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特許7546044アルミナ粉末、樹脂組成物、及び放熱部品
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  • 特許-アルミナ粉末、樹脂組成物、及び放熱部品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】アルミナ粉末、樹脂組成物、及び放熱部品
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/027 20220101AFI20240829BHJP
   C01F 7/02 20220101ALI20240829BHJP
   C08K 7/18 20060101ALI20240829BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240829BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C01F7/027
C01F7/02
C08K7/18
C08L101/00
C09K5/14 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022512033
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2021012309
(87)【国際公開番号】W WO2021200491
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2020063554
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100127247
【弁理士】
【氏名又は名称】赤堀 龍吾
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】小牧 孝文
(72)【発明者】
【氏名】新田 純也
(72)【発明者】
【氏名】岡本 義昭
(72)【発明者】
【氏名】平田 昌一
(72)【発明者】
【氏名】狩野 源太
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/017637(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/170560(WO,A1)
【文献】特開2006-258422(JP,A)
【文献】特開2012-031402(JP,A)
【文献】国際公開第2015/056523(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/235920(WO,A1)
【文献】特開平08-290914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 7/02
C08K 3/22
C08L 101/00
C09K 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.1μm以上1μm未満である第1のアルミナ粒子と、
平均粒子径が1μm以上10μm未満である第2のアルミナ粒子と、
平均粒子径が10μm以上100μm以下である第3のアルミナ粒子と、を含むアルミナ粉末であって、
各前記平均粒子径はレーザー光回折散乱式粒度分布測定機によって測定された粒子径であり、
顕微鏡法による投影面積円相当径が0.1μm以上1μm以下である前記第1のアルミナ粒子の平均球形度が、0.80以上0.98以下であり、
前記第1のアルミナ粒子の比表面積が1.9m2/g以上20.0m2/g以下であり、かつ、α結晶相の含有率が80質量%以上である、
アルミナ粉末。
【請求項2】
前記アルミナ粉末におけるα結晶相の含有率が、60質量%以上である、請求項1に記載のアルミナ粉末。
【請求項3】
樹脂と、請求項1又は2に記載のアルミナ粉末とを含む、樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂がシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、及びアクリル樹脂からなる群より選ばれる少なくも1種を含む、請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1若しくは2に記載のアルミナ粉末、又は請求項3若しくは4に記載の樹脂組成物を含む、放熱部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ粉末、樹脂組成物、及び放熱部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気機器の小型化及び高性能化が進行している。小型化及び高性能化に伴い、電気機器を構成する電子部品の実装密度が高くなってきており、電子部品から発生する熱を効果的に放出させる必要性が高まっている。
【0003】
また、環境負荷の抑制が可能な電気自動車などのパワーデバイス用途においては、電子部品に高電圧が印加されたり、あるいは大電流が流れたりすることがある。この場合、高い熱量が発生し、発生する高い熱量に対処するために、従来よりも効果的に熱を放出させる必要が高まってきている。このような要求に対応するための技術として、例えば、特許文献1には、3種類のアルミナフィラーを含んでなる樹脂組成物が開示されている。また、特許文献2には、球状アルミナ粒子と非球状アルミナ粒子とを含むアルミナ配合粒子と、この粒子を含む樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-164093号公報
【文献】特開2009-274929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2では、アルミナ粒子の比表面積が高く、形状が悪い等の理由により、樹脂にアルミナ粒子を充填する際に増粘し、アルミナ粒子の高充填が難しいとの問題を有する。そのため、成形性が悪く、高い熱伝導率を有する放熱部品を得ることが難しい。
