(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】細胞群及びその取得方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/078 20100101AFI20240830BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20240830BHJP
A61K 35/51 20150101ALI20240830BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240830BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240830BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20240830BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
C12N5/078
A61K35/15
A61K35/51
A61P9/00
A61P9/10
A61P17/02
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2021566846
(86)(22)【出願日】2020-10-08
(86)【国際出願番号】 JP2020039003
(87)【国際公開番号】W WO2021131261
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2019231606
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(73)【特許権者】
【識別番号】519457937
【氏名又は名称】株式会社リィエイル
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】田中 里佳
(72)【発明者】
【氏名】古賀 三奈子
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-160661(JP,A)
【文献】国際公開第2019/146131(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/068217(WO,A1)
【文献】MASUDA, Haruchika et al.,Vasculogenic Conditioning of Peripheral Blood Mononuclear Cells Promotes Endothelial Progenitor Cell,Journal of the American Heart Association,2014年,Vol.3, e000743,pp.1-29
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/078
A61K 35/15
A61K 35/51
A61P 9/00
A61P 9/10
A61P 17/02
A61P 29/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨髄、臍帯血又は末梢血由来の単核球を、10~1000ng/mLの幹細胞因子、1~500ng/mLのインタ一ロイキン6、10~1000ng/mLのFMS様チロシンキナーゼ3リガンド、1~500ng/mLのトロンボポエチン及び5~500ng/mLの血管内皮細胞増殖因子からなる群から選択される4以下の因子、並びに、0.1容量%以上20容量%以内の濃度の血清、を含む培地中で培養して
得られ、CD206(+)、CD34(+)又はCD3(+)である細胞の合計が60%以上であり、そして、CCR2(-)である細胞が95%以上である、細胞群であって ここにおいて、培地は、因子として幹細胞因子及びインタ一ロイキン6の双方を
同時に含むことはない、
前記細胞群。
【請求項2】
培地が、幹細胞因子、インタ一ロイキン6、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、トロンボポエチン及び血管内皮細胞増殖因子から選択される3因子又は4因子を含む、請求項1に記載の細胞群。
【請求項3】
血清が、ウシ又はヒトの血清である、請求項1又は2に記載の細胞群。
【請求項4】
培地が、50~500ng/mLの幹細胞因子、5~100ng/mLのインタ一ロイキン6、50~500ng/mLのFMS様チロシンキナーゼ3リガンド、5~100ng/mLのトロンボポエチン及び20~100ng/mLの血管内皮細胞増殖因子からなる群から選択される4以下の因子、並びに、0.5容量%以上
10容量%以内の濃度の血清、を含む、請求項1に記載の細胞群。
【請求項5】
CD206(+)中のCXCR4(+)である細胞が50%以上である、
請求項4に記載の細胞群。
【請求項6】
CD206(+)中のCXCR4(+)である細胞が80%以上である、
請求項4又は5に記載の細胞群。
【請求項7】
請求項1-6のいずれか1項に記載の細胞群の取得方法であって、
骨髄、臍帯血又は末梢血由来の単核球を、10~1000ng/mLの幹細胞因子、1~500ng/mLのインタ一ロイキン6、10~1000ng/mLのFMS様チロシンキナーゼ3リガンド、1~500ng/mLのトロンボポエチン及び5~500ng/mLの血管内皮細胞増殖因子からなる群から選択される4以下の因子、並びに、0.1容量%以上
20容量%以内の濃度の血清、を含む培地中で培養する、ことを含み、 ここにおいて、培地は、因子として幹細胞因子及びインタ一ロイキン6の双方を
同時に含むことはない、前記方法。
【請求項8】
細胞群において、CD206(+)中のCXCR4(+)である細胞が50%以上である、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
培地が、幹細胞因子、インタ一ロイキン6、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、トロンボポエチン及び血管内皮細胞増殖因子から選択される3因子又は4因子を含む、
請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
血清がウシ胎児血清である、
請求項7-9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
培地が、50~500ng/mLの幹細胞因子、5~100ng/mLのインタ一ロイキン6、50~500ng/mLのFMS様チロシンキナーゼ3リガンド、5~100ng/mLのトロンボポエチン及び20~100ng/mLの血管内皮細胞増殖因子からなる群から選択される4以下の因子、並びに、0.5容量%以上
10容量%以内の濃度の血清を含む、
請求項7-10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1-6のいずれか1項に記載の細胞群を含む、虚血性疾患、炎症性疾患又は難治療性創傷の治療用組成物。
【請求項13】
虚血性疾患が、四肢虚血である、
請求項12に記載の治療用組成物。
【請求項14】
虚血性疾患が、潰瘍を伴う四肢虚血である、
請求項12又は13に記載の治療用組成物。
【請求項15】
