(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】樹脂組成物、脱離性印刷層形成用の液状組成物、積層体、及び印刷層の脱離方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/102 20140101AFI20240829BHJP
C09D 11/107 20140101ALI20240829BHJP
C09D 11/08 20060101ALI20240829BHJP
C09D 101/08 20060101ALI20240829BHJP
C09D 177/00 20060101ALI20240829BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20240829BHJP
C09D 127/06 20060101ALI20240829BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20240829BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C09D11/102
C09D11/107
C09D11/08
C09D101/08
C09D177/00
C09D175/04
C09D127/06
C09D133/00
C09D5/00 Z
(21)【出願番号】P 2024054163
(22)【出願日】2024-03-28
【審査請求日】2024-04-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】山本 渚
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-80724(JP,A)
【文献】特開2023-36097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱離性印刷層形成用の液状組成物を調製するための樹脂組成物であって、
バインダー樹脂(A)、酸価が60~300mgKOH/gである脱離性を付与するための樹脂(B)、及び酸価が10~55mgKOH/gであり、アミン価が15mgKOH/g以下である
、前記バインダー樹脂(A)及び前記樹脂(B)以外の樹脂(C)を含有し、
前記バインダー樹脂(A)が、下記(A-1)、(A-2)、及び(A-3)のいずれかの組み合わせ
からなり、
前記樹脂(B)が、ロジン-マレイン酸樹脂、スチレン-アクリル酸樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂、水素添加ロジン樹脂、及びテルペンフェノール樹脂からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記樹脂(C)が、カルボン酸化合物、燐酸エステル化合物、ホスホン酸化合物、ホスフィン酸化合物、及び前記燐酸エステル化合物以外の酸のアルキルエステル化合物からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記樹脂(B)の含有量が、固形分(但し、顔料を除く)を基準として、2~20質量%であり、
前記樹脂(C)の含有量が、固形分(但し、顔料を除く)を基準として、2~20質量%であり、
前記樹脂(B)1質量部に対する、前記樹脂(C)の含有量が、0.3~3.2質量部である樹脂組成物。
(A-1)
セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、及びニトロセルロースからなる群より選択される少なくとも一種のセルロース樹脂と
、
酸価が30mgKOH/g以下、アミン価が30mgKOH/g以下であるポリアミド樹脂
と、の組み合わせ
(A-2)
アミン価が10mgKOH/g以下であるポリウレタン樹脂と
、
ガラス転移温度が40~110℃、数平均分子量が10,000~100,000である塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂
と、の組み合わせ
(A-3)
セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、及びニトロセルロースからなる群より選択される少なくとも一種のセルロース樹脂と
、
酸価が30mgKOH/g以下、重量平均分子量が10,000~300,000、ガラス転移温度が5~100℃である(メタ)アクリル樹脂
と、の組み合わせ
【請求項2】
硬化剤をさらに含有する請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
バインダー樹脂(A)、酸価が60~300mgKOH/gである脱離性を付与するための樹脂(B)、及び酸価が10~55mgKOH/gであり、アミン価が15mgKOH/g以下である
、前記バインダー樹脂(A)及び前記樹脂(B)以外の樹脂(C)を含有し、
前記バインダー樹脂(A)が、下記(A-1)、(A-2)、及び(A-3)のいずれかの組み合わせ
からなり、
前記樹脂(B)が、ロジン-マレイン酸樹脂、スチレン-アクリル酸樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂、水素添加ロジン樹脂、及びテルペンフェノール樹脂からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記樹脂(C)が、カルボン酸化合物、燐酸エステル化合物、ホスホン酸化合物、ホスフィン酸化合物、及び前記燐酸エステル化合物以外の酸のアルキルエステル化合物からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記樹脂(B)の含有量が、固形分(但し、顔料を除く)を基準として、2~20質量%であり、
前記樹脂(C)の含有量が、固形分(但し、顔料を除く)を基準として、2~20質量%であり、
前記樹脂(B)1質量部に対する、前記樹脂(C)の含有量が、0.3~3.2質量部である脱離性印刷層形成用の液状組成物。
(A-1)
セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、及びニトロセルロースからなる群より選択される少なくとも一種のセルロース樹脂と
、
酸価が30mgKOH/g以下、アミン価が30mgKOH/g以下であるポリアミド樹脂
と、の組み合わせ
(A-2)
アミン価が10mgKOH/g以下であるポリウレタン樹脂と
、
ガラス転移温度が40~110℃、数平均分子量が10,000~100,000である塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂
と、の組み合わせ
(A-3)
セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、及びニトロセルロースからなる群より選択される少なくとも一種のセルロース樹脂と
、
酸価が30mgKOH/g以下、重量平均分子量が10,000~300,000、ガラス転移温度が5~100℃である(メタ)アクリル樹脂
と、の組み合わせ
【請求項4】
硬化剤をさらに含有する請求項
3に記載の液状組成物。
【請求項5】
インキ、メヂウム、プライマー、又はオーバーコートニスである請求項
3に記載の液状組成物。
【請求項6】
樹脂製の基材と、前記基材上に配置される、請求項
3~
5のいずれか一項に記載の液状組成物で形成された印刷層と、を備える積層体。
【請求項7】
ラベル又は包装材である請求項
6に記載の積層体。
【請求項8】
請求項
6に記載の積層体の前記印刷層にアルカリ水溶液を接触させて、前記基材から前記印刷層を脱離させて除去する工程を有する印刷層の脱離方法。
【請求項9】
前記印刷層を除去した前記基材を回収する工程をさらに有する請求項
8に記載の印刷層の脱離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、脱離性印刷層形成用の液状組成物、積層体、及び印刷層の脱離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック素材で形成された各種容器は、食料品、清涼飲料水、化粧料、調味料、医薬品、衛生用品等を収容する容器として広く使用されている。そして、これらの容器の表面には、通常、商品名、内容物、及び製造元等の各種情報がインキにより直接印刷されたり、各種情報が印刷された樹脂製のラベルが貼付されたりしている。また、パン、おにぎり、お惣菜等を収容するための樹脂製の袋の表面にも、通常、商品名等の各種情報がインキで印刷されている。
【0003】
地球環境保護等の観点から、これらの容器、ラベル、及び袋等の各種成形品(基材)を回収及び再生加工し、二次製品として多く利用するようになっている。しかし、これらの基材表面には、上述の通り、各種の情報がインキによって印刷されている。このため、樹脂製の成形品やラベルを再生加工及び再利用する際には、これらの表面に付与されたインキを予め脱離させておく必要がある。
【0004】
