(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】電子部品包装用シート
(51)【国際特許分類】
B65D 65/40 20060101AFI20240829BHJP
B65D 85/86 20060101ALI20240829BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240829BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240829BHJP
C08L 55/02 20060101ALI20240829BHJP
C08L 25/12 20060101ALI20240829BHJP
C08L 33/06 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
B65D65/40 D
B65D85/86 100
B65D85/86 300
B32B27/30 A
B32B27/00 H
C08L55/02
C08L25/12
C08L33/06
(21)【出願番号】P 2022573970
(86)(22)【出願日】2021-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2021046064
(87)【国際公開番号】W WO2022149420
(87)【国際公開日】2022-07-14
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2021001936
(32)【優先日】2021-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 岳史
(72)【発明者】
【氏名】猪田 育佳
(72)【発明者】
【氏名】谷中 亮輔
【審査官】武井 健浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-074408(JP,A)
【文献】特開2017-205941(JP,A)
【文献】国際公開第2006/030871(WO,A1)
【文献】特開2004-091691(JP,A)
【文献】国際公開第2012/046807(WO,A1)
【文献】特開2011-111171(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2008-0041960(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/40
B65D 75/36
B65D 85/38
C08L 1/00 - 101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(I)
70~99質量%と、重量平均分子量が700,000~4,300,000の、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)及びスチレン-アクリロニトリル共重合体(B)から選択される少なくとも1つの共重合体を含む樹脂(II)
1~30質量%とを含む基材層を、少なくとも一層有する基材シートを含む、電子部品包装用シート。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)が、炭素数4~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単量体単位(a1)を含む、請求項
1に記載の電子部品包装用シート。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂(I)が、ABS系樹脂及びPC系樹脂から選択される少なくとも1つの熱可塑性樹脂を含む、請求項1
または2に記載の電子部品包装用シート。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂(I)が、前記熱可塑性樹脂(I)の総質量に対して、ABS系樹脂を70~100質量%含む、請求項1から
3のいずれか一項に記載の電子部品包装用シート。
【請求項5】
前記基材シートが、前記基材層を分割する分断層を少なくとも一層有する、請求項1から
4のいずれか一項に記載の電子部品包装用シート。
【請求項6】
前記基材層の個々の層の厚みの平均値が、前記分断層の個々の層の厚みの平均値以上である、請求項
5に記載の電子部品包装用シート。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか一項に記載の電子部品包装用シートを含んでなる、成形体。
【請求項8】
容器である、請求項
7に記載の成形体。
【請求項9】
キャリアテープである、請求項
7に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品包装用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体や電子部品、特に集積回路(IC)や、ICを備える電子部品等の包装容器としては、トレー(インジェクショントレー、真空成形トレー等)、マガジン、キャリアテープ(エンボスキャリアテープ)等が使用されている。これら電子部品の包装容器を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、ABS系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が使用されている。また、静電気によるICの障害や破壊を避ける観点から、例えば、ABS系樹脂からなる基材層の表面に、導電性カーボンブラック等の導電剤を配合した樹脂からなる導電層を設けた包装容器等も提案されている(特許文献1、2等)。
【0003】
上述のトレーやキャリアテープは、電子部品包装用のシートを公知の手法で成形して得られるが、その成形時において、特に、原反シートをスリットする際や、スプロケットホールを打ち抜く際等に、毛羽やバリが発生することがある。このようなバリや毛羽が、収納部(ポケット)に脱落して電子部品に付着すると、電子部品に不具合が生じることがある。近年、電子部品の小型化に伴い、バリや毛羽の付着により生じる不具合を低減することが、より強く求められている。
