のための一貫性と再現性のある手段を提供する。
【0073】
概要
本開示は、宿主細胞中の発現強化座位を使用することによる、宿主細胞、とくにチャイニーズハムスター(Cricetulus griseus)細胞株における複数のポリペプチドの発現改善のための組成物および方法を提供する。より具体的には、本開示は、二特異性抗原結合タンパク質をともにコードする複数の外因性核酸を、たとえばCHO細胞などの宿主細胞中の発現強化座位内に統合するよう設計された組成物および方法を提供する。特に本開示は、発現強化座位内の特定の部位で統合された複数の外因性核酸を含有する細胞を提供するものであり、当該複数の外因性核酸はともに二特異性抗原結合タンパク質をコードしている。本開示はさらに、発現強化座位内への複数の外因性核酸の部位特異的な統合を目的として設計された核酸ベクターを提供する。本開示は、2個以上のリコンビナーゼ認識部位(RRS)を含有する宿主細胞、および合致RRSと複数の外因性核酸を含有するベクターのセットを含む、当該複数の外因性核酸を、当該ベクターから発現強化座位内に部位特異的に統合することを目的としたシステムをさらに提供する。さらに本開示は、本明細書に開示される細胞、ベクター、およびシステムを使用して二特異性抗原結合タンパク質を作製する方法を提供する。
【0074】
発現強化座位内の特定の部位で統合された複数の外因性核酸を有する細胞
1つの態様において、本開示は、発現強化座位内の特定の部位で統合される外因性核酸を含有する細胞を提供するものであり、当該外因性核酸配列は二特異性抗原結合タンパク質をコードしている。
【0075】
本明細書に提供される細胞は、高い力価および/または高い特異的生産性(pg/細胞/日)で、二特異性抗原結合タンパク質(たとえば二特異性抗体)を産生することができる。一部の実施形態では、細胞は、少なくとも5mg/L、10mg/L、15mg/L、20mg/L、25mg/L、30mg/L、35mg/L、40mg/L、45mg/L、50mg/Lまたはそれ以上の力価で、二特異性抗原結合タンパク質を産生する。一部の実施形態では、細胞は、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、50%またはそれ以上の、総抗原結合タンパク質力価に対する二特異性抗原結合タンパク質力価の比率で、二特異性抗原結合タンパク質を産生する。一部の実施形態では、二特異性抗原結合タンパク質を産生する細胞は、1日当たり、1細胞当たりで産生される総抗原結合タンパク質(pg)に基づき決定される、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15ピコグラム/細胞/日(pcd)またはそれ以上の特異的生産性を有する。
【0076】
発現強化座位内の特定の部位に統合された二特異性抗原結合タンパク質をコードする外因性核酸配列を備えた宿主細胞は、たとえば1~10x10細胞/mLなど、製造培養において高い細胞密度を示す。他の実施形態では、二特異性抗原結合タンパク質をコードする宿主細胞は、少なくとも5x10細胞/mL、6x10細胞/mL、7x10細胞/mL、8x10細胞/mL、9x10細胞/mL、または10x10細胞/mLの最終細胞密度を有する。
【0077】
一部の実施形態では、二特異性抗原結合タンパク質は、異なる抗原特異性を有する2つのHC断片(HCF)と、2つのLCFを含有する。2つのVL領域が使用される場合において、その2つのVL領域は同一であっても、異なってもよい。特定の実施形態では、2つのVL領域は同一であり、たとえば共通軽鎖である。
【0078】
一部の実施形態では、2つのHCFの各々は、たとえばCH1、CH2、またはCH3などの重鎖定常領域由来のアミノ酸を含む。特定の実施形態では、2つのHCFの各々は、CH3ドメインを含む。特定の実施形態では、2つのHCFの各々は、定常領域を含み、すなわち定常領域全長を含む。
【0079】
一部の実施形態では、2つのHCFの各々は、VHを含み、その2つのVHは、同一であっても、異なってもよい。
【0080】
一部の実施形態では、二特異性抗原結合タンパク質は、2つの重鎖(すなわち、2つの全長重鎖)を含む。
【0081】
一部の実施形態では、2つのLCFの各々は、VLを含む。特定の実施形態では、各LCFはVL領域からなり、VL領域は、軽鎖定常領域由来のアミノ酸を含むアミノ酸配列に動作可能に連結されている。特定の実施形態では、各VL領域はCL領域に動作可能に連結されている。すなわち二特異性抗原結合タンパク質は、軽鎖(すなわち、全長軽鎖)を含む。
【0082】
一部の実施形態では、発現強化座位内に統合された外因性核酸配列は、第一のLCFをコードするヌクレオチド配列を含有する第一の外因性核酸、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列を含有する第二の外因性核酸、および第二のHCFをコードするヌクレオチド配列を含有する第三の外因性核酸を含む。
【0083】
一部の実施形態では、第一のLCFをコードするヌクレオチド配列は、軽鎖可変(VL)領域配列をコードしてもよい。特定の実施形態では、第一のVL領域をコードするヌクレオチド配列は、第一の軽鎖をコードする。
【0084】
一部の実施形態では、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第一の重鎖定常領域(たとえば、CH1、ヒンジ、CH2またはCH3ドメインの内の1つ以上)由来のアミノ酸をコードし、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第二の重鎖定常領域由来のアミノ酸をコードする。第一の重鎖定常領域由来のアミノ酸は、第二の重鎖定常領域由来のアミノ酸と同一であっても、異なっていてもよい。たとえば、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第一のCH3ドメインをコードし、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第二のCH3ドメインをコードし、この場合において当該第一および第二のCH3ドメインは、同一であってもよく、または二特異性抗原結合タンパク質に関し本明細書において以下に記載されるように、1つ以上のアミノ酸の位置で異なっていてもよい。
【0085】
一部の実施形態では、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第一のVHをコードし、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第二のVHをコードする。
【0086】
一部の実施形態では、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第一の重鎖をコードし、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第二の重鎖をコードする。当該第一および第二の重鎖は、同一の定常領域を有してもよく、または1つ以上のアミノ酸において異なってもよい。異なる重鎖定常ドメイン(たとえば異なるCH3ドメイン)を有する二特異性抗原結合タンパク質の様々な例を、本明細書の以下においてさらに記載する。コードされるアミノ酸配列にかかわらず、2つの重鎖定常領域由来のアミノ酸をコードするヌクレオチド配列は、当該2つのコードヌクレオチド配列の内の1つがコドン改変され得るという点で異なってもよく、それにより、核酸系検出アッセイにおいて当該2つのヌクレオチド配列を識別するための便利な基盤が提供される。
【0087】
一部の実施形態では、各HCFまたはLCFをコードするヌクレオチド配列は、独立して、プロモーターを含有する転写制御配列に動作可能に連結される。「独立して」とは、各コード配列が、たとえばプロモーターなどの別個の転写制御配列に動作可能に連結され、それにより、当該コード配列の転写が別個の制御および管理下にあることを意味する。一部の実施形態では、2つのHCF含有ポリペプチドの転写の指示を行うプロモーターは同じである。一部の実施形態では、2つのHCF含有ポリペプチドの転写の指示を行うプロモーター、ならびにLCF含有ポリペプチドの転写の指示を行うプロモーターは、たとえばCMVプロモーターなど、すべて同一のプロモーターである。一部の実施形態では、各HCFまたはLCFをコードするヌクレオチド配列は、独立して、誘導性プロモーターまたは抑制性プロモーターに動作可能に連結される。誘導性プロモーターおよび抑制性プロモーターによって、例えば、生産期(流加培養)でのみ産生が発生し、増殖期(シードトレイン(seed train)培養)の間は発生しないことが可能となる。各遺伝子産物の産生(発現)の良好な管理は、異なるプロモーターによって達成され得る。
【0088】
そのような1つの例では、細胞は最初にテトラサイクリンリプレッサータンパク質(TetR)を発現するよう改変され、各HCFコードヌクレオチド配列とLCFコードヌクレオチド配列は、その活性がTetRにより制御されるプロモーターの転写管理下に置かれる。2つのタンデムTetRオペレーター(tetO)は、CMVプロモーターのすぐ下流に配置される。一部の実施形態では、各HCFおよび/またはLCFをコードするヌクレオチド配列は、独立して、少なくとも1つのTetRオペレーター(TetO)またはArcオペレーター(ArcO)の上流のプロモーターに動作可能に連結される。他の実施形態では、各HCFおよび/またはLCFをコードするヌクレオチド配列は、独立して、CMV/TetOまたはCMV/ArcOハイブリッドプロモーターに動作可能に連結される。追加の適切なプロモーターを、本明細書において以下に記載する。
【0089】
座位内の複数の外因性核酸の相対的な位置は変化し得る。任意の学説に拘束されることは意図していないが、2つのHCF含有ポリペプチドのバランスの取れた(すなわち同等な)発現レベルを達成することが重要であると考えられている。一部の実施形態では、LCFをコードする核酸は、HCFをコードする両方の核酸に対し、上流に位置付けられる。LCFを含有するポリペプチドと、2つのHCFを含有するポリペプチドの発現を管理するための3つのプロモーターが同一である場合、適切な配置としては、5’から3’の方向に、LCFをコードするヌクレオチド配列、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列、ヌクレオチド配列(たとえば選択マーカー遺伝子)に動作可能に連結された追加の異なるプロモーター、そして第二のHCFをコードするヌクレオチド配列、が挙げられる。他の適切な配置としては、5’から3’の方向に、LCFをコードするヌクレオチド配列、ヌクレオチド配列(たとえば選択マーカー遺伝子)に動作可能に連結された追加の異なるプロモーター、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列、そして第二のHCFをコードするヌクレオチド配列、が挙げられる。HCFをコードするヌクレオチド配列が定常領域配列をコードしている場合、上流に配置された各ヌクレオチド配列が改変型の定常領域配列(たとえば改変型CH3)をコードしてもよく、または上流に配置されたヌクレオチド配列が改変型の定常領域配列をコードし、他方が非改変型の定常領域配列をコードしてもよい。
