(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】平面光波回路
(51)【国際特許分類】
G02B 6/122 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
G02B6/122
(21)【出願番号】P 2023124292
(22)【出願日】2023-07-31
【審査請求日】2023-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】591230295
【氏名又は名称】NTTイノベーティブデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】郷 隆司
(72)【発明者】
【氏名】竹下 諒
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】小川 大輔
【審査官】牧 隆志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/025523(WO,A1)
【文献】特開2015-108819(JP,A)
【文献】特開2023-165049(JP,A)
【文献】国際公開第2017/077638(WO,A1)
【文献】特表2022-505829(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01396741(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0095494(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/10 - 6/14
6/30
6/42 - 6/43
G02F 1/00 - 1/125
1/21 - 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上部に設けられたクラッド層と、
前記クラッド層に埋め込まれて導波路を構成するコアと、
前記クラッド層に形成された複数の窪み部が前記クラッド層の面内方向に2次元に配置された窪み領域と、を備え、
前記窪み部の形状が平面視において円形であり、かつ、前記窪み領域における前記複数の窪み部の配置が六方充填配置であり、前記円形の直径をDによって表し、前記窪み部の配置間隔をPによって表した場合に、前記直径Dと前記配置間隔Pとが以下の式1を満たす、平面光波回路。
【請求項2】
基板と、
前記基板の上部に設けられたクラッド層と、
前記クラッド層に埋め込まれて導波路を構成するコアと、
前記クラッド層に形成された複数の窪み部が前記クラッド層の面内方向に2次元に配置された窪み領域と、を備え、
前記窪み部の側壁面の法線方向が前記クラッド層の内部から外部に向かう方向であり、前記基板の基板面の法線方向が前記基板から前記クラッド層に向かう方向であり、前記側壁面の法線方向と前記基板面の法線方向との成す角度が90°よりも小さく、
前記窪み部の形状は平面視において円形であり、かつ、前記窪み領域における前記窪み部の配置は六方充填配置であり、
前記側壁面の法線方向と前記基板面の法線方向との成す前記角度は、前記角度からのズレ角θ(≠0°)を用いて90°-θとして表され、
前記コアの中心軸の前記基板に対する位置を初期位置y
0
、前記クラッド層の屈折率をn
clad
、前記円形の直径をD、前記窪み部の配置間隔をP、前記窪み部の繰り返しピッチをP’=(√3)・Pによってそれぞれ表し、
前記窪み領域におけるi番目(iは1以上の整数)の前記クラッド層における迷光の前記基板面に対する進行角度の初期角度がφ
0
=0°であり、かつ、前記基板に対する前記迷光の位置をy
i
によって表した場合に、前記迷光の伝搬方向に沿った方向についての前記窪み領域の長さは、以下の式2~式4によって求まる位置y
i
がゼロ以下になる最小のiをi
min
と表した場合に、i
min
・P’よりも長い、平面光波回路。
【請求項3】
前記複数の窪み部は、前記平面光波回路において発生する迷光の伝搬方向において、前記迷光が前記クラッド層内を横切る位置に配置されている、請求項1
または2に記載の平面光波回路。
【請求項4】
前記複数の窪み部は、前記平面光波回路の前記面内方向のあらゆる方向において、前記平面光波回路において発生する迷光が前記クラッド層内を横切る位置に配置されている、請求項1
または2に記載の平面光波回路。
【請求項5】
前記窪み部の側壁面の法線と前記基板の基板面の法線との成す角度が90°とは異なる、請求項1に記載の平面光波回路。
【請求項6】
前記窪み部の側壁面の法線方向は、前記クラッド層の内部から外部に向かう方向であり、前記基板の基板面の法線方向は、前記基板から前記クラッド層に向かう方向であり、前記側壁面の法線方向と前記基板面の法線方向との成す角度は、90°よりも小さい、請求項
5に記載の平面光波回路。
【請求項7】
前記窪み領域において前記複数の窪み部を配置する配列軸の方向は、前記平面光波回路において発生する迷光の伝搬方向と異なる、請求項1
または2に記載の平面光波回路。
【請求項8】
前記窪み領域における前記複数の窪み部の配置位置は、周期性を有する位置からランダムにずれた位置である、請求項1
または2に記載の平面光波回路。
【請求項9】
前記コアが前記窪み領域に配置され、前記窪み部は前記窪み領域において前記コアを避けて配置された、請求項1
または2に記載の平面光波回路。
【請求項10】
前記コアは、曲線部分を有する、請求項9に記載の平面光波回路。
【請求項11】
前記直径Dと前記配置間隔Pとが以下の式
5を満たす、請求項
1または2に記載の平面光波回路。
【請求項12】
前記窪み領域を構成する前記複数の窪み部の一部または全部は、前記基板に対する平面視および断面視の一方または双方に関するサイズが異なる、請求項1
または2に記載の平面光波回路。
【請求項13】
前記窪み領域は、複数の領域に区分され、区分された前記複数の領域の一部または全部において、前記窪み部の前記サイズが異なり、かつ、前記窪み部の配置間隔が異なる、請求項
12に記載の平面光波回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、平面光波回路に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に作製される、光導波路を用いた平面光波回路(planar lightwave circuit:PLC)は、光フィルタ、光合分波器、または、光スイッチといった多彩な干渉計をチップ上に集積可能であり、様々な材料系を用いて実現される。例えば、石英系の光導波路によって構成される平面光波回路は、光の低損失性、安定性、および/または、信頼性に優れるため、光通信分野を中心に広く実用に供される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-32921号公報
