(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】タングステン酸リチウム分散液およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 41/00 20060101AFI20240829BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C01G41/00 B
H01M4/36 C
(21)【出願番号】P 2024522334
(86)(22)【出願日】2023-10-24
(86)【国際出願番号】 JP2023038264
【審査請求日】2024-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2022171728
(32)【優先日】2022-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094536
【氏名又は名称】高橋 隆二
(74)【代理人】
【識別番号】100129805
【氏名又は名称】上野 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100189315
【氏名又は名称】杉原 誉胤
(72)【発明者】
【氏名】関(佐藤) 理子
(72)【発明者】
【氏名】三浦 高史
(72)【発明者】
【氏名】元野 隆二
(72)【発明者】
【氏名】原 周平
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-098218(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073682(WO,A1)
【文献】特開2004-131346(JP,A)
【文献】国際公開第2021/201127(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 41/00 - 41/04
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムとタングステンのモル比Li/Wが0.2以上20以下であるタングステン酸リチウムと、アンモニアとを含むタングステン酸リチウム分散液であって、
動的光散乱法による前記タングステン酸リチウム分散液中の粒子の粒子径(D50)が100nm以下であることを特徴とするタングステン酸リチウム分散液。
【請求項2】
有機窒素化合物をさらに含有し、
前記有機窒素化合物が、脂肪族アミン、およびまたは、4級アンモニウム化合物であることを特徴とする請求項1に記載のタングステン酸リチウム分散液。
【請求項3】
前記タングステン酸リチウム分散液の溶媒が水であることを特徴とする請求項1、又は2に記載のタングステン酸リチウム分散液。
【請求項4】
前記タングステン酸リチウム分散液中のタングステン含有量がW換算で0.4質量%以上24質量%以下であることを特徴とする請求項1、又は2に記載のタングステン酸リチウム分散液。
【請求項5】
前記タングステン酸リチウム分散液のpHが9以上であることを特徴とする請求項1、又は2に記載のタングステン酸リチウム分散液。
【請求項6】
波長400nm~760nm領域の光透過度の最大値が70%以上であることを特徴とする請求項1、又は2に記載のタングステン酸リチウム分散液。
【請求項7】
請求項1、又は2に記載のタングステン酸リチウム分散液中のタングステン酸リチウム塩を含有することを特徴とするタングステン酸リチウム膜。
【請求項8】
リチウムイオン二次電池用正極、或いは正極材の被覆用であることを特徴とする請求項1、又は2に記載のタングステン酸リチウム分散液。
【請求項9】
請求項1、又は2に記載の前記タングステン酸リチウム分散液に含まれるタングステン酸リチウムを含む組成物により、その表面が被覆されていることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項10】
請求項9に記載された前記正極活物質が被覆した正極を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項11】
請求項1、又は2に記載のタングステン酸リチウム分散液に含まれるタングステン酸リチウム粒子を含有することを特徴とするタングステン酸リチウム粉末。
【請求項12】
タングステン酸化合物と、水酸化リチウムとを混合した混合物を撹拌しながら20℃~100℃で保持し、タングステン酸リチウム分散液を得る工程を有することを特徴とするタングステン酸リチウム分散液の製造方法。
【請求項13】
前記タングステン酸化合物は、タングステンをWO
3換算で、1~100g/L含有する酸性タングステン水溶液を、10~30質量%アンモニア水溶液に添加することにより生成されたタングステン含有沈殿スラリーに、有機窒素化合物を添加することにより生成されたタングステン酸分散液であることを特徴とする請求項12に記載のタングステン酸リチウム分散液の製造方法。
【請求項14】
請求項1、又は2に記載のタングステン酸リチウム分散液を基材に塗布し、乾燥し、およびまたは、焼成することを特徴とするタングステン酸リチウム膜の製造方法。
【請求項15】
請求項1、又は2に記載のタングステン酸リチウム分散液を乾燥し、およびまたは、焼成することを特徴とするタングステン酸リチウム粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステン酸リチウム分散液およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、高容量で小型軽量であることから、パソコンや、スマートフォンの普及に伴い、研究開発が進められてきた。また、ガソリン車やディーゼル車の新車販売が規制される動きがあることから、ハイブリッド車や電気自動車用の電池としても、リチウムイオン二次電池の研究開発が進められている。さらに、電力の平準化や、スマートグリッド用の蓄電装置としても、需要が拡大している。
【0003】
リチウムイオン二次電池の容量や起電力といった性能は、リチウムイオン二次電池を構成する正極の表面を被覆する正極活物質によって大きく左右されるものである。正極活物質としては、リチウム元素と遷移金属元素とを複合化した酸化物が多く用いられている。例えば、タングステンとリチウムとの複合金属酸化物を表面に被覆させた正極活物質は、電池性能が向上することが知られている。特許文献1~3には、タングステンとリチウムとの複合金属酸化物を表面に被覆させた正極活物質について、次のように開示されている。特許文献1には、(Li2WO4)7(H2O)4を80%以上含むタングステン酸リチウムが開示されている。また、特許文献2には、アルカリ溶液に溶解させた際のタングステン濃度が0.05~2mol/Lであるタングステン酸リチウムが開示されている。さらに、特許文献3には、炭酸リチウムとタングステン酸と酸化ジルコニウムとを粉砕混合した粉体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-167439号公報
【文献】特開2012-79464号公報
【文献】特開2013-222693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されたタングステン酸リチウムは、完全な溶液ではなく、スラリー状であった。また、特許文献2に開示されたタングステン酸リチウムは、タングステンを含有したアルカリ溶液とリチウム金属複合酸化物粉末の混合物であった。さらに、特許文献3に開示された混合物は、炭酸リチウムとタングステン酸と酸化ジルコニウムとを粉砕混合した粉体であった。このような特許文献1~3に開示されたタングステン酸リチウムでは、水への分散性や、溶解性が悪く、経時変化によって、沈殿物が生じるおそれがあることから、正極活物質の表面に均一な膜を形成することは困難であると推察する。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて、極性溶媒、とりわけ水への分散性が高く、水に対する溶解性が良好で、且つ保存安定性に優れたタングステン酸リチウム分散液およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明のタングステン酸リチウム分散液は、リチウムとタングステンのモル比Li/Wが0.2以上20以下であるタングステン酸リチウムと、アンモニアとを含むタングステン酸リチウム分散液であって、動的光散乱法による前記タングステン酸リチウム分散液中の粒子の粒子径(D50)が100nm以下であることを特徴とする。
本発明のタングステン酸リチウム分散液は、リチウムとタングステンのモル比Li/Wが0.2以上20以下であると、極性溶媒、とりわけ水への分散性及び溶解性が向上する点で好ましい。また、リチウムとタングステンのモル比Li/Wが、0.5以上15以下であるとより好ましく、0.6以上10以下であるとさらに好ましく、0.7以上6以下であると特に好ましい。
【0008】
本発明のタングステン酸リチウム分散液は、アンモニアを含む。後述する本発明のタングステン酸リチウム分散液の製造方法で詳しく説明するが、当該製造工程において、パラタングステン酸アンモニウム、又はタングステン酸分散液と、水酸化リチウムとを混合し、本発明のタングステン酸リチウム分散液が生成される。なお、アンモニアは、アンモニウムイオンを含み、陽イオンとして当該分散液中に存在すると考えられる。
【0009】
当該分散液中に存在するアンモニア含有量の測定方法は、当該分散液に水酸化ナトリウムを加えてアンモニアを蒸留分離し、イオンメータによりアンモニア含有量を定量する方法、ガス化した試料中のN2分を熱伝導度計で定量する方法、ケルダール法、ガスクロマトグラフィー(GC)、イオンクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー・質量分析(GC-MS)などが挙げられる。特に、イオンメータによる定量する方法が好ましい。
【0010】
本発明のタングステン酸リチウム分散液中のアンモニア含有量は、0質量%超25質量%以下であると好ましく、0.001質量%以上20質量%以下であるとより好ましい。当該アンモニア含有量は、0.05質量%以上10質量%以下であってもよく、0.1質量%以上8質量%以下であってもよい。また、本発明のタングステン酸リチウム分散液に含まれるアンモニア成分を除去するために、室温での撹拌、又は加温での撹拌による濃度調節工程を行ってもよい。具体的には、例えば60℃~90℃で蒸発分の溶媒(純水等)を加えながら、1時間~100時間加熱撹拌した後、室温まで冷却する。または、60℃~90℃で1時間~100時間加熱撹拌した後、室温まで冷却する。その後、蒸発した溶媒(純水等)を補給するため、溶媒(純水等)を添加する。当該溶媒の添加量は、アンモニア成分を除去した後のタングステン酸リチウム分散液のタングステン含有量が、アンモニア成分を除去する前のタングステン酸リチウム分散液のタングステン含有量と一致するように調節する。