血管新生及び/又は創傷治癒を促進する、
請求項12-14のいずれか1項に記載の治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞群及びその取得方法、に関する。本発明の細胞群は、骨髄、臍帯血又は末梢血由来の単核球を、幹細胞因子、インタ一ロイキン6、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、トロンボポエチン及び血管内皮細胞増殖因子からなる群から選択される4以下の因子、並びに、血清、を含む培地中で培養して得られる、ものである。本発明はまた、骨髄、臍帯血又は末梢血由来の単核球を、幹細胞因子、インタ一ロイキン6、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、トロンボポエチン及び血管内皮細胞増殖因子からなる群から選択される4以下の因子、並びに、血清、を含む培地中で培養して得られる細胞群を含む、虚血性疾患、炎症性疾患又は難治療性創傷の治療用組成物、に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、虚血性疾患を対象として、骨髄単核球移植治療や末梢血幹細胞採取による血管内皮前駆細胞(Endothelial progenitor cell;EPC)を用いた細胞移植治療法がおこなわれるようになった。それゆえ、EPCを大量に培養する技術が特に求められていた。CD34及び/又はCD133陽性細胞からの血管内皮前駆細胞の生体外増幅方法は、効率的なEPCの培養技術を提供することを可能にした(特許文献1)。さらに血管内皮細胞分化動態解析方法によって内皮細胞様大コロニー(分化型EPCコロニー)形成細胞と内皮細胞様小コロニー(未分化型EPCコロニー)形成細胞が存在することが明らかになり細胞移植による治療効果を予測、把握することを可能にした(特許文献2)。また骨髄単核球からCD34及び/又はCD133陽性細胞を効率的に増幅させる方法を示した(特許文献3)。
【0003】
国際公開WO2014/051154に示されるように、骨髄、臍帯血又は末梢血由来の単核球画分から血管内皮前駆細胞又は抗炎症・免疫寛容誘導細胞が富化した細胞群を増幅させる方法(以下、本明細書において、「QQ-MNC法」)と呼称する場合がある)を記載している。当該方法は、(1)幹細胞因子(Stem cell factor;SCF),(2)インターロイキン6(Interleukin-6;IL-6),(3)FMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FMS-like tyrosine kinase 3 ligand;FL),(4)トロンボポエチン(Thrombopoietin;TPO)及び(5)血管内皮細胞増殖因子(Vascular endothelial growth factor;VEGF)の5つの因子を含む無血清培地で、単核球を培養することにより、EPCを含む細胞群を生体外で増幅する、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
[特許文献1]国際公開 WO2006/090882
[特許文献2]国際公開 WO2006/090886
[特許文献3]国際公開 WO2006/093172
[特許文献4]国際公開WO2014/051154
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究に努めた結果、骨髄、臍帯血又は末梢血由来の単核球を、幹細胞因子、インタ一ロイキン6、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、トロンボポエチン及び血管内皮細胞増殖因子からなる群から選択される4以下の因子、並びに、血清、を含む培地中で、培養することにより、血管再生能及び創傷治癒能を有し、かつ、QQ-MNC法によって得られる細胞群とは異なる新たな細胞群の取得に成功し、本発明を想到した。
【0006】
本発明は、細胞群を提供することを目的とする。本発明の細胞群は、骨髄、臍帯血又は末梢血由来の単核球を、幹細胞因子、インタ一ロイキン6、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、トロンボポエチン及び血管内皮細胞増殖因子からなる群から選択される4以下の因子、並びに、血清、を含む培地中で培養して得られる、ものである。
【0007】
本発明はまた、細胞群の取得方法を提供することを目的とする。本発明の方法は、骨髄、臍帯血又は末梢血由来の単核球を、幹細胞因子、インタ一ロイキン6、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、トロンボポエチン及び血管内皮細胞増殖因子からなる群から選択される4以下の因子、並びに、血清、を含む培地中で培養する、ことを含む。
【0008】
本発明はさらに、虚血性疾患、炎症性疾患又は難治療性創傷の治療用組成物を提供することを目的とする。本発明の組成物は、骨髄、臍帯血又は末梢血由来の単核球を、幹細胞因子、インタ一ロイキン6、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、トロンボポエチン及び血管内皮細胞増殖因子からなる群から選択される4以下の因子、並びに、血清、を含む培地中で培養して得られる細胞群を含む。
【課題を解決するための手段】
【0009】
限定されるわけではないが、本発明は以下の態様を含む。
[態様1] 骨髄、臍帯血又は末梢血由来の単核球を、幹細胞因子、インタ一ロイキン6、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、トロンボポエチン及び血管内皮細胞増殖因子からなる群から選択される4以下の因子、並びに、血清、を含む培地中で培養して得られる、細胞群。
[態様2] 培地が、幹細胞因子、インタ一ロイキン6、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、トロンボポエチン及び血管内皮細胞増殖因子から選択される3因子又は4因子を含む、態様1に記載の細胞群。
[態様3] 血清が、ウシ又はヒトの血清である、態様1又は2に記載の細胞群。
[態様4] 血清が、培地中に0.5容量%以上10容量%の濃度で含まれる、態様1-3のいずれか1項に記載の細胞群。
[態様5] CD206(+)、CD34(+)又はCD3(+)である細胞の合計が60%以上であり、そして、CCR2(-)である細胞が95%以上である、態様1-4のいずれか1項に記載の細胞群。
[態様6] CD206(+)中のCXCR4(+)である細胞が50%以上である、態様5に記載の細胞群。
[態様7] CD206(+)中のCXCR4(+)である細胞が80%以上である、態様5又は6に記載の細胞群。
[態様8] 骨髄、臍帯血又は末梢血由来の単核球を、幹細胞因子、インタ一ロイキン6、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、トロンボポエチン及び血管内皮細胞増殖因子からなる群から選択される4以下の因子、並びに、血清、を含む培地中で培養する、ことを含む、態様1-7のいずれか1項に記載の細胞群の取得方法。
[態様9] 細胞群において、CD206(+)、CD34(+)又はCD3(+)である細胞の合計が60%%以上であり、そして、CCR2(-)である細胞が95%以上である、態様8に記載の方法。
