(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】異常検出装置、異常検出方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20240830BHJP
G01R 31/58 20200101ALI20240830BHJP
G01R 31/08 20200101ALI20240830BHJP
【FI】
G01R31/12 A
G01R31/58
G01R31/08
(21)【出願番号】P 2022545541
(86)(22)【出願日】2021-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2021027126
(87)【国際公開番号】W WO2022044625
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2020142532
(32)【優先日】2020-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】古賀 達雄
(72)【発明者】
【氏名】木寺 和憲
(72)【発明者】
【氏名】大島 和哉
(72)【発明者】
【氏名】大堀 貴大
(72)【発明者】
【氏名】金森 圭太
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-271573(JP,A)
【文献】国際公開第2020/039581(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/087854(WO,A1)
【文献】特開2014-134445(JP,A)
【文献】特開2008-167645(JP,A)
【文献】特開2019-200068(JP,A)
【文献】特開2019-191142(JP,A)
【文献】特開2000-224723(JP,A)
【文献】特開平5-333079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/08
G01R 31/58
G01R 31/12
G01R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の異常を検出する異常検出装置であって、
前記対象物における物理量をセンシングするセンサから得られるセンシングデータを周波数解析する解析部と、
前記対象物が正常状態のときに得られる前記物理量のセンシングデータの周波数解析データ及び前記対象物が異常状態のときに得られる前記物理量のセンシングデータの周波数解析データの少なくとも一方の周波数解析データに基づいて学習された学習済みモデルと、
前記学習済みモデルに前記センサから得られるセンシングデータの周波数解析データを入力することで、前記学習済みモデルから出力される出力結果に基づいて、前記対象物に異常が発生しているか否かを判定する判定部と、を備え、
前記学習済みモデルは、
ロジスティック回帰分析により構築されたモデルであり、
前記対象物が正常状態のときの周波数解析データから求められた正常を示す回帰直線、及び、前記対象物が異常状態のときの周波数解析データから求められた異常を示す回帰直線に基づいて設定された閾値を示す直線と、前記センサから得られるセンシングデータの周波数解析データとを比較することで、正常又は異常を示す出力結果を出力
し、
前記対象物は、DC配電網であり、
前記DC配電網は、直流電源、電力変換装置又は負荷が接続され、
前記DC配電網の異常は、前記直流電源、前記電力変換装置又は前記負荷に接続されたDC配線におけるアーク故障である
異常検出装置。
【請求項2】
前記物理量は、電流、電圧又は温度を含む
請求項1に記載の異常検出装置。
【請求項3】
前記異常検出装置は、さらに、回路遮断部を備え、
前記回路遮断部は、前記DC配電網に異常が発生していると判定された場合に、前記直流電源、前記電力変換装置又は前記負荷に接続されたDC配線による接続を遮断する
請求項
1又は
2に記載の異常検出装置。
【請求項4】
前記異常検出装置は、さらに、通信部を備え、
前記通信部は、前記DC配電網に異常が発生していると判定された場合に、前記電力変換装置からの電力供給を停止させるための信号を前記電力変換装置に送信する
請求項
1~
3のいずれか1項に記載の異常検出装置。
【請求項5】
前記異常検出装置は、さらに、報知部を備え、
前記報知部は、前記対象物に異常が発生していると判定された場合に、異常の発生を報知する
請求項1~
4のいずれか1項に記載の異常検出装置。
【請求項6】
前記異常検出装置は、さらに、前記センサから得られるセンシングデータを用いて前記学習済みモデルを再学習する学習部を備える
請求項1~
5のいずれか1項に記載の異常検出装置。
【請求項7】
