(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】カバリング糸、カバリング糸の製造方法および成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
D02G 3/38 20060101AFI20240830BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20240830BHJP
D02G 3/16 20060101ALI20240830BHJP
D02G 3/18 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
D02G3/38
D02G3/04
D02G3/16
D02G3/18
(21)【出願番号】P 2019192709
(22)【出願日】2019-10-23
【審査請求日】2022-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】302027675
【氏名又は名称】カジレーネ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】仲井 朝美
(72)【発明者】
【氏名】梶 政隆
(72)【発明者】
【氏名】本近 俊裕
(72)【発明者】
【氏名】井出 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】松本 信彦
【審査官】山下 航永
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-210036(JP,A)
【文献】特開昭60-162823(JP,A)
【文献】特開2014-173196(JP,A)
【文献】特開平04-019444(JP,A)
【文献】国際公開第2014/132776(WO,A1)
【文献】特開2017-186696(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00 - 3/48
D02J 1/00 - 13/00
B29B 11/16
B29B 15/08 - 15/14
C08J 5/04 - 5/10
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続強化繊維と、第一の連続熱可塑性樹脂繊維を含む混繊糸と、
前記混繊糸の長手方向にらせん状に巻き付いている第二の連続熱可塑性樹脂繊維とを有し、
前記第二の連続熱可塑性樹脂繊維は、前記混繊糸に0.5~10mmのピッチ、かつ、20~80°の角度でらせん状に巻き付いている、カバリング糸の製造方法であって、
連続強化繊維と第一の連続熱可塑性樹脂繊維を含む混繊糸に対し、該混繊糸の長手方向に第二の連続熱可塑性樹脂繊維をらせん状に巻き付けることを含み、
前記カバリング糸の数平均径と前記混繊糸の数平均径の比である、カバリング糸の数平均径/混繊糸
(カバリング用の樹脂繊維を巻き付ける前の混繊糸)の数平均径が、0.1~0.7である、カバリング糸の製造方法。
【請求項2】
前記カバリング糸中の混繊糸の密度が0.5~1.2g/cm
3である、請求項1に記載のカバリング糸の製造方法。
【請求項3】
前記カバリング糸を混繊糸の長手方向に10cm超の長さに切り出し、前記切り出したカバリング糸のうち、末端から10cmより余の部分をクランプで固定し、かつ、前記切り出したカバリング糸のうち、前記クランプで固定していない側の末端を、前記クランプ上面に対し、垂直となるよう仮固定した後、前記仮固定を開放したとき、クランプ上面に垂直な方向と、切り出したカバリング糸の固定していない側の末端と前記末端から0.1cmの位置を通る線とのなす角αが0~90°である、請求項1または2に記載のカバリング糸の製造方法。
【請求項4】
前記なす角αが、0~60°である、請求項3に記載のカバリング糸の製造方法。
【請求項5】
前記第二の連続熱可塑性樹脂繊維は、前記混繊糸に1.0~7.0mmのピッチでらせん状に巻き付いている、請求項1~4のいずれか1項に記載のカバリング糸の製造方法。
【請求項6】
前記第二の連続熱可塑性樹脂繊維は、前記混繊糸に30~70°の角度でらせん状に巻き付いている、請求項1~5のいずれか1項に記載のカバリング糸の製造方法。
【請求項7】
前記第二の連続熱可塑性樹脂繊維は、前記混繊糸に対し、S方向およびZ方向に、それぞれ、巻き付けられている、請求項1~6のいずれか1項に記載のカバリング糸の製造方法。
【請求項8】
前記第一の連続熱可塑性樹脂繊維および前記第二の連続熱可塑性樹脂繊維が、それぞれ、ポリアミド樹脂を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のカバリング糸の製造方法。
【請求項9】
前記ポリアミド樹脂が、ジアミンに由来する構成単位およびジカルボン酸に由来する構成単位から構成され、ジアミンに由来する構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来するポリアミド樹脂を含む、請求項8に記載のカバリング糸の製造方法。
【請求項10】
前記連続強化繊維が、炭素繊維およびガラス繊維から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載のカバリング糸の製造方法。
【請求項11】
前記混繊糸中の前記連続強化繊維の割合が、35~65体積%であり、前記カバリング糸中の前記連続強化繊維の割合が、30~60体積%である、請求項1~10のいずれか1項に記載のカバリング糸の製造方法。
【請求項12】
前記混繊糸における連続強化繊維の分散度が、60%以上である、請求項1~11のいずれか1項に記載のカバリング糸の製造方法。
【請求項13】
前記混繊糸における前記第一の連続熱可塑性樹脂繊維の含浸率が、10%以下である、請求項1~12のいずれか1項に記載のカバリング糸の製造方法。
【請求項14】
前記混繊糸は、インターレース加工が施されていないか、前記混繊糸1mあたり、15回以下の割合でインターレース加工が施されている、請求項1~13のいずれか1項に記載のカバリング糸の製造方法。
【請求項15】
前記第二の連続熱可塑性樹脂繊維は、インターレース加工が施されていないか、前記第二の連続熱可塑性樹脂繊維1mあたり、15回以下の割合でインターレース加工が施されている、請求項1~14のいずれか1項に記載のカバリング糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カバリング糸、カバリング糸の製造方法および成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子・電子機器、その他各種用途に、繊維強化樹脂材料を用いることが検討されている。このような繊維強化樹脂材料の例として、プリプレグが知られている。プリプレグとは、強化繊維に、樹脂を均等に含浸させ、加熱または乾燥して半硬化状態にした成形用材料であり、さらに加工されて成形品となる。
さらに、近年は、連続熱可塑性樹脂繊維と連続強化繊維からなる混繊糸が検討されている(例えば、特許文献1等)。
一方、カバリング糸は、ストッキング等の原材料として広く用いられている。例えば、特許文献2等には、ポリウレタン糸にナイロン糸を巻き付けたカバリング糸などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-173196号公報
【文献】特開2019-151942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1等に記載の混繊糸は、連続熱可塑性樹脂繊維が連続強化繊維に殆ど含浸していないため、しなやかであり、かつ、混繊糸中に連続強化繊維が分散しているため、加熱加工した後の含浸性にも優れるため、強度に優れた成形品が得られるという利点がある。
しかしながら、近年、混繊糸の需要拡大に伴い、さらなる付加価値を有する混繊糸材料の提供が求められている。特に、加工時の混繊糸の毛羽立ちが抑制された、新たな材料の提供が求められる。また、加工時の生産性も求められる。
