(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】被覆鋳鉄基材
(51)【国際特許分類】
C23C 26/00 20060101AFI20240829BHJP
C22C 37/00 20060101ALI20240829BHJP
C22C 37/10 20060101ALI20240829BHJP
C23C 2/00 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C23C26/00 C
C22C37/00 Z
C22C37/10 Z
C23C2/00
(21)【出願番号】P 2023550730
(86)(22)【出願日】2020-10-29
(86)【国際出願番号】 IB2020060148
(87)【国際公開番号】W WO2022090770
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】523150211
【氏名又は名称】ベルディシオ・ソリューションズ・ア・イ・エ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブー,ティ・タン
(72)【発明者】
【氏名】メヒド・フェルナンデス,ラウラ
(72)【発明者】
【氏名】ドミンゲス・フェルナンデス,カルロータ
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス・ガルシア,ホルヘ
(72)【発明者】
【氏名】ノリエガ・ペレス,ダビド
(72)【発明者】
【氏名】スアレス・サンチェス,ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】ブランコ・ロルダン,クリスティーナ
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/123103(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/123104(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C26/00-26/02
C23C2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノグラファイト及びケイ酸ナトリウムであるバインダーを含む皮膜を備えた被覆鋳鉄基材であって、前記鋳鉄基材が重量パーセントで、2.0~6.67%のCを含み、かつ任意に以下の元素、すなわち、
Mn≦3重量%、
Si≦5重量%、
Mo≦2重量%、
Cu≦2.5重量%、
Ni≦2重量%、
Cr≦3重量%、
V≦0.5重量%、
Zr≦0.3重量%、
Bi≦0.01重量%、
Mg≦0.1重量%、
Ce≦0.04重量%
の1種以上を含む組成を有し、前記組成の残余は鉄及び精錬に起因する不可避の不純物である、被覆鋳鉄基材。
【請求項2】
前記ナノグラファイトの横方向のサイズが1~65μmの間である、請求項1に記載の被覆鋳鉄基材。
【請求項3】
前記ナノグラファイトの幅サイズが2~15μmの間である、請求項1又は2のいずれか一項に記載の被覆鋳鉄基材。
【請求項4】
前記ナノグラファイトの厚さが1~100nmの間である、請求項1~3のいずれか一項に記載の被覆鋳鉄基材。
【請求項5】
前記皮膜中のナノグラファイトの濃度が5重量%~70重量%の間である、請求項1~4のいずれか一項に記載の被覆鋳鉄基材。
【請求項6】
前記皮膜中のケイ酸ナトリウムの濃度が35重量%~75重量%の間である、請求項1~5のいずれか一項に記載の被覆鋳鉄基材。
【請求項7】
前記バインダーに対するナノグラファイトの重量比が0.05~0.9の間である、請求項1~6のいずれか一項に記載の被覆鋳鉄。
【請求項8】
前記皮膜の厚さが10~250μmの間である、請求項1~7のいずれか一項に記載の被覆鋳鉄基材。
【請求項9】
前記皮膜が、粘土、シリカ、石英、カオリン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化亜鉛、チタン酸アルミニウム、炭化物又はそれらの混合物をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の被覆鋳鉄基材。
