(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】生体組織用二液型バインダーおよび生体組織用二液型充填材
(51)【国際特許分類】
A61L 26/00 20060101AFI20240830BHJP
A61L 27/14 20060101ALI20240830BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
A61L26/00
A61L27/14
A61L27/52
(21)【出願番号】P 2020089302
(22)【出願日】2020-05-22
【審査請求日】2023-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】520385021
【氏名又は名称】ウェトラブホールディング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141472
【氏名又は名称】赤松 善弘
(72)【発明者】
【氏名】岡野 仁夫
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0276088(US,A1)
【文献】国際公開第2008/023462(WO,A1)
【文献】特開2006-096846(JP,A)
【文献】特開2016-165239(JP,A)
【文献】特表2002-512087(JP,A)
【文献】特開2018-000996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織
の創傷部に用いられる
生体組織用二液型バインダーであって、ポリビニルアルコール水溶液を含有する第1液と、架橋剤を含有する第2液とを有
し、前記ポリビニルアルコールが、平均重合度が500~2000であり、ケン化度が98%以上であるポリビニルアルコールであり、ポリビニルアルコール100質量部あたりの架橋剤の量が80~100質量部であり、前記架橋剤がホウ砂であることを特徴とする生体組織用二液型バインダー。
【請求項2】
第1液および第2液がそれぞれ別々の容器に充填されてなる請求項
1に記載の生体組織用二液型バインダー。
【請求項3】
生体組織の創傷部の充填材として用いられる生体組織用二液型充填材であって、ポリビニルアルコール水溶液を含有する第1液と、架橋剤を含有する第2液とを有
し、前記ポリビニルアルコールが、平均重合度が500~2000であり、ケン化度が98%以上であるポリビニルアルコールであり、ポリビニルアルコール100質量部あたりの架橋剤の量が80~100質量部であり、前記架橋剤がホウ砂であることを特徴とする生体組織用二液型充填材。
【請求項4】
第1液および第2液がそれぞれ別々の容器に充填されている請求項
3に記載の生体組織用二液型充填材。
【請求項5】
血管内閉塞剤として用いられる生体組織用二液型充填材であって、ポリビニルアルコール水溶液を含有する第1液と、架橋剤を含有する第2液とを有
し、前記ポリビニルアルコールが、平均重合度が500~2000であり、ケン化度が98%以上であるポリビニルアルコールであり、ポリビニルアルコール100質量部あたりの架橋剤の量が80~100質量部であり、前記架橋剤がホウ砂であることを特徴とする生体組織用二液型充填材。
【請求項6】
第1液および第2液がそれぞれ別々の容器に充填されている請求項
5に記載の生体組織用二液型充填材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織用二液型バインダーおよび生体組織用二液型充填材に関する。さらに詳しくは、本発明は、手術の際の生体の縫合部、切断面などに好適に使用することができる生体組織用二液型バインダーおよび生体組織用二液型充填材に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織用バインダーは、手術の際の生体の縫合部、切断面などに使用されている血漿分画製剤であり、その主たるものとしてフィブリン糊がよく知られている(例えば、特許文献1参照)。フィブリン糊は、糸状タンパク質であるフィブリノゲンおよびトロンビンを含有しており、フィブリノゲンがトロンビンによってフィブリンに変化し、複数のフィブリンが結合することにより、接着剤としての機能を発現するものである。
【0003】
しかし、フィブリン糊は、血漿分画製剤であることからC型肝炎などの感染症を招来するおそれがあり、諸外国によってはその使用が禁止されていることから、フィブリン糊の代替となる生体組織用バインダーの開発が急務となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来のフィブリン糊の代替として、例えば、手術の際の生体の縫合部、切断面などに好適に使用することができるバインダーおよび充填材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
(1) 生体組織に用いられるバインダーであって、ポリビニルアルコール水溶液を含有する第1液と、架橋剤を含有する第2液とを有することを特徴とする生体組織用二液型バインダー、
(2) ポリビニルアルコールの平均重合度が300~4000である前記(1)に記載の生体組織用二液型バインダー、
(3) ポリビニルアルコールのケン化度が90モル%以上である前記(1)または(2)に記載の生体組織用二液型バインダー、
(4) 架橋剤がホウ酸および/またはホウ酸塩の水溶液である前記(1)~(3)のいずれかに記載の生体組織用二液型バインダー、
(5) 第1液および第2液がそれぞれ別々の容器に充填されてなる前記(1)~(4)のいずれかに記載の生体組織用二液型バインダー、