対象物の異常を検出する異常検出方法であって、
前記対象物における物理量をセンシングするセンサから得られるセンシングデータを周波数解析する解析ステップと、
前記対象物が正常状態のときに得られる前記物理量のセンシングデータの周波数解析データ及び前記対象物が異常状態のときに得られるセンシングデータの周波数解析データの少なくとも一方の周波数解析データに基づいて学習済みモデルを学習するステップと、
前記学習済みモデルに前記センサから得られるセンシングデータの周波数解析データを入力することで、前記学習済みモデルから出力される出力結果に基づいて、前記対象物に異常が発生しているか否かを判定する判定ステップと、を含み、
前記学習済みモデルは、
ロジスティック回帰分析により構築されたモデルであり、
前記対象物が正常状態のときの周波数解析データから求められた正常を示す回帰直線、及び、前記対象物が異常状態のときの周波数解析データから求められた異常を示す回帰直線に基づいて設定された閾値を示す直線と、前記センサから得られるセンシングデータの周波数解析データとを比較することで、正常又は異常を示す出力結果を出力
し、
前記対象物は、DC配電網であり、
前記DC配電網は、直流電源、電力変換装置又は負荷が接続され、
前記DC配電網の異常は、前記直流電源、前記電力変換装置又は前記負荷に接続されたDC配線におけるアーク故障である
異常検出方法。
【請求項8】
請求項
7に記載の異常検出方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常検出装置、異常検出方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、PV(Photo Voltaic)パネル(太陽光パネル)等からDC(Direct Current)配線を介して供給される直流電力をインバータ等の機器で交流電力に変換して負荷に供給するシステムが知られている。このような直流電源と機器とを接続するDC配線は、外的要因又は経年劣化等によって損傷又は破断を引き起こすことが報告されている。このようなDC配線の損傷等に起因してアーク故障等の異常が発生する場合がある。そこで、配線におけるアーク故障等の異常を検出するための検出手段が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されるような異常検出装置について、対象物における異常を正確に検出することが求められている。
【0005】
そこで、本発明は、対象物における異常を正確に検出することができる異常検出装置等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る異常検出装置の一態様は、対象物の異常を検出する異常検出装置であって、前記対象物における物理量をセンシングするセンサから得られるセンシングデータを周波数解析する解析部と、前記対象物が正常状態のときに得られる前記物理量のセンシングデータの周波数解析データ及び前記対象物が異常状態のときに得られる前記物理量のセンシングデータの周波数解析データの少なくとも一方の周波数解析データに基づいて学習された学習済みモデルに、前記センサから得られるセンシングデータの周波数解析データを入力することで、前記学習済みモデルから出力される出力結果に基づいて、前記対象物に異常が発生しているか否かを判定する判定部と、を備える。
【0007】
本発明に係る異常検出方法の一態様は、対象物の異常を検出する異常検出方法であって、前記対象物における物理量をセンシングするセンサから得られるセンシングデータを周波数解析する解析ステップと、前記対象物が正常状態のときに得られる前記物理量のセンシングデータの周波数解析データ及び前記対象物が異常状態のときに得られるセンシングデータの周波数解析データの少なくとも一方の周波数解析データに基づいて学習された学習済みモデルに、前記センサから得られるセンシングデータの周波数解析データを入力することで、前記学習済みモデルから出力される出力結果に基づいて、前記対象物に異常が発生しているか否かを判定する判定ステップと、を含む。
【0008】
本発明に係るプログラムの一態様は、上記の異常検出方法をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、対象物における異常を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る異常検出装置の一例を示す構成図である。
【
図2】
図2は、ロジスティック回帰分析により構築された学習済みモデルによる異常判定を説明するための図である。
【
図3】
