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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】絶縁層形成用樹脂ワニス
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20240830BHJP
   H01B 3/30 20060101ALI20240830BHJP
   C09D 5/25 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
C09D175/04
H01B3/30 F
C09D5/25
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023501956
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2021007370
(87)【国際公開番号】W WO2022180791
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】391018710
【氏名又は名称】東特塗料株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】309019534
【氏名又は名称】住友電工ウインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斎田 紘平
(72)【発明者】
【氏名】甲賀 敏美
(72)【発明者】
【氏名】藤倉 裕一
(72)【発明者】
【氏名】渡部 貴智
(72)【発明者】
【氏名】松井 克文
(72)【発明者】
【氏名】菅原 潤
(72)【発明者】
【氏名】松浦 裕紀
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-97177(JP,A)
【文献】特開2010-135135(JP,A)
【文献】特開2001-6444(JP,A)
【文献】特開2000-353428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
H01B 3/ ,7/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一イソシアネート化合物と、第二イソシアネート化合物と、ポリアミドイミドアミン化合物を含む絶縁層形成用樹脂ワニスであって、
前記第一イソシアネート化合物は、分子中に、少なくとも1つのトリアジントリオン環構造と、前記トリアジントリオン環構造の3つの窒素の各々に結合した末端にブロックイソシアネート基を有する側鎖と、を含み、
前記ブロックイソシアネート基は、下記化学式1で表される官能基であり、
前記第二イソシアネート化合物は、分子中に、末端に前記ブロックイソシアネート基を有する少なくとも2つの末端鎖と、前記ブロックイソシアネート基中のウレタン構造以外の少なくとも2つのウレタン構造と、を含み、
前記第二イソシアネート化合物は、分子中に、トリアジントリオン環構造を含まず、
前記ポリアミドイミドアミン化合物は、分子中に、少なくとも1つのアミドイミド構造と、前記アミドイミド構造の窒素に結合した少なくとも1つのアミノ基を末端に有する構造と、を含む、絶縁層形成用樹脂ワニス。
【化1】

前記化学式1中、Rは、不活性基である。
【請求項2】
前記第一イソシアネート化合物は、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートおよびヘキサメチレンジイソシアネートからなる群より選ばれる3つのイソシアネート化合物が重合してなるポリイソシアネート付加物である、請求項1に記載の絶縁層形成用樹脂ワニス。
【請求項3】
前記第一イソシアネート化合物の含有割合は、前記第一イソシアネート化合物、前記第二イソシアネート化合物および前記ポリアミドイミドアミン化合物の合計に対して、40質量%以上80質量%以下である、請求項1または請求項2に記載の絶縁層形成用樹脂ワニス。
【請求項4】
前記第二イソシアネート化合物は、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートおよびヘキサメチレンジイソシアネートからなる群より選ばれる2つのイソシアネート化合物と、二価アルコールとのエステル化反応により得られる化合物である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の絶縁層形成用樹脂ワニス。
【請求項5】
前記第二イソシアネート化合物の含有割合は、前記第一イソシアネート化合物、前記第二イソシアネート化合物および前記ポリアミドイミドアミン化合物の合計に対して、5質量%以上30質量%以下である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の絶縁層形成用樹脂ワニス。
【請求項6】
前記ポリアミドイミドアミン化合物の含有割合は、前記第一イソシアネート化合物、前記第二イソシアネート化合物および前記ポリアミドイミドアミン化合物の合計に対して、20質量%以上45質量%以下である、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の絶縁層形成用樹脂ワニス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、絶縁層形成用樹脂ワニスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、線状の導体と、導体の外周面を被覆する絶縁層とを備える絶縁電線が知られている。絶縁層には、優れた絶縁性、導体に対する密着性、耐熱性、機械的強度、可撓性等が求められている。この絶縁層の形成に用いる合成樹脂としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-111059号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示に係る絶縁層形成用樹脂ワニスは、
