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特許7546079アルミニウム-スカンジウム複合体、アルミニウム-スカンジウム複合体スパッタリングターゲットおよび作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】アルミニウム-スカンジウム複合体、アルミニウム-スカンジウム複合体スパッタリングターゲットおよび作製方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
C23C14/34 A
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022574715
(86)(22)【出願日】2021-06-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-07
(86)【国際出願番号】 US2021035627
(87)【国際公開番号】W WO2021247813
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】63/035,320
(32)【優先日】2020-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508348680
【氏名又は名称】マテリオン コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196597
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】バン ヘーアデン,デビッド・ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ガーディニア,キャサリン・エス
(72)【発明者】
【氏名】ベイリー,ロバート・エス
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-096647(JP,A)
【文献】特表2020-514551(JP,A)
【文献】国際公開第2017/213185(WO,A1)
【文献】特開2017-186646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.0原子%から65原子%のスカンジウム(Sc)および35原子%から99原子%のアルミニウム(Al)を含むAl-Sc複合体であって、第1のアルミニウムマトリックス相およびその全域に分散する第2の相を含む微細構造を有し、前記第2の相が、式AlSc(式中、xは0から3であり、yは1から2である)に対応する化合物を含み、ここで前記第2の相が、1.0モル%から70モル%の窒化スカンジウム(ScN)をさらに含む、Al-Sc複合体。
【請求項2】
前記第2の相が、Al ScAl ScAlScAlSc 、もしくはSc、またはそれらの組合せを含む、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記第2の相が、前記第2の相の総モル数に対して60モル%未満のAlScを含む、請求項1に記載の複合体。
【請求項4】
前記微細構造が、定量画像解析で決定して、5体積%から99体積%の前記第1のアルミニウムマトリックス相および1体積%から80体積%の前記第2の相を含む、請求項1に記載の複合体。
【請求項5】
前記第2の相中のスカンジウムの濃度が、アルミニウム-スカンジウム平衡相図から予想される濃度よりも高い、請求項1に記載の複合体。
【請求項6】
前記第2の相中のスカンジウムの濃度が、アルミニウム-スカンジウム平衡相図から予想される濃度よりも少なくとも1原子%高い、請求項1に記載の複合体。
【請求項7】
前記第2の相が、25原子%を超えるスカンジウムを含む、請求項1に記載の複合体。
【請求項8】
前記第2の相が、1モル%を超えるAlSc、AlSc、AlSc、もしくはSc、またはそれらの組合せを含む、請求項1に記載の複合体。
【請求項9】
前記第2の相が、85モル%未満のアルミニウムを含む、請求項1に記載の複合体。
【請求項10】
前記第2の相が、5モル%未満の窒化スカンジウム(ScN)を含む、請求項1に記載の複合体。
【請求項11】
第1のアルミニウムマトリックス相の結晶粒が、結晶方位が(110)であることを特徴とする、請求項1に記載の複合体。
【請求項12】
第1のアルミニウムマトリックス相の結晶粒が、結晶方位がランダムであることを特徴とする、請求項1に記載の複合体。
【請求項13】
前記第2の相が、ASTM E112に従って測定された粒径が0.5ミクロンから500ミクロンの範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の複合体。
【請求項14】
前記微細構造が、微小クラックおよび亀裂および/または酸化物混在物を実質的に有さない、請求項1に記載の複合体。
【請求項15】
前記複合体またはスパッタリングターゲットが、1000ppm未満、好ましくは400ppm未満、またはより好ましくは100ppm未満の酸素をさらに含む、請求項1に記載の複合体。
【請求項16】
非平衡複合体を製造する方法であって、
式AlSc(式中、xは0から3であり、yは1から2である)に対応する化合物を含む第2の相の粉体を用意する工程と、ここで前記第2の相が、1.0モル%から70モル%の窒化スカンジウム(ScN)をさらに含む、
アルミニウムを含む第1の相と前記粉体を混合して複合体前駆体を形成する工程と、
前記複合体前駆体に熱または圧力の少なくとも一方を加えて材料を固める工程と、
固められた前記複合体前駆体を1℃/分を超える速度で冷却して前記非平衡複合体を形成する工程と
を含む、方法。
【請求項17】
前記化合物が、1モル%を超える量で存在する、AlSc、AlSc、AlSc、もしくはSc、またはそれらの組合せを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
1.0原子%から65原子%のスカンジウム(Sc)および35原子%から99原子%のアルミニウム(Al)を含むAl-Sc複合体スパッタリングターゲットであって、第1のアルミニウムマトリックス相およびその全域に分散する第2の相を含む微細構造を有し、前記第2の相が、式AlSc(式中、xは0から3であり、yは1から2である)に対応する化合物を含み、、ここで前記第2の相が、前記第2の相の総モル数に対して、1.0モル%から70モル%の窒化スカンジウム(ScN)をさらに含む、Al-Sc複合体スパッタリングターゲット。
【請求項19】
前記スパッタリングターゲットの表面にわたるスカンジウムの均一性が、表面の半径全体でスカンジウム±0.5原子%未満だけ変化する、請求項18に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項20】
