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特許7546170酸化ガス供給システムおよび燃料電池車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】酸化ガス供給システムおよび燃料電池車両
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04111 20160101AFI20240829BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20240829BHJP
   H01M 8/0438 20160101ALI20240829BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20240829BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20240829BHJP
   H01M 8/04007 20160101ALI20240829BHJP
   B60L 58/30 20190101ALI20240829BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240829BHJP
【FI】
H01M8/04111
H01M8/04 J
H01M8/0438
H01M8/04746
H01M8/00 Z
H01M8/04007
B60L58/30
H01M8/10 101
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023546718
(86)(22)【出願日】2021-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2021033578
(87)【国際公開番号】W WO2023037551
(87)【国際公開日】2023-03-16
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】316015888
【氏名又は名称】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】彌城 祐亮
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 和樹
(72)【発明者】
【氏名】陣内 靖明
【審査官】柳幸 憲子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-091609(JP,A)
【文献】特開2019-075282(JP,A)
【文献】特開2019-145338(JP,A)
【文献】国際公開第2016/013304(WO,A1)
【文献】特開2019-145357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04111
H01M 8/04
H01M 8/0438
H01M 8/04746
H01M 8/00
H01M 8/04007
B60L 58/30
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池に圧縮機により圧縮された酸化ガスを供給するための酸化ガス供給システムであって、
コンプレッサインペラを有する前記圧縮機と、
前記コンプレッサインペラを通過した前記酸化ガスを前記燃料電池に供給するための酸化ガス供給ラインと、
前記コンプレッサインペラに前記酸化ガスを導入するための酸化ガス導入ラインと、
前記酸化ガス供給ラインから分岐して前記酸化ガス導入ラインに接続される酸化ガス還流ラインと、
前記酸化ガス還流ラインを通過する前記酸化ガスの流量を調整可能に構成された流量調整弁と、を備え
前記流量調整弁の開閉を制御するための制御装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記コンプレッサインペラを通過した前記酸化ガスが前記燃料電池に供給されている時に、前記燃料電池に供給される前記酸化ガスの流量が第1規定流量を下回る場合には、前記流量調整弁の開度を増大させる第1開度増大制御を実行するように構成される、
酸化ガス供給システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記燃料電池の要求酸化ガス流量が第2規定流量を下回る場合には、前記流量調整弁の開度を増大させる急速開度増大制御を実行するように構成される、
請求項に記載の酸化ガス供給システム。
【請求項3】
前記第2規定流量は、前記第1規定流量よりも大きい、
請求項に記載の酸化ガス供給システム。
【請求項4】
燃料電池に圧縮機により圧縮された酸化ガスを供給するための酸化ガス供給システムであって、
コンプレッサインペラを有する前記圧縮機と、
前記コンプレッサインペラを通過した前記酸化ガスを前記燃料電池に供給するための酸化ガス供給ラインと、
前記コンプレッサインペラに前記酸化ガスを導入するための酸化ガス導入ラインと、
前記酸化ガス供給ラインから分岐して前記酸化ガス導入ラインに接続される酸化ガス還流ラインと、
前記酸化ガス還流ラインを通過する前記酸化ガスの流量を調整可能に構成された流量調整弁と、を備え、
前記流量調整弁の開閉を制御するための制御装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記コンプレッサインペラを通過した前記酸化ガスが前記燃料電池に供給されている時に、前記燃料電池に供給される前記酸化ガスの流量および前記酸化ガスの圧力に応じた前記圧縮機の運転点がサージ危険運転領域に位置する場合には、前記流量調整弁の開度を増大させる第2開度増大制御を実行するように構成される
化ガス供給システム。
【請求項5】
前記圧縮機は、前記コンプレッサインペラを回転可能に収容するコンプレッサカバーをさらに有し、
前記酸化ガス還流ラインは、前記コンプレッサカバーの内部に設けられた、
請求項1又は4に記載の酸化ガス供給システム。
【請求項6】
前記酸化ガス還流ラインに設けられた、前記酸化ガス還流ラインを流れる前記酸化ガスと冷媒との間で熱交換を行うように構成された熱交換器をさらに備える、
請求項1又は4に記載の酸化ガス供給システム。
【請求項7】
請求項1又は4に記載の酸化ガス供給システムを備え、
前記燃料電池が発生させた電力により走行可能に構成された、
燃料電池車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池に圧縮機により圧縮された酸化ガスを供給するための酸化ガス供給システム、および該酸化ガス供給システムを備える燃料電池車両に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池車両(FCEV:Fuel Cell Electric Vehicle)は、燃料電池中における燃料ガス(水素)と酸化ガス(酸素)との化学反応により発電した電気エネルギーにより、走行用モータを回して走行するように構成されたものである。燃料電池に供給される水素は、燃料電池車両に搭載された水素タンクに蓄えられている。燃料電池に供給される酸素は、空気中の酸素が使用される。燃料電池に空気を大量に送り込むことや燃料電池内部の圧力維持することができるように、燃料電池に酸素を供給するための酸素供給系統に、電動圧縮機を設けることがある。上記電動圧縮機には、燃料電池車両の状態に応じて、必要な発電量、すなわち水素と酸素の反応量を賄うことができるように、電動圧縮機の回転数を制御し、変化させるものがある。
【0003】