本発明は、かかる課題を解決することを目的としたものであって、加工時の毛羽立ちが抑制され、かつ、加工時の生産性に優れた新規な材料を提供することを目的とする。具体的には、加工時の毛羽立ちが抑制され、かつ、加工時の生産性に優れたカバリング糸、カバリング糸の製造方法および成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を来なった結果、所定の条件を満たすように、混繊糸に連続熱可塑性樹脂繊維を巻き付けてカバリング糸とすることにより、上記課題を解決しうることを見出した。具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>連続強化繊維と、第一の連続熱可塑性樹脂繊維を含む混繊糸と、前記混繊糸の長手方向にらせん状に巻き付いている第二の連続熱可塑性樹脂繊維とを有し、前記第二の連続熱可塑性樹脂繊維は、前記混繊糸に0.5~10mmのピッチ、かつ、20~80°の角度でらせん状に巻き付いている、カバリング糸。
<2>前記カバリング糸中の混繊糸の密度が0.5~1.2g/cm3である、<1>に記載のカバリング糸。
<3>前記カバリング糸を混繊糸の長手方向に10cm超の長さに切り出し、前記切り出したカバリング糸のうち、末端から10cmより余の部分をクランプで固定し、かつ、前記切り出したカバリング糸のうち、前記クランプで固定していない側の末端を、前記クランプ上面に対し、垂直となるよう仮固定した後、前記仮固定を開放したとき、クランプ上面に垂直な方向と、切り出したカバリング糸の固定していない側の末端と前記末端から0.1cmの位置を通る線とのなす角αが0~90°である、<1>または<2>に記載のカバリング糸。
<4>前記なす角αが、0~60°である、<3>に記載のカバリング糸。
<5>前記第二の連続熱可塑性樹脂繊維は、前記混繊糸に1.0~7.0mmのピッチでらせん状に巻き付いている、<1>~<4>のいずれか1つに記載のカバリング糸。
<6>前記第二の連続熱可塑性樹脂繊維は、前記混繊糸に30~70°の角度でらせん状に巻き付いている、<1>~<5>のいずれか1つに記載のカバリング糸。
<7>前記第二の連続熱可塑性樹脂は、前記混繊糸に対し、S方向およびZ方向に、それぞれ、巻き付けられている、<1>~<6>のいずれか1つに記載のカバリング糸。
<8>前記第一の連続熱可塑性樹脂繊維および前記第二の連続熱可塑性樹脂繊維が、それぞれ、ポリアミド樹脂を含む、<1>~<7>のいずれか1つに記載のカバリング糸。
<9>前記ポリアミド樹脂が、ジアミンに由来する構成単位およびジカルボン酸に由来する構成単位から構成され、ジアミンに由来する構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来するポリアミド樹脂を含む、<8>に記載のカバリング糸。
<10>前記連続強化繊維が、炭素繊維およびガラス繊維から選択される少なくとも1種を含む、<1>~<9>のいずれか1つに記載のカバリング糸。
<11>前記混繊糸中の前記連続強化繊維の割合が、35~65体積%であり、前記カバリング糸中の前記連続強化繊維の割合が、30~60体積%である、<1>~<10>のいずれか1つに記載のカバリング糸。
<12>前記混繊糸における連続強化繊維の分散度が、60%以上である、<1>~<11>のいずれか1つに記載のカバリング糸。
<13>前記混繊糸における前記第一の連続熱可塑性樹脂繊維の含浸率が、10%以下である、<1>~<12>のいずれか1つに記載のカバリング糸。
<14>前記混繊糸は、インターレース加工が施されていないか、前記混繊糸1mあたり、15回以下の割合でインターレース加工が施されている、<1>~<13>のいずれか1つに記載のカバリング糸。
<15>前記第二の連続熱可塑性樹脂繊維は、インターレース加工が施されていないか、前記第二の連続熱可塑性樹脂繊維1mあたり、15回以下の割合でインターレース加工が施されている、<1>~<14>のいずれか1つに記載のカバリング糸。
<16><1>~<15>のいずれか1つに記載のカバリング糸の製造方法であって、連続強化繊維と第一の連続熱可塑性樹脂繊維を含む混繊糸に対し、前記混繊糸の長手方向に第二の連続熱可塑性樹脂繊維をらせん状に巻き付けることを含み、前記カバリング糸の数平均径と前記混繊糸の数平均径の比である、カバリング糸の数平均径/混繊糸の数平均径が、0.1~0.7である、カバリング糸の製造方法。
<17><1>~<15>のいずれか1つに記載のカバリング糸を加熱加工することを含む、成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、加工時の毛羽立ちが抑制され、かつ、加工時の生産性に優れたカバリング糸を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明のカバリング糸におけるカバリング用の樹脂繊維がらせん状に巻き付いた状態を示す模式図である。
【
図2】混繊糸の断面図を顕微鏡観察した画像である。
【
図3】本発明におけるカバリング糸の模式図の一例である。
【
図4】本発明におけるカバリング糸の傾き(なす角α)を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
【0009】
本発明のカバリング糸は、連続強化繊維と、第一の連続熱可塑性樹脂繊維を含む混繊糸と、混繊糸の長手方向にらせん状に巻き付いている第二の連続熱可塑性樹脂繊維とを有し、第二の連続熱可塑性樹脂繊維は、混繊糸に0.5~10mmのピッチ、かつ、20~80°の角度でらせん状に巻き付いていることを特徴とする。
このような構成とすることにより、加工時の毛羽立ちが抑制され、かつ、加工時の生産性に優れたカバリング糸が得られる。さらに得られる成形品の機械的強度が高いものが得られる。
【0010】
本発明では、混繊糸に第二の連続熱可塑性樹脂繊維(以下、「カバリング用の樹脂繊維」ということがある)が、らせん状に巻き付いている。
図1は、本発明のカバリング糸におけるカバリング用の樹脂繊維がらせん状に巻き付いた状態を示す模式図であって、10はカバリング糸を、11は混繊糸を、12は、第二の連続熱可塑性樹脂繊維(カバリング用の樹脂繊維)を示している。
カバリング糸は、通常、芯糸と鞘糸を有し、芯糸に鞘糸が一方向または二方向に巻き付けられた糸状材料を意味するが、本発明では、芯糸が混繊糸であり、鞘糸がカバリング用の樹脂繊維である。また、本発明のカバリング糸は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、芯糸に混繊糸以外の糸や成分を含んでいてもよいし、鞘糸にカバリング用の樹脂繊維以外の糸や成分を含んでいてもよい。好ましくは、芯糸の95質量%以上(より好ましくは99質量%以上)が混繊糸であり、鞘糸の95質量%以上(より好ましくは99質量%以上)がカバリング用の樹脂繊維である。また、カバリング糸の95質量%以上(より好ましくは99質量%以上)が芯糸と鞘糸から構成されることが好ましい。
【0011】
本発明のカバリング糸において、第二の連続熱可塑性樹脂繊維は、混繊糸に0.5~10mmのピッチで混繊糸にらせん状に巻き付いている。ここでのピッチとは、カバリング用の樹脂繊維が混繊糸の周囲を一回転する間の混繊糸の長手方向(
図1のX方向)の距離Yを意味する。ピッチは、1.0mm以上であることが好ましく、1.0mm超であることがより好ましく、1.1mm以上であることがさらに好ましく、1.2mm以上であることが一層好ましく、1.5mm以上であることがより一層好ましい。1.0mm以上とすることにより、カバリング糸の供給時のライン安定性がより向上する傾向にある。また、ピッチは、8.0mm以下であることが好ましく、7.0mm以下であることがより好ましく、6.0mm以下であることがさらに好ましく、5.0mm以下であることが一層好ましく、4.0mm以下であることがより一層好ましく、3.6mm以下であることがさらに一層好ましい。
また、本発明のカバリング糸において、第二の連続熱可塑性樹脂繊維は、混繊糸に20~80°の角度(らせん角度θ)でらせん状に巻き付いている。ここでの角度とは、カバリング用の樹脂繊維の、混繊糸の長手方向(
図1のX-X方向)に対するらせん角度θを意味する。前記らせん角度θは、25°以上であることが好ましく、30°以上であることがより好ましく、31°以上であることがさらに好ましく、40°以上、42°以上であってもよい。また、前記らせん角度θは、75°以下であることが好ましく、70°以下であることがより好ましく、64°以下であってもよい。