【0004】
係る課題に対し、基材層や導電層に、ポリオレフィンや、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体またはスチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体等を配合して、バリや毛羽を低減したシートが提案されている(例えば、特許文献3、4等)。しかしながら、従来の方法では、バリや毛羽の抑制が十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-174769号公報
【文献】特開2002-292805号公報
【文献】国際公開第2006/030871号
【文献】特開2003-170547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、毛羽やバリの発生を効果的に抑制できる電子部品包装用シートおよび前記シートを含んでなる成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に対して、本願発明者らは鋭意検討した結果、高分子量の、(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びスチレン-アクリロニトリル共重合体から選択される少なくとも1つの共重合体を含む樹脂(II)を、熱可塑性樹脂(I)と組み合わせた基材層を一層以上有する基材シートを備える電子部品包装用シートであれば、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
[1]熱可塑性樹脂(I)と、重量平均分子量が700,000~4,300,000の、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)及びスチレン-アクリロニトリル
共重合体(B)から選択される少なくとも1つの共重合体を含む樹脂(II)とを含む基材層を、少なくとも一層有する基材シートを含む、電子部品包装用シート。
[2]前記基材シートが、前記熱可塑性樹脂(I)70~99質量%、及び前記樹脂(II)1~30質量%を含む基材層を少なくとも一層有する、[1]に記載の電子部品包装用シート。
[3]前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)が、炭素数4~8のアル
キル基を有するアクリル酸アルキルエステル単量体単位(a1)を含む、[1]または[2]に記載の電子部品包装用シート。
[4]前記熱可塑性樹脂(I)が、ABS系樹脂及びPC系樹脂から選択される少なくとも1つの熱可塑性樹脂を含む、[1]から[3]のいずれか一項に記載の電子部品包装用シート。
[5]前記熱可塑性樹脂(I)が、前記熱可塑性樹脂(I)の総質量に対して、ABS系樹脂を70~100質量%含む、[1]から[4]のいずれか一項に記載の電子部品包装用シート。
[6]前記基材シートが、前記基材層を分割する分断層を少なくとも一層有する、[1]から[5]のいずれか一項に記載の電子部品包装用シート。
[7]前記基材層の個々の層の厚みの平均値が、前記分断層の個々の層の厚みの平均値以上である、[6]に記載の電子部品包装用シート。
[8][1]から[7]のいずれか一項に記載の電子部品包装用シートを含んでなる、成形体。
[9]容器である、[8]に記載の成形体。
[10]キャリアテープである、[8]に記載の成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、毛羽やバリの発生を効果的に抑制できる電子部品包装用シートおよび前記シートを含んでなる成形体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の態様に限定されるものではない。
[電子部品包装用シート]
本発明に係る電子部品包装用シート(以下、単に「シート」と記載することもある)は、熱可塑性樹脂(I)と、重量平均分子量が700,000~4,300,000の、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)及びスチレン-アクリロニトリル共重
合体(B)から選択される少なくとも1つの共重合体を含む樹脂(II)とを含む基材層を、少なくとも一層有する基材シートを含む。このような構成を有する本発明の電子部品包装用シートは、毛羽やバリの発生を効果的に抑制できる。
【0010】
(基材シート)
本発明に係る電子部品包装用シートは、基材シートを備える。基材シートは、熱可塑性樹脂(I)と、重量平均分子量が700,000~4,300,000の、(メタ)アク
リル酸アルキルエステル共重合体(A)及びスチレン-アクリロニトリル共重合体(B)から選択される少なくとも1つの共重合体を含む樹脂(II)とを含む基材層を、少なくとも一層有する。
【0011】
<基材層>
基材層は、熱可塑性樹脂(I)と、重量平均分子量が700,000~4,300,000の、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)及びスチレン-アクリロニ
トリル共重合体(B)から選択される少なくとも1つの共重合体を含む樹脂(II)とを含む。
基材層に含まれる熱可塑性樹脂(I)の割合は、基材層を構成する樹脂組成物の総質量に対して、70~99質量%が好ましく、75~98質量%がより好ましく、80~96質量%が特に好ましい。また、基材層に含まれる樹脂(II)の割合は、基材層を構成する樹脂組成物の総質量に対して、1~30質量%が好ましく、2~25質量%がより好ましく、4~20質量%が特に好ましい。熱可塑性樹脂(I)と樹脂(II)とを前記範囲内で含む基材層を少なくとも一層備えることにより、シート成形時のバリや毛羽の発生をより効果的に抑制しやすくなる。