電動圧縮機が発電した電力の一部を使用するため、燃料電池車両における発電システムの効率を向上させるために燃料電池の空気排出側にタービンを設けること(特許文献1)や、ターボチャージャを設けること(特許文献2)が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-310429号公報
【文献】特表2005-507136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電動圧縮機は、出口側の圧力上昇量に対して出口側の流量が小さいとサージングと呼ばれる振動現象を発生させ、騒音や損傷を招くことが知られている。また、出口側の圧力上昇量(圧力比)に応じて、サージングを生じさせないための最小流量(サージ領域・サージライン)が存在することが知られている。
【0006】
燃料電池車両では、燃料電池内の空気系統圧力を維持するため、電動圧縮機の出口側の圧力を上昇させる必要があるが、出口側の流量はあまり必要としないため、結果として電動圧縮機のモータ電力消費を抑えるため、サージ領域に近い圧力・流量バランスで動作することが行われる。
【0007】
メカロス低減などの理由により、電動圧縮機の回転数を上げられない場合には、燃料電池への空気供給要求を満たすために、大型の電動圧縮機を使用することが必要となるが、電動圧縮機が大型になるにつれてサージラインが大流量側になるため、よりサージングが発生し易い傾向がある。
【0008】
上述した事情に鑑みて、本開示の少なくとも一実施形態の目的は、燃料電池に酸化ガスを供給する圧縮機におけるサージングを抑制できる酸化ガス供給システム、および該酸化ガス供給システムを備える燃料電池車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一実施形態にかかる酸化ガス供給システムは、
燃料電池に圧縮機により圧縮された酸化ガスを供給するための酸化ガス供給システムであって、
コンプレッサインペラを有する前記圧縮機と、
前記コンプレッサインペラを通過した前記酸化ガスを前記燃料電池に供給するための酸化ガス供給ラインと、
前記コンプレッサインペラに前記酸化ガスを導入するための酸化ガス導入ラインと、
前記酸化ガス供給ラインから分岐して前記酸化ガス導入ラインに接続される酸化ガス還流ラインと、
前記酸化ガス還流ラインを通過する前記酸化ガスの流量を調整可能に構成された流量調整弁と、を備える。
【0010】
本開示の一実施形態にかかる燃料電池車両は、
前記酸化ガス供給システムを備え、
前記燃料電池が発生させた電力により走行可能に構成された。
【発明の効果】
【0011】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、燃料電池に酸化ガスを供給する圧縮機におけるサージングを抑制できる酸化ガス供給システム、および該酸化ガス供給システムを備える燃料電池車両が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の一実施形態にかかる燃料電池車両の構成を概略的に示す概略構成図である。
図2】本開示の一実施形態における制御装置の機能を説明するための説明図である。
図3】本開示の一実施形態における制御装置の第1開度増大制御を含む制御の一例を示すフロー図である。
図4】本開示の一実施形態における制御装置の急速開度増大制御を含む制御の一例を示すフロー図である。
図5】燃料電池に供給される酸化ガスの流量の小流量への変化時における圧縮機の運転点の変化を説明するための説明図である。
図6】本開示の一実施形態における制御装置の第2開度増大制御を含む制御の一例を示すフロー図である。
図7】第2開度増大制御や第2開度減少制御を説明するための説明図である。
図8】本開示の一実施形態にかかる酸化ガス供給システムの熱交換器を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
なお、同様の構成については同じ符号を付し説明を省略することがある。
【0014】
(燃料電池車両)
図1は、本開示の一実施形態にかかる燃料電池車両1の構成を概略的に示す概略構成図である。幾つかの実施形態にかかる燃料電池車両1は、燃料電池(FC:Fuel Cell)2が発生させた電力により走行可能に構成された電動車両である。燃料電池2は、負極活物質となる燃料ガス(図示例では、水素ガス)と、正極活物質となる酸化ガス(図示例では、空気中の酸素)と、が常温または高温環境で供給(補充)されるようになっている。燃料電池2は、供給された燃料ガスと酸化ガスとの電気化学反応により発電可能に構成されている。
【0015】
燃料電池車両1は、図1に示されるように、上記燃料電池2と、燃料電池2に酸化ガスを供給するための酸化ガス供給システム3と、燃料電池2に燃料ガスを供給するための燃料ガス供給システム4と、燃料電池2が発生させた電力が充電されるように構成された駆動用バッテリ(二次電池)5と、燃料電池2が発生させた電力により駆動するように構成された走行用モータ6と、を備える。
【0016】
(燃料電池)
図示される実施形態では、燃料電池2に供給される燃料ガスは、水素ガスからなり、燃料電池2に供給される酸化ガスは、空気中の酸素からなる。燃料電池2は、図1に示されるように、電子受容側電極(カソード)である空気極21と、電子放出側電極(アノード)である燃料極22と、空気極21と燃料極22とを隔てるように空気極21と燃料極22との間に挟まれた電解質膜23と、を含む少なくとも1つの発電セル20を有する。なお、燃料電池2は、複数の発電セル20と、複数の発電セル20の夫々の間に挟まれたセパレータと、が積層された構成にしてもよい。図示される実施形態では、電解質膜23は、固体高分子電解質膜からなる。
【0017】
燃料電池2は、酸化ガス供給システム3によって、複数の発電セル20の夫々の空気極21側の触媒層に酸素を含む空気が供給されるようになっている。また、燃料電池2は、燃料ガス供給システム4によって、複数の発電セル20の夫々の燃料極22側の触媒層に水素ガスが供給されるようになっている。
【0018】
燃料電池2は、空気極21に酸素を含む空気が供給され、且つ燃料極22に水素ガスが供給されることで、下記に示すような化学反応が生じるため、電極間(空気極21と燃料極22との間)に発生する起電力として電気エネルギーを取り出すことが可能となる。
燃料極22(アノード):H→2H++2e-
空気極21(カソード):1/2O+2H++2e-→H
【0019】
(駆動用バッテリ、走行用モータ)
燃料電池2の出力は、第1の接続ケーブル11を介して、駆動用バッテリ5の入力に接続されている。駆動用バッテリ5の出力は、第2の接続ケーブル12を介して、走行用モータ6の入力に接続されている。駆動用バッテリ5は、第1の接続ケーブル11を介して燃料電池2が発生させた電力が供給され、供給された電力を蓄える(充電する)。走行用モータ6は、主に駆動用バッテリ5に充電された電力が供給され、駆動用バッテリ5から供給された電力により駆動する。駆動用バッテリ5は、リチウムイオン電池、ニッケル・カドミウム電池、又はニッケル・水素電池の何れかであってもよく、特に限定されるものではない。
【0020】
駆動用バッテリ5の出力は、燃料電池車両1に搭載された電気機器の入力にも接続されている。駆動用バッテリ5に充電された電力は、燃料電池車両1に搭載された電気機器に給電される。なお、燃料電池2の出力は、走行用モータ6や燃料電池車両1に搭載された電気機器の入力に直接接続されていてもよい。
【0021】