前記ピッチおよびらせん角度θは、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0012】
本発明では、第二の連続熱可塑性樹脂繊維は、混繊糸に、テープ状の束の状態で(例えば、単糸が平行に並んでいる帯状領域を形成して)巻き付いていることが好ましい。テープ状の第二の連続熱可塑性樹脂繊維の幅は、0.2mm以上であることが好ましく、0.5mm以上であることがより好ましく、1.0mm以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、耐摩擦性により優れる傾向にある。また、テープ状の第二の連続熱可塑性樹脂繊維の幅は、5mm以上であることが好ましく、4mm以下であることがより好ましく、3mm以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、操作性により優れる傾向にある。
第二の連続熱可塑性樹脂繊維がテープ状である場合、隣接するテープとテープの間(
図1のY
1)の距離は、0.2mm以上であることが好ましく、0.4mm以上であることがより好ましく、0.6mm以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、より操作性に優れる傾向にある。また、前記隣接するテープとテープの間の距離は、20mm以下であることが好ましく、15mm以下であることがより好ましく、10mm以下であることがさらに好ましく、5mm以下、3mm以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、耐摩擦性により優れる傾向にある。
【0013】
本発明のカバリング糸は、また、カバリング糸を混繊糸の長手方向に10cm超の長さに切り出し、前記切り出したカバリング糸のうち、末端から10cm余の部分をクランプ固定し、かつ、前記切り出したカバリング糸のうち、前記クランプで固定していない側の末端を、前記クランプ上面に対し、垂直となるよう仮固定した後、前記仮固定を開放したとき、クランプ上面に垂直な方向と、切り出したカバリング糸の固定していない側の末端と前記末端から0.1cmの位置を通る線とのなす角αが0~90°であることが好ましい。このような構成とすることにより、加工時の操作性がより向上する傾向にある。前記なす角αは、60°以下であることが好ましく、30°以下であることがより好ましく、20°以下であることがさらに好ましく、15°以下であることが一層好ましい。
前記なす角αは、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0014】
前記なす角αを達成する手段としては、カバリング用の樹脂繊維のピッチの調整、カバリング用の樹脂繊維と混繊糸のらせん角度の調整、カバリング糸の数平均径/原料混繊糸の数平均径の値の調整、カバリング糸の密度、混繊糸のインターレースの数の調整、S方向とZ方向の両方にカバリングすること、熱可塑性樹脂繊維にポリアミド樹脂、特に、後述するXD系ポリアミドを採用することのいずれかによって、または、これらの2つ以上の組み合わせ等によって達成される。
【0015】
本発明のカバリング糸の数平均径は、3.5mm以下であることが好ましく、3.0mm以下であることがより好ましく、2.5mm以下であることがさらに好ましく、2.0mm以下であることが一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、カバリング糸の加工性がより向上する傾向にある。前記カバリング糸の数平均径の下限値は、0.8mm以上であることが好ましく、1.0mm以上であることがより好ましく、1.1mm以上であることがさらに好ましく、1.3mm以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、成形品強度が向上する傾向にある。
カバリング糸の数平均径は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0016】
本発明のカバリング糸の密度は、1.2g/cm3以下であることが好ましく、1.1g/cm3以下であることがより好ましく、1.0g/cm3以下であることがさらに好ましく、0.9g/cm3以下であることが一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、耐摩耗性がより向上する傾向にある。前記カバリング糸の密度の下限値は、0.5g/cm3以上であることが好ましく、0.6g/cm3以上であることがさらに好ましく、0.7g/cm3以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、毛羽立ちをより効果的に抑制することができる。
カバリング糸の密度は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0017】
また、本発明のカバリング糸の中の混繊糸由来の領域の密度は、1.3g/cm3以下であることが好ましく、1.2g/cm3以下であることがより好ましく、1.1g/cm3以下であることがさらに好ましく、1.0g/cm3以下であることが一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、カバリング糸供給時のラインがより安定する傾向にある。前記カバリング糸中の混繊糸由来の領域の密度の下限値は、0.4g/cm3以上であることが好ましく、0.5g/cm3以上であることがより好ましく、0.6g/cm3以上であることがさらに好ましく、0.7g/cm3以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、成形品強度により優れる傾向にある。
カバリング糸中の混繊糸の密度は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0018】
本発明のカバリング糸は、芯糸として、混繊糸を用いているが、かかる混繊糸は、第一の連続熱可塑性樹脂繊維が連続強化繊維に殆ど含浸せず、繊維の状態を保っているため、しなやかである。一方、連続強化繊維が混繊糸中に分散しているため、加熱により、第一の連続熱可塑性樹脂繊維を容易に含浸させることができる。
本発明では、カバリング糸中の混繊糸は、連続強化繊維の分散度が、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましく、90%以上であってもよい。また、上限値は100%が好ましい。
分散度は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
本発明では、カバリング糸中の混繊糸は、第一の連続熱可塑性樹脂繊維の含浸率が、10%以下であることが好ましく、6%以下であることがより好ましい。また、下限値は、0%であってもよいが、1%以上であってもよい。
含浸率は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0019】
本発明のカバリング糸においては、カバリング糸中の前記連続強化繊維の割合が、30体積%以上であることが好ましく、40体積%以上であることがより好ましく、43体積%以上であることがさらに好ましく、45体積%以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、成形品強度により優れる傾向にある。カバリング糸中の前記連続強化繊維の割合が、60体積%以下であることが好ましく、55体積%以下であることがより好ましく、50体積%以下であることがさらに好ましく、48体積%以下であることが一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、カバリング糸のプレス成形性により優れる傾向にある。
【0020】
本発明のカバリング糸において、第二の連続熱可塑性樹脂繊維(カバリング用の樹脂繊維)は、混繊糸に一方向のみに巻き付けられていてもよいし、二方向に巻き付けられていてもよい。より具体的には、第二の連続熱可塑性樹脂(カバリング用の樹脂繊維)は、前記混繊糸に対し、例えば、