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、樹脂に充填する際に粘度上昇を抑制でき、かつ、その樹脂を含む樹脂組成物の高熱伝導化を実現できるアルミナ粉末、並びにそのアルミナ粉末を含む樹脂組成物及び放熱部品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の第1のアルミナ粒子と、特定の第2のアルミナ粒子と、特定の第3のアルミナ粒子とを含むアルミナ粉末が、樹脂への充填の際に粘度上昇を抑制でき、かつ、そのアルミナ粉末を含むことにより高熱伝導化を実現できる樹脂組成物及び放熱部品を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]平均粒子径が0.1μm以上1μm未満である第1のアルミナ粒子と、平均粒子径が1μm以上10μm未満である第2のアルミナ粒子と、平均粒子径が10μm以上100μm以下である第3のアルミナ粒子と、を含むアルミナ粉末であって、各前記平均粒子径はレーザー光回折散乱式粒度分布測定機によって測定された粒子径であり、顕微鏡法による投影面積円相当径が0.1μm以上1μm以下である前記第1のアルミナ粒子の平均球形度が、0.80以上0.98以下であり、前記第1のアルミナ粒子の比表面積が1.9m2/g以上20.0m2/g以下であり、かつ、α結晶相の含有率が80質量%以上である、アルミナ粉末。
[2]前記アルミナ粉末におけるα結晶相の含有率が、60質量%以上である、[1]に記載のアルミナ粉末。
[3]樹脂と、[1]又は[2]に記載のアルミナ粉末とを含む、樹脂組成物。
[4]前記樹脂がシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、及びアクリル樹脂からなる群より選ばれる少なくも1種を含む、[3]に記載の樹脂組成物。
[5][1]若しくは[2]に記載のアルミナ粉末、又は[3]若しくは[4]に記載の樹脂組成物を含む、放熱部品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、樹脂に充填する際に粘度上昇を抑制でき、かつ、その樹脂を含む樹脂組成物の高熱伝導化を実現できるアルミナ粉末、並びにそのアルミナ粉末を含む樹脂組成物及び放熱部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る第2のアルミナ粒子及び第3のアルミナ粒子の製造に際し用いた火炎溶融装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
【0011】
本実施形態のアルミナ粉末は、特定の第1のアルミナ粒子と、特定の第2のアルミナ粒子と、特定の第3のアルミナ粒子とを含む。
【0012】
[アルミナ粉末]
(第1のアルミナ粒子及びその製造方法)
本実施形態に係る第1のアルミナ粒子は、平均粒子径が0.1μm以上1μm未満である。第1のアルミナ粒子を用いることにより、樹脂組成物中でアルミナ粒子を高い割合で充填させることができる。第1のアルミナ粒子は、平均粒子径が0.2μm以上0.9μm以下であることが好ましく、0.3μm以上0.8μm以下であることがより好ましい。
なお、本実施形態において、平均粒子径は、レーザー光回折散乱式粒度分布測定機によって測定される。具体的な測定方法は、実施例に記載のとおりである。
【0013】
本実施形態の第1のアルミナ粒子の平均球形度は、0.80以上0.98以下である。アルミナ粉末が、平均球形度が0.80以上である第1のアルミナ粒子を含むと、樹脂にアルミナ粉末を充填する際に増粘しにくくなる。アルミナ粉末が、平均球形度が0.98以下である第1のアルミナ粒子を含むと、第1のアルミナ粒子同士、その他のアルミナ粒子との接触がより十分になり、接触面積が大きくなる結果、より高熱伝導性の樹脂組成物及び放熱部品を得ることができる。平均球形度は、下記の顕微鏡法により測定される。すなわち、走査型電子顕微鏡、及び透過型電子顕微鏡等にて撮影した粒子像を画像解析装置に取り込み、写真から粒子の投影面積(A)と周囲長(PM)を測定する。その周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円の面積を(B)とすると、その粒子の球形度はA/Bとなる。よって、試料の周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円を想定すると、PM=2πr、B=πr2であるから、B=π×(PM/2π)2となり、個々の粒子の球形度は、球形度=A/B=A×4π/(PM)2となる。投影面積円相当径が所定の範囲にある任意の粒子200個の球形度を上記のようにして求め、その相加平均値を平均球形度とする。なお、具体的な測定方法は、実施例に記載のとおりである。また、投影面積円相当径は、粒子の投影面積(A)と同一の投影面積を持つ真円の直径を指す。第1のアルミナ粒子の平均球形度を求めるに際して、上記の「所定の範囲」は0.1μm以上1μm以下である。
【0014】
第1のアルミナ粒子の比表面積は、樹脂との界面の接触抵抗が低く、粘度上昇がより起こりにくい樹脂組成物及び放熱材料が得られる点から、1.9m2/g以上20.0m2/g以下であり、2.0m2/g以上6.0m2/g以下であることが好ましい。なお、本実施形態において、比表面積はBET流動法により測定され、具体的な測定方法は、実施例に記載のとおりである。
【0015】
第1のアルミナ粒子におけるα結晶相の含有率は、より高い熱伝導率を有する樹脂組成物及び放熱材料が得られる点から、80質量%以上であり、85質量%以上であることが好ましい。第1のアルミナ粒子におけるα結晶相の含有率は、後述する第3のアルミナ粒子におけるα結晶相の含有率より高いことが、より効率的に熱伝導率を高める観点から、好ましい。上限は、例えば100質量%である。なお、本実施形態において、α結晶相の含有率は、X線回折装置を用いた検量線法により測定される。具体的な測定方法は、実施例に記載のとおりである。
【0016】
本実施形態のアルミナ粉末によれば、樹脂にアルミナ粉末を充填する際に粘度上昇を抑制でき、かつ、そのアルミナ粉末を含む樹脂組成物及び放熱部品は、高熱伝導化を実現できる。本発明者らは、この理由について定かではないが、下記のように推定している。ただし、理由はこれに限定されない。