【0011】
本発明のタングステン酸リチウム分散液は、動的光散乱法による前記タングステン酸リチウム分散液中の粒子の粒子径(D50)が100nm以下であると、分散性が高く、経時変化が少なく安定し、他の物質との反応や複合化に際する反応性、成膜時における膜均一性の観点から好ましい。本発明のタングステン酸リチウム分散液中の粒子としては、タングステン酸リチウム、リチウムイオン、タングステンイオン、タングステン酸イオン等が挙げられる。また、当該粒子径(D50)は、より小粒径であると好ましく、50nm以下であるとより好ましく、30nm以下であるとさらに好ましく、20nm以下であると特に好ましい。当該粒子径(D50)は、10nm以下であってもよく、1nm以下であってもよく、0.6nm以下であってもよい。また、本明細書において、特段の説明がない限り、「粒子径(D50)」は、生成された直後に液温25℃に調整した本発明のタングステン酸リチウム分散液中の粒子の「初期粒子径D50」、及び室温25℃に設定した恒温器内で、本発明のタングステン酸リチウム分散液が生成された日から1カ月静置した後のタングステン酸リチウム分散液中の粒子の「経時粒子径D50」の両方を含むものである。また、本発明のタングステン酸リチウム分散液中の粒子の「粒子径(D50)」は、「初期粒子径D50」と「経時粒子径D50」との経時変動幅が小さければ、本発明のタングステン酸リチウム分散液が生成された日から1カ月以上静置した後のタングステン酸リチウム分散液中の粒子の粒子径(D50)は、「経時粒子径D50」との経時変動幅も小さいと推察される。このように、本発明のタングステン酸リチウム分散液中の粒子の粒子径(D50)が、動的光散乱法を用いて測定した結果、当該粒子径(D50)が100nm以下である状態の液を、本発明の「タングステン酸リチウム分散液」とする。
【0012】
ここで、動的光散乱法とは、懸濁溶液などの溶液にレーザ光などの光を照射することにより、ブラウン運動する粒子群からの光散乱強度を測定し、その強度の時間的変動から粒子径と分布を求める方法である。具体的には、粒度分布の評価方法は、ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(大塚電子株式会社製:ELSZ-2000)を用いて、JIS Z 8828:2019「粒子径解析-動的光散乱法」に準拠して実施する。なお、測定直前に測定対象である溶液中の埃等を除去するため、1μm孔径のフィルタで当該溶液を濾過し、超音波洗浄機(アズワン社製:VS-100III)にて、28kHz、3分間の超音波処理を実施する。なお、粒子径(D50)は、積算分布曲線の50%積算値を示す粒子径であるメジアン径(D50)をいう。
【0013】
さらに、本発明のタングステン酸リチウム分散液中のタングステン酸リチウムは、タングステン酸と、リチウムとがイオン結合した状態のイオンとして当該分散液中に存在するものと推測する。本発明のタングステン酸リチウム分散液には、陰イオンとして水酸化物イオンは存在する一方、フッ化物イオンおよび塩化物イオンなどのハロゲン化物イオンはほとんど存在せず、リチウムや、後述する有機窒素化合物は陽イオンとして存在すると考えられるため、タングステンは、(W2O7)2-、(W12O10)8-のような陰イオンか、複数のタングステン原子と酸素原子とが結合したポリオキソメタレート(ポリ酸)イオンとして存在していると考えらえる。
【0014】
なお、本発明における「分散液」とは、溶質が溶媒中に単分子の状態で分散又は混合しているものに限られず、複数の分子が分子間の相互作用により引き合った集合体、例えば(1)多量体分子、(2)溶媒和分子、(3)分子クラスター、(4)コロイド粒子などが溶媒に分散しているものも含まれる。
【0015】
また、本発明のタングステン酸リチウム分散液は、有機窒素化合物をさらに含有し、前記有機窒素化合物が、脂肪族アミン、およびまたは、4級アンモニウム化合物であることを特徴とする。
本発明のタングステン酸リチウム分散液中の有機窒素化合物は、タングステン酸とイオン結合した状態のイオンとして当該分散液中に存在するものと推測する。
【0016】
ここで、有機窒素化合物としては、脂肪族アミン、芳香族アミン、アミノアルコール、アミノ酸、ポリアミン、4級アンモニウム、グアニジン化合物、アゾール化合物が挙げられる。
【0017】
脂肪族アミンとしては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、ジメチルエチルアミン、n-プロピルアミン、ジn-プロピルアミン、トリn-プロピルアミン、iso-プロピルアミン、ジiso-プロピルアミン、トリiso-プロピルアミン、n-ブチルアミン、ジn-ブチルアミン、トリn-ブチルアミン、iso-ブチルアミン、ジiso-ブチルアミン、トリiso-ブチルアミンおよびtert-ブチルアミン、n-ペンタアミン、n-ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、ピペリジンなどが挙げられる。
【0018】
芳香族アミンとしては、例えば、アニリン、フェニレンジアミン、ジアミノトルエンなどが挙げられる。さらに、アミノアルコールとしては、例えば、メタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン、ペンタノールアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、トリメタノールアミン、メチルメタノールアミン、メチルエタノールアミン、メチルプロパノールアミン、メチルブタノールアミン、エチルメタノールアミン、エチルエタノールアミン、エチルプロパノールアミン、ジメチルメタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジメチルプロパノールアミン、メチルジメタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジエチルメタノールアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノトリス(ヒドロキシメチル)メタンおよびアミノフェノールなどが挙げられる。また、アミノ酸としては、例えば、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、EDTAなどが挙げられる。さらに、ポリアミンとしては、例えば、ポリアミン、ポリエーテルアミンなどが挙げられる。
【0019】
4級アンモニウムとしては、例えば、アルキルイミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジウム、テトラアルキルアンモニウムなどが挙げられる。ここで、アルキルイミダゾリウムの具体例としては、1-メチル-3-メチルイミダゾリウム、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、1-プロピル-3-メチルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム、1-メチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-プロピル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムなどが挙げられる。また、ピリジニウム、ピロリジウムの具体例としては、N-ブチル-ピリジニウム、N-エチル-3-メチル-ピリジニウム、N-ブチル-3-メチル-ピリジニウム、N-ヘキシル-4-(ジメチルアミノ)-ピリジニウム、N-メチル-1-メチルピロリジニウム、N-ブチル-1-メチルピロリジニウムなどが挙げられる。さらに、テトラアルキルアンモニウムの具体例としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、エチル-ジメチル-プロピルアンモニウムが挙げられる。なお、上述したカチオンと塩を形成するアニオンとしては、OH-、Cl-、Br-、I-、BF4
-、HSO4
-などが挙げられる。
【0020】
グアニジン化合物としては、グアニジン、ジフェニルグアニジン、ジトリルグアニジンなどが挙げられる。また、アゾール化合物としては、イミダゾール化合物、トリアゾール化合物などが挙げられる。ここで、イミダゾール化合物の具体例としては、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールなどが挙げられる。また、トリアゾール化合物の具体例としては、1,2,4-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール-3-カルボン酸メチル、1,2,3-ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0021】
ここで、有機窒素化合物は、脂肪族アミンであると、揮発性が高く、低毒性でもあるから好ましい。具体的には、炭素数1以上4以下の脂肪族アミンであるとより好ましく、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、又はそれらの混合物が挙げられる。
【0022】
また、有機窒素化合物は、4級アンモニウムであると、溶解性が高いだけでなく、高い結晶化抑制や、高いゾル化抑制を有する点で好ましい。例えば、テトラアルキルアンモニウム塩が好ましく、水酸化テトラアルキルアンモニウム塩がより好ましく、水酸化テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウムが特に好ましく、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、又は水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)がまた特に好ましい。
【0023】
さらに、有機窒素化合物は、脂肪族アミン、芳香族アミン、アミノアルコール、アミノ酸、ポリアミン、4級アンモニウム、グアニジン化合物、アゾール化合物から選択された1種ではなく、2種以上を混合したものであってもよい。例えば、脂肪族アミンと4級アンモニウムとの2種を混合したものであれば、毒性が上がらないように添加量を抑えつつ、溶解度をあげることができる点で好ましい。
【0024】