【文献】特開平9-5548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既知の平面光波回路においては、クラッド層を伝搬する迷光によるクロストークの抑制または低減に関して改善の余地がある。
【0005】
本開示の目的の1つは、クラッド層を伝搬する光(例えば、迷光)によるクロストークを抑制または低減する効果を向上可能な平面光波回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る平面光波回路は、基板と、前記基板の上部に設けられたクラッド層と、前記クラッド層に埋め込まれて導波路を構成するコアと、前記クラッド層に形成された複数の窪み部が前記クラッド層の面内方向に2次元に配置された窪み領域と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様に係る平面光波回路によれば、クラッド層を伝搬する光(例えば、迷光)によるクロストークを抑制または低減する効果を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】シリコン基板上に石英系の光導波路を作製する平面光波回路技術を用いて構成された光回路を模式的に示す上面図である。
【
図2】
図1において切断線X-X’に沿った断面を部分的に示す部分断面図である。
【
図3】実施形態に係る遮光溝群を備えた平面光波回路の非限定的な一例である光回路を模式的に示す上面図である。
【
図4】
図3に例示した個々の遮光溝群の詳細を説明するための部分拡大図である
【
図5】
図4に示した切断線X-X’に沿った切断面を部分的に示す部分断面図である。
【
図6】
図4に示した切断線Z-Z’に沿った切断面を部分的に示す部分断面図である。
【
図7】(a)~(h)のそれぞれは遮光溝群における深溝の配置パターン例を模式的に示す上面図である。
【
図8】実施形態の遮光溝群において迷光が複数の深溝を横切って伝搬する様子の詳細例を示す図である。
【
図9】実施形態においてz軸方向に伝搬する迷光が遮光溝群を進行する際のy軸方向の位置変化の一例を示すグラフである。
【
図10】実施形態による光回路の端面に受光素子が実装された例を模式的に示す断面図である。
【
図11】
図7(d)に示した深溝の配置パターン例において、複数の区分領域の一部または全部に対して深溝の直径を異ならせた構成に相当する配置パターンの一例を示す図である。
【
図12】実施形態の加工限界付近における溝の仕上がり形状の一例を模式的に示す断面図である。
【
図13】実施例による遮光溝群の効果を確認するために作製したテスト回路の一例を模式的に示す上面図である。
【
図14】実施例によるテスト回路の波長に対する透過率スペクトルを評価した結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本開示の実施形態および実施例について詳細に説明する。同一または類似の符号は同一または類似の要素を示し、繰り返しの説明を省略する場合がある。以下の説明において材料および数値を記載した場合、それらは例示であり、他の材料および数値を追加的または代替的に用いて本開示が実施されてもよい。
【0010】
[概要]
図1は、シリコン基板上に石英系の光導波路を作製する平面光波回路技術を用いて構成された光回路100を模式的に示す上面図である。
【0011】
光回路100は、
図2により後述するように、基板1と、基板1の上部に積層されたクラッド層2と、クラッド層2の内部に埋め込まれて導波路として機能するコア3とを備える。なお、コア3を以下において導波路コア3または導波路3と表記することがある。また、クラッド層2をクラッド2と略記することがある。
【0012】
光回路100には、例えば、光フィルタとして機能する光干渉計回路110a、110b、光スイッチまたは減衰器として機能する光干渉計回路120a、120b、および、光分岐回路130a、130bが、導波路3によって縦続接続された構成にて集積される。また、光回路100のチップ端面には、例示的に、入力光ファイバ101a、101b、出力光ファイバ102a、102b、および、受光素子103a、103bが実装される。
【0013】
なお、光回路100には、上述のとおり、回路または素子等が2セットずつ集積または実装されており、それらの構成要素を符号の末尾に付した「a」または「b」によって区別するが、区別の必要がない場合には末尾の記号を省略して記載する。
【0014】
光干渉計回路110および光干渉計回路120は、いずれも、2つの光カプラを2本の導波路3によって縦続接続して構成されるマッハツェンダ干渉計である。光干渉計回路110は、例示的に、縦続接続する2本の導波路3の導波路長(別言すると、光路長差)がΔLだけ異なる。既知の干渉現象によって、この光路長差ΔLによって定まる繰り返し周期を有する特定波長の光が光干渉計回路110を透過し、その他の波長の光は遮断される。
【0015】
光干渉計回路120には、例示的に、縦続接続する2本の導波路3のいずれか一方に熱光学移相器が設けられる。
図2は、
図1において切断線X-X’に沿った断面を部分的に示す部分断面図であり、例示的に、一方の光干渉計回路120aに着目した部分の断面を示す。なお、他方の光干渉計回路120bに着目した部分の断面も、光干渉計回路120aに着目した部分の断面と同等と理解されてよい。
【0016】
図2に例示したように、光干渉計回路120において、基板1上に積層されたクラッド2の上部に薄膜ヒータ4が設けられる。薄膜ヒータ4に通電することで、薄膜ヒータ4の下方に位置する導波路コア3の温度が局所的に変化し、この温度変化に応じて導波路コア3の等価屈折率が熱光学効果によって変化する。
【0017】
等価屈折率の変化に応じて、導波路コア3を伝搬する光の位相がシフトし、光干渉計回路120の干渉条件が変化するため、光干渉計回路120の透過率が変化する。光分岐回路130は、Y分岐導波路と呼ばれる1本の導波路が2本に分かれる構造の回路によって、光を2つに分岐する。
【0018】
入力光ファイバ101から光回路100に入力された光は、光干渉計回路110において、特定波長とは異なる波長成分の光が遮断されるようにフィルタリングされ、特定波長の光が後段の光干渉計回路120へ導かれる。光干渉計回路110を透過した光は、光干渉計回路120において減衰を受けた後、光分岐回路130によって2つの光に分岐される。分岐された一方の光は出力光ファイバ102へ出力され、他方の光は受光素子103に導かれる。
【0019】
ここで、光回路100では、導波路3を伝搬せずにクラッド内を伝搬する「迷光」と呼ばれる望ましくない光が発生することがある。例えば、光回路100では、入力光ファイバ101と光回路100との接続部において、伝搬モードのミスマッチ、または、実装軸ズレにより漏れ光が発生し、この漏れ光が迷光となる。
【0020】
また、光干渉計回路110では、既述の特定波長とは異なる波長の光が未接続ポート112から出力されて迷光となる。同様に、光干渉計回路120では、減衰した分の光が未接続ポート122から出力されて迷光となる。さらに、光分岐回路130では、Y分岐導波路の「股」に相当する部分から、例えば、製造の不完全性による形状のズレに起因して、漏れ光が発生し、この漏れ光が迷光となる。
