(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】可溶型CLEC-2と血小板数に基づく血小板活性化測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240829BHJP
G01N 33/49 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/49 X
(21)【出願番号】P 2022503738
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2021007273
(87)【国際公開番号】W WO2021172493
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-05-01
(31)【優先権主張番号】P 2020032797
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592031097
【氏名又は名称】PHC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】石倉 宏恭
(72)【発明者】
【氏名】川村 雅英
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-070942(JP,A)
【文献】特開2013-228229(JP,A)
【文献】特表2014-520123(JP,A)
【文献】国際公開第2013/168602(WO,A1)
【文献】FEI, Min et al.,Plasma soluble C-type lectin-like receptor-2 is associated with the risk of coronary artery disease,Frontiers of Medicine,2020年,vo.14, no.1,pp.81-90,doi.org/10.1007/s11684-019-0692-x
【文献】INOUE, Osamu et al.,Soluble CLEC-2 is generated independently of ADAM10 and is increased in plasma in acute coronary syndrome: comparison with solible GPVI,International Journal of Hematology,2019年,vol.110,pp.285-294,doi.org/10.1007/s12185-019-02680-4
【文献】八木 高秀 ほか,本態性高血圧症およびSHRSPにおける病気進展と平均血小板容積,血小板数の変動,近畿大医誌,1985年,vol.10, no.1,pp.17-24
【文献】FEI, Min et al.,The production of soluble C-type lectin-like receptor 2 is a regulated process,Glycoconjugate Journal,2012年,vol.12,pp.315-321
【文献】石倉 宏恭 他,O-028 敗血症患者における新規血小板活性化マーカー可溶性CLEC2の血中動態,日本血栓止血学会誌,2020年,vol.31, no.2,p.224
【文献】YAMASHITA, Yoshiki et al.,Elevated plasma levels of soluble C-type lectin-like receptor 2 (CLEC2) in patients with thrombotic microangiopathy,Thrombosis Research,2019年,vol.178,pp.54-58,doi.org/10.1016/j.thromres.2019.03.018
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)被検対象由来の被検試料中の可溶型CLEC-2濃度と血小板数を測定する工程、及び
(2)前記可溶型CLEC-2濃度を前記血小板数で除することにより、可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値を計算する工程、
を含む、血小板活性化状態の把握を補助する方法。
【請求項2】
健常対象に由来する被検試料を使用して得られた可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値と比較する工程を更に含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記可溶型CLEC-2濃度/血小板の値が、血栓止血疾患の病態を反映するマーカーである、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記血栓止血疾患が、播種性血管内凝固症候群(DIC)、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症、深部静脈血栓症、肺血栓塞栓症、心原性脳梗塞、抗リン脂質症候群、敗血症のいずれかである、請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