前記第1のアルミニウムマトリックス相中に、前記アルミニウムが遊離アルミニウムとして20体積%を超える量で存在し、そして前記アルミニウムの残部が金属間相中の成分として存在する、請求項1に記載の複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
[0001]本出願は、2020年6月5日に出願された、その全てが参照により本明細書に組み込まれる米国仮出願第63/035,320に関連し、米国仮出願第63/035,320の優先権を主張する。
【0002】
[0002]本開示は、アルミニウムおよびスカンジウムを含有する合金(Al-Sc合金)、より詳細には、そのようなAl-Sc合金の使用に関し、Al-Sc合金から作製される物品およびスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0003】
[0003]窒化アルミニウムスカンジウム(AlSc1-xN)は、様々な用途のための薄膜圧電材料を製造する目的で注目されている。従来の方法は、反応性スパッタ堆積を利用することによってこれらの圧電薄膜を製造する。通常、金属または金属合金であるスパッタリングターゲットは、スパッタされる材料から構成される。スパッタリングターゲットおよび基板は、チャンバ内で互いに近接して置かれ、ターゲットに荷電粒子またはイオンを衝突させる。高エネルギーイオンは、スパッタリングターゲットの一部を追い出し、基板上に再堆積させる。スパッタリングは、膜の組成を制御でき、膜中の残留応力を制御する余地があり、薄膜を高速で堆積させることができ、かつ基板の加熱を容易に制御できるため有益である。このプロセスを薄膜の製造において使用することには、すでに確固たる歴史がある。
【0004】
[0004]結果として得られる薄膜の特性は、Al-Sc合金の均一な堆積に強く依存する。これは、スパッタリングターゲットおよび合金の特性に相当な要求を課す。薄膜の圧電応答は、膜のスカンジウム含有量に強く依存し、そのため、スパッタリングターゲットにおけるスカンジウム全体の化学量論および微小分布が重要となる。
【0005】
[0005]既知の合金およびスパッタリングターゲットを鑑みても、化学量論の均一性を向上させ、かつ多孔率を最小化させる合金およびスパッタリングターゲットが必要とされている。スパッタリング中の粒子放出(個々の原子/イオンではなく、スパッタリングターゲットの表面から排出され、ウエハ上に着弾する粒子、粒子化と称されることが多い)によるクラッキングおよび汚染に起因するターゲットの欠陥を低減する微細構造もさらに必要とされている。これらの特徴は、より高いウエハ生産量およびより低い所有コストにつながる、より良好な性能および寿命を有するスパッタリングターゲットをもたらしうる。
【発明の概要】
【0006】
[0006]一実施形態において、本開示は、1.0原子%から65原子%のスカンジウムおよび35原子%から99原子%のアルミニウムを含むAl-Sc複合体またはスパッタリングターゲットであって、(5体積%から99体積%、例えば20体積%から99体積%の)第1の相およびその全域に分散する(1体積%から80体積%の)第2の相を含む微細構造を有し、第2の相が、式AlSc(式中、xは0から3であり、yは1から2である)に対応する化合物を含む、Al-Sc複合体またはスパッタリングターゲットに関する。第2の相は、ScAl、ScAl、ScAl、ScAl、もしくはSc、またはそれらの組合せを含みうるか、またはScAl、ScAl、ScAl、もしくはSc、またはそれらの組合せを含みうる。第2の相は、25原子%を超えるスカンジウム、および/または1モル%を超えるAlSc、AlSc、AlSc、もしくはSc、またはそれらの組合せ、および/または85モル%未満のアルミニウム、および/または1.0モル%から70モル%の窒化スカンジウムを含みうる。第2の相中のスカンジウムの濃度は、アルミニウム-スカンジウム平衡相図から予測される濃度を、例えば、少なくとも1%超えうる。複合体またはスパッタリングターゲットは、1000ppm未満、好ましくは400ppm未満、またはより好ましくは100ppm未満の酸素をさらに含みうる。第1のアルミニウムマトリックス相の結晶粒(grain)は、結晶方位が(110)であること、または結晶方位がランダムであることを特徴としうる。第2の相は、粒径が0.5ミクロンから500ミクロンの範囲であることを特徴としうる。微細構造は、微小クラックおよび亀裂、ならびに/または酸化物混在物を実質的に有さない。スパッタリングターゲットの表面にわたるスカンジウムの均一性は、表面の半径全体でスカンジウム±0.5原子%未満だけ変化しうる。スパッタリングターゲットは、スパッタリングターゲットの厚みを通る、中心軸、および中心軸と交差する直径を有してよく、中心軸および直径にわたるスカンジウムの均一性は、スカンジウム±0.5重量%未満だけ変化する。直径は、300mmを超えうる。
【0007】
[0007]一部の実施形態において、本開示は、非平衡複合体の製造方法であって、式AlSc(式中、xは0から3であり、yは1から2である)に対応する化合物を含む第2の相の粉体を用意する工程と、アルミニウムを含む第1の相と粉体を混合して複合体前駆体を形成させる工程と、複合体前駆体に熱または圧力の少なくとも一方を加えて材料を固める工程と、固められた複合体前駆体を冷却して非平衡複合体を形成させる工程とを含む、方法に関する。
【0008】
[0008]開示される技術の性質および利点のさらなる理解は、明細書の残りの部分および図面を参照することによって実現されうる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】[0009]アルミニウムおよびスカンジウムの相図である。y軸は温度(℃)であり、200℃の間隔で0℃から1600℃までの範囲に及ぶ。また、y軸には、アルミニウムの融点である660℃に表示がある。
図2】[0010]従来のアルミニウムマトリックスを示す模式断面図である。
図3A】[0011]第2の相を有するAl-Sc合金の例示的な微細構造を示す模式断面図である。
図3B】[0012]第1の第2の相および第2の相を有するAl-Sc合金の例示的な微細構造を示す模式断面図である。
図4】[0013]図4Aは、Al-Sc合金の微細構造を示す図(複数の相が表示される)である。図4Bは、Al-Sc合金の微細構造を示す図(複数の相が表示される)である。図4Cは、Al-Sc合金の微細構造を示す図(複数の相が表示される)である。図4Dは、Al-Sc合金の微細構造を示す図(複数の相が表示される)である。図4Eは、Al-Sc合金の微細構造を示す図(複数の相が表示される)である。
図5】[0014]図5Aは、Al-Sc合金の微細構造を示すSEM像を表す図(元素分布が表示される)である。図5Bは、Al-Sc合金の微細構造を示すSEM像を表す図(元素分布が表示される)である。図5Cは、Al-Sc合金の微細構造を示すSEM像を表す図(元素分布が表示される)である。