【0021】
以上のような迷光が、以下に例示列挙するような複数の箇所の一部または全部から導波路3等に入射した場合、導波路3を伝搬する光に対するクロストークとなり、光回路100の特性(または性能)劣化が生じる。なお、迷光が導波路3等に「入射」することを、以下において、便宜的に、迷光が導波路3等に「飛び込む」と表記することがある。
【0022】
(迷光が飛び込み得る箇所)
・光干渉計回路110の未接続ポート111
・光干渉計回路120の未接続ポート121
・光分岐回路130のY分岐のために導波路3が徐々に太くなる部分
・光回路100と出力光ファイバ102との接続部
・受光素子103の受光面
【0023】
光回路100において損失が発生し得る箇所は、迷光の発生箇所であると共に迷光の飛び込み箇所でもあり得る。これらの迷光を低減または除去するための方法が幾つか検討される。例えば、特許文献1には、全反射溝を用いる方法が記載される。
【0024】
この方法は、迷光が進む方向に対して斜めに横切る全反射溝をクラッドに設け、空気とクラッドとの境界面において迷光を全反射させることで、飛び込み箇所に迷光が進まないようにする方法である。全反射溝としては、例えば、迷光の進行方向と境界面の法線方向との成す角度が臨界角である43°以上となる境界面を一辺に有する三角形状が用いられる。
【0025】
一方、特許文献2には、遮光材を用いる方法が記載される。この方法は、クラッドに溝を形成し、その溝に遮光材としての光吸収材を充填することで、迷光を遮光する方法である。光吸収材は、母材である樹脂に光吸収微粒子を混ぜることによって得られる材料であり、この材料の塗布によって溝に対して光吸収材が充填される。
【0026】
しかしながら、特許文献1記載の全反射溝を用いる方法では、迷光の進行方向を回路面内において変えるに過ぎないため、迷光がクラッド中を伝搬する状況、例えば、回路面に垂直な方向に関する屈折の状況が変わるわけではない。回路規模が小さい場合は、迷光の発生箇所と飛び込み箇所とを結ぶクラッド中の伝搬経路が生じないように全反射溝を配置することが可能である。一方、回路規模が増大した場合、迷光の発生箇所と飛び込み箇所の個数が増えるため、迷光の発生箇所と飛び込み箇所との全ての組み合わせを考慮して全反射溝を配置することが難しくなり得る。
【0027】
例えば
図1において、未接続ポート112aから出射された迷光が未接続ポート121aに飛び込まないように、これらの中間に全反射溝を配置した場合、未接続ポート121aへの迷光の飛び込みを阻止できる。その一方で、未接続ポート121aの隣に位置する未接続ポート121b、または後段の光分岐回路130bといった他の箇所には、未接続ポート112aから出射した迷光が飛び込む可能性がある。同様に、例えば、未接続ポート122と出力光ファイバ102との間に全反射溝を配置して未接続ポート122から出力光ファイバ102へ迷光が飛び込まないようにした場合、未接続ポート122の後段に配置された受光素子103等に飛び込む可能性がある。
【0028】
また、光回路100の端面に実装された受光素子103は、導波路3のコアサイズに比べて広い受光面を有しており、また、光回路100の端面に対してあらゆる角度から入射する光を受光し得るため、クロストークが発生し易い。
【0029】
したがって、特許文献1記載の方法では、回路規模が大きく集積密度の高い回路において、全ての飛び込み経路を考慮して全反射溝を配置することが難しく現実的でないと云える。また、全反射溝は、クラッド中において広がって伝搬してきた迷光を全て反射するために、臨界角を満たす境界面が一定の大きさに設定されるため、光回路の集積密度の向上を妨げ得る。
【0030】
一方、特許文献2に記載の遮光材を用いる方法では、光吸収材の充填工程が追加され、作製工程が増加するため、コストアップにつながり得る。また、光吸収材の充填による塗布の位置精度は十分とは云えないため、光吸収材の塗布領域とチップ端または光回路中の断熱溝のような他の領域との間に十分な間隔を設けざるを得ない。さらに、光吸収材に用いられる樹脂からシロキサンといったガスが長期的に発生し得るため、光回路の信頼性が低下する要因になり得る。
【0031】
そこで、以下においては、クラッド層を伝搬する光(例えば、迷光)によるクロストークを抑制または低減する効果を向上でき、また、コストアップまたは信頼性の低下を回避することが可能な平面光波回路の非限定的な実施形態および実施例について説明する。なお、「迷光」は、クラッド層において「伝搬させたくない不要な光」、または「減衰させたい光」の非限定的な一例と理解されてもよい。
【0032】
なお、以下に説明する実施形態および実施例では、石英系の導波路3を用いた平面光波回路の例を示すが、本開示において、導波路3の材料は石英系に限定されない。例えば、石英系の導波路3に限らず、高分子系導波路、シリコン(Si)導波路、インジウムリン(InP)系導波路といった他の材料系の導波路が、本開示に係る平面光波回路に適用されてよい。
【0033】
[実施形態]
図3は、実施形態に係る遮光溝群を備えた平面光波回路の非限定的な一例である光回路200を模式的に示す上面図である。
図3に例示した光回路200は、
図1に例示した構成において、遮光溝群210-1、210-2および210-3を追加的に備えた構成に相当する。なお、その他の光回路200における構成要素は、
図1に例示した構成要素と同等または同様と理解されてよい。
【0034】
例示的に、遮光溝群210-1は、入力光ファイバ101の接続部と光干渉計回路110との間に設けられ、遮光溝群210-2は、光干渉計回路110と光干渉計回路120との間に設けられる。遮光溝群210-3は、光干渉計回路120および光分岐回路130と出力光ファイバ102の接続部との間に設けられる。別言すると、光回路200は、迷光の発生箇所と迷光の飛び込み箇所との間に対応して遮光溝群210-1、210-2および210-3を個別的に備える。
【0035】
図4は、
図3に例示した個々の遮光溝群210-k(kは1以上の整数)の詳細を説明するための部分拡大図である。なお、
図3には、遮光溝群210-3を横切る導波路3が曲線部分を含む曲線導波路3として示されるが、説明の便宜のため、
図4には、個々の遮光溝群210-kを横切る導波路3が直線導波路3である例が示される。また、以下において、個々の遮光溝群210-kを区別しなくてもよい場合には、「遮光溝群210」と略記することがある。
【0036】
図5および
図6は、それぞれ、
図4に示した切断線X-X’および切断線Z-Z’に沿った切断面を部分的に示す部分断面図である。
図3~
図6のそれぞれにおいて、z軸は導波路3の入出力の方向に対応し、x軸は基板1の平面内幅方向に対応し、y軸は基板1に垂直な方向(別言すると、基板1の厚み方向)に対応する。x軸、y軸、および、z軸が示す方向は、以降の説明において使用する図面においても同様である。
【0037】
図4~
図6に示すように、遮光溝群210のそれぞれは、例示的に、導波路コア3の周辺のクラッド2を複数箇所において部分的に除去することにより形成された複数の深溝5を2次元的に配列した構成を有する。また、