これまでに、アルカリ水溶液で処理することで脱離しうる印刷層を印刷可能なインキが提案されている。例えば、鹸化することで水溶解性等となる、不飽和カルボン酸の低級アルキルエステル単位を含有する共重合体を含有する脱離性のインキ組成物が提案されている(特許文献1)。また、バインダー樹脂と、ロジン-マレイン酸樹脂等の樹脂とを含有する脱離性のインキ組成物が提案されている(特許文献2)。さらに、着色剤、顔料誘導体等の分散剤、及び酸性基を有するバインダー樹脂を含有する、脱離性の印刷層を形成するための印刷インキ、並びにこの印刷インキで形成された印刷層を備える包装材が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-86951号公報
【文献】特開2001-31899号公報
【文献】特開2023-36097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アルカリ水溶液の処理による印刷層の脱離性について、これまでに種々検討されてきた。しかし、特許文献1~3等で提案された従来のインキ組成物等を用いて形成した印刷層は、温和な条件では必ずしも脱離が容易であるとはいえず、厳しい条件が要求される場合があった。また、従来のインキ組成物等を用いて形成される脱離性の印刷層の耐ブロッキング性、耐熱性、光沢性、及び耐湿摩擦性等の諸特性については必ずしも十分であるとはいえず、さらなる改善が求められていた。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、温和なアルカリ条件下で容易に脱離しうる、耐ブロッキング性、耐熱性、光沢性、及び耐湿摩擦性に優れた印刷層を形成することが可能な脱離性印刷層形成用の液状組成物を調製するための樹脂組成物を提供することにある。
【0008】
また、本発明の課題とすることは、温和なアルカリ条件下で容易に脱離しうる、耐ブロッキング性、耐熱性、光沢性、及び耐湿摩擦性に優れた印刷層を形成することが可能な脱離性印刷層形成用の液状組成物を提供することにある。さらに、本発明の課題とするところは、上記の脱離性印刷層形成用の液状組成物で形成された印刷層を備える積層体、及びこの積層体から印刷層を脱離させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下に示す樹脂組成物が提供される。
[1]脱離性印刷層形成用の液状組成物を調製するための樹脂組成物であって、バインダー樹脂(A)、酸価が60~300mgKOH/gである脱離性を付与するための樹脂(B)、及び酸価が10~55mgKOH/gであり、アミン価が15mgKOH/g以下である樹脂(C)を含有し、前記バインダー樹脂(A)が、下記(A-1)、(A-2)、及び(A-3)のいずれかの組み合わせであり、前記樹脂(B)の含有量が、固形分(但し、顔料を除く)を基準として、2~20質量%であり、前記樹脂(C)の含有量が、固形分(但し、顔料を除く)を基準として、2~20質量%であり、前記樹脂(B)1質量部に対する、前記樹脂(C)の含有量が、0.3~3.2質量部である樹脂組成物。
(A-1)セルロース樹脂とポリアミド樹脂の組み合わせ
(A-2)ポリウレタン樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂の組み合わせ
(A-3)セルロース樹脂と(メタ)アクリル樹脂の組み合わせ
[2]前記樹脂(B)が、ロジン-マレイン酸樹脂、スチレン-アクリル酸樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂、水素添加ロジン樹脂、及びテルペンフェノール樹脂からなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]に記載の樹脂組成物。
[3]前記樹脂(C)が、カルボン酸化合物、燐酸エステル化合物、ホスホン酸化合物、ホスフィン酸化合物、及び酸のアルキルエステル化合物からなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4]硬化剤をさらに含有する前記[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0010】
また、本発明によれば、以下に示す脱離性印刷層形成用の液状組成物が提供される。
[5]バインダー樹脂(A)、酸価が60~300mgKOH/gである脱離性を付与するための樹脂(B)、及び酸価が10~55mgKOH/gであり、アミン価が15mgKOH/g以下である樹脂(C)を含有し、前記バインダー樹脂(A)が、下記(A-1)、(A-2)、及び(A-3)のいずれかの組み合わせであり、前記樹脂(B)の含有量が、固形分(但し、顔料を除く)を基準として、2~20質量%であり、前記樹脂(C)の含有量が、固形分(但し、顔料を除く)を基準として、2~20質量%であり、前記樹脂(B)1質量部に対する、前記樹脂(C)の含有量が、0.3~3.2質量部である脱離性印刷層形成用の液状組成物。
(A-1)セルロース樹脂とポリアミド樹脂の組み合わせ
(A-2)ポリウレタン樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂の組み合わせ
(A-3)セルロース樹脂と(メタ)アクリル樹脂の組み合わせ
[6]前記樹脂(B)が、ロジン-マレイン酸樹脂、スチレン-アクリル酸樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂、水素添加ロジン樹脂、及びテルペンフェノール樹脂からなる群より選択される少なくとも一種である前記[5]に記載の液状組成物。
[7]前記樹脂(C)が、カルボン酸化合物、燐酸エステル化合物、ホスホン酸化合物、ホスフィン酸化合物、及び酸のアルキルエステル化合物からなる群より選択される少なくとも一種である前記[5]又は[6]に記載の液状組成物。
[8]硬化剤をさらに含有する前記[5]~[7]のいずれかに記載の液状組成物。
[9]インキ、メヂウム、プライマー、又はオーバーコートニスである前記[5]~[8]のいずれかに記載の液状組成物。
【0011】
さらに、本発明によれば、以下に示す積層体が提供される。
[10]樹脂製の基材と、前記基材上に配置される、前記[5]~[9]のいずれかに記載の液状組成物で形成された印刷層と、を備える積層体。
[11]ラベル又は包装材である前記[10]に記載の積層体。
【0012】
また、本発明によれば、以下に示す印刷層の脱離方法が提供される。
[12]前記[10]又は[11]に記載の積層体の前記印刷層にアルカリ水溶液を接触させて、前記基材から前記印刷層を脱離させて除去する工程を有する印刷層の脱離方法。
[13]前記印刷層を除去した前記基材を回収する工程をさらに有する前記[12]に記載の印刷層の脱離方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、温和なアルカリ条件下で容易に脱離しうる、耐ブロッキング性、耐熱性、光沢性、及び耐湿摩擦性に優れた印刷層を形成することが可能な脱離性印刷層形成用の液状組成物を調製するための樹脂組成物を提供することができる。
【0014】
また、本発明によれば、温和なアルカリ条件下で容易に脱離しうる、耐ブロッキング性、耐熱性、光沢性、及び耐湿摩擦性に優れた印刷層を形成することが可能な脱離性印刷層形成用の液状組成物を提供することができる。さらに、本発明によれば、上記の脱離性印刷層形成用の液状組成物で形成された印刷層を備える積層体、及びこの積層体から印刷層を脱離させる方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明者は、樹脂製の各種成形品(基材)の表面に付与して印刷層を形成可能であるとともに、形成した印刷層がアルカリ条件で処理することで容易に脱離しうる、インキ、メヂウム、プライマー、及びオーバーコートニス等の液状組成物について検討した。その結果、2種の樹脂を組み合わせた特定のバインダー樹脂と、酸価が特定の範囲内にある、印刷層に脱離性を付与するための樹脂と、酸価及びアミン価が特定の範囲内にある樹脂と、を所定の量比で組み合わせた場合に、脱離性だけでなく、耐ブロッキング性、耐熱性、光沢性、及び耐湿摩擦性等の諸特性も向上した印刷層を形成可能となることを見出し、本発明に至った。
【0016】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物の一実施形態は、脱離性印刷層形成用の液状組成物を調製するための組成物であり、バインダー樹脂(A)と、形成される印刷層にアルカリによる脱離性を付与するための樹脂(B)と、バインダー樹脂(A)及び樹脂(B)以外の樹脂(C)とを含有する。バインダー樹脂(A)は、下記(A-1)、(A-2)、及び(A-3)のいずれかの組み合わせである。樹脂(B)の酸価は、60~300mgKOH/gである。樹脂(C)の酸価は10~55mgKOH/gであり、アミン価は15mgKOH/g以下である。樹脂(B)の含有量は、固形分(但し、顔料を除く)を基準として、2~20質量%である。樹脂(C)の含有量は、固形分(但し、顔料を除く)を基準として、2~20質量%である。そして、樹脂(B)1質量部に対する、樹脂(C)の含有量は、0.3~3.2質量部である。以下、本実施形態の樹脂組成物の詳細について説明する。