第一イソシアネート化合物と、第二イソシアネート化合物と、ポリアミドイミドアミン化合物を含む絶縁層形成用樹脂ワニスであって、
上記第一イソシアネート化合物は、分子中に、少なくとも1つのトリアジントリオン環構造と、上記トリアジントリオン環構造の3つの窒素の各々に結合した末端にブロックイソシアネート基を有する側鎖と、を含み、
上記ブロックイソシアネート基は、下記化学式1で表される官能基であり、
上記第二イソシアネート化合物は、分子中に、末端に上記ブロックイソシアネート基を有する少なくとも2つの末端鎖と、上記ブロックイソシアネート基中のウレタン構造以外の少なくとも2つのウレタン構造と、を含み、
上記第二イソシアネート化合物は、分子中に、トリアジントリオン環構造を含まず、
上記ポリアミドイミドアミン化合物は、分子中に、少なくとも1つのアミドイミド構造と、上記アミドイミド構造の窒素に結合した少なくとも1つのアミノ基を末端に有する構造と、を含む。
【0005】
【化1】
【0006】
上記化学式1中、Rは、不活性基である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
従来から、ポリウレタン構造を有する絶縁性塗料を用いて形成された絶縁層は、半田付性および耐熱性に優れることが知られている。例えば、特開平11-111059号公報(特許文献1)には、ポリアミドイミド構造とポリウレタン構造とを有する重合体を含む絶縁性塗料を用いて形成された絶縁層により被覆されたエナメル線が開示される。その絶縁層は、半田付の際の加熱により分解し、内部の線状導体が露出するため、絶縁層を除去せずに半田付が可能である(半田付性が良好である)。それと共に、当該絶縁層は、通常の通電によるエナメル線の温度上昇程度では分解し難い(耐熱性を備える)ことも開示されているが、半田付性および耐熱性は必ずしも十分とは言えなかった。
【0008】
本発明者らは、半田付性および耐熱性の点で従来より高めることが望ましいと考え、本開示を完成するに至った。
【0009】
そこで、本開示は、良好な半田付性および優れた耐熱性を有する絶縁層を形成するための絶縁層形成用樹脂ワニスを提供することを目的とする。
【0010】
[本開示の効果]
本開示によれば、良好な半田付性および優れた耐熱性を有する絶縁層を形成するための絶縁層形成用樹脂ワニスを提供できる。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の一態様の内容を列記して説明する。
【0012】
[1]本開示の一態様に係る絶縁層形成用樹脂ワニスは、
第一イソシアネート化合物と、第二イソシアネート化合物と、ポリアミドイミドアミン化合物を含む絶縁層形成用樹脂ワニスであって、
上記第一イソシアネート化合物は、分子中に、少なくとも1つのトリアジントリオン環構造と、上記トリアジントリオン環構造の3つの窒素の各々に結合した末端にブロックイソシアネート基を有する側鎖と、を含み、
上記ブロックイソシアネート基は、下記化学式1で表される官能基であり、
上記第二イソシアネート化合物は、分子中に、末端に上記ブロックイソシアネート基を有する少なくとも2つの末端鎖と、上記ブロックイソシアネート基中のウレタン構造以外の少なくとも2つのウレタン構造と、を含み、
上記第二イソシアネート化合物は、分子中に、トリアジントリオン環構造を含まず、
上記ポリアミドイミドアミン化合物は、分子中に、少なくとも1つのアミドイミド構造と、上記アミドイミド構造の窒素に結合した少なくとも1つのアミノ基を末端に有する構造と、を含む。
【0013】
【化2】
【0014】
上記化学式1中、Rは、不活性基である。
上記絶縁層形成用樹脂ワニスは、上述のようにポリアミドイミドアミン化合物を備えることによって、それを焼き付けることで生成される絶縁層は優れた耐熱性を有する。また、上記絶縁層の構成材料である第一イソシアネート化合物および第二イソシアネート化合物はウレタン結合を含むため、上記絶縁層は良好な半田付性を有する。したがって、上記絶縁層形成用樹脂ワニスは、良好な半田付性および優れた耐熱性を有する絶縁層を形成するための絶縁層形成用樹脂ワニスとなる。
【0015】
[2]上記第一イソシアネート化合物は、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートおよびヘキサメチレンジイソシアネートからなる群より選ばれる3つのイソシアネート化合物が重合してなるポリイソシアネート付加物であることが好ましい。このように規定することで、より確実に良好な半田付性および優れた耐熱性を有する絶縁層を形成するための絶縁層形成用樹脂ワニスとなる。
【0016】
[3]上記第一イソシアネート化合物の含有割合は、上記第一イソシアネート化合物、上記第二イソシアネート化合物および上記ポリアミドイミドアミン化合物の合計に対して、40質量%以上80質量%以下であることが好ましい。このように規定することで、より確実に良好な半田付性および優れた耐熱性を有する絶縁層を形成するための絶縁層形成用樹脂ワニスとなる。
【0017】
[4]上記第二イソシアネート化合物は、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートおよびヘキサメチレンジイソシアネートからなる群より選ばれる2つのイソシアネート化合物と、二価アルコールとのエステル化反応により得られる化合物であることが好ましい。このように規定することで、より確実に良好な半田付性および優れた耐熱性を有する絶縁層を形成するための絶縁層形成用樹脂ワニスとなる。
【0018】
[5]上記第二イソシアネート化合物の含有割合は、上記第一イソシアネート化合物、上記第二イソシアネート化合物および上記ポリアミドイミドアミン化合物の合計に対して、5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。このように規定することで、より確実に良好な半田付性および優れた耐熱性を有する絶縁層を形成するための絶縁層形成用樹脂ワニスとなる。
【0019】
[6]上記ポリアミドイミドアミン化合物の含有割合は、上記第一イソシアネート化合物、上記第二イソシアネート化合物および上記ポリアミドイミドアミン化合物の合計に対して、20質量%以上45質量%以下であることが好ましい。このように規定することで、より確実に良好な半田付性および優れた耐熱性を有する絶縁層を形成するための絶縁層形成用樹脂ワニスとなる。