図5および
図6に示すように、基板面の法線方向と深溝5の側壁面の法線方向とが成す角度は、90°とは異なる角度である。基板面の法線方向は、例えば、基板1の裏面から表面に向かう方向である。深溝5の側壁面の法線方向は、例えば、クラッド2の内部から外部に向かう方向である。
【0038】
例えば
図5に示すように、基板面の法線方向と深溝5の側壁面とが成す角度をθとして表した場合、上述した2つの法線方向が成す角度は「90°-θ」として表され、したがって、「90°とは異なる角度」はθ≠0°であることを意味する。
【0039】
なお、本開示において、「深溝」は、例えば、「溝」、「溝部」、「孔」、「孔部」、「窪み」、「窪み部」、「凹部」、または「クラッド除去部」といった他の用語に相互に読み替えられてもよい。「窪み」、「窪み部」、「凹部」または「クラッド除去部」という用語は、「溝」、「溝部」、「孔」および「孔部」を含む上位概念の用語と理解されてよい。また、遮光溝群210において、除去されずに残存したクラッド2の部分は、便宜的に、「残存クラッド」、「突出クラッド」、「凸状クラッド」、または「網目状クラッド」といった用語によって呼称されてもよい。
【0040】
複数の「深溝」によって構成される「遮光溝群」は、「溝群」と称されてもよいし、後述する機能的な構造に着目して、例えば、「迷光抑制構造」、「迷光低減構造」、または「光屈折制御構造」といった他の用語に相互に読み替えられてもよい。「~構造」は、例えば、「~構成」、「~手段」、または、「~部」といった他の用語に相互に読み替えられてもよい。「~部」は、例えば、「~領域」に読み替えられてもよい。
【0041】
図5および
図6には、深溝5の上面視におけるサイズ(例えば、径)が基板1に近づくにつれて小さくなる形状にて深溝5を形成した例が示される。この例では、上述した2つの法線の成す角度は、90°よりも小さい角度(即ち、θ>0°)である。深溝5は、例えば、クラッド2の上面から基板1の上面に到達する深さに掘り切られることによって形成されてよい。代替的に、深溝5は、例えば、少なくとも迷光が発生する導波路コア3の高さに到達する、より浅い深さに形成されてもよい。導波路コア3の高さに相当する位置は、例えば
図5の基板1に対するy軸方向の距離に相当する位置であり、例示的に、導波路コア3の下面に相当するy位置であってよい。
【0042】
後述するように、深溝5は、可能な限り稠密に配置した方が望ましいため、
図4には、六方充填(「六方格子」に読み替えられてもよい)によって深溝5を配置した例が示される。また、光回路200において、迷光の主な進行方向は、
図4~
図6におけるz軸方向である。六方充填の配列軸は、例えば
図4において点線によって示したように、迷光の主な進行方向であるz軸方向とは異なる方向に配置される。
【0043】
このような配列軸の配置によって、例えば、z軸方向に伝搬する迷光は、複数の遮光溝群210のそれぞれにおいて複数の深溝5を頻繁に横切って伝搬する。z軸方向に伝搬する迷光が横切る深溝5の個数が増えるほど、後述するように、迷光を基板1の面内方向に散乱させ易くなり、また、基板1に近づく方向への迷光の屈折回数が増加するため、迷光をクラッド2の外に追い出し易くなる。
【0044】
深溝5のパターン形状は、特に限定されないが、例えば、平面視において、小さなパターンを密集して加工形成しやすい円形とすることで、深溝5を可能な限り稠密に配置することが容易になる。代替的に、平面視において円形とは異なる形状、例えば、四角形、六角形のような多角形または楕円等の形状が深溝5のパターン形状に適用されてもよい。
【0045】
深溝5のパターン形状が円形の場合は、基板1の面内方向(xz平面方向)における散乱によって、迷光を減衰させ易くできるという効果もある。例えば
図4に示したように、深溝5の直径をD、深溝5の配置間隔をPとそれぞれ表した場合、z軸方向に伝搬する迷光が深溝5を横切る条件は、以下の式1によって表される。
【0046】
また、DとPとを、例えば、以下の式2によって表される関係と定義することで、深溝5の間のクラッド2を基板面(xz平面)内の任意の方向においてできるだけ残すことができる。したがって、例えば、遮光溝群210の構造上の強度を一定程度に保ち易くすることが可能である。
【0047】
以上より、深溝5の直径Dは、式1および式2を満たす値、すなわち以下の式2aを満たす値に設定されることが望ましい。
【0048】
また、DとPとが以下の式3によって表される関係を満たす場合、深溝5の配列軸に交差する方向に限らず配列軸に沿った方向の迷光についても深溝5を横切ることになる。したがって、DとPとが式3の関係を満たすことは、深溝5の配列軸に沿った方向を含むあらゆる方向に迷光が発生し得る場合に有用である。
【0049】
式1~式3(別言すると、式2aおよび式3)を満たす遮光溝群210を設けることで、迷光は、多数の深溝5を横切って伝搬するため、基板1の面内方向に散乱される。さらに、θを0°とは異なる角度に設定することで、迷光は、基板1に垂直な方向へも複数回にわたって屈折して進み、クラッド2の外部に追い出される。例えば、θ>0°の角度では、
図6に示すように、迷光は複数の深溝5を横切るごとに基板1に近づく方向に屈折する。
【0050】
基板1の屈折率がクラッド2の屈折率よりも高い場合、迷光は、基板1において更に大きく屈折して伝搬する。例えば、波長1.55マイクロメートル(μm)帯では、石英系の導波路3の屈折率は約1.4であり、シリコン基板の屈折率は約3.5であるため、このケースに該当する。
【0051】
シリコン基板に低抵抗ウェハと呼ばれる、ドーピングされたウェハを用いた場合には、波長1.55μm帯においても光の吸収損失が大きく生じるので、迷光を効果的に減衰させることができる。また、θが0°以外の角度であることは、迷光の反射光についても基板1に垂直な方向に偏向させることができるという効果をもたらす。このように、複数の深溝5によって、迷光について屈折光だけでなく反射光をも効果的にクラッド2の外部に散乱できるため、迷光を効果的に減衰させることができる。
【0052】
本実施形態の光回路200を製作するにあたっては、光回路100と比べて遮光溝群210を形成する工程が加わる。例えば、フォトリソグラフィーのような微細加工技術を用いてクラッド2の一部分を除去して深溝5を形成する工程が加わる。
【0053】
ここで、熱光学移相器が設けられる光干渉計を集積する場合は、
図1には図示を省略したが、多くの場合、薄膜ヒータ4による局所加熱の効率を上げるために、熱光学移相器の周辺に断熱溝が形成される。この断熱溝を形成する工程は、遮光溝群210の深溝5を形成する工程と兼用にできるため、断熱溝を形成する際に遮光溝群210の深溝5を併せて形成することで、工程数の増加を回避することができる。
【0054】
[遮光溝群を構成する深溝の各種配置パターン例]
遮光溝群210における深溝5の配置には、様々なパターンが考えられる。
図7は、遮光溝群210における深溝の配置パターン例を模式的に示す上面図であり、非限定的な例示として(a)~(h)の8つの配置パターンが示される。