具体的には、メチルアミン及び水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、ジメチルアミン及び水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、メチルアミン及びジメチルアミンのように2種の有機窒素化合物を混合したものや、メチルアミン、ジメチルアミン及び水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)のように3種の有機窒素化合物を混合したものが挙げられる。
【0025】
なお、本発明のタングステン酸リチウム分散液中に存在する有機窒素化合物含有量の測定方法は、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)、質量分析(MS)、ガスクロマトグラフィー・質量分析(GC-MS)、液体クロマトグラフィー・質量分析(LC-MS)などが挙げられる。特に、液体クロマトグラフィー(LC)、液体クロマトグラフィー・質量分析(LC-MS)による測定が好ましい。
【0026】
また、本発明のタングステン酸リチウム分散液は、前記タングステン酸リチウム分散液の溶媒が水であることを特徴とする。
本発明のタングステン酸リチウム分散液は、水への分散性が高く、水に対する溶解性が良好であるため、溶媒として純水を用いることができる。溶媒としては、有機溶媒を用いてもよい。有機溶媒としては、アルコール溶媒、ケトン溶媒、エーテル溶媒、エステル溶媒、芳香族炭化水素溶媒、脂肪族炭化水素類溶媒等が挙げられ、これら有機溶媒と純水とを混合した溶媒であってもよい。また、アルコール溶媒としては、炭素数5以下のアルコール(メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール)や、アセトンや、高沸点溶媒などが挙げられる。上述した溶媒と水は相溶することが好ましい。また、本発明のタングステン酸リチウム分散液は、安定性を阻害しない範囲で、任意の割合で1種以上の溶媒を含むことができる。
【0027】
高沸点溶媒として、多価アルコール系溶媒や、グリコール系溶媒が挙げられる。多価アルコール系溶媒とは、グリセリン(沸点:290℃)、1,6-ヘキサンジオール(沸点:250℃)、1,7-ヘプタンジオール(沸点:259℃)などが挙げられる。また、グリコール系溶媒とは、エチレングリコール(沸点:197.3℃)、プロピレングリコール(沸点:188.2℃)、ジエチレングリコール(沸点:244.3℃)、トリエチレングリコール(沸点:287.4℃)、オリゴエチレングリコール(沸点:287℃~460℃)、ポリエチレングリコール(PEG)(沸点:460℃以上)、ポリエチレングリコール(PEG)-ポリプロピレングリコール(PPG)コポリマー(沸点:460℃以上)、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(沸点:260℃)、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル(沸点:260℃以上)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(沸点:321℃以上)、その他アニオン性フッ素系界面活性剤(沸点:180℃以上)、両性フッ素系界面活性剤(沸点:180℃以上)、ノニオン性フッ素系界面活性剤(沸点:180℃以上)、アミンオキシド(沸点:180℃以上)などが挙げられる。上述した沸点は、1気圧における沸点である。
【0028】
さらに、上述した本発明のタングステン酸リチウム分散液の溶媒は、樹脂成分等のバインダーを含むものであってもよい。本発明のタングステン酸リチウム分散液の溶媒が、樹脂成分等のバインダーを含むものであると、本発明のタングステン酸リチウム分散液を用いて、形成されたタングステン酸リチウム膜の成膜性を向上させることができる。ここで、バインダーとして用いられる樹脂成分は、例えばアクリル樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート、グリコール系樹脂、セルロース系樹脂、及びそれらの混合樹脂、共重合樹脂が挙げられる。
【0029】
また、本発明のタングステン酸リチウム分散液は、前記タングステン酸リチウム分散液中のタングステン含有量がW換算で0.4質量%以上24質量%以下であることを特徴とする。
本発明のタングステン酸リチウム分散液中のタングステン含有量がW換算で0.4質量%以上24質量%以下であると、タングステン酸リチウム分散液の実用性及び安定性を両立する点で好ましい。また、本発明のタングステン酸リチウム分散液中のタングステン含有量がW換算で、0.7質量%以上であるとより好ましく、1.5質量%以上であるとさらに好ましい。一方、本発明のタングステン酸リチウム分散液中のタングステン含有量がW換算で、20質量%以下であるとより好ましく、16質量%以下であるとさらに好ましい。
【0030】
ここで、本発明のタングステン酸リチウム分散液中のタングステン含有量は、当該分散液を必要に応じて希塩酸で適度に希釈し、ICP発光分析(アジレント・テクノロジー社製:AG-5110)を用いて、JIS K0116:2014に準拠し、W換算のW質量分率を測定して算出する。また、本発明のタングステン酸リチウム分散液中のリチウム含有量をLi換算のLi質量分率を測定して算出してもよい。本発明のタングステン酸リチウム分散液中のタングステン(mol)とリチウム(mol)を特定することにより、本発明のタングステン酸リチウム分散液に含まれるタングステン酸リチウムのリチウム(Li)とタングステン(W)とのモル比Li/Wを特定することができる。
【0031】
また、本発明のタングステン酸リチウム分散液は、前記タングステン酸リチウム分散液のpHが9以上13以下であることを特徴とする。
本発明のタングステン酸リチウム分散液のpHが9以上13以下であると好ましい。また、本発明のタングステン酸リチウム分散液のpHが10以上13以下であるとより好まし。また、本明細書において、特段の説明がない限り、「pH」は、生成された直後に液温25℃に調整した本発明のタングステン酸リチウム分散液の「初期pH」、及び室温25℃に設定した恒温器内で、本発明のタングステン酸リチウム分散液が生成された日から1カ月静置した後のタングステン酸リチウム分散液の「経時pH」の両方を含むものである。また、本発明のタングステン酸リチウム分散液の「pH」は、「初期pH」と「経時pH」との経時変動幅が小さければ、本発明のタングステン酸リチウム分散液が生成された日から1カ月以上静置した後のタングステン酸リチウム分散液のpHは、「経時pH」との経時変動幅も小さいと推察される。
【0032】
ここで、本発明のタングステン酸リチウム分散液のpHの測定は、本発明のタングステン酸リチウム分散液にpHメータ(HORIBA製:ガラス電極式水素イオン濃度指示器 D-51)の電極(HORIBA製:スタンダード ToupH 電極 9615S-10D)を浸漬し、液温が25℃に安定したことを確認した後、実施する。
【0033】
また、本発明のタングステン酸リチウム分散液は、波長400nm~760nm領域の光透過度の最大値が70%以上であることを特徴とする。
本発明のタングステン酸リチウム分散液は、波長400nm~760nm領域の光透過度の最大値が70%以上であると、分散度が高く液中成分の均一性が優れる点で好ましい。波長400nm~760nm領域の光透過度の最大値が、75%以上であるとより好ましく、80%以上であるとさらに好ましく、85%以上であると特に好ましい。
【0034】
また、本発明のタングステン酸リチウム分散液は、波長400nm、600nm、750nmの何れか1つ以上の波長における光透過度が65%以上であると好ましく、70%以上であるとより好ましく、80%以上であるとさらに好ましく、90%以上であると特に好ましく、100%であると最も好ましい。当該波長400nm、600nm、750nmの何れか1つ以上の波長における光透過度が70%以上であってもよく、72%以上であってもよく、74%以上であってもよく、76%以上であってもよく、78%以上であってもよく、80%以上であってもよく、90%以上であってもよく、95%以上であってもよく、97%以上であってもよく、98%以上であってもよく、99%以上であってもよく、100%以上であってもよい。
【0035】
さらに、本発明のタングステン酸リチウム分散液は、波長400nm~760nm領域の光透過度が65%以上であると好ましく、70%以上であるとより好ましく、80%以上であるとさらに好ましく、90%以上であると特に好ましく、100%であると最も好ましい。当該波長400nm~760nm領域の光透過度が70%以上であってもよく、72%以上であってもよく、74%以上であってもよく、76%以上であってもよく、78%以上であってもよく、80%以上であってもよく、90%以上であってもよく、95%以上であってもよく、97%以上であってもよく、98%以上であってもよく、99%以上であってもよく、100%以上であってもよい。
【0036】
なお、測定誤差等により、上述した光透過度の測定値が100%を超える場合があるが、理論上限値は100%であるため、当該測定値が100%超の場合、100%とみなす。このように、本発明のタングステン酸リチウム分散液の波長400nm~760nm領域の光透過度の最大値が65%以上である状態の液を、本発明の「タングステン酸リチウム分散液」とする。また、本明細書において、特段の説明がない限り、「光透過度」は、生成された直後に液温25℃に調整した本発明のタングステン酸リチウム分散液の「初期光透過度」、及び室温25℃に設定した恒温器内で、本発明のタングステン酸リチウム分散液が生成された日から1カ月静置した後のタングステン酸リチウム分散液の「経時光透過度」の両方を含むものである。また、本発明のタングステン酸リチウム分散液の「光透過度」は、「初期光透過度」と「経時光透過度」との経時変動幅が小さければ、本発明のタングステン酸リチウム分散液が生成された日から1カ月以上静置した後のタングステン酸リチウム分散液の光透過度は、「経時光透過度」との経時変動幅も小さいと推察される。
【0037】
ここで、上述した光透過度は、本発明のタングステン酸リチウム分散液について、以下の透過度測定条件に従って、分光光度計を用いて測定する。
【0038】
=光透過度測定条件=
・測定装置:紫外可視近赤外分光光度計UH4150形(株式会社日立ハイテクサイエンス製)
・測定モード:波長スキャン
・データモード:%T(透過)
・測定波長範囲:200nm~2000nm
・スキャンスピード:600nm/min
・サンプリング間隔:2nm
【0039】