(6) 生体組織に用いられるバインダーであって、ポリビニルアルコール水溶液を含有する第1液と、架橋剤を含有する第2液とを有することを特徴とする生体組織用二液型充填材、
(7) ポリビニルアルコールの平均重合度が300~4000である前記(6)に記載の生体組織用二液型充填材、
(8) ポリビニルアルコールのケン化度が90モル%以上である前記(6)または(7)に記載の生体組織用二液型充填材、
(9) 架橋剤がホウ酸および/またはホウ酸塩の水溶液である前記(6)~(8)のいずれかに記載の生体組織用二液型充填材、および
(10) 第1液および第2液がそれぞれ別々の容器に充填されている前記(6)~(9)のいずれかに記載の生体組織用二液型充填材
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来のフィブリン糊の代替として、例えば、手術の際の生体の縫合部、切断面などに好適に使用することができる生体組織用二液型バインダーおよび生体組織用二液型充填材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の生体組織用二液型バインダーの使用方法の一実施態様を示す概略説明図である。
【
図2】本発明の生体組織用二液型バインダーの使用方法の他の一実施態様を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の生体組織用二液型バインダーは、前記したように、ポリビニルアルコール水溶液を含有する第1液と、架橋剤を含有する第2液とを有することを特徴とする。また、本発明の生体組織用二液型充填材は、前記したように、ポリビニルアルコール水溶液を含有する第1液と、架橋剤を含有する第2液とを有することを特徴とする。
【0010】
本発明の生体組織用二液型バインダーおよび生体組織用二液型充填材では、第1液および第2液は、混合しないでそれぞれ別個独立に有し、第1液と第2液とが組み合わせて用いられている。本発明の生体組織用二液型バインダーおよび生体組織用二液型充填材を使用する際に、第1液と第2液とが混合される。
【0011】
(1)第1液
第1液は、ポリビニルアルコール水溶液を含有する。ポリビニルアルコールは、人体に対する安全性が高い化合物として知られている。ポリビニルアルコールを架橋剤で架橋させてなるポリビニルアルコールのゲルは、水に対する溶解性が低く、ポリビニルアルコールと同様に人体に対する安全性が高い。
【0012】
ポリビニルアルコールの平均重合度は、本発明の生体組織用二液型バインダーによる接着強度を向上させるとともに、本発明の生体組織用二液型充填材で形成された充填物の機械的強度を向上させる観点から、好ましくは300以上、より好ましくは500以上、さらに好ましくは1000以上であり、本発明の生体組織用二液型バインダーから形成されるゲルおよび生体組織用二液型充填材で形成される充填物の柔軟性を向上させる観点から、好ましくは4000以下、より好ましくは3000以下、さらに好ましくは2500以下である。なお、本明細書において、ポリビニルアルコールの平均重合度は、粘度法で求められる平均重合度を意味する。
【0013】
ポリビニルアルコールのケン化度は、本発明の生体組織用二液型バインダーによる接着強度および当該バインダーから形成されるゲルの柔軟性を向上させ、本発明の生体組織用二液型充填材で形成される充填物の機械的強度および柔軟性を向上させる観点から、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは98モル%以上である。なお、ポリビニルアルコールのケン化度の上限値には限定がなく、高ければ高いほど好ましく、完全ケン化のポリビニルアルコールが好ましい。
【0014】
ポリビニルアルコール水溶液は、ポリビニルアルコールを所定濃度となるように水に溶解させることにより、容易に調製することができる。水としては、純水、精製水、イオン交換水、水道水などが挙げられるが、人体に対する安全性の観点から、純水が好ましい。水は、その水温が常温であってもよく、加温されていてもよく、あるいは冷却されていてもよい。
【0015】
ポリビニルアルコール水溶液におけるポリビニルアルコールの濃度は、本発明の生体組織用二液型バインダーによる接着強度を向上させ、本発明の生体組織用二液型充填材で形成された充填物の機械的強度を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上であり、水に対するポリビニルアルコールの溶解性を向上させる観点から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
【0016】
なお、第1液には、必要により、ポリビニルアルコール水溶液以外の成分として、本発明の目的を阻害しない範囲内で、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、天然色素、ビタミンDなどの各種ビタミン、ヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステルなどの造影剤、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースなどの多糖類、ブドウ糖、乳糖などの糖類、コラーゲン、ゼラチン、アパタイトなどの添加剤が含まれていてもよい。これらの添加剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。第1液における添加剤の含有率は、当該添加剤の種類によって異なることから、当該添加剤の種類に応じて適宜調整することが好ましい。添加剤のなかでは、本発明のバインダーまたは充填材と、生体組織との接着性を向上させる観点から、糖類が好ましく、ブドウ糖がより好ましい。第1液における糖類、好ましくはブドウ糖の含有率は、生体組織との接着性を向上させる観点から、好ましくは3~15質量%、より好ましくは5~10質量%である。