【請求項10】
連続する以下のステップを含む被覆鋳鉄基材の製造方法。
A. 2.0~6.67%の重量パーセントのCを含み、組成の残余は鉄及び精錬に起因する不可避の不純物である鋳鉄基材を提供するステップ、
B. ナノグラファイト及びケイ酸ナトリウムであるバインダーを含む水性混合物を前記鋳鉄基材の少なくとも一部上に堆積させ、皮膜を形成するステップ、
C. 任意に、ステップBで得られた前記皮膜を乾燥させるステップ。
【請求項11】
ステップB)において、前記皮膜の堆積が、スピンコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、ブラシコーティングによって行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ステップB)において、前記水性混合物が、40~110g/Lのナノグラファイト及び40~80g/Lのバインダーを含む、請求項10又は11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
乾燥させるステップを適用する場合、ステップC)において、50~150℃の間の温度で乾燥を行う、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
乾燥させるステップを適用する場合、ステップC)において、5~60分間乾燥を行う、請求項10~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
浴中に少なくとも部分的に浸漬された装置片を含む溶融金属浴を通って鋼帯を移動させるステップを含む、前記鋼帯を溶融めっきする方法であって、前記装置片の少なくとも一部が請求項1~9のいずれか一項に記載の被覆鋳鉄基材から作製されている、方法。
【請求項16】
少なくとも一部が浴に浸漬された装置片を含む溶融金属浴を備える溶融めっき設備であって、前記装置片の一部が、請求項1~9のいずれか一項に記載の被覆鋳鉄基材で作製されている溶融めっき設備。
【請求項17】
前記装置片が、スナウト、オーバーフロー、シンクロール、安定化ロール、ロール支持アーム、ロールフランジ、パイプライン、及びポンプ要素の中から選択される、請求項16に記載の溶融めっき設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼帯の溶融めっきプロセスにおいて部品として使用される鋳鉄の溶融金属腐食に対する保護を目的とした皮膜に関する。また、本発明は、その被覆鋳鉄の製造方法及びその被覆鋳鉄に頼る溶融めっきプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、鋼路線製造では、鋼帯は溶融めっき、すなわち、溶融亜鉛めっき又は溶融アルミニウムめっきによって堆積された金属皮膜で被覆される。この金属皮膜は、典型的には亜鉛、アルミニウム、ケイ素、マグネシウムの中で特に選択される元素を含む。これらの元素は、鋼帯が通る浴中で溶融される。そのためには、スナウト(snout)、シンク(sink)ロール、安定化ロール、パイプライン又はポンプ要素のようないくつかの金属装置又は部品が、溶融浴に直接接触している。
【0003】
このような接触の間に、溶融金属と浸漬部品との間で反応が起こる。特に、Zn及び/又はAlは金属装置の鉄と金属間化合物を形成し、これが浸漬部品の脆弱化をもたらす。溶融金属によって誘発されるこの腐食を制限するために、溶融金属と接触して使用される金属装置又は部品をステンレス鋼で作ることができる。溶融金属腐食に対する耐性の改善にもかかわらず、溶融金属と接触するステンレス鋼は腐食し続け、これは変形、脆化及び破壊をもたらす。より高い耐食性を有するステンレス鋼を検討することができるが、それらは非常に高価であり、いずれにしても腐食するものである。このため、溶融金属と直接接触する装置や部品の中には、単に鋳鉄製のものもある。鋳鉄は急速に腐食するので、これらの装置又は部品は、非常に頻繁に検査し、交換しなければならない。