(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】耐腐食性に優れた溶融合金めっき鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 2/06 20060101AFI20240829BHJP
C23C 2/02 20060101ALI20240829BHJP
C23C 2/26 20060101ALI20240829BHJP
C21D 9/56 20060101ALI20240829BHJP
C22C 18/04 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C23C2/06
C23C2/02
C23C2/26
C21D9/56 101B
C22C18/04
(21)【出願番号】P 2022536981
(86)(22)【出願日】2020-12-01
(86)【国際出願番号】 KR2020017386
(87)【国際公開番号】W WO2021125625
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-08-12
(31)【優先権主張番号】10-2019-0169493
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ヒョン-ユン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ソン-ジュ
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/001662(WO,A1)
【文献】国際公開第98/026103(WO,A1)
【文献】特開2004-068075(JP,A)
【文献】国際公開第2019/009003(WO,A1)
【文献】特開平10-306357(JP,A)
【文献】特開2012-214896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/06
C23C 2/02
C23C 2/26
C21D 9/56
C22C 18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板;及び
前記素地鋼板上に形成された溶融合金めっき層を含み、
前記溶融合金めっき層は重量%で、Al:8%超過~25%、Mg:4%超過~12%
、残部Zn及びその他の不可避不純物を含み、
前記溶融合金めっき層の表面X線回折強度は、下記関係式1を満た
し、
前記X線回折強度の測定時に、溶融合金めっき層の厚さは10μmであり、測定装置はD/MAX-2200/PCであり、測定条件はCuターゲット(target)、電圧:40kV、電流:40mAとし、X線回折測定角度(2θ)は10~100°である、耐腐食性に優れた溶融合金めっき鋼材。
[関係式1]2000cps≦X線回折強度≦20000cps
(但し、前記X線回折強度はM-Nであり、前記Mは2θ=20.00~21°未満で
ある区間での最も高いピーク強度を意味し、Nは2θ=20.00°でのピーク強度を意
味する。)
【請求項2】
前記溶融合金めっき層は、Be、Ca、Ce、Li、Sc、Sr、V及びYからなる群
から選択された1種以上を合計量で0.0005~0.009%の範囲でさらに含む、請
求項1に記載の耐腐食性に優れた溶融合金めっき鋼材。
【請求項3】
素地鋼板を用意する段階;
前記素地鋼板を重量%で、Al:8%超過~25%、Mg:4%超過~12%、残部Z
n及びその他の不可避不純物を含むめっき浴に通過させて溶融めっきする段階;及び
前記溶融めっきされた素地鋼板をガスワイピング及び冷却して、前記素地鋼板上に溶融
合金めっき層を形成させる段階;を含み、
前記冷却は、酸素/窒素の体積比が0.18~0.34である第1ガスを付与する第1
段階;窒素を除いた全ガスに対する窒素の体積比が10~10000である第2ガスを付
与する第2段階;及び、前記溶融合金めっき層にレーザー衝撃波を印加する第3段階;を
含
み、
前記第3段階時に、レーザー衝撃波は、20~100P/secのパルス及び20~1000Wの電力を用いて印加される、耐腐食性に優れた溶融合金めっき鋼材の製造方法。
【請求項4】
前記めっき浴は、Be、Ca、Ce、Li、Sc、Sr、V及びYからなる群から選択
された1種以上を合計量で0.0005~0.009%の範囲でさらに含む、請求項3に
記載の耐腐食性に優れた溶融合金めっき鋼材の製造方法。
【請求項5】
前記素地鋼板を溶融めっきする段階の前に、前記素地鋼板を400~900℃で熱処理