燃料電池車両1は、図1に示されるように、燃料電池2、酸化ガス供給システム3、燃料ガス供給システム4、駆動用バッテリ5および走行用モータ6の夫々を搭載した車体13をさらに備える。燃料電池車両1は、車体13に対して回転可能に支持された不図示の複数の車輪(前輪、後輪)をさらに備える。走行用モータ6は、前輪又は後輪の少なくとも一方に駆動力(回転力)を伝達可能に接続されている。燃料電池車両1は、走行用モータ6の駆動に伴い、走行用モータ6から駆動力が伝達された前輪や後輪が回転することで、走行するようになっている。
【0022】
(酸化ガス供給システム)
酸化ガス供給システム3は、燃料電池2の空気極21に圧縮機7により圧縮された酸素を含む空気(酸化ガス)を供給するためのものである。酸化ガス供給システム3は、図1に示されるように、コンプレッサインペラ71を有する上記圧縮機7と、コンプレッサインペラ71を通過した酸素を含む空気を燃料電池2の空気極21(空気極21側の触媒層)に供給するための酸化ガス供給ライン31と、上記圧縮機7のコンプレッサインペラ71に酸素を含む空気を導入するための酸化ガス導入ライン32と、を少なくとも備える。
【0023】
圧縮機7は、コンプレッサインペラ71を回転可能に収容するコンプレッサカバー72をさらに有する。コンプレッサカバー72には、コンプレッサカバー72の外部から酸素を含む空気を導入するための導入口73と、コンプレッサインペラ71を通過した酸素を含む空気をコンプレッサカバー72の外部に排出するための排出口74と、が形成されている。コンプレッサカバー72の内部には、導入口73からコンプレッサカバー72の内部に導入した酸素を含む空気をコンプレッサインペラ71に導くための酸化ガス導入路75と、コンプレッサインペラ71を通過した酸素を含む空気を排出口74からコンプレッサカバー72の外部へ導くための酸化ガス排出路76と、が形成されている。
【0024】
酸化ガス導入ライン32は、酸化ガス導入路75を少なくとも含む。酸化ガス導入ライン32は、図1に示されるように、コンプレッサカバー72の導入口73にその一方側が接続され、その他方側が開放された酸化ガス導入管321をさらに含んでいてもよい。この場合には、酸化ガス導入管321および酸化ガス導入路75を介して、大気中の酸素を含む空気がコンプレッサインペラ71に導入される。
【0025】
なお、酸化ガス導入ライン32は、圧縮された酸化ガス(例えば、酸素)を貯留するように構成された不図示の酸化ガス貯留装置(例えば、酸化ガス貯留タンク)をさらに含み、上記酸化ガス貯留装置に酸化ガス導入管321の他方側が接続されていてもよい。この場合には、酸化ガス導入管321や酸化ガス導入路75を介して、上記酸化ガス貯留装置に貯留された酸化ガスがコンプレッサインペラ71に導入される。
【0026】
酸化ガス供給ライン31は、酸化ガス排出路76と、酸化ガス供給管311と、を含む。酸化ガス供給管311は、コンプレッサカバー72の排出口74にその一方側が接続され、その他方側が燃料電池2の空気極21に接続されている。酸化ガス供給ライン31は、酸化ガス排出路76および酸化ガス供給管311を介して、コンプレッサインペラ71に圧縮された酸素を含む空気を燃料電池2の空気極21(空気極21側の触媒層)に導くように構成されている。
【0027】
圧縮機7を駆動し、コンプレッサインペラ71を回転させることで生じる吸引力により、酸素を含む空気が導入口73からコンプレッサカバー72の内部に取り込まれる。コンプレッサカバー72の内部に取り込まれた酸素を含む空気は、酸化ガス導入路75を介してコンプレッサインペラ71に導かれて、コンプレッサインペラ71により圧縮される。コンプレッサインペラ71により圧縮された酸素を含む空気は、酸化ガス供給ライン31を介して燃料電池2の空気極21(空気極21側の触媒層)に供給される。
【0028】
図示される実施形態では、圧縮機7は、駆動用バッテリ5から電力が供給され、駆動用バッテリ5から供給された電力によりコンプレッサインペラ71を回転させるように構成された電動圧縮機7Aからなる。電動圧縮機7Aは、駆動用バッテリ5から供給された電力によりコンプレッサインペラ71を回転させる回転力を発生させる電動モータ(電動機)77と、電動モータ77とコンプレッサインペラ71とに機械的に連結されて、電動モータ77からコンプレッサインペラ71に回転力を伝達する回転シャフト78と、をさらに有する。なお、他の幾つかの実施形態では、酸化ガス供給システム3は、電動圧縮機7Aの代わりに、コンプレッサインペラ71と、燃料電池2から排出された排気(水蒸気)のエネルギーにより回転するタービン翼と、コンプレッサインペラ71とタービン翼を機械的に連結する回転シャフトと、を含むターボチャージャを備えてもよい。
【0029】
(燃料ガス供給システム)
燃料ガス供給システム4は、燃料電池2の燃料極22に水素ガス(燃料ガス)を供給するためのものである。燃料ガス供給システム4は、図1に示されるように、水素ガスを貯留するように構成された燃料ガス貯留装置(例えば、水素ガス貯留タンク)41と、燃料ガス貯留装置41から燃料電池2の燃料極22(燃料極22側の触媒層)に水素ガスを供給するための燃料ガス供給ライン42と、燃料ガス供給ライン42を通過する水素ガスの流量を調整可能に構成された燃料ガス流量調整弁43と、を含む。燃料ガス供給ライン42は、その一方側が燃料ガス貯留装置41に接続され、その他方側が燃料電池2の燃料極22に接続されている。
【0030】
水素ガスは、燃料ガス貯留装置41に圧縮された状態で貯留されており、燃料ガス流量調整弁43が全閉のときは、燃料ガス供給ライン42の燃料ガス流量調整弁43よりも上流側(燃料ガス貯留装置41が位置する側)の圧力が、燃料ガス供給ライン42の燃料ガス流量調整弁43よりも下流側(燃料電池2の燃料極22が位置する側)の圧力よりも高くなっている。燃料ガス供給ライン42の燃料ガス流量調整弁43よりも上流側と下流側との間の圧力差により、燃料ガス流量調整弁43を開いたときに、燃料ガス供給ライン42の上流側から下流側に水素ガスが流れて、水素ガスが燃料電池2の燃料極22に供給される。
【0031】
(酸化ガス還流ライン、酸化ガス流量調整弁)
酸化ガス供給システム3は、図1に示されるように、酸化ガス供給ライン31から分岐して酸化ガス導入ライン32に接続される酸化ガス還流ライン33と、酸化ガス還流ライン33を通過する酸素を含む空気の流量を調整可能に構成された酸化ガス流量調整弁(流量調整弁)34と、をさらに備える。酸化ガス還流ライン33は、その一方側が酸化ガス供給ライン31の分岐部312に接続され、その他方側が酸化ガス導入ライン32の合流部322に接続されている。
【0032】
酸化ガス供給ライン31には、コンプレッサインペラ71により圧縮された酸素を含む空気が流れるため、酸化ガス流量調整弁34が全閉のときは、コンプレッサインペラ71よりも下流側に位置する酸化ガス供給ライン31の圧力が、コンプレッサインペラ71よりも上流側に位置する酸化ガス導入ライン32の圧力よりも高くなっている。酸化ガス供給ライン31と酸化ガス導入ライン32との間の圧力差により、酸化ガス流量調整弁34を開いたときに、酸化ガス還流ライン33の上記一方側(酸化ガス供給ライン31側)から上記他方側(酸化ガス導入ライン32側)に酸素を含む空気が流れる。すなわち、酸化ガス供給ライン31を流れる酸素を含む空気の一部が、酸化ガス還流ライン33を介して酸化ガス導入ライン32に還流される。
【0033】
(排気排出ライン、排気流量調整弁)
燃料電池車両1は、燃料電池2における燃料ガス(水素)と酸化ガス(酸素)との電気化学反応で生成された排気(水蒸気)を燃料電池車両1の外部に排出するための排気排出ライン14と、排気排出ライン14を通過する水蒸気の流量を調整可能に構成された排気流量調整弁15と、をさらに備える。
