(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
G05B 11/42 20060101AFI20240830BHJP
G05B 11/32 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
G05B11/42 Z
G05B11/32 F
(21)【出願番号】P 2022542541
(86)(22)【出願日】2020-08-12
(86)【国際出願番号】 JP2020030717
(87)【国際公開番号】W WO2022034658
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000250317
【氏名又は名称】理化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134061
【氏名又は名称】菊地 公一
(72)【発明者】
【氏名】井▲崎▼ 勝敏
【審査官】岩▲崎▼ 優
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/042589(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/067901(WO,A1)
【文献】特開平04-287203(JP,A)
【文献】特開平05-127704(JP,A)
【文献】特開2012-020652(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 11/00-11/60
G05B 13/00-13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
比例要素、積分要素及び微分要素を含み、制御対象の出力である制御量が、与えられる設定値になるように制御する制御部と、
前記制御部
の積分要素にフィードバックする制御量を、算出される補正量
に従い補正する補正部と、
前記補正部における前記補正量を算出する補正量算出部と
、
設定値と制御量に基づき外乱を検出し、外乱の検出後に制御量が減少から上昇に転じるタイミング又は制御量が上昇から減少に転じるタイミングに、前記補正量算出部に補正開始のトリガを与える外乱検出部と
を備え
、
前記補正量算出部は、
設定値と制御量との偏差に基づく値を前記補正量の初期値とする初期値設定部と、
前記補正量を、初期値から一次遅れ系の出力波形で徐々に元に戻すように変化させる補正量変更部と、
前記補正量の変化の速さを調整する変化速度設定部と
を有し、
前記補正部は、さらに前記制御部の比例要素にフィードバックする制御量を補正する制御装置。
【請求項2】
外乱検出時に、前記偏差又は該偏差に基づく値を、制御対象に入力する操作量に加算するフィードフォワ―ド部
をさらに備える請求項1に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置に係り、特に、外乱に対して制御量を柔軟に調整可能な制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、制御対象にフィードバック制御を行う制御系が知られている。例えば、設定値(SV)と制御量(PV)との偏差に対して、比例(P)・積分(I)・微分(D)の各動作を行うPID制御系が知られている。PID制御系では、通常、外乱が入力された場合においても制御量が設定値に安定するように制御装置が設計される。
【0003】
外乱に対しては、制御量を素早く安定させたり、制御量のオーバーシュートを小さくする制御が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2016/042589号
【文献】特開2008-198699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の手法では、外乱応答において制御量の波形を柔軟に調整したいニーズに応えることは困難であった(特許文献1参照)。例えば、PIDの各パラメータ以外の調整によって、制御量のオーバーシュート量を大きくしたり、制御量の応答を遅くしたりすることは困難であった。なお、目標温度などの設定値を変更することでオーバーシュート量を調整する手法が開示されている(特許文献2参照)。
本発明は以上の点に鑑み、外乱に対する制御量の応答を柔軟に調整する制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決手段によると、比例要素、積分要素及び微分要素を含み、制御対象の出力である制御量が、与えられる設定値になるように制御する制御部と、前記制御部の少なくとも積分要素にフィードバックする制御量を、算出される補正量を加算又は減算することで補正する補正部と、前記補正部における前記補正量を算出する補正量算出部とを備えた制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、外乱に対する制御量の応答を柔軟に調整する制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態における制御系のブロック図である。
【
図2】
図2は、補正量算出部の機能ブロック図である。
【
図3】
図3は、積分計算用制御量を説明するための図(1)である。
【
図4】
図4は、積分計算用制御量を説明するための他の図(2)である。
【
図5】
図5は、第2の実施形態における制御系のブロック図である。
【
図6】
図6は、第3の実施形態における制御系のブロック図である。
【
図7】
図7は、第4の実施形態における制御系のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して各実施形態を説明する。