血栓止血疾患患者を対象として、当該血栓止血疾患の予後または治療経過をモニタリングする手法として使用するための、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
(1)被験対象由来の被検試料中の可溶型CLEC-2濃度と血小板数を記憶することのできる記憶手段、
(2)前記可溶型CLEC-2濃度を前記血小板数で除することにより、可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値を計算することのできる計算手段、
(3)得られた被検対象の前記可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値を、健常対象の可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値と比較することのできる比較手段、及び
(4)前記比較により得られた結果を表示することのできる表示手段、
を含む、血小板活性化状態を把握するためのシステム。
【請求項7】
プロセッサ及び前記プロセッサの制御化にあるメモリを含むコンピュータを備え、前記メモリには、下記の工程:
(1)被験対象由来の被検試料中の可溶型CLEC-2濃度と血小板数を前記メモリに記憶させる記憶工程、
(2)前記可溶型CLEC-2濃度を前記血小板数で除することにより、可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値を計算する計算工程、
(3)前記計算工程で得られた前記可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値を、健常対象の可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値と比較する比較工程、及び
(4)前記比較工程で得られた結果を表示する表示工程、
を前記コンピュータに実行させるためのプログラムが記録されている、血小板活性化状態を把握するためのシステム。
【請求項8】
請求項
6又は7に記載のシステムを備えた、電子カルテ、臨床検査装置、又は病院内検査システム。
【請求項9】
(1)可溶型CLEC-2測定試薬および/または血小板測定試薬、及び
(2)可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値と、血小板活性化状態との関連を記載した添付文書、
を含む、血小板活性化状態の把握用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可溶型CLEC-2と血小板数に基づく血小板活性化測定方法および血栓止血疾患の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管内に形成される血栓は、広範囲にわたる人間の病気の中でも生死にかかわる重大な病因因子とされている。血小板による血栓の増大や血小板凝集の積み重ねは、深刻な心筋梗塞、慢性不安定狭心症、一過性虚血、末梢血管障害、動脈血栓症、閉塞性動脈硬化症、肺血栓塞栓症、そしてステントの再狭窄といった疾患を引き起こす。先進国では血栓による冠動脈閉塞や脳循環障害が死因の上位に認められ、血栓症の制圧は世界的な喫緊の課題である。また、自然災害発生時においては、災害避難時の深部静脈血栓症および肺塞栓症(静脈血栓が血流にのって肺動脈を閉塞する疾患)の予防が喚起されており、その取り組みが重要視されている。血小板には、血小板内に顆粒、血小板表面に多くの膜糖タンパク質が存在し、血小板活性化に伴って顆粒の放出や膜糖タンパク質の構造変化が起こり、その中の一部は血小板活性化マーカーとして利用されている。
【0003】
血小板第4因子(PF4)およびβ-トロンボグロブリン(βTG)は、血小板のα顆粒中に含まれ、血小板の活性化に伴って放出されるため、従来より血小板活性化マーカーとして利用されている。しかしながら、採血などの軽微な刺激でも顆粒中の物質が放出されるため、血小板活性化抑制剤カクテルの入った専用採血管と20ゲージ(G)以上の太い採血針を用いて駆血帯をせずに採血し、すぐに氷冷する、という煩雑な過程を踏まなければならないなど、採血手技や検体処理に制約が多く、それに加え、データの信頼性の面から臨床ではあまり利用されていない。
【0004】
また、近年、血小板の活性化に伴いプロテアーゼによって切断された膜糖タンパク質が血小板活性化マーカーとしての利用価値が高まっている。具体的には、vonWillebrand因子(vWF)受容体GPIbaやコラーゲン受容体GPVIが代表的な分子として挙げられるが、いずれも臨床的な意義に関する知見が乏しく、また、ある種のリガンド依存的な放出反応であるため、血小板の活性化状態を正確に反映しているか不明な点が多い。
【0005】
CLEC-2(C-type lectin-like receptor 2)は、2006年に井上らによって同定されたC型レクチンファミリーに属する血小板活性化受容体である(特許文献1、2)。また、近年の研究成果により、CLEC-2は血小板活性化に伴い膜表面から遊離し、可溶型となって放出されることが報告されている(非特許文献1、特許文献3)。また、可溶型CLEC-2を、いくつかの病態で測定した文献は出版されてきているが、その臨床応用については不明なところが多い。(非特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4961595号公報