【0034】
(燃料電池車両に搭載される測定機器)
燃料電池車両1は、酸化ガス圧力OP(空気圧力)を測定するように構成された酸化ガス圧力測定装置(例えば、空気圧力センサ)16と、燃料ガス圧力HP(水素圧力)を測定するように構成された燃料ガス圧力測定装置(例えば、水素圧力センサ)17と、をさらに備える。酸化ガス圧力測定装置16は、酸化ガス圧力OPとして、燃料電池2の空気極21における空気の圧力を測定してもよいし、酸化ガス供給ライン31(特に、分岐部312よりも下流側)を流れる空気の圧力を測定してもよい。燃料ガス圧力測定装置17は、燃料ガス圧力HPとして、燃料電池2の燃料極22における水素ガスの圧力を測定してもよいし、燃料ガス供給ライン42(特に、燃料ガス流量調整弁43よりも下流側)を流れる水素ガスの圧力を測定してもよい。
【0035】
燃料電池車両1は、燃料電池2の酸化ガス流量(燃料電池2への空気の供給量)を測定するように構成された酸化ガス流量測定装置(例えば、空気流量計)18をさらに備えていてもよい。酸化ガス流量測定装置18は、酸化ガス流量OFとして、酸化ガス供給ライン31(特に、分岐部312よりも下流側)を流れる空気の流量を測定してもよい。なお、後述する制御装置8が、酸化ガス圧力OPや圧縮機7の回転数Nなどから公知の手法により、酸化ガス流量OFを推定するように構成された酸化ガス流量推定部81を含む場合には、燃料電池車両1は、酸化ガス流量測定装置18を備えてなくてもよい。
【0036】
(制御装置)
酸化ガス供給システム3は、少なくとも酸化ガス流量調整弁34の開閉を制御するための制御装置8をさらに備える。図示される実施形態では、制御装置8は、燃料電池2に供給される酸化ガスや燃料ガスの圧力や流量を調整するための電子制御ユニットであり、図示しないCPU(プロセッサ)や、ROMやRAMといったメモリ、外部記憶装置などの記憶装置、I/Oインターフェース、通信インターフェースなどからなるマイクロコンピュータとして構成されていてもよい。そして、例えば上記メモリの主記憶装置にロードされたプログラムの命令に従ってCPUが動作(例えばデータの演算など)することで、後述する各部を実現する。
【0037】
図示される実施形態では、酸化ガス流量調整弁34、燃料ガス流量調整弁43および排気流量調整弁15の夫々は、制御装置8に有線又は無線を介して電気通信可能に接続されている。酸化ガス流量調整弁34、燃料ガス流量調整弁43および排気流量調整弁15の夫々は、制御装置8から送られる開閉指示に応じて作動する不図示のアクチュエータを有し、制御装置8から送られる開閉指示に応じて開閉(開度)が制御されるように構成されている。なお、酸化ガス流量調整弁34、燃料ガス流量調整弁43および排気流量調整弁15の夫々は、全閉と全開に開度調整可能な開閉弁でもよいし、全閉と全開とこれらの間の少なくとも1つの中間開度に開度調整可能な開度調整弁でもよい。
【0038】
図示される実施形態では、電動圧縮機7A(圧縮機7)は、制御装置8に有線又は無線を介して電気通信可能に接続されている。電動圧縮機7A(圧縮機7)は、制御装置8から送られる回転数指示に応じて回転数が制御されるように構成されている。
【0039】
制御装置8には、駆動用バッテリ5、走行用モータ6、酸化ガス圧力測定装置16および燃料ガス圧力測定装置17などの燃料電池車両1が備える各装置から燃料電池車両1の運転に関する情報が送られるようになっている。上記燃料電池車両1の運転に関する情報には、駆動用バッテリ5の充電率CR、走行用モータ6の消費電力PC、酸化ガス圧力OPの測定値、燃料ガス圧力HPの測定値、圧縮機7の回転数Nなどが含まれる。上記燃料電池車両1の運転に関する情報は、データベース部80に記憶される。
【0040】
図2は、本開示の一実施形態における制御装置8の機能を説明するための説明図である。制御装置8は、データベース部80と、燃料電池車両1が必要とする発電量(必要発電量RPG)を推定するように構成された必要発電量推定部82と、必要発電量RPGを発電するための燃料電池2に要求される要求量を算出する要求量算出部83と、圧縮機7に対して圧縮機7の回転数を指示する回転数指示部84と、燃料ガス流量調整弁43に対して開度を指示する燃料ガス側開度指示部85と、排気流量調整弁15に対して開度を指示する排気側開度指示部86と、酸化ガス流量調整弁34に対して開度を指示する酸化ガス側開度指示部87と、を含む。制御装置8の各部(必要発電量推定部82、要求量算出部83、回転数指示部84、燃料ガス側開度指示部85、排気側開度指示部86および酸化ガス側開度指示部87など)は、必要な情報をデータベース部80から取得するように構成されている。図2に示されるように、制御装置8は、上述した酸化ガス流量推定部81をさらに含んでいてもよい。
【0041】
燃料電池車両1が必要とする発電量(必要発電量RPG)は、燃料電池2の発電態様ごとに異なるものである。或る実施形態では、制御装置8は、燃料電池2が走行用モータ6の消費電力PCに応じた電力を発電するように、燃料電池2に供給される酸化ガスや燃料ガスの圧力や流量を調整する。必要発電量推定部82は、走行用モータ6の消費電力PCに応じた発電量を上記必要発電量RPGとしてもよい。
【0042】
この実施形態では、必要発電量推定部82は、走行用モータ6の消費電力PCおよび必要発電量RPGを予め関連付けた第1の関連付け情報に基づいて、走行用モータ6の消費電力PCから、必要発電量RPGを求めてもよい。第1の関連付け情報は、走行用モータ6の消費電力PCの増加に伴い、消費電力PCに対応する必要発電量RPGが増加する傾向を含む情報であり、予めデータベース部80に記憶されている。
【0043】
或る実施形態では、制御装置8は、駆動用バッテリ5の充電率CRが予め設定された規定充電率RC(規定値)を下回る場合に燃料電池2が発電を開始するように、燃料電池2に供給される酸化ガスや燃料ガスの圧力や流量を調整する。必要発電量推定部82は、駆動用バッテリ5の充電率CRが規定充電率RC以上の場合に、必要発電量RPGをゼロとしてもよい。また、必要発電量推定部82は、駆動用バッテリ5の充電率CRが規定充電率RC未満の場合に、必要発電量RPGを予め設定された設定値(一定の発電量)にしてもよいし、必要発電量RPGを駆動用バッテリ5の充電率CRに応じた発電量にしてもよい。
【0044】
この実施形態では、必要発電量推定部82は、駆動用バッテリ5の充電率CRが規定充電率RC未満の場合に、駆動用バッテリ5の充電率CRおよび必要発電量RPGを予め関連付けた第2の関連付け情報に基づいて、駆動用バッテリ5の充電率CRから、必要発電量RPGを求めてもよい。第2の関連付け情報は、駆動用バッテリ5の充電率CRの減少に伴い、充電率CRに対応する必要発電量RPGが増加する傾向を含む情報であり、予めデータベース部80に記憶されている。
【0045】
要求量算出部83は、必要発電量推定部82で推定した必要発電量RPGを発電するための燃料電池2に要求される要求量を算出する。上記要求量には、燃料電池2の空気極21に供給される酸化ガスに求められる流量OFである要求酸化ガス流量ROF、燃料電池2の空気極21に供給される酸化ガスに求められる圧力OPである要求酸化ガス圧力ROP、燃料電池2の燃料極22に供給される燃料ガスに求められる流量HFである要求燃料ガス流量RHF、燃料電池2の燃料極22に供給される燃料ガスに求められる圧力HPである要求燃料ガス圧力RHPが含まれる。
【0046】
例えば、要求量算出部83は、要求酸化ガス流量ROF、要求酸化ガス圧力ROP、要求燃料ガス流量RHFおよび要求燃料ガス圧力RHPの夫々と、必要発電量RPGと、を予め関連付けた第3の関連付け情報に基づいて、必要発電量推定部82で推定された必要発電量RPGから、要求酸化ガス流量ROF、要求酸化ガス圧力ROP、要求燃料ガス流量RHFおよび要求燃料ガス圧力RHPの夫々を求めてもよい。第3の関連付け情報は、予めデータベース部80に記憶されている。