【0017】
(2)第2液
第2液は、架橋剤を含有する。架橋剤としては、ポリビニルアルコールを架橋させることができる架橋剤であれば特に限定されないが、人体に対する安全性に優れ、ポリビニルアルコールを架橋させることができる架橋剤が好ましい。
【0018】
架橋剤としては、例えば、ホウ酸、ホウ酸カリウム、ホウ酸ナトリウム(ホウ砂)などのホウ酸またはその塩に代表されるホウ酸および/またはホウ酸塩〔以下、ホウ酸(塩)ともいう〕などのホウ素化合物;チタン、チタンアセチルアセテート、トリエタノールアミンチタネート、チタンアンモニウムラクテート、チタンラクテートなどのチタンおよびその化合物、ジルコニウム、フッ化ジルコニウム、塩化ジルコニウム、臭化ジルコニウム、ジルコニウム酸、ジルコニウム酸塩、塩化ジルコニル、硫酸ジルコニル、硝酸ジルコニル、炭酸ジルコニル、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、酢酸ジルコニル、ステアリン酸ジルコニル、オクチル酸ジルコニル、クエン酸ジルコニル、乳酸ジルコニル、リン酸ジルコニルなどのジルコニウムおよびその化合物などに代表される多価金属およびその化合物;エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、N-アミノエチルピペラジン、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミンなどのアミン化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの架橋剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0019】
架橋剤のなかでは、人体に対する安全性に優れているとともに、ポリビニルアルコールを迅速に硬化させることから、ホウ素化合物および多価金属およびその化合物が好ましく、ホウ素化合物がより好ましく、ホウ酸(塩)がさらに好ましい。また、ホウ酸(塩)のなかでは、本発明の生体組織用二液型バインダーによる接着強度および当該バインダーから形成されるゲルの柔軟性を向上させる観点、および本発明の生体組織用二液型充填材で形成される充填物の機械的強度および柔軟性を向上させるとともに人体に対する安全性を高める観点から、ホウ酸およびホウ砂が好ましく、ホウ砂がより好ましい。
【0020】
架橋剤は、水溶性を有する場合には水溶液として用いることができ、水不溶性を有する場合には水分散体として用いることができる。例えば、架橋剤としてホウ酸(塩)を用いる場合、ホウ酸(塩)は、水溶性を有することから、所定濃度となるように水に溶解させ、水溶液として用いることができる。水溶液に用いられる水としては、純水、精製水、イオン交換水、水道水などが挙げられるが、人体に対する安全性の観点から、純水が好ましい。水は、その水温が常温であってもよく、加温または冷却されていてもよい。
【0021】
第2液における架橋剤の含有率は、当該架橋剤の種類によって異なるので一概には決定することができないことから、当該架橋剤の種類に応じて適宜決定することが好ましい。例えば、架橋剤としてホウ酸(塩)を用いる場合、第2液は、ホウ酸(塩)の水溶液のみで構成されていてもよく、ホウ酸(塩)の水溶液以外の成分として、添加剤が本発明の目的を阻害しない範囲内で含まれていてもよい。架橋剤として、例えば、ホウ酸(塩)の水溶液を用いる場合、ホウ酸(塩)の水溶液におけるホウ酸(塩)の濃度は、ポリビニルアルコールを迅速に硬化させる観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、本発明の生体組織用二液型バインダーによる接着強度および当該バインダーから形成されるゲルの柔軟性を向上させ、本発明の生体組織用二液型充填材で形成される充填物の機械的強度および柔軟性を向上させる観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0022】
第2液に用いられる添加剤としては、第1液に使用される添加剤と同様のものを例示することができる。第2液における添加剤の含有率は、当該添加剤の種類によって異なることから、当該添加剤の種類に応じて適宜調整することが好ましい。第2液に用いられる添加剤のなかでは、本発明のバインダーまたは充填材と、生体組織との接着性を向上させる観点から、糖類が好ましく、ブドウ糖がより好ましい。第2液における糖類の含有率、好ましくはブドウ糖の含有率は、生体組織との接着性を向上させる観点から、好ましくは3~15質量%、より好ましくは5~10質量%である。
【0023】
(3)生体組織用二液型バインダーおよび生体組織用二液型充填材
本発明の生体組織用二液型バインダーおよび生体組織用二液型充填材は、それぞれ、以上のようにして得られる第1液と第2液とを有する。
【0024】
第1液の量および第2液の量は、第1液に含まれているポリビニルアルコールを迅速にゲル化させるとともに硬化したバインダーまたは硬化した充填材の機械的強度を向上させる観点から、第1液に含まれているポリビニルアルコール100質量部あたり第2液に含まれている架橋剤の量が80~120質量部程度となるように調整することが好ましい。なお、硬化したバインダーまたは硬化した充填材は、それぞれ、ポリビニルアルコールがゲル化したバインダーまたはポリビニルアルコールがゲル化した充填材を意味する。
【0025】
また、本発明の生体組織用二液型バインダーおよび生体組織用二液型充填材においては、平均重合度が500~2000であり、ケン化度が98%以上であるポリビニルアルコールを用い、ポリビニルアルコール100質量部あたりの架橋剤の量を80~100質量部に調整した場合には、ゲル化したポリビニルアルコールを生体組織中で徐々に消失させることができる。