図6】[0015]従来のAl-Sc合金および本開示の実施形態に従うAl-Sc合金の各成分の金属分を示すX線回折プロットを集めた図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[0016]先に述べたように、多くの従来の方法を使用して製造されるアルミニウム-スカンジウム合金は、均一な化学量論および最小限の多孔率、ならびに欠陥のない微細構造に対する需要を満たさない。その結果、それらから形成される膜および基板は、一貫性のない薄膜均一性を有する。また、当該合金を含むターゲットは、例えばスパッタリング中にアーク放電または微粒子化を引き起こす可能性のあるクラックの原因となる欠陥があるなど、不十分な物理的/機械的性能を有し、収率損失およびターゲットの寿命の短縮を招く。本産業においては、欠陥がなく、ターゲットのクラッキングを防ぎ、スパッタリング中の粒子放出の低減を示す、かつターゲットの寿命が延長されたターゲットが求められる。
【0011】
アルミニウム-スカンジウム複合体
[0017]例えばスパッタリングターゲットとして使用される、延性を有する第1の相および脆性を有する第2の相を含む非平衡複合体が本明細書に開示される。非平衡複合体中に(特定の量で)存在する特定の第2の相、例えば(脆性)金属間AlSc相を使用することで、複合体における全体の組成割合を維持しつつ、延性アルミニウム相の量を最大化し、かつ脆性金属間AlSc相の量を最小化する微細構造がもたらされることが見出された。これは、前述の特徴、例えばアルミニウム-スカンジウム合金のバルク組成における均一性、ならびに欠陥および多孔性のない微細構造、ならびにターゲットのクラッキングの予防および鋳物欠陥の低減および粒子放出の望ましい組合せをもたらす。場合により、(アルミニウム-スカンジウム平衡相図から予想される量の範囲外の)より多いスカンジウム含有量および/またはより少量のアルミニウムを有する金属間AlSc相を、より少量で使用することにより、延性相含有量の望まれる増量が達成される。したがって、より少量の金属間AlSc相が使用されるため、より多量の延性アルミニウム相を利用することが可能となり、前述の利点をもたらす。
【0012】
[0018]先に言及したように、準安定性延性相、例えば「遊離アルミニウム」を微細構造に加えることで、微粒子化を低減し、ターゲット全体の性能を向上させうる。また、延性相によってもたらされる延性の付加は、これらの材料の熱機械処理を容易にする。これにより、固化孔(solidification pore)および不均一微細構造といった鋳物欠陥の修復が可能となる。アーク放電も低減され、ターゲットの寿命を通してスパッタ性能の一貫性も向上する。また、本明細書に開示されるスパッタリングターゲットを使用して作製される薄膜は、有利なことに、スパッタリング中の微粒子化の低減を示す。粒子表面から不利益に排出される粒子は、装置の歩留まり全体に影響を及ぼし、装置の歩留まりを低減させるため、これらの粒子は汚染物質であると考えられる。一部の実施形態において、脆性を有する第2の相の(均一な)巨視的分布は、より均一な組成を有することが驚くべきことに見出された複合体をもたらし、したがって、より質の高い薄膜を製造するスパッタリングターゲットをもたらす。また、開示される方法によって形成される複合体は、場合により、従来の方法で製造されるとクラッキングを起こしやすかった、直径のより大きなスパッタリングターゲットを有利に製造することができる。
【0013】
[0019]従来、スカンジウムをより多く含有する合金において、延性アルミニウム相があったとしても、望ましい(多)量の延性アルミニウム相を達成することは困難であった。これは、従来の製造(鋳造)方法が、アルミニウム含有量のより少ない平衡微細構造およびアルミニウム-スカンジウム平衡相図から予想される相体積比を生じさせるためである。一方、本明細書で言及される非平衡相分布を利用することで、本明細書に開示される方法によって製造される複合体は、組成全体における望ましい量の延性アルミニウム相を達成する。
【0014】
[0020]複合体ターゲット中に存在する相を慎重に設計することで、有していたとしても少量の遊離アルミニウムを有する(Sc25%未満の合金)か、または平衡アルミニウムを有さない(Sc含有量がSc25%以上の合金)従来の平衡合金と比較し、存在する延性相の量は有益に増大し、それによって材料の延性および強度は増大し、化学的均一性は向上し、スパッタリング中に起こる微粒子化の量は低減される。
【0015】
巨視的構造
[0021]本開示は、アルミニウムおよびスカンジウムを含む複合体(Al-Sc複合体)に関する。Al-Sc複合体は、他の利点の中でも、第2の相の均一な分布を伴う高い組成均一性を有する、スパッタリングターゲットといった物品の製造に使用されうる。一部の実施形態において、Al-Sc複合体は、1.0原子%から65原子%のスカンジウム、および35原子%から99原子%のアルミニウムを(任意選択で他の元素と共に)含有する。さらなる組成の詳細を以下に示す。
【0016】
[0022]全体として、開示される複合体は、一部の実施形態において1.0原子%から65原子%、例えば5原子%から55原子%、5原子%から45原子%、10原子%から50原子%、15原子%から45原子%、20原子%から40原子%、1.0原子%から5原子%、5原子%から10原子%、10原子%から15原子%、15原子%から20原子%、20原子%から25原子%、25原子%から30原子%、30原子%から35原子%、35原子%から40原子%、40原子%から45原子%、45原子%から50原子%、50原子%から55原子%、55原子%から60原子%、または60原子%から65原子%のスカンジウムを含む。[実験データが得られたら、これらが実施例と一致することを確認する。]
[0023]下限値に関しては、複合体は、1.0原子%を超える、例えば5原子%を超える、10原子%を超える、15原子%を超える、20原子%を超える、25原子%を超える、30原子%を超える、35原子%を超える、40原子%を超える、45原子%を超える、50原子%を超える、55原子%を超える、または60原子%を超えるスカンジウムを含みうる。上限値に関しては、複合体は、65原子%未満、例えば60原子%未満、55原子%未満、50原子%未満、45原子%未満、40原子%未満、35原子%未満、30原子%未満、25原子%未満、20原子%未満、15原子%未満、10原子%未満、または5原子%未満のスカンジウムを含みうる。
【0017】
[0024]本明細書で使用される「を超える」および「未満」という限定は、それに付随する数も含みうる。言い換えると、「を超える」および「未満」は、「以上」および「以下」と解釈されうる。この文言は、「または等しい」を含むよう、後に特許請求の範囲において変更されうると考えられる。例えば、「4.0を超える」は、「4.0以上」と解釈され、かつ後に特許請求の範囲において「4.0以上」と変更されうる。