基材層中の熱可塑性樹脂(I)と樹脂(II)との質量比(熱可塑性樹脂(I)/樹脂(II))は、99/1~70/30であることが好ましく、98/4~75/25であることがより好ましい。熱可塑性樹脂(I)と樹脂(II)との質量比が前記範囲内であれば、基材シートの製膜性が低下しにくく、かつバリや毛羽の発生を効果的に抑制しやすくなる。
【0012】
(熱可塑性樹脂(I))
熱可塑性樹脂(I)としては、例えば、ポリスチレン系樹脂(PS系樹脂)、ABS系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂(PC系樹脂)等が挙げられる。これら熱可塑性樹脂は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
PS系樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂、ゴム変性スチレン樹脂(ゴム-g-スチレン系樹脂(GPPS)又は耐衝撃性スチレン樹脂(HIPS))等が挙げられる。PS系樹脂は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
PS系樹脂を形成するための芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、アルキル置換スチレン(例えば、ビニルトルエン、ビニルキシレン、p-エチルスチレン、p-イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン等)、ハロゲン置換スチレン(例えば、クロロスチレン、ブロモスチレン等)、α位にアルキル基が置換したα-アルキル置換スチレン(例えば、α-メチルスチレンなど)等が挙げられる。これらの芳香族ビニル単量体は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの単量体のうち、通常は、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン等、特にスチレンが好ましく使用される。
PS系樹脂のISO 1133の規格に従って測定したMFRは、1~30g/10minが好ましく、2~25g/10minがより好ましい。
【0013】
ABS系樹脂は、ジエン系ゴム-芳香族ビニル単量体-シアン化ビニル単量体の3元共重合体を主成分とするもので、代表的にはアクリロニトリル-ブタジエン-スチレンの3元共重合体を主成分とする樹脂又は樹脂組成物を意味する。その具体例としては、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン3元共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン3元共重合体とアクリロニトリル-スチレン2元共重合体との混合物等が挙げられる。このうち、ABS系樹脂としては、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン3元共重合体を用いることが好ましく、更に、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン3元共重合体とアクリロニトリル-スチレン2元共重合体との混合物を用いることがより好ましい。これらの重合体は、前記の単量体単位に加えて、スチレン系単量体の微量成分として、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジメチルスチレン、クロロスチレン、ビニルナフタレン等の単量体を含有するものも含まれる。またシアン化ビニル単量体の微量成分としては、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリル等の単量体を含有するものも含まれる。以下の記載では微量成分についての記載は省略するが、本願発明の効果を損なわない範囲で、これらの成分を含有するものも包含する。ABS系樹脂は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
ABS系樹脂のISO 1133の規格に従って測定したMFRは、1~30g/10minが好ましく、2~25g/10minがより好ましい。
【0014】
ポリエステル系樹脂としては、例えば、芳香族多官能カルボン酸や脂肪族多官能カルボン酸と、多官能グリコールとから得られるポリエステル樹脂、ヒドロキシカルボン酸系のポリエステル樹脂等が挙げられる。芳香族多官能カルボン酸や脂肪族多官能カルボン酸と、多官能グリコールとから得られるポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペートおよびこれらのその他の共重合体等が挙げられる。その他の共重合体としては、ポリアルキレングリコール、ポリカプロラクトンなどを共重合したポリエステル樹脂等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸系のポリエステル樹脂としては、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン等が挙げられる。本発明において、上記で例示した各ポリエステル樹脂の共重合体も使用可能である。ポリエステル系樹脂は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
ポリエステル系樹脂のISO 1133の規格に従って測定したMFRの物性は、1~30g/10minが好ましく、2~25g/10minがより好ましい。
【0015】
PC系樹脂は、ジヒドロキシ化合物から誘導された樹脂であり、このうち、芳香族ジヒドロキシ化合物から誘導された樹脂が好ましく、特に2つの芳香族ジヒドロキシ化合物が、ある種の結合基を介して結合した芳香族ジヒドロキシ化合物(ビスフェノール)が好ましい。これらは公知の製法により製造されたものを使用でき、その製法は特に限定されない。また、市販の樹脂も使用することができる。PC系樹脂は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
PC系樹脂のISO 1133の規格に従って測定したMFRは、1~30g/10minが好ましく、2~25g/10minがより好ましい。