【0026】
本発明の生体組織用二液型バインダーおよび生体組織用二液型充填材は、例えば、第1液と第2液とを組み合わせた一組のキットとして構成することができる。したがって、本発明の生体組織用二液型バインダーおよび生体組織用二液型充填材において、第1液および第2液は、それぞれアンプル、バイアル、スプレー容器などの容器に別々に充填して使用することができる。当該容器の形状、大きさおよび材質には特に限定がない。当該容器の形状、大きさおよび材質は、本発明の生体組織用二液型バインダーおよび生体組織用二液型充填材の用途に応じて適宜選択することができる。当該容器の一例として、容量が5~200mLである、ポリプロピレン、アクリル樹脂、AS樹脂などの樹脂からなる樹脂容器、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル樹脂などの樹脂からなる袋体、ガラス瓶などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0027】
本発明の生体組織用二液型バインダーおよび生体組織用二液型充填材は、例えば、当該生体組織用二液型バインダーおよび当該生体組織用二液型充填材に使用される第1液および第2液をそれぞれ別々の容器に入れ、両者を組み合わせた一組のキットとして製造し、市場に流通することができる。
【0028】
(4)生体組織用二液型バインダーおよび生体組織用二液型充填材の使用方法
本発明の生体組織用二液型バインダーおよび生体組織用二液型充填材では、第1液と第2液とを混合することにより、使用することができる。
【0029】
第1液と第2液との混合は、例えば、第1液に第2液を添加することによって混合してもよく、第2液に第1液を添加することによって混合してもよく、第1液と第2液とを同時に互いに混合してもよい。
【0030】
(A)生体組織用二液型バインダーの使用方法
以下に本発明の生体組織用二液型バインダーの使用方法を図面に基づいて詳細に説明するが、本発明は、当該図面に記載の実施態様のみに限定されるものではない。
【0031】
〔生体組織用二液型バインダーの使用方法A〕
図1は、本発明の生体組織用二液型バインダーの使用方法の一実施態様を示す概略説明図であるが、本発明は、当該実施態様のみに限定されるものではない。
【0032】
まず、
図1(a)に示されるように、創傷部1aを有する生体組織1を用意する。
図1(a)に示される実施態様では、創傷部1aを有する生体組織1が使用されているが、例えば、褥瘡部を有する生体組織、熱傷部を有する生体組織などの他の生体組織であってもよい。
【0033】
生体組織1としては、例えば、皮膚、食道、胃、大腸、小腸、胆管、膵管、膀胱、尿管、尿道、血管、膣、肛門、心臓、腎臓、肝臓、膵臓、脾臓、肺、副腎、腹膜、舌咽頭、甲状腺、副甲状腺、胸壁、腹壁、横隔膜、胆嚢、膀胱、前立腺などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0034】
本発明においては、生体組織1の代わりに生体組織のモデルを用いることができる。生体組織のモデルは、例えば、医学部学生、外科医師などが手技の技術力向上を目的として使用することができる。生体組織のモデルとしては、例えば、特許第4675414号公報、特許第4993518号公報、特許第4993519号公報に記載の臓器モデル、特許第4993516号公報に記載の手技練習用シート、特許第4993518号公報に記載の臓器モデル、特許第4790055号公報に記載の血管モデル、特開2011-022522号公報に記載の皮膚モデルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの臓器モデル、血管モデルおよび皮膚モデルは、いずれも本発明において好適に使用することができる。
【0035】
したがって、本発明の生体組織用二液型バインダーは、生体組織モデル用二液型バインダーとしても使用することができる。
【0036】
次に、
図1(b)に示されるように、生体組織1の創傷部1aに本発明の生体組織用二液型バインダーの第1液2を塗布する。生体組織1の創傷部1aに第1液2を塗布する際の温度および雰囲気には特に限定がない。通常、第1液2の塗布は、室温で空気中で行なうことができるが、必要により生体組織1および/または第1液2の加温下または冷却下で、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガスなどの雰囲気中で行なってもよい。
【0037】
第1液2を創傷部1aに塗布する方法としては、例えば、スプレー、スポイト、シリンジ、ブラシ、ローラー、筆などを用いて塗布する方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
図1(b)に示される実施態様では、スプレー容器3を用いて第1液2を噴霧することにより、第1液2が創傷部1aに塗布される。
【0038】
生体組織1の創傷部1aにおける第1液2の塗布量は、創傷部1aの大きさおよび範囲によって異なるので、一概には決定することができないことから、創傷部1aの大きさおよび範囲に応じて適宜決定することが好ましい。通常、生体組織1の創傷部1aにおける第1液2の塗布量は、創傷部1aが第1液2によって完全に覆われるように調整する。
【0039】
引き続いて第1液2を創傷部1aに塗布した後、
図1(c)に示されるように、第1液2が乾燥する前に第2液4を第1液2上に塗布する。生体組織1の創傷部1aに塗布された第1液2上に第2液4を塗布する際の温度および雰囲気には特に限定がない。第1液2上に第2液4を塗布する際の温度および雰囲気は、第1液2を創傷部1aに塗布する際の温度および雰囲気と同様である。
【0040】