する段階をさらに含む、請求項3に記載の耐腐食性に優れた溶融合金めっき鋼材の製造方
法。
【請求項6】
前記熱処理は体積%で、5~20%の水素及び80~95%の窒素からなる還元性雰囲
気で行われる、請求項5に記載の耐腐食性に優れた溶融合金めっき鋼材の製造方法。
【請求項7】
前記めっき浴の温度は、400~550℃である、請求項3に記載の耐腐食性に優れた
溶融合金めっき鋼材の製造方法。
【請求項8】
前記第1段階時に、第1ガス流量は0.5~5m
3/分である、請求項3に記載の耐腐
食性に優れた溶融合金めっき鋼材の製造方法。
【請求項9】
前記第2段階時に、第2ガス流量は2~20m
3/分である、請求項3に記載の耐腐食
性に優れた溶融合金めっき鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐腐食性に優れた溶融合金めっき鋼材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
亜鉛めっき処理した鋼材は、酸化電位がさらに高い亜鉛が素地鉄より先に溶解する犠牲防食作用、及び緻密に形成された亜鉛の腐食生成物が腐食を遅延させる腐食抑制作用などによって鋼材を腐食から保護する。しかし、日々悪化する腐食環境や資源及び省エネの側面を考慮して耐食性の向上に多くの努力を払っている。
【0003】
一例として、亜鉛にアルミニウムを5重量%または55重量%添加した亜鉛-アルミニウム合金めっきが検討されている。しかし、上記亜鉛-アルミニウム合金めっきは、耐食性には優れるが、アルカリ条件では、アルミニウムが亜鉛より溶解しやすいため、長期耐久性の側面では不利であるという欠点がある。上述しためっき以外にも様々な合金めっきが検討されている。
【0004】
最近、このような努力の成果としてめっき浴にMgを添加して耐食性を大幅に向上させる成果が得られている。特許文献1は、Mg:0.05~10.0%、Al:0.1~10.0%、及び残部:Zn及び不可避不純物からなるZn-Mg-Al合金めっき層を特徴とするが、上記技術は粗大なめっき組織が形成されるか、特定組織が集中的に形成されると、優先腐食が起こるという問題がある。
【0005】
また、めっき層の組織を制御して耐食性を向上させようとする技術として特許文献2があり、上記技術はZn-Al-Mg-Siめっき層を有し、これらのめっき層がAl/Zn/Zn2Mgの三元工程の組織中にMg2Si相、Zn2Mg相、Al相、Zn相が混在した金属組織を有することを特徴とするが、その適用対象がSiを含有する高強度鋼に限定され、めっき組織中に必ずSi成分を含む必要があるため、めっき用インゴット製造費用の増加及び作業管理が難しくなるという問題がある。
【0006】
X線強度比を制御して均一した外観を有するようにする技術として特許文献3があり、上記技術はZn合金めっき層内のMg2Zn11/MgZn2のX線強度比が0.2以下であり、Al相の大きさが200μm以下であることを特徴とするが、素材のサイズによって敏感に変わり、作業管理が難しいという欠点がある。
【0007】
金属脆化割れ性及び耐塗膜下膨張腐食性を改善する技術として特許文献4があるが、上記技術は、X線回折強度がA(回折ピーク)-B(バックグラウンド)≦400cpsの条件を満たすことを特徴とするが、耐食性が不足するという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本公開特許公報第1999-158656号
【文献】日本公開特許公報第2001-295018号
【文献】日本公開特許公報第2006-193791号
【文献】日本公開特許公報第2012-214896号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一側面は、耐腐食性に優れた溶融合金めっき鋼材及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態は、素地鋼板;及び、上記素地鋼板上に形成された溶融合金めっき層を含み、上記溶融合金めっき層は重量%で、Al:8%超過~25%、Mg:4%超過~12%、残部Zn及びその他の不可避不純物を含み、上記溶融合金めっき層の表面X線回折強度は、下記関係式1を満たす耐腐食性に優れた溶融合金めっき鋼材を提供する。
[関係式1]2000cps≦X線回折強度≦20000cps
(但し、上記X線回折強度はM-Nであり、上記Mは2θ=20.00~21°未満である区間での最も高いピーク強度を意味し、Nは2θ=20.00°でのピーク強度を意味する。)
【0011】