【0020】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す。)について説明する。ただし、本実施形態はこれに限定されるものではない。本明細書において「X~Y」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちX以上Y以下)を意味し、Xにおいて単位の記載がなく、Yにおいてのみ単位が記載されている場合、Xの単位とYの単位とは同じである。本明細書において、元素記号または元素名が記載されている場合は、その元素のみからなる物質を意味している場合もあるし、化合物中の構成元素を意味している場合もある。
【0021】
≪第1の実施形態:絶縁層形成用樹脂ワニス≫
本実施形態の絶縁層形成用樹脂ワニス(以下、「ワニス」とも記す)は、
第一イソシアネート化合物と、第二イソシアネート化合物と、ポリアミドイミドアミン化合物を含む絶縁層形成用樹脂ワニスであって、
上記第一イソシアネート化合物は、分子中に、少なくとも1つのトリアジントリオン環構造と、上記トリアジントリオン環構造の3つの窒素(原子)の各々に結合した末端にブロックイソシアネート基を有する側鎖と、を含み、
上記ブロックイソシアネート基は、下記化学式1で表される官能基であり、
上記第二イソシアネート化合物は、分子中に、末端に上記ブロックイソシアネート基を有する少なくとも2つの末端鎖と、上記ブロックイソシアネート基中のウレタン構造(ウレタン結合)以外の少なくとも2つのウレタン構造と、を含み、
上記第二イソシアネート化合物は、分子中に、トリアジントリオン環構造を含まず、
上記ポリアミドイミドアミン化合物は、分子中に、少なくとも1つのアミドイミド構造と、上記アミドイミド構造の窒素に結合した少なくとも1つのアミノ基を末端に有する構造と、を含む。
【0022】
【化3】
【0023】
上記化学式1中、Rは、不活性基である。
ワニス中における上記第一イソシアネート化合物の含有割合は、ワニス中の上記第一イソシアネート化合物、上記第二イソシアネート化合物および上記ポリアミドイミドアミン化合物の合計に対し、40質量%以上80質量%以下であることが好ましく、50質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。ワニス中における上記第一イソシアネート化合物の含有割合が40質量%以上である場合、架橋密度が上がることで耐熱性およびガラス転移温度(Tg)値を上げることができる。一方、ワニス中における上記第一イソシアネート化合物の含有割合が80質量%以下である場合、ワニスの耐熱性を維持しつつ、半田付けをすることができる。
【0024】
ワニス中における上記第二イソシアネート化合物の含有割合は、ワニス中の上記第一イソシアネート化合物、上記第二イソシアネート化合物および上記ポリアミドイミドアミン化合物の合計に対し、5質量%以上30質量%以下であることが好ましく、10質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
【0025】
ワニス中における上記ポリアミドイミドアミン化合物の含有割合は、ワニス中の上記第一イソシアネート化合物、上記第二イソシアネート化合物および上記ポリアミドイミドアミン化合物の合計に対し、20質量%以上45質量%以下であることが好ましく、25質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。
【0026】
ワニスは、上記構成を有することにより、良好な半田付性および優れた耐熱性を有する絶縁層を形成できる。以下、ワニスが含有する各成分について説明する。
【0027】
<第一イソシアネート化合物>
第一イソシアネート化合物は、分子中に、少なくとも1つのトリアジントリオン環構造と、上記トリアジントリオン環構造の3つの窒素の各々に結合した末端にブロックイソシアネート基を有する側鎖と、を含む化合物である。上記第一イソシアネート化合物としては、例えば、下記化学式2で表される化合物が挙げられる。
【0028】
【化4】
【0029】
上記化学式2で表される第一イソシアネート化合物において、3つの各々独立のRは、後述する不活性基である。上記3つのRは同一でもよく、異なっていてもよい。
【0030】
また、R、RおよびRは、各々独立の二価の官能基であり、イソシアネート基をさらに含んでいてもよい。R、RおよびRは、好ましくは、炭素数が1~20の鎖状炭化水素基(直鎖状または分枝状を含んでいてもよい)、脂環式炭化水素基および芳香族炭化水素基であり、より好ましくは、炭素数が6~10の芳香族炭化水素基である。R、RおよびRは同一でもよく、異なっていてもよい。
【0031】
上記第一イソシアネート化合物は、三価以上の多価イソシアネートであり、分子中に、少なくとも1つのトリアジントリオン環構造を有する。そして、ブロックイソシアネート基を末端に有する少なくとも3つの側鎖が上記トリアジントリオン環構造の3つの窒素の各々に結合している。また、上記第一イソシアネート化合物はウレタン結合を有する。半田にはウレタン結合を切断する触媒が含まれており、上記第一イソシアネート化合物を含むワニスからなる絶縁層が半田付の際に分解し、内部の線状導体が露出するため、半田付が可能となる(半田付性が向上する)。
【0032】
第一イソシアネート化合物は、例えば、イソシアネートおよびマスキング剤との反応によって得ることができる3つのイソシアネート化合物が重合してなるポリイソシアネート(三量体)である。
【0033】
(イソシアネート)