【文献】特開2007-070359号公報
【文献】特許第6078845号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Platelets 2015; 26(8):711-719
【文献】Thrombosis Research, 2019, Vol. 178, p. 54-58
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、生体内の血小板活性化をよりよく反映するバイオマーカーを開発し、血栓止血疾患の検査などに利用することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、既報の血漿中可溶型CLEC-2(以下、sCLEC-2と称することがある)濃度は生体中の血小板活性化の度合いを反映するが、必ずしもそれのみでは正確な診断ができないことを見出した。sCLEC-2は血小板が活性化する時に、血小板から血漿中に放出される分子で、血漿中sCLEC-2の濃度を測定することは血小板の活性化の度合いを反映するものと期待されていた。しかし、様々な病態の血液を用いて検討を行うと、血漿中sCLEC-2濃度は血小板の活性化をある程度反映するが、その濃度は血液中の血小板数にも正の相関を示すことが判明した。血中の血小板数は人によって異なり、また病態によって増減する場合もある。血漿中sCLEC-2濃度は血小板が活性化していても血小板数が少ない場合は低くなり、逆に血小板の活性化が弱くても血小板数が増加した場合は高くでてしまい、必ずしも生体中の血小板の活性化の度合いを反映しないことがあることを見出した。そこで、血漿中sCLEC-2濃度を血小板数で除すれば血小板当たりのsCLEC-2放出量がわかり、これを指標とした方が血小板の活性化をより反映するのでないかと考えて、検討を進めた。その結果血漿中sCLEC-2濃度/血小板数は血漿中sCLEC-2濃度そのものより血栓性疾患の病態を反映することを見出し、この指標が血栓止血疾患の検査にも使用できることを見出した。以上の知見により、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明は以下を提供する:
[1](1)被検対象由来の被検試料中の可溶型CLEC-2濃度と血小板数を測定する工程、及び
(2)前記可溶型CLEC-2濃度および前記血小板数から血小板活性化状態を把握する工程、
を含む、血小板活性化状態の把握を補助する方法。
[2](1)被検対象由来の被検試料中の可溶型CLEC-2濃度と血小板数を測定する工程、及び
(2)前記可溶型CLEC-2濃度を前記血小板数で除することにより、可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値を計算する工程、
を含む、血小板活性化状態の把握を補助する方法。
[3]健常対象に由来する被検試料を使用して得られた可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値と比較する工程を更に含む、[2]の方法。
[4]前記可溶型CLEC-2濃度/血小板の値が、血栓止血疾患の病態を反映するマーカーである、[2]又は[3]の方法。
[5]前記血栓止血疾患が、播種性血管内凝固症候群(DIC)、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症、深部静脈血栓症、肺血栓塞栓症、心原性脳梗塞、抗リン脂質症候群、敗血症のいずれかである、[4]の方法。
[6]血栓止血疾患患者を対象として、当該血栓止血疾患の予後または治療経過をモニタリングする手法として使用するための、[1]~[5]のいずれかの方法。
[7](1)被験対象由来の被検試料中の可溶型CLEC-2濃度と血小板数を記憶することのできる記憶手段、
(2)前記可溶型CLEC-2濃度を前記血小板数で除することにより、可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値を計算することのできる計算手段、
(3)得られた被検対象の前記可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値を、健常対象の可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値と比較することのできる比較手段、及び
(4)前記比較により得られた結果を表示することのできる表示手段、
を含む、血小板活性化状態を把握するためのシステム。
[8]プロセッサ及び前記プロセッサの制御化にあるメモリを含むコンピュータを備え、前記メモリには、下記の工程:
(1)被験対象由来の被検試料中の可溶型CLEC-2濃度と血小板数を前記メモリに記憶させる記憶工程、
(2)前記可溶型CLEC-2濃度を前記血小板数で除することにより、可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値を計算する計算工程、
(3)前記計算工程で得られた前記可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値を、健常対象の可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値と比較する比較工程、及び