【0090】
一部の実施形態では、細胞は、座位内にさらに統合された1つ以上のRRSをさらに含有する。一部の実施形態では、細胞は第一RRSと第二RRSを含み、それらは互いに異なっており、そして外因性核酸配列に隣接している。この場合において当該外因性核酸配列は、第一のLCFをコードする核酸、第一のHCFをコードする核酸、そして第二のHCFをコードする核酸を順に含有する。特定の実施形態では、LCFをコードする核酸は、HCFをコードする核酸の両方に対して上流に配置され、細胞は、第一のLCFをコードする核酸に対し3’に、そしてHCFをコードする外因性核酸のうちの1つ、または両方に対し5’に配置される第三のRRSを含み、この場合において、第三のRRSは、第一RRSおよび第二RRSとは異なっている。第三のRRSは、HCFをコードする配列またはLCFをコードする配列のうちのいずれか2つの間に配置され得る遺伝子のイントロン中に含有されるよう操作されてもよい。
【0091】
二特異性抗原結合タンパク質
本開示に記載される細胞、ベクターおよびシステムにおけるクローニングと産生に適した、たとえば二特異性抗体などの二特異性抗原結合タンパク質は、二特異性抗原結合タンパク質の任意の特性の形式に限定されない。
【0092】
様々な実施形態では、二特異性抗原結合タンパク質は2つのポリペプチドを含み、各ポリペプチドは、抗原結合部分(たとえばVH領域)とCH3ドメインを含有し、この場合において当該2つのポリペプチドの抗原結合部分は異なる抗原特異性を有し、およびこの場合において当該2つのCH3ドメインは、CH3ドメインのうちの1つが少なくとも1つのアミノ酸位置で改変され、当該2つのポリペプチド間で異なるプロテインA結合特性を生じさせているという点で、互いに関しヘテロ二量体性である。たとえば、米国特許第8,586,713号に記載される二特異性抗体を参照のこと。この方法において、異なるプロテインA単離スキームを使用して、ホモ二量体からヘテロ二量体性二特異性抗原結合タンパク質を容易に単離することができる。
【0093】
一部の実施形態では、二特異性抗原結合タンパク質は、異なる抗原特異性を有し、およびCH3ドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸位置が異なり、それにより2つの重鎖の間で異なるプロテインA結合特性が生じる、2つの重鎖を含む。
【0094】
一部の実施形態では、2つのポリペプチドは、ヒトIgGのCH3ドメインを含有し、この場合において当該2つのポリペプチドの内の1つは、IgG1、IgG2およびIgG4から選択されるヒトIgGのCH3ドメインを含有し、当該2つのポリペプチドのうちの他の1つは、IgG1、IgG2およびIgG4から選択されるヒトIgGの改変CH3ドメインを含有し、この場合において当該改変は、プロテインAに対する改変CH3領域の結合を減少させ、または消滅させる。特定の実施形態では、当該2つのポリペプチドのうちの1つは、ヒトIgG1のCH3ドメインを含有し、当該2つのポリペプチドのうちの他の1つは、ヒトIgG1の改変CH3ドメインを含有し、この場合において当該改変は、IMGTエクソンナンバリングシステムにおける(i)95Rならびに(ii)95Rおよび96Fからなる群から選択される。他の特定の実施形態では、改変CH3ドメインは、IMGTエクソンナンバリングシステムにおける、16E、18M、44S、52N、57M、および82Iからなる群から選択される1~5個の追加改変を備えている。
【0095】
他の様々な実施形態では、当該2つのポリペプチドは、マウスIgGのCH3ドメインを含有し、この場合において当該2つのポリペプチドのうちの1つは、未改変マウスIgGのCH3ドメインを含有し、当該2つのポリペプチドのうちの他の1つは、マウスIgGの改変CH3ドメインを含有し、この場合において、当該改変は、プロテインAに対する改変CH3領域の結合を減少させ、または消滅させる。様々な実施形態では、マウスIgG CH3ドメインは、以下からなる群から選択される特定の位置(EUナンバリング)で、特定のアミノ酸を備えるよう改変される:252T、254T、および256T;252T、254T、256T、および258K;247P、252T、254T、256T、および258K;435Rおよび436F;252T、254T、256T、435R、および436F;252T、254T、256T、258K、435R、および436F;24tP、252T、254T、256T、258K、435R、および436F;ならびに435R。特定の実施形態では、以下からなる群から選択される改変の特定群が作製される:M252T、S254T、S256T;M252T、S254T、S256T、I258K;I247P、M252T、S254T、S256T、I258K;H435R、H436F;M252T、S254T、S256T、H435R、H436F;M252T、S254T、S256T、I258K、H435R、H436F;I247P、M252T、S254T、S256T、I258K、H435R、H436F;およびH435R。
【0096】
様々な実施形態では、二特異性抗原結合タンパク質は、マウスとラットのモノクローナル抗体または抗原結合タンパク質のハイブリッドであり、たとえばマウスIgG2aとラットIgG2bのハイブリッドである。これら実施形態に従い、二特異性抗体は、2つの抗体のヘテロ二量体から構成され、当該抗体は各々の1つの重鎖/軽鎖のペアを備え、それらは自身のFc部分を介して結合している。記載されるヘテロ二量体は、2つの元の抗体ホモ二量体と二特異性ヘテロ二量体の混合物から容易に精製されることができる。その理由は、プロテインAに対する二特異性抗体の結合特性は、元の抗体の結合特性とは異なっているためである。ラットのIgG2bは、プロテインAには結合せず、一方でマウスIgG2aは結合する。結論として、マウス-ラットのヘテロ二量体は、プロテインAに結合するが、マウスIgG2aホモ二量体よりも高いpHで溶出する。これが二特異性ヘテロ二量体の選択的精製を可能にする。
【0097】
他の様々な実施形態では、二特異性抗原結合タンパク質は、当分野において「knobs-into-holes」と呼称される形式のものである(たとえば米国特許第7,183,076号を参照のこと)。これらの実施形態では、2つの抗体のFc部分を操作して、1つに「こぶ(knob)」を突き出させ、他方に相補的な「穴(hole)」が作られる。同じ細胞において産生される場合、操作された「こぶ」と操作された「穴」の結合により、重鎖は、ホモ二量体よりもヘテロ二量体を優先的に形成すると言われている。
【0098】
別の実施形態では、第一の重鎖と第二の重鎖は、CH3ドメインにおいて1つ以上のアミノ酸改変を備え、それによって2つの重鎖の間の相互作用が可能となる。CH3-CH3の接触面のアミノ酸残基が荷電アミノ酸と置換され、それによりホモ二量体の形成が静電的に不利となる。(たとえば、PCT国際出願公開WO2009089004および欧州公開EP1870459を参照のこと)
【0099】
他の実施形態では、第一の重鎖は、アイソタイプIgAのCH3ドメインを備え、第二の重鎖はIgGのCH3ドメインを備え(逆もまた然り)、ヘテロ二量体の優先的な形成を促進する。(たとえば、PCT国際特許出願公開WO2007110205を参照のこと)
【0100】
他の実施形態では、たとえばFab-アーム交換(PCT国際特許出願公開WO2008119353;PCT国際特許出願公開WO2011131746)、コイル化コイルドメイン相互作用(PCT国際特許出願公開WO2011034605)、またはロイシンジッパーペプチド(Kostelny,et al.J.Immunol.1992,148(5):1547-1553)などの、ヘテロ二量体の形成を促す操作方法により、様々な形式がイムノグロブリン鎖に組み込まれ得る。
【0101】
二特異性抗原結合タンパク質を作製するために使用され得るイムノグロブリン重鎖可変領域は、当分野に公知の任意の方法を使用して作製することができる。たとえば、第一の重鎖は、核酸によりコードされる可変領域を備え、当該核酸は第一動物の成熟B細胞のゲノムに由来し、当該第一動物は第一抗原で免疫化されており、そして第一の重鎖は第一の抗原を特異的認識する。第二重鎖は核酸によりコードされる可変領域を備え、当該核酸は第二動物の成熟B細胞のゲノムに由来し、当該第二動物は第二抗原で免疫化されており、そして第二の重鎖は第二の抗原を特異的に認識する。免疫グロブリン重鎖可変領域配列はたとえばファージディスプレイ法など当分野に公知の任意の他の方法により取得することもできる。他の例では、重鎖可変領域をコードする核酸は、当分野に報告されている、または別の手段により入手可能な抗体のものを含む。一部の実施形態では、2つの重鎖コード配列のうちの1つはコドン改変され、それにより核酸系アッセイにおいて当該2つのコード配列を識別するための簡便な基盤が提供される。
【0102】
2つの異なるエピトープ(または2つの異なる抗原)を認識する2つの重鎖を備えた二特異性抗体は、それらが同じ軽鎖(すなわち、軽鎖が同一の可変ドメインと定常ドメインを有している))とペア形成できる場合に、より簡易に単離される。たとえば米国特許第8,586,713号に記載され、およびその中に開示される技術のように、重鎖可変ドメインと、その標的抗原との選択性および/またはアフィニティに干渉することなく、または実質的に干渉することなく、異なる特異性の2つの重鎖とペア形成できる軽鎖を作製するための様々な方法が当分野において公知である。
【0103】
二特異性抗原結合タンパク質は様々な二面的な抗原特異性と、関連した有用なアプリケーションを有し得る。
【0104】