生体組織1の創傷部1aに塗布された第1液2上に第2液4を塗布する方法としては、例えば、スプレー、スポイト、シリンジ、ブラシ、ローラー、筆などを用いて塗布する方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
図1(c)に示される実施態様では、スプレー容器3を用いて第2液4を噴霧することにより、第2液4が第1液2上に塗布される。
【0041】
生体組織1の創傷部1aに塗布された第1液2上に第2液4を塗布することにより、第1液2に含まれているポリビニルアルコールは、第2液4に含まれている架橋剤によって架橋し、ゲル化する。ポリビニルアルコールをゲル化させる際の温度および雰囲気には特に限定がない。ポリビニルアルコールをゲル化させる際の温度および雰囲気は、第1液2を創傷部1aに塗布する際の温度および雰囲気と同様である。
【0042】
以上のようにして第1液に含まれているポリビニルアルコールを第2液に含まれている架橋剤でゲル化させることにより、生体組織1の創傷部1aを被覆することができる。
【0043】
〔生体組織用二液型バインダーの使用方法B〕
図2は、本発明の生体組織用二液型バインダーの使用方法の他の一実施態様を示す概略説明図であるが、本発明は、当該実施態様のみに限定されるものではない。
【0044】
まず、
図2(a)に示されるように、創傷部1aを有する生体組織1を用意する。
図2(a)に示される実施態様では、創傷部1aを有する生体組織1が使用されているが、
図1に示される実施態様と同様に、例えば、褥瘡部を有する生体組織、熱傷部を有する生体組織などの他の生体組織であってもよい。生体組織1としては、
図1に示される実施態様で使用されている生体組織と同様のものを例示することができる。また、生体組織1の代わりに生体組織のモデルを用いることができる。生体組織のモデルとしては、
図1に示される実施態様で使用される生体組織のモデルと同様のものが例示される。
【0045】
次に、
図2(b)に示されるように、生体組織1の創傷部1aに本発明の生体組織用二液型バインダーの第1液2を塗布する。生体組織1の創傷部1aに第1液2を塗布する際の温度および雰囲気には特に限定がない。通常、第1液2の塗布は、室温で空気中で行なうことができるが、必要により、生体組織1および/または第1液2の加温下または冷却下で、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガスなどの雰囲気中で行なってもよい。
【0046】
第1液2を創傷部1aに塗布する方法としては、例えば、スプレー、スポイト、シリンジ、ブラシ、ローラー、筆などを用いて塗布する方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
図2(b)に示される実施態様では、スプレー容器3を用いて第1液2を噴霧することにより、第1液2が創傷部1aに塗布される。
【0047】
生体組織1の創傷部1aにおける第1液2の塗布量は、創傷部1aの大きさおよび範囲によって異なるので、一概には決定することができないことから、創傷部1aの大きさおよび範囲に応じて適宜決定することが好ましい。通常、生体組織1の創傷部1aにおける第1液2の塗布量は、創傷部1aが第1液2によって完全に覆われるように調整される。
【0048】
生体組織1の創傷部1aに本発明の生体組織用二液型バインダーの第1液2を塗布した後、
図2(c)に示されるように、第1液2の塗布面に透水性組織補強材5を載置する。
【0049】
透水性組織補強材5は、透水性を有し、生体組織を補強する材料を意味する。透水性組織補強材5としては、例えば、創傷被覆材、組織代用繊維布などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。透水性組織補強材5は、商業的に容易に入手することができるものであり、本発明の生体組織用二液型バインダーの使用目的に応じて適宜選択して用いることが好ましい。商業的に入手することができる透水性組織補強材としては、例えば、アルケア(株)製、商品名:ソーブサン・プラス、ソーブサン・フラット、ソーブサン・リボンなど;コンバテック・ジャパン(株)製、商品名:デュオアクティブ、アクアセル、ビジダーム、カルトスタットなど;(株)クラレ製、商品名:クラビオFGなど;スミス・アンド・ネフュー(株)製、商品名:ハイドロサイトなど;スリーエムジャパン(株)製、商品名:バーシバXCなど;日東電工(株)製、商品名:アブソキュアサジカル、アブソキュアウンドなど;(株)メディコン製、商品名:アルゴダームトリオニックなど;ユニチカ(株)製、商品名:ベスキチンW、ベスキチンW-Aなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0050】
図2(c)に示されるように、第1液2の塗布面に透水性組織補強材5を載置し、第1液2を透水性組織補強材5に含浸させる。第1液2の塗布面に透水性組織補強材5を載置する際の温度および雰囲気には特に限定がない。通常、透水性組織補強材5の載置は、室温で空気中で行なうことができるが、必要により、生体組織1および/または第1液2の加温下または冷却下で、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガスなどの雰囲気中で行なってもよい。
【0051】
第1液2の塗布面に透水性組織補強材5を載置することにより、透水性組織補強材5に第1液2が含浸された透水性組織補強材5aには、第1液2が乾燥する前に
図2(d)に示されるように第2液4を塗布する。
図2(d)に示される実施態様においては、スプレー容器3を用い、第2液4を噴霧することによって透水性組織補強材5aに塗布したときの例であるが、第2液4を透水性組織補強材5aに塗布する方法には特に限定がない。第2液4を透水性組織補強材5aに塗布する方法としては、例えば、スプレー、スポイト、シリンジ、ブラシ、ローラー、筆などを用いて塗布する方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