[態様10] 細胞群において、CD206(+)中のCXCR4(+)である細胞が50%以上である、態様8又は9に記載の方法。
[態様11] 培地が、幹細胞因子、インタ一ロイキン6、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、トロンボポエチン及び血管内皮細胞増殖因子から選択される3因子又は4因子を含む、態様8-10のいずれか1項に記載の方法。
[態様12] 血清がウシ胎児血清である、態様8-11のいずれか1項に記載の方法。
[態様13] 血清が、培地中に0.5容量%以上10容量%の濃度で含まれる、態様8-12のいずれか1項に記載の方法。
[態様14] 態様1-7のいずれか1項に記載の細胞群を含む、虚血性疾患、炎症性疾患又は難治療性創傷の治療用組成物。
[態様15] 虚血性疾患が、四肢虚血である、態様14に記載の治療用組成物、
[態様16] 虚血性疾患が、漬瘍を伴う四肢虚血である、態様14又は15に記載の治療用組成物。
[態様17] 血管新生及び/又は創傷治癒を促進する、態様14-16のいずれか1項に記載の治療用組成物。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、健常人の末梢血より調製したRE-01の構成細胞成分に関するフローサイトメトリー(FACS)による分画の結果を示す。比較例として、培養前の末梢血単核球のFACSの結果も示す。
【
図2】
図2は、
図1とは別の健常人の末梢血より調製したRE-01の構成細胞成分に関するフローサイトメトリー(FACS)の解析結果を示す。
【
図3】
図3は、53歳糖尿病女性患者の末梢血より調製したRE-01の構成細胞成分に関するフローサイトメトリー(FACS)の解析結果を示す。比較例として、5種類の因子含む無血清培地を用いた培養によって得られた細胞群(MNC-QQ)を用いた。
【
図4】
図4は、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を用いて、RE-01の血管形成能を調べた結果を示す。比較例として、RE-01の代わりに、MNC-QQを用いた場合、HUVECのみの場合を調べた。
図4Aは、形成した管腔数の培養開始からの時間変化、
図4Bは、培養開始から2.75時間後の形成した管腔数を示す。
図4Cは、培養開始から2.75時間後の管腔構造中に取り込まれている蛍光標識された試験細胞数を示す。
【
図5】
図5は、重症下肢虚血の患者の末梢血より調製したRE-01の構成細胞成分に関するフローサイトメトリー(FACS)による分画の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.細胞群
本発明は、細胞群に関する。
【0012】
本発明の細胞群は、骨髄、臍帯血又は末梢血由来の単核球を、幹細胞因子、インタ一ロイキン6、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、トロンボポエチン及び血管内皮細胞増殖因子からなる群から選択される4以下の因子、並びに、血清、を含む培地中で培養することによって得られる。
【0013】
上記細胞群は、骨髄、臍帯血又は末梢血由来の単核球を培養することによって得られる。上記細胞群の取得のために用いられる「単核球」とは、末梢血、骨髄又は臍帯血等に含まれる円形核を持つ細胞の総称で、リンパ球、単球、マクロファージ、血管内皮前駆細胞、造血幹細胞等が含まれる。例えば、動物から骨髄、臍帯血又は末梢血を採取し、それを例えば単核球分離用採血管を用いることにより、又は密度勾配遠心法に付して該分画を抽出することにより単核球が得られる。密度勾配遠心法としては、単核球分画が形成されれば特に限定されない。例えば、Histopaque-1077(Sigma-Aldrich)を用いてもよい。
【0014】
骨髄、臍帯血又は末梢血が由来する動物種は、特に限定されない。動物種には、虚血性疾患、炎症性疾患、又は難治性創傷等の疾患に対する細胞移植療法が適用されるヒトを含む哺乳動物一般が含まれる。臨床応用という目的に鑑みれば、好ましくはヒトである。
【0015】
骨髄、臍帯血又は末梢血が由来する対象は特に限定されない。一態様として、例えば、健常者、糖尿病患者、又は、重症下肢虚血の患者であってもよい。
【0016】
幹細胞因子(SCF)は、248個のアミノ酸からなる分子量約30,000の糖タンパク質である。選択的スプライシングにより可溶型と膜結合型が存在するが、上記細胞群の取得のためにSCFは単核球の培養に有用である限りいずれのタイプのSCFでもよい。好ましくは可溶型である。SCFの由来等は特に限定されない。非限定的に、安定した供給が見込まれる組換え体が好ましく、特に好ましくはヒト組換え体である。商業的に入手可能なものが知られている。培養培地中のSCFの濃度は、用いるSCFの種類によっても異なり、単核球の培養に有用である限り特に限定されない。ヒト組換えSCFの場合であれば、非限定的に、例えば10~1000ng/mL、好ましくは50~500ng/mL、より好ましくは約100ng/mLである。
【0017】
インターロイキン6(IL-6)は、B細胞の抗体産生細胞への最終分化を誘導する因子として単離された分子量21万の糖タンパク質である。IL-6は、一般に、免疫応答、造血系や神経系細胞の増殖分化、急性期反応等に関与することが知られている。上記細胞群の取得のために用いるIL-6は、特に限定されず、適宜選択される。ヒトの単核球の培養に用いる場合には、ヒトIL-6が好ましく、安定した供給が見込まれる組換え体が特に好ましい。商業的に入手可能なものが知られている。培養培地中のIL-6の濃度は、用いるIL-6の種類によっても異なり、単核球の培養に有用である限り特に限定されない。ヒト組換えIL-6の場合であれば、非限定的に、例えば1~500ng/mL、好ましくは5~100ng/mL、より好ましくは約20ng/mLである。
【0018】
FMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FL)は、初期造血制御において重要な役目を担う受容体型チロシンキナーゼのリガンドとして知られている。いくつかの選択的スプライシングによる産物が知られているが、造血系幹細胞の増殖を刺激するという報告がある。上記細胞群の取得のために用いるFLは、単核球の培養に有用である限り、いずれのタイプのFLであってもよい。商業的に入手可能なものが知られている。培養培地中のFLの濃度は、用いるFLの種類によっても異なり、単核球の培養に有用である限り特に限定されない。ヒト組換えFlt-3リガンドの場合であれば、非限定的に、例えば10~1000ng/mL、好ましくは50~500ng/mL、より好ましくは約100ng/mLである。
【0019】
トロンボポエチン(TPO)は、造血系サイトカインの一種であり、造血幹細胞から巨核球が作られる過程に特異的に作用し、巨核球の産生を促進することが知られている。上記細胞群の取得のために用いるTPOの由来等は特に限定されない。安定した供給が見込まれる組換え体が好ましく、特に好ましくはヒト組換え体である。商業的に入手可能なものが知られている。培養培地中のTPOの濃度は、用いるTPOの種類によっても異なり、単核球の培養に有用である限り特に限定されないが、ヒト組換えTPOの場合であれば、非限定的に、例えば1~500ng/mL、好ましくは5~100ng/mL、より好ましくは約20ng/mLである。