(4)前記比較工程で得られた結果を表示する表示工程、
を前記コンピュータに実行させるためのプログラムが記録されている、血小板活性化状態を把握するためのシステム。
[9][7]又は[8]のシステムを備えた、電子カルテ、臨床検査装置、又は病院内検査システム。
[10](1)可溶型CLEC-2測定試薬および/または血小板測定試薬、及び
(2)可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値と、血小板活性化状態との関連を記載した添付文書、
を含む、血小板活性化状態の把握用キット。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、血小板当たりのsCLEC-2放出量がわかり、血液中の血小板活性化状態を正確に把握することが可能となる。これにより、sCLEC-2濃度/血小板値と臨床的有用性についての十分な検証が可能になり、血栓止血疾患の病態を反映するマーカーとしての利用が期待され、特に、マーカーとして使用できる有効な検査が少ない心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症、播種性血管内凝固症候群(DIC)、敗血症といった動脈性の血栓止血疾患におけるマーカーとしても利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】敗血症患者のDIC非発症例(n-DIC)、敗血症患者のDIC発症例(DIC)、全敗血症患者(全敗血症)における、血小板数(PLT)およびsCLEC-2濃度(sCLEC-2)の相関を示すグラフである。
【
図2】健常者、敗血症患者のDIC非発症例(DIC無)、敗血症患者のDIC発症例(DIC有)における、sCLEC-2濃度(sCLEC-2)、血小板数(PLT)、sCLEC-2濃度/血小板数(sCLEC-2/PLT)を示すグラフである。
【
図3】sCLEC-2濃度(実線)、sCLEC-2濃度/血小板数(点線)に関するROC曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の方法には、以下に限定されるものではないが、可溶型CLEC-2濃度/血小板数の測定方法(又は決定方法)、血小板活性化状態の把握を補助する方法、血栓止血疾患の診断方法(又は検出方法)、血栓止血疾患の診断を補助する方法、血栓止血疾患の診断のために可溶型CLEC-2濃度/血小板数を測定(又は決定)する方法などが含まれ、いずれの方法も、(1)被検対象由来の被検試料中の可溶型CLEC-2濃度と血小板数を測定する工程、(2)前記可溶型CLEC-2濃度および前記血小板数から血小板活性化状態を把握する工程を含み、より具体的には、(1)被検対象由来の被検試料中の可溶型CLEC-2濃度と血小板数を測定する工程、(2)前記可溶型CLEC-2濃度を前記血小板数で除することにより、可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値を計算する工程を含み、所望により、健常対象に由来する被検試料を使用して得られた可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値と比較する工程を更に含むことができる。可溶型CLEC-2濃度および血小板数から血小板活性化状態を把握する工程は、例えば、可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値を計算し、健常対象の可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値と比較することにより実施できるが、可溶型CLEC-2濃度および血小板数を使用して血小板活性化状態を総合的に判断することもできる。以下、可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値を用いる態様を例にとって主に説明するが、本発明はこの態様に限定されるものではない。
【0014】
本明細書において用語「CLEC-2」とは、C型レクチンファミリーに属する血小板活性化受容体であり、通常、血小板の膜に存在するが、血小板の活性化に伴って、血液中に放出される。本明細書において用語「可溶型CLEC-2(sCLEC-2)」とは、このような血小板から遊離し、血液中(バッファー中でインキュベートする場合はバッファー中)に検出されるCLEC-2またはCLEC-2由来の分子のことを意味する。
【0015】
sCLEC-2には、還元条件下SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)における分子量約40kDaのタンパク質、分子量約32kDaのタンパク質、分子量約25kDaのタンパク質などが含まれる。
分子量約40kDaのタンパク質、分子量約32kDaのタンパク質は血小板膜表面に存在し、血小板活性化に伴って産生されるマイクロパーティクルに含まれた状態で放出されると推定される。これらには糖鎖が付加されていると考えられる。
一方、分子量約25kDaのタンパク質は血小板の活性化に伴ってプロテアーゼによって切断を受けて血小板から遊離すると考えられる。
【0016】