(A-1)セルロース樹脂とポリアミド樹脂の組み合わせ
(A-2)ポリウレタン樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂の組み合わせ
(A-3)セルロース樹脂と(メタ)アクリル樹脂の組み合わせ
【0017】
(バインダー樹脂(A))
バインダー樹脂(A)は、下記(A-1)、(A-2)、及び(A-3)のいずれかの組み合わせである。特定の2種の樹脂を組み合わせてバインダー樹脂(A)として用いることで、ラベルや包装体等に設けられる種々の印刷層に応じて要求される特性を付与することができる。
(A-1)セルロース樹脂とポリアミド樹脂の組み合わせ
(A-2)ポリウレタン樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂の組み合わせ
(A-3)セルロース樹脂と(メタ)アクリル樹脂の組み合わせ
【0018】
(バインダー樹脂(A))
(A-1)は、セルロース樹脂とポリアミド樹脂の組み合わせである。セルロース樹脂とポリアミド樹脂を組み合わせることで、例えば、形成される印刷層の耐熱性、耐ブロッキング性、耐摩擦性、密着性、及び光沢性等の特性の向上が期待される。
【0019】
(A-2)は、ポリウレタン樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂の組み合わせである。ポリウレタン樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂を組み合わせることで、例えば、形成される印刷層の密着性、耐熱性、及び耐ブロッキング性等の特性の向上が期待される。
【0020】
(A-3)は、セルロース樹脂と(メタ)アクリル樹脂の組み合わせである。セルロース樹脂と(メタ)アクリル樹脂を組み合わせることで、例えば、形成される印刷層の密着性、耐熱性、及び耐ブロッキング性等の特性の向上が期待される。
【0021】
[セルロース樹脂]
セルロース樹脂としては、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートプロピオネート、及びセルロースアセテートブチレート等のセルロースエステル;メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロース等のセルロースエーテル;ニトロセルロース;等を挙げることができる。また、セルロース樹脂としては、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、及びニトロセルロースが好ましい。なかでも、セルロース樹脂としてはニトロセルロースが特に好ましい。また、(A-3)の組み合わせ中のセルロース樹脂としては、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)及びセルロースアセテートブチレート(CAB)が特に好ましい。
【0022】
[ポリアミド樹脂]
ポリアミド樹脂は、多塩基酸と多価アミンとの重縮合物である。なかでも、有機溶剤に可溶な熱可塑性ポリアミド樹脂を好適に用いることができる。
【0023】
多塩基酸としては、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、スベリン酸、グルタル酸、フマル酸、ピメリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、テレフタル酸、1,4-シクロヘキシルジカルボン酸、トリメリット酸、ダイマー酸、及び水添ダイマー酸等を挙げることができる。これらの多塩基酸とともに、酢酸、プロピオン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、安息香酸、及びシクロヘキサンカルボン酸等のモノカルボン酸を用いることもできる。
【0024】
多価アミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、及びメチルアミノプロピルアミン等の脂肪族ジアミン;ジエチレントリアミン及びトリエチレンテトラミン等の脂肪族ポリアミン;シクロヘキシレンジアミン及びイソホロンジアミン等の脂環族ポリアミン;キシリレンジアミン、フェニレンジアミン、及びジアミノジフェニルメタン等の芳香族ポリアミン;等のポリアミンを用いることができる。これらの多価アミンとともに、n-ブチルアミン、オクチルアミン、ジエルアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジエタノールアミン、及びジプロパノールアミン等の一級モノアミン及び二級モノアミンを用いることもできる。
【0025】
ポリアミド樹脂の具体例としては、植物性材料から調製される脂肪酸や重合脂肪酸を用いて得られる熱可塑性ポリアミド樹脂を挙げることができる。植物性材料から調製される脂肪酸の代表例としては、トール油、大豆油、やし油、パーム油、カシューナッツオイル、米ぬか油、及びカカオ油等を挙げることができる。また、重合脂肪酸としては、ダイマー酸や、ダイマー酸を水素還元して得られる水添ダイマー酸等を挙げることができる。
【0026】
ポリアミド樹脂の重量平均分子量は、500~50,000であることが好ましく、700~30,000であることがさらに好ましく、1,000~10,000であることが特に好ましい。ポリアミド樹脂の重量平均分子量が小さすぎると、印刷層の耐摩擦性や耐熱性がやや低下する場合がある。一方、ポリアミド樹脂の重量平均分子量が大きすぎると、印刷層の基材に対する密着性や溶解性がやや低下する場合がある。本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される標準ポリスチレン換算の値である。
【0027】
ポリアミド樹脂の酸価は、30mgKOH/g以下であることが好ましく、20mgKOH/g以下であることがさらに好ましく、15mgKOH/g以下であることが特に好ましい。ポリアミド樹脂の酸価が高すぎると、インキ等の液状組成物の安定性がやや低下する場合がある。
【0028】
ポリアミド樹脂のアミン価は、30mgKOH/g以下であることが好ましく、20mgKOH/g以下であることがさらに好ましく、15mgKOH/g以下であることが特に好ましい。ポリアミド樹脂のアミン価が高すぎると、印刷適性がやや低下する場合がある。
【0029】
ポリアミド樹脂の軟化点は、80~160℃であることが好ましく、85~150℃であることがさらに好ましく、90~140℃であることが特に好ましい。ポリアミド樹脂の軟化点が低すぎると、印刷層の耐熱性や耐ブロッキング性がやや低下する場合がある。ポリアミド樹脂の軟化点が高すぎると、基材に対する密着性がやや低下する場合がある。本明細書における軟化点は、JIS K 2207に準拠して測定される値である。
【0030】
[ポリウレタン樹脂]
ポリウレタン樹脂としては、ポリオールとポリイソシアネートを重合して得られる、有機溶剤に可溶な熱可塑性ポリウレタン樹脂を好適に用いることができる。ポリウレタン樹脂は、従来公知の方法にしたがって製造することができる。例えば、ジイソシアネート化合物とポリオール化合物との反応物であるウレタンプレポリマーに、必要に応じて鎖伸長剤及び反応停止剤を反応させて得られたものを用いることができる。
【0031】
ジイソシアネート化合物としては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4-ジフェニルエーテルジイソシアネート、2-ニトロジフェニル-4,4-ジイソシアネート、2,2-ジフェニルプロパン-4,4-ジイソシアネート、3,3-ジメチルジフェニルメタン-4,4-ジイソシアネート、4,4-ジフェニルプロパンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、ナフチレン-1,4-ジイソシアネート、ナフチレン-1,5-ジイソシアネート、及び3,3-ジメトキシジフェニル-4,4-ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、水添化トリレンジイソシアネート、水添化キシリレンジイソシアネート、及び水添化ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート;等を挙げることができる。
【0032】
ポリオール化合物としては、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリエーテルポリオール等を挙げることができる。
【0033】
ポリエステルポリオールとしては、多価カルボン酸類と、多価アルコール類又は第2~3級アミン類との脱水重縮合反応で得られる、ポリエステルポリオールやポリエステルアミドポリオールを挙げることができる。
【0034】