【0020】
血管内皮細胞増殖因子(VEGF)は、血管内皮前駆細胞(EPC)に特異的に作用する増殖因子であり、主に血管周囲の細胞で産生されることが知られている。選択的スプライシングによってサイズの異なる数種のVEGFタンパク質が産生されるが、上記細胞群の取得のために用いるVEGFはEPCのコロニー形成を可能にする限りいずれのタイプのVEGFでもよい。好ましくはVEGF165である。VEGFの由来等は特に限定されない。安定した供給が見込まれる組換え体が好ましく、特に好ましくはヒト組換え体である。商業的に入手可能なものが知られている。培養培地中のVEGFの濃度は、用いるVEGFの種類によっても異なり、単核球の培養に有用である限り特に限定されな。ヒト組換えVEGF165の場合であれば、非限定的に、例えば約5~500ng/mL、好ましくは約20~100ng/mL、より好ましくは約50ng/mLである。
【0021】
単核球の培養に用いる培養培地に添加される各種因子はまた、非限定的に、単核球が由来する動物と同種の動物に由来する因子で統一してもよい。このように単核球及び各種因子の由来を統一することで、同種異系移植等の同種移植に好適な細胞培養物が得られる。また、細胞移植が意図される個体由来の単核球を用いることで、同種同系移植に好適な細胞培養物を得ることも可能である。
【0022】
上記した各成分は培養培地で所定の濃度に溶解するか、あるいはあらかじめ各成分の濃縮液(ストック溶液)を調製し、培養培地で所定の濃度に希釈することによって、単核球を培養するための培養培地を調製することができる。例えば市販の培養培地に必要な成分を所定の濃度となるよう溶解した後、濾過滅菌等により滅菌するか、あるいは濾過滅菌等により滅菌したストック溶液を無菌的に市販の培養培地に添加、希釈することによって培養培地を調製することができる。濾過滅菌は当分野で通常実施されている方法に準じて行うことができ、例えば0.22μmや0.45μmのミリポアフィルター等を用いて行う。
【0023】
本発明で用いられる「培養培地」は、当分野で通常用いられている培地を利用することができ、例えば造血幹細胞の増殖用培地として知られている培養地を用いることができる。培養培地として用いられる基礎培地としては、例えば、Stemline II、DMEM、MEM、IMDM、RPMI、SCGM、EBM等が挙げられる。
【0024】
上記細胞群を取得するために、単核球を培養するための培地は、幹細胞因子、インタ一ロイキン6、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、トロンボポエチン及び血管内皮細胞増殖因子からなる群から選択される4以下の因子の他に、血清、を含む。
【0025】
血清の種類は特に限定されない。非限定的に、一態様において、血清は、ウシ又はヒトの血清である。一態様において、血清は、ウシ胎児血清及び/又はヒト血清アルブミンである。培地中における血清の濃度も特に限定されない。一態様において、血清は培地中に、0.1容量%以上、0.3容量%以上、0.5容量%以上含まれる。培地中の血清の濃度の上限は特にない。一態様において、30容量%以内、20容量%以内、10容量%以内、5容量%以内である。非限定的に、血清は、培地中に0.1容量%以上20容量%の濃度、培地中に0.5容量%以上10容量%の濃度で含まれる。
【0026】
単核球培養は、単核球を含有する細胞懸濁液を、上述した因子及び血清を含む培地に添加することにより行われる。細胞懸濁液としてはまた、単核球を含有する体液自体(例えば、骨髄液、臍帯血、末梢血)を用いることもできる。単核球の培養条件は特に限定されず、通常当分野で実施される条件で実施することができる。非限定的に、例えば、5%CO2雰囲気下、約37℃で培養される。培養期間は、非限定的に例えば、3日間以上であり、5日間以内、6日間以内、7日間以内、10日間以内である。例えば、3日間-10日間、3日間-6日間である。単核球の培地中の濃度は、単核球の培養を可能とする限り特に限定されないが、例えば約0.1~10×106細胞/ml、より好ましくは約0.5~5×106細胞/mlである。
【0027】
本明細書において、「細胞群」とは、単核球を上述した因子及び血清を含有する培地で培養した結果得られる細胞の総称である。
【0028】
単核球の培養に用いる培養培地は、幹細胞因子、インタ一ロイキン6、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、トロンボポエチン及び血管内皮細胞増殖因子からなる群から選択される因子のうち、4以下の因子を含む。
【0029】
一態様において、培地は、幹細胞因子、インタ一ロイキン6、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、トロンボポエチン及び血管内皮細胞増殖因子から選択される、2以上の因子、又は3以上の因子を含む。一態様において、培地は、上記5因子から選択される、2以上4以下の因子を含む。一態様において、培地は、幹細胞因子、インタ一ロイキン6、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、トロンボポエチン及び血管内皮細胞増殖因子から選択される、3因子又は4因子を含む。
【0030】
非限定的に、単核球の培養に用いる培養培地は、従って本発明の培養方法で用いられる培養培地は例えば、i)FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、トロンボポエチン及び血管内皮細胞増殖因子の組み合わせ、あるいは、ii)幹細胞因子、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、及び血管内皮細胞増殖因子の組み合わせを含む。培地は、より好ましくは、約80~120ng/mlのFMS様チロシンキナーゼ3リガンド、約15~25ng/mlのトロンボポエチン及び約40~60ng/mlの血管内皮細胞増殖因子の組み合わせを含む。
【0031】
一態様において、骨髄、臍帯血又は末梢血由来の単核球を、幹細胞因子、インタ一ロイキン6、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、トロンボポエチン及び血管内皮細胞増殖因子からなる群から選択される4以下の因子、並びに、血清、を含む培地中で培養することによって得られる細胞群は、CD206(+)、CD34(+)又はCD3(+)である細胞を、培養前の単核球の細胞群よりも多く含む。非限定的に、培養により、CD206(+)、CD34(+)又はCD3(+)である細胞の割合が、1.5倍以上、2倍以上、3倍以上に増幅される。非限定的に、細胞群中、CD206(+)、CD34(+)又はCD3(+)である細胞の合計が細胞群全体の、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上である。そして細胞群は、CCR2(-)である細胞を、培養前の単核球の細胞群よりも多く含む。非限定的に、培養により、CCR2(-)である細胞の割合が、1.5倍以上、2倍以上、3倍以上に増幅される。非限定的に、細胞群中、CCR2(-)である細胞が、細胞群全体の60%以上、80%以上、90%以上、95%以上である。非限定的に、一態様において、CD206(+)、CD34(+)及びCD3(+)である細胞が60%以上であり、そして、CCR2(-)である細胞が95%以上である。