本発明においては、前記のような可溶型CLEC-2の量を測定する。sCLEC-2は分子量約40kDaのタンパク質、分子量約32kDaのタンパク質および分子量約25kDaのタンパク質をまとめて検出してもよいし、分子量約25kDaのタンパク質のみを検出してもよい。
【0017】
測定に用いる試料はヒト由来であることが好ましいが、実験動物の病態把握等のために、ヒト以外の動物由来の試料を用いてもよい。実験動物としては特に制限されないが、例えば、モルモット、ラット、マウス、チンチラ等が挙げられる。
【0018】
本発明方法は、血栓止血疾患の検査にも好適に使用される。本明細書で述べる「止血」とは、血小板および凝固因子が共役して流血あるいは出血を効果的に適切に止めることを意味する。本明細書で使用する「血栓止血疾患」には、過度の出血や異常な血液凝固を含む状態や疾患が含まれるが、これらに限定されることはない。異常な血液凝固は深刻な冠不全症候群、心筋梗塞、不安定狭心症、難治性の狭心症、血栓溶解療後の冠動脈内血栓性閉塞、冠動脈血管形成術後の冠動脈内血栓性閉塞、血栓による脳血管疾患、脳梗塞、塞栓性脳卒中、血栓性脳卒中、一過性脳虚血発作、静脈血栓症、深部静脈血栓症、肺動脈塞栓、凝固障害、播種性血管内凝固症候群、血栓性微小血管障害症、血栓性血小板減少性紫斑病、閉塞性血栓血管炎、ヘパリン起因性血小板減少症に伴う血栓症、体外循環による血栓合併症、心臓または他の血管内カテーテル、大動脈内バルーンポンプ、動脈ステントあるいは心臓弁などの器具による血栓合併症、および人工器官の取り付けを要する状態を含む疾患、抗リン脂質抗体症候群、ならびに敗血症のような血栓止血異常を伴う重症感染症に関連するものであるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
例えば、sCLEC-2濃度/血小板数の値が健常人あるいは非血栓止血疾患群と比較して多い場合は血栓止血疾患に罹患している可能性あるいは罹患するリスクが高いといえる。このような比較をもとに、sCLEC-2濃度/血小板数の値で表現される血小板活性化の程度と各種疾患との相関を、標準データとして使用することもできる。
具体的な例を挙げると、心筋梗塞や脳梗塞の患者においてsCLEC-2濃度と血小板数の測定を行い、その比が高値になれば生体内の血小板活性化が生じていると判断でき、抗血小板薬の投与、増量、あるいは異なる種類の抗血小板薬の追加投与などの対策を講じることができる。
また、糖尿病患者など、心筋梗塞や脳梗塞のハイリスク患者においてsCLEC-2濃度と血小板数の測定を行いsCLEC-2濃度/血小板数が高値の患者にはアスピリンなどの抗血小板薬を一次予防として投与する、といった使用法も可能と考えられる。敗血症のように血栓止血異常を伴う重症感染症では血栓止血異常の程度からその診断に使用することもできる。さらに、アスピリン、クロピドグレルなどの抗血小板薬を服用している患者においてsCLEC-2濃度と血小板数の測定を施行し、高値であれば抗血小板薬の増量、異なる種類の抗血小板薬への変更あるいは追加投与などを検討することも可能である。
また、慢性関節リウマチでは血小板マイクロパーティクルが増悪因子となっているという報告があり、CLEC-2はマイクロパーティクル上にも発現しているため、慢性関節リウマチ患者においてもsCLEC-2濃度/血小板数が上昇している可能性があり、慢性関節リウマチの検査にも有用である。
さらに、CLEC-2が生体内ではポドプラニンという、ある種の腫瘍細胞に発現する膜タンパク質と結合し、その転移を促進することが報告されており、ポドプラニン発現腫瘍の患者において、血中の腫瘍が血小板を活性化して、sCLEC-2濃度/血小板数が上昇する可能性がある。よって、sCLEC-2濃度/血小板数は癌転移マーカーとして使用できる可能性がある。
【0020】
sCLEC-2の存在を検出するための方法は、特に制限されないが、sCLEC-2を認識する抗体(以下、これを「抗sCLEC-2抗体」と称することがある)を用いた免疫学的方法が好ましい。免疫学的にタンパク質の検出を行う方法としては、例えば、酵素免疫測定法(ELISA法)、化学発光免疫測定法、蛍光抗体法、放射免疫測定法、免疫クロマトグラフィー等の標識抗体を用いた免疫測定法、あるいは、ウェスタンブロッティング法、ラテックス凝集法、免疫比濁法等のそれ自体公知の通常用いられる方法であればいかなる方法でも用い得るが、この中でも、操作の簡便性や測定精度の点から、標識抗体を用いた免疫測定法が好ましく用いられる。術中診断のためには、迅速に結果が得られることが望まれているため、化学発光免疫測定法や免疫クロマトグラフィー等が特に好ましく用いられる。
【0021】
血小板数の測定は、通常は自動血球計数機(血算計)を用いて測定が行われるが、血球計数板と顕微鏡を用いて計数することも可能である。
【0022】
対象の被験者(特には患者)から、例えば、血漿採血用の採血管で検体を採取する。血小板数の計測も考慮するとEDTA入りの採血管が好適であるが、ヘパリン、クエン酸入りのものでも可能である。血漿中sCLEC-2濃度測定用と血小板数測定用のサンプルを一本の採血管で得てもよいが、同時採血であれば、各々別の採血管でもよい。血漿中sCLEC-2濃度は例えば2000gで20分程度遠心分離した血漿を用いて測定するが、遠心の条件はこれに限るものではなくまた全血を使用した測定系であってもよい。以下、血漿中sCLEC-2濃度の測定を例にとって説明するが、これに限定されるものではない。血中の血小板数は、EDTA等の抗凝固薬入りの全血を用いる。