【0055】
図7(a)は、基本的な配置パターン例を示し、深溝5をx軸方向およびz軸方向のそれぞれに沿って碁盤目状に並べた配置パターンである。迷光の進行方向がz軸方向からずれる場合には、このような碁盤目状の配置パターンによって迷光を除去または抑制できる。迷光の進行方向がz方向に沿った方向である場合には、迷光にとって深溝5と深溝5との間に見通せる隙間があるので、深溝5の間の隙間を進行する迷光を対象とした遮光手段が個別的に適用されてよい。なお、迷光にとって「見通せる隙間」とは、例えば、迷光が進行方向において深溝5を横切らずに伝搬可能なクラッド2が存在することを意味する。
【0056】
図7(b)は、深溝5を碁盤目状に並べた配置パターンを斜めに傾けた配置パターン例を示す。
図7(c)は、深溝5を奇数列目と偶数列目とで半ピッチずらして並べた配置パターン例を示す。
図7(b)および
図7(c)に示した配置パターン例は、いずれも、深溝5の配置間隔Pよりも小さい値であって配置間隔Pとの関係において十分な大きさの(別言すると、配置間隔Pに対して小さすぎない)直径Dを用いることで、z軸方向に沿った方向に伝搬する迷光にとって見通せる隙間を無くす(または減らす)ことができる。
【0057】
図7(d)は、
図4に例示した配置パターンと同様に六方充填によって深溝5を配置した配置パターン例を示す。
図7(d)に示す配置パターン例は、
図7(c)に示した配置パターン例と比較して、z軸方向の深溝5の配置間隔が異なる。例えば、x軸方向の配置間隔をPと表した場合に、z軸方向の配置間隔が、
図7(c)の配置パターン例ではPであるのに対して、
図7(d)の配置パターン例では、P・(√3)/2であり、等方的な配置間隔である。このような配置により、基板平面(xz平面)内において、x軸方向に加えて、z軸方向に関しても深溝5の密度を高めることができる。
【0058】
図7(e)は、深溝5を規則的に並べる代わりに、深溝5をランダムに並べた配置パターン例を示す。この配置パターン例は、遮光溝群210における深溝5の配置位置が周期性を有する位置からランダムにずれた位置にある配置パターンに相当する。このように深溝5をランダムに並べることで、光回路200において迷光が飛び込み得る箇所に対してあらゆる方向について迷光にとって深溝5と深溝5との間が見通せる隙間を無くす(または減らす)ことができる。
【0059】
このランダムな配置パターン例は、別言すると、迷光の除去または抑制に関して確率的な配置パターンである。確率的な配置パターンであるため、配置する深溝5の個数を増やすほど、迷光にとって見通せる隙間が残る確率を減らすことができる。そのため、この配置パターンでは、例えば、基板平面(xz平面)において遮光溝群210の配置が基板サイズにおいて許容される範囲内で深溝5の配置領域サイズを拡大して、深溝5の配置数をできるだけ増やすようにしてよい。
【0060】
図7(f)は、例えば、
図7(d)に示した六方充填の配置パターン例において、遮光溝群210を通り抜ける導波路3が、直線導波路に代えて、曲線導波路を含む導波路である場合の配置パターンに相当する。
図7(d)に示した六方充填の配置パターン例では、既述のとおり、深溝5の配置間隔Pに対して適切な直径Dを深溝5に用いることで、迷光にとって見通せる隙間を無くす(または減らす)ことができる。
【0061】
その一方で、導波路3の近傍において伝搬する迷光にとっては見通せる隙間が残り易い。そこで、
図7(f)に例示した配置パターンのように、遮光溝群210を通り抜ける導波路3に曲線導波路を含む導波路を適用することで、導波路3の近傍において伝搬する迷光にとっても見通せる隙間を無くす(または減らす)ことができる。
【0062】
図7(g)は、
図7(f)に示した配置パターン例と同様に、遮光溝群210を通り抜ける導波路3が曲線導波路を含む導波路である場合の配置パターン例を示す。
図7(f)に示す配置パターン例は、例えば、規則的に一様に並べた深溝5に対して、遮光溝群210において導波路3が通る部分には深溝5を設けない配置パターンに相当する。導波路3のパターンに対して深溝5を設けない箇所は、例えば、パターン設計の際に用いられる所定のアルゴリズムによって決定されてよい。
【0063】
これに対し、
図7(g)に示した配置パターン例では、導波路3の周辺において、同一の基本形状(
図7(f)では円形)の深溝5を設ける代わりに、基本形状から導波路3のパターンを除いた形状の深溝5が設けられる。この配置パターンは、例えば、遮光溝群210において導波路3が通る部分の深溝5に対して導波路3の幅に所定の幅(別言すると、マージン)を加えたリッジパターンに基づいてパターン演算を行うことによって決定される。本例では、パターン描画上での演算処理を行えばよいので、パターン設計が容易になるというメリットが得られる。
図3に例示した遮光溝群210-3は、本例の配置パターンに相当する。
【0064】
図7(h)は、x軸方向に細長い形状(便宜的に「縦方向ストライプ」と称されてもよい)の複数の深溝5をz軸方向に導波路3を避けて並べた配置パターン例を示す。なお、
図7(h)において付記した「D」はx軸方向に細長い形状の深溝5の幅を表し、「P’」はz軸方向の深溝5の繰り返しピッチを表し、
図8を参照して後述する迷光の伝搬例の説明において用いられる。
【0065】
図7(h)に例示した配置パターン例においては、進行方向がx軸方向に沿った方向とは異なる方向の迷光にとって見通せる隙間は無い(または最小化される)。したがって、迷光が概ねz軸方向に沿った方向に伝搬する場合に、効果的に迷光を減衰させることができる。なお、この配置パターンでは、除去されずに残存したクラッド2が細長いリッジ状になるため、
図7(a)~
図7(g)に例示した配置パターン例に比べて例えばx軸に沿った方向を軸とした可撓性が高まる。
【0066】
[遮光溝群による屈折量]
図8は、遮光溝群210において迷光が複数の深溝5を横切って伝搬する様子の詳細例を示す図であり、
図6に示した断面図を部分的に拡大して示す図に相当する。以下、
図8を参照して、クラッド2を伝搬する迷光がyz面内において深溝5によってどのように基板1に向かって屈折して進行するかについて説明する。
【0067】
説明を単純にするため、深溝5の配置パターンは、例えば
図7(h)に示したような、x軸方向に均一なパターンであると仮定する。また、深溝5の側壁の角度90°からのズレ角をθ、深溝5のパターンの幅をD、深溝5のz軸方向の繰り返しピッチをP’によってそれぞれ表す。ここで、θ≠0°の場合、DおよびP’の値は厳密にはy軸方向の位置によって異なるが、計算の簡略化のため、便宜的に、一定値であると仮定する。また、迷光は、yz面内においてz軸方向のプラス側に向かって進むものと仮定する。
【0068】
迷光が、(i-1)番目(iは1以上の整数)のクラッド2の中をz軸に対してφ
i-1の角度で進行し、i番目の深溝5との境界面でy軸方向の位置がy
i-1であると仮定する。クラッド2と深溝5との境界面における入射角ξ
i(=φ
i-1+θ)と出射角ζ