図3は、実施の形態に係る異常検出装置が適用されたDC配電網の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、実施の形態に係る異常検出装置が適用されたDC配電網の他の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、実施の形態に係る異常検出装置の設置場所を説明するための図である。
【
図6】
図6は、その他の実施の形態に係る異常検出方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ並びにステップの順序等は、一例であって本発明を限定する主旨ではない。
【0012】
なお、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。また、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0013】
(実施の形態)
図1は、実施の形態に係る異常検出装置10の一例を示す構成図である。
図1には、異常検出装置10の他に、対象物1及びセンサ20も示している。
【0014】
対象物1は、異常検出装置10の異常検出の対象となるものである。対象物1は、特に限定されないが、例えば、DC配線網等である。
【0015】
センサ20は、対象物1における物理量をセンシングするセンサである。物理量は、特に限定されないが、例えば、電流、電圧又は温度等を含む。センサ20は、センシングする物理量の種類に応じたセンサであり、センシングする物理量が電流の場合には電流計であり、センシングする物理量が電圧の場合には電圧計であり、センシングする物理量が温度の場合には温度計である。センサ20は、センシングした物理量の大きさに応じたセンシングデータ(例えば電気信号)を出力する。
【0016】
異常検出装置10は、対象物1の異常を検出する装置である。異常検出装置10は、例えば、マイコン(マイクロコンピュータ)により実現される。マイコンは、プログラムが格納されたROM(Read Only Memory)、RAM(Randam Access Memory)、プログラムを実行するプロセッサ(CPU:Central Processing Unit)、通信インタフェース、タイマ、A/D変換器及びD/A変換器等を有する半導体集積回路等である。なお、異常検出装置10は、A/D変換器、論理回路、ゲートアレイ及びD/A変換器等で構成される専用の電子回路等によってハードウェア的に実現されてもよい。
【0017】
異常検出装置10は、フィルタ部11、解析部12、通信部13、学習済みモデル14、判定部15、報知部16、回路遮断部17及び学習部18を備える。例えば、解析部12、判定部15、報知部16及び学習部18は、プロセッサがメモリに記憶されたプログラムを実行することにより実現される。例えば、通信部13は、異常検出装置10が備える通信インタフェースにより実現される。例えば、学習済みモデル14は、異常検出装置10が備えるメモリ等に記憶される。なお、異常検出装置10は、センサ20を備えていてもよい。
【0018】
例えば、対象物1に異常が発生している際にセンサ20から得られるセンシングデータには、異常に対応した周波数の信号が含まれる。そこで、フィルタ部11は、センサ20から得られるセンシングデータが入力され、対象物1における異常に対応した周波数を通過させるフィルタを有する。言い換えると、フィルタ部11は、対象物1における異常に対応した周波数以外の信号を遮断する。当該フィルタの通過帯域は、発生し得る異常の周波数及び異常以外のノイズの周波数等に応じて適宜決定される。
【0019】
解析部12は、対象物1における物理量をセンシングするセンサ20から得られるセンシングデータを周波数解析する。例えば、解析部12は、フィルタ部11を介してセンサ20から得られるセンシングデータを周波数解析する。
【0020】
例えば、異常検出装置10は、異常検出装置10を管理する中央管理システムと通信可能となっており、通信部13は、解析部12での解析結果を中央管理システムに送信する。例えば、中央管理システムでは、受信した解析結果を蓄積し、或いは、より詳細な解析を行う。また、詳細は後述するが、異常検出装置10は、対象物1又は対象物1に接続された機器等と通信可能となっていてもよく、通信部13は、対象物1に異常が発生していると判定された場合に、対象物1又は対象物1に接続された機器に特定の信号を送信してもよい。
【0021】
学習済みモデル14は、対象物1が正常状態のときに得られる物理量のセンシングデータの周波数解析データ及び対象物1が異常状態のときに得られる物理量のセンシングデータの周波数解析データの少なくとも一方の周波数解析データに基づいて学習されたモデルである。例えば、学習済みモデル14は、対象物1が正常状態のときに得られる物理量のセンシングデータの周波数解析データ及び対象物1が異常状態のときに得られる物理量のセンシングデータの周波数解析データの両方の周波数解析データに基づいて学習されたモデルである。なお、学習済みモデル14は、対象物1が正常状態のときに得られる物理量のセンシングデータの周波数解析データ及び対象物1が異常状態のときに得られる物理量のセンシングデータの周波数解析データのいずれか一方の周波数解析データに基づいて学習されたモデルであってもよい。