一部の例では、腫瘍抗原とT細胞抗原に対する結合特異性を備え、細胞上の抗原、たとえばCD20を標的とし、およびT細胞上の抗原、たとえばCD3などのT細胞受容体も標的とする二特異性抗原結合タンパク質が作製され得る。この場合では、二特異性抗原結合タンパク質は、患者中の対象細胞(たとえばCD20結合を介してリンパ腫患者のB細胞)ならびに患者のT細胞の両方を標的とする。様々な実施形態では、二特異性抗原結合タンパク質は、たとえばCD3へ結合するなど、T細胞に結合することで、T細胞を活性化するように設計され、それによりT細胞活性化が特定の選択腫瘍細胞へと結び付けられる。
【0105】
1つの部分がCD3に結合し、他方の部分が標的抗原に結合する場合の二特異性抗原結合タンパク質の文脈において、標的抗原は腫瘍関連抗原である。特定の腫瘍関連抗原の非限定的な例としては、たとえば、AFP、ALK、BAGEタンパク質、BIRC5(サバイビン)、BIRC7、β-カテニン、brc-abl、BRCA1、BCMA、BORIS、CA9、炭酸脱水酵素IX、カスパーゼ-8、CALR、CCR5、CD19、CD20(MS4A1)、CD22、CD30、CD40、CDK4、CEA、CLEC-12、CTLA4、サイクリン-B1、CYP1B1、EGFR、EGFRvIII、ErbB2/Her2、ErbB3、ErbB4、ETV6-AML、EpCAM、EphA2、Fra-1、FOLR1、GAGEタンパク質(たとえば、GAGE-1、-2)、GD2、GD3、GloboH、グリピカン-3、GM3、gp100、Her2、HLA/B-raf、HLA/k-ras、HLA/MAGE-A3、hTERT、LMP2、MAGEタンパク質(たとえば、MAGE-1、-2、-3、-4、-6、および-12)、MART-1、メソテリン、ML-IAP、Muc1、Muc2、Muc3、Muc4、Muc5、Muc16(CA-125)、MUM1、NA17、NY-BR1、NY-BR62、NY-BR85、NY-ESO1、OX40、p15、p53、PAP、PAX3、PAX5、PCTA-1、PLAC1、PRLR、PRAME、PSMA(FOLH1)、RAGEタンパク質、Ras、RGS5、Rho、SART-1、SART-3、Steap-1、Steap-2、TAG-72、TGF-β、TMPRSS2、Thompson-nouvelle抗原(Tn)、TRP-1、TRP-2、チロシナーゼ、およびウロプラキン-3が挙げられる。
【0106】
一部の実施形態では、二特異性抗原結合タンパク質は、抗CD3x抗CD20二特異性抗体(米国特許出願公開US2014/0088295A1およびUS20150266966A1に記載され、参照により本明細書に援用される)、抗CD3x抗Mucin 16二特異性抗体(たとえば抗CD3x抗Muc16二特異性抗体)、および抗CD3x抗前立腺特異的膜抗原二特異性抗体(たとえば抗CD3x抗PSMA二特異性抗体)からなる群から選択される。他の実施形態では、二特異性抗原結合タンパク質は、CD3に結合する1つの部分を備えている。抗CD3抗体部分の例は、米国特許出願公開US2014/0088295A1およびUS20150266966A1、ならびに国際特許出願公開WO2017/053856に記載されており、2017年3月30日に公開され、それらすべて本明細書に参照により援用される)。さらに他の実施形態では、二特異性抗原結合タンパク質は、CD3に結合する1つの部分、およびBCMA、CD19、CD20、CD28、CLEC-12、Her2、HLAタンパク質、MAGEタンパク質、Muc16、PSMA、またはSteap-2に結合する1つの部分を備えている。
【0107】
1つの部分がたとえばCD3に結合するなど、T細胞受容体に結合し、他方の部分が標的抗原に結合する場合に二特異性抗原結合タンパク質の文脈において、標的抗原は感染性疾患関連抗原であってもよい。感染性疾患関連抗原の非限定的な例としては、たとえば、ウイルス粒子の表面上に発現される抗原、または優先的にウイルスに感染した細胞上に発現される抗原が挙げられ、この場合において当該ウイルスは、HIV、肝炎ウイルス(A、BまたはC)、ヘルペスウイルス(たとえば、HSV-1、HSV-2、CMV、HAV-6、VZVまたはエプスタインバールウイルス)、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、フラビウイルス、エコーウイルス、ライノウイルス、コクサッキーウイルス、コロナウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、ムンプスウイルス、ロタウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、パルボウイルス、ワクシニアウイルス、HTLV、デングウイルス、パピローマウイルス、軟属腫ウイルス、ポリオウイルス、狂犬病ウイルス、JCウイルス、およびアルボウイルス脳炎ウイルスからなる群から選択される。あるいは標的抗原は、細菌表面上に発現される抗原であってもよく、または優先的に細菌に感染した細胞上に発現される抗原であってもよく、この場合において当該細菌は、クラミジア属、リケッチア属、マイコバクテリウム属、ブドウ球菌属、連鎖球菌属、肺炎球菌、髄膜炎菌、淋菌、クレブシエラ属、プロテウス属、セラチア属、シュードモナス属、レジオネラ属、ジフテリア菌、サルモネラ属、バチルス属、コレラ菌、破傷風菌、ボツリヌス菌、炭そ菌、ペスト菌、レプトスピラ属、およびライム病の細菌からなる群から選択される。ある実施形態では、標的抗原は、真菌の表面上に発現される抗原であり、または優先的に真菌に感染した細胞上に発現される抗原であり、この場合において当該真菌は、カンジダ属(アルビカンズ(albicans)、クルーセイ(krusei)、グラブラータ(glabrata)、トロピカリス(tropicalis)など)、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Crytococcus neoformans)、アスペルギルス属(フミガーツス(fumigatus)など)、ケカビ目(ムコール属(mucor)、アブシジア属(absidia)、リゾプス属(rhizopus))、スポロスリックス・シエンキー(Sporothrix schenkii)、ブラストミセス・デルマチチジス(Blastomyces dermatitidis)、南アメリカ分芽菌(Paracoccidioides brasiliensis)、コクシジオイデス・イミチス(Coccidioides immitis)、およびヒストプラズマ・カプスラーツム(Histoplasma capsulatum)からなる群から選択される。ある実施形態では、標的抗原は寄生虫の表面上に発現される抗原であり、または優先的に寄生虫に感染した細胞上に発現される抗原であり、この場合において当該寄生虫は、赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)、大腸バランチジウム(Balantidium coli)、ネグレリア・フォーレリ(Naegleriafowleri)、アカントアメーバ種(Acanthamoeba sp.)、ランブル鞭毛虫(Giardia lambia)、クリプトスポリジウム種(Cryptosporidium sp.)、カリニ肺炎菌(Pneumocystis carinii)、三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)、ネズミバベシア(Babesia
microti)、トリパノソーマ・ブルーセイ(Trypanosoma brucei)、トリパノソーマ・クルージ(Trypanosoma cruzi)、ドノバンリーシュマニア(,Leishmania donovani)、トキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)、ブラジル鉤虫(Nippostrongylus brasiliensis)、タエニア・クラシセプス(Taenia crassiceps)、およびマレー糸条虫(Brugia malayi)からなる群から選択される。特定の寄生虫関連抗原の非限定的な例としては、たとえばHIV gp120、HIV CD4、B型肝炎ウイルス糖タンパク質L、B型肝炎ウイルス糖タンパク質M、B型肝炎ウイルス糖タンパク質S、C型肝炎ウイルス E1、C型肝炎ウイルス E2,、肝細胞特異的タンパク質、単純ヘルペスウイルスgB、サイトメガロウイルスgB、およびHTLVエンベロープタンパク質が挙げられる。
【0108】
各々が、同一細胞表面上の結合パートナーに指向する(すなわち、各々が異なる標的に指向する)2つの結合部分を備えた二特異性結合タンパク質が作製されてもよい。この設計は特に、同一細胞表面上に両方の標的を発現する特定の細胞または細胞型を標的化する場合に適している。標的は、他の細胞上にも個々に現れ得るが、これら結合タンパク質の結合部分は、各結合部分が比較的低いアフィニティ(たとえば低マイクロモルまたは高ナノモル、たとえば百ナノモルKD超、たとえば500、600、700、800ナノモル)でその標的に結合するよう選択される。この場合では、長期の標的結合は、2つの標的が同じ細胞上で近接している状況下でのみ好ましい。
【0109】
同一標的に、同一標的の異なるエピトープで結合する2つの結合部分を備えた二特異性結合タンパク質が作製されてもよい。この設計は、結合タンパク質を用いて標的をブロッキングする成功率を最大化したい場合に特に適している。たとえば膜貫通チャンネルまたは細胞表面受容体の複数の細胞外ループを、同一の二特異性結合分子により標的化してもよい。
【0110】
免疫抑制をもたらす免疫シグナル伝達の負の制御因子をクラスター化し、活性化する2つの結合分子を備えた二特異性結合タンパク質を作製してもよい。in cisでの抑制は、標的が同一細胞上にある場合に実施することができる。in transでの抑制は、標的が異なる細胞上にある場合に実施することができる。in cisでの抑制は、たとえば抗IgGRIIb結合部分と抗FelD1結合部分を有する二特異性結合タンパク質を用いて実施することができ、それによって、IgGRIIbはFelD1の存在下でのみクラスター化され、FelD1への免疫応答が下方制御される。in transでの抑制は、たとえば抗BTLA結合部分と、対象の組織特異的抗原に特異的に結合する結合部分を有する二特異性結合タンパク質を用いて行うことができ、それによって阻害性BTLA分子のクラスター化が選択標的組織中でのみ発生し、自己免疫疾患への対処法となる可能性がある。
【0111】
多成分性受容体を活性化する二特異性結合タンパク質を作製してもよい。この設計では、受容体の2成分に指向する2つの結合部分が、当該受容体に結合、架橋し、受容体からのシグナル伝達を活性化する。これは、IFNAR1に結合する結合部分と、IFNAR2に結合する結合部分を有する二特異性結合タンパク質を使用することで行うことができ、この場合、結合が受容体を架橋する。かかる二特異性結合タンパク質は、インターフェロン治療の代替法を提供し得る。