【0023】
血漿中のsCLEC-2濃度を例えばpg/mLで表し、血中血小板数を例えば1000個/mm3で表現し、sCLEC-2濃度/血小板数を計算する。ここで用いるsCLEC-2の濃度はng/mL、ng/Lなどどの任意の単位を用いてもよく、血小板数も10000個/mm3など任意の単位を用いることができるが、比較には統一した単位を用いるべきである。様々な単位を用いることにより、sCLEC-2濃度/血小板数は様々な値を取ることができるが、本質的には同じ概念のものである。
【0024】
比率の計算は、sCLEC-2濃度を測定する臨床検査機器から出てきた測定値と血小板数を測定する血算計から出てきた測定値を使って行う。この計算は、両方の測定器と繋がった病院の検査システム、病院のシステム、あるいは電子カルテなどのシステム上で自動的に計算することが日常診療上好適であるが、二つの測定器のデータをつなぐシステムを構築してもよいし、sCLEC-2濃度と血小板数を同時計測できる機械を構築することも可能である。また、両データを用いて手計算してもよい。
【0025】
本発明で得られる前記標準データは、血漿中の可溶型CLEC-2濃度/血小板数と血小板活性化の程度や各種疾患との相関を示すものである限り、特に限定されるものではないが、例えば、判定用閾値、あるいは、判定用閾値を算出するためのオリジナルデータ又は統計処理データなどを挙げることができる。該標準データは、前記添付文書中に記載されてもよいし、別にデータシートとして添付してもよい。また、添付される文書の形態は、紙、CD-ROM等の電子媒体、ホームページ等からのダウンロードも含まれる。
【0026】
sCLEC-2は、血小板の活性化に伴い血中に放出される。既存の血小板活性化マーカー、例えば、PF4、βTGは、採血による物理的な圧力により顆粒が刺激され、非特異的な放出を起こすことが問題とされているが、sCLEC-2は、血小板活性化を惹起するシグナル伝達依存的な放出機序であり、生体内の血小板の活性化をより正確に反映するマーカーになりうると考えられる。また、CLEC-2はヒトでは血小板・巨核球系に発現がほぼ限られるため、偽陽性が少ない特異的なマーカーになる。
【0027】
類似の機序で放出される可溶型GPVIは、GPVI受容体特異的なアゴニスト刺激においては強力に産生されるが、その他既知の血小板活性化アゴニスト刺激では、その産生が非常に弱い。つまり、刺激の種類により産生量が変わると、マーカーとしての解釈が非常に難しくなる。しかしながら、sCLEC-2は、特異的なアゴニスト刺激は勿論のこと、既知のアゴニスト刺激においても同様のレベルで産生されるため、血小板活性化の定量的なマーカーとして最適な分子である。
【0028】
このsCLEC-2は、採血操作の制約を受けないことも利点の一つとして挙げられる。すなわち、sCLEC-2は、採血などの軽微な刺激で放出されるPF4、βTGと違って、強い血小板活性化によって遊離するため、特殊な採血操作を必要としない。さらに、急性冠症候群患者血漿中のsCLEC-2濃度は、健常人の数値より有意に上昇しているデータも得られ、発症・予後の予測や治療効果の判定を行うためのモニターとしての利用価値も高く、従来の活性化マーカーと比し、飛躍的に優れたマーカーと考えられる。また、脳梗塞患者血漿中においてもsCLEC-2濃度は上昇し、また血漿中のsCLEC-2濃度の高い患者は予後が悪いことも示されている。
【0029】
本発明ではこの血漿中sCLEC-2濃度は血中の血小板数と正の相関性があることを見出した。即ち、血小板の多い個体では血漿中sCLEC-2濃度が高くなり、血小板の少ない個体では血漿中sCLEC-2濃度が低くなる傾向がみられる。その結果、血漿中のsCLEC-2濃度は血中の血小板数の影響を受けてしまい必ずしも血小板の活性化を表さない場合がある。
【0030】
そこで血漿中sCLEC-2濃度を血中血小板数で除して、血小板当たりのsCLEC-2放出量を計算してこれを指標として血栓性疾患の診断を行うと、血中血小板数に依存すること無く、血小板の活性化度合いを評価することが可能となる。具体的には、例えば血漿中sCLEC-2濃度をpg/mLで表し(A)、血中血小板数を1000個/mm3で表し(B)、AをBで除した数字を血小板活性化の指標とする。
【0031】
播種性血管内凝固症候群(DIC)は、血小板が活性化する典型的な血栓止血疾患である。この疾患患者では、血小板の活性化に伴い血小板数が減少して行く。この病態を、敗血症に合併したDIC群と合併しなかった非DIC群を用いて、血漿中sCLEC-2濃度とsCLEC-2濃度/血小板数の両方で検討したところ、sCLEC-2濃度/血小板数の方がDICに対する高い診断効率を示した。すなわち、sCLEC-2濃度/血小板数はDIC群で有意に高値を示したのに対し、血漿中sCLEC-2濃度はDIC群が非DIC群に対して高値を示したものの、統計的有意差は得られなかった。またDIC群においてsCLEC-2濃度/血小板数はDIC病態の重症度とも有意な相関も見られた。従って、このsCLEC-2濃度/血小板数は血漿中sCLEC-2濃度に比べ、はるかに効率的で有用な診断指標になると言える。また、健常者データと比較すると敗血症患者はDICの有無に関わらず、sCLEC-2濃度/血小板が高値を示した。従って、血栓止血異常を伴う重症感染症である敗血症の有用な診断指標にもなると言える。