上記第一イソシアネート化合物の原料として用いるイソシアネートとしては、少なくとも2つのイソシアネート基を含むイソシアネートであり、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、2,4-トリレンジイソシアネート/2,6-トリレンジイソシアネート=80/20混合物(T-80)、2,4-トリレンジイソシアネート/2,6-トリレンジイソシアネート=65/35混合物(T-65)、HMDIの誘導体、ジメリールジイソシアネート(DDI)、水素添加MDI(HMDI)、水素添加TDI(HTDI)等が挙げられる。上記2,4-トリレンジイソシアネート/2,6-トリレンジイソシアネート=80/20混合物は、2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートの異性体比(モル比)が80:20であることを、上記2,4-トリレンジイソシアネート/2,6-トリレンジイソシアネート=65/35混合物は、2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートの異性体比(モル比)が65:35であることをそれぞれ意味する。これらのイソシアネートは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いられる。これらのうち、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、2,4-トリレンジイソシアネート/2,6-トリレンジイソシアネート=80/20混合物(T-80)、2,4-トリレンジイソシアネート/2,6-トリレンジイソシアネート=65/35混合物(T-65)を使用することが好ましい。より確実に半田付性および耐熱性に優れるワニスが提供できるからである。
【0034】
上記イソシアネートを単独でまたは2種以上を混合して3量化反応させることで、分子中に、少なくとも1つのトリアジントリオン環構造を有するイソシアネートの三量体が生成される。
【0035】
(ブロックイソシアネート基)
ブロックイソシアネート基は、下記化学式1で表される官能基である。
【0036】
【化5】
【0037】
上記化学式1中のRは、不活性基である。不活性基とは、生理的条件下で安定であり不活性な有機基を意味する。不活性基としては、好ましくは、炭素数が1~20の鎖状炭化水素基(直鎖状または分枝状を含んでいてもよい)、脂環式炭化水素基および芳香族炭化水素基であり、より好ましくは、炭素数が6~15の芳香族炭化水素基である。
【0038】
(マスキング剤)
本開示におけるマスキング剤は、反応性の高いイソシアネート基に付加することにより、上記不活性基を有する第一イソシアネート化合物を得るために使用される。上記第一イソシアネート化合物の原料として用いるマスキング剤としては、活性水素を保持したものが使用され、キシレノール酸、クレゾール、フェノール、アルコール、芳香族第二級アミン等が挙げられ、キシレノール酸、クレゾールを用いることが好ましい。これらのマスキング剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いられる。
【0039】
上記イソシアネートの三量体および上記マスキング剤を反応させることで、分子中に、少なくとも1つのトリアジントリオン環構造と、上記トリアジントリオン環構造の3つの窒素の各々に結合した末端に上記ブロックイソシアネート基を有する側鎖と、を含む第一イソシアネート化合物が生成される。
【0040】
<第二イソシアネート化合物>
第二イソシアネート化合物は、分子中に、末端に上記ブロックイソシアネート基を有する少なくとも2つの末端鎖と、上記ブロックイソシアネート基中のウレタン構造以外の少なくとも2つのウレタン構造と、を含む化合物である。また、上記第二イソシアネート化合物は、分子中に、トリアジントリオン環構造を含まない。
【0041】
上記第二イソシアネート化合物は、イソシアネート、二価アルコールおよびマスキング剤を加熱し反応させることにより得ることができる。上記第二イソシアネート化合物としては、例えば、下記化学式3で表される化合物が挙げられる。
【0042】
【化6】
【0043】
上記化学式3で表される第二イソシアネート化合物において、R、RおよびRは、各々独立の二価の官能基である。R、RおよびRは、好ましくは、炭素数が1~20の鎖状炭化水素基(直鎖状または分枝状を含んでいてもよい)、脂環式炭化水素基および芳香族炭化水素基であり、より好ましくは、炭素数が6~15の芳香族炭化水素基である。R、RおよびRは同一でもよく、異なっていてもよい。また、Rは上記と同じ意味を表す。
【0044】
上記第二イソシアネート化合物は、二価イソシアネートであり、分子中に、末端に上記ブロックイソシアネート基を有する少なくとも2つの末端鎖と、上記ブロックイソシアネート基中のウレタン構造以外の少なくとも2つのウレタン構造と、を含む。そして、上記第二イソシアネート化合物は、分子中に、トリアジントリオン環構造を含まない。また、上記第一イソシアネート化合物と同様に、上記第二イソシアネート化合物もウレタン結合を有することから、上記第二イソシアネート化合物を含むワニスからなる絶縁層は半田付が可能となる(半田付性が向上する)。
【0045】
(イソシアネート)
上記第二イソシアネート化合物の原料として用いるイソシアネートとしては、上記第一イソシアネート化合物の原料として用いるイソシアネートと同様のものが挙げられる。
【0046】
(二価アルコール)
上記第二イソシアネート化合物の原料として用いる二価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、各種のブタン-、ペンタン-、またはヘキサンジオール、例えば、1,3-または1,4-ブタンジオール1,5-ペンタンジオール1,6-ヘキサンジオール、1,4-ブテン-2-ジオール、2,2-ジメチルプロパンジオール-1,3、2-エチル-2-ブチル-プロパンジオール-1,3、1,4-ジメチロールシクロヘキサン、1,4-ブテンジオール、水添加ビスフェノール類(例えば、水添加P,P′-ジヒドロキシジフェニールプロパンまたはその同族体)、2,2-ビス(4-ポリオキシエチレンオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ポリオキシプロピレンオキシフェニル)プロパン、環状グリコール、例えば、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール、ヒドロキノン-ジ-β-ヒドロキシエチル-エーテル、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジエタノール、トリメチレングリコール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコール等が挙げられる。これらの二価アルコールは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いられる。これらのうち、2,2-ビス(4-ポリオキシプロピレンオキシフェニル)プロパンを使用することが好ましい。