【0112】
半透過性バリア、たとえば血液脳関門を交差し、結合部分を輸送する二特異性結合タンパク質を作製してもよい。この設計では、1つの結合部分が、特定の選択バリアを通過することができる標的に結合し、他方の結合部分が、治療活性を有する分子を標的とし、この場合において治療活性を有する標的分子は通常、当該バリアを越えることができない。この種の二特異性結合タンパク質は、別の手段では治療剤が到達しない組織への治療剤の送達に有用である。一部の例としては、消化管または肺へ治療剤を輸送するpIGR受容体の標的化、または脳血液関門を交差し、治療剤を輸送するトランスフェリン受容体の標的化が挙げられる。
【0113】
結合部分を特定の細胞または細胞型へと輸送する二特異性結合タンパク質が作製されてもよい。この設計では、1つの結合部分は、容易に細胞内に内在化される細胞表面タンパク質(たとえば受容体)を標的とする。他方の結合部分は、細胞内タンパク質を標的化し、当該細胞内タンパク質の結合が治療効果を生じさせる。
【0114】
貪食免疫細胞の表面受容体と、感染性病原体(たとえば酵母又は細菌)の表面分子に結合する二特異性結合タンパク質は、貪食免疫細胞の周辺に感染性病原体を送達させ、病原体の貪食を促進する。かかる設計の例は、CD64分子またはCD89分子と、さらに病原体も標的とする二特異性抗体である。
【0115】
1つの結合部分として抗体可変領域を有し、第二の結合部分として非Ig部分を有する二特異性結合タンパク質。抗体可変領域は標的化を行い、一方で非Ig部分はFcに連結されたエフェクターまたは毒素である。この場合では、リガンド(たとえばエフェクターまたは毒素)は、抗体可変領域に結合された標的に送達される。
【0116】
各々Ig領域(たとえばCH2領域とCH3領域を含有するIg配列)に結合される2つの部分を有する二特異性結合タンパク質は、Fc環境下で互いの周辺に任意の2つのタンパク質部分を運ばせることができる。この設計の例としては、たとえば、ホモ二量体またはヘテロ二量体のトラップ分子などのトラップが挙げられる。
【0117】
発現強化座位
本発明の使用に適した発現強化座位としては、たとえば、米国特許第8,389,239号に記載される配列番号1に対し、実質的な相同性を有するヌクレオチド配列を備えた座位(本明細書において、「EESYR(登録商標)座位」とも呼称される)、米国特許出願14/919,300に記載される配列番号2または配列番号3に対し、実質的な相同性を有するヌクレオチド配列を備えた座位(本明細書において、「YARS座位」とも呼称される)、およびその他の発現強化座位ならびに当分野に報告される配列(たとえば、US20150167020A1および米国特許第6,800,457号)が挙げられる。
【0118】
一部の実施形態では、本発明で使用される2つの発現強化座位は、配列番号1に対し実質的な相同性を有するヌクレオチド配列を備えた座位、または配列番号2もしくは配列番号3に対し実質的な相同性を有するヌクレオチド配列を備えた座位から選択される。これらの座位は配列を含有し、当該配列は、配列に対し動作可能に連結されて、(すなわち配列内に、または配列の近傍内に)統合された遺伝子の発現強化をもたらすだけではなく、ゲノム中の他の配列と比較し、高い組み換え効率と統合安定性の改善を示す。
【0119】
配列番号1、配列番号2、および配列番号3は、CHO細胞から同定された。他の哺乳類種(たとえばヒトまたはマウス)は、同定された発現強化領域に対し、限定的な相同性を有していることが判明している。しかしながら、チャイニーズハムスター(Cricetulus griseus)の他の組織型から誘導された細胞株、または他の同系種において、配列が発見される可能性があり、当分野に公知の技術により単離することができる。たとえば、異種間ハイブリダイゼーションまたはPCR系技術により、他の相同配列が特定される可能性がある。さらに、当分野に公知の部位特異的突然変異誘導技術または無作為突然変異誘導技術により、配列番号1、配列番号2、または配列番号3に記載されるヌクレオチド配列に、変化を発生させることができる。次いで得られた配列変異体を、発現強化活性に関し検証してもよい。発現強化活性を有する配列番号1、配列番号2、または配列番号3に対する核酸同一性において少なくとも約90%同一であるDNAは、日常的な実験で単離され、そして発現強化活性を示すことが予期される。
【0120】
1つ以上の外因性核酸の挿入物の統合部位、部位、またはヌクレオチド位置は、発現強化配列(たとえば配列番号1、配列番号2、または配列番号3)のいずれかの内にあるか、または隣接している任意の位置であってもよい。対象座位の内、または隣接する特定の染色体位置が、統合される外因性遺伝子の安定した統合および効率的な転写を支持するかどうかは、当分野に公知の標準的な方法、たとえば米国特許第8,389,239号および米国特許出願14,919,300に記載される方法に従い決定することができる。
【0121】
本明細書において検討される統合部位は、発現強化配列内に位置し、または染色体DNA上の発現強化配列の位置に対し、たとえば約1kb未満、500塩基対(bp)、250bp、100bp、50bp、25bp、10bpまたは約5bp未満で上流(5’)または下流(3’)など、配列の近傍内に位置している。さらに一部の他の実施形態では、使用される統合部位は、染色体DNA上の発現強化配列の位置に対し、約1000塩基対、2500塩基対、5000塩基対またはそれ以上、上流(5’)または下流(3’)に位置している。
【0122】
当分野において、たとえばスキャホールド/マトリクス付着領域などの大きなゲノム領域が、染色体DNAの効率的な複製と転写に使用されると理解されている。スキャホールド/マトリクス付着領域(S/MAR:scaffold/matrix attachment region)は、スキャホールド-付着領域(SAR:scaffold-attachment region)またはマトリクス関連領域もしくはマトリクス付着領域(MAR:matrix-associatedまたはmatrix attachment region)とも呼称されることが知られており、真核細胞のゲノムDNA領域であり、ここに核マトリクスが付着する。いずれか1つの学説に拘束されないが、S/MARsは多くの場合、非コード領域にマッピングされ、その近辺から所与の転写領域(たとえばクロマチンドメイン)を隔て、また、転写を実行可能とする因子の構造および/または結合のためのプラットフォーム、たとえばデオキシリボヌクレアーゼまたはポリメラーゼに対する認識部位などを提供する。一部のS/MARsは、約14~20kbの長さで特徴解析されている(Klar,et al.2005,Gene 364:79-89)。したがって、発現強化座位(たとえば、配列番号1、配列番号2、もしくは配列番号3の内または近傍)での遺伝子の統合は、発現強化をもたらすことが予測される。一部の実施形態では、発現強化座位内の特定の部位に統合された、二特異性抗原結合タンパク質をコードする外因性核酸配列を備えた宿主細胞は、高い特異的生産性を示す。他の実施形態では、二特異性抗原結合タンパク質をコードする宿主細胞は、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、または30ピコグラム/細胞/日(pcd)の特異的生産性を有する。
【0123】
一部の実施形態では、統合部位は、配列番号1のヌクレオチド配列を備えた座位内である。特定の実施形態では、統合部位は、配列番号1のヌクレオチド配列の内、または近傍内である。特定の実施形態では、統合部位は、10~13,515;20~12,020;1,020~11,020;2,020~10,020;3,020~9,020;4,020~8,020;5,020~7,020;6,020~6,920;6,120~6,820;6,220~6,720;6,320~6,620;6,420~6,520;6,460~6,500;6,470~6,490;および6,475~6,485と番号づけられた位置に及ぶヌクレオチドから選択される、配列番号1内の位置である。他の実施形態では、統合部位は、配列番号1のヌクレオチド5,000~7,400、5,000~6,500、6,400~7,400、および配列番号1のヌクレオチド6,400~6,500からなる群から選択される配列中である。特定の実施形態では、統合部位は、配列番号1の「作動する」3つ組ヌクレオチド6471~6473の前、後、またはその中である。
【0124】
一部の実施形態では、統合部位は、配列番号2または配列番号3のヌクレオチド配列を備えた座位内である。特定の実施形態では、統合部位は、配列番号2のヌクレオチド配列の内、または近傍内である。特有の実施形態では、統合部位は、配列番号3のヌクレオチド配列の内、または近傍内である。一部の実施形態では、統合部位は、配列番号3のヌクレオチド1990~1991、1991~1992、1992~1993、1993~1994、1995~1996、1996~1997、1997~1998、1999~2000、2001~2002、2002~2003、2003~2004、2004~2005、2005~2006、2006~2007、2007~2008、2008~2009、2009~2010、2010~2011、2011~2012、2012~2013、2013~2014、2014~2015、2015~2016、2016~2017、2017~2018、2018~2019、2019~2020、2020~2021または2021~2022の内である。特定の実施形態では、統合は、配列番号3のヌクレオチド2001~2022で、またはその内である。一部の実施形態では、外因性核酸は、配列番号3のヌクレオチド2001~2002またはヌクレオチド2021~2022で、またはその内に挿入され、挿入の結果として、配列番号3のヌクレオチド2002~2021は削除される。
【0125】
発現強化座位内への部位特異的統合
部位特異的な様式で発現強化座位内への、すなわち、本明細書に開示される発現強化座位内の1つの特定の部位内への、複数の外因性核酸の統合は、いくつかの方法で実施することができ、たとえば、当分野に報告される相同組み換え、およびリコンビナーゼ介在性カセット交換などの方法が挙げられる(例えば米国特許第8,389,239号およびその中に開示される技術を参照のこと)。
【0126】