また、本発明のタングステン酸リチウム分散液は、添加物として、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sr、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Sn、Ba、Y、Laなどの化合物を含有してもよい。ここで、化合物とは、例えば酸化物、金属酸アルカリ金属塩、金属酸アルカリ土類金属塩、塩化物、金属酸アルコキシド、ポリオキソメタレート等が挙げられる。また、本発明のタングステン酸リチウム分散液における添加物の含有量は、添加物である各元素の総含有mol数をXとしたとき、タングステン(W)に対する添加物である各元素の総含有mol数(X)のモル比X/Wは、0.001~50であってもよく、0.002~50であってもよく、0.01~40であってもよく、0.2~30であってもよく、0.5~25であってもよく、0.8~1.5であってもよく、0.8~1.3であってもよく、0.9~1.2であってもよく、0.9~1.1であってもよい。さらに、本発明のタングステン酸リチウム分散液は、均一な分散液であることから、これらの化合物が懸濁状態であっても、均一性の向上、反応性(反応率)の向上が見込まれるからである。また、これらの化合物が本発明のタングステン酸リチウム分散液に溶解し、均一な分散液となれば、複合化元素が最も反応性が良好な状態にすることができる。
【0040】
さらに、本発明のタングステン酸リチウム分散液は、その作用効果を阻害しない範囲で、タングステン乃至タングステン酸に由来する成分、アンモニア、及び有機窒素化合物に由来する成分以外の成分(「他成分」という。)を含有してもよい。他成分としては、例えばNa、Mg、Al、Si、K、Ca、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sr、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Sn、Ba、Y、Laなどが挙げられる。但し、これらに限定するものではない。本発明のタングステン酸リチウム分散液を100質量%としたとき、他成分の含有量は、5質量%以下であるのが好ましく、4質量%以下であるのがより好ましく、3質量%以下であるとさらに好ましい。なお、本発明のタングステン酸リチウム分散液は、意図したものではなく、不可避不純物を含むことが想定される。不可避不純物の含有量は0.01質量%以下であるのが好ましい。
【0041】
本発明のタングステン酸リチウム膜は、上述した本発明のタングステン酸リチウム分散液中のタングステン酸リチウム塩を含有することを特徴とする。
本発明のタングステン酸リチウム膜は、本発明のタングステン酸リチウム分散液を基材の表面に塗布した後、真空乾燥して得られる乾燥膜と、得られた乾燥膜を焼成することにより得られる焼成膜とを包含する。また、本発明のタングステン酸リチウム膜は、本発明のタングステン酸リチウム分散液を真空乾燥や、焼成することによって生じる、結晶構造等の物性の異なるタングステン酸リチウム膜も包含する。なお、本発明のタングステン酸リチウム膜の製造方法は、後述する。
【0042】
上述した本発明のタングステン酸リチウム分散液は、リチウムイオン二次電池用正極、或いは正極材の被覆用であることを特徴とする。
本発明のタングステン酸リチウム分散液は、室温(25℃)で1カ月静置した後の当該混合液の状態を目視観察する経時安定性試験、及び動的光散乱法により当該混合液中の経時粒子径D50を測定した結果に加えて、リチウムイオン二次電池用正極の集電板の代替品としたガラス基板上に塗布し、その塗膜の状態を光学顕微鏡にて観察する成膜性試験の結果より、本発明のタングステン酸リチウム分散液は、リチウムイオン二次電池用正極、或いは正極材を被覆するものとして好適である。
【0043】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、上述した本発明のタングステン酸リチウム分散液に含まれるタングステン酸リチウムを含む組成物により、その表面が被覆されていることを特徴とする。
本発明のタングステン酸リチウム分散液によるリチウムイオン二次電池用正極活物質の粒子表面の被覆状態を走査電子顕微鏡にて観察する被覆観察を行うことにより、当該正極活物質の表面がタングステン酸リチウムを含む組成物により被覆されていることを確認することができる。当該組成物は、タングステン酸リチウムの他に、例えばニオブ酸リチウムや、タンタル酸リチウムや、モリブデン酸リチウム等を含むものであってもよい。
【0044】
また、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の表面を被覆するタングステン酸リチウムの被覆量は、当該リチウムイオン二次電池用正極活物質を適量のフッ化水素酸に溶解し、ICP発光分析(アジレント・テクノロジー社製:AG-5110)を用いて、JIS K0116:2014に準拠し、当該正極活物質の粒子表面を被覆するタングステン酸リチウムのタングステン質量分率含有量を測定することによって算出することができる。具体的には、(タングステン質量/表面が被覆された正極活物質)×100にて、算出される。本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の表面を被覆するタングステン酸リチウム塩の被覆量は、質量分率含有量として表すことができる。当該質量分率含有量は、0.001%以上5%以下が好ましい。当該質量分率含有量は、0.01%~3%であってもよく、0.1%~1%であってもよい。
【0045】
本発明のリチウムイオン二次電池は、上述した本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質が被覆した正極を有することを特徴とする。
本発明のタングステン酸リチウム分散液により被覆されたリチウムイオン二次電池用正極活物質は、上述したようにリチウムイオン二次電池用正極の表面を被覆するものとして、好適であるから、本発明のタングステン酸リチウム分散液により被覆された正極活物質を正極の表面に被覆させることにより、リチウムイオン二次電池としての性能向上が図れる。
【0046】
本発明のタングステン酸リチウム粉末は、上述した本発明のタングステン酸リチウム分散液中のタングステン酸リチウム粒子を含有することを特徴とする。
本発明のタングステン酸リチウム粉末は、本発明のタングステン酸リチウム分散液を真空乾燥して得られる乾燥粉末と、得られた乾燥粉末を焼成することにより得られる焼成粉末とを包含する。また、本発明のタングステン酸リチウム粉末は、本発明のタングステン酸リチウム分散液を真空乾燥や、焼成することによって生じる、結晶構造等の物性の異なるタングステン酸リチウム粉末も包含する。なお、本発明のタングステン酸リチウム粉末の製造方法は、後述する。
【0047】
上述した本発明のタングステン酸リチウム分散液の製造方法について、以下説明する。
【0048】
本発明のタングステン酸リチウム分散液の製造方法は、タングステン酸化合物と、水酸化リチウムとを混合した混合物を撹拌しながら10℃~100℃で保持し、タングステン酸リチウム分散液を得る工程を有することを特徴とする。
最終的な混合物中のリチウムとタングステンのモル比Li/Wが0.2以上20以下となるように、タングステン酸化合物と、水酸化リチウムとを秤量し、撹拌しながら加熱温度:10℃~100℃で、加熱時間:1分間~3日間保持することにより、本発明のタングステン酸リチウム分散液が得られる。当該加熱時間は15℃~80℃であってもよく、当該加熱時間は5分間~1時間であってもよい。
【0049】
本発明のタングステン酸リチウム分散液の製造方法で用いられるタングステン酸化合物は、水酸化リチウムに対する反応性や、溶媒への溶解性が良いものであればよい。例えば、パラタングステン酸アンモニウム(5(NH4)2O・12WO3・5H2O)や、後述する製造工程を経て生成されるタングステン酸分散液が挙げられる。
【0050】
タングステン酸化合物としてパラタングステン酸アンモニウムを用いるタングステン酸リチウム分散液の製造方法を第1実施形態と、タングステン酸化合物としてタングステン酸分散液を用いるタングステン酸リチウム分散液の製造方法を第2実施形態とする。
【0051】
先ず、第1実施形態のタングステン酸リチウム分散液の製造方法について、以下説明する。
【0052】
タングステン酸化合物として用いられるパラタングステン酸アンモニウム(5(NH4)2O・12WO3・5H2O)は、市販品であってもよい。
【0053】
具体的には、最終的な混合物中のリチウムとタングステンのモル比Li/Wが0.2以上20以下となるように、パラタングステン酸アンモニウムと、水酸化リチウム一水和物と、純水とを秤量し、それらを混合した混合物を撹拌しながら10℃~100℃で、15分間~3日間保持することにより、本発明のタングステン酸リチウム分散液が得られる。
【0054】
次に、第2実施形態のタングステン酸リチウム分散液の製造方法について、以下説明する。
【0055】
タングステン酸化合物として用いられるタングステン酸分散液は、後述する製造工程を経て生成される。当該タングステン酸分散液は、タングステンをWO3換算で、1~100g/L含有する酸性タングステン水溶液を、10~30質量%アンモニア水溶液に添加することにより生成されたタングステン含有沈殿スラリーに、有機窒素化合物を添加することにより生成される。
【0056】
具体的には、タングステンをWO3換算で、1~100g/L含有する酸性タングステン水溶液を、10~30質量%アンモニア水溶液に添加し、タングステン含有沈殿を生成する。なお、酸性タングステン水溶液は、タングステンが硫酸を含む酸性水溶液に溶解した溶解液を溶媒抽出することにより得られた硫酸タングステン水溶液である。
【0057】
ここで、硫酸タングステン水溶液は、水(例えば純水)を加えてタングステンをWO3換算で1~100g/L含有するように調整すると好ましい。この際、タングステン濃度がWO3換算で1g/L以上であると、水に溶けやすいタングステン酸化合物水和物となることから好ましく、生産性を考えた場合、10g/L以上がより好ましく、20g/L以上であるとさらに好ましい。他方、タングステン濃度がWO3換算で100g/L以下であれば、水に溶けやすいタングステン酸化合物水和物になることから好ましく、より確実に水に溶けやすいタングステン酸化合物水和物を合成するには、90g/L以下であるとより好ましく、80g/L以下であるとさらに好ましく、70g/L以下であると特に好ましい。なお、硫酸タングステン水溶液のpHは、タングステン乃至タングステン酸化物を完全溶解させる観点から、2以下であると好ましく、1以下であるとより好ましい。
【0058】
硫酸タングステン水溶液をアンモニア水溶液に添加する際、いわゆる逆中和法では、硫酸タングステン水溶液を10質量%~30質量%のアンモニア水溶液中に添加し、すなわち逆中和法により、タングステン酸化合物水和物のスラリー、いわゆるタングステン含有沈殿物のスラリーを得るのが好ましい。