【0047】
上記イソシアネートおよび上記二価アルコールを混合してエステル化反応させることで、分子中に、少なくとも2つのウレタン構造を含むイソシアネート化合物が生成される。
【0048】
(ブロックイソシアネート基)
ブロックイソシアネート基は、上記と同様の官能基である。また、Rも上記と同じ意味を表す。
【0049】
(マスキング剤)
上記第二イソシアネート化合物の原料として用いるマスキング剤としては、上記第一イソシアネート化合物の原料として用いるマスキング剤と同様のものが挙げられる。
【0050】
上記イソシアネート化合物および上記マスキング剤を反応させることで、分子中に、末端にブロックイソシアネート基を有する少なくとも2つの末端鎖と、上記ブロックイソシアネート基中のウレタン構造以外の少なくとも2つのウレタン構造と、を含み、分子中に、トリアジントリオン環構造を含まない、第二イソシアネート化合物が生成される。
【0051】
<ポリアミドイミドアミン化合物>
ポリアミドイミドアミン化合物は、分子中に、少なくとも1つのアミドイミド構造と、上記アミドイミド構造の窒素に結合した少なくとも1つのアミノ基を末端に有する構造と、を含む化合物である。
【0052】
上記ポリアミドイミドアミン化合物は、三価カルボン酸またはその誘導体および第一級アミノ基を有する化合物を有機溶剤の存在下で加熱し反応させることにより得ることができる。
【0053】
ここで、「ポリアミドイミドアミン化合物」とは、少なくとも1つのアミドイミド構造と、上記アミドイミド構造の窒素に結合した少なくとも1つのアミノ基を末端に有する構造を含む重合体をいう。上記ポリアミドイミドアミン化合物は、下記化学式4で示されるアミドイミドを構造単位として有する重合体であり、下記化学式5で示される化合物であることが好ましい。
【0054】
【化7】
【0055】
【化8】
【0056】
上記化学式5で表されるポリアミドイミドアミン化合物において、Rは、独立の二価の官能基である。Rは、好ましくは、炭素数が1~20の鎖状炭化水素基(直鎖状または分枝状を含んでいてもよい)、脂環式炭化水素基および芳香族炭化水素基であり、より好ましくは、炭素数が6~15の芳香族炭化水素基である。上記2つのRは同一でもよく、異なっていてもよい。
【0057】
また、上記化学式5で表されるポリアミドイミドアミン化合物において、nは、整数であり、好ましくは、1~20の整数であり、より好ましくは、1~10の整数である。
【0058】
上記ポリアミドイミドアミン化合物は焼付時にウレア結合を形成する。ウレア結合は耐熱性に優れることから、上記ポリアミドイミドアミン化合物を含むワニスからなる絶縁層は、耐熱性に優れる。
【0059】
(三価カルボン酸またはその誘導体)
上記ポリアミドイミドアミン化合物の原料として用いる三価カルボン酸またはその誘導体としては、トリメリット酸、トリメシン酸、トリメリット酸無水物、ヘミメリット酸無水物、1,2,5-ナフタリントリカルボン酸無水物、2,3,6-ナフタリントリカルボン酸無水物、1,8,4-ナフタリントリカルボン酸無水物、3,4,4′-ジフェニールトリカルボン酸無水物、3,4,4′-ジフェニールメタントリカルボン酸無水物、3,4,4′-ジフェニールエーテルトリカルボン酸無水物、3,4,4′-ベンゾフェノントリカルボン酸無水物等が挙げられる。これらの三価カルボン酸またはその誘導体は、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いられる。これらのうち、トリメリット酸無水物を使用することが好ましい。
【0060】
(第一級アミノ基を有する化合物)
上記ポリアミドイミドアミン化合物の原料として用いる第一級アミノ基を有する化合物としては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、4,4′-ジアミノジフェニルメタン、4,4′-ジアミノジフェニルプロパン、4,4′-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4′-ジアミノジフェニルスルホン、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル、3,3′-ジアミノジフェニル、3,3′-ジアミノジフェニルスルホン、3,3′-ジメチル-4,4′-ビスフェニルジアミン、1,4-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノナフタレン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、1-イソプロピル-2,4-メタフェニレンジアミン等の芳香族第1級ジアミン、3-(p-アミノシクロヘキシル)メタンジアミノプロピル、3-メチル-ヘプタンメチンジアミン、4,4′-ジメチルヘプタメチンジアミン、2,5-ジメチルヘキサメチレンジアミン、2,5-ジメチルヘプタメチンジアミンの如き分枝状脂肪族ジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,10-ジアミノ-1,10-ジメチルデカン等の脂環族ジアミン等が挙げられる。これらの第一級アミノを有する化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いられる。これらのうち、芳香族ジアミンを使用することが好ましい。
【0061】
(有機溶媒)