【0022】
例えば、学習済みモデル14は、予め取得した数多くの周波数解析データを特徴量として用いて学習される。具体的には、対象物1が正常状態のときの周波数解析データが入力されたときにモデルから正常を示す出力結果が出力され、対象物1が異常状態のときの周波数解析データが入力されたときにモデルから異常を示す出力結果が出力されるように、繰り返し学習が行われて学習済みモデル14が構築される。
【0023】
また、例えば、学習済みモデル14は、回帰分析により構築されたモデルであってもよい。例えば対象物1が正常状態のときに得られる物理量のセンシングデータの周波数解析データ及び対象物1が異常状態のときに得られる物理量のセンシングデータの周波数解析データに基づいた回帰分析の結果から得られる閾値と、学習済みモデル14に入力されたデータとが比較されることで、学習済みモデル14に入力されたデータが異常を示すか否かを判定することができる。
【0024】
例えば、学習済みモデル14は、ロジスティック回帰分析により構築されたモデルであってもよい。
【0025】
ロジスティック回帰分析により構築された学習済みモデル14は、以下の式1及び式2に示す関数で表される。nは自然数であり、wiは回帰係数であり、xiは説明変数であり、Z(Y)は学習済みモデル14の目的変数である。例えば、学習済みモデル14にデータを入力したときに得られるZ(Y)が、閾値(例えば0.5)よりも小さい場合には、入力されたデータが正常を示し、閾値以上の場合には、入力されたデータが異常を示すように、wiが学習される。
【0026】
【0027】
【0028】
図2は、ロジスティック回帰分析により構築された学習済みモデル14による異常判定を説明するための図である。対象物1が正常状態のときの周波数解析データ群から正常を示す回帰直線を求めることができ、対象物1が異常状態のときの周波数解析データ群から異常を示す回帰直線を求めることができる。そして、閾値を示す直線(破線)を、正常を示す回帰直線及び異常を示す回帰直線に基づいて設定することができる。例えば、閾値は、誤差が少なくなるように設定される。
【0029】
例えば、学習済みモデル14は、サポートベクタマシンにより構築されたモデルであってもよい。
【0030】
また、例えば、学習済みモデル14は、マハラノビス距離を用いて構築されたモデルであってもよい。例えば、学習済みモデル14に入力されたデータの、対象物1が正常状態のときの周波数解析データからの逸脱度合い(マハラノビス距離)によって、入力されたデータが異常を示すか否かを判定することができる。或いは、学習済みモデル14に入力されたデータの、対象物1が異常状態のときの周波数解析データからの逸脱度合い(マハラノビス距離)によって、入力されたデータが正常を示すか否かを判定することができる。
【0031】
判定部15は、センサ20から得られるセンシングデータの周波数解析データを学習済みモデル14に入力することで、学習済みモデル14から出力される出力結果に基づいて、対象物1に異常が発生しているか否かを判定する。例えば、判定部15は、センサ20から得られるセンシングデータの周波数解析データを学習済みモデル14に入力したときに、学習済みモデル14の出力結果が正常を示す場合には、対象物1に異常が発生していないと判定し、学習済みモデル14の出力結果が異常を示す場合には、対象物1に異常が発生していると判定する。
【0032】
報知部16は、対象物1に異常が発生していると判定された場合に、異常の発生を報知する。例えば、異常検出装置10は、異常の発生を報知するための構成要素(例えばランプ、表示装置又はスピーカ等)を有していてもよく、対象物1に異常が発生していると判定された場合に、ランプに異常の発生を示す点灯をさせたり、表示装置に異常の発生を示す表示をさせたり、スピーカに異常の発生を示す音声出力をさせたりしてもよい。また、報知部16は、対象物1に異常が発生していると判定された場合に、通信部13を介して中央管理システム又は対象物1のユーザが有するPC(Personal Computer)又は携帯端末等へ異常の発生を通知してもよい。
【0033】
回路遮断部17は、対象物1に異常が発生していると判定された場合に、対象物1における構成要素間の接続を遮断する。回路遮断部17は、例えば、対象物1に取り付けられるスイッチ等である。例えば、対象物1に異常が発生していると判定された場合に、対象物1における特定の構成要素間の接続が遮断されることで、異常により対象物1又は対象物1の周辺の機器が危険な状態になることを抑制することができる。