【0059】
逆中和に用いるアンモニア水溶液のアンモニア含有量は10質量%~30質量%であると好ましい。当該アンモニア含有量が10質量%であると、タングステンが溶け残りにくくなり、タングステン乃至タングステン酸化物を水に完全に溶解させることができる。他方、当該アンモニア含有量が30質量%以下であると、アンモニアの飽和水溶液付近であるから好ましい。
【0060】
かかる観点から、アンモニア水溶液のアンモニア含有量は10質量%以上であると好ましく、15質量%以上であるとより好ましく、20質量%以上であるとさらに好ましく、25質量%であると特に好ましい。他方、当該アンモニア含有量は30質量%以下であると好ましく、29質量%以下であるとより好ましく、28質量%以下であるとさらに好ましい。
【0061】
逆中和の際、アンモニア水に添加する硫酸タングステン水溶液の添加量は、NH3/WO3のモル比が0.1以上300以下とするのが好ましく、5以上200以下とするのがより好ましい。また、アンモニア水に添加する硫酸タングステン水溶液は、アミンや薄いアンモニア水に溶けるタングステン酸化合物が生成する観点から、NH3/SO4
2-のモル比が3.0以上とするのが好ましく、10.0以上とするとより好ましく、20.0以上とするとさらに好ましい。他方、コスト低減の観点から、NH3/SO4
2-のモル比が200以下とするのが好ましく、150以下とするとより好ましく、100以下とするとさらに好ましい。
【0062】
逆中和において、硫酸タングステン水溶液のアンモニア水への添加に係る時間は、1分以内であると好ましく、30秒以内であるとより好ましく、10秒以内であるとさらに好ましい。すなわち、時間をかけて徐々に硫酸タングステン水溶液を添加するのではなく、例えば一気に投入するなど、出来るだけ短い時間でアンモニア水へ投入し、中和反応させると好適である。また、逆中和では、アルカリ性のアンモニア水へ、酸性の硫酸タングステン水溶液を添加することから、高いpHを保持したまま中和反応させることができる。なお、硫酸タングステン水溶液及びアンモニア水は、常温のまま用いることができる。
【0063】
そして、逆中和法により得られたタングステン含有沈殿物のスラリーから硫黄分を除去し、硫黄分が除去されたタングステン含有沈殿を生成する。逆中和法により得られたタングステン含有沈殿物のスラリーには、不純物として、タングステン乃至タングステン酸化物と反応せず残った硫酸イオン、及び硫酸水素イオンの硫黄分が存在するため、これらを除去することが好ましい。
【0064】
硫黄分の除去方法は任意であるが、例えばアンモニア水や純水を用いた逆浸透ろ過、限外ろ過、精密ろ過などの膜を用いたろ過による方法や、遠心分離、その他の公知の方法を採用することができる。なお、タングステン含有沈殿物のスラリーから硫黄分を除去する際、温度調節は特に必要なく、常温で実施してもよい。
【0065】
具体的には、逆中和法により得られたタングステン含有沈殿物のスラリーを、遠心分離機を用いてデカンテーションし、タングステン含有沈殿物のスラリーの導電率が500μS/cm以下になるまで洗浄を繰り返すことにより、硫黄分が除去されたタングステン含有沈殿物が得られる。当該導電率は、タングステン含有沈殿物のスラリーの液温を25℃に調整し、導電率計(アズワン社製:ASCON2)の測定部を当該沈殿物のスラリーの上澄み液に浸漬され、導電率の値が安定してから、その数値を読み取った値である。
【0066】
硫黄分の除去に用いられる洗浄液はアンモニア水であると好適である。具体的には、5.0質量%以下のアンモニア水が好ましく、4.0質量%以下のアンモニア水がより好ましく、3.0質量%以下のアンモニア水がさらに好ましく、2.5質量%のアンモニア水が特に好ましい。5.0質量%以下のアンモニア水であると、アンモニアが硫黄分に対して適切であり不要なコストの増加を回避することができる。
【0067】
次に、当該タングステン含有沈殿をスラリー状としたタングステン含有沈殿スラリーに有機窒素化合物を添加し、タングステン酸分散液を生成する。当該タングステン含有沈殿スラリーは、上述したように硫黄分が除去されたタングステン含有沈殿を純水などで希釈し、スラリー状としたものである。なお、硫黄分が除去された、タングステン含有沈殿スラリーのタングステン含有量は、当該スラリーの一部を採取し、110℃で24時間乾燥させた後、1,000℃で4時間焼成し、WO3を生成する。このように生成したWO3の重量を測定し、その重量から当該スラリーのタングステン含有量を算出することができる。
【0068】
そして、硫黄分が除去されたタングステン含有沈殿スラリーに有機窒素化合物を混合することにより、第2実施形態のタングステン酸リチウム分散液の製造方法で用いられるタングステン酸分散液が得られる。
【0069】
具体的には、最終的な混合物のタングステン含有量がWO3換算で0.1質量%以上40質量%以下(W換算の場合、0.08質量%以上31.7質量%以下)となるように、得られたタングステン含有沈殿スラリーを、有機窒素化合物に加え、純水と混合し、当該混合物を撹拌しながら、液温を室温(25℃)に1時間保持することにより、第2実施形態のタングステン酸リチウム分散液の製造方法で用いられる無色透明なタングステン酸分散液が得られる。
【0070】
タングステン含有沈殿スラリーと混合する有機窒素化合物は、脂肪族アミン、およびまたは、4級アンモニウムであると好ましい。
【0071】
ここで、脂肪族アミンは、溶解性の観点から、タングステン含有沈殿スラリー中の脂肪族アミン含有量が40質量%以下になるように混合するのが好ましく、0.1質量%以上30質量%以下であるとより好ましく、0.5質量%以上20質量%以下であるとさらに好ましく、1質量%以上10質量%以下であると特に好ましい。なお、脂肪族アミンは、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、又はそれらの混合物であるとより好ましい。
【0072】
他方、4級アンモニウムは、溶解性の観点から、タングステン含有沈殿スラリー中の4級アンモニウム含有量が40質量%以下になるように混合するのが好ましく、0.1質量%以上30質量%以下であるとより好ましく、0.5質量%以上20質量%以下であるとさらに好ましく、1質量%以上10質量%以下であると特に好ましいなお、4級アンモニウムは、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、又は水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)であるとより好ましい。
【0073】
さらに、タングステン含有沈殿スラリーと混合する有機窒素化合物は、脂肪族アミン、または4級アンモニウムの何れかの1種ではなく、2種以上を混合したものでもよい。例えば、メチルアミン及び水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、ジメチルアミン及び水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、メチルアミン及びジメチルアミンのように2種以上の有機窒素化合物を混合したものや、メチルアミン、ジメチルアミン及び水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)のように3種以上の有機窒素化合物を混合したものが挙げられ、用途に合わせて適宜変更してもよい。
【0074】
このようにして生成されたタングステン酸分散液と、水酸化リチウム一水和物と、純水とを、最終的な混合物中のリチウムとタングステンのモル比Li/Wが0.2以上20以下となるように秤量し、それらを混合した混合物を撹拌しながら10℃~100℃で、1分間~3日間保持することにより、本発明のタングステン酸リチウム分散液が得られる。さらに、得られた本発明のタングステン酸リチウム分散液に含まれるアンモニア成分を除去するために、以下の濃度調節工程を行ってもよい。濃度調節工程では、例えば60℃~90℃で蒸発分の溶媒(純水等)を加えながら、1時間~100時間加熱撹拌した後、室温まで冷却する。または、60℃~90℃で1時間~100時間加熱撹拌した後、室温まで冷却する。その後、蒸発した溶媒(純水等)を補給するため、溶媒(純水等)を添加する。当該溶媒の添加量は、アンモニア成分を除去した後のタングステン酸リチウム分散液のタングステン含有量が、アンモニア成分を除去する前のタングステン酸リチウム分散液のタングステン含有量と一致するように調節する。
【0075】
本発明のタングステン酸リチウム膜の製造方法は、上述した本発明のタングステン酸リチウム分散液を基材に塗布し、乾燥し、およびまたは、焼成することを特徴とする。
【0076】
本発明のタングステン酸リチウム膜の内、タングステン酸リチウム乾燥膜の製造方法は、本発明のタングステン酸リチウム分散液を、基材の表面に塗布する塗布工程と、前記基材の表面に塗布された前記タングステン酸リチウム分散液を乾燥し、乾燥膜を得る膜乾燥工程とを有する。
【0077】
具体的には、本発明のタングステン酸リチウム分散液の製造方法により得られたタングステン酸リチウム分散液を、必要に応じて、例えば1μm孔径のフィルタで濾過しながらシリンジを用いて基材の表面上に滴下し、スピンコート(1,500rpm、30秒)により、塗布する。次に、110℃で30分間乾燥させることにより、基材の表面上に本発明のタングステン酸リチウム乾燥膜を形成させる。
【0078】
本発明のタングステン酸リチウム膜の内、タングステン酸リチウム焼成膜の製造方法は、本発明のタングステン酸リチウム分散液を、基材の表面に塗布する塗布工程と、前記基材の表面に塗布された前記タングステン酸リチウム分散液を乾燥し、乾燥膜を得る膜乾燥工程と、当該乾燥膜を大気下で、焼成温度が300℃以上1,200℃以下で、焼成時間が1時間以上12時間以下で焼成し、焼成膜を得る膜焼成工程とを有する。
【0079】
具体的には、本発明のタングステン酸リチウム分散液を、基材の表面に塗布し、乾燥させることにより得られたタングステン酸リチウム乾燥膜が形成された基材を、静置炉内に載置し、大気下、焼成温度が300℃以上1,200℃以下で、焼成時間が1時間以上12時間以下で焼成することにより、基材の表面上に本発明のタングステン酸リチウム焼成膜を形成させる。
【0080】
本発明のタングステン酸リチウム粉末の製造方法は、上述した本発明のタングステン酸リチウム分散液を乾燥し、およびまたは、焼成することを特徴とする。
【0081】
本発明のタングステン酸リチウム粉末の内、タングステン酸リチウムの乾燥粉末の製造方法は、上述した本発明のタングステン酸リチウム分散液の製造方法により得られたタングステン酸リチウム分散液を静置炉内に載置し、加熱温度約60℃~200℃で1時間~72時間に亘って、真空乾燥することにより、本発明のタングステン酸リチウム分散液の水分が蒸発し、本発明のタングステン酸リチウム分散液に含まれるタングステン酸リチウムの結晶粒子を含有する、本発明のタングステン酸リチウムの乾燥粉末が得られる。