【0032】
骨髄、臍帯血又は末梢血由来の単核球を、幹細胞因子、インタ一ロイキン6、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、トロンボポエチン及び血管内皮細胞増殖因子からなる群から選択される4以下の因子、並びに、血清、を含む培地中で培養することにより、安定的に、CD206(+)、CD34(+)及びCD3(+)をより多く含む細胞群を得ることができる。さらにQQ-MNC法によって得られる細胞群よりも、抗炎症性マクロファージM2を含むCD206陽性中のCXCR4陽性細胞の割合が顕著に増える。非限定的に、本発明者らは、上記培養により、以下の効果の観察されることが見いだされた。
【0033】
抗炎症性マクロファージM2を含むCD206陽性が増加する;
血管内皮前駆細胞(EPC)を含むCD34陽性細胞、CD133陽性細胞が増加する;
T細胞、特にHelper T細胞やAngiogenic T細胞などのCD3陽性細胞が増加する。
【0034】
一方、炎症性単球/マクロファージであるCCR2陽性細胞、B細胞(CD19陽性細胞)及びNK細胞(CD56陽性細胞)は減少することが観察された。
【0035】
非限定的に、一態様において、骨髄、臍帯血又は末梢血由来の単核球を、幹細胞因子、インタ一ロイキン6、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、トロンボポエチン及び血管内皮細胞増殖因子からなる群から選択される4以下の因子、並びに、血清、を含む培地中で培養することによって得られる細胞群は、QQ-MNC法によって得られる細胞群よりも、より高い回収率を示す。さらに、生存率が高い。そして、回収後の安定性にも優れている。これらは、より高い治療効果をもたらすものである。
【0036】
一態様において、骨髄、臍帯血又は末梢血由来の単核球を、幹細胞因子、インタ一ロイキン6、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、トロンボポエチン及び血管内皮細胞増殖因子からなる群から選択される4以下の因子、並びに、血清、を含む培地中で培養することによって得られる細胞群において、CD206(+)中のCXCR4(+)である細胞を、培養前の単核球の細胞群よりも多く含む。非限定的に、培養により、CD206(+)中のCXCR4(+)である細胞の割合が、1.5倍以上、2倍以上、3倍以上に増幅される。非限定的に、CD206(+)中のCXCR4(+)である細胞が50%以上、60%以上、70%以上、80%以上である。一態様において、CD206(+)中のCXCR4(+)である細胞が50%以上である。一態様において、CD206(+)中のCXCR4(+)である細胞が80%以上である。
【0037】
本発明の細胞群は、QQ-MNC法によって得られる細胞群よりも特にこのCD206(+)中のCXCR4(+)である細胞をより多く含む細胞群である。
【0038】
2.細胞群の取得方法
本発明はまた、細胞群の取得方法に関する。
【0039】
本発明の方法は、骨髄、臍帯血又は末梢血由来の単核球を、幹細胞因子、インタ一ロイキン6、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、トロンボポエチン及び血管内皮細胞増殖因子からなる群から選択される4以下の因子、並びに、血清、を含む培地中で培養する、ことを含む。
【0040】
「細胞群」、「単核球」、「幹細胞因子、インタ一ロイキン6、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、トロンボポエチン及び血管内皮細胞増殖因子」の各因子、「血清」、「培地」等については、上記「1.細胞群」で説明した通りである。
【0041】
細胞群における、CD206(+)、CD34(+)及びCD3(+)である細胞の割合、CCR2(-)である細胞の割合、CD206(+)中のCXCR4(+)である細胞の割合、についても、上記「1.細胞群」で説明した通りである。
【0042】
一態様において、上記方法によって得られる細胞群において、CD206(+)、CD34(+)及びCD3(+)である細胞が80%以上であり、そして、CCR2(-)である細胞が95%以上である。
【0043】
一態様において、上記方法によって得られる細胞群において、CD206(+)中のCXCR4(+)である細胞が50%以上である。
【0044】
一態様において、上記方法において、培地は、幹細胞因子、インタ一ロイキン6、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、トロンボポエチン及び血管内皮細胞増殖因子から選択される3因子又は4因子を含む。
【0045】
一態様において、上記方法において、血清は、ウシ又はヒトの血清である。一態様において、血清はウシ胎児血清である。一態様において、血清は、培地中に0.5容量%以上10容量%の濃度で含まれる。
【0046】
3.治療用組成物
本発明は、さらに、虚血性疾患、炎症性疾患又は難治療性創傷の治療用組成物に関する。本発明の治療用組成物は、「1.細胞群」で説明した細胞群を含む。細胞群が由来する単核球は、治療用組成物を使用する対象に由来しても(自家)、治療用組成物を使用する対象以外に由来しても(他家)よい。
【0047】
「虚血性疾患」は、血量の減少によって組織内の血流が下がり、細胞の変性、萎縮、線維化などの組織障害が生じることによって起こる疾患である。虚血はその原因により、閉塞性虚血、圧迫性虚血、痙攣性虚血、代償性虚血に大別される。虚血が持続すると細胞の変性、萎縮、線維化が生じる。「虚血性疾患」には、四肢虚血、虚血性潰瘍、虚血性心疾患、脳梗塞等が含まれる。「脳梗塞」(又は脳軟化症)は、脳を栄養する動脈の閉塞、又は狭窄のため、脳虚血を来たし、脳組織が酸素、又は栄養の不足のため壊死、又は壊死に近い状態になる事をいう、脳血栓及び脳塞栓に分類される。「四肢虚血」は、手足に血液を供給する動脈が狭窄又は閉塞する疾患であり、この閉塞性動脈硬化症が重症化すると、重症の四肢虚血となり、疼痛などの症状及び難治性の潰瘍が生じ、最悪の場合、切断が必要になる場合もある。非限定的に、四肢は一態様において下肢である。
【0048】
非限定的に、一態様において、虚血性疾患は、四肢虚血である。虚血性疾患は、潰瘍を伴う四肢虚血である。
【0049】
「炎症性疾患」は、なんらかの原因により組織損傷などの異常が生じることで症状を起こす疾患の総称である。炎症性疾患には、クローン病、肝硬変、肝炎、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患等が含まれる。
【0050】
上記治療用組成物は、血管新生及び/又は創傷治癒を促進する。よって、血管新生及び/又は創傷治癒により治療できる疾患に適用することができる。「血管新生及び/又は創傷治癒により治療できる疾患」としては、例えば、虚血性疾患(例えば、心筋梗塞、狭心症等の虚血性心疾患、下肢虚血性動脈硬化症等の下肢虚血、バージャー(Buerger)病)、血管損傷が挙げられる。また、皮膚潰瘍等の創傷を治癒するため、あるいは人工血管の作製に使用できる。治療用組成物の適用の効果は、自体公知の方法により確認できる。例えば血管新生により治療できる疾患が下肢虚血性疾患である場合には、移植後の治療効果を例えば下肢血流量及び壊死改善率を調べることによって評価することができる。血流量の増加の測定はレーザドップラーイメージング解析の値を測定することによって行うことができる。また壊死改善率はリムサルベージスコアとして目視により測定することができる。