本発明の他の実施形態は、素地鋼板を用意する段階;上記素地鋼板を重量%で、Al:8%超過~25%、Mg:4%超過~12%、残部Zn及びその他の不可避不純物を含むめっき浴に通過させて溶融めっきする段階;及び、上記溶融めっきされた素地鋼板をガスワイピング及び冷却して、上記素地鋼板上に溶融合金めっき層を形成させる段階;を含み、上記冷却は、酸素/窒素の体積比が0.18~0.34である第1ガスを付与する第1段階;窒素を除いた全ガスに対する窒素の体積比が10~10000である第2ガスを付与する第2段階;及び、上記溶融合金めっき層にレーザー衝撃波を印加する第3段階;を含む耐腐食性に優れた溶融合金めっき鋼材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一側面によると、耐腐食性に優れた溶融合金めっき鋼材及びその製造方法を提供することができ、海水腐食又は腐食ガスなどの劣悪な腐食環境での構造物の寿命を延ばすという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】発明例7のX線回折測定角度(2θ)によるX線回折強度を示したグラフである。
【
図2】比較例1のX線回折測定角度(2θ)によるX線回折強度を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る耐腐食性に優れた溶融合金めっき鋼材について説明する。
【0015】
本発明の溶融合金めっき鋼材は素地鋼板;及び、上記素地鋼板上に形成された溶融合金めっき層を含む。
【0016】
本発明では、上記素地鉄の種類について特に限定せず、例えば、熱延鋼板、熱延酸洗鋼板、冷延鋼板などの鋼板や線材または鋼線などを用いることができる。さらに、本発明の素地鉄は、当技術分野で鋼材として分類されるあらゆる種類の合金組成を有することができる。
【0017】
上記溶融合金めっき層は、重量%で、Al:8%超過~25%、Mg:4%超過~12%、残部Zn及びその他の不可避不純物を含むことが好ましい。上記Alは溶湯製造時にMgを安定化し、また腐食環境で初期腐食を抑制する腐食障壁の役割を果たす。上記Alが8%以下である場合には、溶湯製造時にMgが安定化できず、溶湯表面にMg酸化物が生成するという欠点があり、25%を超過する場合には、めっき浴の温度を上昇させて、めっき浴に設けられた各種設備の溶食がひどく発生するという問題がある。したがって、上記Alの含有量は8%超過~25%であることが好ましい。上記Al含有量の下限は10%であることがより好ましい。上記Al含有量の上限は20%であることがより好ましい。Mgは耐食性を発現する組織を形成する役割を果たす。上記Mgが4%以下である場合には耐食性の発現が十分でなく、12%を超過する場合には、めっき浴の温度を上昇させるだけでなく、Mg酸化物を形成させて材質劣化や費用上昇などの様々な問題を引き起こす。したがって、上記Mgの含有量は4%超過~12%であることが好ましい。上記Mg含有量の下限は5%であることがより好ましい。上記Mg含有量の上限は、10%であることがより好ましい。
【0018】
上記溶融合金めっき層は、Mg安定化のために、Be、Ca、Ce、Li、Sc、Sr、V及びYからなる群から選択された1種以上を合計量で0.0005~0.009%の範囲でさらに含んでもよい。上記追加合金元素の含有量が0.0005%未満である場合には、実質的にMg安定化の効果が奏されず、0.009%を超過する場合には、溶融めっき層が遅く凝固して、優先腐食が起こることによって耐食性を損ない、費用も増加させるという問題がある。したがって、上記Be、Ca、Ce、Li、Sc、Sr、V及びYからなる群から選択された1種以上の合計量は、0.0005~0.009%の範囲であることが好ましい。上記追加合金元素の合計量の下限は0.003%であることがより好ましい。上記合金元素の合計量の上限は0.008%であることがより好ましい。
【0019】
上記溶融合金めっき層は、表面X線回折強度が下記関係式1を満たすことが好ましい。このとき、上記X線回折強度はM-Nであり、上記Mは2θ=20.00~21°未満である区間での最も高いピーク強度を意味し、Nは2θ=20.00°でのピーク強度を意味する。すなわち、本発明におけるX線回折強度は、2θ=20.00~21°未満である区間での最も高いピーク強度から2θ=20.00°でのピーク強度を引いた値を意味する。上記X線回折強度が2000cps未満である場合には、MgZn2相が不足して耐腐食性が不十分であるという欠点があり、20000cpsを超過すると金属脆性が強くて加工性が低下するおそれがある。したがって、上記表面X線回折強度は、2000~20000cpsの範囲を有することが好ましい。上記表面X線回折強度の下限は2500cpsであることがより好ましく、3000cpsであることがさらに好ましい。上記表面X線回折強度の上限は12000cpsであることが好ましい。