【0047】
回転数指示部84は、必要発電量推定部82で推定された必要発電量RPGに応じた回転数である要求回転数RNを圧縮機7の電動モータ77に指示するように構成されている。例えば、回転数指示部84は、必要発電量RPGおよび要求回転数RNを予め関連付けた第4の関連付け情報に基づいて、必要発電量推定部82で推定された必要発電量RPGから、要求回転数RNを求めてもよい。第4の関連付け情報は、必要発電量RPGの増加に伴い、必要発電量RPGに対応する要求回転数RNが増加する傾向を含む情報であり、予めデータベース部80に記憶されている。
【0048】
燃料ガス側開度指示部85は、要求量算出部83で算出された要求燃料ガス流量RHFおよび要求燃料ガス圧力RHPに応じた指示開度OD1を、燃料ガス流量調整弁43に指示するように構成されている。例えば、燃料ガス側開度指示部85は、要求燃料ガス流量RHF、要求燃料ガス圧力RHPおよび指示開度OD1を予め関連付けた第5の関連付け情報に基づいて、要求量算出部83で算出された要求燃料ガス流量RHFおよび要求燃料ガス圧力RHPから、指示開度OD1を求めてもよい。第5の関連付け情報は、予めデータベース部80に記憶されている。
【0049】
排気側開度指示部86は、要求量算出部83で算出された要求酸化ガス流量ROFおよび要求酸化ガス圧力ROPに応じた指示開度OD2を排気流量調整弁15に指示するように構成されている。例えば、排気側開度指示部86は、要求酸化ガス流量ROF、要求酸化ガス圧力ROPおよび指示開度OD2を予め関連付けた第6の関連付け情報に基づいて、要求量算出部83で算出された要求酸化ガス流量ROFおよび要求酸化ガス圧力ROPから、指示開度OD2を求めてもよい。第6の関連付け情報は、予めデータベース部80に記憶されている。
【0050】
なお、酸化ガス圧力OPの測定値と燃料ガス圧力HPの測定値との差(差圧)が許容値を超える場合には、電解質膜23が損傷する虞がある。回転数指示部84、燃料ガス側開度指示部85、又は排気側開度指示部86の少なくとも1つは、上記差圧が許容値を超える場合には、上記差圧が許容値以下になるように、要求回転数RN、指示開度OD1又は指示開度OD2の少なくとも1つを調整してもよい。
【0051】
指示開度OD2に応じて排気流量調整弁15の開度を小さくすると、燃料電池2からの排気(水蒸気)の排出量が減るため、燃料電池2内の酸化ガスの圧力が大きくなり、燃料電池2の空気極21に供給される酸化ガスの圧力(酸化ガス圧力OP)が大きくなる。また、指示開度OD2に応じて排気流量調整弁15の開度を小さくすると、燃料電池2からの排気(水蒸気)の排出量が減るため、燃料電池2の空気極21に供給できる酸化ガスの流量(酸化ガス流量OF)が小さくなる。燃料電池2の空気極21に供給できる酸化ガスの流量(酸化ガス流量OF)が小さいと、コンプレッサインペラ71に供給できる酸化ガスの流量も小さくなるため、圧縮機7においてサージングが発生する可能性が高まる。
【0052】
酸化ガス側開度指示部87は、指示開度OD3を酸化ガス流量調整弁34に指示するように構成されている。詳細は後述するが、酸化ガス側開度指示部87は、圧縮機7においてサージングが発生する可能性が高いときに、指示開度OD3を大きくし、酸化ガス流量調整弁34の開度を大きくする。また、酸化ガス側開度指示部87は、圧縮機7においてサージングが発生する可能性が低いときに、指示開度OD3を小さくし、酸化ガス流量調整弁34の開度を小さくする。なお、本開示における「開度を大きくする(増大させる)」には、開度を全閉から中間開度又は全開にすることが含まれる。本開示における「開度を小さくする(減少させる)」には、開度を全開又は中間開度から全閉にすることが含まれる。
【0053】
幾つかの実施形態にかかる酸化ガス供給システム3は、図1に示されるように、上述した圧縮機7と、上述した酸化ガス供給ライン31と、上述した酸化ガス導入ライン32と、上述した酸化ガス還流ライン33と、上述した酸化ガス流量調整弁34と、を備える。
【0054】
上記の構成によれば、燃料電池2の要求酸化ガス流量ROFが小さく、酸化ガス供給ライン31を介して燃料電池2に供給できる酸化ガスの流量OFが小さい場合に、酸化ガス流量調整弁34を開き、酸化ガス還流ライン33を介して酸化ガス供給ライン31から酸化ガス導入ライン32に酸化ガスの一部を還流させることができる。これにより、燃料電池2の要求酸化ガス流量ROFが小さい場合におけるコンプレッサインペラ71への酸化ガスの流入量を増やすことができるため、圧縮機7の回転数を落とさずに圧縮機7におけるサージングを抑制できる。
【0055】
また、上記の構成によれば、燃料電池2の要求酸化ガス流量ROFが大きく、酸化ガス供給ライン31を介して燃料電池2に供給できる酸化ガスの流量OFが大きい場合に、酸化ガス流量調整弁34を閉じ、酸化ガス還流ライン33を介した酸化ガスの還流を抑制することで、酸化ガスの還流に伴う圧縮機7の効率低下を抑制できる。
【0056】
仮に、酸化ガス供給システム3が、酸化ガス供給ライン31に存在する酸化ガスを大気開放させる構成である場合には、大気開放により、コンプレッサインペラ71を通過した酸化ガスの大部分が大気中に捨てられるため、発電セル20に十分な酸化ガスが流れずに発電ができない虞がある。上記の構成によれば、酸化ガス供給ライン31に存在する酸化ガスの一部が酸化ガス還流ライン33を介して還流され、酸化ガス供給ライン31に存在する酸化ガスの残りは、発電セル20に供給される。これにより、発電セル20に十分な酸化ガスが供給されるため、発電が可能である。
【0057】
また、上記の構成によれば、酸化ガス供給ライン31に存在する酸化ガスの一部が酸化ガス還流ライン33を介して還流させることで、酸化ガスを還流させない場合に比べて、コンプレッサインペラ71に供給される酸化ガスの圧力、温度を上昇させることができ、圧縮機7の動力を増加させることができる。圧縮機7の動力を増加させることで、圧縮機7の負荷が増加するため、コンプレッサインペラ71の回転数を素早く低下させることが可能になる。サージングや非同期振動などの異常発生時に圧縮機7を緊急停止させる際に、コンプレッサインペラ71の回転数を素早く低下させることで、圧縮機7の損傷を抑制できる。
【0058】
(第1開度増大制御)
図3は、本開示の一実施形態における制御装置8の第1開度増大制御を含む制御100の一例を示すフロー図である。幾つかの実施形態では、図3に示されるように、上述した制御装置8は、燃料電池2に供給される酸化ガスの流量(図示例では、酸化ガス流量OFの測定値)が予め設定された第1規定流量SF1を下回る場合(S11で「Yes」の場合)には、酸化ガス流量調整弁34の開度を増大させる第1開度増大制御(S12)を実行するように構成されている。図示される実施形態では、酸化ガス側開度指示部87が第1開度増大制御を実行するように構成されている。ここで、「燃料電池2に供給される酸化ガスの流量が第1規定流量SF1を下回る」とは、燃料電池2に供給される酸化ガスの流量が、第1規定流量SF1よりも大きい状態から第1規定流量SF1よりも小さい状態に移行することを意味する。
【0059】