上記三価カルボン酸またはその誘導体と、上記第一級アミノ基を有する化合物の反応に用いる有機溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、クレゾール酸、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、2,3-キシレノール、2,4-キシレノール、2,5-キシレノール、2,6-キシレノール、3,4-キシレノール、3,5-キシレノール、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類並びにエステル類も用いることができ、これらの例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、石油ナフサ、コールタールナフサ、ソルベントナフサ、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル等が挙げられる。これらの有機溶媒は、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いられる。
【0062】
<多価イソシアネート化合物>
ワニスは、分子中に、上記第一イソシアネート化合物および上記第二イソシアネート化合物以外の二価以上の多価イソシアネート化合物を含有してもよい。上記第一イソシアネート化合物を使用すると、皮膜の架橋密度が上がり耐熱性は向上するが、強直となることから、上記多価イソシアネート化合物を併用することで、架橋密度を維持しつつ耐熱性と柔軟性のバランスを保つことができる。
【0063】
上記多価イソシアネート化合物は、イソシアネート、三価アルコールおよびマスキング剤との反応により得ることができる。上記多価イソシアネート化合物としては、例えば、下記化学式6で表される化合物が挙げられる。
【0064】
【化9】
【0065】
上記化学式6中、Rは上記と同じ意味を表す。上記多価イソシアネート化合物は、分子中に、トリアジントリオン環構造を含まない。
【0066】
(イソシアネート)
上記多価イソシアネート化合物の原料として用いるイソシアネートとしては、上記第一イソシアネート化合物の原料として用いるイソシアネートと同様のものが挙げられる。
【0067】
(三価アルコール)
上記多価イソシアネート化合物の原料として用いる三価アルコールとしては、1,1,1-トリメチロールエタン、1,1,1-トリメチロールプロパン、グリセリン等が挙げられる。これらの三価アルコールは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いられる。
【0068】
上記イソシアネートおよび上記三価アルコールを反応させることで、ウレタンが生成される。
【0069】
(ブロックイソシアネート基)
ブロックイソシアネート基は、上記と同様の官能基である。また、Rも上記と同じ意味を表す。
【0070】
(マスキング剤)
上記多価イソシアネート化合物の原料として用いるマスキング剤としては、上記第一イソシアネート化合物の原料として用いるマスキング剤と同様のものが挙げられる。
【0071】
上記ウレタンおよび上記マスキング剤を反応させることで、分子中に、トリアジントリオン環構造を含まない多価イソシアネート化合物が生成される。
【0072】
<有機溶剤>
ワニスの調製に用いる有機溶剤としては、例えば、キシレノール酸、クレゾール、フェノール等のフェノール類、グリコールエーテル類、N-メチル-2-ピロリドン(NM2P)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)等の有機溶媒を使用することができる。また、希釈剤としてキシレン、ソルベントナフサ、セロソルブ類、グリコールエステル類、γ-ブチルラクトン、アノン、アルコール類等を用いることができる。上記有機溶剤を用いることで、ワニスの塗布性を向上させることができる。
【0073】
<その他の成分>
ワニスは、さらに必要に応じて、顔料、染料、無機または有機のフィラー、潤滑剤、硬化促進剤、酸化防止剤、レベリング剤等の各種添加を含有してもよい。
【0074】
<ウレタン結合およびウレア結合の結合数の合計の割合>
ワニスにおけるウレタン結合、ウレア結合、アミド結合およびイミド結合の結合数の総数に対する、ウレタン結合およびウレア結合の結合数の合計の割合は、20%以上が好ましく、26%以上がより好ましい。上記割合が20%以上の場合、良好な半田付性を有するワニスとなる。
【0075】
上記ウレタン結合、ウレア結合、アミド結合およびイミド結合の結合数の合計とは、焼き付けによりワニス中の全ての官能基が反応したときの皮膜中のウレタン結合、ウレア結合、アミド結合およびイミド結合の結合数の合計である。また、上記ウレタン結合およびウレア結合の結合数の合計とは、焼き付けによりワニス中の全ての官能基が反応したときのウレタン結合およびウレア結合の結合数の合計である。上記割合は、これらの値を用いることで求めることができる。
【0076】
≪第2の実施形態:絶縁層形成用樹脂ワニスの製造方法≫
ワニスは、例えば、上記第一イソシアネート化合物、上記第二イソシアネート化合物および上記ポリアミドイミドアミン化合物を上記有機溶媒に溶解し、触媒等の各種添加剤を混合することで得られる。上記触媒としては、ジアザビシクロノネン(DBN)、オクチル酸金属塩、ナフテン酸金属塩、各種アミン系化合物等を使用することができる。
【0077】
≪第3の実施形態:絶縁電線≫
本実施形態に係る絶縁電線は、線状の導体と、上記導体の外周側に積層される1または複数の絶縁層とを備え、上記複数の絶縁層のうち少なくとも1層がワニスの硬化物である。上記絶縁電線は、ワニスにより形成される上記絶縁層を備えるため、良好な半田付性および優れた耐熱性を有する。
【0078】
<半田付性>
本開示における「半田付性」とは、半田付の際の加熱により絶縁層が分解し、内部の線状導体が露出することで、絶縁層を除去せずに半田付が可能である特性をいう。
【0079】
半田付は、半田と呼ばれる合金を熱によって溶かして固めることにより、電気的に半田と対象の金属部品とを接合する技術のことをいう。一般的なエナメル線ではエナメル皮膜を剥離して導体を露出させ半田付け作業を行うが、ポリウレタンエナメル線はエナメル皮膜を剥離することなく直接半田付け作業を行うことができる。ポリウレタンエナメル線は耐熱性を向上させるにつれ半田付け作業が悪化してしまう。本開示のワニスにより形成される絶縁層は、耐熱性が優れているとともに、電線やワイヤー等から被覆材としての絶縁層を剥く必要がなく、従来よりも容易に半田付をすることができる。