アルミナ粒子と樹脂とを含む樹脂組成物及び放熱部品において、熱は樹脂中のアルミナ粒子を伝播するので、第2のアルミナ粒子及び第3のアルミナ粒子のように、平均粒子径が大きい粒子を樹脂に含有させた方が、熱が伝わる経路も大きくなるため好ましい。しかしながら、第2のアルミナ粒子及び第3のアルミナ粒子は、平均粒子径が大きいため粒子同士に隙間ができやすく、そこに樹脂が充填される必要があるため、これらのアルミナ粒子を樹脂に高い割合で充填すると粘度上昇を引き起こす。そのため、これらのアルミナ粒子を樹脂に高い割合で充填することが難しい。粒子の充填率が低いと、さらに粒子間の隙間が多くなり、粒子間の熱経路が阻害されるため、結局、高熱伝導化を実現することが困難になる。一方、第1のアルミナ粒子は、平均球形度が高く、第2のアルミナ粒子及び第3のアルミナ粒子に比べて平均粒子径が小さく、しかも平均粒子径が同程度のアルミナ粒子と比べると比表面積が低いので、アルミナ粒子と樹脂との界面の接触抵抗を低くできる。更に、第1のアルミナ粒子は、その粒子自体のα結晶化率が80質量%以上と高いため、熱伝導率が高くなる。しかしながら、第1のアルミナ粒子は、平均粒子径が小さいため熱経路も小さく、第1のアルミナ粒子のみでは、効率的に熱を伝導できない。そのため、第1のアルミナ粒子のみでは高熱伝導化の実現が困難となる。そこで、本実施形態のアルミナ粉末では、平均粒子径の小さい第1のアルミナ粒子を、第2のアルミナ粒子及び第3のアルミナ粒子と共に、配合することで、第2のアルミナ粒子及び第3のアルミナ粒子の粒子間の隙間に、第1のアルミナ粒子を充填できるようにしている。第1のアルミナ粒子は、アルミナ粒子と樹脂との界面の接触抵抗が低く、更に、平均球形度が高いので、第2のアルミナ粒子及び第3のアルミナ粒子の粒子間の隙間において流動性をもって充填されるため、これらの粒子を含むアルミナ粉末を樹脂に高い割合で充填させることが可能となる。そして、第1のアルミナ粒子は、高い熱伝導率を有するため、第1のアルミナ粒子と、第2のアルミナ粒子及び第3のアルミナ粒子との界面において熱経路を形成しやすくなり、高熱伝導化が実現できる。更に、第1のアルミナ粒子は、第2のアルミナ粒子及び第3のアルミナ粒子の隙間に流動して充填され、充填された後も個々の粒子は互いに凝集し難い状態にあるため、粘度上昇も起こりにくい。
【0017】
本実施形態に係る第1のアルミナ粒子は、例えば、特開平6-191835号公報、特開平7-187663号公報、及び特開平8-290914号公報に記載の製法に従って製造することができる。また、2種以上のアルミナ粒子を混合して第1のアルミナ粒子としてもよい。混合する場合、平均粒子径、平均球形度、比表面積、及びα結晶相の含有率については概ね加成性が成り立つため、これらの平均粒子径、平均球形度、比表面積、及びα結晶相の含有率が目的となる値になるように適宜調整することが可能である。
【0018】
(第2のアルミナ粒子及びその製造方法)
本実施形態に係る第2のアルミナ粒子は、平均粒子径が1μm以上10μm未満である。第2のアルミナ粒子は、樹脂中のアルミナ粒子の流動性を向上させるために配合される。第1のアルミナ粒子と第3のアルミナ粒子のみでは、樹脂組成物の高熱伝導化を実現できる程度にアルミナ粒子を樹脂に充填すると、アルミナ粒子の充填率が高くなりすぎる傾向にあり、流動性が得られ難く、樹脂にアルミナ粉末を充填する際の粘度上昇を抑制することが困難となる。第2のアルミナ粒子は、平均粒子径が2μm以上9μm以下であることが好ましく、3μm以上8μm以下であることがより好ましい。
【0019】
本実施形態の第2のアルミナ粒子において、「所定の範囲」が1μmを超えて10μm以下である他は上記と同様にして求めた投影面積円相当径が所定の範囲にある第2のアルミナ粒子の平均球形度が、0.80以上0.98以下であることが好ましく、0.85以上0.97以下であることがより好ましい。アルミナ粉末が、平均球形度が0.80以上である第2のアルミナ粒子を含むと、樹脂中のアルミナ粒子の流動性をより向上させる傾向にある。アルミナ粉末が、平均球形度が0.98以下である第2のアルミナ粒子を含むと、樹脂中のアルミナ粒子の流動性が過度に向上することを防ぎ、樹脂にアルミナ粉末を充填する際の粘度の過度な低減を抑制することができる傾向にある。
【0020】
本実施形態に係る第2のアルミナ粒子は、下記のようにして得ることができる。図1の火炎溶融装置を用いて概説する。火炎中に原料粉末供給管5より原料を噴射し、溶融炉1中において原料を溶融する。溶融炉1には、冷却媒体供給口6より、常時、ドライアイスが供給され、急冷処理を行う。急冷処理による冷却効果は、ドライアイス供給前とドライアイス供給後との溶融炉1内の温度を測定することで確認される。温度計測にはR熱電対9を用い、通常、R熱電対9は溶融炉1の炉頂から100cmの高さに炉壁面まで挿入される。得られた球状化物を排ガスと共にブロワー8によってバグフィルター7に搬送し、捕集する。火炎の形成は、燃料ガス供給管4より、水素、天然ガス、アセチレンガス、プロパンガス、及びブタン等の燃料ガスと、助燃ガス供給管3より、空気、酸素等の助燃ガスを、溶融炉1内に設置されたバーナー2から噴射して行う。原料粉末供給用のキャリアガスとしては、空気、窒素、酸素、及び二酸化炭素等を用いることができる。以下、本実施形態に係る第2のアルミナ粒子の製造方法について詳述する。
【0021】
第2のアルミナ粒子を得る際に用いられる原料としては、例えば、水酸化アルミニウム粉末若しくはそのスラリー、及びアルミナ粉末若しくはそのスラリーが挙げられるが、それらの中でも、一般にはα結晶相を主な結晶相として有することから、アルミナ粉末若しくはそのスラリーを用いることが好ましい。なお、原料に用いる粒子の粒径に応じて、得られるアルミナ粒子の粒径を調整することができる。具体的には原料に用いる粒子の粒径を大きくすれば、アルミナ粒子の粒径も大きくなり、原料に用いる粒子の粒径を小さくすれば、アルミナ粒子の粒径も小さくなる。
【0022】
本実施形態において、第2のアルミナ粒子の原料としてアルミナ粉末を用いる場合、アルミナ粉末のスラリー濃度は、10質量%以上70質量%以下であることが好ましい。そのスラリー濃度が10質量%以上であることにより、生産性がより向上し、70質量%以下であることにより、スラリー粘度の上昇を抑制でき、輸送及び噴霧が容易となる傾向にある。スラリーにおいてアルミナ粉末を分散させる溶媒として、分散性、安全性、及び経済性の点から水が好ましい。ただし、原料であるアルミナ粉末を分散させることができれば、アルコール等の可燃性液体、及び水-アルコール等の混合液であってもよい。スラリーの調製については、溶媒と原料粉末とを所定量、調製用の容器に投入し、十分分散するまで撹拌機等で混合すればよく、特別な調製法は必要としない。
【0023】
アルミナ粉末を、球状化するには、通常溶射法が用いられる。溶射法によれば、球状化させやすい利点がある。なお、アルミナ粉末は、溶媒中に分散させてスラリー状態とし、それを火炎中に微細な霧状で噴霧供給することも可能である。噴霧方法としては、スプレードライヤーで用いられているような噴霧ノズルを利用できるが、好ましくは強力な分散機能を有するフィード管による噴射であり、溶媒を用いた湿式スラリーの噴射には二流体ノズルが好ましい。