図3に示すように、S方向およびZ方向に、それぞれ、巻き付けられていることが好ましい。ここで、S方向とは右巻きを意味し、Z方向とは左巻きを意味する。S方向およびZ方向に巻き付けるカバリング用の樹脂繊維は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。好ましくは同一である。
【0021】
また、カバリング糸は、通常、カバリング機を用いて製造される。すなわち、チーズまたはパーンから原料の混繊糸を送り出し、中空スピンドルの真中に混繊糸を通し、前記中空スピンドルに設置されたカバリング用の樹脂繊維が巻かれたボビンを回転させることによって、混繊糸の周囲にカバリング用の樹脂繊維を巻きつけ、カバリング糸を製造することができる。カバリング用の樹脂繊維が2種以上あるときは、内側のカバリング用の樹脂繊維が巻かれたボビンと、外側のカバリング用の樹脂繊維が巻かれたボビンを用意し、内側用のボビンを外側用のボビンよりも上流側の中空スピンドルに設置して、各カバリング用の樹脂繊維を混繊糸の周囲に巻きつけるとよい。
このとき、本発明のカバリング糸においては、カバリング糸の数平均径/原料混繊糸(カバリング用の樹脂繊維を巻き付ける前の混繊糸)の数平均径が、0.1~0.7となるように、カバリング用の樹脂繊維を巻き付けることが好ましい。前記カバリング糸の数平均径/原料混繊糸の数平均径は、0.2以上であることが好ましく、また、0.6以下であることが好ましく、0.55以下であることがより好ましい。上記下限値以上とすることにより、成形品強度がより高くなる傾向にある。上記上限値以下とすることにより、カバリング糸供給時のラインの安定性がより向上する傾向にある。
【0022】
<混繊糸>
本発明で用いる混繊糸は、連続強化繊維と、第一の連続熱可塑性樹脂繊維を含み、通常は、混繊糸の90質量%以上(好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上)が連続強化繊維と第一の連続熱可塑性樹脂繊維とからなる。
【0023】
原料混繊糸の数平均径は、15mm以下であることが好ましく、10mm以下であることがより好ましく、8mm以下であることがさらに好ましく、6mm以下であることが一層好ましく、4mm以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、カバリング糸の生産性により優れる傾向にある。前記混繊糸の数平均径の下限値は、1mm以上であることが好ましく、2mm以上であることがより好ましく、2.7mm以上であることがさらに好ましく、3.5mm以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られるカバリング糸供給時のラインの安定性により優れる傾向にある。
混繊糸の数平均径は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0024】
本発明で用いる混繊糸は、インターレース加工が施されていてもよい。インターレース加工を行う場合、混繊糸1mあたり、1~30回であることが好ましい。
また、本発明では、混繊糸は、インターレース加工が施されていないか、カバリング用の樹脂繊維1mあたり、15回以下(好ましくは10回以下、さらには5回以下であってもよく、特には1回以下であってもよい)の割合でインターレース加工が施されていることが好ましい。このような構成とすることにより、成形品強度がより優れる傾向にある。
【0025】
次に、本発明で用いる混繊糸に含まれる連続強化繊維について説明する。
連続繊維とは、50mmを超える繊維をいい、1mを超えるものが実際的である。本発明における連続強化繊維の断面は、円形であってもよいし、扁平であってもよい。本発明で使用する連続強化繊維の平均繊維長に特に制限はないが、成形加工性を良好にする観点から、1~100,000mの範囲であることが好ましく、より好ましくは100~10,000m、さらに好ましくは1,000~5,000mである。
【0026】
本発明で用いる連続強化繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、セラミック繊維、金属繊維(スチール繊維等)等の無機繊維、および、植物繊維(ケナフ(Kenaf)、竹繊維等を含む)、アラミド繊維、ポリオキシメチレン繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等の有機繊維などが挙げられる。なかでも、炭素繊維、アラミド繊維およびガラス繊維の少なくとも1種を含むことが好ましく、炭素繊維およびガラス繊維から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、炭素繊維を含むことがさらに好ましい。
【0027】
本発明の好ましい実施形態で用いる連続強化繊維は、処理剤で処理されたものを用いることが好ましい。このような処理剤としては、集束剤や表面処理剤が例示され、特許第4894982号公報の段落番号0093および0094に記載のものが好ましく採用され、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0028】
表面処理剤としては、例えば、エポキシ系化合物、アクリル系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物からなるものが挙げられ、例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等であり、シラン系カップリング剤が好ましい。
【0029】
また、収束剤としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シラン系化合物、イソシアネート系化合物、チタネート系化合物、ポリアミド樹脂の少なくとも1種であることが好ましく、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シラン系カップリング剤、水不溶性ポリアミド樹脂および水溶性ポリアミド樹脂の少なくとも1種であることがより好ましく、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、水不溶性ポリアミド樹脂および水溶性ポリアミド樹脂の少なくとも1種であることがさらに好ましく、水溶性ポリアミド樹脂であることが一層好ましい。
【0030】
前記処理剤の量は、連続強化繊維の0.001~1.5質量%であることが好ましく、0.1~1.2質量%であることがより好ましく、0.3~1.1質量%であることがさらに好ましい。
【0031】
連続強化繊維の処理剤による処理方法は、公知の方法を採用できる。例えば、連続強化繊維を、処理剤を溶液に溶解させたものに浸漬し、連続強化繊維の表面に処理剤を付着させることが挙げられる。また、処理剤を連続強化繊維の表面にエアブローすることもできる。さらに、既に、表面処理剤や処理剤で処理されている連続強化繊維を用いてもよいし、市販品の表面処理剤や処理剤を洗い落してから、再度、所望の処理剤量となるように、表面処理しなおしてもよい。
【0032】
混繊糸中の連続強化繊維の割合が、35体積%以上であることが好ましく、39体積%以上であることがより好ましく、44体積%以上であることがさらに好ましく、48体積%以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる成形品の機械的強度がより向上する傾向にある。混繊糸中の前記連続強化繊維の割合が、65体積%以下であることが好ましく、60体積%以下であることがより好ましく、55体積%以下であることがさらに好ましく、58体積%以下であることが一層好ましく、53体積%以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、得られるカバリング糸のプレス成形性により優れる傾向にある。
連続強化繊維は1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0033】
次に、混繊糸に含まれる第一の連続熱可塑性樹脂繊維について説明する。