【0018】
[0025]一部の実施形態において、複合体は、35原子%から99原子%、例えば40原子%から95原子%、45原子%から90原子%、50原子%から80原子%、55原子%から75原子%、60原子%から75原子%、62原子%から72原子%、35原子%から40原子%、40原子%から50原子%、50原子%から55原子%、55原子%から60原子%、60原子%から65原子%、65原子%から70原子%、70原子%から75原子%、75原子%から80原子%、80原子%から85原子%、85原子%から90原子%、90原子%から95原子%、または95原子%から99原子%のアルミニウムを含む。これらの量は、第1の相中に(遊離アルミニウムとして)存在するアルミニウム、および金属間の第2の相中の成分として存在するアルミニウムを構成する。
【0019】
[0026]下限値に関しては、複合体は、35原子%を超える、例えば40原子%を超える、45原子%を超える、50原子%を超える、55原子%を超える、60原子%を超える、65原子%を超える、70原子%を超える、75原子%を超える、80原子%を超える、85原子%を超える、90原子%を超える、または95原子%を超えるアルミニウムを含みうる。上限値に関しては、複合体は、99原子%未満、例えば95原子%未満、90原子%未満、85原子%未満、80原子%未満、75原子%未満、70原子%未満、65原子%未満、60原子%未満、55原子%未満、50原子%未満、45原子%未満、または40原子%未満のアルミニウムを含みうる。
【0020】
[0027]一部の実施形態において、複合体は、1.0モル%から70モル%、例えば1モル%から5モル%、5モル%から10モル%、10モル%から15モル%、20モル%から25モル%、25モル%から30モル%、30モル%から35モル%、35モル%から40モル%、40モル%から45モル%、45モル%から50モル%、50モル%から55モル%、55モル%から60モル%、60モル%から65モル%、または65モル%から70モル%の窒化スカンジウムを含む。下限値に関しては、合金は、1モル%を超える、例えば5モル%を超える、10モル%を超える、15モル%を超える、20モル%を超える、25モル%を超える、30モル%を超える、35モル%を超える、40モル%を超える、45モル%を超える、50モル%を超える、55モル%を超える、60モル%を超える、または65モル%を超える窒化スカンジウムを含みうる。上限値に関しては、合金は、70モル%未満、例えば65モル%未満、60モル%未満、55モル%未満、50モル%未満、45モル%未満、40モル%未満、35モル%未満、30モル%未満、25モル%未満、20モル%未満、15モル%未満、10モル%未満、または5モル%未満の窒化スカンジウムを含みうる。
【0021】
[0028]窒化粉体は、酸素吸収の制御に有用であり、粉体成分を不動態化し、処理中に溶融アルミニウムと共に安定化させうる。
【0022】
[0029]場合により、複合体は高純度であり、可能な限り少量の不純物を含有する。例えば、酸素は、基質に選択的に結合することと、他の非圧電相を安定化させることの両方によって、圧電膜の特性に極めて有害である。したがって、複合体またはスパッタリングターゲットは、可能な限り少量の酸素を含有するべきである。一部の実施形態において、複合体は、酸素を1500ppm未満、例えば1000ppm未満、900ppm未満、800ppm未満、700ppm未満、600ppm未満、500ppm未満、400ppm未満、300ppm未満、200ppm未満、または100ppm未満含む。遷移金属元素、例えば鉄の存在も最小限とすべきである。
【0023】
[0030]一部の実施形態において、複合体、例えば複合体から形成されるスパッタリングターゲットの表面にわたるスカンジウムの均一性は、表面全体でスカンジウム±0.5原子%未満、例えば±0.4原子%未満、±0.3原子%未満、±0.2原子%未満、±0.1原子%未満、または±0.05原子%未満だけ変動する。一部の実施形態において、複合体から形成され、かつスパッタリングターゲットの厚みを通る、中心軸、および中心軸と交差する直径を有するスパッタリングターゲットの、中心軸および直径にわたるスカンジウムの均一性は、スカンジウム±0.5原子%未満、例えば±0.4原子%未満、±0.3原子%未満、±0.2原子%未満、±0.1原子%未満、または±0.05原子%未満だけ変動する。
【0024】
[0031]複合体から作製されるスパッタリングターゲットは、基板上に薄膜を堆積させるために使用されうる。基板上の個々のデバイスの圧電特性は、個々のデバイス内に含有される膜の局所的化学量論に大きく依存する。したがって、Al-Scスパッタリングターゲットへのスカンジウムの分布は、面内(例えば、表面上)の分布およびスパッタリングターゲットの厚さ方向への分布の両方において、可能な限り均一であるべきである。ターゲットからスパッタされるスカンジウムの量がターゲットの寿命の全期間にわたって変動すると、堆積膜の圧電特性はターゲットの寿命の全期間にわたって変化し、デバイス性能が一致せず、製品収量の損失をもたらすため、表面にわたる化学的均一性および厚み方向への化学的均一性の両方が必要となる。複合体の性質および特性を以下に説明する。
【0025】
微細構造
[0032]一部の実施形態において、複合体は、延性を有する第1の相、およびマトリックス全体に分散する脆性を有する第2の相を含み、第2の相は、アルミニウムおよびスカンジウムを含みうる。複合体全体に存在するスカンジウムは、場合により、第2の相によってもたらされる。場合により、第2の相は、式AlSc(式中、xは0から3であり、yは1から2である)に対応する化合物を1つまたは複数含んでよい。第2の相は、AlSc、AlSc、AlSc、ScAl、もしくはSc、またはそれらの組合せを含みうる。
【0026】
[0033]一部の実施形態において、複合体は、複合体の総体積に対して、5体積%から99体積%、例えば20体積%から99体積%の第1の相(遊離アルミニウム)および1体積%から80体積%の第2の相を含む。例えば、複合体は、5体積%から95体積%、例えば40体積%から90体積%、5体積%から50体積%、5体積%から35体積%、5体積%から25体積%、10体積%から50体積%、10体積%から40体積%、10体積%から25体積%、7体積%から50体積%、7体積%から40体積%、7体積%から30体積%、7体積%から25体積%、45体積%から85体積%、50体積%から80体積%、55体積%から75体積%、または60体積%から70体積%の第1の相を含みうる。下限値に関しては、複合体は、5体積%を超える、例えば、7体積%を超える、10体積%を超える、12体積%を超える、15体積%を超える、17体積%を超える、20体積%を超える、40体積%を超える、45体積%を超える、50体積%を超える、55体積%を超える、60体積%を超える、65体積%を超える、または70体積%を超える第1の相を含みうる。上限値に関しては、複合体は、99体積%未満、例えば95体積%未満、90体積%未満、85体積%未満、80体積%未満、75体積%未満、70体積%未満、60体積%未満、50体積%未満、45体積%未満、40体積%未満、35体積%未満、30体積%未満、25体積%未満、20体積%未満、15体積%未満、または10体積%未満の第1の相を含みうる。