【0024】
また、上記湿式スラリーに代えて、アルミナ粉末を酸素、及び空気等の気体に分散させた乾式フィード法を用いることもできる。この場合、強力な分散機能を有するフィード法で十分に分散させることが重要となり、例えば、エゼクタノズル形状にしたフィード管部を用いて、高速空気流によるせん断力による分散を利用したリングノズル方式で行うことが好ましい。
【0025】
火炎を形成するには、水素、天然ガス、アセチレンガス、プロパンガス、及びブタン等の燃料ガスと、空気、及び酸素等の助燃ガスとをノズルから噴射・燃焼させればよい。火炎温度は、2050℃以上2300℃以下に保持することが好ましい。火炎温度が2300℃より高いと急冷効果が得られにくくなり、また、火炎温度が2050℃より低いと高い球形度を実現することが難しくなる。火炎温度は、例えば、燃料ガスの流量を変化させることにより制御でき、これにより球形度の異なるアルミナ粉末を作製することができる。温度が高いと球形度が高い、時間が長いと球形度が高くなる。
【0026】
火炎中に噴射されたアルミナ粉末は、高温の熱処理を受けて、アルミナ粉末の球状化が行われる。この際、ドライアイスによる急冷処理でα結晶相の含有率を調整できる。具体的には急冷条件であるドライアイスの炉内への導入量を高く変化させるとα結晶相の含有率は減少する傾向にある。
【0027】
熱処理された粉末は、排ガスと共にブロワー等で吸引され、サイクロンやバグフィルターの捕集器で捕集される。その際の捕集温度は、好ましくは500℃以上である。捕集温度を500℃以上にすることで、溶射でガス化したNa成分が捕集粉末に付着析出することを抑制できる結果、Naの除去が容易となるので好ましい。ただし、捕集器の材質からその上限は1100℃程度であることが好ましい。また、捕集温度を500℃以上にすることにより、その他の陽イオン不純物や陰イオン不純物が多く混入するのを抑制し、アルミナ粉末の中性度をより十分にすることが可能となる。
【0028】
また、得られたアルミナ粉末に対しては、イオン交換水などを用いて、陽イオンや陰イオンなどのイオン性不純物を除去することが好ましい。
【0029】
(第3のアルミナ粒子及びその製造方法)
本実施形態に係る第3のアルミナ粒子は、平均粒子径が10μm以上100μm以下である。第3のアルミナ粒子は、本実施形態に係るアルミナ粉末中において熱伝導性に最も寄与するものであり、かつ樹脂充填性を向上させるために配合される。第3のアルミナ粒子は、高熱伝導性と樹脂充填性との観点から、平均粒子径が15μm以上90μm以下であることが好ましく、20μm以上80μm以下であることがより好ましい。
【0030】
本実施形態の第3のアルミナ粒子において、「所定の範囲」が10μmを超えて100μm以下である他は上記と同様にして求めた投影面積円相当径が所定の範囲にある第3のアルミナ粒子の平均球形度が、0.80以上0.98以下であることが好ましく、0.85以上0.97以下であることがより好ましい。アルミナ粉末が、平均球形度が0.80以上である第3のアルミナ粒子を含むと、樹脂充填性をより向上させる傾向にある。アルミナ粉末が、平均球形度が0.98以下である第3のアルミナ粒子を含むと、樹脂充填時の過度な粘度の低減を抑制できる傾向にある。
【0031】
本実施形態に係る第3のアルミナ粒子は、例えば、上記の第2のアルミナ粒子と同様の製造方法により得ることができる。
【0032】
(第1のアルミナ粒子と、第2のアルミナ粒子と、第3のアルミナ粒子との含有量)
本実施形態において、樹脂充填時の流動性がより向上する点から、第1のアルミナ粒子の含有量は、2.0質量部以上20.0質量部以下であることが好ましく、4.0質量部以上18.0質量部以下であることがより好ましく、5.0質量部以上16.0質量部以下であることが更に好ましい。また、第2のアルミナ粒子の含有量は、3.0質量部以上50.0質量部以下であることが好ましく、5.0質量部以上45.0質量部以下であることがより好ましく、10.0質量部以上40.0質量部以下であることが更に好ましい。さらに、第3のアルミナ粒子の含有量は、30.0質量部以上95.0質量部以下であることが好ましく、35.0質量部以上90.0質量部以下であることがより好ましく、40.0質量部以上85.0質量部以下であることが更に好ましい。なお、第1のアルミナ粒子と、第2のアルミナ粒子と、第3のアルミナ粒子との合計を100質量部とする。
【0033】
第1のアルミナ粒子と、第2のアルミナ粒子と、第3のアルミナ粒子とが上記含有量で含まれることで、これらのアルミナ粒子が樹脂中で隙間を埋める形で密に配列することが可能となるため、アルミナ粉末を樹脂に高い割合で充填させることが可能である。そのため、アルミナ粒子同士が、多くの点及び面にて接触でき、熱経路を形成しやすくなり、高熱伝導化が実現できる。また、これらのアルミナ粒子が樹脂中で隙間を埋める形で密に配列することが可能となるため、樹脂中でアルミナ粉末は良好な流動性を有する。その結果、樹脂にアルミナ粉末を充填する際の粘度上昇を抑制できる。
本実施形態において、各アルミナ粒子の含有量は、例えば、実施例に記載の方法により、アルミナ粉末を各アルミナ粒子に分級して測定する。
【0034】
(アルミナ粉末の平均球形度)
本実施形態のアルミナ粉末において、「所定の範囲」が0.1μm以上10μm以下である他は上記と同様にして求めた投影面積円相当径が所定の範囲にあるアルミナ粒子の平均球形度は、樹脂へ充填した際の流動性がより向上することから、0.80以上が好ましい。また、上限は、樹脂に充填した際に過度な流動性の向上を抑制させることができることから、0.98以下が好ましい。
「所定の範囲」が10μm超えて100μm以下である他は上記と同様にして求めた投影面積円相当径が所定の範囲にあるアルミナ粒子の平均球形度は、樹脂へ充填した際の流動性がより向上することから、0.80以上が好ましい。また、上限は、樹脂に充填した際に、過度な流動性の向上を抑制させることができることから、0.98以下が好ましい。
【0035】
(アルミナ粉末におけるα結晶相の含有率)
本実施形態に係るアルミナ粉末におけるα結晶相の含有率は、より高い熱伝導率を有する樹脂組成物及び放熱材料が得られる点から、60質量%以上であることが好ましい。上限は、例えば100質量%である。α結晶相の含有率は、X線回折法により測定される。具体的な測定方法は、実施例に記載のとおりである。