本発明で用いる第一の連続熱可塑性樹脂繊維は、熱可塑性樹脂を含む連続繊維であり、熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物(該熱可塑性樹脂組成物は熱可塑性樹脂のみからなっていてもよい)から構成される連続繊維である。ここで、連続繊維とは、50mmを超える繊維をいい、1mを超えるものが実際的である。本発明で使用する第一の連続熱可塑性樹脂繊維の平均繊維長に特に制限はないが、成形加工性を良好にする観点から、1~100,000mの範囲であることが好ましく、より好ましくは100~10,000m、さらに好ましくは1,000~5,000mである。
本発明における第一の連続熱可塑性樹脂繊維の断面は、円形であってもよいし、扁平であってもよい。
【0034】
本発明で用いる第一の連続熱可塑性樹脂繊維は、通常、連続熱可塑性樹脂繊維が束状になった連続熱可塑性樹脂繊維束を用いて製造するが、かかる連続熱可塑性樹脂繊維束1本当たりの合計繊度が、40~600dtexであることが好ましく、50~500dtexであることがより好ましく、100~400dtexであることがさらに好ましい。連続熱可塑性樹脂繊維束を構成する繊維数は、1~200fであることが好ましく、5~100fであることがより好ましく、10~80fであることがさらに好ましく、20~50fであることが特に好ましい。
本発明で用いる第一の連続熱可塑性樹脂繊維は熱可塑性樹脂組成物から形成することができる。熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂の1種または2種以上のみからなってもよく、その他の成分を含んでいてもよい。
【0035】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂類、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂類、ポリカーボネート樹脂、ポリオキシメチレン樹脂(ポリアセタール樹脂)、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン等のポリエーテルケトン樹脂類、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルサルファイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、熱可塑性ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリアミドイミド、全芳香族ポリイミド、半芳香族ポリイミド等の熱可塑性ポリイミド樹脂類等を用いることができ、ポリアミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、およびポリフェニレンサルファイド樹脂の少なくとも1種であることが好ましく、少なくともポリアミド樹脂を含むことがより好ましい。
【0036】
本発明で用いるポリアミド樹脂としては、ポリアミド4、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリヘキサメチレンテレフタラミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタラミド(ポリアミド6I)、ポリアミド66/6T、ポリキシリレンアジパミド、ポリキシリレンセバカミド、ポリキシリレンドデカミド、ポリアミド9T、ポリアミド9MT、ポリアミド6I/6T等が挙げられる。
【0037】
上述のようなポリアミド樹脂の中でも、成形性、耐熱性の観点から、ジアミンに由来する構成単位およびジカルボン酸に由来する構成単位から構成され、ジアミンに由来する構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来するポリアミド樹脂(以下、「XD系ポリアミド」ということがある)であることが好ましい。
【0038】
また、ポリアミド樹脂が混合物である場合は、ポリアミド樹脂中のXD系ポリアミドの比率が50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、さらには90質量%以上、特には95質量%以上であってもよい。
【0039】
XD系ポリアミドは、ジアミン由来の構成単位の、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、一層好ましくは95モル%以上が、キシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上が、炭素原子数が好ましくは4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する。
上記キシリレンジアミンは、少なくともメタキシリレンジアミンを含むことが好ましく、30~100モル%のメタキシリレンジアミンと、70~0モル%のパラキシリレンジアミンからなることがより好ましく、50~100モル%のメタキシリレンジアミンと、50~0モル%のパラキシリレンジアミンからなることがさらに好ましい。
【0040】
XD系ポリアミドの原料ジアミン成分として用いることができるメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミン以外のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4-アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
ジアミン成分として、キシリレンジアミン以外のジアミンを用いる場合は、ジアミン由来の構成単位の50モル%未満であり、30モル%以下であることが好ましく、より好ましくは1~25モル%、特に好ましくは5~20モル%の割合で用いる。
【0041】
ポリアミド樹脂の原料ジカルボン酸成分として用いるのに好ましい炭素原子数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、例えばコハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示でき、1種または2種以上を混合して使用できるが、これらの中でもポリアミド樹脂の融点が成形加工するのに適切な範囲となることから、アジピン酸および/またはセバシン酸が好ましく、セバシン酸がより好ましい。
【0042】
上記炭素原子数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0043】
ジカルボン酸成分として、炭素原子数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸を用いる場合は、成形加工性の観点から、テレフタル酸、イソフタル酸を用いることが挙げられる。これらを用いる場合、テレフタル酸、イソフタル酸の割合は、好ましくはジカルボン酸由来の構成単位の30モル%以下であり、より好ましくは1~30モル%、特に好ましくは5~20モル%の範囲である。
【0044】
本明細書において、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位とから構成されるとは、これらの成分を主成分とするが、これら以外の構成単位を完全に排除するものではなく、ε-カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類由来の構成単位を含んでいてもよい。本発明では、ポリアミド樹脂における、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計は、全構成単位の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましい。
【0045】
本発明で用いるポリアミド樹脂の第一の実施形態は、ジアミン由来の構成単位の80モル%以上がメタキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の80モル%以上がアジピン酸に由来する態様である。
本発明で用いるポリアミド樹脂の第二の実施形態は、ジアミン由来の構成単位の10~90モル%がメタキシリレンジアミンに由来し、90~10モル%がパラキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の80モル%以上がセバシン酸に由来する態様である。