【0016】
熱可塑性樹脂(I)は、ABS系樹脂、及びPC系樹脂から選択される少なくとも1つの熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、ABS系樹脂を含むことがより好ましい。熱可塑性樹脂(I)が、ABS系樹脂及びPC系樹脂から選択される少なくとも1つを含むことにより、特に好ましくは、ABS系樹脂を含むことにより、樹脂(II)と組み合わせた際に樹脂の分子鎖同士の絡み合い点が増え、より効果的に打ち抜き時のバリや毛羽を抑制しやすくなる。
熱可塑性樹脂(I)がABS系樹脂を含む場合、ABS系樹脂の割合は、熱可塑性樹脂(I)の総質量に対して、70~100質量%であることが好ましく、75~100質量%であることがより好ましく、77~100質量%であることが特に好ましい。ABS系樹脂の割合が前記範囲内であれば、バリや毛羽の発生を効果的に抑制することができると共に、成形性が良好となりやすい。
また、熱可塑性樹脂(I)がABS系樹脂を含む場合、基材層中のABS系樹脂の割合は、基材層を構成する樹脂組成物の総質量に対して、70~99質量%であることが好ましく、80~98質量%であることがより好ましい。
【0017】
(樹脂(II))
樹脂(II)は、重量平均分子量が700,000~4,300,000の、(メタ)
アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)及びスチレン-アクリロニトリル共重合体(B)から選択される少なくとも1つの共重合体を含む、樹脂組成物である。本発明に係る電子部品包装用シートは、熱可塑性樹脂(I)と、高分子量の樹脂(II)とを含む基材層を備えることで、バリや毛羽の発生を効果的に抑制することができる。
樹脂(II)に含まれる共重合体(A)及び(B)のMwは700,000~4,300,000であり、800,000~4,000,000が好ましく、900,000~3,800,000がより好ましく、1,000,000~3,500,000が特に好ましい。共重合体(A)及び(B)のMwが700,000~4,300,000であれば、バリや毛羽の発生を効果的に抑制でき、かつ製膜性も低下しにくい。なお、共重合体(A)及び(B)のMwはゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて、単分散ポリスチレンの溶出曲線より各溶出時間における分子量を算出し、ポリスチレン換算の分子量として算出したものである。
<Mwの測定条件>
機種:昭和電工(株)製、製品名「Shodex GPC-101」
カラム:ポリマーラボラトリーズ社製 製品名「PLgel 10μm MIXED-B」
移動相:テトラヒドロフラン
試料濃度:0.2質量%
温度:オーブン40℃、注入口35℃、検出器35℃
検出器:示差屈折計
【0018】
<共重合体(A)>
共重合体(A)は、Mwが、700,000~4,300,000の、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体である。本明細書において、「(メタ)アクリル酸アルキルエステル」とは、アクリル酸アルキルエステル及びメタクリル酸アルキルエステルを意味する。共重合体(A)は、少なくとも2種類の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを重合することにより得ることができる。
共重合体(A)を構成する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、炭素数1~12の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。
共重合体(A)は、炭素数が4~8の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単量体単位(a1)(以下、「単量体単位(a1)」と記載する)を含むことが好ましい。共重合体(A)が単量体単位(a1)を含むことにより、成形性が良好となりやすい。このような単量体単位(a1)を構成するモノマーとしては、例えば、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ヘプチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、単量体単位(a1)としては、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシルを含むことが好ましく、アクリル酸n-ブチル単量体単位を含むことがより好ましい。
共重合体(A)中の単量体単位(a1)の割合は、共重合体(A)を構成する全単量体単位(100質量%)に対して、10~50質量%が好ましく、15~40質量%がより好ましく、20~30質量%が特に好ましい。
【0019】
共重合体(A)は、前記単量体単位(a1)と、炭素数1~12の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル単量体単位(a2)とを含むことがより好ましい。このような単量体単位(a2)を構成するモノマーとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、単量体単位(a2)としては、メタクリル酸メチル、又はメタクリル酸エチルの単量体単位を含むことが好ましく、メタクリル酸メチル単量体単位を含むことがより好ましい。
共重合体(A)中の単量体単位(a1)と単量体単位(a2)の質量比(単量体単位(a1)/単量体単位(a2))は、15/85~40/60が好ましく、20/80~30/70であることがより好ましく、22/78~28/72であることが特に好ましい。単量体単位(a1)/単量体単位(a2)が前記範囲内であれば、製膜性と成形性が良好となりやすい。
共重合体(A)は、前述の単量体単位(a1)と単量体単位(a2)以外のその他の単量体単位を含んでいてもよい。
【0020】
<共重合体(B)>