これらの定期的な交換はライン停止という犠牲を払って行われ、溶融めっき鋼帯の製造を深刻に損なう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の目的は、検査及び交換が制限されるように、また脆化、変形及び破壊がさらに防止されるように、溶融金属腐食に対して十分に保護された鋳鉄基材を提供することである。また、本発明の目的は、溶融亜鉛めっきライン及び溶融アルミニウムめっきラインにおける現行の装置を取り替えることなく、この鋳鉄基材を製造するための容易に実施可能な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的のために、本発明の第1の主題は、ナノグラファイト及びケイ酸ナトリウムであるバインダーを含む皮膜を備えた被覆鋳鉄基材であって、該鋳鉄基材が重量パーセントで、2.0~6.67%のCを含み、かつ任意に以下の元素、すなわち、
Mn≦3重量%、
Si≦5重量%、
Mo≦2重量%、
Cu≦2.5重量%、
Ni≦2重量%、
Cr≦3重量%、
V≦0.5重量%、
Zr≦0.3重量%、
Bi≦0.01重量%、
Mg≦0.1重量%、
Ce≦0.04重量%
の1種以上を含む組成を有し、組成の残余は鉄及び精錬に起因する不可避の不純物である、被覆鋳鉄基材からなる。
【0006】
本発明による被覆鋳鉄基材はまた、個別に又は組み合わせて考えられる、以下に挙げる任意の特徴を有することができる。
- ナノグラファイトの横方向サイズは1~65μmの間であり、
- ナノグラファイトの幅サイズは2~15μmの間であり、
- ナノグラファイトの厚さは1~100nmの間であり、
- 皮膜中のナノグラファイトの濃度は5重量%~70重量%の間であり、
- 皮膜中のケイ酸ナトリウムの濃度は35重量%~75重量%の間であり、
- バインダーに対するナノグラファイトの重量比は0.05~0.9の間であり、
- 皮膜の厚さは10~250μmの間であり、
- 皮膜は、粘土、シリカ、石英、カオリン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化亜鉛、チタン酸アルミニウム、炭化物又はこれらの混合物を含む。
【0007】
本発明の第2の主題は、以下のステップを含む被覆鋳鉄基材の製造方法からなる。
A. 2.0~6.67%の重量パーセントのCを含み、組成の残余は鉄及び精錬に起因する不可避の不純物から構成される鋳鉄基材を提供するステップ、
B. ナノグラファイト及びケイ酸ナトリウムであるバインダーを含む水性混合物を鋳鉄基材の少なくとも一部上に堆積させ、皮膜を形成するステップ、
C. 任意に、ステップBで得られた皮膜を乾燥させるステップ。
【0008】
本発明による被覆鋳鉄基材の製造方法はまた、個別に又は組み合わせて考えられる以下に挙げる任意の特徴を有することができる。
- ステップB)において、皮膜の堆積は、スピンコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、ブラシコーティングにより行われ、
- ステップB)において、水性混合物は40~110g/Lのナノグラファイト及び40~80g/Lのバインダーを含み、
- 乾燥させるステップを 適用する場合、ステップC)において、乾燥は50~150℃の間の温度で行われ、
- 乾燥させるステップを 適用する場合、ステップC)において、乾燥は5~60分間行われる。
【0009】
本発明の第3の主題は、浴中に少なくとも部分的に浸漬された装置片を含む溶融金属浴を通って鋼帯を移動させるステップを含む、鋼帯を溶融めっきする方法からなり、該装置片の少なくとも一部が本発明による被覆鋳鉄基材で作られる。
【0010】
本発明の第4の主題は、浴中に少なくとも部分的に浸漬された装置片を含む溶融金属浴を含む溶融めっき施設からなり、装置片の少なくとも一部が本発明による被覆鋳鉄基材で作られる。
【0011】
溶融めっき設備の装置片は、スナウト、オーバーフロー、シンクロール、安定化ロール、ロール支持アーム、ロールフランジ、パイプライン及びポンプ要素の中から任意に選択される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明によるナノグラファイトの通常の形状を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を例示するために、特に本発明によるナノグラファイトの通常の形状を図示する