【0010】
1.第1の実施形態
図1は、第1の実施形態における制御系のブロック図である。本実施形態の制御系は、制御部1と、外乱検知部3と、補正量算出部4と、フィードバック補正部(補正部)5とを備える。制御系は、
図1に示すようにフィードバック制御系を構成している。
【0011】
制御部1は、比例要素(P)、積分要素(I)及び微分要素(D)の各パラメータが設定され、制御対象2を制御する。例えば、制御部1は、制御対象2から出力され、適宜の測定器で測定される制御量(PV)が、与えられる設定値(SV)になるように制御する。なお、設定値は、目標値と称される場合もある。また、制御量は、測定値と称される場合もある。
【0012】
制御対象2は、制御部1により制御される対象である。例えば、制御対象2の所望の部分(例えば、ヒーター)の温度が制御されてもよい。制御対象2としては適宜の装置を用いることができ、制御される制御量(PV)は適宜の物理量でもよい。
【0013】
外乱検知部3は、外乱を検知する。外乱としては、例えば、制御量(例えば温度)が既に設定値に安定している状態において、所定の物体が制御対象2に載置される又は接触することにより制御量が変化することが挙げられる。なお、外乱はこれに限らず、ヒーターの電源電圧の変動、制御対象自体の構造の変化など、適宜の外乱でもよい。外乱検知部3は、例えば、制御対象2の制御量が安定な状態において設定値と制御量を監視し、設定値と制御量の差(以下、偏差という)と予め定められた閾値とを比較して外乱を検知する。例えば、偏差の絶対値が予め定められた閾値を超えた場合に、外乱検知部3は外乱が発生したと判断してもよい。なお、外乱の検知の具体的な手法はこれに限らず適宜の手法を用いてもよい。
【0014】
外乱検知部3は、補正量算出部4に補正開始のトリガを出力してもよい。例えば、外乱検知部3は、補正開始のトリガとして、偏差を補正量算出部4に出力してもよい。なお、補正開始のトリガと、偏差の出力は別々でもよい。また、補正開始のトリガを出力するタイミングは、一例として、制御量の波形がボトムになるタイミング、換言すると制御量が減少から上昇に転じるタイミング(波形の変曲点)とすることができる。なお、外乱によって制御量が上昇する場合もあり、この場合は制御量の波形が頂上になるタイミング、換言すると制御量が上昇から減少に転じるタイミング(波形の変曲点)とすることができる。
【0015】
補正量算出部4は、制御量を補正するための補正量を算出し、フィードバック補正部5に出力する。補正量の算出については、後に詳述する。
【0016】
フィードバック補正部5は、制御部1の積分要素にフィードバックする制御量を補正する。例えば、フィードバック補正部5は、補正量算出部4から出力された補正量(バイアス量)と、制御量を加算することで制御量を補正する。フィードバック補正部5は、補正後の制御量(以下、積分計算用制御量ともいう)を制御部1に出力する。なお、本実施形態では、制御部1の比例要素及び微分要素にはフィードバックする制御量は補正しない。すなわち、本実施形態の補正により、積分要素にフィードバックされる制御量と、比例要素及び微分要素にはフィードバックする制御量とは異なることになる。
【0017】
制御部1では、積分要素については、フィードバック補正部5から出力された積分計算用制御量と設定値との差を用いる。また、比例要素及び微分要素については、制御対象2から出力された制御量(図示しない測定器で測定された物理量)と設定値との差を用いる。なお、
図1における制御部1のパラメータα及びβは、2自由度PID制御におけるパラメータである。
【0018】
図2は、補正量算出部4の機能ブロック図である。補正量算出部4は、初期値設定部41と、補正量変更部42と、変化速度設定部43とを有する。補正量算出部4は、所定のタイミングで補正量の初期値を求めてフィードバック補正部5に出力し、さらに補正量を徐々に変化させる。ここで補正量の変化速度は調整可能である。
【0019】
初期値設定部41は、例えば、偏差に基づく値を補正量の初期値とする。一例として、初期値設定部41は、偏差に予め定められた係数(例えば定数)を乗じて補正量の初期値とする。なお、偏差は外乱検知部3から出力された値を用いることができる。
【0020】
補正量変更部42は、補正量を上述の初期値からゼロへ徐々に変化させる。補正量をゼロに変化させることは、換言すると補正量を小さくしていくこと、又は、積分計算用制御量を制御対象2から出力される制御量に戻していくことに相当する。補正量変更部42は、一次遅れフィルタであってもよく、この場合補正量は一次遅れ系の出力波形と同様の波形で変化する。また、補正量変更部42は、線形に(直線的に)補正量を変化させてもよいし、これら以外の態様で補正量を変化させてもよい。
【0021】
変化速度設定部43は、補正量の変化の速さを調整する。例えば、一次遅れフィルタのパラメータ(時定数など)や、線形に補正量を変化させる場合の傾きなどを設定することで補正量の変化の速さを調整する。補正量の変化の速さは例えば制御部1を制御対象2に適用するときに定められてもよい。
【0022】
図3は、積分計算用制御量を説明するための図である。また、
図4は、積分計算用制御量を説明するための他の図である。
【0023】
図3において、波形31は、実測された制御量PVを示す。波形32-1~3は積分計算用制御量PVを示し、ゲイン(上述の初期値)と時定数が互いに異なる波形を示す。例えば、波形32-1のゲインを1、時定数を1とした場合に、波形32-2はゲインが2、時定数が5の波形である。つまり、波形32-1よりもゲインは2倍、時定数は5倍に設定した波形である。また、波形32-3はゲインが3、時定数が10の波形である。つまり、波形32-1よりもゲインは3倍、時定数は10倍に設定した波形である。