【0080】
<導体>
上記絶縁電線の導体は、導電体である。上記導体の材料としては、導電率が高くかつ機械的強度の高い金属が好ましい。具体的には、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、銀、軟鉄、鋼、ステンレス鋼などが挙げられる。上記導体は、これらの金属を線状に形成した素線であってもよく、素線の表面を他の金属で被覆した被覆線であってもよく、複数の素線を撚り合わせた撚線であってもよい。上記被覆線としては、ニッケル被覆銅線、銀被覆銅線、銀被覆アルミニウム線、銅被覆鋼線などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0081】
上記導体は、線状である。上記導体の断面形状は特に限定されず、断面が円形状の丸線でもよく、断面が方形状の角線でもよく、複数の素線を撚り合わせた撚り線であってもよい。上記導体の外径は特に制限されず、上記絶縁電線の使用用途、電気特性等に応じて、適宜変更される。
【0082】
上記導体の断面積の下限値は0.01mm2が好ましく、0.1mm2がより好ましく、上限値は20mm2が好ましく、10mm2がより好ましい。上記導体の断面積が0.01mm2を満たさない場合、導体に対する絶縁層の体積の割合が大きくなり、例えば、上記絶縁電線を用いて形成されるコイルの体積効率が低下するおそれがある。上記導体の断面積が20mm2を超える場合、上記絶縁電線の絶縁性を十分に高めるために、上記絶縁層を厚くする必要が生じ、結果的に、上記絶縁電線が大径化するおそれがある。
【0083】
<絶縁層>
上記絶縁電線の絶縁層は、上記導体の外周面に積層される少なくとも1層の絶縁層を含み、少なくとも1層の絶縁層が第1の実施形態に係るワニスにより形成される。上記絶縁層は、上記導体の外周面に直接接しており、上記導体の外周面の全部または少なくとも一部に積層されてもよい。上記絶縁電線が複数の絶縁層を備える場合、各絶縁層は上記導体の外周側に断面視で同心円状に順次積層されてもよい。上記絶縁電線が複数の絶縁層を備える場合、各絶縁層は上記導体の外周面に断面視で同心円状に順次積層される。この場合、各絶縁層の平均厚さとしては、例えば、1μm以上15μm以下とすることができ、3μm以上10μm以下であることが好ましい。また、上記複数の絶縁層の平均合計厚さとしては、例えば、10μm以上200μm以下とすることができる。また、複数の絶縁層の合計層数としては、例えば2層以上200層以下とすることができる。なお、複数の絶縁層の厚さとは、絶縁層の任意の8点の厚さの平均値である。
【0084】
上記複数の絶縁層は、全ての絶縁層が本開示のワニスより形成されることが好ましいが、一部の絶縁層が本開示のワニス以外の他のワニスにより形成される層であってもよい。上記他のワニスに用いる樹脂としては、ポリビニルホルマール、ポリアミド、フェノキシ、ポリエステル、ポリウレタン、ポリウレタンポリオール、ポリエーテル、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド等の熱可塑性樹脂、フェノール、メラミン、ポリエステル、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルアミドイミド、ポリイミド、ポリヒダントイン等の熱硬化性樹脂を使用することができる。
【0085】
上記絶縁電線は、さらに必要に応じて、染料、顔料、滑剤、酸化防止剤、無機物質等の添加剤を添加することができる。
【0086】
≪第4の実施形態:絶縁電線の製造方法≫
上記絶縁電線は、例えば、導体の外周面に第1の実施形態に係るワニスを塗布する工程(塗布工程)と、焼き付け処理により、絶縁層を形成する工程(焼き付け工程)と、を経て製造することができる。以下、各工程について説明する。
【0087】
(塗布工程)
塗布工程は、ワニスを導体の外周面に塗布する工程である。塗布方法は特に限定されず、従来公知の塗布方法を用いることができる。例えば、開口部を有する塗装ダイスを用いた場合、ワニスを均一な厚さで塗布することができるとともに、塗布されたワニスの表面を平滑にすることができる。
【0088】
(焼き付け工程)
焼き付け工程では、焼き付け処理により絶縁層を形成する工程である。焼き付け方法は特に限定されず、従来公知の焼き付け方法を用いることができる。例えば、ワニスが塗布された導体を焼き付け炉内に配置してワニスを焼き付けることができる。
【0089】
以上により、導体および絶縁層を備える絶縁電線が製造される。なお、導体の表面に積層される絶縁層が所定の厚さとなるまで、塗布工程および焼き付け工程を繰り返してもよい。
【実施例
【0090】
以下、実施例を挙げて本開示を詳細に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。本実施例において「A/B=C/D」という形式の表記は、AとBの体積比がC:D(すなわち、(Aの体積):(Bの体積)=C:D)であることを意味する。
【0091】
≪絶縁層形成用樹脂ワニスの作製≫
<原料溶液の作製>
(第一イソシアネート化合物の溶液)
ポリイソシアネート樹脂(商品名:CT-ステーブル、BAYER社製)をクレゾール/キシレン=80/20に溶解し、50質量%の第一イソシアネート化合物の溶液(以下、「溶液A-1」という場合がある。)を得た。本実施例で用いられた第一イソシアネート化合物は、上記化学式2で示される化合物であり、上記化学式2中のRは全てフェニル基(-C)であり、R、RおよびRはトリル基(-C)である。
【0092】
(第二イソシアネート化合物の溶液)
MDI285g、2,2-ビス(4-ポリオキシエチレンオキシフェニル)プロパン188gおよびキシレノール酸206gをそれぞれフラスコに加えた。その後、攪拌しながら150℃で3時間反応させた。得られた反応溶液に希釈用のクレゾール/高沸点ナフサ=5/5(425g)を投入し均一になるように撹拌して、55質量%の第二イソシアネート化合物の溶液(以下、「溶液A-2」という場合がある。)を得た。本実施例で用いられた第二イソシアネート化合物は、上記化学式3で示される化合物であり、上記化学式3中のRは全てジメチルフェニル基(-C)であり、Rは炭素数が24の芳香族炭化水素基(-C2432)であり、RおよびRは炭素数が13のジフェニルメチル基(-C1314)である。