【0046】
本発明で用いるポリアミド樹脂は、数平均分子量(Mn)が6,000~30,000であることが好ましく、より好ましくは8,000~28,000であり、さらに好ましくは9,000~26,000であり、一層好ましくは10,000~24,000であり、より一層好ましくは11,000~22,000である。このような範囲であると、得られる成形品の耐熱性、弾性率、寸法安定性、成形加工性がより良好となる。
【0047】
なお、ここでいう数平均分子量(Mn)とは、ポリアミド樹脂の末端アミノ基濃度[NH2](μ当量/g)と末端カルボキシル基濃度[COOH](μ当量/g)から、次式で算出される。
数平均分子量(Mn)=2,000,000/([COOH]+[NH2])
【0048】
ポリアミド樹脂の製造方法は、特開2014-173196号公報の段落0052~0053の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0049】
本発明では、連続熱可塑性樹脂が、融点が240℃以下の熱可塑性樹脂(好ましくは、ポリアミド樹脂)を含むことが好ましく、融点が219℃以下の熱可塑性樹脂を含むことがより好ましく、融点が215℃以下の熱可塑性樹脂を含むことがさらに好ましい。上記下限値以下とすることにより、成形時の水分による影響を低減することができる。前記熱可塑性樹脂の融点の下限値は、例えば、140℃以上、さらには170℃以上であり、190℃以上が好ましい。このような範囲とすることにより、耐熱性により優れる傾向にある。
融点は後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0050】
さらに、本発明の目的・効果を損なわない範囲で、本発明で用いる第一の連続熱可塑性樹脂繊維またはその原料となる熱可塑性樹脂組成物には、各種の含有成分を含めてもよい。例えば、エラストマー、連続強化繊維以外のフィラー、酸化防止剤、熱安定剤等の安定剤、耐加水分解性改良剤、耐候安定剤、艶消剤、紫外線吸収剤、核剤、可塑剤、分散剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、着色剤、離型剤、滑剤等の添加剤等を加えることができる。これらの詳細は、特許第4894982号公報の段落番号0130~0155の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
また、連続強化繊維の表面処理剤が有する官能基(例えば、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基及びイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基)を有する溶融成形可能なフッ素樹脂を含んでいてもよい。前記フッ素樹脂の詳細は、特開2019-099955号公報の段落0023~0053の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0051】
本発明では、第一の連続熱可塑性樹脂繊維の80質量%以上(好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上)が、熱可塑性樹脂(好ましくは、ポリアミド樹脂)である形態が例示される。
【0052】
本発明における第一の連続熱可塑性樹脂繊維は、連続熱可塑性樹脂繊維の処理剤を表面に有する連続熱可塑性樹脂繊維であることが好ましい。これらの詳細は、国際公開第2016/159340号の段落0064~0065の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
第一の連続熱可塑性樹脂繊維が表面処理剤を有することにより、カバリング糸の製造工程やその後の加工工程で、第一の連続熱可塑性樹脂繊維の切れを抑制することができる。
第一の連続熱可塑性樹脂繊維の表面処理剤の量は、例えば、熱可塑性樹脂繊維の0.1~2.0質量%である。下限値は、0.5質量%以上が好ましく、0.8質量%以上がより好ましい。上限値としては、1.8質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましい。このような範囲とすることにより、第一の連続熱可塑性樹脂繊維の分散がより良好となる。また、カバリング糸を製造する際には第一の連続熱可塑性樹脂繊維には機械との摩擦力や繊維同士の摩擦力が生じ、その際に第一の連続熱可塑性樹脂繊維が切れることがあるが、上記の範囲とすることによって繊維の切断をより効果的に防ぐことができる。また、均質なカバリング糸を得るために機械的な応力を第一の連続熱可塑性樹脂繊維に加えるが、その際の応力により第一の連続熱可塑性樹脂繊維が切断することをより効果的に防ぐことができる。
表面処理剤は、第一の連続熱可塑性樹脂繊維や連続強化繊維を収束する機能を有するものであれば、その種類は特に定めるものではない。処理剤としては、エステル系化合物、アルキレングリコール系化合物、ポリオレフィン系化合物、フェニルエーテル系化合物、ポリエーテル系化合物、シリコーン系化合物、ポリエチレングリコール系化合物、アミド系化合物、スルホネート系化合物、ホスフェート系化合物、カルボキシレート系化合物およびこれらを2種以上組み合わせたものが好ましく、エステル系化合物がより好ましい。
【0053】
第一の連続熱可塑性樹脂繊維は、また、JIS L 1096に従って測定した水分率が5%以下であることが好ましく、4.5%以下であることがより好ましく、4%以下であることがさらに好ましく、3%以下であることが一層好ましく、2%以下であることがより一層好ましい。下限値は0%であってもよいが、0.001%以上が実際的である。
【0054】
第一の連続熱可塑性樹脂繊維の表面処理剤による処理方法は、所期の目的を達成できる限り特に定めるものではない。例えば、第一の連続熱可塑性樹脂繊維に、表面処理剤を溶液に溶解させたものを付加し、第一の連続熱可塑性樹脂繊維の表面に処理剤を付着させることが挙げられる。あるいは処理剤を第一の連続熱可塑性樹脂繊維の表面に対してエアブローすることによってもできる。
【0055】
本発明では、混繊糸中の第一の連続熱可塑性樹脂繊維の割合が、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることがさらに好ましく、30質量%以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、耐摩擦性により優れる傾向にある。混繊糸中の第一の連続熱可塑性樹脂繊維の割合が、80質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましく、65質量%以下であることが一層好ましく、60質量%以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、得らえる成形品の機械的強度がより向上する傾向にある。
第一の連続熱可塑性樹脂繊維は1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0056】
本発明のカバリング糸全体の質量に対する、混繊糸の質量割合は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。上限値としては、例えば、99.5質量%以下であり、99質量%以下が好ましい。
混繊糸は1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0057】
<第二の連続熱可塑性樹脂繊維(カバリング用の樹脂繊維)>
次に、本発明で用いる第二の連続熱可塑性樹脂繊維(カバリング用の樹脂繊維)について説明する。
本発明で用いるカバリング用の樹脂繊維は、混繊糸をカバリングすることができる樹脂繊維である限り特に定めるものではない。
本発明におけるカバリング用の樹脂繊維は、その構成材料、形状、長さ、物性等について、上述した混繊糸に用いる第一の連続熱可塑性樹脂繊維と同義であり、好ましい範囲も同様である。