【0027】
[0034]存在する第1の相および第2の相の量は、光学およびSEM/EDS顕微鏡法、EBSD、または他の既知の技術で定量的に測定されうる。
【0028】
[0035]場合により、第1の相は、少量、例えば1重量%未満、0.5重量%未満、0.2重量%未満、または0.1重量%未満のスカンジウムを含みうる。
【0029】
[0036]一部の実施形態において、複合体は、1体積%から80体積%、例えば5体積%から75体積%、10体積%から70体積%、15体積%から65体積%、20体積%から60体積%、25体積%から55体積%、または30体積%から50体積%の第2の相を含む。下限値に関しては、複合体は、20体積%を超える、例えば1体積%を超える、5体積%を超える、10体積%を超える、15体積%を超える、20体積%を超える、25体積%を超える、30体積%を超える、または35体積%を超える第2の相を含みうる。上限値に関しては、複合体は、80体積%未満、例えば75体積%未満、70体積%未満、65体積%未満、60体積%未満、55体積%未満、または50体積%未満の第1の相を含みうる。平衡相図によって決定される際、開示される第2の相のスカンジウムの含有量は、平衡相分布を用いる従来の合金よりも多いため、これらの量は、通常、従来の合金で使用される量よりも少ない。したがって、より少量を使用して全体のスカンジウム濃度を達成することができる。使用される第2の相がより少量であるため、より多量の延性アルミニウム相を有利に利用することが可能である。
【0030】
[0037]図1は、アルミニウムとスカンジウムの相図50である。x軸は、スカンジウムの量を原子パーセント(原子%)で示し、相図の左端がスカンジウムゼロ/アルミニウム100原子%である。Al-Sc相図を調べることにより、0から25原子%がスカンジウムの平衡合金は、金属アルミニウムマトリックス中に金属間AlSc相を含みうることが明らかとなる。より多いスカンジウム含有量において、複合体は、AlSc、AlSc、AlSc、AlScから選択される金属間相を1つまたは複数含みうるか、またはスカンジウムを含みうるか、または金属間相およびスカンジウムの任意の組合せを含みうる。
【0031】
[0038]複合体中の第2の相は、多量/高濃度のスカンジウム、例えばアルミニウム-スカンジウム平衡相図から予想される量/濃度の範囲外、例えばアルミニウム-スカンジウム平衡相図から予想される量/濃度を超える量/濃度のスカンジウムを含む。例えば、第2の相は、第2の相の総量に対して25原子%を超える(またはそれと等しい)、例えば28原子%を超える、30原子%を超える、33原子%を超える、35原子%を超える、40原子%を超える、45原子%を超える、50原子%を超える、55原子%を超える、65原子%を超える、66原子%を超える、70原子%を超える、75原子%を超える、80原子%を超える、85原子%を超える、または90原子%を超えるスカンジウムを含みうる。
【0032】
[0039]第2の相は、特定の金属間相、例えばAlSc、AlSc、AlSc、AlScを、例えばアルミニウム-スカンジウム平衡相図から予想される量/濃度の範囲外の量で含む。例えば、第2の相は、これらの金属間相を、第2の相の総量の5モル%を超える、例えば10モル%を超える、15モル%を超える、20モル%を超える、25モル%を超える、30モル%を超える、35モル%を超える、40モル%を超える、45モル%を超える、50モル%を超える、55モル%を超える、60モル%を超える、または65モル%を超える量で含みうる。上限値に関しては、第2の相は、これらの金属間相を、95モル%未満、例えば90モル%未満、85モル%未満、80モル%未満、75モル%未満、70モル%未満、65モル%未満、60モル%未満、60モル%未満、55モル%未満、50モル%未満、45モル%未満、40モル%未満、35モル%未満、30モル%未満、または25モル%未満の量で含みうる。
【0033】
[0040]一部の実施形態において、これらの量/濃度は、アルミニウム-スカンジウム平衡相図から予想される量/濃度の範囲外(例えば超える)である。
【0034】
[0041]一部の実施形態において、より多量/高濃度のスカンジウムおよび/またはより少量のアルミニウムを有する金属間相が利用されうる。例えば、第2の相は、AlSc、AlSc、AlSc、AlSc、もしくはSc、またはそれらの組合せを、第2の相の総モル数に対して、1モル%を超える、例えば2モル%を超える、5モル%を超える、10モル%を超える、15モル%を超える、20モル%を超える、25モル%を超える、30モル%を超える、35モル%を超える、40モル%を超える、45モル%を超える、50モル%を超える、55モル%を超える、60モル%を超える、または65モル%を超える量で含みうる。一部の実施形態において、これらの量/濃度は、アルミニウム-スカンジウム平衡相図から予想される量/濃度の範囲外(例えば超える)である。これらの範囲および極限値は、金属間相に一括して適用でき、かつ各金属間相に個別に適用できる。
【0035】
[0042]一部の第2の相の成分は特に脆く、全体として組成に有害となりうることが見出された。一部の実施形態において、第2の相は、特定の量の金属間相、例えばAlScを含む。例えば、第2の相は、第2の相の総モル数に対して、60モル%未満、例えば55モル%未満、50モル%未満、40モル%未満、30モル%未満、20モル%未満、10モル%未満、または5モル%未満のAlScを含みうる。一部の実施形態において、第2の相は、AlScを有さないか、または実質的に有さない。
【0036】
[0043]第2の相は、存在する場合、少量/低濃度、例えばアルミニウム-スカンジウム平衡相図から予想される量/濃度の範囲外の量/濃度のアルミニウムを含む。例えば、第2の相は、第2の相の総量に対して、75原子%未満(またはそれと等しい)、例えば70原子%未満、66原子%未満、65原子%未満、60原子%未満、55原子%未満、50原子%未満、45原子%未満、40原子%未満、または35原子%未満のアルミニウムを含みうる。
【0037】