【0082】
本発明のタングステン酸リチウムの焼成粉末の製造方法は、上述したように本発明のタングステン酸リチウム分散液を真空乾燥し、得られたタングステン酸リチウムの乾燥粉末を静置炉内に載置し、大気下で、焼成温度が300℃以上1,200℃以下で、焼成時間が1時間以上72時間以下で焼成することにより、本発明のタングステン酸リチウムの焼成粉末が得られる。
【0083】
なお、本発明のタングステン酸リチウムの乾燥粉末、及び焼成粉末を粉砕したものを、本発明のタングステン酸リチウムとして用いてもよい。また、粉砕されるか否かに拘らず、本発明のタングステン酸リチウムの乾燥粉末、及び焼成粉末を篩などによって分級して得られた篩下(微粒側)を本発明のタングステン酸リチウム粉末として用いてもよい。篩上(粗粒側)は再度粉砕し、分級して用いてもよい。なお、ナイロン、またはフッ素樹脂によりコーティングした鉄球等が粉砕メディアとして投入された振動篩を使用して粉砕と分級とを兼ねることも可能である。このように分級と粉砕とを兼ねることにより、大き過ぎるタングステン酸リチウム粉末が存在しても除去が可能である。具体的には、篩を用いて分級する場合、目開きが150μm~1,000μmのものを用いると好ましい。150μm~1,000μmであると、篩上の割合が多くなりすぎることがなく再粉砕を繰り返すことがなく、また篩下に再粉砕が必要なタングステン酸リチウム粉末が分級されることがない。
【0084】
このようにして得られた本発明のタングステン酸リチウム粉末を、分散媒として水や、有機溶媒と混合し、ビーズ等のメディアを用いて湿式粉砕することにより、タングステン酸リチウム粉末分散液を得ることができる。ここで、分散媒として用いられる有機溶媒は、例えばアルコール類、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、エーテル類、及びそれらの混合溶媒が挙げられる。さらに、タングステン酸リチウム粉末分散液を用いた、タングステン酸リチウム膜の成膜性を向上させるために、樹脂成分等のバインダーを添加してもよい。バインダーとして用いられる樹脂成分は、例えばアクリル樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート、グリコール系樹脂、セルロース系樹脂、及びそれらの混合樹脂、共重合樹脂が挙げられる。
【0085】
さらに、上述した本発明のタングステン酸リチウム分散液が被覆したリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法について、以下説明する。
【0086】
本発明のタングステン酸リチウム分散液が被覆したリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、本発明のタングステン酸リチウム分散液と、正極活物質と、必要に応じて水酸化リチウム水溶液とを混合して、タングステン酸リチウムを含有する電池用正極活物質スラリーを生成する工程と、前記タングステン酸リチウムを含有する電池用正極活物質スラリーを乾燥する工程と、を有することを特徴とする。
【0087】
先ず、本発明のタングステン酸リチウム分散液を純水で希釈したタングステン酸リチウム分散液中に、電池用正極活物質、例えばLiMn2O4(メルク社製:スピネル型、粒径<0.5μm)を添加することにより、タングステン酸リチウムを含有するスラリーが得られる。そして、タングステン酸リチウムを含有するスラリーを撹拌しながら、水酸化リチウム水溶液を滴下し、10分間90℃に保持することにより、タングステン酸リチウムを含有する電池用正極活物質スラリーが生成される。
【0088】
電池用正極活物質として、上述したLiMn2O4の他、LiCoO2、LiNiO2、LiFeO2、Li2MnO3、LiFePO4、LiCoPO4、LiNiPO4、LiMnPO4、LiNi0.5Mn1.5O4、LiMn1/3Co1/3Ni1/3O2、LiCo0.2Ni0.4Mn0.4O2、モリブデン酸リチウム、LiMnO4、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2、LiMnO2等を用いることができる。
【0089】
次に、タングステン酸リチウムを含有する電池用正極活物質スラリーを、炉内温度を110℃で保持し、15時間に亘って大気乾燥炉内で乾燥させることにより、タングステン酸リチウムにより被覆されたリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造することができる。
【0090】
上述したタングステン酸リチウム分散液が被覆したリチウムイオン二次電池用正極活物質では、本発明のタングステン酸リチウム分散液を用いたが、本発明のタングステン酸リチウム分散液を乾燥させた乾燥粉末や、本発明のタングステン酸リチウム分散液を乾燥し、焼成した焼成粉末を分散媒に分散させたものを用いてもよい。
【0091】
なお、上述したリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法では、電池用正極活物質を添加したが、適宜用途に合わせて変更してもよい。例えば、分散剤、pH調整剤、着色剤、増粘剤、湿潤剤、バインダー樹脂等を添加してもよい。
【0092】
このように本発明のタングステン酸リチウム分散液がリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子表面を被覆していることにより、二次電池の正極活物質粒子のリチウムイオン二次電池の正極と電解質との間で生じる界面抵抗を低減させることができる。
【0093】
さらに、二次電池の正極活物質粒子のリチウムイオン二次電池の正極と電解質との間で生じる界面抵抗を低減させる目的として、本発明のタングステン酸リチウム分散液と、ニオブ酸化合物(例えばニオブ酸リチウムやニオブ酸)や、タンタル酸化合物(例えばタンタル酸リチウムやタンタル酸)や、モリブデン酸化合物(例えばモリブデン酸リチウムやモリブデン酸)とを混合したタングステン酸リチウム分散液により、リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子表面を被覆してもよい。なお、本発明のタングステン酸リチウム分散液とニオブ酸化合物や、タンタル酸化合物等とを混合したタングステン酸リチウム分散液中の粒子の動的光散乱法による粒子径(D50)が100nm以下であるとよい。
【0094】
なお、本明細書において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特に断らない限り、「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」旨の意も包含する。また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現する場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【発明の効果】
【0095】
本発明のタングステン酸リチウム分散液は、極性溶媒、とりわけ水への分散性が高く、水に対する溶解性も良好で、且つ保存安定性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【
図1】本発明の実施例1~8、及び比較例1、3に係るタングステン酸リチウム分散液と、比較例2に係るタングステン酸リチウムを含むケーキ状組成物との物性値の一覧表である。
【
図2】本発明の実施例1~8、及び比較例1、3に係るタングステン酸リチウム分散液と、比較例2に係るタングステン酸リチウムを含むケーキ状組成物との測定結果の一覧表である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0097】
以下、本発明に係る実施形態のタングステン酸リチウム分散液について、以下の実施例によりさらに説明する。但し、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0098】
(実施例1)
パラタングステン酸アンモニウム1.13gと、水酸化リチウム一水和物0.36gと、純水18.51gと、を混合し、25℃で、30分間撹拌することにより、実施例1に係るタングステン酸リチウム分散液を得た。実施例1に係るタングステン酸リチウム分散液20.0gにおいて、当該タングステン酸リチウム分散液中のWO3換算のタングステン含有量は5.0質量%(1.0g、4.3mmol)であり、W換算のタングステン含有量は4.0質量%(0.8g、4.3mmol)であった。また、Li換算のリチウム含有量は0.30質量%(0.06g、8.6mmol)であった。そして、上述したリチウム(8.6mmol)とW換算のタングステン(4.3mmol)とにより、実施例1に係るタングステン酸リチウム分散液に含まれるタングステン酸リチウムのリチウム(Li)とタングステン(W)とのモル比Li/Wは2.0であった。
【0099】
さらに、実施例1に係るタングステン酸リチウム分散液の初期pHは11.5であり、経時pHは11.4であった。また、実施例1に係るタングステン酸リチウム分散液の初期粒子径D50は10nmであり、経時粒子径D50は30nmであった。
【0100】
(実施例2)
パラタングステン酸アンモニウム1.13gと、水酸化リチウム一水和物0.36gと、純水18.01gと、40質量%メチルアミン0.50gとを混合し、25℃で、30分間撹拌することにより、実施例2に係るタングステン酸リチウム分散液を得た。実施例2に係るタングステン酸リチウム分散液20.0gにおいて、当該タングステン酸リチウム分散液中のWO3換算のタングステン含有量は5.0質量%(1.0g、4.3mmol)であり、W換算のタングステン含有量は4.0質量%(0.8g、4.3mmol)であった。また、Li換算のリチウム含有量は0.30質量%(0.06g、8.6mmol)であった。そして、上述したリチウム(8.6mmol)とW換算のタングステン(4.3mmol)とにより、実施例2に係るタングステン酸リチウム分散液に含まれるタングステン酸リチウムのリチウム(Li)とタングステン(W)とのモル比Li/Wは2.0であった。
【0101】
さらに、実施例2に係るタングステン酸リチウム分散液の初期pHは12.3であり、経時pHは12.0であった。また、実施例2に係るタングステン酸リチウム分散液の初期粒子径D50は10nmであり、経時粒子径D50は20nmであった。
【0102】
(実施例3)