多価カルボン酸類としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロオルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、及びトリメリット酸等のポリカルボン酸;ポリカルボン酸エステル;ポリカルボン酸無水物;等を挙げることができる。
【0035】
多価アルコール類としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキシド又はプロピレンオキシド付加物、トリメチロールプロパン、グリセリン、及びペンタエリスリトール等の低分子アルコール化合物;モノエタノールアミン及びジエタノールアミン等の低分子アミノアルコール化合物;等を挙げることができる。
【0036】
第2~3級アミン類としては、ヘキサメチレンジアミン、キシリレンジアミン、及びイソホロンジアミン等の低分子アミン化合物等を挙げることができる。
【0037】
ポリエステルポリオールとしては、低分子アルコール化合物及び低分子アミノアルコール化合物等を開始剤として、ε-カプロラクトン及びγ-バレロラクトン等の環状エステル(ラクトン)モノマーを開環重合して得られるラクトン系ポリエステルポリオールを用いることもできる。
【0038】
ポリカーボネートポリオールとしては、ポリエステルポリオールの合成に用いられる低分子アルコール化合物とホスゲンとの脱塩酸反応で得られるもの;この低分子アルコール化合物と、ジエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びジフェニルカーボネート等とのエステル交換反応で得られるもの;等を挙げることができる。
【0039】
ポリエーテルポリオールとしては、前述の低分子アルコール化合物、低分子アミン化合物、低分子アミノアルコール化合物、及びフェノール類等を開始剤として、エチレンオキシド、プロピレンオキシド及びブチレンオキシド等のアルキレンオキシドやテトラヒドロフラン等を開環重合させたポリオキシエチレンポリオール、ポリオキシプロピレンポリオール、ポリテトラメチレンエーテルポリオール、及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオール等を挙げることができる。さらに、前述のポリエステルポリオールやポリカーボネートポリオールを開始剤とするポリエステルエーテルポリオールを挙げることができる。
【0040】
鎖伸長剤としては、イソシアネート基との反応可能な官能基(アミノ基及び水酸基等)を分子内に2以上有する化合物を用いることができる。鎖伸長剤としては、エチレンジアミン、1,3-プロピレンジアミン、1,4-ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、及び2-エチルアミノエチルアミン等のジアミン化合物;ジエチレントリアミン、及びトリエチレンテトラミン等のポリアミン化合物;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、及びトリエチレングリコール等の低分子ジオール化合物;アミノエチルエタノールアミン;アミノプロピルエタノールアミン;等を挙げることができる。
【0041】
反応停止剤としては、n-プロピルアミン及びn-ブチルアミン等のモノアルキルアミン;ジ-n-ブチルアミン等のジアルキルアミン;モノエタノールアミン及びジエタノールアミン等のアルカノールアミン;メタノール及びエタノール等のモノアルコール;等を挙げることができる。
【0042】
ポリウレタン樹脂の数平均分子量は、3,000~50,000であることが好ましく、4,000~30,000であることがさらに好ましく、5,000~20,000であることが特に好ましい。ポリウレタン樹脂の数平均分子量が小さすぎると、印刷層の耐ブロッキング性や耐熱性がやや低下する場合がある。ポリウレタン樹脂の数平均分子量が大きすぎると、基材に対する密着性がやや低下する場合がある。本明細書における数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される標準ポリスチレン換算の値である。
【0043】
ポリウレタン樹脂の水酸基価は、50mgKOH/g以下であることが好ましく、30mgKOH/g以下であることがさらに好ましく、20mgKOH/g以下であることが特に好ましい。ポリウレタン樹脂の水酸基価が大きすぎると、インキ等の液体組成物の安定性や、印刷層の耐ブロッキング性がやや低下する場合がある。本明細書における水酸基価は、JIS K 1557-1に準拠して測定される値である。
【0044】
ポリウレタン樹脂のアミン価は、10mgKOH/g以下であることが好ましく、5mgKOH/g以下であることがさらに好ましく、3mgKOH/g以下であることが特に好ましい。ポリウレタン樹脂のアミン価が大きすぎると、印刷適性がやや低下する場合がある。本明細書におけるアミン価は、JIS K 7237に準拠した、塩酸を用いた中和滴定により測定される値である。
【0045】
ポリウレタン樹脂の酸価は、20mgKOH/g以下であることが好ましく、15mgKOH/g以下であることがさらに好ましく、10mgKOH/g以下であることが特に好ましい。ポリウレタン樹脂の酸価が大きすぎると、インキ等の液体組成物の安定性や、印刷層の耐ブロッキング性等がやや低下する場合がある。本明細書における酸価は、JIS K 0070-1992に準拠した中和滴定法により測定される値である。
【0046】
[塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂]
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂(以下、「塩ビ-酢ビ樹脂」とも記す)は、塩化ビニルと酢酸ビニルとの共重合反応生成物である。塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂は、必要に応じて、塩化ビニルに由来する構成単位及び酢酸ビニルに由来する構成単位以外の構成単位(その他の構成単位)を含んでいてもよい。その他の構成単位を含む塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂としては、塩化ビニル-酢酸ビニル-ビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル-(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル共重合樹脂、及び塩化ビニル-酢酸ビニル-ジカルボン酸共重合樹脂等を挙げることができる。なかでも、塩化ビニル-酢酸ビニル-ビニルアルコール共重合樹脂を用いることが好ましい。
【0047】
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂中、塩化ビニルに由来する構成単位の含有量は、50~98質量%であることが好ましく、70~98質量%であることがさらに好ましく、80~95質量%であることが特に好ましい。塩化ビニルに由来する構成単位の含有量が少なすぎると、印刷層の耐ブロッキング性がやや低下する場合がある。一方、塩化ビニルに由来する構成単位の含有量が多すぎると、印刷層の基材に対する密着性及び耐もみ性がやや低下する場合がある。
【0048】
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂中、酢酸ビニルに由来する構成単位の含有量は、0.1~20質量%であることが好ましく、0.3~10質量%であることがさらに好ましく、0.5~5質量%であることが特に好ましい。酢酸ビニルに由来する構成単位の含有量が少なすぎると、印刷層の基材に対する密着性及び耐もみ性がやや低下する場合がある。一方、酢酸ビニルに由来する構成単位の含有量が多すぎると、印刷層の耐ブロッキング性がやや低下する場合がある。
【0049】
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂のガラス転移温度は、40~110℃であることが好ましく、50~100℃であることがさらに好ましく、60~90℃であることが特に好ましい。塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂のガラス転移温度が低すぎると、印刷層の耐ブロッキング性及び耐熱性がやや低下する場合がある。一方、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂のガラス転移温度が高すぎると、印刷層の基材に対する密着性がやや低下する場合がある。
【0050】
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂の数平均分子量は、10,000~100,000であることが好ましく、15,000~80,000であることがさらに好ましく、20,000~50,000であることが特に好ましい。塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂の数平均分子量が小さすぎると、印刷層の耐ブロッキング性及び耐熱性がやや低下する場合がある。一方、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂の数平均分子量が大きすぎると、印刷層の基材に対する密着性がやや低下する場合がある。