[0044]場合により、第2の相中のスカンジウムの量は、アルミニウム-スカンジウム平衡相図から予想される量よりも多く、例えば少なくとも1%多く、少なくとも2%多く、少なくとも5%多く、少なくとも10%多く、少なくとも15%多く、少なくとも20%多く、少なくとも25%多く、少なくとも35%多く、少なくとも50%多く、少なくとも75%多く、または少なくとも100%多い。
【0038】
[0045]図3Aおよび図3Bは、Al-Sc合金微細構造の模式断面図を表し、図2は、第2の相が存在せず、アルミニウムに富む金属マトリックス120を有する従来のアルミニウム合金100を表す。図3Aは、アルミニウムマトリックス120全体に均一に分散する第2の相150を含みうる本開示に従うAl-Sc合金200を表す。場合により、前述の第2の相は、値域を含みうる空間距離d離れて分散しうる。
【0039】
[0046]第2の相は、一部の実施形態において、複数の独立した相、例えば第2の相および第3の相および第4の相を含みうる。第2の相よりも高次の相、例えば第3の相、第4の相などは、第2の相に関して述べられた先の記載と同じ説明および特性を有するものとするよう意図される。例えば、第3の相は、例えばアルミニウム-スカンジウム平衡相図から予想される量の範囲外の量の、多いスカンジウム含有量を有しうる。
【0040】
[0047]例えば、図3Bは、第1の相120全体に均一に分散する第2の相150および第3の相160を含む、本開示に従う別のAl-Sc複合体300を示す。相150および160は、本明細書で説明されたとおりでありうる。図示されない、本開示に従う複合体は、4つの相よりも多い相、例えば5つの相または6つの相を含んでよく、各相は、第1の相全体に分散する。
【0041】
[0048]一部の実施形態において、第1の相の結晶粒および第2の相の結晶粒は、ASTM E112(本年)に従って測定されうる平均粒子径をそれぞれ有する。
【0042】
[0049]一部の実施形態において、第1の相は、2μmから200μm、例えば10μmから150μm、15μmから125μm、20μmから100μm、25μmから75μm、2μmから40μm、2μmから20μm、4μmから12μm、10μmから100μm、20μmから80μm、30μmから70μm、または40μmから70μmの範囲である平均粒子径を有することを特徴とする。
【0043】
[0050]下限値に関しては、第1の相は、2μmを超える、例えば4μmを超える、10μmを超える、20μmを超える、25μmを超える、30μmを超える、40μmを超える、または50μmを超える平均粒子径を有することを特徴としうる。上限値に関しては、第1の相は、200μm未満、例えば150μm未満、125μm未満、100μm未満、80μm未満、75μm未満、70μm未満、40μm未満、20μm未満、または12μm未満の平均粒子径を有することを特徴とする。
【0044】
[0051]一部の実施形態において、第1のアルミニウムマトリックス相の結晶粒は、(110)の結晶方位を有することを特徴とする。他の実施形態において、第1のアルミニウムマトリックス相の結晶粒は、優先結晶方位を有さないこと、またはランダム構造を有することを特徴とする。場合により、構造は、XRDピーク高さ比、EBSD体積比、EBSD構造分析MRD値、および/またはXRD極点図MRD値で定量化されうる。
【0045】
[0052]一部の実施形態において、第1の相の結晶粒は、ランダムな結晶方位を有することを特徴とする。
【0046】
[0053]第2の相は、可能な限り微細であることが望ましい場合があり、より具体的には、100ミクロン(μm)未満の平均粒子径を有することが望ましい。一部の実施形態において、第2の相は、0.5μmから500μm、例えば1μmから450μm、例えば10μmから400μm、50μmから400μm、100μmから350μm、または200μmから300μmの範囲である平均粒子径を有することを特徴とする。下限値に関しては、第2の相は、0.5μmを超える、例えば1μmを超える、10μmを超える、50μmを超える、100μmを超える、または200μmを超える平均粒子径を有することを特徴とする。上限値に関しては、第2の相は、500μm未満、例えば400μm未満、350μm未満、300μm未満、または250μm未満の平均粒子径を有することを特徴とする。
【0047】
[0054]場合により、スパッタリングターゲットの微細構造は、ターゲットの表面領域(通常、直径12.70cm(5インチ)から45.72cm(18インチ)、または約125mmから約450mmの円板)全体で均一であり、かつその全厚さ(通常、およそ0.635cm(4分の1インチ)もしくは0.635cm(1/4インチ)、または約6mmから約7mm)全体にわたって均一である。スパッタリングターゲットにおける微細構造の寸法も重要である。微小クラックおよび亀裂、細孔、耐熱性または誘電混在物、酸化物混在物、および大きな金属間相結晶粒といった欠陥は、通常、マイクロアーク放電および微粒子化といった望まれない現象を伴い、膜の性質に非常に悪い影響を与えるため、防止されるべきである。
【0048】
[0055]一部の実施形態において、アルミニウム-スカンジウム複合体は、微小クラックおよび亀裂を有さないか、または実質的に有さない微細構造を有する。微小クラックおよび亀裂は、光学/SEM金属組織撮影法を用いて測定されうる。
【0049】
[0056]一部の実施形態において、アルミニウム-スカンジウム複合体は、多孔性でないかまたは実質的に多孔性でない微細構造を有する。測定される複合体の多孔率は、3%未満、例えば2%未満、1%未満、0.9%未満、0.8%未満、0.7%未満、0.6%未満、0.5%未満、0.4%未満、0.3%未満、0.2%未満、または0.1%未満である。
【0050】
[0057]一部の実施形態において、アルミニウム-スカンジウム合金は、酸化物混在物を有さないか、または実質的に有さない微細構造を有する。
【0051】
[0058]前述の測定を定量化するために顕微鏡法が用いられうる。
【0052】
[0059]一部の実施形態において、アルミニウム-スカンジウム複合体スパッタリングターゲットは、125mmを超える、例えば150mmを超える、200mmを超える、300mmを超える、350mmを超える、または400mmを超える直径または横方向測定値(cross measurement)を有する。
【0053】
[0060]アルミニウム-スカンジウム複合体スパッタリングターゲットは、1mmから50mm、例えば1mmから40mm、2mmから35mm、2mmから25mm、3mmから15mm、または5mmから約10mmの範囲である厚さ、例えば高さを有しうる。
【0054】
方法
[0061]本明細書に開示される(非平衡)アルミニウム-スカンジウム複合体を製造するための方法。一部の実施形態において、方法は、式AlSc(式中、xは0から3であり、yは1から2である)に対応する化合物を含む第2の相の粉体を用意する工程と、アルミニウムを含む第1の相(粉体)と粉体を混合して複合体前駆体を形成する工程とを含む。方法は、熱または圧力の少なくとも一方を複合体前駆体に加えて材料、例えば第1の相の粉体および第2の相の粉体を固める工程をさらに含みうる。方法は、固められた複合体前駆体を冷却して非平衡複合体を形成する工程をさらに含む。