【0051】
上記治療用組成物の使用態様は特に限定されない。有効成分たる細胞群そのものであってもよいし、細胞群を液状媒体に懸濁したものであってもよい。液体媒体はヒトに注入可能な液体であればいずれであってもよく、例えば、等張電解質輸液やリン酸緩衝液や生理食塩水あるいは無血清培地であるDMEMなども利用可能である。また液体媒体にはアルブミンなど細胞の生存に好ましい化合物が含まれてもよい。好ましくはアルブミンを含む化合物として患者由来の血清があげられる。また凍結保存する場合には凍結細胞保存液などで懸濁したものであってもよい。
【0052】
上記治療用組成物の適用対象は、虚血性疾患、炎症性疾患又は難治療性創傷の治療が必要である対象であれば、特に限定されない。非限定的に、ヒト、サル、チンパンジー、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ネズミ、モルモット等が含まれる。
【0053】
4.キット
本発明はさらにまた、骨髄、臍帯血又は末梢血由来の単核球を培養し、細胞群を取得するためのキットに関する。
【0054】
上記キットは、幹細胞因子、インタ一ロイキン6、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、トロンボポエチン及び血管内皮細胞増殖因子からなる群から選択される4以下の因子、並びに、血清、を含む培地を含む。各因子、血清は、培地に予め添加されていてもよいし、あるいは、別々の容器に格納されており、使用時に培地に添加されてもよい。
【0055】
「細胞群」、「単核球」、「幹細胞因子、インタ一ロイキン6、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、トロンボポエチン及び血管内皮細胞増殖因子」の各因子、「血清、「培地」等については、上記「1.細胞群」で説明した通りである。
【0056】
5.治療方法等
本発明はまた、「1.細胞群」で説明した細胞群を、必要のある対象に適用することを含む、虚血性疾患、炎症性疾患又は難治療性創傷の治療方法に関する。
【0057】
本発明はさらに、「1.細胞群」で説明した細胞群の、必要のある対象に適用することを含む、虚血性疾患、炎症性疾患又は難治療性創傷の治療方法への使用、あるいは、虚血性疾患、炎症性疾患又は難治療性創傷の治療用組成物への使用、に関する。
【0058】
「虚血性疾患」、「炎症性疾患」又は「難治療性創傷」、「細胞群の適用態様」、「適用対象」等については、「3.治療用組成物」に記載した通りである。
【実施例】
【0059】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【0060】
実施例1 RE-01細胞群の培養
本実施例において、末梢血より単核球を単離し培養した。
【0061】
(1)単核球の単離
健常人もしくは糖尿病患者のボランティアから、BD バキュテイナ(登録商標)CPT(商標)BD社製)単核球分離用採血管を用いて100mLの末梢血を採取した。採血後、そのまま採血管を遠心した後、輸送、到着後培養開始までは冷蔵で保管した。単核球及び血漿を含むCPT(商標)採血管内のゲルバリアより上を遠心管へ回収し、少量のEDTA-PBSでゲルバリア上など採血管内を洗いこみ、同じ遠心管へ回収した。細胞を回収した遠心管をEDTA-PBSでメスアップしたのち、遠心分離(300xg、室温、15分間)し、沈査として細胞を回収した。回収された細胞は、混入する赤血球を除くためACK溶血緩衝液(15mL/管)(Gibco、Thermo-Fisher社製)中、室温で5分間インキュベートした。ACK溶血緩衝液の組成は、NH4Cl 8,290mg/l;KHCO3 1,000mg/l;EDTA.Na2・2H2O 37mg/lである。その後、EDTA-PBSでメスアップし、遠心分離(200xg、室温、10分間)又は(100xg、室温、15分間)で細胞を回収する操作を2回繰り返した。
【0062】
(2)血清培地での培養
(1)で回収した単核球細胞を、1mLの増殖培地(50ng/mL VEGF165、20ng/mL TPO、100ng/mL Flt-3リガンド、100単位/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシン、0.5% FBSを添加した stemline(登録商標) II Hematopoietic Stem Cell Expansion Medium(シグマ-アルドリッチ社製、Cat No.S0192))に懸濁し、その一部を使用してトリパンブルーを用いた細胞数計数を行った。得られた細胞増殖培地中で、細胞濃度を1x106/mLに調製し、6穴培養プレートの各ウェルに2mLずつ播種した。通常の培養条件(37℃、5%CO2)で5日間培養した。5日間の培養終了後、遠心管に回収し、250xg(~1000rpm)で7-10分間、遠心洗浄を3回実施した。遠心後、細胞数計測、生存率測定、QC(確認)試験用のサンプルを除き、残りの細胞はPlasmaLyte A、2.5% ヒトアルブミン血清に懸濁し、8x105細胞/mLの濃度になるように調整した。以下、得られた細胞群を「RE-01」と呼称する場合がある。
【0063】
実施例2 RE-01細胞群の特性評価
【0064】
(1)フローサイトメトリー解析
本実施例では、実施例1において、健常人の末梢血から3種類の因子及び血清を含む培地を用いた培養によって得られた細胞群(「RE-01」と呼称する。)について、細胞群の特徴をより明らかにするため、フローサイトメトリー解析を行った。
【0065】
FACS緩衝液(組成:2% FBSを添加した2mM EDTA-PBS)中に懸濁した細胞(1.5×106細胞/300μL-FACS緩衝液)にFCブロッキング試薬(ミルテニィ社製)を10μL添加し、4℃で30分間インキュベートした。インキュベート後の細胞群を、染色反応用チューブに等量ずつ分注した(100μL/チューブ×3チューブ)。各アリコートに各一次抗体を2μL添加し、4℃で20分間培養した。その後1mLのFACS緩衝液で2回洗浄し、染色された細胞をFACS緩衝液中に懸濁した(5×105細胞/200~300μL-FACS緩衝液)。フローサイトメトリー計測は、BD FACSAria(商標) IIIセルソーター(BD社製)を用いて行った。
【0066】
具体的には、得られた細胞群における各細胞表面マーカーに対する抗体を用いて各細胞表面マーカーの発現を調べた。なお、各細胞表面マーカーに対する抗体は、いずれも下記の市販のものを使用した。
【0067】
抗CD206抗体:PE/Cy7標識抗ヒトCD206 (MMR)抗体(BioLegend社製);
抗CD34抗体:PE標識抗ヒトCD34抗体(Bio Legend社製);
抗CD3抗体:Alexa Fluor700標識抗CD3抗体(Bio Legend社製);
抗CXCR4抗体:APC標識抗ヒトCD184(CXCR4)抗体(BD社製);
抗CCR2抗体:PerCP/Cy5.5標識ヒトCD192 (CCR2)抗体(BioLegend社製)。