一部の実施形態では、対象の複数の外因性核酸または遺伝子を含有する核酸配列の統合に便利な発現強化座位内に、少なくとも2つ、すなわち2個以上の異なるリコンビナーゼ認識配列(RRS)を含有する細胞が提供される。かかる細胞は、たとえば米国特許第8,389,239号およびその中に開示される技術など、本明細書において以下に解説され、および当分野において解説されるように相同組み換えを含む様々な手段を用いて2つ以上のRRSを含有する外因性核酸配列を、所望される座位内に導入することにより取得することができる。
【0127】
特定の実施形態では、複数の外因性核酸の統合に便利な発現強化座位内に、3つ以上の異なるリコンビナーゼ認識配列(RRS)を含有する細胞が提供される。特定の実施形態では、2つの別個の外因性核酸の統合を介在することができる発現強化座位内に3つの異なるリコンビナーゼ認識配列(RRS)を含有する細胞が提供され、たとえば、この場合においてゲノム中の5’RRSおよび中間RRSは、統合される第一の外因性核酸に隣接する5’RRSと3’RRSに合致し、そしてゲノム中の中間RRSと3’RRSは、統合される第二の外因性核酸に隣接する5’RRSと3’RRSに合致する。
【0128】
適切なRRSは、LoxP、Lox511、Lox5171、Lox2272、Lox2372、Loxm2、Lox-FAS、Lox71、Lox66、およびそれらの変異体を含有する群から選択されてもよく、この場合において部位特異的リコンビナーゼはCreリコンビナーゼまたはその誘導体であり、これを使用して、リコンビナーゼ介在性カセット交換(RMCE)が実施される。他の例において、適切なRRSは、FRT、F3、F5、FRT 変異体-10、FRT 変異体+10、およびそれらの変異体を含有する群から選択されてもよく、この場合において、部位特異的リコンビナーゼのFlpリコンビナーゼまたはその誘導体が使用され、RMCEが実施される。さらに別の例では、RRSは、attB、attP、およびそれらの変異体を含有する群から選択されてもよく、部位特異的リコンビナーゼがphiC31インテグラーゼまたはその誘導体である場合、これを使用してRMCEが実施される。
【0129】
他の実施形態では、天然細胞は、相同組み換え技術により改変され、それにより複数の外因性核酸を含有する核酸配列が発現強化座位内の特定部位に統合される。
【0130】
相同組み換えに関しては、相同なポリヌクレオチド分子(すなわち、相同アーム)が並び、その配列区間を交換する。導入遺伝子が相同ゲノム配列に隣接されている場合、この交換の間に導入遺伝子が導入され得る。1つの例において、リコンビナーゼ認識部位は、相同組み換えを介し、統合部位で宿主細胞ゲノム内に導入されてもよい。他の例では、たとえば二特異性抗原結合タンパク質をともにコードする複数の核酸などの複数の外因性核酸を含有する核酸配列が宿主ゲノム内に挿入され、この場合において当該核酸配列は標的座位の配列に対し相同な配列(相同アーム)により隣接されている。
【0131】
染色体のDNA内の統合部位に切断を導入することによって真核細胞内での相同的組み換えを容易にすることができる。これは、ある一定の核を特定の統合部位へと標的化することによって遂行されてもよい。標的の遺伝子座においてDNA配列を識別するDNA結合したタンパク質は当該技術分野で既知である。遺伝子標的化ベクターは、相同的組み換えを容易にするためにも採用される。
【0132】
相同組み換えを実施するための遺伝子標的化ベクター構築およびヌクレアーゼ選択は、本発明が関連する当該技術分野の当業者の技能の範疇内である。一部の例では、モジュラー構造を有し、かつ個別のジンクフィンガードメインを含有するジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)は、標的配列内の特定の3-ヌクレオチド配列を識別する(例えば、標的とされる組み込みの部位)。一部の実施形態は、多重標的配列を標的化する個別のジンクフィンガードメインの組み合せを用いてZFNを利用することができる。転写活性化物質様(TAL)エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)は、部位特異的なゲノム編集にも採用されてもよい。TALエフェクタータンパク質DNA結合ドメインは、典型的にはFokIなどの制限ヌクレアーゼの非特定的な開裂ドメインと組み合せて利用される。一部の実施形態では、TALエフェクタータンパク質DNA結合したドメインおよび制限ヌクレアーゼ開裂ドメインを含む融合タンパク質は、本発明の遺伝子座内の標的配列においてDNAを識別および分割するために採用される(Boch J et al.,2009 Science 326:1509-1512)。RNA誘導型エンドヌクレアーゼ(RGEN)は、細菌性適応性免疫機構から開発されたプログラム可能なゲノムエンジニアリングツールである。このシステム、すなわちクラスター化された規則的な配置の短い回文の繰返し(CRISPR)/CRISPRに関連付けられた(Cas)免疫応答では、2つのRNAで複合化されたときタンパク質Cas9は、配列特異的なエンドヌクレアーゼを形成し、そのうちの1つは標的選択を誘導する。RGENは構成要素(Cas9およびtracrRNA)および標的に特異的なCRISPRRNA(crRNA)から成る。DNA標的開裂の効率と開裂部位の場所との両方とも、標的認識のための追加要件であるプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の位置に基づいて変化する(Chen,H.et al.,J.Biol.Chem.2014年3月14日にオンラインで出版、マニュスクリプトとしてはM113.539726)。座位(たとえば配列番号1、配列番号2、または配列番号3)の特異的な標的化に対し特有な配列は、これら配列の多くを、CHOゲノムに並行に並べることにより特定することができ、16~17塩基対の合致で、潜在的なオフターゲット部位を明らかにすることができる。
【0133】
一部の実施形態では、5’および3’の相同アームに隣接される対象核酸(たとえば、1つ以上の選択マーカー遺伝子に任意で隣接する1つ以上のRRSを含有する核酸、またはともに二特異性抗原結合タンパク質をコードする複数の外因性核酸を含有する核酸)を担持する標的化ベクターが、1つ以上の追加ベクターまたはmRNAとともに細胞内に導入される。1つの実施形態では、1つ以上の追化ベクターまたはmRNAは、限定されないが、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、ZFN二量体、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、TALエフェクタードメイン融合タンパク質、およびRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをはじめとする部位特異的ヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列を含有する。ある実施形態では、当該1つ以上のベクターまたはmRNAは、ガイドRNA、tracrRNA、およびCas酵素をコードするヌクレオチド配列を備えた第一ベクターと、ドナー(外因性)ヌクレオチド配列を備えた第二ベクターを含む。かかるドナー配列は、対象遺伝子をコードするヌクレオチド配列、または認識配列をコードするヌクレオチド配列、または標的挿入が意図されたこれら外因性要素の内のいずれか1つを備えた遺伝子カセットをコードするヌクレオチド配列を含有する。mRNAが使用される場合、mRNAは、当業者に公知の普遍的なトランスフェクション法を用いて細胞内にトランスフェクトされることができ、およびたとえばトランスポーゼーズまたはエンドヌクレアーゼなどの酵素をコードしてもよい。細胞内に導入されるmRNAは一過性であってもよく、ゲノム内に統合されないが、mRNAは、統合が発生するために必要な、または有益な外因性核酸を担持してもよい。一部の例では、mRNAは、付随ポリヌクレオチドの長期継続する副作用の任意のリスクを除外するために選択され、この場合、核酸の所望される統合を実施するためには短期発現のみが必要とされる。
【0134】
部位特異的統合のためのベクター
本明細書において、部位特異的統合を介して発現強化座位内に外因性核酸を導入するための核酸ベクターが提供される。適切なベクターとしては、RMCEを介した統合のためのRRSに隣接された外因性核酸配列を含有するように設計されたベクターと、相同組み換えを書いた統合のための相同アームに隣接された対象外因性核酸配列を含有するよう設計されたベクターが挙げられる。
【0135】
様々な実施形態では、RMCEを介した部位特異的統合を実施するためのベクターが提供される。一部の実施形態では、ベクターは、標的座位内への複数核酸の同時統合が達成されるように設計される。連続統合とは対照的に、同時統合は、二特異性抗原結合タンパク質を産生する望ましいクローンの効率的で迅速な単離を可能とする。
【0136】
一部の実施形態では、ベクターセットが提供され、当該セットは2個以上のベクターを含み、各ベクターは、1つ以上の核酸に隣接するRRSを少なくとも2個含有し、この場合において当該ベクターセット中の核酸はともに、二特異性抗原結合タンパク質をコードする。
【0137】
1つの実施形態では、ベクターセットは、5’から3’に向かって第一のRRS、第一のLCFをコードするヌクレオチド配列を備える第一の核酸、および第三のRRSを備える第一のベクター;5’から3’に向かって第三のRRS、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列を備える第二の核酸、第二のRRSを備える第二のベクターを含む。この場合において、第一または第二の核酸のいずれかは、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列をさらに備え、およびこの場合において第一および第二のHCF、ならびに第一のLCFは、二特異性抗原結合タンパク質の領域(たとえば可変領域)をコードする。一部の実施形態では、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第一のベクター上の第一の核酸中に含まれ(すなわち1つのベクター上に第一のLCFと第二のHCF)、たとえば第一のLCFをコードするヌクレオチド配列の下流などに任意で配置される。他の実施形態では、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第二のベクター上の第二の核酸中に含まれる(すなわち、1つのベクター上に第一のHCFと第二のHCF)。
【0138】