図2(d)に示される実施態様では、スプレー容器3を用いて第2液4を噴霧することにより、第2液4が第1液2上に塗布される。
【0052】
透水性組織補強材5aに含まれているポリビニルアルコールは、第2液4に含まれている架橋剤によって架橋し、ゲル化する。ポリビニルアルコールをゲル化させる際の温度および雰囲気には特に限定がない。ポリビニルアルコールをゲル化させる際の温度および雰囲気は、第1液2を創傷部1aに塗布する際の温度および雰囲気と同様である。
【0053】
以上のようにして第1液に含まれるポリビニルアルコールを第2液に含まれる架橋剤でゲル化させることにより、生体組織1の創傷部1aを透水性組織補強材5で被覆することができる。生体組織1を被覆している透水性組織補強材5は、架橋したポリビニルアルコールによって生体組織1に接着している。透水性組織補強材5aを生体組織1に付着させた後には、必要により透水性組織補強材5aを乾燥させてもよい。
【0054】
(B)生体組織用二液型充填材の使用方法
本発明の生体組織用二液型充填材は、第1液と第2液とを混合し、得られた混合液を例えば、皮膚欠損部に充填することにより、当該皮膚欠損部での止血を行なうことができる。
【0055】
本発明の生体組織用二液型充填材によれば、例えば、生体組織の創傷部の凹部に本発明の生体組織用二液型充填材の第1液または第2液を注入した後、引き続いて第2液または第1液を注入し、当該創傷部に第1液および第2液を有する充填材を充填することにより、当該創傷部の凹部を充填することができる。したがって、本発明の生体組織用二液型充填材は、創傷部充填材として使用することができる。
【0056】
また、本発明の生体組織用二液型充填材にれば、例えば、第1液または当該第2液を血管内に注入、引き続いて当該第2液または当該第1液を注入し、当該血管内を閉塞させたり、第1液と第2液とを混合し、得られた混合溶液を速やかに血管内に注入し、当該血管内を閉塞させることにより、癌治療などのための血管の閉塞に使用することができる。したがって、本発明の生体組織用二液型充填材に使用されている第1液および第2液は、血管内閉塞剤として使用することができる。
【0057】
(5)本発明の生体組織用二液型バインダーおよび生体組織用二液型充填材の特徴
本発明の生体組織用二液型バインダーおよび生体組織用二液型充填材においては、第1液と第2液とが反応し、第1液に含まれているポリビニルアルコールが、第2液に含まれている架橋剤によってゲル化する。生成したゲルは、その組成が通常均一であり、第1液に人体に対する安全性に優れているポリビニルアルコールが原料として用いられていることから人体に対する安全性に優れているとともに、生体適合性に優れており、さらに生体組織に対する接着性にも優れている。また、前記ゲルは、悪臭を放出せず、生体組織との癒着を防止し、止血作用を有する。なかでも第2液に使用される架橋剤としてホウ酸(塩)を使用した場合には、当該ホウ酸(塩)は、生体組織に対する安全性が高く、しかもポリビニルアルコールのゲル化を迅速に進行させることができるという利点がある。
【0058】
したがって、本発明の生体組織用二液型バインダーおよび生体組織用二液型充填材は、それぞれ、従来のフィブリン糊と代替可能なバインダーおよび充填材として好適に使用することができる。
【0059】
また、本発明の生体組織用二液型バインダーに使用されている第1液および第2液は、いずれも、常温において液体であり、流動性を有していることから、通常の生体組織用バインダーとしての用途以外に、内視鏡カメラのノズルから生体内で手術後の創傷部に第1液または第2液を注入した後、引き続いて第2液または第1液を注入することにより、当該創傷部における生体組織を結合させることができる。したがって、当該第1液および当該第2液は、内視鏡カメラ用生体組織結合剤として使用することができる。なお、第1液と第2液とを同時に混合する場合には、例えば、シリンジ2本、バイアル1本および付属品によって構成されるデュラシール(登録商標)ブルースプレーなどを用いて第1液と第2液とを同時に混合することができる。
【0060】
本発明の生体組織用二液型バインダーに使用されている第1液および第2液は、生体組織用バインダーに使用すること以外に種々の用途に使用することができる。例えば、本発明の生体組織用二液型バインダーに使用される第1液および第2液は、ヒトをはじめとする動物の生体組織の創傷部、縫合部、切断面などにおける止血剤をはじめ、生体組織癒着防止剤などとして使用することができる。
【0061】
本発明の生体組織用二液型バインダーに使用されている第1液および第2液は、切創、裂創、刺創、割創、剥皮創などの生体内外の創傷、褥瘡部などに適用することにより、創傷、褥瘡部などを保護することから、創傷・褥瘡保護剤として使用することができる。また、当該第1液および当該第2液は、例えば、肝臓などの生体組織の患部を焼灼することによって治療した後の創傷部に当該第1液または当該第2液を塗布した後、引き続いて当該第2液または当該第1液をそれぞれ塗布し、当該創傷部に被膜を形成することから、創傷部の被膜形成剤として使用することができる。さらに、当該第1液および当該第2液は、生体の皮膚の火傷などの創傷部、褥瘡部などの皮膚損傷部にガーゼ、絆創膏などの皮膚の保護部材を貼る前に当該皮膚損傷部に適用することにより、当該保護部材が当該皮膚損傷部に癒着することを防止することから、保護部材の癒着防止剤としても使用することができる。
【実施例】
【0062】
次に、本発明の生体組織用二液型バインダーおよび生体組織用二液型充填材を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0063】