【0068】
結果を
図1に示す。
図1に示すように、RE-01は、FACSによるScatter解析において構成する細胞成分のサイズ(横軸:FSC)と細胞内に含まれる顆粒等細胞構成成分の密度(縦軸:SSC)により大きく3つの生細胞集団に分けられる(本明細書において、各々「A領域」、「B領域」,「C領域」と呼称する)。培養前の末梢血単核球では、A、B領域のみが現れ、C領域は見られない。A領域には主にリンパ球が含まれ、B領域には単球が含まれる。増殖培地(実施例1の(2)血清培地)を用いた培養によって得られたRE-01では、血管内皮前駆細胞(CD34陽性細胞)がA領域からB領域へ移動するほか、M2マクロファージ(CD206陽性細胞)を多く含むC領域が現れる。
【0069】
また、別の健常人から採取した単核球から実施例1に記載の3種類の因子及び血清を含む培地を用いた培養によって得られたRE-01のフローサイトメトリー解析の結果をを
図2に示す。異なる個体の健常人の場合も同様に、A、B、Cの3領域が現れた。また、CD206(+)、CD34(+)又はCD3(+)である細胞の合計が86.57%であり、そして、CCR2(+)が0.33%であることからCCR2(-)である細胞が99.67%であった。さらに、CD206(+)中のCXCR4(+)である細胞は92.97%であった。
【0070】
実施例3 RE-01細胞群とMNC-QQ細胞群との比較
【0071】
(1)RE-01とMNC-QQの培養
健常人と糖尿病患者から採取した単核球を、実施例1と同様に、3種類の因子及び血清を含む培地を用いた培養し、RE-01を得た。
【0072】
比較例として、RE-01細胞と同様に単核球を単離したのち、stemline(登録商標) II Hematopoietic Stem Cell Expansion Medium(シグマ-アルドリッチ社製、Cat No.S0192)を用いた。血清は添加せず、100単位/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシンに50ng/mL VEGF165、20ng/mL TPO、100ng/mL Flt-3リガンド、100ng/mL SCF、20ng/mL IL-6の5種類の各因子を無菌的に添加することにより調製した。得られた細胞を増殖培地で1x106/mLに調製し、6穴培養プレートの各ウェルに2mLずつ播種し、通常の培養条件(37℃、5%CO2)で7日間培養した。7日間の培養終了後、遠心管に回収し、250xg(~1000rpm)で7-10分間、遠心洗浄を3回実施した。遠心後、細胞数計測、生存率測定、QC(確認)試験用のサンプルを除き、残りの細胞はPlasmaLyte A、2.5% ヒトアルブミン血清に懸濁して8x105細胞/mLの濃度になるように調製した。以下、得られた細胞群を「MNC-QQ」と呼称する場合がある。
【0073】
(2)フローサイトメトリー解析
実施例1において、糖尿病患者の末梢血から3種類の因子及び血清を含む培地を用いた培養によって得られた細胞群と、上記(1)の5種類の因子含む無血清培地を用いた培養によって得られた細胞群(MNC-QQ)について、フローサイトメトリーを行い、両者を比較した。具体的には、得られた細胞群における各細胞表面マーカーに対する抗体を用いて各細胞表面マーカーの発現を調べた。
【0074】
結果を
図3に示す。RE-01はMNC-QQと比較して、培養後の回収率及び生存率が高かった。さらに、培養後に新たにできる細胞群であるC領域の細胞の割合が多く、特に細胞群の有効性を担う細胞種のひとつであるCD206+細胞の割合が多かった。さらに驚くべきことにCD206+中のCXCR4+の割合が顕著に多く、RE-01とMNC-QQの細胞群はその細胞組成が異なっていることが分かった。
【0075】
(3)acLDL取り込み能
実施例1において糖尿病患者の末梢血単核球より調製された、3種類の因子及び血清を含む培地を用いた培養によって得られた細胞群(RE-01)と、比較例として、5種類の因子含む無血清培地を用いた培養によって得られた細胞群(MNC-QQ)を用いてそのacLDL(アセチル化低密度リポタンパク質)取り込み能を検討した。
【0076】
1.5mLチューブに回収したRE-01又はMNC-QQ(1x105個)を基礎培地(Stemline II)500μL中に懸濁し、Alexa Fluor488で標識されたacLDL 5μLを添加、37℃で60分間インキュベートした。インキュベート終了後のチューブにFACS緩衝液1mLを加え、転倒混和した。その後、5分間の遠心操作(250xg、4℃)を行い、細胞を沈査として回収した。回収した細胞(RE-01)を300μLのFACS緩衝液に懸濁し測定まで氷中冷却保存した。測定直前にDAPI(2μL)を添加し、フローサイトメーターを用いた測定にてacLDL及び DAPIを取り込んだ細胞の割合を求めた。
【0077】
【0078】
表1に示すように、全体、特にC領域においてacLDLの取り込みが高いことが判明した。このことは、2つの細胞群(RE-01及びMNC-QQ)について、実施例2で示した組成の違いが機能の違いに結びつくことを裏付けるものである。
【0079】
(4)血管形成能
本実施例では、健常人の血液から採取した単核球について、実施例1と同様の方法で血清培地を用いて培養して得られた細胞群(RE-01)を用いて、その血管形成能を検討した。比較例として、5種類の因子含む無血清培地を用いた培養によって得られた細胞群(MNC-QQ)を用いた。管腔形成能を持つヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)(Lonza社、スイス、バーゼルより入手)を、8~10継代で使用し、各群の細胞とHUVECと共培養した。96ウェルのプレートに基底膜マトリックス(Corning(登録商標) Matrigel(登録商標)(Corning社製,米国、NY))50μl/ウェルを分注し、37℃、30分コーティングした。一方、各細胞群を、DiI-Ac-LDLで標識するために、IMDM 500μl+DiI-Ac-LDL 5μlに懸濁し、37℃、1時間インキュベートした。
【0080】
標識後、各細胞群を1x103/20μl、及び、HUVECを5x103/20μlになるよう、各々PBSに再懸濁した。細胞数を調整した懸濁液を、試験細胞群とHUVECが1:1になるよう混和し、Matrigel上に50μlずつ添加した。37℃、5%CO2下で、10時間以上タイムラプス蛍光顕微鏡(オリンパス社製、東京、日本)庫内で培養しつつ写真撮影を行い、培養終了後に倍率100倍で、形成した管腔数、並びに、管腔構造中に取り込まれている蛍光標識された試験細胞数を目視でカウントした。
【0081】
結果を
図4に示す。
図4Aは、形成した管腔数の培養開始からの時間変化、
図4Bは、培養開始から2.75時間後の形成した管腔数を示す。また
図4Cに、培養開始から2.75時間後の管腔構造中に取り込まれている蛍光標識された試験細胞数を示す。HUVECとRE-01を一定時間共培養した際の管腔形成能は、HUVECのみで培養、あるいは、HUVECとMNC-QQとの共培養に比べ、向上していた。さらに、RE-01はより多くの細胞が、形成された管腔構造中に取り込まれていた。すなわち、生体外においてRE-01は、無血清培地でより長時間(7時間)培養したMNC-QQよりもIn vitro血管形成能が高いことが明らかになった。このことは、2つの細胞群(RE-01及びMNC-QQ)について、実施例3で示した組成の違いが機能の違いに結びつくことを裏付けるものである。