[関係式1]2000cps≦X線回折強度≦20000cps
【0020】
上記溶融合金めっき層は様々な凝固相を含むことができ、例えば、Mg、Al及びZnとその他の追加合金元素を含む単一相、2元共晶相、3元共晶相または金属間化合物を含むことができる。上記金属間化合物は、MgZn2、Mg2Zn11などを含むことができる。
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る耐腐食性に優れた溶融合金めっき鋼材の製造方法について説明する。
【0022】
まず、素地鋼板を用意する。上記素地鋼板の用意時にオイルなどの鋼板表面に付着している不純物を除去することで、上記素地鋼板の表面清浄化のために、脱脂、洗浄又は酸洗工程を行うことができる。
【0023】
この後、上記素地鋼板は溶融めっき前に、当該技術分野で通常的に行われる熱処理を行うことができる。これによって、本発明では上記熱処理条件について特に限定しない。但し、例えば、熱処理温度は400~900℃であることができる。また、例えば、雰囲気ガスとしては、水素、窒素、酸素、アルゴン、一酸化炭素、二酸化炭素、水分などを用いることができ、5~20体積%の水素及び80~95体積%の窒素ガスなどを用いることができる。
【0024】
この後、上記素地鋼板を重量%で、Al:8%超過~25%、Mg:4%超過~12%、残部Zn及びその他の不可避不純物を含むめっき浴に通過させて溶融めっきする。上記めっき浴は、Be、Ca、Ce、Li、Sc、Sr、V及びYからなる群から選択された1種以上を合計量で0.0005~0.009%の範囲でさらに含むことができる。一方、本発明ではめっき浴温度について特に限定せず、当該技術分野で通常的に用いられるめっき浴温度を用いることができ、例えば、通常のめっき浴の温度は、400~550℃であることができる。
【0025】
この後、上記溶融めっきされた素地鋼板をガスワイピング及び冷却して、上記素地鋼板上に溶融合金めっき層を形成させる。上記ガスワイピングを介してめっき付着量を制御することで得ようとする厚さの溶融合金めっき層を形成させることができる。一方、本発明では、上記冷却時に、下記で説明される3段階にわたる工程を行うことで、本発明が得ようとするX線回折強度を有する溶融合金めっき層を形成させることを特徴とする。下記3段階の工程に符合しない場合には、X線回折強度が低くなり、耐食性が十分に確保できず、作業環境が劣化し、製造費用が増加し、表面欠陥の発生が増加するという欠点がある。
【0026】
まず、酸素/窒素の体積比が0.18~0.34である第1ガスを付与する第1段階を
行う。上記酸素/窒素の体積比が0.18未満である場合には、製造費用が増加するとい
う欠点があり、0.34を超過する場合には、表面欠陥が発生するという欠点がある。上
記酸素/窒素の体積比の下限は0.19であることがより好ましい。上記酸素/窒素の体
積比の上限は0.28であることがより好ましい。一方、上記第1ガスは酸素及び窒素の
みを含むことが好ましいが、上記第1ガスは酸素及び窒素の他に本発明が得ようとする効
果に影響を及ぼさない範囲である0.5体積%以下に不純ガスをさらに含むことができ、
上記不純ガスはアルゴン、二酸化炭素、一酸化炭素、水分のうち1種以上であることがで
きる。上記第1段階時に、第1ガス流量は0.5~5m
3
/分であることができる。
【0027】
この後、窒素を除いた全ガスに対する窒素の体積比が10~10000である第2ガス
を付与する第2段階を行う。上記窒素を除いた全ガスに対する窒素の体積比が10未満で
ある場合には、製造費用が増加するという欠点があり、10000を超過する場合には、
表面欠陥が発生するという欠点がある。上記窒素を除いた全ガスに対する窒素の体積比の
下限は、20であることがより好ましい。上記窒素を除いた全ガスに対する窒素の体積比
の上限は2000であることがより好ましい。一方、上記第2ガスは窒素の他に酸素、水
分、アルゴン、二酸化炭素、一酸化炭素のうち1種以上であることができる。上記第2段階時に、第2ガス流量は2~20m
3
/分であることができる。
【0028】
この後、上記溶融合金めっき層にレーザー衝撃波を印加する。上記レーザー衝撃波印加は、上記溶融合金めっき層の表面にマイクロメーター単位の微細しわを形成させるためのものである。本発明では、上記効果が得られるものであれば、上記レーザー衝撃波印加時の条件について特に限定しない。但し、例えば、20~100P/secのパルス及び20~1000Wの電力を用いてレーザー衝撃波を印加することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。但し、下記実施例は本発明を例示してより詳細に説明するためのもので、本発明の権利範囲を限定するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれから合理的に類推される事項によって決定されるためである。