製造例1
平均重合度が1700であり、ケン化度が約98~99モル%であるポリビニルアルコール〔(株)クラレ製、商品名:クラレポバールPVA-117〕を濃度が3質量%となるように水に溶解させ、ポリビニルアルコール水溶液を得た。得られたポリビニルアルコール水溶液500gを1L容のビーカーに入れ、80℃で15分間加温した後、常温まで放冷することにより、第1液Aを得た。
【0064】
製造例2
平均重合度が1700であり、ケン化度が約98~99モル%であるポリビニルアルコール〔(株)クラレ製、商品名:クラレポバールPVA-117〕を濃度が5質量%となるように水に溶解させ、ポリビニルアルコール水溶液を得た。得られたポリビニルアルコール水溶液500gを1L容のビーカーに入れ、80℃で15分間加温した後、常温まで放冷することにより、第1液Bを得た。
【0065】
製造例3
平均重合度が1700であり、ケン化度が約98~99モル%であるポリビニルアルコール〔(株)クラレ製、商品名:クラレポバールPVA-117〕を濃度が10質量%となるように水に溶解させ、ポリビニルアルコール水溶液を得た。得られたポリビニルアルコール水溶液500gを1L容のビーカーに入れ、80℃で15分間加温した後、常温まで放冷することにより、第1液Cを得た。
【0066】
製造例4
平均重合度が1700であり、ケン化度が約98~99モル%であるポリビニルアルコール〔(株)クラレ製、商品名:クラレポバールPVA-117〕を濃度が20質量%となるように水に溶解させ、ポリビニルアルコール水溶液を得た。得られたポリビニルアルコール水溶液500gを1L容のビーカーに入れ、80℃で15分間加温した後、常温まで放冷することにより、第1液Dを得た。
【0067】
製造例5
平均重合度が1700であり、ケン化度が約98~99モル%であるポリビニルアルコール〔(株)クラレ製、商品名:クラレポバールPVA-117〕を濃度が25質量%となるように水に溶解させ、ポリビニルアルコール水溶液を得た。得られたポリビニルアルコール水溶液500gを1L容のビーカーに入れ、80℃で15分間加温した後、常温まで放冷することにより、第1液Eを得た。
【0068】
製造例6
平均重合度が500であり、ケン化度が約98~99モル%であるポリビニルアルコール〔(株)クラレ製、商品名:クラレポバールPVA-105〕を濃度が10質量%となるように水に溶解させ、ポリビニルアルコール水溶液を得た。得られたポリビニルアルコール水溶液500gを1L容のビーカーに入れ、80℃で15分間加温した後、常温まで放冷することにより、第1液Fを得た。
【0069】
製造例7
平均重合度が2400であり、ケン化度が約98~99モル%であるポリビニルアルコール〔(株)クラレ製、商品名:クラレポバールPVA-124〕を濃度が10質量%となるように水に溶解させ、ポリビニルアルコール水溶液を得た。得られたポリビニルアルコール水溶液500gを1L容のビーカーに入れ、80℃で15分間加温した後、常温まで放冷することにより、第1液Gを得た。
【0070】
製造例8
ホウ砂を水に溶解させ、ホウ砂の濃度が3質量%であるホウ砂水溶液を得た。得られたホウ砂水溶液を第2液Aとして用いた。
【0071】
製造例9
ホウ砂を水に溶解させ、ホウ砂の濃度が5質量%であるホウ砂水溶液を得た。得られたホウ砂水溶液を第2液Bとして用いた。
【0072】
製造例10
ホウ砂を水に溶解させ、ホウ砂の濃度が10質量%であるホウ砂水溶液を得た。得られたホウ砂水溶液を第2液Cとして用いた。
【0073】
製造例11
ホウ砂を水に溶解させ、ホウ砂の濃度が15質量%であるホウ砂水溶液を得た。得られたホウ砂水溶液を第2液Dとして用いた。
【0074】
製造例12
ホウ砂を水に溶解させ、ホウ砂の濃度が20質量%であるホウ砂水溶液を得た。得られたホウ砂水溶液を第2液Eとして用いた。
【0075】
実施例1~29
各製造例で得られた第1液および第2液を表1に示すように組み合わせることにより、生体組織用二液型バインダーおよび生体組織用二液型充填材をそれぞれ作製した。なお、生体組織用二液型バインダーおよび生体組織用二液型充填材は、称呼が相違しているが、使用されている第1液および第2液の組成は、いずれも同一である。
【0076】
前記で得られた生体組織用二液型バインダーおよび生体組織用二液型充填材を用いて以下の物性を評価した。その結果を表1に併記する。
【0077】
比較例1
製造例3で得られた第1液Cを用いて以下の物性を評価した。その結果を表1に併記する。
【0078】
比較例2
製造例8で得られた第2液Cを用いて以下の物性を評価した。その結果を表1に併記する。
【0079】
比較例3
従来の生体組織用バインダーとして、フィブリン糊〔KMバイオロジクス(株)製〕を用いた。当該フィブリン糊を用いて以下の物性を評価した。その結果を表1に併記する。
【0080】
〔硬化性〕
23℃の空気中で第1液と第2液とを混合した時点からゲル化して硬化するまでの時間を測定し、以下の評価基準に基づいて硬化性を評価した。
【0081】
(評価基準)
◎:ゲル化して硬化するまでの時間が15秒間以内である。
〇:ゲル化して硬化するまでの時間が15秒間を越え、30秒間以内である。
△:ゲル化して硬化するまでの時間が30秒間を越え、45秒間以内である。
×:第1液と第2液とを混合した時点から45秒間を越える。
-:第1液と第2液とが併用されていない。
【0082】
〔接着性〕
創傷被覆材として、透水性組織補強材〔日東電工(株)製、商品名:アブソキュアサジカル、縦:10cm、横:10cmm〕から切り出した創傷被覆材(縦:5cm、横:5cmm)を用いた。
【0083】