iとの関係は、スネルの法則から、以下の式4によって表される。
【0069】
ここで、n
cladはクラッド2の屈折率を表し、また、深溝5の屈折率は、空気の屈折率(=1)である。したがって、i番目の深溝5における迷光の進行角度φ’
i(=ζ
i-θ)は、以下の式5によって表される。
【0070】
同様に、i番目の深溝5とi番目のクラッド2との境界面において入射角ζ’
i(=θ-φ’
i)と出射角ξ’
iとの関係は、以下の式6によって表される。したがって、i番目のクラッド2における迷光の進行角度φ
i(=ζ
i-θ)は、以下の式6によって表される関係を基に、以下の式7が導き出される。
【0071】
i番目の深溝5における迷光のy方向の変化量「y’
i-y
i-1」は、「-D・tanφ
i」によって表され、i番目のクラッド2における変化量「y
i-y’
i-1」は、「-(P’-D)・tanφ
i」によって表される。したがって、i番目のクラッド2と(i-1)番目の深溝5との境界面におけるy軸方向の位置y
iは、以下の式8によって表すことができる。
【0072】
遮光溝群210に入射する迷光のy軸方向の位置、別言すると、y軸の初期位置y0は、基板1に対する導波路コア3の中心の高さ位置に相当し、非限定的な一例として、25μm程度である。また、初期角度φ0は、例えばゼロである。石英系の導波路3の場合、nclad≒1.445である。
【0073】
これらのパラメータと、式5、式7および式8とを用いることで、迷光のy軸方向の位置yiを算出できる。従って、迷光のy軸方向の位置yiがゼロ以下になる最小のiをiminと表した場合に、迷光の伝搬方向に沿った方向についての遮光溝群210の長さをimin・P’よりも長くすれば、遮光溝群210によって迷光をクラッド2から除去できると言うことができる。
【0074】
図9は、z軸方向に伝搬する迷光が遮光溝群210を進行する際のy軸方向の位置変化の一例を示すグラフである。
図9(a)には、θ=1°の場合に、深溝5の幅Dおよび繰り返しピッチP’を異なる3種類の組み合わせとしたケースが例示される。
【0075】
例えば
図9(a)において、菱形のプロット(◆)は、(P’,D)=(60μm,30μm)、三角形のプロット(▲)は、(P’,D)=(120μm,60μm)、四角形のプロット(■)は、(P’,D)=(69.3μm,30μm)をそれぞれ表す。
【0076】
また、比較例として、
図9(a)において、深溝5のz軸方向の繰り返し配置に代えて、1つの深溝が配置された位置よりもz軸方向後段にはクラッド2が除去されずに延在するケースが、バツ印のプロット(×)によって示される。なお、比較例において、単独で設けられた深溝は、x軸方向の幅Dが50μmである。
【0077】
いずれのケースについても、迷光は、z軸方向に伝搬するにつれて基板1に向かって屈折してゆく。ここで、迷光のy軸方向の位置がy0=0になる、別言すると、迷光が基板1に到達するまでのz軸方向の伝搬距離は、単独溝(バツ印のプロット)では、2300μm程度である。
【0078】
これに対して、遮光溝群210を設けたケース(3種類の◆プロット、▲プロット、および、■プロット)において、迷光のy軸方向の位置がy0=0になるz軸方向の伝搬距離は、450~650μm程度と2300μmよりも大幅に短縮される。
【0079】
加えて、例えば、◆プロットと▲プロットとの比較から理解できるように、繰り返しピッチP’および幅Dを小さくして深溝5を高密度に配置するほど、迷光が基板1に到達するまでのz軸方向の伝搬距離を短縮できる。別言すると、遮光溝群210を配置する領域のz軸方向の長さを短縮できる。
【0080】
このように、光回路200において、少なくとも迷光の伝搬方向に沿った方向に複数の深溝5が繰り返される遮光溝群210を配置することで、迷光を効果的にクラッド2の外部(例えば、基板1)に追い出して減衰させることができる。また、深溝5の配置密度を高めるほど、迷光の減衰効果を高めることができる。
【0081】
なお、
図9(a)には、例えば、迷光が基板1に到達した時のz軸に対する角度φが併記される。迷光が基板1に到達するまでのz軸方向の伝搬距離が短くなる構成ほど、角度φも大きくなる傾向にあることが理解される。迷光がクラッド2の内部から基板1に到達した時のz軸に対する角度φが大きいほど、クラッド2と基板1との境界面における反射が抑制され易いため、例えば、迷光をクラッド2から基板1へ追い出す効率を高めることができる。
【0082】
一例として、
図4に示した六方充填の配置パターン例のケースについて検討する。1列目の深溝5を横切った迷光は、2列目の深溝5の間に残存するクラッド2を通って、3列目の深溝5を横切ることになる。したがって、実効的な深溝5の繰り返しピッチP’は、以下の式9によって表すことができる。
【0083】
後述する実施例では、非限定的な一例として、P=45μm、D=30μmである。この場合、P’=69.3μmになる。
図9(a)において、四角形のプロット(■)は、このパラメータによる算出結果の一例に相当する。概ね、z軸方向の伝搬距離が500μm程度において、迷光が基板1に到達することが理解される。
【0084】
一方、
図9(b)には、P’=69.3μm、D=30μmとした場合に、既述の角度θをθ=0.5°、θ=1°、θ=5°、θ=20°の4通りに変えた個々のケースについて、迷光のy軸方向の位置変化を算出した例が示される。深溝5の側壁は、基板1に対して垂直(θ=0°)な角度に加工されることが一般的ではあるが、フォトリソグラフィーまたはエッチングといった工程のプロセス条件を調整することで、基板1に対して傾斜した角度(θ≠0°)に加工することが可能である。
【0085】
ここで、深溝5の側壁の基板1に対する傾斜角度θを大きくするほど、迷光が基板1に到達するまでのz軸方向の伝搬距離を短縮できるが、上述した4通りの角度θのうちの最小であるθ=0.5°の場合であっても、z軸方向の伝搬距離は720μm程度である。したがって、
図9(a)においてバツ印のプロットによって示した単独溝と比較して、迷光のz軸方向の伝搬距離を大幅に短縮可能である。
【0086】
なお、
図9(b)においても、
図9(a)と同様に、迷光が基板1に到達した時のz軸に対する角度φが併記される。クラッド2のy軸方向の高さ(または厚み)が40μmである場合に、深溝5を基板1に到達するまで概ね掘り切る構成とするには、クラッド2の上面においてD=30μmとすると、傾斜角度θの最大値は約20.6°である。
【0087】
ここまでの説明では、迷光が基板1に到達するまでの距離を、迷光を除去可能な長さ、別言すると、遮光溝群210を配置する領域の長さの目安とした。しかしながら、光回路200の構成によっては迷光が基板1に到達することは、必須の条件でなくてもよい。以下、この点について説明する。
【0088】
図10は、光回路(例えば、光回路200)の端面に受光素子6が実装された例を模式的に示す断面図である。受光素子6は、例示的に、パッケージ1001とパッケージ窓1002とによって形成される空間内に封止されており、導波路コア3からの出力光を受光可能な位置に位置決めされて光回路のチップ端面に実装される。