HCFをコードするヌクレオチド配列は、たとえば定常領域由来のアミノ酸またはドメインなどのアミノ酸をコードしてもよく、または定常領域全体をコードしてもよい。特定の実施形態では、HCFまたはLCFをコードするヌクレオチド配列は、1つ以上の定常ドメイン、たとえばCL、CH1、ヒンジ、CH2、CH3またはそれらの組み合わせをコードしてもよい。ある実施形態では、HCFをコードするヌクレオチド配列は、CH3ドメインをコードしてもよい。たとえば、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第一のCH3ドメインをコードしてもよく、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第二のCH3ドメインをコードしてもよい。第一および第二のCH3ドメインは同一であってもよく、または少なくとも1つのアミノ酸が異なっていてもよい。CH3ドメインにおける差異、または定常領域における差異は、本明細書に記載される二特異性抗原結合タンパク質に対する形式のいずれも取ることができ、たとえば異なるプロテインA結合特性を生じさせる差異、静電ステアリング、または「knob-and-hole」形式を生じさせる差異がある。いずれのアミノ酸配列の差異にも関係なく、2つのHCFコードヌクレオチド配列は、当該2つのヌクレオチド配列の内の1つがコドン改変されているという点で異なっていてもよい。
【0139】
一部の実施形態では、各HCFをコードするヌクレオチド配列は、独立して、たとえばプロモーターをはじめとする転写制御配列に動作可能に連結される。一部の実施形態では、2つのHCF含有ポリペプチドの転写の指示を行うプロモーターは同じである。一部の実施形態では、2つのHCF含有ポリペプチドの転写の指示を行うプロモーター、ならびにLCF含有ポリペプチドの転写の指示を行うプロモーターはすべて同じプロモーターである(たとえばCMVプロモーターなど)。一部の実施形態では、各HCFまたはLCFをコードするヌクレオチド配列は、独立して、誘導性プロモーターまたは抑制性プロモーターに動作可能に連結される。誘導性プロモーターおよび抑制性プロモーターによって、例えば、生産期(流加培養)でのみ産生が発生し、増殖期(シードトレイン(seed train)培養)の間は発生しないことが可能となる。誘導性プロモーターまたは抑制性プロモーターによって、1つ以上の対象遺伝子の特異的な発現も可能となる。一部の実施形態では、各HCFおよび/またはLCFをコードするヌクレオチド配列は、独立して、少なくとも1つのTetRオペレーター(TetO)またはArcオペレーター(ArcO)の上流のプロモーターに動作可能に連結される。さらに他の実施形態では、各HCFおよび/またはLCFをコードするヌクレオチド配列は、独立して、CMV/TetOまたはCMV/ArcOハイブリッドプロモーターに動作可能に連結される。ハイブリッドプロモーター(制御性融合タンパク質とも呼称される)の例は、2003年12月11日に公開された国際特許出願公開WO03101189A1(参照により本明細書に援用される)に見出される。
【0140】
一部の実施形態では、第一のベクター中の第一の核酸は、第一のベクター中の第三のRRSに対し5’に位置付けられる、選択マーカー遺伝子の5’部分をさらに備える。そして第二の核酸は、第二のベクター中の第三のRRSに対し3’に位置付けられる、選択マーカー遺伝子の残りの3’部分をさらに備える。これらの実施形態では、第一、第二、および第三のRRSは、第一および第二の核酸の部位特異的統合を介在し、それにより、選択マーカー遺伝子の5’部分と3’部分の適切な結合が生じ、同時に、簡便な選択のための統合クローンが作製される。ある実施形態では、第一のベクター中の第三のRRSは、選択マーカー遺伝子のイントロンの5’部分内にあるよう設計される。第二のベクター中の第三のRRSは、選択マーカー遺伝子のイントロンの3’部分内にあるよう設計される。さらに他の実施形態では、第一のベクター中の第三のRRSは、動作可能に連結される(が、他のベクター上では分離されている)プロモーターと選択マーカー遺伝子の間にあるように設計される。第一のベクター中の第三のRRSは、プロモーターの3’にあるように設計される。そして第二のベクター中の第三のRRSは、選択マーカー遺伝子の5’であるように設計される。
【0141】
上述のベクターセットは、3個以上のベクターを含んでもよい。たとえば上述の2個のベクターに加え、ベクターセットは、第二のLCFをコードするヌクレオチド配列に隣接するRRSを少なくとも2個備えた第三のベクターを含んでもよい。ベクターセットは、RRSを認識するリコンビナーゼを1個以上コードするベクターをさらに含んでもよい。
【0142】
他の実施形態では、相同組み換えを介した部位特異的統合を達成するためのベクターが提供される。一部の例では、宿主ゲノム内に統合されるポリヌクレオチド配列は、その後の二特異性抗原結合タンパク質をコードする核酸の統合に望ましい座位中に統合されるRRSを1個以上有する細胞の作製を目的とした、たとえば1個のRRSまたは複数のRRSなどのDNA配列であってもよく、それらRRSは、1個以上の選択マーカー遺伝子に隣接する。他の例では、宿主ゲノム内に統合されるポリヌクレオチド配列は、ともに二特異性抗原結合タンパク質をコードする複数の核酸を含む。たとえばポリヌクレオチド配列は、二特異性抗体の2つの異なる重鎖と共通軽鎖をコードする核酸を含む。一部の実施形態では、ともに二特異性抗原結合タンパク質をコードする複数の核酸は各々独立して(すなわち別々に)、制御性配列(たとえばプロモーター、エンハンサー、転写終結配列、またはそれらの組み合わせ)に動作可能に連結されている。すなわち当該複数核酸の各々に対する制御性配列(たとえばプロモーター)は別個であり、それらは同一であっても、異なっていてもよい(すなわち、同じヌクレオチド配列または異なるヌクレオチド配列を含有する)。複数の核酸の中のある核酸が、複数のコード配列を含む場合、各コード配列、またはポリペプチドのN末端部分をコードする各ヌクレオチド配列は独立して、それら自身の制御性配列(たとえばプロモーター)に動作可能に連結される。
【0143】
発現強化座位内の配列に相同な配列を選択し、標的化ベクター中に相同アームとして当該選択された配列を含ませることは、当業者の技術範囲内にある。一部の実施形態では、ベクターまたは構築物は、第一の相同アームと第二の相同アームを備え、この場合において、組み合わされた第一および第二の相同アームは、座位内で、内因性配列を置き換える標的配列を備える。他の実施形態では、第一および第二の相同アームは、座位内の内因性配列内に統合される、または挿入される標的配列を備えている。一部の実施形態では、相同アームは、配列番号1、配列番号2、または配列番号3に存在するヌクレオチド配列に対し相同なヌクレオチド配列を含有する。特定の実施形態では、ベクターは、配列番号3のヌクレオチド1001~2001に相当するヌクレオチド配列を有する5’相同アームと、配列番号3のヌクレオチド2022~3022に相同するヌクレオチドを有する3’相同アームを含有する。相同アーム、たとえば第一の相同アーム(5’相同アームとも呼ばれる)と、第二の相同アーム(3’相同アームとも呼ばれる)は、座位内の標的配列に対し相同である。5’から3’の方向に相同アームは、少なくとも1kb、または少なくとも2kb、または少なくとも3kb、または少なくとも4kb、または少なくとも5kb、または少なくとも10kbを備える、座位内の領域または標的配列を伸長してもよい。他の実施形態では、第一および第二の相同アームに選択された標的配列のヌクレオチドの総数は、少なくとも1kb、または少なくとも2kb、または少なくとも3kb、または少なくとも4kb、または少なくとも5kb、または少なくとも10kbを含有する。一部の例では、5’相同アームと3’相同アームの間の距離(標的配列に対し相同)は、少なくとも5bp、10bp、20bp、30bp、40bp、50bp、60bp、70bp、80bp、90bp、100bp、200bp、300bp、400bp、500bp、600bp、700bp、800bp、900bp、または少なくとも1kb、または少なくとも約2kb、または少なくとも約3kb、または少なくとも約4kb、または少なくとも5kb、または少なくとも約10kbを含有する。配列番号3のヌクレオチド1001~2001と2022~3022が5’相同アームと3’相同アームに選択された場合の例では、その2つの相同アームの間の距離は、20ヌクレオチド(配列番号3のヌクレオチド2002~2021に相当する)であってもよい。かかる相同アームは、配列番号3を含有する座位内、たとえば配列番号3のヌクレオチド1990~2021または2002~2021内への外因性核酸配列の統合と、配列番号3のヌクレオチド2002~2021の同時削除を介在することができる。
【0144】
発現強化座位内へ部位特異的統合を行うための外因性核酸を導入するための本明細書に開示されるベクターは、追加の遺伝子と、対象の外因性核酸とコードされるポリペプチドの発現を指示するための配列、および対象の外因性核酸の統合が成功した細胞の選択と特定のための配列を含んでもよい。かかる追加配列としては、たとえば転写及び翻訳の制御配列、選択マーカー遺伝子、およびそれに類するものが挙げられ、本明細書において以下にも記載されている。
【0145】
制御配列