共重合体(B)は、Mwが、700,000~4,300,000の、スチレン-アクリロニトリル共重合体である。共重合体(B)は、スチレンとアクリロニトリルとを共重合することにより得られる。共重合体(B)中のスチレンとアクリロニトリルの共重合比率は、本発明の効果を有する限り特に限定されず、所望する物性に応じて適宜変更することができる。バリ抑制の観点からは、スチレンとアクリロニトリルとの共重合比は、質量比(スチレン/アクリロニトリル)で、90/10~20/80であることが好ましく、80/20~30/70であることがより好ましく、70/30~40/60であることが特に好ましい。
共重合体(B)のスチレン単量体単位を構成するスチレンとしては、例えば、スチレン、アルキル置換スチレン(例えば、ビニルトルエン、ビニルキシレン、p-エチルスチレン、p-イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン等)、ハロゲン置換スチレン(例えば、クロロスチレン、ブロモスチレン等)、α位にアルキル基が置換したα-アルキル置換スチレン(例えば、α-メチルスチレンなど)等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、スチレン、ビニルトルエンが好ましく、スチレンがより好ましい。
【0021】
樹脂(II)は、前述の共重合体(A)及び共重合体(B)から選択される少なくとも1つの共重合体を含む。このうち、共重合体(A)又は共重合体(B)を含むことが好ましく、共重合体(A)を含むことがより好ましい。1つの好ましい態様において、樹脂(II)は、共重合体(A)のみから構成されていてもよい。
樹脂(II)が共重合体(A)を含む場合、その割合は、樹脂(II)の総質量に対して、50~100質量%が好ましく、60~100質量%がより好ましく、70~100質量%が特に好ましい。また、基材シート中の共重合体(A)の割合は、基材シートを構成する樹脂組成物の総質量に対して、0.5~30質量%が好ましく、2~25質量%がより好ましい。
樹脂(II)が共重合体(B)を含む場合、その割合は、樹脂(II)の総質量に対して、30~100質量%であることが好ましく、40~100質量%がより好ましく、50~100質量%が特に好ましい。また、基材シート中の共重合体(B)の割合は、基材シートを構成する樹脂組成物の総質量に対して、0.3~30質量%が好ましく、1~25質量%がより好ましい。
【0022】
本発明に係るシートは、基材層を構成する樹脂組成物が、熱可塑性樹脂(I)と樹脂(II)とを含むことにより、シートの強度が向上し、シート打ち抜き時に樹脂が引き伸ばされるのを抑制できる。その結果、毛羽やバリの発生を効果的に抑制できる。基材層は、熱可塑性樹脂(I)及び樹脂(II)のみを含む樹脂組成物から構成されていてもよい。
【0023】
基材シートに含まれる基材層は少なくとも一層であり、2層以上であってもよい。基材層の層数が2層以上である場合、基材層の個々の層に含まれる熱可塑性樹脂(I)及び樹脂(II)の割合は、全て同じであってもよく、異なっていてもよい。シートの巻き癖がつきにくく、成形性が良好となりやすい観点からは、基材層の個々の層の組成は、同じであることが好ましい。
【0024】
基材シートは、基材層のみから構成されていてもよい。その場合、基材層の厚みが基材シートの厚みとなる。基材シートが1層の基材層から構成されている場合、基材層の厚みは、電子部品包装用シートの製膜性、成形性等の観点から、50~700μmが好ましく、100~500μmがより好ましい。
基材シートが、2層以上の基材層を積層させた多層基材シートである場合、基材シートに含まれる基材層の層数は、2~70であることが好ましく、3~50であることがより好ましい。この場合、基材層の個々の層の厚みの平均値は、2~200μmであることが好ましく、3~100μmであることがより好ましく、5~50μmであることが特に好ましい。なお、「基材層の個々の層の厚みの平均値」とは、基材シートに含まれる基材層の合計厚みを、基材層の総積層数で除した値のことを意味する。すなわち、基材層の1つの層の厚みを「x1」とした際に、(x1+x2+x3+・・・+xn)/nによって算出される値を意味する。ここで、「n」とは、基材シート中の基材層の総積層数を指す。
基材シートが2層以上の基材層を備える場合、基材層同士を分割する分断層を備えていてもよい。
【0025】
<分断層>
本発明に係る電子部品包装用シートの基材シートは、分断層を備えていてもよい。分断層は、2層以上の基材層を分割する層であり、基材層と基材層との間に設けられていることが好ましい。1つの態様において、基材シートは、基材層と分断層とが交互に積層された構成を有していてもよい。
分断層は、基材層に含まれる熱可塑性樹脂(I)とは異なる熱可塑性樹脂を主成分として含むことが好ましい。ここで、「主成分として含む」とは、分断層を構成する樹脂組成物の総質量に対して、熱可塑性樹脂を50質量%以上含むことを意味する。また、「熱可塑性樹脂(I)と異なる熱可塑性樹脂」とは、熱可塑性樹脂の種類が異なるだけでなく、その物性が異なる熱可塑性樹脂も含まれる。すなわち、分断層は、熱可塑性樹脂(I)とその種類が異なる熱可塑性樹脂を主成分として含むものであってもよく、物性の異なる、同一の熱可塑性樹脂を主成分として含むものであってもよい。バリ抑制の観点からは、分断層に含まれる熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂(I)とその種類が異なる熱可塑性樹脂を主成分として含むことが好ましい。
【0026】
分断層に含まれる熱可塑性樹脂としては、例えば、前述の熱可塑性樹脂(I)と同じものが挙げられる。熱可塑性樹脂(I)がABS系樹脂を含む場合、分断層に含まれる熱可塑性樹脂は、PC系樹脂、ポリエステル系樹脂から選択される少なくとも1つの熱可塑性樹脂であることが好ましく、PC系樹脂を含むことがより好ましい。又、熱可塑性樹脂(I)がABS樹脂を含む場合、分断層に含まれる熱可塑性樹脂は、アクリロニトリル-スチレンの2元共重合体であってもよい。