【0055】
[0062]場合により、300℃から900℃、例えば350℃から850℃、400℃から800℃、または500℃から700℃の範囲の温度が用いられる。下限値に関しては、300℃を超える、例えば350℃を超える、400℃を超える、または500℃を超える温度が用いられうる。上限値に関しては、900℃未満、例えば850℃未満、800℃未満、または700℃未満の温度が用いられうる。
【0056】
[0063]場合により、3000kPaから11000kPa、例えば4000kPaから10000kPa、5000kPaから9000kPa、または6000kPaから8000kPaの範囲の圧力が用いられる。下限値に関しては、3000kPaを超える、例えば4000kPaを超える、5000kPaを超える、または6000kPaを超える圧力が用いられうる。上限値に関しては、11000kPa未満、例えば10000kPa未満、9000kPa未満、または8000kPa未満の圧力が用いられうる。
【0057】
[0064]一部の実施形態において、例えばスクイズ鋳造プロセスで、例えば急冷が行われる場合、複合体の冷却は、1℃/分を超える、例えば5℃/分を超える、10℃/分を超える、20℃/分を超える、25℃/分を超える、または35℃/分を超える速度で行われうる。
【0058】
[0065]場合により、冷却工程を用いることで、第2の相中の非相図金属間相の量は、平衡相および/または平衡量に戻ることなく、第1の相のマトリックス中に保持される。一部の実施形態において、冷却工程を用いることで、平衡相混合物に戻ることなく、非平衡相混合物が維持される。
【0059】
[0066]一部の実施形態において、本明細書に記載されるスカンジウム-アルミニウム複合体は、好ましくはアルミニウム(第1の相)粉体および金属間(第2の相)粉体を用い、鋳造プロセスを通して形成されうる。例えば鋳造経路を介する溶融処理も、酸素含有量が粉体処理よりもはるかに少ない、例えば1000ppm未満、800ppm未満、600ppm未満、400ppm未満、300ppm未満、200ppm未満、または100ppm未満である複合体を生成する。したがって、アルミニウム-スカンジウム合金の鋳造は、開示される複合体の製造に適する。場合により、例えば鋳造技術を用いる場合、遊離アルミニウムは、特定のレベル(lever)を下回る温度を保持することにより増加する/維持される。これらの範囲および極限値内に温度を保持することで、不要な金属相成分の形成が有利に回避/最小化される。
【0060】
[0067]典型的な鋳造プロセスにおいて、複合体構成成分は、るつぼ内で一緒に高温で溶かされ、次いで溶融複合体が鋳塊に凝固する型に流し込まれる。凝固は、通常、型の底部および壁から中心に向けて進行するため、鋳造における最外領域は中心領域よりもはるかに速く冷えることが予想される。
【0061】
[0068]場合により、金属間荷重が大きい鋳造における早い冷却速度は、大きな内部応力の蓄積の原因となり、鋳物にクラックが入る可能性がある。また、多くの鋳造複合体は、鋳造に伴う特徴的構造を破壊し、ターゲットの厚さ全体にわたって均一な微細構造を得るために、後続の熱機械処理(例えば、塑性変形および/または熱処理)に供される。脆い鋳物は、通常、そのような熱機械処理工程に対する耐性をあまり有さない。しかし、開示される複合体は、その組成に起因し、この処理に対する耐性を有する可能性がある。
【実施例
【0062】
実施例1
[0069]実施例1の複合体スパッタリングターゲットを製造するため、複数の金属間アルミニウム-スカンジウム相を含む金属間(第2の相)Al47Sc53粉体を調製した。ターブラ(登録商標)ミキサ中でAlScおよびScを10分間混合し、前駆体を形成させた。前駆体を12.70cm(5インチ)のグラファイト金型中に充填し、加熱圧搾して固めた。固められた前駆体を加熱し、およそ4時間、それぞれ600℃および1000psiで圧搾した。形成された前駆体を室温で除去し、冷却した。200グラムの冷却された前駆体を50グラムの(遊離)アルミニウム粉体と共に破砕し、スパッタリングターゲット複合体前駆体を形成させ、これをさらに処理し、スパッタリングターゲット複合体を製造した。(遊離)アルミニウムの総含有量は、およそ20原子%を超え、スカンジウムの総含有量は、およそ40原子%であった。これらの割合は、アルミニウム-スカンジウム平衡相図から予想される量の範囲外である。
【0063】
比較例A
[0070]145グラムのアルミニウムおよび105グラムのスカンジウムを合金とすることにより、比較例Aの比較金属間粉体を調製した。これらの成分を真空下でおよそ1450℃で合金とし、前駆体を形成させた。型を用いて前駆体を従来の鋳造プロセスで鋳造し、次いで室温まで冷却した。
【0064】
[0071]合金アルミニウム総含有量および合金スカンジウム総含有量は、アルミニウム-スカンジウム平衡相図から予想される量と一致した。
【0065】
【表1】
[0072]表1に示されるように、実施例1のターゲットは、多い(遊離)アルミニウム含有量、および少ない金属間相、例えばAlSc含有量を示した。多遊離アルミニウム/少ScAl含有量であるため、スパッタリングターゲットは、優れた延性を示すはずである。
【0066】
[0073]図4A図4Eは、Al-Sc合金の微細構造を示す例示的な図である(複数の相が表示される)。円形の点は、スカンジウムを含有する第2の金属間相、例えばScAl、ScAl、ScAl、ScAl、Sc、またはそれらの組合せを示し、残りの領域は、(第1の)遊離アルミニウム相を表す。組成全体におけるスカンジウムが10原子%、15原子%、20原子%、25原子%、および30原子%の場合に関する図が示される。
【0067】
[0074]図5A図5Cは、Al-Sc合金の微細構造を示すSEM像の図である。図5Aは、アルミニウム分、例えば遊離アルミニウムおよび/またはアルミニウム含有金属間(斑点領域を参照)を示すようEDSでマップされた微細構造を示す。図5Bは、スカンジウム分、例えばスカンジウム含有金属間相(斜線領域を参照)を示すようEDSでマップされた微細構造を示す。図5Cは、遊離アルミニウム分を示すようEDSでマップされた微細構造を示す。アルミニウムの存在とスカンジウムの存在の両方を示す領域は、金属間(第2の相)分を示す。遊離アルミニウム分(第1の相)は、図5Cにおいて、アルミニウムを含有するが、スカンジウムを含有しない(スカンジウムの存在は、図5Bに示される)領域で表される(図5Cの斑点領域を参照)。遊離アルミニウム(第1の相)の領域を解析し、合金全体のおよそ15体積%から40体積%を示すことが計算された。