【0089】
この受光素子6におけるクロストークの低減に着目した場合、導波路コア3を伝搬してチップ端面から出射された信号光が受光素子6において受光され、迷光は受光素子6の受光面に入射しなければよい。したがって、クラッド2の中を伝搬してきた迷光が基板1に到達しなくても、受光素子6の受光面の下端に相当する位置よりも、迷光のy位置が下回っていればよい。
【0090】
一方、
図10において点線で示した受光素子6aのように、y軸方向において、受光素子6の受光面のサイズが基板1の端面と重なるケースも想定され得る。このケースでは、基板1の中を伝搬する迷光のy位置が、チップ端面において受光素子6aの受光面の下端に相当する位置を下回らないことがあり得る。
【0091】
例えば、基板1に高抵抗ウェハと呼ばれる、非ドーピングのウェハを用いた場合には、波長1.55μm帯の光が基板1の中を伝搬する際の吸収損失はそれほど大きくない。そのため、このようなケースでは、例えば、基板1の中を伝搬する迷光のy位置がチップ端面において受光素子6aの受光面の下端に相当する位置よりも下回るように、遮光溝群210のサイズ、繰り返しピッチといったパラメータが決定されてよい。
【0092】
以上のように、迷光の異なる特定の進行方向に着目した場合、それぞれの条件に合わせて遮光溝群210のサイズ、深溝5の繰り返しピッチといったパラメータが決定されてよい。光回路200の回路規模の増加に応じて、迷光の発生箇所および飛び込み箇所の個数が増加した場合、例えば、特定の進行方向の迷光が基板1に到達するまでの距離を、迷光除去の目安として近似的に用いて、上述したパラメータが決定されてよい。これにより、例えば、多くの迷光の進行方向がパラメータ決定の検討対象になるような場合であっても、対処が可能である。
【0093】
[複数の領域の一部または全部に対して異なるサイズの深溝を用いた遮光溝群]
光回路200において、例えば、1つの遮光溝群210の配置領域を複数の領域に区分し、区分した複数の領域(「区分領域」と称されてもよい)の一部または全部において異なるサイズの深溝5が適用されてもよい。
【0094】
例えば、
図11は、
図7(d)に示した深溝5の配置パターン例において、複数の区分領域の一部または全部に対して深溝5の直径Dを異ならせた構成に相当する配置パターンの一例を示す図である。なお、
図11には、
図7(d)に示した六方充填配置をベースにした配置パターンが例示される。
【0095】
例えば
図11(a)に示した配置パターン310において、複数(例えば、5つ)の領域311~315のうち、領域313と領域312および314との間において深溝53および深溝52の直径Dが互いに異なる。加えて、領域312および314と領域311および315との間において深溝52および深溝51の直径Dが互いに異なる。領域312と領域314との間、および、領域311と領域315との間における深溝の直径Dは、互いに同じでもよいし異なっていてもよい。
【0096】
領域313における深溝53は、
図7(d)に示した深溝5の構成と同じと理解されてよいが、深溝53の直径Dは、例えば、クラッド2を概ね掘り切ることができるギリギリのサイズの直径Dに相当する。領域312および314における深溝52の直径Dは、例えば、領域313における深溝53の直径Dよりも小さい。また、領域311および315における深溝51の直径は、例えば、領域312および314における深溝52の直径よりも更に小さい。このように、異なる複数のサイズの深溝51~53を設ける点が、
図7に示した遮光溝群210の配置パターン例と相違する。
【0097】
ここで、加工する溝のサイズが加工限界よりも小さい場合、溝を掘り切ることが難しい。また、加工限界付近では、溝の底に相当する部分の形状が相対的に丸みを帯びて形成され得る。
図12は、実施形態の加工限界付近における溝の仕上がり形状の一例を模式的に示す断面図である。
【0098】
図12において、深溝53については、クラッド2が基板1の上面に到達するギリギリの深さにまで掘り切られた仕上がりが例示される。一方、深溝52および深溝51については、
図12において、クラッド2を基板1の上面に到達するギリギリの深さまでに掘り切ることが難しいため、深溝53よりも浅い溝による仕上がりが例示される。
【0099】
また、深溝51~53のいずれも溝の底の付近では形状が丸みを帯びるため、それぞれの側壁の基板1に対する角度が90°からズレ易い(例えば、ズレ角θが大きくなり易い)。そのため、この溝の底の付近を通過する迷光については、他の部分を通過する迷光よりも大きく進行方向を基板1側に偏向させることができる。
【0100】
したがって、クラッド2を伝搬する迷光を更に効果的にクラッド2の外部に追い出すことができる。また、深溝53、52、および、51は、y軸方向における溝の底の位置が異なるため、y位置の異なる複数の迷光を分担して基板1に近づく方向に偏向させることができる。
【0101】
図11(a)に例示した配置パターン310は、「ピッチ均等型」の配置パターン例であり、サイズの異なる深溝51~53が異なる区分領域311~315の別に、繰り返しピッチは均等であるように、振り分けて配置される。ただし、このように明確な領域別の振り分けは必須ではなく、例えば、サイズの異なる深溝51~53がランダムに配置されてもよい。例えば、個々の区分領域311~315において、それぞれ、深溝51~53のサイズがランダムに選択されてもよい。
【0102】
図11(b)は、複数の領域に対して個別的に深溝の直径を異ならせると共に、深溝の配置間隔を直径に応じて異ならせた配置パターン320の一例を示す図である。
図11(b)において、深溝51~53それぞれの直径Dは、
図11(b)に例示した配置パターン310と同じであると理解されてよい。
【0103】
ただし、深溝53の配置された領域323、深溝52の配置された領域322および324、並びに、深溝51の配置された領域321および325のいずれについても、直径(D)と配置間隔(P)との比は一定である。別言すると、
図11(b)に例示した配置パターン320は、「開口率均等型」の配置パターン例である。このような配置パターン320を用いることで、領域321~325のいずれについても前掲の式3に示した条件を満たす遮光溝群210を構成できる。
【0104】
以上述べたように、実施形態に係る光回路200は、導波路コア3の周辺のクラッド2を除去することにより形成された複数の深溝5を2次元的に配列して構成される遮光溝群210を有する。遮光溝群210によって、クラッド2を伝搬する迷光を屈折または反射により散乱させて減衰させることができる。
【0105】
例えば、深溝5の側壁の基板1に対する角度を90°以外の角度(別言すると、既述の角度θが0°以外)に設定することで、迷光の進行方向がy軸方向に偏向されるので、迷光がクラッド2の外部に散乱して減衰する確実性を高めることができる。したがって、例えば、迷光を回路面内(別言すると、xz平面内)において偏向させる場合に比して、y軸方向への偏向が加わるため、光回路200において迷光を低減する効果を大幅に高めることができる。