酸化タングステン1.00gと、水酸化リチウム一水和物0.36gと、純水18.52gと、25質量%アンモニア水0.12gとを混合し、80℃で、蒸発分の純水を加えつつ、30分間撹拌することにより、実施例3に係るタングステン酸リチウム分散液を得た。実施例3に係るタングステン酸リチウム分散液20.0gにおいて、当該タングステン酸リチウム分散液中のWO3換算のタングステン含有量は5.0質量%(1.0g、4.3mmol)であり、W換算のタングステン含有量は4.0質量%(0.8g、4.3mmol)であった。また、Li換算のリチウム含有量は0.30質量%(0.06g、8.6mmol)であった。そして、上述したリチウム(8.6mmol)とW換算のタングステン(4.3mmol)とにより、実施例3に係るタングステン酸リチウム分散液に含まれるタングステン酸リチウムのリチウム(Li)とタングステン(W)とのモル比Li/Wは2.0であった。
【0103】
さらに、実施例3に係るタングステン酸リチウム分散液の初期pHは11.4であり、経時pHは11.3であった。また、実施例3に係るタングステン酸リチウム分散液の初期粒子径D50は10nmであり、経時粒子径D50は30nmであった。
【0104】
(実施例4)
パラタングステン酸アンモニウム1.70gと、5質量%水酸化リチウム一水和物水溶液5.45gと、純水22.11gと、40質量%メチルアミン0.75gとを混合し、25℃で、30分間撹拌することにより、実施例4に係るタングステン酸リチウム分散液を得た。実施例4に係るタングステン酸リチウム分散液30.0gにおいて、当該タングステン酸リチウム分散液中のWO3換算のタングステン含有量は5.0質量%(1.5g、6.5mmol)であり、W換算のタングステン含有量は4.0質量%(1.2g、6.5mmol)であった。また、Li換算のリチウム含有量は0.15質量%(0.05g、6.5mmol)であった。そして、上述したリチウム(6.5mmol)とW換算のタングステン(6.5mmol)とにより、実施例4に係るタングステン酸リチウム分散液に含まれるタングステン酸リチウムのリチウム(Li)とタングステン(W)とのモル比Li/Wは1.0であった。
【0105】
さらに、実施例4に係るタングステン酸リチウム分散液の初期pHは10.7であり、経時pHは10.5であった。また、実施例4に係るタングステン酸リチウム分散液の初期粒子径D50は10nmであり、経時粒子径D50は10nmであった。なお、実施例4で用いた5質量%水酸化リチウム一水和物水溶液は、水酸化リチウム一水和物15gと純水285gとを混合し、1時間撹拌することにより得られた。
【0106】
(実施例5)
パラタングステン酸アンモニウム1.70gと、5質量%水酸化リチウム一水和物水溶液8.17gと、純水19.38gと、40質量%メチルアミン0.75gとを混合し、25℃で、30分間撹拌することにより、実施例5に係るタングステン酸リチウム分散液を得た。実施例5に係るタングステン酸リチウム分散液30.0gにおいて、当該タングステン酸リチウム分散液中のWO3換算のタングステン含有量は5.0質量%(1.5g、6.5mmol)であり、W換算のタングステン含有量は4.0質量%(1.2g、6.5mmol)であった。また、Li換算のリチウム含有量は0.23質量%(0.07g、9.7mmol)であった。そして、上述したリチウム(9.7mmol)とW換算のタングステン(6.5mmol)とにより、実施例5に係るタングステン酸リチウム分散液に含まれるタングステン酸リチウムのリチウム(Li)とタングステン(W)とのモル比Li/Wは1.5であった。
【0107】
さらに、実施例5に係るタングステン酸リチウム分散液の初期pHは11.2であり、経時pHは11.1であった。また、実施例5に係るタングステン酸リチウム分散液の初期粒子径D50は10nmであり、経時粒子径D50は10nmであった。なお、実施例5で用いた5質量%水酸化リチウム一水和物水溶液は、実施例4と同様のものである。
【0108】
(実施例6)
パラタングステン酸アンモニウム1.70gと、5質量%水酸化リチウム一水和物水溶液10.90gと、純水16.66gと、40質量%メチルアミン0.75gとを混合し、25℃で、30分間撹拌することにより、実施例6に係るタングステン酸リチウム分散液を得た。実施例6に係るタングステン酸リチウム分散液30.0gにおいて、当該タングステン酸リチウム分散液中のWO3換算のタングステン含有量は5.0質量%(1.5g、6.5mmol)であり、W換算のタングステン含有量は4.0質量%(1.2g、6.5mmol)であった。また、Li換算のリチウム含有量は0.30質量%(0.09g、13.0mmol)であった。そして、上述したリチウム(13.0mmol)とW換算のタングステン(6.5mmol)とにより、実施例6に係るタングステン酸リチウム分散液に含まれるタングステン酸リチウムのリチウム(Li)とタングステン(W)とのモル比Li/Wは2.0であった。
【0109】
さらに、実施例6に係るタングステン酸リチウム分散液の初期pHは11.7であり、経時pHは11.6であった。また、実施例6に係るタングステン酸リチウム分散液の初期粒子径D50は10nmであり、経時粒子径D50は10nmであった。なお、実施例6で用いた5質量%水酸化リチウム一水和物水溶液は、実施例4と同様のものである。
【0110】
(実施例7)
パラタングステン酸アンモニウム1.70gと、5質量%水酸化リチウム一水和物水溶液13.62gと、純水13.93gと、40質量%メチルアミン0.75gとを混合し、25℃で、30分間撹拌することにより、実施例7に係るタングステン酸リチウム分散液を得た。実施例7に係るタングステン酸リチウム分散液30.0gにおいて、当該タングステン酸リチウム分散液中のWO3換算のタングステン含有量は5.0質量%(1.5g、6.5mmol)であり、W換算のタングステン含有量は4.0質量%(1.2g、6.5mmol)であった。また、Li換算のリチウム含有量は0.38質量%(0.11g、16.2mmol)であった。そして、上述したリチウム(16.2mmol)とW換算のタングステン(6.5mmol)とにより、実施例7に係るタングステン酸リチウム分散液に含まれるタングステン酸リチウムのリチウム(Li)とタングステン(W)とのモル比Li/Wは2.5であった。
【0111】
さらに、実施例7に係るタングステン酸リチウム分散液の初期pHは12.1であり、経時pHは12.2であった。また、実施例7に係るタングステン酸リチウム分散液の初期粒子径D50は10nmであり、経時粒子径D50は10nmであった。なお、実施例7で用いた5質量%水酸化リチウム一水和物水溶液は、実施例4と同様のものである。
【0112】
(実施例8)
パラタングステン酸アンモニウム1.70gと、5質量%水酸化リチウム一水和物水溶液16.35gと、純水11.21gと、40質量%メチルアミン0.75gとを混合し、25℃で、30分間撹拌することにより、実施例8に係るタングステン酸リチウム分散液を得た。実施例8に係るタングステン酸リチウム分散液30.0gにおいて、当該タングステン酸リチウム分散液中のWO3換算のタングステン含有量は5.0質量%(1.5g、6.5mmol)であり、W換算のタングステン含有量は4.0質量%(1.2g、6.5mmol)であった。また、Li換算のリチウム含有量は0.45質量%(0.14g、19.5mmol)であった。そして、上述したリチウム(19.5mmol)とW換算のタングステン(6.5mmol)とにより、実施例8に係るタングステン酸リチウム分散液に含まれるタングステン酸リチウムのリチウム(Li)とタングステン(W)とのモル比Li/Wは3.0であった。
【0113】
さらに、実施例8に係るタングステン酸リチウム分散液の初期pHは12.2であり、経時pHは12.3であった。また、実施例8に係るタングステン酸リチウム分散液の初期粒子径D50は10nmであり、経時粒子径D50は10nmであった。なお、実施例8で用いた5質量%水酸化リチウム一水和物水溶液は、実施例4と同様のものである。
【0114】
(比較例1)
市販品であるタングステン酸リチウム1.13gと、純水18.87gとを混合し、25℃で、30分間撹拌することにより、比較例1に係るタングステン酸リチウム分散液を得た。比較例1に係るタングステン酸リチウム分散液20.0gにおいて、当該タングステン酸リチウム分散液中のWO3換算のタングステン含有量は5.0質量%(1.0g、4.3mmol)であり、W換算のタングステン含有量は4.0質量%(0.8g、4.3mmol)であった。また、Li換算のリチウム含有量は0.30質量%(0.06g、8.6mmol)であった。そして、上述したリチウム(8.6mmol)とW換算のタングステン(4.3mmol)とにより、比較例1に係るタングステン酸リチウム分散液に含まれるタングステン酸リチウムのリチウム(Li)とタングステン(W)とのモル比Li/Wは2.0であった。
【0115】
さらに、比較例1に係るタングステン酸リチウム分散液の初期pHは8.0であった。
【0116】
(比較例2)
酸化タングステン5.00gと、水酸化リチウム一水和物1.82gと、純水2.50gとを混合したところ、25℃において高粘度化したため撹拌することができなかった。比較例2に係るタングステン酸リチウムを含むケーキ状組成物を得た。比較例2に係るタングステン酸リチウム分散液20.0gにおいて、当該タングステン酸リチウム分散液中のWO3換算のタングステン含有量は53.7質量%(5.0g、21.6mmol)であり、W換算のタングステン含有量は42.6質量%(4.0g、21.6mmol)であった。また、Li換算のリチウム含有量は3.26質量%(0.30g、43.4mmol)であった。そして、上述したリチウム(43.4mmol)とW換算のタングステン(21.6mmol)とにより、比較例2に係るタングステン酸リチウム分散液に含まれるタングステン酸リチウムのリチウム(Li)とタングステン(W)とのモル比Li/Wは2.0であった。
【0117】
さらに、比較例2に係るタングステン酸リチウムを含むケーキ状組成物は高粘度であるため、その初期pH及び経時pHは測定不能であった。
【0118】
(比較例3)
酸化タングステン1.00gと、水酸化リチウム一水和物0.36gと、純水18.64gとを混合し、25℃で、30分間撹拌することにより、比較例3に係るタングステン酸リチウム分散液を得た。比較例3に係るタングステン酸リチウム分散液20.0gにおいて、当該タングステン酸リチウム分散液中のWO3換算のタングステン含有量は5.0質量%(1.0g、4.3mmol)であり、W換算のタングステン含有量は4.0質量%(0.8g、4.3mmol)であった。また、Li換算のリチウム含有量は0.30質量%(0.06g、8.6mmol)であった。そして、上述したリチウム(8.6mmol)とW換算のタングステン(4.3mmol)とにより、比較例3に係るタングステン酸リチウム分散液に含まれるタングステン酸リチウムのリチウム(Li)とタングステン(W)とのモル比Li/Wは2.0であった。