【0034】
なお、回路遮断部17は、異常検出装置10に備えられていなくてもよく、対象物1が備える構成要素であってもよい。この場合、通信部13から対象物1が備える回路遮断部17に、対象物1における特定の構成要素間の接続を遮断するための信号が送信されてもよく、対象物1が備える回路遮断部17は、対象物1における特定の構成要素間の接続を遮断してもよい。
【0035】
学習部18は、センサ20から得られるセンシングデータを用いて学習済みモデル14を再学習する。つまり、センサ20から得られる最新のセンシングデータを用いて学習済みモデル14が再学習されて最新のモデルに更新される。
【0036】
次に、実施の形態に係る異常検出装置10の適用例について説明する。例えば、対象物1は、DC配電網であり、異常検出装置10は、DC配電網に適用される。
【0037】
図3は、実施の形態に係る異常検出装置10が適用されたDC配電網の一例を示す図である。
図3では、太陽光発電システム100におけるDC配電網を示している。
【0038】
太陽光発電システム100は、太陽光発電により生成した直流電力を交流電力に変換して出力するシステムであり、太陽電池30、電力変換装置40を備える。例えば、太陽光発電システム100におけるDC配電網は、太陽電池30及び電力変換装置40に接続される。太陽電池30と電力変換装置40とは、DC配電網におけるDC配線1aによって接続される。DC配線1aは、太陽電池30の正極と電力変換装置40とを接続する正側配線及び太陽電池30の負極と電力変換装置40とを接続する負側配線からなる。
【0039】
太陽電池30は、太陽光により発電し直流電力を発生する直流電源である。上述したように、太陽電池30は、正極及び負極を有し、正極には正側配線が接続され、負極には負側配線が接続される。
【0040】
電力変換装置40は、太陽電池30で生成された直流電力を交流電力に変換するDC/AC変換器である。なお、太陽電池30と電力変換装置40との間にDC/DC変換器が接続されていてもよい。電力変換装置40は、太陽電池30からDC配線1aを介して供給される直流電力を交流電力に変換する。例えば、電力変換装置40は、直流電力を周波数50Hz又は60Hzの交流電力に変換する。交流電力は、家庭用電気機器等で使用される。
【0041】
例えば、センサ20は、DC配電網におけるDC配線1aに設けられる。センサ20は、例えば、電流計を有する。電流計は、DC配線1aに流れる電流を計測する。電流計で計測された電流は、センシングデータとして異常検出装置10へ出力される。なお、センサ20は、電流計の代わりに電圧計を有していてもよく、或いは、電流計及び電圧計の両方を有していてもよい。電圧計は、電力変換装置40の入力電圧を測定する。電力変換装置40の入力電圧は、太陽電池30の正極と電力変換装置40とを接続する正側配線及び太陽電池30の負極と電力変換装置40とを接続する負側配線間の電圧である。電圧計で計測された電圧は、センシングデータとして異常検出装置10へ出力される。
【0042】
DC配線は、外的要因や経年劣化等によって損傷又は破断を引き起こすことが報告されている。例えば、DC配電網の異常は、電力変換装置40に接続されたDC配線1aにおけるアーク故障であり、このような損傷等に起因してアーク故障が発生する場合がある。この適用例では、異常検出装置10は、太陽電池30と電力変換装置40とを接続するDC配線1aにおいて発生するアーク故障を検出する。
【0043】
例えば、解析部12は、DC配線1aに流れる電流を示すセンシングデータを周波数解析する。例えば、解析部12は、センシングデータの時間波形をフーリエ変換することで電流信号の周波数スペクトル(周波数解析データ)を算出する。そして、周波数解析データが学習済みモデル14に入力され、判定部15は、学習済みモデル14の出力結果に基づいて、アーク故障が発生しているか否かを判定する。
【0044】
例えば、回路遮断部17は、DC配電網に異常が発生している(すなわちアーク故障が発生している)と判定された場合に、DC配線1aによる接続(すなわち太陽電池30と電力変換装置40との接続)を遮断する。或いは、通信部13は、アーク故障が発生していると判定された場合に、電力変換装置40からの電力供給を停止させるための信号を電力変換装置40に送信してもよい。
【0045】
図4は、実施の形態に係る異常検出装置10が適用されたDC配電網の他の一例を示す図である。
図4では、屋内配線システム200におけるDC配電網を示している。なお、
図4には、屋内配線システム200に接続された系統電源60も示している。
【0046】
系統電源60は、発電所等で生成された交流電力を供給する電源である。
【0047】