【0106】
例えば、
図7(a)~
図7(g)、または、
図11に例示したような、深溝5が2次元的に配列して構成される遮光溝群210によれば、y軸方向への屈折に加えてx軸方向についての屈折または反射が生じるため、z軸方向に伝搬する迷光を更に減衰できる。また、溝構造を微細化した際にはクラッド2の壁の配置密度を高めることができるので、相対的に光回路200の機械的な強度を高めることができる。
【0107】
また、深溝の配列を稠密にするほど短い距離で効果的に光を散乱させることができる。さらに、曲線導波路部分に遮光溝群210を配置することで、導波路コア3の周辺のクラッド2を伝搬する迷光を確実に減衰させることができる。
【0108】
したがって、例えば、光回路200の回路規模および集積密度が増加した場合であっても、迷光の全ての飛び込み経路や全反射の方向等を詳細に検討しなくてもよい。例えば、所定の領域サイズの遮光溝群210を光干渉計回路110および120の間等に設けるといった一定のルールに従って回路設計を行うことで、迷光を効果的に減衰させることができる。よって、光回路200の設計難易度を下げることができ、干渉計や入出力光ファイバの接続位置、受光素子位置といった配置に関する制約を無くす、または最小限に低減できる。
【0109】
以上の実施形態では、例えば、光吸収材の塗布による充填を用いなくてよいため、コストアップまたは信頼性上の懸念を回避できる。ただし、遮光溝群210を構成する深溝5の全部または一部に光吸収材を塗布によって充填する方法が本開示において適用されてもよい。この場合、深溝5による構造的な迷光減衰効果に加えて、光吸収材による材料的な迷光減衰効果が得られる。
【0110】
例えば
図7(a)~
図7(g)に例示したような、深溝5を2次元的に配列して構成される遮光溝群210において遮光材が充填されてもよい。この場合、例えば、特許文献2に記載されるような、除去せずに残存させるクラッドを導波路コア3の周辺に限定する構成に比べて、光回路200の機械的な強度を高めることができる。
【0111】
[実施形態の補足]
図1の構成をベースにして
図3に例示した光回路200において、光干渉計回路110、120、および、光分岐回路130といった回路は、2セットずつ設けられる必要はなく、例えば、1セットでもよいし、3セット以上が設けられてもよい。
【0112】
また、
図3に示した光回路200では、遮光溝群210が、基板1において迷光の飛び込み箇所の数に応じて3箇所に配置される例であるが、光回路200において、遮光溝群210の配置数は1または2でもよいし4以上でもよい。
【0113】
さらに、上述した実施形態においては、遮光溝群210による減衰対象の光が迷光である例について説明したが、遮光溝群210は、迷光とは異なる光を減衰させるために使用されてもよい。
【実施例】
【0114】
図13は、実施例による遮光溝群の効果を確認するために作製したテスト回路500の一例を模式的に示す上面図である。シリコン基板上に石英系のクラッド2が作製されている。また、平面視においてクラッド2の中央部上方に遮光溝群550が作製されている。なお、テスト回路500では、クラッド2を伝搬する迷光の低減効果を確認することが目的であるため、導波路(コア)3は未作製である。
【0115】
遮光溝群550を構成する深溝の配置パターンは、
図4に例示した六方充填の配置であり、平面視における深溝の形状は円形である。深溝の直径Dは、例示的に、30μmである。深溝の配置間隔Pは、例示的に、45μmである。クラッド2のy軸方向の高さは、例示的に、約40μmである。深溝の側壁の基板1に対する角度の90°からのズレ角(θ)は、約1°である。遮光溝群550が設けられたz軸方向の領域の長さは約1mmである。
【0116】
このテスト回路500のチップ端面に、入力光ファイバ511および521と出力光ファイバ512および522とが、基板1から約25μmの高さ(y軸方向)の位置に取り付けられる。入力光ファイバ511と出力光ファイバ512とは例えば端面が互いに向き合う位置(x軸方向のx位置)に取り付けられ、これらの入力光ファイバ511と出力光ファイバ512との間に遮光溝群550が配置される。
【0117】
一方、入力光ファイバ521および出力光ファイバ522は、入力光ファイバ511および出力光ファイバ512の取り付け位置(x位置)とは異なるx位置において、端面が互いに向き合うように取り付けられる。入力光ファイバ511および出力光ファイバ512の間とは異なり、入力光ファイバ521および出力光ファイバ522の間のクラッド2には遮光溝群550は未配置である。
【0118】
図14は、実施例によるテスト回路500の波長に対する透過率スペクトルを評価した結果の一例を示すグラフである。
図14に例示したように、光の偏波モード(TEモードまたはTMモード)に関わらず、遮光溝群550が未配置の光路における平均的な光の透過率よりも、遮光溝群550を配置した光路における平均的な光の透過率の方が低いことが理解される。
【0119】
例えば、1.55μm帯の光源を用いて入力光ファイバ511から遮光溝群550を介して出力光ファイバ512に至る光路の平均的な光の透過率を評価したところ、約-53dBであった。一方、入力光ファイバ521から遮光溝群550を介さずに出力光ファイバ522に至る光路の平均的な光の透過率は、約-21dBであった。したがって、遮光溝群550の存在によって、迷光を32dB程度低減できることが確認された。
【0120】
以上、本開示について詳細に説明したが、本開示を通じて説明した内容に本開示の趣旨および範囲が限定されないことは当業者に明らかである。本開示は、請求の範囲の記載によって定まる本開示の趣旨および範囲を逸脱することなく修正及び変更態様として実施可能である。したがって、本開示の記載は、例示的な説明を目的とし、本開示の趣旨および範囲に対して何らの制限的な意味を有さない。
【符号の説明】
【0121】
1 基板
2 クラッド層
3 導波路(コア)
4 薄膜ヒータ
5、51~53 深溝
6、6a 受光素子
100、200 光回路
101a、101b、511、521 入力光ファイバ
102a、102b、512、522 出力光ファイバ
103a、103b 受光素子
110a、110b、120a、120b 光干渉計回路
111a、111b、112a、112b、121a、121b、122a、122b 未接続ポート
130a、130b 光分岐回路
210-1、210-2、210-3、550 遮光溝群
311~315、321~325 領域
500 テスト回路
1001 パッケージ
1002 パッケージ窓
【要約】
【課題】平面光波回路において、クラッド層を伝搬する光(例えば、迷光)によるクロストークを抑制または低減する効果を向上する。
【解決手段】本開示の平面光波回路は、基板1と、基板1上に設けられたクラッド層2と、クラッド層2に埋め込まれて導波路を構成するコア3と、クラッド層2に形成された複数の窪み部5がクラッド層2の面内方向に2次元に配置された窪み領域210と、を備える。
【選択図】
図6