【0032】
この指標は、急性冠症候群(狭心症、心筋梗塞)、脳梗塞等の血小板血栓を原因とする血栓止血疾患でも、血中血小板数の影響を受けずに血小板活性を判定できるため、sCLEC-2濃度に比べより効率的で有用な指標である。
【0033】
本発明には、これまで述べた本発明方法を実施するのに利用することのできるシステム、前記システムを備えた電子カルテ、臨床検査装置、又は病院内検査システム、本発明方法を実施するのに利用することのできるキットなどが含まれる。
【0034】
本発明のシステムには、例えば、可溶型CLEC-2濃度/血小板数を測定(又は決定)するためのシステム、血小板活性化状態を把握するためのシステム、血栓止血疾患の診断を補助するためのシステム、血栓止血疾患を診断(又は検出)するためのシステム、血栓止血疾患の診断のために可溶型CLEC-2濃度/血小板数を測定(又は決定)するためのシステムなどが含まれる。
【0035】
本発明のいずれのシステムも、(1)被験対象由来の被検試料中の可溶型CLEC-2濃度と血小板数を記憶することのできる記憶手段、(2)前記可溶型CLEC-2濃度を前記血小板数で除することにより、可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値を計算することのできる計算手段、(3)得られた被検対象の前記可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値を、健常対象の可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値と比較することのできる比較手段、及び(4)前記比較により得られた結果を表示することのできる表示手段を含むことができる。
【0036】
あるいは、本発明のいずれのシステムも、プロセッサ及び前記プロセッサの制御化にあるメモリを含むコンピュータを備え、前記メモリには、(1)被験対象由来の被検試料中の可溶型CLEC-2濃度と血小板数を前記メモリに記憶させる記憶工程、(2)前記可溶型CLEC-2濃度を前記血小板数で除することにより、可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値を計算する計算工程、(3)前記計算工程で得られた前記可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値を、健常対象の可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値と比較する比較工程、及び(4)前記比較工程で得られた結果を表示する表示工程を前記コンピュータに実行させるためのプログラムを記録させておくことができる。
【0037】
本発明の電子カルテ、臨床検査装置、又は病院内検査システムには、本発明のシステムを搭載させることができる。
本発明のシステム、又は本発明の電子カルテ、臨床検査装置、若しくは病院内検査システム(以下、本発明のシステム等と称する)を用いて本発明方法を実施することができる。本発明のシステム等を用いて測定(又は決定)できる「可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値」、本発明のシステム等を用いて把握することのできる「状態、疾患等」とそれらの「判定・判断基準等」、「可溶型CLEC-2濃度および血小板数」の各測定方法等については、本発明方法に関して先述した説明をそのまま適用することができる。
【0038】
本発明のキットには、例えば、可溶型CLEC-2濃度/血小板数の測定(又は決定)用キット、血小板活性化状態の把握用キット、血栓止血疾患の診断(又は検出)用キット、血栓止血疾患を診断するための可溶型CLEC-2濃度/血小板数の測定(又は決定)用キットなどが含まれる。
本発明のキットは、(1)可溶型CLEC-2測定試薬および/または血小板測定試薬、(2)可溶型CLEC-2濃度/血小板数の値と、血小板活性化状態との関連を記載した添付文書を含むことができる。
【0039】
前記添付文書には、sCLEC-2濃度/血小板数の計算法を入れておくことも重要である。このキットを用いて血漿中のsCLEC-2濃度とsCLEC-2濃度/血小板数の両方を用いて血小板活性化の評価用または止血疾患の診断用のキットとすることができる。該試薬キットを用いてsCLEC-2濃度/血小板数を計算すれば、血小板活性化異常症や血栓症などの疾患の検出を必要時に簡便・迅速に行うことができ、その結果を、他の疾患との鑑別や、治療方針の決定等に役立てることができる。
【0040】
また、本発明のキットに含まれる前記添付文書は、少なくとも、血漿中sCLEC-2濃度/血小板数と血小板活性化の程度や各種疾患との関係に言及するものであれば、特に限定するものではなく、前記言及に加え、例えば、本発明のキットを使用する免疫学的測定の実施手順に関する説明、得られた測定値に基づいて血漿中sCLEC-2濃度/血小板数と血小板活性化の程度や各種疾患を検出する手順に関する説明、キット自体の保存・取り扱いなどに関する注意事項などを含むことができる
【実施例】
【0041】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0042】
《実施例1:ヒト血漿中のsCLEC-2濃度の測定》