上記の構成によれば、燃料電池2に供給される酸化ガスの流量(図示例では、酸化ガス流量OFの測定値)が第1規定流量SF1を下回る場合には、酸化ガス導入ライン32を介してコンプレッサインペラ71に導入される酸化ガスの流量が小さく、圧縮機7においてサージングが発生する可能性が高い。燃料電池2に供給される酸化ガスの流量が第1規定流量SF1を下回る場合において、制御装置8が第1開度増大制御を実行し、酸化ガス流量調整弁34の開度を増大させることで、酸化ガス還流ライン33を介した酸化ガスの還流量を増やすことができる。酸化ガス還流ライン33を介した酸化ガス還流量を増やすことで、コンプレッサインペラ71への酸化ガスの流入量を増やすことができるため、圧縮機7におけるサージングを効果的に抑制できる。
【0060】
(第1開度減少制御)
幾つかの実施形態では、図3に示されるように、上述した制御装置8は、燃料電池2に供給される酸化ガスの流量(図示例では、酸化ガス流量OFの測定値)が予め設定された第3規定流量SF3を上回る場合(S13で「Yes」の場合)には、酸化ガス流量調整弁34の開度を減少させる第1開度減少制御(S14)を実行するように構成されていてもよい。第1開度減少制御は、図3に示されるように、第1開度増大制御の実行後に実行されてもよく、第1開度減少制御では、第1開度増大制御において増大させた酸化ガス流量調整弁34の開度を、第1開度増大制御において増大させる前の開度に戻してもよい。図示される実施形態では、酸化ガス側開度指示部87が第1開度減少制御を実行するように構成されている。第3規定流量SF3は、第1規定流量SF1よりも大きい。ここで、「燃料電池2に供給される酸化ガスの流量が第3規定流量SF3を上回る」とは、燃料電池2に供給される酸化ガスの流量が、第3規定流量SF3よりも小さい状態から第3規定流量SF3よりも大きい状態に移行することを意味する。
【0061】
(急速開度増大制御)
図4は、本開示の一実施形態における制御装置8の急速開度増大制御を含む制御200の一例を示すフロー図である。図5は、燃料電池2に供給される酸化ガスの流量の小流量への変化時における圧縮機7の運転点の変化を説明するための説明図である。
幾つかの実施形態では、図4に示されるように、上述した制御装置8は、燃料電池2の要求酸化ガス流量ROFが第2規定流量SF2を下回る場合(S22で「Yes」の場合)には、酸化ガス流量調整弁34の開度を増大させる急速開度増大制御(S23)を実行するように構成されている。図示される実施形態では、要求量算出部83が要求酸化ガス流量ROFを算出(S21)し、酸化ガス側開度指示部87が急速開度増大制御を実行するように構成されている。ここで、「要求酸化ガス流量ROFが第2規定流量SF2を下回る」とは、要求酸化ガス流量ROFが第2規定流量SF2よりも大きい状態から第2規定流量SF2よりも小さい状態に移行することを意味する。
【0062】
図5および後述する図7では、上述した酸化ガス流量OFを横軸とし、上述した酸化ガス圧力OPを縦軸とするコンプレッサマップが示されている。このコンプレッサマップには、圧縮機7のサージラインLSと、サージラインLSよりも小流量側に形成されるサージ領域SRと、サージ領域SRとはサージラインLSを挟んで反対側(大流量側)に、且つサージ領域SR近傍に設けられたサージ危険運転領域SDRと、圧縮機7の現時点での運転点(作動点)PであるP1と、が示されている。図5図7に示されるように、サージ危険運転領域SDRは、上記コンプレッサマップにおいてサージラインLSの大流量側にサージラインLSに沿う曲線状に形成されたサージ危険ラインLS1と、サージラインLSとの間に形成してもよい。サージラインLS、サージ危険ラインLS1、サージ領域SRおよびサージ危険運転領域SDRの夫々は、予め設定されており、データベース部80に記憶されている。
【0063】
図5に示されるように、燃料電池2に供給される酸化ガスの流量OFが大流量から小流量に変化するとき(圧縮機7の運転点PがP1からP2に移行するとき)に、図5中点線で示されるように、圧力変化に対して流量変化が先行して、圧縮機7の運転点P(P3)が一時的にサージ領域SRに入り、圧縮機7におけるサージングが発生する虞がある。
【0064】
上記の構成によれば、燃料電池2の要求酸化ガス流量ROFが第2規定流量SF2を下回る場合には、その後に燃料電池2に供給される酸化ガスの流量OFが小さくなり圧縮機7の運転点が一時的にサージ領域SRに入る可能性が高い。燃料電池2の要求酸化ガス流量ROFが第2規定流量SF2を下回る場合において、制御装置8が急速開度増大制御を実行し、酸化ガス流量調整弁34の開度を増大させることで、その後に要求酸化ガス流量ROFの小流量化に伴い、燃料電池2に供給される酸化ガスの流量OFが小さくなったときに、圧縮機7の運転点が一時的にサージ領域SRに入ることを抑制できるため、圧縮機7におけるサージングを効果的に抑制できる。
【0065】
幾つかの実施形態では、図5に示されるように、上述した第2規定流量SF2は、上述した第1規定流量SF1よりも大きい。上記の構成によれば、第2規定流量SF2を第1規定流量SF1よりも大きくすることで、燃料電池2に供給される酸化ガスの流量OFが大流量から小流量に変化したときに、圧縮機7の運転点が一時的にサージ領域SRに入ることを効果的に抑制できる。また、上記の構成によれば、第1規定流量SF1を第2規定流量SF2よりも小さくすることで、制御装置8による第1開度増大制御の頻度を抑えることができるため、酸化ガス還流ライン33を介して還流される酸化ガスの圧力損失(エネルギー損失)を抑制できる。上記酸化ガスの圧力損失を抑制することで、圧縮機7の効率低下を抑制できる。
【0066】
(第2開度増大制御)
図6は、本開示の一実施形態における制御装置8の第2開度増大制御を含む制御300の一例を示すフロー図である。図7は、第2開度増大制御や第2開度減少制御を説明するための説明図である。幾つかの実施形態では、図6に示されるように、上述した制御装置8は、燃料電池2に供給される酸化ガスの流量(図示例では、酸化ガス流量OFの測定値又は推定値)および燃料電池2に供給される酸化ガスの圧力(図示例では、酸化ガス圧力OPの測定値)に応じた圧縮機7の運転点P(P1、図7参照)が、予め設定されたサージ危険運転領域SDRに位置する場合(S32で「Yes」の場合)には、酸化ガス流量調整弁34の開度を増大させる第2開度増大制御(S33)を実行するように構成されている。図示される実施形態では、酸化ガス側開度指示部87(制御装置8)が運転点Pの取得(S31)および第2開度増大制御(S32、S33)を実行するように構成されている。
【0067】
酸化ガス側開度指示部87(制御装置8)は、酸化ガス流量OFの測定値又は推定値の何れか一方および酸化ガス圧力OPの測定値に応じた圧縮機7の運転点Pを取得するように構成されている。例えば、酸化ガス側開度指示部87(制御装置8)は、酸化ガス流量OF、酸化ガス圧力OPおよび圧縮機7の運転点Pを予め関連付けた第7の関連付け情報に基づいて、酸化ガス流量OFの測定値又は推定値の何れか一方および酸化ガス圧力OPの測定値から、酸化ガス流量OFの測定値又は推定値の何れか一方および酸化ガス圧力OPの測定値を求めてもよい。第7の関連付け情報は、予めデータベース部80に記憶されている。
【0068】
上記の構成によれば、燃料電池2に供給される酸化ガスの流量および酸化ガスの圧力に応じた圧縮機7の運転点P(P1)がサージ危険運転領域SDRに位置する場合には、その後に圧縮機7の運転点Pがサージ領域SRに入る可能性が高い。圧縮機7の運転点Pがサージ危険運転領域SDRに位置する場合において、制御装置8が第2開度増大制御を実行し、酸化ガス流量調整弁34の開度を増大させることで、圧縮機7におけるサージングを予防できる。これにより、圧縮機7におけるサージングを効果的に抑制できる。
【0069】
(第2開度減少制御)