図1を参照して、様々な実施形態及び非限定的な例の試行について説明する。
【0014】
本発明の他の特徴及び利点は、本発明の以下の詳細な説明から明らかになる。
【0015】
以下の用語を定義する。
【0016】
- ナノグラファイトは、グラフェンナノプレートレット、すなわち、
図1に示されるようなプレートレット形状を有する数枚のグラフェンシートの積み重ねから作製される炭素ベースのナノ材料を指す。この図では、横方向サイズは、X軸を通るナノプレートレットの最長の長さを意味し、厚さは、Z軸を通るナノプレートレットの高さを意味する。ナノプレートレットの幅は、Y軸を通って図示される。
【0017】
好ましくは、ナノグラファイトの横方向サイズは1~65μmの間であり、有利には2~15μmの間であり、より好ましくは2~10μmの間である。
【0018】
好ましくは、ナノグラファイトの幅サイズは2~15μmの間である。有利には、ナノグラファイトの厚さは、1nm~100nmの間、より好ましくは1nm~50nmの間、さらにより好ましくは1nm~10nmの間である。
【0019】
グラファイトナノプレートレットは、ナノグラファイトの同義語である。
【0020】
- 基材とは、その上に何かが堆積した表面を提供する材料をいう。この材料は、サイズ、寸法及び形状の点で制限されない。基材は、特に、帯、シート、片、部分、要素、デバイス、装置の形態であり得る。それは平らであってもよいし、任意の手段で成形されてもよい。
【0021】
- 「被覆される」とは、基材が少なくとも局所的に皮膜に覆われていることを意味する。覆いは、例えば、溶融金属浴に浸漬される基材の領域に限定することができる。「被覆される」とは、「直接的に」(その間に配置された中間的な材料、要素又は空間がない)及び「間接的に」(その間に配置された中間的な材料、要素又は空間)を包括的に含む。例えば、基材を被覆することは、基材上に直接皮膜を塗布して、その間に中間材料/要素がないこと、及び基材上に間接的に塗布して、その間に1つ以上の中間材料/要素を有することを含むことができる。
【0022】
- 溶融めっきプロセスとは、皮膜が亜鉛ベースの場合は溶融亜鉛めっきプロセスを、アルミニウムベースの場合は溶融アルミめっきプロセスを指す。
【0023】
いかなる理論にも拘束されるつもりはないが、鋳鉄基材上のナノグラファイト及びケイ酸ナトリウムであるバインダーを含む皮膜は、溶融金属浸食に対する障壁のように作用し、Zn-Fe及び/又はAl-Fe金属間化合物の生成を妨げるようである。実際、本発明による皮膜は、そのグラファイト含有量のために、溶融金属浴の元素に関して非湿潤性である。特に、ナノグラファイトは液体亜鉛及び/又はアルミニウムによって湿潤していないようである。このように、ナノグラファイトは非湿潤剤として作用し、一方、ケイ酸ナトリウムは鋳鉄表面へのバインダー及び接着促進剤として作用する。鋳鉄表面に溶融金属元素が接着しないことは、耐食性の向上、基材の変形リスクの減少及び基材のより長い寿命につながる。また、ケイ酸ナトリウムを含む皮膜は、鋳鉄基材によく接着し、鋳鉄基材がさらに保護される。それはさらに、皮膜の亀裂及び皮膜の剥離のリスク(これらは鋳鉄基材を溶融金属の浸食及び変形にさらすであろう)を防止する。
【0024】
本発明による皮膜のこれらの利点は、溶融めっきラインに使用される全ての種類の溶融浴組成物に提供される。溶融金属浴の組成は亜鉛をベースとすることができる。亜鉛ベースの浴及び皮膜の例は、0.2%のAl及び0.02%のFeを含む亜鉛(HDG皮膜)、5重量%のアルミニウムを含む亜鉛合金(Galfan(R)皮膜)、55重量%のアルミニウム、約1.5重量%のケイ素を含み、残余は亜鉛及び加工による不可避の不純物からなる亜鉛合金(Aluzinc(R)、Galvalume(R)皮膜)、0.5~20%のアルミニウム、0.5~10%のマグネシウムを含み、残余は亜鉛及び加工による不可避の不純物からなる亜鉛合金、アルミニウム、マグネシウム及びケイ素を含み、残余は亜鉛及び加工による不可避の不純物からなる亜鉛合金である。
【0025】