被着体として特許第4993518号公報に記載の実施例1に準じて表面が平滑であり、生体に近似している臓器モデル用成形材料(縦:50mm、横:50mm、厚さ:20mm)を作製した。23℃の空気中で創傷被覆材の底面に第1液が十分に付着するように前記で得られた臓器モデル用成形材料の表面に第1液を塗布した後、当該塗布面に創傷被覆材を載置した。
【0084】
次に、当該創傷被覆材に含まれている第1液のポリビニルアルコール水溶液に当量(質量)のホウ酸(塩)が付着するように第2液を噴霧によって当該創傷被覆材に塗布し、当該創傷被覆材を乾燥させた後、当該創傷被覆材の一端を手指で掴んでゆっくりと臓器モデル用成形材料から剥がし、以下の評価基準に基づいて接着性を評価した。
【0085】
(評価基準)
◎:創傷被覆材が臓器モデル用成形材料に十分に付着しており、当該創傷被覆材を剥がし難い。
〇:創傷被覆材が臓器モデル用成形材料に十分に付着しており、当該創傷被覆材をやや剥がし難い。
△:創傷被覆材が臓器モデル用成形材料に付着しているが、当該創傷被覆材を容易に剥がすことができる。
×:創傷被覆材が臓器モデル用成形材料に付着していない。
【0086】
〔臭気〕
23℃の空気中で第1液と第2液とを混合し、得られたゲルの臭気を調べ、以下の評価基準に基づいて臭気を評価した。
【0087】
(評価基準)
◎:臭気がしない。
〇:やや臭気が感じられる。
△:臭気が容易に感じられる。
×:臭気が強い。
【0088】
〔安全性〕
バインダーまたは充填材の原料に人体に対して肝炎などの悪影響を及ぼすおそれのある成分が含まれている可能性があるかどうかを調べ、以下の評価基準に基づいて安全性を評価した。
【0089】
(評価基準)
◎:人体に対して悪影響を及ぼすおそれのある成分が含まれている可能性が低い。
×:人体に対して悪影響を及ぼすおそれのある成分が含まれている可能性が高い。
【0090】
なお、表1に示される物性に1つでも×の評価があるものは、不合格である。
【0091】
【0092】
表1に示された結果から、各実施例で得られた生体組織用二液型バインダーおよび生体組織用二液型充填材は、いずれも硬化性、接着性、臭気および安全性において総合的に優れていることがわかる。したがって、各実施例で得られた生体組織用二液型バインダーおよび生体組織用二液型充填材は、いずれも従来のフィブリン糊の代替として手術の際の生体の縫合部、切断面などに好適に使用することができることがわかる。
【0093】
実施例30
生体組織用二液型バインダーとして、前記で得られた第1液Cおよび第2液Cを用いた。
【0094】
特許第4993519号公報に記載に準じてポリビニルアルコールを原料とする肺モデルを作製した。前記で得られた肺モデル切開し、平坦な切開面を形成させた。空気中で室温にて当該切開面が第1液Cで均一に濡れるようにスプレーで塗布した後、形成された塗膜が乾燥する前に速やかに第2液Cを第1液Cの塗膜の全面に均一となるように塗布し、約15秒間放置することより、第1液Cに含まれているポリビニルアルコールをゲル化させ、バインダー被膜を形成させた。
【0095】
前記で得られたバインダー被膜を手指で剥離しようとしたが、十分に付着しており、当該創傷被覆材を剥がし難かった。
【0096】
実施例31
生体組織用二液型バインダーとして、前記で得られた第1液Cおよび第2液Cを用いた。
【0097】
空気中で室温にて鶏肉の胸肉に第1液Cで均一に濡れるようにスプレーにて塗布した後、形成された塗膜が乾燥する前に速やかに第2液Cを第1液Cの塗膜の全面に均一となるように塗布し、約15秒間放置することより、第1液Cに含まれているポリビニルアルコールをゲル化させ、バインダー被膜Aを形成させた。
【0098】
一方、第2液として、第2液Cにブドウ糖を溶解させ、ブドウ糖5質量%である第2液Fを調製した。空気中で室温にて鶏肉の胸肉に第1液Cで均一に濡れるようにスプレーにて塗布した後、形成された塗膜が乾燥する前に速やかに第1液Cの塗膜の全面に第2液Fを均一となるように塗布し、約15秒間放置することより、第1液Cに含まれているポリビニルアルコールをゲル化させ、バインダー被膜Bを形成させた。
【0099】
前記で得られたバインダー被膜Aおよびバインダー被膜Bをそれぞれ手指で剥離することにより、両者の接着性を調べたところ、バインダー被膜Aは十分に胸肉に付着しており、バインダー被膜Bは、バインダー被膜Aと対比してさらに強固に胸肉に付着しており、胸肉からより剥がし難たいことが確認された。
【0100】
以上の結果から、第1液または第2液にブドウ糖などの糖類を含有させることにより、二液型バインダーによって形成される被膜の接着強度が高められることがわかる。
【0101】
実施例32
生体組織用二液型充填材として、前記で得られた第1液Cおよび第2液Cを用いた。
【0102】
特許第4790055号公報の記載に準じてポリビニルアルコールを原料とする血管モデル(外径:4mm、内径:3mm、長さ:100mm)を作製し、その一方をクリップで閉鎖した。
【0103】
第1液C5mLと第2液C5mLとを混合することにより、充填材を得た。得られた充填材をシリンジで血管モデルの開口部からその中央部で注入長さが20mmとなるように注入し、血管モデルの内部の貫通孔を閉塞させて15秒間放置した。
【0104】
次に、赤色に着色された疑似血液を血管モデルの開口部からシリンジで注入し、血管モデル内に疑似血液を注入し、血管モデルが充填材の充填部で閉塞されているかどうかを確認したところ、血管モデルの中央部が充填材によって完全に閉塞されていることが確認された。
【0105】
以上の結果から、生体組織用二液型充填材は、生体組織の血管内を閉塞させるための充填材として使用することができることがわかる。
【符号の説明】
【0106】
1 :生体組織
1a:創傷部
2 :第1液
3 :スプレー容器
4 :第2液
5 :透水性組織補強材
5a:第1液が含浸された透水性組織補強材