【0036】
(アルミナ粉末中における、第1のアルミナ粒子と、第2のアルミナ粒子と、第3のアルミナ粒子との合計の含有率)
本実施形態において、アルミナ粉末中における、第1のアルミナ粒子と、第2のアルミナ粒子と、第3のアルミナ粒子との合計の含有率は、85質量%以上100質量%以下であることが好ましい。第1のアルミナ粒子と、第2のアルミナ粒子と、第3のアルミナ粒子以外の成分の含有率は、通常、15質量%以下であり、10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましい。第1のアルミナ粒子と、第2のアルミナ粒子と、第3のアルミナ粒子以外の成分としては、平均粒子径が0.1μm未満であるアルミナ粒子、平均粒子径が100μmを超えるアルミナ粒子、アルミナ粒子以外のフィラー、フィラー以外の添加剤、及び不純物等が挙げられる。
【0037】
(アルミナ粉末の製造方法)
本実施形態に係るアルミナ粉末の製造方法は、第1のアルミナ粒子を2.0質量%以上20.0質量%以下で、第2のアルミナ粒子を3.0質量%以上50.0質量%以下で、第3のアルミナ粒子を30.0質量%以上95.0質量%以下で混合して得ることが好ましい。混合方法は、公知の方法を採用でき、特に限定されない。
【0038】
[樹脂組成物及びその製造方法]
本実施形態に係る樹脂組成物は、少なくとも、樹脂と、本実施形態に係るアルミナ粉末とを含む。本実施形態に係る樹脂組成物は、上記アルミナ粉末を含むことにより、増粘を抑制できると共に高い熱伝導性を有することが可能となる。
【0039】
(樹脂)
樹脂としては、熱可塑性樹脂及びそのオリゴマー、エラストマー類等の種々の高分子化合物を用いることでき、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、及びフッ素樹脂;ポリイミド、ポリアミドイミド、及びポリエーテルイミド等のポリアミド;ポリブチレンテレフタレート、及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリフェニレンスルフィド、芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂、AAS(アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム・スチレン)樹脂、EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)樹脂、及びシリコーン樹脂等を用いることができる。これらの樹脂は、1種単独で、又は2種以上を適宜混合して用いることができる。
【0040】
これらの樹脂の中でも、耐熱温度や強度及び硬化後の硬度の点から、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネート、ABS樹脂、及びシリコーン樹脂が好ましく、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、及びアクリル樹脂がより好ましく、シリコーン樹脂が更に好ましい。
シリコーン樹脂としては、メチル基及びフェニル基などの有機基を有する一液型またはニ液型付加反応型液状シリコーンから得られるゴム又はゲルを用いることが好ましい。このようなゴム又はゲルとしては、例えば、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「YE5822A液/YE5822B液」、及び東レ・ダウコーニング社製の「SE1885A液/SE1885B液」などを挙げることができる。
【0041】
(アルミナ粉末及び樹脂の含有量)
本実施形態の樹脂組成物において、充填するフィラーの特性発現の点から、その樹脂組成物の全量に対して、本実施形態に係るアルミナ粉末の含有量が65質量%以上95質量%以下であることが好ましい。本実施形態に係るアルミナ粉末は、樹脂に充填しても増粘し難いので、上記の範囲内で樹脂組成物中に含まれても、樹脂組成物の増粘を抑制することが可能である。また、アルミナ粉末の含有量が65質量%未満であると、良好な高熱伝導化を実現できる樹脂組成物及び放熱部品を得ることが難しくなる傾向にあり、95質量%を超えると、アルミナ粉末を結着する樹脂分が少なくなるため、放熱部品に適用できにくくなる。
【0042】
本実施形態の樹脂組成物において、充填するフィラーの特性発現の点から、その樹脂組成物の全量に対して、本実施形態に係る樹脂の含有量が5質量%以上35質量%以下であることが好ましい。
【0043】
(その他の成分)
本実施形態の樹脂組成物には、本実施形態の特性が損なわれない範囲において、本実施形態に係るアルミナ粉末及び樹脂以外に、必要に応じて、溶融シリカ、結晶シリカ、ジルコン、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭化珪素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ベリリア、及びジルコニア等の無機充填材;メラミン及びベンゾグアナミン等の窒素含有化合物、オキサジン環含有化合物、及びリン系化合物のホスフェート化合物、芳香族縮合リン酸エステル、及び含ハロゲン縮合リン酸エステル等の難燃性の化合物;添加剤等を含んでもよい。添加剤としては、マレイン酸ジメチル等の反応遅延剤、硬化剤、硬化促進剤、難燃助剤、難燃剤、着色剤、粘着付与剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、蛍光増白剤、光増感剤、増粘剤、滑剤、消泡剤、表面調整剤、光沢剤、及び重合禁止剤等が挙げられる。これらの成分は、1種単独で、又は2種以上を適宜混合して用いることができる。本実施形態の樹脂組成物において、その他の成分の含有率は、通常、それぞれ0.1質量%以上30質量%以下である。
【0044】
(樹脂組成物の製造方法)
本実施形態の樹脂組成物の製造方法は、例えば、樹脂と、アルミナ粉末と、必要に応じてその他の成分を十分に攪拌して得る方法が挙げられる。本実施形態の樹脂組成物は、例えば、各成分の所定量を、ブレンダー及びヘンシェルミキサー等によりブレンドした後、加熱ロール、ニーダー、及び一軸又は二軸押し出し機等によって混練し、冷却後、粉砕することによって製造することができる。
【0045】
[放熱部品]