【0082】
(5)マウス下肢虚血モデルによる効果
健常人の血液から採取した単核球を、実施例1と同様の方法で培養した細胞群を用いて、その下肢虚血に対する治療効果をマウスの下肢虚血モデルを用いて検討した。比較例として、5種類の因子含む無血清培地を用いた培養によって得られた細胞群(MNC-QQ)を用いた。
【0083】
(6)安定性試験
健常人の血液から採取した単核球を、実施例1と同様の方法で培養した細胞群を用いて、回収後72時間までの安定性を細胞数及び生存率で検討を行った。比較例として、5種類の因子含む無血清培地を用いた培養によって得られた細胞群(MNC-QQ)を用いた。
【0084】
実施例4 RE-01細胞群の培養及び特性評価
本実施例において、重症下肢虚血の患者の末梢血より単核球を単離し培養した。さらに、得られた細胞群の特性評価を行った。
【0085】
(1)単核球の単離
重症下肢虚血の患者の末梢血より単核球を単離した。単離は実施例1と同様に行った。
【0086】
具体的には、重症下肢虚血の患者から、BD バキュテイナ(登録商標)CPT(商標)BD社製)単核球分離用採血管を用いて100mLの末梢血を採取した。採血後、そのまま採血管を遠心した後、輸送、到着後培養開始までは冷蔵で保管した。単核球及び血漿を含むCPT(商標)採血管内のゲルバリアより上を遠心管へ回収し、少量のEDTA-PBSでゲルバリア上など採血管内を洗いこみ、同じ遠心管へ回収した。細胞を回収した遠心管をEDTA-PBSでメスアップしたのち、遠心分離(300xg、室温、15分間)し、沈査として細胞を回収した。回収された細胞は、混入する赤血球を除くためACK溶血緩衝液(15mL/管)(Gibco、Thermo-Fisher社製)中、室温で5分間インキュベートした。ACK溶血緩衝液の組成は、NH4Cl 8,290mg/l;KHCO3 1,000mg/l;EDTA.Na2・2H2O 37mg/lである。その後、EDTA-PBSでメスアップし、遠心分離(200xg、室温、10分間)又は(100xg、室温、15分間)で細胞を回収する操作を2回繰り返した。
【0087】
(2)血清培地での培養
単離した単核球を実施例1と同様に血清培地で培養した。基本培地としてstemline(登録商標)の代わりにIscove’s Modified Dulbecco’s Medium(IMDM))を使用した点、並びに、血清としてFBSに加えてヒトアルブミン血清も添加した点が、実施例1と相違する。
【0088】
具体的には、(1)で回収した単核球細胞を、1mLの増殖培地(50ng/mL VEGF165、20ng/mL TPO、100ng/mL Flt-3リガンド、100単位/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシン、0.5% FBS、0.5% ヒトアルブミン血清を添加したIscove’s Modified Dulbecco’s Medium(IMDM))に懸濁し、その一部を使用してトリパンブルーを用いた細胞数計数を行った。得られた細胞増殖培地中で、細胞濃度を1x106/mLに調製し、6穴培養プレートの各ウェルに2mLずつ播種した。通常の培養条件(37℃、5%CO2)で5日間培養した。5日間の培養終了後、遠心管に回収し、250xg(~1000rpm)で7-10分間、遠心洗浄を3回実施した。遠心後、細胞数計測、生存率測定、QC(確認)試験用のサンプルを除き、残りの細胞はPlasmaLyte A、2.5% ヒトアルブミン血清に懸濁し、8x105細胞/mLの濃度になるように調整した。
【0089】
(3)フローサイトメトリー解析
本実施例では、(1)、(2)において、重症下肢虚血の患者末梢血から単離した単核球を3種類の因子及び血清を含む培地を用いた培養によって得られた細胞群(実施例1と同様に「RE-01」と呼称する。)について、細胞群の特徴をより明らかにするため、フローサイトメトリー解析を行った。
【0090】
FACS緩衝液(組成:2% FBSを添加した2mM EDTA-PBS)中に懸濁した細胞(1.5×106細胞/300μL-FACS緩衝液)にFCブロッキング試薬(ミルテニィ社製)を10μL添加し、4℃で30分間インキュベートした。インキュベート後の細胞群を、染色反応用チューブに等量ずつ分注した(100μL/チューブ×3チューブ)。各アリコートに各一次抗体を2μL添加し、4℃で20分間培養した。その後1mLのFACS緩衝液で2回洗浄し、染色された細胞をFACS緩衝液中に懸濁した(5×105細胞/200~300μL-FACS緩衝液)。フローサイトメトリー計測は、BD FACSAria(商標) IIIセルソーター(BD社製)を用いて行った。
【0091】
具体的には、得られた細胞群における各細胞表面マーカーに対する抗体を用いて各細胞表面マーカーの発現を調べた。なお、各細胞表面マーカーに対する抗体は、いずれも下記の市販のものを使用した。
【0092】
抗CD206抗体:PE/Cy7標識抗ヒトCD206 (MMR)抗体(BioLegend社製);
抗CD34抗体:PE標識抗ヒトCD34抗体(Bio Legend社製);
抗CD3抗体:Alexa Fluor700標識抗CD3抗体(Bio Legend社製);
抗CXCR4抗体:APC標識抗ヒトCD184(CXCR4)抗体(BD社製);
抗CCR2抗体:PerCP/Cy5.5標識ヒトCD192 (CCR2)抗体(BioLegend社製)。
【0093】
結果を
図5に示す。
図5に示すように、重症下肢虚血の患者末梢血から単離した単核球を培養した細胞群でも、実施例2と同様にA、B、Cの3領域が現れた。また、CD206(+)、CD34(+)又はCD3(+)である細胞の合計が83.72%であり、そして、CCR2(+)が1.63%であることからCCR2(-)である細胞が98.37%であった。さらに、CD206(+)中のCXCR4(+)である細胞は83.72%であった。
【0094】
以上、重症下肢虚血の患者からも、実施例1の健常人もしくは糖尿病患者と同様に、3種類の因子及び血清を含む培地を用いた培養によってRE-01細胞群、特に、CD206(+)、CD34(+)又はCD3(+)である細胞の合計が80%以上であり、CCR2(-)である細胞が95%以上であり、そして、CD206(+)中のCXCR4(+)である細胞が80%以上であるRE-01細胞群、が得られることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明により、高い血管再生能及び創傷治癒能を有する新たな細胞群が提供される。本発明の細胞群は、例えば、難病の四肢虚血疾患の患者の治療薬としての使用できる。これにより、例えば、切断の回避が可能になるなど、患者QOLの向上、介護負担の軽減などライフイノベーションをもたらすことが可能であり、社会的意義が大きい。また、新規な細胞群の提供は、新たな治療戦略の構築につながるとともに、血管病変全般に対する知見をもたらしうる。さらに本細胞群は高い有効性に加え、驚くべきことに、既存のQQ-MNC法に比べて短い培養期間で安定的に高い回収率及び生存率を達成し、また製造後にもより安定であるため、産業上非常に大きなメリットとなりうる。