【0068】
[0075]図6は、比較Al-Sc合金および実施例の各成分に関する金属分を示すX線回折プロットである。最上段の比較例のプロットに示されるように、示されるピークは金属間相、例えばAlScおよびAlScに関するものであり、遊離アルミニウムピークに関連するピークは示されていない。一方、実施例に関する中段のプロットは、およそ38および45度に遊離アルミニウムのピークを示す。これらのピークは、有利となる顕著な遊離アルミニウム分を示す。下段のプロットは、中段のプロットに示されるピークおよび金属間相を含む、実施例に関する全ての成分の個別のピークを示す。ピークを解析し、外挿して体積百分率を算出した。実施例における遊離アルミニウム(第1の相)の体積百分率は、全組成のおよそ15体積%から40体積%と計算された。
【0069】
実施形態
[0076]以下の実施形態が考えられる。特徴および実施形態の全ての組合せが考えられる。
【0070】
[0077]実施形態1:1.0原子%から65原子%のスカンジウムおよび35原子%から99原子%のアルミニウムを含むAl-Sc複合体であって、第1の相およびその全域に分散する第2の相を含む微細構造を有し、第2の相が、式AlSc(式中、xは0から3であり、yは1から2である)に対応する化合物を含む、Al-Sc複合体。
【0071】
[0078]実施形態2:1.0原子%から65原子%のスカンジウムおよび35原子%から99原子%のアルミニウムを含むAl-Sc複合体スパッタリングターゲットであって、第1の相およびその全域に分散する第2の相を含む微細構造を有し、第2の相が、式AlSc(式中、xは0から3であり、yは1から2である)に対応する化合物を含む、Al-Sc複合体スパッタリングターゲット。
【0072】
[0079]実施形態3:第2の相が、ScAl、ScAl、ScAl、ScAl、もしくはSc、またはそれらの組合せを含む、実施形態1または2の実施形態。
【0073】
[0080]実施形態4:第2の相が、ScAl、ScAl、ScAl、もしくはSc、またはそれらの組合せを含む、実施形態1~3のいずれかの実施形態。
【0074】
[0081]実施形態5:微細構造が、定量画像解析で決定して、5体積%から99体積%、例えば20体積%から99体積%の第1の相および1体積%から80体積%の第2の相を含む、実施形態1~4のいずれかの実施形態。
【0075】
[0082]実施形態6:第2の相中のスカンジウムの濃度が、アルミニウム-スカンジウム平衡相図から予想される濃度よりも高い、実施形態1~5のいずれかの実施形態。
【0076】
[0083]実施形態7:第2の相中のスカンジウムの濃度が、アルミニウム-スカンジウム平衡相図から予想される濃度よりも少なくとも1%高い、実施形態1~6のいずれかの実施形態。
【0077】
[0084]実施形態8:第2の相が、25原子%を超えるスカンジウムを含む、実施形態1~7のいずれかの実施形態。
【0078】
[0085]実施形態9:第2の相が、1モル%を超えるAlSc、AlSc、AlSc、もしくはSc、またはそれらの組合せを含む、実施形態1~8のいずれかの実施形態。
【0079】
[0086]実施形態10:第2の相が、85モル%未満のアルミニウムを含む、実施形態1~9のいずれかの実施形態。
【0080】
[0087]実施形態11:第2の相が、1.0モル%から70モル%の窒化スカンジウムをさらに含む、実施形態1~10のいずれかの実施形態。
【0081】
[0088]実施形態12:第1のアルミニウムマトリックス相の結晶粒が、結晶方位が(110)であることを特徴とする、実施形態1~11のいずれかの実施形態。
【0082】
[0089]実施形態13:第1のアルミニウムマトリックス相の結晶粒が、結晶方位がランダムであることを特徴とする、実施形態1~12のいずれかの実施形態。
【0083】
[0090]実施形態14:第2の相が、粒径が0.5ミクロンから500ミクロンの範囲であることを特徴とする、実施形態1~13のいずれかの実施形態。
【0084】
[0091]実施形態15:微細構造が、微小クラックおよび亀裂を実質的に有さない、実施形態1~14のいずれかの実施形態。
【0085】
[0092]実施形態16:微細構造が、酸化物混在物を実質的に有さない、実施形態1~15のいずれかの実施形態。
【0086】
[0093]実施形態17:複合体またはスパッタリングターゲットが、1000ppm未満、好ましくは400ppm未満、またはより好ましくは100ppm未満の酸素をさらに含む、実施形態1~16のいずれかの実施形態。
【0087】
[0094]実施形態18:スパッタリングターゲットの表面にわたるスカンジウムの均一性が、表面の半径全体でスカンジウム±0.5原子%未満だけ変動する、実施形態1~17のいずれかの実施形態。
【0088】
[0095]実施形態19:スパッタリングターゲットが、スパッタリングターゲットの厚みを通る、中心軸、および中心軸と交差する直径を有し、中心軸および直径にわたるスカンジウムの均一性が、スカンジウム±0.5重量%未満だけ変化する、実施形態1~18のいずれかの実施形態。
【0089】
[0096]実施形態20:スパッタリングターゲットが、300mmを超える直径を有する、実施形態1~19のいずれかの実施形態。
【0090】
[0097]実施形態21:非平衡複合体を製造する方法であって、式AlSc(式中、xは0から3であり、yは1から2である)に対応する化合物を含む第2の相の粉体を用意する工程と、アルミニウムを含む第1の相と粉体を混合して複合体前駆体を形成させる工程と、複合体前駆体に熱または圧力の少なくとも一方を加えて材料を固める工程と、固められた複合体前駆体を冷却して非平衡複合体を形成させる工程とを含む、方法。
【0091】
[0098]実施形態22:化合物が、1モル%を超える量で存在する、AlSc、AlSc、AlSc、もしくはSc、またはそれらの組合せを含む、実施形態21の実施形態。
【0092】
[0099]本発明が詳細に説明されたが、本発明の趣旨および範囲内の変形は、当業者にとって容易に明らかであろう。前述の説明、背景および詳細な説明に関連して先に説明された当技術分野における関連知識および参考文献を鑑み、それらの開示は全て参照により本明細書に組み込まれる。また、本発明の態様と、以下および/または添付の特許請求の範囲に記載された様々な実施形態および様々な特徴の一部とは、全体的または部分的に組み合わされうるか、または置き換えられうることが理解されるべきである。様々な実施形態に関する前述の説明において、別の実施形態に言及する実施形態は、当業者に理解されるように、他の実施形態と適宜組み合わされうる。さらに、当業者であれば、前述の説明は例に過ぎず、限定することを意図しないことを理解するであろう。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図6