本実施形態に係る放熱部品は、本実施形態に係るアルミナ粉末、又は樹脂組成物を含む。本実施形態に係る放熱部品は、上記アルミナ粉末、又は樹脂組成物を用いることで、高い熱伝導性を実現できる、すなわち、高い放熱性を有することができる。本実施形態に係る放熱部品中のアルミナ粉末の含有率は、より高い熱伝導性を実現できる点から、30体積%以上85体積%以下であることが好ましい。放熱部品としては、例えば、放熱シート、放熱グリース、放熱スペーサー、半導体封止材、放熱塗料(放熱コート剤)が挙げられる。
【実施例
【0046】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0047】
〔アルミナ粉末から各アルミナ粒子を分級する方法〕
第1のアルミナ粒子と、第2のアルミナ粒子と、第3のアルミナ粒子は、次の方法でアルミナ粉末より分級して得られる。
まずSANPLATEC社製ポリプロピレン手付ビーカー(5L)にイオン交換水4Lとアルミナ粉末1kgを投入し、新東科学製撹拌機スリーワンモータBL3000(商品名)を用いて600rpmにて10分間混合した。その後、撹拌機を止めて6時間静置した後、ポリ容器の水面から15cm分のスラリーを東京理化器械社製定量送液ローラーポンプRP-1000(商品名、チューブ径4.8mmφ)を用いて抜き出し、その抜き出したスラリーをSUS製のバットに移した後、ヤマト科学社製の乾燥機CLEAN OVEN DE-61(商品名)にて120℃で72時間、乾燥させることにより、アルミナ粒子を取り出し、この粒子を第1のアルミナ粒子とした。その後、元のスラリーにイオン交換水を3.5L加え、600rpmにて10分間混合した。その後、撹拌機を止めて15分間静置した後、先ほどと同様の手法でポリ容器の水面から15cm分のスラリーを抜き出して、120℃にて72時間、乾燥させ、アルミナ粒子を取り出し、この粒子を第2のアルミナ粒子とした。また、このスラリーの残渣も同様の方法で乾燥させて、アルミナ粒子を取り出し、この粒子を第3のアルミナ粒子とした。これらの操作のうち、撹拌機での混合からスラリーの抜き出しまでについては、いずれも液温が20℃になるよう調整して行った。
以下の評価において、第1のアルミナ粒子と、第2のアルミナ粒子と、第3のアルミナ粒子とを含むアルミナ粉末を用いる場合、各粒子の評価はこの方法で分級して行った。
【0048】
〔評価方法〕
(1)アルミナ粒子の平均粒子径及び粒度分布
アルミナ粒子の平均粒子径及び粒度分布は、ベックマンコールター社製レーザー光回折散乱式粒度分布測定機LS-230(商品名)を用いて測定した。測定に際して、測定対象となる、実施例及び比較例にて得られたアルミナ粒子のそれぞれ0.04gを、溶媒としてエタノール0.5mLとイオン交換水5mLとの混合液に加えて、前処理として2分間、トミー精工社製の超音波発生器UD-200(超微量チップTP-030装着)(商品名)を用いて30秒分散処理して、スラリーを得た。このスラリーを用いて、ポンプ回転数60rpmで、粒度分布を測定した。粒度分布の解析において、水及びアルミナ粒子の屈折率には、それぞれ1.333、及び1.768を用いた。粒度分布の解析は、体積部-累積で行った。測定した質量基準の粒度分布において、累積質量が50%となる粒子を平均粒子径(μm)とした。
【0049】
(2)平均球形度
上記の顕微鏡法のとおり、走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子社製JSM-6301F型(商品名))にて撮影した粒子像を画像解析装置(マウンテック社製「MacView」(商品名))に取り込み、写真から、実施例及び比較例で得られたアルミナ粒子(顕微鏡法による投影面積円相当径が0.1μm以上100μm以下)のそれぞれの投影面積(A)と周囲長(PM)を任意に200個測定した。それらの値を用いて、個々の粒子の球形度及びその割合を求め、また、個々の粒子の球形度の相加平均値を平均球形度とした。この方法により、投影面積円相当径が0.1μm以上1μm以下である第1のアルミナ粒子、投影面積円相当径が1μmを超えて10μm以下である第2のアルミナ粒子、及び投影面積円相当径が10μmを超えて100μm以下である第3のアルミナ粒子の平均球形度を測定した。また、投影面積円相当径が0.1μm以上10μm以下であるアルミナ粒子の平均球形度、及び投影面積円相当径が10μm超えて100μm以下であるアルミナ粒子の平均球形度についても、上記と同様の方法で測定した後に粒径毎に解析することにより測定した。
【0050】
(3)比表面積
比表面積は、BET法に基づく値であり、マウンテック社製比表面積測定機「Macsorb HM model-1208(商品名)」を用い、実施例及び比較例で得られたアルミナ粒子のそれぞれサンプル1.0gを用い、BET一点法にて測定し、比表面積(m2/g)を求めた。なお、測定に先立ち、前処理として、実施例及び比較例で得られたアルミナ粒子のそれぞれについて、窒素ガス雰囲気中で300℃、及び18分間加熱を行った。また、BET測定において、吸着ガスには、窒素30%、及びヘリウム70%の混合ガスを用い、本体流量計の指示値が25ml/minになるように流量を調整した。
【0051】
(4)第1のアルミナ粒子中におけるα結晶相の含有率、及びアルミナ粉末中におけるα結晶相の含有率
アルミナ粒子中におけるα結晶相の含有率、及びアルミナ粉末中におけるα結晶相の含有率を次の方法で測定した。
X線回折(XRD)用強度標準物質であるNIST-676a(α-アルミナ)と、θ・δ・γ-アルミナを用いて、各アルミナを合計2gとなるように秤量後、らい潰機にて15分間混合し、検量線作成用のサンプルを調製した。その後、各サンプルについて、封入管型X線回折装置(ブルカー社製D8 ADVANCE(商品名))を用い、下記の測定条件にて、積分強度(Cps×deg)を算出して、検量線を作成した。なお、α結晶相の含有率の測定には、α-アルミナにおける3本の回折ピーク(2θ=25.6°(012)、35.2°(104)、及び2θ=43.4°(113))を用いた。
(測定条件)
θ・θスキャン、管電圧:40kV、管電流:40mA、X線源:CuKα(λ=1.54056Å)、スリット:DS、0.5°、ソーラースリット:2.5deg。
続いて、実施例及び比較例にて得られたアルミナ粒子のそれぞれを用いて、アルミナのα結晶相に由来する(113)面の回折ピーク面積(Y)を測定し、上記の検量線を用いて、α結晶相の含有率(質量%)を算出した。なお、測定は、2θ=10°以上70°以下で検出される回折ピークを用いた。また、実施例及び比較例にて得られたアルミナ粉末のそれぞれを用いて、アルミナのα結晶相に由来する(113)面の回折ピーク面積(Y)を測定し、上記の検量線を用いて、α結晶相の含有率(質量%)を算出した。なお、測定は、2θ=10°以上70°以下で検出される回折ピークを用いた。