【0051】
[(メタ)アクリル樹脂]
(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を主成分とする重合体である。(メタ)アクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体;複数種の(メタ)アクリル酸エステルの共重合体;(メタ)アクリル酸エステル、及び(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他の重合性単量体との共重合体;ウレタン変性アクリル系樹脂;シリコーン変性アクリル系樹脂;等を挙げることができる。本明細書における「(メタ)アクリル」は、「アクリル」及び「メタクリル」のいずれをも意味する。
【0052】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、及び(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸アラルキルエステル;(メタ)アクリル酸フェニル及び(メタ)アクリル酸ナフチル等の(メタ)アクリル酸アリールエステル;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、及び(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;等を挙げることができる。
【0053】
(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他の重合性単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、及びそれらの誘導体等のスチレン系単量体;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及びクロトン酸等の不飽和カルボン酸系単量体;アクリルアミド;メタクリルアミド;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;等を挙げることができる。
【0054】
(メタ)アクリル樹脂は、水酸基を有することが好ましく、アクリルポリオールであることが好ましい。(メタ)アクリル樹脂の水酸基価は、1~130mgKOH/gであることが好ましく、10~120mgKOH/gであることがさらに好ましく、50~110mgKOH/gであることが特に好ましい。(メタ)アクリル樹脂の水酸基価が低すぎると、印刷層の基材に対する密着性がやや低下する場合がある。一方、(メタ)アクリル樹脂の水酸基価が高すぎると、インキ等の液状組成物の安定性や、印刷層の耐ブロッキング性がやや低下する場合がある。
【0055】
(メタ)アクリル樹脂の酸価は、30mgKOH/g以下であることが好ましく、20mgKOH/g以下であることがさらに好ましく、10mgKOH/g以下であることが特に好ましい。(メタ)アクリル樹脂の酸価が高すぎると、インキ等の液状組成物の安定性がやや低下する場合がある。
【0056】
(メタ)アクリル樹脂のガラス転移温度は、5~100℃であることが好ましく、10~70℃であることがさらに好ましく、15~40℃であることが特に好ましい。(メタ)アクリル樹脂のガラス転移温度が低すぎると、印刷層の耐ブロッキング性及び耐熱性がやや低下する場合がある。一方、(メタ)アクリル樹脂のガラス転移温度が高すぎると、印刷層の基材に対する密着性がやや低下する場合がある。
【0057】
(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量は、10,000~300,000であることが好ましく、20,000~280,000であることがさらに好ましく、40,000~250,000であることが特に好ましい。(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量が小さすぎると、印刷層の耐ブロッキング性及び耐熱性がやや低下する場合がある。一方、(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量が大きすぎると、印刷層の基材に対する密着性がやや低下する場合がある。
【0058】
バインダー樹脂(A)の含有量は、使用目的等に応じて適宜設定すればよい。例えば、バインダー樹脂(A)の含有量は、固形分を基準として、40~90質量%であることが好ましく、50~80質量%であることがさらに好ましく、60~70質量%であることが特に好ましい。バインダー樹脂(A)の含有量を上記の範囲とすることで、印刷層の密着性をより向上させることができる。
【0059】
(樹脂(B))
樹脂(B)は、形成される印刷層にアルカリによる脱離性を付与するための成分であり、その酸価が60~300mgKOH/gである比較的高酸価の樹脂である。このような樹脂(B)を用いることで、アルカリ処理によって脱離しうる印刷層を形成することができる。
【0060】
樹脂(B)の酸価は60~300mgKOH/gであり、好ましくは70~270mgKOH/g、さらに好ましくは80~230mgKOH/gであり、耐ブロッキング性、耐熱性、及び耐湿摩擦性の観点から、特に好ましくは85~200mgKOH/gである。樹脂(B)の酸価が60mgKOH/g未満であると、PET、ナイロンにおけるアルカリ処理による印刷層の脱離性を向上させることが困難になる。一方、樹脂(B)の酸価が300mgKOH/g超であると、インキ等の液状組成物の安定性が低下するとともに、印刷層の耐湿摩擦性及び耐水性が低下する。また、硬化剤等の架橋剤を添加したインキ等の液状組成物の安定性が低下しやすくなる。樹脂(B)の酸価を上記範囲とすることで、耐ブロッキング性、耐熱性、耐湿摩擦性、脱離性を向上させることができる。
【0061】
樹脂(B)としては、耐湿摩擦性を向上させる観点からロジン-マレイン酸樹脂、スチレン-アクリル酸樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂、水素添加ロジン樹脂、及びテルペンフェノール樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を用いることが特に好ましい。なかでも、ロジン-マレイン酸樹脂、スチレン-アクリル酸樹脂、及びスチレン-マレイン酸樹脂、テルペンフェノール樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。そして、アルカリ処理による印刷層の脱離性及び印刷層の光沢性をバランスよく向上させる観点から、樹脂(B)はロジン-マレイン酸樹脂であることがさらに好ましい。
【0062】
ロジン-マレイン酸樹脂(以下、「ロジン変性マレイン酸樹脂」とも記す)としては、公知のロジン-マレイン酸系樹脂を用いることができる。ロジン-マレイン酸樹脂としては、ロジンに無水マレイン酸を付加して得られる樹脂、及びこの樹脂をポリオールで部分エステル化した樹脂等を挙げることができる。
【0063】
スチレン-アクリル酸樹脂は、スチレン系モノマーとアクリル系モノマーの共重合体である。スチレン-アクリル酸樹脂としては、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、及びスチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体等を挙げることができる。
【0064】
スチレン-マレイン酸樹脂としては、スチレン及びスチレン誘導体からなる群より選択される少なくとも一種のスチレン系モノマーと、マレイン酸及びマレイン酸誘導体からなる群より選択される少なくとも1種のマレイン酸系モノマーとで構成される共重合体等を挙げることができる。
【0065】
水素添加ロジン樹脂としては、ロジン樹脂(アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、ピマール酸、イソピマール酸、及びデヒドロアビエチン酸等の樹脂酸を主成分とするトールロジン、ガムロジン、及びウッドロジン等)の水素添加反応物等を挙げることができる。
【0066】
テルペンフェノール樹脂は、テルペン類とフェノール化合物の共重合体である。テルペン類としては、α-ピネン、β-ピネン、及びリモネン(d体、l体、及びd/l体(ジペンテン)を包含する)等のモノテルペン類を挙げることができる。
【0067】
樹脂(B)の含有量は固形分(但し、顔料を除く)を基準として、2~20質量%であり、好ましくは3~17質量%、さらに好ましくは5~15質量%、耐ブロッキング性、光沢性、耐熱性、及び耐湿摩擦性の観点から、特に好ましくは5.5~10質量%である。樹脂(B)の固形分(但し、顔料を除く)を基準とした含有量が2質量%未満であると、PETにおける脱離性が劣る。一方、樹脂(B)の固形分(但し、顔料を除く)を基準とした含有量が20質量%超であると耐ブロッキング性、耐熱性、及び耐湿摩擦性が劣る。樹脂(B)の固形分(但し、顔料を除く)を基準とした含有量を上記の範囲とすることで、印刷層の耐ブロッキング性、耐熱性、耐湿摩擦性、光沢性、及び脱離性を向上させることができる。