アクリロニトリル-スチレンの2元共重合体のスチレン単量体単位を構成するスチレンとしては、前述の共重合体(B)と同じ例が挙げられる。
1つの態様において、分断層がPC系樹脂を含む場合、その割合は、分断層を構成する樹脂組成物の総質量に対して、50~100質量%であることが好ましく、60~100質量%であることがより好ましく、70~100質量%であることが特に好ましい。また、前記PC系樹脂としては、ISO 1133の規格に従って測定したMFRが、1~30g/10minのものがより好ましい。
【0027】
基材シートが分断層を備える場合、その層数は基材層の積層数によって調整され得る。すなわち、基材層の層数が2~35である場合、分断層の層数は、1~34であることが好ましい。
分断層の層数が2以上である場合、分断層の個々の樹脂組成は異なっていてもよく、同じであってもよい。製膜性の観点からは、分断層の個々の層の樹脂組成は、同じであることが好ましい。
また、分断層の層数が2以上の場合、分断層の個々の層の厚みは同じであってもよく、異なっていてもよい。1つの態様において、分断層の個々の層の厚みの平均値は、基材層の個々の層の厚みの平均値以下であることが好ましい(すなわち、基材層の個々の層の厚みの平均値が、分断層の個々の層の厚みの平均値以上であることが好ましい)。分断層及び基材層の個々の層の厚みの平均値が上記関係を満たす場合、バリや毛羽の発生をより効果的に抑制しやすくなる。なお、「分断層の個々の層の厚みの平均値」とは、前述の基材層と同じである。すなわち、基材シートに含まれる分断層の合計厚みを、分断層の積層数で除した値のことを指す。1つの態様において、分断層の個々の層の厚みの平均値は、2~200μmであることが好ましく、3~100μmであることがより好ましく、5~50μmであることが特に好ましい。
分断層の個々の層の厚みの平均値に対する、基材層の個々の層の厚みの平均値の上限については特に限定されないが、製膜性の観点からは、10倍以下であることが好ましい。
【0028】
ところで、シートを成形する際に発生するバリ及び毛羽は、シート打ち抜き時やスリット時に、樹脂が引き伸ばされることにより発生すると推察される。本願発明者らは、熱可塑性樹脂(I)に、高分子量の樹脂(II)を組み合わせた基材層を備えることで、熱可塑性樹脂(I)の分子鎖同士の絡み合い点が増えて、成形時に樹脂の伸びが抑制され、バリや毛羽の発生を効果的に抑制できることを見出した。また、前記基材層は、シート強度にも優れるため、シート打ち抜き時に樹脂が引き伸ばされるのを抑制できる。このような構成を有する基材層を複数積層させ、さらに基材層と基材層との間に分断層を設けた多層構造の基材シートとすることにより、より効果的にバリや毛羽の発生を抑制しやすくなることも見出した。
本発明に係るシートは、JIS K 7127の引張試験に従って、67mm/秒の速度で測定した降伏点応力が、30~80MPaであることが好ましい。
【0029】
基材シートが2層以上の基材層と、分断層とを備える場合、これら基材層と分断層の総積層数は、3~70であることが好ましく、3~50であることがより好ましく、5~40であることがさらに好ましい。
【0030】
基材シートの厚みは、キャリアテープとした際の強度と成形性の観点から、50~700μmが好ましく、75~600μmがより好ましく、90~450μmであることが特に好ましい。
本発明に係る電子部品包装用シートは、前述の基材シートのみから構成されるものであってもよい。本発明に係る電子部品包装用シートを導電性シートとする場合は、前記基材シートの少なくとも一方の表面に導電層を形成することもできる。また、前記基材シートの上に、任意の層(例えば、防汚層等)を設けてもよい。
【0031】
(導電層)
本発明に係る電子部品包装用シートは、前記基材シートの少なくとも一方の表面に導電層を備えていてもよい。導電層は、導電成分を含む樹脂組成物から構成される層である。
導電層を構成する樹脂組成物としては、本発明の効果を有する限り特に限定されない。例えば、樹脂組成物の総質量に対して、前述の熱可塑性樹脂を65~95質量%、好ましくは70~90質量%含み、カーボンブラック等の導電剤を5~35質量%、好ましくは10~30質量%含む樹脂組成物等が挙げられる。
カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック等が挙げられ、好ましくは比表面積が大きく、少ない添加量で高い導電性が得られるものである。具体的には、平均一次粒子径が、20~100nmのものが好ましく、20~65nmのものがより好ましい。前記平均一次粒子径は透過型電子顕微鏡を用いて測定した粒子の平均径のことを意味する。
導電層を設ける場合、その厚みは特に限定されない。電子部品包装用シートの機械強度が向上しやすい観点から、導電層の厚みは3~100μmが好ましく、10~50μmがより好ましい。
【0032】
[電子部品包装用シートの製造方法]
本発明に係る電子部品包装用シートの製造方法としては、従来公知の製造方法を採用することができる。例えば、熱可塑性樹脂(I)と、樹脂(II)とを所望の組成割合で含む樹脂組成物を混合機で混合して、基材層形成用の樹脂組成物を準備したのち、この樹脂組成物を押出機に供給して溶融混錬し、フィードブロック法等によって、所定の厚みに製膜して基材層を形成する方法等が挙げられる。2層以上の基材層を設ける場合は、1層目の基材層の上に、同様の方法で基材層を製膜して積層することにより、多層構造の基材シートとすることができる。また、基材層の間に分断層を設ける場合は、事前に分断層用の樹脂組成物を準備し、別の押出機に供給して溶融混錬しておく。その後、基材層と分断層とが交互に重なるように積層させて、基材層と分断層とを備える多層構造の基材シートを得ることができる。本発明の電子部品包装用シートを、導電性シートとする場合は、前述の基材シートの片側、又は両方の表面に、別の押出機で溶融混錬した、導電層を形成する樹脂組成物を積層させて、電子部品包装用シートとすることができる。
【0033】
[成形体]