本発明では、第一の連続熱可塑性樹脂繊維を構成する樹脂成分と、カバリング用の樹脂繊維を構成する樹脂成分の90質量%以上(好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上)が共通することが好ましい。このような構成とすることにより、成形性がより向上する傾向にある。
本発明では、第一の連続熱可塑性樹脂繊維および第二の連続熱可塑性樹脂繊維が、それぞれ、ポリアミド樹脂を含むことが好ましく、ジアミンに由来する構成単位およびジカルボン酸に由来する構成単位から構成され、ジアミンに由来する構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来するポリアミド樹脂(XD系ポリアミド)を含むことがより好ましい。XD系ポリアミドを用いることにより、得られる成形品の強度をより向上させることができる。
【0058】
カバリング用の樹脂繊維は、インターレース加工が施されていてもよい。インターレース加工を施すことにより、カバリング用の樹脂繊維自身が耐摩擦性に優れたものとなる。インターレース加工とは、例えば、繊維長方向に対して、概ね垂直に横からエア圧をかけることで、フィラメント同士を交絡させる加工方法をいう。
インターレース加工を行う場合、カバリング用の樹脂繊維1mあたり、1~30回であることが好ましい。
また、本発明では、カバリング用の樹脂繊維(第二の連続熱可塑性樹脂繊維)は、インターレース加工が施されていないか、カバリング用の樹脂繊維1mあたり、15回以下(好ましくは10回以下、より好ましくは5回以下、さらに好ましくは1回以下)の割合でインターレース加工が施されていることが好ましい。このような構成とすることにより、適度に混繊糸を被覆することができ、全体的に耐摩耗性に優れた混繊糸となる傾向にある。
【0059】
本発明のカバリング糸全体の質量に対する、カバリング用の樹脂繊維の質量割合は、2質量%以上であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
カバリング用の樹脂繊維は1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0060】
<カバリング糸の用途>
本発明の好ましい実施形態に係るカバリング糸は、その状態のまま、芯材(ロール)に巻き取って巻取体とすることができる。
カバリング糸は、各種成形材料として用いることができ、織物、組物、編物等へ加工することもできる。
本発明のカバリング糸は、加熱加工することによって、成形品を製造方法することができる。本発明のカバリング糸は、熱プレス、引抜成形、超音波成形、レーザー成形、3Dプリンタによる造形、金型成形、内圧成形等によって成形できる。特に、本発明のカバリング糸は、しなやかであることから、凹部や凸部を有する成形品の製造に適している。
本発明のカバリング糸は、例えば、パソコン、OA機器、AV機器、携帯電話などの電気・電子機器、光学機器、精密機器、玩具、家庭・事務電気製品などの部品やハウジング、さらには自動車、航空機、船舶などの部品に好適に利用することができる。
【実施例】
【0061】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0062】
<熱可塑性樹脂>
MPXD10:下記合成例により合成したキシリレンセバカミド樹脂、融点213℃、数平均分子量15400
MXD6:メタキシリレンアジパミド樹脂(三菱ガス化学(株)製、グレードS6001)、融点237℃、数平均分子量16800
PA6:ポリアミド樹脂6、宇部興産社製、1022B、融点220℃
PP:ポリプロピレン樹脂、三菱ケミカル社製、グレードFY6、融点163℃
【0063】
<<MPXD10の合成例>>
撹拌機、分縮器、全縮器、温度計、滴下ロートおよび窒素導入管、ストランドダイを備えた反応容器に、セバシン酸(伊藤製油(株)製TAグレード)10kg(49.4mol)および酢酸ナトリウム/次亜リン酸ナトリウム・一水和物(モル比=1/1.5)11.66gを仕込み、十分に窒素置換した後、さらに少量の窒素気流下で系内を撹搾しながら170℃まで加熱溶融した。
メタキシリレンジアミン(三菱ガス化学(株)製)とパラキシリレンジアミン(三菱ガス化学(株)製)のモル比が70/30である混合キシリレンジアミン6.647kg(メタキシリレンジアミン34.16mol、パラキシリレンジアミン14.64mol)を溶融したセバシン酸に撹拌下で滴下し、生成する縮合水を系外に排出しながら、内温を連続的に2.5時間かけて240℃まで昇温した。
滴下終了後、内温を上昇させ、250℃に達した時点で反応容器内を減圧にし、さらに内温を上昇させて255℃で20分間、溶融重縮合反応を継続した。その後、系内を窒素で加圧し、得られた重合物をストランドダイから取り出して、これをペレット化することにより、ポリアミド樹脂MPXD10を得た。
得られたポリアミド樹脂MPXD10の融点は、213℃、数平均分子量は、15400であった。
【0064】
<連続強化繊維>
<<連続炭素繊維(CF)>>
三菱レイヨン社製、Pyrofil-TR-50S-12000-AD、8000dtex、繊維数12000f。エポキシ樹脂で表面処理されている。
<<連続ガラス繊維(GF)>>
日東紡績社製、ECG 75 1/0 0.7Z、繊度687dtex、繊維数400f、集束剤で表面処理されている。
【0065】
実施例1~17および比較例1、2
<連続熱可塑性樹脂繊維の製造>
表1に示す混繊糸中の連続熱可塑性樹脂繊維の種類、または、カバリング用の樹脂繊維の種類に相当する熱可塑性樹脂を、それぞれ、直径30mmのスクリューを有する単軸押出機にて溶融押出しし、60穴のダイからストランド状に押出し、ロールにて巻き取りながら延伸し、連続熱可塑性樹脂の繊維束を巻取体に800m巻き取った。溶融温度は、連続熱可塑性樹脂の融点+15℃とした。
尚、実施例11で用いるカバリング用の樹脂繊維については、1mあたり、10回のインターレース加工を施した。
【0066】
<連続熱可塑性樹脂繊維の表面処理>
油剤(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(花王製、エマノーン 1112))を深型のバットに満たし、表面をゴム処理したローラーをローラーの下部分が油剤に接するように設置してローラーを回転させることで、常に油剤がローラー表面に付着している状態にした。上記連続熱可塑性樹脂繊維をこのローラーに接触させることで連続熱可塑性樹脂繊維の表面に油剤を塗布した。
【0067】
<熱可塑性樹脂の融点の測定方法>
熱可塑性樹脂の融点の測定には、示差走査熱量計(DSC)を用い、試料量は約1mgとし、雰囲気ガスとしては窒素を30mL/分で流し、昇温速度は10℃/分の条件で室温から予想される融点以上の温度まで加熱し溶融させた際に観測される吸熱ピークのピークトップの温度から融点を求めた。
示差走査熱量計(DSC)は、島津製作所(SHIMADZU CORPORATION)製、DSC-60を用いた。
【0068】
<連続熱可塑性樹脂繊維の水分率の測定方法>
表面処理された連続熱可塑性樹脂繊維を、JIS L 1096に従って測定し、水分率を測定した。
【0069】
<混繊糸の製造>
混繊糸は、以下の方法に従って製造した。
連続熱可塑性樹脂繊維の巻取体、および、連続炭素繊維の巻取体からそれぞれの繊維を引き出し、複数のガイドを通しながらエアブローにより開繊を行った。開繊しながら、連続熱可塑性樹脂繊維および連続炭素繊維を一束とし、さらに、複数のガイドを通しながらエアブローを与え、均一化を進め、混繊糸を得た。
尚、実施例12および13で用いる混繊糸については、それぞれ、混繊糸1mあたり、10回または20回のインターレース加工を施した。実施例14および16で用いる混繊糸については、それぞれ、得られた混繊糸を分繊したものを用いた。実施例15で用いる混繊糸については、得られた混繊糸を複数本引き揃えたものを用いた。
【0070】
<カバリング糸の製造>
芯糸に原料混繊糸を、カバリング糸に連続熱可塑性樹脂繊維を用い、ダブルカバリングマシン(片岡機械工業製:SCM-D型)を用いて、表に記載のカバリング糸を製造した。
実施例10以外は、S方向およびZ方向、実施例10はS方向のみに巻き付けた。