溶融金属浴の組成はアルミニウムベースとすることもできる。アルミニウムベースの浴及び皮膜の例は、8~11重量%のケイ素及び2~4重量%の鉄を含み、残余は、アルミニウム及び加工による不可避の不純物からなるアルミニウム合金(Alusi(R)皮膜)、アルミニウム(Alupur(R)皮膜)、亜鉛、マグネシウム及びケイ素を含み、残余は、アルミニウム及び加工による不可避の不純物からなるアルミニウム合金である。
【0026】
基材は、2.0~6.67重量%のCを含み、組成の残余は、鉄及び精錬に起因する不可避の不純物である鋳鉄である。
【0027】
また、この組成は、最大3重量%のMn、最大5重量%のSi、最大2重量%のMo、最大2.5重量%のCu、最大2重量%のNi、最大3重量%のCr、最大0.5重量%のV、最大0.3重量%のZr、最大0.01重量%のBi、最大0.1重量%のMg、最大0.04重量%のCeなどの追加の合金元素を含むことができる。
【0028】
この鋼は、精錬に起因する、可能性がある不純物を含むこともある。例えば、不可避の不純物は、P、S、Al、Ti、Nb、W、Pb、B、Sb、Sn、Zn、As、La、N、Se、O、H、Co、Ge、Gaを含むことができるが、これらに限定されない。例えば、各不純物の重量による含有率は0.1重量%よりも少ない。
【0029】
鋳鉄基材は、特に、溶融金属浴中に少なくとも部分的に浸漬される任意の片又は部分であることができる。好ましくは、鋳鉄基材は、スナウト、オーバーフロー、シンクロール、安定化ロール、ロール支持アーム、ロールフランジ、パイプライン若しくはポンプ要素又はこれらの要素の一部である。
【0030】
鋳鉄基材は、ナノグラファイト及びケイ酸ナトリウムであるバインダーを含む皮膜で少なくとも部分的に被覆される。
【0031】
皮膜中のナノグラファイトの濃度は、乾燥皮膜の1重量%~70重量%の間、より好ましくは5重量%~70重量%の間、さらにより好ましくは10重量%~65重量%の間である。このような濃度は、皮膜に溶融金属元素が接着しないこと及び基材に皮膜が接着することの間の良好なバランスを提供する。
【0032】
好ましくは、ナノグラファイトは、95重量%を超える、有利には99%を超えるCを含む。
【0033】
バインダーはケイ酸ナトリウムである。換言すれば、バインダーはケイ酸ナトリウムから得られる。このケイ酸ナトリウムは乾燥段階の間に反応し、硬いシロキサン鎖を形成する。このシロキサン鎖が鋳鉄基材の表面に存在する水酸基に結合すると考えられる。また、基材上に塗布された水性混合物に溶解されたケイ酸ナトリウムは、基材表面からの全ての隙間に浸透し、乾燥後、強靭かつガラス質になり、したがって皮膜を基材に固定すると考えられる。
【0034】
ケイ酸ナトリウムは、式Na2xSiyO2y+x又は(Na2O)x・(SiO2)yを有するあらゆる化合物を指す。それは、特に、メタケイ酸ナトリウムNa2SiO3、オルトケイ酸ナトリウムNa4SiO4、ピロケイ酸ナトリウムNa6Si2O7、Na2Si3O7であり得る。
【0035】
皮膜中のケイ酸ナトリウムの濃度は、好ましくは乾燥皮膜の35重量%~95重量%の間であり、より好ましくは35重量%~75重量%の間である。このような濃度は、皮膜に溶融金属元素が接着しないこと及び基材に皮膜が接着することの間の良好なバランスを提供する。
【0036】
本発明の1つの変形例によれば、皮膜は、添加剤、特にその熱安定性及び/又はその摩耗抵抗を改善するための添加剤をさらに含む。このような添加剤は、粘土、シリカ、石英、カオリン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化亜鉛、チタン酸アルミニウム、炭化物及びそれらの混合物の中から選択することができる。粘土の例は、グリーンモンモリロナイト及び白色カオリン粘土である。炭化物の例は、炭化ケイ素及び炭化タングステンである。
【0037】
添加剤を添加する場合、乾燥皮膜中のそれらの濃度は40重量%までであり得、好ましくは10~40重量%の間、より好ましくは15~35重量%の間に含まれる。グリーンモンモリロナイトを添加する場合、グラフェン重量含有率とグリーンモンモリロナイト重量含有率との比は、好ましくは0.2~0.8の間に含まれる。