屋内配線システム200は、電力変換装置70及び負荷80を備える。電力変換装置70及び負荷80は、戸建て、集合住宅、ビル又は工場等の施設の屋内に設置される。例えば、屋内配線システム200におけるDC配電網は、屋内に設けられ、電力変換装置70及び負荷80に接続される。電力変換装置70と負荷80とは、DC配電網におけるDC配線1b(例えばダクト配線)によって接続される。DC配線1bは、電力変換装置70の正極と負荷80とを接続する正側配線及び電力変換装置70の負極と負荷80とを接続する負側配線からなる。
【0048】
電力変換装置70は、系統電源60から交流電力が供給され、供給された交流電力を直流電力に変換して出力するAC/DC変換器である。電力変換装置70は、系統電源60から供給された交流電力を直流電力に変換して、負荷80に出力する。電力変換装置70は正極と負極を有し、正極には正側配線が接続され、負極には負側配線が接続される。
【0049】
負荷80は、例えば、屋内に設置される機器であり、例えば、照明器具、スピーカ又はマイク等である。ここでは、複数の負荷80を示しており、DC配線1bは、電力変換装置70から複数の負荷80へ向けて分岐した配線となっている。
【0050】
例えば、センサ20は、DC配電網におけるDC配線1bに設けられる。センサ20は、例えば、電圧計を有する。電圧計は、電力変換装置40の出力電圧(言い換えると負荷80の入力電圧)を測定する。電力変換装置70の出力電圧は、電力変換装置70の正極と負荷80とを接続する正側配線及び電力変換装置70の負極と負荷80とを接続する負側配線間の電圧である。電圧計で計測された電圧は、センシングデータとして異常検出装置10へ出力される。なお、
図4では、センサ20がDC配線1bにおける分岐前の正側配線及び負側配線間に設けられる例について示しているが、センサ20が電圧計を有する場合には、分岐後のいずれかの正側配線及び負側配線間に設けられていてもよい。分岐前及び分岐後のいずれであっても、正側配線及び負側配線間の電圧は同じであるためである。
【0051】
例えば、対象物1としてDC配電網の異常は、電力変換装置70及び負荷80に接続されたDC配線1bにおけるアーク故障である。この適用例では、異常検出装置10は、電力変換装置70と負荷80とを接続するDC配線1bにおいて発生するアーク故障を検出する。
【0052】
例えば、解析部12は、DC配線1bにおける電圧を示すセンシングデータを周波数解析する。例えば、解析部12は、センシングデータの時間波形をフーリエ変換することで電圧信号の周波数スペクトル(周波数解析データ)を算出する。そして、周波数解析データが学習済みモデル14に入力され、判定部15は、学習済みモデル14の出力結果に基づいて、アーク故障が発生しているか否かを判定する。
【0053】
例えば、回路遮断部17は、DC配電網に異常が発生している(すなわちアーク故障が発生している)と判定された場合に、DC配線1bによる接続(すなわち電力変換装置70と負荷80との接続)を遮断する。或いは、通信部13は、アーク故障が発生していると判定された場合に、電力変換装置70からの電力供給を停止させるための信号を電力変換装置70に送信してもよい。
【0054】
なお、異常検出装置10は、DC配電網に接続される様々な機器に配置することができる。これについて
図5を用いて説明する。
【0055】
図5は、実施の形態に係る異常検出装置10の設置場所を説明するための図である。
図5は、DC配電網における配電盤120、AC/DC変換器130、DCブレーカ140、ダクト配線150、負荷160及びコントロールユニット170を示している。
図5には、一例としてある程度大きな施設におけるDC配電網を示しており、DC配電網には、AC/DC変換器130、DCブレーカ140、ダクト配線150及び負荷160が複数組(ここでは2組)接続されていてもよい。また、
図5には、配電盤120に接続された系統電源110も示している。
【0056】
配電盤120は、系統電源110を介して発電所等から送られた高電圧を施設内の設備で使用できる電圧に変換して施設内の各場所へ分配する。例えば、配電盤120は、コントロールユニット170によって監視及び制御等がされる。
【0057】
AC/DC変換器130は、配電盤120から交流電力が供給され、供給された交流電力を直流電力に変換して出力する。
【0058】
DCブレーカ140は、AC/DC変換器130とダクト配線150との接続を遮断するためのブレーカである。
【0059】
ダクト配線150は、施設に設けられた配線であり、施設の例えば天井等に張り巡らされ、負荷160に接続される。なお、ダクト配線150は、施設の壁又は床に設けられてもよい。また、ここでは、ダクト配線150に1つの負荷160が接続される例を示しているが、ダクト配線150には様々な種類の負荷160が数多く接続され得る。
【0060】