本発明に係る電子部品包装用シートを、真空成型、圧空成形、プレス成形等公知の方法で成形することにより、成形体とすることができる。電子部品包装用シートの成形体としては、好ましくは、電子部品を収納するための容器、キャリアテープ(エンボスキャリテープ)等が挙げられる。本発明に係る電子部品包装用シートは、シートをスリットする際や、スプロケットホール等を打抜く際に、その断面に毛羽やバリの発生が極めて少ない成形体を得ることができる。特にキャリアテープのエンボス成形において極めて有力である。そしてこれらの成形および二次加工を用いることによって、スリット幅、打抜き穴径等の寸法精度に優れ、打抜きの際のバリの発生が著しく抑制されたエンボスキャリアテープを製造することができる。
【0034】
より具体的には、本発明に係る電子部品包装用シートの成形体である、エンボスキャリアテープ等のスリット及び打抜きの二次加工工程において、打抜き加工の条件は、ピン/ダイの片側クリアランスが5~50μmの間の一定の広い範囲で、且つ打抜き速度が10~300mm/secのような広範囲の打ち抜きで、穴径寸法の安定した、毛羽、バリの発生を著しく抑制したスプロケットホールを得ることができる。また、リング状組み合わせ刃を用いたスリット工程においても、毛羽やバリが少なく、シート幅の安定したスリット端面を得ることが可能である。
【0035】
本発明に係る容器やエンボスキャリアテープは、前記の成形方法で形成された収納部に電子部品を収納した後に、カバーテープにより蓋をしてリール状に巻き取ったキャリアテープ体として、電子部品の保管および搬送に用いることができる。
【0036】
本発明に係る電子部品包装用シートのより好ましい態様は、ABS系樹脂を含む熱可塑性樹脂(I)と、Mwが700,000~4,300,000の(メタ)アクリル酸アル
キルエステル共重合体(A)を含む樹脂(II)とからなる基材層を少なくとも一層備える基材シートを含む、電子部品包装用シートであって、前記基材層中の前記熱可塑性樹脂(I)と前記樹脂(II)の質量比(樹脂(I)/樹脂(II))が、98/2~75/25である、電子部品包装用シートである。前記基材シートは、前記基材層を2層以上備え、前記基材層間に分断層が設けられていてもよい。前記分断層は、PC系樹脂を主成分として含むことが好ましい。前記共重合体(A)は、前記単量体単位(a1)と前記単量体単位(a2)とを含むことが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0038】
[電子部品包装用シートの作成]
(実施例1~9、比較例1~5)
表1~2の基材層の組成に示す原料を同表に示す組成割合(質量%)となるように各々計量し、高速混合機により均一混合した後、φ30mmベント式二軸押出機を用いて混練し、ストランドカット法によりペレット化して、基材層形成用の樹脂組成物をそれぞれ得た。また、導電層としては、ポリカーボネート樹脂(帝人(株)製、製品名「パンライト(登録商標)L-1225L」)80質量%と、アセチレンブラック(デンカ(株)製、製品名「デンカブラック(登録商標)粒状」、平均一次粒子径:35nm)20質量%とを、φ45mmベント式二軸押出機を用いて混練し、ストランドカット法によりペレット化した樹脂組成物を用いた。
これらの樹脂組成物を用いて、φ65mm押出機(L/D=28)、φ40mm押出機(L/D=26)及び500mm幅のTダイを用いたフィードブロック法により、基材層の両面に導電層を形成して電子部品包装用シートを得た。なお、基材シートの厚みは160μmであり、導電層の個々の層の厚みは20μmであった。
【0039】
(実施例10)
表1の基材層の組成に示す原料を同表に示す組成割合(質量%)となるように各々計量し、実施例1と同様の方法で基材層形成用の樹脂組成物を得た。この組成物を用い、φ65mm押出機(L/D=28)及び500mm幅のTダイを用いたフィードブロック法により、単層の基材シートを作製した。なお、基材シートの厚みは200μmであった。
【0040】
(実施例11~13)
実施例11~13は、基材層と基材層との間に分断層を設けた例である。
まず、表1の基材層の組成に示す原料を同表に示す組成割合(質量%)となるように各々計量し、実施例1と同様の方法で基材層形成用の樹脂組成物をそれぞれ得た。また、導電層としては、実施例1と同じ組成の導電層用樹脂組成物を準備した。更に、基材層を分割する分断層用として、ポリカーボネート樹脂(帝人(株)製、製品名「パンライトL-1225L)を準備した。これらの樹脂組成物を用い、φ65mm押出機(L/D=28)、φ50mm押出機(L/D=28)、φ40mm押出機(L/D=26)及び500mm幅のTダイを用いたフィードブロック法により、表1に記載の厚みとなるように基材層と分断層とを積層させた基材シートの両面に導電層を形成して、電子部品包装用シートを得た。なお、基材シートの厚みは160μmであり、導電層の個々の層の厚みは20μmであった。各例の電子部品包装用シートの構成は以下のとおりである。
<各例の電子部品包装用シートの構成>
実施例11、13、14:導電層/(基材層/分断層/基材層)/導電層
実施例12:導電層/(基材層/分断層/基材層/分断層/基材層/分断層/基材層)/導電層
【0041】
(実施例14)
表1の基材層の組成に示す原料を同表に示す組成割合(質量%)となるように各々計量し、実施例1と同様の方法で基材層形成用の樹脂組成物を得た。また、分断層としては、実施例11と同じ組成の分断層用樹脂組成物を準備した。これらの組成物を用い、φ65mm押出機(L/D=28)、φ40mm押出機(L/D=26)及び500mm幅のTダイを用いたフィードブロック法により、基材層と基材層との間に分断層を設けて、基材層/分断層/基材層の積層構造を有する基材シートを作製した。なお、基材シートの厚みは200μmであり、分割後の基材層の厚みと分断層の厚みは表1に記載の通りであった。
【0042】
表1に示す原料の詳細は下記のとおりである。
(熱可塑性樹脂(I))
・アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS):デンカ(株)製、製品名「SE-10」。
・ポリカーボネート樹脂(PC):帝人(株)製、製品名「パンライトL-1225L」。
・耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS):東洋スチレン(株)製、製品名「E640N」。
(樹脂(II))
<共重合体(A)>
a-1:メタクリル酸メチルとアクリル酸n-ブチルとの共重合体:三菱ケミカル(株)製、製品名「メタブレン(登録商標)P-551A」(Mw:3,000,000)。
a-2:メタクリル酸メチルとアクリル酸n-ブチルとの共重合体:三菱ケミカル(株)製、製品名「メタブレンP-530A」(Mw:1,500,000)。
a-3:メタクリル酸メチルとアクリル酸エチルとの共重合体(質量比:60/40):自社重合品(Mw:3,000,000)。
<共重合体(A’)>
a-4:メタクリル酸メチルとアクリル酸n-ブチルとの共重合体(質量比:60/40):自社重合品(Mw:400,000)。
a-5:メタクリル酸メチルとアクリル酸n-ブチルとの共重合体:三菱ケミカル(株)製、製品名「メタブレンP-531A」(Mw:4,500,000)。
<共重合体(B)>
b-1:スチレン-アクリロニトリル共重合体:三菱ケミカル(株)製、製品名「メタブレンP-1500」(Mw:4,000,000)。
<共重合体(B’)>
b-2:スチレン-アクリロニトリル共重合体:デンカ(株)製、製品名「AS-C-800」(Mw:180,000)。
b-3:スチレン-アクリロニトリル共重合体(質量比:75/25):自社重合品(Mw:6,000,000)。
【0043】
なお、前述の樹脂(II)のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて、単分散ポリスチレンの溶出曲線より各溶出時間における分子量を算出し、ポリスチレン換算の分子量として算出したものである。
<Mwの測定条件>
機種:昭和電工(株)製、製品名「Shodex GPC-101」
カラム:ポリマーラボラトリーズ社製 製品名「PLgel 10μm MIXED-B」
移動相:テトラヒドロフラン
試料濃度:0.2質量%
温度:オーブン40℃、注入口35℃、検出器35℃
検出器:示差屈折計
【0044】
また、導電層中のアセチレンブラックの平均一次粒子径は、以下の方法によって求めた値である。
まず、超音波分散機を用い、150kHz、0.4kWの条件でアセチレンブラックをクロロホルムに10分間分散させて、分散試料を調製した。この分散試料を、カーボン補強した支持膜に振り掛けて固定し、これを透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製、JEM-2100)で撮影した。50000~200000倍に拡大した画像からEndterの装置を用いてランダムに1000個以上の無機フィラーの粒子径(球状以外の形状の場合は最大径)を測定し、その平均値を平均一次粒子径とした。
【0045】
[電子部品包装用シートの評価]
各例で得られた電子部品包装用シートを、シートの押出方向でカットしてシートサンプルを作成し、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気化で24時間放置した。その後、以下の条件で製膜性と、打ち抜きバリ特性を評価した。
【0046】
(1)製膜性
シート製膜性の評価として、シート特性の均一性を評価した。シートサンプルを温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下にて、JIS-K-7127(1999)に従って、引張試験機((株)東洋精機製作所製、製品名「ストログラフVE-1D」)を用いて、シートの流れ方向を長さ方向として、幅方向(長さ方向と直交する方向)の左端、中央及び右端の3箇所からサンプリングした試験片タイプで、5mm/分の速度で弾性率を測定した。得られた3箇所の弾性率の平均値と最大値との差(最大値-平均値)、又は平均値と最小値との差(平均値-最小値)のうち、値が大きい方を平均値で除した値を公差(%)として、下記の判定基準で判定した。下記の判定基準において、良以上を合格(シートの均一性が高く、製膜性が良好である)とした。
<判定基準>
優:厚み、且つ弾性率の公差が10%未満のもの(シートの均一性が非常に高い)。
良:厚み、且つ弾性率の公差が10%以上20%未満のもの(シートの均一性が高い)。
不可:厚み、且つ弾性率の公差が20%以上のもの(シートが不均一)。
【0047】
(2)打ち抜きバリ特性
8mm幅にスリットしたシートサンプルを温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下にて、真空ロータリー成形機(Muehlbauer社製、製品名「CT8/24」)を用いて打抜き、打ち抜き穴のバリ、毛羽を評価した。なお、打抜きは、スプロケットホールピン先端径1.5mmの円柱状打抜きピンと、直径1.58mmのダイ穴とを備える打抜き装置を用い、240m/hの速度で行った。
上記で形成したシート打抜き穴を、顕微測定機(ミツトヨ(株)製、製品名「MF-A1720H(画像ユニット6D)」)を用いて、落射が0%、透過が40%、リングが0%の光源環境で撮影した。直径1.5mmの穴を10箇所観察して、0.15mm以上の長さのバリ、毛羽の個数を数えた。また以下の判定基準に沿って評価し、良以上を合格(バリ、毛羽の発生が抑制されている)とした。
<判定基準>
優:バリ、毛羽の個数が6個未満であった。
良:バリ、毛羽の個数が6個以上10個未満であった。
不可:バリ、毛羽の個数が10個以上であった。
【0048】
【0049】
【0050】
表1に示す通り、本発明の構成を満たす実施例1~14の電子部品包装用シートは、シート打ち抜き時の毛羽やバリの発生を効果的に抑制できることが分かった。一方、表2に示す通り、本発明の構成を満たさない、比較例1、2、4の電子部品包装用シートは、バリや毛羽の発生数が多かった。また、Mwが4,300,000よりも大きい共重合体を含む比較例3及び5では、製膜性が悪く、均一なシートを得ることができなかった。以上の結果から、本発明に係る電子部品包装用シートは、バリや毛羽の発生を効果的に抑制できることが確認された。