【0038】
本発明の1つの変形例によれば、皮膜は、ナノグラファイト、ケイ酸ナトリウムをベースとするバインダー及び粘土、シリカ、石英、カオリン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化亜鉛、チタン酸アルミニウム、炭化物及びそれらの混合物の中から選択される任意の添加剤からなる。
【0039】
好ましくは、皮膜の乾燥厚さは10~250μmの間である。より好ましくは、皮膜の乾燥厚さは110~150μmの間である。例えば、皮膜の厚さは10~100μmの間又は100~250μmの間である。
【0040】
好ましくは、皮膜は、界面活性剤、アルコール、ケイ酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、フッ化アルミニウム、硫酸銅、塩化リチウム及び硫酸マグネシウムから選択される少なくとも1種の要素を含まない。
【0041】
本発明はまた、以下のステップを連続的に含む本発明による被覆鋳鉄基材の製造方法に関する。
A. 本発明による鋳鉄基材を提供するステップ、
B. ナノグラファイト及びケイ酸ナトリウムであるバインダーを含む水性混合物を鋳鉄基材の少なくとも一部上に堆積させ、本発明による皮膜を形成するステップ、
C. 任意に、ステップBで得られた被覆鋳鉄基材を乾燥させるステップ。
【0042】
ステップA)では、鋳鉄基材は、任意のサイズ、寸法及び形状で提供することができる。それは、特に、帯、シート、片、部分、要素、デバイス、装置の形態であり得る。それは平らであってもよいし、任意の手段で成形されてもよい。
【0043】
好ましくは、ステップB)において、皮膜の堆積は、スピンコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング又はブラシコーティングによって行われる。
【0044】
有利には、ステップB)において、水性混合物は40~110g/Lのナノグラファイトを含む。より好ましくは、水性混合物は40~60g/Lのナノグラファイトを含む。
【0045】
有利には、ステップB)において、水性混合物は40~80g/Lのバインダーを含む。好ましくは、水性混合物は50~70g/Lのバインダーを含む。
【0046】
ケイ酸ナトリウムを水溶液の形態で水性混合物に加えることができる。ケイ酸ナトリウムは、一般式(Na2O)x(SiO2)y・zH2Oの水和物型、例えば、Na2SiO3 5H2O又はNa2Si3O7 3H2Oなどでもよい。
【0047】
有利には、ステップB)において、バインダーに対するナノグラファイトの重量の比は0.05~0.9の間であり、好ましくは0.1~0.5の間である。
【0048】
本発明の1つの変形例によれば、ステップB)の水性混合物は、さらに添加剤、特に皮膜の熱安定性及び/又は摩耗抵抗を改善するための添加剤を含む。このような添加剤は、粘土、シリカ、石英、カオリン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化亜鉛、チタン酸アルミニウム、炭化物及びそれらの混合物の中から選択することができる。粘土の例は、グリーンモンモリロナイト及び白色カオリン粘土である。炭化物の例は、炭化ケイ素及び炭化タングステンである。粘土はさらに、その塗布をさらに容易にするために、水性混合物の粘度を適合させるのに役立つ。この点に関して、グリーンモンモリロナイトを添加する場合、グラフェン重量含有率とグリーンモンモリロナイト重量含有率との比は、0.2~0.8の間に含まれることが好ましい。
【0049】
好ましい実施形態では、ステップC)において、皮膜は乾燥される、すなわち、空気中での自然乾燥とは対照的に積極的に乾燥される。乾燥ステップは、水の除去がより良好に制御されるため、皮膜の接着性の改善を可能にすると考えられる。好ましい実施形態では、ステップC)において、乾燥は、50~150℃の間、好ましくは80~120℃の間の温度で行われる。乾燥は強制空気で行うことができる。
【0050】
有利には、乾燥させるステップを 適用する場合、ステップC)において、乾燥は、5~60分間、例えば、15~45分間の間行われる。
【0051】