例えば、異常検出装置10は、配電盤120、AC/DC変換器130、DCブレーカ140及び負荷160のいずれに設置されてもよい。また、異常検出装置10が異常を検出する対象物1は、系統電源110と配電盤120とを接続するAC配線、配電盤120とAC/DC130とを接続するAC配線、AC/DC変換器130とDCブレーカ140とを接続するDC配線、DCブレーカ140と負荷160とを接続するダクト配線150のいずれであってもよい。
【0061】
また、本発明は、異常検出システムとして実現することができ、異常検出装置10における各構成要素は、分散配置されていてもよい。例えば、異常検出装置10における通信部13は、配電盤120、AC/DC変換器130又はDCブレーカ140に設けられ、異常検出装置10における他の構成要素は、他の機器に設けられてもよい。例えば、異常が発生していると判定された場合、通信部13は、有線でコントロールユニット170へ異常を示す信号を送信してもよいし、無線で外部機器(スマートフォン又はPC等)又は中央管理システムへ異常を示す信号を送信してもよい。
【0062】
以上説明したように、本実施の形態に係る異常検出装置10は、対象物1の異常を検出する装置である。異常検出装置10は、対象物1における物理量をセンシングするセンサ20から得られるセンシングデータを周波数解析する解析部12と、対象物1が正常状態のときに得られる物理量のセンシングデータの周波数解析データ及び対象物1が異常状態のときに得られる物理量のセンシングデータの周波数解析データの少なくとも一方の周波数解析データに基づいて学習された学習済みモデル14に、センサ20から得られるセンシングデータの周波数解析データを入力することで、学習済みモデル14から出力される出力結果に基づいて、対象物1に異常が発生しているか否かを判定する判定部15と、を備える。
【0063】
これによれば、学習済みモデル14は、対象物1が正常状態のときに得られる物理量のセンシングデータの周波数解析データ及び対象物1が異常状態のときに得られる物理量のセンシングデータの周波数解析データの少なくとも一方の周波数解析データを用いて、学習されたモデルであるので、学習済みモデル14にセンサ20から得られるセンシングデータの周波数解析データを入力することで、学習済みモデル14の出力結果に基づいて対象物1における異常を正確に検出することができる。例えば、センサ20から得られるセンシングデータの周波数解析データが異常を示すか否かがわかりにくい場合であっても、数多くのデータから学習された学習済みモデル14を用いることで、異常を示すか否かを正確に判定することができる。
【0064】
例えば、学習済みモデル14は、回帰分析により構築されたモデルであってもよい。
【0065】
このように、学習済みモデル14を回帰分析により構築してもよい。
【0066】
例えば、学習済みモデル14は、ロジスティック回帰分析により構築されたモデルであってもよい。
【0067】
これによれば、センサ20から得られるセンシングデータの周波数解析データが異常を示すか否かを判定するための閾値として、線形な閾値を設定することができる。
【0068】
例えば、学習済みモデル14は、サポートベクタマシンにより構築されたモデルであってもよい。
【0069】
これによれば、センサ20から得られるセンシングデータの周波数解析データが異常を示すか否かを判定するための閾値として、非線形な閾値を設定することができる。
【0070】
例えば、学習済みモデル14は、マハラノビス距離を用いて構築されたモデルであってもよい。
【0071】
これによれば、マハラノビス距離による多変量解析により、対象物1における異常を正確に検出することができる。
【0072】
例えば、物理量は、電流、電圧又は温度を含んでいてもよい。
【0073】
これによれば、対象物1に流れる電流、対象物1における電圧又は対象物1における温度に関する異常を正確に検出することができる。
【0074】
例えば、対象物1は、DC配電網であってもよい。
【0075】
これによれば、対象物1としてDC配電網に発生する異常を正確に検出することができる。
【0076】
例えば、DC配電網は、直流電源、電力変換装置又は負荷が接続されてもよい。また、DC配電網の異常は、直流電源、電力変換装置又は負荷に接続されたDC配線におけるアーク故障であってもよい。
【0077】
これによれば、直流電源、電力変換装置又は負荷が接続されたDC配電網において発生するアーク故障を正確に検出することができる。
【0078】
また、異常検出装置10は、さらに、回路遮断部17を備え、回路遮断部17は、DC配電網に異常が発生していると判定された場合に、直流電源、電力変換装置又は負荷に接続されたDC配線による接続を遮断してもよい。
【0079】
これによれば、直流電源、電力変換装置若しくは負荷、又は、これらを接続するDC配線が危険な状態になることを抑制できる。