【0093】
(ポリアミドイミドアミン化合物の溶液)
無水トリメリット酸384g、4,4’-ジアミノジフェニルメタン594gおよびクレゾール1000gをそれぞれフラスコに加えた。その後、200℃で5時間反応させた。得られた反応溶液に希釈用のクレゾール/高沸点ナフサ=8/2(1000g)を投入し均一になるように撹拌して、37質量%のポリアミドイミドアミン化合物の溶液(以下、「溶液A-3」という場合がある。)を得た。本実施例で用いられたポリアミドイミドアミン化合物は、上記化学式5で示される化合物であり、上記化学式5中のRは全て炭素数が13のジフェニルメチル基(-C1314)であり、nは2である。
【0094】
<絶縁層形成用樹脂ワニスの作製>
上記溶液A-1、上記溶液A-2および上記溶液A-3を用いて、表1の配合比にて試料1~13および試料A~Cそれぞれの絶縁層形成用樹脂ワニス(27質量%)(絶縁塗料)を作製した。ここで、上記27質量%とは、上記絶縁塗料の質量を100%とした場合の、上記溶液A-1、上記溶液A-2および上記溶液A-3の質量%を意味する。試料1~13の絶縁層形成用樹脂ワニスは、実施例に対応する。試料A~Cの絶縁層形成用樹脂ワニスは、比較例に対応する。また、試料Aでは、上記溶液A-1および上記溶液A-2の代わりに、多価ブロックイソシアネート樹脂(商品名:コロネートC-2503、東ソー社製)および2価ブロックイソシアネート樹脂(商品名:ミリオネートMS-50、東ソー社製)をそれぞれ用いた。
【0095】
【表1】
【0096】
絶縁層形成用樹脂ワニスにおける、第一イソシアネート化合物、第二イソシアネート化合物およびポリアミドイミドアミン化合物の含有割合(質量%)のそれぞれを表2の「絶縁層形成用樹脂ワニス」の欄に、ウレタン結合、ウレア結合、アミド結合およびイミド結合の結合数の合計に対するウレタン結合およびウレア結合の結合数の合計の割合(%)()を表2の「ウレタン結合+ウレア結合(%)」の欄に示す。
【0097】
【表2】
【0098】
≪絶縁電線の作製≫
以下のようにして、試料1~13および試料A~Cに対応する絶縁電線を作製した。まず、上記絶縁層形成用樹脂ワニスを、直径0.20mmの丸銅線からなる導体の外周面に塗装ダイスを用いて塗布した。次に、上記絶縁層形成用樹脂ワニスが塗布された導体に対して、横型電熱炉(炉長3m)を用いて焼き付け処理を行った。このときの条件は、入口温度360℃、出口温度380℃、塗装ダイス引き6回、線速80m/minとした。これにより、線状の導体の外周面に絶縁層が設けられた絶縁電線を製造した。なお、各絶縁層の厚みは、10~14μmとなるように上記絶縁層形成用樹脂ワニスの塗布量を調製した。
【0099】
≪評価≫
(耐軟化試験)
試料1~13および試料A~Cの短絡温度を、耐軟化試験装置(東特塗料社製)を用いて、以下の試験条件により測定した。上記短絡温度は、上記各試料の試験片2本を互いに直交するように配置し、その交点に規定の温度で規定のおもりを加えた時に短絡する温度を意味する。当該試験は、JIS C3216-6:2019の「JA.2 耐軟化」に準拠して行われた。結果を表3の「短絡温度(℃)」欄に示す。短絡温度が高い程、耐熱性に優れる絶縁電線として評価できる。
[耐軟化試験の条件]
測定方式:昇温式
試料線径:丸線(0.2mm)
昇温速度:2℃/分で500℃まで
荷重 :200g
(tanδ試験)
試料1~13および試料A~Cのtanδを誘電正接試験装置(東特塗料社製)を用いて測定した。tanδは、絶縁層に印加した充電電流に対する発生損失の割合を意味し、当該試験では、tanδが急激に上昇する温度(Tx)を測定した。当該試験は、JIS C3216-5:2019の「6 誘電正接」に準拠して行われた。結果を表3の「Tx(℃)」欄に示す。Txが高い程、Tgが上がるため、耐熱性に優れる絶縁電線として評価できる。
【0100】
(半田付性試験)
試料1~13および試料A~Cの半田付時間を半田付装置(日本電熱社製)を用いて測定した。上記半田付時間は、上記各試料の導体に半田が付くまでのはんだ槽への浸漬時間を意味する。当該試験は、JIS C3216-4:2019の「5 はんだ付け性」に準拠し、絶縁層(皮膜)は除去せずに実施した。結果を表3の「半田付時間(秒)」欄に示す。なお、表3に記載の温度ははんだ槽の温度である。半田付時間が短い程、半田付性に優れる絶縁電線として評価できる。
【0101】
【表3】
【0102】
≪評価≫
試料1~13(実施例)は、試料A~C(比較例)と比較して、短絡温度およびTxが高くなった。このことは、実施例に係る絶縁電線は、比較例に係る絶縁電線よりも、耐熱性が良好であることを示唆している。
【0103】
また、試料1~13(実施例)は、試料A~C(比較例)と比較して、430℃および450℃における半田付時間が長くなった。このような比較的高い温度でも、実施例の絶縁電線の絶縁層は耐熱性が比較例の絶縁電線より高くなっていることが分かる。一方で、470℃における半田付時間は実施例と比較例とで同程度であった。このことは、特に450℃超の温度(例えば、470℃以上)での半田付を行う場合、実施例に係る絶縁電線は、高い耐熱性を有しつつ、比較例に係る絶縁電線と同様に短時間で絶縁層が分解するため、短時間で半田付が可能である(半田付性が良好である)ことを示している。
【0104】
なお、実施例の絶縁電線の絶縁層は、特に半田付の温度が450℃超の温度(例えば、470℃以上)での半田付を行う場合に、上記の優れた耐熱性と良好な半田付性の両特性を備えるものであるが、上述の絶縁層形成用樹脂ワニスの組成を調整し、半田付の温度に応じた最適な絶縁層を形成することで、様々な半田付の温度に応じて、絶縁層の耐熱性と半田付性のバランスを調整することができると考えられる。
【0105】
以上のように本開示の実施形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
【0106】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。