部位特異的な様式で発現強化座位内に外因性核酸を導入するための本明細書に開示されるベクター、および部位特異的統合の結果として得られた細胞は、対象の外因性核酸、およびコードされるポリペプチドの発現を指示するための制御配列を含んでもよい。制御配列としては、転写プロモーター、エンハンサー、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、ならびに転写および翻訳の停止を管理する配列が挙げられる。転写管理配列および翻訳管理配列は、ウイルス性の供給源によって提供されてもよい。たとえば、普遍的に使用されているプロモーターとエンハンサーは、たとえばポリオーマ、アデノウイルス2、シミアンウイルス40(SV40)、マウスまたはヒトのサイトメガロウイルス(CMV)などのウイルス、CMV前初期(CMV-IE)またはCMV主要IE(CMV-MIE)のプロモーター、ならびにRSV、SV40後期プロモーター、SL3-3、MMTV、ユビキチン(Ubi)、ユビキチンC(UbC)、およびHIV LTRのプロモーターに由来する。ウイルス性ゲノムプロモーター、制御配列、および/またはシグナル配列は、発現を駆動するために利用されてもよく、提供されたかかる制御配列は、選ばれた宿主細胞と両立する。対象タンパク質が発現される細胞型に応じて、非ウイルス性細胞プロモーター(例えば、β-グロビンおよびEF-1αプロモーター)を使用することもできる。外因性DNA配列の発現に有用なその他の遺伝子要素を提供するために、SV40ウイルス性ゲノムに由来するDNA配列、例えば、SV40起源の前期および後期プロモーター、エンハンサー、スプライス、ならびにポリアデニル化部位を使用してもよい。前期プロモーターおよび後期プロモーターは特に有用である。その理由は、両プロモーターとも、断片としてSV40ウイルスから用意に取得され、これらも複製のSV40ウイルス起源を含むためである(Fiers et al.,Nature 273:113,1978)。より小さいSV40断片またはより大きいSV40断片も使用されてもよい。典型的には、Hind III部位から複製のSV40起源に位置付けられたBglI部位に向かって延在するほぼ250bpの配列が含まれる。誘導性プロモーター(たとえば化合物、補因子、制御性タンパク質により誘導される)を使用することができ、それらは、生産期(流加培養)でのみ抗原結合タンパク質の産生を発生させ、増殖期(シードトレイン(seed train)培養)の間は発生させない場合に、特に有用である。誘導性または抑制性プロモーターの例としては、アルコール脱水素酵素I遺伝子プロモーター、テトラサイクリン応答性プロモーター系、グルココルチコイド受容体プロモーター、エストロゲン受容体プロモーター、エクジソン受容体プロモーター、メタロチオネイン系プロモーター、およびT7ポリメラーゼ系プロモーターが挙げられる。バイシストロニックベクターを介した複数の転写物の発現に適した配列は従前に報告されており(Kim S.K.and Wold B.J.,Cell 42:129,1985)、これを本発明に使用することができる。タンパク質のマルチシストロニック発現に好適な戦略例としては、2Aペプチド(Szymczak et al.,Expert Opin Biol Ther 5:627-638(2005))の使用、および内部リボソーム進入部位(「IRES」)の使用が挙げられ、それらは両方とも当分野に公知である。その他のタイプの発現ベクターも有用であり、例えば、米国特許第4,634,665号(Axelら)および米国特許第4,656,134号(Ringoldら)に記述されるものがある。
【0146】
選択マーカー
部位特異的な様式で発現強化座位内に外因性核酸を導入するための本明細書に開示されるベクター、および部位特異的統合の結果として得られた細胞は、1つ以上の選択マーカー遺伝子を含んでもよい。
【0147】
一部の実施形態では、選択マーカー遺伝子はたとえばKaufman,R.J.(1988)Meth.Enzymology 185:537の表1に記載されるものなど、薬剤耐性を寄与するものであり、DHFR-MTX抵抗性、P-糖たんぱく質および多剤耐性(MDR)-様々な脂溶性細胞毒性剤(たとえば、アドリアマイシン、コルヒチン、ビンクリスチン)、およびアデノシンデアミナーゼ(ADA)-Xyl-A、またはアデノシンおよび2’-デオキシコホルマイシンへの耐性が挙げられる。他の主要な選択マーカーとしては、たとえばネオマイシン抵抗性、カナマイシン抵抗性、またはハイグロマイシン抵抗性などの微生物由来抗生物質抵抗性遺伝子が挙げられる。いくつかの適切な選択システムが、哺乳類宿主用に存在している(Sambrook、上記、頁16.9-16.15)。2つの主要選択マーカーを用いた共トランスフェクションのプロトコールも報告されている(Okayama and Berg,Mol.Cell Biol 5:1136,1985)。
【0148】
他の実施形態では、選択マーカー遺伝子は、場合により挿入および/もしくは置換が成功した、または成功していない遺伝子カセットの認識用の検出シグナルを提供する、または検出シグナルを生成することができるポリペプチドをコードする。適切な例としては、とくに蛍光マーカーまたはタンパク質、検出シグナルを生成する化学反応を触媒する酵素が挙げられる。蛍光マーカーの例は当分野に公知であり、限定されないが、Discosomaサンゴ(DsRed)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、高感度緑色蛍光タンパク質(eGFP)、藍色蛍光タンパク質(CFP)、高感度藍色蛍光タンパク質(eCFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、高感度黄色蛍光タンパク質(eYFP)、および近赤外蛍光タンパク質(たとえば、mKate、mKate2、mPlum、mRaspberryまたはE2-クリムゾン)が挙げられる。たとえば、Nagai,T.,et al.2002 Nature Biotechnology 20:87-90;Heim,R.et al.1995年2月23日 Nature 373:663-664;およびStrack,R.L.et al.2009 Biochemistry 48:8279-81を参照のこと。
【0149】
二特異性抗原結合タンパク質を作製するためのシステム
さらなる態様において、本開示は、細胞と、1つ以上のベクターの組み合わせを含み、および発現強化座位内に外因性核酸が統合された細胞の作製に利用可能なシステムを提供するものであり、当該外因性核酸はともに二特異性抗原結合タンパク質をコードする。当該システムは、たとえばキットの形態で提供されてもよい。
【0150】
一部の実施形態では、システムは、効率的なベクター構築、および発現強化座位内の特定の部位へRMCEを介して複数の外因性核酸を同時統合することが可能となるよう設計される。同時統合により、所望されるクローンの迅速な単離が可能となり、1つの発現強化座位を使用することは、安定した細胞株の生成にも重要である。
【0151】
一部の実施形態では、RMCEを介して複数の外因性核酸が統合されるよう設計された上述のベクターセットの内のいずれか1つと、発現強化座位内の特定の部位に統合され、ベクターセット中のRRSと合致しているRRSを含有する細胞を含むシステムが提供される。たとえばシステムは細胞とベクターセットを含み、この場合において当該細胞は、5’から3’の方向に、そのゲノムの発現強化座位内に統合された以下を含有する:第一のRRS、第一の外因性核酸、第二のRRS、第二の外因性核酸、および第三のRRS。この場合においてその3つのRRSは互いに異なっている。この場合においてベクターセットは、5’から3’の方向に第一のRRS、第一のLCF(たとえば第一のVL)をコードするヌクレオチド配列を備えた第一の核酸、そして第二のRRSを備えた第一のベクターと、第二のRRS、第一のHCF(たとえば第一のVH)をコードするヌクレオチド配列を備えた第二の核酸、そして第三のRRSを備えた第二のベクターを含み、この場合において第一の核酸または第二の核酸のいずれかは第二のHCF(たとえば第二のVH)をコードするヌクレオチド配列をさらに備える。ベクターが細胞内に導入されると、ベクター中の第一および第二の核酸が、第一、第二および第三のRRSにより介在される組み換えを介して発現強化座位内に統合する。ベクターから座位内に適切に統合された核酸を有するトランスフェクタントのスクリーニングを容易にするために、システムの細胞中の第一の外因性核酸は、第一の選択マーカー遺伝子を含んでもよく、細胞中の第二の外因性核酸は、第二の選択マーカー遺伝子を含んでもよく、この場合において第一および第二の選択マーカー遺伝子は互いに異なっており、そしてベクターによりもたらされる任意の選択マーカー遺伝子とも異なっている。特定の実施形態では、第一および第二の選択マーカー遺伝子は、蛍光タンパク質(ネガティブ選択を提供することができる)をコードし、ベクター上の第一および第二の核酸は、ポジティブ選択を提供するために分割形式で追加の選択マーカー遺伝子を提供する。ネガティブ選択単独でも迅速なクローン単離が可能であるが、意図される組み換えを伴うクローンの単離効率は限定的である場合がある(約1%)。ポジティブ選択(新たな蛍光、または薬剤もしくは抗生物質に対する抵抗性)とネガティブ選択を組み合わせることで、陽性クローンの単離効率は大幅に改善され得る(約80%まで)。
【0152】
システムは、追加の構成要素、試薬、または情報、たとえばトランスフェクションによる、システムの細胞内へのシステムのベクター導入に関するプロトコールなどを含んでもよい。非限定的なトランスフェクション方法としては、化学系のトランスフェクション法が挙げられ、リポソーム、ナノ粒子、リン酸カルシウム(Graham et al.(1973)Virology 52(2):456-67,Bacchetti et al.(1977) Proc Natl Acad Sci USA 74(4):1590-4 and,Kriegler,M(1991) Transfer and Expression:A Laboratory Manual.New York:W.H.Freeman and Company.pp.96-97)、デンドリマー、またはたとえばDEAEデキストランもしくはポリエチレンイミンなどのカチオン性ポリマーの使用が挙げられる。非化学的な方法としては、エレクトロポレーション法、ソノ-ポレーション法、および光学的トランスフェクション法が挙げられる。粒子系のトランスフェクション法としては、遺伝子銃、磁性補助トランスフェクション法(Bertram,J.(2006)Current Pharmaceutical Biotechnology 7,277-28)の使用が挙げられる。ウイルス法もトランスフェクションに使用することができる。mRNA送達は、TransMessenger(商標)およびTransIT(登録商標)(Bire et al.BMC Biotechnology 2013,13:75)を使用する方法が挙げられる。普遍的に使用されている細胞内に異種DNAを導入する1つの方法は、リン酸カルシウム沈殿法であり、たとえば、Wigler et al.(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:3567,1980)に記載されている。細菌プロトプラストと、哺乳類細胞のポリエチレン誘導性融合(Schaffner et al.,(1980)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:2163)は、もう1つの有用な異種DNA導入方法である。エレクトロポレーション法は、宿主細胞の細胞質内に直接DNAを導入するために使用することもでき、たとえば、Potter et al.(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:7161,1988)またはShigekawa et al.(BioTechniques 6:742,1988)に記載されている。哺乳類細胞内への異種DNAの導入に有用な他の試薬は、たとえばLipofectin(商標)試薬およびLipofectamine(商標)試薬(Gibco BRL、米国メリーランド州、ゲイザースバーグ)などが報告されている。これらの市販の試薬は両方とも脂質-核酸複合体(またはリポソーム)を形成するために使用され、培養細胞に適用される場合、細胞内への核酸取り込みを促進する。