【0052】
(5)粘度
実施例及び比較例にて得られたそれぞれのアルミナ粉末をシリコーンゴムA液(ビニル基含有ポリメチルシロキサン、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製YE5822A液(商品名))に、1日放置後のアルミナ粉末(アルミナ粉末の充填率:87.9質量%)を投入し、撹拌機(東京理化器械社製NZ-1100(商品名))を用いて混合し、真空脱泡して組成物を得た。得られた組成物について、B型粘度計型(東機産業社製TVB-10(商品名))を用いて、粘度測定(Pa・s)を行った。粘度測定は、No7スピンドルを使用し、回転数は20rpm、室温20℃で行った。
【0053】
(6)熱伝導率
シリコーンゴムA液(ビニル基含有ポリメチルシロキサン、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製YE5822A液(商品名))に、実施例及び比較例にて得られたそれぞれのアルミナ粉末と、反応遅延剤(マレイン酸ジメチル、関東化学社製)と、シリコーンゴムB液(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製YE5822B液(商品名)、架橋剤等を含む)とを順に投入し、攪拌した後、脱泡処理をして、スラリー状試料を得た。なお、これらの配合比は、シリコーンゴムA液10体積部に、シリコーンゴムB液1体積部の割合で混合して得られたシリコーンゴム混合液100質量部に対して、0.01質量部の反応遅延剤を加えた液体に、実施例及び比較例にて得られたアルミナ粉末を加熱成形可能な最大充填量を加えることで算出され、表1に示される割合であった。
【0054】
【表1】
【0055】
その後、得られたスラリー状試料を、直径28mm、及び厚さ3mmのくぼみの設けられた金型に流し込み、脱気後、150℃×20分で加熱成形した。得られた成形品を15mm×15mmの銅製ヒーターケースと銅板の間に挟み、締め付けトルク5kgf・cmにてセットした。その後、銅製ヒーターケースに15Wの電力をかけて4分間保持し、銅製ヒーターケースと銅板の温度差を測定し、次の式にて熱抵抗を算出した。
熱抵抗(℃/W)=銅製ヒーターケースと銅板の温度差(℃)/ヒーター電力(W)
次いで、熱抵抗(℃/W)、伝熱面積[銅製ヒーターケースの面積](m2)、及び締め付けトルク5kgf・cm時の成形体厚(m)を用いて、次の式から熱伝導率を算出した。即ち、熱伝導率は、実施例及び比較例にて得られたアルミナ粉末のそれぞれを加熱成形可能な最大充填量で充填したときの値である。なお、熱伝導率測定装置としては、アグネ社製ARC-TC-1型(商品名)を用いた。
熱伝導率(W/m・K)=成形体厚(m)/{熱抵抗(℃/W)×伝熱面積(m2)}
【0056】
〔アルミナ粒子〕
(1)第1のアルミナ粒子
第1のアルミナ粒子の原料として、下記のアルミナ粒子を用いた。なお、平均球形度は、投影面積円相当径が0.1μm以上1μm以下である粒子の値である。
(1-1)住友化学(株)社製アドバンストアルミナAA-03(商品名、平均粒子径:0.3μm、平均球形度:0.83、比表面積:5.2m2/g、α結晶相の含有率:99質量%)
(1-2)住友化学(株)社製アドバンストアルミナAA-05(商品名、平均粒子径:0.5μm、平均球形度:0.86、比表面積:3.0m2/g、α結晶相の含有率:99質量%)
(1-3)住友化学(株)社製アドバンストアルミナAA-07(商品名、平均粒子径:0.7μm、平均球形度:0.87、比表面積:2.2m2/g、α結晶相の含有率:99質量%)
(1-4)住友化学(株)社製アドバンストアルミナAA-1.5(商品名、平均粒子径:1.5μm、平均球形度:0.85、比表面積:1.0m2/g、α結晶相の含有率:99質量%)
(1-5)住友化学(株)社製アドバンストアルミナAA-3(商品名、平均粒子径:3.0μm、平均球形度:0.84、比表面積:0.5m2/g、α結晶相の含有率:99質量%)
(1-6)アルミナ粒子A(平均粒子径:0.05μm、平均球形度:0.94、比表面積:40.1m2/g、α結晶相の含有率:1質量%)
(1-7)アルミナ粒子B(平均粒子径:0.1μm、平均球形度:0.91、比表面積:19.7m2/g、α結晶相の含有率:81質量%)
(1-8)アルミナ粒子C(平均粒子径:0.3μm、平均球形度:0.92、比表面積:10.0m2/g、α結晶相の含有率:1質量%)
(1-9)アルミナ粒子D(平均粒子径:0.5μm、平均球形度:0.98、比表面積:6.0m2/g、α結晶相の含有率:1質量%)
(1-10)アルミナ粒子E(平均粒子径:0.5μm、平均球形度:0.99、比表面積:5.8m2/g、α結晶相の含有率:97質量%)
(1-11)アルミナ粒子F(平均粒子径:0.7μm、平均球形度:0.92、比表面積:2.8m2/g、α結晶相の含有率:93質量%)
(1-12)アルミナ粒子G(平均粒子径:0.5μm、平均球形度:0.76、比表面積:6.0m2/g、α結晶相の含有率:97質量%)
なお、アルミナ粒子A~Fは、国際公開第2008/053536号等に記載の方法にて適宜製造した。アルミナ粒子Gは後述の方法で製造した。
第1のアルミナ粒子は上記アルミナ粒子を適宜混合して、平均粒子径や球形度等が表2及び3に示す範囲になるように調整して用いた。
【0057】
(2)アルミナ粒子G、第2のアルミナ粒子、及び第3のアルミナ粒子
原料として、日本軽金属(株)社製アルミナLS-21(商品名、平均粒子径:55μm)をアーク炉で溶融、冷却、及び粉砕して電融アルミナ粉砕物を調製した。なお、粉砕処理はボールミルで行い、粉砕メディアにはアルミナボールを用いた。
得られたアルミナ粉砕物から、分級処理により、アルミナ粒子G、アルミナ原料1(平均粒子径:2μm)、アルミナ原料2(平均粒子径:5μm)、アルミナ原料3(平均粒子径:10μm)、アルミナ原料4(平均粒子径:20μm)、アルミナ原料5(平均粒子径:50μm)、及びアルミナ原料6(平均粒子径:80μm)を調製した。
得られたアルミナ原料1~6を、第2のアルミナ粒子、又は第3のアルミナ粒子を製造するためのアルミナ原料として適宜用いた。
【0058】
〔実施例1〕
第1のアルミナ粒子として、(1-1)アルミナ粒子(住友化学(株)社製アドバンストアルミナAA-03(商品名))を80質量部と、(1-8)アルミナ粒子Cを20質量部とを、日本アイリッヒ社製インテンシブミキサーEL-1(商品名)を用いて混合し、製造した。