【0024】
図4において、波形33は、実測された制御量PVを示す。波形34-1~3は積分計算用制御量PVを示し、ゲインと時定数が互いに異なる波形を示す。例えば、波形34-1のゲインを-1、時定数を1とした場合に、波形34-2はゲインが-2、時定数が5の波形である。つまり、波形34-1よりもゲインは2倍、時定数は5倍に設定した波形である。また、波形34-3はゲインが-3、時定数が10の波形である。つまり、波形34-1よりもゲインは3倍、時定数は10倍に設定した波形である。
【0025】
図3に示すように積分計算用制御量PVをプラス側に大きくすると、補正後の制御量の波形はオーバーシュートが小さくなる。オーバーシュートの大きさは、積分計算用制御量PVをプラス側に大きくするほど、オーバーシュートがより小さくなる。逆に、
図4に示すように積分計算用制御量PVを小さくすると(マイナス側にすると)、補正後の制御量の波形はオーバーシュートが大きくなる。オーバーシュートの大きさは、積分計算用制御量PVを小さくするほど(マイナス側にするほど)、オーバーシュートがより大きくなる。すなわち、積分計算用制御量PV(例えば初期値)を適切に設定することにより所望のオーバーシュート量の応答を得ることができる。
【0026】
また、波形32-3、34-3のように積分計算用制御量PVをゆっくり戻すと、補正後の制御量の波形はオーバーシュート又はアンダーシュートの後、整定するまで緩やかになる(より長い時間をかけて整定する)。一方、波形32-1、34-1のように積分計算用制御量PVを速く戻すほど、補正後の制御量の波形はオーバーシュート又はアンダーシュートの後、より短い時間で整定する。すなわち、積分計算用制御量PVの変化の速さ(例えば時定数)を適切に設定することにより所望の応答を得ることができる。
【0027】
2.第2の実施形態
上述の第1の実施形態では、積分要素にフィードバックする制御量に対して補正した。一方、第2の実施形態では、さらに比例要素にフィードバックする制御量に対しても補正する。例えば、積分要素にフィードバックする制御量に対する補正のみでは十分でない場合、例えば制御量について所望の応答波形が得られない場合、さらに比例要素にフィードバックする制御量に対して補正する。以下、主に第1の実施形態との相違点について説明し、第1の実施形態と共通する点は適宜説明を省略する。
【0028】
図5は、第2の実施形態における制御系のブロック図である。第2の実施形態における制御系は、フィードバック補正部5-2をさらに備える。なお、
図5におけるフィードバック補正部5-1は、第1の実施形態のフィードバック補正部5に相当する。補正量算出部4は、フィードバック補正部5-1及び5-2に補正量(バイアス量)を出力する。
【0029】
フィードバック補正部5-2は、制御部1の比例要素にフィードバックする制御量を補正する。例えば、フィードバック補正部5-2は、補正量算出部4から出力された補正量と、制御量を加算することで制御量を補正する。フィードバック補正部5-2は、補正後の制御量(以下、比例計算用制御量ともいう)を制御部1に出力する。なお、本実施形態では、制御部1の微分要素にはフィードバックする制御量は補正しない。すなわち、本実施形態の補正により、積分要素及び比例要素にフィードバックされる制御量と、微分要素にはフィードバックする制御量とは異なることになる。なお、補正量算出部4は、フィードバック補正部5-1及び5-2に出力する補正量として共通の値を用いるが、別々の値を用いるように構成してもよい。
【0030】
制御部1では、積分要素については、フィードバック補正部5-1から出力された積分計算用制御量と設定値との差を用いる。また、比例要素については、フィードバック補正部5-2から出力された比例計算用制御量と設定値との差を用いる。また、微分要素については、制御対象2から出力された制御量(図示しない測定部で測定された物理量)と設定値との差を用いる。
【0031】
3.第3の実施形態
第3の実施形態では、制御系は、第1の実施形態の構成に加えて、フィードフォワ―ド部6をさらに備える。以下、主に第1の実施形態との相違点について説明し、第1の実施形態と共通する点は適宜説明を省略する。
【0032】
図6は、第3の実施形態における制御系のブロック図である。フィードフォワ―ド部6は、例えば、外乱検知部3が外乱を検出すると、偏差又は偏差に基づく値を操作量に加える。このような構成により、アンダーシュート量についても、例えば大きくしたり小さくしたりするなど調整することが可能になる。
【0033】
4.第4の実施形態
第4の実施形態では、制御系は、第2の実施形態の構成に加えて、フィードフォワ―ド部6をさらに備える。フィードフォワ―ド部6については、第3の実施形態と同様であり、他の構成については第2の実施形態と同様である。
図7に、第4の実施形態における制御系のブロック図を示す。
【0034】
上述の各実施形態によると、外乱に対する制御量の応答を柔軟に調整する制御装置を提供することができる。また、製造プロセスで物を加熱するプロセスにおいて、加熱時のオーバーシュート又は熱履歴を所望のものにすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、例えば温度を制御する装置など、少なくとも積分要素を含む制御を行う制御系を用いる産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 制御部
2 制御対象
3 外乱検知部
4 補正量算出部
5 フィードバック補正部
6 フィードフォワ―ド部
41 初期値設定部
42 補正量変更部
43 変化速度設定部