別の実施形態では、乾燥ステップは実施されない。皮膜は空気中で放置し、乾燥させる。
【0052】
本発明はまた、スナウト、オーバーフロー、シンクロール、安定化ロール、ロール支持アーム、パイプライン又はポンプ要素の製造のための本発明による被覆鋳鉄の使用に関する。
【0053】
また、本発明は、浴中に少なくとも部分的に浸漬された装置片を含む溶融金属浴の中で鋼帯を移動させるステップを含む、鋼帯を溶融めっきする方法にも関し、装置片の少なくとも一部は、本発明による被覆鋳鉄基材で作られる。
【0054】
また、本発明は、浴中に少なくとも部分的に浸漬した装置片を含む溶融金属浴を備える溶融めっき設備にも関し、装置片の少なくとも一部は、本発明による被覆鋳鉄基材で作られる。
【0055】
以後、情報のためにのみ実施された試行に基づいて本発明を説明する。それらは限定的ではない。
【実施例】
【0056】
実施例では、以下の重量パーセントの組成を有する鋳鉄基材を用いた。
【0057】
【0058】
[実施例1:皮膜の接着試験]
試行1では、2~10μmの間の横方向サイズ、2~15μmの間の幅、及び1~100nmの厚さの50g/Lのナノグラファイト及びバインダーとして60g/Lのケイ酸ナトリウムを含む水性混合物を、25.6~27.6重量%のSiO2及び7.5~8.5重量%のNa2Oを含む水溶液の形態でブラッシングすることによって、鋳鉄基材を被覆した。次いで、皮膜を60分間75℃で熱風を用いて炉内で乾燥させた。皮膜は厚さ130μmで、45重量%のナノグラファイト及び55重量%のバインダーを含んでいた。
【0059】
試行2では、横方向サイズが2~10μmの間、幅が2~15μmの間及び厚さが1~100nmの間の50g/Lのナノグラファイト、100g/Lのグリーンモンモリロナイト粘土及びバインダーとして60g/Lの珪酸ナトリウムを含む水性混合物を、25.6~27.6重量%のSiO2及び7.5~8.5重量%のNa2Oを含む水溶液の形態でブラッシングすることによって、鋳鉄基材を被覆した。次いで、皮膜を60分間75℃で熱風を用いて炉内で乾燥させた。皮膜は厚さ130μmで、11重量%のナノグラファイト、69重量%のバインダー及び20重量%のグリーンモンモリロナイト粘土を含んでいた。
【0060】
試行3では、横方向サイズが2~10μmの間、幅が2~15μmの間及び厚さが1~100nmの間の90g/Lのナノグラファイト、及びバインダーとして60g/Lのケイ酸ナトリウムを含む水性混合物を、25.6~27.6重量%のSiO2及び7.5~8.5重量%のNa2Oを含む水溶液の形態でブラッシングすることによって、鋳鉄基材を被覆した。次いで、皮膜を60分間75℃で熱風を用いて炉内で乾燥させた。皮膜は厚さ130μmで、60重量%のナノグラファイト、40重量%のバインダーを含んでいた。
【0061】
試行4では、横方向サイズが5~30μmの間、幅が5~30μmの間及び厚さが1~10nmの間の50g/Lの還元型酸化グラフェン及びバインダーとして60g/Lのケイ酸ナトリウムを含む水性混合物を、25.6~27.6重量%のSiO2及び7.5~8.5重量%のNa2Oを含む水溶液の形態でブラッシングすることによって、鋳鉄基材を被覆した。次いで、皮膜を60分間75℃で熱風を用いて炉内で乾燥させた。皮膜は厚さ130μmで、45重量%の還元型酸化グラフェン及び55重量%のバインダーを含んでいた。
【0062】
皮膜の接着性を評価するため、試行上に粘着テープを置いた後、除去した。皮膜の接着性は、試行についての目視検査により評価した。0は全ての皮膜が鋳鉄鋼上に残っていることを意味し、1は皮膜の一部が除去されたことを意味し、2はほとんど全ての皮膜が除去されたことを意味する。
【0063】
結果を以下の表1に示す。
【0064】
【0065】
本発明による試行は、皮膜の優れた接着性を示す。
【0066】
[実施例2:浴浸漬]
10%のSi及び2.5%のFeを含むアルミニウムベースの浴に8日間試行1~3を浸漬した。8日後、非付着性の金属薄膜が試行上に存在した。この金属膜は試行から容易に剥がれた。本発明の皮膜は、いずれの試行にも依然として存在した。アルミニウムの浸食は出現しなかった。
【0067】
本発明による試行は、アルミニウムの浸食に対して十分に保護された。