特許第6078845号明細書の実施例6に従って、ヒト血漿中のsCLEC-2濃度(pg/mL)を測定した。
特許第6078845号公報の実施例で作製したマウス抗ヒトCLEC-2モノクローナル抗体(1-11D5、3-11E6抗体)を用いてサンドイッチELISA系を構築した。すなわち、0.05mol/L炭酸緩衝液(pH9.5)で精製した1-11D5抗体(F(ab)’2)を10μg/mLに希釈し、イムノプレート(Maxisorp,NUNC)に100μL/ウェル添加した。4℃で一晩反応後、0.05% Tween-20を含むホウ酸緩衝生理食塩水(BBS)で3回洗浄し、1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を各ウェルに200μL添加しブロッキングした。次にサンプル及びスタンダードとして用いる特許第6078845号公報の実施例3で作成したヒトCLEC-2(hCLEC-2)タンパク質を10%SuperBlock、0.1%オクタン酸ナトリウム、0.14mol/L塩化ナトリウム/PBSを用いて希釈した。また測定サンプルとして血漿を用いる場合は5倍以上で希釈し、それぞれ100μL/ウェルで添加し、37℃で1時間半振盪させながら反応させた後、同様に3回洗浄した。特許第6078845号公報の実施例5で調製したBiotin標識した3-11E6抗体(F(ab)’2-Biotin)を10%SuperBlock、0.1%オクタン酸ナトリウム、0.14mol/L塩化ナトリウム/PBSにて1.0μg/mLに希釈し、各ウェルに100μL添加した。37℃で1時間、振盪させながら反応させた後、同様の方法で3回洗浄した。次いで、AMDEX streptavidin-conjugated horseradish peroxidase(GE Healthcare)を10%SuperBlock、0.1%オクタン酸ナトリウム、0.14mol/L塩化ナトリウム/PBSにて希釈し、各ウェルに100μL添加した。37℃で1時間振盪しながら反応させた後、同様の方法で5回洗浄し、テトラメチルベンジジン(TMB)溶液を各ウェル100μL添加した。室温で約20分間反応後、2N硫酸溶液で反応を停止した。プレート分光光度計(BIO-TEK INSTRUMENTS社/EL312e)で450nm(-620nm)の吸光度を測定した。
【0043】
《実施例2:ヒト全血中の血小板数の測定》
ヒト全血中の血小板数の測定は、Sysmex社の自動血球計測装置(XN-550)を用いて実施した。血小板数は1000個/mm3で表した。
【0044】
《実施例3:sCLEC-2濃度/血小板数の算出》
実施例1で測定したsCLEC-2濃度の測定値、実施例2で測定した血小板数、これらの値から算出したsCLEC-2濃度/血小板数の値を、表1に示す。測定検体は、敗血症例32例(播種性血管内凝固症候群(DIC)発症例が20例、非DIC発症例が12例)であり、日本救急医学会急性期DIC診断基準により診断した。なお、各測定値は、入院一日目に採取した検体の測定値である。さらに健常者37例の血漿中sCLEC-2濃度と血中血小板数を測定し、sCLEC-2濃度/血小板数を計算した。健常者のsCLEC-2濃度、血小板数、sCLEC-2濃度/血小板数の平均±標準偏差は、各々87±38.9(pg/mL)、263±63.4(1000個/mm3)、0.34±0.15であった。
【0045】
【0046】
全敗血症患者、敗血症患者のDIC発症例(DIC)、敗血症患者のDIC非発症例(n-DIC)ごとに、実施例1で測定したsCLEC-2濃度の測定値(sCLEC-2)、実施例2で測定した血小板数(PLT)の相関を調べたところ、sCLEC-2濃度と血小板数との間に統計学的に有意な相関がみられた(
図1)。敗血症患者のDIC発症例、敗血症患者のDIC非発症例との間でsCLEC-2濃度及び血小板数から算出したsCLEC-2濃度/血小板数の値を算出して比較をしたところ、sCLEC-2濃度では両群間に有意
差がみられなかった(p=0.25)が、sCLEC-2濃度/血小板数では両群間で有意に差(p=0.0008)があることが確認された(
図2)。このことから、sCLEC-2は血小板活性化だけでなく血小板数にも影響を受けており、血小板数あたりのsCLEC-2量の方がより血小板の活性を示していることが裏付けられた。また、敗血症であればDICの有無に関わらず健常者よりsCLEC-2濃度及びsCLEC-2濃度/血小板が高値を示すことからこれらは敗血症の診断にも有用であることが示された。
【0047】
《実施例4:ROC曲線に基づくバイオマーカーとしての評価》
実施例3で得られた測定値および計算値を用いてROC(Receiver Operatorating Characteristic)曲線を作成し、曲線下面積(AUC)を算出した。
図3に、sCLEC-2濃度の結果(実線)と、sCLEC-2濃度/血小板数の結果(点線)を示す。ROC曲線のAUCは、sCLEC-2濃度は0.628、sCLEC-2濃度/血小板数は0.866、血小板数は0.732であった。AUCは1.0に近いほど診断能が高いとされており、sCLEC-2濃度/血小板数が最も良い診断能を示した。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、血小板活性化状態を把握するのに利用することができ、血栓止血疾患等の検査に利用することができる。