【0080】
また、異常検出装置10は、さらに、通信部13を備え、通信部13は、DC配電網に異常が発生していると判定された場合に、電力変換装置からの電力供給を停止させるための信号を電力変換装置に送信してもよい。
【0081】
これによれば、直流電源、電力変換装置若しくは負荷、又は、これらを接続するDC配線が危険な状態になることを抑制できる。
【0082】
また、異常検出装置10は、さらに、報知部16を備え、報知部16は、対象物1に異常が発生していると判定された場合に、異常の発生を報知してもよい。
【0083】
これによれば、異常の発生を対象物1のユーザ又は対象物1を管理する管理者等に通知することができる。
【0084】
また、異常検出装置10は、さらに、センサ20から得られるセンシングデータを用いて学習済みモデル14を再学習する学習部18を備えていてもよい。
【0085】
これによれば、学習済みモデル14を搭載した異常検出装置10が適用される場所等に応じて、学習済みモデル14をさらに精度の良いものにすることができる。
【0086】
(その他の実施の形態)
以上、実施の形態に係る異常検出装置10について説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。
【0087】
例えば、上記実施の形態では、異常検出装置10がフィルタ部11を備える例について説明したが、フィルタ部11を備えていなくてもよい。
【0088】
例えば、上記実施の形態では、異常検出装置10が通信部13を備える例について説明したが、通信部13を備えていなくてもよい。
【0089】
例えば、上記実施の形態では、異常検出装置10が報知部16を備える例について説明したが、報知部16を備えていなくてもよい。
【0090】
例えば、上記実施の形態では、異常検出装置10が回路遮断部17を備える例について説明したが、回路遮断部17を備えていなくてもよい。
【0091】
例えば、上記実施の形態では、異常検出装置10が学習部18を備える例について説明したが、学習部18を備えていなくてもよい。
【0092】
例えば、上記実施の形態では、異常検出装置10が検出する異常として、DC配電網におけるアーク故障を一例に説明したが、異常検出装置10は、高抵抗化、地絡、短絡、劣化及びアーク故障の予兆等の異常を検出することができる。例えば、異常が対象物1における物理量と相関関係のある異常であり、当該異常と相関関係にある物理量を電気信号として周波数解析できるのであれば、異常検出装置10が検出する異常の種類は特に限定されない。
【0093】
例えば、本発明は、異常検出装置10として実現できるだけでなく、異常検出装置10を構成する各構成要素が行うステップ(処理)を含む異常検出方法として実現できる。
【0094】
図6は、その他の実施の形態に係る異常検出方法の一例を示すフローチャートである。
【0095】
具体的には、異常検出方法は、対象物の異常を検出する方法であって、対象物における物理量をセンシングするセンサから得られるセンシングデータを周波数解析する解析ステップ(ステップS11)と、対象物が正常状態のときに得られる物理量のセンシングデータの周波数解析データ及び対象物が異常状態のときに得られるセンシングデータの周波数解析データの少なくとも一方の周波数解析データに基づいて学習された学習済みモデルに、センサから得られるセンシングデータの周波数解析データを入力することで、学習済みモデルから出力される出力結果に基づいて、対象物に異常が発生しているか否かを判定する判定ステップ(ステップS12)と、を含む。
【0096】
例えば、それらのステップは、コンピュータ(コンピュータシステム)によって実行されてもよい。そして、本発明は、それらの方法に含まれるステップを、コンピュータに実行させるためのプログラムとして実現できる。さらに、本発明は、そのプログラムを記録したCD-ROM等である非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体として実現できる。
【0097】
上記実施の形態に係る異常検出装置10は、マイコンによってソフトウェア的に実現されたが、パーソナルコンピュータなどの汎用コンピュータにおいてソフトウェア的に実現されてもよい。さらに、異常検出装置10は、A/D変換器、論理回路、ゲートアレイ、D/A変換器等で構成される専用の電子回路によってハードウェア的に実現されてもよい。
【0098】
その他、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0099】
1 対象物
1a、1b DC配線
10 異常検出装置
12 解析部
13 通信部
14 学習済みモデル
15 判定部
16 報知部
17 回路遮断部
18 学習部
20 センサ
40、70 電力変換装置
80、160 負荷