第2のアルミナ粒子を次の方法により製造した。すなわち、図1に示す製造装置を用いて、アルミナ原料1を酸素ガス(ガス流量:50Nm3/時間)に同伴させて、噴霧ノズルから火炎中に供給し、製造炉内に常時、燃料ガス(LPガス、ガス流量:10Nm3/時間)を供給しながら、火炎溶融処理を行った。この火炎溶融処理の際に、アルミナ粉末のα結晶相の含有率をコントロールするために、炉内へ適宜ドライアイスを供給して冷却処理を行った。
また、第3のアルミナ粒子を次の方法により製造した。すなわち、図1に示す製造装置を用いて、アルミナ原料4を酸素ガス(ガス流量:75Nm3/時間)に同伴させて、噴霧ノズルから火炎中に供給し、製造炉内に常時、燃料ガス(LPガス、ガス流量:15Nm3/時間)を供給しながら、火炎溶融処理を行った。この火炎溶融処理の際に、アルミナ粉末のα結晶相の含有率をコントロールするために、炉内へ適宜ドライアイスを供給して冷却処理を行った。
得られた第1のアルミナ粒子、第2のアルミナ粒子、及び第3のアルミナ粒子のそれぞれの物性を評価し、結果を表2に示す。
その後、得られた第1のアルミナ粒子を3.0質量部と、第2のアルミナ粒子を37.0質量部と、第3のアルミナ粒子を60.0質量部とを、日本アイリッヒ社製インテンシブミキサーEL-1(商品名)を用いて混合し、アルミナ粉末1を製造した。
得られたアルミナ粉末1を用いた評価結果を表2に示す。
【0059】
〔実施例2~12〕
第1のアルミナ粒子として、実施例1と同様にして、表2に示す物性を有する第1のアルミナ粒子をそれぞれ製造した。
また、アルミナ原料(原料1~6)の種類、酸素ガスの流量、及び燃料ガスの流量を表2に従って変更した以外は、実施例1と同様にして、表2に示す物性を有する第2のアルミナ粒子を得た。
更に、アルミナ原料(原料1~6)の種類、酸素ガスの流量、及び燃料ガスの流量を表2に従って変更した以外は、実施例1と同様にして、表2に示す物性を有する第3のアルミナ粒子を得た。
このようにして得られた、第1のアルミナ粒子と、第2のアルミナ粒子と、第3のアルミナ粒子とを、表2に示す配合量に従って、日本アイリッヒ社製インテンシブミキサーEL-1(商品名)を用いて混合し、アルミナ粉末2~12をそれぞれ製造した。
得られた第1のアルミナ粒子、第2のアルミナ粒子、及び第3のアルミナ粒子のそれぞれの物性と共に、アルミナ粉末2~12を用いた評価結果を表2に示す。
【0060】
〔比較例1〕
第1のアルミナ粒子として、(1-6)アルミナ粒子Aを15質量部と、(1-7)アルミナ粒子Bを85質量部とを、日本アイリッヒ社製インテンシブミキサーEL-1(商品名)を用いて混合し、製造した。
第2のアルミナ粒子を次の方法により製造した。すなわち、図1に示す製造装置を用いて、アルミナ原料1を酸素ガス(ガス流量:15Nm3/時間)に同伴させて、噴霧ノズルから火炎中に供給し、製造炉内に常時、燃料ガス(LPガス、ガス流量:3Nm3/時間)を供給しながら、火炎溶融処理を行った。この火炎溶融処理の際に、アルミナ粉末のα結晶相の含有率をコントロールするために、炉内へ適宜ドライアイスを供給して冷却処理を行った。
また、第3のアルミナ粒子を次の方法により製造した。すなわち、図1に示す製造装置を用いて、アルミナ原料3を酸素ガス(ガス流量:15Nm3/時間)に同伴させて、噴霧ノズルから火炎中に供給し、製造炉内に常時、燃料ガス(LPガス、ガス流量:3Nm3/時間)を供給しながら、火炎溶融処理を行った。この火炎溶融処理の際に、アルミナ粉末のα結晶相の含有率をコントロールするために、炉内へ適宜ドライアイスを供給して冷却処理を行った。
得られた第1のアルミナ粒子、第2のアルミナ粒子、及び第3のアルミナ粒子のそれぞれの物性を評価し、結果を表3に示す。
その後、得られた第1のアルミナ粒子を5.3質量部と、第2のアルミナ粒子を47.0質量部と、第3のアルミナ粒子を47.7質量部とを、日本アイリッヒ社製インテンシブミキサーEL-1(商品名)を用いて混合し、アルミナ粉末aを製造した。
得られたアルミナ粉末aを用いた評価結果を表3に示す。
【0061】
〔比較例2~11〕
第1のアルミナ粒子として、実施例1と同様にして、表3に示す物性を有する第1のアルミナ粒子をそれぞれ製造した。
また、アルミナ原料(原料1~6)の種類、酸素ガスの流量、及び燃料ガスの流量を表3に従って変更した以外は、実施例1と同様にして、表3に示す物性を有する第2のアルミナ粒子を得た。
更に、アルミナ原料(原料1~6)の種類、酸素ガスの流量、及び燃料ガスの流量を表3に従って変更した以外は、実施例1と同様にして、表3に示す物性を有する第3のアルミナ粒子を得た。
このようにして得られた、第1のアルミナ粒子と、第2のアルミナ粒子と、第3のアルミナ粒子とを、表3に示す配合量に従って、日本アイリッヒ社製インテンシブミキサーEL-1(商品名)を用いて混合し、アルミナ粉末b~kをそれぞれ製造した。
得られた第1のアルミナ粒子、第2のアルミナ粒子、及び第3のアルミナ粒子のそれぞれの物性と共に、アルミナ粉末b~kを用いた評価結果を表3に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
表2及び3において、投影面積円相当径が0.1μm以上10μm以下であるアルミナ粒子の平均球形度は、実施例6が0.99であり、実施例7が0.79である以外は、0.80~0.98の範囲であった。また、投影面積円相当径が10μm超えて100μm以下であるアルミナ粒子の平均球形度は、実施例10が0.99であり、実施例11が0.79である以外は、0.80~0.98の範囲であった。
なお、第1のアルミナ粒子を含まない場合、熱伝導率が低下した。第2のアルミナ粒子を含まない場合、流動性が悪いため成形できず、熱伝導率の測定ができなかった。第3のアルミナ粒子を含まない場合、流動性が相対的に悪いが成形はできた。しかし、熱伝導率が低かった。
【0065】
本出願は、2020月3月31日出願の日本特許出願(特願2020-063554)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本実施形態に係るアルミナ粉末、及びこのアルミナ粉末を用いた樹脂組成物は、種々の用途に適用できるが、放熱シート、放熱グリース、放熱スペーサー、半導体封止材、放熱塗料(放熱コート剤)等の放熱部品に好適である。
【符号の説明】
【0067】
1…溶融炉、2…バーナー、3…燃料ガス供給管、4…助燃ガス供給管、5…原料粉末供給管、6…冷却媒体供給口、7…バグフィルター、8…ブロワー、9…R熱電対。
図1