幾つかの実施形態では、図6に示されるように、上述した制御装置8は、第2開度増大制御を実行後に圧縮機7の運転点P(P4、図7参照)が、サージ危険運転領域SDR外(サージ危険ラインLS1よりも大流量側)に位置する場合(S34で「Yes」の場合)には、酸化ガス流量調整弁34の開度を減少させる第2開度減少制御(S35)を実行するように構成されていてもよい。第2開度減少制御では、第2開度増大制御において増大させた酸化ガス流量調整弁34の開度を、第2開度増大制御において増大させる前の開度に戻してもよい。図示される実施形態では、酸化ガス側開度指示部87が第2開度減少制御を実行するように構成されている。
【0070】
幾つかの実施形態では、図1に示されるように、上述した酸化ガス還流ライン33は、コンプレッサカバー72の内部に設けられている。酸化ガス還流ライン33の一方側が接続される上述した分岐部312は、酸化ガス排出路76に設けられ、酸化ガス還流ライン33の他方側が接続される上述した合流部322は、酸化ガス導入路75に設けられている。
【0071】
上記の構成によれば、酸化ガス還流ライン33をコンプレッサカバー72の内部に設けることで、コンプレッサカバー72の外部に設ける場合に比べて、酸化ガス還流ライン33の分岐部312との接続部である一端から合流部322との接続部である他端までの長さを短くできるため、酸化ガス還流ライン33を介して還流される酸化ガスの圧力損失(エネルギー損失)を抑制できる。上記酸化ガスの圧力損失を抑制することで、圧縮機7の効率低下を抑制できる。また、酸化ガス還流ライン33の上記一端から他端までの長さを短くすることで、酸化ガス流量調整弁34の開度を増減させた際の応答性が向上し、速やかに酸化ガス還流ライン33を介した酸化ガスの還流量を増減させることができる。
【0072】
(熱交換器)
図8は、本開示の一実施形態にかかる酸化ガス供給システムの熱交換器を説明するための説明図である。幾つかの実施形態では、図8に示されるように、上述した酸化ガス供給システム3は、酸化ガス還流ライン33に設けられた、酸化ガス還流ライン33を流れる酸化ガスと冷媒との間で熱交換を行うように構成された熱交換器(酸化ガス側熱交換器)35をさらに備える。冷媒は、酸化ガス還流ライン33を流れる酸化ガスよりも低温であり、熱交換器35において酸化ガス還流ライン33を流れる酸化ガスから冷媒に熱エネルギーが伝達されることで、酸化ガス還流ライン33を流れる酸化ガスが冷却される。
【0073】
コンプレッサインペラ71により圧縮された酸化ガス供給ライン31を流れる酸化ガスは、酸化ガス導入ライン32を介してコンプレッサインペラ71に導入される酸化ガスよりも高温になっている。上記の構成によれば、酸化ガス還流ライン33に設けられた熱交換器35により、酸化ガス還流ライン33を流れる酸化ガスが冷却されるため、酸化ガス還流ライン33を介した酸化ガスの還流に伴う、コンプレッサインペラ71に導入される酸化ガスの温度上昇を抑制できる。コンプレッサインペラ71に導入される酸化ガスの温度上昇を抑制することで、圧縮機7の動力(エネルギー消費)を低減させることができる。
【0074】
幾つかの実施形態では、熱交換器35において酸化ガス還流ライン33を流れる酸化ガスを冷却する冷媒は、燃料電池2を冷却する冷媒と同種の熱媒体からなる。燃料電池車両1は、燃料電池2を冷却するための冷却システム9をさらに備える。冷却システム9は、冷媒(例えば、冷却水)を貯留するように構成された冷媒貯留装置(例えば、冷却水タンク)91と、燃料電池2と冷媒との間で熱交換を行うように構成された燃料電池側熱交換器92と、冷媒貯留装置91から燃料電池側熱交換器92に冷媒を導くための冷媒供給ライン93と、燃料電池側熱交換器92にて熱交換が行われた冷媒を排出するための冷媒排出ライン94と、冷媒供給ライン93又は冷媒排出ライン94の何れかに設けられた冷媒ポンプ95と、を含む。
【0075】
図示される実施形態では、酸化ガス供給システム3は、冷媒供給ライン93又は冷媒排出ライン94の何れか一方から熱交換器35に冷媒を導くための第1の冷媒分流ライン36と、熱交換器35から冷媒供給ライン93又は冷媒排出ライン94の何れか一方に冷媒を排出するための第2の冷媒分流ライン37と、をさらに備える。他の実施形態では、熱交換器35における冷媒が流れる流路を、冷媒供給ライン93又は冷媒排出ライン94の何れか一方に設けてもよい。
【0076】
上記の構成によれば、冷却システム9の機器や配管を、熱交換器35に冷媒を送るために利用でき、熱交換器35用に冷媒貯留装置91や冷媒ポンプ95を別途設けなくてもよいので、熱交換器35を備える酸化ガス供給システム3の構成の複雑化や高価格化を抑制できる。
【0077】
幾つかの実施形態にかかる燃料電池車両1は、図1に示されるように、上述した酸化ガス供給システム3を備え、上述した燃料電池2が発生させた電力により走行可能に構成されている。上記の構成によれば、燃料電池車両1は、酸化ガス供給システム3を備えることで、圧縮機7におけるサージングを抑制できるため、燃料電池車両1の効率を向上させることができる。
【0078】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0079】
上述した幾つかの実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握されるものである。
【0080】
1)本開示の少なくとも一実施形態にかかる酸化ガス供給システム(3)は、
燃料電池(2)に圧縮機(7)により圧縮された酸化ガスを供給するための酸化ガス供給システム(3)であって、
コンプレッサインペラ(71)を有する前記圧縮機(7)と、
前記コンプレッサインペラ(71)を通過した前記酸化ガスを前記燃料電池(2)に供給するための酸化ガス供給ライン(31)と、
前記コンプレッサインペラ(71)に前記酸化ガスを導入するための酸化ガス導入ライン(32)と、
前記酸化ガス供給ライン(31)から分岐して前記酸化ガス導入ライン(32)に接続される酸化ガス還流ライン(33)と、
前記酸化ガス還流ライン(33)を通過する前記酸化ガスの流量を調整可能に構成された流量調整弁(酸化ガス流量調整弁34)と、を備える。
【0081】
上記1)の構成によれば、燃料電池(2)の要求酸化ガス流量が小さく、酸化ガス供給ライン(31)を介して燃料電池(2)に供給できる酸化ガスの流量が小さい場合に、流量調整弁(34)を開き、酸化ガス還流ライン(33)を介して酸化ガス供給ライン(31)から酸化ガス導入ライン(32)に酸化ガスの一部を還流させることができる。これにより、燃料電池(2)の要求酸化ガス流量が小さい場合におけるコンプレッサインペラ(71)への酸化ガスの流入量を増やすことができるため、圧縮機(7)におけるサージングを抑制できる。
【0082】
また、上記1)の構成によれば、燃料電池(2)の要求酸化ガス流量が大きく、酸化ガス供給ライン(31)を介して燃料電池(2)に供給できる酸化ガスの流量が大きい場合に、流量調整弁(34)を閉じ、酸化ガス還流ライン(33)を介した酸化ガスの還流を抑制することで、酸化ガスの還流に伴う圧縮機(7)の効率低下を抑制できる。
【0083】
2)幾つかの実施形態では、上記1)に記載の酸化ガス供給システム(3)であって、
前記流量調整弁(34)の開閉を制御するための制御装置(8)をさらに備え、
前記制御装置(8)は、前記燃料電池(2)に供給される前記酸化ガスの流量が第1規定流量(SF1)を下回る場合には、前記流量調整弁(34)の開度を増大させる第1開度増大制御を実行するように構成される。
【0084】