【0030】
(実施例)
厚さが0.8mmである低炭素鋼冷延鋼板を用意した後、上記冷延鋼板を脱脂し、この後、10vol%水素-90vol%窒素からなる還元性雰囲気で800℃に熱処理した。この後、上記熱処理された素地鋼板を450℃の合金めっき浴に沈積して溶融めっきした後、溶融合金めっき層の厚さが約10μmとなるようにガスワイピングを介してめっき付着量を制御し、この後、冷却時の下記表1に記載された条件を用いることで、溶融合金めっき鋼材を製造した。このとき、レーザー衝撃波は100P/sec-20Wを適用した。また、合金めっき浴の合金組成は表2のとおりであった。このように製造された溶融合金めっき鋼材について溶融合金めっき層の合金組成を測定した後、その結果を下記表2に示した。また、上記溶融合金めっき層のめっき層の表面をXRDで分析してX線回折強度を測定した後、その結果を下記表2に示した。このとき、上記X線回折強度を測定するための装置としては、D/MAX-2200/PC(RIGAKU(株))を用い、X線回折強度の測定条件はCuターゲット(target)、電圧:40kV、電流: 40mAとし、X線回折の測定角度(2θ)は10~100°まで測定した。また、上記製造された溶融合金めっき鋼材についてめっき作業性、耐食性及び加工性を評価した後、その結果を下記表2に示した。
【0031】
めっき作業性は、めっき浴内のドロスの発生程度で評価した。一方、ドロス(dross)とは、液状のめっき浴内に存在する固体の微粒な粒子を意味し、ドロスが多いほど、上記ドロスが鋼材の表面に付着して表面欠陥を発生するようになる。
○:ドロスによる表面欠陥がない場合
×:ドロスによる表面欠陥が発生した場合
【0032】
耐食性は溶融合金めっき鋼材に対して塩水噴霧試験を行った後、赤錆発生の時間を測定し、これから赤錆発生時間(Hr)/めっき付着量(g/m2)で評価した。この時、塩水噴霧試験条件は、塩度:5%、温度:35℃、pH:6.8、塩水噴霧量:2ml/80cm2・1Hrで噴霧した。
○:赤錆発生時間(Hr)/めっき付着量(g/m2)値が40以上
×:赤錆発生時間(Hr)/めっき付着量(g/m2)値が40未満
【0033】
加工性は溶融合金めっき鋼材に対して曲率半径0.4mmで曲げ加工した後、外面の表面割れサイズで評価した。
○:割れサイズが平均30μm以下
×:割れサイズが平均30μm超過
【0034】
【0035】
【0036】
上記表1及び2から分かるように、本発明が提案する溶融合金めっき層の合金組成、X線回折強度及び製造条件を満たす発明例1~18の場合には、耐食性に優れるだけでなく、めっき作業性及び加工性にも優れたレベルであることが分かる。
【0037】
比較例1は、本発明の溶融合金めっき層のAl及びMg含有量を満たさない場合であり、X線回折強度が本発明の範囲より低いだけでなく、耐食性が良好でないことが分かる。
【0038】
比較例2は、本発明の溶融合金めっき層のMg含有量を満たさない場合であり、X線回折強度が本発明の範囲より高いだけでなく、めっき作業性が劣化し、加工性も良好でないことが分かる。
【0039】
比較例3は、本発明の溶融合金めっき層のLi含有量を満たさない場合であり、X線回折強度が本発明の範囲より低いだけでなく、耐食性が良好でないことが分かる。
【0040】
比較例4は、本発明の製造条件のうち、第1段階~第3段階の処理工程を満たさない場合であり、X線回折強度が本発明の範囲より低いだけでなく、耐食性が良好でないことが分かる。
【0041】
比較例5は、本発明の製造条件のうち、第1段階及び第2段階の処理工程を満たさない場合であり、X線回折強度が本発明の範囲より高いだけでなく、加工性が良好でないことが分かる。
【0042】
比較例6は、本発明の製造条件のうち、第3段階の処理工程を満たさない場合であり、X線回折強度が本発明の範囲より低いだけでなく、耐食性が良好でないことが分かる。
【0043】
図1は、発明例7のX線回折測定角度(2θ)によるX線回折強度を示したグラフであり、
図2は、比較例1のX線回折測定角度(2θ)によるX線回折強度を示したグラフである。
図1及び
図2から分かるように、発明例7の場合にはX線回折強度が本発明の条件を満たしているが、比較例1の場合にはX線回折強度が非常に低いレベルであることが分かる。