【0068】
(樹脂(C))
樹脂(C)は、バインダー樹脂(A)及び樹脂(B)以外の樹脂であり、印刷層の脱離性の向上に寄与する成分である。なお、本実施形態の樹脂組成物を用いて調製される脱離性印刷層形成用の液状組成物が、顔料等の液媒体に不溶な成分(不溶性成分)を含有する場合には、樹脂(C)は、液媒体中における不溶性成分の分散性を向上させるための分散剤としても機能しうる成分である。
【0069】
樹脂(C)の酸価は10~55mgKOH/g以下であり、好ましくは10~50mgKOH/g、さらに好ましくは10~40mgKOH/gであり、耐ブロッキング性、耐熱性、及び耐湿摩擦性の観点から、特に好ましくは10~30mgKOH/gである。樹脂(C)の酸価10mgKOH/g未満であると、PET、ナイロンにおける印刷層の脱離性を向上させることが困難になる。一方、樹脂(C)の酸価が55mgKOH/g超であると、印刷層の耐ブロッキング性、耐熱性、耐湿摩擦性が低下する。樹脂(C)の酸価を上記範囲内とすることで、耐ブロッキング性、耐熱性、耐湿摩擦性、及び脱離性を向上させることができる。
【0070】
樹脂(C)のアミン価は15mgKOH/g以下であり、好ましくは13mgKOH/g以下、さらに好ましくは11mgKOH/g以下、特に好ましくは7mgKOH/g以下、脱離性が特に優れることから最も好ましくは3mgKOH/g以下である。樹脂(C)のアミン価が15mgKOH/g超であると、印刷層の耐ブロッキング性及び耐熱性が低下するとともに、PET、ナイロンにおけるアルカリ処理による印刷層の脱離性を向上させることが困難になる。樹脂(C)のアミン価の下限については特に限定されないが、実質的には0mgKOH/gであってもよい。樹脂(C)のアミン価を上記範囲とすることで、耐ブロッキング性、耐熱性、及び脱離性を向上させることができる。
【0071】
樹脂(C)としては、カルボン酸化合物、燐酸エステル化合物、ホスホン酸化合物、ホスフィン酸化合物、及び酸のアルキルエステル化合物からなる群より選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0072】
樹脂(C)としては、常法にしたがって製造したものや、市販品を用いることができる。樹脂(C)として用いることができる樹脂の市販品としては、例えば、ルーブリゾール社製のソルスパースシリーズ;BYK社製のディスパービックシリーズ;BASF社製のディスペックスシリーズ及びエフカシリーズ;エボニック社製のテゴディスパースシリーズ;楠本化成社製のディスパロンシリーズ;共栄社化学社製のフローレンシリーズ;大塚化学社製のタープラスシリーズ;味の素ファインテクノ社製のアジスパーシリーズ;等を挙げることができる。
【0073】
樹脂(C)の含有量は、固形分(但し、顔料を除く)を基準として、2~20質量%であり、好ましくは2~17質量%、耐湿摩擦性の観点からさらに好ましくは2~15質量%である。樹脂(C)の固形分(但し、顔料を除く)を基準とした含有量が2質量%未満であると、PET、ナイロンにおける脱離性が劣る。一方、樹脂(C)の固形分(但し、顔料を除く)を基準とした含有量が20質量%超であると耐湿摩擦性が劣る。樹脂(C)の含有量を上記の範囲とすることで、印刷層の耐ブロッキング性、耐熱性、耐湿摩擦性、及び脱離性を向上させることができる。
【0074】
樹脂(B)1質量部に対する、樹脂(C)の含有量は、0.3~3.2質量部である。樹脂(B)1質量部に対する樹脂(C)の含有量を上記の範囲とすることで、印刷層の耐ブロッキング性、耐熱性、光沢性、耐湿摩擦性、及び脱離性を向上させることができる。樹脂(B)1質量部に対する、樹脂(C)の含有量が0.3質量部未満であると、耐ブロッキング性、耐熱性、耐湿摩擦性、及びPET、ナイロンにおける脱離性が劣る。樹脂(B)1質量部に対する、樹脂(C)の含有量が3.2質量部超であると、耐湿摩擦性、及びPET、ナイロンにおける脱離性が劣る。
【0075】
(硬化剤)
本実施形態の樹脂組成物には、必要に応じて、硬化剤等の架橋剤をさらに含有させることができる。硬化剤としては、イソシアネート化合物、及びカルボジイミド化合物等を挙げることができる。硬化剤の含有量は、目的等に応じ適宜設定すればよい。例えば、硬化剤の含有量は、固形分を基準として5~15質量%とすることが好ましい。
【0076】
硬化剤としては、常法にしたがって製造したものや、市販品を用いることができる。硬化剤として用いることができる樹脂の市販品としては、例えば、デュラネートシリーズ(旭化成製)及びコロネートシリーズ(東ソー社製)等のイソシアネート化合物;カルボジライトシリーズシリーズ(日清紡ケミカル製)等のカルボジイミド化合物;等を挙げることができる。
【0077】
(樹脂組成物の調製方法)
本実施形態の樹脂組成物は、上述の各成分を常法にしたがって混合することによって調製することができる。また、必要に応じて、有機溶剤や各種の添加剤をさらに含有させてもよい。
【0078】
本実施形態の樹脂組成物を用いることで、後述する脱離性印刷層形成用のインキ、メジウム、プライマー、及びオーバーコートニス等の液状組成物を簡便に調製することができる。すなわち、樹脂組成物と、インキ等の液状組成物に用いられる従来公知の各成分とを常法にしたがって混合することで、温和なアルカリ条件下で容易に脱離しうる、耐ブロッキング性、耐熱性、光沢性、及び耐湿摩擦性に優れた印刷層を形成することが可能な脱離性印刷層形成用の液状組成物を調製することができる。
【0079】
<脱離性印刷層形成用の液状組成物>
本発明の液状組成物の一実施形態は、バインダー樹脂(A)と、形成される印刷層にアルカリによる脱離性を付与するための樹脂(B)と、バインダー樹脂(A)及び樹脂(B)以外の樹脂(C)とを含有する、脱離性印刷層形成用の組成物である。バインダー樹脂(A)は、下記(A-1)、(A-2)、及び(A-3)のいずれかの組み合わせである。樹脂(B)の酸価は、60~300mgKOH/gである。樹脂(C)の酸価は10~55mgKOH/gであり、アミン価は15mgKOH/g以下である。樹脂(B)の含有量は、固形分(但し、顔料を除く)を基準として、2~20質量%である。樹脂(C)の含有量は、固形分(但し、顔料を除く)を基準として、2~20質量%である。そして、樹脂(B)1質量部に対する、樹脂(C)の含有量は、0.3~3.2質量部である。
(A-1)セルロース樹脂とポリアミド樹脂の組み合わせ
(A-2)ポリウレタン樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂の組み合わせ
(A-3)セルロース樹脂と(メタ)アクリル樹脂の組み合わせ
【0080】
本実施形態の脱離性印刷層形成用の液状組成物(以下、単に「液状組成物」とも記す)は、前述の樹脂組成物と同様、特定のバインダー樹脂(A)、樹脂(B)、及び樹脂(C)を所定の含有量及び質量比等で含有するため、温和なアルカリ条件下で容易に脱離しうる、耐ブロッキング性、耐熱性、光沢性、及び耐湿摩擦性に優れた印刷層を形成することができる。なお、バインダー樹脂(A)、樹脂(B)、及び樹脂(C)等の各成分は、前述の樹脂組成物に用いるバインダー樹脂(A)、樹脂(B)、及び樹脂(C)等の各成分と同一である。
【0081】
(任意成分)
本実施形態の液状組成物には、上述のバインダー樹脂(A)、樹脂(B)、及び樹脂(C)以外の成分として、顔料、有機溶剤、及び各種の添加剤をさらに含有させることができる。
【0082】
[顔料]
顔料としては、グラビア印刷インキ等のインキに用いられる一般的な顔料を用いることができる。顔料としては、群青、紺青、コバルトブルー、ベンガラ、鉄黒、黄色酸化鉄、二酸化チタン、及びカーボンブラック等の無機顔料;モノアゾ系顔料、ジスアゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、アンスラキノン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、及びピロロピロール系顔料等の有機顔料;を挙げることができる。
【0083】
液状組成物中の顔料の含有量は、形成しようとする印刷層(印刷物)の色調や濃度等に応じて適宜設定すればよい。具体的には、顔料の含有量は、液状組成物全体を基準として、通常40質量%以下であり、好ましくは30質量%以下である。
【0084】
[有機溶剤]
液状組成物には、溶媒又は分散媒として有機溶剤を含有させることができる。有機溶剤としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、及びトルエン等を挙げることができる。
【0085】
液状組成物中の有機溶剤の含有量は、印刷方法等に応じて適宜設定すればよい。具体的には、有機溶剤の含有量は、液状組成物全体を基準として、通常20~60質量%であり、好ましくは30~50質量%である。
【0086】
[添加剤]
液状組成物には、粘度や流動性等の液状組成物の特性を維持するため、印刷層(印刷面)を可塑化するため、及び印刷層(印刷面)に滑り性を付与するため、体質顔料、ワックス、及び可塑剤等の添加剤を含有させることができる。