上記2)の構成によれば、燃料電池(2)に供給される酸化ガスの流量が第1規定流量(SF1)を下回る場合には、酸化ガス導入ライン(32)を介してコンプレッサインペラ(71)に導入される酸化ガスの流量が小さく、圧縮機(7)においてサージングが発生する可能性が高い。燃料電池(2)に供給される酸化ガスの流量が第1規定流量(SF1)を下回る場合において、制御装置(8)が第1開度増大制御を実行し、流量調整弁(34)の開度を増大させることで、酸化ガス還流ライン(33)を介した酸化ガスの還流量を増やすことができる。酸化ガス還流ライン(33)を介した酸化ガスの還流量を増やすことで、コンプレッサインペラ(71)への酸化ガスの流入量を増やすことができるため、圧縮機(7)におけるサージングを効果的に抑制できる。
【0085】
3)幾つかの実施形態では、上記2)に記載の酸化ガス供給システム(3)であって、
前記制御装置(8)は、前記燃料電池(2)の要求酸化ガス流量が第2規定流量(SF2)を下回る場合には、前記流量調整弁(34)の開度を増大させる急速開度増大制御を実行するように構成される。
【0086】
燃料電池(2)に供給される酸化ガスの流量が大流量から小流量に変化するときに、圧力変化に対して流量変化が先行して、圧縮機(7)の運転点が一時的にサージ領域(SR)に入り、圧縮機(7)におけるサージングが発生する虞がある。上記3)の構成によれば、燃料電池(2)の要求酸化ガス流量が第2規定流量(SF2)を下回る場合には、その後に燃料電池(2)に供給される酸化ガスの流量が小さくなり圧縮機(7)の運転点が一時的にサージ領域(SR)に入る可能性が高い。燃料電池(2)の要求酸化ガス流量が第2規定流量(SF2)を下回る場合において、制御装置(8)が急速開度増大制御を実行し、流量調整弁(34)の開度を増大させることで、その後に燃料電池(2)に供給される酸化ガスの流量が小さくなったときに、圧縮機(7)の運転点が一時的にサージ領域(SR)に入ることを抑制できるため、圧縮機(7)におけるサージングを効果的に抑制できる。
【0087】
4)幾つかの実施形態では、上記3)に記載の酸化ガス供給システム(3)であって、
前記第2規定流量(SF2)は、前記第1規定流量(SF1)よりも大きい。
【0088】
上記4)の構成によれば、第2規定流量(SF2)を第1規定流量(SF1)よりも大きくすることで、燃料電池(2)に供給される酸化ガスの流量が大流量から小流量に変化したときに、圧縮機(7)の運転点が一時的にサージ領域(SR)に入ることを効果的に抑制できる。また、上記4)の構成によれば、第1規定流量(SF1)を第2規定流量(SF2)よりも小さくすることで、制御装置(8)による第1開度増大制御の頻度を抑えることができるため、酸化ガス還流ライン(33)を介して還流される酸化ガスの圧力損失(エネルギー損失)を抑制できる。上記酸化ガスの圧力損失を抑制することで、圧縮機(7)の効率低下を抑制できる。
【0089】
5)幾つかの実施形態では、上記1)に記載の酸化ガス供給システム(3)であって、
前記流量調整弁(34)の開閉を制御するための制御装置(8)をさらに備え、
前記制御装置(8)は、前記燃料電池(2)に供給される前記酸化ガスの流量および前記酸化ガスの圧力に応じた前記圧縮機(7)の運転点がサージ危険運転領域(SDR)に位置する場合には、前記流量調整弁(34)の開度を増大させる第2開度増大制御を実行するように構成される。
【0090】
上記5)の構成によれば、燃料電池(2)に供給される酸化ガスの流量および酸化ガスの圧力に応じた圧縮機(7)の運転点がサージ危険運転領域(SDR)に位置する場合には、その後に上記圧縮機(7)の運転点がサージ領域(SR)に入る可能性が高い。上記圧縮機(7)の運転点がサージ危険運転領域(SDR)に位置する場合において、制御装置(8)が第2開度増大制御を実行し、流量調整弁(34)の開度を増大させることで、圧縮機(7)におけるサージングを予防できる。これにより、圧縮機(7)におけるサージングを効果的に抑制できる。
【0091】
6)幾つかの実施形態では、上記1)~上記5)までの何れかに記載の酸化ガス供給システム(3)であって、
前記圧縮機(7)は、前記コンプレッサインペラ(71)を回転可能に収容するコンプレッサカバー(72)をさらに有し、
前記酸化ガス還流ライン(33)は、前記コンプレッサカバー(72)の内部に設けられた。
【0092】
上記6)の構成によれば、酸化ガス還流ライン(33)をコンプレッサカバー(72)の内部に設けることで、コンプレッサカバー(72)の外部に設ける場合に比べて、酸化ガス還流ライン(33)の一端から他端までの長さを短くできるため、酸化ガス還流ライン(33)を介して還流される酸化ガスの圧力損失(エネルギー損失)を抑制できる。上記酸化ガスの圧力損失を抑制することで、圧縮機(7)の効率低下を抑制できる。
【0093】
7)幾つかの実施形態では、上記1)~上記6)までの何れかに記載の酸化ガス供給システム(3)であって、
前記酸化ガス還流ライン(33)に設けられた、前記酸化ガス還流ライン(33)を流れる前記酸化ガスと冷媒との間で熱交換を行うように構成された熱交換器(35)をさらに備える。
【0094】
コンプレッサインペラ(71)により圧縮された酸化ガス供給ライン(31)を流れる酸化ガスは、酸化ガス導入ライン(32)を介してコンプレッサインペラ(71)に導入される酸化ガスよりも高温になっている。上記7)の構成によれば、酸化ガス還流ライン(33)に設けられた熱交換器(35)により、酸化ガス還流ライン(33)を流れる酸化ガスが冷却されるため、酸化ガス還流ライン(33)を介した酸化ガスの還流に伴う、コンプレッサインペラ(71)に導入される酸化ガスの温度上昇を抑制できる。コンプレッサインペラ(71)に導入される酸化ガスの温度上昇を抑制することで、圧縮機(7)の動力(エネルギー消費)を低減させることができる。
【0095】
8)本開示の少なくとも一実施形態にかかる燃料電池車両(1)は、
上記1)~上記7)までの何れかに記載の酸化ガス供給システム(3)を備え、
前記燃料電池(2)が発生させた電力により走行可能に構成された。
【0096】
上記8)の構成によれば、燃料電池車両(1)は、酸化ガス供給システム(3)を備えることで、圧縮機(7)におけるサージングを抑制できるため、燃料電池車両(1)の効率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0097】
1 燃料電池車両
2 燃料電池
3 酸化ガス供給システム
4 燃料ガス供給システム
5 駆動用バッテリ
6 走行用モータ
7 圧縮機
8 制御装置
9 冷却システム
11 第1の接続ケーブル
12 第2の接続ケーブル
13 車体
14 排気排出ライン
15 排気流量調整弁
16 酸化ガス圧力測定装置
17 燃料ガス圧力測定装置
18 酸化ガス流量測定装置
20 発電セル
21 空気極
22 燃料極
23 電解質膜
31 酸化ガス供給ライン
32 酸化ガス導入ライン
33 酸化ガス還流ライン
34 酸化ガス流量調整弁
35 熱交換器
36 第1の冷媒分流ライン
37 第2の冷媒分流ライン
41 燃料ガス貯留装置
42 燃料ガス供給ライン
43 燃料ガス流量調整弁
71 コンプレッサインペラ
72 コンプレッサカバー
73 導入口
74 排出口
75 酸化ガス導入路
76 酸化ガス排出路
77 電動モータ
78 回転シャフト
80 データベース部
81 酸化ガス流量推定部
82 必要発電量推定部
83 要求量算出部
84 回転数指示部
85 燃料ガス側開度指示部
86 排気側開度指示部
87 酸化ガス側開度指示部
91 冷媒貯留装置
92 燃料電池側熱交換器
93 冷媒供給ライン
94 冷媒排出ライン
95 冷媒ポンプ

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8