実施例1~3、5~9、11~14、16、17における混繊糸の割合は、91質量%であり、カバリング用樹脂繊維の割合は9%であった。実施例4における混繊糸の割合は、92質量%であり、カバリング用樹脂繊維の割合は8質量%であった。実施例10における混繊糸の割合は、95質量%であり、カバリング用樹脂繊維の割合は5質量%であった。実施例15における混繊糸の割合は、98質量%であり、カバリング用樹脂繊維の割合は2質量%であった。
【0071】
<カバリング糸におけるピッチおよびらせん角度θの測定方法>
混繊糸に巻き付けて形成されるカバリング用樹脂繊維によるらせんのピッチは、
図1に示す幅Y(単位:mm)を測定し、らせんのらせん角度は
図1に示す角度θ(単位:°)を測定した。2方向に巻き付けた場合は、より内側に巻き付けた方のらせんおよびピッチを測定した。また、カバリング用樹脂繊維はテープ状の束(帯状のカバリング用樹脂繊維領域)9であり、その幅も測定した。さらに、隣接するテープ状の束であるカバリング用樹脂繊維領域の間の距離(
図1に示すY
1)も測定した。
測定は、カバリング糸の任意の10ヶ所について行い、測定された数値のうち、最上限および最下限の値を除いた8点の数値の平均値として算出した。
【0072】
<傾き(なす角α)>
上記で得られたカバリング糸は、23℃、相対湿度50%の条件下に2日間静置した後、以下の方法に従い、なす角αを測定した。
図4に示すように、カバリング糸30を混繊糸の長手方向に10cm超の長さに切り出し、切り出したカバリング糸のうち、末端から10cmより余の部分をクランプ31に固定し、かつ、切り出したカバリング糸のうち、クランプ31で固定していない側の末端を、クランプ上面(水平面)に対し、垂直となるよう仮固定32した後、仮固定を開放したとき、クランプ31の上面に垂直な方向(
図4のp)と、切り出したカバリング糸の固定していない側の末端(
図4のq
1)と前記末端から0.1cmの位置を通る線(
図4のq
2)とのなす角αを測定した。
【0073】
<カバリング糸の数平均径および混繊糸>
上記で得られたカバリング糸は、23℃、相対湿度50%の条件下に2日間静置した後、直線状に1m巻き出し、マイクロメーターで任意の10ヶ所について測定し、測定された数値のうち、最上限および最下限の値を除いた8点の数値の平均値として、数平均値を算出した。
また、カバリング糸中の混繊糸の数平均径および原料混繊糸の数平均径は、超深度カラー3D形状測定顕微鏡を使用して、測定対象を長手方向に垂直な方向から撮影した。混繊糸の数平均径については、得られた写真に対し、任意の10点の長さの平均値とした。また、カバリング糸中の混繊糸の数平均径については、カバリング用樹脂繊維が巻き付けられていない任意の部位10ヶ所について測定し、測定された数値のうち、最上限および最下限の値を除いた8点の数値の平均値を数平均値として算出した。なお、カバリング糸が巻き付いている箇所も、巻き付いていない箇所も、カバリング糸中の混繊糸の径はほぼ同じであった。
超深度カラー3D形状測定顕微鏡は、VK-9500(コントローラー部)/VK-9510(測定部)(キーエンス製)を使用した。カバリング糸の任意の10カ所について測定し、測定された数値のうち、最上限および最下限の値を除いた8点の数値の平均値として算出した。
【0074】
<カバリング糸の数平均径/原料混繊糸の数平均径>
カバリング糸の数平均径の測定値と、原料混繊糸の数平均径の測定値とから算出した。
【0075】
<カバリング糸の密度>
上記で得られたカバリング糸は、23℃、相対湿度50%の条件下に2日間静置した後、1mにカットして、カバリング糸の質量を測定した。その質量を上記で得た平均径を用いて、質量(g)/体積(cm3)からそれぞれの密度を算出した。
【0076】
<カバリング糸中の混繊糸由来の領域の密度>
上記で得られたカバリング糸は、23℃、相対湿度50%の条件下に2日間静置した後、1mにカットし、カバリング糸のカバリングに用いた樹脂繊維を除去し、その質量を測定した。その質量を上記で得た平均径を用いて、質量(g)/体積(cm3)からそれぞれの密度(g/cm3)を算出した。
【0077】
<混繊糸の含浸率の測定方法>
カバリング糸を切り取り、エポキシ樹脂で包埋し、カバリング糸の断面部にあたる面を研磨し、断面図を、超深度カラー3D形状測定顕微鏡を使用して撮影した。エポキシ樹脂で包埋したサンプルのうち、混繊糸に相当する領域の断面をデジタルマイクロスコープで観察した。得られた断面写真に対し、混繊糸中の連続炭素繊維の樹脂が含浸した領域を画像解析ソフトImageJを用いて選択し、その面積を測定した。含浸率は、連続強化繊維へ、樹脂が含浸した領域/断面積(単位%)として示した。
超深度カラー3D形状測定顕微鏡は、VK-9500(コントローラー部)/VK-9510(測定部)(キーエンス製)を使用した。
【0078】
<混繊糸の分散度の測定方法>
カバリング糸をエポキシ樹脂で包埋し、カバリング糸の長手方向に垂直な断面を研磨し、混繊糸に相当する部分の断面図を、超深度カラー3D形状測定顕微鏡を使用して撮影した。
図2に示すように、撮影画像において、放射状に補助線を等間隔に6本ひき、各補助線上にある混繊糸に連続強化繊維領域の長さをa1, a2, a3・・・ai(i=n)と測量した。また、各補助線上にある連続熱可塑性樹脂繊維の領域の長さをb1, b2, b3・・・bi(i=m)と測量した。その結果に基づき、次式により分散度を算出した。
【数1】
超深度カラー3D形状測定顕微鏡は、VK-9500(コントローラー部)/VK-9510(測定部)(キーエンス製)を使用した。
【0079】
<カバリング糸の加工性(毛羽立ち)>
組糸が16本、中央糸が8本にて組物を作製する組機(フジモト製)を使用してカバリング糸を加工し、得られたカバリング糸の組紐を1m観察し、以下の通り評価した。本実施例では、組糸16本および中央糸8本のいずれにも、上記で得られたカバリング糸を用いた。
A:単糸切れによる毛羽立ちが10本未満
B:単糸切れによる毛羽立ちが10本以上20本未満
C:単糸切れによる毛羽立ちが20本以上
【0080】
<成形品強度>
得られる成形品について、カバリング糸の密度と試験片の体積から計算される、空隙が形成されない量のカバリング糸を、一方向に並べて、260℃、3MPa、15min熱プレスし、150mmx15mmx1mmの試験片を得た。試験片を、インストロン(型番:5967)を用いて1mm/minの速度で引張試験し、得られた引張強度から、以下の通り評価した。
A:1000MPa以上
B:900MPa以上1000MPa未満
C:800MPa以上900MPa未満
D:800MPa未満
【0081】
<蛭田式抱合力試験>
蛭田式抱合力試験機を用い、摩擦板速度120rpm、荷重220gの条件で各サンプル10回試験した。破断までの回転数の数平均値から、以下の通り評価した。
A:1000以上
B:500以上1000未満
C:500未満
【0082】
<カバリング糸配置時のラインの安定性>
タジマ工業社製、コンポジットファイバー縫い付け機、TCWM-101を用い、上記で得られたカバリング糸を、二軸延伸ナイロンフィルム(三菱ユニテック社製:G-100#25)の上に、中心から0度方向に5cmステッチングするようにして保形し、次いで180度の角度で曲げて-180度方向に5cmステッチングするようにして保形し、次いで180度の角度で曲げて再び0度方向に5cmステッチングするようにして保形した。これを5回繰り返した。
以下の通り評価した。
A:設定通りに供給、配置された。
B:180度の角度で曲げる際、カバリング糸が配置予定位置からずれた。
C:上記AおよびC以外、例えば、カバリング糸が安定して供給されず、最後まで配置できなかった等。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
上記結果から明らかなとおり、本発明のカバリング糸は、加工時の毛羽立ち抑制、成形品の強度、蛭田式抱合力試験評価およびカバリング糸の供給時のライン安定性(加工時の安定性)に優れていた(実施例1~17)。これに対し、カバリングのピッチが大きすぎる場合、上記のいずれか1つ以上が劣っていた。
【符号の説明】
【0087】
10 カバリング糸
11 混繊糸
12 カバリング用の樹脂繊維
30 カバリング糸
31 クランプ
32 仮固定