【0087】
体質顔料としては、アルミナホワイト、タルク、沈降性硫酸バリウム、及び炭酸カルシウム等を挙げることができる。ワックスとしては、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、パラフィンワックス、カルナウバワックス、及びオゾケライト等を挙げることができる。可塑剤としては、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、アジピン酸ジオクチル、及びクエン酸トリエチル等を挙げることができる。
【0088】
液状組成物にワックスを含有させることで、形成される印刷層の耐摩擦性を向上させることができるために好ましい。液状組成物中のワックスの含有量は、液状組成物の全体を基準として、1~3質量%とすることが好ましく、1.5~2.5質量%とすることがさらに好ましい。
【0089】
(硬化剤)
本実施形態の液状組成物には、必要に応じて、硬化剤等の架橋剤をさらに含有させることができる。樹脂組成物に含有させることができる前述の硬化剤と同様のものを挙げることができる。硬化剤の含有量は、目的等に応じ適宜設定すればよい。例えば、液状組成物中の硬化剤の含有量は、液状組成物の全体を基準として、1~10質量%とすることが好ましい。
【0090】
(液状組成物の調製方法)
本実施形態の液状組成物は、上述の各成分を常法にしたがって混合することによって調製することができる。
【0091】
また、バインダー樹脂(A)を含有するインキ、メジウム、プライマー、及びオーバーコートニス等の一般的な非脱離性の印刷用液状組成物に、前述の樹脂(B)及び樹脂(C)を所定の含有量及び質量比となるように添加することで、本実施形態の液状組成物を調製することができる。すなわち、前述の樹脂(B)及び樹脂(C)を非脱離性のインキ等の液状組成物に適切に添加することで、非脱離性のインキ等の液状組成物を、脱離性の液状組成物へと変換することができる。
【0092】
さらに、脱離性印刷層形成用の液状組成物を調製するための前述の樹脂組成物(本実施形態の樹脂組成物)に、インキ、メジウム、プライマー、及びオーバーコートニス等の一般的な印刷用の液状組成物に配合される各種成分を添加することによっても、本実施形態の液状組成物を調製することができる。
【0093】
本実施形態の液状組成物は、インキ、メヂウム、プライマー、及びオーバーコートニスとして用いることができる。すなわち、液状組成物は、顔料等の着色剤を含有するインキとしてだけでなく、顔料を実質的に含有しないメヂウム、プライマー、及びオーバーコートニスとしても好適に用いることができる。なお、顔料を含有するインキと、顔料を含有しないメヂウム、プライマー、又はオーバーコートニスとを組み合わせて用いて印刷物を製造することができる。なかでも、顔料以外の成分の組成が同一であるインキと、メヂウム、プライマー、又はオーバーコートニス等とを組み合わせて用いることが、相溶性の観点から好ましい。
【0094】
<積層体>
本発明の積層体の一実施形態は、樹脂製の基材と、基材上に配置される、前述の脱離性印刷層形成用の液状組成物で形成された印刷層とを備える。すなわち、前述の液状組成物を用いることで、温和なアルカリ条件で処理することによって容易に脱離しうる脱離性の印刷層が形成された積層体を得ることができる。また、前述の液状組成物で形成された印刷層は、脱離性に優れているだけでなく、耐ブロッキング性、耐熱性、光沢性、及び耐湿摩擦性等の印刷物としての諸特性にも優れている。このため、本実施形態の積層体は、リサイクル性に優れているとともに、取り扱い性やデザイン性等にも優れている。
【0095】
積層体の具体的な構成例としては、例えば、第1の基材と、液状組成物で形成された印刷層とを備える積層体(積層体-1)を挙げることができる。この積層体-1は、第1の基材及び印刷層以外のその他の層をさらに備えてもよい。その他の層としては、印刷インキを用いて形成した絵柄層、及びアルミニウムやシリカ等の金属又は金属酸化物を蒸着した蒸着層等を挙げることができる。
【0096】
液状組成物を第1の基材上に塗布した後、揮発成分を除去することで、第1の基材上に印刷層を形成することができる。グラビアコーター、ナイフコーター、リバースコーター、バーコーター、スプレーコーター、及びスリットコーター等を用いることで、液状組成物を容易に安定して第1の基材上に塗布することができる。印刷層の厚さは、脱離性を考慮すると、0.5~3μmとすることが好ましく、1~2μmとすることがさらに好ましい。
【0097】
積層体の具体的な他の構成例としては、積層体-1に、第2の基材をさらに備えるもの(積層体-2)を挙げることができる。すなわち、積層体-2は、第1の基材、第2の基材、及び印刷層を備える、いわゆるラミネート構造を有する積層体である。積層体-2は、第1の基材、第2の基材、及び印刷層以外のその他の層をさらに備えてもよい。その他の層としては、印刷インキを用いて形成した絵柄層、及びアルミニウムやシリカ等の金属又は金属酸化物を蒸着した蒸着層等を挙げることができる。また、積層体-2は、第1の基材、印刷層、接着剤層、及び第2の基材がこの順に積層されたラミネートフィルムであってもよい。
【0098】
ラミネートフィルムは、例えば、以下の方法にしたがって容易に製造することができる。まず、前述の積層体-1の印刷層の表面に接着剤を塗布して接着剤層を形成する。次いで、形成した接着剤層の表面に第2の基材を貼り合わせることで、ラミネートフィルムを製造することができる。
【0099】
第1の基材及び第2の基材等の基材としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直線状低密度ポリエチレン(LLDPE)等のポリエチレン類;ポリプロピレン;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル類;ナイロン(NY);ポリスチレン;等の樹脂で形成されたプラスチックフィルムを用いることができる。また、紙製の基材を用いることもできる。基材の表面は、コロナ放電処理されていてもよい。基材は、印刷物として一度使用された後に回収されたリサイクル材料からなるものであってもよい。基材は、延伸されていてもよいし、未延伸であってもよい。基材としては、シリカ、アルミナ、及びアルミニウム等の金属や金属酸化物が蒸着されたものや、蒸着面がポリビニルアルコール等の塗料でコーティングされたものを用いることもできる。
【0100】
基材の形状は特に限定されず、目的応じた形状の基材を用いることができる。基材の形状の具体例としては、フィルム状及びシート状等を挙げることができる。グラビア印刷等の一般的な印刷方法によって基材の表面上にインキ等の液状組成物を付与することで、所望とするデザインや情報等が付された脱離性の印刷層が形成され、目的とする積層体を得ることができる。
【0101】
上述のインキ、メヂウム、プライマー、又はオーバーコートニス等の液状組成物で形成された印刷層を備える本実施形態の積層体は、例えば、ラベル又は包装体として有用である。より具体的には、本実施形態の積層体は、食料品、清涼飲料水、化粧料、調味料、医薬品、及び衛生用品等を収容する容器;これらの容器に貼付されるラベル;パン、おにぎり、及びお惣菜等の食品を収容する樹脂製の袋(包装材);等として好適である。
【0102】
<印刷層の脱離方法>
本発明の印刷層の脱離方法の一実施形態は、前述の積層体の印刷層にアルカリ水溶液を接触させて、基材から印刷層を脱離させて除去する工程を有する。積層体を構成する基材上に設けられた印刷層は、前述の液状組成物により形成された層であるため、温和なアルカリ条件下で容易に脱離させることができる。
【0103】
基材上に配置された印刷層を脱離させるには、積層体をアルカリ水溶液に浸漬等して、印刷層にアルカリ水溶液を接触させて処理すればよい。アルカリ水溶液は、各種のアルカリを水に溶解させて調製すればよい。アルカリとしては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸カリウム等を挙げることができる。汎用性の観点から、水酸化ナトリウム水溶液をアルカリ水溶液として用いることが好ましい。1~7.5質量%水酸化ナトリウム水溶液に積層体を5~60分間浸漬することで、印刷層を基材から容易に脱離させて、リサイクル可能なクリーンな基材を得ることができる。積層体を浸漬させる水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液の温度は、室温(25℃)~90℃とすればよい。
【0104】
例えば、前述の積層体-2を処理する場合、1.5質量%水酸化ナトリウム水溶液に積層体-2を浸漬し、80℃で30分間程度撹拌する。これにより、第1の基材及び第2の基材から印刷層を脱離させることができる。
【0105】
本実施形態の脱離方法は、印刷層を除去した基材を回収する工程をさらに有することが好ましい。例えば、基材上から80%以上の印刷層が剥離した基材であれば、水洗及び乾燥等して表面を清浄な状態にするだけで、リサイクルフィルムとして使用することができる。