【0119】
さらに、比較例3に係るタングステン酸リチウム分散液の初期pHは8.8であった。
【0120】
そして、実施例1~8、及び比較例1、3のタングステン酸リチウム分散液と、比較例2に係るタングステン酸リチウムを含むケーキ状組成物とについて、次のような物性を測定した。以下、測定した物性値、及びその物性値の測定方法を示すとともに、実施例1~8、及び比較例1、3のタングステン酸リチウム分散液と、比較例2に係るタングステン酸リチウムを含むケーキ状組成物との測定結果を
図1、
図2に示す。
【0121】
〈元素分析〉
必要に応じて試料を希塩酸で適度に希釈し、ICP発光分析(アジレント・テクノロジー社製:AG-5110)を用いて、JIS K0116:2014に準拠し、W換算のW質量分率、又はLi換算のLi質量分率を測定した。
【0122】
〈pH測定〉
実施例1~8、及び比較例1、3に係るタングステン酸リチウム分散液にpHメータ(HORIBA製:ガラス電極式水素イオン濃度指示器 D-51)の電極(HORIBA製:スタンダード ToupH 電極 9615S-10D)、液温が25℃に安定したことを確認した後、pHを測定した。
図2中の「初期pH」とは、生成された直後に測定されたpHを示す。
図2中の「経時pH」とは、室温25℃で1カ月静置した後で測定されたpHを示す。なお、比較例2に係るタングステン酸リチウムを含むケーキ状組成物は高粘度であるため、そのpHは測定不能であった。
【0123】
〈光透過度測定〉
実施例1~8、及び比較例1、3に係るタングステン酸リチウム分散液3mlを、光路長5mmの合成石英セルに入れ、実施例1~8、及び比較例1、3に係るタングステン酸リチウム分散液の光透過度を、上述した光透過率測定条件に従って、分光光度計にて測定した。光透過度の測定は、生成された直後のタングステン酸リチウム分散液と、室温25℃下で1カ月静置した後のタングステン酸リチウム分散液とに対して、行った。そして、波長400nm、600nm、750nmの光透過度が75%以上であれば「○○(VERY GOOD)」と評価し、波長400nm、600nm、750nmの光透過度が70%以上75%未満であれば「○(GOOD)」と評価し、波長400nmの光透過度が70%未満であれば「×(BAD)」と評価した。
図2中の「初期光透過度」とは、生成された直後に測定された波長400nm、600nm、750nmの光透過度を示す。また、
図2中の「経時光透過度」とは、生成された日から室温25℃で1カ月静置した後で測定された波長400nm、600nm、750nmの光透過度を示す。なお、比較例2に係るタングステン酸リチウムを含むケーキ状組成物は、ケーキ状であるため測定不能であった。
【0124】
〈動的光散乱法〉
粒度分布の評価は、ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(大塚電子株式会社製:ELSZ-2000)を用いて、JIS Z 8828:2019に準じた動的光散乱法により行った。また、測定直前に測定対象である溶液中の埃等を除去するため、1μm孔経のフィルタで当該溶液を濾過して、フィルタリングを行った。そして、超音波洗浄機(アズワン社製:VS-100III)にて、28kHz、3分間の超音波処理を実施し、超音波を用いた分散処理を行った。さらに、D50は体積分率にして50%に至る粒子径を示す。
図2中の「初期粒子径D50(nm)」とは、生成された直後のタングステン酸リチウム分散液中の粒子の粒子径(D50)をいう。また、
図2中の「経時粒子径D50(nm)」とは、生成された日から室温25℃下で1カ月静置した後のタングステン酸リチウム分散液中の粒子の粒子径(D50)をいう。そして、測定した「初期粒子径D50(nm)」及び「経時粒子径D50(nm)」を、評価基準「A」、「B」、「C」、又は「D」により評価した。評価基準「A」は、「D50≦30nm」を満たすものを示す。評価基準「B」は、「30nm<D50≦50nm」を満たすものを示す。評価基準「C」は、「50nm<D50≦100nm」を満たすものを示す。評価基準「D」は、「100nm<D50」を満たすものを示す。なお、上述したフィルタリングは、「初期粒子径D50(nm)」の測定時に行ったが、「経時粒子径D50(nm)」の測定時は行わず、超音波処理のみを実施した。
【0125】
〈経時安定性試験〉
実施例1~8、及び比較例1、3に係るタングステン酸リチウム分散液を室温25℃下で1カ月間静置した後、白色沈殿やゲル化の有無を目視観察することにより行った。白色沈殿やゲル化が一つも観察されなかったものは経時安定性を有するとして「○(GOOD)」と評価し、白色沈殿やゲル化が一つでも観察されたものは経時安定性を有しないとして「×(BAD)」と評価した。ここで、ゲル化の判定は、各タングステン酸リチウム分散液をポリプロピレン容器に入れ、当該容器を逆さまにした際、速やかに落下しない分散液をゲル化していると判定した。また、1カ月静置後の実施例1~8、及び比較例1、3に係るタングステン酸リチウム分散液中の粒子の経時粒子径D50を、上述した動的光散乱法を用いて測定した。なお、比較例2に係るタングステン酸リチウムを含むケーキ状組成物は、ケーキ状であるため測定不能であった。
【0126】
〈成膜性試験〉
集電板の代替品であるガラス基板の表面に形成した塗膜の外観評価を光学顕微鏡で観察することによって行った。実施例1~8、及び比較例1、3に係るタングステン酸リチウム分散液を1μm孔径のフィルタで濾過しながらシリンジを用いて、中性洗剤により脱脂洗浄した後、乾燥を行った25mm×25mmのガラス基板に滴下し、スピンコート(100rpm、30秒)により、塗布した。そして、110℃で30分間乾燥させることにより、ガラス基板上に塗膜を形成した。形成した塗膜の中央15mm×15mmの範囲において、光学顕微鏡(倍率:40倍)で当該ガラス基板を観察し、気泡、塗工ムラ、ひび割れが、一つも観察されなかったものは成膜性に優れているとして「○(GOOD)」と評価し、一つでも観察されたものを成膜性に優れていないとして「×(BAD)」と評価した。なお、比較例2に係るタングステン酸リチウムを含むケーキ状組成物は、ケーキ状であるため測定不能であった。
【0127】
図1、2に示す通り、実施例1~8に係るタングステン酸リチウム分散液は、リチウムとタングステンのモル比Li/Wが0.2以上20以下であり、当該分散液中の粒子の動的光散乱法による粒子径(D50)が100nm以下であると、分散媒への分散性が高く、溶解性も優れるものであった。なお、比較例1、3に係るタングステン酸リチウム分散液は、目視確認できる粒子径100nmを超える大きな析出粒子が発生しているため測定不能であった。比較例2に係るタングステン酸リチウムを含むケーキ状組成物は、ケーキ状であるため測定不能であった。
【0128】
実施例1~8に係るタングステン酸リチウム分散液は、当該分散液中のタングステン含有量がW換算で0.4質量%以上24質量%以下であると、長期保管時の安定性が向上した。
【0129】
実施例1~8に係るタングステン酸リチウム分散液は、当該分散液のpHが9以上14以下であると、経時安定性に優れていた。なお、比較例2に係るタングステン酸リチウムを含むケーキ状組成物は、ケーキ状であるため測定不能であった。
【0130】
実施例1~8に係るタングステン酸リチウム分散液は、波長400nm~760nm領域の光透過度の最大値が70%以上であると、分散度が高く液中成分の均一性が優れていた。経時安定性に優れていた。なお、比較例2に係るタングステン酸リチウムを含むケーキ状組成物は、ケーキ状であるため測定不能であった。
【0131】
実施例1~8に係るタングステン酸リチウム分散液は、1カ月経過した後であっても経時粒子径D50は初期粒子径D50と比して大きな差は見られず、経時安定性に優れるものであった。なお、比較例1、3に係るタングステン酸リチウム分散液は、目視確認できる粒子径100nmを超える大きな析出粒子が発生しているため測定不能であった。比較例2に係るタングステン酸リチウムを含むケーキ状組成物は、ケーキ状であるため測定不能であった。
【0132】
実施例1~8に係るタングステン酸リチウム分散液から形成したタングステン酸リチウム膜は、各タングステン酸リチウム分散液から形成した塗膜を光学顕微鏡で観察した結果、当該塗膜中に粗粒子が存在せず、且つ気泡、塗工ムラ、ひび割れが一つも観察されず、膜が形成され、成膜性に優れるものであった。なお、比較例1、3に係るタングステン酸リチウム分散液から形成したタングステン酸リチウム膜は、各タングステン酸リチウム分散液から形成した塗膜を光学顕微鏡で観察した結果、当該塗膜中に粗粒子が存在し、且つ塗工ムラ、ひび割れが観察され、成膜性に劣るものであった。比較例2に係るタングステン酸リチウムを含むケーキ状組成物からタングステン酸リチウム膜を形成することができなかた。
【0133】
本明細書開示の発明は、各発明や実施形態の構成の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものを含む。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明に係るタングステン酸リチウム分散液は、極性溶媒、とりわけ水への分散性が高く、水に対する溶解性も良好で、且つ保存安定性も優れていることから、リチウムイオン二次電池の正極活物質を被覆するものとして好適である。また、本発明に係るタングステン酸リチウム分散液は、保存安定性に優れており、経時変化によって、沈殿物が生じることによる不良品の発生率を抑えられることから、廃棄物を減らすことができ、廃棄物の処分におけるエネルギーコストも削減することが可能となる。さらに、本発明に係るタングステン酸リチウム分散液は、成膜性の形成も良好であるため、被覆されたリチウムイオン二次電池の正極活物質においても同様に廃棄物を減らすことができ、また不良品の発生率を抑えることができる。これらの点により、天然資源の持続可能な管理及び効率的な利点、並びに脱炭素(カーボンニュートラル)化を達成することにつながる。
【要約】
本発明のタングステン酸リチウム分散液は、リチウムとタングステンのモル比Li/Wが0.2以上20以下であるタングステン酸リチウムと、アンモニアとを含むタングステン酸リチウム分散液であって、動的光散乱法による前記タングステン酸リチウム分散液中の粒子の粒子径(D50)が100nm以下である。本発明のタングステン酸リチウム分散液の製造方法は、タングステン酸化合物と、水酸化リチウムとを混合した混合物を撹拌しながら20℃~100℃で保持し、タングステン酸リチウム分散液を得る工程を有する。