【0153】
二特異性抗原結合タンパク質の作製方法
本開示は、二特異性抗原結合タンパク質の作製方法もさらに提供する。本方法を利用することで、二特異性抗原結合タンパク質(たとえば二特異性抗体)が高力価および/または高い特異的生産性(pg/細胞/日)で産生され得る。一部の実施形態では、二特異性抗原結合タンパク質は、少なくとも5mg/L、10mg/L、15mg/L、20mg/L、25mg/L、30mg/L、35mg/L、40mg/L、45mg/L、50mg/Lまたはそれ以上の力価で産生される。一部の実施形態では、総抗原結合タンパク質力価に対する二特異性抗原結合タンパク質力価の比率が、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、50%またはそれ以上で、二特異性抗原結合タンパク質が産生される。一部の実施形態では、二特異性抗原結合タンパク質は、1日当たり、1細胞当たりで産生される総抗原結合タンパク質(pg)に基づき決定される特異的生産性が、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15ピコグラム/細胞/日またはそれ以上で、産生される。
【0154】
1つの実施形態では、当該方法は、本明細書に開示されるシステムを利用し、そしてトランスフェクションによって当該システムの細胞内に、当該システムのベクターを導入する。RMCEを介して細胞の標的強化発現座位内に外因性核酸が適切に統合されたトランスフェクト細胞がスクリーニングされ、特定されてもよい。2つのHCF含有ポリペプチドおよび少なくとも1つのLCF含有ポリペプチドは、統合核酸から発現されることができ、その3つのポリペプチドすべてを含有する二特異性抗原結合タンパク質は、特定されたトランスフェクト細胞から取得され、公知の方法を使用して精製されることができる。
【0155】
一部の実施形態では、方法は、(i)細胞とベクターセットを含むシステムを提供することであって、当該細胞は、5’から3’の方向に、そのゲノムの発現強化座位内に統合された、第一のRRS、第一の外因性核酸、第二のRRS、第二の外因性核酸、および第三のRRSを含有し、この場合においてその3つのRRSは互いに異なっており、当該ベクターセットは、5’から3’の方向に第一のRRS、第一のLCF(たとえば第一のVL)をコードするヌクレオチド配列を備えた第一の核酸、そして第二のRRSを備えた第一のベクターと、第二のRRS、第一のHCF(たとえば第一のVH)をコードするヌクレオチド配列を備えた第二の核酸、そして第三のRRSを備えた第二のベクターを含み、この場合において第一の核酸または第二の核酸のいずれかは第二のHCF(たとえば第二のVH)をコードするヌクレオチド配列をさらに備えること、(ii)当該ベクターを、当該細胞内に同時に導入すること、および(iii)ベクター中の第一の核酸と第二の核酸が、第一、第二、および第三のRRSにより介在される組み換えを介して強化発現座位内に同時に統合された形質転換細胞をスクリーニングすること、を含む。
【0156】
本方法の特定の実施形態では、ベクターから座位内に適切に統合された核酸を有する形質転換体のスクリーニングを容易にするために、システムの細胞中の第一の外因性核酸は、第一の選択マーカー遺伝子を含んでもよく、細胞中の第二の外因性核酸は、第二の選択マーカー遺伝子を含んでもよく、この場合において第一および第二の選択マーカー遺伝子は互いに異なっており、そしてベクター上の第一および第二の核酸はともに、分割形式で追加の選択マーカーをコードし、分割形式では、同時統合の後に、当該追加の選択マーカー遺伝子をコードする完全配列がもたらされる。形質転換体のスクリーニングは、第一および第二の選択マーカーに対する選択(ネガティブ選択)、そして追加の選択マーカーを目的とした選択(ポジティブ選択)を行うように実施されてもよい。
【0157】
別の実施形態では、当該方法は単純に、細胞の発現強化座位内の特定の部位で統合された外因性核酸配列を有する細胞を利用するものであり、この場合において当該外因性核酸配列は、二特異性抗原結合タンパク質をコードし、当該細胞から当該二特異性抗原結合タンパク質を発現させる。特定の統合部位内で連続的なクローン化発現カセット。
【0158】
本明細書は、限定するものとして解釈すべきではない以下の実施例により、さらに例示される。全ての引用参考文献(本出願全体で引用される文献参照、発行特許、及び公表された特許出願を含む)は、参照により本明細書に明確に組み込まれる。
【実施例
【0159】
実施例1:二特異性抗体発現プラスミドのクローニング:
二特異性抗体の重鎖と軽鎖の構成要素を、ハイブリドーマ細胞、B細胞、プラズマ細胞、または組み換え抗体遺伝子ライブラリから、当分野に公知の方法を使用してクローニングしてもよい。たとえば、抗体は、ファイブプライムRACE PCR、またはリーダーペプチド、フレームワーク1配列、フレームワーク4配列、もしくは定常領域配列に対するプライマーを使用したPCRにより、ハイブリドーマまたはB細胞からクローニングされてもよい。あるいは、抗体発現細胞中の抗体遺伝子またはmRNAを次世代シークエンスにより配列解析し、その後、バイオインフォマティクスを介して特定してもよい。抗体タンパク質を配列解析し、合成DNA技術により対応する抗体遺伝子をクローニングすることも実現可能である。たとえば酵母ライブラリまたはファージライブラリなどの組み換え抗体ライブラリも、抗体遺伝子の供給源である。
【0160】
CHO発現細胞株のRSX4189-1、RSX4187-1、RSX4191-1、およびRSX4188-1はそれぞれ、3つの別個のポリペプチドから構成される二特異性抗体を産生する:AbC1、AbC2、およびAbC3(図5)。RSX4189-1構築用のプラスミドを作製するために、Mfe Iで消化することによりAbC1プラスミドを直線化させた。Mfe Iは、AbC1遺伝子に対し、3’であった。Mfe I消化によりAbC2プラスミドから切り出されたAbC2発現カセットは、直線化AbC1プラスミドのMfe I部位にライゲートされた。ライゲーション産物を、DH10B大腸菌(E.coli)に形質転換した。形質転換を行い、アンピシリン含有LB培地中で増殖させた後、AbC1遺伝子とAbC2遺伝子を含有する所望のプラスミドの担持に関し、個々の大腸菌(E.coli)コロニーを解析した。AbC3プラスミドと、AbC1-AbC2二重発現プラスミドに対するマキシ‐プレップDNA(maxi-prep DNA)の配列は、サンガーシークエンスにより確認された。これら2つのプラスミドは、Cre発現プラスミドのpRG858とともに、リポフェクタミンを使用して、EESYR(登録商標)座位でRRS1とRRS3部位を担持するEESYR(登録商標)宿主細胞へとトランスフェクトされた。トランスフェクトされた細胞は12日間、抗生物質を使用して選択され、その後、組み換え細胞はRSX4189-1として保存された。
【0161】
RSX4187-1構築用のプラスミドを作製するために、Mlu I部位とNhe I部位に隣接されるAbC3発現カセットを、AbC2プラスミド中のMlu I部位とSpe I部位内にクローニングした。Mlu I部位とSpe I部位は、AbC2遺伝子に対し3’であった。AbC2-AbC3プラスミド、AbC1プラスミド、そしてCreプラスミドpRG858を1つにまとめ、リポフェクタミンを使用して、EESYR(登録商標)宿主細胞へと共トランスフェクトした。RMCEを経た細胞を、RSX4187-1として保存した。
【0162】
RSX4191-1構築用のプラスミドを作製するために、AbC3発現カセットを、AbC1プラスミド中のMfe I部位内にクローニングした。Mfe I部位は、AbC1遺伝子に対し3’であった。AbC1-AbC3プラスミド、AbC2プラスミド、そしてCreプラスミドpRG858を1つにまとめ、リポフェクタミンを使用して、EESYR(登録商標)宿主細胞へと共トランスフェクトした。RMCEを経た細胞を、RSX4191-1として保存した。
【0163】
RSX4188-1構築用のプラスミドを作製するために、Mlu I部位とNhe I部位に隣接されるAbC2発現カセットを、AbC3プラスミド中のMlu I部位とSpe I部位内にクローニングした。Mlu I部位とSpe I部位は、AbC3遺伝子に対し3’であった。AbC3-AbC2プラスミド、AbC1プラスミド、そしてCreプラスミドpRG858を1つにまとめ、リポフェクタミンを使用して、EESYR登録商標)宿主細胞へと共トランスフェクトした。RMCEを経た細胞を、RSX4188-1として保存した。
【0164】
実施例2:EESYR(登録商標)座位からの二特異性抗体の発現
二特異性抗体発現細胞株のRSX4189-1、RSX4187-1、RSX4191-1、およびRSX4188-1を、無血清培地中、懸濁状態で培養した。それらの二特異性抗体の発現レベルを定量するために、培養物の細胞数を、Guavaフローサイトメーター上で計測し、1mlの培地当たり200万個の細胞を含有する振とうフラスコ培養を新たに開始した。4日後、馴化培地を遠心後に回収し、細胞を除去した。二特異性抗体価は、その二特異性抗体に特異的なプロテインA HPLCアッセイを使用して決定された。RSX4189-1、RSX4187-1、RSX4191-1、およびRSX4188-1から発現された二特異性抗体タンパク質の力価はそれぞれ、37.8mg/L、40.5mg/L、48.3mg/L、および21.8mg/Lであった。これら細胞株から発現されたすべての抗体タンパク質(二特異性抗体タンパク質と一特異性抗体タンパク質を含む)の総力価と、総抗体タンパク質力価に対する二特異性抗体タンパク質力価の比率を、以下の表に示す。
【表1】
【0165】
配列表
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【表2-6】
【表2-7】
【表2-8】
【表2-9】
【表2-10】
【表2-11】
【表2-12】
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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