【実施例】
【0106】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0107】
<各種原料の用意>
(バインダー樹脂(A))
バインダー樹脂(A)として、以下に示すA-1~A-3を用意した。
・A-1:
21%セルロース樹脂(ニトロセルロース樹脂、商品名「RS1/2」、キミア社製)
38%ポリアミド樹脂の溶液(ポリアミド樹脂、商品名「レオマイドS-7100」、花王社製、酸価5mgKOH/g以下、アミン価2mgKOH/g以下)
・A-2:
30%ポリウレタン樹脂(ポリウレタン系樹脂、商品名「TA24-215E」、レゾナック社製、ノントルエン型グラビアインキ用ポリウレタン樹脂溶液、粘度800~1300mPa・s(25℃)、アミン価1mgKOH/g未満)
20%塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂(塩ビ-酢ビ樹脂)(塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合樹脂、商品名「ソルバインA」、日信化学工業社製、塩化ビニル(VC)含有率92%、酢酸ビニル(VAc)含有率3%、ビニルアルコール(VA)含有率5%、水酸基価69.3mgKOH/g、Tg76℃、Mw73,000、Mn35,000)
・A-3:
20%セルロース樹脂(セルロースアセテートブチレート(CAB)樹脂、商品名「CAB381-0.5」、EASTMAN CHEMICAL社製、Mn30,000、Acetyl含有率13.5%、Butyryl含有率38%、Hydroxyl含有率1.3%、Tg130℃)
40%アクリル樹脂(アクリル系樹脂、商品名「ダイヤナールBR106」、三菱ケミカル社製、Mw60,000、Tg50℃、酸価3.5mgKOH/g)
【0108】
(樹脂(B))
表1に示す種類の樹脂(B)を用意した。
【0109】
【0110】
(樹脂(C))
表2に示す種類の樹脂(C)を用意した。
【0111】
【0112】
(その他の成分)
以下に示す成分を用意した。
・ワックス:ポリエチレンワックス、商品名「ハイワックス220P」、三井化学社製
・キレート架橋剤:商品名「TC-100」、マツモトファインケミカル社製
【0113】
(有機溶剤)
有機溶剤(D)として、以下に示すD-1~D-3を用意した。
・D-1:メチルシクロヘキサン:酢酸n-プロピル:イソプロパノール=5:3:2(質量比)の混合溶剤
・D-2:メチルエチルケトン:トルエン:イソプロパノール=5:3:2(質量比)の混合溶剤
・D-3:酢酸n-プロピル:イソプロパノール=5:5(質量比)の混合溶剤
【0114】
<インキの調製>
表3-1~3-4の上段に示す組成(単位:%)となるように各成分を混合して混合物を得た。ペイントシェーカーを使用して得られた混合物を練肉して、インキを調製した。
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
<積層体の製造>
以下に示す3種の基材フィルムを用意した。
・片面をコロナ放電処理したOPPフィルム(商品名「FOH」、フタムラ化学社製、厚さ25μm)
・片面をコロナ放電処理したPETフィルム(商品名「E5102」、東洋紡社製、厚さ25μm)
・片面をコロナ放電処理したナイロンフィルム(商品名「ハーデンN1102」、東洋紡社製、厚さ15μm)
【0120】
また、調製したインキを混合溶剤(メチルシクロヘキサン/酢酸プロピル/イソプロピルアルコール)で希釈した。線数70線のヘリオ版を用いたグラビア印刷により、用意した各基材フィルムの処理面に希釈したインキをそれぞれ付与した。これにより、基材フィルム上に印刷層(100mm×150mmのベタ層、厚さ1μm)が形成された積層体を得た。
【0121】
<評価>
(耐ブロッキング性)
印刷層の表面と、同じ基材フィルムの非印刷面とを重ね合わせて試験片を作製し、4kg/cm2の荷重をかけた状態で40℃の恒温機内で24時間保管した。保管後に試験片を剥離し、以下に示す評価基準にしたがって印刷層の耐ブロッキング性を評価した。結果を表4に示す。
5:非印刷面に移った印刷層の面積割合が0%以上10%未満であった。
4:非印刷面に移った印刷層の面積割合が10%以上20%未満であった。
3:非印刷面に移った印刷層の面積割合が20%以上50%未満であった。
2:非印刷面に移った印刷層の面積割合が50%以上80%未満であった。
1:非印刷面に移った印刷層の面積割合が80%以上100%以下であった。
【0122】
(耐熱性)
印刷層の表面と、軟質のアルミニウム箔とを重ね合わせて試験片を作製した。ヒートシールテスター(製品名「TP-701-C ヒートシールテスター」、テスター産業社製)を使用して、アルミニウム箔上から110~150℃、2kg/cm2の条件で1秒間加熱した。加熱後に試験片を剥離し、以下に示す評価基準にしたがって印刷層の耐熱性を評価した。結果を表4に示す。
5:150℃で加熱してもアルミニウム箔にインキが取られなかった。
4:140℃まで加熱してもアルミニウム箔にインキが取られなかったが、150℃で加熱するとインキが取られた。
3:130℃まで加熱してもアルミニウム箔にインキが取られなかったが、140℃で加熱するとインキが取られた。
2:120℃まで加熱してもアルミニウム箔にインキが取られなかったが、130℃で加熱するとインキが取られた。
1:120℃未満の加熱でアルミニウム箔にインキが取られた。
【0123】
(光沢性)
光沢計(商品名「micro-TRI-gloss S」、BYK社製)を使用して、OPPフィルム上に形成した印刷層の60°角のグロス値を測定し、以下に示す評価基準にしたがって印刷層の光沢性を評価した。結果を表4に示す。
5:グロス値が70以上であった。
4:グロス値が65以上70未満であった。
3:グロス値が60以上65未満であった。
2:グロス値が50以上60未満であった。
1:グロス値が50未満であった。
【0124】
(耐湿摩擦性)
学振型摩擦堅牢度試験機(製品名「AB-301」、テスター産業社製)を使用して、200gfの荷重をかけた、水で湿らせた黒布(綿3-1号:金巾3号)で印刷層の表面を100往復擦過する摩擦試験を実施した。摩擦試験後の印刷層の外観を目視にて確認し、以下に示す評価基準にしたがって印刷層の耐湿摩擦性を評価した。結果を表4に示す。
5:黒布側に移行した印刷層の面積割合が0%以上10%未満であった。
4:黒布側に移行した印刷層の面積割合が10%以上20%未満であった。
3:黒布側に移行した印刷層の面積割合が20%以上50%未満であった。
2:黒布側に移行した印刷層の面積割合が50%以上80%未満であった。
1:黒布側に移行した印刷層の面積割合が80%以上100%以下であった。
【0125】
(脱離性)
70℃の1.5%水酸化ナトリウム水溶液中に積層体を浸漬し、5分間撹拌した。水酸化ナトリウム水溶液から引き上げた積層体を水洗した後、目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがって印刷層の脱離性を評価した。結果を表4に示す。
5:印刷層が完全に脱離していた。
4:印刷層の一部が基材フィルム上に残っていた。
3:印刷層の半分程度が基材フィルム上に残っていた。
2:印刷層の大半が基材フィルム上に残っていた。
1:印刷層がまったく脱離していなかった。
【0126】
【0127】
さらに、硬化剤(商品名「コロネートHL」、東ソー社製)を添加したこと以外は、実施例2及び3を同様の試験を実施した。その結果、実施例2及び3と同様の評価であったとともに、耐湿摩擦性が特に良好な評価であった。
【0128】
(応用例)
調製したインキを使用し、前述の「積層体-2」の層構成を有する積層体を作製して上記と同様の試験を実施した。その結果、いずれの評価についても、実施例1~19と同様に優れていることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の液状組成物は、アルカリ脱離性の印刷層を形成するためのインキ、メジウム、プライマー、及びオーバーコートニス等として有用である。本発明の液状組成物を用いることで、容易にリサイクル可能な樹脂製の積層体を得ることができる。
【要約】
【課題】温和なアルカリ条件下で容易に脱離しうる、耐ブロッキング性、耐熱性、光沢性、及び耐湿摩擦性に優れた印刷層を形成することが可能な脱離性印刷層形成用の液状組成物を調製するための樹脂組成物を提供する。
【解決手段】脱離性印刷層形成用の液状組成物を調製するための樹脂組成物である。バインダー樹脂(A)、酸価が60~300mgKOH/gである脱離性を付与するための樹脂(B)、及び酸価が10~55mgKOH/gであり、アミン価が15mgKOH/g以下である樹脂(C)を含有し、バインダー樹脂(A)が、(A-1)セルロース樹脂とポリアミド樹脂の組み合わせ等であり、樹脂(B)の含有量が、固形分(但し、顔料を除く)を基準として2~20質量%、樹脂(C)の含有量が、固形分(但し、顔料を除く)を基準として2~20質量%、樹脂(B)1質量部に対する、樹脂(C)の含有量が、0.3~3.2質量部である。
【選択図】なし